(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176830
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】亜鉛除去方法および低亜鉛製鉄ダストの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 19/20 20060101AFI20241212BHJP
C22B 7/02 20060101ALI20241212BHJP
C22B 3/10 20060101ALI20241212BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C22B19/20 101
C22B7/02 B
C22B3/10
C22B3/44 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095651
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】井上 健
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001AA30
4K001BA14
4K001DB04
4K001DB23
(57)【要約】 (修正有)
【課題】製鉄ダストに含まれる亜鉛の除去方法および低亜鉛製鉄ダストの製造方法を提供する。
【解決手段】亜鉛を含む製鉄ダストが分散している懸濁液への酸の添加により、上記懸濁液の液相中に亜鉛を浸出させる浸出工程と、上記浸出工程で得られた第1処理液への酸化剤およびアルカリの添加により、上記第1処理液中に鉄を沈殿させる沈殿工程と、上記沈殿工程で得られた第2処理液を固液分離する第1固液分離工程と、上記第1固液分離工程で分離された固形分を水洗する水洗工程と、上記水洗工程で得られた第3処理液を固液分離する第2固液分離工程とを備え、上記水洗工程で、下記式1で表される水洗指数hが54以上となるように上記固形分を水洗する。
h=4.26×L/S-13.4×N-0.782×t+53.3・・・1
(L/Sは、質量基準での水洗水と固形分との液固比;Nは、水洗水の使用回数;tは、攪拌時間[分]を意味する。)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛を含む製鉄ダストが分散している懸濁液への酸の添加により、上記懸濁液の液相中に亜鉛を浸出させる浸出工程と、
上記浸出工程で得られた第1処理液への酸化剤およびアルカリの添加により、上記第1処理液中に鉄を沈殿させる沈殿工程と、
上記沈殿工程で得られた第2処理液を固液分離する第1固液分離工程と、
上記第1固液分離工程で分離された固形分を水洗する水洗工程と、
上記水洗工程で得られた第3処理液を固液分離する第2固液分離工程と
を備え、
上記水洗工程で、下記式1で表される水洗指数hが54以上となるように上記固形分を水洗する亜鉛除去方法。
h=4.26×L/S-13.4×N-0.782×t+53.3 ・・・1
ただし、上記式1において、L/Sは、質量基準での水洗水と固形分との液固比(水洗水/固形分)を意味し、Nは、水洗水の使用回数(ただし、新たな水洗水を使用するときの使用回数をN=1とし、水洗工程における使用後の水洗水を繰り返し使用する場合の使用回数をN≧2とする)を意味し、tは、攪拌時間[分]を意味する。
【請求項2】
上記酸が、塩酸である請求項1に記載の亜鉛除去方法。
【請求項3】
上記水洗工程で、
上記固形分が浸漬されている上記水洗水を撹拌し、
上記第2固液分離工程で分離された分離液を上記水洗水として繰り返し使用する請求項1または請求項2に記載の亜鉛除去方法。
【請求項4】
亜鉛を含む製鉄ダストが分散している懸濁液への酸の添加により、上記懸濁液の液相中に亜鉛を浸出させる浸出工程と、
上記浸出工程で得られた第1処理液への酸化剤およびアルカリの添加により、上記第1処理液中に鉄を沈殿させる沈殿工程と、
上記沈殿工程で得られた第2処理液を固液分離する第1固液分離工程と、
上記第1固液分離工程で分離された固形分を水洗する水洗工程と、
上記水洗工程で得られた第3処理液を固液分離する第2固液分離工程と
を備え、
上記水洗工程で、下記式1で表される水洗指数hが54以上となるように上記固形分を水洗する低亜鉛製鉄ダストの製造方法。
h=4.26×L/S-13.4×N-0.782×t+53.3 ・・・1
