(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176957
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20241212BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20241212BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20241212BHJP
F16J 15/3256 20160101ALI20241212BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20241212BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C33/80
F16C19/18
F16J15/3256
F16J15/3204 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095864
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE23
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE41
3J006AE42
3J006AE46
3J006CA01
3J043AA17
3J043CA02
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA07
3J043HA01
3J043HA04
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216BA30
3J216CA02
3J216CA05
3J216CB04
3J216CB07
3J216CB13
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC33
3J216CC43
3J216CC48
3J216DA01
3J216DA12
3J216EA10
3J701AA03
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
(57)【要約】
【課題】外径側筒部とシールリップとの間のシール内部空間に侵入した水分の排出性を確保できるとともに、シール内部空間に水分が侵入することを抑制できる、ハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】シールリング21とともにシール装置5を構成するスリンガ20を、嵌合筒部30と円輪板部31と外径側筒部32とを有するスリンガ本体28を備えるものとし、外径側筒部32には、軸方向に関してシールリング21に近づくほど外径が大きくなるテーパ部33を設ける。また、スリンガ20には、外周面のうちで、シールリング21と軸方向に対向した外径側筒部32の軸方向端面よりも軸方向に関してシールリング21から遠い部分に、稜部34a、34bを設ける。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、
スリンガ及びシールリングを有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向開口部を塞ぐ、シール装置と、を備え、
前記スリンガは、前記ハブに外嵌される嵌合筒部と、前記嵌合筒部の軸方向端部から径方向外側に向けて伸長した円輪板部と、前記嵌合筒部と径方向に重畳するように前記嵌合筒部の径方向外側に配置されており、軸方向に関して前記シールリングに近づくほど外径が大きくなるテーパ部を含む外径側筒部とを有する、金属材料製のスリンガ本体を備え、かつ、外周面のうちで、前記シールリングと軸方向に対向した前記外径側筒部の軸方向端面よりも軸方向に関して前記シールリングから遠い部分に、稜部を有しており、
前記シールリングは、前記外輪の軸方向端部に固定されており、前記スリンガの表面にその先端部を摺接させた少なくとも1本のシールリップを有する、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記稜部は、前記外径側筒部の外周面に備えられている、請求項1に記載したハブユニット軸受。
【請求項3】
前記スリンガは、前記スリンガ本体に支持された弾性材製のスリンガシール材を有し、
前記稜部は、前記スリンガシール材の外周面に備えられている、
請求項1に記載したハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪は、ハブユニット軸受により、懸架装置に対して回転自在に支持される。ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有するハブと、複列の外輪軌道と複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える。
【0003】
なお、ハブユニット軸受に関して、軸方向外側とは、ハブユニット軸受を車両に組み付けた状態での車両の幅方向外側をいい、軸方向内側とは、ハブユニット軸受を車両に組み付けた状態での車両の幅方向中央側をいう。
【0004】
ハブユニット軸受は、外部からの泥水などの侵入を防止するため、外輪の内周面とハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向開口部を塞ぐシール装置をさらに備える。
【0005】
転動体設置空間の軸方向開口部を塞ぐシール装置として、ハブに外嵌固定されるスリンガと、それぞれの先端部をスリンガの表面に摺接させた複数本のシールリップを有するシールリングとを備えた、シール装置を使用することが知られている。
【0006】
特開2021-191669号公報(特許文献1)には、転動体設置空間の軸方向外側の開口部を、スリンガとシールリングとを備えたシール装置により塞ぐ構造が開示されている。一方、特開2023-29119号公報(特許文献2)には、転動体設置空間の軸方向内側の開口部を、スリンガとシールリングとを備えたシール装置により塞ぐ構造が開示されている。
【0007】
