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特開2024-177057がん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177057
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】がん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/32 20060101AFI20241212BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20241212BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C03C17/32 A
C08J7/04 Z CER
C08J7/04 CEZ
G01N33/48 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024026388
(22)【出願日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2023095828
(32)【優先日】2023-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】皆川 康久
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
(72)【発明者】
【氏名】穴田 貴久
(72)【発明者】
【氏名】山本 安希
(72)【発明者】
【氏名】新道 弘規
(72)【発明者】
【氏名】朴 志秀
(72)【発明者】
【氏名】宇治川 数馬
【テーマコード(参考)】
2G045
4F006
4G059
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA26
2G045BB03
2G045CB02
4F006AA12
4F006AA22
4F006AA35
4F006AA40
4F006AB24
4G059AA01
4G059AA08
4G059AC30
4G059FA15
4G059FB05
(57)【要約】
【課題】液体環境下でも、ポリマー層が基材表面に長期間安定して形成されたがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法を提供する。
【解決手段】反射防止処理を施した基材表面に下記式(I)で表される親水性ポリマーによりポリマー層を形成する工程を含むがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法に関する。
[化1]
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rはアルキル基を表す。mは1~5、nは繰り返し数を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射防止処理を施した基材表面に下記式(I)で表される親水性ポリマーによりポリマー層を形成する工程を含むがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法。
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rはアルキル基を表す。mは1~5、nは繰り返し数を表す。)
【請求項2】
前記反射防止処理は、無反射処理、低反射処理、偏光処理、及びノングレア処理からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載のがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法。
【請求項3】
前記反射防止処理を施した基材は、60度Glossが150%~50%である請求項1又は2に記載のがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法。
【請求項4】
前記反射防止処理を施した基材は、60度Glossが130%~70%である請求項1又は2に記載のがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法。
【請求項5】
前記反射防止処理を施した基材がガラス基材である請求項1又は2に記載のがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法。
【請求項6】
前記ポリマー層の総厚みが10~1000nmである請求項1又は2に記載のがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法。
【請求項7】
前記工程が、前記反射防止処理を施した基材表面に前記式(I)で表される親水性ポリマーにより2層以上の前記ポリマー層が形成されるものである請求項1又は2に記載のがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法。
【請求項8】
前記2層以上のポリマー層が同一の親水性ポリマーにより形成され、
前記2層以上のポリマー層のうち、前記反射防止処理を施した基材表面上のポリマー層を形成する親水性ポリマーの数平均分子量が、他のポリマー層を形成する親水性ポリマーの数平均分子量より大きい請求項7記載のがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法。
【請求項9】
前記他のポリマー層を形成する親水性ポリマーの数平均分子量が30000以下である請求項8記載のがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液及び体液中の特定細胞(血球細胞、血液・体液中に存在するがん細胞等)を捕捉するための器具を作製するために、基材表面を特殊な高分子でコーティングする技術が提案されている。
【0003】
しかしながら、例えば、基材としてガラス基材を用いる場合、特殊な高分子の中には、ガラスとの親和性が高くない材料も存在する。親和性が高くないと、コーティング後、水中等の液体環境下で、コーティングにより形成されたポリマーの膜が基材から剥がれ、一部浮いたり、剥がれてしまう場合がある。浮きや剥がれは、がん細胞の捕捉後に離れてしまうなど、捕捉性能に影響することから、液体環境下でも、ポリマー層が基材表面に長期間安定して形成(被覆)されたがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の提供が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記課題を解決し、液体環境下でも、ポリマー層が基材表面に長期間安定して形成されたがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、反射防止処理を施した基材表面に下記式(I)で表される親水性ポリマーによりポリマー層を形成する工程を含むがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法に関する。
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rはアルキル基を表す。mは1~5、nは繰り返し数を表す。)
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、反射防止処理を施した基材表面に前記式(I)で表される親水性ポリマーによりポリマー層を形成する工程を含むがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法であるので、水中等の液体環境下でも、ポリマー層が基材の表面に強固に吸着、被覆されることで、ポリマー層の浮き上がりや剥がれを防止し、ポリマー層が基材の表面に長期間安定して形成されたがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材を提供できる。従って、作製されたがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材を用いることで、がん細胞の捕捉性能を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、反射防止処理を施した基材表面に前記式(I)で表される親水性ポリマーによりポリマー層を形成する工程を含むがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法に関する。
