(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176999
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】記録装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20241212BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241212BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B41J2/165 203
B41J2/01 401
B41J2/01 451
B41J2/18
B41J2/165 207
B41J2/165 211
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110555
(22)【出願日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2023095681
(32)【優先日】2023-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安谷 純
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA24
2C056EA26
2C056EB32
2C056EB38
2C056EB41
2C056EB49
2C056EB58
2C056EC07
2C056EC15
2C056EC29
2C056EC43
2C056EC50
2C056EC53
2C056EC54
2C056EC64
2C056FA03
2C056JC20
2C056JC23
2C056KA01
2C056KB16
2C056KB37
(57)【要約】
【課題】循環経路内のインク濃度の調整するためのインクの排出により生じる廃インクの発生を抑制することが可能な技術を提供する。
【解決手段】記録剤を吐出可能なノズルを備えた記録素子基板に記録剤を供給するとともに前記記録素子基板から吐出されなかった記録剤を回収することができる循環経路と、前記循環経路を循環する記録剤の濃度に関する情報を取得する取得手段と、前記濃度に関する情報に応じて、前記循環経路から記録剤を排出し、かつ、排出量に対応した量の記録剤を前記循環経路に供給するインクの排出制御を実行する排出制御手段と、を有し、前記排出制御手段は、前記排出制御を実行する際には、インクの排出量が第1排出量となる第1排出制御および該排出量が前記第1排出量よりも多い第2排出量となる第2排出制御の一方を選択的に実行するようにした。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録剤を吐出可能なノズルを備える記録素子基板と、
前記記録素子基板を含み、記録剤を循環させて、前記記録素子基板に記録剤を供給するとともに前記記録素子基板から吐出されなかった記録剤を回収することができる循環経路と、
前記循環経路を循環する記録剤の濃度に関する情報を取得する取得手段と、
前記濃度に関する情報に応じて、前記循環経路から記録剤を排出し、かつ、排出量に対応した量の記録剤を前記循環経路に供給するインクの排出制御を実行する排出制御手段と、を有し、
前記排出制御手段は、前記排出制御を実行する際には、インクの排出量が第1排出量となる第1排出制御および該排出量が前記第1排出量よりも多い第2排出量となる第2排出制御の一方を選択的に実行することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記濃度に関する情報は、
前記記録剤の濃度の推定値である濃度推定値と、
前記濃度推定値に生じ得る誤差である推定誤差と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記推定誤差は、記録デューティに応じて異なることを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記排出制御手段は、前記濃度推定値と前記推定誤差との和が、記録画像における濃度ムラの発生、前記ノズルからの記録剤の吐出特性の低下、および前記循環経路における記録剤の循環機能の信頼性の低下の少なくとも1つが生じるインク濃度の限界値以上であるときに、前記第1排出制御を行う第1制御を実行することを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項5】
前記排出制御手段は、前記濃度推定値と前記推定誤差との和が、前記限界値以上となる第1条件と、前記濃度推定値と前記推定誤差との比率が、直近の前記第1制御で前記第1排出制御を行ったときの前記濃度推定値と前記推定誤差との比率以上となる第2条件と、の少なくとも一方を満たしたときに前記第2排出制御を行い、前記第1条件および前記第2条件のいずれも満たさなかったときに前記第1排出制御を行う第2制御を実行することを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記排出制御手段は、
閾値が初期値であるときに前記第1制御を実行し、前記閾値が前記初期値と異なる値に設定されているときに前記第2制御を実行し、
前記第1制御において、前記第1排出制御を行うと、前記閾値を前記濃度推定値に設定し、
前記第2制御において、前記第2排出制御を行うと、前記閾値を初期値に設定することを特徴とする請求項5に記載の記録装置。
【請求項7】
前記排出制御手段は、
前記第1排出制御の連続する実行回数が所定回数未満のときには、前記第1排出制御を実行し、
前記第1排出制御の連続する実行回数が前記所定回数に達しているときには、前記第2排出制御を実行することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項8】
記録媒体に記録するための記録データを生成する際の画像処理において、インク濃度に基づく画像濃度補正を実行可能な画像処理手段をさらに有し、
前記画像処理手段は、前記取得手段で取得した前記濃度推定値と、直近に前記画像濃度補正に関する処理を実行した際の前記濃度推定値と、の差分が閾値以上であると、前記処理として前記画像濃度補正を実行することを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項9】
記録媒体に記録するための記録データを生成する際の画像処理において、インク濃度に基づく画像濃度補正を実行可能な画像処理手段をさらに有し、
前記画像処理手段は、前記取得手段で取得した前記濃度推定値と、直近に画像濃度補正に関する処理を実行した際の前記濃度推定値と、の差分が閾値以上であると、前記処理として前記画像濃度補正に用いる補正情報を取得することを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項10】
前記閾値は、記録画像に濃度ムラが生じる記録剤の濃度の変化量に対応することを特徴とする請求項8または9に記載の記録装置。
【請求項11】
前記排出制御手段は、前記記録素子基板の前記ノズルから記録に寄与しない記録剤を吐出する予備吐出、あるいは、前記ノズルから強制的に記録剤を吸引して排出する吸引排出によって、前記循環経路から記録剤を排出することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項12】
前記記録剤は、顔料を含有したインクおよび記録媒体に吐出された該インクに対して所定の処理を施す処理液を含むことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項13】
記録剤を吐出可能なノズルを備えた記録素子基板を含む循環経路を循環する記録剤の濃度に応じて、前記循環経路から記録剤を排出し、かつ、排出量に応じた量の記録剤を前記循環経路に供給するインクの排出制御を実行可能な記録装置の制御方法であって、
前記循環経路を循環する記録剤の濃度に関する情報を取得し、
前記濃度に関する情報に応じて、インクの排出量が第1排出量となる第1排出制御および該排出量が前記第1排出量よりも多い第2排出量となる第2排出制御の一方を選択的に実行することを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、記録ヘッドを含むインクの循環経路においてインクを循環させることで、ノズル内でのインクの増粘を抑制し、ノズルからのインクの吐出特性の低下を抑制するようにしたインクジェット記録装置が知られている。なお、こうした記録装置では、循環時にはノズルからのインクの蒸発によって、循環経路内のインクが増粘、つまり、インクの濃度が上昇してしまう。
【0003】
特許文献1、2には、循環時のインクの蒸発量および記録時のインクの消費量に基づいて、循環経路内のインクの濃度を取得し、当該濃度に基づいて循環経路から増粘したインクの一部を排出する技術が開示されている。なお、特許文献1、2の技術では、循環経路からのインクの排出に伴って、循環経路には新たなインクが供給され、これにより、循環経路内のインク濃度を一定に調整するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-121788号公報
【特許文献2】特開2018-008513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に開示の技術では、インクを排出するか否か判定するために取得するインクの濃度が推定値である。このため、インクを排出するか否かを判定する際に用いるインクの濃度と、循環経路内の実際のインクの濃度との間に誤差が生じる虞があり、これにより、適切にインクの排出を実行することができず、廃インクの発生が増大する虞があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、循環経路内のインク濃度の調整するためのインクの排出により生じる廃インクの増大を抑制することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明による記録装置の一実施形態は、記録剤を吐出可能なノズルを備える記録素子基板と、前記記録素子基板を含み、記録剤を循環させて、前記記録素子基板に記録剤を供給するとともに前記記録素子基板から吐出されなかった記録剤を回収することができる循環経路と、前記循環経路を循環する記録剤の濃度に関する情報を取得する取得手段と、前記濃度に関する情報に応じて、前記循環経路から記録剤を排出し、かつ、排出量に対応した量の記録剤を前記循環経路に供給するインクの排出制御を実行する排出制御手段と、を有し、前記排出制御手段は、前記排出制御を実行する際には、インクの排出量が第1排出量となる第1排出制御および該排出量が前記第1排出量よりも多い第2排出量となる第2排出制御の一方を選択的に実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、循環経路内のインク意濃度を調整するためのインクの排出により生じる廃インクの増大を抑制することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】画像処理の詳細な処理内容を示すフローチャート
【
図6】記録装置におけるインクの循環経路を示す模式図
