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特開2024-176941天然型クロロフィルを含む抽出液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176941
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】天然型クロロフィルを含む抽出液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/22 20060101AFI20241212BHJP
   C07C 229/12 20060101ALI20241212BHJP
   C07C 309/14 20060101ALI20241212BHJP
   C09B 61/00 20060101ALI20241212BHJP
   B01D 11/02 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C07D487/22
C07C229/12
C07C309/14
C09B61/00 B
B01D11/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095837
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】397022911
【氏名又は名称】学校法人甲南学園
(71)【出願人】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】甲元 一也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼石 佳樹
【テーマコード(参考)】
4C050
4D056
4H006
【Fターム(参考)】
4C050PA07
4D056AB14
4D056AB20
4D056AC11
4D056BA03
4D056CA01
4D056CA39
4H006AA03
4H006AB80
4H006BS70
4H006BU50
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、天然型クロロフィルを含む抽出液を簡便な操作で製造する方法を提供することである。
【解決手段】一般式(1)で示される化合物を含む水溶液を抽出溶媒として使用し、クロロフィルを含む植物体又は藻類を抽出処理する工程を含む、クロロフィルを含む抽出液の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される化合物を含む水溶液を抽出溶媒として使用し、クロロフィルを含む植物体又は藻類を抽出処理する工程を含む、クロロフィルを含む抽出液の製造方法。
【化1】
[一般式(1)において、R1、R2、及びR3は、それぞれ同一又は異なるアルキル基を示し、且つR1、R2、及びR3のアルキル基の合計炭素数が3~15であり、R4は、炭素数1~5のアルキレン基であり、Q-は、基-COO-又は基-SO3 -である。]
【請求項2】
前記一般式(1)において、R1、R2、及びR3が、炭素数4又は5のアルキル基であり、且つR4が炭素数1~3のアルキレン基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記水溶液中の一般式(1)で示される化合物の濃度が0.3~10.0Mである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
一般式(1)で示される化合物を含む水溶液を抽出溶媒として使用し、クロロフィルを含む植物部位又は藻類を抽出処理することにより得られる、クロロフィルを含む抽出液。
【化1】
[一般式(1)において、R1、R2、及びR3は、それぞれ同一又は異なるアルキル基を示し、且つR1、R2、及びR3のアルキル基の合計炭素数が3~15であり、R4は、炭素数1~5のアルキレン基であり、Q-は、基-COO-又は基-SO3 -である。]
【請求項5】
一般式(1)で示される化合物を含む水溶液からなる、植物部位又は藻類からクロロフィルを抽出するための抽出溶媒。
【化1】
[一般式(1)において、R1、R2、及びR3は、それぞれ同一又は異なるアルキル基を示し、且つR1、R2、及びR3のアルキル基の合計炭素数が3~15であり、R4は、炭素数1~5のアルキレン基であり、Q-は、基-COO-又は基-SO3 -である。]
【請求項6】
固形状のクロロフィルの製造方法であって、
請求項1に記載のクロロフィルを含む抽出液を水で希釈することによりクロロフィルの沈殿を生じさせる工程、及び
前記沈殿を回収する工程を含む、前記製造方法。
【請求項7】
抽出液を水で希釈することにより、前記抽出液に含まれる一般式(1)で示される化合物の濃度を1.3M以下にする、請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然型クロロフィルを含む抽出液を簡便な操作で製造する方法、及び固形状の天然型クロロフィルを簡便な操作で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロフィルは、植物の葉や藻類等に含まれる緑色の色素であり、葉緑素とも称されている。クロロフィルには、アンチエイジング、コレステロール値の低下、抗アレルギー作用、新陳代謝促進、ダイエット効果、肌荒れ改善、脱臭作用、腸内環境改善、体内の有害ミネラル排出、造血促進、がん予防等の効果が知られており、食品、化粧品、医薬品等の素材として注目されている。
【0003】
クロロフィルは、人工型と天然型に大別される。人工型クロロフィルは、中心金属を銅や鉄に置き換えてアルカリや酸等を用いて抽出及び精製するため、製造は容易であるが、抽出及び精製の過程で本来あるべき側鎖の切断等が生じており、クロロフィルが本来有する機能が減弱又は喪失している。一方、天然型クロロフィルは、自然界に存在する構造を維持しているため、人工型クロロフィルに比べて機能性の点で優れているが、抽出及び精製に高度な技術を要するため、工業的な生産が困難であり、流通量が少ない。
