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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176895
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】エレベーターのドア制御装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 13/14 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
B66B13/14 D
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095754
(22)【出願日】2023-06-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 一博
【テーマコード(参考)】
3F307
【Fターム(参考)】
3F307AA02
3F307BA04
3F307CB01
3F307CB26
(57)【要約】
【課題】エレベータードアのモーター制御において発生する振動を診断する機能を、一般にドアモーターを制御する機能が持つ制約及び資源の中で実現する。
【解決手段】制御装置は、ドアモーターの回転角度から算出した実速度が速度指令値に追従するようにドアモーターを制御する。また、ドアの戸開閉動作中のサンプリング期間において、制御装置は、予め決められたサンプリング周期での実速度を取得し、サンプリング周期の間の実速度の変化量の絶対値を積算して得られる実速度変化量積算値を算出する処理と、サンプリング周期での速度指令値を取得し、サンプリング周期の間の速度指令値の変化量の絶対値を積算して得られる速度指令値変化量積算値を算出する処理と、実速度変化量積算値から速度指令値変化量積算値を差分した第一差分値が第一閾値より大きい場合、ドアの異常があると診断する処理と、を実行する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターのドアを開閉方向に駆動するドアモーターと、
前記ドアモーターを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記ドアモーターの回転角度を検出する回転検出部と、
前記回転角度から前記ドアの開閉方向の実速度を算出するドア速度算出部と、
前記ドアの開閉方向の速度指令値を算出するドア速度指令値算出部と、
前記実速度が前記速度指令値に追従するように前記ドアモーターを制御するモーター制御部と、
前記ドアの戸開動作又は戸閉動作中の予め決められたサンプリング期間において、前記ドアの異常を診断するドア診断部と、を備え、
前記ドア診断部は、
前記サンプリング期間中の予め決められたサンプリング周期での前記実速度を前記ドア速度算出部から取得し、前記サンプリング周期の間の前記実速度の変化量の絶対値を積算して得られる実速度変化量積算値を算出する第一算出処理と、
前記サンプリング周期での前記速度指令値を前記ドア速度指令値算出部から取得し、前記サンプリング周期の間の前記速度指令値の変化量の絶対値を積算して得られる速度指令値変化量積算値を算出する第二算出処理と、
前記実速度変化量積算値から前記速度指令値変化量積算値を差分した第一差分値が第一閾値より大きい場合、前記ドアの異常があると診断する第一判定処理と、
を実行するように構成されるエレベーターのドア制御装置。
【請求項2】
前記エレベーターの標準状態において、前記サンプリング期間及び前記サンプリング周期を含む診断条件と同一条件での前記実速度変化量積算値を標準実速度変化量積算値として記憶する記憶装置を備え、
前記ドアの動作中において、前記ドア診断部は、
前記実速度変化量積算値から前記標準実速度変化量積算値を差分した第二差分値が第二閾値より大きい場合、前記ドアの異常があると診断する第二判定処理を実行するように構成される請求項1に記載のエレベーターのドア制御装置。
【請求項3】
前記エレベーターとは異なる1又は複数の現場に設置されている他エレベーターにおいて、前記サンプリング期間及び前記サンプリング周期を含む診断条件と同一条件で算出された前記実速度変化量積算値を他現場実速度変化量積算値として収集する収集部と、
前記実速度変化量積算値と前記他現場実速度変化量積算値との差分値が第三閾値より大きい場合、前記ドアの異常があると診断する第三処理を実行する比較診断部と、
を更に備える請求項1又は請求項2に記載のエレベーターのドア制御装置。
【請求項4】
前記制御装置とネットワークを介して通信可能なサーバを備え、
前記サーバは、
前記収集部と、
前記比較診断部と、を備え、
