(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176968
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ソイルセメントの単位体積質量推定方法及びソイルセメントの強度推定方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/48 20060101AFI20241212BHJP
E02D 5/24 20060101ALI20241212BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
E02D5/48
E02D5/24
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095882
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田屋 裕司
(72)【発明者】
【氏名】中村 嘉志
(72)【発明者】
【氏名】濱田 純次
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041BA12
2D041DA12
2D041FA04
(57)【要約】
【課題】ソイルセメントの単位体積質量を精度よく推定する。
【解決手段】ソイルセメントの単位体積質量推定方法は、セメントミルクと現場発生土とを混合して形成されたソイルセメントの未固結試料を乾燥させる工程と、乾燥した前記未固結試料を粉砕し、蛍光X線分析計を用いて、前記未固結試料の所定元素含有量を測定する工程と、前記未固結試料の所定元素含有量、現場発生土の所定元素含有量及び前記セメントミルクに用いられるセメントの所定元素含有量を用いて、前記ソイルセメントにおける土とセメントとの質量比を算出する工程と、算出された前記質量比、現場発生土の土粒子密度、前記セメントの密度及び前記ソイルセメントの含水比から、前記ソイルセメントの単位体積質量を算出する工程と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントミルクと現場発生土とを混合して形成されたソイルセメントの未固結試料を乾燥させる工程と、
乾燥した前記未固結試料を粉砕し、蛍光X線分析計を用いて、前記未固結試料の所定元素含有量を測定する工程と、
前記未固結試料の所定元素含有量、現場発生土の所定元素含有量及び前記セメントミルクに用いられるセメントの所定元素含有量を用いて、前記ソイルセメントにおける土とセメントとの質量比を算出する工程と、
算出された前記質量比、現場発生土の土粒子密度、前記セメントの密度及び前記ソイルセメントの含水比から、前記ソイルセメントの単位体積質量を算出する工程と、
を備えたソイルセメントの単位体積質量推定方法。
【請求項2】
前記現場発生土の所定元素含有量は、乾燥した現場発生土を粉砕し、蛍光X線分析計を用いて測定される、請求項1に記載のソイルセメントの単位体積質量推定方法。
【請求項3】
前記ソイルセメントは、杭孔の根固め部を形成する、請求項1に記載のソイルセメントの単位体積質量推定方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載のソイルセメントの単位体積質量推定方法によって算出されたソイルセメントの単位体積質量からソイルセメントにおけるセメントミルクの割合を算出し、
前記ソイルセメントにおけるセメントミルクの割合と圧縮強度との相関データを用いて、ソイルセメントの圧縮強度を推定する、
ソイルセメントの強度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメントの単位体積質量推定方法及びソイルセメントの強度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既製杭埋込み杭工法によって形成される杭など、ソイルセメントを用いて形成される地下構造物においては、強度確認や施工管理のために、ソイルセメントの強度(固化強度)を把握することが求められている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、ソイルセメントの強度を推定するために、杭穴根固め部におけるソイルセメントから未固結試料を取り出し、この未固結試料の温度変化からセメント量を推定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のセメント量の推定方法では、時間と温度との関係を示すグラフを作成するため、未固結試料を一定期間養生する必要がある。このため、セメント量を推定するまでに時間がかかる。また、温度を正確に測定するためには、断熱容器内で未固結試料を養生する必要があり、管理に手間がかかる。
