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特開2024-177015椎間板由来の髄核細胞の拡大培養方法及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177015
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】椎間板由来の髄核細胞の拡大培養方法及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20241212BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20241212BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20241212BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20241212BHJP
   C12Q 1/6837 20180101ALI20241212BHJP
   A61K 35/32 20150101ALI20241212BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20241212BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6837 Z
A61K35/32
A61P19/00
A61P29/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023154059
(22)【出願日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】112121278
(32)【優先日】2023-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】524144899
【氏名又は名称】精準再生生醫股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】蔡詩辰
(72)【発明者】
【氏名】陳韋弘
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ36
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS33
4B063QS34
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065BA24
4B065BA30
4B065BC50
4B065BD44
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB46
4C087NA14
4C087ZA08
4C087ZA96
(57)【要約】
【課題】椎間板由来の髄核細胞の拡大培養方法及びその用途を提供する。
【解決手段】本発明は、主に椎間板から髄核細胞を取得すると共に、体外で拡大培養する方法が開示される。本発明は、上記の方法により得られる髄核細胞を用いて、下背部痛を治療する医薬組成物を製造するための用途を提供することを副次的な目的とし、前記髄核細胞を含有する医薬組成物の応用を経て、慢性下背部痛を治療するために用いられる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
椎間板由来の髄核細胞を体外で拡大培養する方法であって、
a)髄核組織(nucleus pulposus)を提供する工程と、b)前記髄核組織を酵素で加水分解すると共に、加水分解されていない前記髄核組織と初代髄核細胞とを篩い分け手段及び遠心分離手段により分離する工程と、c)前記工程b)にて得られる当該初代髄核細胞について初代培養を行う工程と、d)前記工程c)にて初代培養を行った当該初代髄核細胞が所定の細胞密度に達した後、当該初代髄核細胞を取り出して継代培養を行う工程と、e)1個または多数個の遺伝子の発現量に基づいて、前記工程d)にて継代培養を行った当該初代髄核細胞中から髄核細胞を選別する工程と、f)前記工程e)にて得られる当該髄核細胞について拡大培養を行う工程とを含み、当該1個または多数個の遺伝子は、髄核発生遺伝子、軟骨分化遺伝子、髄核特異的な遺伝子、髄核退行変性遺伝子及び線維輪特異的な遺伝子よりなる遺伝子モジュール中から選択される遺伝子であることを特徴とする、椎間板由来の髄核細胞を体外で拡大培養する方法。
【請求項2】
