(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176865
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】減衰力調整式緩衝器
(51)【国際特許分類】
F16F 9/34 20060101AFI20241212BHJP
F16F 9/46 20060101ALI20241212BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
F16F9/34
F16F9/46
F16F9/32 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095705
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 将洋
(72)【発明者】
【氏名】石丸 佑
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA54
3J069CC15
3J069EE02
3J069EE06
3J069EE28
3J069EE39
(57)【要約】
【課題】安定した減衰力を得ることが可能な減衰力調整式緩衝器を提供する。
【解決手段】リテーナ151の外径部154とソレノイド90のコア99の突出部149との間にガイドディスク161を介在させたので、リテーナ151に形成された通路部157のエッジによってソレノイド90のコア99が削られることがなく、異物(コア99の切り屑)が発生することがないため、当該異物がリテーナ151の通路部157に詰まることに起因してフェイル時の減衰力がばらつく事態を解消することが可能であり、減衰力調整式緩衝器の減衰力を安定させることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入されるシリンダと、
軸方向一端側が前記シリンダ内に挿入され、軸方向他端側が前記シリンダから外部へ突出するピストンロッドと、
前記ピストンロッドの軸方向一端部に連結され、内部にソレノイドのコイルが収容され、ソレノイドのコアの少なくとも一部を覆うソレノイドケースと、
前記ソレノイドケースの軸方向一端部にねじ締結によって固定される円筒部を有する頭部と、該頭部から軸方向一端側へ延びる軸部とを有するピストンボルトと、
前記ピストンボルトの軸部が挿通され、前記シリンダ内を第1室と第2室とに区画するピストンと、
前記ピストンボルト内に形成された共通通路に挿入され、前記ソレノイドのコイルへの通電によって軸方向へ移動可能なバルブ部材と、
前記ソレノイドのコアの軸方向一端部に形成された環状の突出部に当接され、内側に前記バルブ部材が挿通される環状のガイドディスクと、
外径部が前記ガイドディスクの軸方向一端面に当接されるリテーナと、
内径部が前記バルブ部材の軸方向他端部に形成されたフランジ部に当接され、外径部が、前記ガイドディスクと前記リテーナの外径部とともに、前記ソレノイドのコアに形成された前記環状の突出部と前記ピストンボルトの頭部に形成された環状の凹部の底面とによって挟持される弁ばねと、を有し、
前記ガイドディスクは、外径部に形成された少なくとも1つの切欠き部を有し、外径部が前記ピストンボルトに形成された環状の凹部の内周面に当接され、内径が前記環状の突出部の内径よりも小さく形成され、
前記リテーナは、外径部に形成された切欠き部と、該切欠き部から径方向内側へ延びる通路部と、を備えることを特徴とする減衰力調整式緩衝器。
【請求項2】
請求項1に記載の減衰力調整式緩衝器であって、
前記リテーナの中心から前記リテーナの切欠き部までの距離は、前記ガイドディスクの中心から前記ガイドディスクの切欠きまでの距離に等しいことを特徴とする減衰力調整式緩衝器。
【請求項3】
請求項1に記載の減衰力調整式緩衝器であって、
前記リテーナは、外径部が前記ピストンボルトの環状の凹部の内周面に当接され、内径が前記ガイドディスクの内径よりも小さく、かつ内径が前記バルブ部材のフランジ部の外径よりも大きいことを特徴とする減衰力調整式緩衝器。
