(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176858
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】可変ダンパの制御方法
(51)【国際特許分類】
B60G 17/015 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
B60G17/015 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095696
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】西出 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 義仁
(72)【発明者】
【氏名】見波 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】花嶋 幸博
(72)【発明者】
【氏名】長浦 正樹
(72)【発明者】
【氏名】釜田 忍
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA03
3D301AA19
3D301AA48
3D301AB21
3D301BA20
3D301CA11
3D301CA50
3D301DA18
3D301DA34
3D301DA38
3D301DB20
3D301DB25
3D301EA06
3D301EA12
3D301EA15
3D301EB05
3D301EB07
3D301EB08
3D301EB14
3D301EC01
3D301EC06
(57)【要約】
【課題】タイヤ接地性や振動抵抗を向上させて、悪路走行での路面追従性の高い車両の走行を実現する可変ダンパの制御方法を提供する。
【解決手段】前輪又は後輪の何れか一方の車輪が当該車輪に収納されたインホイールモータによって駆動され、何れか他方が車体に備えたオンボードモータで駆動され、少なくとも前記インホイールモータによって駆動される車輪が減衰力を調整可能な可変ダンパを有するサスペンション装置に取り付けられる車両の可変ダンパの制御方法であって、前記可変ダンパは、前記インホイールモータによって駆動される車輪の車輪速に応じて減衰力を調整する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪又は後輪の何れか一方の車輪が当該車輪に収納されたインホイールモータによって駆動され、何れか他方が車体に備えたオンボードモータで駆動され、少なくとも前記インホイールモータによって駆動される車輪が減衰力を調整可能な可変ダンパを有するサスペンション装置に取り付けられる車両の可変ダンパの制御方法であって、
前記可変ダンパは、前記インホイールモータによって駆動される車輪の車輪速に応じて減衰力を調整することを特徴とする可変ダンパの制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の可変ダンパの制御方法において、
前記可変ダンパは、前記インホイールモータによって駆動される車輪の車輪速と、前記オンボードモータで駆動される車輪の車輪速とを比較して前記減衰力を調整することを特徴とする可変ダンパの制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の可変ダンパの制御方法において、
前記可変ダンパは、前記インホイールモータによって駆動される車輪の車輪速と、前記車両の車速とを比較して前記減衰力を調整することを特徴とする可変ダンパの制御方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の可変ダンパの制御方法において、
前記車両は、前輪がオンボードモータによって駆動され、後輪が前記インホイールモータによって駆動されることを特徴とする可変ダンパの制御方法。
【請求項5】
請求項1に記載の車両の制御方法において、
前記可変ダンパは、前記車両の姿勢情報に基づいて減衰力を補正することを特徴とする可変ダンパの制御方法。
【請求項6】
請求項1に記載の可変ダンパの制御方法において、
前記可変ダンパは、前記サスペンション装置の抵抗力を一定に保つように前記減衰力を調整することを特徴とする可変ダンパの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変ダンパの制御方法に関し、特に、インホイールモータを備えた車両の車輪に取り付けられた可変ダンパの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の悪路走行時において車両の操縦安定性を向上させるために、車両に電子サスペンションを設け、当該電子サスペンションの減衰力を調整させる制御方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