【0006】
そこで、このような養生期間を設けずに、ソイルセメントの単位体積あたりの「質量」を把握することも考えられる。質量を把握することができれば、ソイルセメントにおけるセメントミルクの割合を把握して、ソイルセメントの強度を導出することができる。
【0007】
養生期間を設けずにソイルセメントの質量を把握するためには、マッドバランス(泥水比重計)を用いて未固結試料の質量を測定する方法や、容器に充填した未固結試料の質量を秤で測定する方法等がある。
【0008】
しかし、マッドバランスを用いる方法では、試料を充填するカップの蓋に土粒子が噛み込んで閉まり難かったり、蓋の穴が詰まったりして、質量を正確に測定できない場合がある。また、作業員の目視や手作業による測定となり、誤差が生じやすい。
【0009】
一方、容器と秤を用いる方法では、容器に注がれたソイルセメントの液面の位置を把握し難く、体積を測定するのが困難である。このため、単位体積の質量に換算した場合に、誤差が生じやすい。
【0010】
本発明は、上記事実を考慮して、ソイルセメントの単位体積質量を精度よく推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1のソイルセメントの単位体積質量推定方法は、セメントミルクと現場発生土とを混合して形成されたソイルセメントの未固結試料を乾燥させる工程と、乾燥した前記未固結試料を粉砕し、蛍光X線分析計を用いて、前記未固結試料の所定元素含有量を測定する工程と、前記未固結試料の所定元素含有量、現場発生土の所定元素含有量及び前記セメントミルクに用いられるセメントの所定元素含有量を用いて、前記ソイルセメントにおける土とセメントとの質量比を算出する工程と、算出された前記質量比、現場発生土の土粒子密度、前記セメントの密度及び前記ソイルセメントの含水比から、前記ソイルセメントの単位体積質量を算出する工程と、を備える。
【0012】
請求項1のソイルセメントの単位体積質量推定方法では、ソイルセメントにおける未固結試料の所定元素含有量を、蛍光X線分析計を用いて測定する。このとき、未固結試料は乾燥及び粉砕されるため、セメント成分と現場発生土成分とが均一に混合され、所定元素含有量を精度よく測定できる。
【0013】
そして、測定された未固結試料の所定元素含有量と、現場発生土の所定元素含有量と、セメントミルクに用いられるセメントの所定元素含有量と、を用いて、ソイルセメントにおける土とセメントとの質量比を算出する。
【0014】
さらに、算出された質量比、現場発生土の土粒子密度、セメントの密度及びソイルセメントの含水比から、ソイルセメントの単位体積質量を算出する。
【0015】
このように、本態様のソイルセメントの単位体積質量推定方法では、計算によりソイルセメントの単位体積質量を推定することができる。このため、手作業の測定によるばらつきが少ない。
【0016】
請求項2のソイルセメントの単位体積質量推定方法は、請求項1に記載のソイルセメントの単位体積質量推定方法において、前記現場発生土の所定元素含有量は、乾燥した現場発生土を粉砕し、蛍光X線分析計を用いて測定される。
【0017】
請求項2のソイルセメントの単位体積質量推定方法では、現場発生土の所定元素含有量を乾燥及び粉砕して、蛍光X線分析計を用いて測定する。これにより、既往のデータに基づく現場発生土の所定元素含有量を用いる場合と比較して、現場発生土の所定元素含有量の精度が高い。
【0018】
請求項3のソイルセメントの単位体積質量推定方法は、請求項1に記載のソイルセメントの単位体積質量推定方法において、前記ソイルセメントは、杭孔の根固め部を形成する。
【0019】
