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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176871
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】光分解性ポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
C08G61/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095714
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】西形 孝司
【テーマコード(参考)】
4J032
【Fターム(参考)】
4J032CA62
4J032CB01
4J032CC04
4J032CD02
4J032CE03
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、光などにより容易に分解する光分解性ポリマーを提供することである。
【解決手段】ラジカル分解可能部位として、式(1)で表される基を有する光分解性ポリマー重合用モノマーを含むことを特徴とする光分解性ポリマー。
(式中、R及びRは、独立して、アルキル基、又はアリール基を示す)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル分解可能部位として、式(1)で表される基を有する光分解性ポリマー重合用モノマー。
【化1】
(式中、R及びRは、独立して、アルキル基又はアリール基を示す。)
【請求項2】
ラジカル分解可能部位として、式(2)で表される基を有する、請求項1に記載の光分解性ポリマー重合用モノマー。
【化2】
(式中、R及びRは、独立して、アルキル基又はアリール基を示し、Arは、芳香族環を示す。)
【請求項3】
及びRが共にアルキル基である、請求項1又は2に記載の光分解性ポリマー重合用モノマー。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の光分解性ポリマー重合用モノマーを含むモノマーを重合させてなることを特徴とする光分解性ポリマー。
【請求項5】
光分解性ポリマーが、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリウレタン系ポリマー、又はエポキシ樹脂である、請求項4に記載の光分解性ポリマー。
【請求項6】
請求項1に記載のラジカル分解可能部位として式(1)で表される基を有するモノマーを含むモノマーを重合すること、又は請求項2に記載のラジカル分解可能部位として式(2)で表される基を有するモノマーを含むモノマーを重合することによる、光分解性ポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル分解可能部位を有する光分解性ポリマー重合用モノマー、かかるモノマーを含む光分解性ポリマー、及び光分解性ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界のプラスチック(ポリマー)市場は、2022年に5,994億米ドルの市場価値から2030年末までに7,569億米ドルに達すると予測されている。これまでの合成ポリマーは、使用に際しての性能や耐久性等の特性を重視して設計されており、使用した後のポリマーの分解性やリサイクル性は十分考慮されていなかった。現在、使用済みのポリマー廃棄物は、埋立、焼却、又はメカニカルリサイクルのいずれかで処理されている。埋立による処理の場合には、ほとんどのポリマー廃棄物が難分解であるため、環境への蓄積と分解汚染とにより深刻な環境汚染問題を引き起こす可能性がある。また、焼却による処理については、サーマルリサイクルが適用されているものの、発電を含む熱利用としてはエネルギー回収効率が不十分であり、二酸化炭素の排出もあることから、本質的にはリサイクルとはいいにくい面がある。一方、メカニカルリサイクルは、例えば、PETボトルの場合には、選別、粉砕、洗浄の後、高温下で樹脂内部の汚染物質を拡散、除染、乾燥を経て、フレーク化するものであり、最も効率的な処理方法である。しかしながら、メカニカルリサイクルが適用できるポリマーは限定されていると共に、複合材料、積層材料、塗装材料、汚染された材料等のポリマー廃棄物の処理は困難であり、高コストであるとの問題がある。
【0003】
