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特開2024-176825強化繊維用サイジング剤および強化繊維
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176825
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】強化繊維用サイジング剤および強化繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/507 20060101AFI20241212BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20241212BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20241212BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
D06M15/507
D06M13/17
D06M15/53
D06M15/55
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095645
(22)【出願日】2023-06-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 旬
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓一郎
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA09
4L033AB01
4L033AC12
4L033BA14
4L033CA46
4L033CA48
4L033CA49
(57)【要約】
【課題】繊維材料に集束性を付与するとともに、サイジング剤付与時のローラーの汚染を防ぐ。
【解決手段】脂環式ジオールの残基および脂環式ジカルボン酸の残基から選択される少なくとも一つの残基、ならびに、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基、を分子中に有するポリエステル樹脂(A)を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式ジオールの残基および脂環式ジカルボン酸の残基から選択される少なくとも一つの残基、ならびに、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基、を分子中に有するポリエステル樹脂(A)を含有することを特徴とする強化繊維用サイジング剤。
【請求項2】
前記5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩が5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩であり、
不揮発分中のナトリウム元素濃度が100ppm以上8000ppm以下である請求項1に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂(A)が、脂環式ジオールの残基を分子中に有する請求項1に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項4】
不揮発分中の前記ポリエステル樹脂(A)の含有割合が5質量%以上95質量%以下である請求項1に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項5】
非イオン性界面活性剤(B)をさらに含有する請求項1に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項6】
前記ポリエステル樹脂(A)および前記非イオン性界面活性剤(B)の質量の合計に対して前記ポリエステル樹脂(A)の質量が占める割合が5%以上97%以下である請求項5に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項7】
エポキシ樹脂(C)をさらに含有する請求項5に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項8】
前記ポリエステル樹脂(A)、前記非イオン性界面活性剤(B)、および前記エポキシ樹脂(C)の質量の合計に対して、
前記ポリエステル樹脂(A)の質量が占める割合が5質量%以上95質量%以下であり、
前記非イオン性界面活性剤(B)の質量が占める割合が2質量%以上50質量%以下であり、かつ、
前記エポキシ樹脂(C)の質量が占める割合が2質量%以上65質量%以下である請求項7に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の強化繊維用サイジング剤が付着していることを特徴とする強化繊維。
【請求項10】
前記強化繊維用サイジング剤が付着している無機繊維である請求項9に記載の強化繊維。
【請求項11】
前記無機繊維が炭素繊維またはガラス繊維である請求項10に記載の強化繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は強化繊維用サイジング剤および強化繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
サイジング剤は、炭素繊維などの繊維材料に塗布される薬剤であり、繊維材料の損傷を抑える、繊維材料の集束性を高める、などの目的で使用される。たとえば特開2018-90927号公報(特許文献1)には、ポリエステル樹脂とポリエーテル系ポリマーとを含む繊維用集束剤組成物(サイジング剤)が開示されている。特許文献1に記載の発明は、ポリエステル樹脂のモノマー構成、ポリエーテル系ポリマーのポリマー種、およびポリエステル樹脂とポリエーテル系ポリマーとの重量比、についての所定の条件を満たすことで、繊維束に良好な集束性と開繊性を付与することができる、とするものである。
集束剤組成物
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-90927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明は、繊維材料に良好な集束性を付与できる点で好適であるが、サイジング処理された繊維材料の生産性について改善の余地があった。特に、サイジング剤が付与された繊維材料が接触するローラーの汚染を防いで操業性を向上することについて、十分な検討がなされていなかった。
【0005】
そこで、繊維材料に集束性を付与するとともに、サイジング剤付与時のローラーの汚染を防ぐことができる強化繊維用サイジング剤および強化繊維の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、脂環式ジオールの残基および脂環式ジカルボン酸の残基から選択される少なくとも一つの残基、ならびに、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基、を分子中に有するポリエステル樹脂(A)を含有することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る強化繊維は、上記の強化繊維用サイジング剤が付着していることを特徴とする。
【0008】
これらの構成によれば、繊維材料に集束性を付与するとともに、サイジング剤付与時のローラーの汚染を防ぐことができる強化繊維用サイジング剤および強化繊維を実現できる。
【0009】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0010】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩が5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩であり、不揮発分中のナトリウム元素濃度が100ppm以上8000ppm以下であることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、マトリクス樹脂に対する接着性が良好な強化繊維用サイジング剤が得られやすい。
【0012】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記ポリエステル樹脂(A)が、脂環式ジオールの残基を分子中に有することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、ローラーの汚染を一層防ぎやすい。
【0014】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、不揮発分中の前記ポリエステル樹脂(A)の含有割合が5質量%以上95質量%以下であることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、集束性の付与とローラー汚染の防止とを両立しやすい。
【0016】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、非イオン性界面活性剤(B)をさらに含有することが好ましい。
【0017】
この構成によれば、ローラーの汚染を一層防ぎやすい。
【0018】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記ポリエステル樹脂(A)および前記非イオン性界面活性剤(B)の質量の合計に対して前記ポリエステル樹脂(A)の質量が占める割合が5%以上97%以下であることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、集束性の付与とローラー汚染の防止とを両立しやすい。
【0020】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、エポキシ樹脂(C)をさらに含有することが好ましい。
【0021】
この構成によれば、サイジング剤の繊維材料に対する接着性を高くする観点で好適である。
【0022】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記ポリエステル樹脂(A)、前記非イオン性界面活性剤(B)、および前記エポキシ樹脂(C)の質量の合計に対して、前記ポリエステル樹脂(A)の質量が占める割合が5質量%以上95質量%以下であり、前記非イオン性界面活性剤(B)の質量が占める割合が2質量%以上50質量%以下であり、かつ、前記エポキシ樹脂(C)の質量が占める割合が2質量%以上65質量%以下であることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、集束性の付与、ローラー汚染の防止、および繊維材料に対する接着性を、いずれも高い水準で実現しやすい。
【0024】
本発明に係る強化繊維は、一態様として、前記強化繊維用サイジング剤が付着している無機繊維であることが好ましい。
【0025】
この構成によれば、本発明を樹脂、セラミック、金属などを母材とする複合材料の強化に適用しやすい。
【0026】
本発明に係る強化繊維は、一態様として、前記無機繊維が炭素繊維またはガラス繊維であることが好ましい。
【0027】
この構成によれば、本発明を樹脂、セラミック、金属などを母材とする複合材料の強化に特に適用しやすい。
【0028】
本発明のさらなる特徴と利点は、以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤および強化繊維の実施形態について説明する。以下では、本発明に係る強化繊維用サイジング剤(以下、単に「サイジング剤」と称する。)を、繊維材料のサイジング処理に適用した例について説明する。
【0030】
〔サイジング剤の構成〕
本実施形態に係るサイジング剤は、不揮発分としてポリエステル樹脂(A)を含有する。また、サイジング剤に任意に含有されうる不揮発分として、非イオン性界面活性剤(B)およびエポキシ樹脂(C)が挙げられる。
【0031】
(ポリエステル樹脂)