請求項3のソイルセメントの単位体積質量推定方法では、杭孔の根固め部を形成するソイルセメントの単位体積質量を推定することができる。これにより、根固め部におけるセメントミルクと土との混ざり具合を把握したり、根固め部の強度を推定したりすることができる。
【0020】
なお、請求項3のソイルセメントの単位体積質量推定方法は、請求項1又は2に記載のソイルセメントの単位体積質量推定方法において、前記ソイルセメントは、杭孔の根固め部を形成するものとしてもよい。
【0021】
請求項4のソイルセメントの強度推定方法は、請求項1~3の何れか1項に記載のソイルセメントの単位体積質量推定方法によって算出されたソイルセメントの単位体積質量から、ソイルセメントにおけるセメントミルクの割合を算出し、前記ソイルセメントにおけるセメントミルクの割合と圧縮強度との相関データを用いて、ソイルセメントの圧縮強度を推定する。
【0022】
請求項4のソイルセメントの強度推定方法では、ソイルセメントにおけるセメントミルクの割合と圧縮強度との相関データから、ソイルセメントの圧縮強度を推定する。これにより、ソイルセメントが固結するまでの養生期間を確保せずに、ソイルセメントの強度を推定できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、ソイルセメントの単位体積質量を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(A)は本発明のソイルセメントの単位体積質量推定方法及びソイルセメントの強度推定方法が適用される既製杭を埋設するための杭孔を形成している状態を示す立断面図であり、(B)は杭孔に根固め部を形成している状態を示す立断面図であり、(C)は杭孔から掘削ロッドを引き上げている状態を示す立断面図であり、(D)は杭孔に既製杭を挿入した状態を示す立断面図である。
【
図2】ソイルセメントのセメントミルク置換率と圧縮強度との相関データを示すグラフである。
【
図3】乾燥状態のソイルセメントの成分を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係るソイルセメントの単位体積質量推定方法及びソイルセメントの強度推定方法について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。
【0026】
また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0027】
<杭の施工方法>
本発明の実施形態に係るソイルセメントの単位体積質量推定方法及びソイルセメントの強度推定方法は、一例として、杭の根固め部を形成するソイルセメントに用いられる。そこで、これらの方法の説明に先立ち、単位体積質量及び強度を推定する対象であるソイルセメントが用いられる杭の施工方法の概略について説明する。
【0028】
図1(A)~(D)には、既製杭10を埋込み工法で地盤Gへ埋設する方法の一例が示されている。
図1(D)に示す既製杭10は、コンクリート杭または鋼管杭であり、工場などにおいて製造された後、施工現場へ搬入される。
【0029】
既製杭10を地盤Gへ埋設するためには、まず、
図1(A)に示すように、掘削ロッド20を用いて掘削液を注入しながら地盤Gを掘削し、杭孔30を形成する。本実施形態においては、既製杭10を先端支持杭とするために、杭孔30の先端を支持層GAに到達させる場合について説明する。
【0030】
このとき、杭孔30の先端には、杭孔30の直径が拡径された部分である根固め球根32を形成することが好適である。根固め球根32を形成する場合、掘削ロッド20における掘削ヘッドを、
図1(A)に示すように、拡径できる構造とする。そして当該掘削ヘッドを所定の深度にて拡径することで、根固め球根32が形成される。
【0031】
なお、本発明においては根固め球根32を必ずしも形成する必要はない。根固め球根32を形成するか否かに関わらず、杭孔30の先端部分の掘削に際しては、掘削ロッド20から杭孔30の先端(底)へ、セメントミルクを注入する。このセメントミルクを攪拌することで、セメントミルクを地盤G中の土と混合させ、根固め部を形成する根固め液であるソイルセメント12を構築する。
【0032】
