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特開2024-176935モデル材用組成物、造形物、およびインクジェット光造形用組成物セット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176935
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】モデル材用組成物、造形物、およびインクジェット光造形用組成物セット
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/314 20170101AFI20241212BHJP
   B29C 64/112 20170101ALI20241212BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20241212BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B29C64/314
B29C64/112
C08F2/44 B
C08F290/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095829
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】西村 佳朗
【テーマコード(参考)】
4F213
4J011
4J127
【Fターム(参考)】
4F213AA39
4F213AA42
4F213AA43
4F213AA44
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL12
4F213WL23
4F213WL62
4J011PA45
4J011QA03
4J011QA12
4J011QA13
4J011QA14
4J011QA23
4J011QA39
4J011QA45
4J011QA46
4J011QB24
4J011SA02
4J011SA13
4J011SA16
4J011SA84
4J011UA01
4J011UA09
4J127BB031
4J127BB091
4J127BB221
4J127BC021
4J127BD411
4J127BG041
4J127CB151
4J127CB163
4J127CB282
4J127CC021
4J127CC132
4J127CC293
4J127DA26
4J127DA61
4J127EA13
4J127FA06
(57)【要約】
【課題】高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物を得ることができる、モデル材用組成物を提供すること。
【解決手段】インクジェット光造形法によりモデル材を造形するためのモデル材用組成物であって、組成物の総質量に基づいて、60質量%以下の、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上の単官能エチレン性不飽和モノマー(A)と、10質量%以上50質量%以下の、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上の二官能エチレン性不飽和モノマー(B)と、5質量%以上20質量%以下の多官能チオールモノマー(C)と、光重合開始剤(D)とを含有し、三官能以上のエチレン性不飽和モノマーの含有量は、組成物の総質量に基づいて10質量%未満であり、前記組成物から造形される造形物のガラス転移温度は60℃以上である、モデル材用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット光造形法によりモデル材を造形するためのモデル材用組成物であって、組成物の総質量に基づいて
60質量%以下の、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上の単官能エチレン性不飽和モノマー(A)と、
10質量%以上50質量%以下の、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上の二官能エチレン性不飽和モノマー(B)と、
5質量%以上20質量%以下の多官能チオールモノマー(C)と、
光重合開始剤(D)とを含有し、
三官能以上のエチレン性不飽和モノマーの含有量は、組成物の総質量に基づいて10質量%未満であり
前記組成物から造形される造形物のガラス転移温度は60℃以上である、モデル材用組成物。
【請求項2】
オリゴマーの含有量は、組成物の総質量に基づいて20質量%以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記オリゴマーは、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、およびポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記多官能チオールモノマー(C)は、三官能または四官能のチオールモノマーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記三官能のチオールモノマーは、1,3,5-トリス(2-(3-スルファニルブタノイルオキシ)エチル)-1,3,5-トリアジナン-2,4,6-トリオンまたはトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記四官能のチオールモノマーは、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)またはペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
前記光重合開始剤(D)の含有量は、組成物の総質量に基づいて0.1質量%以上15質量%以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
40mm×5mm×2mmの試験片の中心を25℃50%RTで、5kgの荷重で押し込んだ時のたわみとして算出される屈曲度は12mm以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物から造形される造形物のショアD硬度は65以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記成分(A)はイソボルニルアクリレートを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記成分(A)はアクリロイルモルフォリンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記インクジェット光造形法に使用する光源はLEDである、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1に記載の組成物から造形される造形物。
【請求項14】
請求項1に記載の組成物と、インクジェット光造形法によりサポート材を造形するためのサポート材用組成物とを含んでなる、インクジェット光造形用組成物セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット光造形法に用いられるモデル材用組成物、該モデル材用組成物から造形される造形物、および該モデル材用組成物を含むインクジェット光造形用組成物セットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光硬化性組成物に紫外線等の光を照射して所定の形状を有する硬化層を連続的に形成することにより、立体造形物を作製する方法が広く知られている。中でも、マテリアルジェットノズルから光硬化性組成物を吐出させ、その直後に紫外線等の光を照射して組成物を硬化させることにより、所定の形状を有する硬化層を積層して立体造形物を作製するマテリアルジェット方式(インクジェット方式)による光造形法(以下、「マテリアルジェット光造形法」ともいう)は、CAD(Computer Aided Design)データに基づいて自由に立体造形物を作製できる小型の造形装置(3Dプリンター)により実現可能な造形法として、広く注目されている。
【0003】
光硬化性組成物を光硬化して得られる立体造形物が、造形後に自重で垂れ下がり変形することなく、その形状を維持できるよう、光硬化後の樹脂組成物の硬度を高めることが重要である。光硬化後の樹脂組成物の硬度を高めるために、例えば二官能以上のモノマーを主成分として含む組成物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007-530724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引用文献1に記載されている組成物から造形される造形物は、硬度が高く、造形後に自重で垂れ下がることがないため、変形しにくい一方、脆くて曲げに弱く、割れやすいことがあった。