【0004】
そこで、従来、天然型クロロフィルを効率的に抽出する技術について、種々検討されている。例えば、特許文献1では、クロレラに80~100%エタノールを処理し、クロロフィルaを抽出した後に、得られた抽出液にジオキサンを添加し、クロロフィルaの沈殿を誘導することにより、クロロフィルaを効率的に製造できることが記載されている。しかしながら、特許文献1の手法では、高濃度のエタノールを用い、しかもクロロフィルの回収にはジオキサンの使用が必要であり、環境に配慮した技術とはいえない点で欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010―509207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、天然型クロロフィルを含む抽出液を簡便な操作で製造する方法を提供することを課題とする。また、本発明は、固形状の天然型クロロフィルを簡便な操作で製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、特定の構造の化合物を含む水溶液を抽出溶媒として使用し、クロロフィルを含む植物体又は藻類を抽出処理することにより、天然型クロロフィルを効率的に抽出できることを見出した。更に、本発明者は、前記手法で得られた抽出液を水で希釈することにより天然型クロロフィルが沈殿し、固形状の天然型クロロフィルとして簡便に回収できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 一般式(1)で示される化合物を含む水溶液を抽出溶媒として使用し、クロロフィルを含む植物体又は藻類を抽出処理する工程を含む、クロロフィルを含む抽出液の製造方法。
【化1】
[一般式(1)において、R1、R2、及びR3は、それぞれ同一又は異なるアルキル基を示し、且つR1、R2、及びR3のアルキル基の合計炭素数が3~15であり、R4は、炭素数1~5のアルキレン基であり、Q-は、基-COO-又は基-SO3 -である。]
項2. 前記一般式(1)において、R1、R2、及びR3が、炭素数4又は5のアルキル基であり、且つR4が炭素数1~3のアルキレン基である、項1に記載の製造方法。
項3. 前記水溶液中の一般式(1)で示される化合物の濃度が0.3~10.0Mである、項1又は2に記載の製造方法。
項4. 一般式(1)で示される化合物を含む水溶液を抽出溶媒として使用し、クロロフィルを含む植物部位又は藻類を抽出処理することにより得られる、クロロフィルを含む抽出液。
【化1】
[一般式(1)において、R1、R2、及びR3は、それぞれ同一又は異なるアルキル基を示し、且つR1、R2、及びR3のアルキル基の合計炭素数が3~15であり、R4は、炭素数1~5のアルキレン基であり、Q-は、基-COO-又は基-SO3 -である。]
項5. 一般式(1)で示されるカルボキシベタインを含む水溶液からなる、植物部位又は藻類からクロロフィルを抽出するための抽出溶媒。
【化1】
[一般式(1)において、R1、R2、及びR3は、それぞれ同一又は異なるアルキル基を示し、且つR1、R2、及びR3のアルキル基の合計炭素数が3~15であり、R4は、炭素数1~5のアルキレン基であり、Q-は、基-COO-又は基-SO3 -である。]
項6. 固形状のクロロフィルの製造方法であって、
項1に記載のクロロフィルを含む抽出液を水で希釈することによりクロロフィルの沈殿を生じさせる工程、及び
前記沈殿を回収する工程を含む、前記製造方法。
項7. 抽出液を水で希釈することにより、前記抽出液に含まれる一般式(1)で示される化合物の濃度を1.3M以下にする、項6に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、一般式(1)で示される化合物を含む水溶液を抽出溶媒として使用し、クロロフィルを含む植物体又は藻類を抽出処理することにより、クロロフィルを効率的に抽出することができる。更に、前記抽出溶媒を使用して得られた抽出液を水で希釈することによりクロロフィルの沈殿を生じさせることができるので、固形状のクロロフィルを簡便な操作で回収することができる。本発明のクロロフィルを含む抽出液の製造方法は、エタノール等を使用せずとも難水溶性のクロロフィルを抽出及び回収できることから環境負荷の小さいクロロフィルの抽出技術と言える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】2.0Mのカルボキシベタイン5(一般式(1)においてR1~R3が直鎖状ペンチル基、R4がメチレン基、且つQ-が基-COO-である化合物である化合物)水溶液を用いて、モリンガの葉の乾燥粉末からクロロフィルを抽出した抽出液のUVスペクトルである。図1において、縦軸の吸光度は、実測された吸光度の値に、測定に供した抽出液の希釈倍率をかけた値である。
図2】0~2.4Mのカルボキシベタイン5水溶液を用いて、モリンガの葉の乾燥粉末からクロロフィルの抽出処理を行い、抽出液に含まれるクロロフィル由来の665nmの吸光度を測定した結果である。
図3】0~2.0Mのカルボキシベタイン4水溶液を用いて、モリンガの葉の乾燥粉末からクロロフィルの抽出処理を行い、抽出液に含まれるクロロフィル由来の665nmの吸光度を測定した結果である。
図4】カルボキシベタイン5水溶液を用いて、4~80℃でモリンガの葉の乾燥粉末からクロロフィルの抽出処理を行い、抽出液に含まれるクロロフィル由来の665nmの吸光度を測定した結果である。
図5】カルボキシベタイン5水溶液を用いて、モリンガの葉の乾燥粉末からクロロフィルの抽出処理を10分~3時間行い、抽出液に含まれるクロロフィル由来の665nmの吸光度を測定した結果である。
図6】カルボキシベタイン5水溶液300μLを用いて、モリンガの葉の乾燥粉末1~40mgからクロロフィルの抽出処理を行い、抽出液に含まれるクロロフィル由来の665nmの吸光度を測定した結果である。
図7】エタノール、アセトン、酢酸エチル、又はカルボキシベタイン5を用いて、モリンガの葉の乾燥粉末からクロロフィルの抽出処理を行い、抽出液に含まれるクロロフィル由来の665nmの吸光度を測定した結果である。
