(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177002
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】多重管式反応容器
(51)【国際特許分類】
B01J 8/06 20060101AFI20241212BHJP
B01J 8/02 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B01J8/06 301
B01J8/02 A
B01J8/02 B
B01J8/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023126690
(22)【出願日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2023095196
(32)【優先日】2023-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】浦部 治貴
(72)【発明者】
【氏名】土居 真
【テーマコード(参考)】
4G070
【Fターム(参考)】
4G070AA01
4G070AB05
4G070BB03
4G070CA07
4G070CA10
4G070CA25
4G070CB15
4G070DA30
(57)【要約】
【課題】冷却効率が優れた多重管式反応容器を得ること、充填される触媒の交換が容易な多重管式反応容器を得ることを目的としている。
【解決手段】本発明に係る多重管式反応容器1は、反応ガスが通流すると共に触媒が充填される触媒充填容器3と、触媒充填容器3内に充填方向に沿って配設されて内部に冷却流体が通流して触媒充填容器3内の触媒を冷却する内側冷却管5と、触媒充填容器3の外周に設けられて内部に冷却流体が通流して触媒充填容器3を外側から冷却する外殻容器7と、を備えたことを特徴とするものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応ガスが通流すると共に触媒が充填される触媒充填容器と、該触媒充填容器内に充填方向に沿って配設されて内部に冷却流体が通流して前記触媒充填容器内の触媒を冷却する内側冷却管と、前記触媒充填容器の外周に設けられて内部に冷却流体が通流して前記触媒充填容器を外側から冷却する外殻容器と、を備えたことを特徴とする多重管式反応容器。
【請求項2】
前記触媒充填容器が円筒体からなり前記内側冷却管が前記触媒充填容器の中央に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の多重管式反応容器。
【請求項3】
前記触媒充填容器は、上端部に触媒を充填する充填口を有し、下端部に触媒を排出する排出口を有し、該排出口から前記触媒を重力によって排出することが可能になっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の多重管式反応容器。
【請求項4】
前記触媒充填容器と前記内側冷却管の組を複数組有し、該複数組が一つの外殻容器に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の多重管式反応容器。
【請求項5】
前記触媒充填容器と前記内側冷却管の組を複数組有し、該複数組が一つの外殻容器に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の多重管式反応容器。
【請求項6】
前記触媒充填容器内に充填された触媒層内部の温度を検知する触媒層温度検知部と、該触媒層温度検知部で検知された検知情報を入力して、検知情報に基づく現在の触媒温度と触媒が劣化していないときの触媒無劣化時温度とを比較する触媒温度比較部と、該触媒温度比較部の比較結果に基づいて触媒交換の要否を判断する触媒交換判断部と、該触媒交換判断部によって要交換と判断されたときにその旨を報知する報知部と、を備えたことを特徴とする請求項3に記載の多重管式反応容器。
【請求項7】
前記触媒層温度検知部は触媒層の上流側から下流側に複数箇所に設けられていることを特徴とする請求項6に記載の多重管式反応容器。
【請求項8】
前記充填口を開閉する充填口開閉部材と、前記排出口を開閉する排出口開閉部材と、前記充填口開閉部材及び前記排出口開閉部材の開閉操作を行うアクチュエータと、を備え、
前記触媒交換判断部は前記触媒の交換が必要と判断したときに前記アクチュエータを作動させる機能を有することを特徴とする請求項6に記載の多重管式反応容器。
【請求項9】
前記触媒層温度検知部は触媒層の上流側から下流側にかけて複数箇所に設けられており、複数の前記触媒層温度検知部の入力に基づいて前記触媒層の温度変動が触媒劣化に起因するのか反応ガス変動に起因するのかを判断する温度変動原因判断部をさらに備え、
前記触媒交換判断部は、温度変動原因判断部によって温度変動が触媒劣化に起因すると判断されたときに交換判断を行うことを特徴とする請求項6に記載の多重管式反応容器。
【請求項10】
前記触媒充填容器に供給される反応ガスの温度、圧力、流量、濃度を検知する供給反応ガス性状検知部と、想定される前記反応ガスの性状ごとに劣化していない触媒が呈する温度を記憶した無劣化触媒温度データベースと、該無劣化触媒温度データベースと前記供給反応ガス性状検知部からのデータに基づいて現状の反応ガス性状における無劣化触媒温度を推定する無劣化触媒温度推定部と、をさらに備え、