【0006】
したがって、本発明は、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物を得ることができる、モデル材用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は前記モデル材用組成物から造形される造形物、および前記モデル材用組成物を含むインクジェット光造形用組成物セットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の好適な態様を提供するものである。
【0008】
[1] インクジェット光造形法によりモデル材を造形するためのモデル材用組成物であって、組成物の総質量に基づいて
60質量%以下の、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上の単官能エチレン性不飽和モノマー(A)と、
10質量%以上50質量%以下の、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上の二官能エチレン性不飽和モノマー(B)と、
5質量%以上20質量%以下の多官能チオールモノマー(C)と、
光重合開始剤(D)とを含有し、
三官能以上のエチレン性不飽和モノマーの含有量は、組成物の総質量に基づいて10質量%未満であり
前記組成物から造形される造形物のガラス転移温度は60℃以上である、モデル材用組成物。
[2] オリゴマーの含有量は、組成物の総質量に基づいて20質量%以下である、[1]に記載の組成物。
[3] 前記オリゴマーは、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、およびポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群から選択される少なくとも1つである、[2]に記載の組成物。
[4」 前記多官能チオールモノマー(C)は、三官能または四官能のチオールモノマーを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 前記三官能のチオールモノマーは、1,3,5-トリス(2-(3-スルファニルブタノイルオキシ)エチル)-1,3,5-トリアジナン-2,4,6-トリオンまたはトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)を含む、[4]に記載の組成物。
[6] 前記四官能のチオールモノマーは、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)またはペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)を含む、[4]に記載の組成物。
[7] 前記光重合開始剤(D)の含有量は、組成物の総質量に基づいて0.1質量%以上15質量%以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8] 40mm×5mm×2mmの試験片の中心を25℃50%RTで、5kgの荷重で押し込んだ時のたわみとして算出される屈曲度は12mm以上である、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9] 前記組成物から造形される造形物のショアD硬度は65以上である、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10] 前記成分(A)はイソボルニルアクリレートを含む、[1]~[9]のいずれかに記載の組成物。
[11] 前記成分(A)はアクリロイルモルフォリンを含む、[1]~[10]のいずれかに記載の組成物。
[12] 前記インクジェット光造形法に使用する光源はLEDである、[1]~[11]のいずれかに記載の組成物。
[13] [1]~[12]のいずれかに記載の組成物から造形される造形物。
[14] [1]~[12]に記載の組成物と、インクジェット光造形法によりサポート材を造形するためのサポート材用組成物とを含んでなる、インクジェット光造形用組成物セット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物を得ることができる、モデル材用組成物、前記モデル材用組成物から造形される造形物、および前記モデル材用組成物を含むインクジェット光造形用組成物セットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0011】
<モデル材用組成物>
本発明のモデル材用組成物は、60質量%以下の、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が50℃以上の単官能エチレン性不飽和モノマー(A)と、10質量%以上50質量%以下の、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上の二官能エチレン性不飽和モノマー(B)と、5質量%以上20質量%以下の多官能チオールモノマー(C)と、光重合開始剤(D)とを含有し、三官能以上のエチレン性不飽和モノマーの含有量は、組成物の総質量に基づいて10質量%未満であり、前記組成物から造形される造形物のガラス転移温度は60℃以上である。なお、本発明において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートの総称であり、アクリレートおよびメタクリレートの一方または両方を意味するものである。「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル」等についても同様である。
【0012】
造形物の硬度を高めるためには、通常、1)三官能以上の多官能重合性モノマーや2)ホモポリマーのガラス転移温度が高い重合性モノマーを主成分としてモデル材用組成物に配合することが考えられる。そのような組成物から得られる造形物は架橋点が多く、ガラス転移温度が高いため、十分な硬度を有し得るが、脆くて曲げに弱く割れやすいものであった。そこで本発明者らは、過剰な重合を避けるために、単官能および二官能の重合性モノマーを主成分とする組成物について上記課題を解決する手段を検討した結果、特定のチオールモノマーを配合すると、単官能および二官能の重合性モノマーを主成分とする組成物であっても、硬度を保ちつつ曲げに強い造形物が得られることを発見した。この理由は必ずしも明らかではないが、組成物中に含まれるチオールモノマーによって、硬化時に架橋点が密集しにくくなるため、組成物が過剰に硬化して脆くなることを防ぐと考えられる。
【0013】
(単官能エチレン性不飽和モノマー(A))
本発明のモデル材用組成物は、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上の単官能エチレン性不飽和モノマー(A)(以下、単に「単官能モノマー(A)」と称することがある)を、組成物の総質量に基づいて60質量%以下の量で含む。本発明において、単官能エチレン性不飽和モノマーは、エネルギー線により硬化する特性を有するエチレン性二重結合を分子内に1個有するモノマーを指す。なお、単官能モノマー(A)は、チオール基を1個含んでもよい。具体的には、例えば、直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート;分子内に、脂環式構造、芳香環構造または複素環構造等の環状構造を有する(メタ)アクリレート;ならびに(メタ)アクリルアミド等の窒素原子を含有する単官能エチレン性不飽和モノマー等が挙げられる。単官能モノマー(A)は1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。なお、本明細書において、脂環式構造は炭素原子が環状に結合した脂肪族の環状構造を、芳香環構造は炭素原子が環状に結合した芳香族の環状構造を、複素環構造は炭素原子および1以上のヘテロ原子が環状に結合した構造をいう。
【0014】
単官能モノマー(A)は、ホモポリマーとした際のガラス転移温度が50℃以上である。前記ガラス転移温度が50℃未満であると、本発明のモデル材用組成物を硬化して得られる造形物が周囲条件下で変形し得る。単官能モノマー(A)のホモポリマーとした際のガラス転移温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、さらに好ましくは80℃以上、よりさらに好ましくは90℃以上、特に好ましくは100℃以上、より特に好ましくは110℃以上、極めて好ましくは120℃以上である。前記ガラス転移温度が前記下限値以上であると、周囲条件下での変形が起きず、硬度の高い造形物を得やすい。また、前記ガラス転移温度の上限は、特に限定されるものではないが、通常300℃以下、好ましくは200℃以下である。