前記比較診断部は、前記第三処理によって前記ドアの異常があると診断された場合、診断結果を前記制御装置に送るように構成される請求項3に記載のエレベーターのドア制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレベーターのドア制御装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ドアを動作させるモーター制御に関して、近年、ドアの高速かつ円滑な動作を実現するため、モーター制御機能も高精度化している。それにより、現地の据え付け状態又は機械系の経年変化により、稀に制御ゲインの調整が合っていないなどの理由から、振動が発生することがある。その際、詳細な波形データに基づく周波数解析などを行い、開発当初のベースとなる動作時のデータとの比較を行うなどして、振動の判断が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、エレベーターのモーターの回転検出部の回転角度誤差を求める方法に関して、電流に対して周波数解析を行う技術が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/174796号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、データ解析する仕組みを現地で動作する組込みソフトウェアに組み込み、振動解析及び判断を可能とすることが理想的である。しかしながら、RAM容量、演算時間、通信量といったソフトウェアが持つ制約により、データ解析の仕組みをそのまま組み込むのは難しいという課題がある。
【0006】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、エレベータードアのモーター制御において発生する振動を診断する機能を、一般にドアモーターを制御する機能が持つ制約及び資源の中で実現することができるエレベーターのドア制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のエレベーターのドア制御装置は、エレベーターのドアを開閉方向に駆動するドアモーターと、ドアモーターを制御する制御装置と、を備え、制御装置は、ドアモーターの回転角度を検出する回転検出部と、回転角度からドアの開閉方向の実速度を算出するドア速度算出部と、ドアの開閉方向の速度指令値を算出するドア速度指令値算出部と、実速度が速度指令値に追従するようにドアモーターを制御するモーター制御部と、ドアの戸開動作又は戸閉動作中の予め決められたサンプリング期間において、ドアの異常を診断するドア診断部と、を備え、ドア診断部は、サンプリング期間中の予め決められたサンプリング周期での実速度をドア速度算出部から取得し、サンプリング周期の間の実速度の変化量の絶対値を積算して得られる実速度変化量積算値を算出する第一算出処理と、サンプリング周期での速度指令値をドア速度指令値算出部から取得し、サンプリング周期の間の速度指令値の変化量の絶対値を積算して得られる速度指令値変化量積算値を算出する第二算出処理と、実速度変化量積算値から速度指令値変化量積算値を差分した第一差分値が第一閾値より大きい場合、ドアの異常があると診断する第一判定処理と、を実行するように構成されるものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術によれば、エレベータードアのモーター制御において発生する振動を診断する機能を、一般にドアモーターを制御する機能が持つ制約及び資源の中で実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1におけるエレベーターのドア制御装置の正面図である。
図2】制御装置が備える機能の機能ブロック図である。
図3】ドアの戸開動作時におけるドア速度パターンを例示した図である。
図4】ドア診断部が実行する異常診断処理を説明するための図である。
図5】ドア診断部が実行する異常診断処理を説明するための図である。
図6】実施の形態1におけるドア制御装置1において実行される異常診断処理のルーチンを示すフローチャートである。
図7】制御装置のハードウェア資源の例を示す図である。
図8】制御装置のハードウェア資源の他の例を示す図である。
図9】実施の形態2におけるエレベーターのドア制御装置の機能ブロック図である。
図10】実施の形態2におけるドア制御装置1において実行される異常診断処理のルーチンを示すフローチャートである。
図11】実施の形態3におけるエレベーターのドア制御装置の機能ブロック図である。
図12】実施の形態3におけるドア制御装置1において実行される異常診断処理のルーチンを示すフローチャートである。
図13】実施の形態3におけるドア制御装置1において実行される異常診断処理のルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、各図において共通する要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
実施の形態1.