一方、マイクロプラスチック問題などの環境保全、そして、炭素循環の観点から、生分解性ポリマー「グリーン・ポリマー(GP)」の市場は、2020年に58億米ドル規模に達し、2030年には168億米ドル規模に達すると予測されている。しかし、GPの生分解する速度は環境条件(土中、水中、空気中等)に大きく影響され、しかも、全てのGPが常に好適な環境条件で生分解されるとは限らない。また、バガスやセルロース等の非可食性バイオマスを原料とするGPはいまだ高価なため、実用化に時間がかかっているため、生分解性ポリマーの多くはトウモロコシやサトウキビ等の食用作物を原料としており、生分解性ポリマーの多量な生産は深刻な食料不足を引き起こす懸念があると言われている。すなわち、生分解性ポリマーの生産を植物由来の原料に頼っていると、環境保全問題は解決しても、食糧問題を悪化させるというトレードオフの関係に直面する可能性がある。したがって、石油由来の安価なプラスチックに分解機能を付与することで、リサイクルやマイクロプラスチック問題に対応することが依然として必要である。
【0004】
ポリマーの分解技術としての光分解技術は、比較的古く、1960年代から知られており、ポリスチレンの光分解やケトン系ポリマーの光分解システムは一部では実用化もされている(非特許文献1)。さらに、1970年代からは、酵素分解や酸化チタンなどの光触媒によるポリマーの光分解も報告されている(非特許文献2)。
最近では、有機光触媒系を用いた、炭素-酸素結合の開裂による特殊な環状構造を有するポリマーの分解技術が報告されているが(非特許文献3)、対象は特定の構造を有するポリマーに限定されている。また、特許文献1には、ニトロ置換ベンジルを含む基を光分解性部位として利用する光分解性高分子化合物が記載されているが、ポリマー鎖を光分解性部位を介して連結するものであって、光分解性部位をモノマーとして用いるものではないことから、光分解性高分子化合物としての設計の自由度は低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-233137号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】N. Grassie, et al., Journal of AppliedPolymer Science, The Photooxidation of Polymers II. Photolysis of Polystyrene,Vol.9, pp.975-986 (1965)
【非特許文献2】加藤政雄、高分子、易分解性高分子、Vol.5、No.7・8、pp.409-411(1972)
【非特許文献3】Adam M. Freiberg et al.,Triggered Transience of Plastic Materials by a Single Electron TransferMechanism, ACS Cent Sci. 2020, 6. 266-273
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ラジカル分解部位を有するモノマーを用いることで、光分解性を備えるポリマーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アルキルラジカルの研究に長年取り組み、その研究過程において、エステルの炭素-酸素結合を光触媒作用により切断し、アルキルラジカルを容易に生成できることを見出した。炭素-酸素結合はポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリマーに多く見られることから、本知見をポリマーに適用し、ラジカル分解可能部位を有するモノマーを含むモノマーを重合することで、ラジカル分解可能部位を組み込んだ光分解性ポリマーが得られることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は以下に示す事項により特定されるものである。
(1)ラジカル分解可能部位として、式(1)で表される基を有する光分解性ポリマー重合用モノマー。
【化1】
(式中、R及びRは、独立して、アルキル基又はアリール基を示す。)
(2)ラジカル分解可能部位として、式(2)で表される基を有する、上記(1)に記載の光分解性ポリマー重合用モノマー。
【化2】
(式中、R及びRは、独立して、アルキル基又はアリール基を示し、Arは、芳香族環を示す。)
(3)R及びRが共にアルキル基である、上記(1)又は(2)に記載の光分解性ポリマー重合用モノマー。
(4)上記(1)又は(2)に記載の光分解性ポリマー重合用モノマーを含むモノマーを重合させてなることを特徴とする光分解性ポリマー。
(5)光分解性ポリマーが、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリウレタン系ポリマー、又はエポキシ樹脂である、上記(4)に記載の光分解性ポリマー。
(6)上記(1)に記載のラジカル分解可能部位として式(1)で表される基を有するモノマーを含むモノマーを重合すること、又は上記(2)に記載のラジカル分解可能部位として式(2)で表される基を有するモノマーを含むモノマーを重合することによる、光分解性ポリマーの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光分解性ポリマー重合用モノマーはラジカル分解可能部位を有することから、かかるモノマーを含むモノマーを重合して得られるポリマーは光分解性を備えるものである。また、本発明の光分解性ポリマー重合用モノマーは炭素-酸素結合を切断する部位を有することから、炭素-酸素結合を有するポリマーに広く適用が可能である。