【0015】
なお、モノマーのホモポリマーのガラス転移温度は、例えば示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。ホモポリマーのガラス転移温度は、重合度に左右される場合があるが、重量平均分子量20,000以上のホモポリマーを作製して測定すれば、重合度による影響は無視できる。
【0016】
ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上であり、直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、好ましくは炭素数5~25、より好ましくは炭素数6~20の直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0017】
ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上であり、脂環式構造を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、好ましくは炭素数8~30の、より好ましくは炭素数10~15の脂環式構造を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。具体的には、例えばイソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上であり、芳香環構造を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、好ましくは炭素数8~30の、より好ましくは炭素数9~20の芳香環構造を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。具体的には、例えば2-フェノキシエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0019】
ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上であり、複素環構造を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、好ましくは炭素数8~30の、より好ましくは炭素数9~20の複素環構造を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0020】
また、上記(メタ)アクリレートとは異なる、窒素原子を含有する単官能エチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド(例えば、(メタ)アクリロイルモルフォリン、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド等)が挙げられる。
【0021】
これらの中でも、単官能モノマー(A)としては、分子内に環状構造を有する単官能エチレン性不飽和モノマーが好ましい。単官能モノマー(A)が、分子内に環状構造を有するものであると、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物をより得やすい。本発明の好ましい一態様において、単官能モノマー(A)は、イソボルニルアクリレートを含むことが好ましい。単官能モノマー(A)がイソボルニルアクリレートを含むと、得られる造形物の硬度がより高くなり得る。
【0022】
本発明の別の一態様において、単官能モノマー(A)は、アクリロイルモルフォリンを含むことが好ましい。単官能モノマー(A)がアクリロイルモルフォリンを含むと、得られる造形物のガラス転移温度がより高くなり、周囲環境温度下での造形物の変形が生じ難くなる。さらに、本発明のモデル材用組成物を、後述するような水溶性のサポート材用組成物と組み合わせて用いる場合、極性を有するモノマーであってサポート材を除去する除去溶剤として使用される水などの極性溶媒に溶けやすいアクリロイルモルフォリンを、サポート材用組成物に使用することができる。モデル材用組成物が、サポート材用組成物に用いられるアクリロイルモルフォリンを含むことにより、表面張力が高いためサポート材とモデル材との界面の混ざりを防ぎながら、サポート材とモデル材との極性を近づけることで、サポート材とモデル材の濡れ性を向上させることができる。このため、アクリロイルモルフォリンをモデル材用組成物が含むことにより、造形物の作製中において、モデル材とサポート材との境界を維持する効果が高くなるため、良好な寸法精度で造形物を得ることができる。なお、単官能モノマー(A)はイソボルニルアクリレートおよびアクリロイルモルフォリンの両方を含んでよい。
【0023】
モデル材用組成物中における前記単官能モノマー(A)の含有量は、組成物の総質量に基づいて60質量%以下である、単官能モノマー(A)の含有量が60質量%を超えると、造形物の硬度が高くなりすぎ、脆くなる。単官能モノマー(A)の含有量は、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは49質量%以下、よりさらに好ましくは48質量%以下、特に好ましくは47質量%以下、より特に好ましくは45質量%以下、極めて好ましくは42質量%以下である。単官能モノマー(A)の含有量が前記上限値以下であると、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物をより得やすい。単官能モノマー(A)の含有量の下限値は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上である。単官能モノマー(A)の含有量が前記下限値以上であると、モデル材用組成物の粘度調整がしやすくなり、また、架橋密度を制御しやすくなり、曲げに強く割れにくい造形物をより得やすい。
【0024】
(二官能エチレン性不飽和モノマー(B))
本発明のモデル材用組成物は、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上の二官能エチレン性不飽和モノマー(B)(以下、単に「二官能モノマー(B)」と称することがある)を、組成物の総質量に基づいて10質量%以上50質量%以下の量で含む。本発明において、二官能エチレン性不飽和モノマーは、エネルギー線により硬化する特性を有するエチレン性二重結合を分子内に2個有するモノマーを指す。なお、二官能モノマー(B)は、チオール基を1個含んでもよい。具体的には、例えば、直鎖または分枝のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、環状構造含有ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。二官能モノマー(B)は1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
二官能モノマー(B)は、ホモポリマーとした際のガラス転移温度が50℃以上である。前記ガラス転移温度が50℃未満であると、モデル材用組成物を硬化して得られる造形物が周囲条件下で変形し得る。二官能モノマー(B)の、ホモポリマーとした際のガラス転移温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは65℃以上、さらに好ましくは70℃以上、よりさらに好ましくは80℃以上、特に好ましくは90℃以上、極めて好ましくは100℃以上である。前記ガラス転移温度が前記下限値以上であると、周囲条件下での変形が起きず、硬度の高い造形物を得やすい。また、前記ガラス転移温度の上限は、特に限定されるものではないが、通常300℃以下、好ましくは200℃以下である。
【0026】
ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上である、直鎖または分枝のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートは、好ましくは炭素数10~17の直鎖または分枝のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートであり、例えばトリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0027】
ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上である、環状構造含有ジ(メタ)アクリレートは、好ましくは炭素数25~31の環状構造含有ジ(メタ)アクリレートであり、例えば、エトキシ化(3)ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化(4)ビスフェノールAジアクリレート等が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、二官能モノマー(B)は、直鎖または分枝のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、トリプロピレングリコールジアクリレートまたはジプロピレングリコールジアクリレートのうち少なくとも1つを含むことがより好ましく、トリプロピレングリコールジアクリレートを含むことが特に好ましい。二官能モノマー(B)が直鎖または分枝のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートを含むと、得られる造形物の硬度がより高くなり得る。
【0029】
モデル材用組成物中における前記二官能モノマー(B)の含有量は、組成物の総質量に基づいて10質量%以上50質量%以下である、二官能モノマー(B)の含有量が10質量%未満であると、造形物の硬度が十分ではない。また、二官能モノマー(B)の含有量が50質量%を超えると、造形物の硬度が高くなりすぎ、脆くなる。二官能モノマー(B)の含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは24質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上、よりさらに好ましくは26質量%以上、特に好ましくは30質量%以上であり、好ましくは45質量%以下、より好ましくは39質量%以下、さらに好ましくは38質量%以下である。前記二官能モノマー(B)の含有量が前記下限値以上および前記上限値以下であると、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物をより得やすい。
【0030】
前記単官能モノマー(A)と二官能モノマー(B)の合計含有量は、組成物の総質量に基づいて、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは73質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは87質量%以下である。単官能モノマー(A)と二官能モノマー(B)の合計含有量が前記下限値以上および前記上限値以下であると、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物をより得やすい。
【0031】
組成物中における前記単官能モノマー(A)と二官能モノマー(B)の質量比(単官能モノマー(A)の質量:二官能モノマー(B)の質量)は、好ましくは0.5:1~5:1、より好ましくは0.8:1~4.5:1、さらに好ましくは1:1~4:1、よりさらに好ましくは1.5:1~3.5:1である。組成物中における前記単官能モノマー(A)と二官能モノマー(B)の質量比が前記範囲内であると、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物をより得やすい。
【0032】
(多官能チオールモノマー(C))
本発明のモデル材用組成物は、多官能チオールモノマー(C)を、組成物の総質量に基づいて5質量%以上20質量%以下の量で含む。本発明において、多官能チオールモノマーは、チオール基(-SH)を分子内に2個以上有する、分子量が1000以下である化合物を指してよい。本発明のモデル材用組成物が多官能チオールモノマー(C)を含むことによって、特に曲げに強い造形物が得られ得る。なお、本明細書において、多官能チオールモノマー(C)は、エチレン性二重結合を2個まで含んでいてもよい。また、多官能チオールモノマー(C)は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
モデル材用組成物中における前記多官能チオールモノマー(C)の含有量は、組成物の総質量に基づいて5質量%以上20質量%以下である。多官能チオールモノマー(C)の含有量が5質量%未満であると、多官能チオールモノマーの割合が少なく、アクリルモノマーの架橋が支配的になり、架橋点が密集しやすくなるため、本発明のモデル材用組成物から得られる造形物が曲げに弱くなる。多官能チオールモノマー(C)の含有量が20質量%を超えると、チオールモノマーによる架橋が支配的になり、架橋密度が下がりすぎるため、造形物の硬度が低下する。モデル材用組成物中における前記多官能チオールモノマー(C)の含有量は、好ましくは6質量%以上、より好ましくは8質量%以上であり、好ましくは17質量%以下、より好ましくは14質量%以下である。前記多官能チオールモノマー(C)の含有量が前記下限値以上および前記上限値以下であると、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物をより得やすい。
【0034】
多官能チオールモノマーとしては、例えば、1,2-エタンジチオール、1,4-ベンゼンジチオール、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン等の二官能チオールモノマー;三官能チオールモノマー;四官能チオールモノマー等が挙げられるが、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物を得やすいことから、多官能チオールモノマー(C)は、三官能または四官能のチオールモノマーを含むことが好ましい。
【0035】
三官能のチオールモノマーとしては、例えば三官能のアルキルチオールモノマー、三官能のエステル型チオールモノマー、三官能のエーテル型チオールモノマー等が挙げられるが、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物を得やすいことから、三官能のエステル型チオールモノマーまたは三官能のエーテル型チオールモノマーが好ましい。
三官能のエステル型チオールモノマーとしては、例えば1,3,5-トリス(2-(3-スルファニルブタノイルオキシ)エチル)-1,3,5-トリアジナン-2,4,6-トリオン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)等が挙げられる。また、三官能のエーテル型チオールモノマーとしては、ペンタエリスリトールトリプロパンチオール等が挙げられる。
【0036】
四官能のチオールモノマーとしては、例えば四官能のアルキルチオールモノマー、四官能のエステル型チオールモノマー、四官能のエーテル型チオールモノマー等が挙げられるが、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物を得やすいことから、四官能のエステル型チオールモノマーまたは四官能のエーテル型チオールモノマーが好ましい。
四官能のエステル型チオールモノマーとしては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)等が挙げられる。また、四官能のエーテル型チオールモノマーとしては、ペンタエリスリトールテトラプロパンチオール等が挙げられる。
【0037】
前記三官能のチオールモノマーの中でも、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物を得やすいことから、1,3,5-トリス(2-(3-スルファニルブタノイルオキシ)エチル)-1,3,5-トリアジナン-2,4,6-トリオンおよびトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)の少なくとも1つを含むことが好ましい。
また、前記四官能のチオールモノマーの中でも、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)およびペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)の少なくとも1つを含むことが好ましい。これらチオールモノマーは単独で用いても、2種以上組み合わせて使用してもよい。組み合わせて使用する場合は、2種以上の三官能のチオールモノマーの組合せ、2種以上の四官能のチオールモノマーの組合せ、1種以上の三官能のチオールモノマーと1種以上の四官能のチオールモノマーの組合せのいずれであってもよい。
【0038】
(その他の重合性化合物)