ただし、上記式1において、L/Sは、質量基準での水洗水と固形分との液固比(水洗水/固形分)を意味し、Nは、水洗水の使用回数(ただし、新たな水洗水を使用するときの使用回数をN=1とし、水洗工程における使用後の水洗水を繰り返し使用する場合の使用回数をN≧2とする)を意味し、tは、攪拌時間[分]を意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、亜鉛除去方法および低亜鉛製鉄ダストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄ダストは、鉄分を含んでいるため、製鉄プロセスにおいて鉄源として利用できる。例えば製鉄プロセスにおける最初の工程である焼結工程では、製鉄ダストの使用が望まれることがある。一方で、製鉄ダストには亜鉛が含まれていることが多い。しかしながら、高炉に装入できる亜鉛の量には上限があるため、許容量を超えて亜鉛を含む製鉄ダストは原料として使用できない。そのため、このような製鉄ダストは、外部処理することとなり、鉄源として利用できないだけでなく、さらに処理費用が必要となる。
【0003】
今日では、製鉄ダストを再利用すべく、製鉄ダストに含まれる亜鉛を除去する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、出発原料に含まれる亜鉛(Zn)を浸出させ、さらに液相中に固体(Fe)を沈殿させて混合物を得たうえで、この混合物をろ過し、ろ過フィルタ上に残った固体に水をかけることで、固体粒子の間隙に残留したZnを含む金属類および塩化物の可溶化した塩を含むろ液を、洗い流して除去することが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法によっては、固体粒子中に混在しているZnの塩類を十分に溶解し、洗い流して除去できるとはいえない。
【0007】
本開示は、このような事情に基づいてなされたもので、製鉄ダストに含まれる亜鉛を確実に除去することができる亜鉛除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る亜鉛除去方法は、亜鉛を含む製鉄ダストが分散している懸濁液への酸の添加により、上記懸濁液の液相中に亜鉛を浸出させる浸出工程と、上記浸出工程で得られた第1処理液への酸化剤およびアルカリの添加により、上記第1処理液中に鉄を沈殿させる沈殿工程と、上記沈殿工程で得られた第2処理液を固液分離する第1固液分離工程と、上記第1固液分離工程で分離された固形分を水洗する水洗工程と、上記水洗工程で得られた第3処理液を固液分離する第2固液分離工程とを備え、上記水洗工程で、下記式1で表される水洗指数hが54以上となるように上記固形分を水洗する亜鉛除去方法。
h=4.26×L/S-13.4×N-0.782×t+53.3 ・・・1
ただし、上記式1において、L/Sは、質量基準での水洗水と固形分との液固比(水洗水/固形分)を意味し、Nは、水洗水の使用回数(ただし、新たな水洗水を使用するときの使用回数をN=1とし、水洗工程における使用後の水洗水を繰り返し使用する場合の使用回数をN≧2とする)を意味し、tは、攪拌時間[分]を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様に係る亜鉛除去方法は、製鉄ダストに含まれる亜鉛を確実に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る亜鉛除去方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示の一態様に係る亜鉛除去方法は、亜鉛を含む製鉄ダストが分散している懸濁液への酸の添加により、上記懸濁液の液相中に亜鉛を浸出させる浸出工程と、上記浸出工程で得られた第1処理液への酸化剤およびアルカリの添加により、上記第1処理液中に鉄を沈殿させる沈殿工程と、上記沈殿工程で得られた第2処理液を固液分離する第1固液分離工程と、上記第1固液分離工程で分離された固形分を水洗する水洗工程と、上記水洗工程で得られた第3処理液を固液分離する第2固液分離工程とを備え、上記水洗工程で、下記式1で表される水洗指数hが54以上となるように上記固形分を水洗する亜鉛除去方法。
h=4.26×L/S-13.4×N-0.782×t+53.3 ・・・1