された車両用サスペンション制御装置は、車両の上下方向の加速度を検出する上下加速度検出手段と、該上下加速度検出手段により検出した上下加速度に基づき車両走行路が悪路か否かを判定する悪路判定機能,及び車両走行路が悪路と判定した時は車両のサスペンション機構の減衰力を硬めの状態に設定する悪路感応制御機能を有するサスペンション制御手段とを備えた車両用サスペンション制御装置において、駆動輪の車輪速度を検出する駆動輪速度検出手段と、従動輪の車輪速度を検出する従動輪速度検出手段とを備え、前記サスペンション制御手段が、前記駆動輪速度検出手段により検出した駆動輪の車輪速度と前記従動輪速度検出手段により検出した従動輪の車輪速度との差に基づき駆動輪に空転が発生しているか否かを判定する空転判定機能と,車両走行路が悪路と判定すると共に駆動輪に空転が発生していると判定した時は前記サスペンション機構の減衰力を比較的軟らかめの状態に設定する悪路空転感応制御機能とを具備している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、車両をモータなどの電動機で駆動する電気自動車(EV:Electric Vehicle)については、従来の内燃機関を搭載した車両と同様に車体にモータを搭載し、電動機の回転力を各車輪に伝えて駆動力を得る所謂オンボードモータ形式の他、車輪のホイールにモータを収納して車輪を駆動させる所謂インホイールモータ形式が知られている。
【0006】
このようなインホールモータ形式の電気自動車は、電動機の駆動力の多くが車輪へ直接伝達されるために、従来型のギヤや駆動軸などによるエネルギ損失が少なくなることに加え、車体にこれらのギヤや駆動軸などを配置する必要がなくなることにより、車体重量の低減や、車室容積の確保を容易に行うことができるという種々の利点を有している。
【0007】
しかし、インホイールモータ形式の電気自動車は、車輪内にモータを収納していることで、車輪の重量が増加し、所謂バネ下荷重の増加による乗り心地と操縦性の低下を招くことが知られている。また、例えば、前輪をオンボードモータ形式で駆動し、後輪をインホイールモータ形式で駆動する場合など、前後輪のバネ下荷重が異なる場合、矩形状の石を敷き詰めた敷石路であるベルジアン路のような悪路を走行する場合、後輪の振動が大きくなり、タイヤ接地性が悪化する。また、このような車両の場合、後輪の重量が増加するため、悪路走行時のバネ下振動も増加するため、バネ上振動も悪化してしまうため、これらの悪路走行時の振動を抑制してタイヤ接地性や振動抵抗を向上させることが求められていた。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、前輪又は後輪の何れか一方の車輪がインホイールモータで駆動され、前輪又は後輪の何れか他方がオンボードモータで駆動される車両に設けた可変ダンパを制御することで、タイヤ接地性や振動抵抗を向上させて、悪路走行での路面追従性の高い車両の走行を実現する可変ダンパの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明に係る可変ダンパの制御方法は、前輪又は後輪の何れか一方の車輪が当該車輪に収納されたインホイールモータによって駆動され、何れか他方が車体に備えたオンボードモータで駆動され、少なくとも前記インホイールモータによって駆動される車輪が減衰力を調整可能な可変ダンパを有するサスペンション装置に取り付けられる車両の可変ダンパの制御方法であって、前記可変ダンパは、前記インホイールモータによって駆動される車輪の車輪速に応じて減衰力を調整する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る可変ダンパの制御方法によれば、インホイールモータによって駆動される車輪の車輪速から当該車輪が路面に対して押し付けられた状態なのか、浮いた状態なのかを判定し、当該状態に応じて可変ダンパの減衰力を調整するので、悪路走行時におけるタイヤ接地性が向上すると共に、振動を低減することができるので、悪路走行での路面追従性の高い走行を行う事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る可変ダンパの制御方法を行う可変ダンパを備えた車両の概要図。
【
図2】本発明の実施形態に係る可変ダンパの制御方法を行う可変ダンパを有するサスペンション装置を示す図。
【
図3】本発明の実施形態に係る可変ダンパの制御方法の基本制御ブロックを示すブロック図。
【
図4】本発明の実施形態に係る可変ダンパの制御方法の制御則を示す図。
【
図5】本発明の実施形態に係る可変ダンパの制御方法を適用した車両の悪路走行をシミュレートしたホイール入力荷重と走行距離との関係を示したグラフ。
【