【請求項4】
請求項1に記載の減衰力調整式緩衝器であって、
前記ガイドディスクには、複数個の前記切欠き部が周方向に一定の間隔をあけて形成され、前記ガイドディスクに形成された切欠き部の幅は、隣接する前記切欠き部間の間隔よりも大きいことを特徴とする減衰力調整式緩衝器。
【請求項5】
請求項1に記載の減衰力調整式緩衝器であって、
前記ガイドディスクは、前記リテーナと同じ材料又は前記リテーナよりも硬い材料が用いられることを特徴とする減衰力調整式緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰力調整式緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ソレノイドケース94とピストンボルト5の円筒部8とがねじ締結によって連結される減衰力調整式緩衝器(以下「従来の減衰力調整式緩衝器」と称する)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の減衰力調整式緩衝器では、ソレノイドケース94とピストンボルト5とをねじ締結させるとき、ソレノイド91のコア99とピストンボルト5の頭部7との間のリテーナ114が接触面に発生する摩擦力によってコア99に対して回転し、リテーナ114に形成された切欠き120(通路部)のエッジによってコア99が削られることがあった。このとき発生した異物(コア99の切り屑)がリテーナ114の切欠き120に詰まると、切欠き120によるオリフィスの流路面積が狭くなり、フェイル時の減衰力がばらつく虞がある。
【0005】
本発明は、安定した減衰力を得ることが可能な減衰力調整式緩衝器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の減衰力調整式緩衝器は、ソレノイドのコアの軸方向一端部に形成された環状の突出部に当接され、内側にバルブ部材が挿通される環状のガイドディスクと、外径部がガイドディスクの軸方向一端面に当接されるリテーナと、内径部がバルブ部材の軸方向他端部に形成されたフランジ部に当接され、外径部が、ガイドディスクとリテーナの外径部とともに、ソレノイドのコアに形成された環状の突出部とピストンボルトの頭部に形成された環状の凹部の底面とによって挟持される弁ばねと、を有し、ガイドディスクは、外径部に形成された少なくとも1つの切欠き部を有し、外径部がピストンボルトに形成された環状の凹部の内周面に当接され、内径が環状の突出部の内径よりも小さく形成され、リテーナは、外径部に形成された切欠き部と、該切欠き部から径方向内側へ延びる通路部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、安定した減衰力を得ることが可能な減衰力調整式緩衝器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る減衰力調整式緩衝器の軸平面による断面図を示す
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の本実施形態を添付した図を参照して説明する。
図1に、本実施形態に係る減衰力調整式緩衝器1の軸平面による断面図を示す。ここで、減衰力調整式緩衝器1は、減衰力発生機構17がシリンダ2に内蔵された、ピストン内蔵型減衰力調整式緩衝器である。
【0010】
図1に示されるように、減衰力調整式緩衝器1は、シリンダ2の外側に外筒10が設けられた複筒構造をなす。減衰力調整式緩衝器1は、ピストン3と減衰力発生機構17とを含むピストン機構部44を有する。ピストン3は、シリンダ2内に挿入され、シリンダ2内を第1室2Aと第2室2Bとの2室に区画する。ピストン機構部44には、ピストンロッド36の軸方向一端部37が連結される。ピストンロッド36の軸方向他端部(図示省略)は、シリンダ2の外部へ延出される。ピストンロッド36は、シリンダ2及び外筒10の軸方向他端側の開口部に装着されたロッドガイド67とオイルシール69とに挿通される。
【0011】
シリンダ2と外筒10との間には、リザーバ18が形成される。ピストン3は、軸方向他端側(
