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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177042
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】還元触媒前駆体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20241212BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C01G53/00 A
B01J23/755 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215606
(22)【出願日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2023094127
(32)【優先日】2023-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 俊宏
(72)【発明者】
【氏名】堤 裕司
(72)【発明者】
【氏名】清水 宏益
【テーマコード(参考)】
4G048
4G169
【Fターム(参考)】
4G048AA08
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD04
4G048AE05
4G048AE06
4G169AA02
4G169AA08
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC51A
4G169BC51B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BD02A
4G169BD02B
4G169BD05B
4G169CC22
4G169DA06
4G169EA02Y
4G169EC02X
4G169EC07Y
4G169FA01
4G169FB09
4G169FB30
(57)【要約】
【課題】希土類元素等の安定化剤を使用することなく、かつ、焼成時に多量のNOxを発生させずに高い活性を示す還元触媒の前駆体を製造する方法を提供する。
【解決手段】 還元触媒用材料を製造する方法であって、該製造方法は、ニッケル含有化合物及びジルコニウム含有化合と、アルカリ炭酸塩とを硫酸イオンの存在下で中和反応させる中和工程と、該中和工程で得られた生成物をろ過及び水洗して水溶性成分を除去する工程と、該除去工程後の生成物を加熱処理する工程とを有し、該加熱処理工程により得られた酸化物におけるNaOの含有量が1.0質量%以下であり、SOの含有量が0.5質量%以下である、還元触媒前駆体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元触媒前駆体を製造する方法であって、
該製造方法は、ニッケル含有化合物及びジルコニウム含有化合物と、アルカリ炭酸塩とを硫酸イオンの存在下で中和反応させる中和工程と、
該中和工程で得られた生成物をろ過及び水洗して水溶性成分を除去する工程と、
該除去工程後の生成物を加熱処理する工程とを有し、
該加熱処理工程により得られた酸化物におけるNaOの含有量が1.0質量%以下であり、SOの含有量が0.5質量%以下である、還元触媒前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記中和工程において、ニッケル含有化合物及びジルコニウム含有化合物を含む水溶液と、アルカリ炭酸塩の水溶液とを混合する、請求項1に記載の還元触媒前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記中和工程において、更にケイ素含有化合物を添加する、請求項1に記載の還元触媒前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記ケイ素含有化合物のSiO換算の添加量は、ニッケル元素およびジルコニウム元素の合計100質量%に対して0.5~15質量%である、請求項1に記載の還元触媒前駆体の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ炭酸塩が、炭酸ナトリウム及び/又は炭酸水素ナトリウムである、請求項1に記載の還元触媒前駆体の製造方法。
【請求項6】
前記中和工程における中和反応時のpHが6.5~8.5である、請求項1に記載の還元触媒前駆体の製造方法。
【請求項7】
前記中和工程における反応温度が50℃以上である、請求項1に記載の還元触媒前駆体の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の還元触媒前駆体の製造方法における中和工程と、水溶性成分の除去工程と、加熱処理工程とを含み、
更に、該加熱処理工程により得られた酸化物を還元する工程を含み、
該加熱処理工程により得られた酸化物におけるNaOの含有量が1.0質量%以下であり、SOの含有量が0.5質量%以下である、還元触媒の製造方法。
【請求項9】
前記還元工程で得られた生成物の表面を酸化する工程を含む、請求項8に記載の還元触媒の製造方法。
【請求項10】
前記還元触媒がメタネーション触媒である、請求項8又は9に記載の還元触媒の製造方法。
【請求項11】
酸化ニッケルと酸化ジルコニウムとを含む還元触媒前駆体であって、
該還元触媒前駆体は、単斜晶の酸化ジルコニウム割合が、酸化ジルコニウム100体積%に対して20体積%以下であり、以下の条件で還元処理した後のCO吸着量が3cm/g以上である、還元触媒前駆体。
<還元処理条件>
還元触媒前駆体量:0.04g
ガスの種類及び速度:水素50mL/分
温度:400℃
還元処理時間:30分
【請求項12】
前記還元触媒前駆体は、更にケイ素含有化合物を含む、請求項11に記載の還元触媒前駆体。
【請求項13】
前記ケイ素含有化合物のSiO換算の含有割合が、前記還元触媒前駆体中のニッケル元素およびジルコニウム元素の合計100質量%に対して、0.5~15質量%である、請求項11に記載の還元触媒前駆体。
【請求項14】
比表面積が、30m/g以上である、請求項11に記載の還元触媒前駆体。
【請求項15】
請求項11に記載の還元触媒前駆体の還元物である、還元触媒。
【請求項16】
メタネーション触媒である、請求項15に記載の還元触媒。
【請求項17】
