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特開2024-176998アイススケート用ブレードの製造方法及びその製品
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  • 特開-アイススケート用ブレードの製造方法及びその製品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176998
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】アイススケート用ブレードの製造方法及びその製品
(51)【国際特許分類】
   A63C 1/30 20060101AFI20241212BHJP
   B23P 15/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A63C1/30
B23P15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023107541
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】523242871
【氏名又は名称】フォージテックカワベ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】曽田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】小池 翼
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来の金属製アイススケート用ブレードは台座と刃をロウ付けや溶接またはカシメ技術等で接合・製造されている為、形状品質や接合部の強度にバラツキが大きく競技者の身体的・精神的負担が大きかった。また圧延鋼材から総切削して一体型ブレードを製作する工法も発表されたが、圧延した角材から直接切削する為に素材重量に対する製品重量の歩留が2~3%と低く、非常に高価な製品になっていた。
【解決手段】金属ブレード用の素材を選択し適当な単重に切断した後、
1.冷間または熱間鍛造し粗形状を成形する
2.製品の要求特性及び切削加工用に最適な硬さ・組織に揃える為の調質熱処理を実施する
3.この鍛造・熱処理した素材表面の酸化物等をショットブラストにて除去する
4.切削加工にて最終形状を得る
5.更に防食性及び耐摩耗性を与える為の表面処理を施す
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイススケート用ブレードの製造方法であって、鍛造工法と切削加工工法とを組み合わせる事で、スケート靴とブレードをビス留めする為の台座部と接氷部である金属製の刃部が一体物として成形・構成される、一体型金属製アイススケート用ブレードの製造方法
【請求項2】
請求項1に記載されている鍛造工法と切削加工とを組み合わせた、台座部と刃部間に繋ぎ目のない均一な金属組織をもつ、一体型の金属製アイススケート用ブレード
【請求項3】
請求項1の一体型ブレードの製造方法のうち、鍛造時に台座部から刃部に連続的に鍛流線が形成されることで耐衝撃値や疲労強度を向上させるように工法設計された金属製アイススケート用ブレードの製造方法
【請求項4】
請求項3に記載されている台座部から刃部にかけて、連続的に鍛流線が形成された一体型の金属製アイススケート用ブレード
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアイススケート靴(写真1)に装着される金属製ブレードの範疇にあり高強度かつ安価なブレードの製造方法及び製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製アイススケート用ブレード(写真2)は、圧延された薄板鋼材から、スケート靴に装着する為の台座2枚(踵部1枚と爪先部1枚)と滑走の為の刃部1枚の計3枚を別々に打抜き、仕上げ加工した後に、図1のように、T字形状にロウ付けや溶接またはカシメ等で接合して製造されているものが一般的である。