【
図7】記録時に実行される各処理のタイミングチャート
【
図8】エンジンコントローラの機能的構成を示すブロック図
【
図9】取得処理の詳細な処理内容を示すフローチャート
【
図11】調整処理の詳細な処理内容を示すフローチャート
【
図12】ノズル循環流速と蒸発量との関係を示すグラフ
【
図13】記録デューティ0%での推定誤差の推移を示すグラフ
【
図14】蒸発率2%のインクが供給される際の推定誤差の推移を示すグラフ
【
図15】濃度推定値、推定誤差のインクの排出制御による変化を示す図
【
図16】決定処理の詳細な処理内容を示すフローチャート
【
図18】HS処理の詳細な処理内容を示すフローチャート
【
図21】スキャン画像における所定のパッチに対応する領域での測定値を示す図
【
図22】CS処理の詳細な処理内容を示すフローチャート
【
図23】スキャン画像のRGB値を軸とする三次元空間を示す図
【
図24】記録デューティ2%での推定誤差の推移を示すグラフ
【
図25】濃度推定値、推定誤差のインクの排出制御による変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照しながら、記録装置および制御方法の一例を説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を限定するものではなく、また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせのすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。また、実施形態に記載されている構成要素の位置、形状などはあくまで一例であり、この発明をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0011】
(第1実施形態)
まず、
図1乃至
図15を参照しながら、第1実施形態による記録装置について説明する。
【0012】
<記録装置の構成>
図1は、記録装置の概略構成図である。
図1の記録装置10は、カットシート状の記録媒体を給送する給送モジュール12と、給送モジュール12により給送された記録媒体へ記録する記録モジュール14とを備えている。また、記録装置10は、記録後の記録媒体に対して、非接触式加熱により記録媒体への記録剤の定着を促す第1定着モジュール16と、接触式加熱により記録媒体への記録剤の定着を促す第2定着モジュール18と、を備えている。さらに、記録装置10は、記録媒体の冷却および両面記録時の反転動作を行う冷却・反転モジュール20と、成果物が排出されるとともに、排出された成果物が積載される積載モジュール22と、を備えている。さらにまた、記録装置10は、記録装置10の全体の動作を制御する制御部200(後述する)を備えている。
【0013】
記録モジュール14は、給送モジュール12から給送された記録媒体を搬送する搬送ベルト24を備えている。搬送ベルト24では、エア吸引によって記録媒体を固定しながら搬送を行う。また、記録モジュール14は、搬送ベルト24と対向する位置に配置され、搬送ベルト24により搬送される記録媒体に対して記録剤を吐出して記録を行う記録ヘッド26を備えている。記録ヘッド26は、記録媒体の搬送方向に沿って、複数並設されている。本実施形態では、記録剤として、イエロー(Y)インク、マゼンタ(M)インク、シアン(C)インク、ブラック(K)インクの4色の顔料インクに加えて、記録媒体に吐出されたインクに対して所定の処理を施す処理液(P)が用いられる。従って、本実施形態では、記録ヘッド26として、Yインク、Mインク、Cインク、Kインクの4色のインクに加えて、処理液に対応した5つのラインタイプの記録ヘッドを備えている。なお、記録モジュール14における記録ヘッド26については、色数は上記した4色に限定されるものではなく、かつ、記録ヘッドの数は5つに限定されない。また、インクについては、顔料を含有するインクに限定されるものではなく、染料を含有するインクなど公知の各種のインクを用いることができる。
【0014】
記録ヘッド26は、例えば、インクジェット方式によりインクを吐出可能な構成となっている。インクジェット方式としては、発熱素子を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式など、公知の種々の技術を用いることができる。記録ヘッド26には、記録装置10に設けられたメインタンク606(
図6参照)から対応する種類のインクがチューブなどを介して供給される。
【0015】
記録モジュール14は、記録ヘッド26におけるインクの吐出性能を良好に維持、回復するためのメンテナンス部28を備えている。メンテナンス部28は、例えば、記録ヘッド26において、インクを吐出するノズルが形成されたノズル面を保護するキャップ部(不図示)、ノズル面を払拭するワイピング部、および記録ヘッド26内のインクをノズルを介して吸引する吸引部などを備えている。記録ヘッド26およびメンテナンス部28は、互いに相対移動可能な構成となっており、例えば、メンテナンス部28を用いる際には、メンテナンス部28は、記録ヘッド26の下方側において、ノズル面に対向する位置に位置する。なお、メンテナンス部28の各構成のみが移動する構成であってもよい。
【0016】
<記録装置の制御系の構成>
次に、記録装置10の制御系の構成について説明する。
図2は、記録装置10の制御系の構成を示すブロック図である。記録装置10は、上位装置(DFE)HC2に通信可能に接続されており、上位装置HC2は、ホスト装置HC1に通信可能に接続されている。ホスト装置HC1では、記録画像の元になる原稿データが生成あるいは保蔵される。ここで、原稿データは、例えば、文書ファイルや画像ファイスなどの電子ファイルの形式で生成される。原稿データは、ホスト装置HC1から上位装置HC2へ送信される。上位装置HC2では、受信した原稿データを記録装置10で利用可能なデータ形式、例えば、RGBで画像を表現するRGBデータに変換する。変換後のデータは、上記装置HC2から記録装置10へ送信される。
【0017】
記録装置10の全体の動作を制御する制御部200は、メインコントローラ202と、エンジンコントローラ204とを備えている。メインコントローラ202は、処理部206、記憶部208、操作部210、画像処理部212、通信インターフェース(I/F)214、216、およびバッファ218を備えている。
【0018】
処理部206は、CPUなどのプロセッサで実現され、記憶部208に記憶されたプログラムを実行し、メインコントローラ202の全体の制御を行う。記憶部208は、ROM、RAM、ハードディスク、SSDなどの記憶デバイスにより実現され、処理部206が実行するプログラムやデータを格納するとともに、処理部206にワークエリアを提供する。操作部210は、例えば、タッチパネル、キーボード、およびマウスなどの入力デバイスであり、ユーザからの指示を受け付ける。
【0019】
バッファ218は、例えば、RAM、ハードディスク、およびSSDなどにより実現され、各種の情報を格納する記憶領域である。画像処理部212は、例えば、画像処理プロセッサを有する電子回路で実現され、上位装置HC2から入力された画像データ(RGBデータ)に対して画像処理を実行可能に構成される。通信I/F214は、上位装置HCとの通信を行い、通信I/F216は、エンジンコントローラ204との通信を行う。なお、制御部200では、処理部206、記憶部208、および画像処理部212を1つずつ備える形態を説明したが、これらの構成については、複数備えるようにしてもよい。エンジンコントローラ204の構成については、後述する。
【0020】
図2の破線矢印は、制御部200に入力されたデータの流れの一例を示している。上位装置HC2から通信I/F214を介して受信された画像データ(RGBデータ)は、バッファ218に蓄積される。画像処理部212は、バッファ218から画像データを読み出し、読み出した画像データに所定の画像処理を施して、エンジンコントローラ204で用いる記録データを生成し、再びバッファ218に格納する。そして、バッファ218に格納された記録データは、通信I/F216からエンジンコントローラ204へ送信される。その後、エンジンコントローラ204によって記録データに基づいて記録ヘッド26が駆動されて、記録媒体に対する記録を実行する記録動作が行われる。
【0021】
<画像処理>
次に、画像処理部212で実行する画像処理について説明する。
図3は、画像処理部212で実行される画像処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。
図3のフローチャートで示される一連の処理は、メインコントローラ202のCPUが、メインコントローラ202のROMに記憶されているプログラムコードを、メインコントローラ202のRAMに展開して実行されることにより行われる。あるいは、
図4におけるステップの一部または全部の機能をASICまたは電気回路などのハードウェアで実行してもよい。本願明細書では、各処理の説明における符号Sは、フローチャートにおけるステップであることを意味する。
【0022】
画像処理が開始されると、まず、S302において、画像処理部212は、バッファ218に格納されたRGBデータ(画像データ)を取得する。本実施形態では、RGBデータは、RGB各値8bitで構成されるものとする。また、RGBデータは、600dpi×600dpiのデータ解像度を有しているものとする。次に、S304において、画像処理部212は、RGBデータを、記録装置10で記録可能なインク色に対応するCMYKデータに変換する色変換処理を実行する。この色変換処理により、CMYK各値12bitで構成されるCMYKデータが生成される。
【0023】
その後、S306において、画像処理部212は、CMYKデータに対して量子化処理を行い、CMYK各3bitで構成される量子化データを生成する。この量子化処理として、例えば、ディザ法または誤差拡散法などを用いることができる。本実施形態では、量子化処理によって、600dpiのデータ解像度を有する量子化データが生成される。そして、S308において、画像処理部212は、属性情報を取得する。属性情報とは、その画素に対して記録する画像の属性が文字属性または細線属性であるか、それ以外の属性(イメージ画像属性など)であるかを示す情報であり、1bitで構成されている。より詳細には、ある画素に文字、細線が記録されている場合には、属性情報として「1」が取得される。一方、文字、細線以外が記録される場合には、属性情報として「0」が取得される。
【0024】
なお、S306については、S302からS306の処理と並行して実行されるようにしてもよい。また、本実施形態では、RGBデータとは別に属性情報を取得する形態としたが、これに限定されるものではなく、RGBデータと属性情報とが合成された状態で画像処理部212が取得する形態であってもよい。
【0025】
量子化データおよび属性情報を取得すると、次に、S310において、画像処理部212は、CMYK各値3bitの量子化データと、1bitの属性情報とを合成し、CMYK各値4bitで構成される合成データを生成する。生成される合成データのデータ解像度は、量子化データと同じであり、600dpi×600dpiである。そして、S312において、画像処理部212は、合成データに対してインデックス展開処理を行い、CMYK各1bitの情報と属性情報とによって構成されるデータを2プレーン分生成する。このインデックス展開では、合成データのうち600dpi×600dpiの解像度であるCMYK各値3bitの量子化データを、インデックスパターンを用いて、1200dpi×1200dpiの解像度でCMYK各1bitに展開する。