特開2021-191669号公報及び特開2023-29119号公報に記載されたいずれのシール装置も、スリンガは、略コ字形(横U字形)の断面形状を有しており、ハブに外嵌固定された嵌合筒部と、嵌合筒部の軸方向端部から径方向外側に向けて伸長した円輪板部と、円輪板部の径方向外側の端部から軸方向に伸長し、嵌合筒部と径方向に重畳して配置された円筒形状の外径側筒部とを有している。また、シールリングに備えられた複数本のシールリップは、それぞれの先端部を円輪板部の軸方向側面及び嵌合筒部の外周面に摺接させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-191669号公報
【特許文献2】特開2023-29119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
略コ字形の断面形状を有するスリンガは、一般的に、防錆性能を有する鋼帯に打ち抜き加工を施して円輪板状のブランクを成形した後、該ブランクにバーリング加工を施し、該ブランクの径方向外側部分及び径方向内側部分からそれぞれが円筒形状の外径側筒部及び嵌合筒部を成形する、といった製造方法により製造されている。
【0010】
上述のような製造方法により製造されたスリンガは、
図9に示すように、外径側筒部100の軸方向端面(先端面)に、径方向内側から順に、ダレ面101、剪断面102、破断面103、及び、バリ104を備える。このため、ダレ面101を利用して、シール装置のうちで、外径側筒部100とシールリップとの間に存在するシール内部空間(リップ手前側空間)に侵入した水分の排出を促すことができる。また、バリ104を利用して、外径側筒部100の外周面に付着した水分を効率良く飛散させる(振り切る)ことができる。
【0011】
ただし、バーリング加工により外径側筒部を成形する場合、スプリングゴー(スプリングイン)が発生し、円筒形状に成形したはずの外径側筒部が、軸方向に関して先端側に向かうほど外径が小さくなる先細りの円すい筒形状になる(変形する)可能性がある。
【0012】
外径側筒部が先細りの円すい筒形状に変形した場合には、外径側筒部が、シール内部空間に侵入した水分の排出を妨げる可能性がある。すなわち、シール内部空間に侵入した水分は、車両の停止時などに鉛直方向下側へと移動し、外径側筒部の内周面に流下した後、外径側筒部の先端面とシールリングとの間の隙間を通じて外部空間に排出されるが、外径側筒部が先細りの円すい筒形状である場合には、外径側筒部の内周面の傾斜に逆らって水分を排出する必要があるため、外径側筒部がシール内部空間からの水分の排出を妨げる可能性がある。
【0013】
また、外径側筒部が先細りの円すい筒形状である場合には、外径側筒部の外周面に付着した水分が、外径側筒部の外周面の傾斜を伝って、外径側筒部の先端面とシールリングとの間の隙間に導かれやすくなるため、シール内部空間に水分が侵入しやすくなる可能性もある。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、外径側筒部とシールリップとの間のシール内部空間に侵入した水分の排出性を確保できるとともに、シール内部空間に水分が侵入することを抑制できる、ハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体と、シール装置とを備える。
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
前記ハブは、外周面に複列の内輪軌道を有する。
前記複数個の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置されている。
前記シール装置は、スリンガ及びシールリングを有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向開口部を塞ぐ。
前記スリンガは、前記ハブに外嵌される嵌合筒部と、前記嵌合筒部の軸方向端部から径方向外側に向けて伸長した円輪板部と、前記嵌合筒部と径方向に重畳するように前記嵌合筒部の径方向外側に配置されており、軸方向に関して前記シールリングに近づくほど外径が大きくなるテーパ部を含む外径側筒部とを有する、金属材料製のスリンガ本体を備え、かつ、外周面のうちで、前記シールリングと軸方向に対向した前記外径側筒部の軸方向端面(先端面)よりも軸方向に関して前記シールリングから遠い部分に、稜部を有している。
前記シールリングは、前記外輪の軸方向端部に固定されており、前記スリンガの表面にその先端部を摺接させた少なくとも1本のシールリップを有している。
【0016】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記稜部を、前記外径側筒部の外周面に備えることができる。
この場合には、前記稜部を、前記テーパ部の外周面に備えることができる。
また、前記稜部を、前記外径側筒部の外周面に機械加工を施すことにより形成することができる。この場合に、たとえば、前記外径側筒部の外周面に凹溝を機械加工により形成することで、前記稜部を前記凹溝の開口縁部に設けることもできる。
【0017】
前記稜部を、前記外径側筒部の外周面に備える場合には、前記外径側筒部を、前記テーパ部と、前記テーパ部とは異なるその他の部分とから構成し、前記稜部を、前記その他の部分の外周面に備えることもできる。
この場合には、たとえば、前記外径側筒部を、前記テーパ部と、前記テーパ部の先端部から径方向外側に向けて折れ曲がった外向鍔部とを有するものとし、前記稜部を、前記その他の部分である前記外向鍔部の外周面に備えることもできる。
さらにこの場合には、前記外向鍔部の外周面に旋削加工を施すことで、前記外向鍔部の外周面と軸方向側面とが交わる部分に前記稜部を設けることができる。
【0018】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記スリンガ本体を、前記円輪板部の径方向外側の端部と前記外径側筒部の軸方向端部との間に、断面略U字状の折り返し部を有するものとし、前記稜部を、前記折り返し部の外周面に備えることもできる。
この場合には、前記折り返し部の外周面に旋削加工を施すことで、前記折り返し部の外周面と軸方向側面とが交わる部分に前記稜部を設けることができる。