セメントミルクは、杭孔30の先端を掘削しながら注入してもよいし、杭孔30の先端掘削後、掘削ロッド20を引き上げながら注入してもよい。詳しくは後述するが、本発明は、根固め部のソイルセメント12を形成するためのセメントミルクの注入方法に関する。
【0033】
次に
図1(B)、(C)に示すように、掘削ロッド20を引き抜きながら、ソイルセメント12の上方にセメントミルクを注入及び攪拌する。これにより杭周固定液としてのソイルセメント14を形成する。ソイルセメント14は、ソイルセメント12と比較して、単位体積当たりのセメント量が少ない貧調合のセメントミルクを用いて形成してもよい。
【0034】
次に
図1(D)に示すように、杭孔30へ既製杭10を挿入する。このとき、既製杭10の先端を、杭孔30の先端の根固め球根32へ陥入する。これにより、既製杭10が地盤Gへ埋設される。なお、各図に示される杭孔30の孔径と既製杭10の杭径との比率は模式的なものである。実際には、一例として、杭孔30の孔径は既製杭10の杭径より概ね30mm程度大きいものとすることができる。
【0035】
<杭強度推定方法>
本発明の実施形態に係るソイルセメントの強度推定方法は、例えば既製杭10の根固め部であるソイルセメント12の固結後の強度を推定する方法である。
【0036】
ソイルセメント12の固結後の強度を推定する理由は、既製杭10の支持力がソイルセメント12の強度に影響を受けるからである。具体的には、ソイルセメント12は、既製杭10の先端部分と支持層GAとを一体化し、既製杭10に作用する押し込み力に抵抗する。このため、既製杭10の支持力を評価する際には、既製杭10そのものの強度だけではなく、ソイルセメント12の強度を推定することが好適である。
【0037】
また、ソイルセメント12の固結後の強度を「推定」するとは、ソイルセメント12の「固結前」において固結後の強度を評価することである。この場合、ソイルセメント12の固結後に、当該ソイルセメント12の強度を「測定」する場合と比較して、ソイルセメント12が固結するまでの養生期間を確保する必要がない。これにより、工期を短縮できる。
【0038】
なお、本実施形態において強度を推定するソイルセメントは、本設杭に用いられるものでなくてもよく、本設杭に用いられるものと略等しい成分のソイルセメントでよい。
【0039】
この場合、本設杭としての既製杭10が設けられる敷地と同じ敷地に仮設の杭孔を削孔し、セメントミルクを注入及び攪拌する。これにより、本設杭に用いられるソイルセメント12と略等しい成分のソイルセメントを形成できる。「略等しい」とは、例えばセメントと土との混合割合がほぼ等しいことを示す。
【0040】
また、本実施形態において強度を推定するソイルセメントは、必ずしも杭の根固め部に用いる必要はなく、杭の根固め部以外の部分に用いてもよい。さらに、ソイルセメントは、山留め壁(ソイルセメント壁)や地盤改良体(ソイルセメントの機械攪拌や高圧噴射攪拌によって形成されるもの)に用いてもよい。以下の説明においては、本設杭に用いられるソイルセメント12を含むソイルセメント全般の強度推定方法について説明する。
【0041】
(ソイルセメントの強度推定方法の概要)
ソイルセメントの強度は、単位体積のソイルセメントにおけるセメントミルクの体積の割合、すなわちセメントミルク置換率Vhが分かれば、セメントミルク置換率Vhと圧縮強度との相関データから、推定することができる。セメントミルク置換率Vhと圧縮強度(一軸圧縮強度qu[N/mm
2])との相関データは、例えば
図2に示されるように、既知の情報として得ることができる。なお、
図2に示した例は、セメントミルクの水セメント比が60%の場合を示している。
【0042】
図2においては、様々なセメントミルク置換率Vhを有する複数の試料において、一軸圧縮強度を測定した測定値がプロットされている。そして、
図2には、これらのプロット箇所を一次曲線で近似した近似線C1が示されている。試料のセメントミルク置換率Vhに対応する一軸圧縮強度は、近似線C1から1対1対応で導出される。
【0043】
(セメントのカルシウム濃度及び密度)
ソイルセメントに用いられるセメントのカルシウム濃度Ca(c)[ppm]及び密度ρc[g/cm
