(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177028
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】離型剤噴霧機構、金型及び離型剤塗布方法
(51)【国際特許分類】
B22D 17/20 20060101AFI20241212BHJP
B22D 17/22 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B22D17/20 D
B22D17/22 C
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023196340
(22)【出願日】2023-11-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2023093824
(32)【優先日】2023-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591113770
【氏名又は名称】株式会社エ-ケ-ダイカスト工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100115613
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寧司
(72)【発明者】
【氏名】河田 潤
(72)【発明者】
【氏名】石川 修平
(57)【要約】 (修正有)
【課題】内部金型を有するような複雑な金型形状であっても金型表面に離型剤を好適に塗布することができるダイカスト装置、金型、及び前記装置に備わる離型剤噴霧機構を提供する。
【解決手段】成形品の外部形状を象る一対の金型20と、金型の内部に位置し成形品の内部形状を象る内部金型20cとを備えたダイカスト装置に備わる離型剤噴霧機構23であって、一対の金型を型開きした際に現れる一対の金型のそれぞれの型開面Pからは陰になる内部金型の陰面Oに離型剤を塗布可能であり、離型剤吸込口24と離型剤吹出口26とそれらを連通する離型剤通過路25とを有し、離型剤通過路はベンチュリー管構造であるとともに、離型剤通過路の長さが極値となる位置Eを挟んで離型剤吸込口側よりも離型剤吹出口側が短くなるように離型剤通過路が形成され、離型剤吸込口は型開面の陰面以外の面に開口し、離型剤吹出口は陰面に対向して開口する離型剤噴霧機構とした。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形品の外部形状を象る一対の金型と、当該金型の内部に位置し前記成形品の内部形状を象る内部金型とを備えたダイカスト装置に備わる離型剤噴霧機構であって、
前記一対の金型を型開きした際に現れる前記一対の金型のそれぞれの型開面からは陰になる前記内部金型の陰面に離型剤を塗布可能であり、
離型剤吸込口と離型剤吹出口とその両者を連通する離型剤通過路とを有し、
前記離型剤通過路はベンチュリー管構造であるとともに、当該離型剤通過路の長さが前記離型剤通過路の極値となる位置を挟んで前記離型剤吸込口側よりも前記離型剤吹出口側が短くなるように当該離型剤通過路が形成され、
前記離型剤吸込口は前記型開面等の前記陰面以外の面に開口し、前記離型剤吹出口は前記陰面に対向して開口する離型剤噴霧機構。
【請求項2】
上記一対の金型の少なくとも何れか一方に前記内部金型を収容する凹部を有し、当該凹部に前記離型剤吹出口を備える請求項1記載の離型剤噴霧機構。
【請求項3】
上記一対の金型の少なくとも何れか一方に前記内部金型を収容する凹部を有し、当該凹部の形状が、前記内部金型の表面形状に沿った形状であって、当該凹部に前記離型剤吹出口を備える請求項1記載の離型剤噴霧機構。
【請求項4】
上記一対の金型の少なくとも何れか一方に前記内部金型を収容する凹部を有し、かつ当該凹部には当該凹部の表面をさらに凹ませた部分である拡散室を有し、当該拡散室に前記離型剤吹出口を備える請求項1記載の離型剤噴霧機構。
【請求項5】
前記離型剤吹出口と前記離型剤吸込口が同一方向に開口しながら、かつ前記離型剤吹出口が前記離型剤吸込口よりも前記型開面を正面に見て奥側に開口されている請求項1記載の離型剤噴霧機構。
【請求項6】
前記離型剤吹出口は、離型剤通過路の端部に対して交換可能なスプレーノズルで形成される請求項1記載の離型剤噴霧機構。
【請求項7】
前記離型剤吹出口は、離型剤通過路の端部に対して交換可能なスプレーノズルで形成され、当該スプレーノズルに、中心から等間隔に広がる位置に複数の開口を設けた広角ノズル又は扁平な形状の開口を設けた平吹ノズルを備える請求項1記載の離型剤噴霧機構。
【請求項8】
前記一対の金型の何れかに組み込み可能なブロックパーツとして形成されている請求項1~請求項7何れか1項記載の離型剤噴霧機構。
【請求項9】
請求項1~請求項7何れか1項記載の離型剤噴霧機構を備える金型。
【請求項10】
請求項8記載の離型剤噴霧機構を備える金型。
【請求項11】
成形品の外部形状を象る一対の金型と、当該金型の内部に位置し前記成形品の内部形状を象る内部金型と、請求項1~請求項7何れか1項記載の離型剤噴霧機構とを備えたダイカスト装置において、前記一対の金型と前記内部金型に離型剤スプレー装置の管パイプから離型剤を放出して塗布する離型剤塗布方法であって、
前記一対の金型を型開きした際に現れる前記一対の金型のそれぞれの型開面に対して離型剤を塗布可能な位置に離型剤スプレー装置を移動させる際に、前記型開面から突出した突起物に当たれば変形可能なチューブを前記管パイプの先端に装着しておき、
離型剤塗布位置に前記離型剤スプレー装置を移動して、前記離型剤スプレー装置の管パイプから離型剤を放出し、前記一対の金型表面と前記内部金型の表面に離型剤を塗布するとともに、前記変形を生じても元の形状に戻る前記チューブを装着した管パイプから前記型開面に開口する離型剤吸込口にも離型剤を注入し、
前記離型剤噴霧機構を通じて、前記型開面からは陰になる前記内部金型の陰面に対して対向する面に開口した離型剤吹出口から前記離型剤を放出して、前記内部金型の前記陰面に離型剤を塗布することを特徴とする離型剤塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイカスト装置とそのダイカスト装置の金型に離型剤を塗布する離型剤塗布方法に関係した技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカストは、アルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金又は銅合金などの溶湯金属を金型内に圧入して鋳物を短時間に大量生産することができる鋳造技術である。そして得られるダイカスト成形品(以下「成形品」という)は、寸法精度に優れ、美麗で滑らかな鋳肌を有し、複雑な形状の形成、肉薄化が可能なため、自動車、電気、電子又は光学分野の製品を中心に製造されている。
【0003】
プラスチック製品の生産過程においても射出成形などの鋳型を用いた技術が知られており、原料を「溶かす」→「流す」→「固める」→「取出す」作業工程はダイカスト技術もプラスチック成形技術も変わりはない。しかしながら、その技術は「溶かす」及び「流す」2つの工程で両者に大きな違いある。「溶かす」工程では、ダイカスト鋳造では金属を溶かし容易に凝固しない温度にするため、プラスチックを溶かす場合と比べて約2倍の溶解温度になる。そして、「流す」工程では、材料の粘性の相違から、プラスチック成形では“水アメ状”の状態で原料を流すのに対してダイカスト鋳造では“水状”の状態で流すことになる。加えて、金属は熱伝導性が高く凝固し易いことに鑑み「流す」スピードは、プラスチック成形では、mm/sec単位であるのに対し、ダイカスト鋳造では、m/sec単位とする必要がある。
【0004】