また昨今は、上級競技者向けのスケートブレードとして圧延鋼材から総切削する工法も発表されたが、圧延した角材から直接切削する為に素材重量に対する製品重量の歩留が2~3%と低く、非常に高価な製品になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US20090206562 A1
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】山一ハガネ製「YS BLADES」に関するURL https://yamaichi-hagane.jp/ysblades/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のロウ付けや溶接またはカシメ技術等で接合・製造したブレードでは、熟練の職人が作業しても、不可避的に製品毎の僅かな誤差が生じてしまう。従って同じメーカーの同じ型式の製品でも形状品質にバラツキが存在する事が避けられなかった。その為スケート競技者は、ブレードを交換する度に発生する形状品質のバラツキに、競技者自身の感覚を合わせ慣れさせなければならなかった。
またロウ付けまたは溶接またはカシメ技術等で接合させてつくられたブレードでは接合部の強度にバラツキが大きく、例えばフィギュアスケートのジャンプなどの大きな衝撃に接合部が耐えきれず曲がったり破断したりするケースもあった。これでは競技者生命にかかわる重大な事故につながりかねず、安全安心なブレードが渇望されていた。
そこで圧延した薄板をロウ付や溶接等で接合させるのではなく、[特許文献1]に示すように圧延薄板である刃部素材において台座への接合箇所を延長し、延長部分を左右に直角に折り曲げ、折り曲げた部位を直接台座にビス留めする方法が提示されている。但し、本工法では、そもそも台座部と刃部の連結断面積が半分になってしまうので、結局は溶接工法と同等程度の曲げ強度しか期待できない。
また[非特許文献1]のように、ブレード素材である金属の圧延鋼材から直接切削加工してブレードを切出していくという技術が発表された。確かにこの方法により品質バラツキのない安全安心なブレードを得る事が可能となった。ただこの方法では、例えば鉄系素材としたならば10kgを超える角型鋼材から300g前後のブレード製品を切出す事が必要なため97%~98%の廃却切屑が発生する事になり、非常に高価な製品となってしまっていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述の実情に鑑みて提案されるものであって、形状品質が安定した安全安心なアイススケート用金属ブレードを以下の工法(図2)によって安価に提供するものである。
先ず、金属ブレード用の素材を選択し適当な単重に切断した後、
▲1▼冷間または熱間鍛造し粗形状を成形する
▲2▼製品の要求特性及び切削加工用に最適な硬さ・組織に揃える為の調質熱処理を実施する
▲3▼この鍛造・熱処理した素材表面の酸化物等をショットブラストにて除去する
▲4▼切削加工にて最終形状を得る
▲5▼更に防食性及び耐摩耗性を与える為の表面処理を施す
【発明の効果】
【0007】
本発明により、台座と刃をロウ付けや溶接またはカシメ技術等で接合する事なく一体物として成形・構成されるアイススケート用金属製ブレードが製造できる。これによりスケート競技者はブレードを交換する度に発生する形状品質のバラツキに悩まされることなく、またジャンプなどの大きな衝撃を伴う試技にも、台座と刃の接合部が曲がったり破断する不安がなくなり、安心安全に競技に集中する事が可能となる。
かつ鍛造工法と切削加工とを組み合わせた一体型の金属製アイススケートは、ブレード素材である金属鋼塊から直接切削加工してブレードを切出していくという工法に比較して製品歩留が優れ、より安価に競技者に提供できるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ステートブレードの概要図
図2】本発明の製造工程のフローチャート
図3】鍛造工程図と鍛造方法による鍛流線方向 (A)圧延方向に沿ってT字素材を成形した場合 (B)圧延方向に直交するようにT字素材を成形した場合
図4】フィギュアアイススケート靴:靴とブレードが接合された状態
図5】同ブレード:台座と刃がT字形状に接合されている状態