【0019】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記スリンガを、前記スリンガ本体に支持された弾性材製のスリンガシール材を有するものとし、前記稜部を、前記スリンガシール材の外周面に備えることができる。
この場合には、前記稜部の外径を、前記外径側筒部の外径以上とすることができる。
また、前記ハブの中心軸を含む仮想平面に関する断面において、前記稜部によって接続される2つ面がなす角度を鋭角にすることができる。
【0020】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記シール装置により、前記転動体設置空間の軸方向外側の開口部を塞ぐことができる。又は、前記シール装置により、前記転動体設置空間の軸方向内側の開口部を塞ぐことができる。
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記シール装置を2つ備え、前記転動体設置空間の軸方向外側の開口部と軸方向内側の開口部とを塞ぐことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受によれば、外径側筒部とシールリップとの間のシール内部空間に侵入した水分の排出性を確保できるとともに、シール内部空間に水分が侵入することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例にかかるハブユニット軸受を示す断面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の第2例を示す、
図2に相当する図である。
【
図5】
図5は、実施の形態の第2例に関して、外向鍔部の外周面に旋削加工を施す以前の状態を示す、スリンガの部分拡大断面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態の第3例を示す、
図2に相当する図である。
【
図7】
図7は、実施の形態の第4例を示す、
図2に相当する図である。
【
図8】
図8は、実施の形態の第5例を示す、
図2に相当する図である。
【
図9】
図9は、従来構造のスリンガを構成する外径側筒部の先端部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図3を用いて説明する。
【0024】
本発明のハブユニット軸受は、各種構造のハブユニット軸受に適用可能であるが、本例では、従動輪用のハブユニット軸受に適用した場合について説明する。
【0025】
本例のハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4a、4bと、シール装置5とを備える。
【0026】
なお、ハブユニット軸受1に関する以下の説明中、ハブユニット軸受1を車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側に位置する、
図1~
図3の左側を、軸方向外側といい、ハブユニット軸受1を車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側に位置する、
図1~
図3の右側を、軸方向内側という。
【0027】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。外輪2は、内周面に、複列の外輪軌道6a、6bを有する。さらに、外輪2は、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ7を有する。静止フランジ7は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔8を有する。
【0028】
本例では、支持孔8は、ねじ孔により構成されている。外輪2は、懸架装置のナックルに備えられた通孔を挿通した支持ボルトを、静止フランジ7の支持孔8に軸方向内側から螺合することで、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0029】
ハブ3は、外周面に複列の内輪軌道9a、9bを有する。また、ハブ3は、外輪2よりも軸方向外側に突出した部分に、径方向外側に突出した回転フランジ10を有する。さらに、ハブ3は、軸方向外側の端部に、円筒状のパイロット部11を有する。ハブ3は、外輪2の径方向内側に、該外輪2と同軸に配置されている。
【0030】
回転フランジ10は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔12を有する。取付孔12のそれぞれには、回転フランジ10に対して、ディスクやドラムなどの制動用回転体及び車輪を構成するホイールを結合固定するためのスタッド13が、圧入状態でセレーション嵌合されている。すなわち、本例では、取付孔12は、円筒孔により構成されている。
【0031】
回転フランジ10の軸方向内側面は、径方向内側部に内側平面部23を有し、かつ、内側平面部23よりも径方向外側に、内側平面部23よりも軸方向外側に配置された外側平面部24を有する。さらに、回転フランジ10の軸方向内側面は、内側平面部23と外側平面部24との接続部に径方向外側を向いた略円すい筒面状の段部25を備え、かつ、径方向内側の端部に、径方向内側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に曲線状に湾曲した母線形状を有する隅R部26を備える。
【0032】
ブレーキディスクなどの制動用回転体及び車輪のホイールは、それぞれの中心部に備えられた中心孔に、パイロット部11を挿通し、かつ、それぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所に備えられた通孔に、スタッド13を挿通した状態で、スタッド13の先端部にハブナットを螺合することにより、回転フランジ10に結合固定される。
【0033】
なお、回転フランジの取付孔を、ねじ孔により構成することもできる。この場合には、制動用回転体に備えられた通孔と、ホイールに備えられた通孔とを挿通したハブボルトを、取付孔に軸方向外側から螺合することにより、制動用回転体及び車輪を回転フランジに結合固定する。
【0034】