図1における「上側」)が第1室2Aに開口する伸び側通路19と、軸方向一端側(
図1における「下側」)が第2室2Bに開口する縮み側通路20と、を有する。シリンダ2の軸方向一端部には、第2室2Bとリザーバ18とを区画するベースバルブ45が設けられる。ベースバルブ45には、第2室2Bとリザーバ18とを連通する通路46,47が設けられる。
【0012】
通路46には、リザーバ4側から第2室2B側への油液(作動流体)の流通を許容するチェックバルブ48が設けられる。他方、通路47には、第2室2B側の油液の圧力が設定圧力に達することで開弁し、第2室2B側の圧力(油液)をリザーバ18側へ逃がすディスクバルブ49が設けられる。なお、作動流体として、シリンダ2内には油液が封入され、リザーバ18内には油液およびガスが封入される。また、外筒10の軸方向一端部にはボトムキャップ50が接合される。
【0013】
減衰力発生機構17は、バルブ機構部28とソレノイド90とを有する。
図2に示されるように、バルブ機構部28は、軸部6がピストン3の軸孔4に挿通されるピストンボルト5と、伸び側通路19の作動流体の流れを制御する伸び側バルブ機構21と、縮み側通路20の作動流体の流れを制御する縮み側バルブ機構51とを有する。
【0014】
伸び側バルブ機構21は、ピストンボルト5の軸部6が挿通される有底円筒形の伸び側パイロットケース22を有する。伸び側パイロットケース22は、底部27と、軸方向他端側(
図2における「上側」)が開口する円筒部26とを有する。伸び側パイロットケース22の軸方向他端側には、伸び側メインバルブ23が配置される。伸び側メインバルブ23と伸び側パイロットケース22との間には、伸び側背圧室25が形成される。
【0015】
伸び側バルブ機構21は、伸び側メインバルブ23が離着座可能に当接される環状のシート部24を有する。シート部24は、ピストン3の伸び側通路19の開口外周に形成される。伸び側背圧室25は、伸び側パイロットケース22と伸び側メインバルブ23の背面との間に形成される。伸び側背圧室25内の圧力は、伸び側メインバルブ23に対して閉弁方向へ作用する。伸び側メインバルブ23には、弾性体からなる環状のパッキン31が焼き付けられる。伸び側メインバルブ23は、パッキン31が伸び側パイロットケース22の円筒部26の内周面に全周にわたって接触するパッキンバルブである。
【0016】
伸び側背圧室25は、伸び側パイロットケース22の底部27に形成された通路32とサブバルブ30とを経由して第2室2Bに連通される。サブバルブ30は、伸び側背圧室25の圧力が所定圧力に達したときに開弁し、伸び側背圧室25から第2室2Bへの作動流体の流れに対して抵抗力を付与する。
【0017】
伸び側背圧室25は、通路32によって、伸び側パイロットケース22とサブバルブ30との間に形成された第1受圧室172に連通される。第1受圧室172は、伸び側パイロットケース22に形成された複数の環状の第1シート部173によって扇形に区画される。各第1シート部173の内側には、通路32が開口する。
【0018】
伸び側パイロットケース22は、ピストン3が縮み方向(
図2における「下方向」)へ移動することで第2室2Bから伸び側背圧室25への作動流体の流れが生じる背圧導入通路171を有する。伸び側パイロットケース22は、受圧室174を画定する環状のシート部35を有する。
【0019】
伸び側パイロットケース22の軸方向一端側には、第1受圧室172と隔絶された第2受圧室177が設けられる。第2受圧室177には、背圧導入通路171が開口する。第2受圧室177は、第2シート部178によって画定される。第2シート部178は、一対の隣接する第1受圧室172間を円弧形に延びる。第2シート部178には、第2受圧室177と第2室2Bとを連通する第1オリフィス175が設けられる。
【0020】
これにより、伸び側バルブ機構21には、第2室2Bと伸び側背圧室25とを連通する伸び側連通路が形成される。伸び側連通路は、ピストン3が縮み方向へ移動することで、第2室2Bの作動流体を、第1オリフィス175、第2受圧室177、背圧導入通路171、受圧室174、及びチェックバルブ33を経て伸び側背圧室25へ導入する。
