(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176940
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】タッピンねじ
(51)【国際特許分類】
F16B 25/04 20060101AFI20241212BHJP
F16B 33/02 20060101ALI20241212BHJP
F16B 35/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
F16B25/04 A
F16B33/02 Z
F16B35/00 T
F16B33/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095836
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】593104132
【氏名又は名称】イワタボルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100210790
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大策
(72)【発明者】
【氏名】荒川 賢将
(57)【要約】
【課題】疲労に対する耐性の大きなタッピンねじを提供する。
【解決手段】タッピンねじ(1)は、軸線を含む軸部(2)と、頭部(3)と、軸部(2)外周に設けられたねじ山(4)とを備える。軸部(2)の軸線を含む縦断面において、ねじ山(4)は、少なくとも、複数の成形ねじ山(41)と、成形ねじ山(41)よりも小さな外径をもつ複数の締付けねじ山(42)とを有する。成形ねじ山(41)間に平坦状の谷底(43)が形成される。成形ねじ山(41)は2側縁(412)を有する。締付けねじ山(42)間に外方へ向かって凹となる谷底(45)が形成される。締付けねじ山(42)は2側縁(422)を有する。軸部(2)の軸線を含む縦断面において、締付けねじ山(42)間に形成されている谷底(45)は、外方へ向かって凹となる円弧状の部分を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を含む軸部と、頭部と、軸部外周に設けられたねじ山とを備えたタッピンねじにおいて、
前記軸部の前記軸線を含む縦断面において、前記ねじ山は、少なくとも、前記軸部の先端側に位置する複数の成形ねじ山と、前記頭部側に位置し、前記成形ねじ山よりも小さな外径をもつ複数の締付けねじ山とを有し、
前記軸部の前記軸線を含む縦断面において、前記成形ねじ山間に平坦状の谷底が形成され、前記成形ねじ山は山頂から前記谷底まで延びる2側縁を有し、
前記軸部の前記軸線を含む縦断面において、前記締付けねじ山間に外方へ向かって凹となる谷底が形成され、前記締付けねじ山は山頂から前記谷底まで延びる2側縁を有し、
前記軸部の前記軸線を含む縦断面において、前記締付けねじ山間に形成されている前記谷底は、外方へ向かって凹となる円弧状の部分を有する、タッピンねじ。
【請求項2】
前記成形ねじ山の前記2側縁は、前記山頂から前記谷底まで直線状に延びる、請求項1に記載のタッピンねじ。
【請求項3】
前記成形ねじ山の谷底における径が、前記締付けねじ山の谷底における径よりも小さい、請求項1又は2に記載のタッピンねじ。
【請求項4】
前記軸部の前記軸線を含む縦断面において、前記ねじ山は、前記成形ねじ山よりも、前記軸部の先端側に位置し、前記締付けねじ山よりも小さな外径をもつ先端ねじ山をさらに有する、請求項1又は2に記載のタッピンねじ。
【請求項5】
前記ねじ山は、二条ねじ構造を有する、請求項1又は2に記載のタッピンねじ。
【請求項6】
前記タッピンねじの表面の硬さは、前記タッピンねじの心部硬さの、1.2倍以下である、請求項1又は2に記載のタッピンねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タッピンねじに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークに対して締結できるタッピンねじが知られている。例えば特許文献1には、ワークに形成されている下穴にねじ込むことで、下穴にねじを進入させると同時に下穴に内ねじを形成できるタッピンねじが記載されている。タッピンねじは、下穴に形成された内ねじにねじ留めされることによって、ワークに対して締結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タッピンねじがワークに対して締結された状態を長期間維持するために、疲労に対する耐性の大きなタッピンねじが求められている。
【0005】
本開示は、このような事情を考慮してなされたもので、疲労に対する耐性の大きなタッピンねじを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様は、軸線を含む軸部と、頭部と、軸部外周に設けられたねじ山とを備えたタッピンねじにおいて、
前記軸部の前記軸線を含む縦断面において、前記ねじ山は、少なくとも、前記軸部の先端側に位置する複数の成形ねじ山と、前記頭部側に位置し、前記成形ねじ山よりも小さな外径をもつ複数の締付けねじ山とを有し、
前記軸部の前記軸線を含む縦断面において、前記成形ねじ山間に平坦状の谷底が形成され、前記成形ねじ山は山頂から前記谷底まで延びる2側縁を有し、
前記軸部の前記軸線を含む縦断面において、前記締付けねじ山間に外方へ向かって凹となる谷底が形成され、前記締付けねじ山は山頂から前記谷底まで延びる2側縁を有し、