前記触媒温度比較部は、前記無劣化触媒温度推定部によって推定された無劣化触媒温度と前記触媒層温度検知部で検知された触媒温度とを比較することを特徴とする請求項6に記載の多重管式反応容器。
【請求項11】
前記触媒層温度検知部は、触媒層の上流側から下流側に複数箇所設けられており、
前記触媒充填容器に供給される反応ガスの温度、圧力、流量、濃度を検知する供給反応ガス性状検知部と、
前記触媒充填容器から排出される反応ガスの温度、圧力、流量、濃度を検知する排出反応ガス性状検知部と、
前記触媒充填容器の壁面温度を検知する壁面温度検知部と、
前記触媒充填容器材・触媒の物性データベースと、
前記温度検知部、前記供給反応ガス性状検知部、前記排出反応ガス性状検知部、前記壁面温度検知部、及び前記物性データベースに基づいて劣化していない触媒の前記複数箇所のそれぞれにおける無劣化触媒温度を推定する触媒層温度分布推定部と、をさらに備え、
前記触媒温度比較部は、前記触媒層温度推定部によって推定された無劣化触媒温度と前記触媒層温度検知部で検知された温度とを比較することを特徴とする請求項6に記載の多重管式反応容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
反応ガスが通流すると共に触媒が充填される触媒充填容器を備えた反応容器に関し、特に反応容器が多重管になっている多重管式反応容器に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒反応は多くの場合発熱反応であり、反応器スケールが大きくなると触媒充填層内の異常発熱による反応の暴走や触媒・設備の損傷が懸念されるため、冷却機構が重要である。
例えば、特許文献1では、触媒充填層内に冷媒が流れる伝熱管を設置して充填層から冷却する、という手法が開示されている。
【0003】
また、触媒反応は、原料に含まれる不純物による被毒や生成物の触媒表面への付着などにより徐々に触媒の活性が低下してくる。このため、反応器に充填した触媒は定期的に交換されるのが一般的である。
【0004】
触媒の交換方法として、例えば特許文献2では、二重管先端部を切断開口して真空ポンプホースを入れて充填材を吸い出し、再充填後溶接して閉じる、という手法が開示されている。
また、特許文献3では、触媒が充填された管に流体を送って充填物を押し流す、という手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-229147号公報
【特許文献2】特開平10-328555号公報
【特許文献3】特開昭60-71036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
冷却機構に関し、特許文献1の方法では、充填層内の伝熱管に近い領域の冷却効率は良いが、充填容器壁面近傍など伝熱管から離れた領域は冷却効率が悪いという問題がある。
【0007】
また、触媒の交換に関し、特許文献2の方法では、触媒を吸い出す真空ポンプ動力がかかる。また、触媒を吸い上げているため、重力の影響で触媒が落下することもあり、全てを回収するのは難しいという問題がある。
また、特許文献2では、触媒の回収に先立って容器を切断して開放し、充填後には切断部分を溶接して閉じるという作業が必要であり、労力やコストがかかるという問題もある。
【0008】
また、特許文献3の方法では、流体を送るための動力がかかるという問題がある。また、充填物を押し流す場合、容器形状によっては充填材が構造的にトラップされ、全量を回収できないという問題もある。
【0009】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、第一に冷却効率が優れた多重管式反応容器を得ることを目的としている。
第二に、充填される触媒の交換が容易な多重管式反応容器を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る多重管式反応容器は、反応ガスが通流すると共に触媒が充填される触媒充填容器と、該触媒充填容器内に充填方向に沿って配設されて内部に冷却流体が通流して前記触媒充填容器内の触媒を冷却する内側冷却管と、前記触媒充填容器の外周に設けられて内部に冷却流体が通流して前記触媒充填容器を外側から冷却する外殻容器と、を備えたことを特徴とするものである。
【0011】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記触媒充填容器が円筒体からなり前記内側冷却管が前記触媒充填容器の中央に配置されていることを特徴とするものである。
【0012】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記触媒充填容器は、上端部に触媒を充填する充填口を有し、下端部に触媒を排出する排出口を有し、該排出口から前記触媒を重力によって排出することが可能になっていることを特徴とするものである。
【0013】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記触媒充填容器と前記内側冷却管の組を複数組有し、該複数組が一つの外殻容器に設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