本発明において、モデル材用組成物は、前記単官能モノマー(A)以外の単官能エチレン性不飽和モノマー、すなわちホモポリマーのガラス転移温度が50℃未満の単官能エチレン性不飽和モノマーを含んでいてもよい。そのような単官能エチレン性不飽和モノマーとしては、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエトキシエチルアクリレート、イソアミルアクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチルアクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニルアクリレート、デシルアクリレート、イソデシルアクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、メトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられる。単官能モノマー(A)以外の単官能エチレン性不飽和モノマーは、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0039】
前記単官能モノマー(A)以外の単官能エチレン性不飽和モノマーが含まれる場合、その量によっては組成物から得られる造形物のガラス転移温度が低下し、造形物が周囲温度条件下で軟化する可能性がある。このため、その含有量は、組成物の総質量に基づいて、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。また、その下限値は特に限定されず、単官能モノマー(A)以外の単官能エチレン性不飽和モノマーを全く含有しなくてもよく、好ましくは本発明のモデル材用組成物は、前記単官能モノマー(A)以外の単官能エチレン性不飽和モノマーを含まない(すなわち0質量%)。
【0040】
また、本発明において、モデル材用組成物は、前記二官能モノマー(B)以外の二官能エチレン性不飽和モノマー、すなわちホモポリマーのガラス転移温度が50℃未満の二官能エチレン性不飽和モノマーを含んでいてもよい。そのような二官能エチレン性不飽和モノマーとしては、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化(2)ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。前記二官能モノマー(B)以外の二官能エチレン性不飽和モノマーは、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
前記二官能モノマー(B)以外の二官能エチレン性不飽和モノマーが含まれる場合、その量によっては組成物から得られる造形物のガラス転移温度が低下し、造形物が周囲温度条件下で軟化する可能性がある。このため、その含有量は、組成物の総質量に基づいて、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。また、その下限値は特に限定されず、二官能モノマー(B)以外の二官能エチレン性不飽和モノマーを全く含有しなくてもよく、好ましくは本発明のモデル材用組成物は、前記二官能モノマー(B)以外の二官能エチレン性不飽和モノマーを含まない(すなわち0質量%)。
【0042】
本発明において、モデル材用組成物の、三官能以上のエチレン性不飽和モノマーの含有量は、組成物の総質量に基づいて10質量%未満である。ここで、三官能以上のエチレン性不飽和モノマーは、エネルギー線により硬化する特性を有するエチレン性二重結合を分子内に3個以上有するモノマーを指してよい。なお、三官能以上のエチレン性不飽和モノマーは、チオール基を含んでもよい。
【0043】
前記三官能以上のエチレン性不飽和モノマーが10質量%以上含まれる場合、反応点が多くなりすぎるためにモデル材用組成物から得られる造形物の硬度が高くなりすぎて、割れやすくなる。前記三官能以上のエチレン性不飽和モノマーの含有量は好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。また、その下限値は特に限定されず、三官能以上のエチレン性不飽和モノマーを全く含有しなくてもよく、好ましくは本発明のモデル材用組成物は、前記三官能以上のエチレン性不飽和モノマーを含まない(すなわち0質量%)。
【0044】
三官能以上のエチレン性不飽和モノマーの、ホモポリマーとした時のガラス転移温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上、さらに好ましくは90℃以上である。三官能以上のエチレン性不飽和モノマーの、ホモポリマーとした時のガラス転移温度が前記下限値以上であると、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物をより得やすい。そのような三官能以上のエチレン性不飽和モノマーとしては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。三官能以上のエチレン性不飽和モノマーは1種のみが含まれていても、2種以上が含まれていてもよい。
【0045】
本発明のモデル材用組成物は、上記モノマー以外の重合性化合物を含んでいてもよい。そのような重合性化合物としては、例えばオリゴマー等が挙げられる。オリゴマーは、活性エネルギー線の照射により重合して硬化する特性を有する成分を指してよい。
ここで、本明細書中において「オリゴマー」とは、重量平均分子量Mが500~10,000のものを指してよい。オリゴマーの重量平均分子量Mは、好ましくは800以上、より好ましくは1,000を超えてよい。オリゴマーの重量平均分子量Mが前記範囲であると、硬度が高く、曲げに強い造形物が得られ得る。重量平均分子量Mは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。オリゴマーとして1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
オリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエーテル(メタ)アクリレートオリゴマー等が挙げられ、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、およびポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群から選択される少なくとも1つを含むことが、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物を得やすい観点から好ましい。オリゴマーとしては、単官能オリゴマー、二官能以上の多官能オリゴマーのいずれを使用してもよいが、二官能以上の多官能オリゴマーが好ましく、二官能オリゴマーがより好ましい。
【0047】
オリゴマーのガラス転移温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上であり、さらに好ましくは10℃以上であり、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。オリゴマーのガラス転移温度が前記下限値以上および前記上限値以下であると、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物を得やすい。
【0048】
本発明のモデル材用組成物がオリゴマーを含有する場合、その含有量は、モデル材用組成物の総質量に基づいて、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。また、その下限値は特に限定されず、オリゴマーの含有量の下限値は0質量%であってもよく、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。オリゴマーの含有量が前記範囲であると、モデル材用組成物の粘度を適度な範囲に維持したまま、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物を得やすい。
【0049】
本発明のモデル材用組成物における重合性化合物の含有量は、モデル材用組成物の総質量に基づいて、好ましくは70~94.9質量%であり、例えば75~93質量%、または、80~92質量%であり得る。重合性化合物の含有量が前記範囲内であると、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物を得やすい。
【0050】
本発明のモデル材用組成物において、重合性化合物と前記チオールモノマー(C)の質量比(重合性化合物の質量:チオールモノマー(C)の質量)は、好ましくは3:1~20:1、より好ましくは4:1~18:1、さらに好ましくは5:1~17:1、よりさらに好ましくは6:1~16:1、特に好ましくは7:1~15:1である。組成物中における重合性化合物とチオールモノマー(C)の質量比が前記範囲内であると、高い硬度を維持しつつ、曲げに強い造形物をより得やすい。