本発明の光分解性ポリマーは、ラジカル分解可能部位を有するモノマーを含むモノマーを重合することにより、ラジカル分解可能部位がポリマーの主鎖に組み込まれたポリマーであり、光触媒反応などにより、ラジカル分解可能部位が開裂することで、マイクロプラスチック化などを回避し、容易に分解する寿命のあるポリマーとして使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、光などにより開裂する式(1)で表される基をラジカル分解可能部位として有するモノマー、かかるモノマーを含むポリマー、及び光分解性ポリマーの製造方法に関するものである。
【化3】
式中、R及びRは、独立して、アルキル基、又はアリール基を示す。
式(1)で表される基におけるR及びRは、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基などなどの直鎖アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基などの分岐アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基などが挙げられる。R及びRは、同じであっても異なっていてもよい。
さらに、式(1)で表される基は、重合開始部位を導入するために、又は重合開始部位として、カルボニル基(C(O)基)にYを連結することができる。Yは、塩素原子またはORを示し、Rは、水素原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基などの直鎖アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基などの分岐アルキル基といったアルキル基;ビニル基、プロピレン基、1-ブテン基などの末端アルキレン基;-(CH)nCOOHで表されるカルボン酸基;-(CH)nOHで表される水酸基;又はパラヒドロキシベンゼン基、ビスフェノールAなどの芳香族環を含む水酸基を示す。また、Rが、-(CH)nCOOHで表されるカルボン酸基、-(CH)nOHで表される水酸基、パラヒドロキシベンゼン基、ビスフェノールAなどの芳香族環を含む水酸基を示す場合、カルボン酸基又は水酸基の水素原子は解離していてもよい。式(1)で表される基を有するモノマーとしては、後述する[化5]の式(3)で表されるモノマーが例示される。
【0012】
また、本発明は、光などにより開裂する式(2)で表される基をラジカル分解可能部位として有するモノマー、かかるモノマーを含むポリマー、及び光分解性ポリマーの製造方法に関するものである。
【化4】
式中、R及びRは、独立して、アルキル基、又はアリール基を示し、Arは芳香族環を示す。
式(2)で表される基におけるR及びRは、アルキル基としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基などの直鎖アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基などの分岐アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基が挙げられる。アリール基としてはフェニル基などが挙げられる。R及びRは、同じであっても異なっていてもよい。また、芳香族環としては、フェニル基が例示される。
さらに、式(2)で表される基は、式(1)で表される基と同様に、重合開始部位を導入するために、又は重合開始部位として、カルボニル基(C(O)基)にYを連結することができる。Yとしては、上記した、式(1)で表される基に連結するYと同じである。
式(2)で表される基をラジカル分解可能部位として有するモノマーとしては、後述するとおり、[化6]の式(4)で表される芳香族環としてフェニル基を有し、両末端に水酸基を有するもの、[化7]の式(5)及び[化8]の式(6)で表されるArとしての芳香族環に同一の基がパラ位に置換しているもの、[化8]の式(6)で表されるRとしてパラヒドロキシベンゼン基を有するもの、[化9]の式(7)で表されるRとして末端アルキレン基を有するものなどが挙げられる。
【0013】
式(1)又は式(2)で表される基は、モノマー単位において炭素-酸素結合により組み込まれるものであり、例えば、テレフタル酸のカルボキシル基との間で、炭素-酸素結合により組み込まれるものである。
ラジカル分解可能部位として、式(1)で表される基を有する光分解性ポリマー重合用モノマーの具体例として、式(3)の化合物を例示することができる。