【0026】
その後、S314において、画像処理部212は、展開したデータを、互いに異なるインクを吐出する各記録ヘッド26に分配する分配処理を行い、記録に用いる記録データを生成する。生成される記録データは、CMYKの各色について、1200dpi×1200dpiの解像度の1bitのデータであり、インクの吐出/非吐出を示すデータである。そして、S316において、画像処理部212は、生成した記録データをバッファ218に送信し、この画像処理を終了する。
【0027】
<記録ヘッドの構成>
次に、記録ヘッド26の構成について説明する。
図4(a)(b)(c)は、記録ヘッド26のノズルが形成された面の構成を示す図である。
【0028】
記録ヘッド26は、搬送される記録媒体と対向する面(ノズル面)400において、複数の記録素子基板402が設けられている。記録素子基板402は、記録ヘッド26の延在方向に沿って一列に配置されるようにしてもよいし(
図4(a)参照)、記録ヘッド26の延在方向に沿って千鳥配置されるようにしてもよい(
図4(b)参照)。あるいは、記録ヘッド26は、記録素子基板402を1つのみ備える構成としてもよい(
図4(a)参照)。
【0029】
また、記録ヘッド26は、記録ヘッド26を含む記録装置10におけるインクの循環経路(後述する)内の圧力(負圧)を制御する負圧制御ユニット616と、負圧制御ユニット616と流体連通したインク供給ユニットと614とを備えている(
図5参照)。また、記録ヘッド26は、インク供給ユニット614へのインクの供給口および排出口となる液体接続部612を備えている(
図5参照)。
【0030】
<記録素子基板の構成>
次に、記録素子基板402の構成について説明する。
図5(a)から(c)は、記録素子基板の構成の概略を説明する図であり、(a)は全体の斜視図であり、(b)は内部構成を透過した状態で示す一部拡大平面図であり、(c)は(b)のVc-Vc線断面図である。
【0031】
記録素子基板402は、基板502と、基板502の一方の面に形成されたオリフィスプレート504とを備えている。基板502は、加工可能な半導体基板などの素材によって形成されることが好ましく、当該素材を用いることで、基板502の表面にエネルギー発生素子、電気回路、電気配線、温度センサなどの電子デバイスが複数配置可能となる。また、オリフィスプレート504は、レーザ加工によりノズル500を形成可能な樹脂基板、ダイシングによりノズル500を形成可能な無機プレートなどの素材によって形成される。また、オリフィスプレート504は、光硬化によりノズル500およびインクの流路を形成可能な感光性樹脂材料などの素材によって形成されるようにしてもよい。あるいは、基板502と同様に半導体基板を用い、MEMS加工によりノズル500およびインクの流路を形成するなど、公知の各種の材料を用いるようにしてもよい。
【0032】
オリフィスプレート504には、インクを吐出するための複数のノズル500が、基板502の延在方向に沿って配列されたノズル列506が形成されている。オリフィスプレート504は、基板502の一方の面と共に複数の圧力室508を形成する(
図5(b)(c)参照)。各圧力室508にはそれぞれノズル500が連通されている。また、各圧力室508にはそれぞれ、液体を吐出するためのエネルギーを発生させるエネルギー発生素子510が設けられている(
図5(c)参照)。エネルギー発生素子510は、基板502上に設けられており、オリフィスプレート504に形成されるノズル500は、エネルギー発生素子510と対向する位置に形成されている。
【0033】
エネルギー発生素子510は、例えば、発熱素子(電気熱変換素子)やピエゾ素子など公知の種々の素子を用いることができる。エネルギー発生素子510として発熱素子を用いる場合には、圧力室508内のインクを発熱素子により沸騰させ、沸騰時の発泡エネルギーによって、インクがノズル500から吐出されることとなる。
【0034】
圧力室508は、ノズル列506の延在方向と交差する方向の一方側において、圧力室508にインクを流入させる流入流路512が形成され、当該方向の他方側において、圧力室508からインクを流出させる流出流路514が形成されている。
【0035】
基板502には、ノズル列506の延在方向と交差する方向の一方側において、流入流路512へインクを供給する複数の供給口516が、当該延在方向に沿って配列されている(
図5(c)参照)。また、ノズル列506の延在方向と交差する方向の他方側において、流出流路514からインクを回収する複数の回収口518が、当該延在方向に沿って配列されている。供給口516および回収口518は、基板の一方の面から他方の面に貫通した貫通孔となっている。また、基板502には、2つのノズル列506の間において、温度を検知可能な温度検知部520を備えている。この温度検知部520により、記録素子基板402におけるインクの温度を検知することとなる。なお、図示は省略するが、記録素子基板402には、記録ヘッド26におけるノズル面400の表面温度を設定温度に調整可能な、温度調整用ヒータが設けられている。
【0036】
<循環経路>
次に、記録装置10におけるインクの循環経路について説明する。
図6は、記録装置10におけるインクの循環経路の模式図である。
【0037】
記録装置10に設けられたインクの循環経路600では、記録ヘッド26が、第1循環ポンプ602およびバッファタンク604などに流体的に接続されている。つまり、循環経路600は、インク(処理液)の種類ごとにそれぞれ独立して形成されている。各インクに対応する循環経路600は、それぞれ同様の構成となっているため、以下の説明では、Kインクを吐出する記録ヘッド26を含む循環経路600について説明することとする。
【0038】
バッファタンク604は、その内部と外部とを連通する大気連通口(不図示)を備えており、これにより、バッファタンク604におけるインク中の気泡を外部に排出可能な構成となっている。バッファタンク604は、メインタンク606に接続され、バッファタンク604とメインタンク606との間には、補充ポンプ608が設けられている。補充ポンプ608は、メインタンク606内のインクを、バッファタンク604に供給する。例えば、補充ポンプ608は、記録媒体への記録動作や記録ヘッド26へのメンテナンス動作などによって、循環経路600で循環するインク量が減少すると、減少した分のインクをメインタンク606からバッファタンク604に移送するよう制御される。
【0039】
バッファタンク604内のインクは、第2循環ポンプ610によって、液体接続部612を介して記録ヘッド26のインク供給ユニット614に供給される。インク供給ユニット614に供給されたインクは、フィルタ615を介して、インク供給ユニット614に接続された負圧制御ユニット616で異なる2つの負圧(高圧、低圧)に調整され、高圧側と低圧側の2つの流路に分かれて記録素子基板402に供給される。
【0040】
高圧側の流路を流れるインクは、各記録素子基板402にインクを供給する共通供給流路618に供給される。低圧側の流路を流れるインクは、記録素子基板402から回収したインクが流入する共通回収流路620に供給される。共通供給流路618と共通回収流路620との圧力差によって、共通供給流路618に供給されたインクの一部は、個別供給流路619を介して記録素子基板402に流入する。そして、記録素子基板402に流入したインクは順に供給口516、流入流路512、圧力室508、流出流路514、回収口518へ流れ、その後、個別回収流路621を介して共通回収流路620に流出する。
【0041】
ここで、第1循環ポンプ602は、高圧側の第1ポンプ602aと低圧側の第2ポンプ602bとを備えている。共通供給流路618には、インク供給ユニット614を介して第1ポンプ602aが接続され、共通回収流路620には、インク供給ユニット614を介して第2ポンプ602bが接続される。これにより、記録ヘッド26から回収されたインクは、第1循環ポンプ602を介してバッファタンク604に回収される。即ち、共通供給流路618において記録素子基板402へ流れなかったインクは、インク供給ユニット614,液体接続部612を介して第1ポンプ602aによってバッファタンク604に回収される。また、共通回収流路620から流出するインクは、インク供給ユニット614.液体接続部612を介して第2ポンプ602bによってバッファタンク604に回収される。
【0042】
第1循環ポンプ602(つまり、第1ポンプ602aおよび第2ポンプ602b)は、定量的な送液能力を備えた容積型ポンプとすることが好ましい。具体的には、第1循環ポンプ602として、チューブポンプ、ギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプなどを用いることが好ましい。なお、第1循環ポンプ602としては、例えば、一般的な定流量弁やリリーフ弁をポンプ出口に配して一定流量を確保する形態であってもよい。
【0043】
記録ヘッド26の駆動時には、第1循環ポンプ602を駆動することによって、それぞれ共通供給流路618および共通回収流路620内を所定流量のインクが流れる。このようにインクを流すことで、記録時の記録ヘッド26の温度を最適温度に維持している。上記所定流量については、記録ヘッド26における各記録素子基板402間の温度差が、記録画質に影響しない温度差に維持可能な流量に設定される。なお、あまりに大きな流量に設定すると、共通供給流路618および共通回収流路620などでの圧力損失の影響により、各記録素子基板402で負圧差が大きくなり記録画像に濃度ムラが生じてしまう。このため、上記所定流量は、各記録素子基板402間の温度差と負圧差を考慮しながら設定されることとなる。
【0044】
バッファタンク604には、循環経路600を循環するインクの温度を制御するための加熱部を設けるようにしてもよいし、当該インク内の溶存ガス除去用の脱気部を設けるようにしてもよい。バッファタンク604を含む循環経路600を循環するインク量は、例えば、2180gとする。
【0045】
負圧制御ユニット616は、第2循環ポンプ610と記録素子基板402との間の経路に設けられている。負圧制御ユニット616は、単位面積当たりの吐出量の差などによって循環経路600におけるインクの流量が変動した場合でも、負圧制御ユニット616よりも下流側(記録素子基板402側)の圧力を予め設定した一定圧力に維持するように動作する。負圧制御ユニット616の上流側は、第2循環ポンプ610によって加圧されている。こうした構成によって、バッファタンク604の記録ヘッド26に対する水頭圧の影響を抑制できるので、記録装置10におけるバッファタンク604のレイアウトの自由度が広がる。
【0046】
第2循環ポンプ610としては、記録ヘッド26の駆動時に使用するインク循環流量の範囲において、一定圧以上の揚程圧を有するものであればよく、ターボ型ポンプや容積型ポンプなどを使用できる。具体的には、第2循環ポンプ610として、ダイヤフラムポンプなどを用いることができる。