3]は、既知の情報である。このうち、C[g]のセメントにおけるカルシウム含有量Ccaは、
図3にも示すように、次の(1)式で算出される。なお、セメントのカルシウム濃度は、蛍光X線分析計を用いて測定してもよい。
【0044】
Cca=C×Ca(c) ・・・(1)
【0045】
(事前調査-試料採取)
ソイルセメントの強度を推定するためには、事前調査を実施する。事前調査の一例としては、まず、地盤(例えば
図1に示す地盤G)から現場発生土の試料を採集する。試料の採集は、地盤調査のためのボーリング試験と併せて実行することが好適である。この試料とは、例えば
図1に示す支持層GAを形成する現場発生土(以下、「土試料」と称す場合がある)である。
【0046】
(事前調査-現場発生土の測定)
次に、採集した土試料の質量を測定後、乾燥して、粉砕する。土試料の乾燥には、加熱乾燥式水分計や電子レンジ等、任意の機材を用いることができる。また、土試料の粉砕には、ミル等を用いることができる。そして、乾燥後の土試料の質量及び体積を測定する。
【0047】
これにより、土粒子(乾燥状態)の密度ρs[g/cm3]を把握することができる。
【0048】
(事前調査-現場発生土のカルシウム含有量の測定)
次に、蛍光X線分析計を用いて、乾燥及び粉砕した土試料(土粒子)におけるカルシウム濃度を測定する。
図4にも示すように、土粒子(乾燥状態)のカルシウム濃度が、Ca(s)[ppm]と測定された場合、S[g]の土粒子(乾燥状態)におけるカルシウム含有量Scaは、次の(2)式で算出される。
【0049】
Sca=S×Ca(s) ・・・(2)
【0050】
(ソイルセメントのカルシウム含有量の測定)
次に、例えば
図1に示す杭孔GHの内部においてセメントミルクと現場発生土とを混錬し、ソイルセメントを形成する。そして、未固結状態のソイルセメントを未固結試料として採取する。
【0051】
次に、採取した未固結試料の質量を測定後、乾燥して、粉砕する。未固結試料の乾燥には、土試料と同様に、加熱乾燥式水分計や電子レンジ等、任意の機材を用いることができる。また、未固結試料の粉砕には、ミル等を用いることができる。電子レンジ等による乾燥、粉砕及びカルシウム測定に要する時間は約1時間程度(このうち、加熱乾燥式水分計による乾燥は30分程度、電子レンジによる乾燥は15分程度)であり、一軸圧縮試験用の試験及び試験体の養生に要する時間(3~7日程度)と比較して十分に短い。
【0052】
次に、蛍光X線分析計を用いて、乾燥及び粉砕した未固結試料(つまり、乾燥状態のソイルセメント)におけるカルシウム濃度を測定する。このとき、未固結試料は乾燥及び粉砕されているため、セメント成分と現場発生土成分とが均一に混合され、カルシウム含有量を精度よく測定できる。
【0053】
図4に示すように、ソイルセメント(乾燥状態)のカルシウム濃度が、Ca(sc)[ppm]と測定された場合、このソイルセメント(乾燥状態)におけるカルシウム含有量Cca+Scaは、次の(3)式で示される。
【0054】
Cca+Sca=(C+S)×Ca(sc) ・・・(3)
【0055】
なお、粉砕前に乾燥した未固結試料の質量を測定する。乾燥前の未固結試料の質量、及び、乾燥後の未固結試料の質量から、ソイルセメント(乾燥前)の含水比Weが次の通り算出される。
【0056】
We=(乾燥前質量-乾燥後質量)/乾燥後質量
【0057】
(ソイルセメントにおけるセメントと土粒子(乾燥状態)の質量比)
【0058】
ソイルセメントにおけるカルシウム濃度Ca(sc)は、(1)、(2)、(3)式から、次の(4)式で示される。
【0059】
Ca(sc)=[C×Ca(c)+S×Ca(s)]/(C+S) ・・・(4)
【0060】
また、
図3に示すように、ソイルセメントにおけるセメントと土粒子(乾燥状態)の質量比C:Sを、1:αとすると、この係数α(以下、質量比αと称す)は、次の(5-1)式で示される。
【0061】
α=S/C ・・・(5-1)
【0062】
上記の通り測定されたCa(c)、Ca(s)、Ca(sc)を用いて、質量比αを示す(5-1)式は、次の(5-2)式のように変形できる。この(5-2)式により、質量比αが算出される。
【0063】
α=[Ca(c)-Ca(sc)]/[Ca(sc)-Ca(s)] ・・・(5-2)
