(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176964
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】情報提供装置、情報提供方法及び情報提供プログラム
(51)【国際特許分類】
D21F 7/06 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
D21F7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095873
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 和史
(72)【発明者】
【氏名】堀越 久美子
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055DA14
4L055DA16
4L055DA18
(57)【要約】
【課題】製紙工程において紙の厚さを精度良く均一化すること。
【解決手段】実施形態の情報提供装置10は、取得部141、計算部142及び提供部143を有する。取得部141は、提供された指標に基づき、ロールを用いて紙の各部分を異なる押圧で加圧する加圧工程の前又は後における、紙の各部分の厚さの測定値、及び紙の各部分の水分率の測定値を取得する。計算部142は、厚さの測定値及び水分率の測定値を基に、紙の水分率が変化した後の紙の厚さの推定値を計算する。提供部143は、加圧工程を実行する装置に、推定値を指標として提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
提供された指標に基づき、ロールを用いて紙の各部分を異なる押圧で加圧する加圧工程の前又は後における、前記紙の各部分の厚さの測定値、及び前記紙の各部分の水分率の測定値を取得する取得部と、
前記厚さの測定値及び前記水分率の測定値を基に、前記紙の水分率が変化した後の前記紙の厚さの推定値を計算する計算部と、
前記加圧工程を実行する装置に、前記推定値を前記指標として提供する提供部と、
を有する情報提供装置。
【請求項2】
前記計算部は、前記紙の各部分の前記厚さの測定値、及び前記水分率の測定値と、あらかじめ設定された水分率の固定値、又は前記水分率の測定値の平均値との差を用いて、前記指標を計算する
請求項1に記載の情報提供装置。
【請求項3】
前記計算部は、前記厚さの測定値から、係数と前記水分率の測定値と前記厚さの測定値とを掛けた値を引くことで前記指標を計算する
請求項1に記載の情報提供装置。
【請求項4】
前記計算部は、前記厚さの測定値から、係数と前記水分率の測定値と前記厚さの測定値の平均値とを掛けた値を引くことで前記指標を計算する
請求項1に記載の情報提供装置。
【請求項5】
前記計算部は、前記厚さの測定値から、前記水分率の測定値と、あらかじめ設定された水分率の固定値、又は前記水分率の測定値の平均値との差に、係数を掛けた値を引くことで前記指標を計算する
請求項1に記載の情報提供装置。
【請求項6】
前記計算部は、前記厚さの測定値から、前記水分率の測定値と、あらかじめ設定された水分率の固定値、又は前記水分率の測定値の平均値との差に、係数と前記厚さの測定値を掛けた値を引くことで前記指標を計算する
請求項1に記載の情報提供装置。
【請求項7】
前記計算部は、前記厚さの測定値から、前記水分率の測定値と、あらかじめ設定された水分率の固定値、又は前記水分率の測定値の平均値との差に、係数と前記厚さの測定値の平均値を掛けた値を引くことで前記指標を計算する
請求項1に記載の情報提供装置。
【請求項8】
前記計算部は、前記厚さの測定値から、前記水分率の測定値に対する膜厚変化と風乾水分率に対するときの膜厚変化との差を引くことで前記指標を計算する
請求項1に記載の情報提供装置。
【請求項9】
前記取得部は、前記紙の各部分の坪量の測定値をさらに取得し、
前記計算部は、前記厚さの測定値から、係数と前記水分率の測定値と前記坪量の測定値とを掛けた値を引くことで前記指標を計算する
請求項1に記載の情報提供装置。
【請求項10】
前記取得部は、前記紙の各部分の坪量の測定値をさらに取得し、
前記計算部は、前記厚さの測定値から、前記水分率の測定値と、あらかじめ設定された水分率の固定値、又は前記水分率の測定値の平均値との差に係数と前記坪量の測定値とを掛けた値を引くことで前記指標を計算する
