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特開2024-176826強化繊維用サイジング剤、強化繊維、および複合材料
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176826
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】強化繊維用サイジング剤、強化繊維、および複合材料
(51)【国際特許分類】
D06M 13/02 20060101AFI20241212BHJP
D06M 13/17 20060101ALI20241212BHJP
D06M 15/507 20060101ALI20241212BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20241212BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
D06M13/02
D06M13/17
D06M15/507
D06M15/53
D06M15/55
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095646
(22)【出願日】2023-06-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 旬
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA09
4L033AB01
4L033AC12
4L033BA01
4L033BA14
4L033CA46
4L033CA48
4L033CA49
(57)【要約】
【課題】繊維材料の集束性を高めるとともに保管後に加工に供した際の毛羽立ちを抑制する。
【解決手段】鉱物油、流動パラフィン、およびポリαオレフィンから選択される一つまたは複数の炭化水素化合物(A)、ならびに、非イオン性界面活性剤(B)を含有し、不揮発分中の炭化水素化合物(A)の含有割合が0質量%を超えて50質量%未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物油、流動パラフィン、およびポリαオレフィンから選択される一つまたは複数の炭化水素化合物(A)、ならびに、
非イオン性界面活性剤(B)を含有し、
不揮発分中の前記炭化水素化合物(A)の含有割合が0質量%を超えて50質量%未満であることを特徴とする強化繊維用サイジング剤。
【請求項2】
前記炭化水素化合物(A)として鉱物油およびポリαオレフィンを含有する請求項1に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項3】
前記炭化水素化合物(A)として、アロマ分の含有割合が0質量%を超えて5質量%以下である鉱物油を含有する請求項1に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項4】
前記炭化水素化合物(A)として、1-デセンの3~8量体であるポリαオレフィンを含有する請求項1に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項5】
前記非イオン性界面活性剤(B)として、芳香族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B1)を含有する請求項1に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項6】
熱硬化性樹脂(C1)およびポリエステル樹脂(C2)から選択される一つまたは複数の樹脂(C)をさらに含有する請求項1に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項7】
前記樹脂(C)として熱硬化性樹脂(C1)を含有する請求項6に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項8】
前記樹脂(C)として熱硬化性樹脂(C1)およびポリエステル樹脂(C2)を含有する請求項6に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項9】
前記炭化水素化合物(A)、前記非イオン界面活性剤(B)、および前記樹脂(C)の質量の合計に対して、
前記炭化水素化合物(A)の質量が占める割合が0.1質量%以上50質量%未満であり、
前記非イオン性界面活性剤(B)の質量が占める割合が0.1質量%以上50質量%以下であり、かつ、
前記樹脂(C)の質量が占める割合が20質量%以上90質量%以下である請求項6に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の強化繊維用サイジング剤が付着していることを特徴とする強化繊維。
【請求項11】
前記強化繊維用サイジング剤が付着している無機繊維である請求項10に記載の強化繊維。
【請求項12】
前記無機繊維が炭素繊維またはガラス繊維である請求項11に記載の強化繊維。
【請求項13】
請求項9に記載の強化繊維と、熱硬化性樹脂であるマトリクス樹脂と、を含むことを特徴とする複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維用サイジング剤、強化繊維、および複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
サイジング剤は、炭素繊維などの繊維材料に塗布される薬剤であり、繊維材料の損傷を抑える、繊維材料の集束性を高める、などの目的で使用される。たとえば特開2006-22441号公報(特許文献1)には、鉱物油を50質量%以上含有する炭素繊維用サイジング剤、および当該サイジング剤が炭素繊維に付与されてなる熱可塑性樹脂強化用炭素繊維、が開示されている。特許文献1に記載の発明によれば、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂との接着性に優れ、かつ、開繊性および擦過性に優れた熱可塑性樹脂強化用炭素繊維を安価に提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし特許文献1に記載の発明は、サイジング剤付与後の繊維材料の集束性について改善の余地があった。また、特許文献1のサイジング剤が付与された繊維材料は、保管後に加工に供した際に毛羽立ちが生じる場合があった。
【0005】
そこで、繊維材料の集束性を高めるとともに保管後に加工に供した際の毛羽立ちを抑制することができる強化繊維用サイジング剤、ならびに、当該強化繊維用サイジング剤が適用された強化繊維および複合材料の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、鉱物油、流動パラフィン、およびポリαオレフィンから選択される一つまたは複数の炭化水素化合物(A)、ならびに、非イオン性界面活性剤(B)を含有し、不揮発分中の前記炭化水素化合物(A)の含有割合が0質量%を超えて50質量%未満であることを特徴とすることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る強化繊維は、上記の強化繊維用サイジング剤が付着していることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る複合材料は、上記の強化繊維と、熱硬化性樹脂であるマトリクス樹脂と、を含むことを特徴とする。
【0009】
これらの構成によれば、従来のサイジング剤を用いる場合に比べて、繊維材料の集束性を高めるとともに保管後に加工に供した際の毛羽立ちを抑制することができる。
【0010】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0011】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記炭化水素化合物(A)として鉱物油およびポリαオレフィンを含有することが好ましい。
【0012】
この構成によれば、繊維材料の集束性と保管後に加工に供した際の毛羽立ちの抑制とを高い水準で両立しやすい。
【0013】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記炭化水素化合物(A)として、アロマ分の含有割合が0質量%を超えて5質量%以下である鉱物油を含有することが好ましい。
【0014】
この構成によれば、繊維材料の保管後に加工に供した際の毛羽立ちを特に抑制しやすい。
【0015】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記炭化水素化合物(A)として、1-デセンの3~8量体であるポリαオレフィンを含有することが好ましい。
【0016】
この構成によれば、繊維材料の集束性が特に向上しやすい。
【0017】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記非イオン性界面活性剤(B)として、芳香族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B1)を含有することが好ましい。
【0018】
この構成によれば、サイジング処理された繊維材料のマトリクス樹脂に対する接着性が良好になりやすい。
【0019】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、熱硬化性樹脂(C1)およびポリエステル樹脂(C2)から選択される一つまたは複数の樹脂(C)をさらに含有することが好ましい。
【0020】
この構成によれば、サイジング処理された繊維材料のマトリクス樹脂に対する接着性が良好になりやすい。
【0021】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記樹脂(C)として熱硬化性樹脂(C1)を含有することが好ましい。
【0022】
この構成によれば、サイジング処理された繊維材料のマトリクス樹脂に対する接着性が良好になりやすい。
【0023】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記樹脂(C)として熱硬化性樹脂(C1)およびポリエステル樹脂(C2)を含有することが好ましい。
【0024】
この構成によれば、サイジング処理された繊維材料のマトリクス樹脂に対する接着性が特に良好になりやすい。
【0025】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記炭化水素化合物(A)、前記非イオン界面活性剤(B)、および前記樹脂(C)の質量の合計に対して、前記炭化水素化合物(A)の質量が占める割合が0.1質量%以上50質量%未満であり、前記非イオン性界面活性剤(B)の質量が占める割合が0.1質量%以上50質量%以下であり、かつ、前記樹脂(C)の質量が占める割合が20質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
【0026】
この構成によれば、繊維材料の集束性と保管後に加工に供した際の毛羽立ちの抑制とをいずれも高い水準で実現しやすい。
【0027】
本発明に係る強化繊維は、一態様として、前記強化繊維用サイジング剤が付着している無機繊維であることが好ましい。
【0028】
この構成によれば、本発明を樹脂、セラミック、金属などを母材とする複合材料の強化に適用しやすい。
【0029】
本発明に係る強化繊維は、一態様として、前記無機繊維が炭素繊維またはガラス繊維であることが好ましい。
【0030】
この構成によれば、本発明を樹脂、セラミック、金属などを母材とする複合材料の強化に特に適用しやすい。
【0031】
本発明のさらなる特徴と利点は、以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤および強化繊維の実施形態について説明する。以下では、本発明に係る強化繊維用サイジング剤(以下、単に「サイジング剤」と称する。)を、繊維材料のサイジング処理に適用した例について説明する。