本例のハブ3は、外周面のうち、回転フランジ10と軸方向外側の内輪軌道9aとの間に位置する部分、すなわち、軸方向外側の内輪軌道9aの軸方向外側に隣接する部分に、溝肩部27を有する。別の言い方をすれば、ハブ3は、外周面のうちで、外輪2の内周面の軸方向外側の端部と径方向に対向する部分に、溝肩部27を備えている。
【0035】
溝肩部27は、回転フランジ10の軸方向内側面に備えられた隅R部26につながっており、かつ、軸方向外側の内輪軌道9aにつながっている。溝肩部27は、円筒面状に構成されており、直線状の母線形状を有している。
【0036】
本例では、ハブ3は、内輪14とハブ輪15とを組み合わせてなる。
【0037】
内輪14は、軸受鋼などの硬質金属により構成されている。内輪14は、外周面に、軸方向内側の内輪軌道9bを有する。
【0038】
ハブ輪15は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。ハブ輪15は、軸方向外側の内輪軌道9aと、回転フランジ10と、パイロット部11と、溝肩部27とを備える。
【0039】
ハブ輪15は、軸方向外側の内輪軌道9aよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪14が外嵌される小径段部16を有する。さらに、ハブ輪15は、小径段部16の軸方向外側の端部に、軸方向内側を向いた段差面17を有し、かつ、小径段部16の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部18を有する。
【0040】
ハブ3は、ハブ輪15の小径段部16に内輪14を外嵌し、かつ、ハブ輪15の段差面17とかしめ部18との間で内輪14を軸方向両側から挟持することにより、内輪14とハブ輪15とを結合固定することで構成されている。なお、ハブ輪のうちで内輪の軸方向内側の端部から突出した軸方向内側の端部にナットを螺合することで、ハブ輪と内輪とを結合することもできる。
【0041】
本例のハブユニット軸受1は、従動輪用のハブユニット軸受であるため、ハブ3は、中実に構成されている。ただし、本発明は、駆動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。この場合、ハブは、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔を有する。スプライン孔には、エンジンや電動モータを駆動源として回転駆動される駆動軸の先端部が、スプライン係合される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブを回転駆動することで、ハブの回転フランジに結合固定された車輪及び制動用回転体を回転駆動する。
【0042】
転動体4a、4bは、軸受鋼などの鉄合金製あるいはセラミックス製で、複列の外輪軌道6a、6bと複列の内輪軌道9a、9bとの間に、それぞれ複数個ずつ、保持器19a、19bにより保持された状態で転動自在に配置されている。これにより、ハブ3は、外輪2の径方向内側に回転自在に支持される。
【0043】
本例のハブユニット軸受1は、軸方向外側列の転動体4aのピッチ円直径と、軸方向内側列の転動体4bのピッチ円直径とが等しい、等径PCD型の構造を備える。ただし、本発明は、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径が、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径よりも大きい又は小さい、異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。また、本例のハブユニット軸受1では、転動体4a、4bとして玉を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。
【0044】
シール装置5は、スリンガ20及びシールリング21を有する組み合わせシールリングであり、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する転動体設置空間22の軸方向外側の開口部を塞ぐ。スリンガ20及びシールリング21は、軸方向に重畳して配置されている。スリンガ20及びシールリング21が軸方向に重畳している部分において、スリンガ20は転動体設置空間22から遠い側に配置されており、シールリング21は転動体設置空間22に近い側に配置されている。以下の説明において、スリンガ20の軸方向をシールリング21との関係で示す場合、スリンガ20及びシールリング21が軸方向に重畳している部分での関係をいう。
【0045】
スリンガ20は、たとえばSUS304製やSUS430製のステンレス鋼板などの防錆性能を有する金属材料製のスリンガ本体28と、ゴムの如きエラストマーなどの弾性材製のスリンガシール材29とを備える。
【0046】
スリンガ本体28は、全体が円環状に構成されており、略コ字形(横U字形)の断面形状を有する。スリンガ本体28は、鋼帯に打ち抜き加工を施して円輪板状のブランクを成形した後、該ブランクにバーリング加工を施すことにより造られている。
【0047】
スリンガ本体28は、嵌合筒部30と、円輪板部31と、外径側筒部32とを有する。
【0048】
嵌合筒部30は、円筒形状を有しており、ハブ3に外嵌固定されている。具体的には、嵌合筒部30は、ハブ輪15に備えられた溝肩部27に圧入により外嵌固定されている。
【0049】
円輪板部31は、円輪板形状を有しており、嵌合筒部30の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて伸長している。円輪板部31の軸方向外側面は、回転フランジ10の軸方向内側面に備えられた内側平面部23及び隅R部26に対し、隙間を介して、軸方向に対向している。
【0050】
外径側筒部32は、嵌合筒部30と径方向に重畳するように嵌合筒部30の径方向外側に配置されている。本例では、外径側筒部32は、円輪板部31の径方向外側の端部から軸方向内側に向けて伸長しており、軸方向外側に位置する基端部が円輪板部31の径方向外側の端部に直接接続されている。
【0051】
外径側筒部32の最大外径、すなわち、外径側筒部32の軸方向内側の端部(先端部)における外径は、回転フランジ10の軸方向内側面を構成する段部25の軸方向内側の端部における外径よりも小さく、かつ、外輪2の軸方向外側の端部の内径よりも小さい。外径側筒部32は、外輪2の軸方向外側の端部の径方向内側に配置されている。外径側筒部32の軸方向内側の端面(先端面)は、シールリング21を構成する後述のシール基部51の軸方向外側面に対し軸方向に近接対向している。