前記髄核発生遺伝子は、KDM4Eであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記軟骨分化遺伝子は、SOX9と、COL2A1と、Agc1とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記髄核特異的な遺伝子は、PAX1であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記髄核退行変性遺伝子は、SAA1であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記線維輪特異的な遺伝子は、CD90であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記髄核組織を加水分解するための前記酵素は、コラゲナーゼ、トリプシンまたはこれらの組み合せであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞密度は、80~90%の細胞密度であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
当該遺伝子の発現量は、定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)、ノーザンブロッティング法(Northern blotting)、ウェスタンブロッティング法(western blotting)またはDNAマイクロアレイ(DNA microarray)により検出測定されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法により得られる前記髄核細胞から、下背部痛を治療する医薬組成物を製造するための用途であることを特徴とする、方法の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞拡大培養方法の技術分野に係り、特に、椎間板由来の髄核細胞の拡大培養方法及びその用途の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
椎間板組織(Intervertebral disc)は、椎骨(Vertebra)の間に位置しており、線維輪(Annulus fibrosus)と、髄核組織(Nucleus pulpous)とから構成され、椎体間の動きによって生じる摩擦を緩衝することができる。椎間板退行変性症(Degenerated disc disease)は、下背部痛(Low back pain)などの症状を引き起こすことが多く、年齢が30~50歳代の成人個体に好発し、症状が重い方では、椎間板の崩壊が起こることもある。統計によると、80%の成人が一生のうちに下背部痛を経験すると言われており、その中でも約4分の1の人が、長引く背部痛によって仕事に支障をきたしてしまう。
【0003】
一般に、椎間板退行変性症の初期症状が現われる時期に、初めは臨床医師が処方する鎮痛薬物を患者に渡し、服用してもらうことで、生理的な疼痛を一時的に軽減することができる。現在、よく用いられている薬物は、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID)、アセトアミノフェン(Acetaminophen)、ステロイド系薬物などを含む。これらの種類の薬物は、細胞の分泌バランスが乱れてしまう場合があると共に、胃や腸などの消化器系の副作用を起こすおそれがある。椎間板退行変性の症状が重い人では、椎間板置換術を行う治療の必要はあるものの、人工椎間板インプラントのその材質は、高分子ポリマーと金属物質を混ぜ合せたものであり、かつ生体適合性がないため、より一層深刻な副作用が起こりやすい。上記で述べたような方法は、いずれも直接退行変性に陥った椎間板に対して治療を行うことができず、かつ患者の生活の質の向上に向けての顕著な改善も見られない。
【0004】
椎間板構造に損傷または退行変性が発生する時に、髄核組織は、不安定になる可能性があると共に、かかる負荷や圧力が増大することが原因で、外側に突出するか、さらにひどくなると、線維輪を突き破って外に飛び出すこともある。このように突出した髄核組織が、例えば、脊髄や神経根のような周囲の神経構造を圧迫することにより、疼痛、放散通、麻痺や筋無力などの症状を引き起こす。このため、椎間板突出と髄核組織の位置及び圧力との間に密接な関係が存在している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願の発明者は、現今の椎間板退行変性症の治療方式の制限及び欠点、並びに椎間板退行変性と髄核組織との間に基づく関係に鑑み、そのために本願の発明者は、椎間板退行変性の初期に、患者の椎間板の髄核組織中から髄核細胞を取得すると共に、体外で拡大培養した後にそれを凍結保存でき、患者からの要望があれば、次にそれを解凍した後に再培養すると共に、患者の患部に植え込むことで、それを患者の患部で成長させるため、免疫拒絶反応が生じることはないことから、髄核組織の再生及び椎間板退行変性の治療という目的を達成することが望まれている。