【0021】
一方、縮み側バルブ機構51は、ピストンボルト5の軸部6が挿通される有底円筒形の縮み側パイロットケース52を有する。縮み側パイロットケース52は、底部57と、軸方向一端側が開口する円筒部56とを有する。縮み側パイロットケース52の軸方向一端側には、縮み側メインバルブ53が配置される。縮み側メインバルブ53と縮み側パイロットケース52との間には、縮み側背圧室55が形成される。
【0022】
縮み側バルブ機構51は、縮み側メインバルブ53が離着座可能に当接する環状のシート部54を有する。シート部54は、ピストン3の縮み側通路20の開口外周に形成される。縮み側背圧室55は、縮み側パイロットケース52と縮み側メインバルブ53の背面との間に形成される。縮み側背圧室55内の圧力は、縮み側メインバルブ53に対して閉弁方向へ作用する。縮み側メインバルブ53には、弾性体からなる環状のパッキン61が焼き付けられる。縮み側メインバルブ53は、パッキン61が縮み側パイロットケース52の円筒部56の内周面に全周にわたって接触するパッキンバルブである。
【0023】
縮み側背圧室55は、縮み側パイロットケース52の底部57に形成された通路62とサブバルブ60とを経由して第1室2Aに連通される。サブバルブ60は、縮み側背圧室55の圧力が所定圧力に達したときに開弁し、縮み側背圧室55から第1室2Aへの作動流体の流れに対して抵抗力を付与する。
【0024】
縮み側背圧室55は、通路62によって、縮み側パイロットケース52とサブバルブ60との間に形成された第1受圧室182に連通される。第1受圧室182は、縮み側パイロットケース52に設けられた複数の第1シート部183によって扇形に区画される。各第1シート部183の内側には、通路62が開口する。
【0025】
縮み側パイロットケース52は、ピストン3が伸び方向(
図2における「上方向」)へ移動することで第1室2Aから縮み側背圧室55への作動流体の流れが生じる背圧導入通路181を有する。縮み側パイロットケース52は、受圧室184を画定する環状のシート部65を有する。
【0026】
縮み側パイロットケース52の軸方向他端側には、第1受圧室182と隔絶された第2受圧室187が設けられる。第2受圧室187には、背圧導入通路181が開口する。第2受圧室187は、第2シート部188によって画定される。第2シート部188は、一対の隣接する第1受圧室182間を円弧形に延びる。第2シート部188には、第2受圧室187と第1室2Aとを連通する第1オリフィス185が設けられる。
【0027】
これにより、縮み側バルブ機構51には、第1室2Aと縮み側背圧室55とを連通する縮み側連通路が形成される。縮み側連通路は、ピストン3が伸び方向へ移動することで、第1室2Aの作動流体を、第1オリフィス185、第2受圧室187、背圧導入通路181、受圧室184、及びチェックバルブ63を経て縮み側背圧室55へ導入する。なお、ピストンボルト5の軸部6のねじ部(符号省略)に取り付けられたナット78を締め付けることにより、伸び側バルブ機構21及び縮み側バルブ機構51を構成するバルブ部品に軸力を発生させる。
【0028】
ピストンボルト5には、共通通路11が形成される。共通通路11は、スリーブ15の内側(軸孔)に形成された軸方向通路12を有する。スリーブ15は、軸方向他端側(
図2における「上側」)がピストンボルト5の頭部7に開口する孔16に圧入される。共通通路11は、孔16の軸方向一端側に形成された軸方向通路13を有する。共通通路11は、軸方向他端側が孔16に開口する小径孔からなる軸方向通路14を有する。共通通路11の内径は、軸方向通路13が最も大きく、軸方向通路12、軸方向通路14の順に小さくなる。なお、軸方向通路12は、ピストンボルト5の頭部7の端面9に開口する。
【0029】
伸び側背圧室25は、伸び側パイロットケース22のシート部35に形成されたオリフィス(符号省略)、及び受圧室174、を経て、ピストンボルト5の軸部6に形成された径方向通路34に連通される。径方向通路34は、軸方向通路14に連通される。軸方向通路14は、ピストンボルト5の軸部6に形成された径方向通路39に連通される。