【0052】
外径側筒部32は、軸方向に関してシールリング21(転動体設置空間22)に近づくほど、すなわち、軸方向内側に向かうほど外径が大きくなるテーパ部33を有する。本例では、外径側筒部32は、軸方向全体にテーパ部33を有している。換言すれば、外径側筒部32全体が、テーパ部33により構成されている。このため、外径側筒部32は、基端側から先端側に向かうほど外径が大きくなる、先太りの円すい筒形状に構成されている。
【0053】
スリンガ20の中心軸に対する外径側筒部32(テーパ部33)の傾斜角度は、特に限定されないが、たとえば2度~10度の範囲(図示の例では5度)に設定することができる。
【0054】
本例では、スリンガ20(スリンガ本体28)の製造時にスプリングゴーが発生した場合にも、外径側筒部32が先太りの円すい筒形状になるように、バーリング加工時におけるブランクの径方向外側部分の曲げ角度を、スリンガ20の中心軸に対する外径側筒部32の傾斜角度よりも少しだけ(たとえば2~3度程度)大きく設定している。
【0055】
スリンガ20は、外周面のうちで、外径側筒部32の軸方向内側の端面(先端面)よりも軸方向に関してシールリング21(転動体設置空間22)から遠い部分(軸方向外側部分)に、2つの面が交わって形成される尖った角部(縁部)である稜部34a、34bを有している。
【0056】
特に本例では、稜部34a、34bは、外径側筒部32(テーパ部33)の外周面に備えられている。
【0057】
稜部34a、34bは、外径側筒部32(テーパ部33)の外周面の軸方向中間部に、凹溝35を形成することで設けられている。稜部34a、34bは、凹溝35の開口縁部に形成されている。
【0058】
凹溝35は、矩形状の断面形状を有しており、外径側筒部32の外周面の軸方向中間部に旋削加工を施すことで形成されている。凹溝35は、ブランクに対して形成することもできるし、バーリング加工を施した外径側筒部32に形成することもできる。また、凹溝の断面形状は、矩形状に限らず、U字形状(U溝)など、その他の形状とすることもできる。
【0059】
凹溝35の溝深さは、特に限定されないが、たとえば外径側筒部32の板厚の1/4~1/2程度(図示の例ではおよそ1/3)とすることができる。また、凹溝35の溝幅についても、特に限定されないが、たとえば外径側筒部32の全長の1/5~1/10程度(図示の例ではおよそ1/6)とすることができる。本例では、凹溝を、外径側筒部の外周面に1つだけ備えられているが、外径側筒部の外周面に複数備えることもできる。
【0060】
凹溝35の内面は、
図3に示すように、円筒面状の底面36と、軸方向外側を向いた円輪状の第1内側面37と、軸方向内側を向いた円輪状の第2内側面38とから構成されている。
【0061】
軸方向内側の稜部34aは、第1内側面37と、外径側筒部32の外周面のうちで凹溝35から軸方向内側に外れた部分とが交わった部分に形成されており、全体が円環形状を有している。
【0062】
軸方向外側の稜部34bは、第2内側面38と、外径側筒部32の外周面のうちで凹溝35から軸方向外側に外れた部分とが交わった部分に形成されており、全体が円環形状を有している。
【0063】
図3に示すように、外径側筒部32は、シールリング21と軸方向に対向する軸方向内側の端面に、径方向内側から順に、ダレ面39、剪断面40、破断面41、バリ42を有している。
【0064】
スリンガシール材29は、全体が円環形状を有しており、スリンガ本体28を構成する円輪板部31の軸方向外側面に加硫接着されている。
【0065】
スリンガシール材29は、円輪板部31の軸方向外側面の径方向内側の端部から径方向中間部にわたる範囲に固定された円環状の基部43と、該基部43の径方向内側部に備えられた2つのリップ部44a、44bとからなる。2つのリップ部44a、44bの基端部は、互いに一体に構成されている。なお、
図2には、リップ部44a、44bの自由状態での形状を示している。
【0066】
2つのリップ部44a、44bのうち、径方向外側に配置されたリップ部44aは、回転フランジ10の軸方向内側面に備えられた隅R部26に先端部を全周にわたり近接対向させている。径方向内側に配置されたリップ部44bは、隅R部26に先端部を全周にわたり接触させている。これにより、泥水などの異物が、溝肩部27と嵌合筒部30との間部分を通じて、転動体設置空間22に侵入することを防止している。また、リップ部44aは、複数のスリンガ20を鉛直方向に積み重ねた際に、スリンガ本体28同士の間に隙間を設けるとともに、鉛直方向に隣接するスリンガ20の基部43と円輪板部31とが貼り付くことを防止し、定配装置による切り出しを行いやすくする機能も有する。
【0067】
シールリング21は、外輪2の軸方向外側の端部に固定され、かつ、スリンガ20の表面にその先端部を摺接させた少なくとも1本のシールリップ45a、45bを有する。本例では、シールリング21は、2本のシールリップ45a、45bを有する。ただし、シールリップの本数は、2本よりも少なくあるいは多くすることもできる。なお、
図2には、シールリップ45a、45bの自由状態での形状を示している。
【0068】
本例では、シールリング21は、芯金46と、シール材47とを備える。
【0069】
芯金46は、外輪2の軸方向外側の端部に締り嵌めで内嵌固定された芯金嵌合筒部48と、芯金嵌合筒部48の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がり、外輪2の軸方向外側の端面に沿って径方向外側に伸長した外向フランジ部49と、芯金嵌合筒部48の軸方向内側の端部から径方向内側に向けて伸長した支持板部50とを備える。
【0070】
シールリング21を構成するシール材47は、2本のシールリップ45a、45bに加えて、シール基部51と、堰部52と、庇リップ53とを有する。
【0071】
シール基部51は、芯金46の表面のうち、芯金嵌合筒部48の内周面と、外向フランジ部49の軸方向外側面、外周面及び軸方向内側面の径方向外側部と、支持板部50の軸方向外側面、内周面、及び軸方向内側面の径方向内側の端部とを覆っている。