前記軸部の前記軸線を含む縦断面において、前記締付けねじ山間に形成されている前記谷底は、外方へ向かって凹となる円弧状の部分を有する、タッピンねじである。
【0007】
本開示の第2の態様においては、上述した第1の態様によるタッピンねじにおいて、前記成形ねじ山の前記2側縁は、前記山頂から前記谷底まで直線状に延びていてもよい。
【0008】
本開示の第3の態様においては、上述した第1の態様又は上述した第2の態様によるタッピンねじにおいて、前記成形ねじ山の谷底における径が、前記締付けねじ山の谷底における径よりも小さくてもよい。
【0009】
本開示の第4の態様においては、上述した第1の態様から上述した第3の態様のそれぞれによるタッピンねじにおいて、前記軸部の前記軸線を含む縦断面において、前記ねじ山は、前記成形ねじ山よりも、前記軸部の先端側に位置し、前記締付けねじ山よりも小さな外径をもつ先端ねじ山をさらに有してもよい。
【0010】
本開示の第5の態様においては、上述した第1の態様から上述した第4の態様のそれぞれによるタッピンねじにおいて、前記ねじ山は、二条ねじ構造を有してもよい。
【0011】
本開示の第6の態様においては、上述した第1の態様から上述した第5の態様のそれぞれによるタッピンねじにおいて、前記タッピンねじの表面の硬さは、前記タッピンねじの心部硬さの、1.2倍以下であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、疲労に対する耐性の大きなタッピンねじを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施の形態によるタッピンねじの一例を示す斜視図。
【
図2】本実施の形態によるタッピンねじの一例を示す斜視図。
【
図3】本実施の形態によるタッピンねじの断面の一部を拡大して示す部分断面図。
【
図4A】
図3の成形ねじ山の周辺を拡大して示す、軸線を含む縦断面図。
【
図4B】
図3の締付けねじ山の周辺を拡大して示す、軸線を含む縦断面図。
【
図5】本実施の形態によるタッピンねじの作用を示す図。
【
図6】本実施の形態によるタッピンねじの作用を示す図。
【
図7】二条ねじ構造を有するタッピンねじの一部を拡大して示す部分側面図。
【
図8】ねじ山を一条だけ備えるタッピンねじの一部を拡大して示す部分側面図。
【
図9】本実施の形態によるタッピンねじの作用を示す図。
【
図10】本実施の形態によるタッピンねじの作用を示す図。
【
図11】本実施の形態によるタッピンねじの作用を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1乃至
図11を参照して、本実施の形態のタッピンねじについて説明する。ここで、
図1は、タッピンねじ1を示す斜視図である。
図2は、タッピンねじ1を、
図1における観察方向とは異なる方向から観察した様子を示す斜視図である。
図1および
図2に示すように、タッピンねじ1は、軸線LAを含む軸部2と、頭部3と、軸部2の外周に設けられたねじ山4とを備えている。またねじ山4は、軸部2の軸線LAを含む縦断面において、軸部2の先端側SA1に位置する複数の成形ねじ山41と、頭部側SA2に位置し、成形ねじ山41よりも小さな外径をもつ複数の締付けねじ山42とを有する。ねじ山4を構成する成形ねじ山41と締付けねじ山42については、更に後述する。
【0015】
タッピンねじ1は、後述するワーク7の下穴71にねじ込まれることによって、ワーク7に締結される。
【0016】
本明細書において、軸線LAの延びる方向を軸線方向DAという。軸線方向DAのうち、軸部2と頭部3とが接続する位置を基準として軸部2の先端2aが位置する側を、軸部2の先端側SA1という。また、軸線方向DAのうち、軸部2と頭部3とが接続する位置を基準として頭部3が位置する側を、頭部側SA2という。
【0017】
図1および
図2に示す例において、タッピンねじ1を構成する軸部2、頭部3およびねじ山4は、一体的に形成されている。
【0018】
タッピンねじ1は、後述するワーク7の下穴71にねじ込まれる際に、軸線LAを中心として回転させられる。本明細書において、軸線LAを周回する方向を円周方向DBと称する。円周方向DBのうち、タッピンねじ1をワーク7の下穴71にねじ込む際にタッピンねじ1を回転させる方向を、ねじ込み回転方向SB1という。また、円周方向DBのうち、タッピンねじ1を緩める際にタッピンねじ1を回転させる方向を、緩め回転方向SB2という。また、タッピンねじ1の半径方向は半径方向DCとなる。
【0019】
次に、タッピンねじ1の各構成要素についてさらに説明する。
【0020】
まず、頭部3について述べる。頭部3は、タッピンねじ1の頭部側SA2の端部を形成している。
図2に示す例において、頭部3は、タッピンねじ1に回転力を加えるための工具と噛み合う部分、例えば頭部本体31と、頭部本体31よりも径方向DCにおいて突出しているフランジ部32と、を有する。フランジ部32は、頭部本体31の先端側SA1に接続している。一例として、フランジ部32は、先端側SA1から見て、軸線LAを中心とする円形の輪郭を有する。
【0021】
頭部3の頭部本体31は、一般的なタッピンねじを回転させるための工具と噛み合う部分となるが、頭部3は、例えば一般的なレンチと噛み合う部分を有する。頭部3は、一般的なドライバーと噛み合う部分を有してもよい。本実施の形態において、