【0047】
このように、循環経路600では、循環するインクが各記録素子基板402内を通過する構成となっている。このため、各記録素子基板402で発生する熱を共通供給流路618および共通回収流路620を流れるインクによって記録素子基板402の外部へ排出することができる。また、こうした構成により、記録ヘッド26による記録を行っている際に、吐出を行っていないノズル500においてもインクの流れを生じさせることができる。このため、こうしたインクの流れによって、ノズル500内でのインクの増粘を抑制することができ、記録ヘッド26におけるインクの吐出性能を良好に維持することができる。
【0048】
<記録時の処理>
次に、記録装置10における記録時に実行する処理について説明する。
図7は、記録装置10における記録時に実行される複数の処理のタイミングチャートである。以下の説明では、ジョブに基づく記録動作を実行する前の記録装置10の状態を待機状態と適宜に称する。記録装置10が待機状態のとき、第1循環ポンプ602および第2循環ポンプ610は停止し、循環経路600においてインクは循環していない。また、待機状態における記録ヘッド26の温度はT0℃とし、ノズル500における湿度をRH1とする。
【0049】
記録装置10においてジョブに基づく記録動作が開始されると、エンジンコントローラ204は、第1循環ポンプ602を駆動し、循環経路600においてインクを循環させる。次に、メンテナンス部28におけるキャップ部(不図示)が、記録ヘッド26のノズル面400から離間し、ノズル500が外部に露出する。これにより、ノズル500の周辺の湿度は、記録装置10の設置環境の湿度(RH0とする)に等しくなり、ノズル500からインクが蒸発するようになる。その後、記録素子基板402に設けられた温調用ヒータ(不図示)を駆動し、記録素子基板402を、記録動作に必要な温度まで上昇させる。そして、循環経路600でのインクの流速(循環流速)が所定速度Vに達し、かつ、記録素子基板402の温度が所定温度Top℃に達した状態で、記録媒体へ記録する記録動作が実行されることとなる。
【0050】
ノズル500からのインクの蒸発速度は、キャップ部が離間すると急峻に上昇する。また、記録動作中には、主に、インクを吐出しない非吐出ノズルからインクの蒸発が進行する。非吐出ノズルからのインクの蒸発は、循環経路600内でのインク濃度を上昇させる。各ノズル500において循環流速を個々に制御することができないので、記録動作中の非吐出ノズル1つ当たりからのインクの蒸発速度は一定である。なお、記録動作中のノズルからのインクの蒸発は、非吐出ノズルからの蒸発成分が支配的であるが、本実施形態では、インクの蒸発量を算出する際には、計算を簡易的にするために、吐出状態に関わらず全ノズル一律に蒸発が進行するものとして計算する。
【0051】
記録動作終了以降、第1循環ポンプ602を停止して、循環経路600でのインクの循環を停止する。第1循環ポンプ602の停止後、所定時間経過後にノズル500内の循環流が完全に停止する。このため、第1循環ポンプ602を停止させると、非吐出ノズルからの蒸発速度は急峻に減少する。その後、キャップ部を記録ヘッド26のノズル面400に当接させる。これにより、ノズル500の周辺の湿度は上昇し、ジョブによる記録動作を実行する前の湿度RH1まで回復するとともに、非吐出ノズルからの蒸発速度が0に収束する。
【0052】
<調整処理>
以上の構成において、記録装置10では、記録動作により上昇した循環経路内のインクの濃度(例えば、顔料濃度)を、記録画質の低下が生じない濃度に調整する調整処理を実行する。
【0053】
具体的には、記録装置10では、ジョブに基づく記録動作の実行前または実行後などのタイミングで、まず、ジョブによる記録動作で増粘した循環経路600内のインクの濃度の推定値を取得する取得処理を実行する。その後、取得したインク濃度の推定値に基づいて、循環経路600から増粘したインクの一部を排出するとともに、メインタンク606から新たなインクを供給して、循環経路600内のインクの濃度を調整する調整処理を実行する。なお、以下の説明では、循環経路600からインクの一部を排出するとともに、循環経路600に新たなインクを供給することを、インクの排出制御と適宜に称する。この調整処理によって、循環経路600におけるインクの濃度は、記録画質の低下が生じ難い所定の温度範囲内に調整される。なお、調整処理(および取得処理)を実行するタイミングは、ジョブによる記録動作の実行前または実行後に限定されるものではなく、例えば、ユーザからの指示があったタイミングで実行するようにしてもよい。調整処理は、インクの種類ごとに実行される。
【0054】
=エンジンコントローラ204の機能的構成=
取得処理および調整処理は、エンジンコントローラ204により実行されることとなる。
図8は、エンジンコントローラ204の機能的構成を示すブロック図である。なお、
図8に示すエンジンコントローラ204の各構成については、例えば、エンジンコントローラ204に設けられたCPU、ROM、RAMなどの公知のハードウェア構成により実現される。
【0055】
エンジンコントローラ204は、記録素子基板402に設けられた温度検知部520の検知結果に基づいて、記録素子基板402に設けられた温調用ヒータ(不図示)による記録ヘッド26の温度調整を制御する記録ヘッド温調制御部802を備えている。また、エンジンコントローラ204は、ノズル500からの単位時間当たりの蒸発量を取得する蒸発量取得部804を備えている。さらに、エンジンコントローラ204は、記録装置10内に設けられた温湿度センサ800での検知結果に基づいて、記録ヘッド26のノズル面400周辺の露点温度を算出する露点温度算出部806を備えている。なお、温湿度センサ800については、記録ヘッド26と記録媒体との間の空間の温度および湿度(相対湿度)を検知可能な構成となっている。
【0056】
エンジンコントローラ204は、循環経路600からのインクの排出および当該排出に伴う循環経路600へのインクの供給を制御するインク排出制御部808を備えている。また、エンジンコントローラ204は、循環経路600におけるインクの濃度の推定値を算出する濃度推定値算出部810と、画像濃度補正を実行する画像濃度補正部812と、を備えている。さらに、エンジンコントローラ204は、後述するドット数算出部816での算出結果に基づいて、記録デューティを算出する記録デューティ算出部814を備えている。さらにまた、エンジンコントローラ204は、記録データに基づいて記録ヘッド26のノズルから吐出されるインク滴数を算出するドット数算出部816を備えている。
【0057】
=取得処理=
記録装置10では、ジョブが入力されてから記録動作を実行する前のタイミング、あるいは、ジョブによる記録動作が終了した後のタイミングで、取得処理が実行され、取得処理で取得した情報を用いて、調整処理が実行される。まず、取得処理について説明する。
図9は、取得処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。
図9のフローチャートで示される一連の処理は、エンジンコントローラ204のCPUが、エンジンコントローラ204のROMに記憶されているプログラムコードを、エンジンコントローラ204のRAMに展開して実行されることにより行われる。あるいは、
図9におけるステップの一部または全部の機能をASICまたは電気回路などのハードウェアで実行してもよい。
【0058】
取得処理が開始されると、まず、S902において、記録ヘッド温調制御部802が、各記録素子基板402の温度を取得する。具体的には、各記録素子基板402に設けられた温度検知部520の検知結果を取得する。取得のタイミングとしては、例えば、200msec周期とする。この場合、例えば、搬送速度0.6765mm/secで搬送されるA4の記録媒体1枚あたり、おおよそ4回取得できる。また、S904において、記録ヘッド温調制御部802が、記録ヘッド26における記録素子基板402の温調制御のための目標温度を取得する。本実施形態では、S902で取得した各温度検知部520での温度のうち、最も高い温度を目標温度として取得する。なお、目標温度は、各温度検知部520の検知結果の平均値としてもよいし、最も低い温度としてもよい。
【0059】
次に、S906において、露点温度算出部806が、温湿度センサ800で検知した温度および相対湿度を取得し、取得した温度および相対湿度を用いて露点温度を算出する。そして、S908において、蒸発量取得部804が、S906で取得した露点温度およびS904で取得した目標温度に基づいて、ノズルからの、単位時間当たりのインクの蒸発量を取得する。エンジンコントローラ204のROM、RAMなどの記憶領域には、記録素子基板402の温度と露点温度との組み合わせに対応する、単位時間当たりのインクの蒸発量を示すテーブルが格納されている(
図10参照)。
図10は、記録素子基板402の温度と露点温度との組み合わせに対応する、単位時間当たりのインクの蒸発量を示すテーブルの一例を示す図である。なお、
図10では、単位時間当たりのインクの蒸発量として、V1からV40まで記号を記載しているが、実際には、単位時間当たりのインクの蒸発量に対応する数値が入力されている。従って、S908では、
図10のテーブルを用いて、単位時間当たりのインクの蒸発量を取得することとなる。
【0060】
また、S910において、ドット数算出部816が、記録ヘッド26のすべてのノズル500から吐出されるインク滴の数をカウントする。そして、S912において、記録デューティ算出部814が、所定の時間当たりの記録デューティを算出し、ジョブでの記録動作で消費するインクの消費量を取得する。即ち、ジョブの実行前に取得処理が実行されている場合には、S910では、これから実行するジョブの直前のジョブで実行された記録動作で用いた記録データに基づいて、記録ヘッド26で吐出するインク滴の数を算出する。また、S912では、これから実行するジョブの直前のジョブで実行された記録動作でのインクの消費量が取得される。一方、ジョブの実行後に取得処理が 実行されている場合には、S910では、実行したジョブでの記録動作で用いた記録データに基づいて、記録ヘッド26で吐出するインク滴の数を算出する。また、S912では、実行したジョブにおける記録動作でのインクの消費量が取得される。
【0061】
その後、S914において、濃度推定値算出部810が、S908で取得した蒸発量と、S912で取得した消費量とに基づいて、循環経路600内のインクの濃度推定値を算出し、この取得処理を終了する。単位時間当たりのインクの蒸発量と、記録動作で消費したインクの消費量とに基づいて、循環経路内のインクの濃度推定値を取得する技術については、公知技術であるため、その詳細な説明は省略する。算出される濃度推定値は、例えば、計算を簡略化させるために、蒸発量によって循環経路内の増粘したインクが、増粘していないインクと混ざって一定時間後に均一に変化した後の状態であると想定する。この場合、実際にはノズルから蒸発して増粘したインクが循環経路内で均一になるまでにある程度時間を要するが、あえて蒸発に対して厳しい条件で試算することとなる。
【0062】
=調整処理=
取得処理が終了すると、次に、循環経路600におけるインクの濃度を調整する調整処理を実行する。この調整処理は、エンジンコントローラ204のインク排出制御部808により実行される。