【0072】
シール基部51のうちで芯金嵌合筒部48の内周面を覆った部分と、スリンガ20の外径側筒部32の外周面との間には、軸方向に伸長したラビリンスシールが形成されている。また、シール基部51のうちで支持板部50の軸方向外側面を覆った部分と、外径側筒部32の軸方向内側の端面との間には、径方向に伸長したラビリンスシールが形成されている。シール基部51のうちで芯金嵌合筒部48の内周面を覆った部分の内周面は、軸方向外側に向かうほど内径が大きくなるテーパ面により構成されている。また、シール基部51のうちで支持板部50の軸方向外側面を覆った部分の軸方向外側面は、シールリング21の中心軸に直交する仮想平面上に存在する平面により構成されている。
【0073】
2本のシールリップ45a、45bは、シールリング21の径方向内側部に備えられている。2本のシールリップ45a、45bのうち、軸方向外側に配置されたシールリップ45aは、サイドリップであり、シール基部51のうちで支持板部50の内周面を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、円輪板部31の軸方向内側面に先端部を摺接させている。軸方向内側に配置されたシールリップ45bは、ラジアルリップであり、シール基部51のうちで支持板部50の内周面を覆う部分から軸方向内側かつ径方向内側に向かう方向に伸長し、かつ、嵌合筒部30の外周面に先端部を摺接させている。
【0074】
これにより、スリンガ20とシールリング21との間を通じて、外部空間から泥水などの異物が転動体設置空間22に侵入したり、転動体設置空間22に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。具体的には、外径側筒部32とシールリップ45aとの間に存在する円環状のシール内部空間(リップ手前側空間)54、及び、2つのシールリップ45a、45bの間に存在する円環状のリップ間空間55を通じて、外部空間から転動体設置空間22へ異物が侵入することを防止するとともに、転動体設置空間22から外部空間へとグリースが漏洩することを防止している。
【0075】
堰部52は、シールリング21の径方向外側の端部に備えられている。堰部52は、外輪2の外周面の軸方向外側の端部よりも径方向外側に突出して配置されている。
【0076】
庇リップ53は、堰部52の軸方向外側面の径方向中間部から軸方向外側に向けて伸長し、回転フランジ10の軸方向内側面を構成する段部25に対して先端部を近接対向させている。庇リップ53の内周面と段部25の外周面との間には、ラビリンシールが形成されている。庇リップ53は、軸方向外側に向かうほど径方向外側に向かう方向に伸長している。
【0077】
本例のハブユニット軸受1は、転動体設置空間22の軸方向内側の開口部を塞ぐ有底円筒状の軸受キャップ56(
図1参照)をさらに備える。これにより、該開口部を通じて、外部空間の異物が転動体設置空間22に侵入したり、転動体設置空間22に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。
【0078】
なお、軸受キャップ56に代えて、組み合わせシールリングにより、転動体設置空間22の軸方向内側の開口部を塞ぐこともできる。転動体設置空間22の軸方向内側の開口部を、組み合わせシールリングにより塞ぐ場合には、該組み合わせシールリングとして、転動体設置空間22の軸方向外側の開口部を塞いだシール装置5から、スリンガシール材29、外向フランジ部49、堰部52及び庇リップ53を省略した如き構成を有する、シール装置を使用することができる。
【0079】
本例のハブユニット軸受1によれば、シール内部空間54に侵入した水分の排出性を確保できるとともに、シール内部空間54に水分が侵入することを抑制できる。
【0080】
すなわち、本例では、スリンガ20を構成する外径側筒部32に、スプリングゴーが発生した場合にも、軸方向に関してシールリング21(転動体設置空間22)に近づくほど外径が大きくなる円すい筒形状のテーパ部33を設けている。このため、シール内部空間54に侵入した水分を、車両の停止時などに、ハブユニット軸受1の中心軸よりも下方側に位置しているテーパ部33の内周面の傾斜を利用して、シール内部空間54の出口となる、外径側筒部32の軸方向内側の端面とシールリング21との間の隙間に導くことができる。したがって、シール内部空間54に侵入した水分の排出性を確保することができる。また、外径側筒部32の外周面に付着した水分を、車両の停止時などに、ハブユニット軸受1の中心軸よりも上方側に位置しているテーパ部33の外周面の傾斜を利用して、シール内部空間54の入口となる、外径側筒部32の軸方向内側の端面とシールリング21との間の隙間から遠ざけることができる。したがって、シール内部空間54に水分が侵入することを抑制できる。
【0081】
また、本例では、スリンガ20を構成する外径側筒部32(テーパ部33)の外周面に、稜部34a、34bを設けているため、外径側筒部32の外周面に付着した水分を、稜部34a、34bを利用して径方向外側へと効率良く飛散させる(振り切る)ことができる。稜部34a、34bから飛散した水分は、シール基部51のうちで芯金嵌合筒部48の内周面を覆った部分の内周面(テーパ面)に付着した後、庇リップ53と段部25との間を通じて外部空間に排出される。このため、本例では、外径側筒部32の外周面に稜部34a、34bを設けることによっても、シール内部空間54に水分が侵入することを抑制できる。
【0082】
特に本例では、稜部34a、34bを、外径側筒部32(テーパ部33)の外周面に凹溝35を形成することにより設けているため、外径側筒部32の外周面に付着した水分を該凹溝35の内側に一旦保持した後、凹溝35の開口縁部を構成する稜部34a、34bを利用して飛散させることもできる。
【0083】
また、外径側筒部32の全体にテーパ部33を設け、外径側筒部32全体を先太りの円すい筒形状としているため、シール内部空間54に侵入した水分を、外径側筒部32の先端面とシールリング21との間の隙間に効率良く導くことができる。
【0084】