ただし、上記式1において、L/Sは、質量基準での水洗水と固形分との液固比(水洗水/固形分)を意味し、Nは、水洗水の使用回数(ただし、新たな水洗水を使用するときの使用回数をN=1とし、水洗工程における使用後の水洗水を繰り返し使用する場合の使用回数をN≧2とする)を意味し、tは、攪拌時間[分]を意味する。
【0013】
当該亜鉛除去方法は、上記水洗工程で、上記水洗指数hが54以上となるように上記固形分を水洗するので、上記製鉄ダストに含まれる亜鉛を確実に除去することができる。
【0014】
(2)上記(1)において、上記酸が塩酸であるとよい。このように、上記酸が塩酸であることによって、上記製鉄ダストに含まれる亜鉛を十分に除去できることに加え、鉄分が高く、リサイクル時に脱硫負荷のない固形分を得ることができる。
【0015】
(3)上記(1)または(2)において、上記水洗工程で、上記固形分が浸漬されている上記水洗水を撹拌し、上記第2固液分離工程で分離された分離液を水洗水として繰り返し使用するとよい。このように、上記水洗工程で、上記固形分が浸漬されている上記水洗水を撹拌し、上記第2固液分離工程で分離された分離液を水洗水として繰り返し使用することによって、上記製鉄ダストに含まれる亜鉛をより効率的に除去することができる。
【0016】
本開示の別の一態様に係る低亜鉛製鉄ダストの製造方法は、亜鉛を含む製鉄ダストが分散している懸濁液への酸の添加により、上記懸濁液の液相中に亜鉛を浸出させる浸出工程と、上記浸出工程で得られた第1処理液への酸化剤およびアルカリの添加により、上記第1処理液中に鉄を沈殿させる沈殿工程と、上記沈殿工程で得られた第2処理液を固液分離する第1固液分離工程と、上記第1固液分離工程で分離された固形分を水洗する水洗工程と、上記水洗工程で得られた第3処理液を固液分離する第2固液分離工程とを備え、上記水洗工程で、下記式1で表される水洗指数hが54以上となるように上記固形分を水洗する低亜鉛製鉄ダストの製造方法。
h=4.26×L/S-13.4×N-0.782×t+53.3 ・・・1
ただし、上記式1において、L/Sは、質量基準での水洗水と固形分との液固比(水洗水/固形分)を意味し、Nは、水洗水の使用回数(ただし、新たな水洗水を使用するときの使用回数をN=1とし、水洗工程における使用後の水洗水を繰り返し使用する場合の使用回数をN≧2とする)を意味し、tは、攪拌時間[分]を意味する。
【0017】
当該低亜鉛製鉄ダストの製造方法によると、亜鉛の含有量が低減された製鉄ダストを容易に製造することができる。
【0018】
なお、本開示において、「製鉄ダスト」とは、製鉄工程で発生するダストであって鉄を含むものを意味する。また、「ダスト」とは、スラッジおよびミルスケールを含む。
【0019】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、適宜図面を参照しつつ、本開示の実施の形態を詳説する。なお、本明細書に記載されている数値については、記載された上限値と下限値との一方のみを採用すること、あるいは上限値と下限値とを任意に組み合わせることが可能である。本明細書では、組み合わせ可能な数値範囲が好適な範囲として全て記載されているものとする。
【0020】
<亜鉛除去方法および低亜鉛製鉄ダストの製造方法>
図1に示すように、当該亜鉛除去方法は、亜鉛を含む製鉄ダストが分散している懸濁液への酸の添加により、上記懸濁液の液相中に亜鉛を浸出させる浸出工程S1と、浸出工程S1で得られた第1処理液への酸化剤およびアルカリの添加により、上記第1処理液中に鉄を沈殿させる沈殿工程S2と、沈殿工程S2で得られた第2処理液を固液分離する第1固液分離工程S3と、第1固液分離工程S3で分離された固形分を水洗する水洗工程S4と、水洗工程S4で得られた第3処理液を固液分離する第2固液分離工程S5とを備える。
【0021】
当該亜鉛除去方法は、水洗工程S4で、下記式1で表される水洗指数hが54以上となるように上記固形分を水洗する。
h=4.26×L/S-13.4×N-0.782×t+53.3 ・・・1
ただし、上記式1において、L/Sは、質量基準での水洗水と固形分との液固比(水洗水/固形分)を意味し、Nは、水洗水の使用回数(ただし、新たな水洗水を使用するときの使用回数をN=1とし、水洗工程S4における使用後の水洗水を繰り返し使用する場合の使用回数をN≧2とする)を意味し、tは、攪拌時間[分]を意味する。
【0022】
