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特開2024-176900短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法
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  • 特開-短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法 図1
  • 特開-短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法 図2
  • 特開-短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法 図3
  • 特開-短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法 図4
  • 特開-短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法 図5
  • 特開-短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176900
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20241212BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20241212BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20241212BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C07K16/00
C12N15/115 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095761
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】瀧ノ上 正浩
(72)【発明者】
【氏名】ゴン ジン
(72)【発明者】
【氏名】野村 慎一郎
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA54
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】マイクロメートルサイズで分子の認識が可能で、分子の制御、捕集、輸送又は配置に用いることができ、かつコストが安価な短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法を提供する。
【解決手段】配列の異なる核酸をそれぞれ含む複合短鎖を2種以上備えた短鎖核酸複合分子であって、前記複合短鎖の少なくとも1種は、前記核酸からなるステム部位と分子認識部位とを備え、前記分子認識部位は、特定の分子に特異的に結合可能な構造を備える、短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列の異なる核酸をそれぞれ含む複合短鎖を2種以上備えた短鎖核酸複合分子であって、
前記複合短鎖の少なくとも1種は、前記核酸からなるステム部位と、分子認識部位とを備え、
前記複合短鎖の少なくとも1種は、前記核酸からなるステム部位と、前記核酸からなる粘着末端部位とを備え、
前記複合短鎖のうち少なくとも1種は、前記ステム部位の少なくとも一部が、前記複合短鎖のうち他の1種の前記ステム部位の少なくとも一部と相補的な配列を有し、
前記分子認識部位は、特定の分子に特異的に結合可能な構造を備える、短鎖核酸複合分子。
【請求項2】
前記粘着末端部位の溶解温度Tm(sticky end)と、前記ステム部位の溶解温度Tm(stem)とが、次の(1)の関係を満たす、請求項1に記載の短鎖核酸複合分子。
0 < Tm(sticky end) < Tm(stem) < 100 [単位:℃]・・・ (1)
【請求項3】
前記分子認識部位は、核酸またはポリペプチドからなる、請求項1又は2に記載の短鎖核酸複合分子。
【請求項4】
前記分子認識部位は、アプタマー核酸分子または抗体分子である、請求項1又は2に記載の短鎖核酸複合分子。
【請求項5】
前記特定の分子は、核酸またはタンパク質である、請求項1に記載の短鎖核酸複合分子。
【請求項6】
前記粘着末端部位が、相互に粘着可能な配列を有する、請求項1又は2に記載の短鎖核酸複合分子。
【請求項7】
前記核酸が前記ステム部位の少なくとも一部の相補的な配列において互いに結合することにより、前記複合短鎖が3以上結合した結合単位を備える、請求項1又は2に記載の短鎖核酸複合分子。
【請求項8】
前記結合単位を2種以上備え、
前記結合単位のうち1種及び他の1種は、前記結合単位のうち1種に含まれる核酸の前記粘着末端部位が、前記結合単位のうち他の1種に含まれる核酸の前記粘着末端部位とは粘着できない配列を有する、請求項7に記載の短鎖核酸複合分子。
【請求項9】
前記ステム部位が前記粘着末端部位よりも長い、請求項1または2に記載の短鎖核酸複合分子。
【請求項10】
請求項1または2に記載の短鎖核酸複合分子と、溶媒とを含んでなる、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴。
【請求項11】
請求項10の短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴の構造を制御する工程を含む、分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
【請求項12】
前記短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴の制御は、前記短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴の温度を変化させることにより行う、請求項11に記載の分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
【請求項13】
前記短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴の制御は、前記短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴に酵素又は核酸分子を添加することにより行う、請求項11に記載の分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
【請求項14】
前記短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴の制御は、前記核酸を切断し、又は前記核酸の2本鎖結合を解離する、請求項11に記載の分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
【請求項15】
前記短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴に分子、粒子又は細胞を包含させ、前記分子、粒子又は細胞の捕集、輸送又は配置を行う、請求項11に記載の分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