さらに本例では、外径側筒部32の軸方向内側の端面に、径方向内側から順に、ダレ面39、剪断面40、破断面41及びバリ42を設けているため、ダレ面39を利用して、シール内部空間54に侵入した水分の排出を促すことができるとともに、バリ42を利用して、外径側筒部32の外周面に付着した水分を効率良く飛散させることもできる。
【0085】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図4及び
図5を用いて説明する。
【0086】
本例は、実施の形態の第1例の変形例であり、シール装置5を構成するスリンガ20のスリンガ本体28aの構造のみを、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0087】
本例のスリンガ本体28aは、外径側筒部32aの軸方向外側の端部から軸方向中間部にわたる範囲にテーパ部33を有し、外径側筒部32aの軸方向内側の端部に外向鍔部57を有する。
【0088】
テーパ部33は、軸方向に関してシールリング21(転動体設置空間22)に近づくほど外径が大きくなる円すい筒形状に構成されている。テーパ部33の軸方向外側の端部は、円輪板部31の径方向外側の端部に直接接続されている。
【0089】
外向鍔部57は、テーパ部33の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて略直角に伸長している。外向鍔部57の外周面は、円筒面状に構成されており、シールリング21を構成するシール基部51のうちで芯金嵌合筒部48の内周面を覆う部分の内周面に備えられたテーパ面との間に、ラビリンスシールを形成している。外向鍔部57の軸方向内側面は、外径側筒部32aの軸方向内側の端面を構成し、シール基部51のうちで支持板部50の軸方向外側面を覆う部分の軸方向外側面との間に、ラビリンスシールを形成している。
【0090】
スリンガ20は、外周面のうちで、外径側筒部32aの軸方向内側の端面よりも軸方向に関してシールリング21(転動体設置空間22)から遠い部分に、稜部34cを有している。
【0091】
具体的には、本例では、稜部34cは、スリンガ本体28aの外径側筒部32aを構成する外向鍔部57の外周面に備えられている。
【0092】
稜部34cは、外向鍔部57の外周面に旋削加工を施すことで、外向鍔部57の外周面の軸方向外側の端部(外周縁部)に設けられている。
【0093】
稜部34cは、外向鍔部57の軸方向外側面と外向鍔部57の外周面とが交わった部分に形成されており、全体が円環形状を有している。
【0094】
以上のような本例では、外径側筒部32aの軸方向外側の端部から軸方向中間部にわたる範囲にテーパ部33を設け、かつ、外径側筒部32aの軸方向内側の端部に外向鍔部57を設けているため、シール内部空間54に水分が侵入することを、外向鍔部57により堰き止めることができる。また、テーパ部33の外周面に付着した水分を、テーパ部33に外周面に沿って外向鍔部57の軸方向外側面に導いた後、稜部34cを利用して径方向外側へと効率良く飛散させることもできる。
【0095】
なお、外向鍔部57の外周面に旋削加工を施す以前の状態では、
図5に示すように、外向鍔部57の外周面の軸方向外側の端部には、軸方向外側に向けて突出したバリ42aが形成されているため、そのままでは、外向鍔部57の軸方向外側面に付着した水分を飛散させることが難しい。本例では、外向鍔部57の外周面に旋削加工を施すことで、バリ42aを除去し、稜部34cを形成しているため、外向鍔部57の軸方向外側面に付着した水分を効率良く飛散させることができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例と同じである。
【0096】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、
図6を用いて説明する。
【0097】
本例は、実施の形態の第2例の変形例であり、シール装置5を構成するスリンガ20のスリンガ本体28bの構造のみを、実施の形態の第2例の構造から変更している。
【0098】
スリンガ本体28bは、実施の形態の第2例と同様に、外径側筒部32bの軸方向外側の端部から軸方向中間部にわたる範囲にテーパ部33を有しており、外径側筒部32bの軸方向内側の端部に外向鍔部57aを有する。
【0099】
スリンガ20は、外周面のうちで、外径側筒部32bの軸方向内側の端面よりも軸方向に関してシールリング21(転動体設置空間22)から遠い部分に、稜部34d、34eを有している。
【0100】
稜部34d、34eは、スリンガ本体28bの外径側筒部32bを構成する外向鍔部57aの外周面に備えられている。
【0101】
稜部34d、34eは、外向鍔部57aの外周面の軸方向外側の端部に旋削加工(面取り加工)を施して、当該部分に面取り部(C面取り)58を形成することで設けられている。
【0102】
軸方向外側の稜部34dは、外向鍔部57aの軸方向外側面と面取り部58とが交わった部分に形成されており、軸方向内側の稜部34eは、面取り部58と外向鍔部57aの外周面とが交わった部分に形成されている。
【0103】
以上のような本例では、外向鍔部57aの外周面の軸方向外側の端部に面取り部58を形成することで稜部34d、34eを設けることができるため、実施の形態の第2例の構造に比べて、旋削加工量を少なくできる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例及び第2例と同じである。
【0104】
[実施の形態の第4例]
実施の形態の第4例について、
図7を用いて説明する。
【0105】
本例は、実施の形態の第1例の変形例であり、シール装置5を構成するスリンガ20のスリンガ本体28cの構造のみを、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0106】
スリンガ本体28cは、嵌合筒部30と、円輪板部31と、外径側筒部32cと、折り返し部59とを有する。
【0107】
折り返し部59は、円輪板部31の径方向外側の端部と外径側筒部32cの軸方向外側の端部との間に配置されており、円輪板部31と外径側筒部32cとを接続している。折り返し部59は、円輪板部31の径方向外側の端部から軸方向内側かつ径方向内側に向けて断面略U字状に折り返されている。折り返し部59の外周面と、シール基部51のうちで芯金嵌合筒部48の内周面を覆う部分の内周面に備えられたテーパ面との間には、ラビリンスシールが形成されている。