本発明者は、製鉄プロセスにおける焼結工程で利用できるように、製鉄ダストに含まれる亜鉛を除去する方法について鋭意検討した。その結果、本発明者は、水洗工程S4における上記水洗指数hの制御によって亜鉛を低濃度まで容易に除去できるとの知見を得た。当該亜鉛除去方法は、水洗工程S4で、上記水洗指数hが54以上となるように上記固形分を水洗することによって、上記製鉄ダストに含まれる亜鉛を確実に除去することができる。
【0023】
当該亜鉛除去方法によって亜鉛が除去された後の製鉄ダストは、低亜鉛製鉄ダストとして再利用できる。すなわち、当該亜鉛除去方法は、低亜鉛製鉄ダストの製造方法として用いることが可能である。当該低亜鉛製鉄ダストの製造方法は、本開示の一態様である。当該低亜鉛製鉄ダストの製造方法によると、亜鉛の含有量が低減された製鉄ダストを容易に製造することができる。
【0024】
以下、当該亜鉛除去方法および低亜鉛製鉄ダストの製造方法における各工程について詳説する。
【0025】
(浸出工程S1)
浸出工程S1では、製鉄ダストに含まれている亜鉛を懸濁液の液相中に浸出させる。より詳しくは、浸出工程S1では、製鉄ダストに含まれている亜鉛化合物を上記懸濁液の液相中に溶解させる。浸出工程S1は、例えば常温環境下で行うことができる。また、浸出工程S1で使用する懸濁液は、例えば高炉のシックナーから回収されたものであってもよく、回収時において加温されていてもよい。例えば浸出工程S1における上記懸濁液の初期温度は、40℃以上60℃以下であってもよい。
【0026】
上記製鉄ダストとしては、特に限定されるものではなく、例えば高炉ダスト、冷延スラッジ等が挙げられる。上記懸濁液としては、上記製鉄ダストが湿式集塵ダストである場合には、シックナーから回収されたスラリーが挙げられる。また、上記製鉄ダストが乾式集塵ダストである場合には、この乾式集塵ダストに工水等の水を添加したものが挙げられる。
【0027】
上記懸濁液の質量基準での液固比(液体/固体)の下限としては、上記懸濁液を撹拌子で円滑に攪拌する観点から、3.5が好ましく、4.0がより好ましい。一方、上記液固比の上限は、処理槽の規模をなるべく小さく留め、設備投資費用を抑制する観点等から定めることができる。
【0028】
上記懸濁液に添加する酸としては、亜鉛を浸出できるものであればよく、例えば塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。中でも、比較的安価で、かつ後述の沈殿工程S2において第1処理液中に鉄を選択的に沈殿させることができるとともに、リサイクル時に脱硫負荷のない固形分を容易に得ることができる観点から、塩酸が好ましい。上記酸が塩酸であることによって、亜鉛の含有量が低減された製鉄ダスト(低亜鉛製鉄ダスト)を容易に製造することができる。
【0029】
浸出工程S1では、上記懸濁液に上記酸を添加した後に、あるいは上記懸濁液に上記酸を添加しつつ、上記懸濁液を撹拌することが好ましい。この撹拌によって、上記懸濁液の液相中に亜鉛を容易かつ確実に浸出させることができる。
【0030】
浸出工程S1における処理時間(撹拌時間)の下限としては、液相中に十分に亜鉛を浸出させる観点から、60分が好ましく、80分がより好ましく、100分がさらに好ましい。一方、上記処理時間の上限としては、亜鉛の浸出量の増大効果を維持しやすい観点や、浸出工程S1における処理量を十分に高める観点等から、例えば200分とすることができ、150分であってもよい。
【0031】
浸出工程S1では、上記酸の添加によって上記懸濁液のpHを制御する。上記酸の添加後における上記懸濁液のpHの下限としては、鉄の浸出を抑制しつつ、亜鉛を選択的に浸出させる観点や、上記酸の添加量の増加に基づく材料コスト、設備コスト等が高くなることを抑える観点等から、0.5が好ましく、0.8がより好ましい。すなわち、浸出工程S1では、上記懸濁液中には鉄も浸出され得るが、pHの制御によって亜鉛を選択的に浸出させることが容易となる。一方、上記pHの上限としては、亜鉛の浸出量が不十分となることを抑制する観点から、2.0が好ましく、1.5がより好ましい。
【0032】
(沈殿工程)
浸出工程S1において上記懸濁液の液相中に亜鉛が浸出された後の処理液は、第1処理液として沈殿工程S2に供される。沈殿工程S2は、浸出工程S1に連続して行うことができる。沈殿工程S2では、上記第1処理液中に鉄(より詳しくは、鉄の水酸化物)を沈殿させることで、鉄の回収率を高め、上記製鉄ダストの再利用効率を向上させる。沈殿工程S2は、例えば常温環境下で行うことができる。