式(3)の化合物は、式(1)で表される基において、R及びRが共にメチル基であり、R及びRの置換する炭素原子にさらに水酸基が置換し、YがORであって、Rは水素原子である化合物である。
【化5】
同様に、ラジカル分解可能部位として、式(2)で表される基を有する光分解性ポリマー重合用モノマーの具体例として、式(4)~(7)の化合物を例示することができる。
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【0014】
式(5)で表されるモノマーの合成例は次の通りである。テレフタル酸を有機溶剤に溶かし、これを酸塩化物合成試薬で処理することでテレフタル酸クロライドを得ることができる。有機溶剤としては、ジクロロメタン、トルエン、DMF、THF、クロロホルム等から選ばれる1種の溶剤を用いることができる。また、酸塩化物合成試薬としては、塩化チオニル、塩化スルフリル、三塩化リン、五塩化リン、オキシ塩化リン、塩化オキサリル等から選ばれる1種の試薬が挙げられる。得られたテレフタル酸クロライドに式(3)で表される2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン酸と塩基を加えて有機溶剤中で反応させて式(5)で表されるモノマーを得ることができる。塩基としてはピリジンやトリエチルアミンが、また有機溶剤としては上記の溶剤に加えてアセトニトリルから選ばれる1種の溶剤又は2種以上の混合溶剤が用いられる。
【0015】
式(7)で表されるモノマーの合成例は次の通りである。式(5)で表されるモノマーとアリルハライドを塩基の存在下、有機溶剤中で反応させることで式(7)表されるモノマーを得ることができる。アリルハライドとしては、アリルブロミド、アリルアイオダイド等のいずれかが、塩基としては、炭酸カリウム、炭酸セシウム、水酸化ナトリウム、N,N-ジイソプロピルエチルアミン等のいずれか1種が挙げられる。また有機溶剤としては、DMF、トルエン、エーテル、アセトン、THF、ジクロロメタン等から選ばれる1種の溶剤又は2種以上の混合溶剤を用いることができる。
【0016】
式(1)又は式(2)で表される基を有するモノマーが、ラジカル分解可能部位として組み込まれるポリマーとしては、特に制限はなく、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリエーテルアミド系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、ポリウレタン系ポリマー等の重縮合・重付加系ポリマー、ポリエチレン系ポリマー、ポリプロピレン系ポリマー、ポリ塩化ビニル系ポリマー等の付加重合系ポリマー、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのうち、合成の容易性の観点から、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリウレタン系ポリマー、又はエポキシ樹脂が好ましい。具体的には、本発明の光分解性ポリマー重合用モノマーは、テレフタル酸、ヘキサメチレンジアミン、アジピン酸、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、メタフェニレンジアミン、4,4‘-ジフェニルメタンジイソシアナート、ビスフェノールA、エピクロロヒドロン末端ジエン化合物等と適宜組み合わせて重合することにより、ラジカル分解可能部位が組み込まれたポリマーを得ることができる。
【0017】
式(1)で表される基を有するモノマーとして式(3)を使用して、ラジカル分解可能部位を有するポリブチレンテレフタレート(PBT)を得る合成例は次の通りである。式(3)で表されるモノマーに、テレフタル酸に対する1,4-ブタンジオールのモル比が1/1の混合物を任意の割合で混合する。その後、脱水縮合を行うことにより式(3)で表されるモノマーがラジカル分解可能部位として組み込まれたポリブチレンテレフタレート(PBT)を得ることができる。
【0018】
式(2)で表される基を有するモノマーとして式(7)を使用して、式(8)のポリマーを得る合成例は次の通りである。
【化10】
式(7)で表されるモノマーを不活性ガス雰囲気下で有機溶剤に溶かし重合用の触媒を添加してメタセシス重合を行うことで式(8)で表される光分解性ポリマーを得ることができる。有機溶剤としては、クロロホルム、クロロベンゼン、トルエン、ヘキサン、エタノール等から選ばれる1種の溶剤又は2種以上の混合溶剤を、また重合用の触媒としては、第1世代Grubbs触媒、第2世代Grubbs触媒、第3世代Grubbs触媒等のいずれか1種を用いることができる。重合時の温度及び時間は、それぞれ70~90℃、12~48時間とすることが好ましい。
【0019】
その他、式(2)で表される基を有するモノマーとして式(5)及び(6)を使用して、ポリマーを得る合成例としては次の通りの合成例を挙げることができる。
【0020】