【請求項16】
前記分子、粒子又は細胞は、前記短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴に親和性のある化合物によって修飾したものを用いる、請求項15に記載の分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
【請求項17】
前記短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴に親和性のある化合物は、核酸分子を用いる、請求項16に記載の分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
【請求項18】
前記分子、粒子又は細胞は、タンパク質分子、核酸分子、これらを含む粒子又は細胞である、請求項15に記載の分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子構造および他の分子の認識を選択的に制御可能な短鎖核酸複合分子と、それを用いた短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及びそれを用いた生体分子の制御方法、すなわち分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング等の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸分子はその塩基配列によって、遺伝情報を伝達する他、様々な物理的及び化学的性質を持つ。核酸分子のそれらの性質を利用して、機能的な素材の役割を果たす分子として用いる技術が開発されている。例えば、核酸分子のナノテクノロジーを利用したナノメートルサイズの分子ロボットの構築が行われ、新規のバイオナノデバイスやマイクロマシンへの応用が期待されている。
【0003】
例えば、特許文献1の技術は、RNA-タンパク質結合体を用いて、RNA構造と機能を制御することができるRNAナノマシンを提供しようとするものである。
【0004】
また、本発明者らは特許文献2において、2種以上の配列の異なる核酸を含み、前記核酸は、粘着末端部位と、ステム部位と、をそれぞれ備え、前記核酸のうち1種は、前記ステム部位の少なくとも一部が、前記核酸のうち他の1種の前記ステム部位の少なくとも一部と相補的な配列を有し、前記粘着末端部位の溶解温度Tm(sticky end)と、前記ステム部位の溶解温度Tm(stem)とが特定の関係を満たす、短鎖核酸、短鎖核酸が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法を開示している。
この技術は、マイクロメートルサイズで生体分子の制御、捕集、輸送又は配置に用いることができ、かつコストが安価な短鎖核酸、短鎖核酸が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法を提供しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表WO2017/10568号公報
【特許文献2】特開2021-97603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、生体内において、マクロファージは特定の分子又は分子集合体(粒子)、ウイルス又は細胞等を認識し、結合し、取り込んで変性(例えば、分解)する機能を有する。
【0007】
本発明者らは、生体内のマクロファージの有する機能に着目した。そして、本発明者らの見出した短鎖核酸からなる分子に、特定の分子を認識する機能を設けることで、マクロファージの機能の一部を持たせることが可能であると検討した。仮に短鎖核酸からなる分子に、選択的に特異的な特定の分子を認識する機能を設けることができれば、マクロファージの機能を有する構造体をデザインし、製造するために寄与することができる。この技術は、選択的な機能を持たせた、いわゆるマクロファージ様の分子ロボットを製造する技術として有用と思われた。
特許文献1の技術ではRNAの構造を制御することができる。また、特許文献2の技術では、短鎖核酸からなる分子の構造を制御し、他の分子や粒子を収納し集積、輸送等を行うことができる。これらの技術に、分子を認識する技術を応用することで、マクロファージ様の分子ロボットの製造技術に応用できる可能性を見出し、さらに研究した。
【0008】
本発明は上記のような事情を鑑みてなされたものであり、マイクロメートルサイズで分子や細胞等の認識が可能で、分子の制御、捕集、輸送又は配置に用いることができ、かつコストが安価な短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の態様を有する。
[1] 配列の異なる核酸をそれぞれ含む複合短鎖を2種以上備えた短鎖核酸複合分子であって、
前記複合短鎖の少なくとも1種は、前記核酸からなるステム部位と、分子認識部位とを備え、
前記複合短鎖の少なくとも1種は、前記核酸からなるステム部位と核酸からなる粘着末端部位とを備え、
前記複合短鎖のうち少なくとも1種は、前記ステム部位の少なくとも一部が、前記複合短鎖のうち他の1種の前記ステム部位の少なくとも一部と相補的な配列を有し、
前記分子認識部位は、特定の分子に特異的に結合可能な構造を備える、短鎖核酸複合分子。
[2] 前記粘着末端部位の溶解温度Tm(sticky end)と、前記ステム部位の溶解温度Tm(stem)とが、次の(1)の関係を満たす、[1]に記載の短鎖核酸複合分子。
0 < Tm(sticky end) < Tm(stem) < 100 [単位:℃]・・・ (1)
[3] 前記分子認識部位は、核酸またはポリペプチドからなる、[1]又は[2]に記載の短鎖核酸複合分子。
[4] 前記分子認識部位は、アプタマー核酸分子または抗体分子である、[1]から[3]のいずれかに記載の短鎖核酸複合分子。
[5] 前記特定の分子は、核酸またはタンパク質である、[1]から[4]のいずれかに記載の短鎖核酸複合分子。
[6] 前記粘着末端部位が、相互に粘着可能な配列を有する、[1]から[5]のいずれかに記載の短鎖核酸複合分子。
[7] 前記核酸が前記ステム部位の少なくとも一部の相補的な配列において互いに結合することにより、前記複合短鎖が3以上結合した結合単位を備える、[1]から[6]のいずれかにに記載の短鎖核酸複合分子。
[8] 前記結合単位を2種以上備え、
前記結合単位のうち1種及び他の1種は、前記結合単位のうち1種に含まれる核酸の前記粘着末端部位が、前記結合単位のうち他の1種に含まれる核酸の前記粘着末端部位とは粘着できない配列を有する、[7]に記載の短鎖核酸複合分子。
[9] 前記ステム部位が前記粘着末端部位よりも長い、[1]から[8]のいずれかにに記載の短鎖核酸複合分子。
[10] [1]から[9]のいずれかに記載の短鎖核酸複合分子と、溶媒とを含んでなる、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴。
[11] [10]の短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴の構造を制御する工程を含む、分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