【0030】
径方向通路39は、ピストン3に形成された環状通路41、ピストン3の内径部に形成された複数個の切欠き42と、ピストン3に設けられたディスクバルブ40とを経由して伸び側通路19に連通される。ディスクバルブ40は、ピストン3の、シート部24及び伸び側通路19の開口よりも内径部側に形成された環状のシート部43に離着座可能に当接される。ディスクバルブ40は、径方向通路39から伸び側通路19への作動流体の流れを許容する逆止弁である。
【0031】
縮み側背圧室55は、縮み側パイロットケース52のシート部65に形成されたオリフィス(符号省略)、受圧室184、縮み側パイロットケース52の底部57の内径部に形成された環状通路68、及びピストンボルト5の軸部6に形成された二面幅部77を経て、ピストンボルト5の軸部6に形成された径方向通路64に連通される。径方向通路64は、スリーブ15の側壁に形成された孔66を介して軸方向通路12に連通される。
【0032】
径方向通路64は、二面幅部77、ピストン3の軸孔4の軸方向他端部に形成された環状通路71、ピストン3の内径部に形成された複数個の切欠き72、及びピストン3に形成されたディスクバルブ70を経由して、縮み側通路20に連通される。ディスクバルブ70は、ピストン3の、シート部54及び縮み側通路20の開口よりも内径部側に設けられた環状のシート部73に離着座可能に当接される。ディスクバルブ70は、径方向通路64から縮み側通路20への作動流体の流れを許容する逆止弁である。
【0033】
共通通路11内の作動流体の流れは、パイロットバルブ81によって制御される。パイロットバルブ81は、共通通路11に摺動可能に設けられたバルブスプール82(バルブ部材)と、孔16の底部の、軸方向通路14の開口周縁に形成されたシート部83とを有する。バルブスプール82は、中実軸からなり、スリーブ15に挿入される摺動部84と、シート部83に離着座可能に当接される弁体85とを有する。
【0034】
バルブスプール82は、摺動部84の軸方向他端側に形成された頭部87を有する。頭部87の外周には、第1室130が形成される。頭部87の軸方向一端部には、フランジ部88が形成される。フランジ部88の軸方向一端側の端面には、バルブスプール82をパイロットバルブ81の開弁方向(
図2における「上方向」)へ付勢するスプリングディスク140(弁ばね)が当接される。
【0035】
ピストンボルト5の頭部7には、軸方向他端側が開口する有底円筒形のキャップ121が装着される。キャップ121とピストンボルト5の頭部7との間は、環状のシール部材128(Oリング)によってシールされる。これにより、キャップ121とピストンボルト5の頭部7との間には、環状の第2室131が画定される。キャップ121には、ピストンボルト5の軸部6が挿通される挿通孔123が形成される。挿通孔123の外周には、複数個(
図2に「2個」表示)の切欠き124が設けられる。切欠き124は、軸部6に形成された二面幅部77に連通される。
【0036】
キャップ121とピストンボルト5の頭部7との間には、頭部7側から順に、スプール背圧リリーフ弁107、スペーサ108、及びリテーナ132が設けられる。スプール背圧リリーフ弁107、スペーサ108、及びリテーナ132は、第2室131内に設けられる。スプール背圧リリーフ弁107は、ピストンボルト5の頭部7に形成された通路29を経由する第1室130から第2室131への作動流体の流れを許容する逆止弁である。
【0037】
スプール背圧リリーフ弁107の外径部は、ピストンボルト5の頭部7に形成された環状のシート部109に離着座可能に当接される。リテーナ132の内径部には、第2室131を二面幅部77及びキャップ121の切欠き124に連通させる複数個の切欠き133が設けられる。キャップ121とサブバルブ60との間には、サブバルブ60の最大開弁量を定めるリテーナ59が介在される。第1室130には、フェイルセーフバルブ111が構成される。フェイルセーフバルブ111は、バルブスプール82の頭部87のフランジ部88(弁体)と、ソレノイド90のコア99の軸方向一端側の端面に形成されたシート部112(弁座)とを有する。