式(5)で表されるモノマーを使用してラジカル分解可能部位を有するポリエチレンテレフタレート(PET)を得る場合の合成例は次の通りである。式(5)で表されるモノマーをメタノールと反応させジメチルエステルとし、得られたジメチルエステルに、テレフタル酸ジメチル及びエチレングリコールを混合する。この場合、ジメチルエステルとテレフタル酸ジメチルとの合計に対するエチレングリコールとのモル比が1/1となるように混合する。この混合物のエステル交換反応を行うことにより式(5)で表されるモノマーがラジカル分解可能部位として組み込まれたポリエチレンテレフタレート(PET)を得ることができる。
【0021】
また、式(5)で表されるモノマーを使用してラジカル分解可能部位を有するポリエチレンナフタレート(PEN)を得る場合の合成例は次の通りである。式(5)で表させるモノマーを塩化チオニルと反応させ酸クロライドとし、得られた酸クロライドに、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライド及びエチレングリコールを混合する。この場合、式(5)で表される酸クロライドと2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライドとの合計に対するエチレングリコールのモル比が1/1となるように混合する。この混合物の脱塩化水素反応を行うことにより式(5)で表されるモノマーがラジカル分解可能部位として組み込まれたポリエチレンナフタレート(PEN)を得ることができる。
【0022】
さらに、式(5)で表されるモノマーを使用してラジカル分解可能部位を有するナイロン6,6を得る場合の合成例は次の通りである。式(5)で表させるモノマーと、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとを混合する。この場合、式(5)で表されるモノマーに対するアジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの合計のモル比が1/1となるように混合する。その後、脱水縮合を行うことにより式(5)で表されるモノマーがラジカル分解可能部位として組み込まれたナイロン6,6を得ることができる。
【0023】
式(6)で表されるモノマーを使用してラジカル分解可能部位を有するポリウレタンを得る場合の合成例は次の通りである。式(6)で表されるモノマーに、1,4-ブタンジオール及び4,4’-ジフェニルメタンジイソシアナートを混合する。この場合、式(6)で表させるモノマーと1,4-ブタンジオールとの合計に対する4,4’-ジフェニルメタンジイソシアナートのモル比が1/1となるように混合する。その後、重付加反応を行うことにより式(6)で表されるモノマーがラジカル分解可能部位として組み込まれたポリウレタンを得ることができる。
【0024】
また、式(6)で表されるモノマーを使用してラジカル分解可能部位を有するエポキシ樹脂を得る場合の合成例は次の通りである。式(6)表されるモノマーに、ビスフェノールA及びエピクロロヒドリンを混合する。この場合、式(6)で表されるモノマーとビスフェノールAとの合計に対するエピクロロヒドリンのモル比が1/1となるように混合する。その後プレポリマーが得られたらこのポリマーに硬化剤を加えて熱処理することにより式(6)で表されるモノマーが、ラジカル分解可能部位として組み込まれたエポキシ樹脂を得ることができる。
【0025】
さらに、式(6)で表されるモノマーを使用してラジカル分解可能部位を有するポリエチレン系ポリマーを得る合成例は次の通りである。式(6)で表されるモノマーと末端ジエン化合物である1,5-ヘキサジエンとを任意の割合で混合し、メタセシス重合を行うことにより、式(6)で表されるモノマーがラジカル分解可能部位として組み込まれたポリエチレン系ポリマーを得ることができる。
【0026】
式(1)又は式(2)で表される基を有するモノマーは、ポリマーにおける含有割合に基づいて、任意の間隔でラジカル分解可能部位としてポリマー内に配置される。式(1)又は式(2)で表される基を有するモノマーのみを重合することでホモポリマーとすることもできるし、式(1)又は式(2)で表される基を有するモノマーと有していないモノマーとを任意の割合で重合することにより、任意の割合で配置されたコポリマーとすることもでき、光分解性を制御することができる。
本発明の光分解性ポリマーは、光触媒の存在下、特定波長の光である人工光を照射することによる分解が可能であり、また、光触媒の存在下、太陽光を照射することによる分解も可能である。また、本発明の光分解性ポリマーは、光触媒の存在下、太陽光にさらす場合には、空気等の存在する自然環境下で分解可能である。人工光を使用すれば、太陽光を使用した分解の場合に比べて、光分解性ポリマーの分解速度を制御しやすく、分解速度の高速化も可能である。すなわち、本発明の光分解性ポリマーは、光触媒反応により、式(1)又は式(2)で表される基がラジカル分解し、炭素-酸素結合が開裂することで、光分解する。
