(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176973
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】水電解方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/04 20210101AFI20241212BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241212BHJP
C25B 15/02 20210101ALI20241212BHJP
C25B 11/089 20210101ALI20241212BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20241212BHJP
C25B 11/061 20210101ALN20241212BHJP
【FI】
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B15/02
C25B11/089
C25B11/077
C25B11/061
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095891
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 治通
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA10
4K011AA22
4K011AA29
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021BA17
4K021BB03
4K021CA06
4K021DB18
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】単一のニッケル水素電池を用いた水電解方法であって、エネルギー変換効率の高い水電解方法を提供する。
【解決手段】本開示に係る水電解方法は、電源と、OH
-イオンが移動できる電解液と、電源に接続される正極と電源に接続される負極とを有し電解液に浸漬される単一のニッケル水素電池と、を用いて、電源により、正極の電位が負極の電位より高くなる電位差を印加して、正極から酸素ガスを、負極から水素ガスを発生させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と、
OH-イオンが移動できる電解液と、
前記電源に接続される正極と、前記電源に接続される負極とを有し、前記電解液に浸漬される単一のニッケル水素電池と、を用いて、
前記電源により、前記正極の電位が前記負極の電位より高くなる電位差を印加して、前記正極から酸素ガスを、前記負極から水素ガスを発生させる、
水電解方法。
【請求項2】
前記負極は、ミッシュメタルを含む、
請求項1に記載の水電解方法。
【請求項3】
前記負極は、Ni2O3Hを含む被膜を有し、
前記正極と前記負極が所定の第1の電位差となるように電圧を印加して水素ガスのみを発生させる、又は、前記正極と前記負極が所定の第2の電位差となるように電圧を印加して酸素ガスのみを発生させる、
請求項1又は請求項2に記載の水電解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、単一のニッケル水素電池を用いた水電解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池自動車や、発電用のエネルギーとして水素(H2)ガスの需要が高まっており、H2ガスの製造方法の研究も進められている。なお、H2ガスを製造する方法としては、例えば水(H2O)を水電解反応によって水素(H2)ガスと酸素(O2)ガスに分けて回収する方法が挙げられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、負極に白金(Pt)、正極に水酸化ニッケル(Ni(OH)2)を用いた水電解セルであって、正極に酸素を吸蔵及び放出させ、負極での水素発生時には酸素を放出させない技術が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1では負極に電位窓の広い白金(Pt)を用いている。