IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立ハイテクソリューションズの特許一覧

特開2024-176924プラント制御システム、及び、プラント制御方法
<>
  • 特開-プラント制御システム、及び、プラント制御方法 図1
  • 特開-プラント制御システム、及び、プラント制御方法 図2
  • 特開-プラント制御システム、及び、プラント制御方法 図3
  • 特開-プラント制御システム、及び、プラント制御方法 図4
  • 特開-プラント制御システム、及び、プラント制御方法 図5A
  • 特開-プラント制御システム、及び、プラント制御方法 図5B
  • 特開-プラント制御システム、及び、プラント制御方法 図6
  • 特開-プラント制御システム、及び、プラント制御方法 図7
  • 特開-プラント制御システム、及び、プラント制御方法 図8
  • 特開-プラント制御システム、及び、プラント制御方法 図9
  • 特開-プラント制御システム、及び、プラント制御方法 図10
  • 特開-プラント制御システム、及び、プラント制御方法 図11
  • 特開-プラント制御システム、及び、プラント制御方法 図12
  • 特開-プラント制御システム、及び、プラント制御方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176924
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】プラント制御システム、及び、プラント制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 13/02 20060101AFI20241212BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G05B13/02 J
G05B23/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095801
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】301078191
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平野 真琴
(72)【発明者】
【氏名】吉田 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】徳田 勇也
【テーマコード(参考)】
3C223
5H004
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223AA02
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223EB07
3C223FF02
3C223FF12
3C223FF22
3C223FF24
3C223FF42
3C223GG01
3C223HH02
5H004GA07
5H004GA08
5H004GB01
5H004GB04
5H004HA16
5H004KB02
5H004KB04
5H004KB06
5H004KB09
5H004KC01
5H004KC02
5H004KC08
5H004LA15
(57)【要約】
【課題】
外乱や遅れの影響によりモデルの予測値が不適切となった場合でも、被制御量を目標値へ速やかに収束させるような適切な操作量を出力可能な制御システムを提供する。
【解決手段】
被制御対象たるプラントの被制御量の値をその制御目標値に追従させる最適操作量を算出するプラント制御システムであって、プラントに設置されたセンサから得られた被制御量の値に基づき、状態遷移確率モデルに基づいてプラントの次の状態の被制御量の値である最適遷移値を算出する最適遷移モデルが記憶された最適遷移モデル記憶部と、予め定めた基準操作量と最適遷移モデルによって算出した最適遷移値とを用いて、最適操作量を算出する操作量計算手段と、を有する構成とした。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被制御対象たるプラントの被制御量の値をその制御目標値に追従させる最適操作量を算出するプラント制御システムであって、
前記プラントに設置されたセンサから得られた被制御量の値に基づき、状態遷移確率モデルに基づいて前記プラントの次の状態の被制御量の値である最適遷移値を算出する最適遷移モデルが記憶された最適遷移モデル記憶部と、
予め定めた基準操作量と前記最適遷移モデルによって算出した最適遷移値とを用いて、前記最適操作量を算出する操作量計算手段と、