このため、本願の発明者は、極力研究発明した結果、遂に本発明に係る椎間板由来の髄核細胞を体外で拡大培養する方法及び前述した方法により得られる髄核細胞から下背部痛を治療する医薬組成物を製造するための用途を研究開発して完了させた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の主要な目的は、椎間板由来の髄核細胞を体外で拡大培養する方法を提供することであり、それは、a)髄核組織(nucleus pulposus)を提供する工程と、b)前記髄核組織を酵素で加水分解すると共に、加水分解されていない前記髄核組織と組織から脱落する初代髄核細胞とを篩い分け手段及び遠心分離手段により分離する工程と、c)前記工程b)にて得られる当該初代髄核細胞について初代培養を行う工程と、d)前記工程c)にて初代培養を行った当該初代髄核細胞が所定の細胞密度に達した後、当該初代髄核細胞を取り出して継代培養を行う工程と、e)1個または多数個の遺伝子の発現量に基づいて、前記工程d)にて継代培養を行った当該初代髄核細胞中から髄核細胞を選別する工程と、f)前記工程e)にて得られる当該髄核細胞について拡大培養を行う工程とを含み、その内、当該1個または多数個の遺伝子は、髄核発生遺伝子、軟骨分化遺伝子、髄核特異的な遺伝子、髄核退行変性遺伝子及び線維輪特異的な遺伝子よりなる遺伝子モジュール中から選択される遺伝子である。
【0007】
上記の方法において、前記髄核発生遺伝子は、KDM4Eであり、前記軟骨分化遺伝子は、SOX9と、COL2A1と、Agc1とを含み、前記髄核特異的な遺伝子は、PAX1であり、前記髄核退行変性遺伝子は、SAA1であり、及び前記線維輪特異的な遺伝子は、CD90である。
【0008】
このほか、上記の方法において、前記髄核組織を加水分解するための前記酵素は、コラゲナーゼ(collagenase)、トリプシン(trypsin)またはこれらの組み合せであり、なおかつ工程c)にて初代培養を行った当該初代髄核細胞が、0~14日間経過後、50~100%の細胞密度に達した後、より好ましくは5~7日間経過後、80~90%の細胞密度に達した後、当該初代髄核細胞を取り出して継代培養を行う。
【0009】
さらに、上記の方法において、当該遺伝子の発現量は、定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)、ノーザンブロッティング法(Northern blotting)、ウェスタンブロッティング法(Western blotting)またはDNAマイクロアレイ(DNA microarray)により検出測定される。
【0010】
同時に、本発明の副次的な目的は、上記の方法により得られる髄核細胞を用いて、下背部痛を治療する医薬組成物を製造するための用途を提供することであり、その内、前記医薬組成物は、医薬学上許容され得る担体を含む。
【発明の効果】
【0011】
前記医薬組成物によれば、患者の髄核組織中から得られる前記髄核細胞を拡大培養した後、前記患者の患部(すなわち、椎間板退行変性の部位)に再移植することができ、それを患部において成長させ、髄核組織の再生を通じて治療の目的を達成すると共に、移植を受けた前記患者に免疫拒絶反応を起こす可能性を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】異なる年齢層において、本発明の椎間板由来の髄核細胞の拡大培養方法により得られる髄核細胞の、その髄核発生遺伝子:KDM4Eの発現量を示す棒グラフである。
図2A】異なる年齢層において、本発明の椎間板由来の髄核細胞の拡大培養方法により得られる髄核細胞の、その軟骨分化遺伝子:SOX9の発現量を示す棒グラフである。
図2B】異なる年齢層において、本発明の椎間板由来の髄核細胞の拡大培養方法により得られる髄核細胞の、その軟骨分化遺伝子:COL2A1の発現量を示す棒グラフである。
図2C】異なる年齢層において、本発明の椎間板由来の髄核細胞の拡大培養方法により得られる髄核細胞の、その軟骨分化遺伝子:Agc1の発現量を示す棒グラフである。
図3】異なる年齢層において、本発明の椎間板由来の髄核細胞の拡大培養方法により得られる髄核細胞の、その髄核特異的な遺伝子:PAX1の発現量を示す棒グラフである。
図4】異なる年齢層において、本発明の椎間板由来の髄核細胞の拡大培養方法により得られる髄核細胞の、その髄核退行変性遺伝子:SAA1の発現量を示す棒グラフである。
図5】異なる年齢層において、本発明の椎間板由来の髄核細胞の拡大培養方法により得られる髄核細胞の、その線維輪特異的な遺伝子:CD90の発現量を示す棒グラフである。