(5)また、上記(3)に記載のものにおいて、前記触媒充填容器内に充填された触媒層内部の温度を検知する触媒層温度検知部と、該触媒層温度検知部で検知された検知情報を入力して、検知情報に基づく現在の触媒温度と触媒が劣化していないときの触媒無劣化時温度とを比較する触媒温度比較部と、該触媒温度比較部の比較結果に基づいて触媒交換の要否を判断する触媒交換判断部と、該触媒交換判断部によって要交換と判断されたときにその旨を報知する報知部と、を備えたことを特徴とするものである。
【0015】
(6)また、上記(5)に記載のものにおいて、前記触媒層温度検知部は触媒層の上流側から下流側に複数箇所に設けられていることを特徴とするものである。
【0016】
(7)また、上記(5)に記載のものにおいて、前記充填口を開閉する充填口開閉部材と、前記排出口を開閉する排出口開閉部材と、前記充填口開閉部材及び前記排出口開閉部材の開閉操作を行うアクチュエータと、を備え、
前記触媒交換判断部は前記触媒の交換が必要と判断したときに前記アクチュエータを作動させる機能を有することを特徴とするものである。
【0017】
(8)また、上記(5)に記載のものにおいて、前記触媒層温度検知部は触媒層の上流側から下流側にかけて複数箇所に設けられており、複数の前記触媒層温度検知部の入力に基づいて前記触媒層の温度変動が触媒劣化に起因するのか反応ガス変動に起因するのかを判断する温度変動原因判断部をさらに備え、
前記触媒交換判断部は、温度変動原因判断部によって温度変動が触媒劣化に起因すると判断されたときに交換判断を行うことを特徴とするものである。
【0018】
(9)また、上記(5)に記載のものにおいて、前記触媒充填容器に供給される反応ガスの温度、圧力、流量、濃度を検知する供給反応ガス性状検知部と、想定される前記反応ガスの性状ごとに劣化していない触媒が呈する温度を記憶した無劣化触媒温度データベースと、該無劣化触媒温度データベースと前記供給反応ガス性状検知部からのデータに基づいて現状の反応ガス性状における無劣化触媒温度を推定する無劣化触媒温度推定部と、をさらに備え、
前記触媒温度比較部は、前記無劣化触媒温度推定部によって推定された無劣化触媒温度と前記触媒層温度検知部で検知された触媒温度とを比較することを特徴とするものである。
【0019】
(10)また、上記(5)に記載のものにおいて、前記触媒層温度検知部は、触媒層の上流側から下流側に複数箇所設けられており、
前記触媒充填容器に供給される反応ガスの温度、圧力、流量、濃度を検知する供給反応ガス性状検知部と、
前記触媒充填容器から排出される反応ガスの温度、圧力、流量、濃度を検知する排出反応ガス性状検知部と、
前記触媒充填容器の壁面温度を検知する壁面温度検知部と、
前記触媒充填容器材・触媒の物性データベースと、
前記温度検知部、前記供給反応ガス性状検知部、前記排出反応ガス性状検知部、前記壁面温度検知部、及び前記物性データベースに基づいて劣化していない触媒の前記複数箇所のそれぞれにおける無劣化触媒温度を推定する触媒層温度分布推定部と、をさらに備え、
前記触媒温度比較部は、前記触媒層温度推定部によって推定された無劣化触媒温度と前記触媒層温度検知部で検知された温度とを比較することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、反応ガスが通流すると共に触媒が充填される触媒充填容器と、該触媒充填容器内に充填方向に沿って配設されて内部に冷却流体が通流して前記触媒充填容器内の触媒を冷却する内側冷却管と、前記触媒充填容器の外周に設けられて内部に冷却流体が通流して前記触媒充填容器を外側から冷却する外殻容器と、を備えたことにより、触媒充填層を内側と外側の両側から冷却することができるので、冷却効率に優れる。
【0021】
また、触媒充填容器は、上端部に触媒を充填する充填口を有し、下端部に触媒を排出する排出口を有し、該排出口から前記触媒を重力によって排出することが可能になっているので、触媒の排出と充填が容易にでき、触媒交換作業効率に優れる。
【0022】
さらに、触媒充填容器内に充填された触媒層内部の温度を検知する触媒層温度検知部と、該触媒層温度検知部で検知された検知情報を入力して、検知情報に基づく現在の触媒温度と触媒が劣化していないときの無劣化触媒温度とを比較する触媒温度比較部と、該触媒温度比較部の比較結果に基づいて触媒交換の要否を判断する触媒交換判断部と、該触媒交換判断部によって要交換と判断されたときにその旨を報知する報知部と、を備えたことにより、触媒交換に際して全量交換することなく、劣化が進行して性能が低下した触媒のみを交換することができるので、触媒コストを抑えた触媒の有効活用ができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る多重管式反応容器の説明図である。
【
図2】本発明の実施の形態2に係る多重管式反応容器の説明図である。
【
図3】実施の形態1、2における触媒充填容器及び内側冷却管の他の態様の説明図である。
【
図4】
図3に示した他の態様の詳細説明図であり、
図4(a)は触媒充填容器3と蓋部材13の天面を示し、
図4(b)は蓋部材13を共に取り外した状態を示し、
図4(c)は開閉弁19を示している。
【
図5】実施の形態3に係る多重管式反応容器の説明図である。
【
図6】実施の形態3の他の態様に係る多重管式反応容器の説明図である。
【
図7】実施の形態3の他の態様に係る多重管式反応容器の説明図である。
【
図8】実施の形態4に係る多重管式反応容器の説明図である。
【
図9】実施の形態5に係る多重管式反応容器の説明図である。
【
図10】実施の形態6に係る多重管式反応容器の説明図である。