サイジング剤の不揮発分中のポリエステル樹脂(A)の含有割合は、5質量%以上95質量%以下であることが好ましい。不揮発分中のポリエステル樹脂(A)の含有割合が5質量%以上であると、サイジング処理後の繊維材料の集束性が良好になりやすい。また、不揮発分中のポリエステル樹脂(A)の含有割合が95質量%以下であると、サイジング浴から取り出された直後の繊維材料が接触するローラーの汚染を抑制しやすい。なお、サイジング剤の不揮発分とは、サイジング剤を105℃で2時間熱風乾燥機にて加熱した後に揮発せずに残った成分をいう。
【0032】
本実施形態に係るポリエステル樹脂(A)は、ジオール単量体とジカルボン酸単量体との共重合体である。したがってポリエステル樹脂(A)はその分子中に、ジオール単量体(ジオール化合物またはその誘導体である。)に由来する部分構造であるジオール残基と、ジカルボン酸単量体(ジカルボン酸またはその誘導体である。)に由来する部分構造であるジカルボン酸残基と、を有する。ポリエステル樹脂(A)の組成は分子を構成する単量体の割合(モル比率)によって特定される。
【0033】
本実施形態に係るポリエステル樹脂(A)は、脂環式ジオールの残基および脂環式ジカルボン酸の残基から選択される少なくとも一つの残基、ならびに、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基、を分子中に有する。このうち、脂環式ジオールの残基はジオール残基であり、脂環式ジカルボン酸の残基および5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基はジカルボン酸残基である。ポリエステル樹脂(A)は、脂環式ジオールの残基を有することが好ましい。
【0034】
脂環式ジオールの残基を含むポリエステル樹脂(A)は、ジオール単量体として脂環式ジオール化合物を用いて得られる。ここで脂環式ジオール化合物とは、二つのヒドロキシ基および少なくとも一つの脂環基を分子中に有する化合物をいう。ここで、ヒドロキシ基は、脂環基に直接的に結合していてもよいし、他の官能基を介して間接的に結合していてもよい。また、脂環基においてヒドロキシ基が直接的または間接的に接続している炭素原子は、異なる炭素原子であっても同一の炭素原子であってもよいが、異なる炭素原子であることが好ましい。
【0035】
脂環式ジオール化合物の分子中に含まれる脂環基の炭素数は特に限定されないが、たとえば5以上10以下でありうる。したがって脂環式ジオール化合物としては、1,4-シクロヘキサンジメタノール(式(1))、1,4-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロペンタンジオールなどが例示される。なお、ポリエステル樹脂(A)が脂環式ジオールの残基を分子中に含む場合に、ポリエステル樹脂(A)を構成する単量体に占める脂環式ジオール化合物の割合は特に限定されないが、たとえば1モル%以上10モル%以下でありうる。
【化1】
【0036】
脂環式ジオールの残基は、上記の脂環式ジオール化合物に由来する残基である。したがって脂環式ジオールの残基は脂環基を含む。脂環基においてヒドロキシ基が直接的または間接的に接続している炭素原子が異なる炭素原子である好適な態様においては、脂環基がポリエステル樹脂(A)の高分子主鎖に含まれる。一例として、ジオール単量体としての1,4-シクロヘキサンジメタノール(式(1))に由来する脂環式ジオールの残基を式(2)に示す。
【化2】
【0037】
ポリエステル樹脂(A)を構成するジオール単量体として、一種類または複数種類の脂環式ジオール化合物以外のジオール化合物(以下、「他のジオール化合物」と称する。)が含まれうる。他のジオール化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどが例示される。ポリエステル樹脂(A)を構成する単量体に占める他のジオール化合物の割合は特に限定されないが、たとえば40モル%以上50モル%以下でありうる。なお、ジオール単量体が複数種類の他のジオール化合物を含む場合は、ここでいう他のジオール化合物の割合は、複数種類の他のジオール化合物の割合の合計である。
【0038】
脂環式ジカルボン酸の残基を含むポリエステル樹脂(A)は、ジカルボン酸単量体として脂環式ジカルボン酸化合物またはその誘導体を用いて得られる。ここで脂環式ジカルボン酸化合物とは、二つのカルボキシ基および少なくとも一つの脂環基を分子中に有する化合物をいい、その誘導体とは脂環式ジカルボン酸化合物の酸無水物、エステル化物、金属塩などをいう。ここで、カルボキシ基は、脂環基に直接的に結合していてもよいし、他の官能基を介して間接的に結合していてもよい。また、脂環基においてカルボキシ基が直接的または間接的に接続している炭素原子は、異なる炭素原子であっても同一の炭素原子であってもよいが、異なる炭素原子であることが好ましい。
【0039】
脂環式ジカルボン酸化合物の分子中に含まれる脂環基の炭素数は特に限定されないが、たとえば6以上12以下でありうる。したがって脂環式ジカルボン酸化合物としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(式(3))、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルなどが例示される。なお、ポリエステル樹脂(A)が脂環式ジカルボン酸の残基を分子中に含む場合に、ポリエステル樹脂(A)を構成する単量体に占める脂環式ジカルボン酸化合物の割合は特に限定されないが、たとえば1モル%以上10モル%以下でありうる。
【化3】
【0040】
脂環式ジカルボン酸の残基は、上記の脂環式ジカルボン酸化合物に由来する残基である。したがって脂環式ジカルボン酸の残基は脂環基を含む。脂環基においてカルボキシ基が直接的または間接的に接続している炭素原子が異なる炭素原子である好適な態様においては、脂環基がポリエステル樹脂(A)の高分子主鎖に含まれる。一例として、ジカルボン酸単量体としての1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(式(3))に由来する脂環式ジカルボン酸の残基を式(4)に示す。
【化4】
【0041】
5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基を含むポリエステル樹脂(A)は、ジカルボン酸単量体として5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩を用いて得られる。5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などでありうるが、ナトリウム塩であることが好ましい。一例として、ジカルボン酸単量体としての5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩に由来する5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基を式(5)に示す。
【化5】
【0042】
5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩が5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩である場合に、サイジング剤の不揮発分中のナトリウム元素濃度が100ppm以上8000ppm以下であることが好ましい。なお、サイジング剤の不揮発分中のナトリウム元素濃度は、ICPによる元素分析によって特定されうる。
【0043】
ポリエステル樹脂(A)を構成する単量体に占める5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の割合は特に限定されないが、たとえば1モル%以上10モル%以下でありうる。
【0044】
ポリエステル樹脂(A)を構成するジカルボン酸単量体として、脂環式ジカルボン酸化合物および5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩以外のジカルボン酸化合物(以下、「他のジカルボン酸化合物」と称する。)が含まれうる。かかるジカルボン酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸などが例示される。ポリエステル樹脂(A)を構成する単量体に占める他のジカルボン酸化合物の割合は特に限定されないが、たとえば30モル%以上49モル%以下でありうる。なお、ジカルボン酸単量体が複数種類の他のジカルボン酸化合物を含む場合の他のジカルボン酸化合物の割合は、複数種類の他のジカルボン酸化合物の割合の合計である。
【0045】
本実施形態に係るポリエステル樹脂(A)の非限定的な例として、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、およびイソフタル酸の共重合体、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、イソフタル酸、およびテレフタル酸の共重合体、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、およびイソフタル酸の共重合体、ならびに、ジエチレングリコール、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、およびイソフタル酸の共重合体、が挙げられる。なお、ポリエステル樹脂(A)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0046】
本実施形態に係るサイジング剤において、脂環式ジオールの残基および脂環式ジカルボン酸の残基から選択される少なくとも一つの残基は、当該残基に含まれる脂環基がポリエステル樹脂(A)の高分子鎖の柔軟性を高める役割を果たす。ポリエステル樹脂(A)の高分子鎖の柔軟性が高いことは、サイジング剤によるローラーの汚染を防ぐ観点で好適である。
【0047】
本実施形態に係るサイジング剤において、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基は、当該残基に含まれるスルホ基がイオン性の官能基であることに由来してサイジング剤に親水性を付与する役割を果たす。サイジング剤が親水性を有することは、サイジング剤によるローラーの汚染を防ぐ観点で好適である。
【0048】
本実施形態に係るポリエステル樹脂(A)の分子量は特に限定されないが、たとえば重量平均分子量が5000以上50000以下でありうる。ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量は、たとえばGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)の方法で特定されうる。
【0049】
(非イオン性界面活性剤)
本実施形態に係るサイジング剤は、非イオン性界面活性剤(B)を含みうる。非イオン性界面活性剤(B)は、当技術分野において通常使用される任意の非イオン性界面活性剤でありうる。非イオン性界面活性剤(B)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。サイジング剤が非イオン性界面活性剤(B)を含有することは、サイジング剤によるローラーの汚染を防ぐ観点で好適である。
【0050】
非イオン性界面活性剤(B)は、たとえばヒドロキシ基を有する化合物のアルキレンオキサイド付加体、またはその誘導体(エステル化体などである。)でありうる。ヒドロキシ基を有する化合物としては、ドデシルアルコール、イソドデシルアルコール、テトラデシルアルコール、トリデシルアルコール、2級テトラデシルアルコール、2級トリデシルアルコール等の脂肪族アルコールや、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール、ビスフェノールA等の芳香族アルコールなどが例示されるが、これらに限定されない。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが例示されるが、これらに限定されない。なお、複数種類のアルキレンオキサイドが併用されてもよい。アルキレンオキサイドの付加数は、非イオン性界面活性剤(B)一モルあたり8モル以上30モル以下でありうるが、これに限定されない。