図6】本発明の椎間板由来の髄核細胞の拡大培養方法及びその用途を示すフローダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において記載される全ての技術的及び科学的専門用語は、別途定義されない限り、本開示が属する技術分野における通常の技術的知識を有する者によって共通に理解されているものと同じ意味を持つ。本発明では、後述の実施例を模範的な例として解説するが、あくまでも例示にすぎず、必ずしもこれらに限定されるわけではなく、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。別段の説明がない限り、本発明に用いられる材料は、いずれも市販されており、入手が容易なものであり、以下の説明は、入手可能なルートを単に例示するものである。
【実施例0014】
<髄核組織(Nucleus pulposus)検体の処理>
1.まず、病院の手術室に、椎間板退行変性症または椎間板ヘルニアの患者の髄核組織を、手術を経て無菌方式で取り出し、抗生物質組成物が内包された生理食塩水を入れた無菌密閉担持器中に置き、それからヒト細胞・組織の取扱い基準(Good Tissue Practice,GTP)に準拠した実験室の無菌作業台中に送り込んで処理を行う。
2.髄核組織の検体重量と前記検体の患者の基本情報を記録する。
3.前記検体を2mLのP0 medium(第0継代の培地、medium of passage number 0)含有の10cm dish(培養皿)中に置き、次に前記検体を平均1mmよりも小さい小塊に切り出し、その内、1枚の10cm dish中に約5gの検体を含み、検体が比較的に多い場合、一定の比例に基づいて髄核組織を数皿の培養皿に分け、その内、P0 mediumは、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)、Human Platelet Lysate(ヒト血小板溶解物)及びAntibiotic(抗生物質)という成分を含む。
4.コラゲナーゼ(collagenase)溶液の調製:7mLのP0 medium+1mLのtype I collagenase(第1型コラーゲン)、すなわち、前記コラゲナーゼ溶液中のP0 mediumとtype I collagenaseとの比例が7:1(体積比)である。
5.調製済みのコラゲナーゼ溶液を切り刻まれた髄核組織含有の培養皿中に加え、各皿の培養皿中に8mlのコラゲナーゼ溶液を加えると共に、37℃ 、5%COのインキュベーター内に一晩(overnight)培養する。
6.一晩培養後に、各培養皿中の髄核組織検体を100μm細胞濾過器(cell strainer)で篩い分け、なおかつ篩い分け時に10mL注射器のピストンを用いて組織を軽く磨くことができ、研磨完了後、10mLのDPBS(Dulbecco´s phosphate-buffered saline,ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水)でcell strainerを清浄する。
7.篩い分け後に収集された細胞の懸濁液を、200xgの回転数で室温にて5分間遠心分離すると共に、上清液を除去する。
8.次に、20mLのDPBSで2回清浄(wash)して沈殿細胞(cell pellet)を得る。
9.それから、得られた沈殿細胞(cell pellet)を2mLのP0 medium中に再懸濁(resuspend)し、次にトリパンブルー(trypan blue)で細胞計数を行い、計算して細胞数及びその生存率(80~99%)を得る。
10.5~10×10の細胞数種を10mLのP0 mediumを含む10cm dish中に取り、この時の細胞をP0(第0継代の細胞,cells of passage number 0)とし、すなわち、初代髄核細胞とすると共に、37℃ 、5%COのインキュベーター内に培養して初代培養を行う。
11.前記初代髄核細胞の成長状況を持続的に観察すると共に、3日目の時点で旧P0 mediumを除去した後、6mLのDPBSで1回清浄し、次に10mLの新規P0 mediumを加えて継続培養する。
12.前記初代髄核細胞を0~14日間培養したのち、50~100%の細胞密度に達した後、あるいはより好ましくは5~7日間培養したのち、細胞密度が80~90%に達することができ、この時、当該初代髄核細胞を取り出して1回目継代培養を行うことができる。
【実施例0015】
<初代髄核細胞の継代培養(subculture)>
1.実施例1における初代髄核細胞の細胞密度が50~100%に達するか、あるいはより好ましくは80~90%に達する時に、継代培養を行う。
2.旧P0 mediumを除去すると共に、10cm dishの底部に付着した初代髄核細胞を6mLのDPBSで2回清浄する。
3.10cm dish中に1mLの0.05%trypsin-EDTA(トリプシン-エチレンジアミン四酢酸)を加えると共に、37℃、5%COのインキュベーター内にそれを37℃下3分間作用させる。
4.作用完了後、10cm dishを手で軽くたたき、10cm dishの底部からの前記初代髄核細胞の剥離を促進する。