【0033】
沈殿工程S2で上記第1処理液に添加する上記酸化剤としては、例えば過酸化水素、次亜塩素酸、過マンガン酸、塩素、オゾン、酸素、空気等が挙げられる。また、沈殿工程S2で上記第1処理液に添加する上記アルカリとしては、例えば苛性ソ-ダ、生石灰、消石灰、石灰石、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0034】
上記酸化剤は、上記第1処理液に含まれる鉄を酸化させる。より詳しくは、上記酸化剤は、上記第1処理液に含まれる2価鉄を3価鉄に酸化する。これにより、上記第1処理液の液相中に亜鉛を溶解させつつ、鉄を選択的に沈殿させることが容易となる。
【0035】
上記アルカリは、上記第1処理液のpHを制御する。より詳しくは、上記アルカリは、上記第1処理液の液相中に亜鉛が溶解した状態で、上記第1処理液中に鉄(3価鉄)を選択的に沈殿させるように上記第1処理液のpHを制御する。
【0036】
上記アルカリによって制御された上記第1処理液のpHの下限としては、上記第1処理液中に鉄(3価鉄)を十分に沈殿させる観点から、2.4が好ましく、2.7がより好ましい。一方、上記pHの上限としては、上記第1処理液中に亜鉛(例えば水酸化亜鉛)が沈殿することを抑制する観点から、4.5が好ましく、3.5がより好ましい。当該亜鉛除去方法は、例えば浸出工程S1における上記酸として塩酸を用い、沈殿工程S2において上記第1処理液のpHを上記範囲内に制御することで、上記第1処理液中に鉄を選択的に沈殿させることが容易となる。
【0037】
沈殿工程S2では、上記第1処理液に上記酸化剤と上記アルカリとを一定量添加した後に、上記第1処理液を撹拌しつつ、上記酸化剤および上記アルカリの一方または両方をさらに添加してもよい。上記酸化剤は、例えばORP(Oxidation-Reduction Potential:酸化還元電位)が600mV以上となるように添加していってもよい。この構成によると、上記第1処理液に含まれる2価鉄を3価鉄に容易かつ確実に酸化させることができる。また、上記アルカリは、例えば上記第1処理液のpHが上記範囲内に制御されるように添加していってもよい。この構成によると、上記第1処理液中に鉄を選択的に沈殿させることができる。沈殿工程S2における処理時間(第1処理液の撹拌時間)としては、例えば20分以上60分以下とすることができる。
【0038】
(第1固液分離工程)
沈殿工程S2において鉄の沈殿が終わった処理液は、第2処理液として第1固液分離工程S3に供される。第1固液分離工程S3は、沈殿工程S2に連続して行うことができる。
【0039】
第1固液分離工程S3において第2処理液を固液分離する装置としては、例えば真空ろ過機、フィルタ-プレス、ベルトプレス、スクリュ-プレス、遠心脱水機等が挙げられる。
【0040】
(水洗工程)
水洗工程S4では、第1固液分離工程S3で分離された固形分に含まれる亜鉛化合物を溶解させ、上記固形分から除去する。また同時に、水洗工程S4では、上記固形分に付着したろ液に含まれる亜鉛を除去する。
【0041】
上述のように、水洗工程S4では、下記式1で表される水洗指数hが54以上となるように上記固形分を水洗する。下記式1は、水洗工程S4において想定される操業因子を3つ抽出し、それらをパラメータとした実験によって求められたものである。上記水洗指数hの下限としては、60が好ましく、65がより好ましい。
h=4.26×L/S-13.4×N-0.782×t+53.3 ・・・1
ただし、上記式1において、L/Sは、質量基準での水洗水と固形分との液固比(水洗水/固形分)を意味し、Nは、水洗水の使用回数(ただし、新たな水洗水を使用するときの使用回数をN=1とし、水洗工程S4における使用後の水洗水を繰り返し使用する場合の使用回数をN≧2とする)を意味し、tは、攪拌時間[分]を意味する。
【0042】
水洗工程S4では、上記固形分を上記水洗水に浸漬させて水洗する。水洗工程S4における水洗回数は1回であってよい。上記水洗指数hにおいて、L/Sが大きくなると、水洗水中の亜鉛濃度が小さくなることで、亜鉛の溶解速度や溶解量が増加する。そのため、上記固形分から亜鉛を除去する観点から、L/Sは大きいことが好ましい。一方で、L/Sが大きすぎると、設備規模が過大となり、設備費用が嵩み実現困難となる。そのため、L/Sの上限としては、15が好ましく、10がより好ましい。すなわち、当該亜鉛除去方法は、設備費用等を抑えつつ、上記製鉄ダストに含まれる亜鉛を効率的かつ確実に除去するのに適している。