[12] 前記短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴の制御は、前記短鎖核酸複合分子。が凝集してなる液滴の温度を変化させることにより行う、[11]に記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
[13] 前記短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴の制御は、前記短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴に酵素又は核酸分子を添加することにより行う、[11]又は[12]に記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
[14] 前記短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴の制御は、前記核酸を切断し、又は前記核酸の2本鎖結合を解離する、[11]から[13]のいずれかに記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
[15] 前記短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴に分子又は粒子を包含させ、前記分子又は粒子の捕集、輸送又は配置を行う、[11]から[14]のいずれかに記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
[16] 前記分子又は粒子は、前記短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴に親和性のある化合物によって修飾したものを用いる、[15]に記載の分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
[17] 前記短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴に親和性のある化合物は、核酸分子を用いる、請求項[16]に記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
[18] 前記分子又は粒子は、タンパク質分子、核酸分子、これらを含む粒子又は細胞である、[15]に記載の分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、マイクロメートルサイズで分子の認識が可能で、分子の制御、捕集、輸送又は配置に用いることができ、かつコストが安価な短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の短鎖核酸複合分子の結合単位(Sモチーフ)を示す模式図である。
図2】本実施例の短鎖核酸複合分子を含むDNAハイドロゲルのヒトPTK7タンパク質との抗原結合活性を示す写真図である。
図3】本実施例の短鎖核酸複合分子を含むDNAハイドロゲルのCCRF-CEM細胞との細胞結合活性を示す写真図である。
図4】本比較例の短鎖核酸複合分子を含むDNAハイドロゲルのCCRF-CEM細胞との細胞結合活性を示す写真図である。
図5】本実施例の短鎖核酸複合分子を含むDNAハイドロゲルの3T3細胞との細胞結合活性を示す写真図である。
図6】本実施例の短鎖核酸複合分子を含むDNAハイドロゲルに対するUV刺激の作用を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法について、実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
(短鎖核酸複合分子)
本実施形態の短鎖核酸複合分子は、配列の異なる核酸をそれぞれ含む複合短鎖を2種以上備えた短鎖核酸複合分子であって、前記複合短鎖の少なくとも1種は、前記核酸からなるステム部位と分子認識部位とを備え、前記複合短鎖の少なくとも1種は、前記核酸からなるステム部位と前記核酸からなる粘着末端部位とを備え、前記複合短鎖のうち少なくとも1種は、前記ステム部位の少なくとも一部が、前記複合短鎖のうち他の1種の前記ステム部位の少なくとも一部と相補的な配列を有し、前記分子認識部位は、特定の分子に特異的に結合可能な構造を備える。
【0014】
すなわち、本実施形態の短鎖核酸複合分子は、2以上の複合短鎖を備える。複合短鎖は核酸を備えている。核酸は、核酸がある程度特異的に相互に結合するためのステム部位を備える。また、複合短鎖は、核酸が相互にある程度非特異的に結合するための粘着末端部位を備えていることがある。また、複合短鎖は、分子認識部位を備えているものがある。
【0015】
複合短鎖は、例えば、
(A)核酸からなるステム部位を備え、分子認識部位を備える複合短鎖
(B)核酸からなるステム部位を備え、粘着末端部位を備える複合短鎖
(C)核酸からなるステム部位を備え、分子認識部位および粘着末端部位を備える複合短鎖
のいずれでもあり得るが、短鎖核酸複合分子は、分子認識部位を備える複合短鎖および粘着末端部位を備える複合短鎖を少なくとも1ずつ備えている。
【0016】
(分子認識部位)
分子認識部位は、特定の分子に特異的に結合可能な構造を備えた分子である。分子認識部位は、特定の分子を特異的に認識し特異的に結合可能な構造を広く指すが、例えば核酸、ポリペプチド、糖、脂肪、その他の有機化合物、その他の分子、またはこれらの複合体が広く含まれる。特定の分子も、分子認識部位で認識され得る分子で、上記分子から選択できる。特定の分子は1種類であっても、限定された複数の種類であってもよい。
分子認識部位は、核酸またはポリペプチドであることが好ましい。ここでポリペプチドはアミノ酸が数個重合したものから、いわゆるタンパク質と呼ばれるより多数重合したものまで含む。
【0017】
分子認識部位は、複合短鎖において、核酸の鎖のいずれかの末端に結合していても、分子修飾を介して核酸の鎖の途中に結合していてもよいが、核酸の鎖のいずれかの末端に結合していることが好ましい。
【0018】
分子認識部位は、アプタマー核酸分子または抗体分子であることが好ましい。アプタマーは特定のタンパク質を認識し結合できる核酸分子、抗体分子は抗原となる種々の分子を認識し結合できるタンパク質分子である。
【0019】
分子認識部位が認識する特定の分子は、核酸またはタンパク質であることが好ましい。
【0020】
分子認識部位の大きさは、できるだけ分子量が小さくかつ特定の分子の認識および結合の活性が高い構造であることが好ましいが、目安として、上限は分子量で複合短鎖に含まれる核酸の分子量の1~3倍までが好ましい。
アプタマー核酸分子は、ステム部位のデザインにもよるが、複合短鎖の全体の長さに対して1/10以下にすることができるので特に好ましい。
【0021】
(核酸)
前記複合短鎖に含まれる核酸は、DNA及びRNAまたは化学修飾されたDNA及びRNAであってもよく、塩基配列ごとにそれらを適宜組み合わせていてもよい。例えば、後述するステム部位は特にDNAや化学修飾されたDNA及びRNAで構成されていることで、RNAよりも安定性が高くなる。
【0022】
配列の異なる核酸を2種以上含むとは、具体的には、本実施形態では、核酸のうち1種は、配列の少なくとも一部が、核酸のうち他の1種の配列の少なくとも一部と相補的な配列を有することが好ましい。
【0023】