図11は、調整処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。
図11のフローチャートで示される一連の処理は、エンジンコントローラ204のCPUが、エンジンコントローラ204のROMに記憶されているプログラムコードを、エンジンコントローラ204のRAMに展開して実行されることにより行われる。あるいは、
図11におけるステップの一部または全部の機能をASICまたは電気回路などのハードウェアで実行してもよい。
【0063】
調整処理が開始されると、まず、S1102において、インク排出制御部808が、取得処理で取得された濃度推定値Nを取得する。また、S1104において、インク排出制御部808が、エンジンコントローラ204のROM、RAMなどの記憶領域に格納された推定誤差Erを取得する。推定誤差Erは、取得処理で取得するインクの濃度推定値に生じ得る誤差であり、実験的に決定して取得された値が、記憶領域に格納されている。この推定誤差Erについては後述する。
【0064】
次に、S1106において、インク排出制御部808が、閾値Thが「0(初期値)」か否かを判定する。S1106において、閾値Thが「0」であると判定されると、S1108に進み、インク排出制御部808が、濃度推定値Nと推定誤差Erとの和が、限界値以上(限界値Th_1以上)であるか否かを判定する。S1108において、N+Er≧Th_1でない、つまり、濃度推定値Nと推定誤差Erとの和が、限界値Th_1未満であると判定されると、この調整処理を終了する。また、S1108において、N+Er≧Th_1であると判定されると、S1110に進み、インク排出制御部808が、循環経路600から少量のインクを排出する第1排出制御を実行する。なお、限界値Th_1は、インクの排出を実行する必要があるか否かを判定するための閾値である。限界値Th_1は、循環経路600内のインク濃度上昇によって、インクの排出制御を実行しなければならなくなるインク濃度の下限値を実験的に求め、その値またはその値から所定量だけ小さい値を限界値として設定する。インクの吐出制御を実行しなければならないインク濃度とは、例えば、記録画像における濃度ムラの発生、ノズルからのインクの吐出特性の低下、および循環経路におけるインクの循環機能の信頼性の低下の少なくとも1つが生じるインクの濃度である。
【0065】
具体的には、S1110では、第1排出制御として、インク排出制御部808が、循環経路600から少量のインクを排出するとともに、循環経路600に当該排出した量に対応した量のインクを供給する。少量とは、例えば、200gとする。循環経路600からのインクの排出としては、例えば、メンテナンス部28のキャップ部に、記録ヘッド26の各ノズルから、記録に寄与しないインクを吐出する予備吐出を行う。あるいは、キャップ部内を吸引して減圧して、記録ヘッド26の各ノズルからインクを強制的に吸引する吸引排出を行う。なお、循環経路600からのインクの排出方法については、これに限定されるものではなく、バッファタンク604からインクを排出するなど、公知の種々の技術を適用することができる。この場合、その排出方法によっては、安定して循環経路600からインクを排出することが可能な構成を、記録装置10は保持することとなる。また、S1110では、このときの推定濃度値N0と推定誤差Er0との比率R0(Er0/N0)を取得する。その後、S1112において、インク排出制御部808が、閾値Thを、濃度推定値Nに設定し、この調整処理を終了する。
【0066】
一方、S1106において、閾値Thが「0」でないと判定されると、S1116に進み、インク排出制御部808は、下記の2つの条件の少なくとも一方が満たされているか否かを判定する。条件1:N+Er≧Th1。条件2:R≧R0。Rは、この時点tでの濃度推定値Ntと推定誤差Ertとの比率(Ert/Nt)である。
【0067】
S1116において、条件1、条件2の両方ともが満たされていないと判定されると、S1118に進み、インク排出制御部808が、循環経路600から少量のインクを排出する第1排出を実行し、その後、調整処理を終了する。S1118の具体的な処理内容は、S1110と同じである。また、S1116において、条件1および条件2の少なくとも一方が満たされていると判定されると、S1120に進み、インク排出制御部808が、循環経路600から多量のインクを排出する第2排出制御を実行する。
【0068】
具体的には、S1120では、第2排出制御として、インク排出制御部808が、循環経路600から多量のインクを排出するとともに、循環経路600に当該排出した量に対応した量のインクを供給する。多量とは、バッファタンク604の容量および記録ヘッド26へのインクの供給動作を考慮して、例えば、1280gとする。この量については、例えば、循環経路600からインクを排出後にインクを供給しても、追加の処理を実行することなく、循環経路600にインクを満たすことが可能なインク量の上限値あるいは当該上限値よりも一定量だけ少なくなるように設定する。
【0069】
その後、S1122において、インク排出制御部808が、閾値Thを初期化して「0」とし、その後、調整処理を終了する。N+Er≧Th_1を満たす濃度推定値Nは、推定誤差Erの範囲内で変化する可能性がある。このため、本実施形態では、多量のインクを排出する第2排出制御後に、上記した濃度推定値Nに対応して設定された閾値Thを初期化することで、再度、N+Er≧Th_1を満たす濃度推定値Nを閾値Thに設定するようにしている。
【0070】
<推定誤差>
次に、S1104で取得する推定誤差Erについて説明する。
【0071】
濃度推定値に誤差が生じる原因としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0072】
・ノズル近傍でのインクの流速(ノズル循環流速)
・記録媒体の搬送方向における記録ヘッド26の配置位置
・記録媒体への吸湿
推定誤差は、プラス成分、マイナス成分があり、プラス成分では、濃度推定値を上昇させることとなる。記録ヘッド26の配置位置では、基本的にプラス成分となるが、搬送方向での位置に応じてマイナス成分となることもある。ノズル循環流速は、高いほどフレッシュなインクがノズル近傍に供給されるため、ノズルからの蒸発が促進される。記録媒体への吸湿は、高いほど記録ヘッド26と記録媒体との間の空間の水分が記録媒体へ奪われるようになるため、ノズルからのインクの蒸発が促進される。
【0073】
図12は、記録素子基板402の温度35℃、露点温度10℃(温度:25℃、相対湿度40%)のときの、ノズル循環流速と蒸発量との関係を示すグラフである。ノズル循環流速の公差中心値は45mm/secであり、公差最大値は60mm/secである。
図12に示すノズル循環流速と蒸発量との関係から、ノズル循環流速45mm/secのときには蒸発量が6.83g/hourとなり、ノズル循環流速60mm/secのときには蒸発量が8.29g/hourとなる。
【0074】
記録媒体への吸湿によって、ワースト条件(記録デューティ0%)で露点温度が2℃低下することが実験結果から得られている。露点温度2℃分の蒸発量増加分を、ノズル循環流速60mm/secでの蒸発量に加算すると、蒸発量は8.55g/hourとなる。
【0075】
そして、記録装置10において、ノズル循環流速の公差中心値45mm/secとしたときと、ノズル循環流速の公差最大値60mm/secとしたときとで、下記の条件で駆動して、ノズル循環流速による濃度推定値の誤差を算出する。以下、ノズル循環流速の公差中心値45mm/secとしたときを、「公差中心時」と適宜に称し、ノズル循環流速の公差最大値60mm/secとしたときと、「公差最大時」と適宜に称する。
【0076】
・搬送速度:0.6765mm/sec
・用紙(記録媒体)サイズ:A4(297mm×210mm)
・記録デューティ:0%
・記録時間:連続1000hour
・インクの排出制御:蒸発率(蒸発量/循環経路600でのインク量)10%到達時
・循環経路600でのインク量:2180g
そして、公差中心時および公差最大時ともに、インクの排出制御を実行するタイミングを、公差最大時のインク排出制御を実行するタイミングとした。つまり、公差最大時に蒸発率10%となったタイミングで、公差中心時もインクの排出制御を実行するようにした。なお、公差最大時(蒸発量8.55g/hour)の方が、公差中心時(蒸発量6.83b/hour)よりも蒸発量が大きいため、公差最大時の方が、インクの排出制御を実行するタイミングに早く到達する。
【0077】
こうした条件で記録装置10を動作させた際の、経過時間に対する、公差最大時と公差中心時とにおけるインクの蒸発率の差分は、
図13のようになる。
図13は、実験により取得した公差最大時と公差中心時とのインクの蒸発率の差分である推定誤差の推移を示すグラフである。
図13のグラフから明らかなように、両者の蒸発率の差分の上限値が3%となっている。従って、この実験結果から、蒸発率の差分(濃度誤差)の上限値3%に対応する濃度値を、推定誤差として設定する。
【0078】
排出制御時のインクの排出量、供給量、および供給するインクの濃度のそれぞれの値が精度よく一定であれば、上記実験で取得した蒸発率の差分の上限値は、3%よりも大きくなることはない。しかしながら、上記した値は、製品形態でばらつきが生じ、一定とはならない虞がある。
【0079】
例えば、上記実験と同条件で、メインタンク606から蒸発率2%のインクが供給された場合には、推定誤差の推移は、
図14のようになり、蒸発率の差分の上限値が上昇している。
図14は、インクの排出制御の際に、蒸発率2%のインクが供給された際の、濃度誤差の推移を示すグラフである。
【0080】
なお、上記した値に生じる製品形態でのばらつきを加味して、インクの排出制御の実行を判定する際にインクの濃度推定値と比較する閾値(限界値Th_1)を設定したとする。この場合、当該閾値は低い値に設定されてしまい、インクの排出制御の実行頻度が高くなり、廃インクの発生量が増大してしまう。
【0081】
本実施形態では、インクの排出制御の実行を判定する際に用いる濃度推定値の誤差成分を考慮して、インクの排出制御の実行を行うようにする。具体的には、濃度推定値が、最初のインクの排出制御時(S1110での排出制御)の値を超えた場合に、その後のインクの排出制御を実行するようにした。そして、その後のインクの排出制御では、推定誤差を考慮して、インクの排出量の異なるインクの排出制御を選択的に実行するようにした。
【0082】
図15は、濃度推定値および推定誤差のインクの排出制御による変化を示した概念図である。実線は、インクの濃度推定値の変化を表し、エラーバーは、その濃度推定値のときに実際の推定誤差を示している。エラーバー、つまり、推定誤差は、経時的に大きくなる。このため、本実施形態では、2回目以降(閾値Thを設定した後)のインクの排出制御では、推定誤差の上限値に達した時点で第2の排出制御を実行するようにする。
【0083】
また、
図25は、R≧R0によって第2の排出制御が実行される、濃度推定値および推定誤差のインクの排出制御による変化を示す概念図である。濃度推定値Nと推定誤差Erとによる値が限界値Th_1に到達している時間k以降に、何らかの異常動作によって、時間k+nにおいて推定誤差Erを大きく計上することで(Er
k+n/D)≧(Er