【0033】
〔サイジング剤の構成〕
本実施形態に係るサイジング剤は、不揮発分として炭化水素化合物(A)および非イオン性界面活性剤(B)を含有する。また、サイジング剤に任意に含有されうる不揮発分として、樹脂(C)が挙げられる。
【0034】
(炭化水素化合物)
本実施形態に係るサイジング剤は、鉱物油、流動パラフィン、およびポリαオレフィンから選択される一つまたは複数の炭化水素化合物(A)を含有する。炭化水素化合物(A)は、好ましくは液体である。
【0035】
サイジング剤の不揮発分中の炭化水素化合物(A)の含有割合は、0質量%を超えて50質量%未満である。なお、サイジング剤の不揮発分とは、サイジング剤を105℃で2時間熱風乾燥機にて加熱した後に揮発せずに残った成分をいう。
【0036】
サイジング剤が炭化水素化合物(A)として鉱物油を含有する場合、当該鉱物油は特に限定されず、パラフィン系基油およびナフテン系基油のいずれも使用できる。鉱物油の組成は、環分析(n-d-M法)によって表されうる。環分析におけるアロマ分の含有割合が0質量%を超えて5質量%以下である鉱物油を用いると、サイジング処理された繊維材料の保管後に加工に供した際の毛羽立ちを抑制しやすい点で好ましい。環分析におけるナフテン分は、たとえば25質量%以上50質量%以下でありうるが、これに限定されない。環分析におけるパラフィン分は、たとえば40質量%以上75質量%以下でありうるが、これに限定されない。
【0037】
鉱物油の30℃における動粘度は、たとえば10mm2/s以上180mm2/s以下でありうるが、これに限定されない。
【0038】
サイジング剤が炭化水素化合物(A)として流動パラフィンを含有する場合、当該流動パラフィンは特に限定されない。流動パラフィンの30℃における動粘度は、たとえば5mm2/s以上120mm2/s以下でありうるが、これに限定されない。
【0039】
サイジング剤が炭化水素化合物(A)としてポリαオレフィンを含有する場合、当該ポリαオレフィンは特に限定されない。ポリαオレフィンの非限定的な例として、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、または1-テトラデセン(すなわち、炭素数6以上14以下のαオレフィンである)の重合体が挙げられる。当該重合体の重合度は、ポリαオレフィンが室温で液体である範囲とすることが好ましく、たとえば3以上8以下でありうる。特に、サイジング剤が炭化水素化合物(A)として1-デセンの3~8量体であるポリαオレフィンを含有することが好ましい。
【0040】
サイジング剤は、炭化水素化合物(A)として鉱物油およびポリαオレフィンの双方を含有することが好ましい。この場合の鉱物油およびポリαオレフィンの条件は上記のとおりである。
【0041】
(非イオン性界面活性剤)
本実施形態に係るサイジング剤は、非イオン性界面活性剤(B)を含有する。非イオン性界面活性剤(B)は、当技術分野において通常使用される任意の非イオン性界面活性剤でありうる。非イオン性界面活性剤(B)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0042】
非イオン性界面活性剤(B)は、たとえばヒドロキシ基を有する化合物のアルキレンオキサイド付加体でありうる。ヒドロキシ基を有する化合物としては、トリスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、ビスフェノールA等の芳香族アルコールや、ドデシルアルコール、イソドデシルアルコール、テトラデシルアルコール、トリデシルアルコール、2級ドデシルアルコール、2級トリデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、オレイルアルコール、イソノニルアルコール等の脂肪族アルコールなどが例示され、芳香族アルコールであることが好ましい。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが例示されるが、これらに限定されない。したがって、非イオン性界面活性剤(B)は、好ましくは芳香族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B1)でありうる。
【0043】
なお、非イオン性界面活性剤(B)において、複数種類のアルキレンオキサイドが併用されてもよい。アルキレンオキサイドの付加数は、非イオン性界面活性剤(B)一モルあたり6モル以上40モル以下でありうるが、これに限定されない。
【0044】
非イオン性界面活性剤(B)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0045】
(樹脂)
本実施形態に係るサイジング剤は、さらに樹脂(C)を含有していてもよい。樹脂(C)は、熱硬化性樹脂(C1)およびポリエステル樹脂(C2)から選択される一つまたは複数の樹脂である。樹脂(C)が熱硬化性樹脂(C1)を含むと、繊維材料に集束性を付与しやすい点で好ましい。また、樹脂(C)が熱硬化性樹脂(C1)およびポリエステル樹脂(C2)の双方を含むと、繊維材料に集束性を付与しやすく、かつサイジング処理された繊維材料の保管後に加工に供した際の毛羽立ちを抑制しやすい点で好ましい。
【0046】
熱硬化性樹脂(C1)としては、エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂などが例示される。エポキシ樹脂は、たとえば、三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)シリーズ(jER(登録商標)828、jER(登録商標)834、jER(登録商標)1001、jER(登録商標)1002、jER(登録商標)1004など)、NAN YA PLASTIC CORPORATION製NPESシリーズ(NPES301、NPES302など)、および、住友化学株式会社製スミエポキシ(登録商標)シリーズ(スミエポキシ(登録商標)ELM-434、スミエポキシ(登録商標)ELM-100など)、などでありうるが、これらに限定されない。ビニルエステル樹脂は、たとえば上記に例示されるいずれかのエポキシ樹脂とメタクリル酸との反応物でありうる。なお、当該反応物を生成する際の反応基質の量比は、エポキシ樹脂のエポキシ価とメタクリル酸の酸価とが等しくなるようにしてもよいし、いずれかが大きくなるようにしてもよい。なお、熱硬化性樹脂(C1)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0047】
ポリエステル樹脂(C2)は、ジオール単量体とジカルボン酸単量体との共重合体である。したがってポリエステル樹脂(C2)はその分子中に、ジオール単量体(ジオール化合物またはその誘導体である。)に由来する部分構造であるジオール残基と、ジカルボン酸単量体(ジカルボン酸またはその誘導体である。)に由来する部分構造であるジカルボン酸残基と、を有する。ポリエステル樹脂(C2)の組成は分子を構成する単量体の割合(モル比率)によって特定される。
【0048】
ポリエステル樹脂(C2)を構成するジオール単量体として、一種類または複数種類のジオール化合物が含まれうる。ジオール化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体(三洋化成工業株式会社製ニューポール(登録商標)BPEシリーズ(ニューポール(登録商標)BPE-20、ニューポール(登録商標)BPE-40、ニューポール(登録商標)BPE-100など))、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加体(三洋化成工業株式会社製ニューポール(登録商標)BPシリーズ(ニューポール(登録商標)BP-2P、ニューポール(登録商標)BP-3P、ニューポール(登録商標)BP-5Pなど))、などが例示されるが、これらに限定されない。
【0049】
ポリエステル樹脂(C2)を構成するジカルボン酸単量体として、一種類または複数種類のジカルボン酸化合物が含まれうる。ジカルボン酸化合物としては、イソフタル酸、テレフタル酸、フマル酸、マレイン酸、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩など)などが例示されるが、これらに限定されない。
【0050】
ポリエステル樹脂(C2)の非限定的な例として、ジエチレングリコール、イソフタル酸、および5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩の共重合体、エチレングリコール、ジエチレングリコール、イソフタル酸、テレフタル酸、および5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩の共重合体、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体およびフマル酸の共重合体(換言すればビスフェノールA、エチレングリコール、およびフマル酸の共重合体である。)、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体およびマレイン酸の共重合体(換言すればビスフェノールA、エチレングリコール、およびマレイン酸の共重合体である。)、が挙げられる。なお、ポリエステル樹脂(C2)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0051】
サイジング剤が樹脂(C)を含有する場合において、炭化水素化合物(A)、非イオン界面活性剤(B)、および樹脂(C)の質量の合計に対して、炭化水素化合物(A)の質量が占める割合が0.1質量%以上50質量%未満であり、非イオン性界面活性剤(B)の質量が占める割合が0.1質量%以上50質量%以下であり、かつ、樹脂(C)の質量が占める割合が20質量%以上90質量%以下であることが好ましい。各構成成分の存在比が上記の要件を満たすと、繊維材料の集束性と保管後に加工に供した際の毛羽立ちの抑制とをいずれも高い水準で実現しやすい。
【0052】
(その他の成分)
本実施形態に係るサイジング剤は、炭化水素化合物(A)、非イオン性界面活性剤(B)、および樹脂(C)の他の成分を含有していてもよい。かかる他の成分としては、防腐剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤(変性シリコーン等)、樹脂(C)以外の樹脂などが例示されるが、これらに限定されない。
【0053】
また、サイジング剤が繊維材料のサイジング処理に供される場合の典型的な態様として、炭化水素化合物(A)等の不揮発分を希釈剤で希釈した態様(一般にサイジング液とも称される。)が例示される。かかる希釈剤も、他の成分の一例である。希釈剤としては、水(水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水など)、アセトン、メチルエチルケトン、N-メチル-2-ピロリドンなどが例示されるが、これらに限定されない。なお、不揮発分を希釈剤で希釈した態様のサイジング剤における不揮発分の濃度は特に限定されないが、たとえば10質量%以上60質量%以下でありうる。前述の通りサイジング剤の不揮発分とは、サイジング剤を105℃で2時間熱風乾燥機にて加熱した後に揮発せずに残った成分をいい、その濃度とは、サイジング剤の質量に対する当該サイジング剤中の不揮発分の質量の割合をいう。
【0054】
〔サイジング剤の製造方法〕
本実施形態に係るサイジング剤は、炭化水素化合物(A)および非イオン性界面活性剤(B)、ならびに任意に加えられうる成分を公知の方法で混合することによって得られうる。たとえば炭化水素化合物(A)および非イオン性界面活性剤(B)、ならびに任意に加えられうる成分を20℃から90℃の間で撹拌しながら5時間かけて水を添加することで製造しうる。
【0055】
〔サイジング剤の使用方法〕