図8】2.0Mのカルボキシベタイン5水溶液を用いてモリンガの葉の乾燥粉末から抽出された抽出液を蒸留水で1.5~50倍に希釈し、生成した沈殿物量を測定した結果である。
図9】2.0Mのカルボキシベタイン4(一般式(1)においてR1~R3がn-ブチル基、R4がメチレン基、且つQ-が基-COO-である化合物)水溶液を用いてモリンガの葉の乾燥粉末から抽出された抽出液を蒸留水で1.5~12.5倍に希釈し、生成した沈殿物量を測定した結果である。
図10】2.0Mのカルボキシベタイン5水溶液を用いてモリンガの葉の乾燥粉末から抽出された抽出液を蒸留水で4倍に希釈して1~26時間静置した後に、生成した沈殿物量を測定した結果である。
図11】2.0Mのカルボキシベタイン5水溶液を用いてクロレラの乾燥粉末から抽出された抽出液を蒸留水で1.5~12.5倍に希釈し、生成した沈殿物量を測定した結果である。
図12】0~2.0Mのスルホベタイン4(一般式(1)において、R1~R3がn-ブチル基、R4がプロピレン基、且つQ-が基-SO3 -である化合物)水溶液を用いて、モリンガの葉の乾燥粉末からクロロフィルの抽出処理を行い、抽出液に含まれるクロロフィル由来の665nmの吸光度を測定した結果である。
図13】0~2.0Mのスルホベタイン5(一般式(1)において、R1~R3が直鎖状ペンチル基、R4がプロピレン基、且つQ-が基-SO3 -である化合物)水溶液を用いて、モリンガの葉の乾燥粉末からクロロフィルの抽出処理を行い、抽出液に含まれるクロロフィル由来の665nmの吸光度を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.クロロフィルを含む抽出液の製造方法
本発明の製造方法では、一般式(1)で示される化合物を含む水溶液を抽出溶媒として使用し、クロロフィルを含む植物体又は藻類を抽出処理することにより、クロロフィルを含む抽出液を得ることができる。以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0012】
[抽出溶媒]
本発明の製造方法では、抽出溶媒として、一般式(1)で示される化合物を含む水溶液を使用する。即ち、本発明の製造方法では、溶質として一般式(1)で示される化合物、溶媒として水を含む抽出溶媒を使用する。
【0013】
一般式(1)で示される化合物の構造は以下の通りである。
【化1】
【0014】
一般式(1)において、R1、R2、及びR3は、それぞれ同一又は異なるアルキル基を示し、且つR1、R2、及びR3のアルキル基の合計炭素数が3~15である。本発明において、「R1、R2、及びR3のアルキル基の合計炭素数」とは、R1のアルキル基の炭素数とR2のアルキル基の炭素数とR3のアルキル基の炭素数の合計値である。R1、R2、及びR3のアルキル基の合計炭素数が前記範囲を満たす化合物を使用することにより、クロロフィルを効率的に抽出することが可能になる。クロロフィルをより一層効率的に抽出するという観点から、R1、R2、及びR3のアルキル基の合計炭素数として、好ましくは10~15、より好ましくは11~15、更に好ましくは12~15、より一層好ましくは12又は15、特に好ましくは15が挙げられる。
【0015】
1、R2、及びR3のアルキル基のそれぞれの炭素数としては、合計炭素数が前記範囲を満たすことを限度として特に制限されないが、例えば、1~8、好ましくは2~7、より好ましくは3~6、更に好ましくは3~5、より一層好ましくは4又は5、特に好ましくは5が挙げられる。
【0016】
1、R2、及びR3のアルキル基の炭素数が3以上である場合、当該アルキル基は直鎖状又は分岐状のいずれであってもよいが、好ましくは直鎖状が挙げられる。
【0017】
一般式(1)において、R4は、炭素数1~5のアルキレン基である。R4として、好ましくは炭素数1~4のアルキレン基、より好ましくはメチレン基(-CH2-)、エチレン基(-CH2-CH2-)、又はプロピレン基(-CH2-CH2-CH2-)、が挙げられる。
【0018】
一般式(1)において、Q-は、基-COO-(カルボキシ基からプロトンが脱離した基)、又は基-SO3 -(スルホ基からプロトンが脱離した基)である。
【0019】
一般式(1)で示される化合物の好適な例として、一般式(1)において、R1、R2、及びR3が、それぞれ同一又は異なって、炭素数3~5のアルキル基であり、R4が炭素数1~3のアルキレン基であり、且つQ-が基-COO-である化合物;より好ましくは、一般式(1)において、R1、R2、及びR3が、それぞれ同一又は異なって、炭素数4又は5(好ましくはn-ブチル基又は直鎖状ペンチル基)のアルキル基であり、R4がメチレン基であり、且つQ-が基-COO-である化合物;更に好ましくは、一般式(1)において、R1、R2、及びR3が直鎖状ペンチル基であり、R4がメチレン基であり、且つQ-が基-COO-である化合物が挙げられる。
【0020】
一般式(1)で示される化合物の他の好適な例として、一般式(1)において、R1、R2、及びR3が、それぞれ同一又は異なって、炭素数3~5のアルキル基であり、R4が炭素数1~3のアルキレン基であり、且つQ-が基-SO3 -である化合物:;より好ましくは、一般式(1)において、R1、R2、及びR3が、それぞれ同一又は異なって、炭素数4又は5(好ましくはn-ブチル基又は直鎖状ペンチル基)のアルキル基であり、R4がプロピレン基であり、且つQ-が基-SO3 -である化合物;更に好ましくは、一般式(1)において、R1、R2、及びR3が直鎖状ペンチル基であり、R4がプロピレン基であり、且つQ-が基-SO3 -である化合物が挙げられる。
【0021】
抽出溶媒において、一般式(1)で示される化合物は、1種の構造のものを単独で含有させてもよく、また2種以上の構造のものを組み合わせて含有させてもよい。
【0022】
一般式(1)で示される化合物の製造方法については、例えば、特開2009-96766号公報等で公知であり、公知の有機合成法から導き出すことができる。
【0023】