請求項1に記載の情報提供装置。
【請求項11】
提供された指標に基づき、ロールを用いて紙の各部分を異なる押圧で加圧する加圧工程の前又は後における、前記紙の各部分の厚さの測定値、及び前記紙の各部分の水分率の測定値を取得し、
前記厚さの測定値及び前記水分率の測定値を基に、前記紙の水分率が変化した後の前記紙の厚さの推定値を計算し、
前記加圧工程を実行する装置に、前記推定値を前記指標として提供する
処理をコンピュータが実行する情報提供方法。
【請求項12】
提供された指標に基づき、ロールを用いて紙の各部分を異なる押圧で加圧する加圧工程の前又は後における、前記紙の各部分の厚さの測定値、及び前記紙の各部分の水分率の測定値を取得し、
前記厚さの測定値及び前記水分率の測定値を基に、前記紙の水分率が変化した後の前記紙の厚さの推定値を計算し、
前記加圧工程を実行する装置に、前記推定値を前記指標として提供する
処理をコンピュータに実行させる情報提供プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報提供装置、情報提供方法及び情報提供プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製紙工程において紙ウェブ(シート状の紙)の厚さを均一化するための技術が知られている。例えば、特許文献2には、測定した紙ウェブの厚さプロファイルを基に、プレスパートにおいて幅方向の線圧を調整する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-27396号公報
【特許文献2】特開2004-277899号公報
【特許文献3】特開2013-108859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、製紙工程において紙の厚さを精度良く均一化することができない場合がある。
【0005】
例えば、紙に含まれる水分量の変化に応じて紙の厚さは変化する。厚さを調整する工程より後の工程又は製造後においても、紙の水分量は変化する。これに対し、従来の技術では、水分量の変化による紙の厚さの変化が十分に考慮されていない。
【0006】
1つの側面では、製紙工程において紙の厚さを精度良く均一化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの側面にかかる情報提供装置は、提供された指標に基づき、ロールを用いて紙の各部分を異なる押圧で加圧する加圧工程の前又は後における、前記紙の各部分の厚さの測定値、及び前記紙の各部分の水分率の測定値を取得する取得部と、前記厚さの測定値及び前記水分率の測定値を基に、前記紙の水分率が変化した後の前記紙の厚さの推定値を計算する計算部と、前記加圧工程を実行する装置に、前記推定値を前記指標として提供する提供部と、を有する。
【0008】
1つの側面にかかる情報提供方法は、提供された指標に基づき、ロールを用いて紙の各部分を異なる押圧で加圧する加圧工程の前又は後における、前記紙の各部分の厚さの測定値、及び前記紙の各部分の水分率の測定値を取得し、前記厚さの測定値及び前記水分率の測定値を基に、前記紙の水分率が変化した後の前記紙の厚さの推定値を計算し、前記加圧工程を実行する装置に、前記推定値を前記指標として提供する処理をコンピュータが実行する。
【0009】
1つの側面にかかる情報提供プログラムは、提供された指標に基づき、ロールを用いて紙の各部分を異なる押圧で加圧する加圧工程の前又は後における、前記紙の各部分の厚さの測定値、及び前記紙の各部分の水分率の測定値を取得し、前記厚さの測定値及び前記水分率の測定値を基に、前記紙の水分率が変化した後の前記紙の厚さの推定値を計算し、前記加圧工程を実行する装置に、前記推定値を前記指標として提供する処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、製紙工程において紙の厚さを精度良く均一化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る調整システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る情報提供装置の構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