本実施形態に係るサイジング剤は、繊維材料のサイジング処理に用いられる。サイジング処理は、繊維材料にサイジング剤を付着させる処理であり、その方法としては、当分野において繊維材料にこの種のサイジング剤を付着させる際に通常用いられる方法を適用できる。すなわち、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、およびガイド給油法などが採用されうる。なお、それぞれの方法を適用するにあたり、サイジング剤が水等の希釈剤で適宜希釈されうる。
【0056】
繊維材料に対するサイジング剤の付着量は特に限定されない。たとえば、サイジング剤が付着した繊維材料全体に対してサイジング剤が0.1質量%以上3質量%以下付着していることが好ましい。
【0057】
なお、強化繊維を製造する際に本実施形態に係るサイジング剤を適用すると、繊維材料に当該サイジング剤が付着した強化繊維が得られる。この強化繊維は、本発明に係る強化繊維の一例である。繊維材料は無機繊維であることが好ましく、この場合の強化繊維はサイジング剤が付着している無機繊維である。また、無機繊維が炭素繊維またはガラス繊維であると、より好ましい。
【0058】
これらの強化繊維は、樹脂、セラミック、金属などを母材とする複合材料に使用されうる。上記の強化繊維と、熱硬化性樹脂であるマトリクス樹脂と、を含むことを特徴とする複合材料は、本発明の一実施形態である。
【0059】
〔その他の実施形態〕
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0060】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし以下の実施例は本発明を限定しない。
【0061】
〔サイジング剤の調製〕
以下の方法で、後掲する表1および表2に示す実施例1~25ならびに表3に示す比較例1~3のサイジング剤を得た。
【0062】
(1)原料
(1-1)炭化水素化合物
以下に示す炭化水素化合物を用いた。いずれの炭化水素化合物も上記の実施形態に係る炭化水素化合物(A)に該当する。なお表1~表3において、サイジング剤の不揮発分中の炭化水素化合物(A)の含有割合(質量%単位)を「RA」の欄に示している。
【0063】
(炭化水素化合物A-1)
アロマ分1質量%、ナフテン分29質量%、およびパラフィン分70質量%を含み、30℃の動粘度が18mm2/sの鉱物油である。
【0064】
(炭化水素化合物A-2)
アロマ分3質量%、ナフテン分40質量%、およびパラフィン分57質量%を含み、30℃の動粘度が52mm2/sの鉱物油である。
【0065】
(炭化水素化合物A-3)
アロマ分0.1質量%、ナフテン分33質量%、およびパラフィン分66.9質量%を含み、30℃の動粘度が50mm2/sの鉱物油である。
【0066】
(炭化水素化合物A-4)
アロマ分1質量%、ナフテン分34質量%、およびパラフィン分65質量%を含み、30℃の動粘度が100mm2/sの鉱物油である。
【0067】
(炭化水素化合物A-5)
アロマ分4.5質量%、ナフテン分43質量%、およびパラフィン分52.5質量%を含み、30℃の動粘度が162mm2/sの鉱物油である。
【0068】
(炭化水素化合物A-6)
アロマ分2.5質量%、ナフテン分30質量%、およびパラフィン分67.5質量%を含み、30℃の動粘度が14mm2/sの鉱物油である。
【0069】
(炭化水素化合物A-7)
アロマ分11質量%、ナフテン分46質量%、およびパラフィン分43質量%を含み、30℃の動粘度が28mm2/sの鉱物油である。
【0070】
(炭化水素化合物A-8)
30℃の動粘度が6mm2/sの流動パラフィンである。
【0071】
(炭化水素化合物A-9)
30℃の動粘度が18mm2/sの流動パラフィンである。
【0072】
(炭化水素化合物A-10)
30℃の動粘度が35mm2/sの流動パラフィンである。
【0073】
(炭化水素化合物A-11)
30℃の動粘度が60mm2/sの流動パラフィンである。
【0074】
(炭化水素化合物A-12)
30℃の動粘度が104mm2/sの流動パラフィンである。
【0075】
(炭化水素化合物A-13)
30℃の動粘度が36mm2/sであり、1-デセンの3量体を主体とするポリαオレフィンである。
【0076】
(炭化水素化合物A-14)
30℃の動粘度が72mm2/sであり、1-デセンの3~5量体を主体とするポリαオレフィンである。
【0077】
なお、ポリαオレフィンは重合度の異なるオリゴマーの混合物であるところ、その存在比(モル基準)が最も大きいオリゴマーを当該ポリαオレフィンの主体たる成分としている。たとえば炭化水素化合物A-14は、1-デセンの3量体の存在比が最もが大きいポリαオレフィンである。また、炭化水素化合物A-15は、1-デセンの3量体、4量体、5量体の存在比が他の重合度の成分に比べて大きいポリαオレフィンである。ポリαオレフィンの重合度ごとのオリゴマーの存在比は、たとえばGC-MS分析(ガスクロマトグラフィー質量分析)で特定されうる。
【0078】
(1-2)非イオン界面活性剤
以下に示す非イオン界面活性剤を用いた。いずれの非イオン界面活性剤も上記の実施形態に係る非イオン界面活性剤(B)に該当し、このうち非イオン界面活性剤B1-1~B1-8は上記の実施形態に係る芳香族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B1)に該当する。ただし、それぞれの非イオン性界面活性剤について示す製造方法はいずれも一例であり、以下に例示する方法と異なる方法で当該非イオン性界面活性剤が製造された場合であっても、実施例および比較例の結果は変化しない。
【0079】
(非イオン界面活性剤B1-1)
トリスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:15:9で反応させて、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体である非イオン性界面活性剤B1-1を得た。
【0080】
(非イオン界面活性剤B1-2)
ジスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:20:5で反応させて、ジスチレン化フェノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体である非イオン性界面活性剤B1-2を得た。
【0081】
(非イオン界面活性剤B1-3)
ビスフェノールAとエチレンオキサイドとをモル比1:18で反応させて、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B1-3を得た。
【0082】
(非イオン界面活性剤B1-4)
ビスフェノールAとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B1-4を得た。
【0083】
(非イオン界面活性剤B1-5)
トリスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとをモル比1:34で反応させて、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B1-5を得た。
【0084】
(非イオン界面活性剤B1-6)
ジスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとをモル比1:18で反応させて、ジスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B1-6を得た。
【0085】
(非イオン界面活性剤B1-7)
トリスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:12:4で反応させて、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体である非イオン性界面活性剤B1-7を得た。
【0086】
(非イオン界面活性剤B1-8)
ジスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:10:6で反応させて、ジスチレン化フェノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体である非イオン性界面活性剤B1-8を得た。
【0087】
(非イオン性界面活性剤B-9)
ドデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:7で反応させて、ドデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-9を得た。
【0088】
(非イオン性界面活性剤B-10)
イソドデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:12で反応させて、イソドデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-10を得た。
【0089】
(非イオン性界面活性剤B-11)
テトラデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:9で反応させて、テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-11を得た。
【0090】
(非イオン性界面活性剤B-12)
トリデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:15で反応させて、トリデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-12を得た。
【0091】
(非イオン性界面活性剤B-13)
2級ドデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:12で反応させて、2級ドデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-13を得た。
【0092】
(非イオン性界面活性剤B-14)
2級トリデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:7で反応させて、2級トリデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-14を得た。
【0093】
(非イオン性界面活性剤B-15)
2-エチルヘキシルアルコールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:2:6で反応させて、2-エチルヘキシルアルコールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体である非イオン性界面活性剤B-15を得た。
【0094】
(非イオン性界面活性剤B-16)
オレイルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:15で反応させて、オレイルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-16を得た。
【0095】
(非イオン性界面活性剤B-17)
イソノニルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、イソノニルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-17を得た。
【0096】
(1-3)樹脂
以下に示す樹脂を用いた。いずれの樹脂も上記の実施形態に係る樹脂(C)に該当する。また、樹脂C1-1~C1-11は上記の実施形態に係る熱硬化性樹脂(C1)に該当し、樹脂C2-1~C2-5は上記の実施形態に係るポリエステル樹脂(C2)に該当する。
【0097】
(樹脂C1-1)
三菱ケミカル株式会社製のエポキシ樹脂jER(登録商標)828である。
【0098】
(樹脂C1-2)