【
図11】実施の形態6の他の態様に係る多重管式反応容器の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[実施の形態1]
実施の形態1に係る多重管式反応容器1は、
図1に示すように、触媒充填容器3と、内側冷却管5と、外殻容器7と、を備えている。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0025】
<触媒充填容器>
触媒充填容器3は、反応ガスが通流すると共に触媒が充填される容器である。本実施の形態では、
図1に示すように、円筒体からなるものであるが、筒状であればその形状は特に限定されない。
触媒充填容器3の下部側面には反応ガスが入るガス導入口9が設けられ、触媒充填容器3の上部側面には反応ガス(液を含む場合あり)が排出されるガス排出口11が設けられている。
【0026】
また、触媒充填容器3は、上端部に触媒を充填する充填口12を有し、この充填口12は通常時は
図1に示すように開閉可能な蓋部材13で閉止され、触媒充填時には蓋部材13を開放できるようになっている。また、触媒充填容器3は下端部に触媒を排出する排出口15を有し、排出口15から触媒を重力によって排出することが可能になっている。
排出口15は、メガホン形状の排出管17の先端に設けられている。
排出管17と上端には、スライド式の開閉弁19が設けられ、開閉弁19を図中の矢印で示す方向にスライドすることで、触媒の排出が可能になっている。
このように、充填口12および排出口15はそれぞれ充填時、排出時のみ開口させ、平常時は蓋等で閉塞できる構造になっている。
なお、排出管17の形状はメガホン形状に限定されるものではなく、どのような形状でも構わない。また、開閉弁19についてもスライド式に限定されることはなく、例えばバタフライ弁のような回転式のものでもよい。
【0027】
触媒充填容器3は、上記の構造を有することで、触媒の交換がきわめて容易になっている。
【0028】
<内側冷却管>
内側冷却管5は、触媒充填容器3内に充填方向に沿って配設されて内部に冷却流体が通流して触媒充填容器3内の触媒を冷却するものである。
内側冷却管5は、触媒充填容器3の中央に配置されている。
内側冷却管5の上端部及び下端部は、それぞれ横方向に屈曲して触媒充填容器3から突出しており、それぞれ内側冷却流体入口21及び内側冷却流体出口23となっている。
したがって、冷却流体は、上部から下部に向かって流れることになり、反応ガスが下部から上部に向かって流れるのと、対向流れとなっている。なお、この例の様に反応ガスと冷媒流体を対向流にする場合も有れば、過熱部(ガス導入部)を優先的に冷却する効果を狙って反応ガスと冷媒流体を並行流にする場合もある。
【0029】
冷却流体としては、たとえば空気、不活性ガス、水、海水、エチレングリコール等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0030】
なお、
図1に示す例では、触媒充填容器3内に1本の内側冷却管5を配設したものを示しているが、本発明はこれに限定されず、触媒充填容器3内に複数の内側冷却管5を配設するようにしてもよい。このようにすることで、触媒充填容器3内の触媒を内側から冷却する冷却効率をより向上することができる。
複数の内側冷却流体出口23同士、内側冷却流体入口21同士は連結するようにしてもよい。
【0031】
<外殻容器>
外殻容器7は、触媒充填容器3の外周に設けられて内部に冷却流体が通流して触媒充填容器3を外側から冷却するものである。
本実施の形態の外殻容器7は、
図1に示すように、触媒充填容器3よりも大径の円筒体からなり、上部側面に外側冷却流体入口25が設けられ、下部側面に外側冷却流体出口27が設けられている。したがって、外殻容器7の冷却流体の流れは、内側冷却管5と同様に上部から下部となり、反応ガスと対向流となっている。なお、冷却流体と反応ガスの流れの向きは、対向流に限らず並行流にする場合もある。
【0032】
上記のように構成された多重管式反応容器1においては、触媒充填容器3に触媒が充填され、内側冷却管5及び外殻容器7を冷却流体が流れる。
そして、触媒充填容器3に反応ガスが流れると、触媒反応により反応熱が発生する。この反応熱は、内側冷却管5を流れる冷却流体による内側と、外殻容器7を流れる冷却流体による外側から冷却される。
【0033】
このように、本実施の形態では、触媒反応熱は内側と外側の両側から冷却されるので、効率がよい。このように、内側と外側の両側から冷却可能としたことにより、触媒の温度ムラを緩和したり、ホットスポット(充填層のごく一部が異常発熱する現象)の出現を抑制したりすることができる。
【0034】
また、本実施の形態では、内側冷却管5が触媒充填容器3のほぼ中央に配置されているので、偏りなく内側からの冷却が可能である。同様に、触媒充填容器3が外殻容器7のほぼ中央に配置されているので、偏りなく外側からの冷却が可能である。
もっとも、本発明は内側冷却管5を触媒充填容器3の中央に配置するものに限定されず、また触媒充填容器3が外殻容器7の中央に配置されるものにも限定されない。
【0035】
また、本実施の形態では、触媒充填容器3は、蓋部材13を開放して充填口12から導入した触媒を排出口15から動力を使うことなく重力によって排出可能になっているので、蓋部材13の開閉や開閉弁19の開閉操作のみで簡単に触媒の排出が可能である。なお、重力によって排出可能ではあるが、さらに排出効率を良くするために掻き出し棒などの道具や、送風機などによる風圧を用いて補助しても構わない。