1-1.実施の形態1におけるエレベーターのドア制御装置の構成
図1は、実施の形態1におけるエレベーターのドア制御装置の正面図である。エレベーターの昇降路は、建築物の各階床を貫くように形成される。各階床では、昇降路近傍に乗場が形成される。昇降路内には、乗客カゴが設けられる。各乗場と昇降路との間には、乗場出入口が形成される。乗場出入口には、乗場戸が設けられる。乗客カゴの乗場側には、カゴ出入口が形成される。カゴ出入口には、ドア制御装置1が設けられる。ドア制御装置1は、ドア2と、ドア2を開閉する戸開閉機構3と、戸開閉機構3を駆動する戸駆動機構4と、を有する。
【0012】
ドア2は、カゴ出入口を開閉するように設けられる。典型的には、ドア2は、中央開きとなるように対をなして設けられる。他の例として、ドア2は、片開きとなるように設けられていてもよい。ドア2の上方に、戸開閉機構3が設けられる。戸開閉機構3は、懸架部材6と、ハンガーローラ7と、レール8と、2つのプーリ9と、ベルト10と、連結部材11を備える。懸架部材6は、ドア2の上部に固定される。ハンガーローラ7は、懸架部材6の上部に設置される。レール8は、ドア2の上方に設置される。2つのプーリ9は、レール8の上方で水平方向に間隔を開けて配置される。ベルト10は、プーリ9を周回するように設置される。
【0013】
連結部材11の一方の一端は、プーリ9の上側で、ベルト10に固定される。連結部材11の一方の他端は、懸架部材6の一方に固定される。連結部材11の他方の一端は、プーリ9の下側で、ベルト10に固定される。連結部材11の双方の他端は、懸架部材6の他方に固定される。戸開閉機構3は、戸駆動機構4によりベルト10が左右に往復運動されると、レール8上を走行するハンガーローラ7により案内されて、ドア2が反対方向に往復運動し、出入口を開閉する。
【0014】
戸駆動機構4は、ドアモーター12と、パルスエンコーダ13と、制御装置20とを備える。ドアモーター12は、回転軸を介してプーリ9を回転駆動する機能を備える。パルスエンコーダ13は、ドアモーター12の回転をパルスに変換する機能を備える。制御装置20は、パルスエンコーダ13が出力したパルスに基づいて、ドアモーター12を制御する機能を備える。また、制御装置20は、ドア2の戸開動作又は戸閉動作の異常有無を診断する機能を備える。なお、以下の説明では、ドア2の戸開動作又は戸閉動作を単にドア2の「開閉動作」とも表記する。制御装置20が備える機能については詳細を後述する。
【0015】
このようなエレベーターにおいては、乗客カゴが乗場に隣接して配置されると、乗客カゴのドア2の一部と乗場戸の一部とがかみ合う。この状態で、制御装置20によりドアモーター12が駆動する。この駆動により、プーリ9が回転する。この回転により、ベルト10が移動する。このとき、プーリ9の上側では、ベルト10が左右の一方に移動する。これに対し、プーリ9の下側では、ベルト10が左右の他方に移動する。
【0016】
この移動に伴って、連結部材11は、互いに反対方向に移動する。この移動に伴って、懸架部材6は互いに反対方向に移動する。この移動に伴って、ドア2は互いに反対方向に移動する。この際、ハンガーローラ7はレール8上を走行する。このため、ドア2はカゴ出入口を円滑に開閉する。この開閉に伴って、一対の乗場戸は互いに反対方向に移動する。この移動により、乗場戸は乗場出入口を開閉する。
【0017】
1-2.実施の形態1における制御装置20の機能
次に、図2を用いて、制御装置20が備える機能について説明する。図2は、制御装置が備える機能の機能ブロック図である。図2に示すように、制御装置20は、その機能ブロックとして、回転検出部21、ドア速度算出部22、ドア速度指令値算出部23、モーター制御部24、ドア診断部25、及び記憶部26を備える。
【0018】
回転検出部21は、ドアモーター12の回転角度を検出するための機能ブロックである。典型的には、回転検出部21は、パルスエンコーダ13が出力したパルスをカウントすることによって回転角度を算出する。算出した回転角度は、ドア速度算出部22に随時送られる。
【0019】
ドア速度算出部22は、回転検出部21において算出された回転角度からドア2の開閉方向の実速度を算出するための機能ブロックである。典型的には、ドア速度算出部22は、ドア2の開閉動作時において、予め定められた制御周期で実速度を算出し、モーター制御部24に出力する。また、ドア速度算出部22は、ドア2の開閉動作中において、診断条件に予め定められたサンプリング期間及びサンプリング周期に従い実速度を算出し、ドア診断部25に出力する。
【0020】