図6】本発明の実施形態に係る可変ダンパの制御方法を適用した車両の運転者による官能評価の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る可変ダンパの制御方法の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る可変ダンパの制御方法を行う可変ダンパを備えた車両の概要図であり、
図2は、本発明の実施形態に係る可変ダンパの制御方法を行う可変ダンパを有するサスペンション装置を示す図であり、
図3は、本発明の実施形態に係る可変ダンパの制御方法の基本制御ブロックを示すブロック図であり、
図4は、本発明の実施形態に係る可変ダンパの制御方法の制御則を示す図であり、
図5は、本発明の実施形態に係る可変ダンパの制御方法を適用した車両の悪路走行をシミュレートしたホイール入力荷重と走行距離との関係を示したグラフであり、
図6は、本発明の実施形態に係る可変ダンパの制御方法を適用した車両の運転者による官能評価の結果を示すグラフである。
【0014】
図1に示すように、本実施形態に係る可変ダンパの制御方法は、車両1に搭載された電子制御ユニット7によって実行される。車両1は、車両1の前側左右に配置された前輪2F及び後側左右に配置された後輪2Rを有している。前輪2F及び後輪2Rは、車輪の回転を摩擦力によって制動する摩擦ブレーキ装置3を有している。
【0015】
前輪2Fは、車体に搭載されたオンボードモータ4によって駆動され、後輪2Rは、後輪2R内に収納されたインホイールモータ5によって駆動される。また、前輪2Fには、運転席に配置されたハンドル6の操作に伴って前輪2Fを操舵する方向に向けて傾斜させる図示しない操舵機構を備えており、操舵輪として機能する。操舵機構は従来周知の種々の構成を採用することが可能であり、例えば、ステアアクチュエータを有するバイワイヤ方式を用いることができる。
【0016】
ステアアクチュエータは、運転者が操作するハンドル6を有する操作ユニット6aからの信号を受けて所定の処理を行う電子制御ユニット7からの信号を受けることができるように配線されており、前輪2Fを運転者が操作したハンドル6に対応した舵角となるように制御する。
【0017】
また、電子制御ユニット7は、オンボードモータ4及びインホイールモータ5にそれぞれ接続されており、アクセルペダル9aを運転者が操作したときに、当該アクセルペダル9aの操作量に応じてオンボードモータ4及びインホイールモータ5に駆動力を付与するように制御する。また、ブレーキペダル9bを運転者が操作した場合に、当該ブレーキ操作に応じて摩擦ブレーキ装置3並びにオンボードモータ4及びインホイールモータ5を回生ブレーキ手段として作動させるように制御する。
【0018】
摩擦ブレーキ装置3は、前輪2F及び後輪2Rの車軸と同軸に取り付けられた円盤状のブレーキディスク3aと、ブレーキディスク3aを軸方向から把持するブレーキパッドを備えるキャリパ3bとを有している。キャリパ3bは、運転者がブレーキペダル9bを操作した際に当該操作によって作動する図示しないマスターシリンダに接続されており、マスターシリンダによる油圧や空気圧などの増幅効果によってブレーキディスク3aに押し付けられて摩擦力を発生させる。なお、摩擦ブレーキ装置3は、電子制御ユニット7からの信号を受けて、運転者がブレーキペダル9bに加えた踏力に関わらず、必要に応じてブレーキパッドとブレーキディスク3aとの間の摩擦力を調整するようにキャリパ3bの押付度合いを調整することができる。
【0019】
オンボードモータ4及びインホイールモータ5は、運転者が操作するアクセルペダル9aの開度に応じて電子制御ユニット7からの信号を受けて車両1が進行方向に前進又は進行方向に対して後進するように回転する。また、オンボードモータ4及びインホイールモータ5は、ブレーキペダル9bが操作されたブレーキ中には、逆に軸回転を入力して発電機として作動させ、運動エネルギを電気エネルギに変換して回収または消費することで制動として利用する回生ブレーキ装置としても用いられる。
【0020】
電子制御ユニット7は、制御手段であるマイクロプロセッサを有し、図示しないバッテリからの給電によって作動する。電子制御ユニット7は、操作ユニット6a,ブレーキペダル9bやアクセルペダル9aなどからの信号を受けて各種信号を処理してオンボードモータ4及びインホイールモータ5を所定の回転数で駆動するように信号を送信する。
【0021】
前輪2F及び後輪2Rは、アクティブサスペンション装置10に取り付けられている。アクティブサスペンション装置10は、
図2に示すように、各車輪(例えば後輪2R)と車体との間に取り付けられ、路面から入力される振動や衝撃をやわらげ、車体の姿勢を維持し、走行安定性を確保する。アクティブサスペンション装置10は、アクティブサスペンション31と、可変ダンパ32とを有している。
【0022】
アクティブサスペンション31は、圧縮コイルばねであるスプリングと、振幅するスプリングの動きを抑制すると共に地上からの車体の高さを調整可能な車高調整アクチュエータ31aを備える。
【0023】