【0038】
バルブスプール82の弁体85には、二面幅の切欠き86が形成される。ソレノイド90のコイル95に通電される制御電流が0Aのとき(フェイル時)、スプリングディスク140の付勢によってバルブスプール82が軸方向他端側(
図2における上方向)へ移動し、弁体85が軸方向通路12に嵌る。これにより、弁体85と軸方向通路12との間には、軸方向通路12,13間を連通する一対のオリフィス114(
図2に1つのみ表示)が形成される。なお、二面幅(切欠き86)を形成する一対の面は、一方の面のみ形成してもよい。この場合、オリフィス114は、1つのみとなる。
【0039】
一方、コイル95に通電されてバルブスプール82の弁体85がシート部83に着座すると、パイロットバルブ81が閉弁される。パイロットバルブ81の開弁圧力は、コイル95への通電を制御することで調節することができる。パイロットバルブ81は、制御電流の電流値が小さいソフトモード時に、スプリングディスク140の付勢力とプランジャ96が発生する推力とがつり合い、弁体85がシート部83から一定の距離だけ離間される。
【0040】
ソレノイド90は、ソレノイド機構部91、ソレノイドケース191、及びソレノイドケース191に収容されるコイル95を有する。ソレノイド機構部91は、作動ロッド92と、作動ロッド92の外周に固定されたプランジャ96と、上下に分割されたコア98,99とを有する。作動ロッド92は、コア蓋体106に取り付けられたブッシュ100とコア99に取り付けられたブッシュ110とによって軸方向(
図2における「上下方向」)へ案内される。作動ロッド92の内側には、コア蓋体106の内部に形成されたロッド背圧室103に連通されるロッド内通路97が形成される。
【0041】
有底円筒形のソレノイドケース191の軸方向一端部とコア99との間は、シール部材116によってシールされる。これにより、ピストンボルト5とソレノイドケース191とコア99との間には、環状通路117が形成される。環状通路117は、ピストンボルト5の頭部7の軸方向他端側(
図2における「上側」)に形成された円筒部8を径方向(
図2における「左右方向」)へ貫通する通路118によって第1室2Aに連通される。コア99とバルブスプール82の頭部87との間には、スプール背圧室101が形成される。スプール背圧室101は、作動ロッド92に形成された切欠き(図示省略)と、ロッド内通路97とを経由してロッド背圧室103に連通される。
【0042】
ソレノイドケース191の底部192には、ピストンロッド36の軸方向一端部37が塑性流動により結合される。ソレノイドケース191の軸方向一端部とピストンボルト5の円筒部8とは、ねじ締結によって連結される。これにより、ピストンロッド36の軸方向一端部37は、ソレノイドケース191及びピストンボルト5を介してピストン3に連結される。なお、ピストンロッド36の軸方向一端部37にソレノイドケース191の底部192を固定する方法は、前述した塑性流動による結合の他、ねじによる締結、溶接による接合等を適用することができる。
【0043】
前述した減衰力調整式緩衝器1における作動油の流れを説明する。
伸び行程時には、第1室2Aの作動流体は、上流側背圧導入通路、すなわち、伸び側通路19、ディスクバルブ40に形成されたオリフィス(符号省略)、ピストン3に形成された切欠き42及び環状通路41、径方向通路34、軸方向通路14、径方向通路39、伸び側パイロットケース22に形成された環状通路38、及びチェックバルブ33を経て伸び側背圧室25へ導入される。
【0044】
また、伸び行程時には、第1室2Aの作動流体は、縮み側連通路、すなわち、第1オリフィス185、第2受圧室187、背圧導入通路181、及びチェックバルブ63を経て縮み側背圧室55へ導入される。これにより、伸び行程時に、縮み側メインバルブ53が第1室2Aの圧力によって開弁することが抑止される。