さらに、核酸は、粘着末端部位とステム部位とをそれぞれ備え、核酸のうち1種は、ステム部位の少なくとも一部が、核酸のうち他の1種のステム部位の少なくとも一部と相補的な配列を有することも好ましい。ステム部位(Stem、後述する分岐の幹となる部分)は、核酸同士がいわゆる核酸2重結合し、後述する結合単位を形成するための配列である。粘着末端部位(Sticky End)は、結合単位が相互に粘着するための配列である。2種以上の核酸からなる結合単位がさらに結合することで、核酸の鎖と空間からなる、いわゆる網目状の構造が形成される。この網目状の構造が後述する溶媒の中で形成されると、空間に水分子が入り込み、後述する短鎖核酸が凝集してなる液滴や、ハイドロゲルの構造をとり得る。
【0024】
ステム部位は、前記粘着末端部位よりも長いことが好ましい。ステム部位が粘着末端部位よりも充分に長いことで、安定して後述する結合単位を形成することができる。また、ステム部位は8塩基以上であることが好ましい。ステム部位の長さが8塩基を下回ると、後述する結合単位を形成するのに充分でない。具体的には、結合の強さ、配列の認識、及び後述する液滴やハイドロゲルの形成に不十分となる場合がある。一方、ステム部位の長さには上限はないが、長いほど合成にコストを要する。目安として、30~40塩基であれば結合や配列の認識が充分に行え、ある程度低コストで製造することができる。
【0025】
粘着末端部位は、相互に粘着可能な配列を有する。ここで粘着とは、核酸二重結合や、その他の化学結合でもよく、他の相互作用による結合でもよい。本実施形態では、核酸の粘着末端部位同士の少なくとも一部が核酸二重結合することを特に指す。相互に結合可能な配列とは、少なくとも一部が相補的な配列で核酸二重結合が形成可能なものであってもよいし、その他に物理的、化学的に結合可能なものであってもよい。
【0026】
本実施形態では、短鎖核酸複合分子は、前記複合短鎖が結合した結合単位を備えていることも好ましい。結合単位は、複合短鎖が前記ステム部位の少なくとも一部の相補的な配列において互いに結合することにより、前記複合短鎖が3以上結合していることも好ましい。
【0027】
また、前記複合短鎖が4以上または6以上結合していることも好ましい。複合短鎖が3をこえて結合することで、認識部位や粘着末端部位を複数備えた結合単位とすることができ、結合単位の構造や分子認識の機能を様々にデザインすることができる。
【0028】
ここで、核酸が3以上結合している状態のうち、6結合している状態について、図1に例示して説明する。本実施形態の結合単位100は、図1に示すように、それぞれ結合した状態ではV字型となっている複合短鎖V1~V6を含んでいる。複合短鎖V1の一部と複合短鎖V2の一部、複合短鎖V2の一部と複合短鎖V3の一部、複合短鎖V3の一部と複合短鎖V4の一部、複合短鎖V4の一部と複合短鎖V5の一部、複合短鎖V5の一部と複合短鎖V6の一部、複合短鎖V6の一部と複合短鎖V1の一部は、それぞれ相補的な核酸配列を有し、相互に結合可能なステム部位となっている。相補的な配列が互いに結合し、それぞれの配列が核酸2本鎖の構造をとることで、複合短鎖V1~V6が図1に示すような複合短鎖が6結合した結合単位(Sモチーフ、6分岐構造)を形成する。
【0029】
複合短鎖V1~V6は、図に示した例では5’末端側にいずれも同じ配列の粘着末端部位を有する。粘着末端部位は図に示した例では8塩基からなり、5’末端側からの4塩基と3’末端側からの4塩基とが互いに相補的な配列となっているので、この配列の一部又は全部が相互に粘着しやすい。
【0030】
複合短鎖V3、V6はまた、図に示した例では5’末端側にいずれも同じ分子を認識可能な分子認識部位を備えている。図に示した例では、分子認識部位はアプタマー核酸分子である。
それぞれのステム部位のデザインにより、V3とV6のアプタマー核酸分子の配置は互いにSモチーフの両端となるようにすることができる。
複合短鎖V3およびV6において、ステム部位と分子認識部位の間には、粘着末端部位と粘着しにくい、又は粘着できない核酸配列NSが設けられている。すなわちV3において、V2とV3のステム部位が結合した際に、V2の粘着末端部位と他配列との結合を物理的に阻害したり、V3の分子認識部位がV2の粘着末端部位と結合したりしにくいように設けられている。V6についても、V5の粘着末端部位について同様となるよう設けられている。
【0031】
なお、本実施形態の短鎖核酸は、核酸が6以外にもそれ以上結合した結合単位を備えていてもよい。例えば、短鎖核酸が3~8(3~8分岐構造)結合していてもよい。また、核酸が結合した数が相互に異なる結合単位のものを混合して用いてもよい。
【0032】
本実施形態の短鎖核酸は、粘着末端部位及びステム部位が、以下の条件を満たすような配列を備えてなる。粘着末端部位の溶解温度Tm(sticky end)、ステム部位の溶解温度Tm(stem)とが、次の(1)の関係を満たす必要がある。
0 < Tm(sticky end) < Tm(stem) < 100 [単位:℃]・・・ (1)
【0033】
ここで、粘着末端部位の溶解温度Tm(sticky end)、ステム部位の溶解温度Tm(stem)とは、以下のように計算することができる。
【数1】
ΔH(sticky end): 1 M の陽イオン濃度の場合のsticky endの会合のエンタルピー変化(単位: kcal/mol)
ΔS(sticky end): 1 M の陽イオン濃度の場合のsticky endの会合のエントロピー変化(単位: kcal/(mol・K))
N(sticky end): (sticky endの塩基数)-1
ΔH(stem): 1 M の陽イオン濃度の場合のstemの会合のエンタルピー変化(単位: kcal/mol)
ΔS(stem): 1 M の陽イオン濃度の場合のstemの会合のエントロピー変化(単位: kcal/(mol・K))
N(stem): (stemの塩基数)-1
C: トータルのDNA 濃度(単位: M)
R: 気体定数=1.987×10-3 kcal/(mol・K)
In, [Ion]は水溶液中の陽イオンの実効濃度(単位: M)で、次の式で計算できる。
【数2】
ΔHとΔSはNearest-neighbor法で計算できる。Nearest-neighbor法は、例えばJohn SantaLucia Jr., “A unified view of polymer, dumbbell, and oligonucleotide DNA nearest-neighbor thermodynamics”, Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America, vol. 95, pp1460-1465 (1989)などを参照できる。
【0034】
本実施形態の複合短鎖の核酸は、上述の(1)の式を満たす配列から任意に選択できる。上述の(1)の式を満たすことで、粘着末端部位の溶解温度がステム部位の溶解温度より低い。そのため、水の沸点(100℃)未満、さらにステム部位の溶解温度未満において、温度を調節することで、ステム部位が結合したまま(後述する結合単位を保ったまま)、粘着末端部位が相互に完全に解離した状態から、一部結合又はほぼすべて結合した状態まで調節することができる。このため、後述するように複合短鎖の核酸の結合単位を含む溶液を分散相、液滴相及びゲル相へと、状態を制御することができる。