【0051】
サイジング剤が非イオン性界面活性剤(B)を含有する場合、ポリエステル樹脂(A)および非イオン性界面活性剤(B)の質量の合計に対してポリエステル樹脂(A)の質量が占める割合が5%以上97%以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂(A)の質量が占める割合が5%以上であると、集束性の点で有利である。また、ポリエステル樹脂(A)の質量が占める割合が95%以下であると、開繊性の点で有利である。
【0052】
非イオン性界面活性剤(B)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0053】
(エポキシ樹脂)
本実施形態に係るサイジング剤が非イオン性界面活性剤(B)を含有する場合、サイジング剤がエポキシ樹脂(C)をさらに含有していてもよい。エポキシ樹脂(C)は、当技術分野において通常使用される任意のエポキシ樹脂でありうる。エポキシ樹脂(C)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。サイジング剤がエポキシ樹脂(C)を含有することは、サイジング剤の繊維材料に対する接着性を高くする観点で好適である。
【0054】
エポキシ樹脂(C)としては、たとえば、ビスフェノール系エポキシ樹脂である三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)シリーズ(jER(登録商標)828、jER(登録商標)1001、jER(登録商標)1002、jER(登録商標)1004など)、NAN YA PLASTIC CORPORATION製NPESシリーズ(NPES301、NPES302など)、および、アミン系の多官能エポキシ樹脂である住友化学株式会社製スミエポキシ(登録商標)シリーズ(スミエポキシ(登録商標)ELM-434、スミエポキシ(登録商標)ELM-100など)、が例示されるが、これらに限定されない。
【0055】
サイジング剤が非イオン性界面活性剤(B)およびエポキシ樹脂(C)を含有する場合、ポリエステル樹脂(A)、非イオン性界面活性剤(B)、およびエポキシ樹脂(C)の質量の合計に対して、ポリエステル樹脂(A)の質量が占める割合が5%以上95%以下であり、非イオン性界面活性剤(B)の質量が占める割合が2%以上50%以下であり、かつ、エポキシ樹脂(C)の質量が占める割合が2質量%以上65質量%以下であることが好ましい。エポキシ樹脂(C)の質量が占める割合が2質量%以上であると、接着性の点で有利である。また、エポキシ樹脂(C)の質量が占める割合が65%以下であると、本サイジング剤を付与した強化繊維束の経時的な硬化を防ぐ点で有利である。
【0056】
エポキシ樹脂(C)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0057】
(その他の成分)
本実施形態に係るサイジング剤は、ポリエステル樹脂(A)、非イオン性界面活性剤(B)、およびエポキシ樹脂(C)の他の成分を含有していてもよい。かかる他の成分としては、ポリエステル樹脂(A)以外の樹脂、防腐剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤(変性シリコーン等)などが例示されるが、これらに限定されない。
【0058】
また、サイジング剤が繊維材料のサイジング処理に供される場合の典型的な態様として、ポリエステル樹脂(A)等の不揮発分を希釈剤で希釈した態様(一般にサイジング液とも称される。)が例示される。かかる希釈剤も、他の成分の一例である。希釈剤としては、水(水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水など)、アセトン、メチルエチルケトン、N-メチル-2-ピロリドンなどが例示されるが、これらに限定されない。なお、不揮発分を希釈剤で希釈した態様のサイジング剤における不揮発分の濃度は特に限定されないが、たとえば10質量%以上60質量%以下でありうる。前述の通りサイジング剤の不揮発分とは、サイジング剤を105℃で2時間熱風乾燥機にて加熱した後に揮発せずに残った成分をいい、その濃度とは、サイジング剤の質量に対する当該サイジング剤中の不揮発分の質量の割合をいう。
【0059】
〔サイジング剤の製造方法〕
本実施形態に係るサイジング剤は、ポリエステル樹脂(A)および任意に加えられうる成分を公知の方法で混合することによって得られうる。たとえばポリエステル樹脂(A)および任意に加えられうる成分を20℃から90℃の間で撹拌しながら5時間かけて水を添加することで製造しうる。
【0060】
〔サイジング剤の使用方法〕
本実施形態に係るサイジング剤は、繊維材料のサイジング処理に用いられる。サイジング処理は、繊維材料にサイジング剤を付着させる処理であり、その方法としては、当分野において繊維材料にこの種のサイジング剤を付着させる際に通常用いられる方法を適用できる。すなわち、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、およびガイド給油法などが採用されうる。なお、それぞれの方法を適用するにあたり、サイジング剤が水等の希釈剤で適宜希釈されうる。
【0061】
繊維材料に対するサイジング剤の付着量は特に限定されない。たとえば、サイジング剤が付着した繊維材料全体に対してサイジング剤が0.1質量%以上3質量%以下付着していることが好ましい。
【0062】
なお、強化繊維を製造する際に本実施形態に係るサイジング剤を適用すると、繊維材料に当該サイジング剤が付着した強化繊維が得られる。この強化繊維は、本発明に係る強化繊維の一例である。繊維材料は無機繊維であることが好ましく、この場合の強化繊維はサイジング剤が付着している無機繊維である。また、無機繊維が炭素繊維またはガラス繊維であると、より好ましい。これらの強化繊維は、樹脂、セラミック、金属などを母材とする複合材料に使用されうる。
【0063】
〔その他の実施形態〕
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【0064】
特に、本発明に係るサイジング剤は5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基を有するポリエステル樹脂(A)を含有することを特徴構成の一つとするが、これは、以下に示す実施例において作用効果を発現することを確認できた範囲で特許を請求する趣旨で特徴構成として特定しているに過ぎない。上記の特徴構成によってもたらされる本発明の作用効果は、サイジング剤によるローラーの汚染を防ぐことにある。この点について本発明者らは、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基に含まれるスルホ基がイオン性の官能基であることに由来してサイジング剤に親水性が付与されることが作用効果の発現に寄与しているものと推察しているものの、その立証には至っておらず、実施例と比較例との比較から帰納的に本発明の作用効果を確認したに留まる。すなわち、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基以外の残基であってもサイジング剤に親水性を付与しうる残基であれば、これを有するポリエステル樹脂を含有するサイジング剤は本発明と同様の作用効果を奏する可能性があるが、立証および確認には至っていない。したがって本願の特許請求の範囲の記載は、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基以外の残基を有するポリエステル樹脂を含有するサイジング剤であって本発明と同様の作用効果を奏するものを、意識的に本発明の技術的範囲から除外する意図を有さない。
【実施例0065】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし以下の実施例は本発明を限定しない。
【0066】
〔サイジング剤の調製〕
以下の方法で、後掲する表1に示す実施例1~20および表2に示す比較例1~4のサイジング剤を得た。
【0067】
(1)原料
(1-1)ポリエステル樹脂
以下に示すポリエステル樹脂を用いた。なお、ポリエステル樹脂A-1、A-2、A-3、A-4、A-5、およびA-6は上記の実施形態に係るポリエステル樹脂(A)に該当する。なお、それぞれのポリエステル樹脂の重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)の方法で特定された値である。
【0068】
(ポリエステル樹脂A-1)
ジエチレングリコール(45モル%)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(5モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(4モル%)、およびイソフタル酸(46モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が9000である。
【0069】
(ポリエステル樹脂A-2)
ジエチレングリコール(48モル%)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(2モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(7モル%)、およびイソフタル酸(43モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が15000である。
【0070】
(ポリエステル樹脂A-3)
ジエチレングリコール(25モル%)、エチレングリコール(24モル%)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(1モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(9モル%)、イソフタル酸(30モル%)、およびテレフタル酸(11モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が6000である。
【0071】
(ポリエステル樹脂A-4)
ジエチレングリコール(40モル%)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(10モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(1モル%)、およびイソフタル酸(49モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が45000である。
【0072】
(ポリエステル樹脂A-5)
ジエチレングリコール(45モル%)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(5モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(3モル%)、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(2モル%)、およびイソフタル酸(45モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が12000である。
【0073】
(ポリエステル樹脂A-6)
ジエチレングリコール(50モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(2モル%)、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(3モル%)、およびイソフタル酸(45モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が18000である。
【0074】
(ポリエステル樹脂a-1)
ジエチレングリコール(50モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(4モル%)、およびイソフタル酸(46モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が10000である。