、合成厚さプロファイルを説明する図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る情報提供装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、ハードウェア構成例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本願の開示する情報提供装置、情報提供方法及び情報提供プログラムの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、ここで説明する実施形態により本願の発明が限定されるものではない。また、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。また、各実施形態は、矛盾のない範囲内で適宜組み合わせることができる。
【0013】
図1を用いて、情報提供装置を含む調整システムの構成を説明する。調整システムは、紙の製造ラインの少なくとも一部と、情報提供装置と、を含む。
【0014】
図1に示すように、調整システム1は、情報提供装置10、膜厚制御装置20、測定装置30、及び巻き取り装置40を有する。なお、
図1の実線の矢印は、製造される紙の流れを示す。また、破線の矢印は、データ又は信号の流れを示す。
【0015】
紙の製造ラインは、ワイヤパート、プレスパート、ドライパート、カレンダパート、巻き取り工程等を含む。カレンダパートには、ある程度水分が取り除かれた状態の紙が供給される。カレンダパートでは、供給された紙をロールで加圧し、光沢を与える。なお、膜厚制御装置20及び巻き取り装置40は、抄紙機の一部であってよい。
【0016】
膜厚制御装置20は、カレンダパートの処理を実施する。すなわち、膜厚制御装置20は、押し圧を制御することによって紙厚を調整する。膜厚制御装置20は、紙の幅方向(紙の搬送方向と直交し、かつ紙と平行な方向)の位置ごとに押し圧を変化させる。例えば、膜厚制御装置20は、カレンダロールを局所的に加熱しロール径を変えることで押し圧を変化させてもよいし、弾性変形するロールの内部に多数配置されたアクチュエータによって押し圧を変化させてもよい。
【0017】
測定装置30は、カレンダパートによって厚さが調整された紙の、幅方向の紙厚の分布(厚さプロファイル)、及び幅方向の水分率の分布(水分率プロファイル)を測定する。測定装置30は、紙の幅方向にスキャンするセンサを備える。センサは、厚さ及び水分率を測定する。
【0018】
情報提供装置10は、厚さプロファイル及び水分率プロファイルを基に、紙厚を調整するための指標を計算する。情報提供装置10は、計算した指標を膜厚制御装置20に提供する。
【0019】
例えば、指標は、紙の幅方向の各部分の、水分率を考慮した厚さの推定値である。測定装置30によって測定された紙厚は、後の工程における水分率の変化に応じて、さらに変化することが考えられる。このため、例えばカレンダパートの直後において紙厚が均一になっていたとしても、最終的な紙厚が均一になるとは限らない。
【0020】
そこで、膜厚制御装置20は、紙厚の実測値ではなく、紙厚及び水分率を考慮して計算された指標を基に紙厚を調整する。これにより、最終的に完成した紙の厚さを、より精度良く均一にすることが可能になる。なお、具体的な指標の計算方法については後述する。
【0021】
図2を用いて、情報提供装置10の構成を説明する。
図2は、実施形態に係る情報提供装置の構成例を示す図である。
図2に示すように、情報提供装置10は、入力部11、出力部12、記憶部13及び制御部14を有する。
【0022】
入力部11は、データの入力のためのインタフェースである。入力部11は、測定装置30からのデータの入力を受け付ける。出力部12は、データの出力のためのインタフェースである。出力部12は、膜厚制御装置20にデータを出力する。
【0023】
記憶部13は、各種データ、及び制御部14が実行する各種プログラム等を記憶する。例えば、記憶部13は、メモリ及びハードディスク等の記憶装置である。この記憶部13は、制御部14が各種処理を実行する際の過程で得られるデータ、及び各種処理を実行したことで得られる処理結果等、情報提供装置10が実行する処理で発生する各種データを記憶する。記憶部13は、係数情報131を記憶する。係数情報131は、指標の計算で用いられる係数の値である。