抽出溶媒として使用される水溶液中の一般式(1)で示される化合物の濃度については、当該化合物の構造、抽出処理に供される植物体や藻類の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.3M以上、好ましくは0.3~10Mが挙げられる。より具体的には、一般式(1)において、R1、R2、及びR3が直鎖状ペンチル基であり、R4が炭素数1~3のアルキレン基であり、且つQ-が基-COO-又は基-SO3 -である化合物を使用する場合であれば、抽出溶媒として使用される水溶液中の当該化合物の濃度として、0.3M以上、好ましくは0.3~3M、より好ましくは0.5~2.4M又は0.5~3.0Mが挙げられる。また、一般式(1)において、R1、R2、及びR3がn-ブチル基であり、R4が炭素数1~3のアルキレン基であり、且つQ-が基-COO-又は基-SO3 -である化合物を使用する場合であれば、抽出溶媒として使用される水溶液中の当該化合物の濃度として、0.5M以上、好ましくは0.7~10M、より好ましくは1.0~2.0Mが挙げられる。
【0024】
抽出溶媒は、水溶媒を含む各種水溶液であればよく、本発明の効果を喪失させない範囲であれば、必要に応じて、メタノール、エタノール等の水溶性の有機溶媒等、他の溶媒を含んでいてもよい。また、抽出溶媒には、本発明の効果を喪失させない範囲であれば、必要に応じて、界面活性剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0025】
[抽出原料]
本発明の製造方法では、抽出原料として、クロロフィルを含む植物体及び/又は藻類を使用する。
【0026】
抽出原料として使用される植物体の種類については、クロロフィルを含むことを限度として特に制限されないが、例えば、モリンガの葉、大葉の葉、オリーブの葉、茶葉、ホウレン草、コンフリー、アルファルファー、ケール、大麦若葉、小麦若葉、明日葉、クワ若葉、小松菜、アスパラガス、ピーマン、インゲン、春菊、チンゲン菜、行者菜、ブロッコリー、大根の葉、桑葉、ビート葉、大豆の葉、コーンの葉、イチョウ葉、万能葱、おかひじき、ししとう、クレソン、えんどう豆、青菜、ケール、高菜、せり、なずな、よもぎ、ニラ、野沢菜、ニンニクの芽、パセリ、わけぎ、モロヘイヤ、みつば、芽キャベツ、バジル等が挙げられる。これらの植物体は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、抽出原料として使用される植物体は、クロロフィルの抽出効率を高めるために、細切又は粉末化されていることが好ましい。
【0027】
抽出原料として使用される藻類の種類については、クロロフィルを含むことを限度として特に制限されないが、例えば、緑藻類、紅藻類、褐藻類、クリプト藻、ラフィド藻、渦鞭毛藻、ユーグレナ植物、クロララクニオン植物、灰色植物、珪藻類、藍藻類等が挙げられる。これらの藻類は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、抽出原料として使用される藻類は、クロロフィルの抽出効率を高めるために、細切又は粉末化されていることが好ましい。
【0028】
抽出原料として使用される植物体及び/又は藻類は、乾燥処理に供されたものであってもよいが、未乾燥のものであってもよい。
【0029】
[抽出処理]
本発明の製造方法において、抽出処理は、前記抽出溶媒に前記抽出原料を浸漬させればよい。抽出処理時には、必要に応じて攪拌を行ってもよい。
【0030】
抽出処理において、前記抽出溶媒に対する前記抽出原料の添加量については、特に制限されないが、前記抽出溶媒における植物体及び/又は藻類が乾燥重量換算で0.001~200mg/mL、好ましくは0.1~200mg/mL、より好ましくは1~150mg/mLが挙げられる。
【0031】
抽出処理時の温度については、特に制限されないが、例えば、0~100℃、好ましくは4~80℃が挙げられる。
【0032】
抽出処理の時間については、特に制限されないが、例えば、1分間~72時間、好ましくは1~24時間、より好ましくは3~17時間が挙げられる。
【0033】
抽出処理後の懸濁液から固形分を除去することにより抽出液が得られる。固形分の除去は、フィルター処理、遠心分離等、公知の固液分離手法にて行うことができる。得られた抽出液には、植物体及び/又は藻類から溶出されたクロロフィルと、一般式(1)で示される化合物が含まれる。
【0034】
得られた抽出液は、そのまま又は濃縮して、クロロフィル含有液として食品、化粧料、医薬品等の各種製品に使用してもよいが、得られた抽出液を後述する「固形状のクロロフィルの製造方法」に供して、固形状のクロロフィルを回収することもできる。
【0035】
2.固形状のクロロフィルの製造方法
本発明の製造方法では、前記抽出処理で得られた抽出液を水で希釈することによりクロロフィルの沈殿を生じさせる工程、及び当該沈殿を回収する工程を行うことにより、固形状のクロロフィルを得ることができる。前記抽出液に水を添加しても、一般式(1)で示される化合物は溶解した状態を維持し、当該化合物の沈殿は生じないため、回収された沈殿(固形状のクロロフィル)からは、当該化合物が分離されている。
【0036】
前記抽出液を希釈する水は、蒸留水、精製水、水道水等の水であってもよいが、緩衝液等であってもよい。
【0037】
前記抽出液からクロロフィルを沈殿させるために必要となる水の添加量は、前記抽出液に含まれる一般式(1)で示される化合物の構造や濃度、抽出原料として使用した植物体及び/又は藻類の種類等に応じて異なるため一律に規定することはできないが、例えば、水の添加により、前記抽出液に含まれる一般式(1)で示される化合物が、1.3M以下、好ましくは1.0M以下に希釈されるように設定すればよい。より具体的には、一般式(1)において、R1、R2、及びR3が直鎖状ペンチル基であり、且つR4が炭素数1~3のアルキレン基であり、且つQ-が基-COO-又は基-SO3 -である化合物を使用する場合であれば、水の添加により、前記抽出液に含まれる当該化合物が、1.3M以下、好ましくは1.0M以下、より好ましくは0.7M以下に希釈されるように設定すればよい。また、例えば、一般式(1)において、R1、R2、及びR3がn-ブチル基であり、且つR4が炭素数1~3のアルキレン基であり、且つQ-が基-COO-又は基-SO3 -である化合物を使用する場合であれば、前記抽出液に含まれる当該化合物が、0.5M以下、好ましくは0.45M以下、より好ましくは0.4M以下に希釈されるように設定すればよい。