請求項16に記載の還元触媒を使用して二酸化炭素を還元する工程を含む、メタンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元触媒前駆体の製造方法に関する。より詳しくは、メタネーション触媒等に有用な還元触媒前駆体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年地球温暖化が深刻な社会問題となっており、その原因の一つと言われる二酸化炭素の排出量をゼロとする脱炭素化への取り組みが盛んとなっている。その方策の一つとして二酸化炭素を有価物へ転換するカーボンリサイクルについて様々な方法が検討されており、なかでも二酸化炭素を水素で還元してメタンを得るメタネーションは有力な方法として世界各地で実証試験等が進められている。
二酸化炭素を水素で還元してメタン化する触媒(メタネーション触媒)としては、イットリウムやランタンなどの希土類で安定化した正方晶ジルコニアとニッケルとを含む触媒が有効であることが知られている。
【0003】
正方晶ジルコニアとニッケルとを含む還元触媒に関して特許文献1及び2には、希土類元素を用いて安定させた正方晶ジルコニア系担体にNiまたはCoを担持した触媒が開示されている。
また、特許文献3には、鉄族遷移元素(Ni、Fe、Co)の少なくとも1 種の金属の粒子の表面に、酸化ジルコニウムと、セリウム、ランタンおよびバリウムの少なくとも1種の金属の酸化物との混合酸化物の被覆を設ける技術が開示されている。
更に、特許文献4には、CaおよびNiをジルコニアの結晶構造に取り込んで正方晶系の結晶構造を安定化させる技術が開示されている。
特許文献5には、Mn、FeおよびCoからなる群から選択される少なくとも1種の遷移元素を安定化元素として用いてジルコニアの正方晶系および/または立方晶系の結晶構造を安定化させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-254508号公報
【特許文献2】特開2009-034650号公報
【特許文献3】特開2009-034654号公報
【特許文献4】国際公開第2016/013488号
【特許文献5】特開2018-020278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、従来種々の還元触媒が開発されている。しかし、ジルコニアの正方晶を得るために希土類元素等の安定化剤を使用する方法においては、希土類元素等は高価であって、鉱石の産出国に偏りがあり、コストや安定的な供給の点で問題があった。また、金属塩として硝酸塩を使用し、焼成する方法においては、焼成時に多量のNOxが発生し、脱硝設備を備えた焼成炉等が必要となる点で課題があった。したがって、希土類元素等の安定化剤を使用することなく、かつ、焼成時に多量のNOxを発生させずに高い活性を示す還元触媒を製造する方法が求められていた。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、希土類元素等の安定化剤を使用することなく、かつ、焼成時に多量のNOxを発生させずに高い活性を示す還元触媒の前駆体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、還元触媒用材料の製造方法について種々検討したところ、ニッケル含有化合物及びジルコニウム含有化合物と、アルカリ炭酸塩とを硫酸イオンの存在下で中和反応させ、中和反応で得られた生成物をろ過及び水洗して水溶性成分を除去し、得られた生成物を加熱処理することにより、得られた酸化物におけるNaO及びSOの含有量が所定量以下となり、希土類元素等の安定化剤を使用することなく、かつ、焼成時に多量のNOxを発生させずに、高い活性を示す還元触媒の前駆体を製造することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
本発明は、以下の還元触媒前駆体の製造方法等を包含する。
〔1〕還元触媒前駆体を製造する方法であって、該製造方法は、ニッケル含有化合物及びジルコニウム含有化合物と、アルカリ炭酸塩とを硫酸イオンの存在下で中和反応させる中和工程と、該中和工程で得られた生成物をろ過及び水洗して水溶性成分を除去する工程と、該除去工程後の生成物を加熱処理する工程とを有し、該加熱処理工程により得られた酸化物におけるNaOの含有量が1.0質量%以下であり、SOの含有量が0.5質量%以下である、還元触媒前駆体の製造方法。
〔2〕上記中和工程において、ニッケル含有化合物及びジルコニウム含有化合物を含む水溶液と、アルカリ炭酸塩の水溶液とを混合する、上記〔1〕に記載の還元触媒前駆体の製造方法。
〔3〕中和工程において、更にケイ素含有化合物を添加する、上記〔1〕又は〔2〕に記載の還元触媒前駆体の製造方法。
〔4〕上記ケイ素含有化合物のSiO換算の添加量は、ニッケル元素およびジルコニウム元素の合計100質量%に対して 0.5~15質量%である、上記〔3〕に記載の還元触媒前駆体の製造方法。
〔5〕上記アルカリ炭酸塩が、炭酸ナトリウム及び/又は炭酸水素ナトリウムである、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の還元触媒前駆体の製造方法。
〔6〕上記中和工程における中和反応時のpHが6.5~8.5である、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の還元触媒前駆体の製造方法。
〔7〕上記中和工程における反応温度が50℃以上である、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の還元触媒前駆体の製造方法。
〔8〕上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の還元触媒前駆体の製造方法における中和工程と、水溶性成分の除去工程と、加熱処理工程とを含み、更に、該加熱処理工程により得られた酸化物を還元する工程を含み、該加熱処理工程により得られた酸化物におけるNaOの含有量が1.0質量%以下であり、SOの含有量が0.5質量%以下である、還元触媒の製造方法。
〔9〕上記還元工程で得られた生成物の表面を酸化する工程を含む、上記〔8〕に記載の還元触媒の製造方法。
〔10〕上記還元触媒がメタネーション触媒である、上記〔8〕又は〔9〕に記載の還元触媒の製造方法。
〔11〕酸化ニッケルと酸化ジルコニウムとを含む還元触媒前駆体であって、該還元触媒前駆体は、単斜晶の酸化ジルコニウム割合が、酸化ジルコニウム100体積%に対して20体積%以下であり、以下の条件で還元処理した後のCO吸着量が3cm/g以上である、還元触媒前駆体。
<還元処理条件>
還元触媒前駆体量:0.04g
ガスの種類及び速度:水素50mL/分
温度:400℃
還元処理時間:30分