図2に示すように、頭部本体31は、軸線方向DAに延びる略六角柱状の形状を有する。このことにより、頭部本体31は、一般的なソケットレンチの六角ソケットと噛み合う。このため、六角ソケットを有するソケットレンチを用い、六角ソケットを頭部本体31に噛み合わせてソケットレンチを操作することによって、タッピンねじ1を回転させることができる。なお、
図2に示す例において、頭部本体31には、「+」形状の溝33を形成してもよい。このため、溝33に一般的なプラスドライバーの先端を挿入し、プラスドライバーを頭部本体31に噛み合わせてプラスドライバーを操作する。このことによって、タッピンねじ1を回転させることもできる。
【0022】
次に、軸部2について述べる。軸部2は、軸線LAを含んでいる。軸部2は、軸線方向DAに延びる略円柱状の形状を有する。一例として、軸部2は、軸線LAを中心として回転対称な形状を有する。軸部2は、頭部3の先端側SA1に接続している。
図1および
図2に示す例において、軸部2は、頭部3のうちフランジ部32の先端側SA1に接続している。
【0023】
次に、ねじ山4について述べる。ねじ山4は、軸部2の側面2bに設けられている。ねじ山4は、軸部2を螺旋状に周回するように設けられている。タッピンねじ1は、少なくとも一条のねじ山4、好ましくは
図1および
図2に示すように、二条ねじ構造を有する。本実施の形態においては、タッピンねじ1は、第1ねじ山4aと第2ねじ山4bとの二条のねじ山4を備えている。
図1および
図2に示す例において、第1ねじ山4aと第2ねじ山4bとは、互いに平行に、軸部2を螺旋状に周回するように設けられている。このため、タッピンねじ1を軸線方向DAに沿って観察すると、第1ねじ山4aと第2ねじ山4bとが交互に現れる。図示はしないが、タッピンねじ1は、ねじ山4を一条だけ備えていてもよい。
【0024】
図3は、
図1および
図2に示すタッピンねじ1の、軸部2の軸線LAを含む縦断面の一部を拡大して示す図である。
図3に示すような、軸部2の軸線LAを含む縦断面において、ねじ山4は、少なくとも、軸部2の先端側SA1に位置する複数の成形ねじ山41と、頭部側SA2に位置し、成形ねじ山41よりも小さな外径をもつ複数の締付けねじ山42とを有する。成形ねじ山41、締付けねじ山42および後述する先端ねじ山44において、外径とは、成形ねじ山41、締付けねじ山42または先端ねじ山44の軸線LAから最も離れた端部と、軸線LAとの間の距離である。
図3に示す例においては、第1ねじ山4aおよび第2ねじ山4bのそれぞれが、一部において成形ねじ山41を形成し、他の一部において締付けねじ山42を形成している。
【0025】
次に、成形ねじ山41について述べる。複数の成形ねじ山41は、複数の締付けねじ山42よりも、軸部2の先端側SA1に位置している。
図3に示すように、ねじ山4には、複数の成形ねじ山41が現れている。
図4Aは、
図3の成形ねじ山41の周辺を拡大して示す図である。
図3および
図4Aに示すように、軸部2の軸線LAを含む縦断面において、成形ねじ山41間には平坦状の谷底43が形成される。
図3および
図4Aに示す例において、平坦状の谷底43は、軸部2の側面2bによって形成されている。
【0026】
成形ねじ山41の、軸線LAから最も離れた端部を、山頂411という。
図3および
図4Aに示す例において、山頂411は、軸線LAに平行な面を形成している。
図3および
図4Aに示すような、軸部2の軸線LAを含む縦断面において、成形ねじ山41は、山頂411から谷底43まで延びる2側縁412を有する。2つの側縁412の一方は、成形ねじ山41の先端側SA1の面を形成している。2つの側縁412の他方は、成形ねじ山41の頭部側SA2の面を形成している。成形ねじ山41の2側縁412は、山頂411から谷底43まで直線状に延びている。
【0027】
図3に示す実施の形態において、ねじ山4のうち成形ねじ山41を形成している部分は、少なくとも1周以上、軸部2の外周を周回している。タッピンねじ1が二条ねじ構造を有する場合、第1ねじ山4aおよび第2ねじ山4bのうち成形ねじ山41を形成している部分のそれぞれが、少なくとも1周以上、軸部2の外周を周回していてもよい。
【0028】
次に、締付けねじ山42について述べる。複数の締付けねじ山42は、複数の成形ねじ山41よりも、頭部側SA2に位置している。
図4Bは、
図3の締付けねじ山42の周辺を拡大して示す図である。
図3において、締付けねじ山42の外径w2は、複数の締付けねじ山42同士の間において一定である。
図3において、第1ねじ山4aによって形成される締付けねじ山42の外径w21と、第2ねじ山4bによって形成される締付けねじ山42の外径w22とは等しい。
【0029】
図3に示すように、ねじ山4には複数の締付けねじ山42が現れている。そして
図3および
図4Bに示すような、軸部2の軸線LAを含む縦断面において、締付けねじ山42間には外方へ向かって凹となる谷底45が形成される。
【0030】
締付けねじ山42の、軸線LAから最も離れた端部を、山頂421という。
図3に示す例において、山頂421は、軸線LAに平行な面を形成している。このとき、
図3および
図4Bに示すような、軸部2の軸線LAを含む縦断面において、締付けねじ山42は、山頂421から谷底45まで延びる2側縁422を有する。2つの側縁422の一方は、締付けねじ山42の先端側SA1の面を形成している。2つの側縁422の他方は、締付けねじ山42の頭部側SA2の面を形成している。締付けねじ山42の2側縁422は、締付けねじ山42の山頂421から谷底45まで直線状に延びている。
【0031】
図3および
図4Bに示すような、軸部2の軸線LAを含む縦断面において、締付けねじ山42間に形成されている谷底45は、外方へ向かって凹となる円弧状の部分を有する。円弧状の部分とは、