【0035】
(短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴)
ついで、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴について説明する。本実施形態の短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴は、短鎖核酸複合分子と、溶媒とを含んでなる。短鎖核酸複合分子が凝集してなるとは、短鎖核酸複合分子に含まれる構造、例えば複合短鎖や結合単位が相互に結合している状態の他、分子間力などで集まっている場合なども含む。
【0036】
溶媒は水であることが好ましい。本実施形態の液滴は、短鎖核酸複合分子が水に溶解した状態から各種の相に移行することによって形成される。溶媒は水が主であれば(例えば90質量%以上)他の成分を含んでいてもよい。例えば核酸の溶解度を上下させるpH調整剤を含んでいてもよい。
【0037】
短鎖核酸複合分子と溶媒とを含む溶液、本実施形態では短鎖核酸複合分子を水に溶解した水溶液は、分散相では液状臨界温度を超え、核酸のTm(Stem)以下の温度では、上記結合単位は、それぞれ結合単位ほぼ1つごとに分離し、溶液中に均一に分散した分散状態となっている。そのため、結合単位の水溶液という液体1相のみの状態となっている。なお、液状臨界温度は、核酸のTm (Sticky End)より高く,核酸のTm(Stem)より低いという関係を持つ。
【0038】
一方、液状臨界温度以下、ゲル臨界温度以上の温度では、結合単位のうち一部が相互に結合している。この温度の液滴相では、複数の結合単位が粘着末端部位において結合、又は会合している。この状態の核酸分子の隙間に水分子が含まれた分子集合体が、短鎖核酸が凝集してなる液滴(Droplet)となっている。溶液としては、核酸分子の濃度が希薄な主に溶液の相と、流動性を持ったマイクロ構造(液滴)に自己集合した相とに相分離した2つの相を持つ。なお、ゲル臨界温度は、液状臨界温度および核酸のTm(Stem)より低いという関係を持つ。
【0039】
個々の液滴の内部に関しては、結合単位が互いに結合して目の大きい網目状となり、その網目内を水分子が満たしている。
なお、本実施形態の液滴の大きさは主にマイクロメートルサイズをとり得る。マイクロメートルサイズとは、0。1~10000μm程度の範囲であり、主には、μmの単位で表される範囲、すなわち1~1000μmである。特に、後述する粒子又は分子の制御に適しているものとしては、数十μmまで(1~100μm程度)のものである。
【0040】
短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴は、さらに温度を下げると液滴同士が凝集し、またさらに多くの短鎖核酸複合分子の結合単位が相互に結合して、大きな液滴を含むようになる。しかし、0℃~100℃の温度では、液滴およびゲル粒子は溶液内を自由に移動可能であり、水溶液は全体として流動状態を保っている。
【0041】
ついで、ゲル臨界温度未満の温度では、液滴相よりもさらにより多くの結合単位が結合している。この温度のゲル相では、多くの結合単位が結合し、さらに大きな液滴を形成している。液滴は溶液内を移動できないものが多く、全体として流動しないゲル状態となっている。特にこの核酸と水からなるゲルを本実施形態ではハイドロゲルとも呼ぶ。溶液としては、核酸分子の濃度が希薄な主に溶液の相と、流動性をほとんど有さないマイクロ構造(ハイドロゲル)とに自己集合した相に相分離した2つの相を持つ。
【0042】
このように、本実施形態の短鎖核酸複合分子と溶媒とからなる溶液は、温度の変化により、溶液状態の分散相と、流動可能な液状ながらある程度の大きさの液滴を含む液滴相と、流動しないゲル相との間を移行することができる。
【0043】
(分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法)
ついで、本実施形態の短鎖核酸複合分子及び液滴を用いた、分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法について説明する。この方法は、本実施形態の短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴の構造を制御する工程を含む。
【0044】
短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴の構造を制御する工程は、例えば、前記液滴の温度を変化させることにより行うことができる。液滴の温度を変化させることで、液滴は前記結合単位の結合する構造が変化し、分散相、液滴相及びゲル相に変化する。本実施形態の短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴は、温度変化によってこれらの変化を相互に可逆的に、また繰り返し行うことができる。また、液滴の大きさは、マイクロメートルサイズの範囲内で温度により制御できる。このため、本実施形態の短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴は、マイクロメートルサイズで構造が制御可能な機能的な材料として用いることができる。
【0045】
短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴の構造を制御する工程は、例えば、前記核酸を切断することによっても行うことができる。核酸を切断することで、前記結合単位が分解し、又は結合単位同士の結合が分解するので、液滴を分解し、又は小さくすることができる。核酸を切断する手段としては、後述する酵素を添加することによって行うことができる。
また、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴の構造を制御する工程は、例えば、前記核酸の2本鎖結合を解離することによっても行うことができる。核酸の2本鎖結合を解離することによって、前記結合単位が分解し、又は結合単位同士の結合が分解するので、液滴を分解し、又は小さくすることができる。核酸の2本鎖結合を解離する工程は、前述の温度変化やその他の核酸の会合条件の変化、後述の酵素の添加、その他の核酸などの他の化合物の添加などによって行うことができる。
【0046】
短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴の構造を制御する工程は、例えば、液滴に酵素を添加することによっても行うことができる。ここで酵素とは、タンパク質酵素やRNA酵素(リボザイム)を含む。例えば、核酸配列との相互作用を触媒する酵素、特に、特定の核酸配列を切断する制限酵素を用いることができる。制限酵素によって、前記核酸を切断し、前述したように液滴を制御することができる。
【0047】
例えば、核酸の一部の構造をRNAとしておけば、RNAse酵素によりRNAを切断することができるので、短鎖核酸を切断し、液滴を分散させることができる。すなわち、核酸に含まれるRNAの位置や量、RNAse酵素の活性にかかわる添加条件などにより、液滴の構造を制御することができる。
【0048】