【0036】
[実施の形態2]
実施の形態1においては、1つの外殻容器7に対して、触媒充填容器3と内側冷却管5の組が一つ設けられるものであったが、本実施の形態2の多重管式反応容器29は、
図2に示すように、一つの外殻容器7に対して触媒充填容器3と内側冷却管5の組が複数設けたものである。
なお、
図2において、
図1と同一部分には同一の符号を付してある。
【0037】
本実施の形態においても、実施の形態1と同様の効果を奏することができる。
また、例えば、
図1に示した実施の形態1と同量の触媒を用いて
図2の態様にした場合、
図2の態様では各触媒充填容器3に充填する触媒量が少量となり、充填状態における触媒の厚みが薄くなるので、内側及び外側からの冷却効率が向上する。
【0038】
なお、各触媒充填容器3の充填口12や排出口15を連結するようにしてもよい。これによって、触媒の充填や排出を同時に行うことができ、触媒交換時の作業効率が向上する。
【0039】
実施の形態1、2の触媒充填容器3は、ガス導入口9が下部側面に設けられ、ガス排出口11が上部側面に設けられたものであったが、
図3に示すように、ガス導入口9を底面に設け、ガス排出口11を天面に設けるようにしてもよい。
また、実施の形態1、2の内側冷却管5は、上端部及び下端部がそれぞれ横方向に屈曲して、触媒充填容器3の側面から突出してそれぞれ内側冷却流体入口21及び内側冷却流体出口23となっていたが、内側冷却管5は、
図3に示すように、上端部及び下端部を屈曲させることなく触媒充填容器3の天面及び底面から突出させてそれぞれ内側冷却流体入口21及び内側冷却流体出口23としてもよい。
【0040】
この場合、蓋部材13には、
図4(b)に示すような切欠き部13aを設けるようにすればよい。また、開閉弁19についても、
図3及び
図4(c)に示すように、切欠き部19aを設けるようにすればよい。
なお、この場合、触媒充填容器3の天面には、
図4(a)に示すように、ガス排出口11を支持する天面部3a(蓋部材13の切欠き部13aから内側冷却流体入口21の面積を除いた形状)が設けられることになる。この点は、触媒充填容器3の底面においても同形状の底面部が設けられることになる。
【0041】
[実施の形態3]
触媒の活性低下は、一般的に反応ガスの流れにおける上流側に存在するものから進行していく。このため、触媒全体の収率が低下しても触媒充填容器3の下流側の触媒はそれほど劣化していないことがある。
しかし、上記の実施の形態1、2に記載のものは、触媒の交換時には触媒全量を交換しているため、それほど劣化していない(=交換寿命に達していない)触媒も交換対象にしており、触媒の効率的な活用という点で十分でないという課題がある。
【0042】
そこで、本実施の形態3においては、劣化の進んだ(交換寿命に達した)触媒を対象として交換できるようにした多重管式反応容器を提供することを目的としている。
本実施の形態に係る多重管式反応容器30を
図5に示す。なお、
図1と同一部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0043】
本実施の形態3に係る多重管式反応容器30は、
図5に示すように、触媒充填容器3内に充填された触媒層内部の温度を検知する触媒層温度検知部31と、触媒層温度検知部31で検知された検知情報を入力して、検知情報と触媒が劣化していないときの無劣化触媒温度とを比較する触媒温度比較部33と、触媒温度比較部33の比較結果に基づいて触媒の交換の要否を判断する触媒交換判断部35と、該触媒交換判断部35によって要交換と判断されたときにその旨を報知する報知部37と、を備えたものである。
以下、各構成を詳細に説明する。
【0044】
<触媒層温度検知部>
触媒層温度検知部31は、触媒充填容器3内に充填された触媒層内部の温度を検知するものである。触媒層における温度検知する部位としては、一度に交換する触媒の量との関係で適宜決定すればよい。例えば、一度に交換する触媒の量が全量の半分くらいなら、触媒充填層の上流側から下流側に向かう位置の中程を温度検知する部位とすればよい。触媒は、上流側から劣化が進むので、温度検知している部位が交換時期と判断されれば、当該部位よりも上流側の触媒を交換するようにすればよい。
【0045】
<触媒温度比較部>
触媒温度比較部33は、触媒層温度検知部31で検知された検知情報を入力して、検知情報に基づく現在の触媒温度と触媒が劣化していないときの無劣化触媒温度とを比較する。
無劣化触媒温度は、触媒が劣化していないときに反応ガスが通過した際に触媒反応によって発熱したときの触媒温度である。なお、反応ガス組成が変動しない時は、触媒が反応初期に呈する温度(初期温度)を無劣化触媒温度として採用しても良い。
【0046】
<触媒交換判断部>
触媒交換判断部35は、触媒温度比較部33の比較結果に基づいて触媒の交換の要否を判断する。
触媒の劣化が進行すると触媒反応による発熱量が低下し、無劣化触媒温度との差が大きくなる。そこで、触媒交換判断部35は、現状の触媒層の温度と無劣化触媒温度との差が予め設定した値を超えたときに要交換と判断する。
【0047】
<報知部>
報知部37は、触媒交換判断部35によって要交換と判断されたときにその旨を報知する。報知の具体例としては、モニタに「要交換」である旨を表示したり、ランプを点灯させたり、と言った視覚的な報知でもよいし、あるいは警報音を鳴らす等の聴覚的な報知でもよい。