【0024】
制御部14は、情報提供装置10全体を司る処理部である。制御部14は、取得部141、計算部142及び提供部143を有する。
【0025】
取得部141は、測定装置30から厚さプロファイル及び水分率プロファイルを取得する。
【0026】
計算部142は、厚さプロファイル及び水分率プロファイルを基に、指標を計算する。計算部142は、合成厚さプロファイルを指標として計算する。合成厚さプロファイルは、絶乾紙厚又は風乾紙厚の推定値である。
【0027】
絶乾紙厚は、製造後の紙が完全に乾いたとき(水分率が0%)の紙厚である。また、風乾紙厚は、製造後の紙の水分率の高い部分が自然に乾き、水分率が均等になったときの紙厚である。
【0028】
図3は、合成厚さプロファイルを説明する図である。x軸は、紙の幅方向の位置を表す軸である。y軸は、紙の厚さを表す軸である。曲線501は、紙の厚さをしめす曲線である。
【0029】
xの値によって、紙の部分が、紙の幅方向の位置として示される。取得部141が取得する厚さプロファイルは、xの値のそれぞれに対応する紙の厚さである。また、取得部141が取得する水分率プロファイルは、xの値のそれぞれに対応する紙の水分率である。
【0030】
例えば、厚さプロファイルには、x=x1の位置における厚みの測定値がCLP1であることが示される。また、例えば、厚さプロファイルには、x=x2の位置における厚みの測定値がCLP2であることが示される。また、CLPAVEは、各位置の厚みの測定値の平均値である。
【0031】
図3には示されていないが、水分率プロファイルには、各位置における水分率の測定値が示される。例えば、水分率プロファイルには、x=x
1の位置における水分率の測定値がMP
1であることが示される。また、例えば、水分率プロファイルには、x=x
2の位置における水分率の測定値がMP
2であることが示される。
【0032】
例えば、計算部142は、下記の(1)式から(7)式の少なくともいずれかによって、紙の幅方向の各位置の合成厚さプロファイル(絶乾紙厚又は風乾紙厚)を計算する。ただし、CLP及びMPは各位置の厚さ及び水分率の測定値である。
【0033】
α及びβはあらかじめ定められた変換係数であり、正の値を取る。α及びβは、係数情報131に含まれる。ΔMPは、あらかじめ設定された水分率の固定値、又は各位置の水分率の測定値の平均値(MPAVE)と、水分率の測定値MPとの差である。また、関数f(z)は、水分率zに対する膜厚変化を表す関数である。例えば、水分率がzである場合の紙厚は、絶乾紙厚+f(z)である。
【0034】
計算部142は、(1)式に示すように、厚さの測定値CLPから、変換係数αと水分率の測定値MPを掛けた値を引くことで絶乾紙厚を計算することができる。
絶乾紙厚=CLP-α*MP (1)
【0035】
計算部142は、(2)式に示すように、厚さの測定値CLPから、変換係数βと水分率の測定値MPと厚さの測定値CLPとを掛けた値を引くことで絶乾紙厚を計算することができる。
絶乾紙厚=CLP-β*MP*CLP (2)
【0036】
計算部142は、(3)式に示すように、厚さの測定値CLPから、変換係数βと水分率の測定値MPと厚さの測定値の平均値CLPAVEとを掛けた値を引くことで絶乾紙厚を計算することができる。
絶乾紙厚=CLP-β*MP*CLPAVE (3)
【0037】
計算部142は、(4)式に示すように、厚さの測定値CLPから、変換係数αとΔMPとを掛けた値を引くことで風乾紙厚を計算することができる。
風乾紙厚=CLP-α*(ΔMP) (4)
【0038】
計算部142は、(5)式に示すように、厚さの測定値CLPから、変換係数βとΔMPと厚さの測定値CLPとを掛けた値を引くことで風乾紙厚を計算することができる。
風乾紙厚=CLP-β*(ΔMP)*CLP (5)
【0039】
計算部142は、(6)式に示すように、厚さの測定値CLPから、変換係数βとΔMPと厚さの測定値の平均値CLPAVEとを掛けた値を引くことで風乾紙厚を計算することができる。
風乾紙厚=CLP-β*(ΔMP)*CLPAVE (6)
【0040】
計算部142は、(7)式に示すように、厚さの測定値CLPから、水分率が測定値MPであるときの膜厚変化と水分率が風乾水分率(例えば、6%)であるときの膜厚変化との差を引くことで風乾紙厚を計算することができる。風乾水分率は、あらかじめ設定される。