を有することを特徴とする、プラント制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載のプラント制御システムであって、
前記操作量計算手段は、前記最適遷移値と前記プラントに設置されたセンサから得られた被制御量の計測値との偏差に基づき第1の比例補正値を算出し、前記基準操作量に加算することによって前記最適操作量を算出することを特徴とする、プラント制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載のプラント制御システムであって、
前記操作量計算手段は、前記最適遷移値と予め定めた前記プラントの被制御量の目標値との偏差に基づき第2の比例補正値を算出し、前記基準操作量に加算することによって前記最適操作量を算出することを特徴とする、プラント制御システム。
【請求項4】
請求項1に記載のプラント制御システムであって、
前記操作量計算手段は、前記最適遷移値と前記プラントに設置されたセンサから得られた被制御量の計測値との偏差につき所定時間内の累積値を計算し、該累積値に基づき算出した第1の積分補正値を前記基準操作量に加算することによって前記最適操作量を算出することを特徴とする、プラント制御システム。
【請求項5】
請求項1に記載のプラント制御システムであって、
前記操作量計算手段は、前記最適遷移値と予め定めた前記プラントの被制御量の目標値との偏差につき所定時間内の累積値を計算し、該累積値に基づき算出した第2の積分補正値を前記基準操作量に加算することによって前記最適操作量を算出することを特徴とする、プラント制御システム。
【請求項6】
請求項1に記載のプラント制御システムであって、
前記操作量計算手段は、前記最適遷移値の時間変化率と前記プラントに設置されたセンサから得られた被制御量の計測値の時間変化率との偏差に基づき微分補正値を算出し、前記基準操作量に加算することによって前記最適操作量を算出することを特徴とする、プラント制御システム。
【請求項7】
請求項1に記載のプラント制御システムであって、
前記操作量計算手段は、
前記最適遷移値と前記プラントに設置されたセンサから得られた被制御量の計測値との偏差に基づき第1の比例補正値を算出し、
前記最適遷移値と予め定めた前記プラントの被制御量の目標値との偏差に基づき第2の比例補正値を算出し、
前記最適遷移値と前記プラントに設置されたセンサから得られた被制御量の計測値との偏差につき所定時間内の累積値を計算し、該累積値に基づき第1の積分補正値を算出し、
前記最適遷移値と予め定めた前記プラントの被制御量の目標値との偏差につき所定時間内の累積値を計算し、該累積値に基づき第2の積分補正値を算出し、
前記最適遷移値の時間変化率と前記プラントに設置されたセンサから得られた被制御量の計測値の時間変化率との偏差に基づき微分補正値を算出し、
前記第1の比例補正値と前記第2の比例補正値と前記第1の積分補正値と前記第2の積分補正値と前記微分補正値との総和を前記基準操作量に加算することによって前記最適操作量を算出することを特徴とする、プラント制御システム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のプラント制御システムであって、
前記算出した最適操作量を記憶する記憶手段を有し、
前記記憶手段に記憶された最適操作量を前記基準操作量とすることを特徴とする、プラント制御システム。
【請求項9】
請求項8に記載のプラント制御システムであって、
前記記憶手段は、所定期間における複数の算出された前記最適操作量を時系列データとして記憶し、前記記憶された時系列データから前記基準操作量を算出することを特徴とする、プラント制御システム。
【請求項10】
請求項7に記載のプラント制御システムであって、
前記プラントを制御する設定値及び命令を入力し、制御結果に関する情報を出力する入出力装置を有し、
前記入出力装置は、前記被制御量のトレンドグラフと、前記操作量計算手段にて算出する最適操作量を調整するパラメータの値を入力する入力欄とを並べて表示することを特徴とする、プラント制御システム。
【請求項11】
被制御対象たるプラントの被制御量の値をその制御目標値に追従させる最適操作量を算出するプラント制御方法であって、
前記プラントに設置されたセンサから得られた被制御量の値に基づき、状態遷移確率モデルに基づいて前記プラントの次の状態の被制御量の値である最適遷移値を算出する最適遷移モデルを記憶し、
予め定めた基準操作量と前記最適遷移モデルによって算出した最適遷移値とを用いて、前記最適操作量を算出し、