【0064】
(ソイルセメントの単位体積質量)
ソイルセメントに含まれる水の質量をW[g]とすると、Wは含水比Weを用いて次の(6)式で示される。
【0065】
W=(C+S)・We ・・・(6)
【0066】
ソイルセメントに含まれるセメントの質量比Rcは、次の(7-1)式で示される。
【0067】
Rc=C/(S+C+W) ・・・(7-1)
【0068】
この(7-1)式は、(5-1)式、(6)式を用いることで、次の(7-2)式に変形される。この(7-2)式に、算出された含水比We及び質量比αを代入すれば、セメントの質量比Rcが算出される。
【0069】
Rc=[1/(1+We)]×[1/(α+1)] ・・・(7-2)
【0070】
同様に、ソイルセメントに含まれる土の質量比Rsは、次の(8-1)式で示される。
【0071】
Rs=S/(S+C+W) ・・・(8-1)
【0072】
この(8-1)式は、(5-1)式、(6)式を用いることで、次の(8-2)式に変形される。この(8-2)式に、算出された含水比We及び質量比αを代入すれば、土の質量比Rsが算出される。
【0073】
Rs=[1/(1+We)]×[α/(α+1)] ・・・(8-2)
【0074】
同様に、ソイルセメントに含まれる水の質量比Rwは、次の(9-1)式で示される。
【0075】
Rw=W/(S+C+W) ・・・(9-1)
【0076】
この(9-1)式は、(5-1)式、(6)式を用いることで、次の(9-2)式に変形される。この(9-2)式に、算出された含水比Weを代入すれば、水の質量比Rwが算出される。
【0077】
Rw=We/(1+We) ・・・(9-2)
【0078】
ここで、ソイルセメントの単位体積質量γsc[g/cm3]は、Rc、Rs、Rwを用いて、次の(10)式で示される。
【0079】
γsc=1/[(Rc/ρc)+(Rs/ρs)+(Rw)] ・・・(10)
【0080】
この(10)式に、セメントの密度ρc[g/cm3]、土粒子(乾燥状態)の密度ρs[g/cm3]、(7-2)式、(8-2)式及び(9-2)式で算出された値を代入することで、ソイルセメントの単位体積質量γsc[g/cm3]が算出される。
【0081】
(ソイルセメントにおけるセメントミルク置換率)
セメントミルク置換率Vhは、単位体積のソイルセメントにおけるセメントミルクの体積の割合である。そこで、ソイルセメントの単位体積質量γsc[g/cm
3]は、セメントミルク置換率Vh、セメントミルクの単位体積質量γc[g/cm
3]及び原地盤の土(例えば
図1では支持層GA)の単位体積質量γs[g/cm
3]を用いて、次の(11)式で示される。この(11)式に、(10)式で求められたγsc[g/cm
3]を代入することで、セメントミルク置換率Vhが算出される。
【0082】
γsc=γc×Vh+γs×(1-Vh)・・・(11)
【0083】
(ソイルセメントの強度推定)
次に、
図2に示すセメントミルク置換率Vhと圧縮強度との相関データから、ソイルセメントの強度(一軸圧縮強度)を推定する。具体的には、近似線C1において、算出されたセメントミルク置換率Vhに対応する一軸圧縮強度の値が、ソイルセメントの強度として推定される。これにより、ソイルセメントの未固結試料が固結した時の一軸圧縮強度が推定される。
【0084】
(作用及び効果)
本発明の実施形態に係るソイルセメントの単位体積質量推定方法では、測定された未固結試料の所定元素としてのカルシウム含有量Ca(sc)と、現場発生土のカルシウム含有量Ca(s)と、セメントミルクに用いられるセメントのカルシウム含有量Ca(c)と、を用いて、ソイルセメントにおける土とセメントとの質量比αを算出する[(5-2)式]。
【0085】
さらに、算出された質量比α、現場発生土の土粒子密度ρs、セメントの密度ρc及びソイルセメントの含水比Weから、ソイルセメントの単位体積質量γscを算出する[(7-2)式、(8-2)式、(9-2)式、(10)式]。
【0086】
このように、本態様のソイルセメントの単位体積質量推定方法では、計算によりソイルセメントの単位体積質量を推定することができる。このため、手作業の測定によるばらつきが少ない。また、ソイルセメントが固結するまでの養生期間を確保せずに強度を推定できる。