そのため、ダイカスト装置はプラスチック成形品製造装置とは異なる部分も多い。本出願人もダイカスト装置については従来から技術開発を続けており、これまでにもダイカスト装置に関連する技術として、例えば特開昭61-259864号公報(特許文献1)や、実開昭59-102250号公報(特許文献2)、特開2021-007965号公報(特許文献3)等に記載の技術開発を行ってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-259864号公報
【特許文献2】実開昭59-102250号公報
【特許文献3】特開2021-007965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ダイカスト技術による製品製造は、各種溶湯金属が成形金型内に流れ込むと、溶けた溶湯金属の熱がその金型に奪われて、急冷凝固されることで成形形状を象る。そのため、急激な温度変化によって成形金型は損傷し易い状態にあることから、成形金型の損傷を起こし易い成形品の抜き出し不良を出来るだけ避ける必要がある。
【0007】
こうした課題を解決し、成形金型から成形品を安定して抜き出すために金型表面には離型剤が塗布されることが一般的である。
離型剤は、成形品を金型から安定して抜き出す潤滑性の確保、金型への焼付き防止、金型の冷却等の役割をもっており、金型表面に一定量付着することで潤滑性、保護性、冷却性が確保される。この離型剤の金型表面への付着とは、離型剤の成分中の油分が金型表面に潤滑油膜として残ること意味する。一般的な離型剤の多くは、水溶性離型剤であるため、この溶媒である水分が蒸発して、油分が残存することが必要になる。そのため、金型温度が低いと溶媒である水分が十分に蒸発されず潤滑用の油分は流れ落ちて離型剤の効果を発揮しない。また逆に金型温度が高すぎると水分の蒸発によるライディングフロスト効果により離型剤自体が浮上してしまい、離型剤の成分が付着しない。したがって、離型剤の塗布という一見すると単純な技術であるが離型剤を金型表面に必要量付着させることは容易ではない。なお、離型剤粒子が金型表面に到着できるようになる温度帯をぬれ温度或いは離型剤付着温度という。
【0008】
離型剤を金型表面に好適に塗布するために様々な離型剤スプレー装置が存在し、多関節ロボット式スプレー装置、静電スプレー装置などが開発されたがどれも高価であり定着せず、多くは一般的なスプレー装置が用いられている。しかし、成形品が複雑形状になると金型パーツ同士が重なり合い死角となる場所が生じるため、離型剤が塗布し難いという問題が生じていた。以下、詳しく説明する。
【0009】
図16には、中実の成形品、例えば
図16(C)で示す円柱状製品1を製造する場合の簡単な金型K1を示す。金型K1は、
図16(A)の側面端面図で示すように固定金型K1aと可動金型K1bの一対の金型から構成され、固定金型K1aに対して可動金型K1bを合わせた
図16(B)で示す状態、即ち、型締状態において、キャビティVの形状に即した成形品として円柱状製品1が形成される。
【0010】
また
図17には、中空の成形品、例えば
図17(C)で示す円筒状製品2を製造する場合の簡単な金型K2を示す。
図17(A)の側面端面図で示すように、金型K2も金型K1と同様に固定金型K2aと可動金型K2bの一対の金型を有するが、それ以外に円筒状の内部形状を象る内部金型K2cを有して構成される。内部金型K2cを挟んで固定金型K2aに可動金型K2bを合わせた
図17(B)で示す型締状態において、固定金型K2aと可動金型K2b、そして内部金型K2cとの間に製品形状を担うキャビティVが形成され、成形品として円筒状製品2が形成される。
【0011】
図17で示す金型K2では、説明の便宜のため、その内部金型K2cの配置しか示していないが、実際には内部金型が固定金型に配置され、固定金型上を移動可能に構成されることが好ましい。
【0012】
そこで、
図18で示す金型K3では、
図17で示した金型K2と同様に円筒状製品3を製造する金型であるが、内部金型が固定金型上を移動可能に構成したものである。即ち、固定金型K3aにおいては、
図18(A)で示すように、内部金型K3cとなるスライドピン4がキャビティV内部へ出し入れ可能に移動するピン保持部5が形成されている。一方、可動金型K3bには、ピン保持部5やスライドピン4を収める溝6が形成されている。
【0013】
ピン保持部5は、
図18(A)で示すように固定金型K3a上方から、
図18(B)で示すように固定金型K3a下方に移動可能であり、型締め時にはスライドピン4がキャビティV内に配置される。そして、
図18(C)で示す型締状態において、固定金型K3aと可動金型K3b、そして内部金型K3cであるスライドピン4との間に製品形状を担うキャビティVが形成され、成形品として
図18(D)で示す円筒状製品3が形成される。
【0014】
図19には、
図18で示す金型K3を型開きした型開面Pに現れるキャビティV表面に離型剤を塗布する状態を示す。離型剤スプレー装置30からは管パイプ31が伸び出しており、この管パイプ31の先端からキャビティV表面に離型剤Lを噴霧する。離型剤Lの散布後は、管パイプ31が上昇し、可動金型K3bが型締めされる際の動きを妨げないようにする。
【0015】
図20は、前記
図18で示す金型K3を型開きした型開面Pから金型K3を見た図である。また、
図21は、
図20のXXI-XXI線断面図である。これらの図からわかるように、固定金型K3aに対して可動金型K3bを開いた状態で離型剤Lを塗布すると、固定金型K3a及び可動金型K3bのキャビティV表面には離型剤を塗布することができる一方で、内部金型K3cであるスライドピン4については、管パイプ31に対向する表面F側は離型剤Lが塗布されるが、その裏面H、即ち型開面Pに対する陰面Oは死角となるため、離型剤Lを十分に塗布することができないという問題がある。なお、
図20において成形品形状を象る部分を網線で示した。
【0016】
そこで本発明は、中空の成形品を製造するような複雑な金型を構成する際にも離型剤を好適に塗布することができるダイカスト装置とそのダイカスト装置に備わる離型剤噴霧機構及び金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために、本開示は次の構成を有する。
【0018】
即ち本開示は、成形品の外部形状を象る一対の金型と、当該金型の内部に位置し前記成形品の内部形状を象る内部金型とを備えたダイカスト装置に備わる離型剤噴霧機構であって、前記一対の金型を型開きした際に現れる前記一対の金型のそれぞれの型開面からは陰になる前記内部金型の陰面に離型剤を塗布可能であり、離型剤吸込口と離型剤吹出口とその両者を連通する離型剤通過路とを有し、前記離型剤通過路はベンチュリー管構造であるとともに、当該離型剤通過路の長さが前記離型剤通過路の極値となる位置を挟んで前記離型剤吸込口側よりも前記離型剤吹出口側が短くなるように当該離型剤通過路が形成され、前記離型剤吸込口は前記型開面等の前記陰面以外の面に開口し、前記離型剤吹出口は前記陰面に対向して開口する離型剤噴霧機構である。
【0019】
本開示は、成形品の外部形状を象る一対の金型と、当該金型の内部に位置し前記成形品の内部形状を象る内部金型とを備えたダイカスト装置に備わる離型剤噴霧機構であって、前記一対の金型を型開きした際に現れる前記一対の金型のそれぞれの型開面からは陰になる前記内部金型の陰面に離型剤を塗布可能であり、離型剤吸込口と離型剤吹出口とその両者を連通する離型剤通過路とを有し、前記離型剤通過路はベンチュリー管構造であるとともに、当該離型剤通過路の長さが前記離型剤通過路の極値となる位置を挟んで前記離型剤吸込口側よりも前記離型剤吹出口側が短くなるように当該離型剤通過路が形成され、前記離型剤吸込口は前記型開面等の前記陰面以外の面に開口し、前記離型剤吹出口は前記陰面に対向して開口する離型剤噴霧機構としたため、内部金型を有する複雑な金型を備えたダイカスト装置においても、通常の離型剤塗布装置(離型剤スプレー装置)を用いて、固定金型及び可動金型双方の型開面から離型剤を塗布するだけで、陰となる内部金型陰面(裏面等)へも好適に離型剤を塗布することができる。そのため、離型剤の塗布もれはもとより離型剤の金型への十分な塗布を行うことができ、金型の損傷、欠陥製品の製造を少なくすることができる。