短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴の構造を制御する工程は、例えば、液滴に核酸分子を添加することによっても行うことができる。ここで核酸分子は、上述の酵素以外の配列を含む。例えば、核酸の配列との競合又は置換によって、結合単位内の核酸の結合を阻害若しくは分離させ、又は、結合単位同士の相互の結合を阻害若しくは分離させることのできる核酸分子を用いることができる。このような分子には、例えばステム部位の結合を阻害若しくは分離させる配列、粘着末端部位の結合を阻害若しくは分離させる配列の核酸を用いることができる。
【0049】
(分子、粒子又は細胞の包含)
本実施形態では、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴に分子、粒子又は細胞を包含させ、さらに前記液滴の制御を行うことで、前記分子、粒子又は細胞の捕集、輸送、配置又はセンシングを行うことができる。
ここで分子は一分子のもの、粒子は分子の集合体で、大きさに下限はなく、上限は後述のマイクロメートルサイズ(目安として、1μm以上、1mm未満)までのものを主に指す。なお、分子や粒子にはウイルス等も含まれる。細胞は特に大きさに上下限はないが、大きさに下限はなく、上限は後述のマイクロメートルサイズまでのものを主に指す。
【0050】
本実施形態では、複合短鎖に含まれる分子認識部位が特異的に認識する特定の分子を、短鎖核酸複合分子が特異的に認識する。その結果、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴(流動性の液滴や、非流動性・半流動性のゲルを含む)は、前記特定の分子と親和性を持ち、接触させるなどの制御を行うことで、前記分子またはそれを備える粒子を前記液滴が特異的に取り込むことができる。
【0051】
ここで分子、粒子又は細胞は、液滴に包含され得るものであれば、いかなる性質のものであってもよい。本実施形態の液滴はいわゆるマイクロメートルサイズであるため、分子、粒子又は細胞もマイクロメートルサイズであれば、有機物又は無機物等適宜選択できる。有機物としては例えばタンパク質、核酸、脂質や糖質などの生体分子、無機物としては例えば金属などの無機物の名の粒子がある。また、液滴よりも径の大きな分子、粒子又は細胞でも、液滴と相互に干渉、例えば複数の液滴により輸送され得るものであれば制御することが可能である。
【0052】
分子、粒子又は細胞は、タンパク質分子、核酸分子、又はこれらを含む粒子であることも好ましい。
【0053】
前記分子、粒子又は細胞は、前記短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴に親和性のある化合物によって修飾されていることも好ましい。液滴に親和性があるとは、液滴が含む溶媒又は核酸分子に親和性がある、前記分子認識部位により親和性がある、すなわち結合若しくは会合しやすい等を指すが、核酸分子に対して親和性がある分子が設計しやすいので好ましい。
分子、粒子又は細胞を、前記液滴に親和性のある化合物によって修飾することで、分子、粒子又は細胞を液滴に包含されやすくする。また、親和性を高くするだけでなく、高低を調節することで、液滴の制御による分子、粒子又は細胞の制御をさらに細かく行うこともできる。例えば、後述するように特定の核酸分子に対して親和性を高く、別の核酸分子に対して親和性を低くすることで、特定の核酸分子を含む液滴と共に分子、粒子又は細胞を制御することができる。
【0054】
短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴に親和性のある化合物は、タンパク質または核酸であることも好ましい。前記化合物がタンパク質または核酸である場合、核酸の配列の設計や、分子認識部位の選択によって液滴に含まれる核酸分子に対する親和性を調節することができる。
【0055】
また、前記化合物が核酸である場合は、粘着末端部位と粘着が可能な構造であることも好ましい。例えば、粘着末端部位と同じ配列の核酸であれば、短鎖核酸の粘着末端部位と粘着可能なので、結合体と粘着しやすく、前記親和性が高い。
【0056】
分子、粒子又は細胞を液滴に親和性のある化合物によって修飾する手段は、従来知られた方法を用いることができる。例えば、分子又は粒子がタンパク質分子、タンパク質分子からなる粒子で、修飾する化合物が核酸である場合、タンパク質又はアミノ酸に核酸を修飾する従来の手段を用いることができる。
【0057】
本実施形態では、分子、粒子又は細胞に対して、液滴に親和性のある化合物を修飾した修飾体を準備し、液滴に添加することで、包含対象が液滴に包含された包含体となる。この包含体に対して、上述した短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴の構造を制御する工程を用いることで、分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング等を行うことができる。例えば、液滴に分子、粒子又は細胞を包含させることにより、分子、粒子又は細胞の集積を行うことができる。
【0058】
また、液滴は前記手段で構造を制御し、流動可能な状態と流動できないゲル状態とを切り替えることができるので、包含体の輸送や配置を行うことができる。さらに、前記手段で構造を制御し、液滴から分散状態に切り替えることもできるため、包含体に含まれる液滴を分散状態とすれば、包含対象が有する分子、粒子又は細胞が放出される。そのため、分子、粒子又は細胞を任意の位置やタイミングで輸送又は配置を行うことができる。
【0059】
さらに、分子、粒子、細胞又はそれを修飾した修飾体と、短鎖核酸複合分子の親和性を特定に調整することで、分子、粒子又は細胞を判別することができる。例えば、修飾体のうち、短鎖核酸に対して親和性の高いものだけが液滴に包含され、親和性が低いものは液滴に包含されないので、修飾体の親和性によって分子、粒子又は細胞を判別することができ、センシングに用いることができる。
【0060】
(本実施形態の効果)
短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法によれば、特定の分子の認識が可能で、上記液滴のようにマイクロメートルサイズや、ゲルのようにそれ以上のサイズについて、構造を温度変化や化合物の添加などの容易な手段によって制御可能な機能性の高い材料が得られる。これを利用して、前記特定の分子などの生体分子の硬度な制御、捕集、輸送又は配置に用いることができる。用いる化合物が核酸を主とするであるため、設計が容易で、かつ合成のコストが安価である。分子、粒子又は細胞としてタンパク質や核酸などの生体分子が好適に制御でき、さらに特定の分子の認識が可能であるため、医療分野における生体分子の制御、捕集、輸送、配置、例えばドラッグデリバリーシステム等への応用に適している。高度に分子や粒子を選択的に制御できるため、センシングや分別にも適している。
【0061】
また、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴やゲルが、特定の分子を認識し、取り込む構造は、細胞や細胞小器官の一部が、分子を取り込み消化する機能の一部に相当する。そのため、本実施形態の技術は、細胞や細胞小器官の機能を再現し、人工的にこれらを再現する、例えばマクロファージ様の分子ロボットを開発する際に、応用することができる技術となる可能性がある。
【実施例0062】