ドア速度指令値算出部23は、ドア2の開閉動作時における開閉方向の速度指令値を算出するための機能ブロックである。図3は、ドアの戸開動作時におけるドア速度パターンを例示した図である。この図において、横軸は時間であり、縦軸はドア2の速度である。図3において、W11で示すパターンは、戸開動作時の速度指令値のパターンの例示である。パターンW11において、全閉状態の時間t0から時間t1までは加速部である。加速部では、ドア2の加速度が一定となる。時間t1から時間t2までは最大速度部である。最大速度部では、ドア2の速度が最大速度で一定となる。時間t2から全開のt3までは減速部である。減速部では、ドア2の減速度が一定となる。制御装置20は、このようなドア速度指令値のパターンを記憶部26に記憶している。ドア速度指令値算出部23は、ドア2の開閉動作時において、記憶部26に記憶されているドア速度指令値のパターンを用いて予め定められた制御周期で速度指令値を算出し、モーター制御部24に出力する。また、ドア速度指令値算出部23は、ドア2の開閉動作の診断期間において、診断条件に予め定められたサンプリング期間及びサンプリング周期に従い速度指令値を算出し、ドア診断部25に出力する。
【0021】
モーター制御部24は、ドア2の開閉動作時における実速度が速度指令値に追従するようにドアモーター12のトルクを制御する。ここでのドアモーター12の制御の手法に限定はない。例えば、モーター制御部24は、実速度と速度指令値との偏差をトルク指令値にフィードバックする。図3において、W12で示すパターンは、W11で示す速度指令値に追従するようにモーター制御部24がドアモーター12を制御したときのドア2の実速度のパターンの例示である。
【0022】
ドア診断部25は、ドア2の開閉動作時の異常を診断するための機能ブロックである。典型的には、ドア診断部25は、予め定められた診断条件に従いドア2の異常を診断する。この処理は、以下、「異常診断処理」と呼ばれる。ここでの診断条件は、実速度及び速度指令値を算出するサンプリング期間及びサンプリング周期を定めた条件である。サンプリング期間は、ドア2の戸開動作中であってもよいし、戸閉動作中であってもよい。また、サンプリング期間は、戸開指令値の加速部であってもよいし減速部であってもよい。サンプリング周期は、サンプリング期間において少なくとも3箇所のサンプリングが可能な周期に設定される。
【0023】
図4及び図5は、ドア診断部が実行する異常診断処理を説明するための図である。図4は、図3中にAで囲まれた加速部のパターンを拡大して例示している。異常診断処理において、ドア診断部25は、予め診断条件に定められたサンプリング期間及びサンプリング周期に従い、ドア速度算出部22において算出されたドア2の実速度を取得する。図4に示す例では、ドア診断部25は、サンプリング期間中のサンプリング周期T0、T1、T2、T3において実速度を取得する。そして、ドア診断部25は、各サンプリング周期の間の実速度の変化量をそれぞれ算出し、それぞれの変化量の絶対値を積算した実速度変化量積算値を算出する。この処理は、以下「第一算出処理」と呼ばれる。図4に示す例では、サンプリング周期T1の実速度とサンプリング周期T0の実速度との差分を変化量(A)として算出し、サンプリング周期T2の実速度とサンプリング周期T1の実速度との差分を変化量(B)として算出し、そして、サンプリング周期T3の実速度とサンプリング周期T2の実速度との差分を変化量(C)として算出している。また、図5には、実速度の変化量(A)、(B)、(C)のそれぞれの絶対値(A′)、(B′)、(C′)を積算した実速度変化量積算値W32が図示されている。
【0024】
また、異常診断処理において、ドア診断部25は、診断条件に従い第一算出処理と同じサンプリング周期でドア速度指令値算出部23において算出された速度指令値を取得する。図4に示す例では、ドア診断部25は、サンプリング周期T0、T1、T2、T3において速度指令値を取得する。そして、ドア診断部25は、各サンプリング周期の間の速度指令値の変化量を算出し、それぞれの変化量の絶対値を積算した速度指令値変化量積算値を算出する。この処理は、以下「第二算出処理」と呼ばれる。図4に示す例では、サンプリング周期T1の速度指令値とサンプリング周期T0の速度指令値との差分を変化量(a)として算出し、サンプリング周期T2の速度指令値とサンプリング周期T1の速度指令値との差分を変化量(b)として算出し、そして、サンプリング周期T3の速度指令値とサンプリング周期T2の速度指令値との差分を変化量(c)として算出している。また、図5には、速度指令値の変化量(a)、(b)、(c)のそれぞれの絶対値(a′)、(b′)、(c′)を積算した速度指令値変化量積算値W31が図示されている。
【0025】
さらに、異常診断処理において、ドア診断部25は、算出した実速度変化量積算値と速度指令値変化量積算値との差分を第一差分値として算出し、当該第一差分値が第一閾値より大きいか否かによってドア2の異常があるか否かを判定する。この処理は、以下「第一判定処理」と呼ばれる。図5には、実速度変化量積算値W32と速度指令値変化量積算値W31との差分値が例示されている。
【0026】
現場でのドア2の据え付け状態により、或いは、戸開閉機構3又は戸駆動機構4等の機械系の経年劣化により、モーター制御部24におけるドアモーター12の制御の制御ゲインの調整にズレが生じると、ドア2の開閉動作に振動が発生する。実速度変化量積算値W32と速度指令値変化量積算値W31との第一差分値は、ドア2の開閉動作時の振動が大きいほど大きな値となる傾向がある。そこで、ここでの第一閾値は、例えば、ドア2の開閉動作時に発生する振動の許容限界に対応する第一差分値の値に設定される。このような第一閾値の設定によれば、実速度変化量積算値W32と速度指令値変化量積算値W31との差分値が第一閾値より大きい場合に、ドア2の開閉動作時の異常があると診断することが可能となる。