【0020】
本開示は、上記一対の金型の少なくとも何れか一方に前記内部金型を収容する凹部を有し、当該凹部に前記離型剤吹出口を備える離型剤噴霧機構である。
本開示を上記一対の金型の少なくとも何れか一方に前記内部金型を収容する凹部を有し、当該凹部に前記離型剤吹出口を備える離型剤噴霧機構としたため、通常は離型剤が届き難い離型剤の陰面へも離型剤の塗布を十分に行うことができる。
より詳しく説明すれば、離型剤の放出時に、固定金型又は可動金型に内部金型が入り込まない状態にある金型を用いた場合ですら内部金型の陰面に離型剤が回り込み難く付着しづらいのに、内部金型が固定金型又は可動金型の内部に入り込む場合にはさらに内部金型の陰面に離型剤が付着しずらくなる。こうした場合においても離型剤噴霧機構を備えるため内部金型の陰面に好適に離型剤を付着させることが可能である。また、その凹部に離型剤吹出口を設けたため、離型剤通過路の離型剤の入口側よりも出口側の管路長さを短く設計し易い。
【0021】
本開示は、上記一対の金型の少なくとも何れか一方に前記内部金型を収容する凹部を有し、当該凹部の形状が、前記内部金型の表面形状に沿った形状であって、当該凹部に前記離型剤吹出口を備える離型剤噴霧機構である。
本開示を上記一対の金型の少なくとも何れか一方に前記内部金型を収容する凹部を有し、当該凹部の形状が、前記内部金型の表面形状に沿った形状であって、当該凹部に前記離型剤吹出口を備える離型剤噴霧機構としたため、通常は離型剤が届き難い離型剤の陰面へも離型剤の塗布を十分に行うことができる。また、離型剤吹出口からエアーを放出する際には、そのエアーの広がりを抑制して内部金型の陰面に沿ってエアーが流れ易くなるため、離型剤からの水分の揮発を好適に行うことができる。
【0022】
本開示は、上記一対の金型の少なくとも何れか一方に前記内部金型を収容する凹部を有し、かつ当該凹部に当該凹部の表面をさらに凹ませた部分である拡散室を有し、当該拡散室に前記離型剤吹出口を備える離型剤噴霧機構である。
本開示を上記一対の金型の少なくとも何れか一方に前記内部金型を収容する凹部を有し、かつ当該凹部には当該凹部の表面をさらに凹ませた部分である拡散室を有し、当該拡散室に前記離型剤吹出口を備える離型剤噴霧機構としたため、離型剤吹出口から内部金型の陰面までの必要な間隔を空けることができ、離型剤の分散に十分な距離を取ることができる。
【0023】
本開示は、前記離型剤吹出口と前記離型剤吸込口が同一方向に開口しながら、かつ前記離型剤吹出口が前記離型剤吸込口よりも前記型開面を正面に見て奥側に開口されている離型剤噴霧機構である。
本開示を前記離型剤吹出口と前記離型剤吸込口が同一方向に開口しながら、かつ前記離型剤吹出口が前記離型剤吸込口よりも前記型開面を正面に見て奥側に開口されている離型剤噴霧機構としたため、離型剤通過路の入口側よりも出口側の管路長さを短くすることができ、離型剤吹出口からの離型剤の吹出強さを損なうことなく離型剤を放出することができる。
【0024】
本開示は、前記離型剤吹出口は、離型剤通過路の端部に対して交換可能なスプレーノズルで形成される離型剤噴霧機構である。
本開示を前記離型剤吹出口は、離型剤通過路の端部に対して交換可能なスプレーノズルで形成される離型剤噴霧機構としたため、離型剤吹出口から放出される離型剤の広がりと内部金型表面の単位面積あたりの離型剤が当たる量を調整でき、内部金型の表面形状に応じて好適に離型剤を付着させるようにすることができる。また、離型剤吹出口の変更だけでそれ以外の離型剤通過路を変更しないで上記離型剤の広がりや離型剤の当たる量を調整することができる。
【0025】
本開示は、前記離型剤吹出口は、離型剤通過路の端部に対して交換可能なスプレーノズルで形成され、当該スプレーノズルに、中心から等間隔に広がる位置に複数の開口を設けた広角ノズル又は扁平な形状の開口を設けた平吹ノズルを備える離型剤噴霧機構である。
本開示を前記離型剤吹出口は、離型剤通過路の端部に対して交換可能なスプレーノズルで形成され、当該スプレーノズルに、中心から等間隔に広がる位置に複数の開口を設けた広角ノズル又は扁平な形状の開口を設けた平吹ノズルを備える離型剤噴霧機構としたため、離型剤スプレー装置からの離型剤の吹出口の一般的な形状である円形である場合と比べて広角ノズルであれば離型剤を広範囲に放出でき、平吹ノズルであれば離型剤を扁平な範囲に放出することができる。それにより特殊な内部金型の形状、構造に対しても離型剤の塗布漏れを生じ難くすることができる。
【0026】
本開示は、前記一対の金型の何れかに組み込み可能なブロックパーツとして形成されている離型剤噴霧機構である。
本開示を前記一対の金型の何れかに組み込み可能なブロックパーツとして形成されている離型剤噴霧機構としたため、離型剤噴霧機構の製造を簡単に行うことができ、製品のキャビティ面を形成する精密な金型面はそのままに、離型剤噴霧機構の部分のみをこの金型に装着することができ、キャビティ面を同一とする金型に種々の離型剤噴霧機構を取り替えて装着することができる。
【0027】
本開示は、上記離型剤噴霧機構を備える金型とすることができる。
本開示を、上記離型剤噴霧機構を備える金型としたため、内部金型の陰面へも好適に離型剤の塗布を行うことができる金型を得ることができる。
【0028】
本開示は、成形品の外部形状を象る一対の金型と、当該金型の内部に位置し前記成形品の内部形状を象る内部金型と、前記何れかの離型剤噴霧機構とを備えたダイカスト装置において、前記一対の金型と前記内部金型に離型剤スプレー装置の管パイプから離型剤を放出して塗布する離型剤塗布方法であって、前記一対の金型を型開きした際に現れる前記一対の金型のそれぞれの型開面に対して離型剤を塗布可能な位置に離型剤スプレー装置を移動させる際に、前記型開面から突出した突起物に当たれば変形可能なチューブを前記管パイプの先端に装着しておき、離型剤塗布位置に前記離型剤スプレー装置を移動して、前記離型剤スプレー装置の管パイプから離型剤を放出し、前記一対の金型表面と前記内部金型の表面に離型剤を塗布するとともに、前記変形を生じても元の形状に戻る前記チューブを装着した管パイプから前記型開面に開口する離型剤吸込口にも離型剤を注入し、前記離型剤噴霧機構を通じて、前記型開面からは陰になる前記内部金型の陰面に対して対向する面に開口した離型剤吹出口から前記離型剤を放出して、前記内部金型の前記陰面に離型剤を塗布することを特徴とする離型剤塗布方法である。
【0029】
本開示は、成形品の外部形状を象る一対の金型と、当該金型の内部に位置し前記成形品の内部形状を象る内部金型と、前記何れかの離型剤噴霧機構とを備えたダイカスト装置において、前記一対の金型と前記内部金型に離型剤スプレー装置の管パイプから離型剤を放出して塗布する離型剤塗布方法であって、前記一対の金型を型開きした際に現れる前記一対の金型のそれぞれの型開面に対して離型剤を塗布可能な位置に離型剤スプレー装置を移動させる際に、前記型開面から突出した突起物に当たれば変形可能なチューブを前記管パイプの先端に装着しておき、離型剤塗布位置に前記離型剤スプレー装置を移動して、前記離型剤スプレー装置の管パイプから離型剤を放出し、前記一対の金型表面と前記内部金型の表面に離型剤を塗布するとともに、前記変形を生じても元の形状に戻る前記チューブを装着した管パイプから前記型開面に開口する離型剤吸込口にも離型剤を注入し、前記離型剤噴霧機構を通じて、前記型開面からは陰になる前記内部金型の陰面に対して対向する面に開口した離型剤吹出口から前記離型剤を放出して、前記内部金型の前記陰面に離型剤を塗布することを特徴とする離型剤塗布方法としたため、離型剤スプレー装置の管パイプが型開面からの突起物に衝突するような場合にも管パイプの先端を離型剤吸込口の正面に配置することができ、離型剤噴霧機構に十分な離型剤を注入することができる。