【0075】
(ポリエステル樹脂a-2)
ジエチレングリコール(48モル%)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(2モル%)、およびイソフタル酸(50モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が8000である。
【0076】
(1-2)非イオン性界面活性剤
以下に示す非イオン性界面活性剤を用いた。いずれの非イオン性界面活性剤も、上記の実施形態に係る非イオン性界面活性剤(B)に該当する。ただし、それぞれの非イオン性界面活性剤について示す製造方法はいずれも一例であり、以下に例示する方法と異なる方法で当該非イオン性界面活性剤が製造された場合であっても、実施例および比較例の結果は変化しない。
【0077】
(非イオン性界面活性剤B-1)
ドデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:9で反応させて、ドデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-1を得た。
【0078】
(非イオン性界面活性剤B-2)
イソドデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:12で反応させて、イソドデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-2を得た。
【0079】
(非イオン性界面活性剤B-3)
テトラデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:7で反応させて、テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-3を得た。
【0080】
(非イオン性界面活性剤B-4)
トリデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:15で反応させて、トリデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-4を得た。
【0081】
(非イオン性界面活性剤B-5)
2級テトラデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、2級テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-5を得た。
【0082】
(非イオン性界面活性剤B-6)
2級トリデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:9で反応させて、2級トリデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-6を得た。
【0083】
(非イオン性界面活性剤B-7)
ドデシルアルコールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:2:6で反応させて、ドデシルアルコールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体である非イオン性界面活性剤B-7を得た。
【0084】
(非イオン性界面活性剤B-8)
トリスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:15:9で反応させて、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体である非イオン性界面活性剤B-8を得た。
【0085】
(非イオン性界面活性剤B-9)
ジスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:18:5で反応させて、ジスチレン化フェノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体である非イオン性界面活性剤B-9を得た。
【0086】
(非イオン性界面活性剤B-10)
ビスフェノールAとエチレンオキサイドとをモル比1:18で反応させて、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-10を得た。
【0087】
(非イオン性界面活性剤B-11)
トリスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとをモル比1:30で反応させて、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-11を得た。
【0088】
(非イオン性界面活性剤B-12)
ドデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、ドデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-12を得た。
【0089】
(1-3)エポキシ樹脂
以下に示すエポキシ樹脂を用いた。いずれのエポキシ樹脂も、上記の実施形態に係るエポキシ樹脂(C)に該当する。
【0090】
(エポキシ樹脂C-1)
三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)828である。
【0091】
(エポキシ樹脂C-2)
三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)1001である。
【0092】
(エポキシ樹脂C-3)
三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)1002である。
【0093】
(エポキシ樹脂C-4)
三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)1004である。
【0094】
(エポキシ樹脂C-5)
NAN YA PLASTIC CORPORATION製NPES301である。
【0095】
(エポキシ樹脂C-6)
NAN YA PLASTIC CORPORATION製NPES302である。
【0096】
(エポキシ樹脂C-7)
住友化学株式会社製スミエポキシ(登録商標)ELM-434である。
【0097】
(エポキシ樹脂C-8)
住友化学株式会社製スミエポキシ(登録商標)ELM-100である。
【0098】
(1-4)その他の成分
その他の成分として以下を用いた。
D-1:オクチルパルミテート
D-2:トリデシルステアレート
D-3:酸変性オリオレフィン樹脂
希釈剤:イオン交換水
【0099】
(2)サイジング剤の調製
(実施例1)
ポリエステル樹脂A-1を14質量部、非イオン性界面活性剤B-1を20質量部、非イオン性界面活性剤B-2を10質量部、およびエポキシ樹脂C-1を56質量部として、各原料を秤量した。秤量した原料を80℃で混合撹拌しながら5時間かけて希釈剤であるイオン交換水300質量部を徐々に添加して、実施例1のサイジング剤を得た。
【0100】
(実施例2~20および比較例1~4)
使用する原料を後掲する表1および表2に記載の原料とした他は実施例1と同様の方法で、実施例2~20および比較例1~4の各サイジング剤を得た。
【0101】
〔サイジング剤の評価〕
実施例および比較例の各例について、以下の手順で評価を行った。ただし、サイジング剤の評価に供する繊維材料として、炭素繊維およびガラス繊維を用いた。炭素繊維およびガラス繊維は、いずれも樹脂強化用の繊維材料として市販されているものとした。
【0102】
(1)不揮発分中のナトリウム濃度
実施例および比較例の各サイジング剤約2gを耐熱容器に秤量し、当該耐熱容器を105℃で2時間熱風乾燥機にて加熱した。加熱後の耐熱容器に残った不揮発分を精秤し、過塩素酸と硝酸の混合液で湿式分解した後、ICPによる元素分析に供して、不揮発分中のナトリウム濃度を定量した。
【0103】
(2)集束性
実施例および比較例の各例のサイジング剤を含むサイジング液(不揮発分濃度4%)をサイジング浴に満たし、当該サイジング浴に繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)を通してサイジング剤の付与を行った。サイジング剤付与後の繊維材料のロールをクリールにセットして毎分5mの速度で解舒し、解舒直後の繊維材料のローラー通過時の様子を観察した。観察結果に応じて、実施例および比較例の各例のサイジング剤によってもたらされる繊維材料の集束性をA~Cの三段階で評価した。
A:ローラーに巻き付いた繊維材料がほとんど見られず、かつ、通過した繊維材料の纏まりが良好であった。
B:ローラーに巻き付いた繊維材料がわずかに見られたが、通過した繊維材料の纏まりが良好であった。
C:ローラーに巻き付いた繊維材料が多く、通過した繊維材料にバラケが見られた。
【0104】
ここで、繊維材料の纏まりが良好であるか否かは、繊維材料の束に隙間が見られるほどの繊維バラケがあるかどうかという基準で目視観察により判断される。
【0105】
(3)ローラー汚染
実施例および比較例の各例のサイジング剤を含むサイジング液(不揮発分濃度4%)をサイジング浴に満たし、当該サイジング浴に繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)を通してサイジング剤を付与する操業を一日間行った。この操業の間に、サイジング浴を通過した直後の繊維材料が接触するローラーの様子を観察した。観察結果に応じて、実施例および比較例の各例のサイジング剤によってもたらされるローラー汚染の程度をA~Eの五段階で評価した。
A:一日間の操業後に、ローラーに付着する毛羽および粘着物がほとんど見られなかった。
B:一日間の操業後に、ローラーに付着する毛羽が目視で1~4本が確認できる程度見られた。円滑な操業が可能だった。
C:一日間の操業後に、ローラーに付着する毛羽が目視で5~9本が確認できる程度見られ、かつローラーに付着する粘着物が見られた。円滑な操業が可能だった。
D:一日間の操業後に、ローラーに付着する毛羽が目視で10~29本が確認できる程度見られ、かつローラーに付着する粘着物が見られた。数回のローラー清掃を要したが、操業に支障がない範囲だった。
E:一日間の操業後に、ローラーに付着する毛羽が目視で30本以上確認できる程度見られ、かつローラーに付着する粘着物が多く見られた。繊維材料がローラーに巻き付く不具合が発生した。繊維材料の巻き付きを解消するための整備を要し、操業上の支障が認められた。
【0106】
(4)接着性
実施例および比較例の各例のサイジング剤を含むサイジング液(不揮発分濃度2%)を調製し、当該サイジング液に繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)を浸漬してサイジング剤の付与を行った。サイジング剤を付与した繊維材料から一本の繊維材料を取り出した。当該繊維材料が緊張した状態になるように、その両端を接着剤で四角枠状のホルダーに固定した。エポキシ樹脂(エポキシ当量190、三菱ケミカル社製jER(登録商標)828)とBFモノエチルアミン塩(ステラケミファ社製三フッ化ホウ素モノエチルアミン)との質量比100:3の混合物であるマトリクス樹脂を、直径約70μmの樹脂滴状粒として繊維材料に付着させた。160℃の空気雰囲気下で90分間加熱して、繊維材料とマトリクス樹脂とを接着させて、試験片を作成した。
【0107】
各試料片を二枚のブレードで挟み、二枚のブレードを毎分5mmの速度で繊維軸方向に移動させて、これらのブレードによって樹脂滴状粒を繊維材料から剥離する際に生じる最大応力Fをロードセルにて計測した。計測した値を用いて、式(6)により界面せん断強度τを算出した。以上の手順による界面せん断強度τ(MPa単位)の算出を実施例および比較例の各例につき20回行い、その平均値を測定結果とした。
【数1】
【0108】
式(6)において、Fは樹脂滴状粒が炭素繊維から剥離する際に生じる最大応力(kgf単位)であり、Dは試験片とした炭素繊維の直径(mm単位)であり、Lは試験片における樹脂滴状粒の繊維軸方向の直径(mm単位)である。