前記算出した最適操作量を前記プラントに与えることを特徴とする、プラント制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラント制御システム、及び、プラント制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今のプラント分野では、予測に基づいた制御操作を実現可能なAI技術が盛んに開発されている。具体的には、AI技術を用いて既存の運転データからプラントの将来状態を予測するモデルを構築し、それに基づいて最適な制御操作を実施可能とすることが望まれる。ここでの最適な制御操作とは、速やかにプラントの信号値を安定化させること、つまり、プラントの状態を示す被制御信号を目標値へ収束させるような制御操作を指す。AI技術は、プラント状態の予測に基づいた制御操作が可能なため、PID制御等の従来制御よりも高精度な制御が期待できる。
【0003】
従来、この種の技術としては特許文献1に記載のものがあった。特許文献1に開示された手法では、無限時間先のプラント状態とその周辺環境の将来状態を確立密度分布形式で計算できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-159876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
AI技術はプラントの状態を高精度に予測することが可能な反面、その予測した結果を基に最適な制御操作量を算出することは必ずしも容易ではない。また、AIは確率的挙動のうちの特定の一点を予測値として出力するため、予測と実測とが必然的にずれてしまい、何らかの対応をしないと制御性能が低下することもある。
【0006】
すなわち、AI技術によるプラント制御を実施中、予期せぬ外乱が加わった場合や状態の遷移に遅れが生じた場合、あるいはその他の要因等によってプラントの状態が想定以上に大きく変化した場合等はAIが構築したモデルの予測値が不適切になる場合がある。これは、予測モデル構築の際に用いる過去の運転データにプラントの全状態変化が盛り込まれているわけではないことによる。つまり、遅れや外乱によってプラント状態に稀有な変化が生じた場合、AIは将来のプラント状態を予測することが困難になる。
【0007】
このような背景から、AIが構築したモデルの予測値が、外乱や遅れによって不適切になった場合でも適切な制御操作量を算出可能な方式が望まれる。
【0008】
すなわち本発明の目的は、外乱や遅れの影響によりモデルの予測値が不適切となった場合でも、被制御量を目標値へ速やかに収束させるような適切な制御操作量を算出可能な制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願発明のプラント制御システムは、被制御対象たるプラントの被制御量の値をその制御目標値に追従させる最適操作量を算出するプラント制御システムであって、プラントに設置されたセンサから得られた被制御量の値に基づき、状態遷移確率モデルに基づいてプラントの次の状態の被制御量の値である最適遷移値を算出する最適遷移モデルが記憶された最適遷移モデル記憶部と、予め定めた基準操作量と最適遷移モデルによって算出した最適遷移値とを用いて、最適操作量を算出する操作量計算手段と、を有する構成とした。
【発明の効果】
【0010】
外乱や遅れの影響によりモデルの予測値が不適切となった場合でも、被制御量を目標値へ速やかに収束させるような適切な操作量を出力可能な制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例に係るプラント制御システムの構成例を示す図。
図2】データ格納部に格納されているプラント信号値の構成例を示す図。
図3】入力情報格納部に格納されているユーザー入力情報の構成例を示す図。
図4】制御実施時の処理フロー例を示す図。
図5A】操作量計算手段の構成を示す図。
図5B】操作量計算手段の処理フロー例を示す図。
図6】操作量計算手段のIP型比例補正部の処理フロー例を示す図。
図7】操作量計算手段のIS型比例補正部の処理フロー例を示す図。
図8】操作量計算手段のIP型積分補正部の処理フロー例を示す図。
図9】操作量計算手段のIS型積分補正部の処理フロー例を示す図。
図10】操作量計算手段の微分補正部の処理フロー例を示す図。
図11】入出力装置にて必要情報をユーザーが入力する画面の例。
図12】制御パラメータの入力画面と制御結果を表示する画面の例。
図13】本発明の第2の実施例に係るプラント制御システムの構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明の実施例について説明する。
【実施例0013】
(1)システムの概要
本発明の実施例1に係るプラント制御システムの概要について図1を参照して説明する。
図1のプラント制御システムは、主にモデル作成部100と制御部110とからなり、それらは入出力装置1と、データ格納部2と、入力情報格納部3と、最適遷移モデル計算手段4と、最適遷移モデル記憶部5と、操作量計算手段6と、プラント7により構成されている。