すなわち電気化学反応時の負極の上下限電位を大きく変動させることができる(上下限電位について考慮しなくてもよい)。そのため、対となる正極も大きく電位変動できることとなる。正極に用いられている水酸化ニッケル(Ni(OH)2)は、Niの価数変動が2価と3価との間であれば可逆的に反応が継続するが、電位変動を大きくして例えば2価と4価との間での価数変動としたときには、正極が不可逆的に劣化(酸化被膜が正極上に形成)し、水電解によるガス発生の効率が低下することがある。
【0005】
ここで、電動車やハイブリッド車に搭載される電池として、ニッケル水素電池がすでに普及しているが、今後、使用済みのニッケル水素電池の発生量が見込まれる。そのため、使用済のニッケル水素電池を可能な限りリユースに近い形で水電解セルとして使用できることが望まれる。しかし、ニッケル水素電池では、負極がNiベース、正極がNi(OH)2ベースとなる。負極のNiは、上記特許文献1の負極よりも電位窓が狭いため、水電解時には上下限電位を制限した使い方とする必要がある。上記特許文献1では負極に電位窓の広いPtを用いているため、正負極ともに劣化を考慮した電位のかけ方は着目されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、このような従来の要求を踏まえ、単一のニッケル水素電池を用いた水電解方法であって、エネルギー変換効率の高い水電解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の手段が含まれる。
<1> 電源と、
OH-イオンが移動できる電解液と、
前記電源に接続される正極と、前記電源に接続される負極とを有し、前記電解液に浸漬される単一のニッケル水素電池と、を用いて、
前記電源により、前記正極の電位が前記負極の電位より高くなる電位差を印加して、前記正極から酸素ガスを、前記負極から水素ガスを発生させる、水電解方法。
<2> 前記負極は、ミッシュメタルを含む、<1>に記載の方法。
<3> 前記負極は、Ni2O3Hを含む膜を有し、
前記正極と前記負極が所定の第1の電位差となるように電圧を印加して水素ガスのみを発生させる、又は、前記正極と前記負極が所定の第2の電位差となるように電圧を印加して酸素ガスのみを発生させる、<1>又は<2>に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、少なくとも1つのニッケル水素電池を用いた水電解方法であって、エネルギー変換効率の高い水電解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態における水電解方法を実施する装置の概略斜視図である。
【
図2】本開示の別の実施形態における水電解方法を実施する装置の概略斜視図である。
【
図3】
図2に示す水電解装置における、単一の電池モジュールが有する複数の正極と複数の負極とを電源に接続する構成を例示する概略図である。
【
図6】ニッケル水素電池の構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示における水電解方法について、図面を用いて詳細に説明する。以下に示す各図は、模式的に示したものであり、各部の大きさ、形状は、理解を容易にするために、適宜誇張している。
【0012】
本開示において、「単一のニッケル水素電池」とは、単一の電池セルであってもよく、又は、複数の電池セルを有する単一の電池モジュールであってもよい。「単一の電池セル」とは、それ単体が単一、単独で電池として機能する最小構成単位の電池をいう。「単一の電池モジュール」とは、複数のセルを組み合わせて単一、単独で電池として機能する電池をいう。
【0013】
[水電解方法]
本開示に係る水電解方法では、電源と、電解液と、単一のニッケル水素電池とを用いる。前記ニッケル水素電池は、前記電源に接続される正極と、前記電源に接続される負極とを有し、前記電解液に浸漬される。そして、前記電源により、前記正極の電位が前記負極の電位より高くなる電位差(電圧)を印加して、前記負極から水素ガス(H2)を、前記正極から酸素(O2)ガスを発生させる。