【0027】
1-3.実施の形態1におけるエレベーターのドア制御装置において実行される具体的処理
次に、実施の形態1におけるエレベーターのドア制御装置1において実行される異常診断処理の具体的処理について説明する。図6は、実施の形態1におけるドア制御装置1において実行される異常診断処理のルーチンを示すフローチャートである。図6に示すルーチンは、診断条件が定めるサンプリング期間に制御装置20において実行される。
【0028】
図6に示すルーチンのステップS100において、ドア速度算出部22は、診断条件に定められたサンプリング周期でドア2の実速度を算出する。次のステップS102において、ドア診断部25は、第一算出処理を実行し、各サンプリング周期の間の実速度の変化量を算出し、それぞれの変化量の絶対値を積算した実速度変化量積算値を算出する。
【0029】
次のステップS104において、ドア速度指令値算出部23は、第二算出処理を実行し、各サンプリング周期の間の速度指令値の変化量を算出し、それぞれの変化量の絶対値を積算した速度指令値変化量積算値を算出する。
【0030】
ドア診断部25は、ステップS108、S110、及びS112において、第一判定処理を実行する。典型的には、ステップS108において、ドア診断部25は、実速度変化量積算値と速度指令値変化量積算値との第一差分値を算出し、当該第一差分値が第一閾値より大きいか否かを判定する。その結果、判定が成立した場合、処理はステップS112に進み、判定が成立しない場合、処理はステップS110に進む。
【0031】
ステップS110において、ドア診断部25は、ドア2に許容範囲を超えた振動は発生していないとして、ドア2の正常を診断する。一方、ステップS112では、ドア診断部25は、ドア2に許容範囲を超えた振動が発生しているとして、ドア2の異常を診断する。
【0032】
以上の説明から明らかなように、実施の形態1のエレベーターのドア制御装置1によれば、ドアモーター12を制御するための既存の機能を利用することによって取得した実速度と速度指令値に基づいて、ドア2の開閉時の振動の大きさを定量的に判断することができる。これにより、一般にドアモーター12を制御する機能が持つ制約及び資源の中で、ドア2の開閉時の異常診断を実現することが可能となる。
【0033】
1-4.変形例
実施の形態1のドア制御装置1は、以下のように変形した態様を採用してもよい。
【0034】
4-1.制御装置20のハードウェア資源
【0035】
図7は、制御装置20のハードウェア資源の例を示す図である。制御装置20は、ハードウェア資源として、プロセッサ202とメモリ204とを含む処理回路206を備える。処理回路206に複数のプロセッサ202が含まれても良い。処理回路206に複数のメモリ204が含まれても良い。
【0036】
本実施の形態において、符号21から符号26に示す各部は、制御装置20が有する機能を示す。記憶部26の機能は、メモリ204によって実現される。符号21から符号26に示す各部の機能は、プログラムとして記述されたソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現できる。当該プログラムは、メモリ204に記憶される。或いは、当該プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。制御装置20は、メモリ204に記憶されたプログラムをプロセッサ202(コンピュータ)によって実行することにより、符号21から符号26に示す各部の機能を実現する。
【0037】
プロセッサ202は、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、或いはDSPともいわれる。メモリ204として、半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、或いはDVDを採用しても良い。採用可能な半導体メモリには、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、及びEEPROM等が含まれる。
【0038】
図8は、制御装置20のハードウェア資源の他の例を示す図である。図8に示す例では、制御装置20は、プロセッサ202、メモリ204、及び専用ハードウェア208を含む処理回路206を備える。図8は、制御装置20が有する機能の一部を専用ハードウェア208によって実現する例を示す。制御装置20が有する機能の全部を専用ハードウェア208によって実現しても良い。専用ハードウェア208として、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらの組み合わせを採用できる。なお、上述した制御装置20のハードウェア資源についての変形例は、後述する他の実施の形態の制御装置20にも適用することができる。
【0039】
実施の形態2.