【0087】
強度を推定した結果、設計強度より小さい場合、杭孔GHにおけるソイルセメントが固結する前にセメントミルクを追加注入することで、ソイルセメントの強度を設計強度まで引き上げることができる。
【0088】
また、強度を推定したソイルセメントが、仮設杭を形成するソイルセメントの場合は、本設杭に注入するセメントミルクを富調合とすることで、本設杭におけるソイルセメントの強度を設計強度まで引き上げることができる。
【0089】
また、セメントミルクの注入率(セメントミルクの注入量/例えば根固め部の掘削量)を十分に大きくすることにより根固め部の強度を確保しつつ圧縮強度試験を省略する場合と比較して、根固め部に注入するセメントミルク量を少なくできる。これにより、材料費を低減できる。
【0090】
また、本発明の実施形態に係るソイルセメントの単位体積質量推定方法によれば、セメントミルク置換率Vhを、推定されたソイルセメントの単位体積質量γscを用いて容易に算出することができる。
【0091】
これに対して、セメントミルクにおける水セメント比、及び、土試料の含水比を用いてセメントミルク置換率Vhを算定することもできる(例えば特開2022-184338)が、本発明によれば、セメントミルクにおける水セメント比、及び、土試料の含水比に代えて、ソイルセメントの含水比Weを測定すればよいので、測定する対象が少ない。
【0092】
また、本発明の実施形態に係るソイルセメントの単位体積質量推定方法によれば、ソイルセメントの単位体積質量及びセメントミルク置換率を、現場で、短時間に、簡易的な方法で、精度よく推定することができる。
【0093】
これに対して、従来のコンクリートの配合推定方法としては、一例として、コンクリートを、110℃、600℃、1000℃などで加熱して、各種の水分量を求める方法がある。このような乾燥には時間がかかり、装置が大掛かりなものとなる。また、装置を現場に搬入することは容易ではない。
【0094】
また、従来のコンクリートの配合推定方法の別の一例として、コンクリートを酸で溶解・ろ過した溶液の酸化カルシウムを分析してセメント量を求め、残さから骨材量を求める方法がある。このような化学的な分析には、専門的な知識を要するため、作業できる人員が限られてしまう。また、酸によって貝殻などのカルシウム成分が溶けてセメント量を過大に評価する可能性があるため、海砂などに用いることが難しい。
【0095】
(その他の実施形態)
上記実施形態においては、ソイルセメントの強度を推定するために、ソイルセメントの単位体積質量を推定しているが、推定されたソイルセメントの単位体積質量は、他の用途で利用することもできる。
【0096】
例えば推定されたソイルセメントの単位体積質量は、ソイルセメントの機械攪拌や高圧噴射攪拌によって形成される地盤改良体の攪拌混合性を把握するために用いることもできる。攪拌混合性が悪い場合、複数本の未固結試料において、推定された単位体積質量にバラつきが生じやすい。また、理論値の単位体積質量と推定された単位体積質量との乖離が大きくなる。
【0097】
また、上記実施形態においては、ソイルセメントの単位体積質量からセメントミルク置換率を算出した後、ソイルセメントの強度を推定しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えばセメントミルク置換率を算出した後、必ずしもソイルセメントの強度を推定しなくてもよい。
【0098】
例えば、
図1に示す根固め部を形成するソイルセメント12は、根固め部の体積に対して、所定の体積割合でセメントミルクを注入して施工される。そして、未固結状態のソイルセメントを未固結試料として採取して、上記の工程に従ってセメントミルク置換率を算出する。これにより、セメントミルクが根固め部に所定の体積割合で注入されているか否かを確認することができる。
【0099】
また、上記実施形態においては、所定元素としてカルシウムを用いているが、本発明の実施形態はこれに限らない。現場発生土及びセメントミルクに含まれる元素であって、蛍光X線分析計を用いて濃度を測定できるものであれば、他の元素を用いてもよい。このように、本発明は様々な態様で実施できる。
【符号の説明】
【0100】
12 ソイルセメント