k/N)となり、第2の排出制御が実行される。なお、「D」は、時間k+nでの濃度推定値である。また、異常動作とは、例えば、温調温度異常、キャップ部の動作エラーなどである。
【0084】
<作用効果>
以上において説明したように、記録動作中にインクを循環する構成を備えた記録装置10において、ジョブの実行前または実行後に、直近のジョブによる記録動作によって上昇した循環経路内のインク濃度を調整するために、インクの排出制御を行うようにした。具体的には、循環経路内のインク濃度の推定値および推定値が取り得る誤差である推定誤差といった循環経路におけるインクの濃度に関する情報を用いて、インクの排出制御の実行の要否、およびインクの排出制御時のインク排出量の多少を決定するようにした。
【0085】
これにより、本実施形態では、濃度推定値の誤差を考慮することなく、濃度推定値を用いてインクの排出制御を実行するようにした公知技術と比較して、インクの排出制御時のインクの排出量を抑制することができる。このため、インクの排出制御による廃インクの発生量を抑制することができ、コストダウンに寄与することができるようになる。
【0086】
(第2実施形態)
次に、
図16乃至
図23を参照しながら、第2実施形態による記録装置について説明する。なお、以下の説明では、上記した第1実施形態で説明した記録装置と同一または相当する構成については、第1実施形態で用いた符号と同一の符号を用いることにより、その詳細な説明を省略する。
【0087】
循環経路600内でのインクの濃度上昇に伴うインクの排出制御は、記録画像での濃度ムラの発生、インクの吐出特性の低下、および循環機能の信頼性の低下に応じて設定された閾値に基づいて実行される。しかしながら、本願発明者は、濃度ムラの発生は、インクの吐出特性の低下および循環機能の信頼性の低下よりも、比較的小さいインクの濃度上昇で生じるという知見を得た。
【0088】
濃度ムラは、記録ヘッド26の吐出量のばらつきに対して、記録媒体上に付与するインク液滴の発数(ドット数)を制御する画像濃度補正を実行することにより、その視認性を低減することができる。なお、インク濃度が変動すると、例えば、装置設置時に行う初期調整での画像濃度補正時に取得された補正情報をそのまま使い続けると、適切に補正されなくなり、濃度ムラが生じる虞がある。
【0089】
本願発明者の知見では、濃度ムラについては、インクの濃度が2.5%から3.0%上昇すると濃度ムラが視認される可能性があることがわかった。一方、インクの吐出特性および循環機能の信頼性については、上記したインク濃度の上昇では、低下が認められなかった。このことから、画像濃度補正を実施することで、インクの排出制御が必要となる濃度が比較的高い、インクの吐出特性の低下および循環機能の信頼性の低下に合わせて閾値を設定することができるようになる。これにより、インクの排出制御を実行する回数を抑制することができるようになり、廃インクの発生量を抑制することができるようになる。
【0090】
そこで、第2実施形態では、調整処理と並行して、インク濃度の変化に基づいて生じる濃度ムラを補正する画像濃度補正(以下、「インク濃度に基づく画像濃度補正」と適宜に称する。)を実行するか否かを決定する決定処理を実行するようにした。即ち、第2実施形態では、ジョブの実行前または実行後に、インクの排出制御に対する処理と、画像濃度補正に対する処理とを実行することとなり、この処理の結果に基づいて、インクの排出制御および画像濃度補正を実行することとなる。
【0091】
本実施形態では、取得処理で取得した濃度推定値を用いて、循環経路600のインクの濃度を調整する調整処理と並行して、記録データの生成時に画像濃度補正の実行の要否を決定する決定処理を実行する。即ち、本実施形態では、取得処理後に、調整処理と並行して決定処理を実行することとなる。以下の説明では、取得処理および調整処理については、上記した第1実施形態と同じ処理であるため、その詳細な説明は省略し、決定処理について、詳細に説明することとする。
【0092】
<決定処理>
図16は、インク濃度に基づく画像濃度補正の実行を実行するか否か決定する決定処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。この決定処理は、エンジンコントローラ204の画像濃度補正部812により実行される。
図16のフローチャートで示される一連の処理は、エンジンコントローラ204のCPUが、エンジンコントローラ204のROMに記憶されているプログラムコードを、エンジンコントローラ204のRAMに展開して実行されることにより行われる。あるいは、
図16におけるステップの一部または全部の機能をASICまたは電気回路などのハードウェアで実行してもよい。
【0093】
決定処理が開始されると、まず、S1602において、画像濃度補正部812は、直近で画像濃度補正を実行したときの濃度推定値Ncを取得する。後述するように、直近で画像濃度補正を実行したときの濃度推定値Ncは、エンジンコントローラ204のROM、RAMなどの記憶領域に記憶されている。なお、最初に循環経路600にインクを充填した、あるいは、循環経路600にインクを再充填したなどのタイミングでは、例えば、メインタンク606に貯留されているインクの濃度を取得することとなる。なお、メインタンク606でのインク濃度については、記憶領域に保持されているものとする。
【0094】
次に、S1604において、画像濃度補正部812は、直近の取得処理で取得したインクの濃度推定値Nを取得する。そして、S1606において、画像濃度補正部812は、
S1602で取得した濃度推定値Ncと、S1604で取得した濃度推定値Nとの差分、が2%以上か否か(つまり、|N-Nc|≧2)を判定する。
【0095】
この閾値としての2%については、本願発明者による以下の実験に基づいて取得した。本願発明者は、ノズル列の延在方向に対して600dpiで16画素(0.677m)の分解能で画像濃度補正を行い、この周波数でどこまで色差をつけると濃度ムラとして視認されるかという官能評価を行った。この結果、ΔE2000で1以上が視認可とする割合が最も多かった。そこで、規格(近接ΔE)を0.8以内と設定し、これを満足するインク濃度の変化量が2%である実験結果を得た。従って、S1606で用いる閾値については、各種の条件に応じて、上記のような実験を実行することによって取得される値となっている。つまり、当該閾値は、適宜に設定される値となっている。
【0096】
S1606において、|N-Nc|≧2であると判定されると、S1608に進み、画像濃度補正部812は、画像濃度補正を実行することを決定する。その後、S1610に進み、画像濃度補正部812は、記憶領域に記憶されている、画像濃度補正を実行したときの濃度推定値Ncを、S1604で取得した濃度補正値Nに更新し、この決定処理を終了する。また、S1606において、|N-Nc|≧2でないと判定されると、S1612に進み、画像濃度補正部812は、画像濃度補正を実行しないことを決定し、この決定処理を終了する。決定処理が終了すると、決定処理において決定した画像濃度補正の実行の要否に応じて、画像濃度補正部812は、この決定処理後のジョブの記録動作で用いる記録データの生成時に、画像濃度補正を実行することとなる。
【0097】
<画像濃度補正>
次に、インク濃度に基づく画像濃度補正について説明する。記録装置10では、インク濃度に基づく画像濃度補正として、インク濃度に基づくヘッドシェーディング(HS)処理およびカラーシェーディング(CS)処理を行う。
図17は、画像濃度補正を実行する画像処理部212の機能的構成を示す図であり、(a)はHS処理に対応する構成を示し、(b)はHS処理およびCS処理に対応する構成を示す。
図17に示す各構成については、メインコントローラ202におけるCPU、ROM、およびRAMにより実現される。
【0098】
=HS処理=
HS処理は、画像処理部212により実行される。まず、
図17(a)を参照しながら、HS処理を実行する画像処理部212の機能的構成について説明する。
【0099】
画像処理部212は、バッファ218から入力された画像データを、記録装置10の色再現域に対応した画像データに変換する入力色変換処理部1702を備えている。入力する画像データは、本実施形態では、モニタの表現色であるsRGBなどの色空間座標中の色座標(R、G、B)を示すデータである。入力色変換処理部1702は、この各8ビットの入力画像データR、G、Bを、記録装置10の色再現域の画像データ(R´、G´、B´)に変換する。この変換には、マトリクス演算処理や三次元ルックアップテーブル(LUT)を用いた処理などの公知の手法を用いることができる。本実施形態では、三次元LUTを用い、これに補間演算を併用して変換を行う。
【0100】
また、画像処理部212は、入力色変換処理部1702により変換された画像データに対して、記録装置10で用いる複数のインクに対応した色信号に変換する変換処理を行うインク色変換処理部1704を備えている。本実施形態では、記録装置10がKインク、Cインク、Mインク、およびYインクを用いることから、RGB信号の画像データは、K、C、M、Yの各8ビットの色信号からなる画像データに変換される。例えば、この色変換も、入力色変換処理部1702と同様、三次元LUTに補間演算を併用して行う。なお、他の変換の手法としては、マトリクス演算処理などの公知の手法を用いることができる。
【0101】
さらに、画像処理部212は、インク色変換処理部1704によりインク色変換されたインク色信号の画像データに対して、記録ヘッド26を構成する各ノズル500におけるインクの吐出特性に応じた補正を行うHS処理部1706を備えている。HS処理部1706で実行するHS処理の詳細については後述する。
【0102】
さらにまた、画像処理部212は、HS処理部1706によりHS処理された各8ビットのインク色信号からなる画像データに対して、インク色ごとに、記録されるドットの数を調整するTRC処理部1708を備えている。より詳細には、記録媒体上に記録されるドットの数と、その数のドットによって実現される明度との関係が線形になるよう、画像データを補正することで、記録媒体に記録されるドットの数を調整する。
【0103】
また、画像処理部212は、TRC処理部1708で処理された各8ビットの256値のインク色の画像データに対して、量子化処理を行い、1ビットの2値データの記録データを得る量子化処理部1710を備えている。量子化処理方法としては、ディザ法や誤差拡散法など公知の種々の技術を用いることができる。量子化処理後は、
図3のフローチャートで示す画像処理で説明した、属性情報の取得(S308)以降の処理を行って記録データ生成し、生成した記録データはバッファ218に格納される。
【0104】
次に、HS処理部1706で実行されるインク濃度に基づくHS処理について説明する。
図18は、HS処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。
図19は、記録ヘッド26における各ノズル500での濃度特性を取得するための測定用画像の一例を示す図である。
図20は、測定曲線を示す図であり、(a)はスキャン画像から取得した測定曲線であり、(b)は補正後の測定曲線である。
図18のHS処理は、メインコントローラ202における画像処理部212のHS処理部1706により実行される。