図3および
図4Bに示すような、軸部2の軸線LAを含む縦断面において、円の一部に相当する形状の曲線として現れる部分である。
図3および
図4Bに示す例において、締付けねじ山42間に形成されている谷底45は、平坦状の部分を有しない。そして、谷底45は、外方へ向かって凹となる円弧状の部分によって構成されている。これにより、谷底45は、谷底45の先端側SA1に位置する締付けねじ山42の、頭部側SA2に位置する側縁422と、角度をなすことなく滑らかに接続している。また、谷底45は、谷底45の頭部側SA2に位置する締付けねじ山42の、先端側SA1に位置する側縁422と、角度をなすことなく滑らかに接続している。
【0032】
図3に示す実施の形態において、ねじ山4のうち締付けねじ山42を形成している部分は、少なくとも1周以上、軸部2の外周を周回している。タッピンねじ1が二条ねじ構造を有する場合、第1ねじ山4aおよび第2ねじ山4bのうち締付けねじ山42を形成している部分のそれぞれが、少なくとも1周以上、軸部2の外周を周回していてもよい。
【0033】
締付けねじ山42の外径w2は、成形ねじ山41の外径w1よりも小さくなっている。一例として、締付けねじ山42の外径w2は、成形ねじ山41の外径w1の最大値の0.98倍以下である。また、タッピンねじ1の、成形ねじ山41の谷底43における径w4は、タッピンねじ1の、締付けねじ山42の谷底45における径w3よりも小さくなっている。
図3において、タッピンねじ1の、成形ねじ山41の谷底43における径w4は、タッピンねじ1の、締付けねじ山42の円弧状の部分を有する谷底45における径w3の最小値よりも小さくなっている。一例として、タッピンねじ1の、成形ねじ山41の谷底43における径w4は、タッピンねじ1の、締付けねじ山42の谷底45における径w3の最小値の、0.97倍以下である。
【0034】
本実施の形態のねじ山4は、
図3に示すような軸部2の軸線LAを含む縦断面において、成形ねじ山41よりも軸部2の先端側SA1に位置する先端ねじ山44をさらに有している。
図3に示す例において、先端ねじ山44は、締付けねじ山42よりも小さな外径をもっている。
図3に示す軸部2の軸線LAを含む縦断面には、複数の先端ねじ山44が現れている。先端ねじ山44の外径w10は、成形ねじ山41の外径w1よりも小さくなっている。
図3において、先端ねじ山44の外径w10は、締付けねじ山42の外径w2よりも小さくなっている。これにより、成形ねじ山41の外径w1は、締付けねじ山42の外径w2および先端ねじ山44の外径w10よりも大きくなっている。
図3に示す例において、成形ねじ山41間には谷底46が形成されている。先端ねじ山44間の谷底46は、軸部2の側面2bによって形成されている。
【0035】
図3に示す例において、タッピンねじ1の、先端ねじ山44の谷底46における径w9は、軸線方向DAにおいて、先端側SA1に向かうにつれて小さくなっている。
図3に示す例において、タッピンねじ1の、先端ねじ山44の谷底46における径w9の最大値は、タッピンねじ1の、成形ねじ山41の谷底43における径w4よりも小さい。
【0036】
上述した複数の成形ねじ山41、複数の締付けねじ山42、先端ねじ山44、谷底43、谷底45及び谷底46は、タッピンねじ1の、軸部2の軸線LAを含む縦断面の少なくとも1つに現れる。上述した複数の成形ねじ山41、複数の締付けねじ山42、先端ねじ山44、谷底43、谷底45及び谷底46は、タッピンねじ1の、軸部2の軸線LAを含む任意の縦断面に現れてもよい。
【0037】
タッピンねじ1の材料は、例えば合金鋼またはボロン鋼である。タッピンねじ1の材料は、クロムモリブデン鋼であってもよい。タッピンねじ1の材料は、例えばSCM435である。タッピンねじ1の材料は、一般的なタッピンねじの材料と同様の金属材料であってもよい。
【0038】
本実施の形態においては、タッピンねじ1を製造するときに、タッピンねじ1の材料に対して熱処理を施す。熱処理は、タッピンねじ1の材料をタッピンねじ1の形状に整えた後に、当該材料に対して施される。熱処理によって、所望の特性、例えば所望の硬さまたは靭性を有するタッピンねじ1が得られる。ここで、本実施の形態のタッピンねじ1の発明者らは、本実施の形態のタッピンねじ1の製造においては、熱処理として調質処理を施すことが特に好ましいことを見出した。以下、調質処理が好ましい理由について述べる。
【0039】
一般的なタッピンねじの製造においては、タッピンねじの材料に対して、熱処理として浸炭処理が施される。浸炭処理においては、タッピンねじの材料の表面に炭素を添加して、当該材料の表面付近のみを硬化させる。この場合、製造されるタッピンねじの表面付近の硬さが大きくなる一方で、表面付近の靭性は小さくなる。
【0040】
これに対して本実施の形態においては、タッピンねじの製造において、タッピンねじの材料に対して、熱処理として調質処理を施す。具体的には調質処理として、タッピンねじの材料に対して焼入れを施し、焼入れの後に焼戻しを施す。焼戻しにおいては、当該材料を400°以上に加熱する。タッピンねじの材料に対して調質処理を施した場合には、タッピンねじの材料に対して浸炭処理を施した場合と比較して、製造されるタッピンねじの表面付近の硬さが小さくなる。その一方で、製造されるタッピンねじの表面付近の靭性が大きくなる。また、タッピンねじの材料に対して調質処理を施した場合には、タッピンねじの材料に対して浸炭処理を施した場合と比較して、当該材料の表面付近の硬さと、表面から遠ざかった部分の硬さとの差がより小さくなると考えられる。