車高調整アクチュエータ31aは、例えば、ボールねじとボールねじナットとを螺合させたボールねじ機構を備え、ボールねじ機構の上下伸縮動作により発電するモータの抵抗力より減衰力を発生させる。また、モータへの通電により上下伸縮するボールねじ機構の推進力によって減衰力を調整することができる。また、このようにモータを駆動させボールねじ機構を上下伸縮させることで、アクティブサスペンション31の全長を伸縮させ、車輪と車体との間の間隔を変化させることによって、地上からの車体の高さを調整することができる。
【0024】
可変ダンパ32は、磁気粘性抵抗により発生する減衰力を利用した回転式のダンパである。可変ダンパ32は、電子制御ユニット7に接続され、電流制御によって減衰力を調整可能な可変ダンパアクチュエータ32aを備える。
【0025】
可変ダンパアクチュエータ32aは、例えば、回転軸が本体ケースに対して回転可能となるようにベアリング等で保持されている。本体ケース内には、コイルとロータが内蔵され、回転軸はロータに取付けられている。ロータの周囲には隙間があり、この隙間に磁性流体が充填されている。このような可変ダンパアクチュエータ32aのコイルに電流を流すと、充填されている磁性流体の粘性抵抗が上がり、ロータの回転を妨げる力が発生する。このようにコイルに入力する電流を制御することで、可変ダンパアクチュエータ32aは、可変ダンパ32の減衰力を調整することができる。
【0026】
このような可変ダンパ32によれば、電気的に減衰力を生起することができるため、応答性に優れ、走行中の路面に周波数の高い段差があるような場合でも、車体の振動を抑制することができる。また、磁性流体の粘性抵抗を無段階に調整できるため、必要となるトルクを発生させるために、電流が最小限となるように制御が可能であり、消費電力を低減することができる。
【0027】
なお、アクティブサスペンション装置10は、電子制御ユニット7に接続され、アクティブサスペンション31の伸縮量及び可変ダンパ32の減衰力を電子制御ユニット7に送信できるように構成されている。また、車両1には、車高センサ8が取り付けられている。車高センサ8は、車両1の下面から路面までの距離を測定することができるセンサであり、例えば、光学センサや超音波距離センサなどが好適に用いられる。車高センサ8で測定された車高データは電子制御ユニット7に送信されて処理される。
【0028】
次に、本実施形態に係る可変ダンパ32の制御方法の制御方法について説明を行う。本実施形態に係る可変ダンパ32の制御方法は、上述した車両1の後輪2Rに取り付けられたアクティブサスペンション装置10の可変ダンパ32の減衰力制御を行うものである。
【0029】
図3に示すように、電子制御ユニット7は、前輪2F及び後輪2Rの車輪回転速度を取得して、前輪2F及び後輪2Rの荷重を判定するタイヤ荷重判定部21と、アクティブサスペンション31のサスストロークを取得してサスストローク速度を判定するサスストローク速度判定部22と、タイヤ荷重判定部21及びサスストローク速度判定部22から得られるタイヤ荷重及びサスストローク速度から目標減衰力を演算する目標減衰力演算部23と、演算された目標減衰力となるように可変ダンパ32を制御する減衰力制御装置24とを備えている。
【0030】
減衰力制御装置24は、常時稼働していても構わないが、例えば車両1が凹凸の大きな悪路を走行していると判定された場合に稼働するように設定すると好適である。この悪路走行中か否かの判断は、車高センサ8によって得られる車高データが所定の変動幅を超えた場合に稼働するように設定しても構わないし、図示しない車載カメラによって得られる路面の画像データを画像処理することで悪路走行中か否かを判定しても構わない。
【0031】
目標減衰力演算部23は、タイヤ荷重判定部21で判定したタイヤ荷重によって、前輪2Fと後輪2Rの車輪速を比較する。また、サスストローク速度判定部22で判定したサスストローク速度からストロークの方向を知ることができるので可変ダンパ32が伸びている状態か、縮んでいる状態なのかを判定する。目標減衰力演算部23は、この車輪速及び可変ダンパの状態に応じて
図4に示す制御則によって可変ダンパ32の目標減衰力を演算する。
【0032】
すなわち、後輪2Rの車輪速が前輪2Fの車輪速よりも低く、可変ダンパ32が伸びの状態にある場合には、悪路走行中の後輪2Rが路面に押し付けられた状態となる。このとき、後輪2Rはか過荷重の状態となり、タイヤ接地性が悪化しているため、可変ダンパ32の伸びを抑制するため減衰力が大きくなるように目標減衰力を最大とする。
【0033】
その後、可変ダンパ32が縮みの状態に移行すると、悪路走行中の後輪2Rが路面から浮いた状態となるため、後輪2Rの過荷重が改善している状態となる。このとき、可変ダンパ32の縮みを促進するために減衰力が小さくなるように目標減衰力を最小とする。
【0034】
次に、後輪2Rの車輪速が前輪2Fの車輪速よりも高く、可変ダンパ32が縮みの状態にある場合には、悪路走行中の後輪2Rが路面から浮いた状態となる。このとき、後輪2Rは荷重不足の状態となるため、タイヤ接地性が悪化している。このとき、可変ダンパ32の縮みを抑制するために減衰力が大きくなるように目標減衰力を最大とする。