図18のフローチャートで示される一連の処理は、メインコントローラ202のCPUが、メインコントローラ202のROMに記憶されているプログラムコードを、メインコントローラ202のRAMに展開して実行されることにより行われる。あるいは、
図18におけるステップの一部または全部の機能をASICまたは電気回路などのハードウェアで実行してもよい。
【0105】
HS処理が開始されると、まず、S1802において、HS処理部1706が、インク色変換処理部1704から出力されたインク色信号の画像データを入力画像として取得する。次に、S1804において、HS処理部1706が、注目画素に対応した位置の測定曲線を取得する。
【0106】
ここで、測定曲線について説明する。測定曲線は、記録媒体上に測定用画像を記録し、記録した測定用画像を読み取って作成することとなる。測定用画像1900は、例えば、
図19のような、パッチ1902からパッチ1918までの階調の異なる9つのパッチにより構成される。各パッチは、単一のインク色のみで記録されている。本実施形態では、Kインクのみで記録されているものとする。
【0107】
測定用画像1900を単一のインク色で記録するため、測定用画像1900の画像データは、画像処理部212に入力後、TRC処理部1708へ入力される。これにより、入力色変換処理部1702、インク色変換処理部1704、およびHS処理部1706を経ずに、測定用画像1900の画像データをTRC処理部1708に直接入力することができる(
図17(a)の破線矢印参照)。その後、量子化処理部1710での処理を経て作成された測定用画像1900の記録データに基づいて、測定用画像1900を記録媒体に記録することとなる。
【0108】
記録媒体に記録された測定用画像1900は、記録装置10に設けられたスキャナ(不図示)によってスキャンされ、スキャン画像が得られる。記録媒体に記録された測定用画像1900をスキャンするスキャナおよびその配置位置については、公知の技術を用いることができるため、その詳細な説明は省略する。スキャン画像は、RGBの3チャンネルで取得された後、スキャナの色特性に合わせて事前に用意された色変換テーブルにより、1チャンネルのスキャン画像に変換される。この色変換テーブルとしては、例えば、CIEXYZ色空間のYに対して線形な16bit値に変換する色変換テーブルを用いる。
【0109】
なお、スキャン画像の色空間は任意であり、CIELab*のL*や、濃度でもよい。また、測定用画像がC、M、Yなどのカラーインクで記録されている場合には、明るさに相当する値ではなく、彩度に相当する値を用いることもできる。例えば、C、M、Yそれぞれの補色に対応する値として、R、G、Bチャンネルの値を用いてもよい。また、測定曲線を取得するための、測定用画像1900のスキャン画像は、例えば、このHS処理を実行する前に、取得しておくようにしてもよい。この場合、S1804では、記憶領域に記憶されているスキャン画像を取得することとなる。
【0110】
こうして取得したスキャン画像の信号値から補間演算によって測定曲線を取得する(
図20(a)参照)。
図20(a)の測定曲線では、横軸が測定用画像1900のパッチ1902からパッチ1918の入力信号値であり、縦軸がスキャン画像の信号値である。
図20(a)の点Pは、各パッチの入力信号値の上限であり、本実施形態では、入力信号値8bitであるため、255である。
【0111】
パッチ1902からパッチ1918のスキャン画像信号値から補間演算によって得られた測定曲線は、測定曲線2004となる。本実施形態では、補間方法として区分線形補間を用いる。補間方法は任意であり、スプライン曲線を用いる手法などの公知の各種の手法を用いることができる。測定曲線2004は、画素位置xに対応するノズルの濃度特性を表しており、測定用画像1900を記録する際に用いたノズル500の数だけ取得される。ノズル500の吐出特性ごとに異なる測定曲線が得られ、例えば、吐出量の小さいノズル500では測定曲線2004が、上方向(明るい方向)にシフトする。
【0112】
図18に戻る。測定曲線を取得すると、S1806において、HS処理部1706は、得られた測定曲線における測定値の誤差を補正して、補正後測定曲線2014を取得する(
図21(b)参照)。
図21は、スキャン画像におけるパッチ1918に対応する領域での測定値を示す図であり、(a)は記録媒体に歪みのない場合の測定値であり、(b)は記録媒体に歪みにある場合の測定値である。
図21の各図は、横軸はノズル番号であり、縦軸はスキャン画像の信号値である。ノズル番号は、記録ヘッド26に設けられた各ノズルに付された番号を表す。記録媒体に歪みがなく、記録ヘッド26とスキャナとの設置位置が十分に近い本体構成では、
図21(a)のような測定結果となる。また、記録媒体に歪みがあり、記録ヘッド26とスキャナの設置位置が遠い本体構成、あるいは、記録後に乾燥工程を経てスキャンする本体構成では、
図21(b)のような測定結果となる。2つの測定結果を比較すると、
図21(b)の測定結果では、記録媒体の歪みにより端部側の測定値が正しく取得できてないことがわかる。
図21(b)の測定結果では、端部側での波形間隔が狭くなっており、これは記録媒体の端部が浮き上がり、スキャナに対して傾きを持つためである。測定曲線へ行う補正処理は、端部以外の正常領域の測定値を用いて、端部の異常領域の測定値を補正する処理を行う処理である。なお、こうした測定曲線への補正処理については、公知技術を用いることができる。
【0113】
そして、S1808において、HS処理部1706は、目標特性2006を取得する。目標特性2006とは、各ノズル500の測定曲線に応じて予め定められた目標特性である。本実施形態では、
図20(a)に示すように、階調に対して線形となる測定値を目標特性とする。その後、S1810において、HS処理部1706は、補正後の入力値を取得する。具体的には、S1802で取得された入力値2020に対応する目標特性2006に対応する値である目標値2022を取得する(
図20(b)参照)。そして、目標値2022に対応する階調値を補正後測定曲線2014から取得し、取得した値を補正後入力値2024として取得する。なお、以降のジョブでは、例えば、決定処理において画像濃度補正の実行が再度決定されるまで、記録データの作成時には、HS処理において、S1806において取得した補正後測定曲線2014が用いられることとなる。
【0114】
=CS処理=
CS処理は、画像処理部212により実行される。まず、
図17(b)を参照しながら、HS処理およびCS処理を実行する画像処理部212の機能的構成について説明する。
【0115】
画像処理部212は、HS処理で使用する各種の構成のほかに、RGB信号の画像データに対して、記録ヘッド26におけるノズルの吐出特性に応じた補正を行うCS処理を実行するMCS処理部1712を備えている。CS処理で用いる測定用画像は、入力信号値R、G、Bをそれぞれ独立に変化させた複数のパッチを記録したものである。例えば、R、G、Bそれぞれについて、0、64、128、192、255の5階調とし、53=125通りの多次色パッチを記録する。なお、上記パッチの組み合わせは限定されず、任意である。
【0116】
CS処理に用いられる測定用画像の画像データは、画像処理部212に入力後、インク色変換処理部1704に入力される。これにより、入力色変換処理部1702およびMCS処理部1712を経ずに、測定用画像の画像データをTRC処理部1708に直接入力することができる(
図17(b)の一点鎖線矢印参照)。その後、HS処理などを経て作成された当該測定用画像の記録データに基づいて、当該測定用画像を記録媒体に記録することとなる。記録された測定用画像は、スキャナによってスキャンされ、スキャン画像が得られる。スキャン画像は、1チャンネルに変換されず、RGB3チャンネルとして保持される。
【0117】
次に、インク濃度に基づくCS処理の具体的な処理内容について説明する。
図22は、CS処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。CH処理のHS処理との主な違いは、測定用画像が多次色であること、測定値がRGB3チャンネルであることである。
図22のCS処理は、メインコントローラ202における画像処理部212のMCS処理部1712により実行される。
図22のフローチャートで示される一連の処理は、メインコントローラ202のCPUが、メインコントローラ202のROMに記憶されているプログラムコードを、メインコントローラ202のRAMに展開して実行されることにより行われる。あるいは、
図22におけるステップの一部または全部の機能をASICまたは電気回路などのハードウェアで実行してもよい。
【0118】
CS処理が開始されると、まず、S2202において、MCS処理部1712が、入力色変換処理部1702から出力された、記録装置10の色再現域に対応した画像データを入力画像とし、入力値を取得する。次に、S2204において、MCS処理部1712が、スキャナによってスキャンされたスキャン画像から、注目画素に対応したノズル位置の測定RGB値を取得する。本実施形態では、125パッチの測定値として、125個の測定RGB値が取得される。なお、上記スキャン画像については、例えば、CS処理を実行する前に、取得しておくようにしてもよい。この場合、S2204では、記憶領域に記憶されているスキャン画像を取得することとなる。
【0119】
その後、S2206において、MCS処理部1712が、測定RGB値を補正する。ここでの補正は、公知技術を用いることができる。なお、HS処理時との違いは、RGB3チャンネルのそれぞれに対して、正常領域の代表値を決定し、異常領域に適用することである。そして、S2208において、目標RGB値を取得する。例えば、入力RGBとスキャン画像の目標RGBとの対応関係を保持したLUT(不図示)を参照することで、目標RGB値を取得する。その後、S2210において、MCS処理部1712が、補正後入力値を取得する。
【0120】
ここで、S2210での、補正後入力値の取得方法について説明する。
図23は、スキャン画像のRGB値を軸とする三次元空間を示す図である。
図23における点2302は、S2208で取得した目標RGB値を表す。また、
図23における点2304、2306、2308、2310は、S2206で取得した125個の補正後測定RGB値うち、点2302を内包する最小の四面体を構成するように選択された4点の補正後測定RGB値を表す。点2302と点2304、2306、2308、2310との距離をそれぞれ算出し、距離の比率に応じて4点の入力RGB値を補間することで、補正後入力値を取得する。なお、以降のジョブでは、例えば、決定処理において画像濃度補正の実行が再度決定されるまで、記録データの作成時には、CS処理において、S2206において取得した補正情報が用いられることとなる。
【0121】
<作用効果>
以上において、説明したように、第2実施形態の記録装置10では、第1実施形態と同様のインクの排出制御を実行するとともに、循環経路600内のインクの濃度推定値に基づいて、記録データの生成時にインク濃度に基づく画像濃度補正を実行するようにした。これにより、本実施形態では、上記第1実施形態での作用効果に加えて、濃度ムラの発生を抑制しつつ、インクの排出制御の実行の要否を判断するための閾値を上昇させることができ、インクの排出制御回数を抑制して、廃インクの発生量を抑制することができる。