そして、上記開示に関係して以下の事項も開示する。
【0030】
即ち本開示は、成形品の外部形状を象る一対の金型と、当該金型の内部に位置し前記成形品の内部形状を象る内部金型とを備えたダイカスト装置について、前記一対の金型を型開きした際に現れる前記一対の金型のそれぞれの型開面からは陰になる前記内部金型の陰面に離型剤を塗布可能な離型剤噴霧機構を有し、前記離型剤噴霧機構は離型剤吸込口と離型剤吹出口とその両者を連通する離型剤通過路とを有し、前記離型剤吸込口は前記型開面に開口し、前記離型剤吹出口は前記内部金型の陰面に対向して開口することを特徴とするダイカスト装置である。
【0031】
本開示は、成形品の外部形状を象る一対の金型と、当該金型の内部に位置し前記成形品の内部形状を象る内部金型とを備えたダイカスト装置について、前記一対の金型を型開きした際に現れる前記一対の金型のそれぞれの型開面からは陰になる前記内部金型の陰面に離型剤を塗布可能な離型剤噴霧機構を有し、前記離型剤噴霧機構は離型剤吸込口と離型剤吹出口とその両者を連通する離型剤通過路とを有し、前記離型剤吸込口は前記型開面に開口し、前記離型剤吹出口は前記内部金型の陰面に対向して開口することを特徴とするダイカスト装置としたため、内部金型を有する複雑な金型を備えたダイカスト装置においても、通常の離型剤塗布装置(離型剤スプレー装置)を用いて、固定金型及び可動金型双方の型開面から離型剤を塗布するだけで、陰となる内部金型陰面(裏面等)へも離型剤を塗布することができる。そのため、離型剤の塗布もれ、塗布不足による金型の損傷、欠陥製品の製造を少なくすることができる。
【0032】
本開示はまた、離型剤噴霧機構は、前記一対の金型の何れかに組み込み可能なブロックパーツとして形成されているダイカスト装置とすることができる。
前記離型剤噴霧機構は、前記一対の金型の何れかに組み込み可能なブロックパーツとして形成されているダイカスト装置としたため、離型剤噴霧機構を簡単に製造することができ、また金型内(ダイカスト本体内)に容易に組み込むことができる。
【0033】
本開示はまた、離型剤通過路はベンチュリー管構造をしているダイカスト装置とすることができる。
離型剤通過路はベンチュリー管構造をしているダイカスト装置としたため、離型剤通過路を通過する離型剤は、減速の程度が低く、管内への離型剤の残りを少なくすることができる。そして内部金型への離型剤の塗布を好適に行うことができる。
【0034】
本開示はまた、記離型剤吹出口が離型剤通過路の端部に対して交換可能なスプレーノズルで形成されるダイカスト装置とすることができる。
記離型剤吹出口が離型剤通過路の端部に対して交換可能なスプレーノズルで形成されるダイカスト装置としたため、噴出される離型剤の噴出角度、噴出量等をスプレーノズルの交換で容易に行うことができる。
【0035】
本開示は、成形品の外部形状を象る一対の金型と、当該金型の内部に位置し前記成形品の内部形状を象る内部金型とを備えた金型について、前記一対の金型を型開きした際に現れる前記一対の金型のそれぞれの型開面からは陰になる前記内部金型の陰面に離型剤を塗布可能な離型剤噴霧機構を有し、前記離型剤噴霧機構は離型剤吸込口と離型剤吹出口とその両者を連通する離型剤通過路とを有し、前記離型剤吸込口は前記型開面に開口し、前記離型剤吹出口は前記内部金型の陰面に対向して開口することを特徴とする金型である。
【0036】
本開示は、成形品の外部形状を象る一対の金型と、当該金型の内部に位置し前記成形品の内部形状を象る内部金型とを備えた金型について、前記一対の金型を型開きした際に現れる前記一対の金型のそれぞれの型開面からは陰になる前記内部金型の陰面に離型剤を塗布可能な離型剤噴霧機構を有し、前記離型剤噴霧機構は離型剤吸込口と離型剤吹出口とその両者を連通する離型剤通過路とを有し、前記離型剤吸込口は前記型開面に開口し、前記離型剤吹出口は前記内部金型の陰面に対向して開口することを特徴とする金型としたため、内部金型を有する複雑な金型であっても、通常の離型剤塗布装置を用いて、型開きした型開面へ離型剤を塗布するだけで、陰となる内部金型陰面(裏面等)へも離型剤を塗布することができる。そのため、離型剤の塗布もれ、塗布不足による金型の損傷、欠陥製品の製造を少なくすることができる。
【0037】
そして本開示は、成形品の外部形状を象る一対の金型と、当該金型の内部に位置し前記成形品の内部形状を象る内部金型とを備えたダイカスト装置の前記一対の金型と前記内部金型に離型剤を塗布する離型剤塗布方法について、前記一対の金型を型開きした際に現れる前記一対の金型のそれぞれの型開面に対して離型剤を放出し、前記型開面に開口する離型剤吸込口から前記放出された離型剤を取り入れ、前記型開面からは陰になる前記内部金型の陰面に対して対向する面に開口した離型剤吹出口から前記離型剤を放出して、前記内部金型の前記陰面に離型剤を塗布することを特徴とする離型剤塗布方法である。
【0038】
本開示は、成形品の外部形状を象る一対の金型と、当該金型の内部に位置し前記成形品の内部形状を象る内部金型とを備えたダイカスト装置の前記一対の金型と前記内部金型に離型剤を塗布する離型剤塗布方法について、前記一対の金型を型開きした際に現れる前記一対の金型のそれぞれの型開面に対して離型剤を放出し、前記型開面に開口する離型剤吸込口から前記放出した離型剤を取り入れ、前記型開面からは陰になる前記内部金型の陰面に対して対向する面に開口した離型剤吹出口から前記離型剤を放出して、前記内部金型の前記陰面に離型剤を塗布することを特徴とする離型剤塗布方法としたため、内部金型を有する複雑な金型を備えたダイカスト装置においても、通常の離型剤塗布装置を用いて、固定金型及び可動金型双方の型開面から離型剤を塗布するだけで、陰となる内部金型陰面(裏面等)へも離型剤を塗布することができる。そのため、離型剤の塗布もれ、塗布不足による金型の損傷、欠陥製品の製造を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0039】
本開示の離型剤噴霧機構、金型、及びダイカスト装置によれば、内部金型を有するような複雑な金型を用いる場合であっても離型剤の塗布漏れを防止し、キャビティ表面を象る金型の表面全体に離型剤を塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明のダイカスト装置のブロック図である。
【
図3】
図2のIII-III線断面図であり、離型剤噴霧機構を示す。
【
図5】金型の凹部の別の形態を示す断面図であり、
図3相当図である。
【
図6】離型剤噴霧機構の別の形態を示す断面図であり、
図3相当図である。
【
図9】スライドピンと離型剤噴霧機構の組合せの一態様を説明する説明図であり、分
図9(A)は正面図、分
図9(B)は平面図、分
図9(C)はスライドピンの断面図である。
【
図10】ダイカスト装置による成形品生産プロセスを示すフローチャートである。
【
図11】本発明の別の実施形態の金型を示す説明図であり、内部金型がキャビティから外れた状態を示す。
【
図12】本発明の別の実施形態の金型を示す説明図であり、内部金型がキャビティに挿入された状態を示す。
【
図13】離型剤吸込口と離型剤吹出口を正面に見た模式図であり、分
図13(A)は離型剤吸込口と離型剤吹出口が各々一つのもの、分
図13(B)は一つの離型剤吸込口から分岐した離型剤吹出口が二つあるものをそれぞれ示す。
【
図14】離型剤噴霧機構のさらに別の形態を示す断面図であり、
図3相当図である。
【
図15】実施例で用いた種々のスプレーノズルの開口面を示す図と、それらのスプレーノズルから放出された離型剤の離型剤付着跡の大きさを示す図である。
【
図16】中実成形品形成用の従来の金型と、得られる成形品を示す説明図である。
【
図17】中空成形品形成用の従来の金型と、得られる成形品を示す説明図である。