三菱ケミカル株式会社製のエポキシ樹脂jER(登録商標)1001である。
【0099】
(樹脂C1-3)
三菱ケミカル株式会社製のエポキシ樹脂jER(登録商標)1002である。
【0100】
(樹脂C1-4)
三菱ケミカル株式会社製のエポキシ樹脂jER(登録商標)1004である。
【0101】
(樹脂C1-5)
NAN YA PLASTIC CORPORATION製のエポキシ樹脂NPES301である。
【0102】
(樹脂C1-6)
NAN YA PLASTIC CORPORATION製のエポキシ樹脂NPES302である。
【0103】
(樹脂C1-7)
住友化学株式会社製のエポキシ樹脂スミエポキシ(登録商標)ELM-434である。
【0104】
(樹脂C1-8)
住友化学株式会社製のエポキシ樹脂スミエポキシ(登録商標)ELM-100である。
【0105】
(樹脂C1-9)
エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)828)とメタクリル酸(三菱ケミカル株式会社製MAA)とを、エポキシ樹脂のエポキシ価とメタクリル酸の酸価とが等モルになる量比で反応させて得たビニルエステル樹脂である。
【0106】
(樹脂C1-10)
エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)828)とメタクリル酸(三菱ケミカル株式会社製MAA)とを、エポキシ樹脂のエポキシ価がメタクリル酸の酸価より15%大きくなる量比で反応させて得たビニルエステル樹脂である。
【0107】
(樹脂C1-11)
エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)834)とメタクリル酸(三菱ケミカル株式会社製MAA)とを、エポキシ樹脂のエポキシ価とメタクリル酸の酸価とが等モルになる量比で反応させて得たビニルエステル樹脂である。
【0108】
(樹脂C2-1)
ジエチレングリコール(50モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(4モル%)、およびイソフタル酸(46モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が10000のポリエステル樹脂である。
【0109】
(樹脂C2-2)
エチレングリコール(20モル%)、ジエチレングリコール(30モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(3モル%)、イソフタル酸(17モル%)、およびテレフタル酸(30モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が15000のポリエステル樹脂である。
【0110】
(樹脂C2-3)
ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体(三洋化成工業株式会社製ニューポール(登録商標)BPE-20)とフマル酸とを、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体の水酸基価とフマル酸の酸価との比が5:4になる量比で反応させて得たポリエステル樹脂である。
【0111】
(樹脂C2-4)
ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体(三洋化成工業株式会社製ニューポール(登録商標)BPE-40)とマレイン酸とを、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体の水酸基価とフマル酸の酸価との比が4:3になる量比で反応させて得たポリエステル樹脂である。
【0112】
(樹脂C2-5)
ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体(三洋化成工業株式会社製ニューポール(登録商標)BPE-100)とフマル酸とを、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体の水酸基価とフマル酸の酸価との比が6:5になる量比で反応させて得たポリエステル樹脂である。
【0113】
(1-4)その他の成分
その他の成分として以下を用いた。
D-1:オクチルパルミテート
D-2:炭素数12~15のアルキルスルホン酸ナトリウム
希釈剤:イオン交換水
【0114】
(2)サイジング剤の調製
炭化水素化合物A-1を10質量部、炭化水素化合物A-13を5質量部、非イオン性界面活性剤B1-1を20質量部、非イオン性界面活性剤B1-2を10質量部、樹脂C1-1を40質量部、および樹脂C2-1を15質量部として、各原料を秤量した。秤量した原料を80℃で混合撹拌しながら5時間かけて希釈剤であるイオン交換水300質量部を徐々に添加して、実施例1のサイジング剤を得た。
【0115】
(実施例2~25および比較例1~3)
使用する原料を後掲する表1~表3に記載の原料とした他は実施例1と同様の方法で、実施例2~25および比較例1~3の各サイジング剤を得た。
【0116】
〔サイジング剤の評価〕
実施例および比較例の各例について、以下の手順で評価を行った。ただし、サイジング剤の評価に供する繊維材料として、炭素繊維およびガラス繊維を用いた。炭素繊維およびガラス繊維は、いずれも樹脂強化用の繊維材料として市販されているものとした。各例の評価に用いた強化繊維の種類は表1~表3の「強化繊維」の欄に示しており、当該欄では炭素繊維を「CF」と記載し、ガラス繊維を「GF」と記載している。
【0117】
(1)集束性
実施例および比較例の各例のサイジング剤を満たしたサイジング浴に繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)を通してサイジング剤の付与を行った。サイジング剤の付与量は、繊維材料の重量に対して1.5%とした。サイジング剤付与後の繊維材料のロールをクリールにセットして毎分5mの速度で解舒し、解舒直後の繊維材料のローラー通過時の様子を観察した。観察結果に応じて、実施例および比較例の各例のサイジング剤によってもたらされる繊維材料の集束性をA~Cの三段階で評価した。
A:ローラーに巻き付いた繊維材料がほとんど見られず、かつ、通過した繊維材料の纏まりが良好であった。
B:ローラーに巻き付いた繊維材料がわずかに見られたが通過した繊維材料の纏まりが良好であった。
C:ローラーに巻き付いた繊維材料が多く、通過した繊維材料にバラケが見られた。
【0118】
ここで、繊維材料の纏まりが良好であるか否かは、繊維材料の束に隙間が見られるほどの繊維バラケがあるかどうかという基準で目視観察により判断される。
【0119】
(2)経時保管後の毛羽立ち
実施例および比較例の各例のサイジング剤を満たしたサイジング浴にフィラメント数3000本の繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)を通してサイジング剤の付与を行い、サイジング剤付与後の繊維材料をロールに巻き取った。サイジング剤の付与量は、繊維材料の重量に対して1.5%とした。巻き取った繊維材料のロールを常温で2ヶ月間保管した。保管後の繊維材料のロールをクリールにセットして毎分5mの速度で解舒し、解舒直後のローラーを通過した繊維材料を、あらかじめ重量を測定したスポンジの隙間に接触長が5cmになるように挿通して発生した毛羽をスポンジに付着させ、15分後にスポンジを外して重量を測定し、あらかじめ測定した重量との差分を取ることでスポンジに付着した毛羽の重量を測定した。また、スポンジ通過後の繊維材料をフィラメントワインディング加工に供し、その加工性を観察した。スポンジに付着した毛羽の重量およびフィラメントワインディング加工の加工性に基づいて、実施例および比較例の各例のサイジング剤によってもたらされる経時保管後の繊維材料の毛羽立ちを防止する効果をA~Eの五段階で評価した。
A:スポンジに付着した毛羽の重量が10mg未満であり、フィラメントワインディング加工が円滑に進行した。
B:スポンジに付着した毛羽の重量が10mg以上20mg未満であり、フィラメントワインディング加工が円滑に進行した。
C:スポンジに付着した毛羽の重量が20mg以上30mg未満であり、フィラメントワインディング加工が円滑に進行した。
D:スポンジに付着した毛羽の重量が30mg以上50mg未満であり、フィラメントワインディング加工の操業に支障がない水準だった。
E:スポンジに付着した毛羽の重量が50mg以上であり、フィラメントワインディング加工に操業上の支障が認められた。
【0120】
(3)接着性
接着性の評価に用いるマトリクス樹脂として、エポキシ樹脂またはビニルエステル樹脂を用いた。エポキシ樹脂を用いる場合は、エポキシ樹脂(エポキシ当量190、三菱ケミカル社製jER(登録商標)828)とBF3モノエチルアミン塩(ステラケミファ社製三フッ化ホウ素モノエチルアミン)との質量比100:3の混合物をマトリクス樹脂とした。ビニルエステル樹脂を用いる場合は、昭和電工株式会社製メチルエチルケトンパーオキシド硬化剤を用いて硬化させた昭和電工株式会社製リポキシ(登録商標)R-804Bをマトリクス樹脂とした。
【0121】
実施例および比較例の各例のサイジング剤を含むサイジング液(不揮発分濃度2%)を調製し、当該サイジング液に繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)を浸漬してサイジング剤の付与を行った。サイジング剤の付与量は、繊維材料の重量に対して2%とした。サイジング剤を付与した繊維材料から一本の繊維材料を取り出した。当該繊維材料が緊張した状態になるように、その両端を接着剤で四角枠状のホルダーに固定した。マトリクス樹脂を、直径約70μmの樹脂滴状粒として繊維材料に付着させた。160℃の空気雰囲気下で所定時間加熱して、繊維材料とマトリクス樹脂とを接着させて、試験片を作成した。所定時間は、マトリクス樹脂がエポキシ樹脂である場合に90分間とし、マトリクス樹脂がビニルエステル樹脂である場合に20分間とした。なお、各例の評価に用いたトリクス樹脂の種類は表1~表3の「トリクス樹脂」の欄に示しており、当該欄ではエポキシ樹脂を「EP」と記載し、ビニルエステル樹脂を「VE」と記載している。
【0122】
各試料片を二枚のブレードで挟み、二枚のブレードを毎分5mmの速度で繊維軸方向に移動させて、これらのブレードによって樹脂滴状粒を繊維材料から剥離する際に生じる最大応力Fをロードセルにて計測した。計測した値を用いて、式(1)により界面せん断強度τを算出した。以上の手順による界面せん断強度τ(MPa単位)の算出を実施例および比較例の各例につき20回行い、その平均値を測定結果とした。
【数1】
【0123】
式(1)において、Fは樹脂滴状粒が炭素繊維から剥離する際に生じる最大応力(kgf単位)であり、Dは試験片とした炭素繊維の直径(mm単位)であり、Lは試験片における樹脂滴状粒の繊維軸方向の直径(mm単位)である。
【0124】
得られた界面せん断強度τの値に基づいて、実施例および比較例の各例のサイジング剤の接着性をA~Dの四段階で評価した。なお、以下の各水準の記載における「基準値」は、マトリクス樹脂がエポキシ樹脂である場合について60MPaであり、マトリクス樹脂がビニルエステル樹脂である場合について40MPaである。
A:界面せん断強度τが基準値の1.30倍以上である。
B:界面せん断強度τが基準値の1.12倍以上1.30倍未満である。
C:界面せん断強度τが基準値の1.01倍以上1.12倍未満である。
D:界面せん断強度τが基準値の1.01倍未満である。
【0125】
〔結果〕
実施例および比較例の各例の原料構成、評価に用いた繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)、および各評価の結果を表1~表3に示す。
【0126】
【0127】
【0128】