【0051】
(光重合開始剤(D))
本発明のモデル材用組成物は、光重合開始剤(D)を含む。光重合開始剤は、紫外線、近紫外線または可視光領域の波長の光を照射するとラジカル反応を促進する化合物であれば、特に限定されない。光重合開始剤としては、例えばアルキルフェノン化合物、アシルフォスフィンオキサイド化合物、アントラキノン化合物、チオキサントン化合物等が挙げられる。アルキルフェノン化合物としては、例えばベンゾイン化合物〔例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等〕;アセトフェノン化合物〔例えば、アセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニル-1-プロパノン、ジエトキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン等〕;ケタールフェノン化合物〔例えば、アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等〕;ベンゾフェノン化合物〔例えば、ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、4,4’-ビスメチルアミノベンゾフェノン等〕等が挙げられる。アシルフォスフィンオキサイド化合物としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス-(2、6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。アントラキノン化合物としては、例えば、2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、2-クロロアントラキノン、2-アミルアントラキノン等が挙げられる。チオキサントン化合物としては、例えば、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、アルキルフェノン化合物またはアシルフォスフィンオキサイド化合物のうちの少なくとも1つを含むことが好ましく、アセトフェノン化合物またはアシルフォスフィンオキサイド化合物のうちの少なくとも1つを含むことがより好ましい。また、光重合開始剤としては、市販されている製品を用いてもよい。そのような市販品としては、例えば、IGM Resins社のOmnirad TPO、Omnirad 1173等が挙げられる。
【0052】
モデル材用組成物における光重合開始剤(D)の含有量は、用いる重合性化合物の種類、その含有量等に応じて適宜決定すればよい。本発明の一実施態様において、光重合開始剤の含有量は、モデル材用組成物の総質量に基づいて、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは8質量%以下である。光重合開始剤(D)の含有量が前記下限値以上および前記上限値以下であると、未反応の重合成分を低減させて、モデル材用組成物の硬化性を十分に高めることができるとともに、未反応の光重合開始剤が残存することによる造形物への経時的な影響(例えば、黄変などの変色)を抑制することができる。
【0053】
モデル材用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要により、その他の添加剤を含有させることができる。その他の添加剤としては、例えば、保存安定化剤、表面調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、重合禁止剤、連鎖移動剤、充填剤、希釈溶媒、増粘剤、着色剤等が挙げられる。
【0054】
本発明のモデル材用組成物は、着色剤をさらに含んでいてもよい。ただし、本発明のモデル材用組成物が、無色透明のクリア組成物である場合には、着色剤は含まれない。
【0055】
上記着色剤としては特に限定されないが、本発明のモデル材用組成物は非水系であることから、非水溶性媒体に均一に分散しやすい顔料、溶解しやすい染料が好ましい。着色剤は、1種単独のみならず、2種以上を混合して使用してもよい。
【0056】
上記顔料としては、無機顔料、有機顔料のいずれも使用できる。無機顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、リトポン、酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ピリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカ等が挙げられる。有機顔料としては、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリン系等の有機顔料が挙げられる。また、酸性、中性または塩基性カーボンからなるカーボンブラックを用いてもよい。さらに、架橋したアクリル樹脂の中空粒子等も有機顔料として用いてもよい。
【0057】
上記着色剤の分散には、例えばビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、ジェットミル、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ニーダー、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル等の分散装置を用いることができ、また、ラインミキサー等の混合機を用いてもよい。さらに、上記着色剤の分散後、着色剤の粗大粒子を除去する目的で、遠心分離機、フィルター、クロスフロー等を用いて分級処理を行ってもよい。
【0058】
上記着色剤の含有量は、色、および使用目的により適宜選択されるが、画像濃度および保存安定性の観点から、モデル材用組成物の全質量に対し、0.05~30質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがさらに好ましい。
【0059】
本発明のモデル材用組成物の粘度は、インクジェットノズルからの吐出性を良好にする観点から、25℃において好ましくは3~100mPa・s、より好ましくは5~90mPa・s、さらに好ましくは5~70mPa・s、よりさらに好ましくは5~60mPa・sである。上記粘度の測定は、JIS Z 8803に準拠し、R100型粘度計を用いて行うことができる。モデル材用組成物の粘度は、重合性化合物の種類および/またはその配合量、多官能チオールモノマー(C)の種類および/またはその配合量等を適宜調整することにより前記範囲内に調整することができる。
【0060】
本発明のモデル材用組成物から得られる造形物は、周囲環境条件下で変形が生じないようなガラス転移温度を有する。したがって、本発明のモデル材用組成物から造形される造形物のガラス転移温度は60℃以上である。造形物のガラス転移温度が60℃未満であると、周囲環境条件下で造形物に変形が生じ得る。本発明のモデル材用組成物から得られる造形物のガラス転移温度は、好ましくは65℃以上、66℃以上、67℃以上、68℃以上、69℃以上、70℃以上、72℃以上、73℃以上、75℃以上、76℃以上、82℃以上、86℃以上であってよい。造形物のガラス転移温度が前記下限値以上であることは、本発明のモデル材用組成物から得られる造形物が周囲環境条件下で変形が生じにくいことを意味する。造形物のガラス転移温度は、例えばモデル材用組成物を構成する重合性化合物の種類および/またはその量等を適宜調整することによって前記下限値以上にすることができる。また、ガラス転移温度の上限は、通常120℃であってよい。本発明のモデル材用組成物から得られる造形物のガラス転移温度は、例えば、示差熱測定装置を使用して、後述の実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0061】
本発明のモデル材用組成物から、特に曲げに強い造形物を得ることができる。したがって、本発明のモデル材用組成物から作製した、40mm×5mm×2mmの試験片の中心を25℃、50%RTで、5kgの荷重で押し込んだ時のたわみとして算出される屈曲度は、好ましくは12mm以上、より好ましくは14mm以上、さらに好ましくは15mm以上、よりさらに好ましくは16mm以上、特に好ましくは17mm以上、より特に好ましくは18mm以上であり、極めて好ましくは18mmを超える。屈曲度が前記下限値以上であることは、本発明のモデル材用組成物から得られた造形物が荷重をかけても割れることなく、曲げに強いことを意味する。屈曲度は、例えばモデル材用組成物を構成する重合性化合物の種類および/またはその量、多官能チオールモノマーの種類および/またはその量等を適宜調整することによって前記下限値以上にすることができる。また、屈曲度の上限は20mmである。屈曲度は後述の実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0062】