【0048】
報知部37によって、要交換の報知があったときには、作業者が開閉弁19を開放して触媒を所定量排出する。触媒は上流側から順次排出されるので、上流側の触媒の排出に伴って下流側の触媒が上流側に移動する。これによって、触媒充填容器3内の上流側に空間ができるので、この空間に新たな触媒を充填する。
【0049】
以上のように、本実施の形態によれば、触媒交換に際して全量交換することなく、劣化が進行して性能が低下した触媒のみを交換することができるので、触媒コストを抑えた触媒の有効活用ができる。
【0050】
上記の例では、触媒層温度検知部31を触媒層の一か所に設けたものであったが、触媒層温度検知部31は、
図6に示すように、触媒層の上流側から下流側に複数箇所(本例では4箇所)に設けるようにしてもよい。
【0051】
この場合、触媒層温度検知部31は、充填層を流れ方向に均等長さ分割し、その分割区域の中心の位置に設けるのが好ましい。
また、触媒温度比較部33は、触媒層温度検知部31が設置された複数箇所の各箇所について現在の触媒温度と無劣化触媒温度との比較を行う。
触媒交換判断部35は、触媒層温度検知部31が設置された複数箇所の各箇所について触媒交換の要否を判断する。
報知部37は、触媒温温度検知部が設置された複数箇所の各箇所について、交換の要否を報知する。
【0052】
このように、触媒層温度検知部31を複数箇所に設けることで、触媒充填容器3内の触媒の劣化状況が上流側から下流側にかけてどの程度進行しているかを知ることができ、より適切な触媒交換タイミングを知ることができる。また、反応条件によっては触媒の劣化速度が想定より早く、一カ所の温度比較での一律交換判断では交換頻度が多くなりすぎる可能性があるが、複数カ所設けることで交換判断を状況に応じてより後段の温度比較に変更するなど、工場の柔軟な操業が可能となる。
【0053】
なお、上記の例では、触媒交換判断部35によって要交換とされたときに作業者が開閉弁19や蓋部材13の開閉操作をするものであったが、開閉弁19や蓋部材13の開閉操作を触媒交換判断部35の判断に関連付けて自動化することもできる。
例えば、
図7に示すように、開閉弁19の開閉操作を行う第1アクチュエータ39と、蓋部材13の開閉操作を行う第2アクチュエータ41と、を設け、触媒交換判断部35は触媒の交換が必要と判断したときに第1アクチュエータ39及び第2アクチュエータ41を作動させる機能を有するようにすればよい。
【0054】
この場合、開閉弁19を開放して触媒が排出口15から排出されたときに、触媒残量を測定するセンサーやレベル計を設置して排出量を検知し、所定の量が排出されたときに第1アクチュエータ39により開閉弁19を閉止するようにしてもよい。あるいは、開閉弁19を開放して触媒が排出口15から排出されてから一定時間経過後に自動閉止するようにしても良い。
同様に、蓋部材13を開放して触媒を投入する場合には、投入量を測定するセンサーやレベル計を設置して投入量を検知し、所定の量が投入されたときに投入を停止するようにすればよい。
なお、開閉弁19や蓋部材13の開閉の自動化は、
図5に示したものや、後述する他の本実施の形態にも適用できる。
【0055】
[実施の形態4]
反応ガスの原料濃度や流量が変動すると、それに伴って触媒反応による発熱量も変動する。すなわち、原料濃度や流量が多いときには発熱量が大きくなるため温度が高く、原料濃度や流量が少ないときは発熱量が減るため温度が低くなるという温度変動を起こす。
このため、触媒層内部の温度を検知するだけでは、温度変動があったときに、その温度変動が触媒劣化に起因するのか反応ガス変動に起因するのかを見分けることができない。
そこで、本実施の形態では、温度変動が触媒劣化に起因することを特定して、その場合に触媒の交換要否を判断するようにしたものである。
本実施の形態に係る多重管式反応容器42を
図8に示す。なお、
図8において、
図6に示したものと同じものには同一の符号を付して説明を省略する。
【0056】
本実施の形態に係る多重管式反応容器42は、
図8に示すように、触媒層温度検知部31を触媒層の上流側から下流側にかけて複数箇所(本例では4箇所)に設け、複数の触媒層温度検知部31の入力に基づいて触媒層の温度変動が触媒劣化に起因するのか反応ガス変動に起因するのかを判断する温度変動原因判断部43を備え、触媒温度比較部33は、温度変動原因判断部43によって温度変動が触媒劣化に起因すると判断されたときに温度比較を行うようにしたものである。以下、本実施の形態の特徴とする構成について説明する。
【0057】
<温度変動原因判断部>
温度変動原因判断部43は、複数の触媒層温度検知部31の入力に基づいて触媒層の温度変動が触媒劣化に起因するのか反応ガス変動に起因するのかを判断する。
温度変動原因判断部43の基本原理は以下の通りである。
触媒反応は触媒充填容器入口で反応が開始するため、入口に近い上流側に温度ピークを持つ。
そして、温度変動が触媒劣化に起因する場合の温度変動は以下のようになる。
触媒劣化の場合には、上流側の活性が低下することで上流側の触媒層の温度が低下し、一方で未反応ガスが下流側に流れることで温度ピークが下流にシフトする。すなわち、触媒層の温度のピークが、上流側から下流側に移動する。
【0058】
他方、反応ガス変動の場合、例えば反応ガス量が減少した場合には触媒層全体の温度が低下するが、温度ピークは上流側にあるままである。