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明は、たとえば繊維材料のサイジング処理に利用できる。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物油、流動パラフィン、および、常温で液体であるポリαオレフィンから選択される一つまたは複数の炭化水素化合物(A)、ならびに、
非イオン性界面活性剤(B)を含有し、
不揮発分中の前記炭化水素化合物(A)の含有割合が0質量%を超えて50質量%未満であることを特徴とする強化繊維用サイジング剤。
【請求項2】
鉱物油およびポリαオレフィンを少なくとも含む炭化水素化合物(A)、ならびに、
非イオン性界面活性剤(B)を含有し、
不揮発分中の前記炭化水素化合物(A)の含有割合が0質量%を超えて50質量%未満であることを特徴とする強化繊維用サイジング剤。
【請求項3】
アロマ分の含有割合が0質量%を超えて5質量%以下である鉱物油を少なくとも含む炭化水素化合物(A)、および、
非イオン性界面活性剤(B)を含有し、
不揮発分中の前記炭化水素化合物(A)の含有割合が0質量%を超えて50質量%未満であることを特徴とする強化繊維用サイジング剤。
【請求項4】
1-デセンの3~8量体であるポリαオレフィンを少なくとも含む炭化水素化合物(A)、および、
非イオン性界面活性剤(B)を含有し、
不揮発分中の前記炭化水素化合物(A)の含有割合が0質量%を超えて50質量%未満であることを特徴とする強化繊維用サイジング剤。
【請求項5】
鉱物油、流動パラフィン、および、ポリαオレフィンから選択される一つまたは複数の炭化水素化合物(A)、
非イオン性界面活性剤(B)、ならびに、
熱硬化性樹脂(C1)およびポリエステル樹脂(C2)を含む樹脂(C)、を含有し、
不揮発分中の前記炭化水素化合物(A)の含有割合が0質量%を超えて50質量%未満であることを特徴とする強化繊維用サイジング剤。
【請求項6】
前記非イオン性界面活性剤(B)として、芳香族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B1)を含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項7】
熱硬化性樹脂(C1)およびポリエステル樹脂(C2)から選択される一つまたは複数の樹脂(C)をさらに含有する請求項1~4のいずれか一項に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項8】
前記樹脂(C)として熱硬化性樹脂(C1)を含有する請求項7に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項9】
前記樹脂(C)として熱硬化性樹脂(C1)およびポリエステル樹脂(C2)を含有する請求項7に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項10】
前記炭化水素化合物(A)、前記非イオン性界面活性剤(B)、および前記樹脂(C)の質量の合計に対して、
前記炭化水素化合物(A)の質量が占める割合が0.1質量%以上50質量%未満であり、
前記非イオン性界面活性剤(B)の質量が占める割合が0.1質量%以上50質量%以下であり、かつ、
前記樹脂(C)の質量が占める割合が20質量%以上90質量%以下である請求項7に記載の強化繊維用サイジング剤。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか一項に記載の強化繊維用サイジング剤が付着していることを特徴とする強化繊維。
【請求項12】
前記強化繊維用サイジング剤が付着している無機繊維である請求項11に記載の強化繊維。
【請求項13】
前記無機繊維が炭素繊維またはガラス繊維である請求項12に記載の強化繊維。
【請求項14】
請求項11に記載の強化繊維と、熱硬化性樹脂であるマトリクス樹脂と、を含むことを特徴とする複合材料。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維用サイジング剤、強化繊維、および複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
サイジング剤は、炭素繊維などの繊維材料に塗布される薬剤であり、繊維材料の損傷を抑える、繊維材料の集束性を高める、などの目的で使用される。たとえば特開2006-22441号公報(特許文献1)には、鉱物油を50質量%以上含有する炭素繊維用サイジング剤、および当該サイジング剤が炭素繊維に付与されてなる熱可塑性樹脂強化用炭素繊維、が開示されている。特許文献1に記載の発明によれば、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂との接着性に優れ、かつ、開繊性および擦過性に優れた熱可塑性樹脂強化用炭素繊維を安価に提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし特許文献1に記載の発明は、サイジング剤付与後の繊維材料の集束性について改善の余地があった。また、特許文献1のサイジング剤が付与された繊維材料は、保管後に加工に供した際に毛羽立ちが生じる場合があった。
【0005】
そこで、繊維材料の集束性を高めるとともに保管後に加工に供した際の毛羽立ちを抑制することができる強化繊維用サイジング剤、ならびに、当該強化繊維用サイジング剤が適用された強化繊維および複合材料の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る第一の強化繊維用サイジング剤は、鉱物油、流動パラフィン、および、常温で液体であるポリαオレフィンから選択される一つまたは複数の炭化水素化合物(A)、ならびに、非イオン性界面活性剤(B)を含有し、不揮発分中の前記炭化水素化合物(A)の含有割合が0質量%を超えて50質量%未満であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る第二の強化繊維用サイジング剤は、鉱物油およびポリαオレフィンを少なくとも含む炭化水素化合物(A)、ならびに、非イオン性界面活性剤(B)を含有し、不揮発分中の前記炭化水素化合物(A)の含有割合が0質量%を超えて50質量%未満であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る第三の強化繊維用サイジング剤は、アロマ分の含有割合が0質量%を超えて5質量%以下である鉱物油を少なくとも含む炭化水素化合物(A)、および、非イオン性界面活性剤(B)を含有し、不揮発分中の前記炭化水素化合物(A)の含有割合が0質量%を超えて50質量%未満であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る第四の強化繊維用サイジング剤は、1-デセンの3~8量体であるポリαオレフィンを少なくとも含む炭化水素化合物(A)、および、非イオン性界面活性剤(B)を含有し、不揮発分中の前記炭化水素化合物(A)の含有割合が0質量%を超えて50質量%未満であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る第五の強化繊維用サイジング剤は、鉱物油、流動パラフィン、および、ポリαオレフィンから選択される一つまたは複数の炭化水素化合物(A)、非イオン性界面活性剤(B)、ならびに、熱硬化性樹脂(C1)およびポリエステル樹脂(C2)を含む樹脂(C)、を含有し、不揮発分中の前記炭化水素化合物(A)の含有割合が0質量%を超えて50質量%未満であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る強化繊維は、上記のいずれかの強化繊維用サイジング剤が付着していることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る複合材料は、上記の強化繊維と、熱硬化性樹脂であるマトリクス樹脂と、を含むことを特徴とする。
【0013】
これらの構成によれば、従来のサイジング剤を用いる場合に比べて、繊維材料の集束性を高めるとともに保管後に加工に供した際の毛羽立ちを抑制することができる。
【0014】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0015】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記非イオン性界面活性剤(B)として、芳香族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B1)を含有することが好ましい。
【0016】
この構成によれば、サイジング処理された繊維材料のマトリクス樹脂に対する接着性が良好になりやすい。
【0017】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、熱硬化性樹脂(C1)およびポリエステル樹脂(C2)から選択される一つまたは複数の樹脂(C)をさらに含有することが好ましい。
【0018】
この構成によれば、サイジング処理された繊維材料のマトリクス樹脂に対する接着性が良好になりやすい。
【0019】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記樹脂(C)として熱硬化性樹脂(C1)を含有することが好ましい。
【0020】
この構成によれば、サイジング処理された繊維材料のマトリクス樹脂に対する接着性が良好になりやすい。
【0021】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記樹脂(C)として熱硬化性樹脂(C1)およびポリエステル樹脂(C2)を含有することが好ましい。
【0022】
この構成によれば、サイジング処理された繊維材料のマトリクス樹脂に対する接着性が特に良好になりやすい。
【0023】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記炭化水素化合物(A)、前記非イオン性界面活性剤(B)、および前記樹脂(C)の質量の合計に対して、前記炭化水素化合物(A)の質量が占める割合が0.1質量%以上50質量%未満であり、前記非イオン性界面活性剤(B)の質量が占める割合が0.1質量%以上50質量%以下であり、かつ、前記樹脂(C)の質量が占める割合が20質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、繊維材料の集束性と保管後に加工に供した際の毛羽立ちの抑制とをいずれも高い水準で実現しやすい。
【0025】
本発明に係る強化繊維は、一態様として、前記強化繊維用サイジング剤が付着している無機繊維であることが好ましい。
【0026】
この構成によれば、本発明を樹脂、セラミック、金属などを母材とする複合材料の強化に適用しやすい。
【0027】
本発明に係る強化繊維は、一態様として、前記無機繊維が炭素繊維またはガラス繊維であることが好ましい。
【0028】
この構成によれば、本発明を樹脂、セラミック、金属などを母材とする複合材料の強化に特に適用しやすい。
【0029】
本発明のさらなる特徴と利点は、以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤および強化繊維の実施形態について説明する。以下では、本発明に係る強化繊維用サイジング剤(以下、単に「サイジング剤」と称する。)を、繊維材料のサイジング処理に適用した例について説明する。
【0031】
〔サイジング剤の構成〕
本実施形態に係るサイジング剤は、不揮発分として炭化水素化合物(A)および非イオン性界面活性剤(B)を含有する。また、サイジング剤に任意に含有されうる不揮発分として、樹脂(C)が挙げられる。
【0032】
(炭化水素化合物)
本実施形態に係るサイジング剤は、鉱物油、流動パラフィン、およびポリαオレフィンから選択される一つまたは複数の炭化水素化合物(A)を含有する。炭化水素化合物(A)は、好ましくは液体である。
【0033】
サイジング剤の不揮発分中の炭化水素化合物(A)の含有割合は、0質量%を超えて50質量%未満である。なお、サイジング剤の不揮発分とは、サイジング剤を105℃で2時間熱風乾燥機にて加熱した後に揮発せずに残った成分をいう。