【発明を実施するための形態】
【0009】
アイススケート用ブレードに適する金属材料としては、鉄系金属ならば炭素鋼、ばね鋼、窒化用鋼、浸炭用鋼、工具鋼、マルエージング鋼、ステンレス鋼等の特殊鋼が考えられる。また耐食耐摩耗性能を有するNi基合金、Co基合金やTi合金、更にAl合金、Mg合金等の軽量材料も適用可能である。
【0010】
上述の材料から選定した圧延棒鋼素材を適切な単重量(製品重量の10倍程度が狙いなので概ね2~3kg)に切断し、冷間または熱間鍛造にて薄肉T字の中間素材を得る。尚、鍛造工法に関してはハンマーによる自由鍛造でも型鍛造でもどちらでも良い。この時、図3(A)の如く圧延方向に沿ってT字素材を成形すれば鍛流線はT字素材の圧延方向と重なって発現する。一方、多少素材重量は増加する事になるが、図3(B)の如く圧延方向に直交するようにT字素材を成形すればT字素材のフランジ部(将来の台座部)からウェブ部(将来の刃部)にかけて連続した鍛流線が発現する。尚、図3(B)は円弧上に成形しているが最終製品に加工する際の基準部位として踵部の台座、更には爪先部の台座が平面になるように設計し鍛造する事も可能である。
【0011】
鍛造後の薄肉T字形状素材は、金属組織や硬さが不均一であるため、製品要求特性に合わせ、更にこの後の切削加工に最適となる組織・硬さを得るように材料毎に調質される。例えば鉄系金属の調質ではA3変態点以上に加熱し完全にオーステナイト組織にした後に、急速冷却(焼入れ)してマルテンサイト組織を生成させる。さらに焼入れ後の歪を除去し、更に材料毎に、切削加工に最適な硬さに調整する為に、Al変態点以下の温度で焼き戻し処理を行う。この時、焼き戻し温度を調整する事により、例えば高温焼き戻しならば軟らかく、低温焼き戻しならば硬くというように、最終製品の要求特性に合わせて材料毎に最適な硬さを調整すると言う事が可能となる。
【0012】
調質後の材料は表面に酸化被膜等が付着しており切削加工が難しくなるためにショットブラスト処理で酸化被膜等を除去する必要がある。この場合酸化被膜等の除去のみが目的であるため、極力、金属表層に残留応力を生成させないように注意する必要がある。
【0013】
ショットブラスト処理を施し表面を清浄化した素材を切削加工にて所定の製品形状に加工するが、そもそもブレードの形状は実測データを基に予め設定された負荷応力に対して、適切に選定された素材材料毎に強度設計され、望ましくは構造解析により検証された製品形状である事が重要である。
尚、切削加工は3軸または5軸加工機等のNC工作機械を使用して行うが、鍛造によりある程度の薄肉構造が先に形成されている為、加工部位によっては適切な治具等を配置して加工時の素材変形を極小化する必要がある。
【0014】
切削加工後のブレードの台座と刃で構成するT字形状のフランジ部とウェブ部の境界は曲げ応力最大になる部位であるので、十分に安全なR半径を持たせるとともに切削加工後、境界部表面にショットブラスト処理をして耐衝撃値や疲労強度を向上させる事も有効である。
【0015】
切削加工後のブレードは、必要に応じて、耐食性向上や耐摩耗性向上の目的でメッキ処理やアルマイト処理、蒸着、塗装等の表面処理を施す事が可能である。また窒化処理等の表面硬化処理を施しても良い。
但し、ブレードの刃先(接氷部)は常に研磨する事で滑氷性能を確保している為、接氷部となる刃部エッジの先端から1~数mm幅で素材に表面処理や表面硬化処理されないような処置を施す事が必要である。
【実施例0016】
アイススケート用ブレードの素材として高強度のばね鋼(SUP11AM)を選択し当該材料の圧延丸鋼からφ90mm×100mm(5kg)の2個取り用素材を切出す。それを図3(B)の如く1200℃に加熱して熱間鍛造(据え込み→成形→トリミング・分割)後、更に1個(1断片)ずつ台座間(踵部と爪先部)の角度調整と刃とのT字形状を得る為の直角度調整用の成形鍛造を実施した。
更にこの分割製品に調質熱処理(焼入れ850℃、焼き戻し580℃)を実施して硬さHRC31に調質した。この硬さに調質する事で十分な強度を有しながら、均一な組織で、かつ加工性に優れた材料とする事が出来る。上記の処理で得られた素材をφ0.8mmの鋼球ショットブラスト機にかけて表面の酸化物等を除去した後に、5軸加工機による切削加工を実施し所定の形状のスケートブレードを製造した。