5.4mLのP0 mediumを10cm dish中に加えることによって、trypsin(トリプシン)を中和し、それからP0 medium中に懸濁した前記初代髄核細胞を収集し、遠心分離管中に置くと共に、室温下200xgの回転数で5分間遠心分離する。
6.遠心分離管中の上清液を除去した後、前記初代髄核細胞を適当な体積の培地(culture medium)中に再懸濁する。前記初代髄核細胞の再懸濁に所要のculture mediumの体積を一定の比例に基づいて調製し、例えば、各1~2皿の10cm dishの前記初代髄核細胞を1mLのculture mediumに再懸濁し、その内、culture mediumは、下記の成分を含み、つまりDMEMと、Human Platelet Lysateとを含む。
7.trypan blueで細胞計数を行い、前記初代髄核細胞の数及びその生存率(80~99%)を確認する。
8.再懸濁された前記初代髄核細胞を各皿の10cm dish中に1×10を含有する細胞数の比例に基づいて、10mlのculture mediumに継代培養を行い、この時の前記初代髄核細胞がP1(すなわち、第1継代の細胞,cells of passage number 1)となる。
9.約3~4日置きに1回の継代培養を行い、すなわち、上記のステップ1~8を繰り返し行う。
【実施例0016】
<遺伝子発現の評価>
1.上記の実施例2における継代培養方法でP2(第2継代の細胞)、P3(第3継代の細胞)、P4(第4継代の細胞)の継代培養を行う時に、約5×10の初代髄核細胞を収集すると共に、10mLのDPBSで2回清浄する。
2.収集された前記初代髄核細胞を1mLのDPBS中に再懸濁すると共に、遠心分離管中に移し、それから室温において200xgの回転数で5分間遠心分離する。
3.遠心分離管中の上清液を除去すると共に、1mLのGENEzolを遠心分離管中に加え、それから遠心分離管中のサンプルを-80℃に保存する。
4.上記のステップ3で得られたサンプル(初代髄核細胞)中のRNAを抽出すると共に、qPCR(定量ポリメラーゼ連鎖反応,quantitative polymerase chain reaction)によりサンプル中の初代髄核細胞の各々遺伝子の発現量を検出測定し、その内、検出測定された各々遺伝子は、下記の5種類の遺伝子モジュール中から選択される遺伝子である:I.髄核発生遺伝子、II.軟骨分化遺伝子、III.髄核特異的な遺伝子、IV.髄核退行変性遺伝子及びV.線維輪特異的な遺伝子。さらに、前記髄核発生遺伝子は、KDM4Eであり、前記軟骨分化遺伝子は、SOX9と、COL2A1と、Agc1とを含み、前記髄核特異的な遺伝子は、PAX1であり、前記髄核退行変性遺伝子は、SAA1であり、及び前記線維輪特異的な遺伝子は、CD90である。
【実施例0017】
<細胞凍結保存>
1.前記初代髄核細胞がP2またはP3になるまで持続的に拡大培養される場合、細胞密度が80~90%に達すると、細胞の凍結保存を行うことができる。
2.10cm dishから旧culture mediumを除去すると共に、6mLのDPBSを用いて2回清浄する。
3.10cm dish中に1mLのtrypsin-EDTAを加えると共に、37℃、5%COのインキュベーター内にそれを37℃下3分間作用させる。
4.作用完了後、10cm dishを手で軽くたたき、前記10cm dishの底部からの前記P2またはP3初代髄核細胞の剥離を促進する。
5.4mLのculture mediumを10cm dish中に加えることによって、trypsinを中和し、それからculture medium中に懸濁した前記P2またはP3初代髄核細胞を収集し、遠心分離管中に置くと共に、室温下200xgの回転数で5分間遠心分離する。
6.遠心分離管中の上清液を除去した後、前記P2またはP3初代髄核細胞を適当な体積のculture medium中に再懸濁する。前記P2またはP3初代髄核細胞の再懸濁に所要のculture mediumの体積を一定の比例に基づいて調製し、例えば、各1~2皿の10cm dishの前記P2またはP3初代髄核細胞を1mLのculture medium中に再懸濁する。
7.trypan blueで細胞計数を行い、前記P2またはP3初代髄核細胞の数及びその生存率(80~99%)を確認する。
8.遠心分離管中のculture mediumに再懸濁した前記P2またはP3初代髄核細胞を、室温下200xgの回転数で5分間遠心分離し、それから上清液を除去する。
9.2×10/mlの細胞濃度で、前記P2またはP3初代髄核細胞を適当な体積の細胞凍結保存液に再懸濁させる。
10.前記P2またはP3初代髄核細胞の懸濁液を1mL/vialの比例に基づいて冷結保存バイアルに分注する。
11.冷結保存バイアルを細胞凍結コンテナーに入れ、次に細胞凍結コンテナーを-80℃の冷凍庫で一晩保存すると共に、翌日に、冷結保存バイアルを液体窒素に移し、液体窒素上の気相で保存する。