【0014】
本システムは、最適遷移モデル記憶部5により出力された最適遷移値(最適遷移値については後述する)に基づき、操作量計算手段6で操作量を算出し、該操作量をプラント7が受け取り、そして、該操作量の影響を受けて変化したプラントの信号値を最適遷移モデル記憶部5へ入力する、というやり取りを繰り返すことでリアルタイム制御を行い、プラント7を最適な目標に制御する。つまり、モデル作成部100で最適遷移モデルを作成し(後述する)、そのモデルを用いて制御部110でプラント7(被制御対象)の遷移値が目標値になるよう、常に最適な制御信号(操作量)を与えるべくフィードバック制御している。また、モデル作成部100による最適遷移モデルの作成処理は、被制御対象たるプラント等の運転開始時やモデルの精度が低下した場合など、定期的もしくは所定のタイミングで実施すればよい。
【0015】
本プラント制御システムは、係る構成により、プラントの外乱や遅れの影響で該最適遷移値が不適切になった場合でも、適切な操作量を算出することが可能となる。
【0016】
(2)各部の構成と働き
次に、本実施例における各部の詳細やそれらの動作・作用等について、以下、詳細に説明する。
【0017】
(2-1)入出力装置1
入出力装置1は、プラントの係員等によって、本プラント制御システムでの処理を開始する処理開始信号等の各種命令や各種設定値を入力したり、本プラント制御システムで制御されたプラントから出力される各種データを確認するために使用されるものであって、表示装置(ディスプレイ)とキーボード及びマウス等によって構成されている。入力機能と出力機能(表示機能)とを有するタッチパネルで構成されるようにしてもよい。
【0018】
(2-2)データ格納部2
データ格納部2では、複数種類のプラント信号値が格納されている。ここで、データ格納部2は、入出力装置1から処理開始信号を受け取った際、該プラント信号値を最適遷移モデル計算手段4へ出力する。また、本プラント制御システムが観測したプラント信号値も、リアルタイムにデータ格納部2へと蓄積されていく。
【0019】
図2は、データ格納部2に保存されている過去のプラント信号値の一例である。図2に示すテーブルの1行目には、信号値の種類名が記載されており、1列目には、信号値の取得時刻が記載されている。そして、1列目以降の各列に信号値の種類名に応じた、信号値の時系列データが格納されている。ここで格納される信号値は、プラントの種類や、センサの設置情報によって異なる。そして、これら信号値は、最適遷移モデル計算手段4において、最適遷移モデルを作成する際に用いられる(最適遷移モデルの説明は後述する)。
【0020】
(2-3)入力情報格納部3
入力情報格納部3では、入出力装置1でユーザーが入力した情報が格納される。ここで格納された情報は、最適遷移モデル計算手段4と操作量計算手段6で用いられる。
【0021】
図3は、入力情報格納部3に保存された該ユーザー入力情報の一例である。図3に示すテーブルの1列目には、項目名が記載されており、2列目には項目毎にユーザーが実際に入力した情報が格納されている。これらの内、使用信号(E1)は最適遷移先計算手段4で最適遷移モデルを作成する際に用いられるプラントでの各種の信号名を示している。また、操作信号(E2)は、操作対象の信号名を示しており、被制御信号(E3)は、被制御対象の信号名を示している。そして、被制御信号の目標値(E4)は被制御信号(E3)の目標値を示している。制御周期(E5)は、リアルタイム制御の際の制御周期を示している。つまり、プラントと何秒間隔でやり取りをするかを示している。
【0022】
これら情報について、火力発電プラントを例にとって具体的に説明する。火力発電プラントは、燃焼により生成した蒸気を用いてタービンを回し、発電を行うが、その際蒸気温度を目標温度一定にし続ける必要があるため、生成蒸気にスプレー注水を行う。そして、この注水量を調節することによって、蒸気温度を制御する。
【0023】
この場合、操作信号(E2)は注水量、被制御量信号(E3)は蒸気温度、目標値(E4)は被制御量信号(E3)の目標値(蒸気温度の目標温度)となる。また、使用信号(E1)は、該蒸気温度や該注水量を含めたその他の信号値を指す。
【0024】
一方、図3に示す比例ゲインKp(E6)、比例ゲインKs(E7)、積分ゲインKip(E8)、積分ゲインKis(E9)、変化率ゲインKr(E10)、積分飽和上限値emax(E11)、積分飽和下限値emin(E12)、積分時間N(E13)は操作量計算手段6で操作量を計算する際に用いられるパラメータであって、過去からの経験則等に基づき、係員等によって入出力装置1にて設定(入力)される。具体的な利用方法は後述する。