【0027】
特定波長の光である人工光としては、365nmや405nmの光など、使用する光触媒を励起するために必要な波長の光が使用される。また、光触媒としては、本発明のラジカル分解可能部位の炭素-酸素結合の開裂に必要な還元電位(E0 Red)である-1.29Vよりも低い還元電位を有するものであればよい。このような還元電位を有するものであれば、特に制限されるものではないが、基質との相互作用をも考慮すると、BDB(ビスジフェニルアミノベンゼン)、NPB、BBDB、HPTPNなどが好適なものとして例示できる。以下に、BDB、NPB、BBDB、及びHPTPNについての化学構造式を示す。
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【0028】
さらに、本発明の光分解性ポリマーは、ラジアル分解可能部位である式(1)又は式(2)で表される基を有するモノマーのポリマーにおける含有割合と、分解条件(特定波長の光照射か太陽光への暴露か等)を選択することにより、ポリマーのラジカル的分解の時間的な制御が可能となる。光触媒の使用量は、特定波長の光の照射下で、数日以内にある程度分解したい場合、光分解性ポリマーに対して1mol%程度が好ましい。光触媒は、分解時に光分解性ポリマーに添加することもできるが、光分解性ポリマーを一定の用途に供する前にポリマーに練り込む、又は塗布することもできる。加えて、光分解性ポリマーには、光触媒と共に、光触媒がポリマーに定着しやすいものとして有機又は無機の第三成分を添加してもよい。
本発明の光分解性ポリマーは、光分解性ポリマーに光触媒を添加して、人工光又は太陽光を照射する方法によって分解される。かかる光分解性ポリマーの分解方法における他の分解条件は、特に制限されるものではないが、分解を促進させる場合には、光触媒の助触媒として水などのルイス酸を添加することもできる。また、分解を促進するその他の条件としては、光分解性ポリマーを溶剤に溶解すること、また、分解温度を室温よりも高くすることが好ましい。光分解性ポリマーを溶解する溶剤としては、DMF、トルエン、エーテル、アセトン、THF、ジクロロメタン等から選ばれる1種の有機溶剤又は2種以上の混合有機溶剤が好ましい。
【実施例0029】
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0030】
[試験例1]
テレフタル酸メチルエステル化合物に、ラジカル分解可能部位としての第三級アルキル基(-C(CH)(CH)C(O)-O-)を組み込み、以下の式(9)の化合物を作製し、光触媒(BDB)1mol%の存在下、405nmの可視光LED光を照射した。ラジカルの生成を確認することができ、18%の転化率で分解が進行することを確認した。
【化15】
【0031】
[試験例2]
試験例1における光触媒としてBDBに代えて、NPBを用いた以外は、試験例1と同様の条件で実施した。ラジカルの発生が同様に確認できたと共に、90%の転化率で反応が進行した。さらに、発生したラジカルを1,1-ジフェニルエテンで捕捉することで、対応するラクトンが71%の収率で得られた。
【0032】
以上の結果から、PET関連ポリマー用のモノマーが、光触媒下で特定波長の光を照射することにより、ラジカル分解可能部位で分解したことから、PET関連ポリマーがモノマーへの分解することが示唆されたと共に、ラジカル分解可能部位として用いた第三級アルキル基がラクトンに転換できることが確認されたことから、光分解されたポリマーの更なる利用の可能性が示された。
【実施例0033】
ラジカル分解可能部位として、試験例1で用いた第三級アルキル基を有するモノマーを用いてPET類似のポリマーを合成し、光分解に供した。
(1)モノマーの合成
テレフタル酸(10mmol、1.0 equiv.)とジクロロメタン(10mL、1.0M)とを混合し、攪拌しつつ、還流しながら塩化チオニル(30mmol、3.0equiv.)を加えた。そのまま攪拌を続け、3.5時間経過後、減圧し酸を除去して、反応混合物Aを得た。その後、2-hydroxy-2-methylpropanoic acid(22mmol、2.1equiv.)とピリジン(20mmol、2.0equiv.)とをアセトニトリル(20mL、0.5M)に溶かした混合溶液を0℃に冷却した反応混合物Aに加えながら攪拌した。その後、室温まで昇温し攪拌を継続し、反応混合物Bを得た。一夜経過後、反応混合物Bを1M塩酸水溶液で分液し、硫酸マグネシウムにさらした後、Et2O/Hexaneでの再結晶により、精製し、式(5)の化合物を収率56%(1.90g、5.63mmol)で得た。
IR; 2999, 2918, 2695, 2570, 1708, 1506, 1467, 1422, 1372, 1281, 1188,1153, 1107, 1017, 923, 850, 781, 728.