【0041】
本実施の形態において、タッピンねじ1に対して調質処理を施すが、調質処理の方が浸炭処理よりも好ましい理由は以下の通りである。まず、タッピンねじ1の表面付近の靭性を大きくする観点からは、浸炭処理よりも調質処理のほうが好ましい。このため、調質処理によって、タッピンねじ1の表面付近の靭性を大きくして、タッピンねじ1の表面1aにクラックが生じることを抑制できる。また、調質処理によれば、表面付近の硬さと表面から遠ざかった部分の硬さとの差が、より小さくなる。これによっても、タッピンねじ1の表面1aにクラックが生じることを抑制できる。以上により、疲労によりタッピンねじ1の表面1aにクラックが生じることを抑制して、タッピンねじ1の疲労に対する耐性を大きくできる。
【0042】
また、タッピンねじ1の表面付近の硬さを大きくする観点からは、調質処理よりも浸炭処理のほうが好ましいとも考えることができる。しかしながら、発明者らは、本実施の形態のタッピンねじ1の表面付近には、特に大きな硬さは要求されないことを見出した。特に、後述するように、タッピンねじ1が締結されるワーク7の硬さが小さい場合、タッピンねじ1の表面付近が特に大きな硬さを有しなくても、ワーク7に対してタッピンねじ1を締結できることを見出した。以上より、表面付近の硬さを大きくすることは特に要求されない本実施の形態のタッピンねじ1の製造においては、クラックの発生を抑制する観点から、材料に対して浸炭処理よりも調質処理を施すことが好ましい。
【0043】
材料に対して調質処理を施すことにより得られるタッピンねじ1の硬さについて述べる。タッピンねじ1の表面1aの硬さは、タッピンねじ1の心部硬さの、1.2倍以下である。ここで、硬さはビッカース硬さ(HV)を意味する。
【0044】
タッピンねじ1の表面1aの硬さは、ビッカース硬さ試験機を用いて、JIS Z 2244:2009に準拠して測定される。
【0045】
タッピンねじ1の心部硬さは、ビッカース硬さ試験機を用いて、JIS B 1122:2015の「心部硬さ試験」に準拠して測定される値である。すなわち、タッピンねじ1の心部硬さは、タッピンねじ1の先端2aから十分離れた部分を軸線LAに対して垂直に切断した横断面の谷底と軸線LAとの中間点のビッカース硬さを、JIS Z 2244:2009に準拠して測定した値である。
【0046】
一例として、タッピンねじ1の表面1aの硬さは、380HV以下である。材料に対して調質処理を施すことにより、上述した硬さを有するタッピンねじ1が得られる。上述した硬さを有するタッピンねじ1によれば、クラックの発生を安定的に抑制できる。特に、疲労によりタッピンねじ1の表面1aにクラックが生じることを抑制して、タッピンねじ1の疲労に対する耐性を大きくできる。
【0047】
(作用)
次に、このような構成からなるタッピンねじ1の作用について説明する。まず、タッピンねじ1を製造するときの、タッピンねじ1の作用について説明する。本実施の形態のタッピンねじ1は、以下の方法によって製造できる。まず、
図5に示すような、タッピンねじ1の軸部2に対応する第1部分102と、タッピンねじ1の頭部3に対応する第2部分103とを有する形状の、タッピンねじ1の材料100を準備する。
【0048】
次に、第1部分102に、転造によってねじ山4を形成する。
図6は、第1部分102にねじ山4を形成しているときの、第1部分102の軸線を含む断面の一部を拡大して示す図である。転造によってねじ山4を形成する際には、
図6に示すように、第1部分102に対して転造ダイス9を押し当てて、第1部分102を塑性変形させる。転造ダイス9は、製造するタッピンねじ1のねじ山4の形状に対応した形状を有する。これによって、
図6に示すように、第1部分102にねじ山4が形成される。第1部分102にねじ山4が形成された材料100に調質処理を施すことによって、タッピンねじ1が製造される。
【0049】
ここで、本実施の形態のタッピンねじ1においては、軸部2の軸線LAを含む縦断面において、成形ねじ山41間に平坦状の谷底43が形成されている。成形ねじ山41は、山頂411から谷底43まで延びる2側縁412を有している。2側縁412は、山頂411から谷底43まで直線状に延びている。このような成形ねじ山41および谷底43は、
図6に示すように、谷底43に対応する平坦な第1面91と、直線状の2つの側縁412に対応する平坦な第2面92と、を有する転造ダイス9によって形成される。
【0050】
本実施の形態のタッピンねじ1において、上述のように、軸部2の軸線LAを含む縦断面において成形ねじ山41間に平坦状の谷底43が形成されている。ところで、転造ダイス9の、谷底43に対応する面である第1面91は、平坦となっている。このような転造ダイス9を用いることにより、転造ダイス9の平坦な第1面91によって第1部分102が押圧される。このことによって、成形ねじ山41間に平坦状の谷底43が形成される。また、第1面91が平坦であることによって、第1部分102の谷底43に対応する部分を強い力で押すことができる。また、第1面91が平坦であることによって、例えば第1面91が曲面である場合よりも、第1部分102の谷底43に対応する部分を、より強い力で押すことができる。このことによって、第1部分102の谷底43に対応する部分を、より深くまで押すことができる。これによって、成形ねじ山41を、より高くできる。すなわち、成形ねじ山41の外径w1を大きくできる。これにより、上述したように、締付けねじ山42の外径w2を、成形ねじ山41の外径w1よりも小さくできる。また、第1部分102の谷底43に対応する部分を強い力で押すことにより、成形ねじ山41の谷底43における径w4を小さくできる。これにより、上述したように、締付けねじ山42の谷底43における径w3を、成形ねじ山41の谷底43における径w4よりも大きくできる。