本発明において、「曲げ」とは、上記屈曲度試験で評価されるものであって、従来評価されてきた「曲げ応力」や「曲げ弾性率」とは異なる。通常、「曲げ応力」は、試験片に荷重をかけた時に試験片内部に生じる力を表し、「曲げ弾性率」は試験片に荷重をかけた時に、どれくらいの曲げ応力に耐えられるかを、破断した時の荷重で表す。一方、本発明における「屈曲度」は、試験片に一定荷重をかけた時の割れやすさを、たわみで表す。すなわち、本発明における「曲げ」は、荷重による特性値ではなく変位による特性値であり、上述の従来の試験法では確認できなかった特性である。本発明者らは、従来の「曲げ応力」や「曲げ弾性率」ではなく、本発明の「屈曲度」で評価することによって、特に外力の影響を受けやすい細部を有する造形物の造形に適した組成物であるかを評価できることを見出した。
【0063】
本発明のモデル材用組成物からは、造形後に自重で垂れ下がり、変形しないような硬度が高い造形物を得ることができる。したがって、本発明のモデル材用組成物から造形される造形物のショアD硬度は、好ましくは65以上、より好ましくは70以上、さらに好ましくは72以上、よりさらに好ましくは74以上、特に好ましくは76以上、極めて好ましくは78以上である。ショアD硬度が前記下限値以上であることは、本発明のモデル材用組成物から得られる造形物が高い硬度を有することを意味する。ショアD硬度は、例えばモデル材用組成物を構成する重合性化合物の種類および/またはその量等を適宜調整することによって前記下限値以上にすることができる。また、ショアD硬度の上限は、通常100であってよい。ショアD硬度は、JIS K7215:1986「プラスチックのデュロメーター硬さ試験方法」に従って測定することができる。
【0064】
本発明のモデル材用組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、混合攪拌装置等を用いて、モデル材用組成物を構成する成分を均一に混合することにより製造することができる。
【0065】
<インクジェット光造形用組成物セット>
本発明のモデル材用組成物は、モデル材用組成物のみで三次元立体構造を造形し得るが、立体造形中にモデル材を支持するためのサポート材と組み合わせて用いることにより、複雑な形状や緻密な形状をより高い精度で造形することができる。したがって、本発明は、本発明のモデル材用組成物と、インクジェット光造形法によりサポート材を造形するためのサポート材用組成物とを含んでなるインクジェット光造形用組成物セットも対象とする。
【0066】
(サポート材用組成物)
サポート材用組成物は、光硬化によりサポート材を与える、サポート材用の光硬化性組成物である。モデル材を作製後、サポート材をモデル材から物理的に剥離することにより、または、サポート材を有機溶媒もしくは水に溶解させることにより、モデル材から除去することができる。本発明のモデル材用組成物は、サポート材用組成物として従来公知の種々の組成物との組み合わせにおいて用いることができるが、サポート材を除去する際にモデル材を破損することがなく、環境に優しく、細部まできれいにかつ容易にサポート材を除去することができるため、本発明の光造形用組成物セットを構成するサポート材用組成物は水溶性であることが好ましい。
【0067】
そのような水溶性のサポート材用組成物としては、水溶性単官能エチレン性不飽和モノマーと、水溶性樹脂と、光重合開始剤とを含むことが好ましい。優れた水除去性とサポート力とを兼ね備えたサポート材を形成するために、より具体的には、上記サポート材用組成物において、上記水溶性単官能エチレン性不飽和モノマーは、(メタ)アクリルアミド誘導体を含み、上記水溶性樹脂は、オキシエチレン基、オキシプロピレン基およびオキシテトラメチレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、上記光重合開始剤は、アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤を含むことが好ましい。
【0068】
サポート材用組成物に含まれる水溶性の単官能エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、炭素数5~15の水酸基含有(メタ)アクリレート〔例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等〕、数平均分子量(M)200~1,000の水酸基含有(メタ)アクリレート〔例えばポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、モノアルコキシ(炭素数1~4)ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、モノアルコキシ(炭素数1~4)ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、PEG-PPGブロックポリマーのモノ(メタ)アクリレート等〕、炭素数3~15の(メタ)アクリルアミド誘導体〔例えば(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等〕、(メタ)アクリロイルモルフォリン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0069】
サポート材用組成物に含まれる水溶性単官能エチレン性不飽和モノマーの含有量は、上記サポート材用組成物の全質量100質量%に対して、19質量%以上80質量%以下であることが好ましい。上記含有量が上記範囲内であると、サポート材のサポート力を低下させることなく、水除去性を向上させることができる。
【0070】
サポート材用組成物に含まれる水溶性樹脂は、サポート材に適度の親水性を付与するためのものであり、これを添加することにより水除去性とサポート力とを兼ね備えたサポート材を得ることができる。上記水溶性樹脂は、オキシエチレン基、オキシプロピレン基およびオキシテトラメチレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。サポート材のサポート力を低下させずに水除去性をより向上できるからである。上記水溶性樹脂としては、具体的には、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリオキシテトラメチレンポリオキシエチレングリコール、ポリオキシテトラメチレンポリオキシプロピレングリコール等の、オキシエチレン基、オキシプロピレン基およびオキシテトラメチレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むポリオキシアルキレングリコールが挙げられる。上記水溶性樹脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
本発明のサポート材用組成物における上記水溶性樹脂の含有量は、上記サポート材用組成物の全質量100質量%に対して、15質量%以上75質量%以下であることが好ましい。上記含有量が上記範囲内であると、サポート材のサポート力を低下させることなく、水除去性を向上させることができる。
【0072】
前記水溶性樹脂の数平均分子量Mは、好ましくは100~5,000である。水溶性樹脂のMが前記範囲内であると、光硬化前の前記水溶性樹脂と相溶し、かつ、光硬化後の前記水溶性樹脂と相溶しない。その結果、サポート材用組成物を光硬化させて得られるサポート材の自立性を高め、かつ、サポート材の水への溶解性を高めることができる。水溶性樹脂の数平均分子量Mは、好ましくは200~3,000、より好ましくは400~2,000である。
【0073】
光重合開始剤としては、モデル材用組成物に含有され得る光重合開始剤として上記に述べた化合物を同様に使用してよいが、LED光源での硬化性に優れ、かつ造形物の着色が少ないといった観点から、アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤を含むことが好ましい。サポート材用組成物が光重合開始剤を含有する場合、その含有量は、サポート材用組成物の総質量に基づいて、好ましくは2~20質量%、より好ましくは3~10質量%である。光重合開始剤の含有量が上記の下限以上であると、未反応の重合成分を十分に低減させて、サポート材の硬化性を十分に高めやすい。一方、光重合開始剤の含有量が上記の上限以下であると、未反応の光重合開始剤がサポート材に残存することを回避しやすい。
【0074】