〔12〕上記還元触媒前駆体は、更にケイ素含有化合物を含む、上記〔11〕に記載の還元触媒前駆体。
〔13〕上記ケイ素含有化合物のSiO換算の含有割合が、上記還元触媒前駆体中のニッケル元素およびジルコニウム元素の合計100質量%に対して、0.5~15質量%である、上記〔11〕に記載の還元触媒前駆体。
〔14〕比表面積が、30m/g以上である、上記〔11〕~〔13〕のいずれかに記載の還元触媒前駆体。
〔15〕上記〔11〕~〔14〕のいずれかに記載の還元触媒前駆体の還元物である、還元触媒。
〔16〕メタネーション触媒である、上記〔15〕に記載の還元触媒。
〔17〕上記〔15〕又は〔16〕に記載の還元触媒を使用して二酸化炭素を還元する工程を含む、メタンの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の還元触媒前駆体の製造方法は、上述の構成よりなり、希土類元素等の安定化剤を使用することなく、かつ、焼成時に多量のNOxを発生させずに高い活性を示す還元触媒の前駆体を製造することができるため、メタネーション触媒等の還元触媒の製造に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0011】
1.還元触媒前駆体の製造方法
本発明の還元触媒前駆体の製造方法は、ニッケル含有化合物及びジルコニウム含有化合物と、アルカリ炭酸塩とを硫酸イオンの存在下で中和反応させる中和工程と、該中和工程で得られた生成物をろ過及び水洗して水溶性成分を除去する工程と、該除去工程後の生成物を加熱処理する工程とを有する。
本発明の還元触媒前駆体の製造方法において、上記中和工程を行うことにより、希土類元素等の安定化剤を使用することなく、かつ、焼成時に多量のNOxを発生させずに還元触媒前駆体を製造することができる。更に、中和工程においてアルカリ炭酸塩を用いることにより、中和時にニッケルが塩基性炭酸ニッケルとして沈殿し、これを加熱処理工程において加熱することで塩基性炭酸ニッケルにおける炭酸が抜けて得られる還元触媒の細孔容積を充分に確保することができる。
また、還元触媒前駆体の製造方法が上記所定の工程を含むことにより、上記加熱処理工程により得られた酸化物におけるNaOの含有量が1.0質量%以下、SOの含有量が0.5質量%以下となる。これにより、得られる還元触媒はより優れた触媒活性を発揮することができる。
【0012】
本発明の還元触媒前駆体の製造方法は、ニッケル含有化合物及びジルコニウム含有化合物と、アルカリ炭酸塩とを硫酸イオンの存在下で中和反応させる中和工程を含む。
酸性のジルコニアゾルを用いて焼成する方法では、NOx等の酸性ガスが発生し、設備の腐食の原因となるが、ニッケル含有化合物及びジルコニウム含有化合物を中和することにより、設備の腐食を充分に抑制することができる。
上記中和工程は、ニッケル含有化合物及びジルコニウム含有化合物と、アルカリ炭酸塩とを中和反応させる限り特に制限されず、これらの化合物を固体のまま1つの容器に添加して溶媒中で混合してもよく、各化合物の溶液を調製した後、該溶液を混合してもよい。
好ましくは、ニッケル含有化合物及びジルコニウム含有化合物とを含む溶液とアルカリ炭酸塩を含む溶液とを混合する形態である。
【0013】
上記溶媒としては、上記化合物を溶解させるものであればよいが、好ましくは水である。
上記中和工程において、ニッケル含有化合物及びジルコニウム含有化合物を含む水溶液(以下、水溶液(A)ともいう)と、アルカリ炭酸塩の水溶液(以下、水溶液(B)ともいう)とを混合する形態は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
上記中和工程において、水溶液(A)と水溶液(B)とを混合する場合、その混合方法は特に制限されず、水溶液(A)に水溶液(B)を添加しても、水溶液(B)に水溶液(A)を添加してもよいが、水溶液(A)と水溶液(B)とを同時に少量ずつ滴下して混合することが好ましい。これにより、得られる還元触媒前駆体におけるニッケルの分散度がより向上し、得られる還元触媒の触媒活性がより向上する。
【0014】
上記中和工程において、上記水溶液(A)を用いる場合、水溶液(A)におけるニッケル元素の濃度は、0.05~2.0モル/Lであることが好ましい。より好ましくは0.1~1.0モル/Lである。
また、水溶液(A)におけるジルコニウム元素の濃度は、0.05~2.0モル/Lであることが好ましい。より好ましくは0.1~1.0モル/Lである。
【0015】
上記中和工程において、上記水溶液(B)を用いる場合、水溶液(B)におけるアルカリ炭酸塩の濃度は、0.5モル/L以上であることが好ましい。より好ましくは1.0モル/L以上である。アルカリ炭酸塩の濃度は、5モル/L以下であることが好ましい。
【0016】
上記中和工程に用いるニッケル含有化合物は、ニッケル元素を含むものであれば特に制限されないが、硫酸塩、塩化物、酸化物、水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、塩基性炭酸塩等の化合物や、金属ニッケル等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、硫酸ニッケル、塩化ニッケルが好ましい。
【0017】
上記中和工程に用いるジルコニウム含有化合物は、ジルコニウム元素を含むものであれば特に制限されないが、水酸化物、酸化水酸化物、塩化物、硫化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、酢酸塩、リン酸塩、蓚酸塩、酪酸塩、セレン酸塩、ヨウ素酸塩、フッ化物、オキシ塩化物や、金属ジルコニウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、オキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウムが好ましい。
【0018】
上記中和工程に用いるアルカリ炭酸塩は、アルカリ金属の炭酸塩及び/又は炭酸水素塩であれば特に制限されない。
アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが挙げられ、好ましくはリチウム、ナトリウム、カリウムであり、より好ましくはナトリウムである。
アルカリ炭酸塩として具体的には、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられ、好ましくは炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムである。