【0014】
[電池セル]
本開示に係る水電解方法の一実施形態について、単一のニッケル水素電池として「電池セル」を用いた場合を、
図1に例示された装置を参照して説明する。
図1は、本開示の水電解方法を実施する水電解装置を例示する概略斜視図である。
図1に示すように、水電解装置20Aは、電源3、電子負荷の一例である抵抗器30、電解液40が収容された筐体4、筐体4中において電解液40に浸漬された電池セル100A及び蒸留装置5を備える。電源3及び抵抗器30により電圧の上昇及び下降の調整が行われ、求められる電圧での保持を行うことができる。なお、電子負荷の機能が内蔵された電源を用いてもよい。電池セル100Aは正極及び負極を有し、この正極は電源3及び抵抗器30に接続される。更に、この負極は電源3及び抵抗器30に接続される。電池セル100Aは水の供給口を有し、この供給口に水供給ポンプ6を備えた水供給管(不図示)が接続されており、水供給ポンプ6が駆動して水(H
2O)が供給される。また、電池セル100Aは水の排出口を有し、この排出口に水排出管(不図示)が接続されており、電池セル100A内における余剰の水が排出口から排出される。電池セル100Aは酸素(O
2)ガスの排出通路101を有し、排出通路101は蒸留装置5に接続される。更に、電池セル100Aは排出通路101から分岐した水素(H
2)ガスの排出通路102を有する。蒸留装置5中には電解液が収容されており、蒸留装置5中の電解液と筐体4中の電解液40とが送液ポンプ7を備えた流通配管(不図示)を通じて循環されるようになっている。蒸留装置5は、水蒸気(H
2O)の排出口8を有する。
図1において、排出通路102には、ガス流量計(不図示)、ガスパック(不図示)、逆火防止弁(不図示)等が、必要に応じて取り付けられてもよい。
上記では、電子負荷として抵抗器を用いた例を示したが、抵抗器以外に例えば可変抵抗器を用いてもよい。
【0015】
水電解装置20Aは、電池セル100Aとして、ニッケル水素電池セルを用いている。このニッケル水素電池セルは、使用済みのニッケル水素電池セルであってよい。
なお、使用済みとは、充電容量が製造直後の電池より低下していることをさす。
【0016】
水電解装置20Aでは、電源3及び抵抗器30により、例えば、電池セル100Aにおける正極の電位が負極の電位より高くなるよう電圧を印加する。これにより、電池セル100Aに供給された水(H2O)において水電解反応が生じ、電池セル100Aの正極からO2ガスが発生し、負極からH2ガスが発生する。水電解反応を下記に示す。
(正極)OH-→1/2H2O+1/4O2+e-
(負極)H2O+e-→1/2H2+OH-
【0017】
電池セル100Aの正極からO2ガスを、負極からH2ガスを発生させた場合は、ガスを酸水素(HHO)ガス(水素と酸素の混合気体)として取り出すことができる。電池セル100Aに供給された水(H2O)において水電解反応を効率的に生じさせる観点では、正極と負極との電位差を1.48V以上に保持することが好ましい。水電解反応をより進行しやすくする観点では、電池セル100Aにおける正極の電位から負極の電位を減算した電位差としては、1.48V以上2.00V以下の範囲がより好ましく、効率の観点から1.55V以上1.80V以下の範囲がさらに好ましい。発生した酸水素(HHO)ガスを取り出す場合は、流路切換弁等(不図示)を用いて、発生したガスが排出通路102を通過するようにしてもよい。
【0018】
また、電池セル100Aの正極の電位と負極の電位との電位差が所定の電位差となるように電圧を印加して、水素ガスのみを発生させてもよい、又は、酸素ガスのみを発生させてもよい。この場合、水素ガスと酸素ガスを分離するための後工程が不要となる。
【0019】
上記所定の電位差は、電極の種類(組合せ)、電解液のpH及び温度、その他条件により変わるため、ここでは、電池セル100Aの正極がNi(OH)
2であり、負極がLaNi5であり、電解液のpHが15、温度が30℃の場合を例として説明する。なお、所定の電位差は、水素のみを発生させる電位差を第1の電位差、酸素のみを発生させる電位差を第2の電位差ということもある。
酸素を発生させる場合、酸素を発生させる電位は1.48V以上、好ましくは1.8Vである。