これを見分けることで温度変動の原因を推定できる。すなわち、交換したい位置の触媒層の温度低下と、充填層全域の温度ピーク位置の両方を参照することで温度変動が触媒劣化に起因するのか反応ガス変動に起因するかを判定できる。
【0059】
温度変動原因判断部43は、複数の触媒層温度検知部31の入力に基づいて、温度ピークが最も上流側にあるのか、温度ピークが下流側に移動しているのかを判定し、温度ピークが最も上流側にある場合には反応ガス変動であると判断し、温度ピークが下流側に移動していた場合には触媒劣化であると判断する。
【0060】
触媒交換判断部35は、温度変動原因判断部43によって温度変動が触媒劣化に起因すると判断されたときに交換判断を行う。
【0061】
本実施の形態によれば、反応ガス変動がある場合においても、触媒の劣化を適切に判断することができる。
【0062】
[実施の形態5]
反応ガスの性状(温度、圧力、流量、濃度)が変動すると、触媒温度も変動するため、触媒劣化の判断を正確に行うには、反応ガスの性状がどのような状態にあるかを前提として行う必要がある。そこで、本実施の形態は、反応ガスの性状が変動する場合に対応することができる多重管式反応容器44であり、具体的な構成の一例は
図9に示す通りである。
図9において、
図5と同一部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0063】
本実施の形態に係る多重管式反応容器44は、触媒充填容器3に供給される反応ガスの温度、圧力、流量、濃度を検知する供給反応ガス性状検知部45と、想定される反応ガスの性状ごとに劣化していない触媒が呈する温度を記憶した無劣化触媒温度データベース47と、無劣化触媒温度データベース47と供給反応ガス性状検知部45からのデータに基づいて現状の反応ガス性状における無劣化触媒温度を推定する無劣化触媒温度推定部49と、触媒交換判断部35と、報知部37と、を備えている。
そして、触媒温度比較部33は、無劣化触媒温度推定部49によって推定された無劣化触媒温度と触媒層温度検知部31で検知された触媒温度とを比較する。
【0064】
<供給反応ガス性状検知部>
供給反応ガス性状検知部45は、触媒充填容器3に供給される反応ガスの温度、圧力、流量、濃度を検知する。検知のタイミングは、変動頻度に応じて例えば一日ごと、半日ごと、一時間ごと、一分ごと、などとすればよい。
【0065】
<無劣化触媒温度データベース>
無劣化触媒温度データベース47は、想定される反応ガスの性状ごとに劣化していない触媒が呈する温度を記憶している。触媒充填容器3に供給される反応ガスの温度、圧力、流量、濃度のいずれか、あるいは全てが変動することが想定される場合がある。この場合、想定される性状について、その性状の反応ガスが劣化していない触媒に供給されたときの触媒温度(無劣化時温度)を予め検知して、反応ガスの性状と対応付けてデータベース化したものが無劣化触媒温度データベース47である。
【0066】
<無劣化触媒温度推定部>
無劣化触媒温度推定部49は、無劣化触媒温度データベース47と供給反応ガス性状検知部45からのデータに基づいて現状の反応ガス性状における触媒の無劣化時温度を推定する。
より具体的には、供給反応ガス性状検知部45から入力される温度、圧力、流量、濃度により現状の反応ガスの性状を特定し、無劣化触媒温度データベース47を参照することで特定された性状での触媒の無劣化時温度を推定する。
【0067】
本実施の形態によれば、反応ガスの性状が変動する場合においても、触媒の劣化を適切に判断することができる。
【0068】
[実施の形態6]
実施の形態5においては、反応ガスの性状が変動する場合において、想定される反応ガスの性状ごとに劣化していない触媒が呈する温度を記憶した無劣化触媒温度データベース47が必要とされる。そのため、多重管式反応容器44に供給される反応ガスの想定される性状変動ごとに予め実験を行って無劣化触媒温度データベース47を作成する作業が必要となる。
そこで、本実施の形態の多重管式反応容器50は、かかる作業を行うことなく、反応ガスの性状変動に対応できるようにしたものである。
本実施の形態の多重管式反応容器50を
図10に示す。
図10において、
図9と同一部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0069】
本実施の形態に係る多重管式反応容器30は、触媒層温度検知部31と、供給反応ガス性状検知部45と、排出反応ガス性状検知部51と、壁面温度検知部53と、触媒充填容器材・触媒の物性データベース55と、触媒層温度分布推定部57と、触媒温度比較部33と、触媒交換判断部35と、報知部37と、を備えている。
【0070】
<触媒層温度検知部>
触媒層温度検知部31は、触媒層の上流側から下流側に複数箇所(本例では4箇所)設けられている。
【0071】
<供給反応ガス性状検知部>
供給反応ガス性状検知部45は、触媒充填容器3に供給される反応ガスの温度、圧力、流量、濃度を検知する。
【0072】
<排出反応ガス性状検知部>
排出反応ガス性状検知部51は、触媒充填容器3から排出される反応ガスの温度、圧力、流量、濃度を検知する。
【0073】
<壁面温度検知部>
壁面温度検知部53は、触媒充填容器3の壁面温度を検知する。
【0074】
<触媒充填容器材・触媒の物性データベース>
触媒充填容器材・触媒の物性データベース55は、触媒充填容器3の材質、触媒の物性値が記憶しているものである。