2-1.実施の形態2におけるエレベーターのドア制御装置の特徴
図9は、実施の形態2におけるエレベーターのドア制御装置の機能ブロック図である。なお、実施の形態1のドア制御装置1と同一又は相当部分には、同一符号を付して説明を省略する。
【0040】
実施の形態2の制御装置20は、実施の形態1の制御装置20の構成に加えて、更にドア速度記憶部27を備えている。ドア速度記憶部27は、ドアモーター12の制御の制御ゲインが適切に調整されたエレベーターの据え付け時において、予め定められた診断条件に従い第一算出処理を実行して算出された実速度変化量積算値を標準実速度変化量積算値として記憶して保有しておく記憶装置として機能する機能ブロックである。
【0041】
ドア診断部25は、異常診断処理において、標準実速度変化量積算値を算出したときの診断条件と同一条件において第一算出処理を実行して算出された現在の実速度変化量積算値と、標準実速度変化量積算値とを比較することによりドア2の異常を診断する。典型的には、ドア診断部25は、現在の実速度変化量積算値と標準実速度変化量積算値との差分を第二差分値として算出し、当該第二差分値が第二判定値よりも大きいか否かによってドア2の異常があるか否かを判定する。この処理は、以下「第二判定処理」と呼ばれる。
【0042】
戸開閉機構3又は戸駆動機構4等の機械系の経年劣化が生じると、モーター制御部24におけるドアモーター12の制御の制御ゲインの調整にズレが生じて開閉動作中のドア2に振動が発生する。実速度変化量積算値と標準実速度変化量積算値との第二差分値は、ドア2の開閉動作時の振動が大きいほど大きな値となる傾向がある。そこで、第二閾値は、ドア2の開閉動作時に発生する振動の許容限界に対応するドア2の開閉動作時に許容される振動の限界に対応する第二差分値の値に設定される。このように、第二判定処理によれば、機械系の経年劣化によるドア2の振動の大きさの変化を定量的に診断することが可能となる。
【0043】
2-2.実施の形態2におけるエレベーターのドア制御装置において実行される具体的処理
次に、実施の形態2におけるエレベーターのドア制御装置1において実行される異常診断処理の具体的処理について説明する。図10は、実施の形態2におけるドア制御装置1において実行される異常診断処理のルーチンを示すフローチャートである。図10に示すルーチンは、診断条件が定めるサンプリング期間において制御装置20において実行される。
【0044】
図10に示すルーチンのステップS200、S202、及びS204では、図6に示すルーチンのステップS100、S102、及びS104と同様の処理が実行される。ステップS204の処理が完了すると、処理はステップS206に進む。
【0045】
ステップS206において、ドア診断部25は、エレベーターの据え付け時かどうかを判定する。その結果、判定が成立した場合、処理はステップS208に進み、判定が不成立の場合、処理はステップS210に進む。
【0046】
ステップS208において、ドア診断部25は、本ルーチンのステップS202において算出された実速度変化量積算値を標準実速度変化量積算値としてドア速度記憶部27に記憶する。ステップS208の処理が完了すると、処理はステップS210に進む。
【0047】
ステップS210において、ドア診断部25は、実速度変化量積算値と速度指令値変化量積算値との第一差分値を算出し、当該第一差分値が第一閾値より大きいか否かを判定する。その結果、判定が成立した場合、処理はステップS216に進み、判定が成立しない場合、処理はステップS212に進む。
【0048】
ステップS212において、ドア診断部25は、実速度変化量積算値と標準実速度変化量積算値との第二差分値を算出し、当該第二差分値が第二閾値より大きいか否かを判定する。その結果、判定が成立した場合、処理はステップS216に進み、判定が成立しない場合、処理はステップS214に進む。
【0049】
ステップS214では、ドア診断部25は、ドア2に許容範囲を超えた振動は発生していないとして、ドア2の正常を診断する。一方、ステップS216では、ドア診断部25は、ドア2に許容範囲を超えた振動が発生しているとして、ドア2の異常を診断する。