サポート材用組成物には、必要により、その他の添加剤を含有させることができる。その他の添加剤としては、例えば、光重合開始剤、水溶性有機溶剤、酸化防止剤、着色剤、顔料分散剤、保存安定化剤、紫外線吸収剤、光安定剤、重合禁止剤、連鎖移動剤、充填剤等が挙げられる。
【0075】
本発明のサポート材用組成物の粘度は、インクジェットノズルからの吐出性を良好にする観点から、25℃において3~70mPa・sであることが好ましく、5~60mPa・sであることがより好ましい。上記粘度の測定は、JIS Z 8803に準拠し、R100型粘度計を用いて行うことができる。
【0076】
本発明のサポート材用組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、混合攪拌装置等を用いて、サポート材用組成物を構成する成分を均一に混合することにより製造することができる。
【0077】
<造形物およびその製造方法>
本発明は、本発明のモデル材用組成物、または本発明のインクジェット光造形用組成物セットを用いて、インクジェット方式による光造形法により造形された造形物も提供する。
【0078】
本発明の造形物は、例えば本発明のモデル材用組成物または光造形用組成物セットを用いて、インクジェット方式による光造形法により製造される。本発明の好ましい一実施態様において、本発明の造形物は、例えばモデル材用組成物を光硬化させてモデル材を得ると共に、サポート材用組成物を光硬化させてサポート材を得る工程と、モデル材からサポート材を除去する工程とを含む方法によって製造されてよい。
【0079】
上記製造方法において、例えば、作製する物体の3次元CADデータをもとに、インクジェット方式で積層して立体造形物を構成するモデル材用組成物のデータ、および、作製途上の立体造形物を支持するサポート材用組成物のデータを作製し、さらにインクジェット方式の3Dプリンタで各組成物を吐出するスライスデータを作製し、作製したスライスデータに基づきモデル材用およびサポート材用の各組成物を吐出後、光硬化処理を層ごとに繰り返し、モデル材用組成物の硬化物(モデル材)およびサポート材用組成物の硬化物(サポート材)からなる造形物を作製することができる。
【0080】
上記製造方法において、モデル材用組成物は1pL以上1nL未満、好ましくは1pL以上500pL以下の液滴として吐出される。これにより、寸法精度が良好で、高精細な造形物を得ることができる。
【0081】
モデル材用組成物およびサポート材用組成物を硬化させる光としては、例えば、遠赤外線、赤外線、可視光線、近紫外線、紫外線、電子線、α線、γ線およびエックス線等の活性エネルギー線が挙げられる。これらの中でも、硬化作業の容易性および効率性の観点から、近紫外線または紫外線であることが好ましい。
【0082】
光源としては、従来公知の高圧水銀灯、メタルハライドランプ、UV-LEDなどが挙げられる。これらの中でも、設備を小型化することができ、かつ、消費電力が小さいという観点からは、LEDであることが好ましい。光量は、造形物の硬度および寸法精度の観点から、1度に照射する量は200~500mJ/cmが好ましい。光源としてUV-LEDを用いる場合、光が深層まで届きやすくなり、造形物の硬度および寸法精度を向上させることができることから、中心波長が385~415nmのものを用いることが好ましい。
【0083】
立体造形物を構成する各層の厚みは、造形精度の観点からは薄いほうが好ましいが、造形速度とのバランスからは5~30μmが好ましい。
【0084】
得られた造形物は、モデル材とサポート材とが組み合わされたものであってよい。その場合、かかる造形物からサポート材を除去してモデル材である造形物を得る。サポート材の除去は、例えば、サポート材を溶解させる除去溶剤に得られた造形物を浸漬しサポート材を溶解させて除去する、または除去溶剤に浸漬させて柔軟にしたサポート材をブラシなどでモデル材表面から除去して行うことが好ましい。サポート材の除去溶剤には水、水溶性溶剤、例えばグリコール系溶剤、アルコール系溶剤などを用いてもよい。これらは、単独で、あるいは複数用いてもよい。
【0085】
以上の工程により造形物が得られる。このような本発明のモデル材用組成物または本発明の光造形用組成物セットを用いて製造された造形物は、高い硬度を維持しつつ、曲げに強いという特性を有する。
【実施例0086】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」および「部」は、特記ない限り、質量%および質量部である。
【0087】
(モデル材用組成物の調製)
実施例および比較例において用いたモデル材用組成物を構成する成分の詳細を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
(モデル材用組成物の調製)
表2および表3に示す各組成に従い、各モデル材用組成物を構成する成分をそれぞれ、混合攪拌装置を用いて均一に混合し、撹拌後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いてこの混合物を吸引ろ過し、実施例および比較例のモデル材用組成物を調製した。
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
(粘度)
実施例および比較例のモデル材用組成物の粘度は、TV-22型粘度計(東機産業社製)を用いて、25℃、コーン回転数20rpmの条件下で測定した。
【0093】
(モデル材用組成物のガラス転移温度)
実施例および比較例のモデル材用組成物のガラス転移温度(Tg)は、TG-DTA2000S ThermoPlus Evo II、DSC8230(株式会社リガク社製)を用いて測定した。測定は、昇温温度10℃/分、測定温度範囲-60℃~200℃の範囲で行った。
【0094】
(屈曲度)
1.評価用試験片の作製
シリコンゴムシート(厚さ2mm、十川ゴム社製食品産業用ゴムシート(K-125<50>)を60mm×30mmの長方形に切り取った後、該長方形の中心部分から、40mm×5mmの長方形をくり抜くことにより、長方形の枠を作製した。次いで、東レ社製PETフィルム(ルミラーS-10#25 厚さ23μm)の上に、前記長方形の枠を圧着して貼り付けることにより、型を作製した。前記型の枠内に、実施例および比較例のモデル材用組成物を0.5g流し入れ、紫外線照射装置(LEDランプ、385nm、照射光量:4000mJ/cm)を用いて照射した。硬化物をシリコンゴムシート(長方形の枠)から取り出すことにより、実施例および比較例の評価用試験片を作製した。
【0095】
2.屈曲度試験
ナベヤ製万力を用い口金の間隔を30mm開け、その上に上記の手順で作製した評価用試験片を口金の間隔の中心と試験片の中心を合わせるように置いた。厚さ1mmのステンレス製切片にて試験片の中心を5kgの荷重で垂直に下へ押し下げていき、試験片が破壊される直前の変位量を測定した。試験片の上面を基準とし、ステンレス製切片の下端までの距離を変位量とした。ステンレス製切片の変位量が大きくなるにつれて、万力に置いた試験片の水平方向の幅が小さくなるため、変位量が10mmを超えたときは、万力の口金の間隔を20mmへ変更し、さらに変位量が15mmを超えたときは、万力の口金の間を10mmへ変更し、同様にステンレス製切片で試験片の中心を垂直に押し下げた。試験は25℃、50%RTの条件下で実施した。
【0096】
(ショアD硬度)
実施例および比較例のモデル材用組成物の硬化物のショアD硬度は、シリコンゴムシート(厚さ5mm)で作製した25mm×25mm×5mmの型に、実施例および比較例のモデル材用組成物を3.9g流し入れ、紫外線照射装置(LEDランプ、385nm、照射光量:4000mJ/cm)を用いて硬化させた硬化物を測定試料として、JIS K7215:1986「プラスチックのデュロメーター硬さ試験方法」に従い測定した。
【0097】
(曲げ応力)
実施例および比較例のモデル材用組成物の硬化物の曲げ応力は、JIS K7171:2016「プラスチック-曲げ特性の求め方」の「9.1 曲げ応力」に従い測定した。
【0098】
(曲げ弾性率)
実施例および比較例のモデル材用組成物の硬化物の曲げ弾性率は、JIS K7171:2016「プラスチック-曲げ特性の求め方」の「9.3 曲げ弾性率」に従い測定した。
【0099】
結果を表4および表5に示す。表中、「-」は測定していないことを表す。
【表4】
【0100】
【表5】
【0101】
表4および表5の結果から分かるように、実施例のモデル材用組成物から造形された造形物は、硬度が高いにもかかわらず曲げに強いものであった。一方、比較例のモデル材用組成物から造形された造形物は、屈曲度および硬度の少なくとも1つが十分ではなかった。また、比較例3と実施例の評価結果から、曲げ応力および曲げ弾性率の値が大きくても、必ずしも屈曲性に優れるとは限らないことが分かる。