以下、実施例を示す。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0063】
(短鎖核酸複合分子)
短鎖核酸複合分子として、8塩基のステム部位および、分子認識部位または粘着末端部位を有する配列を持つV字型の、それぞれV1~V6に相当する複合短鎖を6種類、図1に示すように互いに相補的なステム部位により6分岐構造の結合単位を形成し得るようデザインした。
すなわち、複合短鎖V1の一部と複合短鎖V2の一部、複合短鎖V2の一部と複合短鎖V3の一部、複合短鎖V3の一部と複合短鎖V4の一部、複合短鎖V4の一部と複合短鎖V5の一部、複合短鎖V5の一部と複合短鎖V6の一部、複合短鎖V6の一部と複合短鎖V1の一部は、それぞれ相補的な核酸配列を有し、温度条件によって互いに結合してSモチーフ(6分岐構造)の結合単位をとれるようデザインした。
【0064】
具体的には、複合短鎖のそれぞれは、配列番号1~6に示す配列のものを用い、後述の表の組み合わせで実施例1~3、比較例1の短鎖核酸複合分子を作成した。
【0065】
配列番号1(Six-1_8_Azo):GxCTCGAGCGCTGGACTAACGGAACGGTTAGTCAGGTATGCCAGCAC
配列番号2(Six-2_0):CTCAGAGAGGTGACAGCATTCCGTTCCGTTAGTCCAGC
配列番号3(Six-3_8_Apt_Azo-1x7-8):GxCTCGAGCCCATGGTCCCAAGTGATGTTTGCTGTCACCTCTCTGAGTTTTTTTTTTATCTAACTGCTGCGCCGCCGGGAAAATACTGTACGGTTAGA
配列番号4(Six-4_8_Azo):GxCTCGAGCCGGCGCTGTAAATTTGCGTTCATCACTTGGGACCATGG
配列番号5(Six-5_8):GCTCGAGCCAGACGTCACTCTCCAACTTCGCAAATTTACAGCGCCG
配列番号6(Six-6_8_Apt_Azo-1x7-8): GxCTCGAGCGTGCTGGCATACCTGACTTTGTTGGAGAGTGACGTCTGTTTTTTTTTTATCTAACTGCTGCGCCGCCGGGAAAATACTGTACGGTTAGA
【0066】
それぞれの相補的なステム部位は、5μMの濃度で緩衝液(20 mM Tris-HCl、350 mM NaCl、pH 8.0)とともに試験管内に加えた。なお、この複合短鎖の核酸部分のTm(sticky end)とTm(stem)とは、
0°C < 9.3 °C (Tm(sticky end)) < 66°C (Tm(stem)) < 100 °C
の関係になっていた。
【0067】
核酸複合分子としては、以下の実施例1~4を作成した。
実施例1:アゾベンゼン修飾とアプタマー核酸分子を有する核酸複合分子。複合短鎖のうち4つがアゾベンゼン修飾、2つがアプタマー核酸分子を有する。DNAハイドロゲルの組成は表1に示した。
実施例2:アゾベンゼン修飾を有する核酸複合分子。複合短鎖のうち4つがアゾベンゼン修飾を有する。DNAハイドロゲルの組成は表2に示した。
実施例3:アプタマー核酸分子を有する核酸複合分子。複合短鎖のうち2つがアプタマー核酸分子を有する。DNAハイドロゲルの組成は表3に示した。
比較例1:修飾を有さない核酸複合分子。DNAハイドロゲルの組成は表4に示した。
アプタマー(分子認識部位)は、PTK7タンパク質を認識するPTK7アプタマー核酸配列(配列番号7:Sgc8、5’-ATCTAACTGCTGCGCCGCCGGGAAAATACTGTACGGTTAGA-3’引用論文: Shangguan, D. et al. Aptamers evolved from live cells as effective molecular probes for
cancer study. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 103, 11838-11843 (2006).)を使用した。
また、DNAハイドロゲルの蛍光修飾として、Six-2_0_Cy3の5’側に[Cy3]の蛍光分子を追加したSix-2_0_Cy3(配列番号8)と、Six-5_0の5’側に[Alexa405]の蛍光分子を追加したSix-5_0_Alexa405(配列番号9)も用いた。
【0068】
配列番号8(Six-2_0_Cy3): [Cy3]- CTCAGAGAGGTGACAGCATTCCGTTCCGTTAGTCCAGC
配列番号9(Six-5_0_Alexa405)]: [Alexa405]-CAGACGTCACTCTCCAACTTCGCAAATTTACAGCGCCG
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
表中、Six-1~Six-6はSモチーフ(6分岐構造)を構成する複合短鎖で、それぞれ図1のV1~V6に対応する。Cy3およびAlexa405は染色用のラベル、Aptはアプタマー核酸分子、azо-1×7-8はアゾベンゼンによる修飾を有することを示す。
【0074】
(細胞結合活性)
(試験例1)
アプタマーSgc8の標的分子はヒトPTK7タンパク質(抗原)である。本実験はアプタマーSgc8を有するDNAハイドロゲルの標的分子であるPTK7への結合能力を解析した。
背景のキーポイントとして、
A.ヒトPTK7タンパク質はビオチン化されている。
B.ビオチン分子はストレプトアビジン(SA)に強い結合能力を示されている。
C.ストレプトアビジン(SA)は蛍光Dylight549でラベルされている。
ここで、アプタマーSgc8を有するDNAハイドロゲルが標的PTK7分子に結合すれば、このDNAハイドロゲル自身の蛍光Cy5(マゼンタで示される、図中の暗色灰色)とストレプトアビジン(SA)が持つ蛍光Dylight549(緑色で示される、図中の明色灰色)と接触、または位置が重なることが検出できる。
【0075】
CCRF-CEM細胞をプラスチック瓶状培養容器Nunc(TM)EasYFlask(TM)25cmで培養し、1.0×10個の細胞を800rpm、5分の遠心分離で回収し、4mLのPBSに懸濁した。
アプタマーを有する前記実施例3、およびアプタマーを有さない比較例1のDNAハイドロゲルをそれぞれ1μL、前記CCRF-CEM細胞懸濁液10μLと共に、37℃でインキュベートした。インキュベートした細胞-DNAハイドロゲル懸濁液5μLを取って、20μLPBSで懸濁した。
【0076】
アプタマーSgc8を有するDNAハイドロゲルの抗原親和性結合能を調べるために、5μMの短鎖DNAを同じ緩衝液中でアニールさせ、DNAハイドロゲルを合成した。形成されたDNAハイドロゲルは蛍光Cy5で染色した。
【0077】
アプタマーSgc8を有するDNAハイドロゲルを、ビオチン化されたヒトPTK7タンパク質およびDylight549ラベルSA(ストレプトアビジン)とともに、表5に記載の定義濃度で室温において1時間インキュベートした。結果は蛍光顕微鏡(FV1000, オリンパス)で確認した。
【0078】
【表5】
【0079】
図2に、短鎖核酸複合分子を含むDNAハイドロゲルのヒトPTK7タンパク質との抗原結合活性を示す写真図として、前記インキュベート後の状態を顕微鏡で観察したものを示した。(a)は蛍光Cy5(図中の暗色灰色)の染色、(b)は蛍光Dylight549(図中の明色灰色)の染色を示し、(c)は両染色のマージを示す。スケールバーは10μmである。