1HNMR(CD3OD); 8.08 (s, 4H), 1.68 (s, 12H).
13CNMR(CD3OD); 174.5, 164.6, 134.2129.4, 79.2, 23.7.
【化16】
【0034】
式(5)の化合物(1.0mmol、1.0equiv.)とアリルブロミド(4.0mmol、4.0equiv.)と炭酸カリウム(2.0mmol、2.0equiv.)とをDMF(2mL、0.5M)に溶かし、室温で一晩攪拌させ、反応混合物Cを得た。その後、反応混合物Cをヘキサン/酢酸エチル=1/4(容量比)の有機層で抽出し、ロータリーエバポレーターで濃縮した後、フラッシュカラムクロマトグラフィー(Hex:AcOEt=10:1)により精製し、式(7)の化合物を収率76%(318.8mg、0.76mmol)で得た。
IR; 2994, 2945, 2119, 1741, 1722, 1466, 1410, 1368, 1305, 1275, 1230,1217, 1183, 1140, 1103, 1020, 988, 963, 934, 877, 852, 819, 760, 728.
1HNMR(CDCl3); 8.07 (s, 4H), 5.91-5.83 (m, 2H), 5.30 (d, J = 17.1 Hz, 2H), 5.21 (d, J= 10.8 Hz, 2H), 4.65 (d, J = 5.7Hz, 4H), 1.72 (s, 12H).
13CNMR(CDCl3); 172.1, 164.7, 134.1, 131.8, 129.8, 118.5, 79.4, 66.1, 24.8.
【化17】
【0035】
(2)ポリマーの合成
式(7)の化合物(5.0mmol、1.0equiv.)にグローブボックス内で第2世代Grubbs触媒(1.0mol%)とCHCl3(2.0M)とを入れ、80℃で20h撹拌し、反応混合物Dを得た。その後、反応混合物DをCHCl3/ヘキサン=1/10(容量比)の再沈殿により、式(8)のポリマーを収率50%(1056.4mg、2.5mmol)で得た。
【化18】
【0036】
(3)ポリマーの光分解
回転子が入ったスクリューバイアルに、式(8)のポリマー(0.1mmol、1.0equiv.)、DPE(0.4mmol、4.0equiv.)、及び光触媒のBNPB(0.001mmol、1mol%)とTHF/HO(容量比:0.38mL/0.02mL、0.25M)とを入れて、溶かし、窒素置換して、反応溶液を得た。反応溶液を光反応装置に入れ365nmのLED光を室温で24時間攪拌した後、THFに溶かして、綿ろ過を行い、エバポレーターにて溶媒を留去した。その後、得られたサンプルをGPC(THF)にて分析した。照射前の分子量ピークが7905(数平均分子量8162)であったのに対して、照射後の分子量ピークは2748(数平均分子量3638)であり、ポリマーの分解が確認できた。なお、反応には、1,1ジフェニルエテンをラジカル捕捉剤として4当量共存させたところ、対応するラクトンが30%を超える収率で得られた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の、ラジカル分解可能部位としての第三級アルキル基を有するモノマーを含む光分解性ポリマーは、365nmLED照射下24時間で分解され、易分解性が確認されたことから、自然環境中では時間をかけての低速分解、工場では紫外線の照射による迅速な高速分解など、光分解制御型ポリマーとしての応用が可能となるものである。また、ポリマーの寿命を光分解手段の適用時期により制御することができることから、使用期間に応じたポリマーも設計・合成も可能となる。