水素を発生させる場合、水素を発生させる電位は-0.9V以下、好ましくは-1.0Vである。
上記電位に基づいて、水素のみを発生させるように両電極に電圧を印加する。又は、酸素のみを発生させるように(水素発生時とは反対の方向に電流が流れるように)印加する電圧の正負を逆にして、両電極に電圧を印加する。
このように、充放電を繰り返して印加することにより、水素ガスと酸素ガスを時間的に分離して発生させることができる。電圧を印加するサイクルは、充放電を1サイクルとすると、少なくとも1回であればよく、特に限定されない。5回、10回、15回、20回であってもよく、100回であってもよい。ニッケル水素電池における充放電時の電気化学反応を下記に示す。
充電→/←放電
(正極)Ni(OH)
2+OH
-←→NiOOH+H
2O+e
-
(負極)M+H
2O+e
-←→MH+OH
-
(全体)Ni(OH)
2+M←→NiOOH+MH
更に、電圧を印加する時間は、電池の正極容量により適宜決定すればよい。例えば、電池の正極容量20%~80%充放電として、30Accにて72秒/Ah:電池の正極容量40%~60%充放電として、30Accにて24秒/Ahであってもよい。
以下に、電解液のpHが15、温度が-30℃~80℃での酸素発生電位(表1)及び水素発生電位(表2)を示す。各温度における第1の電位差及び第2の電位差は、表1及び表2に示す電位を参考に適宜決定すればよい。
【表1】
【表2】
【0020】
H
2ガスのみを取り出す場合は、H
2ガスの発生時に
図1に示す排出通路102を開、排出通路101を閉としてもよい。O
2ガス発生時には、O
2ガスは排出通路101を通じて蒸留装置5に送られ、蒸留装置5にて還元されて水蒸気(H
2O)として排出口8から取り出されてもよい。
【0021】
本開示によれば、正極と負極の電位差が上記所定の電位差となるように電圧を印加することにより、正極及び負極が劣化しない態様で酸素ガス及び水素ガスを発生させることができ、水電解装置の耐久性向上につながる。
【0022】
次いで、別の実施形態について説明する。
【0023】
[電池モジュール]
本開示に係る水電解方法の別の一実施形態について、単一のニッケル水素電池として「電池モジュール」を用いた場合を、
図2に例示された装置を参照して説明する。なお、
図1に示す装置と同じ構成については、同じ符号を付し、重複した説明は省略する。
図2は、本開示の水電解方法を実施する水電解装置を例示する概略斜視図である。
図2に示すように、水電解装置20Bは、電源3、抵抗器30、電解液40が収容された筐体4、筐体4中において電解液40に浸漬される電池モジュール100B及び蒸留装置5を備える。水電解装置20Bでは、電池モジュール100Bとして複数のニッケル水素電池セル(
図2では6連対のニッケル水素電池モジュール)を用いている。電池モジュール100Bにおける6つのニッケル水素電池セルはそれぞれ正極及び負極を有し、この正極はいずれも電源3及び抵抗器30に接続される。更に、この負極はいずれも電源3及び抵抗器30に接続される。電池モジュール100Bは水の供給口を有し、この供給口に水供給ポンプ6を備えた水供給管(不図示)が接続されており、水供給ポンプ6の駆動により水(H
2O)が供給される。電池モジュール100Bは酸素(O
2)ガスの排出通路101を有し、排出通路101は蒸留装置5に接続される。更に、電池モジュール100Bは排出通路101とは別の水素(H
2)ガスの排出通路102を有する。
【0024】
ここで、
図2に示す水電解装置20Bにおいて、電池モジュール100Bが有する複数(
図2では6連対)のニッケル水素電池セルと電源3との接続の構成例を
図3に示す。なお、
図3では電池モジュール100B、及び電源3以外の構成は省略されており、電子負荷の記載も省略されている。
図3に示すように、電池モジュール100Bが有する複数のニッケル水素電池セルにそれぞれ含まれる正極と負極は、いずれも電源3と接続(短絡接続)されている。例えば、電源3を、電池モジュール100Bが有する正極端子及び負極端子にそれぞれ接続してもよい。
【0025】
水電解装置20Bにおいて、電池モジュール100Bに用いるニッケル水素電池モジュールは、使用済みのニッケル水素電池モジュールであってよい。また、水電解装置20Bでは、印加する電圧は、水電解装置20Aの電圧×セル数であってもよい。