【0038】
抽出液に水を添加する際の温度条件については、特に制限されず、例えば、4~80℃、好ましくは10~40℃であればよい。また、抽出液に水を添加することによりクロロフィルの沈殿が生じるが、クロロフィルの沈殿量を高めるために、抽出液に水を添加してから、1分間~72時間、好ましくは1~48時間、より好ましくは6~25時間保持した後に、沈殿を回収することが望ましい。
【0039】
抽出液を水で希釈することにより生じたクロロフィルの沈殿を回収することにより、固形状のクロロフィルが得られる。沈殿の回収は、フィルター処理、遠心分離等、公知の固液分離手法にて行うことができる。回収された沈殿(固形状のクロロフィル)は、必要に応じて、洗浄処理に供してもよい。また、回収された沈殿(固形状のクロロフィル)は、必要に応じて乾燥処理に供し、クロロフィルの乾燥物にしてもよい。得られた固形状のクロロフィルは、食品、化粧料、医薬品等の各種製品に使用できる。
【実施例0040】
以下、実施例を挙げて、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
1.試験材料
1-1.一般式(1)で示される化合物の合成
以下に示すカルボキシベタイン4及び5を特開2009-96766号公報に記載の方法を参考にして合成した。また、以下に示すスルホベタイン4及び5を公知の手法で合成した。カルボキシベタイン4は、一般式(1)において、R1~R3がn-ブチル基、R4がメチレン基、且つQ-が基-COO-である化合物である。カルボキシベタイン5は、一般式(1)において、R1~R3が直鎖状ペンチル基、R4がメチレン基、且つQ-が基-COO-であるである化合物である。スルホベタイン4は、一般式(1)において、R1~R3がn-ブチル基、R4がプロピレン基、且つQ-が基-SO3 -である化合物である。スルホベタイン5は、一般式(1)において、R1~R3が直鎖状ペンチル基、R4がプロピレン基、且つQ-が基-SO3 -である化合物である。
【化2】
【0042】
1-2.抽出原料の準備
(1)モリンガの葉の乾燥粉末
商品名「モリンガ葉乾燥パウダー」(三豊スーパーフード生産組合)を取得し、これをモリンガの葉の乾燥粉末として使用した。
【0043】
(2)クロレラの乾燥粉末及び未乾燥物
クロレラの培養液から湿潤状態のクロレラ(クロレラの未乾燥物)を回収した。クロレラの未乾燥物をシャーレに入れて、80℃で1時間加熱し、乾燥させた。次いで、ワンダーブレンダーで破砕した後350μmのふるいをかけて、通り抜けたものを集め、これをクロレラの乾燥粉末として使用した。
【0044】
(3)大葉の葉の乾燥粉末及び未乾燥物
大葉の葉(生)を80℃で1時間加熱し、乾燥させた。次いで、ワンダーブレンダーで破砕した後350μmのふるいをかけて、通り抜けたものを集め、これを大葉の乾燥粉末として使用した。また、大葉の葉(生)を乾燥させることなく、ハサミで2mm角に切断したものを大葉の葉の未乾燥物として使用した。
【0045】
(4)オリーブの葉の乾燥粉末及び未乾燥物
オリーブの葉(生)を80℃で2時間加熱し、乾燥させた。次いで、ワンダーブレンダーで破砕した後350μmのふるいをかけて、通り抜けたものを集め、オリーブの乾燥粉末とした。また、オリーブの葉(生)を乾燥させることなく、前記と同条件にてハサミで2mm角に切断したものをオリーブの葉の未乾燥物として使用した。
【0046】
(5)抽出原料の水分含量の測定
前記抽出原料の含水率を以下の方法で測定した。先ず、アルミニウム製のシャーレに試料を一定量入れ、試料を含むシャーレの初期重量を測定した。次いで、試料を含むシャーレを真空加熱乾燥器(EYELA、VOS-201 SD)に入れ、70℃に加熱した状態で、ダイヤフラム式真空ポンプで真空状態としながら恒温静置した。一定時間ごとにシャーレを取り出し、重量を測定し、重量変化がなくなるまで繰り返した。最終重量と初期重量から含水率を算出した。含水率の測定結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
2.カルボキシベタイン(一般式(1)においてQ - が基-COO - である化合物)によるクロロフィル抽出及び回収
2-1.試験例1(カルボキシベタイン5を用いたクロロフィルの抽出)
カルボキシベタイン5を2.0Mとなるように精製水に溶解した抽出溶媒(カルボキシベタイン5水溶液)を用いて植物体からのクロロフィルの抽出を行なった。クロロフィルを含む植物体としてはモリンガの葉の乾燥粉末を用いた。
【0049】
1.5mLのプラスチックチューブにモリンガの葉の乾燥粉末30mgを入れ、更にベタイン5水溶液300μLを加えた。ボルテックスミキサーを用いて粉末が溶液に均一に分散するようによく混合、撹拌し、卓上小型遠心機で遠心分離することでチューブの壁面に付着した抽出液を底部に集めた。その後、3時間、室温(20~25℃)で恒温静置した。次いで、モリンガの植物体を含む抽出懸濁液を遠心分離(16,000g、5分、室温、Micro-12(グライナー社製))し、固形物を全て底部に集め、上清(抽出液)を取り出してUVスペクトルを測定した。UVスペクトルの測定は、抽出液をカルボキシベタイン5水溶液で希釈して行った。
【0050】
得られたUVスペクトルを図1に示す。この結果、抽出液にはクロロフィルに特有の665nmの吸収ピークが確認された。即ち、カルボキシベタイン5水溶液にモリンガの葉を浸漬させることによりクロロフィルが抽出されることが明らかとなった。
【0051】
2-2.試験例2(カルボキシベタイン5の濃度を変化させた場合のクロロフィルの抽出量)
試験例1で確認されたクロロフィルの抽出が水溶液にカルボキシベタイン5を添加したことに起因しているかを確認するために、カルボキシベタイン5の濃度を0~2.4Mの範囲で変えて、モリンガの乾燥粉末からのクロロフィルの抽出処理を行なった。具体的な実験条件は、カルボキシベタイン5の濃度を変えたこと以外は、試験例1と同じである。