【0025】
(2-4)最適遷移モデル計算手段4
最適遷移モデル計算手段4では、データ格納部2に保存されている過去のプラント信号値と、入力情報格納部3に保存されているユーザー入力情報を受け取り、最適遷移モデルを作成する。最適遷移モデルとは、ユーザー入力情報において使用信号に指定された信号値を入力として、被制御信号が将来遷移する状態を予測し、出力するモデルである。該予測値が何時間分先を予測するかは、制御周期に依存する。つまり、制御周期が1分であれば、1分後の被制御量の予測値を出力する。
【0026】
また、最適遷移モデルの作成方法は、特許文献1に示す方法や機械学習手法等の既存の方法でよい。そして、最適遷移モデルの保存形式はテーブル形式やニューラルネットワークのようなパラメータが決まった具体的な数式等が考えられる。
【0027】
(2-5)最適遷移モデル記憶部5
最適遷移モデル記憶部5では、最適遷移モデル計算手段4で作成された最適遷移モデルを保存する。制御時には、プラントから出力されたリアルタイム信号値を基に最適遷移モデルが遷移最適値を出力する。ここで、N時間分のリアルタイム信号値が、最適遷移モデル記憶部5に保存される。Nとは、ユーザー入力情報に含まれる積分時間を指す。該最適遷移値とは、該最適遷移モデルが出力する値を指す。具体的には、プラントの被制御信号の予測値、もしくは何らかの指示値を指す。
【0028】
(2-6)操作量計算手段6
操作量計算手段6は、図1に示すIP型比例補正部61、IS型比例補正部62、IP型積分補正部63、IS型積分補正部64、微分補正部65から成り、各補正部において補正値を算出し、IP型比例補正部61では基準操作量に該補正値を加算し、IS型比例補正部62~微分補正部65では各々算出した補正値にその前段に配置された補正部で補正された操作量を順次加算していくことで、最終的な操作量(最適操作量)を決定する。
【0029】
(2-7)プラント7
プラント7にはユーザー(係員等)が当該プラントを操作・制御するために各種命令や設定等を行う操作端71と、当該プラントの動作に伴って発せられる各種の信号値を計測する計測端72とを有する。
【0030】
(3)プラント制御の全体フロー
プラントをリアルタイム制御する際の処理フローを図4に示す。ここから、図1図4を用いて、リアルタイム制御のフローを説明する。ステップS1では、最適遷移モデル記憶部5がプラント7から計測された信号値を取得する。ステップS2では、該信号値を基に最適遷移モデルが最適遷移値を算出する。なお、以上のステップS1及びS2の処理は最適遷移モデル記憶部5にて行われる。
【0031】
ステップS3では、操作量計算手段6において最適遷移値と基準操作量を基にプラントを制御するための最適操作量を計算し、プラント7へ出力する(基準操作量とはプラントの特性に基づいて、少なくとも1つ以上の信号値の組み合わせに対応して、操作量の基準値として予め定義されたものであり、プラントの設計時に適切な値が採用される。あるいは、プラント稼働後にユーザー(係員)によって、入出力装置1から任意の値を設定することもできる(この場合、設定した値は入力情報格納部3に図3のテーブルの形式で保存されることになる)。操作量計算手段6における具体的な最適操作量の算出手順は後述する。なお、以上のステップS3の処理は操作量計算手段6にて行われる。
【0032】
ステップS4では、操作量計算手段6で算出された最適操作量をプラント7が取得し、ユーザーは操作端71を該最適操作量に基づいて操作する。そして、操作端71の操作を受けて変化したプラントのリアルタイム信号値を計測端72が計測する。ステップS5では、該リアルタイム信号値を入出力装置1と最適遷移モデル記憶部5へ出力する。
【0033】
そして、ステップS1~S5を通してプラントと逐次的なやり取りを行い、リアルタイム制御を実施する。本リアルタイム制御は、入出力装置1において、ユーザーが終了指示を送ることで終了する。入出力装置1の詳細な画面例は後述する。
【0034】
(4)最適操作量の算出方法
次に、操作量計算手段6における最適操作量を算出する処理について、詳細に説明する。操作量計算手段6の詳細構成を図5Aに、また、操作量計算手段6で操作量を算出する処理のフローを図5Bに示す。
【0035】
(4-1)ステップSS1
図5Bに示すステップSS1では、基準操作量60と最適遷移モデル記憶部5から出力された最適遷移値(図4のステップS2で算出)およびリアルタイム信号値およびユーザー入力情報を取得する。ここで取得するリアルタイム信号値は、入出力装置にてユーザーが使用信号(E1)として設定した信号値であって、プラント7から出力される実際の計測値を指す。また、ユーザー入力情報とは各補正部61~65において補正値を算出する際に使用するパラメータであって、具体的には図3の比例ゲインKp(E6)や比例ゲインKs(E7)~積分時間N(E13)が相当する。