【0026】
(好ましい態様)
[電解液]
ニッケル水素電池が浸漬される電解液は、水電解反応を効率的に生じさせる観点から、pH14以上であることが好ましく、pH15以上であることがより好ましく、さらにpH16以上であることがさらに好ましい。pHは、pHメータを用いて25℃で測定される値である。
【0027】
電解液としては、特に限定されないが、水系電解液であることが好ましい。水系電解液としては、例えば、アルカリ水溶液等を好適に用いることができる。アルカリ水溶液は、例えば、水と、水に溶解したアルカリ金属水酸化物と、を含む。アルカリ金属水酸化物は、例えば、1mоl/L~45mоl/Lの濃度を有していてもよい。アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)などが挙げられる。
【0028】
[温度]
水電解装置の全体の温度は、水電解反応の生じ易さの観点から、80℃を上限として高い方が好ましく、例えば20℃以上80℃以下であることが好ましく、40℃以上80℃以下であることがより好ましく、50℃以上80℃以下であることがさらに好ましい。水電解装置の全体の温度の測定は、電解液の温度を測定することで、行われる。
【0029】
[Ni2O3H被膜]
本願の背景技術では、Niの価数変動は、2価と3価との間では可逆的に反応が継続するが、電位変動を大きくして2価と4価との間で価数変動したときは、正極上に酸化被膜(Ni2O3H被膜)が形成され、ガス発生の効率に悪影響を及ぼすことが開示されている。しかし、本開示では、負極のNiにおいて、敢えて2価と4価との間で価数変動させて、負極の表面にNi2O3H被膜を形成させてもよい。
ニッケル水素電池は、負極がミッシュメタルを含む水素吸蔵合金を有する。水素吸蔵合金は、水素を吸蔵し又は可逆的に水素を放出する特徴を有する。よって、水電解において、水素吸蔵合金による、負極側に発生した水素の吸蔵を防止するために、負極表面にNi2O3H被膜を形成してもよい。Ni2O3H被膜は、Ni2O3Hを主成分(最も質量が多い成分)として含み、耐食性及び導電性を有する膜である。被膜の厚みは、特に限定されないが、例えば、100~200nmである。Ni2O3H被膜の詳細は、特開2022-45695号公報を参照することができる。
【0030】
[被膜形成方法]
被膜形成方法では、被膜を形成させる材料(例えばLaNi5)を大気中に暴露する。
次に被膜を形成させる材料(例えばLaNi5)を酸性溶液中(pH7以下)に浸漬した状態で、LaNi5に対して、第1電位(上側電位)及び第2電位(下側電位)を交互に繰り返し印加することにより、Ni2O3H被膜をLaNi5の表面に形成させる。
第1電位は、Ni-H2O系でNiが4価となる電位範囲内である。
第2電位は、Ni-H2O系でNiが2価となる電位範囲内である。
【0031】
第1電位(上側電位)及び第2電位(下側電位)は、溶液の温度及びpHにより異なる。
図4は、80℃におけるNi(Ni-H
2O系)の電位-pH図(水中におけるNiの各化学種の存在領域を電極電位とpHの2次元座標上に示す図)である。
図4を参照して、アルカリ溶液の場合を説明する。なお、酸性溶液の場合も同様である。例えば、80℃で8MのKOH水溶液(pH14.9)を用いる場合において、第1電位(Niが4価となる電位)は、約0.48V(SHE基準電位))より高い電位である。第2電位(Niが2価となる電位)は、約0.27V(SHE基準電位)以下の範囲内の電位である。
【0032】
第1電位は、好ましくは約0.48V以上であり、この範囲で、低すぎると形成速度が遅くなり、第2電位との組み合わせにおいて高すぎると形成効率が悪くなるため、第1電位は適宜設定されることが好ましい。
【0033】
第2電位は好ましくは約0.27V以下であり、この範囲で、高すぎると形成速度が遅くなり、低すぎると、Ni2O3HのLaNi5に対する比率が小さくなるので、適宜設定されることが好ましい。
【0034】
図5は、50℃におけるNiの電位-pH図である。
図5に示されるように、例えば、50℃で8MのKOH水溶液を用いた場合においては、第1電位は、約0.57Vより高い電位である。第2電位は、約0.37V以下の電位である。