【0043】
水洗工程S4では、上記水洗水として、第2固液分離工程S5で分離された分離液を繰り返し使用することができる。この場合、上記式1におけるNは、繰り返し回数に応じてN≧2となる。上記水洗指数hにおいて、Nが大きくなると、水洗水中の亜鉛濃度が大きくなり、亜鉛の溶解速度や溶解量が低下する。そのため、上記固形分から亜鉛を除去する観点から、Nは小さいことが好ましい。
【0044】
上記水洗指数hにおいて、tが大きくなると、異種沈殿物が増加することがある。この観点から、水洗工程S4において、tは上記水洗水を適切に撹拌できる範囲内において小さいことが望まれる。上記水洗水を適切に撹拌する観点から、tは0超(t>0)とすることができ、その下限としては、0.5であってもよく、1であってもよい。
【0045】
水洗工程S4では、例えば上記固形分を水洗水に浸漬し、上記固形分が浸漬した上記水洗水を撹拌する。つまり、上記式1におけるL/Sは、上記固形分が水洗水に浸漬された状態における値であり、tは、上記固形分が水洗水に浸漬された状態で上記水洗水を攪拌する時間である。このようにすることで、上記固形分に含まれる亜鉛化合物を上記水洗水中に容易かつ確実に溶解させることができる。その結果、上記製鉄ダストに含まれる亜鉛をより容易かつ確実に除去することができる。
【0046】
また、水洗工程S4では、上述のように第2固液分離工程S5で分離された分離液(水洗工程S4における使用後の水洗水)を繰り返し使用する。この構成によれば、上記分離液の総排出量を削減し、廃水処理コストや周辺環境への負荷を軽減することができる。当該亜鉛除去方法は、水洗工程S4において、水洗水の使用回数Nと撹拌時間tとを制御することで、第2固液分離工程S5で分離された分離液の有効利用を図りつつ、製鉄ダストに含まれる亜鉛をより効率的に除去することができる。
【0047】
上記水洗水としては、例えば脱塩水、純水、蒸留水、水道水、工水等が挙げられる。当該亜鉛除去方法においては、例えば水道水または工水であっても、1回目(N=1)の水洗水として使用可能である。
【0048】
水洗工程S4における脱亜鉛率の上限としては、50.0%が好ましく、55.0%がより好ましく、60.0%がさらに好ましく、65.0%が特に好ましい。当該亜鉛除去方法によると、水洗工程S4における脱亜鉛率を容易かつ確実に大きくすることができる。なお、「脱亜鉛率」とは、水洗工程S4に供される固形分における亜鉛濃度C1[質量%]と水洗工程S4後の固形分における亜鉛濃度C2[質量%]とを用い、下記式2によって求められる値を意味する。
脱亜鉛率R[%]=(C1-C2)/C1×100 ・・・2
【0049】
水洗工程S4後の固形分における亜鉛濃度の上限としては、0.35質量%が好ましく、0.32質量%がより好ましく、0.28質量%がさらに好ましい。当該亜鉛除去方法によると、水洗工程S4後の固形分における亜鉛濃度を容易かつ確実に小さくすることができる。
【0050】
(第2固液分離工程)
水洗工程S4における水洗終了後の処理液は、第3処理液として第2固液分離工程S5に供される。すなわち、上記第3処理液は、水洗工程S4終了時において上記固形分が上記水洗水に浸漬された状態のものとすることができる。第2固液分離工程S5は、水洗工程S4に連続して行うことができる。第2固液分離工程S5によって分離された固形分は、亜鉛の含有量が低減された低亜鉛製鉄ダストとして構成される。また、第2固液分離工程S5で分離された分離液は水洗工程S4における水洗水(N≧2)として使用され得る。
【0051】
第2固液分離工程S5において第3処理液を固液分離する装置としては、例えば真空ろ過機、フィルタ-プレス、ベルトプレス、スクリュ-プレス、遠心脱水機等が挙げられる。
【0052】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。したがって、上記実施形態は、本明細書の記載および技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換または追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0053】
例えば当該亜鉛除去方法は、上記水洗工程で、浸漬および攪拌以外の水洗手順を用いることを除外することを意図しない。
【実施例0054】