【0051】
また、本実施の形態のタッピンねじ1において、2側縁412は、山頂411から谷底43まで直線状に延びている。また、タッピンねじ1の2側縁412の形状に合わせて、転造ダイス9の、2つの側縁412に対応する第2面92は、平坦となっている。このような転造ダイス9によれば、第2面92の押圧により突出した第1部分102の一部を、第2面92に沿うように変形させ、外径w1の大きな成形ねじ山41を、より安定的に形成できる。
【0052】
また、タッピンねじ1において、ねじ山4は、二条ねじ構造を有してもよい。次に、ねじ山4が二条ねじ構造を有する場合の効果について、
図7および
図8を参照して説明する。
図7は、タッピンねじ1のねじ山4が二条ねじ構造を有する場合の、一部を拡大して示す側面図である。
図8は、タッピンねじ1は、ねじ山4を一条だけ備える場合の、一部を拡大して示す側面図である。なお、
図7および
図8において、ねじ山4の形状は、
図1および
図2よりも簡略化して表現している。
【0053】
図7において、タッピンねじ1は、第1ねじ山4aと第2ねじ山4bとの二条のねじ山4を備えている。タッピンねじ1を軸線方向DAに沿って観察すると、第1ねじ山4aと第2ねじ山4bとが交互に現れる。
図7において、第1ねじ山4aのピッチw5と第2ねじ山4bのピッチw6とは、等しい。ピッチw5およびピッチw6は、軸線方向DAにおいて隣り合う第1ねじ山4aと第2ねじ山4bとの中心同士の間隔w7の2倍の長さを有する。
図8におけるねじ山4のピッチw8は、
図7におけるピッチw5およびピッチw6と等しい。
【0054】
図7に示すねじ山4と
図8に示すねじ山4とを比較すると、
図7に示す二条ねじ構造を有するねじ山4の、軸線方向DAにおいて隣り合う第1ねじ山4aと第2ねじ山4bとの中心同士の間隔w7は、
図8に示すねじ山4のピッチw8の半分の長さを有している。このために、
図7に示すねじ山4の谷底の軸線方向DAにおける幅w11は、
図8に示すねじ山4の谷底の軸線方向DAにおける幅w12よりも小さい。このように、ピッチw8とピッチw5およびピッチw6とが等しいか、またはピッチw8とピッチw5およびピッチw6との差が小さい場合、ねじ山4が二条ねじ構造を有するタッピンねじ1は、ねじ山4を一条だけ備えるタッピンねじ1よりも、ねじ山4の谷底の幅が小さくなりやすい。
【0055】
ここで、ねじ山4の谷底は、転造ダイス9を用いて第1部分102の一部を押圧して凹ませることによって、形成される。第1部分102の転造ダイス9によって押圧された部分の材料は、軸線方向DAに移動してねじ山4を形成する。ねじ山4の谷底の軸線方向DAにおける幅が大きいと、転造ダイス9を用いて第1部分102のより広い領域を凹ませ、第1部分102の押圧された部分の材料をより大きな距離だけ移動させる必要が生じる。
【0056】
この点に関し、転造ダイス9を用いて第1部分102を塑性変形させてねじ山4を形成するときに、
図7に示すようなねじ山4を形成する場合には、
図8に示すようなねじ山4を形成する場合よりも、形成すべきねじ山4の谷底の幅を小さくできる。以上より、
図7に示すようなねじ山4は、
図8に示すようなねじ山4よりも、転造ダイス9を用いて第1部分102を塑性変形させてねじ山4を形成するときに、ねじ山4を所望の形状に形成することが容易となる。
【0057】
次に、
図9に示すような板状の形状を有するワーク7に対してタッピンねじ1を締結するときの、タッピンねじ1の作用について説明する。特に、ワーク7に対してタッピンねじ1を締結することにより、
図9に示す板状の部品8をワーク7に接合するときの、タッピンねじ1の作用について説明する。まず、ワーク7と、部品8とを準備する。ワーク7には、タッピンねじ1がねじ込まれる下穴71が形成されている。ワーク7の材料は、ワーク7の下穴71にタッピンねじ1をねじ込むことができる限り、特に限られない。ワーク7の下穴71にタッピンねじ1をねじ込みやすくする観点からは、ワーク7の硬さは小さいことが好ましい。ワーク7の、少なくとも下穴71の壁面711を形成する部分は、タッピンねじ1の表面1aの硬さよりも小さな硬さを有する。ワーク7の材料は、例えば樹脂である。ワーク7の材料は、例えば樹脂である。ワーク7の材料は、ガラス入り樹脂であってもよい。ワーク7は、アルミダイカストまたは亜鉛ダイカストであってもよい。部品8は、タッピンねじ1の軸部2およびねじ山4を通過させることができ、且つタッピンねじ1の頭部3を通過させることができない寸法の孔81を有している。
【0058】
次に、
図9に示すように、下穴71と孔81とが重なるように、ワーク7と部品8とを重ねて配置する。
【0059】
次に、タッピンねじ1の軸部2およびねじ山4を先端側SA1から孔81に通過させた上で、軸部2の先端2aを下穴71に挿入する。これによって、軸部2に設けられたねじ山4の一部を、下穴71の壁面711に接触させる。
【0060】
次に、ねじ山4の一部を下穴71の壁面711に接触させた状態で、タッピンねじ1をねじ込み回転方向SB1に回転させる。これによって、タッピンねじ1が下穴71にねじ込まれる。このとき、