【
図18】中空成形品形成用の従来の別の金型と、得られる成形品を示す説明図である。
【
図19】離型剤を塗布する様子を説明する説明図であり、
図18(A)に離型剤スプレー装置が加わった図である。
【
図21】
図20のXXI-XXI線断面図であり、内部金型の一方面にしか離型剤が塗布されない様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
実施形態に基づき本発明をさらに詳細に説明する。なお、各実施形態において、同一の役割を果たす部位については同一符号を付すとともに、同一の材料、機能、作用効果等について、それらの重複説明を省略する。
【0042】
第1実施形態:
図1は、本実施形態として説明するダイカスト装置100の構成を示すブロック図である。ダイカスト装置100は、ダイカストマシン本体10と、金型20と、離型剤スプレー装置30と、制御装置50とを有している。ここで、金型20はダイカストマシン本体10とは別の構成要素としたが、金型20はダイカストマシン本体10に装着するものでありダイカストマシン本体10の一部の構成要素であると捉えても良い。また、ダイカスト装置100にはこれら以外にも、キャビティ内を減圧する真空装置や、キャビティ内に気流を導入したり吸引したりする気流導入装置、金型等を洗浄する洗浄装置、成形品を金型から取り出す製品突き落とし装置、成形品が金型から外れたことを確認する落下確認装置等を備えていても良い。あるいはまた、ダイカスト装置100を狭義に介すれば、ダイカストマシン本体10、又は金型20を含めたダイカストマシン本体10をダイカスト装置100と捉えることもできる。
【0043】
ダイカストマシン本体10は、ホットチャンバー型ダイカストマシン本体を例示することができ、型締ユニット11、溶解保持ユニット12、射出ユニット13、ベースユニット14、及び制御ユニット15という大まかに5つのユニットを有している。ダイカストマシン本体10は、ダイカスト鋳造を行うために必要な基本的な構成からなる装置である。
【0044】
型締ユニット11は、金型20の型締め及び型開きを行う。溶解保持ユニット12は、溶湯金属の溶解及び保持を担う。射出ユニット13は、溶湯金属を金型20へ押し込み、射出後はロッドを元の位置に戻す射出戻りを行う。ベースユニット14は、各ユニットを支えるフレームベースであり土台の役割を担う。制御ユニット15は、各ユニットを構成する装置を制御する。
【0045】
次に金型について説明する。
図2は固定金型20aと可動金型20bとを一対の金型として備えるのに加え内部金型20cを有する金型20であり、型開きした金型20の固定金型20a及び可動金型20bのそれぞれのキャビティVを正面に見た型開面Pを示す。固定金型20aには内部金型20cとなるスライドピン20cが、キャビティV内部へ出し入れできるように、ピン保持部21が移動可能に形成されている。一方、可動金型20bには、ピン保持部21を収める溝22が形成されている。
【0046】
図3には、
図2で示した固定金型20aのIII-III断面図を示す。この
図3で示すように、固定金型20aには、離型剤吸込口24、離型剤吹出口26、そしてこれらを連通する離型剤通過路25を有する離型剤噴霧機構(装置)23が備わっている。
離型剤吸込口24は、離型剤Lの入り口となる部位である。また、離型剤吹出口26は、離型剤吸込口24から取り込まれた離型剤Lが離型剤通過路25を通り吹き出す出口である。このように離型剤噴霧機構23は、内部金型20cの表面Fに噴霧される離型剤Lをその内部金型20cの裏面H等の陰面Oに噴霧されるように金型20内部に離型剤Lの流路を設けた一連の構成部位である。
【0047】
離型剤吸込口24は、スライドピン20cの近傍で型開面Pに露出している。この離型剤吸込口24は、スライドピン20cの表面Fと同じ面、即ち固定金型の型開面Pに開口しているため、離型剤スプレー装置30の管パイプ31から型開面Pに向かって放出される離型剤Lは、固定金型20aのキャビティV表面、スライドピン20cの表面F、そして離型剤吸込口24に噴霧されることになる。
【0048】
そうした一方で、スライドピン20cの裏面Hは、スライドピン20c自体の陰となる陰面Oであるため、型開面Pに向かって放出される離型剤Lは届き難い。しかし、スライドピン20cの陰面Oに対向する面(対向面)Rには離型剤吹出口26が露出しているため、離型剤吸込口24に向かって放出された離型剤Lは、この離型剤吸込口24に入り、離型剤通過路25を通って離型剤吹出口26から放出される。そのため、こうした経路をたどった離型剤Lは、スライドピン20cの陰面Oに噴霧される。
【0049】
離型剤噴霧機構23が備わっていると、菅パイプ41から離型剤Lを放出する通常の離型剤スプレー装置30を用いることができ、固定金型20a、可動金型20b、及び内部金型20cのそれぞれの正面に離型剤Lを塗布するだけで、トンネル構造の離型剤通過路25を通って内部金型20cの裏面Hまでも離型剤Lを噴霧することができる。
【0050】
離型剤通過路25は、そのトンネル内をスムーズに離型剤Lが通過出来るようにJ字管形状を有しており、かつ、離型剤Lの噴射性能を向上させるためベンチュリー構造(又はベンチュリー管構造)としていることが好ましい。
【0051】
離型剤通過路25を滑らかなベンチュリー構造とすると、離型剤Lの通過経路に衝突する壁の存在はなくスムーズに離型剤吹出口26まで届かせることができ圧力損失を生じさせ難い。
【0052】
ベンチュリー構造とは、ベンチュリー効果を生じさせる構造のことであり、例えば
図4で示すような流量Qが流れる管路において、断面積B1の箇所の流速をv1、断面積B2の箇所の流速をv2とすると、Q=V1・B1=V2・B2の式が成り立つことに基づいて、入口側より出口側の流体の流速を速めるように流体の入口側より出口側の管路の口径を狭めた構造のことである。
【0053】
即ち、離型剤通過路25は、先にいくにつれて管路が徐々に細く絞られていくため、離型剤Lの管路通過の圧力は徐々に低下するが、流速は上昇する。そのため内部金型20cへの離型剤Lの衝突時に、キャビテーションエロージョンの効果が上昇し、内部金型20cへの離型剤Lの付着率は向上する。また、管内に角がなく滑らかな離型剤通過路25を形成すると離型剤溜まりが生じ難い。
【0054】
これに対して、J字管形状をキリ・エンドミルを用いた従来方の切削加工で形成すると、直角にしか穴を掘ることができないため、直角90°の壁が2か所存在するコ字型の角形状に離型剤通過路が形成される。そのため離型剤吸込口から流入した離型剤Lは、直角90°の壁に2度衝突し、圧力損失と流速低下が発生する。加えて、壁に衝突した離型剤Lには逆流の力が発生するため、離型剤吹出口付近に到達する頃には勢いが削がれ、内部金型20cへの離型剤付着能力が妨げられるおそれがある。また、角部に離型剤溜まりが生じ易い。
【0055】
内部金型20cへの離型剤付着能力が低下するメカニズムについてここで詳しく説明する。
離型剤粒子は、界面活性剤で水と油を乳化させた粒子であるため、中心核に油(本来的意味での離型剤)になり、外側にその油を覆う水分を有する。そのためこの水分殻を破壊しないと金型への油(離型剤)は付着せず広がらない。破壊した粒子の水分は金型の熱で蒸発し、蒸発しきれなかった残水分はエアーブローで弾き飛ばす工程を設けることで、離型剤の塗布が健全に出来たことになる。
【0056】
従来切削加工により形成される離型剤通過路は、離型剤粒子の流速の低下を生じさせ易く、離型剤付着の性能低下になる可能性がある。その理由として、噴射される勢いが削がれると内部金型20cに衝突しても水分の被膜を壊し難く、粒子を覆う水分で内部金型から弾かれてしまうおそれが高まり、離型剤Lの付着率が悪化する可能性があるからである。また、離型剤通過路内に離型剤L残りを多く発生し易く、離型剤塗布後にエアーブロー工程を念入りに行う必要性が高まるというデメリットもある。