【0035】
図4及び
図5に示されるように、溶液のpH、温度などの変化によって、被膜形成方法に用いられる第1電位及び第2電位の範囲は変化する。したがって、溶液のpH、温度等に応じて、上記の条件を満たす第1電位及び第2電位の適切な範囲で電位を印加することが望ましい。溶液の温度は、好ましくは40~90℃であり、より好ましくは45~85℃である。アルカリ溶液の場合pHは、好ましくは10以上であり、より好ましくは12以上であり、さらに好ましくは14以上である。
【0036】
アルカリ溶液の具体例としては、KOH溶液、NaOH溶液、LiOH溶液などが挙げられ、好ましくはKOH溶液、NaOH溶液である。アルカリ溶液の濃度は、前述のp Hとなる濃度であることが好ましい。
【0037】
第1電圧、及び、第2電圧のそれぞれの1回の印加時間は、例えば、第1電圧が5秒間、第2電圧が10秒間であり、溶液条件(溶液種、pH,温度)毎に適宜設定される。第1電圧及び第2電圧の合計の印加時間は、所望するNi2O3H被膜の厚みが得られるように適宜設定される。
【0038】
[ニッケル水素電池]
ここで、本開示の水電解方法に用いることができる、ニッケル水素電池について説明する。
なお、ニッケル水素電池(以下、「電池」と略記する場合がある)は、例えば、携帯機器用電池、車載用電池、再生可能エネルギー発電の電池などに使用した、使用済みのニッケル水素電池であってよい。
【0039】
図6は、ニッケル水素電池セルの構成の一例を示す概略構成図である。
電池セル1は、ニッケル水素電池セルである。電池セル1は、筐体2を含む。筐体2は、円筒形のケースである。筐体2は、金属製である。ただし、筐体2は、任意の形態を有し得る。筐体2は、例えば、角形のケースであってもよい。筐体2は、例えば、アルミラミネートフィルム製のパウチ等であってもよい。筐体2は、例えば、樹脂製であってもよい。
【0040】
筐体2は、蓄電要素10と電解液とを収納している。蓄電要素10は、正極11、負極12、及びセパレータ13を含む。図示される蓄電要素10は、巻回型である。蓄電要素10は、帯状の電極が渦巻状に巻回されることにより形成されている。蓄電要素10は、例えば、積層型であってもよい。蓄電要素10は、例えば、枚葉状の電極が積層されることにより形成されていてもよい。
【0041】
[負極]
負極12は、シート状である。負極12は、例えば、10μm~1mmの厚さを有していてもよい。負極12は、正極11に比して低い電位を有する。
【0042】
負極は、例えば負極集電体及び負極活物質を含む。負極集電体は、例えばニッケルメッシュ等が挙げられる。負極活物質は、例えば水素吸蔵合金が挙げられる。水素吸蔵合金は、水素の吸蔵及び放出が可能である限り、その組成は限定されるものではない。水素吸蔵合金としては、例えばMm-Ni-Mn-Al-Co系合金が挙げられる。「Mm」は、ミッシュメタルと称される希土類元素の混合物を示す。具体的には、LaNi5などのLa-Ni系合金などが挙げられる。
【0043】
[正極]
正極11は、シート状である。正極11は、例えば、10μm~1mmの厚さを有していてもよい。正極11は、負極12に比して高い電位を有する。正極11は、正極活物質を含む。正極活物質は、任意の成分を含み得る。正極活物質としては、例えば、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)、水酸化コバルト(Co(OH)2)、二酸化マンガン、酸化銀などが挙げられる。正極活物質は、好ましくは水酸化ニッケルである。
【0044】
正極11は、実質的に正極活物質のみからなっていてもよい。正極11は、正極活物質に加えて、集電材、導電材及びバインダ等をさらに含んでいてもよい。集電材は、例えば、多孔質金属シート等を含んでいてもよい。集電材は、例えば、Ni製である。
【0045】