【0052】
結果を図2に示す。図2には、カルボキシベタイン5の濃度に対して抽出処理後の抽出液に含まれるクロロフィル由来の665nmの吸光度をプロットしている。カルボキシベタイン5を添加していない場合(0M)にはクロロフィル由来の665nmのピークは全く確認されなかったが、カルボキシベタイン5を添加している場合には665nmのピークが検出された。即ち、この結果から、カルボキシベタイン5が、植物体からのクロロフィルに抽出に関与していることが確認された。
【0053】
また、カルボキシベタイン5の濃度が0.5~1.7Mの範囲ではカルボキシベタイン5の濃度依存的に665nmの吸光度は増加していき、1.7Mを超えると665nmの吸光度がやや低下する挙動を示すことも確認された。
【0054】
2-3.試験例3(カルボキシベタインの構造の違いによるクロロフィルの抽出量の違い)
試験例1及び2においてカルボキシベタイン5を溶解させた水溶液を用いるとクロロフィルを抽出できることが確認された。そこで、本実施例では、カルボキシベタイン5とは構造が異なるカルボキシベタインを用いて抽出実験を行なった。具体的な実験条件は、カルボキシベタイン4(2.0M)を使用したこと以外は、試験例1と同じである。
【0055】
得られたUVスペクトルにおけるクロロフィルに由来する665nmの吸光度を表2に示す。なお、表2には、前記実施例1におけるカルボキシベタイン5(2.0M)の結果も併せて示している。この結果、カルボキシベタイン4を使用しても、モリンガの乾燥粉末からクロロフィルを抽出できることが確認された。但し、カルボキシベタイン4を使用した場合には、はカルボキシベタイン5と比較して4分の1程度の吸光度であった。即ち、クロロフィルを抽出するためにはカルボキシベタイン4及び5のような構造が必要であり、その中でも適したカルボキシベタインの構造はカルボキシベタイン5であることが示された。
【0056】
なお、水溶液中のカルボキシベタインの溶解量は、カルボキシベタインの分子量、化学構造に依存する為、カルボキシベタイン5よりもR1~R3のアルキル基の炭素数が少ないカルボキシベタイン等であっても、カルボキシベタインの溶解量を増やし、濃度を高めることでクロロフィルの抽出を向上させることが可能である。
【0057】
【表2】
【0058】
2-4.試験例4(カルボキシベタイン4の濃度を変化させた場合のクロロフィルの抽出量)
試験例3においてカルボキシベタイン4を使用してもクロロフィルを抽出できることが確認されたので、本試験例ではカルボキシベタイン4を0~2.0Mに変えてモリンガの乾燥粉末からのクロロフィルの抽出処理を行なった。具体的な実験条件は、カルボキシベタイン4の濃度を変えたこと以外は、試験例3と同じである。
【0059】
結果を図3に示す。図3には、カルボキシベタイン4の濃度に対して抽出処理後の抽出液に含まれるクロロフィル由来の665nmの吸光度をプロットしている。この結果、カルボキシベタイン4は、0.5~2.0Mの濃度において濃度依存的にクロロフィルの抽出量を増大させることが確認された。
【0060】
2-5.試験例5(抽出温度がカルボキシベタイン5のクロロフィルの抽出量に与える影響)
試験例1では室温(20~25℃)でクロロフィルの抽出を行なった。本試験例では、抽出温度を4~80℃に変え、抽出温度がクロロフィルの抽出量に与える影響を検討した。具体的な実験条件は、抽出温度を変更したこと以外は、試験例1と同じである。
【0061】
結果を図4に示す。図4には、抽出温度に対して抽出後の抽出液に含まれるクロロフィル由来の665nmの吸光度をプロットしている。4℃から80℃にかけてクロロフィル由来の665nmの吸光度に大きな差が確認されなかった。即ち、抽出温度による影響は少なく、幅広い抽出温度でカルボキシベタイン5水溶液によるクロロフィルの抽出が可能であることが示された。
【0062】
2-6.試験例6(抽出時間がカルボキシベタイン5のクロロフィルの抽出量に与える影響)
試験例1では抽出処理を3時間行なった。本実施例では、抽出時間を10分~24時間に変え、抽出時間がクロロフィルの抽出量に与える影響を検討した。具体的な実験条件は、抽出時間を変更したこと以外は、試験例1と同じである。
【0063】
結果を図5に示す。図5には、抽出時間に対して抽出後の抽出液に含まれるクロロフィル由来の665nmの吸光度をプロットしている。抽出時間が10分~3時間の間に665nmの吸光度が増大し、3時間は一定であった。即ち、この結果から、3時間以上行えば十分にクロロフィルを抽出できることが確認された。
【0064】
2-7.試験例7(モリンガの葉の乾燥粉末の量とベタイン5のクロロフィルの抽出量との関係)
試験例1ではモリンガの葉の乾燥粉末の量を30mgに固定して抽出実験を行なった。本実施例では、モリンガの葉の乾燥粉末の量を1~40mgに変え、モリンガの葉の乾燥粉末の量がクロロフィルの抽出量に与える影響を検討した。具体的な実験条件は、モリンガの葉の乾燥粉末の量を変更したこと以外は、試験例1と同じである。
【0065】
結果を図6に示す。図6には、モリンガの葉の乾燥粉末の量に対して抽出後の抽出液に含まれるクロロフィル由来の665nmの吸光度をプロットしている。1~40mgまでは粉末量に対して抽出されたクロロフィル由来の665nmの吸光度が比例的に増加しており、粉末量が増えるほどクロロフィルの抽出量は増大することが確認された。
【0066】
2-8.参考試験例1(有機溶媒によるクロロフィルの抽出)
カルボキシベタイン5を使用したクロロフィルの抽出処理が、既存の有機溶媒による抽出処理と比較するために、ベタイン5水溶液(2M)の代わりに、エタノール、アセトン、又は酢酸エチルを用いて、モリンガの葉の乾燥粉末からクロロフィルの抽出処理を行なった。具体的な実験条件は、抽出溶媒を変更したこと、及びモリンガの葉の乾燥粉末の量25mgに変更したこと以外は、試験例1と同じである。
【0067】