アルカリ金属がナトリウムである場合、中和後にアルカリ金属を除去しやすいため、得られる還元触媒前駆体において残留するアルカリ金属の量をより充分に低減することができ、得られる還元触媒の活性がより向上する。
アルカリ炭酸塩が、炭酸ナトリウム及び/又は炭酸水素ナトリウムである形態は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
また、上記アルカリ炭酸塩は、炭酸塩であることが好ましい。これにより、得られる還元触媒前駆体及び還元触媒の比表面積がより大きくなり、触媒活性がより向上する。
【0019】
上記中和工程は、ニッケル含有化合物及びジルコニウム含有化合物と、アルカリ炭酸塩とを中和反応させる限り特に制限されないが、硫酸イオンの存在下で行うことを特徴とする。
上記中和工程において硫酸イオンを用いる場合、ニッケル含有化合物及び/又はジルコニウム含有化合物として硫酸塩を用いてもよく、ニッケル含有化合物又はジルコニウム含有化合物とは別に硫酸イオンを添加してもよい。
ニッケル含有化合物又はジルコニウム含有化合物とは別に硫酸イオンを添加する場合、ニッケル又はジルコニウム以外の金属元素の硫酸塩を用いることができる。好ましくはアルカリ金属又はアルカリ土類金属の硫酸塩であり、より好ましくはアルカリ金属の硫酸塩であり、更に好ましくは硫酸ナトリウムである。
【0020】
上記中和工程における硫酸イオンの使用量は、特に制限されないが、ジルコニウム元素とニッケル元素の合計100モル%に対して、10~200モル%であることが好ましい。より好ましくは20~100モル%であり、更に好ましくは30~70モル%である。
【0021】
また、上記中和工程は、硝酸イオンの使用量がジルコニウム100モル%に対して、1モル%以下であることが好ましい。これにより、硝酸イオンを含む排水を低減することができ、環境の観点からも優れる。
硝酸イオンの使用量としてより好ましくはジルコニウム100モル%に対して、0.5モル%以下であり、更に好ましくは0.1モル%以下であり、最も好ましくは0モル%である。
【0022】
上記中和工程におけるニッケル含有化合物及びジルコニウム含有化合物の使用量は特に制限されないが、ジルコニウム元素に対するニッケル元素のモル比(ニッケル元素/ジルコニウム元素)が0.1~20であることが好ましい。より好ましくは0.5~15であり、更に好ましくは1~10であり、特に好ましくは1~5である。
【0023】
上記中和工程におけるアルカリ炭酸塩の使用量(塩基の当量)は特に制限されないが、ジルコニウム含有化合物とニッケル含有化合物の合計1当量に対して、0.9~1.7当量であることが好ましい。より好ましくは1.1~1.5当量である。
【0024】
上記中和工程において、ニッケル含有化合物、ジルコニウム含有化合物、アルカリ炭酸塩及び硫酸イオン以外のその他の成分を添加してもよい。その他の成分としては、シリカ等のケイ素含有化合物等が挙げられる。
上記中和工程において、更にケイ素含有化合物を添加する形態もまた、本発明の好ましい実施形態の1つである。
上記中和工程において、ケイ素含有化合物を添加することにより、ニッケル、ジルコニウムの粒子成長を抑制することで表面積が増加し、得られる還元触媒前駆体は耐熱性により優れるものとなる。これにより、還元触媒として用いた場合に低温でも触媒活性を充分に発揮することができ、幅広い温度で使用可能となる。
上記ケイ素含有化合物は、ケイ素元素を含むものであれば特に制限されないが、微細シリカ粉末、シリカゾル、ケイ酸Na等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、シリカゾル、ケイ酸Naが好ましく、メタケイ酸Naがより好ましい。ケイ素含有化合物がケイ酸Na等の水溶性である場合、水溶液として添加できるため、分散性により優れ、得られる粒子の表面積がより向上し、耐熱性により優れるものとなる。
【0025】
上記ケイ素含有化合物のSiO換算の添加量は、ニッケル元素およびジルコニウム元素の合計(ニッケル含有化合物中のニッケル元素およびジルコニウム含有化合物中のジルコニウム元素の合計)100質量%に対して0.5~15質量%であることが好ましい。より好ましくは1~10質量%であり、更に好ましくは1~5質量%である。本明細書中、上記ケイ素含有化合物のSiO換算の量、又はこれに類する表現は、上記ケイ素含有化合物がSiOである場合はその量を意味し、上記ケイ素含有化合物がSiO以外の化合物の場合は、当該化合物中のケイ素元素のモル数に、SiOの分子量を乗じて得られる値を意味する。
【0026】
上記中和工程における中和反応時のpHは、特に制限されないが、pH6.5~8.5であることが好ましい。これにより得られる還元触媒前駆体におけるニッケルの分散性が向上し、得られる還元触媒の触媒活性がより向上する。より好ましくはpH6.5~7.5である。
上記中和工程において、反応溶液のpHが6.5~8.5となるように、上記水溶液(A)と水溶液(B)とを滴下しながら混合することが好ましい。
【0027】
上記中和工程における反応温度は、特に制限されないが、50℃以上であることが好ましい。これにより、中和反応の速度が大きくなり、得られる還元触媒前駆体におけるニッケルの分散性が向上する。より好ましくは50~80℃であり、更に好ましくは60~70℃である。
【0028】
上記中和工程における中和反応時間は、特に制限されないが、0.5~8時間が好ましい。より好ましくは1~6時間であり、更に好ましくは2~4時間である。
【0029】
上記還元触媒前駆体の製造方法は、中和工程で得られた生成物をろ過及び水洗して水溶性成分を除去する工程を含む。
上記除去工程は、中和工程で得られた生成物をろ過及び水洗してアルカリ金属イオンや硫酸イオン等の水溶性成分を除去することができる限り特に制限されない。
上記除去工程において使用する水の量は特に制限されないが、水洗後のろ液の導電率が100mS/m以下となるまで行うことが好ましく、より好ましくは50mS/m以下であり、更に好ましくは20mS/m以下である。
【0030】
上記還元触媒前駆体の製造方法は、上記除去工程後の生成物を加熱処理する工程を含む。
上記加熱処理工程は、上記生成物を酸化して、得られる還元触媒前駆体が酸化ニッケルと酸化ジルコニウムとを含むものとなる限り特に制限されない。
上記加熱処理工程は、上記除去工程後の生成物を500℃以上で焼成する工程を含むことが好ましい。焼成温度としてより好ましくは500~800℃であり、更に好ましくは600~700℃である。
【0031】
また、上記加熱処理工程は、上記焼成の前に、上記除去工程後の生成物を乾燥する工程を行うことが好ましい。乾燥温度としては特に制限されないが、80~200℃が好ましい。乾燥温度としてより好ましくは100~150℃である。