【0034】
サイジング剤が炭化水素化合物(A)として鉱物油を含有する場合、当該鉱物油は特に限定されず、パラフィン系基油およびナフテン系基油のいずれも使用できる。鉱物油の組成は、環分析(n-d-M法)によって表されうる。環分析におけるアロマ分の含有割合が0質量%を超えて5質量%以下である鉱物油を用いると、サイジング処理された繊維材料の保管後に加工に供した際の毛羽立ちを抑制しやすい点で好ましい。環分析におけるナフテン分は、たとえば25質量%以上50質量%以下でありうるが、これに限定されない。環分析におけるパラフィン分は、たとえば40質量%以上75質量%以下でありうるが、これに限定されない。
【0035】
鉱物油の30℃における動粘度は、たとえば10mm2/s以上180mm2/s以下でありうるが、これに限定されない。
【0036】
サイジング剤が炭化水素化合物(A)として流動パラフィンを含有する場合、当該流動パラフィンは特に限定されない。流動パラフィンの30℃における動粘度は、たとえば5mm2/s以上120mm2/s以下でありうるが、これに限定されない。
【0037】
サイジング剤が炭化水素化合物(A)としてポリαオレフィンを含有する場合、当該ポリαオレフィンは特に限定されない。ポリαオレフィンの非限定的な例として、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、または1-テトラデセン(すなわち、炭素数6以上14以下のαオレフィンである)の重合体が挙げられる。当該重合体の重合度は、ポリαオレフィンが室温で液体である範囲とすることが好ましく、たとえば3以上8以下でありうる。特に、サイジング剤が炭化水素化合物(A)として1-デセンの3~8量体であるポリαオレフィンを含有することが好ましい。
【0038】
サイジング剤は、炭化水素化合物(A)として鉱物油およびポリαオレフィンの双方を含有することが好ましい。この場合の鉱物油およびポリαオレフィンの条件は上記のとおりである。
【0039】
(非イオン性界面活性剤)
本実施形態に係るサイジング剤は、非イオン性界面活性剤(B)を含有する。非イオン性界面活性剤(B)は、当技術分野において通常使用される任意の非イオン性界面活性剤でありうる。非イオン性界面活性剤(B)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0040】
非イオン性界面活性剤(B)は、たとえばヒドロキシ基を有する化合物のアルキレンオキサイド付加体でありうる。ヒドロキシ基を有する化合物としては、トリスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、ビスフェノールA等の芳香族アルコールや、ドデシルアルコール、イソドデシルアルコール、テトラデシルアルコール、トリデシルアルコール、2級ドデシルアルコール、2級トリデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、オレイルアルコール、イソノニルアルコール等の脂肪族アルコールなどが例示され、芳香族アルコールであることが好ましい。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドが例示されるが、これらに限定されない。したがって、非イオン性界面活性剤(B)は、好ましくは芳香族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B1)でありうる。
【0041】
なお、非イオン性界面活性剤(B)において、複数種類のアルキレンオキサイドが併用されてもよい。アルキレンオキサイドの付加数は、非イオン性界面活性剤(B)一モルあたり6モル以上40モル以下でありうるが、これに限定されない。
【0042】
非イオン性界面活性剤(B)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0043】
(樹脂)
本実施形態に係るサイジング剤は、さらに樹脂(C)を含有していてもよい。樹脂(C)は、熱硬化性樹脂(C1)およびポリエステル樹脂(C2)から選択される一つまたは複数の樹脂である。樹脂(C)が熱硬化性樹脂(C1)を含むと、繊維材料に集束性を付与しやすい点で好ましい。また、樹脂(C)が熱硬化性樹脂(C1)およびポリエステル樹脂(C2)の双方を含むと、繊維材料に集束性を付与しやすく、かつサイジング処理された繊維材料の保管後に加工に供した際の毛羽立ちを抑制しやすい点で好ましい。
【0044】
熱硬化性樹脂(C1)としては、エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂などが例示される。エポキシ樹脂は、たとえば、三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)シリーズ(jER(登録商標)828、jER(登録商標)834、jER(登録商標)1001、jER(登録商標)1002、jER(登録商標)1004など)、NAN YA PLASTIC CORPORATION製NPESシリーズ(NPES301、NPES302など)、および、住友化学株式会社製スミエポキシ(登録商標)シリーズ(スミエポキシ(登録商標)ELM-434、スミエポキシ(登録商標)ELM-100など)、などでありうるが、これらに限定されない。ビニルエステル樹脂は、たとえば上記に例示されるいずれかのエポキシ樹脂とメタクリル酸との反応物でありうる。なお、当該反応物を生成する際の反応基質の量比は、エポキシ樹脂のエポキシ価とメタクリル酸の酸価とが等しくなるようにしてもよいし、いずれかが大きくなるようにしてもよい。なお、熱硬化性樹脂(C1)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0045】
ポリエステル樹脂(C2)は、ジオール単量体とジカルボン酸単量体との共重合体である。したがってポリエステル樹脂(C2)はその分子中に、ジオール単量体(ジオール化合物またはその誘導体である。)に由来する部分構造であるジオール残基と、ジカルボン酸単量体(ジカルボン酸またはその誘導体である。)に由来する部分構造であるジカルボン酸残基と、を有する。ポリエステル樹脂(C2)の組成は分子を構成する単量体の割合(モル比率)によって特定される。
【0046】
ポリエステル樹脂(C2)を構成するジオール単量体として、一種類または複数種類のジオール化合物が含まれうる。ジオール化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体(三洋化成工業株式会社製ニューポール(登録商標)BPEシリーズ(ニューポール(登録商標)BPE-20、ニューポール(登録商標)BPE-40、ニューポール(登録商標)BPE-100など))、ビスフェノールAのプロピレンオキシド付加体(三洋化成工業株式会社製ニューポール(登録商標)BPシリーズ(ニューポール(登録商標)BP-2P、ニューポール(登録商標)BP-3P、ニューポール(登録商標)BP-5Pなど))、などが例示されるが、これらに限定されない。
【0047】
ポリエステル樹脂(C2)を構成するジカルボン酸単量体として、一種類または複数種類のジカルボン酸化合物が含まれうる。ジカルボン酸化合物としては、イソフタル酸、テレフタル酸、フマル酸、マレイン酸、5-スルホイソフタル酸アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩など)などが例示されるが、これらに限定されない。
【0048】
ポリエステル樹脂(C2)の非限定的な例として、ジエチレングリコール、イソフタル酸、および5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩の共重合体、エチレングリコール、ジエチレングリコール、イソフタル酸、テレフタル酸、および5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩の共重合体、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体およびフマル酸の共重合体(換言すればビスフェノールA、エチレングリコール、およびフマル酸の共重合体である。)、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体およびマレイン酸の共重合体(換言すればビスフェノールA、エチレングリコール、およびマレイン酸の共重合体である。)、が挙げられる。なお、ポリエステル樹脂(C2)は、一種類の化合物であってもよいし、複数種類の化合物の混合物であってもよい。
【0049】
サイジング剤が樹脂(C)を含有する場合において、炭化水素化合物(A)、非イオン性界面活性剤(B)、および樹脂(C)の質量の合計に対して、炭化水素化合物(A)の質量が占める割合が0.1質量%以上50質量%未満であり、非イオン性界面活性剤(B)の質量が占める割合が0.1質量%以上50質量%以下であり、かつ、樹脂(C)の質量が占める割合が20質量%以上90質量%以下であることが好ましい。各構成成分の存在比が上記の要件を満たすと、繊維材料の集束性と保管後に加工に供した際の毛羽立ちの抑制とをいずれも高い水準で実現しやすい。
【0050】
(その他の成分)
本実施形態に係るサイジング剤は、炭化水素化合物(A)、非イオン性界面活性剤(B)、および樹脂(C)の他の成分を含有していてもよい。かかる他の成分としては、防腐剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤(変性シリコーン等)、樹脂(C)以外の樹脂などが例示されるが、これらに限定されない。
【0051】
また、サイジング剤が繊維材料のサイジング処理に供される場合の典型的な態様として、炭化水素化合物(A)等の不揮発分を希釈剤で希釈した態様(一般にサイジング液とも称される。)が例示される。かかる希釈剤も、他の成分の一例である。希釈剤としては、水(水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水など)、アセトン、メチルエチルケトン、N-メチル-2-ピロリドンなどが例示されるが、これらに限定されない。なお、不揮発分を希釈剤で希釈した態様のサイジング剤における不揮発分の濃度は特に限定されないが、たとえば10質量%以上60質量%以下でありうる。前述の通りサイジング剤の不揮発分とは、サイジング剤を105℃で2時間熱風乾燥機にて加熱した後に揮発せずに残った成分をいい、その濃度とは、サイジング剤の質量に対する当該サイジング剤中の不揮発分の質量の割合をいう。
【0052】
〔サイジング剤の製造方法〕
本実施形態に係るサイジング剤は、炭化水素化合物(A)および非イオン性界面活性剤(B)、ならびに任意に加えられうる成分を公知の方法で混合することによって得られうる。たとえば炭化水素化合物(A)および非イオン性界面活性剤(B)、ならびに任意に加えられうる成分を20℃から90℃の間で撹拌しながら5時間かけて水を添加することで製造しうる。
【0053】
〔サイジング剤の使用方法〕
本実施形態に係るサイジング剤は、繊維材料のサイジング処理に用いられる。サイジング処理は、繊維材料にサイジング剤を付着させる処理であり、その方法としては、当分野において繊維材料にこの種のサイジング剤を付着させる際に通常用いられる方法を適用できる。すなわち、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、およびガイド給油法などが採用されうる。なお、それぞれの方法を適用するにあたり、サイジング剤が水等の希釈剤で適宜希釈されうる。
【0054】
繊維材料に対するサイジング剤の付着量は特に限定されない。たとえば、サイジング剤が付着した繊維材料全体に対してサイジング剤が0.1質量%以上3質量%以下付着していることが好ましい。
【0055】