【0108】
外径側筒部32cは、軸方向全体にテーパ部33を有している。換言すれば、外径側筒部32c全体が、テーパ部33により構成されている。本例の外径側筒部32cは、実施の形態の第1例の外径側筒部32(
図2参照)に比べて外径が小さい。具体的には、外径側筒部32cは、折り返し部59よりも十分に小さい外径を有している。
【0109】
スリンガ20は、外周面のうちで、外径側筒部32cの軸方向内側の端面よりも軸方向に関してシールリング21から遠い部分に、稜部34f、34gを有している。特に本例では、稜部34f、34gは、スリンガ本体28cを構成する折り返し部59の外周面に備えられている。
【0110】
本例では、折り返し部59の径方向外側の端部に旋削加工を施すことで、折り返し部59の外周面を円筒面とし、該折り返し部59の軸方向両側の端部(外周縁部)に稜部34f、34gを設けている。稜部34fは、折り返し部59の外周面と軸方向外側面とが交わる部分に備えられており、稜部34gは、折り返し部59の外周面と軸方向内側面とが交わる部分に備えられている。
【0111】
以上のような本例では、折り返し部59の径方向外側の端部に旋削加工を施すことで稜部34f、34gを形成することができるため、外径側筒部32cに旋削加工を施さずに済み、外径側筒部32cに傾斜角度が小さくなるような変形が生じることを防止できる。また、折り返し部59は剛性が高いため、その他の実施の形態に比べて、稜部を形成するための旋削加工の作業性を高めることができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例と同じである。
【0112】
[実施の形態の第5例]
実施の形態の第5例について、
図8を用いて説明する。
【0113】
本例では、シール装置5のスリンガ20を構成するスリンガ本体28d及びスリンガシール材29aのうちで、スリンガシール材29aに、稜部34hを設けている。
【0114】
スリンガ本体28dは、嵌合筒部30と、円輪板部31と、外径側筒部32dとを有している。外径側筒部32dは、実施の形態の第1例の外径側筒部32(
図2参照)から凹溝35(稜部34a、34b)を省略した構成を有している。
【0115】
スリンガシール材29aは、全体が円環形状を有しており、スリンガ本体28dを構成する円輪板部31の軸方向外側面に加硫接着されている。
【0116】
スリンガシール材29aは、円輪板部31の軸方向外側面に固定された円環状の基部43aと、該基部43aの径方向内側部に備えられた2つのリップ部44a、44bとからなる。
【0117】
基部43aは、円輪板部31の軸方向外側面の径方向内側の端部から径方向外側の端部にわたる範囲を覆っている。
【0118】
基部43aの径方向外側の端部(外周縁部)には、基部43aの軸方向外側面と基部43aの外周面とが交わる稜部34hが設けられている。このため、稜部34hは、スリンガ20の外周面のうちで、外径側筒部32dの軸方向内側の端面よりも軸方向に関してシールリング21(転動体設置空間22)から遠い部分に備えられている。
【0119】
本例では、稜部34hの外径は、外径側筒部32dの軸方向内側の端部における外径とほぼ同じである。また、ハブ3の中心軸を含む仮想平面に関する断面において、稜部34hによって接続される基部43aの軸方向外側面と基部43aの外周面とがなす角度を、鋭角(図示の例ではおよそ60度)としている。このために、基部43aの外周面は、軸方向内側に向かうほど外径が小さくなるテーパ面である。
【0120】
以上のような本例では、スリンガシール材29aを構成する基部43aの外周面に稜部34hを設けているため、スリンガ本体28dに稜部を形成するための加工を施さずに済む。このため、シール装置5の製造コストを低減することができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例と同じである。
【0121】
以上、実施の形態の各例について説明したが、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0122】
本発明の技術思想は、実施の形態で説明した構造に限定されない。たとえば、スリンガと組み合わせて使用するシールリングの構造は、実施の形態の各例の構造に限定されず、適宜変更することができる。また、スリンガを構成するスリンガシール材の構造についても、実施の形態の各例の構造に限定されず、適宜変更することができる。
【0123】
また、実施の形態の各例の構造では、外周面に稜部を備えたスリンガを備えたシール装置により、転動体設置空間の軸方向外側の開口部を塞ぐ構造について説明したが、追加的あるいは代替的に、本発明は、外周面に稜部を備えたスリンガを備えたシール装置により、転動体設置空間の軸方向内側の開口部を塞ぐこともできる。
【符号の説明】
【0124】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4a、4b 転動体
5 シール装置
6a、6b 外輪軌道
7 静止フランジ
8 支持孔
9a、9b 内輪軌道
10 回転フランジ
11 パイロット部
12 取付孔
13 スタッド
14 内輪
15 ハブ輪
16 小径段部
17 段差面
18 かしめ部
19a、19b 保持器
20 スリンガ
21 シールリング
22 転動体設置空間
23 内側平面部
24 外側平面部
25 段部
26 隅R部
27 溝肩部
28、28a~28d スリンガ本体
29、29a スリンガシール材
30 嵌合筒部
31 円輪板部
32、32a~32d 外径側筒部
33 テーパ部
34a~34h 稜部
35 凹溝
36 底面
37 第1内側面
38 第2内側面
39 ダレ面
40 剪断面
41 破断面
42、42a バリ
43、43a 基部
44a、44b リップ部
45a、45b シールリップ
46 芯金
47 シール材
48 芯金嵌合筒部
49 外向フランジ部
50 支持板部
51 シール基部
52 堰部
53 庇リップ
54 シール内部空間
55 リップ間空間
56 軸受キャップ
57、57a 外向鍔部
58 面取り部
59 折り返し部
100 外径側筒部
101 ダレ面
102 剪断面
103 破断面
104 バリ