【0050】
以上の説明から明らかなように、実施の形態2のエレベーターのドア制御装置1によれば、実速度変化量積算値と速度指令値変化量積算値との比較に加えて、実速度変化量積算値と標準実速度変化量積算値との比較に基づいて、ドア2の開閉時の振動の大きさを定量的に判断することができる。これにより、一般にドアモーター12を制御する機能が持つ制約及び資源の中で、特に機械系の経年劣化によるドア2の開閉時の異常を精度よく診断することが可能となる。
【0051】
2-3.変形例
実施の形態2のドア制御装置1は、以下のように変形した態様を採用してもよい。
【0052】
2-3-1.標準実速度変化量積算値
ドア速度記憶部27に記憶される標準実速度変化量積算値は、エレベーターの据え付け時において算出された実速度変化量積算値に限らない。すなわち、標準実速度変化量積算値は、ドアモーター12の制御の制御ゲインが適切に調整されたエレベーターの標準状態における実速度変化量積算値であればよい。このような、エレベーターの標準状態は、据え付け時の他、保守点検による制御ゲインの調整後、等が例示される。
【0053】
実施の形態3.
3-1.実施の形態3におけるエレベーターのドア制御装置の特徴
図11は、実施の形態3におけるエレベーターのドア制御装置の機能ブロック図である。なお、図11において、実施の形態1又は実施の形態2のドア制御装置と同一又は相当部分には、同一符号を付して説明を省略する。
【0054】
実施の形態3のドア制御装置1は、サーバ30を備えている。サーバ30は、複数の現場における他エレベーターのドア制御装置1の制御装置20とネットワークを介して通信可能に構成されている。サーバ30は、機能ブロックとして、収集部31と、ドア速度記憶部32と、比較診断部33と、を備える。収集部31は、各現場のドア制御装置1の制御装置20から、現在の実速度変化量積算値に診断条件が対応付けられたドア情報を収集し、現場ごとにドア速度記憶部32に記憶する。
【0055】
比較診断部33は、各現場における現在の実速度変化量積算値から、他現場における同一の診断条件の現在の実速度変化量積算値である他現場実速度変化量積算値を差分して得られる第三差分値が、第三閾値よりも大きいか否かによってドア2の異常がある現場を判定する。この処理は、以下「第三判定処理」と呼ばれる。ここでの第三閾値は、他現場の実速度変化量積算値との比較によってドア2の異常を判定するための閾値として予め定められた値である。比較診断部33は、第三判定処理においてドア2の異常の診断がある現場がある場合、その診断結果を対象現場のドア制御装置1に送信する。各現場のドア制御装置1のドア診断部25は、サーバ30からドア2の異常の診断結果を受信した場合、ドア2の異常を診断する。
【0056】
エレベーターの据え付け状態は、ドア2の開閉動作時の振動有無に影響を与える。このため、診断条件が同一条件である他現場において算出された実速度変化量積算値と比較すると、現場毎の据え付け状態の影響を比較することができる。このように、第三判定処理によれば、据え付け状態によるドア2の振動の大きさの変化を定量的に診断することが可能となる。
【0057】
3-2.実施の形態3におけるエレベーターのドア制御装置において実行される具体的処理
次に、実施の形態3におけるエレベーターのドア制御装置1において実行される異常診断処理の具体的処理について説明する。図12及び図13は、実施の形態3におけるドア制御装置1において実行される異常診断処理のルーチンを示すフローチャートである。なお、図12には、サーバ30において実行されるルーチンを示し、図13には、診断条件が定める診断期間に各現場の制御装置20において実行されるルーチンを示している。
【0058】
まず、図12に示すルーチンに従いサーバ30において実行される処理について説明する。図12に示すルーチンのステップS300において、収集部31は、各現場から送信される現在の実速度変化量算出値に診断条件が対応付けられたドア情報を取得する。取得されたドア情報は、現場ごとにドア速度記憶部に記憶される。ステップS300の処理が完了すると、処理はステップS302に進む。