結果を図7に示す。図7には、得られた各抽出液の665nmの吸光度を示している。この結果、カルボキシベタイン5水溶液(2M)は、アセトン又は酢酸エチルに比べてクロロフィルの抽出量が多く、エタノールと同等のクロロフィルの抽出量であった。カルボキシベタイン5水溶液は、水溶媒であることから、エタノール等の有機溶媒に比べて、取り扱い易く環境への負荷も少ないことから、クロロフィルの抽出処理に使用される抽出溶媒として既存の有機溶媒よりも利点がある。
【0068】
2-9.試験例8(抽出液からのクロロフィルの回収)
試験例1~3及び5~7で示したようにカルボキシベタイン5水溶液はクロロフィルの抽出において優れた抽出溶媒となることが確認された。本試験例では抽出液からの回収操作について検討を行った。試験例2においてクロロフィルの抽出はカルボキシベタイン5の濃度によって変化することが示されている。そこで、カルボキシベタイン5水溶液を用いた抽出処理により得られたクロロフィルの抽出液を水で希釈し、カルボキシベタイン5濃度をクロロフィルの溶解に適さない濃度まで下げ、沈殿として回収する方法を検討した。この手法では減圧留去のような減圧装置を必要としないため、産業利用をする上で既存設備を活用できるという点で有益な方法であると言える。
【0069】
まず、試験例1と同条件で、クロロフィルを含む抽出液を得た。得られた抽出液20μLと蒸留水60μLを混合し(希釈倍率4倍、カルボキシベタイン5の最終濃度が0.5M)、室温(20~25℃)で1時間恒温静置した。次いで、混合液を遠心分離(16,000g、5分、室温、グライナー、Micro-12)し、生成した沈殿を底部に集めた。デカンテーションによって上清を取り除き、蒸留水を200μL加え、ボルテックスミキサーで撹拌し、沈殿に付着しているカルボキシベタイン5を洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返した後、沈殿を凍結乾燥した。
【0070】
得られた沈殿(凍結乾燥物)の収量を測定すると0.13mg(抽出に供したモリンガの葉の乾燥粉末に対する重量比は0.4%)であった。抽出液の665nmの吸光度の値と、抽出液を4倍希釈した混合液の上清の吸光度の値から、抽出されたたクロロフィルの85%が、蒸留水による希釈操作によって沈殿として回収されていると見積もられた。以上の結果から、カルボキシベタイン5を使用して得られたクロロフィルの抽出液を水で希釈するという簡易な操作で、固形状のクロロフィルを効率的に回収できることが明らかとなった。
【0071】
2-10.試験例9(クロロフィルの抽出液からのクロロフィルの回収における希釈倍率の影響)
試験例8において、クロロフィルを含む抽出液を水で希釈すると固形状のクロロフィルを回収できることが示された。そこで、本試験例では、クロロフィルを含む抽出液を希釈する際の希釈倍率がクロロフィルの回収率に及ぼす影響を検証した。具体的な実験条件は、蒸留水の添加量を10~980μL(希釈倍率1.5~50倍、カルボキシベタイン5の最終濃度0.04~1.3M)となるように変更したこと以外は、試験例7と同じである。
【0072】
結果を図8に示す。図8には、希釈倍率と得られた沈殿(凍結乾燥物)の重さとの相関関係を示している。クロロフィルを含む抽出液を蒸留水で10倍希釈(カルボキシベタイン5の最終濃度0.2M)した場合に最大の沈殿量が得られることがわかった。希釈倍率が大きくなるほど、クロロフィルの溶解度が低下するために沈殿量が増大すると考えられたが、10倍超の希釈倍率では沈殿量が低下する傾向が認められた。これは、希釈倍率が高くなりすぎると、溶液中でのクロロフィルの凝集(沈殿形成)が不利になるためであると類推される。
【0073】
2-11.試験例10(ベタイン4水溶液(抽出液)からのクロロフィルの回収における希釈倍率の影響)
試験例3で示したように、カルボキシベタイン4を含む水溶液を使用してもクロロフィルを抽出できることが確認されている。本試験例では、カルボキシベタイン4を含む水溶液を使用して得られた抽出液でも、蒸留水で希釈することによりクロロフィルの沈殿の回収できるかを検証した。具体的な実験条件は、カルボキシベタイン5をカルボキシベタイン4に代えたこと以外は、試験例9と同じである。
【0074】
結果を図9に示す。図9には、希釈倍率と得られた沈殿(凍結乾燥物)の重さとの相関関係を示している。カルボキシベタイン4を使用して得られた抽出液を蒸留水で希釈した場合も、カルボキシベタイン5の場合(図8)と同様にベル型のプロットとなり、最適の希釈倍率があることがわかった。但し、カルボキシベタイン4の場合には、カルボキシベタイン5とは異なり、抽出液の希釈倍率は7.5倍が最適であった。これの結果から、カルボキシベタインを使用して得られた抽出液を希釈してクロロフィルの沈殿を回収する場合には、カルボキシベタインの構造に応じた最適希釈倍率が存在することが分かった。
【0075】
2-12.試験例11(抽出液の希釈後に最大量のクロロフィル沈殿を得るための最適な静置時間)
試験例8においてクロロフィルを含む抽出液を水で希釈すると固形状のクロロフィルを回収できることが示された。抽出液の希釈液中でクロロフィル分子が凝集することによって沈殿が生じるが、どの程度の時間静置すれば最大の沈殿量が得られるか本試験例では検討した。具体的には、希釈後の静置時間を1~26時間に変えたこと以外は試験例8と同様の操作で抽出を行なった。
【0076】
結果を図10に示す。静置時間が6時間までは経時的に沈殿量が増加し、静置時間が6時間以降は沈殿量の変化はほとんど認められなかった。即ち、抽出液の希釈後に6時間以上静置すれば、最大量の沈殿量が得られることが明らかとなった。
【0077】
2-13.参考試験例2(有機溶媒を使用した抽出液の希釈によるクロロフィルの回収)
試験例8~11において、カルボキシベタイン4又は5を使用して得られた抽出液を蒸留水で希釈することにより、固形状のクロロフィルを簡便に回収できることが確認された。そこで、エタノール又はアセトンを抽出溶媒として使用した場合に、得られた抽出液を蒸留水で希釈することにより固形状のクロロフィルを回収できるかについて検証した。具体的な実験条件は、抽出溶媒としてエタノール又はアセトンを使用して得られた抽出液を使用したこと以外は、試験例8と同じである。
【0078】