図10に示すように、タッピンねじ1が、下穴71の壁面711に内ねじ712を形成しつつ、下穴71のより奥に進入する。ここで、本実施の形態において、成形ねじ山41の外径w1は、締付けねじ山42の外径w2よりも大きく、且つ先端ねじ山44の外径w10よりも大きい。このため、タッピンねじ1をねじ込み回転方向SB1に回転させることにより、成形ねじ山41の山頂411が下穴71の壁面711を削ることで、内ねじ712が形成される。タッピンねじ1をねじ込み回転方向SB1に回転させる場合、例えば、タッピンねじ1の頭部3と噛み合う部分を有する工具を用いて、タッピンねじ1を回転させることができる。
図2に示す略六角柱状の形状の頭部3を有するタッピンねじ1の場合、タッピンねじ1を回転させる工具として、例えば六角ソケットを有するソケットレンチを用いることができる。
【0061】
図10に示す状態から、さらにタッピンねじ1をねじ込み回転方向SB1へ回転させることにより、
図11に示すように、ワーク7が部品8に接触し、且つタッピンねじ1のフランジ部32が部品8に接触する。
図11において、タッピンねじ1は、下穴71に形成された内ねじ712にねじ留めされている。これによって、タッピンねじ1は、ワーク7に対して締結されている。また、
図11においては、部品8がタッピンねじ1のフランジ部32とワーク7との間に挟まれて、ワーク7に対する部品8の位置が固定されている。これにより、タッピンねじ1によって部品8がワーク7に接合されている。
【0062】
ここで、本実施の形態のタッピンねじ1においては、締付けねじ山42の外径w2が、成形ねじ山41の外径w1よりも小さい。これによって、以下の効果が得られる。上述したように、タッピンねじ1をねじ込み回転方向SB1に回転させることにより、成形ねじ山41の山頂411が下穴71の壁面711を削ることで、内ねじ712が形成される。締付けねじ山42の外径w2が成形ねじ山41の外径w1よりも小さいことによって、成形ねじ山41の山頂411によって形成された内ねじ712に、締付けねじ山42の山頂421が接触しにくくなる。このため、タッピンねじ1をワーク7の下穴71にねじ込むときに、タッピンねじ1とワーク7とが接触する面積が小さくなる。これによって、タッピンねじ1をワーク7の下穴71にねじ込むときにタッピンねじ1とワーク7との間に生じる摩擦を小さくして、タッピンねじ1のねじ込みトルクを小さくできる。
【0063】
また、本実施の形態において、タッピンねじ1の、成形ねじ山41の谷底43における径w4は、タッピンねじ1の、締付けねじ山42の谷底45における径w3よりも小さい。このため、タッピンねじ1をワーク7の下穴71にねじ込むときに、下穴71の壁面711に対して成形ねじ山41の谷底43が押し付けられる力を弱めることができる。これによって、タッピンねじ1をワーク7の下穴71にねじ込むときに、タッピンねじ1とワーク7との間に生じる摩擦をさらに小さくして、タッピンねじ1のねじ込みトルクを小さくできる。
【0064】
図11において、タッピンねじ1は、ワーク7に対して締結されている。また、タッピンねじ1によって部品8がワーク7に接合されている。
図11に示すような状態を維持するためには、タッピンねじ1の疲労に対する耐性が大きいことが好ましい。特に、締付けねじ山42は、成形ねじ山41や先端ねじ山44よりも頭部側SB2に位置する。このため、ねじ山4のうち締付けねじ山42を形成する部分、および軸部2のうち締付けねじ山42間の谷底45を形成する部分には、ねじ山4のうち成形ねじ山41や先端ねじ山44を形成する部分よりも、外部からの力がタッピンねじ1の頭部3やワーク7の表面を介して伝わりやすい。特に、
図11においては、内ねじ712のうち、下穴71の開口713付近に形成された部分に、タッピンねじ1のねじ山4のうち、締付けねじ山42を形成する部分が噛み合っている。この点からも、
図11においては、ねじ山4のうち締付けねじ山42を形成する部分、および軸部2のうち締付けねじ山42間の谷底45を形成する部分に、外部からの力が伝わりやすいと考えられる。以上より、特に、ねじ山4のうち締付けねじ山42を形成する部分、および軸部2のうち締付けねじ山42間の谷底45を形成する部分の、疲労に対する耐性が大きいことが好ましい。
【0065】
ここで、本実施の形態のタッピンねじ1においては、軸部2の軸線LAを含む縦断面において、締付けねじ山42間に形成されている谷底45が、外方へ向かって凹となる円弧状の部分を有している。この効果について説明する。仮に、締付けねじ山42間に形成されている谷底45が平坦状であり、締付けねじ山42の側縁422と角度をなして接続している場合について考える。この場合、谷底45が平坦状であるために、谷底45の一部に外部からの力が集中して作用しやすい。特に、平坦状の谷底45の、側縁422と角度をなして接続している部分に、外部からの力が集中して作用しやすい。これに対して、谷底45が外方へ向かって凹となる円弧状の部分を有していることによって、軸部2のうち締付けねじ山42間の谷底45を形成する部分に加わる力を分散できる。特に、谷底45を、締付けねじ山42の側縁422と、角度をなすことなく滑らかに接続することもできる。これによって、ねじ山4のうち締付けねじ山42を形成する部分、および軸部2のうち締付けねじ山42間の谷底45を形成する部分に加わる力を分散できる。以上により、ねじ山4のうち締付けねじ山42を形成する部分、または軸部2のうち締付けねじ山42間の谷底45を形成する部分の一部に外部からの力が集中することを抑制し、当該部分の疲労に対する耐性を大きくできる。
【0066】