例えば、集電材に、正極活物質、導電材及びバインダが塗着されることにより、正極11が形成され得る。導電材は、電子伝導性を有する。導電材は、任意の成分を含み得る。導電材は、例えば、カーボンブラック、Co、酸化コバルト等を含んでいてもよい。導電材の配合量は、100質量部の正極活物質に対して、例えば0.1質量部~10質量部であってもよい。バインダは、集電材と正極活物質とを結合する。バインダは、任意の成分を含み得る。バインダは、例えば、エチレン酢酸ビニル(EVA)等を含んでいてもよい。バインダの配合量は、100質量部の正極活物質に対して、例えば0.1質量部~10質量部であってもよい。
【0046】
[セパレータ]
セパレータ13は、シート状である。セパレータ13は、正極11と負極12との間に配置されている。セパレータ13は、正極11と負極12とを物理的に分離している。セパレータ13は、例えば、50μm~500μmの厚さを有していてもよい。セパレータ13は、多孔質である。セパレータ13は、例えば、延伸多孔膜、不織布等を含んでいてもよい。セパレータ13は、電気絶縁性である。セパレータは、例えば、ポリオレフィン製、ポリアミド製等であってもよい。
【0047】
[電解液]
電解液は、特に限定されないが、水系電解液であることが好ましい。水系電解液としては、例えば、アルカリ水溶液等を好適に用いることができる。アルカリ水溶液は、例えば、水と、水に溶解したアルカリ金属水酸化物と、を含む。アルカリ金属水酸化物は、例えば、1mоl/L~20mоl/Lの濃度を有していてもよい。アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)などが挙げられる。
【0048】
上記のとおり、本開示に係る水電解方法によれば、使用済みのニッケル水素電池を再利用して、高効率で、純度の高いH2ガス及びO2ガスを安全に取り出すことができる。更に、O2ガスが発生するときと、H2ガスが発生するときとを時間的に分離することができるため、純度の高いH2ガス及びO2ガスを別々に安全に取り出すことができる。
更に、本開示によれば、負極がランタンなどの酸素吸蔵性の物質を含む場合、正極が劣化しない電位差で負極のみを酸化させることができる(負極のランタンを失活させることができる)。すなわち、負極のみにNi2O3H被膜を形成することができる。その上で、その後の水電解でランタンを含む電極から水素を発生させることができる。
【実施例0049】
ここで、本開示の実施形態に係る水電解方法における水素ガス及び酸素ガスの発生を実験により確認した。
【0050】
[実施例1]
図2に示す水電解装置20Bと同じ構成の水電解装置を用いて実験を行った。電解液、電池モジュールとして、以下のものを用いた。
電解液:水酸化カリウム(KOHaq、pH15)
電池モジュール:使用済みのバッテリーモジュール NP2、プライムアースEVエナジー株式会社製
【0051】
水電解装置は、
図2に示す水電解装置20Bと同じく、1個の電源を有し、且つ電池モジュール(NP2)が6個の電池セルを有する。NP2は上部蓋板を外し、各電池セルを開口した状態で用いた。NP2の正極端子及び負極端子は、いずれも電源と接続された。なお、正極端子及び負極端子は、電源の他に電子負荷としての抵抗器にも接続された。
【0052】
この水電解装置において、常温(20℃)にて、NP2に対し水供給ポンプから水(H2O)を供給し、電源及び抵抗器によりNP2における正極の電位が負極の電位より高くなるよう電圧を保持した。
電圧の保持開始後、酸素(O2)ガスが及び水素(H2)ガスが排出されたことを確認した。
【0053】
使用済みのNP2を用いて水電解を行ったところ、常温(20℃)での測定にも関わらず、表3のとおり、極めて高いエネルギー変換効率(68.0%)が示された。
【表3】
【0054】
上記のとおり、電池モジュールを用いて、特に使用済みの電池モジュールを用いて水電解反応により高効率で水素(H2)ガスを回収することができる。このように、本開示による水電解方法は、優れた効果を奏することができるとともに、サーキュラーエコノミー(循環型経済)社会への移行に貢献することができる。
さらに、本開示による水電解方法では、所定の電位差となるように電圧を印加することで、単一の電池モジュールから、水素(H2)ガスと酸素(O2)ガスを別々に回収できるため、水素ガスを分離する後工程が不要となる。さらに、当該所定の電位差を用いると、正負極が劣化しない電位差で水素(H2)ガスと酸素(O2)ガスを発生させることができ、水電解セルの耐久性を向上させることができる。