【0036】
(4-2)ステップSS2
ステップSS2では、IP型比例補正部61にて算出された比例補正値を基準操作量に加算してIP型比例補正基準操作量を算出する。図6に、IP型比例補正部61における比例補正値の算出処理フローを示す。ステップSA1では、被制御信号の最適遷移値PV_Idealとリアルタイムの被制御信号値PV_Realと比例ゲインKpを取得する。ステップSA2では、(1)式を用いて、比例補正値Cpを計算する。
【0037】
【数1】
【0038】
そして、ステップSA3では、比例補正値Cpを基準操作量に加算してIP型比例補正基準操作量を算出する。
【0039】
(4-3)ステップSS3
SS3では、IS型比例補正部62にて算出された比例補正値をIP型比例補正基準操作量に加算してIS型比例補正基準操作量を算出する。
【0040】
図7に、IS型比例補正部62における比例補正値の算出処理フローを示す。ステップSB1では、被制御信号の最適遷移値PV_Idealと被制御信号の目標値SVと比例ゲインKsを取得する。次に、ステップSB2では、(2)式を用いて、比例補正値Csを計算する。
【0041】
【数2】
【0042】
そして、ステップSB3では、比例補正値CsをステップSS2で算出したIP型比例補正基準操作量に加算してIS型比例補正基準操作量を算出する。
【0043】
(4-4)ステップSS4
ステップSS4では、IP型積分補正部63にて算出された積分補正値をIS型比例補正基準操作量に加算してIP型積分補正基準操作量を算出する。
【0044】
図8に、IP型積分補正部63における積分補正値の算出処理フローを示す。ステップSC1では、N秒分の被制御信号の最適遷移値PV_IdealとN秒分のリアルタイムの被制御信号値PV_Realと積分飽和上限値emaxと積分飽和下限値eminを取得する。上述のNは、ユーザー入力情報に含まれる積分時間N(E13)を指す。ステップSC2では、(3)式を用いて、積分補正値Cipを計算する。ステップSC3では、(4)式を用いて、Cipの値を決定する。
【0045】
つまり(4)式は、条件分岐により、Cipの値を制限する役割を果たす。具体的には、積分飽和上限値emax超えない、且つ、積分飽和下限値eminを下回らないように、Cipの値を制限する。
【0046】
【数3】
【0047】
【数4】
【0048】
ステップSC4では、積分補正値CipをステップSS3で算出したIS型比例補正基準操作量に加算してIP型積分補正基準操作量を算出する。
【0049】
(4-5)ステップSS5
ステップSS5では、IS型積分補正部64にて算出された積分補正値をIP型積分補正基準操作量に加算してIS型積分補正基準操作量を算出する。
【0050】
図9に、IS型積分補正部64における積分補正値の算出処理フローを示す。ステップSD1では、N秒分の被制御量の最適遷移値PV_Idealと被制御信号の目標値SVと積分ゲインKisと積分飽和上限値emaxと積分飽和下限値eminを取得する。
【0051】
ステップSD2では、(5)式を用いて、積分補正値Cisを計算する。ステップSD3では、(6)式を用いてCisの値を決定する。(6)式は、Cipの算出と同様に、条件分岐によりCisの値を制限する役割を果たす。
【0052】
【数5】
【0053】
【数6】
【0054】
ステップSD4では、積分補正値CisをステップSS4で算出したIP型積分補正基準操作量に加算してIS型積分補正基準操作量を算出する。
【0055】
(4-6)ステップSS6
ステップSS6では、微分補正部65にて算出された微分補正値をIS型積分補正基準操作量に加算して、最終的な最適操作量を算出する。
【0056】
図10に、微分補正部65における微分補正値の算出処理フローを示す。ステップSE1では、被制御信号の変化率の最適遷移値(dPV / dt)_Idealとリアルタイムの被制御信号の変化率(dPV / dt)_Realと変化率ゲインKrを取得する。なお、被制御信号の変化率の最適遷移値とリアルタイムの被制御信号の変化率については、最適遷移モデル記憶部に記憶された最適遷移モデルにて算出する。
【0057】
ステップSE2では、(7)式を用いて積分補正値Crを計算する。
【0058】
【数7】
【0059】
ステップSE3では、該積分補正値CrをステップSS5で算出したIS型積分補正基準操作量に加算して、最終的な最適操作量を算出する。
【0060】
(4-7)各補正部の作用効果
各補正部(61~65)及びそのパラメータの作用効果を補足すると、以下の通りである。
<IP型比例補正部61>