蛍光Cy5でラベルしたアプタマーSgc8を有するDNAハイドロゲルとストレプトアビジン(SA)が持つ蛍光Dylight549の接触、または位置が重なることから、アプタマーSgc8を有するDNAハイドロゲルが標的PTK7分子に結合していることがわかる。さらに、蛍光Dylight549がDNAハイドロゲルの表面にとどまるだけでなく、内部まで入り込んでいることが確認された。
【0080】
(試験例2)
CCRF-CEM細胞をプラスチック瓶状培養容器Nunc(TM)EasYFlask(TM)25cmで培養し、1.1×10個の細胞を800rpm、5分の遠心分離で回収し、4mLのPBSに懸濁した。
アプタマーを有する前記実施例3、およびアプタマーを有さない比較例1のDNAハイドロゲルをそれぞれ5μL、前記CCRF-CEM細胞懸濁液5μLと共に、10μLのPBSで37℃でインキュベートした。
この細胞-DNAハイドロゲル懸濁液をIX71倒立型蛍光顕微鏡(オリンパス)で観察した。結果を図3に示す。
【0081】
図3(a)および(b)は実施例3のDNAハイドロゲルとCCRF-CEM細胞をインキュベートした写真図である。図中のスケールバーは20μmである。
図中、淡色の大型・不定形の塊がDNAハイドロゲル(Cy3により、マゼンタに染色されている、図中の単色灰色で示す)であり、明色の小型・半球体の塊がCCRF-CEM細胞(Dylight549により、PTK7タンパク質がラベルされたSAにより緑色に染色されている、図中の明色灰色で示す)を示す。この結果より、実施例1を含むDNAハイドロゲルとCCRF-CEM細胞は接触、または位置が重なっており、DNAハイドロゲルと細胞とが結合していることがわかる。
【0082】
図4(a)および(b)は比較例1のDNAハイドロゲルとCCRF-CEM細胞をインキュベートした同様の写真図である。比較例1を含むDNAハイドロゲルとCCRF-CEM細胞は接触、または位置が重なっておらず、DNAハイドロゲルと細胞とが結合していない。
【0083】
これらの結果から、核酸複合分子がPTK7アプタマー核酸分子を有する実施例1を用いたDNAハイドロゲルはCCRF-CEM細胞に結合し、PTK7アプタマー核酸分子を有さない比較例1を用いたDNAハイドロゲルはCCRF-CEM細胞に結合しないことがわかる。
PTK7は、細胞表面に存在するタンパク質であり、PTK7アプタマー核酸分子は細胞表面を認識することで、細胞と結合したと考えられる。
【0084】
(試験例3)
核酸複合分子が細胞表面のPTK7以外と反応している可能性も考えられる。そのため、核酸複合分子がPTK7以外に反応し細胞と結合する可能性を検討するため、3T3細胞をあわせて用いた検討も行った。3T3細胞は、PTK7が発現していない細胞として知られる。
3T3細胞(NIH3T3、マウス胚性線維芽細胞)は、60mmセルカルチャーディッシュを用いて、2.7×10個/mLとなるよう調整した。
CCRF-CEM細胞は9.8×10/個となるよう調整した。
これらの調整した細胞をそれぞれ100μLずつ等量混合し細胞懸濁液とした。
細胞懸濁液に40μLの、Cy3ラベルされた実施例3のDNAハイドロゲル溶液を加え、37℃で細胞インキュベータ内で一晩インキュベートした。その後、IX71倒立型蛍光顕微鏡(オリンパス)で観察した。結果を図5に示す。
【0085】
図5(a)(b)中、淡色の大型・不定形の塊が実施例3のDNAハイドロゲル(Cy3により、マゼンタに染色されている)であり、明色の小型・半球体の塊がCCRF-CEM細胞(緑色に染色されている)、暗色の細胞が3T3細胞(染色されていないが、視野で確認できる)を示す。図中のスケールバーは20μmである。
図中の結果では、実施例3を含むDNAハイドロゲルとCCRF-CEM細胞は接触、または位置が重なっており、DNAハイドロゲルと細胞とが結合していることがわかる。一方で、DNAハイドロゲルと3T3細胞とは接触しておらず、位置が重なっている様子がなく、3T3細胞がDNAハイドロゲルに取り込まれる等が生じていないと考えられる。
【0086】
これらの結果から、核酸複合分子がPTK7アプタマー核酸分子を有する実施例1を用いたDNAハイドロゲルは、PTK7細胞が発現しているCCRF-CEM細胞に結合し、PTK7細胞が発現していない3T3細胞には結合しないことがわかる。このため、核酸複合分子がPTK7アプタマー核酸分子を有する実施例1を用いたDNAハイドロゲルは、特定の分子であるPTK7を認識し、それを有する細胞等に結合し、さらにゲル内に取り込む作用を持つと考えられる。
【0087】
(光応答性アゾベンゼンによるUV刺激の作用)
(試験例4)
核酸複合分子に、PTK7アプタマー核酸分子の他に、光応答性アゾベンゼンを導入し、UV刺激によりDNAハイドロゲルの挙動を操作することができるか調べた。
PTK7アプタマー核酸分子および光応答性アゾベンゼンを導入した複合短鎖を有する、前記実施例1の核酸複合分子を調整した。試験例1と同様の操作でCCRF-CEM細胞の調整と撮影を行った。
【0088】
図6(a)は、左からCy3の染色とCellTracker(TM)Greenの染色を重ねた(Merge)図、Cy3染色によるDNAハイドロゲルの図、CellTracker(TM)Greenの染色によるCCRF-CEM細胞の図を示す。
図6(b)は、このDNAハイドロゲルとCCRF-CEM細胞にサーモプレート(TPl-110RX、東海ヒット)を用いて37℃、30分間加熱した条件で紫外線(UV)を照射し、Merge図を時間ごと(0秒、20秒、40秒、60秒、80秒、120秒)観察した図である。Alexa Fluor 405染色による紫外線(UV)を照射しながらDNAハイドロゲルの挙動を観察した。図中、次第にDNAハイドロゲルの形状が変化し、例えば図中の白丸で示した部分が、0秒と120秒で異なるのが確認できる。
【0089】
この結果からは、このDNAハイドロゲルに対して紫外線を照射すると、UV刺激によりCCRF-CEM細胞を包み込むように変形していることがわかる。
すなわち、核酸複合分子が光応答性アゾベンゼンに対して反応することで、DNAハイドロゲルが流動性を増し、その際に核酸複合分子それぞれがCCRF-CEM細胞により接触しようとする方向に移動したことで、DNAハイドロゲルがCCRF-CEM細胞を包み込むような挙動となったと考えられる。
これらの結果により、光応答性アゾベンゼンの導入により、UV刺激によってDNAハイドロゲルの挙動を操作できることが示された。核酸複合分子にその他の構造、例えば修飾を導入することで、さらにDNAハイドロゲルの挙動を人為的に制御することができる可能性が示された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子、粒子又は細胞の集積、輸送、配置又はセンシング方法によれば、マイクロメートルサイズで分子の認識が可能で、分子の制御、捕集、輸送又は配置に用いることができ、かつコストが安価な短鎖核酸複合分子、短鎖核酸複合分子が凝集してなる液滴、及び、それを用いた分子又は粒子の集積、輸送、配置又はセンシング方法が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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