【0057】
ここで、
図3で示す金型20及び離型剤噴霧機構23の特徴をさらに解説すると、この金型20及び離型剤噴霧機構23では、離型剤吹出口26と離型剤吸込口24が同一方向に開口しながら、かつ離型剤吹出口26が離型剤吸込口24よりも正面から見て奥側に開口されている。換言すれば、離型剤吹出口26と離型剤吸込口24が共に正面に開口しているだけでなく、離型剤通過路25の長さが、離型剤通過路25の極値となる位置Eを挟んで離型剤吸込口24側(入口側)よりも離型剤吹出口26側(出口側)が短くなるように、離型剤通過路25が形成されている。
【0058】
離型剤吸込口24と離型剤吹出口26の両者を共に同一の方向に開口させつつ、それらの開口面を面一にせずにオフセットさせ、離型剤吸込口24での離型剤Lの流れ方向奥側に離型剤吹出口26を設けたため、離型剤吸込口24と同一面上に離型剤吹出口26を設けた場合に比べて、離型剤吹出口26における離型剤Lの流速を速めることができる。そのため、ベンチュリー効果と相俟って離型剤吹出口26において離型剤Lの十分な流速を担保することができる。
【0059】
固定金型20aには、内部金型であるスライドピン20cを収容する凹部33を有している。この凹部33は型開面Pよりもスライドピン20cが固定金型20aに入り込むように金型20を組むことで生じるものであるが、こうした金型20の構造が先に説明した離型剤通過路25の形状を形成し易くしている。
【0060】
この凹部33の形状は
図3で示すようにスライドピン20cの表面形状とは無関係な形状に形成される他、
図5で示すように、スライドピン20cの表面形状に沿った形状、換言すれば対応する形状に形成されていることが好ましい。具体的には、
図5の金型20においては、スライドピン20cの断面の円形形状に対して、凹部33の表面も断面が半円形状となっている。離型剤通過路25は、後述する離型剤噴霧工程S2で離型剤Lの通路として用いられるだけでなく、水分除去工程S3でエアーブローを行う際のエアーの通路ともなる。そのため、離型剤吹出口26から吹き出すエアーは、凹部33がスライドピン20cの表面に沿って形成されていると、凹部33とスライドピン20cとの間隙を通って排出される際に、スライドピン20c表面に付着した離型剤Lとの接触効果が高まり、金型20内に残った水分の除去効果に優れている。したがって、凹部33の表面形状をスライドピン20cの形状に沿った形状とすることは好ましい。
【0061】
離型剤吹出口26の近傍には、固定金型20a側に拡散室34を設けることができる。拡散室34は、スライドピン20cを収容するために固定金型20aに設けた凹部33の表面よりさらに凹ませた部分であって離型剤吹出口26が開口する部分である。拡散室34を設けずに凹部33の表面に離型剤吹出口26を設けると放出された離型剤Lが十分に広がらないうちにスライドピン20cにあたることで、スライドピン20cの広い範囲に離型剤Lが付着しないおそれがある。そのため拡散室34を設けることは好ましい。そうした一方で、拡散室34を設けずに、離型剤吹出口26が開口する凹部33の表面とスライドピン20cとの間隔を広げる場合には、後述する水分除去工程S3におけるエアーブローの際に、水分の除去が十分に行われないおそれがある。エアーがスライドピン20cに向かって放出される指向性が弱まり、エアーが広がることで水分除去効果が劣る場合があり得るからである。
【0062】
離型剤噴霧機構23と離型剤通過路25の別の態様を
図6で示す。この
図6は、
図3と同様に固定金型の断面を示す図である。
図6で示す態様は、移動金型であるスライドピン20cの固定金型側への入り込みが大きく、スライドピン20cの表面Fから離型剤Lを噴霧しただけでは、スライドピン20cの裏面Hだけではなく、その側面Gも離型剤Lが届き難い陰面Oとなるような場合に好適な態様である。この態様ではスライドピン20cの側面Gに対向する位置に離型剤吹出口26を設けて、スライドピン20cの裏面Hだけでなくその側面Gへも離型剤噴霧機構23を通じて離型剤Lを放出することができる。
【0063】
図6で示す離型剤通過路25もまたベンチュリー構造をしており、かつ離型剤通過路25の長さが、離型剤通過路25の極値となる位置Eを挟んで離型剤吸込口24側(入口側)よりも離型剤吹出口26側(出口側)が短くなるように、離型剤通過路25が形成されている。
【0064】
離型剤通過路25の極値となる位置Eを挟んで離型剤吸込口24側よりも離型剤吹出口26側が短くなるように離型剤通過路25を形成したため、離型剤吹出口26における離型剤Lの流速を弱めることなく放出できる。また、離型剤通過路25の形状を離型剤吸込口24から離型剤吹出口26に向けて単なるL字状にするのでなく、敢えて膨らみをもたせた略S字状にしているため、離型剤吹出口26から左右方向に偏りなく離型剤Lを放出されることができる。
【0065】
離型剤噴霧機構23は、
図7で示すように、ブロックパーツ27として形成することが好ましい。大きな金型20本体に離型剤噴霧機構23の精細な形状を形成することは困難だからであり、金型20にはブロックパーツ27を組み込めるように、入子型として組み込み部分を形成さえしておけば、別途、精細に製造したブロックパーツ27を組み込むだけで済むからである。このブロックパーツ27は、金属3D造形、接合、鋳造等の各種方法で製造することができるため、離型剤吸込口24、離型剤吹出口26、離型剤通過路25の各形状、大きさ、角度等を自由にデザイン及び設計することができ、また、別パーツを取付け可能に加工することも容易である。
【0066】
図7で示すブロックパーツ27は、内部金型となるスライドピン20cを収容するピン収容部27aを有している。このピン収容部27aはブロックパーツ27の外形を象る面から内側に凹んだ部分である。そしてこのピン収容部27aには離型剤吹出口26が設けられている。ピン収容部27aに離型剤吹出口26を設け、ブロックパーツ27の外形を象る面に離型剤吸込口24を設けることで離型剤通過路25の入口側よりも出口側の長さを短くし、スライドピン20cの陰面Oへ噴出される離型剤Lの吐出速度が弱まらないようにすることができる。ピン収容部27aは、固定金型20aの一部としてこのブロックパーツ27がはめ込まれたときの固定金型20aの凹部33となり得る場合もある。
【0067】
ブロックパーツ27は、好適には金属3D造形プリンターで製造することができ、原料としてはプラスチックや金属を用いることができる。金属で製造する場合は、プラスチック造形と違い離型剤通過路25内に砥粒を流し砥粒研磨が可能であるため、管内のざらついた金属肌を研磨することで離型剤Lを勢いよく噴射できるブロックパーツ27とすることができる。
【0068】
そして離型剤は水溶液の媒体となるため錆の防止が必要であり、また、金型にブロックパーツ27を組み込む際には組み込む金型とブロックパーツ27との寸法精度を厳しく制御する必要がある。組み込む金型とブロックパーツ27の材質の相違による熱膨張の相違が寸法制度に悪影響を及ぼすことからこうした点も考慮した材質選択が必要であり、離型剤通過路25にはメッキを施すことが好ましい。
【0069】
ブロックパーツ27に組み込むことができる別パーツの一例としては、
図8で示すように、離型剤吹出口26をビス形状のスプレーノズル28とすることができる。離型剤Lの塗布パターンを変化させるスプレーノズル28を各種準備し、それを離型剤吹出口26に取り付ける構造とすれば、ブロックパーツ27を幾種類も形成することなく、スプレーノズル28を取り替えるだけで、様々な離型剤Lの吹出しパターンを実現することができるからである。
【0070】
換言すれば、離型剤Lの噴霧時に、死角になる部分のスライドピン20cの形状や、そのスライドピン20cと離型剤吹出口26との位置関係など、製造する製品形状により様々であるため、死角になる部分が複雑な形状をなすスライドピン20cであっても陰面Oに好適に離型剤Lを塗布する必要があり、スプレーノズル28の吹出パターンを変化させることで、複雑なスライドピン20cの陰面Oに好適に離型剤Lを塗布することが可能となる。