【0059】
ステップS302において、比較診断部33は、第三判定処理を実行して、各現場における現在の実速度変化量積算値から、他現場における同一の診断条件の現在の他現場実速度変化量積算値を差分した第三差分値が第三閾値よりも大きい現場があるかを判定する。ここでは、各現場における現在の実速度変化量積算値と他現場における同一の診断条件の現在の実速度変化量積算値との全ての組み合わせに対して第三差分値が算出され、第三閾値と比較される。その結果、判定が成立した場合、処理はステップS304に進み、判定が不成立の場合、本ルーチンは終了される。
【0060】
ステップS304において、比較診断部33は、ステップS302の判定が認められた対象現場に対して、ドア2の異常の診断結果を送信する。
【0061】
次に、図13に示すルーチンに従い制御装置20において実行される処理について説明する。図13に示すルーチンのステップS310、S312、及びS314では、図6に示すルーチンのステップS100、S102、及びS104と同様の処理が実行される。ステップS314の処理が完了すると、処理はステップS316に進む。
【0062】
ステップS316において、ドア診断部25は、現在の実速度変化量積算値に診断条件を対応づけたドア情報をサーバ30に送信する。ステップS316の処理が完了すると、処理はステップS318に進む。
【0063】
ステップS318において、ドア診断部25は、実速度変化量積算値と速度指令値変化量積算値との第一差分値を算出し、当該第一差分値が第一閾値より大きいか否かを判定する。その結果、判定が成立した場合、処理はステップS324に進み、判定が成立しない場合、処理はステップS320に進む。
【0064】
ステップS320において、ドア診断部25は、サーバ30からドア2の異常の診断結果を受信したか否かを判定する。その結果、判定が成立した場合、処理はステップS324に進み、判定が成立しない場合、処理はステップS322に進む。
【0065】
ステップS322では、ドア診断部25は、ドア2に許容範囲を超えた振動は発生していないとして、ドア2の正常を診断する。一方、ステップS324では、ドア診断部25は、ドア2に許容範囲を超えた振動が発生しているとして、ドア2の異常を診断する。
【0066】
以上の説明から明らかなように、実施の形態3のエレベーターのドア制御装置1によれば、実速度変化量積算値と速度指令値変化量積算値との比較に加えて、他現場における同一の診断条件の実速度変化量積算値との比較に基づいて、ドア2の開閉時の振動の大きさを定量的に判断することができる。これにより、据え付け状態によるドア2の開閉時の異常を診断することが可能となる。
【0067】
3-3.変形例
実施の形態3のドア制御装置1は、以下のように変形した態様を採用してもよい。
【0068】
サーバ30の機能は、制御装置20に配置されていてもよい。
【0069】
実施の形態3のドア制御装置1において実行される第三判定処理は、実施の形態2のドア制御装置1において実行される第二判定処理と組み合わせて実行してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 ドア制御装置、 2 ドア、 3 戸開閉機構、 4 戸駆動機構、 6 懸架部材、 7 ハンガーローラ、 8 レール、 9 プーリ、 10 ベルト、 11 連結部材、 12 ドアモーター、 13 パルスエンコーダ、 20 制御装置、 21 回転検出部、 22 ドア速度算出部、 23 ドア速度指令値算出部、 24 モーター制御部、 25 ドア診断部、 26 記憶部、 27 ドア速度記憶部、 30 サーバ、 31 収集部、 32 ドア速度記憶部、 33 比較診断部、 202 プロセッサ、 204 メモリ、 206 処理回路、 208 専用ハードウェア
図1
図2
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図10
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図13