尚、切削加工ままでは非常に錆び易い為、クロムメッキを施した。但し刃先の全長に亘って5mm幅でマスキング処理を施し、非メッキ部を意図的に設ける事で刃先を研磨して滑氷性能を確保する事を可能にした。
【産業上の利用可能性】
【0017】
鍛造工法と切削加工工法を組み合わせる事により、例えばスケートブレードのような薄肉でT字形等の複雑な形状の製品が、ロウ付けや溶接・カシメ等の接合技術を使わずに、一体型で高強度を維持しつつ安価に製造する事が可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-05-24
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアイススケート靴(図4)に装着される金属製ブレードの範疇にあり高強度かつ安価なブレードの製造方法及び製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製アイススケート用ブレード(図5)は、圧延された薄板鋼材から、スケート靴に装着する為の台座2枚(踵部1枚と爪先部1枚)と滑走の為の刃部1枚の計3枚を別々に打抜き、仕上げ加工した後に、図1のように、T字形状にロウ付けや溶接またはカシメ等で接合して製造されているものが一般的である。
また昨今は、上級競技者向けのスケートブレードとして圧延鋼材から総切削する工法も発表されたが、圧延した角材から直接切削する為に素材重量に対する製品重量の歩留が2~3%と低く、非常に高価な製品になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US20090206562 A1
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】山一ハガネ製「YS BLADES」に関するURL https://yamaichi-hagane.jp/ysblades/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のロウ付けや溶接またはカシメ技術等で接合・製造したブレードでは、熟練の職人が作業しても、不可避的に製品毎の僅かな誤差が生じてしまう。従って同じメーカーの同じ型式の製品でも形状品質にバラツキが存在する事が避けられなかった。その為スケート競技者は、ブレードを交換する度に発生する形状品質のバラツキに、競技者自身の感覚を合わせ慣れさせなければならなかった。
またロウ付けまたは溶接またはカシメ技術等で接合させてつくられたブレードでは接合部の強度にバラツキが大きく、例えばフィギュアスケートのジャンプなどの大きな衝撃に接合部が耐えきれず曲がったり破断したりするケースもあった。これでは競技者生命にかかわる重大な事故につながりかねず、安全安心なブレードが渇望されていた。
そこで圧延した薄板をロウ付や溶接等で接合させるのではなく、[特許文献1]に示すように圧延薄板である刃部素材において台座への接合箇所を延長し、延長部分を左右に直角に折り曲げ、折り曲げた部位を直接台座にビス留めする方法が提示されている。但し、本工法では、そもそも台座部と刃部の連結断面積が半分になってしまうので、結局は溶接工法と同等程度の曲げ強度しか期待できない。
また[非特許文献1]のように、ブレード素材である金属の圧延鋼材から直接切削加工してブレードを切出していくという技術が発表された。確かにこの方法により品質バラツキのない安全安心なブレードを得る事が可能となった。ただこの方法では、例えば鉄系素材としたならば10kgを超える角型鋼材から300g前後のブレード製品を切出す事が必要なため97%~98%の廃却切屑が発生する事になり、非常に高価な製品となってしまっていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述の実情に鑑みて提案されるものであって、形状品質が安定した安全安心なアイススケート用金属ブレードを以下の工法(図2)によって安価に提供するものである。
先ず、金属ブレード用の素材を選択し適当な単重に切断した後、
▲1▼冷間または熱間鍛造し粗形状を成形する
▲2▼製品の要求特性及び切削加工用に最適な硬さ・組織に揃える為の焼準・調質熱処理を実施する