【0032】
上記加熱処理工程により得られた酸化物は、NaOの含有量が0.5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.2質量%以下である。
また、上記加熱処理工程により得られた酸化物は、SOの含有量が0.1質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.05質量%以下である。
NaO、SOの含有量が上記好ましい量以下であれば、得られる還元触媒の活性がより向上する。
【0033】
2.還元触媒前駆体
本発明は、酸化ニッケルと酸化ジルコニウムとを含む還元触媒前駆体であって、単斜晶の酸化ジルコニウム割合が、酸化ジルコニウム100体積%に対して20体積%以下であり、以下の条件で還元処理した後のCO吸着量が3cm/g以上である還元触媒前駆体でもある。
<還元処理条件>
還元触媒前駆体量:0.04g
ガスの種類及び速度:水素50mL/分
温度:400℃
還元処理時間:30分
【0034】
本発明の還元触媒前駆体の製造方法は、特に制限されないが、本発明の還元触媒前駆体の製造方法により製造することが好ましい。
【0035】
上記還元触媒前駆体は、単斜晶の酸化ジルコニウムの割合が、酸化ジルコニウム100体積%に対して20体積%以下であることが好ましい。これにより、得られる還元触媒の活性がより向上する。
単斜晶の酸化ジルコニウム割合としてより好ましくは15体積%以下であり、更に好ましくは10体積%以下であり、特に好ましくは5体積%以下である。
上記還元触媒前駆体は、単斜晶の酸化ジルコニウムの割合が、20体積%以下であればよいが、正方晶又は立方晶の酸化ジルコニウムを含むことが好ましい。より好ましくは正方晶の酸化ジルコニウムを含む形態である。
上記還元触媒前駆体は、正方晶及び立方晶の酸化ジルコニウムの合計の割合が、酸化ジルコニウム100体積%に対して80体積%以上であることが好ましい。正方晶の酸化ジルコニウムの割合が80体積%以上である形態は本発明の好ましい実施形態の1つである。
上記酸化ジルコニウム中の単斜晶、正方晶及び立方晶の割合は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0036】
上記還元触媒前駆体は、酸化ニッケルと酸化ジルコニウムとを含み、その成分の含有割合は特に制限されないが、酸化ニッケルと酸化ジルコニウムとの合計100質量%に対して、酸化ニッケルの割合が30~80質量%であることが好ましい。より好ましくは40~70質量%であり、更に好ましくは45~70質量%であり、特に好ましくは50~70質量%である。
【0037】
上記還元触媒前駆体は、酸化ニッケルと酸化ジルコニウムとを含むものであれば、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては特に制限されないが、金属ニッケル、金属ジルコニウム、シリカ等のケイ素含有化合物が挙げられる。
その他の成分の含有割合は特に制限されないが、酸化ニッケルと酸化ジルコニウムとの合計100質量%に対して0~20質量%であることが好ましい。より好ましくは0~10質量%であり、更に好ましくは0~1質量%である。
【0038】
上記還元触媒前駆体が、更にケイ素含有化合物を含む形態は、本発明の好ましい実施形態の1つである。上記ケイ素含有化合物の具体例及び好ましい形態は上述のとおりである。
上記還元触媒前駆体がケイ素含有化合物を含むことによって、触媒が700℃以上の高温に曝された場合にも触媒中の酸化ジルコニウムが正方晶から単斜晶になることが抑制され、低温での活性も向上する。
【0039】
前記ケイ素含有化合物のSiO換算の含有割合としては特に制限されないが、還元触媒前駆体中のニッケル元素およびジルコニウム元素の合計100質量%に対して、0.5~15質量%であることが好ましい。より好ましくは1~10質量%であり、更に好ましくは1~5質量%である。
【0040】
上記還元触媒前駆体は、上記条件で還元処理した後のCO吸着量が3cm/g以上である。CO吸着量が3cm/g以上であれば、還元触媒前駆体におけるニッケルの分散度が充分なものとなり、得られる還元触媒の活性がより向上する。CO吸着量の上限は特に制限されないが、通常5cm/g以下である。
【0041】
上記還元触媒前駆体は、比表面積が30m/g以上であることが好ましい。これにより、得られる還元触媒の活性がより向上する。比表面積としてより好ましくは35m/g以上であり、更に好ましくは40m/g以上であり、特に好ましくは45m/g以上である。比表面積としては通常100m/g以下である。
【0042】
上記還元触媒前駆体は、NaOの含有量が0.5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.2質量%以下である。
また、上記還元触媒前駆体は、SOの含有量が0.1質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.05質量%以下である。
NaO、SOの含有量が上記好ましい量以下であれば、得られる還元触媒の活性がより向上する。
【0043】
上記還元触媒前駆体は、細孔容積が0.1cm/g以上であることが好ましい。これにより得られる還元触媒におけるガスの拡散がより充分に進行し、活性がより向上する。細孔容積としてより好ましくは0.2cm/g以上であり、更に好ましくは0.3cm/g以上である。
【0044】
3.還元触媒の製造方法
本発明はまた、ニッケル含有化合物及びジルコニウム含有化合物と、アルカリ炭酸塩とを硫酸イオンの存在下で中和反応させる中和工程と、該中和工程で得られた生成物から水溶性成分を除去する工程と、該除去工程後の生成物を加熱処理する工程と、該加熱処理工程により得られた酸化物を還元する工程を含む、還元触媒の製造方法でもある。
上記還元触媒の製造方法における中和工程、水溶性成分の除去工程、加熱処理工程は、本発明の還元触媒前駆体の製造方法において述べたとおりである。
【0045】
上記加熱処理工程により得られた酸化物を還元する工程(以下、還元工程ともいう)は、該酸化物に含まれる酸化ニッケルを還元することができる限り特に制限されないが、還元雰囲気で加熱することが好ましい。
上記還元工程に用いられる還元性ガスとしては、水素、一酸化炭素等が挙げられる。還元性ガスとして好ましくは水素である。
また、上記還元工程では、上記還元性ガスと窒素やアルゴンなどの不活性ガスとの混合ガスを用いてもよい。上記混合ガスとしては、還元性ガスを10~100体積%の割合で含むものが好ましい。