以上に説明した本実施の形態のタッピンねじ1は、軸線LAを含む軸部2と、頭部3と、軸部2の外周に設けられたねじ山4とを備えている。軸部2の軸線LAを含む縦断面において、ねじ山4は、少なくとも、軸部2の先端側SA1に位置する複数の成形ねじ山41と、頭部側SA2に位置し、成形ねじ山41よりも小さな外径をもつ複数の締付けねじ山42とを有する。軸部2の軸線LAを含む縦断面において、成形ねじ山41間に平坦状の谷底43が形成され、成形ねじ山41は山頂411から谷底43まで延びる2側縁412を有する。軸部2の軸線LAを含む縦断面において、締付けねじ山42間に外方へ向かって凹となる谷底45が形成され、締付けねじ山42は山頂421から谷底45まで延びる2側縁422を有する。軸部2の軸線LAを含む縦断面において、締付けねじ山42間に形成されている谷底45は、外方へ向かって凹となる円弧状の部分を有する。
【0067】
このようなタッピンねじ1によれば、成形ねじ山41間の谷底43が平坦状であることに対応して、タッピンねじ1の製造においてねじ山4の形成に用いられる転造ダイス9の谷底43に対応する面である第1面91も平坦に形成されている。このような転造ダイス9によれば、タッピンねじ1の材料100を、平坦な第1面91によって強い力で押すことができる。仮に成形ねじ山41間の谷底43を円弧状とする場合、転造ダイス9の谷底43に対応する面も円弧状となる。この場合、転造ダイス9の円弧状の面をタッピンねじ1の材料100の深部まで進入させることは難しい。これに対して、本実施の形態によれば、転造ダイス9の平坦な第1面91を介して材料100に大きな力を作用させ、第1面91をタッピンねじ1の材料100の深部まで進入させることができる。これによって、成形ねじ山41の外径w1を大きくできる。また、締付けねじ山42間に形成されている谷底45が円弧状の部分を有する。このことによって、タッピンねじ1がワーク7に対して締結されている状態において、軸部2のうち締付けねじ山42間の谷底45を形成する部分に外部から加わる力を、この円弧状の部分によって分散できる。このため、当該部分の疲労に対する耐性を大きくできる。
【0068】
また、締付けねじ山42の外径w2が成形ねじ山41の外径w1よりも小さいことによって、以下の効果も得られる。タッピンねじ1をワーク7の下穴71にねじ込むときに、成形ねじ山41の山頂411によって形成された内ねじ712に、締付けねじ山42の山頂421が接触しにくくなる。これによって、タッピンねじ1をワーク7の下穴71にねじ込むときにタッピンねじ1とワーク7との間に生じる摩擦を小さくして、タッピンねじ1のねじ込みトルクを小さくできる。
【0069】
本実施の形態において、成形ねじ山41の2側縁412は、山頂411から谷底43まで直線状に延びている。これによって、タッピンねじ1の製造においてねじ山4の形成に用いられる転造ダイス9の2つの側縁412に対応する第2面92が、平坦となる。このような転造ダイス9によれば、外径w1の大きな成形ねじ山41を、より安定的に形成できる。
【0070】
本実施の形態において、タッピンねじ1の、成形ねじ山41の谷底43における径w4は、タッピンねじ1の、締付けねじ山42の谷底45における径w3よりも小さい。これによって、タッピンねじ1をワーク7の下穴71にねじ込むときに、タッピンねじ1とワーク7との間に生じる摩擦をさらに小さくして、タッピンねじ1のねじ込みトルクを小さくできる。
【0071】
本実施の形態においては、軸部2の軸線LAを含む縦断面において、ねじ山4が、成形ねじ山41よりも、軸部2の先端側SA1に位置し、締付けねじ山42よりも小さな外径をもつ先端ねじ山44をさらに有する。このため、成形ねじ山41の外径w1は、締付けねじ山42の外径w2よりも大きく、且つ先端ねじ山44の外径w10よりも大きい。これにより、タッピンねじ1をワーク7の下穴71にねじ込むときに、成形ねじ山41の山頂411によって下穴71の壁面711を削ることで、壁面711に内ねじ712を形成できる。
【0072】
本実施の形態において、タッピンねじ1の表面1aの硬さは、タッピンねじ1の心部硬さの、1.2倍以下である。このようなタッピンねじ1は、タッピンねじ1の材料に対して調質処理を施すことにより、製造できる。このようなタッピンねじ1によれば、クラックの発生を安定的に抑制できる。
【0073】
本実施の形態のタッピンねじ1によれば、タッピンねじ1をワーク7の下穴71にねじ込むときには、ねじ山4の成形ねじ山41を形成する部分によって、下穴71の壁面711に内ねじ712を形成できる。このとき、上述したタッピンねじ1の特徴により、タッピンねじ1のねじ込みトルクを小さく抑えることができる。一方で、タッピンねじ1がワーク7に対して締結されている状態を維持する観点からは、ねじ山4のうち締付けねじ山42を形成する部分、および軸部2のうち締付けねじ山42間の谷底45を形成する部分の、疲労に対する耐性が大きいことが好ましい。これに対して、上述したタッピンねじ1の特徴により、ねじ山4のうち締付けねじ山42を形成する部分、および軸部2のうち締付けねじ山42間の谷底45を形成する部分の、疲労に対する耐性を大きくできる。以上により、本実施の形態によれば、タッピンねじ1をワーク7の下穴71にねじ込むときにはねじ込みトルクが小さく抑えられ、且つタッピンねじ1がワーク7に対して締結されているときの疲労に対する耐性が大きな、タッピンねじ1を提供できる。
【0074】
上記実施の形態に開示されている複数の構成要素を必要に応じて適宜組み合わせることも可能である。あるいは、上記実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 タッピンねじ
1a 表面
1b 表面領域
1c 深部領域
2 軸部
3 頭部
4 ねじ山
41 成形ねじ山
42 締付けねじ山
44 先端ねじ山
7 ワーク
71 下穴
8 部品
81 孔