【0109】
得られた界面せん断強度τの値に基づいて、実施例および比較例の各例のサイジング剤の接着性をA~Dの四段階で評価した。
A:界面せん断強度τが80MPa以上である。
B:界面せん断強度τが70MPa以上80MPa未満である。
C:界面せん断強度τが60MPa以上70MPa未満である。
D:界面せん断強度τが60MPa未満である。
【0110】
〔結果〕
実施例および比較例の各例の原料構成、評価に用いた繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)、および各評価の結果を表1および表2に示す。
【0111】
表1:サイジング剤の評価結果(実施例)
【表1】
【0112】
表2:サイジング剤の評価結果(比較例)
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、たとえば繊維材料のサイジング処理に利用できる。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式ジオールの残基および脂環式ジカルボン酸の残基から選択される少なくとも一つの残基、ならびに、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基、を分子中に有するポリエステル樹脂(A)と、
非イオン性界面活性剤(B)と、
エポキシ樹脂(C)と、を含有し、
前記5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩が5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩であり、
不揮発分中のナトリウム元素濃度が100ppm以上8000ppm以下であることを特徴とする強化繊維用サイジング剤。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂(A)が、脂環式ジオールの残基を分子中に有する請求項1に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項3】
不揮発分中の前記ポリエステル樹脂(A)の含有割合が5質量%以上95質量%以下である請求項1に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂(A)および前記非イオン性界面活性剤(B)の質量の合計に対して前記ポリエステル樹脂(A)の質量が占める割合が5%以上97%以下である請求項に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂(A)、前記非イオン性界面活性剤(B)、および前記エポキシ樹脂(C)の質量の合計に対して、
前記ポリエステル樹脂(A)の質量が占める割合が5質量%以上95質量%以下であり、
前記非イオン性界面活性剤(B)の質量が占める割合が2質量%以上50質量%以下であり、かつ、
前記エポキシ樹脂(C)の質量が占める割合が2質量%以上65質量%以下である請求項に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の強化繊維用サイジング剤が付着していることを特徴とする強化繊維。
【請求項7】
前記強化繊維用サイジング剤が付着している無機繊維である請求項に記載の強化繊維。
【請求項8】
前記無機繊維が炭素繊維またはガラス繊維である請求項に記載の強化繊維。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は強化繊維用サイジング剤および強化繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
サイジング剤は、炭素繊維などの繊維材料に塗布される薬剤であり、繊維材料の損傷を抑える、繊維材料の集束性を高める、などの目的で使用される。たとえば特開2018-90927号公報(特許文献1)には、ポリエステル樹脂とポリエーテル系ポリマーとを含む繊維用集束剤組成物(サイジング剤)が開示されている。特許文献1に記載の発明は、ポリエステル樹脂のモノマー構成、ポリエーテル系ポリマーのポリマー種、およびポリエステル樹脂とポリエーテル系ポリマーとの重量比、についての所定の条件を満たすことで、繊維束に良好な集束性と開繊性を付与することができる、とするものである
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-90927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明は、繊維材料に良好な集束性を付与できる点で好適であるが、サイジング処理された繊維材料の生産性について改善の余地があった。特に、サイジング剤が付与された繊維材料が接触するローラーの汚染を防いで操業性を向上することについて、十分な検討がなされていなかった。
【0005】
そこで、繊維材料に集束性を付与するとともに、サイジング剤付与時のローラーの汚染を防ぐことができる強化繊維用サイジング剤および強化繊維の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、脂環式ジオールの残基および脂環式ジカルボン酸の残基から選択される少なくとも一つの残基、ならびに、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基、を分子中に有するポリエステル樹脂(A)と、非イオン性界面活性剤(B)と、エポキシ樹脂(C)と、を含有し、前記5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩が5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩であり、不揮発分中のナトリウム元素濃度が100ppm以上8000ppm以下であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る強化繊維は、上記の強化繊維用サイジング剤が付着していることを特徴とする。
【0008】
これらの構成によれば、繊維材料に集束性を付与するとともに、サイジング剤付与時のローラーの汚染を防ぐことができる強化繊維用サイジング剤および強化繊維を実現できる。また、マトリクス樹脂に対する接着性が良好な強化繊維用サイジング剤が得られやすい。加えて、サイジング剤の繊維材料に対する接着性を高くする観点で好適である。
【0009】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0010】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記ポリエステル樹脂(A)が、脂環式ジオールの残基を分子中に有することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、ローラーの汚染を一層防ぎやすい。
【0012】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、不揮発分中の前記ポリエステル樹脂(A)の含有割合が5質量%以上95質量%以下であることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、集束性の付与とローラー汚染の防止とを両立しやすい。
【0014】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記ポリエステル樹脂(A)および前記非イオン性界面活性剤(B)の質量の合計に対して前記ポリエステル樹脂(A)の質量が占める割合が5%以上97%以下であることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、集束性の付与とローラー汚染の防止とを両立しやすい。
【0016】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記ポリエステル樹脂(A)、前記非イオン性界面活性剤(B)、および前記エポキシ樹脂(C)の質量の合計に対して、前記ポリエステル樹脂(A)の質量が占める割合が5質量%以上95質量%以下であり、前記非イオン性界面活性剤(B)の質量が占める割合が2質量%以上50質量%以下であり、かつ、前記エポキシ樹脂(C)の質量が占める割合が2質量%以上65質量%以下であることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、集束性の付与、ローラー汚染の防止、および繊維材料に対する接着性を、いずれも高い水準で実現しやすい。
【0018】
本発明に係る強化繊維は、一態様として、前記強化繊維用サイジング剤が付着している無機繊維であることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、本発明を樹脂、セラミック、金属などを母材とする複合材料の強化に適用しやすい。
【0020】
本発明に係る強化繊維は、一態様として、前記無機繊維が炭素繊維またはガラス繊維であることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、本発明を樹脂、セラミック、金属などを母材とする複合材料の強化に特に適用しやすい。
【0022】
本発明のさらなる特徴と利点は、以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤および強化繊維の実施形態について説明する。以下では、本発明に係る強化繊維用サイジング剤(以下、単に「サイジング剤」と称する。)を、繊維材料のサイジング処理に適用した例について説明する。
【0024】
〔サイジング剤の構成〕
本実施形態に係るサイジング剤は、不揮発分としてポリエステル樹脂(A)を含有する。また、サイジング剤に任意に含有されうる不揮発分として、非イオン性界面活性剤(B)およびエポキシ樹脂(C)が挙げられる。
【0025】
(ポリエステル樹脂)
サイジング剤の不揮発分中のポリエステル樹脂(A)の含有割合は、5質量%以上95質量%以下であることが好ましい。不揮発分中のポリエステル樹脂(A)の含有割合が5質量%以上であると、サイジング処理後の繊維材料の集束性が良好になりやすい。また、不揮発分中のポリエステル樹脂(A)の含有割合が95質量%以下であると、サイジング浴から取り出された直後の繊維材料が接触するローラーの汚染を抑制しやすい。なお、サイジング剤の不揮発分とは、サイジング剤を105℃で2時間熱風乾燥機にて加熱した後に揮発せずに残った成分をいう。
【0026】
本実施形態に係るポリエステル樹脂(A)は、ジオール単量体とジカルボン酸単量体との共重合体である。したがってポリエステル樹脂(A)はその分子中に、ジオール単量体(ジオール化合物またはその誘導体である。)に由来する部分構造であるジオール残基と、ジカルボン酸単量体(ジカルボン酸またはその誘導体である。)に由来する部分構造であるジカルボン酸残基と、を有する。ポリエステル樹脂(A)の組成は分子を構成する単量体の割合(モル比率)によって特定される。
【0027】
本実施形態に係るポリエステル樹脂(A)は、脂環式ジオールの残基および脂環式ジカルボン酸の残基から選択される少なくとも一つの残基、ならびに、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基、を分子中に有する。このうち、脂環式ジオールの残基はジオール残基であり、脂環式ジカルボン酸の残基および5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基はジカルボン酸残基である。ポリエステル樹脂(A)は、脂環式ジオールの残基を有することが好ましい。
【0028】
脂環式ジオールの残基を含むポリエステル樹脂(A)は、ジオール単量体として脂環式ジオール化合物を用いて得られる。ここで脂環式ジオール化合物とは、二つのヒドロキシ基および少なくとも一つの脂環基を分子中に有する化合物をいう。ここで、ヒドロキシ基は、脂環基に直接的に結合していてもよいし、他の官能基を介して間接的に結合していてもよい。また、脂環基においてヒドロキシ基が直接的または間接的に接続している炭素原子は、異なる炭素原子であっても同一の炭素原子であってもよいが、異なる炭素原子であることが好ましい。