【0045】
また、伸び行程時には、縮み側背圧室55に導入された作動流体は、シート部65に形成されたオリフィス(符号省略)、受圧室184、縮み側パイロットケース52に形成された環状通路68、ピストンボルト5の軸部6に形成された二面幅部77、ピストン3に形成された切欠き72、ディスクバルブ70、及び縮み側通路20を経て第2室2B(下流側の室)へ流れるので、伸び側メインバルブ23の開弁前、すなわち、ピストン速度の低速領域では、シート部65に形成されたオリフィス67によるオリフィス特性、及びディスク70によるバルブ特性の減衰力が得られる。
【0046】
一方、縮み行程時には、第2室2Bの作動流体は、上流側背圧導入通路、すなわち、縮み側通路20、ディスクバルブ70に形成されたオリフィス(符号省略)、ピストン3に形成された切欠き72、ピストン3の軸孔4に形成された環状通路71、ピストンボルト5の軸部6に形成された二面幅部77、縮み側パイロットケース52に形成された環状通路68、及びチェックバルブ63を経て縮み側背圧室55へ導入される。
【0047】
また、縮み行程時には、第2室2Bの作動流体は、伸び側連通路、すなわち、第1オリフィス175、第2受圧室177、背圧導入通路171、及びチェックバルブ33を経て伸び側背圧室25へ導入される。これにより、縮み行程時に、伸び側メインバルブ23が第2室2Bの圧力によって開弁することを抑止することができる。
【0048】
また、縮み行程時には、伸び側背圧室25に導入された作動流体は、シート部35に形成されたオリフィス(符号省略)、受圧室174、伸び側パイロットケース22の底部27の内周部に形成された環状通路38、径方向通路39、軸方向通路14、径方向通路34、ピストン3に形成された環状通路41及び切欠き42、ディスクバルブ40、及び伸び側通路19を経て第1室2Aへ流れるので、縮み側メインバルブ53の開弁前、すなわち、ピストン速度の低速領域では、シート部35に形成されたオリフィスによるオリフィス特性、及びディスク40によるバルブ特性の減衰力が得られる。
【0049】
次に、本実施形態における主要部を説明する。
図3に示されるように、ピストンボルト5の頭部7の軸方向他端側(
図3における「上側」には、環状の凹部146が形成される。環状の凹部146の底面147には、スプリングディスク140の外径部143(
図4参照)の軸方向一端側(
図3における「下側」)の面141が当接される。スプリングディスク140の内径部144(
図4参照)は、バルブスプール82の頭部87(バルブ部材の軸方向他端部)に形成されたフランジ部88の軸方向一端側の面89に当接される。
【0050】
スプリングディスク140の外径部143の軸方向他端側の面142には、リテーナ151の軸方向一端側の面152が当接される。リテーナ151の外径部154(
図5参照)の軸方向他端側の面153には、ガイドディスク161の軸方向一端側の面162が当接される。ガイドディスク161の軸方向他端側の面163には、ソレノイド90のコア99の軸方向一端側の外周縁部に形成された環状の突出部149に当接される。
【0051】
スプリングディスク140の外径部143、リテーナ151の外径部154、及びガイドディスク161は、ピストンボルト5の環状の凹部146の底面147と、ソレノイド90のコア99の環状の突出部149との間で挟持される。なお、スプリングディスク140、リテーナ151、及びガイドディスク161を挟持する力は、ソレノイドケース191とピストンボルト5の円筒部8とをねじ締結させることで発生する軸力によって得られる。
【0052】
リテーナ151の内径部155の内側には、バルブスプール82(バルブ部材)が挿通される。リテーナ151は、外径部154がピストンボルト5の環状の凹部146の内側面148(内周面)に当接される。リテーナ151は、内径がバルブスプール82のフランジ部88の外径よりも大きい。
図5に示されるように、リテーナ151は、外径部154の一部をD形に切り欠いて形成した切欠き部156を有する。リテーナ151は、一端が切欠き部156の幅方向(