【0046】
上記還元工程における還元処理温度としては特に制限されないが、200℃以上であることが好ましい。より好ましくは300~500℃であり、更に好ましくは350~450℃である。
【0047】
上記還元工程における還元処理時間としては特に制限されないが、1~12時間であることが好ましい。より好ましくは2~8時間であり、更に好ましくは3~5時間である。
【0048】
上記還元触媒の製造方法は、上記還元工程で得られた生成物の表面を酸化する工程を含むことが好ましい。これにより還元触媒の安定性がより向上し、取り扱い性に優れることとなる。
上記酸化工程は、上記還元工程で得られた生成物の表面を酸化する限り特に制限されないが、還元工程で得られた生成物の最表面を酸化することが好ましい。
【0049】
上記酸化工程は、酸化雰囲気で加熱することが好ましい。
上記酸化工程において用いられる酸化性ガスとしては、酸素、水蒸気、炭酸ガス、燃焼ガス、 等が挙げられる。酸化性ガスとして好ましくは酸素ガスである。
また、上記酸化工程では、上記酸化性ガスと窒素やアルゴンなどの不活性ガスとの混合ガスを用いてもよい。上記混合ガスとしては、酸化性ガスを0.1~20体積%の割合で含むものが好ましい。
【0050】
上記酸化工程における酸化処理温度としては特に制限されないが、150℃以下であることが好ましい。より好ましくは120℃以下であり、更に好ましくは100℃以下である。
【0051】
上記酸化工程における酸化処理時間としては特に制限されないが、1~12時間であることが好ましい。より好ましくは2~8時間であり、更に好ましくは3~5時間である。
【0052】
4.還元触媒
本発明の還元触媒前駆体の製造方法により得られた還元触媒前駆体は、還元触媒材料として好適に用いることができ、上記還元触媒前駆体を還元することにより還元触媒が得られる。
上記還元触媒前駆体の還元物である、還元触媒もまた本発明の一つである。
上記還元触媒におけるNaOの含有量、SOの含有量、ケイ素含有化合物の含有量、CO吸着量、比表面積、比容積、細孔容積の好ましい範囲は、本発明の還元触媒前駆体と同様である。
上記還元触媒は、二酸化炭素、不飽和炭化水素等の還元反応の触媒として用いることができるが、二酸化炭素を還元してメタンを生成する反応に好適に用いることができる。
上記還元触媒がメタネーション触媒である形態は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0053】
本発明の還元触媒は、金属ニッケルを含むものである。
上記還元触媒における金属ニッケルの含有割合としては特に制限されないが、還元触媒100質量%に対して10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは20質量%以上である。
【0054】
5.メタンの製造方法
本発明の還元触媒は、二酸化炭素を還元してメタンを製造する方法に好適に用いることができる。本発明の還元触媒を用いて二酸化炭素を還元する工程を含むメタンの製造方法もまた、本発明の1つである。
本発明はまた、メタンを製造する方法であって、該製造方法は、メタネーション触媒を調製する工程と、該調製工程で得られたメタネーション触媒を用いて二酸化炭素を還元する工程とを含み、該調製工程は、ニッケル含有化合物及びジルコニウム含有化合物と、アルカリ炭酸塩とを硫酸イオンの存在下で中和反応させる中和工程と、該中和工程で得られた生成物から水溶性成分を除去する工程と、該除去工程後の生成物を加熱処理する工程と、該加熱処理工程により得られた酸化物を還元する工程とを含むメタンの製造方法でもある。
上記メタンの製造方法における中和工程、水溶性成分の除去工程、加熱処理工程、還元工程は、本発明の還元触媒前駆体の製造方法及び還元触媒の製造方法において述べたとおりである。
【実施例0055】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0056】
<二酸化炭素のメタン化活性評価>
実施例および比較例で得られた還元触媒前駆体を目開き1.18mmと0.85mmの篩に通して、篩中の顆粒(1.18~0.85mm)を回収し、二酸化炭素のメタン化活性評価用サンプルを得た。サンプル1.00gを直径1.8cm、長さ45cmの石英ガラス管の中央に固定し、管状電気炉にセットした。当該石英ガラス管に常圧で水素400mL/分を流通し、400℃まで昇温した後、3時間保持して還元処理を行った。還元処理後、水素を流通したまま常温まで降温してから、窒素750mL/分、水素200mL/分、二酸化炭素50mL/分の混合ガスを流通した。100℃より昇温して各温度保持中の生成ガスをガスクロマトグラフィーで分析し、以下の式より二酸化炭素転化率を算出した。
二酸化炭素転化率(%)=(入口二酸化炭素量-出口二酸化炭素量)×100/入口二酸化炭素量
【0057】
<各成分の含有量の測定>
還元触媒前駆体に含まれる成分の含有量の測定は、(株)リガク製走査型蛍光X線分析装置ZSX PrimusIIで行った。
【0058】
<比表面積の測定>
比表面積の測定は、マイクロトラックベル(株)製BELSORP-miniを用いて、BET法により測定した。
【0059】
<細孔容積の測定>
細孔容積の測定は、マイクロトラックベル(株)製BELSORP-miniを用いて、N吸着法により測定した。
【0060】
<CO吸着量の測定>
CO吸着量は、マイクロトラックベル(株)製BELCAT-IIを用いて、COパルス法により測定した。キャリガスにはHeを用い、吸着ガスの組成はCO:10体積%、He:90体積%とした。
還元触媒前駆体量:0.04g
ガスの種類及び速度:水素50mL/分
温度:400℃
還元処理時間:30分
CO吸着温度:50℃
【0061】
<結晶構造の評価>
ブルカー製X線回折装置D8 ADVANCEを用いて、粉末X線回折法によって酸化ジルコニウムの結晶構造を評価し、酸化ジルコニウム中に含まれる単斜晶の割合(体積%)を以下のTorayaの式によって算出した。
【0062】
【数1】
【数2】
Im(hkl):単斜晶(hkl)面由来のXRDピーク強度
It(hkl):正方晶(hkl)面由来のXRDピーク強度
Xm:正方晶と単斜晶に帰属されるピークに対する単斜晶に帰属されるピークの強度比
Vm:単斜晶の比率(体積%)
【0063】
<耐熱性の評価>
顆粒状の還元触媒前駆体を電気炉にて大気中700℃で50時間熱処理を行った後に、二酸化炭素のメタン化活性評価を行った。
【0064】
<実施例1>