【0029】
脂環式ジオール化合物の分子中に含まれる脂環基の炭素数は特に限定されないが、たとえば5以上10以下でありうる。したがって脂環式ジオール化合物としては、1,4-シクロヘキサンジメタノール(式(1))、1,4-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロペンタンジオールなどが例示される。なお、ポリエステル樹脂(A)が脂環式ジオールの残基を分子中に含む場合に、ポリエステル樹脂(A)を構成する単量体に占める脂環式ジオール化合物の割合は特に限定されないが、たとえば1モル%以上10モル%以下でありうる。
【化1】
【0030】
脂環式ジオールの残基は、上記の脂環式ジオール化合物に由来する残基である。したがって脂環式ジオールの残基は脂環基を含む。脂環基においてヒドロキシ基が直接的または間接的に接続している炭素原子が異なる炭素原子である好適な態様においては、脂環基がポリエステル樹脂(A)の高分子主鎖に含まれる。一例として、ジオール単量体としての1,4-シクロヘキサンジメタノール(式(1))に由来する脂環式ジオールの残基を式(2)に示す。
【化2】
【0031】
ポリエステル樹脂(A)を構成するジオール単量体として、一種類または複数種類の脂環式ジオール化合物以外のジオール化合物(以下、「他のジオール化合物」と称する。)が含まれうる。他のジオール化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどが例示される。ポリエステル樹脂(A)を構成する単量体に占める他のジオール化合物の割合は特に限定されないが、たとえば40モル%以上50モル%以下でありうる。なお、ジオール単量体が複数種類の他のジオール化合物を含む場合は、ここでいう他のジオール化合物の割合は、複数種類の他のジオール化合物の割合の合計である。
【0032】
脂環式ジカルボン酸の残基を含むポリエステル樹脂(A)は、ジカルボン酸単量体として脂環式ジカルボン酸化合物またはその誘導体を用いて得られる。ここで脂環式ジカルボン酸化合物とは、二つのカルボキシ基および少なくとも一つの脂環基を分子中に有する化合物をいい、その誘導体とは脂環式ジカルボン酸化合物の酸無水物、エステル化物、金属塩などをいう。ここで、カルボキシ基は、脂環基に直接的に結合していてもよいし、他の官能基を介して間接的に結合していてもよい。また、脂環基においてカルボキシ基が直接的または間接的に接続している炭素原子は、異なる炭素原子であっても同一の炭素原子であってもよいが、異なる炭素原子であることが好ましい。
【0033】
脂環式ジカルボン酸化合物の分子中に含まれる脂環基の炭素数は特に限定されないが、たとえば6以上12以下でありうる。したがって脂環式ジカルボン酸化合物としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(式(3))、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルなどが例示される。なお、ポリエステル樹脂(A)が脂環式ジカルボン酸の残基を分子中に含む場合に、ポリエステル樹脂(A)を構成する単量体に占める脂環式ジカルボン酸化合物の割合は特に限定されないが、たとえば1モル%以上10モル%以下でありうる。
【化3】
【0034】
脂環式ジカルボン酸の残基は、上記の脂環式ジカルボン酸化合物に由来する残基である。したがって脂環式ジカルボン酸の残基は脂環基を含む。脂環基においてカルボキシ基が直接的または間接的に接続している炭素原子が異なる炭素原子である好適な態様においては、脂環基がポリエステル樹脂(A)の高分子主鎖に含まれる。一例として、ジカルボン酸単量体としての1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(式(3))に由来する脂環式ジカルボン酸の残基を式(4)に示す。
【化4】
【0035】
5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基を含むポリエステル樹脂(A)は、ジカルボン酸単量体として5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩を用いて得られる。5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などでありうるが、ナトリウム塩であることが好ましい。一例として、ジカルボン酸単量体としての5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩に由来する5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基を式(5)に示す。
【化5】
【0036】
5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩が5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩である場合に、サイジング剤の不揮発分中のナトリウム元素濃度が100ppm以上8000ppm以下であることが好ましい。なお、サイジング剤の不揮発分中のナトリウム元素濃度は、ICPによる元素分析によって特定されうる。
【0037】
ポリエステル樹脂(A)を構成する単量体に占める5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の割合は特に限定されないが、たとえば1モル%以上10モル%以下でありうる。
【0038】
ポリエステル樹脂(A)を構成するジカルボン酸単量体として、脂環式ジカルボン酸化合物および5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩以外のジカルボン酸化合物(以下、「他のジカルボン酸化合物」と称する。)が含まれうる。かかるジカルボン酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸などが例示される。ポリエステル樹脂(A)を構成する単量体に占める他のジカルボン酸化合物の割合は特に限定されないが、たとえば30モル%以上49モル%以下でありうる。なお、ジカルボン酸単量体が複数種類の他のジカルボン酸化合物を含む場合の他のジカルボン酸化合物の割合は、複数種類の他のジカルボン酸化合物の割合の合計である。
【0039】
本実施形態に係るポリエステル樹脂(A)の非限定的な例として、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、およびイソフタル酸の共重合体、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、イソフタル酸、およびテレフタル酸の共重合体、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、およびイソフタル酸の共重合体、ならびに、ジエチレングリコール、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、およびイソフタル酸の共重合体、が挙げられる。なお、ポリエステル樹脂(A)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0040】
本実施形態に係るサイジング剤において、脂環式ジオールの残基および脂環式ジカルボン酸の残基から選択される少なくとも一つの残基は、当該残基に含まれる脂環基がポリエステル樹脂(A)の高分子鎖の柔軟性を高める役割を果たす。ポリエステル樹脂(A)の高分子鎖の柔軟性が高いことは、サイジング剤によるローラーの汚染を防ぐ観点で好適である。
【0041】
本実施形態に係るサイジング剤において、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基は、当該残基に含まれるスルホ基がイオン性の官能基であることに由来してサイジング剤に親水性を付与する役割を果たす。サイジング剤が親水性を有することは、サイジング剤によるローラーの汚染を防ぐ観点で好適である。
【0042】
本実施形態に係るポリエステル樹脂(A)の分子量は特に限定されないが、たとえば重量平均分子量が5000以上50000以下でありうる。ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量は、たとえばGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)の方法で特定されうる。
【0043】
(非イオン性界面活性剤)
本実施形態に係るサイジング剤は、非イオン性界面活性剤(B)を含みうる。非イオン性界面活性剤(B)は、当技術分野において通常使用される任意の非イオン性界面活性剤でありうる。非イオン性界面活性剤(B)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。サイジング剤が非イオン性界面活性剤(B)を含有することは、サイジング剤によるローラーの汚染を防ぐ観点で好適である。
【0044】
非イオン性界面活性剤(B)は、たとえばヒドロキシ基を有する化合物のアルキレンオキサイド付加体、またはその誘導体(エステル化体などである。)でありうる。ヒドロキシ基を有する化合物としては、ドデシルアルコール、イソドデシルアルコール、テトラデシルアルコール、トリデシルアルコール、2級テトラデシルアルコール、2級トリデシルアルコール等の脂肪族アルコールや、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール、ビスフェノールA等の芳香族アルコールなどが例示されるが、これらに限定されない。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが例示されるが、これらに限定されない。なお、複数種類のアルキレンオキサイドが併用されてもよい。アルキレンオキサイドの付加数は、非イオン性界面活性剤(B)一モルあたり8モル以上30モル以下でありうるが、これに限定されない。
【0045】
サイジング剤が非イオン性界面活性剤(B)を含有する場合、ポリエステル樹脂(A)および非イオン性界面活性剤(B)の質量の合計に対してポリエステル樹脂(A)の質量が占める割合が5%以上97%以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂(A)の質量が占める割合が5%以上であると、集束性の点で有利である。また、ポリエステル樹脂(A)の質量が占める割合が95%以下であると、開繊性の点で有利である。
【0046】
非イオン性界面活性剤(B)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0047】
(エポキシ樹脂)
本実施形態に係るサイジング剤が非イオン性界面活性剤(B)を含有する場合、サイジング剤がエポキシ樹脂(C)をさらに含有していてもよい。エポキシ樹脂(C)は、当技術分野において通常使用される任意のエポキシ樹脂でありうる。エポキシ樹脂(C)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。サイジング剤がエポキシ樹脂(C)を含有することは、サイジング剤の繊維材料に対する接着性を高くする観点で好適である。
【0048】
エポキシ樹脂(C)としては、たとえば、ビスフェノール系エポキシ樹脂である三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)シリーズ(jER(登録商標)828、jER(登録商標)1001、jER(登録商標)1002、jER(登録商標)1004など)、NAN YA PLASTIC CORPORATION製NPESシリーズ(NPES301、NPES302など)、および、アミン系の多官能エポキシ樹脂である住友化学株式会社製スミエポキシ(登録商標)シリーズ(スミエポキシ(登録商標)ELM-434、スミエポキシ(登録商標)ELM-100など)、が例示されるが、これらに限定されない。
【0049】