なお、強化繊維を製造する際に本実施形態に係るサイジング剤を適用すると、繊維材料に当該サイジング剤が付着した強化繊維が得られる。この強化繊維は、本発明に係る強化繊維の一例である。繊維材料は無機繊維であることが好ましく、この場合の強化繊維はサイジング剤が付着している無機繊維である。また、無機繊維が炭素繊維またはガラス繊維であると、より好ましい。
【0056】
これらの強化繊維は、樹脂、セラミック、金属などを母材とする複合材料に使用されうる。上記の強化繊維と、熱硬化性樹脂であるマトリクス樹脂と、を含むことを特徴とする複合材料は、本発明の一実施形態である。
【0057】
〔その他の実施形態〕
本発明は、一態様として、鉱物油、流動パラフィン、およびポリαオレフィンから選択される一つまたは複数の炭化水素化合物(A)、ならびに、非イオン性界面活性剤(B)を含有し、不揮発分中の前記炭化水素化合物(A)の含有割合が0質量%を超えて50質量%未満であることを特徴とするサイジング剤でありうる。
【0058】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記炭化水素化合物(A)として鉱物油およびポリαオレフィンを含有しうる。この構成によれば、繊維材料の集束性と保管後に加工に供した際の毛羽立ちの抑制とを高い水準で両立しやすい。
【0059】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記炭化水素化合物(A)として、アロマ分の含有割合が0質量%を超えて5質量%以下である鉱物油を含有しうる。この構成によれば、繊維材料の保管後に加工に供した際の毛羽立ちを特に抑制しやすい。
【0060】
本発明に係る強化繊維用サイジング剤は、一態様として、前記炭化水素化合物(A)として、1-デセンの3~8量体であるポリαオレフィンを含有しうる。この構成によれば、繊維材料の集束性が特に向上しやすい。
【0061】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0062】
以下では、実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし以下の実施例は本発明を限定しない。
【0063】
〔サイジング剤の調製〕
以下の方法で、後掲する表1および表2に示す実施例1~25ならびに表3に示す比較例1~3のサイジング剤を得た。
【0064】
(1)原料(1-1)炭化水素化合物
以下に示す炭化水素化合物を用いた。いずれの炭化水素化合物も上記の実施形態に係る炭化水素化合物(A)に該当する。なお表1~表3において、サイジング剤の不揮発分中の炭化水素化合物(A)の含有割合(質量%単位)を「RA」の欄に示している。
【0065】
(炭化水素化合物A-1)
アロマ分1質量%、ナフテン分29質量%、およびパラフィン分70質量%を含み、30℃の動粘度が18mm2/sの鉱物油である。
【0066】
(炭化水素化合物A-2)
アロマ分3質量%、ナフテン分40質量%、およびパラフィン分57質量%を含み、30℃の動粘度が52mm2/sの鉱物油である。
【0067】
(炭化水素化合物A-3)
アロマ分0.1質量%、ナフテン分33質量%、およびパラフィン分66.9質量%を含み、30℃の動粘度が50mm2/sの鉱物油である。
【0068】
(炭化水素化合物A-4)
アロマ分1質量%、ナフテン分34質量%、およびパラフィン分65質量%を含み、30℃の動粘度が100mm2/sの鉱物油である。
【0069】
(炭化水素化合物A-5)
アロマ分4.5質量%、ナフテン分43質量%、およびパラフィン分52.5質量%を含み、30℃の動粘度が162mm2/sの鉱物油である。
【0070】
(炭化水素化合物A-6)
アロマ分2.5質量%、ナフテン分30質量%、およびパラフィン分67.5質量%を含み、30℃の動粘度が14mm2/sの鉱物油である。
【0071】
(炭化水素化合物A-7)
アロマ分11質量%、ナフテン分46質量%、およびパラフィン分43質量%を含み、30℃の動粘度が28mm2/sの鉱物油である。
【0072】
(炭化水素化合物A-8)
30℃の動粘度が6mm2/sの流動パラフィンである。
【0073】
(炭化水素化合物A-9)
30℃の動粘度が18mm2/sの流動パラフィンである。
【0074】
(炭化水素化合物A-10)
30℃の動粘度が35mm2/sの流動パラフィンである。
【0075】
(炭化水素化合物A-11)
30℃の動粘度が60mm2/sの流動パラフィンである。
【0076】
(炭化水素化合物A-12)
30℃の動粘度が104mm2/sの流動パラフィンである。
【0077】
(炭化水素化合物A-13)
30℃の動粘度が36mm2/sであり、1-デセンの3量体を主体とするポリαオレフィンである。
【0078】
(炭化水素化合物A-14)
30℃の動粘度が72mm2/sであり、1-デセンの3~5量体を主体とするポリαオレフィンである。
【0079】
なお、ポリαオレフィンは重合度の異なるオリゴマーの混合物であるところ、その存在比(モル基準)が最も大きいオリゴマーを当該ポリαオレフィンの主体たる成分としている。たとえば炭化水素化合物A-14は、1-デセンの3量体の存在比が最もが大きいポリαオレフィンである。また、炭化水素化合物A-15は、1-デセンの3量体、4量体、5量体の存在比が他の重合度の成分に比べて大きいポリαオレフィンである。ポリαオレフィンの重合度ごとのオリゴマーの存在比は、たとえばGC-MS分析(ガスクロマトグラフィー質量分析)で特定されうる。
【0080】
(1-2)非イオン性界面活性剤
以下に示す非イオン性界面活性剤を用いた。いずれの非イオン性界面活性剤も上記の実施形態に係る非イオン性界面活性剤(B)に該当し、このうち非イオン性界面活性剤B1-1~B1-8は上記の実施形態に係る芳香族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B1)に該当する。ただし、それぞれの非イオン性界面活性剤について示す製造方法はいずれも一例であり、以下に例示する方法と異なる方法で当該非イオン性界面活性剤が製造された場合であっても、実施例および比較例の結果は変化しない。
【0081】
(非イオン性界面活性剤B1-1)
トリスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:15:9で反応させて、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体である非イオン性界面活性剤B1-1を得た。
【0082】
(非イオン性界面活性剤B1-2)
ジスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:20:5で反応させて、ジスチレン化フェノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体である非イオン性界面活性剤B1-2を得た。
【0083】
(非イオン性界面活性剤B1-3)
ビスフェノールAとエチレンオキサイドとをモル比1:18で反応させて、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B1-3を得た。
【0084】
(非イオン性界面活性剤B1-4)
ビスフェノールAとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B1-4を得た。
【0085】
(非イオン性界面活性剤B1-5)
トリスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとをモル比1:34で反応させて、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B1-5を得た。
【0086】
(非イオン性界面活性剤B1-6)
ジスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとをモル比1:18で反応させて、ジスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B1-6を得た。
【0087】
(非イオン性界面活性剤B1-7)
トリスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:12:4で反応させて、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体である非イオン性界面活性剤B1-7を得た。
【0088】
(非イオン性界面活性剤B1-8)
ジスチレン化フェノールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:10:6で反応させて、ジスチレン化フェノールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体である非イオン性界面活性剤B1-8を得た。
【0089】
(非イオン性界面活性剤B-9)
ドデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:7で反応させて、ドデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-9を得た。
【0090】
(非イオン性界面活性剤B-10)
イソドデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:12で反応させて、イソドデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-10を得た。
【0091】
(非イオン性界面活性剤B-11)
テトラデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:9で反応させて、テトラデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-11を得た。
【0092】
(非イオン性界面活性剤B-12)
トリデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:15で反応させて、トリデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-12を得た。
【0093】
(非イオン性界面活性剤B-13)
2級ドデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:12で反応させて、2級ドデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-13を得た。
【0094】
(非イオン性界面活性剤B-14)
2級トリデシルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:7で反応させて、2級トリデシルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-14を得た。
【0095】
(非イオン性界面活性剤B-15)
2-エチルヘキシルアルコールとエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとをモル比1:2:6で反応させて、2-エチルヘキシルアルコールのエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドランダム付加体である非イオン性界面活性剤B-15を得た。
【0096】
(非イオン性界面活性剤B-16)
オレイルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:15で反応させて、オレイルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-16を得た。
【0097】
(非イオン性界面活性剤B-17)
イソノニルアルコールとエチレンオキサイドとをモル比1:10で反応させて、イソノニルアルコールのエチレンオキサイド付加体である非イオン性界面活性剤B-17を得た。
【0098】
(1-3)樹脂