・プラントの操作量の変化に対する被制御量の変化の応答が、何らかの理由(例えば、プラント特性の変化等)により、学習した時よりも小さくあるいは大きくなったとき、従来の学習データに合わせたゲインでは上手く制御できなくなるという問題を生じる。このような場合に、IP型比例補正を使うと、予測と実測とのずれを補正をするように、制御の強度を変えることによって、被制御量の変化に応じた適切な強度の制御操作を実現することが可能になり、この結果、被制御量を目標値に近づけることが可能になる。
・ゲインの大小によって、その対応性をユーザーが適宜調節することが可能となり、被制御量の目標値への追従性を高めることが可能となる。
【0061】
<IS型比例補正部62>
・被制御量を目標値へと近づける機能を有する。
・ゲインの大小によって、その対応性をユーザーが適宜調節することが可能となり、被制御量の目標値への追従性を高めることが可能となる。一方で、ゲインが大きすぎると近づける力が強まりすぎて、被制御量の動きが振動的となることがある。
【0062】
<IP型積分補正部63>
・長周期の外乱等により、被制御量についてのAIの予測と実際の挙動が、一貫してずれているとき、そのギャップを埋めて、被制御量を目標値に接近させることができる。
・ゲインの大小によって、その対応性をユーザーが適宜調節することが可能となり、被制御量の目標値への追従性を高めることが可能となる。
【0063】
<IS型積分補正部64>
・長周期の外乱等により、被積分量についてのAI予測が、被制御量の目標値に対して一定時間の間、偏差が続いているとき、その外乱の影響を補正して、目標に確実に接近させることができる。
・ゲインの大小によって、外乱に抗う力が調節される.従って、ゲインが大きすぎると被制御量が目標値を超過してしまい、被制御量を目標値に調整するまでに時間がかかることがある。
【0064】
<微分補正部65>
・被制御量が目標値へ向かう速度を調整する機能を有する。
・ゲインの大小によって、被制御量の目標値へ向かう速度が調節される。従って、ゲインが大きすぎると、被制御量が目標値に近づくまでに時間がかかることがある。
【0065】
(4-8)まとめ
以上で示したように、操作量計算手段6は、ユーザーが調整可能なパラメータKp、Ks、Kip、Kis、Kr、emax、emin、Nを有する複数の補正部から成り、これらが相互的に機能することでプラントを適切に制御することが可能となる。具体的には、外乱や遅れの影響によりプラントの状態が変化した場合でも、その状態を見ながらユーザーが該パラメータを設定し、適切な操作量を算出することが可能である。
【0066】
すなわち、各補正部(61~65)はそれぞれ単独でも、あるいは、任意の組合せでも作用効果を奏するものであり、例えば、プラントの状態等に応じて、IP型比例補正部61とIS型積分補正部64のみを使用し、他の補正部は使用しないような使い方も可能である。この場合、IP型比例補正部61の比例ゲインKpとIS型積分補正部64の積分ゲインKisを通常よりも大きめに設定し、他の補正部のゲインをゼロに設定することによって実施可能である。
【0067】
また、図5に示したフローでは、IP型比例補正部61では基準操作量に該補正値を加算し、IS型比例補正部62~微分補正部65では各々算出した補正値にその前段に配置された補正部で補正された操作量を順次加算していく態様を説明したが、各補正部61~65で各々算出した補正値を全て加算した後に、その値を基準操作量に加算するようにしてもよい。
【0068】
(5)表示画面例
次に、図1に示す入出力装置1の表示画面例について説明する。図11および図12は、最適遷移モデル計算手段4と操作量計算手段6における処理を実行する上で、必要となる情報をユーザーが入力する画面(図11)と、その制御結果を出力すると共にゲイン調整を行う画面(図12)の例である。
【0069】
図11のG1は、プラント7が出力する複数種類の信号をユーザーが選択するための選択欄を表示する。本G1にある複数信号から処理に用いる信号を、ユーザーは一つもしくは複数個選択することができる。
G2は、操作したい信号をユーザーが選択するための入力欄を表示する。ユーザーは、複数信号の中から操作したい信号(操作信号)を選択する。
G3は、制御したい信号値(被制御信号)をユーザーが選択して入力する入力欄を表示する。ユーザーは、複数種の信号から被制御信号を選択する。
G4は、被制御信号させる際の目標値を選択して入力するための入力欄を表示する。ユーザーは、被制御信号の目標値として、任意の値を入力する。
G5は、制御を行う際の制御周期をユーザーが入力するための入力欄を表示する。ユーザーは、制御周期を入力する。なお、本制御周期は秒単位での入力となる。