サイジング剤が非イオン性界面活性剤(B)およびエポキシ樹脂(C)を含有する場合、ポリエステル樹脂(A)、非イオン性界面活性剤(B)、およびエポキシ樹脂(C)の質量の合計に対して、ポリエステル樹脂(A)の質量が占める割合が5%以上95%以下であり、非イオン性界面活性剤(B)の質量が占める割合が2%以上50%以下であり、かつ、エポキシ樹脂(C)の質量が占める割合が2質量%以上65質量%以下であることが好ましい。エポキシ樹脂(C)の質量が占める割合が2質量%以上であると、接着性の点で有利である。また、エポキシ樹脂(C)の質量が占める割合が65%以下であると、本サイジング剤を付与した強化繊維束の経時的な硬化を防ぐ点で有利である。
【0050】
エポキシ樹脂(C)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0051】
(その他の成分)
本実施形態に係るサイジング剤は、ポリエステル樹脂(A)、非イオン性界面活性剤(B)、およびエポキシ樹脂(C)の他の成分を含有していてもよい。かかる他の成分としては、ポリエステル樹脂(A)以外の樹脂、防腐剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤(変性シリコーン等)などが例示されるが、これらに限定されない。
【0052】
また、サイジング剤が繊維材料のサイジング処理に供される場合の典型的な態様として、ポリエステル樹脂(A)等の不揮発分を希釈剤で希釈した態様(一般にサイジング液とも称される。)が例示される。かかる希釈剤も、他の成分の一例である。希釈剤としては、水(水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水など)、アセトン、メチルエチルケトン、N-メチル-2-ピロリドンなどが例示されるが、これらに限定されない。なお、不揮発分を希釈剤で希釈した態様のサイジング剤における不揮発分の濃度は特に限定されないが、たとえば10質量%以上60質量%以下でありうる。前述の通りサイジング剤の不揮発分とは、サイジング剤を105℃で2時間熱風乾燥機にて加熱した後に揮発せずに残った成分をいい、その濃度とは、サイジング剤の質量に対する当該サイジング剤中の不揮発分の質量の割合をいう。
【0053】
〔サイジング剤の製造方法〕
本実施形態に係るサイジング剤は、ポリエステル樹脂(A)および任意に加えられうる成分を公知の方法で混合することによって得られうる。たとえばポリエステル樹脂(A)および任意に加えられうる成分を20℃から90℃の間で撹拌しながら5時間かけて水を添加することで製造しうる。
【0054】
〔サイジング剤の使用方法〕
本実施形態に係るサイジング剤は、繊維材料のサイジング処理に用いられる。サイジング処理は、繊維材料にサイジング剤を付着させる処理であり、その方法としては、当分野において繊維材料にこの種のサイジング剤を付着させる際に通常用いられる方法を適用できる。すなわち、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、およびガイド給油法などが採用されうる。なお、それぞれの方法を適用するにあたり、サイジング剤が水等の希釈剤で適宜希釈されうる。
【0055】
繊維材料に対するサイジング剤の付着量は特に限定されない。たとえば、サイジング剤が付着した繊維材料全体に対してサイジング剤が0.1質量%以上3質量%以下付着していることが好ましい。
【0056】
なお、強化繊維を製造する際に本実施形態に係るサイジング剤を適用すると、繊維材料に当該サイジング剤が付着した強化繊維が得られる。この強化繊維は、本発明に係る強化繊維の一例である。繊維材料は無機繊維であることが好ましく、この場合の強化繊維はサイジング剤が付着している無機繊維である。また、無機繊維が炭素繊維またはガラス繊維であると、より好ましい。これらの強化繊維は、樹脂、セラミック、金属などを母材とする複合材料に使用されうる。
【0057】
〔その他の実施形態〕
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【0058】
特に、本発明に係るサイジング剤は5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基を有するポリエステル樹脂(A)を含有することを特徴構成の一つとするが、これは、以下に示す実施例において作用効果を発現することを確認できた範囲で特許を請求する趣旨で特徴構成として特定しているに過ぎない。上記の特徴構成によってもたらされる本発明の作用効果は、サイジング剤によるローラーの汚染を防ぐことにある。この点について本発明者らは、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基に含まれるスルホ基がイオン性の官能基であることに由来してサイジング剤に親水性が付与されることが作用効果の発現に寄与しているものと推察しているものの、その立証には至っておらず、実施例と比較例との比較から帰納的に本発明の作用効果を確認したに留まる。すなわち、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基以外の残基であってもサイジング剤に親水性を付与しうる残基であれば、これを有するポリエステル樹脂を含有するサイジング剤は本発明と同様の作用効果を奏する可能性があるが、立証および確認には至っていない。したがって本願の特許請求の範囲の記載は、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基以外の残基を有するポリエステル樹脂を含有するサイジング剤であって本発明と同様の作用効果を奏するものを、意識的に本発明の技術的範囲から除外する意図を有さない。
【0059】
本発明は、脂環式ジオールの残基および脂環式ジカルボン酸の残基から選択される少なくとも一つの残基、ならびに、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩の残基、を分子中に有するポリエステル樹脂(A)を含有することを特徴とする強化繊維用サイジング剤でありうる。
【0060】
上記の強化繊維用サイジング剤は、前記5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩が5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩であり、不揮発分中のナトリウム元素濃度が100ppm以上8000ppm以下でありうる。
【0061】
上記の強化繊維用サイジング剤は、非イオン性界面活性剤(B)をさらに含有しうる。
【0062】
上記の強化繊維用サイジング剤は、エポキシ樹脂(C)をさらに含有しうる。
【実施例0063】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし以下の実施例は本発明を限定しない。
【0064】
〔サイジング剤の調製〕
以下の方法で、後掲する表1に示す実施例1~13および参考例1~7、ならびに、表2に示す比較例1~4のサイジング剤を得た。
【0065】
(1)原料
(1-1)ポリエステル樹脂
以下に示すポリエステル樹脂を用いた。なお、ポリエステル樹脂A-1、A-2、A-3、A-4、A-5、およびA-6は上記の実施形態に係るポリエステル樹脂(A)に該当する。なお、それぞれのポリエステル樹脂の重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)の方法で特定された値である。
【0066】
(ポリエステル樹脂A-1)
ジエチレングリコール(45モル%)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(5モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(4モル%)、およびイソフタル酸(46モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が9000である。
【0067】
(ポリエステル樹脂A-2)
ジエチレングリコール(48モル%)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(2モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(7モル%)、およびイソフタル酸(43モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が15000である。
【0068】
(ポリエステル樹脂A-3)
ジエチレングリコール(25モル%)、エチレングリコール(24モル%)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(1モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(9モル%)、イソフタル酸(30モル%)、およびテレフタル酸(11モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が6000である。
【0069】
(ポリエステル樹脂A-4)
ジエチレングリコール(40モル%)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(10モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(1モル%)、およびイソフタル酸(49モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が45000である。
【0070】
(ポリエステル樹脂A-5)
ジエチレングリコール(45モル%)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(5モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(3モル%)、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(2モル%)、およびイソフタル酸(45モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が12000である。
【0071】
(ポリエステル樹脂A-6)
ジエチレングリコール(50モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(2モル%)、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(3モル%)、およびイソフタル酸(45モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が18000である。
【0072】
(ポリエステル樹脂a-1)
ジエチレングリコール(50モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(4モル%)、およびイソフタル酸(46モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が10000である。
【0073】
(ポリエステル樹脂a-2)
ジエチレングリコール(48モル%)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(2モル%)、およびイソフタル酸(50モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が8000である。
【0074】
(1-2)非イオン性界面活性剤
以下に示す非イオン性界面活性剤を用いた。いずれの非イオン性界面活性剤も、上記の実施形態に係る非イオン性界面活性剤(B)に該当する。ただし、それぞれの非イオン性界面活性剤について示す製造方法はいずれも一例であり、以下に例示する方法と異なる方法で当該非イオン性界面活性剤が製造された場合であっても、実施例、参考例、および比較例の結果は変化しない。
【0075】
(非イオン性界面活性剤B-1)
ドデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:9で反応させて、ドデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-1を得た。