上記の説明では、気相保存する場合を例に挙げたが、液体窒素の液相中で冷結保存バイアルを凍結保存してもよい。
【0018】
上記の各実施例において使用される試薬源を下記の表1にまとめて示す。
【0019】
【表1】
【実施例0020】
<初代髄核細胞の髄核発生遺伝子:KDM4Eの発現量>
図1は、異なる年齢層において、上記の実施例1~実施例2の拡大培養方法により得られる初代髄核細胞の、実施例3の遺伝子発現の評価方法により分析して得られる髄核発生遺伝子:KDM4Eの発現量の結果を示す棒グラフである。図1中の棒グラフから明らかなように、35歳以下の年齢層及び36~50歳の年齢層において得られる初代髄核細胞の、その髄核発生遺伝子:KDM4Eの発現量は、51歳以上の年齢層よりも高いことが見出される。かつ、前記特異的髄核発生遺伝子:KDM4Eの発現によって、本発明の実施例1~実施例2の拡大培養方法により得られる前記複数の初代髄核細胞は、いずれも髄核組織(Nucleus pulpous)の発育過程を経て得られるものであることが確実に証明される。
【実施例0021】
<初代髄核細胞の軟骨分化遺伝子:SOX9、COL2A1及びAgc1の発現量>
図2A図2Cは、異なる年齢層において、上記の実施例1~実施例2の拡大培養方法により得られる初代髄核細胞の、実施例3の遺伝子発現の評価方法により分析して得られる軟骨分化遺伝子:SOX9、COL2A1及びAgc1の発現量の結果を示す棒グラフである。図2A中の棒グラフから明らかなように、35歳以下の年齢層において得られる初代髄核細胞の、その軟骨分化遺伝子:SOX9の発現量は、36~50歳の年齢層及び51歳以上の年齢層よりも著しく高いことが見出され、その内、SOX9は、軟骨分化において重要な前期転写因子である。図2B中の棒グラフから明らかなように、35歳以下の年齢層及び36~50歳の年齢層において得られる初代髄核細胞の、その軟骨分化遺伝子:COL2A1の発現量は、51歳以上の年齢層よりも高いことが見出され、かつ35歳以下の年齢層でのCOL2A1遺伝子の発現量は、36~50歳の年齢層及び51歳以上の年齢層よりも著しく高いことも見出され、その内、COL2A1は、軟骨分化において重要な軟骨基質遺伝子である。図2C中の棒グラフから明らかなように、本発明の拡大培養方法により得られる初代髄核細胞の、異なる年齢層におけるその軟骨分化遺伝子:Agc1の発現量は、高いものから低いものの順に並べると、35歳以下の年齢層での発現量が最も高く、36~50歳の年齢層での発現量が次に高く、そして51歳以上の年齢層での発現量が最も低いことが見出され、その内、Agc1は、軟骨分化において重要な軟骨基質遺伝子である。このほか、上記の図2A図2C中からも分かるように、本発明の上記の実施例1~実施例2の拡大培養方法により得られる初代髄核細胞は、いずれも髄核組織に関与する重要な軟骨分化遺伝子の発現を有し、かつその発現量は、年齢の増加につれて漸次減少している。
【実施例0022】
<初代髄核細胞の髄核特異的な遺伝子:PAX1の発現量>
図3は、異なる年齢層において、上記の実施例1~実施例2の拡大培養方法により得られる初代髄核細胞の、実施例3の遺伝子発現の評価方法により分析して得られる髄核特異的な遺伝子:PAX1の発現量の結果を示す棒グラフである。図3中の棒グラフから明らかなように、35歳以下の年齢層において得られる初代髄核細胞の、その髄核特異的な遺伝子:PAX1の発現量は、36~50歳の年齢層及び51歳以上の年齢層よりも著しく高いことが見出され、その内、髄核特異的な遺伝子:PAX1は、髄核組織の前駆細胞遺伝子であり、贈与者の中でも若ければ若いほど、髄核組織のその髄核特異的な遺伝子:PAX1の発現量が高くなり、そして発現量が高ければ高いほど、髄核組織の修復能力が高くなることも意味する。このため、図3中から分かるように、本発明の上記の実施例1~実施例2の拡大培養方法により得られる初代髄核細胞は、いずれも髄核組織の修復能力に関与するPAX1遺伝子の発現を有し、かつその発現量は、若者の中でも顕著に比較的高いことである。
【実施例0023】
<初代髄核細胞の髄核退行変性遺伝子:SAA1の発現量>
図4は、異なる年齢層において、上記の実施例1~実施例2の拡大培養方法により得られる初代髄核細胞の、実施例3の遺伝子発現の評価方法により分析して得られる髄核退行変性遺伝子:SAA1の発現量の結果を示す棒グラフである。図4中の棒グラフから明らかなように、本発明の拡大培養方法により得られる初代髄核細胞の、異なる年齢層におけるその髄核退行変性遺伝子:SAA1の発現量は、高いものから低いものの順に並べると、51歳以上の年齢層での発現量が最も高く、36~50歳の年齢層での発現量が次に高く、そして35歳以下の年齢層での発現量が最も低いことが見出され、その内、SAA1は、髄核退行変性及び髄核細胞のアポトーシスに際して発現される場合は、年齢の増加につれて発現が増加するものである。このため、図4中から分かるように、本発明の上記の実施例1~実施例2の拡大培養方法により得られる初代髄核細胞の、その髄核退行変性遺伝子:SAA1の発現量は、年齢が進むにつれて発現が高くなることが示され、すわなち、本発明の方法により拡大培養される初代髄核細胞は、髄核組織中の細胞の発現の特性を有する。