G6は、制御開始ボタンを表示する。上述した各入力欄をユーザーが入力した後、該制御開始ボタンをクリックすることで、制御システムが制御を実施する。
G7は、制御停止ボタンを表示する。ユーザーが制御停止ボタンをクリックすることでリアルタイム制御を停止する。
【0070】
図12のGG1は、ある信号値のトレンドグラフを表示する。本トレンドグラフにマウスカーソルを合わせると、カーソルを合わせた箇所の時刻と信号値が表示される。表示される信号値のトレンドグラフは、GG2に表示される信号値一覧からユーザーが選択する。トレンドグラフの縦軸の単位は、パーセントで表示されている。GG3では、GG1で表示されるトレンドグラフの縦軸の表示範囲を決定するための、最大値と最小値をユーザーが入力するための入力欄を表示する。つまり、GG1の縦軸のパーセンテージでは、GG3で入力された最大値が100%、最小値が0%に対応する。
【0071】
次に、GG4~GG11は、操作量計算手段6において操作量を調節するために用いられるパラメータの値をユーザーが入力するための入力欄を表示する。
GG4では、IP型比例補正部61で用いる比例ゲインKpをユーザーが入力するための入力欄を表示する。
GG5では、IS型比例補正部62で用いる比例ゲインKsをユーザーが入力するための入力欄を表示する。
GG6では、IP型積分補正部63で用いる積分ゲインKipをユーザーが入力するための入力欄を表示する。
GG7では、IS型積分補正部64で用いる積分ゲインKisをユーザーが入力するための入力欄を表示する。
GG8は、微分補正部65で用いる変化率ゲインKrをユーザーが入力するための入力欄を表示する。
GG9では、IP型積分補正部63とIS型積分補正部64で用いる積分飽和上限値emaxをユーザーが入力するための入力欄を表示する。
GG10では、IP型積分補正部63とIS型積分補正部64で用いる積分飽和下限値eminをユーザーが入力するための入力欄を表示する。
GG11では、IP型積分補正部63とIS型積分補正部64で用いる積分時間Nをユーザーが入力するための入力欄を表示する。
ユーザーはGG1に示す信号値のトレンドグラフを確認しつつGG4~GG11に示すパラメータを最適な値に設定したり調整することができる。ここで述べた最適なパラメータとは、被制御信号が目標値へ速やかに整定するような、パラメータの組み合わせを指す。
【0072】
以上に述べたように、本実施例によれば、プラントの状態を確認しながら、複数のパラメータをユーザーが任意に設定することで、適切な操作量を算出することが可能となる。この精緻なパラメータ調整によって、外乱や遅れの影響でプラントの状態が変化した場合でも、適切にプラントを制御可能である。
【実施例0073】
実施例1では基準操作量60は予め定めた設定値としていたが、最適な値を設定することが難しい場合もある。そこで本実施例では、基準操作量60として、一時刻前(一制御サイクル前)に算出した最適操作量を基準操作量として使用する。図13に本実施例のプラント制御システムの構成を示す。図1に示した実施例1との相違点は、操作量計算手段6から出力された最適操作量を記憶する最適操作量記憶手段8を新たに設けた点である。
【0074】
すなわち、図1における操作量計算手段6に対して基準操作量60を入力する代わりに、操作量計算手段6から出力された最適操作量をプラント7へ入力すると共に最適操作量記憶手段8へも入力してその値を記憶し、操作量計算手段6が次の最適操作量を計算する際の基準操作量(基準操作量60A)として使用するようにしたものである。
【0075】
本構成を採用することよって、基準操作量の最適値の事前設定が難しい場合においても適切な値を操作量計算手段6へ与えることができる。
【0076】
また、最適操作量記憶手段8では、一時刻前(一制御サイクル前)に算出した最適操作量だけでなく、過去の所定の期間の最適操作量を時系列データとして記憶し、それらの平均値を操作量計算手段6へ入力するようにしてもよい。これによって、最適操作量が一時的に大きく変動した場合等の影響を軽減し、より適した値を操作量計算手段6へ与えることができる。
【0077】
さらに、最適操作量記憶手段8では、最適操作量の過去の時系列データをその取得条件(例えば、月日、時間帯、天候、気温等)と併せて記憶し、新たに最適操作量を計算する際には類似の条件で取得されたデータを用いて基準操作量を算出するようにしてもよい。これによって、より適した値を操作量計算手段6へ与えることができる。
【符号の説明】
【0078】
1:入出力装置
2:データ格納部
3:入力情報格納部
4:最適遷移モデル計算手段
5:最適遷移モデル記憶部5
6:操作量計算手段
7:プラント
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13