以下に示す樹脂を用いた。いずれの樹脂も上記の実施形態に係る樹脂(C)に該当する。また、樹脂C1-1~C1-11は上記の実施形態に係る熱硬化性樹脂(C1)に該当し、樹脂C2-1~C2-5は上記の実施形態に係るポリエステル樹脂(C2)に該当する。
【0099】
(樹脂C1-1)
三菱ケミカル株式会社製のエポキシ樹脂jER(登録商標)828である。
【0100】
(樹脂C1-2)
三菱ケミカル株式会社製のエポキシ樹脂jER(登録商標)1001である。
【0101】
(樹脂C1-3)
三菱ケミカル株式会社製のエポキシ樹脂jER(登録商標)1002である。
【0102】
(樹脂C1-4)
三菱ケミカル株式会社製のエポキシ樹脂jER(登録商標)1004である。
【0103】
(樹脂C1-5)
NAN YA PLASTIC CORPORATION製のエポキシ樹脂NPES301である。
【0104】
(樹脂C1-6)
NAN YA PLASTIC CORPORATION製のエポキシ樹脂NPES302である。
【0105】
(樹脂C1-7)
住友化学株式会社製のエポキシ樹脂スミエポキシ(登録商標)ELM-434である。
【0106】
(樹脂C1-8)
住友化学株式会社製のエポキシ樹脂スミエポキシ(登録商標)ELM-100である。
【0107】
(樹脂C1-9)
エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)828)とメタクリル酸(三菱ケミカル株式会社製MAA)とを、エポキシ樹脂のエポキシ価とメタクリル酸の酸価とが等モルになる量比で反応させて得たビニルエステル樹脂である。
【0108】
(樹脂C1-10)
エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)828)とメタクリル酸(三菱ケミカル株式会社製MAA)とを、エポキシ樹脂のエポキシ価がメタクリル酸の酸価より15%大きくなる量比で反応させて得たビニルエステル樹脂である。
【0109】
(樹脂C1-11)
エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製jER(登録商標)834)とメタクリル酸(三菱ケミカル株式会社製MAA)とを、エポキシ樹脂のエポキシ価とメタクリル酸の酸価とが等モルになる量比で反応させて得たビニルエステル樹脂である。
【0110】
(樹脂C2-1)
ジエチレングリコール(50モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(4モル%)、およびイソフタル酸(46モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が10000のポリエステル樹脂である。
【0111】
(樹脂C2-2)
エチレングリコール(20モル%)、ジエチレングリコール(30モル%)、5-スルホイソフタル酸ナトリウム(3モル%)、イソフタル酸(17モル%)、およびテレフタル酸(30モル%)の共重合体であり、重量平均分子量が15000のポリエステル樹脂である。
【0112】
(樹脂C2-3)
ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体(三洋化成工業株式会社製ニューポール(登録商標)BPE-20)とフマル酸とを、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体の水酸基価とフマル酸の酸価との比が5:4になる量比で反応させて得たポリエステル樹脂である。
【0113】
(樹脂C2-4)
ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体(三洋化成工業株式会社製ニューポール(登録商標)BPE-40)とマレイン酸とを、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体の水酸基価とフマル酸の酸価との比が4:3になる量比で反応させて得たポリエステル樹脂である。
【0114】
(樹脂C2-5)
ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体(三洋化成工業株式会社製ニューポール(登録商標)BPE-100)とフマル酸とを、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体の水酸基価とフマル酸の酸価との比が6:5になる量比で反応させて得たポリエステル樹脂である。
【0115】
(1-4)その他の成分
その他の成分として以下を用いた。
D-1:オクチルパルミテート
D-2:炭素数12~15のアルキルスルホン酸ナトリウム
希釈剤:イオン交換水
【0116】
(2)サイジング剤の調製
炭化水素化合物A-1を10質量部、炭化水素化合物A-13を5質量部、非イオン性界面活性剤B1-1を20質量部、非イオン性界面活性剤B1-2を10質量部、樹脂C1-1を40質量部、および樹脂C2-1を15質量部として、各原料を秤量した。秤量した原料を80℃で混合撹拌しながら5時間かけて希釈剤であるイオン交換水300質量部を徐々に添加して、実施例1のサイジング剤を得た。
【0117】
(実施例2~25および比較例1~3)
使用する原料を後掲する表1~表3に記載の原料とした他は実施例1と同様の方法で、実施例2~25および比較例1~3の各サイジング剤を得た。
【0118】
〔サイジング剤の評価〕
実施例および比較例の各例について、以下の手順で評価を行った。ただし、サイジング剤の評価に供する繊維材料として、炭素繊維およびガラス繊維を用いた。炭素繊維およびガラス繊維は、いずれも樹脂強化用の繊維材料として市販されているものとした。各例の評価に用いた強化繊維の種類は表1~表3の「強化繊維」の欄に示しており、当該欄では炭素繊維を「CF」と記載し、ガラス繊維を「GF」と記載している。
【0119】
(1)集束性
実施例および比較例の各例のサイジング剤を満たしたサイジング浴に繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)を通してサイジング剤の付与を行った。サイジング剤の付与量は、繊維材料の重量に対して1.5%とした。サイジング剤付与後の繊維材料のロールをクリールにセットして毎分5mの速度で解舒し、解舒直後の繊維材料のローラー通過時の様子を観察した。観察結果に応じて、実施例および比較例の各例のサイジング剤によってもたらされる繊維材料の集束性をA~Cの三段階で評価した。
A:ローラーに巻き付いた繊維材料がほとんど見られず、かつ、通過した繊維材料の纏まりが良好であった。
B:ローラーに巻き付いた繊維材料がわずかに見られたが通過した繊維材料の纏まりが良好であった。
C:ローラーに巻き付いた繊維材料が多く、通過した繊維材料にバラケが見られた。
【0120】
ここで、繊維材料の纏まりが良好であるか否かは、繊維材料の束に隙間が見られるほどの繊維バラケがあるかどうかという基準で目視観察により判断される。
【0121】
(2)経時保管後の毛羽立ち
実施例および比較例の各例のサイジング剤を満たしたサイジング浴にフィラメント数3000本の繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)を通してサイジング剤の付与を行い、サイジング剤付与後の繊維材料をロールに巻き取った。サイジング剤の付与量は、繊維材料の重量に対して1.5%とした。巻き取った繊維材料のロールを常温で2ヶ月間保管した。保管後の繊維材料のロールをクリールにセットして毎分5mの速度で解舒し、解舒直後のローラーを通過した繊維材料を、あらかじめ重量を測定したスポンジの隙間に接触長が5cmになるように挿通して発生した毛羽をスポンジに付着させ、15分後にスポンジを外して重量を測定し、あらかじめ測定した重量との差分を取ることでスポンジに付着した毛羽の重量を測定した。また、スポンジ通過後の繊維材料をフィラメントワインディング加工に供し、その加工性を観察した。スポンジに付着した毛羽の重量およびフィラメントワインディング加工の加工性に基づいて、実施例および比較例の各例のサイジング剤によってもたらされる経時保管後の繊維材料の毛羽立ちを防止する効果をA~Eの五段階で評価した。
A:スポンジに付着した毛羽の重量が10mg未満であり、フィラメントワインディング加工が円滑に進行した。
B:スポンジに付着した毛羽の重量が10mg以上20mg未満であり、フィラメントワインディング加工が円滑に進行した。
C:スポンジに付着した毛羽の重量が20mg以上30mg未満であり、フィラメントワインディング加工が円滑に進行した。
D:スポンジに付着した毛羽の重量が30mg以上50mg未満であり、フィラメントワインディング加工の操業に支障がない水準だった。
E:スポンジに付着した毛羽の重量が50mg以上であり、フィラメントワインディング加工に操業上の支障が認められた。
【0122】
(3)接着性
接着性の評価に用いるマトリクス樹脂として、エポキシ樹脂またはビニルエステル樹脂を用いた。エポキシ樹脂を用いる場合は、エポキシ樹脂(エポキシ当量190、三菱ケミカル社製jER(登録商標)828)とBF3モノエチルアミン塩(ステラケミファ社製三フッ化ホウ素モノエチルアミン)との質量比100:3の混合物をマトリクス樹脂とした。ビニルエステル樹脂を用いる場合は、昭和電工株式会社製メチルエチルケトンパーオキシド硬化剤を用いて硬化させた昭和電工株式会社製リポキシ(登録商標)R-804Bをマトリクス樹脂とした。
【0123】
実施例および比較例の各例のサイジング剤を含むサイジング液(不揮発分濃度2%)を調製し、当該サイジング液に繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)を浸漬してサイジング剤の付与を行った。サイジング剤の付与量は、繊維材料の重量に対して2%とした。サイジング剤を付与した繊維材料から一本の繊維材料を取り出した。当該繊維材料が緊張した状態になるように、その両端を接着剤で四角枠状のホルダーに固定した。マトリクス樹脂を、直径約70μmの樹脂滴状粒として繊維材料に付着させた。160℃の空気雰囲気下で所定時間加熱して、繊維材料とマトリクス樹脂とを接着させて、試験片を作成した。所定時間は、マトリクス樹脂がエポキシ樹脂である場合に90分間とし、マトリクス樹脂がビニルエステル樹脂である場合に20分間とした。なお、各例の評価に用いたマトリクス樹脂の種類は表1~表3の「マトリクス樹脂」の欄に示しており、当該欄ではエポキシ樹脂を「EP」と記載し、ビニルエステル樹脂を「VE」と記載している。
【0124】
各試料片を二枚のブレードで挟み、二枚のブレードを毎分5mmの速度で繊維軸方向に移動させて、これらのブレードによって樹脂滴状粒を繊維材料から剥離する際に生じる最大応力Fをロードセルにて計測した。計測した値を用いて、式(1)により界面せん断強度τを算出した。以上の手順による界面せん断強度τ(MPa単位)の算出を実施例および比較例の各例につき20回行い、その平均値を測定結果とした。
【数1】
【0125】
式(1)において、Fは樹脂滴状粒が炭素繊維から剥離する際に生じる最大応力(kgf単位)であり、Dは試験片とした炭素繊維の直径(mm単位)であり、Lは試験片における樹脂滴状粒の繊維軸方向の直径(mm単位)である。
【0126】
得られた界面せん断強度τの値に基づいて、実施例および比較例の各例のサイジング剤の接着性をA~Dの四段階で評価した。なお、以下の各水準の記載における「基準値」は、マトリクス樹脂がエポキシ樹脂である場合について60MPaであり、マトリクス樹脂がビニルエステル樹脂である場合について40MPaである。
A:界面せん断強度τが基準値の1.30倍以上である。
B:界面せん断強度τが基準値の1.12倍以上1.30倍未満である。
C:界面せん断強度τが基準値の1.01倍以上1.12倍未満である。
D:界面せん断強度τが基準値の1.01倍未満である。
【0127】
〔結果〕
実施例および比較例の各例の原料構成、評価に用いた繊維材料(炭素繊維またはガラス繊維)、および各評価の結果を表1~表3に示す。
【0128】
【0129】
【0130】