【実施例0024】
<初代髄核細胞の線維輪特異的な遺伝子:CD90の発現量>
図5は、異なる年齢層において、上記の実施例1~実施例2の拡大培養方法により得られる初代髄核細胞の、実施例3の遺伝子発現の評価方法により分析して得られる線維輪特異的な遺伝子:CD90の発現量の結果を示す棒グラフである。図5中の棒グラフから明らかなように、本発明の拡大培養方法により得られる初代髄核細胞の、異なる年齢層におけるその線維輪特異的な遺伝子:CD90の発現量は、いずれも非常に低いことが見出され、すなわち、この線維輪特異的な遺伝子:CD90の発現量が非常に低いことは、本発明の拡大培養方法により得られる初代髄核細胞が線維輪非由来のものであることを逆検証(説明)することができる。
【0025】
異なる年齢層において、上記の実施例1~実施例2の拡大培養方法により得られる初代髄核細胞の、実施例3の遺伝子発現の評価方法により分析して得られる5種類の遺伝子モジュール中から選択される遺伝子:髄核発生遺伝子、軟骨分化遺伝子、髄核特異的な遺伝子、髄核退行変性遺伝子及び線維輪特異的な遺伝子の発現量の結果を下記の表2にまとめて示す。
【0026】
【表2】
【0027】
表2に示すのは、図1図5の棒グラフを表すデータであり、その内、データは、各々年齢層において得られる遺伝子発現量データの平均値である。そして、図1図5及び表2中に示されたデータ結果を総合してみると、我々が明らかに分かるように、本発明が提供する椎間板由来の髄核細胞を体外で拡大培養する方法における初代髄核細胞の拡大培養方法及び遺伝子発現の評価方法により、つまり5種類の遺伝子モジュール中から選択される遺伝子:髄核発生遺伝子、軟骨分化遺伝子、髄核特異的な遺伝子、髄核退行変性遺伝子及び線維輪特異的な遺伝子の発現量を利用して、髄核組織を修復する機能を有する髄核細胞を得ることができ、それから、得られた前記髄核細胞を用いて、下背部痛を治療する医薬組成物を製造することができると共に、前記髄核細胞を含有する医薬組成物の応用を経て、椎間板退行変性症により引き起こされる慢性下背部痛を治療するために用いられる。
【実施例0028】
<椎間板由来の髄核細胞の拡大培養方法及びその用途のフロー>
図6は、本発明の椎間板由来の髄核細胞の拡大培養方法及びその用途を示すフローダイアグラムであり、まず、実施例1に記載された技術内容の如く、手術を経て無菌方式で椎間板退行変性症または椎間板ヘルニアの患者の脊椎から髄核組織検体を取得し、それから無菌恒温輸送方式で前記髄核組織検体をヒト細胞・組織の取扱い基準に準拠した実験室の無菌作業台中へ輸送して前記髄核組織検体の処理を行い、最後に初代髄核細胞が得られる。次に、実施例2中に記載された初代髄核細胞の継代培養方法により、実施例1において得られる初代髄核細胞の継代培養を行い、得られる前記初代髄核細胞を拡大し、続いて実施例3に記載された遺伝子発現の評価方法により、当該初代髄核細胞を評価すると同時に、当該初代髄核細胞に対して無菌安全性試験を行い、当該初代髄核細胞が汚染されていないかを確認し、例えば、マイコプラズマ(Mycoplasma)で汚染されていないかを確認し、それから前述した遺伝子発現の評価及び無菌安全性試験の結果から明らかなように、前記患者の髄核組織検体から得られる初代髄核細胞中に再生能力及びその他の髄核細胞の特性を持つ髄核細胞の有無ついて個人化レポートを作製すると共に、このレポートによると、再生能力及びその他の髄核細胞の特性を持つ前記髄核細胞を使用して、前記患者ごとに下背部痛(椎間板退行変性症または椎間板ヘルニア)を治療する医薬組成物をカスタマイズし、最後に前記医薬組成物を前記患者の患部に植え込むことで、再生能力を持つ前記髄核細胞を患者の患部に成長させることから、髄核組織を再生する目的及び椎間板退行変性または椎間板ヘルニアを治療する目的を達成することができる。
【0029】
上記のように、本発明に係る椎間板由来の髄核細胞の拡大培養方法及びその用途を既に十分かつ明瞭に説明してきた。強調すべき点は、上記の詳細な説明は、本発明の実行可能な実施例を具体的に説明したものであり、但し、本発明の特許範囲はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的精神を逸脱しない限り、その等効果実施または変更は、なお、本願の特許請求の範囲内に含まれるとする点である。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6