硫酸ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬製)104.5gと塩化酸化ジルコニウム八水和物(富士フイルム和光純薬製)100.0gをイオン交換水690mLに溶解した。炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)100.0gをイオン交換水500mLに溶解した。2Lガラスビーカーにイオン交換水300mLを入れて70℃に加熱保持し、攪拌しながら、ニッケル-ジルコニウム溶液を2時間かけて滴下した。このとき同時に炭酸ナトリウム溶液を滴下し、pHを6.5~7.5の範囲内になるように制御した。中和反応で得られた沈殿物をろ過し、ろ液の導電率が20mS/m以下になるまで水洗してナトリウムイオンや硫酸イオンを除去した後、沈殿物を110℃で一晩乾燥し、650℃で焼成して実施例1の還元触媒前駆体を得た。
【0065】
<実施例2>
硫酸ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬製)104.5gと塩化酸化ジルコニウム八水和物(富士フイルム和光純薬製)100.0gをイオン交換水390mLに溶解した。2Lガラスビーカーに炭酸水素ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)158.0gをとり、イオン交換水1100mLに溶解した。炭酸水素ナトリウム水溶液を70℃に加熱保持し、攪拌しながら、ニッケル-ジルコニウム溶液を2時間かけて滴下した。このとき反応初期のpHは8.15で、反応終了時のpHは6.50であった。中和反応で得られた沈殿物をろ過し、水洗した後、沈殿物を110℃で一晩乾燥し、650℃で5時間焼成して実施例2の還元触媒前駆体を得た。
【0066】
<実施例3>
硫酸ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬製)104.5gと塩化酸化ジルコニウム八水和物(富士フイルム和光純薬製)100.0gをイオン交換水400mLに溶解した。炭酸水素ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)178.0gをイオン交換水1800mLに溶解した。3Lガラスビーカーにイオン交換水500mLを入れて70℃に加熱保持し、攪拌しながら、ニッケル-ジルコニウム溶液を2時間かけて滴下した。このとき同時に炭酸水素ナトリウム溶液を滴下し、pHを6.5~7.5の範囲内になるように制御した。中和反応で得られた沈殿物をろ過し、水洗した後、沈殿物を110℃で一晩乾燥し、650℃で5時間焼成して実施例3の還元触媒前駆体を得た。
【0067】
<実施例4>
塩化ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬製)94.5gと塩化酸化ジルコニウム八水和物(富士フイルム和光純薬製)100.0gと硫酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)50.0gをイオン交換水680mLに溶解した。炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)100.0gをイオン交換水500mLに溶解した。2Lガラスビーカーにイオン交換水300mLを入れて70℃に加熱保持し、攪拌しながら、ニッケル-ジルコニウム溶液を2時間かけて滴下した。このとき同時に炭酸ナトリウム溶液を滴下し、pHを6.5~7.5の範囲内になるように制御した。中和反応で得られた沈殿物をろ過し、水洗した後、沈殿物を110℃で一晩乾燥し、650℃で5時間焼成して実施例4の還元触媒前駆体を得た。
【0068】
<実施例5>
硫酸ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬製)155.5gと塩化酸化ジルコニウム八水和物(富士フイルム和光純薬製)62.2gをイオン交換水690mLに溶解した。炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)100.0gをイオン交換水500mLに溶解した。2Lガラスビーカーにイオン交換水300mLを入れて70℃に加熱保持し、攪拌しながら、ニッケル-ジルコニウム溶液を2時間かけて滴下した。このとき同時に炭酸ナトリウム溶液を滴下し、pHを6.5~7.5の範囲内になるように制御した。中和反応で得られた沈殿物をろ過し、水洗した後、沈殿物を110℃で一晩乾燥し、650℃で焼成して実施例5の還元触媒前駆体を得た。
【0069】
<実施例6>
硫酸ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬社製)152.4gと塩化酸化ジルコニウム八水和物(富士フイルム和光純薬社製)61.0gをイオン交換水680mlに溶解し、シリカゾル(日産化学製スノーテックス-O)6.8gを添加した。炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)100.0gをイオン交換水500mlに溶解した。2Lガラスビーカーにイオン交換水300mlを入れて70℃に加熱保持し、攪拌しながら、ニッケル-ジルコニウム-シリカ溶液を2時間かけて滴下した。このとき同時に炭酸ナトリウム溶液を滴下し、pHを6.5~7.5の範囲内になるように制御した。中和反応で得られた沈殿物をろ過し、水洗した後、沈殿物を110℃で一晩乾燥し、650℃で焼成して実施例6の還元触媒前駆体を得た。
【0070】
<実施例7>
硫酸ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬製)151.6gと塩化酸化ジルコニウム八水和物(富士フイルム和光純薬製)60.7gをイオン交換水600mLに溶解した。メタケイ酸ナトリウム五水和物(富士フイルム和光純薬製)6.0gをイオン交換水100mLに溶解した。2Lガラスビーカーに炭酸水素ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)145.0gをとり、イオン交換水900mLに溶解した。炭酸水素ナトリウム水溶液を70℃に加熱保持し、攪拌しながら、ニッケル-ジルコニウム溶液とメタケイ酸ナトリウム溶液を同時に2時間かけて滴下した。中和反応で得られた沈殿物をろ過し、水洗した後、沈殿物を110℃で一晩乾燥し、650℃で5時間焼成して実施例7の還元触媒前駆体を得た。
【0071】
<比較例1>