図5における「上下方向」)中央に開口されて他端側(
図5における「左側」)が径方向内側へ延びるスリット形の通路部157を有する。通路部157は、第1室130と環状通路117とを連通する通路(オリフィス)を形成する。
【0053】
ガイドディスク161の内径部165の内側には、バルブスプール82(バルブ部材)が挿通される。ガイドディスク161は、外径部164がピストンボルト5の環状の凹部146の内側面148(内周面)に当接される。すなわち、ガイドディスク161の外径は、リテーナ151の外径に等しい。ガイドディスク161は、内径がリテーナ151の内径よりも大きく、かつ内径がソレノイド90のコア99の環状の突出部149の内径よりも小さい。
【0054】
図6に示されるように、ガイドディスク161には、外径部164を凹形に切り欠いた複数個(本実施形態では「12個」)の切欠き部166が形成される。複数個の切欠き部166は、ガイドディスク161の接線方向に間隔L1をあけて配置される。切欠き部166の幅L2(接線方向長さ)は、切欠き部166,166間の間隔L1よりも大きく設定される(L2>L1)。
【0055】
ガイドディスク161は、内径がリテーナ151の内径よりも大きく、かつ内径がリテーナ151の中心から通路部157までの距離L5よりも大きく設定される。ガイドディスク161の中心から切欠き166までの距離L3は、リテーナ151の中心から切欠き部156までの距離L4と等しく設定される(L3=L4)。なお、ガイドディスク161は、リテーナ151の材料と同じか又はそれ以上の硬さを有する材料(本実施形態では「同じ材料」)が適用される。
【0056】
そして、ソレノイド90のコイル95への制御電流が0Aのフェイル時には、シリンダ10の第1室2Aと第2室2Bとが、第1室130、リテーナ151に形成された通路部157(オリフィス)、ガイドディスク161に形成された切欠き166、環状通路117、及びピストンボルト5の円筒部8に形成された通路118を経由して連通されるので、通路部157によるオリフィス特性の減衰力を得ることができる。
【0057】
ここで、従来の減衰力調整式緩衝器では、ソレノイドケースとピストンボルトとをねじ締結させるとき、ソレノイドのコアとピストンボルトの頭部との間のリテーナが接触面に発生する摩擦力によってコアに対して回転し、リテーナに形成された通路部(切欠き)のエッジによってコアが削られることがあった。このとき発生した異物(コアの切り屑)がリテーナの通路部に詰まると、通路部によるオリフィスの流路面積が狭くなり、フェイル時の減衰力がばらつく虞がある。
【0058】
これに対し、本実施形態では、リテーナ151の外径部154とソレノイド90のコア99の突出部149との間にガイドディスク161を介在させたので、リテーナ151に形成された通路部157のエッジによってソレノイド90のコア99が削られることがない。よって、従来の減衰力調整式緩衝器のように異物(コア99の切り屑)が発生することがないので、当該異物がリテーナ151の通路部157に詰まることに起因してフェイル時の減衰力がばらつく事態を解消することができる。
本実施形態では、ガイドディスク161は、リテーナ151の硬さと同じか又はそれ以上の硬さを有する材料が適用されるので、ガイドディスク161がリテーナ151の通路部157のエッジによって削られることによる異物の発生を回避することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 減衰力調整式緩衝器、2 シリンダ、2A 第1室、2B 第2室、3 ピストン、5 ピストンボルト、6 軸部、7 頭部、8 円筒部、11 共通通路、36 ピストンロッド、82 バルブスプール(バルブ部材)、88 フランジ部、90 ソレノイド、95 コイル、99 コア、140 スプリングディスク(弁ばね)、143 内径部、144 内径部、146 環状の凹部、149 環状の突出部、151 リテーナ、154 外径部、155 内径部、156 切欠き部、157 通路部、161 ガイドディスク、164 外径部、165 内径部、166 切欠き部