▲3▼この鍛造・熱処理した素材表面の酸化物等をショットブラストにて除去する
▲4▼切削加工にて最終形状を得る
▲5▼更に防食性及び耐摩耗性を与える為の表面処理を施す
【発明の効果】
【0007】
本発明により、台座と刃をロウ付けや溶接またはカシメ技術等で接合する事なく一体物として成形・構成されるアイススケート用金属製ブレードが製造できる。これによりスケート競技者はブレードを交換する度に発生する形状品質のバラツキに悩まされることなく、またジャンプなどの大きな衝撃を伴う試技にも、台座と刃の接合部が曲がったり破断する不安がなくなり、安心安全に競技に集中する事が可能となる。
かつ鍛造工法と切削加工とを組み合わせた一体型の金属製アイススケートは、ブレード素材である金属鋼塊から直接切削加工してブレードを切出していくという工法に比較して製品歩留が優れ、より安価に競技者に提供できるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図4】フィギュアアイススケート靴:靴とブレードが接合された状態
図5】同ブレード:台座と刃がT字形状に接合されている状態
図1】ステートブレードの概要図
図2】本発明の製造工程のフローチャート
図3】鍛造工程図と鍛造方法による鍛流線方向 (A)圧延方向に沿ってT字素材を成形した場合 (B)圧延方向に直交するようにT字素材を成形した場合
【発明を実施するための形態】
【0009】
アイススケート用ブレードに適する金属材料としては、鉄系金属ならば炭素鋼、ばね鋼、窒化用鋼、浸炭用鋼、工具鋼、マルエージング鋼、ステンレス鋼等の特殊鋼が考えられる。また耐食耐摩耗性能を有するNi基合金、Co基合金やTi合金、更にAl合金、Mg合金等の軽量材料も適用可能である。
【0010】
上述の材料から選定した圧延棒鋼素材を適切な単重量(製品重量の10倍程度が狙いなので概ね2~3kg)に切断し、冷間または熱間鍛造にて薄肉T字の中間素材を得る。尚、鍛造工法に関してはハンマーによる自由鍛造でも型鍛造でもどちらでも良い。この時、図3(A)の如く圧延方向に沿ってT字素材を成形すれば鍛流線はT字素材の圧延方向と重なって発現する。一方、多少素材重量は増加する事になるが、図3(B)の如く圧延方向に直交するようにT字素材を成形すればT字素材のフランジ部(将来の台座部)からウェブ部(将来の刃部)にかけて連続した鍛流線が発現する。尚、図3(B)は円弧上に成形しているが最終製品に加工する際の基準部位として踵部の台座、更には爪先部の台座が平面になるように設計し鍛造する事も可能である。
【0011】
鍛造後の薄肉T字形状素材は、金属組織や硬さが不均一であるため、製品要求特性に合わせ、更にこの後の切削加工に最適となる組織・硬さを得るように材料毎に調質される。例えば鉄系金属の調質ではA3変態点以上に加熱し完全にオーステナイト組織にした後に、急速冷却(焼入れ)してマルテンサイト組織を生成させる。さらに焼入れ後の歪を除去し、更に材料毎に、切削加工に最適な硬さに調整する為に、A1変態点以下の温度で焼き戻し処理を行う。この時、焼き戻し温度を調整する事により、例えば高温焼き戻しならば軟らかく、低温焼き戻しならば硬くというように、最終製品の要求特性に合わせて材料毎に最適な硬さを調整すると言う事が可能となる。
【0012】
調質後の材料は表面に酸化被膜等が付着しており切削加工が難しくなるためにショットブラスト処理で酸化被膜等を除去する必要がある。この場合酸化被膜等の除去のみが目的であるため、極力、金属表層に残留応力を生成させないように注意する必要がある。
【0013】
ショットブラスト処理を施し表面を清浄化した素材を切削加工にて所定の製品形状に加工するが、そもそもブレードの形状は実測データを基に予め設定された負荷応力に対して、適切に選定された素材材料毎に強度設計され、望ましくは構造解析により検証された製品形状である事が重要である。
尚、切削加工は3軸または5軸加工機等のNC工作機械を使用して行うが、鍛造によりある程度の薄肉構造が先に形成されている為、加工部位によっては適切な治具等を配置して加工時の素材変形を極小化する必要がある。
【0014】