風乾紙厚=CLP-{f(MP)-f(風乾水分率)} (7)
【0041】
(2)、(3)、(5)、(6)式は、水分率の変化による紙厚の変化が、水分率だけでなく紙厚自体(各式の右辺の第2項のCLP又はCLPAVE)にも比例するということを考慮した式である。これにより、紙の厚さが異なる銘柄でも変換係数を一定の範囲に収めることができるため銘柄管理が容易になる。
【0042】
また、(2)式及び(5)式では、変換係数には各位置の厚みの測定値が掛けられている。一方で、紙厚のムラは補正量に対して十分小さいと考えることができるので、(3)式及び(6)式のように、変換係数に掛けられるCLPは、平均値CLPAVEに置き換えられてもよい。また、変換係数に掛けられる値は、CLP及びCLPAVEに限られず、坪量、絶乾坪量等の、紙の膨潤量に比例する量であればよい。なお、変換係数に掛けられる値として坪量が用いられる場合、水分率×坪量は紙の中に存在する水分の量を意味する。
【0043】
測定装置30は、水分率の代わりに、紙に含まれる水分量を直接測定し出力してもよい。情報提供装置10は、水分率の代わりに水分量を用いて合成厚さプロファイルを計算することができる。この場合は、水分率を水分量と読み替えることによって式(1)、(4)は有効に機能する。さらに、この場合、(2)、(3)、(5)、(6)式のように厚さや坪量を掛けなくても、紙の厚さが異なる銘柄の変換係数を一定の範囲に収めることができるため、銘柄管理が容易になるメリットがある。
【0044】
例えば、計算部142は、(1)式の水分率MPを水分量MWに置き換えた(8)式により、絶乾紙厚を計算することができる。
絶乾紙厚=CLP-α*MW (8)
【0045】
また、例えば、計算部142は、(4)式のΔMPをΔMWに置き換えた(9)式により、風乾紙厚を計算することができる。ただし、ΔMWは、あらかじめ設定された水分量の固定値、又は各位置の水分量の測定値の平均値(MWAVE)と、水分量の測定値MWとの差である。
風乾紙厚=CLP-α*(ΔMW) (9)
【0046】
さらに、測定装置30は、坪量を測定することができる。この場合、取得部141は、紙の各部分の坪量の分布、すなわち坪量プロファイルを測定装置30からさらに取得する。この場合、計算部142は、坪量プロファイルを用いて合成プロファイルを計算する。
【0047】
例えば、計算部142は、(2)、(3)式の右辺の第2項のCLPを、坪量の測定値BWに置き換えた(10)式又は(11)式により絶乾紙厚を計算することができる。
絶乾紙厚=CLP-β*MP*BW (10)
絶乾紙厚=CLP-β*MP*BWAVE (11)
【0048】
また、例えば、計算部142は、(5)、(6)式の右辺の第2項のCLPAVEを、坪量の測定値の平均値BWAVEに置き換えた(12)式又は(13)式により風乾紙厚を計算することができる。
風乾紙厚=CLP-β*(ΔMP)*BW (12)
風乾紙厚=CLP-β*(ΔMP)*BWAVE (13)
【0049】
提供部143は、合成紙厚を膜厚制御装置20に提供する。すなわち、提供部143は、膜厚制御装置20によるカレンダパートの処理の結果得られた厚さプロファイル及び水分率プロファイルを基に、合成厚さプロファイルを膜厚制御装置20にフィードバックする。これにより、調整システム1は、フィードバック制御を実現する。
【0050】
膜厚制御装置20は、合成厚さプロファイルを基に、紙の幅方向に沿って紙の厚さを制御する。これにより、製紙後に紙が乾燥しても、水分の影響を差し引いた紙の厚さが均一に保たれるため、紙の品質の向上が期待できる。
【0051】
例えば、α=0.8とし、情報提供装置10が、60umの紙厚(CLP)に対して(4)式を用いて合成厚さプロファイルを計算したところ、水分率変化による厚さ変化を補正することができたものとする。この場合、β=α/60=0.8/60=0.0133とし、情報提供装置10が(5)式又は(6)式によって合成厚さプロファイルを計算することにより、同様に水分率変化による厚さ変化を補正できると考えられる。このように、情報提供装置10によれば、膜厚が異なる銘柄を生産する場合に、既に補正に成功した変換係数と近い値を変換係数として使用することが可能となる。
【0052】