【0071】
スプレーノズル28の材質は金属又はプラスチックとすることが好ましく、錆びにくい金属とすることがより好ましい。錆びにくい金属は耐久性があり、また液漏れを起こしにくいからである。より具体的には真鍮、銅、SUS等が好ましい。
【0072】
図8(A)には、開口29の形状を円形としたスプレーノズル28a(28)の斜視図を、
図8(B)にはその縦断面図を、そして、
図8(C)には、開口29形状を種々に変化させた各種スプレーノズル28a(28)~28e(28)の平面図を示す。開口形状を変化させることで、成形品形状に適したスプレーパターンにすることができ、また、離型剤粒子の流速を変化させることができる。
【0073】
開口29が円形をした丸吹ノズル28aは、一般的な形状であり細かな場所へ離型剤Lを塗布することができる。開口29を複数有する広角ノズル28bは、開口29ごとに角度を付けて複数の小穴数を設けることができ、広角での塗布に好適である。開口29が長方形等の扁平な形状をした平吹ノズル28cは、その長方形の長手方向へ離型剤Lを広げて塗布する場合に好適である。開口29が十字形をした十文字ノズル28dは、上下・左右の広がりを考慮した塗布を行うことができる。そして開口がアスタリスク形状のアスタリスクノズル28eは、十文字ノズルと広角ノズルの双方の特徴を備えることができる。
【0074】
スライドピン20cの形状に応じて好適なスプレーノズル28を選択する例を、
図9を用いて説明する。
図9は、スライドピン20cと離型剤噴霧機構23の組合せの一態様を示している。
図9(C)で示すようにここで説明するスライドピン20cは、断面にU字形の窪みJがあり、
図9(A)で示すようにこのU字状の窪みJはスライドピン20cの中程から一方端にまで長手方向に続いている。そして、その長手方向に沿って3つの離型剤吹出口26が設けられ、かつ各平吹ノズル28cの略長方形の開口29の長辺が、窪みJの長手方向に沿って配置されている。
こうしたスライドピン20cに対して平吹ノズル28cを選択し、スライドピン20cの窪みJの長手方向と平吹ノズル28cの開口29の長手方向を一致させることで、平吹ノズル28cを通じて放出された離型剤Lは、窪みJの内部までも好適に当てることができる。
【0075】
離型剤スプレー装置30は、前述のように金型のキャビティ表面に離型剤を塗布するための装置である。
図19で示した一般的な離型剤スプレー装置30からはキャビティV
表面に離型剤を塗布するための管パイプ31が伸び出しており、固定金型20aと可動金型20bが開いた状態で、管パイプ31が上方から下降し、管パイプ31の先がキャビティV面に対向した位置で離型剤を放出した後、管パイプ31は上昇し、型締めを妨げないようにすることができる。
【0076】
離型剤噴霧機構23の備わる金型20に離型剤Lを吹き付ける場合にもこうした一般的な離型剤スプレー装置30を用いることができる。離型剤スプレー装置30の管パイプ31の先端を離型剤吸込口24に向け、離型剤吸込口24内に離型剤Lを吹き付け注入すれば良いからである。
但し、この離型剤スプレー装置30は基本的には上下動しか行わないため、離型剤スプレー装置30を下降させ、その管パイプ31を離型剤吸込口24に近づける際に、離型剤吸込口24のある型開面Pに対して内部金型20cが突出している場合には、この突出部分に管パイプ31の先端が接触する可能性がある。仮に接触してしまうと管パイプ31が曲がった状態となり離型剤吸込口24の真正面に管パイプ31の先端を配置させることができなくなり、離型剤噴霧機構23への離型剤Lの注入が失敗する。
【0077】
こうした問題を解決するために、内部金型20c等の接触物に接触した際に変形可能となる耐熱シリコン製やポリウレタン製などの柔軟性のあるチューブを管パイプ31の先端に取り付けることが好ましい。こうしたチューブを取り付けることで離型剤スプレー装置30を下降させた時に内部金型20c等の突起物にチューブがぶつかってもさらに下降させてこれらの突起物を通過すれば元の形状に戻ることで離型剤吸込口24の真正面に管パイプ31の先端を配置することができる。
【0078】
制御装置50は、ダイカストマシン本体10と離型剤スプレー装置30の制御を行う装置であり、真空装置や気流導入装置、洗浄装置、落下確認装置、製品突き落とし装置が備わっていればそれらの装置の制御も行う。制御装置50では、上記各装置を連動させて駆動させたり、それぞれ単独で駆動させたりすることができる。単独制御を行う場合としては、例えば、生産過程でダイカスト成形品にトラブルが発生した場合である。この場合には、ダイカストマシン本体10を含め、すべての装置を停止させるため、その後、改めて生産を開始するときに、離型剤スプレー装置30のみを起動して離型剤の塗布状態を確認する等を行うことができる。自動制御を行う場合としては、例えば、離型剤スプレー装置30の自動運転をダイカストマシン本体10の自動運転に連動させる場合である。この場合には、ダイカストマシン本体10の自動運転中、離型剤の塗布が必要なタイミングに自動的に金型20に離型剤の塗布を行うようにすることができる。制御装置50はダイカストマシン本体10の制御ユニット15とも連携し制御装置50及び制御ユニット15はダイカスト装置100全体を制御する。
【0079】
ダイカスト成形品の生産は次の工程に従う。
図10に生産工程のフローチャートを示す。初期戻し工程S1は、可動金型20bを固定金型20aに対して型開きし、内部金型20cは離型剤Lが好適に塗布される初期位置に配置させる工程である。次の離型剤噴霧工程S2では、離型剤スプレー装置30から金型20のキャビティV面に離型剤Lをする放出する。離型剤の塗布完了の確認後、離型剤付着残りの水分を金型外に飛ばすため、水分除去工程S3ではエアーブローを行い金型内に残った水分の洗浄を行う。この工程が終了するとスプレー装置戻し工程S4では離型剤スプレー装置30を元の位置に戻す。
【0080】
型締工程S5では、内部金型20cをキャビティV内に移動して、固定金型20aと可動金型20b、そして内部金型20cとで製品形状に彫り込まれたキャビティ面を形成させる。射出工程S6では、溶解保持ユニット12内に溶解保持した鋳造合金を、射出ユニット13を用いて圧力をかけて金型20内に瞬時に注ぎ込む。射出戻工程S7では、押し出されたロッドを元の位置に戻し、次に鋳造する溶湯の補充を行う。一方、金型20に射出された溶湯金属は、金型20内で凝固して製品形状になり、型開き工程S8及び製品押出工程S9によって金型20から脱型される。この脱型には、製品突き落とし装置を用いることができる。落下確認工程S10では、落下確認装置を設けて成形品の取り出しを確認し、再び初期戻し工程S1に戻る。こうした一連の動作が1サイクルとなり、一単位分の成形品を生産する1ショットとなる。
【0081】
こうした成形品の生産では、寸法精度よく、そして美観を維持しながら大量生産を行うことができる。一つの態様として、型締力は250KNとし、1ショット工程を6sec程度で行うことができる。即ち、この態様では、1分で10ショット、1時間で600ショット、1日に8時間稼働させるとすると、1日に4800ショット行うことができ、1ショットで成形品を2個取りすると、1日の生産高は9600個となる。なお、上記ルーティンの工程に加えて、金型洗浄工程等の別の工程を必要に応じて加えることができる。
【0082】
第2実施形態:
第2実施形態として説明するのは、円筒L字形の成形品を2個取りできるダイカスト装置200とその金型40である。
図11には内部金型40c(40c1~40c4)をキャビティVから外した状態を、
図12には内部金型40c(40c1~40c4)をキャビティVに挿入した状態を、それぞれ示し、両図とも型開き状態の固定金型40aを正面から見た図である。この金型40では、