切削加工後のブレードの台座と刃で構成するT字形状のフランジ部とウェブ部の境界は曲げ応力最大になる部位であるので、十分に安全なR半径を持たせるとともに切削加工後、境界部表面にショットブラスト処理をして耐衝撃値や疲労強度を向上させる事も有効である。
【0015】
切削加工後のブレードは、必要に応じて、耐食性向上や耐摩耗性向上の目的でメッキ処理やアルマイト処理、蒸着、塗装等の表面処理を施す事が可能である。また窒化処理等の表面硬化処理を施しても良い。
但し、ブレードの刃先(接氷部)は常に研磨する事で滑氷性能を確保している為、接氷部となる刃部エッジの先端から1~数mm幅で素材に表面処理や表面硬化処理されないような処置を施す事が必要である。
【実施例0016】
アイススケート用ブレードの素材として高強度のばね鋼(SUP11AM)を選択し当該材料の圧延丸鋼からφ60mm×315mm(7kg)の素材を切出す。それを図3(A)の如く1200℃に加熱して熱間型鍛造(据え込み(P-1)→成形(P-2)→トリミング(P-3))を実施した。
更にこの製品に焼準処理を施した後、調質熱処理(焼入れ850℃、焼き戻し580℃) を実施して硬さHRC31に調質した。この硬さに調質する事で十分な強度を有しながら、均一な組織で、かつ加工性に優れた材料とする事が出来る。上記の処理で得られた素材をφ0.8mmの鋼球ショットブラスト機にかけ て表面の酸化物等を除去した後に、5軸加工機による切削加工を実施し所定の形状のスケートブレードを製造した。
尚、切削加工ままでは非常に錆び易い為、クロムメッキを施した。但し刃先の全長に亘って5mm幅でマスキング処理を施し、非メッキ部を意図的に設ける事で刃先を研磨して滑氷性能を確保する事を可能にした。
【0017】
アイススケート用ブレードの素材として高強度のばね鋼(SUP11AM)を選択し当該材料の圧延丸鋼からφ60mm×315mm(7kg)の素材を切出す。それを図3(A)の如く1200℃~1260℃に加熱してハンマー鍛造(成形(P-2)→トリミング(P-3))を実施した。
更にこの製品に焼準処理を施した後、調質熱処理(焼入れ850℃、焼き戻し580℃) を実施して硬さHRC31に調質した。この硬さに調質する事で十分な強度を有しながら、均一な組織で、かつ加工性に優れた材料とする事が出来る。上記の処理で得られた素材をφ0.8mmの鋼球ショットブラスト機にかけ て表面の酸化物等を除去した後に、5軸加工機による切削加工を実施し所定の形状のスケ ートブレードを製造した。
尚、切削加工ままでは非常に錆び易い為、クロムメッキを施した。但し刃先の全長に亘って5mm幅でマスキング処理を施し、非メッキ部を意図的に設ける事で刃先を研磨して滑氷性能を確保する事を可能にした。
【0018】
アイススケート用ブレードの素材として高強度のばね鋼(SUP11AM)を選択し当該材料の圧延丸鋼からφ90mm×100mm(5kg)の2個取り用素材を切出す。それを図3(B)の如く 1200℃に加熱して熱間鍛造(据え込み(P-1)→成形(P-2)→トリミング・分割(P-3))後、更に1個(1断片)ずつ台座間(踵部と爪先部)の角度調整と刃とのT字形状を得る為の直角度調整用の成形鍛造(P-4)を実施した。
更にこの分割製品に焼準処理を施した後、調質熱処理(焼入れ850℃、焼き戻し580℃)を実施して硬さHRC31に調質した。この硬さに調質する事で十分な強度を有しながら、均一な組織で、かつ加工性に優れた材料とする事が出来る。
上記の処理で得られた素材をφ0.8mmの鋼球ショットブラスト機にかけて表面の酸化物等を除去した後に、5軸加工機による切削加工を実施し所定の形状のスケートブレードを製造した。
尚、切削加工ままでは非常に錆び易い為、クロムメッキを施した。但し刃先の全長に亘って5mm幅でマスキング処理を施し、非メッキ部を意図的に設ける事で刃先を研磨して滑氷性能を確保する事を可能にした。
【産業上の利用可能性】
【0019】
鍛造工法と切削加工工法を組み合わせる事により、例えばスケートブレードのような薄肉でT字形等の複雑な形状の製品が、ロウ付けや溶接・カシメ等の接合技術を使わずに、一体型で高強度を維持しつつ安価に製造する事が可能となる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図2
【補正方法】変更
【補正の内容】
図2