【0035】
その後、可変ダンパ32が伸びの状態に移行すると、悪路走行中の後輪2Rが路面に接地しようとする状態となるため、後輪2Rの荷重不足が改善している状態となる。このとき、可変ダンパ32の伸びを促進するために減衰力が小さくなるように目標減衰力を最小とする。
【0036】
このように、前輪2Fと後輪2Rの各車輪速と、可変ダンパ32の状態に基づき、制御則を切り替えることで、インホイールモータ5を備え、バネ下重量が大きな後輪2Rの車輪速をバネ下重量の軽い前輪2Fの車輪速に一致するように後輪2Rの可変ダンパ32の減衰力を制御するので悪路走行中の後輪2Rの路面追従性が向上することで、スリップを抑制してタイヤ接地性を向上させ、バネ下振動及びバネ上振動を抑制することができる。
【0037】
次に、本実施形態に係る可変ダンパの制御方法を適用した車両の悪路走行をシミュレートしたホイール入力荷重と走行距離との関係のシミュレート結果、及び、本実施形態に係る可変ダンパの制御方法を適用した車両の運転者による官能評価の結果について説明を行う。
【0038】
図5に示すように、本実施形態に係る可変ダンパの制御方法を適用した実施例は、従来のダンパを有する車両をシミュレートした比較例に比べて、ホイール入力荷重が低減されていることが確認できる。また、ホイール入力荷重が低減していることから、バネ下振動が抑制されていることを示している。また、タイヤ入力荷重の振幅が低減されていることも確認でき、これにより、タイヤ接地性が向上していることが確認できる。
【0039】
次に、本実施形態係る可変ダンパの制御方法を適用した車両と、従来の車両とを乗り比べ、運転者に車両の振動をどのように感じたか、官能試験を行った。官能試験は、車両の運転中に定められた走行区間を走行中に車両の振動をどのように感じたかを数値化して評価した。
【0040】
図6に示すように、官能試験は、運転者が連続的な大きな振動を感じた場合の振動感と、大きな振動を感じた場合の衝撃感について、それぞれ感じた度合いを数値で評価した。官能試験で用いた路面は、
図5のシミュレーションで用いたベルジアン路と同様の悪路を実際に車両が走行し、A区間の領域で振動感を、B区間の領域で衝撃感の評価を行った。なお、振動感の評価では、
図5におけるA区間の区間におけるホイール入力荷重の平均値を縦軸とし、運転者が感じた度合いを横軸とした。また、衝撃感の評価では、
図5におけるB区間の区間におけるホイール入力の最大値を縦軸とし、横軸は振動感と同様に運転者が感じた度合いをプロットした。
【0041】
図6に示すように、振動感の評価では、比較例と比べて実施例の官能評価は、0.6ポイント向上しており、衝撃感の評価では、0.2ポイント向上していることが確認できる。即ち、本実施形態に係る可変ダンパの制御方法によれば、従来の車両と比べて、振動感・衝撃感の評点が振動感領域での2.6ポイントと衝撃感領域での2.2ポイントの平均で2.4ポイントに向上しており、官能試験での結果も車両振動を従来に比べて感じにくいことが確認できた。
【0042】
このように、本実施形態に係る可変ダンパの制御方法によれば、インホイールモータ5を備えた後輪2Rのタイヤ接地性を改善することができ、バネ下振動を低減することができるので、悪路走行での路面追従性の高い車両を提供することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態に係る可変ダンパの制御方法を行う車両は、上述したようにアクティブサスペンション装置10を備えているので、各車輪に取り付けられたそれぞれのアクティブサスペンション装置10から得られるストローク量や車両に取り付けられた水平センサ等から車両の姿勢情報を得ることができ、当該姿勢に応じた適切な減衰力を補正することも可能である。
【0044】
さらに、アクティブサスペンション装置10のストローク量と減衰力のデータから、サスペンションの抵抗力が一定となるように減衰力を補正することも可能である。
【0045】
このような各種補正手段を有することで、更なるタイヤ接地性の向上及び振動の低減を実現することが可能となる。
【0046】
なお、上述した実施形態においては、車輪速について、前輪と後輪の車輪速を比較して制御を行う場合について説明を行ったが、インホイールモータ5を備えた後輪と車両の車速との大小関係に基づいて減衰力の制御を行っても構わない。また、上述した実施形態においては、本実施形態に係る可変ダンパの制御方法を前輪2Fをオンボードモータ4で駆動する形式の車両1に適用した場合について説明を行ったが、前輪2Fもインホイールモータ5で駆動し、後輪をオンボードモータ4で駆動した車両に適用しても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0047】
1 車両, 2F 前輪, 2R 後輪, 4 オンボードモータ, 5 インホイールモータ。