【0122】
即ち、インク濃度に基づく画像濃度補正を実行することで、インクの濃度推定値が比較的高いタイミングでインクの排出制御を実行することができるようになり、インクの排出制御により生じる廃インク量の増大を抑制することができる。なお、例えば、インクの排出制御後の循環経路600内のインクの濃度推定値を、前回の画像濃度補正時の濃度推定値から2%未満の変化となるよう第1排出制御を実行するようにする。これにより、第1排出制御後には、画像濃度補正をしなくても、記録画像に濃度ムラを生じることなく記録を行うことができるようになる。
【0123】
(他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下の(1)乃至(7)に示すように変形してもよい。
【0124】
(1)上記第1実施形態では、記録デューティ0%のときの推定誤差の上限値を、推定誤差として保持するようにしたが、これに限定されるものではない。推定誤差は、記録デューティが高くなるほど小さくなる。
図24は、
図13の実験結果を得た実験の条件のうち、記録デューティを2%に変更した際の、推定誤差の推移を示す図である。
図24では、推定誤差の上限値は2%程度となっている。従って、記録デューティに応じた推定誤差の上限を保持するようにしてもよい。この場合、調整処理では、ジョブによる記録動作での記録デューティに対応した推定誤差を用いることとなる。また、推定誤差の上限値ではなく、例えば、推定誤差の上限値と推定誤差の下限値との中央値としてもよいし、中央値と上限値との間の値などの所定値としてもよい。
【0125】
(2)上記第1実施形態では、濃度推定値および推定誤差に基づいて第1排出制御または第2排出制御の2種類の排出制御を実行するようにしたが、これに限定されるものではない。第1排出処理の連続した実行回数が、所定回数に達したタイミングで第2排出処理を実行し、当該実行回数が当該所定回数未満であれば第1排出制御を実行するようにしてもよい。この場合、第2排出制御を実行すると、第1排出制御の実行回数のカウント値が初期化される。
【0126】
具体的には、濃度推定値および推定誤差に基づいて排出制御を実行する形態であれば、濃度推定値Nと推定誤差Erを取得後に、N+Er≧Th_1の条件を満たすか否かを判定し、満たさない場合には、排出制御を実行しない。また、上記条件を満たす場合には、第1排出処理の実行回数のカウント値を参照する。そして、当該カウント値が、所定値未満であれば第1排出制御を実行し、当該カウント値に「1」を加算する。一方、当該カウント値が、所定値以上であれば第2排出制御を実行し、当該カウント値を初期化して「0」とする。
【0127】
あるいは、濃度推定値のみに基づいて排出制御を実行する形態であれば、濃度推定値Nが限界値Th_1以上である条件を満たすか否かを判定し、満たさない場合には、排出制御を実行しない。また、上記条件を満たす場合には、第1排出処理の実行回数のカウント値を参照する。そして、当該カウント値が、所定値未満であれば第1排出制御を実行し、当該カウント値に「1」を加算する。一方、当該カウント値が、所定値以上であれば第2排出制御を実行し、当該カウント値を初期化して「0」とする。
【0128】
(3)上記第1実施形態では、濃度推定値と推定誤差とに基づいて、インクの排出制御の要否、およびインクの排出制御時のインクの排出量の多少を決定するようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、インクの排出量を多くした排出制御(第2排出制御)の後に、HS処理およびCS処理などの画像濃度補正を実行するようにしてもよい。また、上記実施形態では特に記載しなかったが、記録装置10では、ノズルの吐出特性に基づく画像濃度補正を実行するようにしてもよい。つまり、この場合、第2実施形態では、インク濃度に基づく画像濃度補正が1回も実行されていないときには、ノズルの吐出特性に基づく画像濃度補正が実行され、画像濃度補正が実行された後には、インク濃度に基づく画像濃度補正が実行される。なお、上記実施形態で説明したように、インク濃度に基づく画像濃度補正では、測定用画像を記録しスキャンした情報を用いて補正情報を取得するようにしているため、ノズルの吐出特性に基づく濃度ムラにも対応している。
【0129】
(4)上記第2実施形態では特に記載しなかったが、記録装置10では記憶領域において、HS処理およびCS処理それぞれの補正情報を、インク濃度に応じて複数保持しておくようにしてもよい。この場合、決定処理でインク濃度に基づく画像濃度補正の実行が決定されると、濃度推定値に近似するインク濃度に関連付けられた補正情報を取得し、この補正情報を用いてHS処理およびCS処理を実行することとなる。また、以降のジョブでは、決定処理によりインク濃度に基づく画像補正処理の実行が再度決定されるまで、取得した補正情報を用いて、記録データが生成されることとなる。
【0130】
(5)上記第2実施形態では、取得処理後に、調整処理と決定処理とを並行して実行するようにしたが、これに限定されるものではない。取得処理および調整処理後に、決定処理を実行するようにしてもよい。また、上記第2実施形態では特に記載しなかったが、決定処理で画像濃度補正の実行が決定されたとしても、調整処理でインクの排出制御を実行したときには、画像濃度補正を実行しないようにしてもよい。従って、調整処理後に決定処理を実行するような形態の場合、調整処理でインクの排出制御を実行したときには、決定処理を実行しないようにしてもよい。
【0131】
(6)上記第1実施形態では特に記載しなかったが、閾値Thは、例えば、循環経路600にインクを再充填したタイミングなど所定のタイミングでも初期化されて「0」に設定される。また、上記実施形態では、第1排出制御と、第1排出制御よりもインクの排出量が多い第2排出制御の2種類の排出制御のうちの一方を選択的に実行するようにしたが、これに限定されるものではない。限界値を複数設けるなどして、インクの排出量が異なる3種類以上の排出制御から特定の排出制御を選択的に実行するようにしてもよい。
【0132】
(7)上記実施形態および上記した(1)および(6)に示す各種の形態は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【0133】
上記実施形態の開示は、以下の構成および方法を含む。
(構成1)
記録剤を吐出可能なノズルを備える記録素子基板と、
前記記録素子基板を含み、記録剤を循環させて、前記記録素子基板に記録剤を供給するとともに前記記録素子基板から吐出されなかった記録剤を回収することができる循環経路と、
前記循環経路を循環する記録剤の濃度に関する情報を取得する取得手段と、
前記濃度に関する情報に応じて、前記循環経路から記録剤を排出し、かつ、排出量に対応した量の記録剤を前記循環経路に供給するインクの排出制御を実行する排出制御手段と、を有し、
前記排出制御手段は、前記排出制御を実行する際には、インクの排出量が第1排出量となる第1排出制御および該排出量が前記第1排出量よりも多い第2排出量となる第2排出制御の一方を選択的に実行することを特徴とする記録装置。
(構成2)
前記濃度に関する情報は、
前記記録剤の濃度の推定値である濃度推定値と、
前記濃度推定値に生じ得る誤差である推定誤差と、を含むことを特徴とする構成1に記載の記録装置。
(構成3)
前記推定誤差は、記録デューティに応じて異なることを特徴とする構成2に記載の記録装置。
(構成4)
前記排出制御手段は、前記濃度推定値と前記推定誤差との和が、記録画像における濃度ムラの発生、前記ノズルからの記録剤の吐出特性の低下、および前記循環経路における記録剤の循環機能の信頼性の低下の少なくとも1つが生じるインク濃度の限界値以上であるときに、前記第1排出制御を行う第1制御を実行することを特徴とする構成2または3に記載の記録装置。
(構成5)
前記排出制御手段は、前記濃度推定値と前記推定誤差との和が、前記限界値以上となる第1条件と、前記濃度推定値と前記推定誤差との比率が、直近の前記第1制御で前記第1排出制御を行ったときの前記濃度推定値と前記推定誤差との比率以上となる第2条件と、の少なくとも一方を満たしたときに前記第2排出制御を行い、前記第1条件および前記第2条件のいずれも満たさなかったときに前記第1排出制御を行う第2制御を実行することを特徴とする構成3または4のいずれか1つに記載の記録装置。
(構成6)
前記排出制御手段は、
閾値が初期値であるときに前記第1制御を実行し、前記閾値が前記初期値と異なる値に設定されているときに前記第2制御を実行し、
前記第1制御において、前記第1排出制御を行うと、前記閾値を前記濃度推定値に設定し、
前記第2制御において、前記第2排出制御を行うと、前記閾値を初期値に設定することを特徴とする構成5に記載の記録装置。
(構成7)
前記排出制御手段は、
前記第1排出制御の連続する実行回数が所定回数未満のときには、前記第1排出制御を実行し、
前記第1排出制御の連続する実行回数が前記所定回数に達しているときには、前記第2排出制御を実行することを特徴とする構成1から3のいずれか1つに記載の記録装置。
(構成8)
記録媒体に記録するための記録データを生成する際の画像処理において、インク濃度に基づく画像濃度補正を実行可能な画像処理手段をさらに有し、
前記画像処理手段は、前記取得手段で取得した前記濃度推定値と、直近に前記画像濃度補正に関する処理を実行した際の前記濃度推定値と、の差分が閾値以上であると、前記処理として前記画像濃度補正を実行することを特徴とする構成2から5に記載の記録装置。
(構成9)
記録媒体に記録するための記録データを生成する際の画像処理において、インク濃度に基づく画像濃度補正を実行可能な画像処理手段をさらに有し、
前記画像処理手段は、前記取得手段で取得した前記濃度推定値と、直近に画像濃度補正に関する処理を実行した際の前記濃度推定値と、の差分が閾値以上であると、前記処理として前記画像濃度補正に用いる補正情報を取得することを特徴とする構成2から5に記載の記録装置。
(構成10)
前記閾値は、記録画像に濃度ムラが生じる記録剤の濃度の変化量に対応することを特徴とする構成8または9に記載の記録装置。
(構成11)
前記排出制御手段は、前記記録素子基板の前記ノズルから記録に寄与しない記録剤を吐出する予備吐出、あるいは、前記ノズルから強制的に記録剤を吸引して排出する吸引排出によって、前記循環経路から記録剤を排出することを特徴とする構成1から10のいずれか1つに記載の記録装置。
(構成12)
前記記録剤は、顔料を含有したインクおよび記録媒体に吐出された該インクに対して所定の処理を施す処理液を含むことを特徴とする構成1から11のいずれか1つに記載の記録装置。
(構成13)
記録剤を吐出可能なノズルを備えた記録素子基板を含む循環経路を循環する記録剤の濃度に応じて、前記循環経路から記録剤を排出し、かつ、排出量に応じた量の記録剤を前記循環経路に供給するインクの排出制御を実行可能な記録装置の制御方法であって、
前記循環経路を循環する記録剤の濃度に関する情報を取得し、
前記濃度に関する情報に応じて、インクの排出量が第1排出量となる第1排出制御および該排出量が前記第1排出量よりも多い第2排出量となる第2排出制御の一方を選択的に実行することを特徴とする制御方法。
【符号の説明】
【0134】
10 記録装置
204 エンジンコントローラ
402 記録素子基板
500 ノズル
600 循環経路