図11の中央を境にして左右両側で成形品を2個取りできる。
【0083】
内部金型40cとしては、4つのスライドピン40c1~40c4有しており、スライドピン40c1,40c3はそれぞれ上から下へ、スライドピン40c2,40c4は左から右へ、又は右から左へそれぞれスライド可能に形成されており、可動金型40b(図示せず)が固定金型40aと組み合わさったときに、一組のスライドピン40c1とスライドピン40c2及び別の一組のスライドピン40c3とスライドピン40c4が組み合わされる形状をしている。
【0084】
離型剤吸込口44が44a~44dの4箇所形成されており、スライドピン40c1~40c4をキャビティVから外した
図11で示す状態で離型剤Lを噴霧し、スライドピン40c1~40c4をキャビティV内に挿入した
図12で示す状態で型締めして溶湯が流される。
【0085】
これらの金型40を有するダイカスト装置200もまた、型開面からの離型剤の塗布により、陰となる内部金型40cの陰面(裏面等)へも漏れなく離型剤を塗布することができる。
【0086】
実施形態の変更例:
上記実施形態1では、固定金型20aにピン保持部21を設け、可動金型20bにはピン保持部21を収容可能な溝22を設けた構成としていたが、金型20にはこれらの部位を設けず、金型20以外のダイカストマシン本体10に設けたピン保持部21から金型20内にスライドピン20cを出し入れ可能に構成することができる。
【0087】
離型剤通過路25は、上位何れの態様でもの一つの離型剤吸込口24から一つの離型剤吹出口26までを繋ぐ一本道で形成された態様であったが、複数の離型剤吹出口26から離型剤Lが放出されるように離型剤通過路25の途中に分岐を設けた構成とすることができる。離型剤吸込口24と離型剤吹出口26を正面に見た模式図を
図13に示すが、
図13(A)で示す形態では離型剤通過路25が一本道であるのに対し、
図13(B)で示す形態では離型剤通過路25が分岐して二つの離型剤吹出口26,26から離型剤Lを放出することができる。これにより、スライドピン20cの広範囲に離型剤Lを塗布することができる。
【0088】
上記実施形態は本発明の一例であり、実施形態の変更例で示した例以外にも、公知の手段や方法に代替し、又はさらに加える等の変更を行っても良く、本発明の趣旨を変更しない範囲で適宜、変更が可能である。
【0089】
例えば、各図に示したスライドピンの形状は例示であり適宜、製造する製品に対応した形状とすることができ、そうした種々のスライドピンの形状に対応させて凹部33やピン収容部27aを形成することができる。
【0090】
離型剤噴霧機構23における離型剤吸込口24は、固定金型20a,40aと可動金型20b,40bを開いた型開面Pに開口する態様を示してきたが、離型剤スプレー装置30と管パイプ31の配置によっては型開面P以外に離型剤吸込口24を設けることもできる。
図14には、型開面Pとは異なる面に離型剤吸込口24を設けた離型剤噴霧機構23の例を示す。こうした離型剤噴霧機構23においてもその離型剤通過路25は、ベンチュリー構造であり、かつ、その離型剤通過路25の長さが離型剤通過路25の極値となる位置Eを挟んで前記離型剤吸込口24側よりも前記離型剤吹出口26側が短くなるように離型剤通過路25が形成されている。
【実施例0091】
実験方法:
スプレーノズル28の開口(吹出口)29の形状と大きさ、配置、個数等の相違により噴射される離型剤の広がり具合を調べるために、
図15で示す形状の試料1~試料4となるスプレーノズル28を製造して実験を行った。製造した試料1~試料4のそれぞれのスプレーノズル28の詳細は以下のとおりであるが、何れのスプレーノズル28も金属製で正六角形の平面の対向する辺間の距離は10mmであった。
試料1(標準ノズル):ノズルの吹出口径:直径3mm、穴数:1
試料2(広角ノズル):ノズルの吹出口径:直径2mm、穴数:6、対角上の2つの穴の中心間の距離:6.9mm
試料3(超広角ノズル):ノズルの吹出口径:直径1mm、穴数:7、対角上の2つの穴の中心間の距離:7.3mm
試料4(平吹ノズル):ノズルの吹出口径:短手方向長さ1.5mm、長手方向最長長さ7mmの略長方形(長手方向両端は半円状)の形状、穴数:1、
【0092】
上記試料1~試料4のスプレーノズル28を内径が6mm、外径が12mmの円筒状ゴムホースの先端に取付けた。そして、各スプレーノズル28の先端から100mm隔てた位置に垂直に噴射パターン測定用ボード(ステンレス鋼製)を配置した。そして、0.5mL/秒でこのゴムホースに離型剤を注入し、各スプレーノズル28から噴射され、上記測定用ボードに当たって形成された離型剤の広がり形状を観察した。
その結果、各測定用ボード上には、試料1で直径35mmの噴射パターン(離型剤付着跡)が形成され、試料2で直径70mmの噴射パターンが形成され、試料3で直径100mmの噴射パターンが形成され、そして、試料4では高さ40mm、幅100mmとなる噴射パターンが形成された。また、離型剤から水分が消失した後の各測定用ボード上の離型剤の付着は、試料1、試料2、試料4で十分であったが、試料3では合格とはいえるものの若干薄かった。
【0093】
考察:
試料1~試料3を比較すると、それぞれ開口29の中心から360度方向に等間隔に開口を開けているにもかかわらず、噴射パターンの広がりに違いが見られ、試料1より試料2、試料2よりも試料3と、段々と噴射パターンが広がったことから、複数個の開口を間隔が広くなるように設けた離型剤吹出口26を形成するほど噴射パターンが広がることがわかった。また、上記条件で放出し付着させた離型剤が満足するものであったことから、スプレーノズル28の個々の開口径も1~2mmまで細くすることが可能であることがわかった。
したがって、陰面Oが広い面積となり、噴射された離型剤が回り込み難い平坦な表面形状を有するスライドピン20cである場合などには、複数の開口が中心から等間隔に広がる位置に設けられた試料2や試料3のような広角ノズルを用いれば、設定する離型剤吹出口を少なくしても広い面積に離型剤を付着させることが推察された。
【0094】
試料1と試料4を比較すると、両者の開口29の縦径は試料1で3mm、試料4で1.5mmと2倍も相違するにもかかわらず、得られた噴射パターンの縦径は試料1が35mmであるのに試料4では40mmであった。このことから開口29の形状を円形ではなく扁平にしても、狭められた方向に対して離型剤の放射量が劇的に減ることはなく試料1の大きさの円形と同様の広がりを得られることがわかった。
また、試料2と試料4とを比較すると、両者の噴射パターンの面積は略同等であることから、スプレーノズル28の形状と大きさを変化させることで、離型剤を付着させたい位置を変化させられることが確認できた。
成形品の外部形状を象る一対の金型と、当該金型の内部に位置し前記成形品の内部形状を象る内部金型と、請求項1~請求項6何れか1項記載の離型剤噴霧機構とを備えたダイカスト装置において、前記一対の金型と前記内部金型に離型剤スプレー装置の管パイプから離型剤を放出して塗布する離型剤塗布方法であって、
前記管パイプの先端には柔軟性のあるチューブが取り付けられており、前記離型剤スプレー装置を離型剤塗布可能な位置に移動する際に、前記型開面から突出した突起物に当該チューブがぶつかってもさらに前記離型剤スプレー装置を移動させて、当該チューブの変形で前記突起物を通過させることができ、
離型剤塗布位置に前記離型剤スプレー装置を移動して、前記離型剤スプレー装置の管パイプから離型剤を放出し、前記一対の金型表面と前記内部金型の表面に離型剤を塗布するとともに、前記変形を生じても元の形状に戻る前記チューブを装着した管パイプから前記型開面に開口する離型剤吸込口にも離型剤を注入し、
前記離型剤噴霧機構を通じて、前記型開面からは陰になる前記内部金型の陰面に対して対向する面に開口した離型剤吹出口から前記離型剤を放出して、前記内部金型の前記陰面に離型剤を塗布することを特徴とする離型剤塗布方法。