塩化ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬製)94.5gと塩化酸化ジルコニウム(富士フイルム和光純薬製)100.0gをイオン交換水690mLに溶解した。炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)100.0gをイオン交換水500mLに溶解した。2Lガラスビーカーにイオン交換水300mlを入れて70℃に加熱保持し、攪拌しながら、ニッケル-ジルコニウム溶液と炭酸ナトリウム溶液を同時に滴下した。このときpHを6.5~7.5の範囲内になるように両液の滴下速度をコントロールした。得られた沈殿物をろ過し、水洗した後、沈殿物を110℃で一晩乾燥し、650℃で焼成して比較例1の比較還元触媒前駆体を得た。
【0072】
<比較例2>
硫酸ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬製)104.5gと塩化酸化ジルコニウム八水和物(富士フイルム和光純薬製)100.0gをイオン交換水690mLに溶解した。水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)52.8gをイオン交換水200mLに溶解した。2Lガラスビーカーにイオン交換水300mLを入れて70℃に加熱保持し、攪拌しながら、ニッケル-ジルコニウム溶液を2時間かけて滴下した。このとき同時に水酸化ナトリウム溶液を滴下し、pHを6.5~7.5の範囲内になるように制御した。中和反応で得られた沈殿物をろ過し、水洗した後、沈殿物を110℃で一晩乾燥し、650℃で5時間焼成して比較例2の比較還元触媒前駆体を得た。
【0073】
<比較例3>
硫酸ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬製)104.5gと塩化酸化ジルコニウム八水和物(富士フイルム和光純薬製)100.0gをイオン交換水690mLに溶解した。28質量%アンモニア水(富士フイルム和光純薬製)100.0gをイオン交換水100mLで希釈した。2Lガラスビーカーにイオン交換水300mLを入れて70℃に加熱保持し、攪拌しながら、ニッケル-ジルコニウム溶液を2時間かけて滴下した。このとき同時にアンモニア水溶液を滴下し、pHを6.5~7.5の範囲内になるように制御した。中和反応で得られた沈殿物をろ過し、水洗した後、沈殿物を110℃で一晩乾燥し、650℃で5時間焼成して比較例3の比較還元触媒前駆体を得た。
【0074】
<比較例4>
硝酸ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬製)115.6gと塩化酸化ジルコニウム八水和物(富士フイルム和光純薬製)100.0gをイオン交換水680mLに溶解した。水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)52.8gをイオン交換水200mLに溶解した。2Lガラスビーカーにイオン交換水300mLを入れて70℃に加熱保持し、攪拌しながら、ニッケル-ジルコニウム溶液を2時間かけて滴下した。このとき同時に水酸化ナトリウム溶液を滴下し、pHを6.5~7.5の範囲内になるように制御した。中和反応で得られた沈殿物をろ過し、水洗した後、沈殿物を110℃で一晩乾燥し、650℃で5時間焼成して比較例4の比較還元触媒前駆体を得た。
【0075】
<比較例5>
硫酸ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬製)104.5gと塩化酸化ジルコニウム八水和物(富士フイルム和光純薬製)100.0gをイオン交換水690mLに溶解した。炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製)100.0gをイオン交換水500mLに溶解した。2Lガラスビーカーにイオン交換水300mLを入れて70℃に加熱保持し、攪拌しながら、ニッケル-ジルコニウム溶液を2時間かけて滴下した。このとき同時に炭酸ナトリウム溶液を滴下し、pHを6.5~7.5の範囲内になるように制御した。中和反応で得られた沈殿物をろ過し、ろ液の導電率が160mS/mで水洗を止め、沈殿物を110℃で一晩乾燥し、650℃で5時間焼成して比較例5の比較還元触媒前駆体を得た。
【0076】
<比較例6>
硝酸ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬製)34.3gをイオン交換水30mLに溶解した。そこにジルコニアゾル(第一稀元素化学製ZSL-20N)56.0gを添加し、十分に混合した。得られたスラリーをるつぼに移し、650℃で5時間焼成して比較例6の比較還元触媒前駆体を得た。
【0077】
<比較例7>
硝酸ニッケル(II)六水和物(富士フイルム和光純薬製)34.3gと硝酸サマリウム六水和物(富士フイルム和光純薬製)4.08gをイオン交換水30mLに溶解した。そこにジルコニアゾル(第一稀元素化学製ZSL-20N)48.0gを添加し、十分に混合した。得られたスラリーをるつぼに移し、650℃で5時間焼成して比較例7の触媒前駆体を得た。
【0078】
実施例及び比較例で得られた還元触媒前駆体の各種物性を表1及び2に示した。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表1に示すように、硫酸イオンの存在下で中和工程を行うことにより、硫酸イオンを用いない場合(比較例1)よりも、細孔容積及びCO吸着量が向上することでCO転化率が向上する。また、塩基としてアルカリ炭酸塩を用いることにより、塩基として水酸化ナトリウム、アンモニアを用いる場合(比較例2、3)に対して、加熱処理工程により得られた酸化物におけるSOの含有量が0.5質量%以下となることでCO転化率が向上する。
また、加熱処理工程により得られた酸化物におけるNaOの含有量が1.0質量%以下とるとなるように充分に水洗することにより、上記NaOの含有量が1.0質量%を超える場合(比較例5)に対して、CO転化率が高い還元触媒前駆体が得られる。
更に、比較例7では安定化剤としてSmを用いることで、安定化剤を用いない比較例6に対してCO転化率が高いものが得られるが、硝酸ニッケルを用いて焼成することによりNOxが発生する。これに対して本発明の還元触媒前駆体の製造方法では、希土類元素等の安定化剤を使用することなく、かつ、焼成時に多量のNOxを発生させずに、比較例7と同等以上の活性を示す還元触媒の前駆体が得られることが確認された。
また、表2に示すように、還元触媒前駆体がケイ素含有化合物を含むことで、触媒が700℃以上の高温に曝された場合にも触媒中の酸化ジルコニウムが正方晶から単斜晶になることが抑制され、250℃の低温における活性が向上したことが確認された(実施例6、7)。