この結果、エタノールを使用して得られた抽出液を蒸留水で希釈した場合、濁りが生じたものの、重量測定が行える量の沈殿は得られなかった。また、アセトンを使用して得られた抽出液を蒸留水で希釈すると、濁りも確認できなかった。即ち、クロロフィルを含む抽出液を水で希釈することによりクロロフィルの沈殿が生じる現象は、抽出溶媒としてカルボキシベタイン4及び5を含む水溶液を使用した場合に認められる特有のものであることが分かった。
【0079】
2-14.試験例12(他の植物体又は藻類からのクロロフィルの抽出)
上述のように、カルボキシベタイン5水溶液を抽出溶媒として使用することにより、モリンガの葉の乾燥粉末からクロロフィルを抽出及び回収できることが確認された。この抽出及び回収技術が、モリンガの葉に限らず、他のクロロフィルを含む植物体又は藻類にも適用できるかについて検証した。
【0080】
先ず、モリンガの葉の乾燥粉末の代わりに、クロレラの乾燥粉末、オリーブの葉の乾燥粉末、又は大葉の葉の乾燥粉末を使用したこと以外は、試験例1と同様の条件で、抽出処理を行なった。得られた抽出液の665nmの吸光度を測定した結果を表3に示す。この結果、カルボキシベタイン5水溶液を使用することにより、クロレラの乾燥粉末、オリーブの葉の乾燥粉末、及び大葉の葉の乾燥粉末からクロロフィルを抽出できることが確認された。特に、クロレラの乾燥粉末及び大葉の葉の乾燥粉末を使用した場合には、モリンガの葉の乾燥粉末に比べて、2~4倍多いクロロフィルを抽出できていた。一方、オリーブの葉の乾燥粉末を使用した場合では、モリンガの葉の乾燥粉末に比べて、抽出されたクロロフィル量は3分の1程度であった。これは植物体又は藻類に含まれるクロロフィル量の違いに起因していると考えられる。以上の結果から、カルボキシベタイン5水溶液を用いると、モリンガの葉に限らず、他のクロロフィルを含む植物体又は藻類からクロロフィルを抽出できることが確認された。
【0081】
【表3】
【0082】
次に、前記で得られた各抽出液を用いて、試験例8と同条件でクロロフィルの沈殿の回収を行った。その結果、回収できた沈殿(凍結乾燥物)の量は、0.040mg(クロレラの乾燥粉末)、0.070mg(オリーブの葉の乾燥粉末)、0.122mg(大葉の葉の乾燥粉末)であった。
【0083】
クロレラの乾燥粉末を使用して得られた抽出液には、クロロフィルが多く抽出されていたにも関わらず、クロロフィルの沈殿の回収量は比較的少なかった。これは、沈殿を生じさせる際の抽出液の希釈倍率が最適ではなかったことに起因していると考えられる。そこで、クロレラの乾燥粉末を使用して得られた抽出液を使用して、試験例9と同様の方法で、沈殿を生じさせる最適の希釈倍率を検討した。結果を図11に示す。図11には希釈倍率と得られた沈殿の重さとの相関関係を示している。試験例8及び9の結果とはと異なり、抽出液の希釈倍率が4~5倍の場合にクロロフィルの沈殿が最も多く生成していた。即ち、カルボキシベタインを使用して得られた抽出液を希釈してクロロフィルの沈殿を回収する場合には、カルボキシベタインの構造だけでなく、使用した植物体の種類に応じた最適希釈倍率が存在することが明らかとなった。
【0084】
2-15.試験例13(植物体の乾燥状態がクロロフィルの抽出に与える影響)
試験例12では、植物体として乾燥粉末を用いていたが、未乾燥状態の原料でも、クロロフィルの抽出が行えるかを検証した。具体的な実験条件は、植物体又は藻類としては、クロレラの未乾燥物、オリーブの未乾燥物、又は大葉の葉の未乾燥物を用いたこと以外は、試験例1と同様である。
【0085】
得られた各抽出液に含まれるクロロフィル由来の665nmの吸光度を測定した結果を表4に示す。この結果、いずれの未乾燥物を使用しても、カルボキシベタイン5水溶液によってクロロフィルが抽出できていた。即ち、カルボキシベタイン5水溶液によるクロロフィルの抽出は、組織の性状(水分量)による影響はなく、どのような性状の植物体又は藻類にも適用できることが確認された。
【0086】
【表4】
【0087】
3.スルホベタイン(一般式(1)においてQ - が基-SO 3 - である化合物)によるクロロフィル抽出
試験例12(スルホベタイン4及び5を用いたクロロフィルの抽出)
前記試験例1~3では、カルボキシベタイン4又は5を溶解させた水溶液を用いてクロロフィルを抽出することに成功した。一般式(1)に示される化合物において、Q-が基-COO-から基-SO3 -に変更しても、クロロフィルを抽出できるかを確認するために、スルホベタイン4及び5を用いて抽出実験を行なった。水溶液に溶解させたカルボキシベタイン4又は5の代わりにスルホベタイン4又は5を使用したこと以外は、前記試験例2と同様の操作で抽出を行なった。
【0088】
スルホベタイン4を使用してクロロフィル抽出を行った結果を図12に示し、スルホベタイン5を使用してクロロフィル抽出を行った結果を図13に示す。この結果、スルホベタイン4及び5を使用してもクロロフィルを効率的に抽出できることが確認された。また、カルボキシベタイン4及び5の場合と同様に、一般式(1)におけるR1、R2、及びR3が直鎖状ペンチル基であるスルホベタイン5の方が、スルホベタイン4よりもクロロフィルの抽出効率が高くなっていた。また、スルホベタイン4又は5を使用する場合でも0.5M以上の濃度でクロロフィルを抽出でき、一般式(1)において、Q-は基-COO-に限定されず、基-SO3 -である化合物でも、クロロフィルの効率的な抽出が可能になることが分かった。
【0089】
さらにスルホベタイン4又は5を使用して得られた抽出液を試験例8と同じ実験条件で希釈し、生成した沈殿を回収したところ、スルホベタイン4で0.157mg、スルホベタイン5で0.584mgの沈殿が回収され、スルホベタインを用いても抽出後の回収操作も同様に行えることが分かった。
図1
図2
図3
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図5
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図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13