【0076】
(非イオン性界面活性剤B-2)
イソドデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:12で反応させて、イソドデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-2を得た。
【0077】
(非イオン性界面活性剤B-3)
テトラデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:7で反応させて、テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-3を得た。
【0078】
(非イオン性界面活性剤B-4)
トリデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:15で反応させて、トリデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-4を得た。
【0079】
(非イオン性界面活性剤B-5)
2級テトラデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、2級テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-5を得た。
【0080】
(非イオン性界面活性剤B-6)
2級トリデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:9で反応させて、2級トリデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-6を得た。
【0081】
(非イオン性界面活性剤B-7)
ドデシルアルコールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:2:6で反応させて、ドデシルアルコールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体である非イオン性界面活性剤B-7を得た。
【0082】
(非イオン性界面活性剤B-8)
トリスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:15:9で反応させて、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体である非イオン性界面活性剤B-8を得た。
【0083】
(非イオン性界面活性剤B-9)
ジスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:18:5で反応させて、ジスチレン化フェノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体である非イオン性界面活性剤B-9を得た。
【0084】
(非イオン性界面活性剤B-10)
ビスフェノールAとエチレンオキサイドとをモル比1:18で反応させて、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-10を得た。
【0085】
(非イオン性界面活性剤B-11)
トリスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとをモル比1:30で反応させて、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-11を得た。
【0086】
(非イオン性界面活性剤B-12)
ドデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:5で反応させて、ドデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-12を得た。
【0087】
(1-3)エポキシ樹脂
以下に示すエポキシ樹脂を用いた。いずれのエポキシ樹脂も、上記の実施形態に係るエポキシ樹脂(C)に該当する。
【0088】
(エポキシ樹脂C-1)
三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)828である。
【0089】
(エポキシ樹脂C-2)
三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)1001である。
【0090】
(エポキシ樹脂C-3)
三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)1002である。
【0091】
(エポキシ樹脂C-4)
三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)1004である。
【0092】
(エポキシ樹脂C-5)
NAN YA PLASTIC CORPORATION製NPES301である。
【0093】
(エポキシ樹脂C-6)
NAN YA PLASTIC CORPORATION製NPES302である。
【0094】
(エポキシ樹脂C-7)
住友化学株式会社製スミエポキシ(登録商標)ELM-434である。
【0095】
(エポキシ樹脂C-8)
住友化学株式会社製スミエポキシ(登録商標)ELM-100である。
【0096】
(1-4)その他の成分
その他の成分として以下を用いた。
D-1:オクチルパルミテート
D-2:トリデシルステアレート
D-3:酸変性オリオレフィン樹脂
希釈剤:イオン交換水
【0097】
(2)サイジング剤の調製
(実施例1)
ポリエステル樹脂A-1を14質量部、非イオン性界面活性剤B-1を20質量部、非イオン性界面活性剤B-2を10質量部、およびエポキシ樹脂C-1を56質量部として、各原料を秤量した。秤量した原料を80℃で混合撹拌しながら5時間かけて希釈剤であるイオン交換水300質量部を徐々に添加して、実施例1のサイジング剤を得た。
【0098】
(実施例2~13、参考例1~7、および比較例1~4)
使用する原料を後掲する表1および表2に記載の原料とした他は実施例1と同様の方法で、実施例2~13、参考例1~7、および比較例1~4の各サイジング剤を得た。
【0099】
〔サイジング剤の評価〕
実施例、参考例、および比較例の各例について、以下の手順で評価を行った。ただし、サイジング剤の評価に供する繊維材料として、炭素繊維およびガラス繊維を用いた。炭素繊維およびガラス繊維は、いずれも樹脂強化用の繊維材料として市販されているものとした。
【0100】
(1)不揮発分中のナトリウム濃度
実施例、参考例、および比較例の各サイジング剤約2gを耐熱容器に秤量し、当該耐熱容器を105℃で2時間熱風乾燥機にて加熱した。加熱後の耐熱容器に残った不揮発分を精秤し、過塩素酸と硝酸の混合液で湿式分解した後、ICPによる元素分析に供して、不揮発分中のナトリウム濃度を定量した。
【0101】
(2)集束性
実施例、参考例、および比較例の各例のサイジング剤を含むサイジング液(不揮発分濃度4%)をサイジング浴に満たし、当該サイジング浴に繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)を通してサイジング剤の付与を行った。サイジング剤付与後の繊維材料のロールをクリールにセットして毎分5mの速度で解舒し、解舒直後の繊維材料のローラー通過時の様子を観察した。観察結果に応じて、実施例、参考例、および比較例の各例のサイジング剤によってもたらされる繊維材料の集束性をA~Cの三段階で評価した。
A:ローラーに巻き付いた繊維材料がほとんど見られず、かつ、通過した繊維材料の纏まりが良好であった。
B:ローラーに巻き付いた繊維材料がわずかに見られたが、通過した繊維材料の纏まりが良好であった。
C:ローラーに巻き付いた繊維材料が多く、通過した繊維材料にバラケが見られた。
【0102】
ここで、繊維材料の纏まりが良好であるか否かは、繊維材料の束に隙間が見られるほどの繊維バラケがあるかどうかという基準で目視観察により判断される。
【0103】
(3)ローラー汚染
実施例、参考例、および比較例の各例のサイジング剤を含むサイジング液(不揮発分濃度4%)をサイジング浴に満たし、当該サイジング浴に繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)を通してサイジング剤を付与する操業を一日間行った。この操業の間に、サイジング浴を通過した直後の繊維材料が接触するローラーの様子を観察した。観察結果に応じて、実施例、参考例、および比較例の各例のサイジング剤によってもたらされるローラー汚染の程度をA~Eの五段階で評価した。
A:一日間の操業後に、ローラーに付着する毛羽および粘着物がほとんど見られなかった。
B:一日間の操業後に、ローラーに付着する毛羽が目視で1~4本が確認できる程度見られた。円滑な操業が可能だった。
C:一日間の操業後に、ローラーに付着する毛羽が目視で5~9本が確認できる程度見られ、かつローラーに付着する粘着物が見られた。円滑な操業が可能だった。
D:一日間の操業後に、ローラーに付着する毛羽が目視で10~29本が確認できる程度見られ、かつローラーに付着する粘着物が見られた。数回のローラー清掃を要したが、操業に支障がない範囲だった。
E:一日間の操業後に、ローラーに付着する毛羽が目視で30本以上確認できる程度見られ、かつローラーに付着する粘着物が多く見られた。繊維材料がローラーに巻き付く不具合が発生した。繊維材料の巻き付きを解消するための整備を要し、操業上の支障が認められた。
【0104】
(4)接着性
実施例、参考例、および比較例の各例のサイジング剤を含むサイジング液(不揮発分濃度2%)を調製し、当該サイジング液に繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)を浸漬してサイジング剤の付与を行った。サイジング剤を付与した繊維材料から一本の繊維材料を取り出した。当該繊維材料が緊張した状態になるように、その両端を接着剤で四角枠状のホルダーに固定した。エポキシ樹脂(エポキシ当量190、三菱ケミカル社製jER(登録商標)828)とBFモノエチルアミン塩(ステラケミファ社製三フッ化ホウ素モノエチルアミン)との質量比100:3の混合物であるマトリクス樹脂を、直径約70μmの樹脂滴状粒として繊維材料に付着させた。160℃の空気雰囲気下で90分間加熱して、繊維材料とマトリクス樹脂とを接着させて、試験片を作成した。
【0105】
各試料片を二枚のブレードで挟み、二枚のブレードを毎分5mmの速度で繊維軸方向に移動させて、これらのブレードによって樹脂滴状粒を繊維材料から剥離する際に生じる最大応力Fをロードセルにて計測した。計測した値を用いて、式(6)により界面せん断強度τを算出した。以上の手順による界面せん断強度τ(MPa単位)の算出を実施例、参考例、および比較例の各例につき20回行い、その平均値を測定結果とした。
【数1】
【0106】
式(6)において、Fは樹脂滴状粒が炭素繊維から剥離する際に生じる最大応力(kgf単位)であり、Dは試験片とした炭素繊維の直径(mm単位)であり、Lは試験片における樹脂滴状粒の繊維軸方向の直径(mm単位)である。
【0107】
得られた界面せん断強度τの値に基づいて、実施例、参考例、および比較例の各例のサイジング剤の接着性をA~Dの四段階で評価した。
A:界面せん断強度τが80MPa以上である。
B:界面せん断強度τが70MPa以上80MPa未満である。
C:界面せん断強度τが60MPa以上70MPa未満である。
D:界面せん断強度τが60MPa未満である。
【0108】
〔結果〕
実施例、参考例、および比較例の各例の原料構成、評価に用いた繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)、および各評価の結果を表1および表2に示す。
【0109】
表1:サイジング剤の評価結果(実施例および参考例
【表1】
【0110】
表2:サイジング剤の評価結果(比較例)
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、たとえば繊維材料のサイジング処理に利用できる。