図4を用いて、情報提供装置10の処理の流れを説明する。
図4は、実施形態に係る情報提供装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【0053】
図4に示すように、まず、情報提供装置10は、測定装置30から、厚さプロファイル及び水分率プロファイルを取得する(ステップS101)。次に、情報提供装置10は、厚さプロファイル及び水分率プロファイルから合成厚さプロファイルを計算する(ステップS102)。そして、情報提供装置10は、合成厚さプロファイルをカレンダパート、すなわち膜厚制御装置20にフィードバックする(ステップS103)。
【0054】
情報提供装置10は、ステップS101からS103を繰り返し行うことで、フィードバック制御による紙厚調整の精度をさらに向上させることができる。
【0055】
[効果]
これまで説明してきたように、情報提供装置10は、取得部141、計算部142及び提供部143を有する。取得部141は、提供された指標に基づき、ロールを用いて紙の各部分を異なる押圧で加圧する加圧工程の前又は後における、紙の各部分の厚さの測定値、及び紙の各部分の水分率の測定値を取得する。計算部142は、厚さの測定値及び水分率の測定値を基に、紙の水分率が変化した後の紙の厚さの推定値を計算する。提供部143は、加圧工程を実行する装置に、推定値を指標として提供する。
【0056】
提供された指標に基づき、ロールを用いて紙の各部分を異なる押圧で加圧する加圧工程は、カレンダパートであり、膜厚制御装置20によって実行される。また、測定装置30は、これまでに説明した通りカレンダパートの後の紙の厚さ及び水分率を測定してもよいし、カレンダパートの前の紙の厚さ及び水分率を測定してもよい。紙の水分率が変化した後の紙の厚さの推定値は、(1)式から(7)式で説明した絶乾紙厚又は風乾紙厚である。
【0057】
このように、情報提供装置10は、紙の厚さの測定値だけでなく、水分率の測定値を考慮して指標を計算することができる。これにより、フィードバック制御による紙厚の調整がより高精度化する。その結果、実施形態によれば、製紙工程において紙の厚さを精度良く均一化することが可能になる。
【0058】
ここで、紙厚にムラがある場合、印刷の際に紙がうまく搬送されず、印刷に失敗したり、印刷の品質にムラが生じたり、紙の商品価値が毀損されたりする。実施形態によれば、このような事態が回避される。
【0059】
また、膜厚制御装置20は、指標として提供された風乾紙厚が平坦になるように、カレンダパートで紙の幅方向の厚さを調整する。この調整により、紙が風乾状態になったときの厚さプロファイルが均一となる。
【0060】
このように、実施形態によれば、製造後の水分率分布のムラの解消によって、製造後の紙が部分的に厚さ変化を起こしても、最終的に紙厚は平坦になる。これにより、製造後の紙の保管中の吸湿及び放湿による厚さムラが低減され、紙製品の品質が向上する。
【0061】
製造後の紙の厚さが均一になることで、インクの塗り斑が発生すること、及び加工品の寸法が不均一になること等の不利益な事象が回避される。また、実施形態によれば、巻き取られた紙ロールの凸凹がなくなり紙に皺が入るという品質不良がなくなる。また、実施形態によれば、紙ロールの凹凸がなくなることで、紙を機械に装着する際の紙詰まり、機械の不安定化、損傷等が少なくなる。また、実施形態によれば、水分率プロファイルの均一化に必要なエネルギーが軽減され、省資源及び環境保護への貢献が可能になる。
【0062】
[変形例]
実施形態は、下記のように適宜変形させてもよい。
【0063】
例えば、調整システム1における紙の厚さ制御を行う箇所は、カレンダパート以外であってもよい。また、紙の厚さを制御する工程の前に、紙の水分率を調整する工程があってもよいし、カレンダパートで水分率調整が行われてもよい。このように、水分率調整によって水分率があらかじめ一定の範囲内に収められていれば、情報提供装置10は、高効率かつ高精度に絶乾紙厚及び風乾紙厚を計算することができる。
【0064】
また、カレンダパートにおいて、厚さを平坦にする制御と水分率を平坦にする制御が同時に行われてもよい。これにより、厚さを平坦にする制御における調整量がより一定になるため、カレンダパートにより紙表面を平滑に整える効果が一様に得られやすくなる。
【0065】