以下、実施例に基づき本開示を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本開示が限定的に解釈されるものではない。
【0055】
(No.1からNo.27)
亜鉛を含む製鉄ダストについて、上述の浸出工程S1、沈殿工程S2、第1固液分離工程S3、水洗工程S4および第2固液分離工程S5をこの順で行うことで亜鉛を除去した。上記製鉄ダストとしては、亜鉛の含有量が1.73質量%である高炉ダストと亜鉛の含有量が7.27質量%である冷延スラッジとを90:10の質量割合で混合したものを用いた。
【0056】
〔浸出工程〕
500ccのガラス製のビーカーに、上述の製鉄ダストと水道水とを投入し、液固比(液体/固体)が4となるように調整した。さらに、得られた懸濁液に、塩酸(塩化水素の含有量が35質量%である塩酸特級試薬(株式会社松野園製薬所製の「080-010661-0」)を投入しつつ、この懸濁液を撹拌子で撹拌した。浸出工程S1では、懸濁液のpHを常時測定し、pHが1となるように上記塩酸を追加投入した。浸出工程S1における処理時間は120分とした。
【0057】
〔沈殿工程〕
浸出工程S1で得られた第1処理液をビーカー内で撹拌しつつ、酸化剤(過酸化水素の含有量が30質量%である過酸化水素水特級試薬(富士フィルム和光純薬株式会社製の「081-04215」)を投入した。上記酸化剤は、沈殿工程S2の初期に一括投入した。
【0058】
また、沈殿工程S2では、上記第1処理液を撹拌しつつ、アルカリ(スラリー濃度が23質量%である消石灰スラリー)を投入した。上記アルカリは、沈殿工程S2の処理時間を30分とし、第1処理液のpHを常時測定しつつ、沈殿工程S2の開始から30分後に第1処理液のpHが3になるように追加投入した。
【0059】
〔第1固液分離工程〕
第1固液分離工程S3では、沈殿工程S2の終了後の第2処理液を、メンブレンフィルター(直径90mmφ、孔径0.45μm)を有する真空ろ過機を用いて固液分離した。
【0060】
〔水洗工程および第2固液分離工程〕
水洗工程S4では、第1固液分離工程S3で分離された固形分を水洗した。具体的には、水洗水として脱塩水を用い、水洗容器として100ccのガラス製のビーカーを用いて、表1の液固比(L/S)および攪拌時間tとなるように1回目の水洗(N=1)を実施した。また、この水洗後、得られた第3処理液に第2固液分離工程S5を実施した。この第2固液分離工程S5で得られた固形分を使用回数N=1の試料(低亜鉛製鉄ダスト)とするとともに、得られた分離液を、上記と同様の手順で実施した第1固液分離工程S3で分離された固形分の水洗水(N=2)として用いて水洗工程S4を実施した。さらにこの水洗工程S4における水洗後の第3処理液に第2固液分離工程S5を実施した。得られた固形分を使用回数N=2の試料とするとともに、得られた分離液を、上記と同様の手順で実施した第1固液分離工程S3で分離された固形分の水洗水(N=3)として用いて水洗工程S4を実施した。
【0061】
<水洗指数>
No.1からNo.27について、下記式1で表される水洗指数hを求めた。この結果を表1に示す。
h=4.26×L/S-13.4×N-0.782×t+53.3 ・・・1
ただし、上記式1において、L/Sは、質量基準での水洗水と固形分との液固比(水洗水/固形分)を意味し、Nは、水洗水の使用回数(ただし、新たな水洗水を使用するときの使用回数をN=1とし、水洗工程S4における使用後の水洗水を繰り返し使用する場合の使用回数をN≧2とする)を意味し、tは、攪拌時間[分]を意味する。
【0062】
<脱亜鉛率>
No.1からNo.27について、下記式2で表される水洗工程S4における脱亜鉛率Rを求めた。この結果を表1に示す。
脱亜鉛率R[%]=(C1-C2)/C1×100 ・・・2
ただし、上記式2において、C1は、水洗工程S4に供される固形分における亜鉛濃度[質量%]を意味し、C2は、水洗工程S4後の固形分における亜鉛濃度[質量%]を意味する。
【0063】
<亜鉛濃度>
No.1からNo.27について、水洗工程S4に供された固形分における亜鉛濃度C1[質量%]、および水洗工程S4後の固形分における亜鉛濃度C2[質量%]を求めた。この結果を表1に示す。
【0064】
【0065】
<評価結果>
表1に示すように、水洗工程S4における水洗指数hが54以上であるNo.1からNo.9は、脱亜鉛率を確実に高めることができている。