具体的には、Cbed:充填層熱容量、qreact:モル反応熱、Mbed:触媒充填量、k:反応速度定数、a1:反応次数、a2:反応次数、h:熱伝達係数、U:充填層伝熱係数、cp:ガス比熱、ρ:ガス密度、α:モル流量⇒体積流量への換算係数(例mol/s→L/s(標準状態)なら22.4)等である。
【0075】
<触媒層温度分布推定部>
触媒層温度分布推定部57は、排出反応ガス性状検知部51、壁面温度検知部53、及び物性データベースに基づいて劣化していない触媒の複数箇所のそれぞれにおける無劣化時温度を推定する。
無劣化時温度の推定は、触媒層温度検知部31を設置している各位置において、下記の熱収支式を解くことで演算できる。
[時間Δt後の触媒層の温度]=[基準時刻の触媒層温度]+[時間Δtの間に触媒層が受け取る熱]/[触媒層の熱容量]
[触媒層が受け取る熱]=[触媒反応で発生する反応熱]+[領域境界から流入する熱]+[流入ガスが持ち込む熱]-[流出ガスが持ち去る熱]
求めたい[時間Δt後の触媒層の温度]をTpredとすると、具体的な計算式は以下の通りである。
【0076】
Tpred=T0+Qall/Cbed
ここで、Tpred:予想温度(=Δt時間後の充填層温度)、Δt:計算時間
T0:基準時刻の触媒層温度
Qall:充填層の獲得熱量
Cbed:充填層熱容量
Qall=Qr+Qw+Qin-Qout-Qgas
ここで、Qr:総反応熱
Qw:壁面からの熱
Qin:上流からの熱
Qout:下流への熱
Qgas:ガスの獲得熱
Qr=qreact×r×Mbed×Δt
r=k×P1
a1×P2
a2 (2成分反応の場合)
P1=P0×C1、P2=P0×C2
ここで、qreact:モル反応熱
r:モル反応速度
Mbed:触媒充填量
k:反応速度定数
P1:成分1分圧
a1:反応次数
P2:成分2分圧
a2:反応次数
P0:全圧
C1:成分1濃度
C2:成分2濃度
Qw=h×(T0-Tw)
ここで、h:熱伝達係数
Tw:壁面温度
Qin=U×(Tup-T0)
ここで、Tup:基準時刻の上流層温度(注目層が上流端の場合は別途設定※)
※例えば壁面温度で近似する。下流端の場合も同様。
U:充填層伝熱係数
Qout=U×(T0-Tdown)
ここで、Tdown:基準時刻の下流層温度(注目層が下流端の場合は別途設定)
Qgas=cp×ρ×F×Δt×(T0-Tup)
ここで、cp:ガス比熱
ρ:ガス密度
F:ガス体積流量
F=F0+r×Mbed×Δt×α
ここで、F0:入口ガス体積流量
α:モル流量⇒体積流量への換算係数(例mol/s→L/sなら22.4)
【0077】
上記の演算に際して、触媒充填容器材・触媒の物性データベース55を参照するものは、Cbed:充填層熱容量、qreact:モル反応熱、Mbed:触媒充填量、k:反応速度定数、a1:反応次数、a2:反応次数、h:熱伝達係数、U:充填層伝熱係数、cp:ガス比熱、ρ:ガス密度、α:モル流量である。
また、T0:基準時刻の触媒層温度は触媒層温度検知部から、P0:全圧は供給反応ガス性状検知部のPgiおよび排出反応ガス性状検知部のPgoの勾配から、C1:成分1濃度およびC2:成分2濃度は、供給反応ガス性状検知部のCgiおよび排出反応ガス性状検知部のCgoの勾配から、Tw:壁面温度は壁面温度検知部から、Tup:基準時刻の上流層温度は触媒層温度検知部Tc1から、Tdown:基準時刻の下流層温度は触媒層温度検知部Tc4から、F0:入口ガス体積流量は供給反応ガス性状検知部から、それぞれ取得する。
【0078】
<触媒温度比較部>
触媒温度比較部33は、触媒層温度推定部によって推定された触媒温度と触媒層温度検知部31で検知された温度とを比較する。
【0079】
<触媒交換判断部>及び<報知部>は、
図8、
図9に示したものと同様のものである。
【0080】
本実施の形態によれば、反応ガスの性状が変動する場合においても、触媒の劣化を適切に判断することができる。しかも、予め実験等によって無劣化触媒温度データベース47を作成する作業が不要である。
【0081】
なお、開閉弁19や蓋部材13を自動開閉するには、
図11に示すように、開閉弁19の開閉操作を行う第1アクチュエータ39と、蓋部材13の開閉操作を行う第2アクチュエータ41と、を設け、触媒交換判断部35は触媒の交換が必要と判断したときに第1アクチュエータ39及び第2アクチュエータ41を作動させる機能を有するようにすればよい。
【符号の説明】
【0082】
1 多重管式反応容器(実施の形態1)
3 触媒充填容器
3a 天面部
5 内側冷却管
7 外殻容器
9 ガス導入口
11 ガス排出口
12 充填口
13 蓋部材
13a 切欠き部
15 排出口
17 排出管
19 開閉弁
19a 切欠き部
21 内側冷却流体入口
23 内側冷却流体出口
25 外側冷却流体入口
27 内側冷却流体出口
29 多重管式反応容器(実施の形態2)
30 多重管式反応容器(実施の形態3)
31 触媒層温度検知部
33 触媒温度比較部
35 触媒交換判断部
37 報知部
39 第1アクチュエータ
41 第2アクチュエータ
42 多重管式反応容器(実施の形態4)
43 温度変動原因判断部
44 多重管式反応容器(実施の形態5)
45 供給反応ガス性状検知部
47 無劣化触媒温度データベース
49 無劣化触媒温度推定部
50 多重管式反応容器(実施の形態6)
51 排出反応ガス性状検知部
53 壁面温度検知部
55 触媒充填容器・触媒の物性データベース
57 触媒層温度分布推定部