また、水分率プロファイルを平坦にする制御においては、平坦の目標からの乖離を一定量許容する制御を行われてもよい。こうすることでカレンダパートによる紙表面を平滑に整える効果をある程度の水準に保ちつつ、水分率プロファイル調整に投入されるエネルギーを低減することができる。
【0066】
さらに、紙厚を平坦化する制御は、カレンダパートにおける押圧のためのロールの線圧を一定に保ったまま、幅方向の水分率を調整することによって行われてもよい。この場合、カレンダパートの紙表面の平滑性を与える効果を一定に保ったまま最終的な紙厚を平坦にできる。
【0067】
また、水分率は紙の幅方向で平坦ではなく、紙端で下がるように調整されてもよい。水分率を紙端で下がるように調整した場合、風乾膜厚プロファイルを平坦にするための実際の紙厚は、平坦ではなく端が薄いプロファイルとなる。このような紙厚み分布を持つ紙は巻き取り時に空気を排出しやすく巻き取り時の紙の蛇行が小さくなり取り扱いが容易になる場合がある。
【0068】
情報提供装置10は、風乾紙厚を計算するときに測定膜厚からの乖離を一定の範囲内に制限する演算を行ってもよい。ここで、紙が巻き取られるときの厚さは測定膜厚に近いため、補正量が大きすぎると膜厚に偏りがあるまま巻き取られることになり、しわが発生しうまく巻きとれなくなる可能性がある。これに対し、補正量に制限を設ければ、巻き姿が安定するため、巻き取りの失敗による操業の停止を回避し、操業を継続することができるようになる。
【0069】
[システム]
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0070】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【0071】
さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU及び当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0072】
[ハードウェア]
次に、情報提供装置10のハードウェア構成例を説明する。
図5は、ハードウェア構成例を説明する図である。
図5に示すように、情報提供装置10は、通信装置100a、HDD(Hard Disk Drive)100b、メモリ100c、プロセッサ100dを有する。また、
図5に示した各部は、バス等で相互に接続される。
【0073】
通信装置100aは、ネットワークインタフェースカード等であり、他のサーバとの通信を行う。HDD100bは、
図2に示した機能を動作させるプログラム及びDBを記憶する。
【0074】
プロセッサ100dは、
図2に示した各処理部と同様の処理を実行するプログラムをHDD100b等から読み出してメモリ100cに展開することで、
図2等で説明した各機能を実行するプロセスを動作させる。例えば、このプロセスは、情報提供装置10が有する各処理部と同様の機能を実行する。具体的には、プロセッサ100dは、取得部141、計算部142及び提供部143と同様の処理を実行するプロセスを実行する。
【0075】
このように、情報提供装置10は、プログラムを読み出して実行することで情報提供方法を実行する情報提供装置として動作する。また、情報提供装置10は、媒体読取装置によって記録媒体から上記プログラムを読み出し、読み出された上記プログラムを実行することで上記した実施例と同様の機能を実現することもできる。なお、この他の実施例でいうプログラムは、情報提供装置10によって実行されることに限定されるものではない。例えば、他のコンピュータ又はサーバがプログラムを実行する場合や、これらが協働してプログラムを実行するような場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【0076】
このプログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disc)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することができる。
【符号の説明】
【0077】
10 情報提供装置
11 入力部
12 出力部
13 記憶部
14 制御部
20 膜厚制御装置
30 測定装置
40 巻き取り装置
131 係数情報
141 取得部
142 計算部
143 提供部
501 曲線