【0008】
血中循環腫瘍細胞(数個~数百個/血液1mL)等の体液中にでてきた腫瘍細胞(がん細胞等)は、非常に数が少なく、検査に供するには、採取した体液中に存在する腫瘍細胞をできる限り多く捕捉することが重要と考えられる。本発明は、反射防止処理を施した基材表面に前記式(I)で表される親水性ポリマーによりポリマー層を形成する工程を含む製造方法であるため、ポリマーが基材表面にしっかり吸着し、長期間安定して、浮き上がりや、剥がれの起こらないがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材を製造できる。そして、ポリマー層の浮き上がりや、剥がれなどの非安定性は、がん細胞の捕捉性に影響を与えるので、安定性(長期間の安定した被覆性)を高めることで、優れたがん細胞の捕捉性能が得られる。従って、作製されたがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材のポリマー層に捕捉されたがん細胞の数を測定することで、体液中のがん細胞数が判り、がん治療効果の確認等が可能である。また、捕捉したがん細胞を培養し、その培養した細胞で抗がん剤等の効き目を確認することで、抗がん剤等の投与前に、体の外で、抗がん剤等の効き目を確認できると同時に、抗がん剤等の選定にも役立つ。さらに捕捉したがん細胞の遺伝子解析をすることで、抗がん剤等の選定に役立つ。
【0009】
(がん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法)
本発明のがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法は、反射防止処理を施した基材表面に前記式(I)で表される親水性ポリマーによりポリマー層を形成する工程を含む。
【0010】
本明細書において、反射防止処理とは、表面の反射が抑制された処理を意味する。
表面の反射が抑制された処理としては、例えば基材表面に微細なガラス粒子を吹き付けて凹凸を付ける処理、表面に特殊コーティングを施す方法などの反射防止処理(ノングレア処理)などが挙げられる。
【0011】
前記反射防止処理として、具体的には、無反射処理、低反射処理、偏光処理、ノングレア処理等が例示される。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上が混合されていてもよい。
【0012】
前記反射防止処理を施した基材は、60度Gloss(60度での光沢度)が150%以下であることが好ましく、130%以下であることがより好ましく、また、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。
なお、本明細書において、60度Glossは、反射防止処理を施した基材の中央部について、光沢計(IG320、HORIBA製)を用いて、JIS-K7150に準じて60度グロスを測定し、得られる値である。
【0013】
前記基材としては特に限定されず、ガラス、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シクロオレフィン樹脂、シリコン樹脂などが挙げられる。なかでも、ガラス基材が望ましい。
ガラス基材を構成するガラスの種類は、特に限定されず、例えば、ソーダ石灰ガラス、無アルカリガラス、硼珪酸ガラス(SiO-B-ZnO系ガラス、SiO-B-Bi系ガラス等)、カリガラス、クリスタルガラス(PbOを含むガラスであり、例えば、SiO-PbO系ガラス、SiO-PbO-B系ガラス、SiO-B-PbO系ガラス等)、チタンクリスタルガラス、バリウムガラス、ボロンガラス(B-ZnO-PbO系ガラス、B-ZnO-Bi系ガラス、B-Bi系ガラス、B-ZnO系ガラス等)、ストロンチウムガラス、アルミナ珪酸ガラス、ソーダ亜鉛ガラス、ソーダバリウムガラス(BaO-SiO系ガラス等)等が挙げられる。これらのガラスは、単独で用いてもよいし、2種類以上が混合されていてもよい。
【0014】
前記反射防止処理を施した基材の厚みは特に限定されないが、平均厚さとして、100μm以上5000μm以下であることが好ましく、100μm以上3000μm以下であることがより好ましい。なお、平均厚さは、マイクロメーターを用いて、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0015】
前記ポリマー層は、下記式(I)で表される親水性ポリマー(親水性を有するポリマー)で形成される。式(I)で表される親水性ポリマーは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【化2】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rはアルキル基を表す。mは1~5、nは繰り返し数を表す。)
【0016】
のアルキル基の炭素数は、1~10が好ましく、1~5がより好ましい。なかでも、Rは、メチル基又はエチル基が特に好ましい。mは、1~3が好ましい。n(繰り返し単位数)は、70~2500が好ましく、90~1500がより好ましい。
【0017】
前記式(I)で表される親水性ポリマーは、例えば、1種又は2種以上の親水性モノマーの単独重合体及び共重合体が挙げられる。親水性ポリマーは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記親水性モノマーの単独重合体及び共重合体としては、例えば、ポリメトキシエチル(メタ)アクリレートなどのポリアルコキシアルキルメタクリレートなどが挙げられる。なかでも、ポリアルコキシアルキルアクリレートが好ましく、ポリ2-メトキシエチルアクリレートがより好ましい。
【0019】
前記式(I)で表される親水性ポリマーを構成する親水性モノマーの具体例としては、メトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なかでも、アルコキシアルキルアクリレートが好ましく、2-メトキシエチルアクリレートがより好ましい。親水性モノマーは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0020】
上記工程は、上記反射防止処理を施した基材表面に上記式(I)で表される親水性ポリマーにより2層以上の上記ポリマー層が形成されるものでもよく、該2層以上のポリマー層は、同一の親水性ポリマーにより形成されたものでも、異なる親水性ポリマーにより形成されたものでもよい。なかでも、より効果が得られる観点から、上記2層以上のポリマー層が、同一の親水性ポリマーにより形成されることが望ましい。
【0021】
上記2層以上のポリマー層の各層を構成する上記式(I)で表される親水性ポリマーは、適宜選択すればよい。各層において、上記式(I)で表される親水性ポリマーは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0022】
上記2層以上のポリマー層の最表面層(最も外側(表面側)に形成されるポリマー層)を構成する親水性ポリマーのMnは、好ましくは5000以上、より好ましくは6000以上、更に好ましくは7000以上であり、また、好ましくは30000以下、より好ましくは25000以下、更に好ましくは20000以下である。
【0023】
上記2層以上のポリマー層のうち、上記反射防止処理を施した基材表面上のポリマー層(反射防止処理を施した基材に接して形成されているポリマー層(以下、最内側層ともいう))を形成する親水性ポリマーの数平均分子量は、より効果が得られる観点から、他のポリマー層(上記2層以上のポリマー層のうち、最内側層以外の1層以上のポリマー層)を形成する親水性ポリマーの数平均分子量より大きいことが好ましい。
【0024】
上記2層以上のポリマー層において、上記他のポリマー層を構成する親水性ポリマーのMnは、好ましくは5000以上、より好ましくは6000以上、更に好ましくは7000以上であり、また、好ましくは30000以下、より好ましくは25000以下、更に好ましくは20000以下である。
【0025】
上記2層以上のポリマー層において、上記最内側層を形成する親水性ポリマーの数平均分子量が、上記最内側層以外の他のポリマー層を形成する親水性ポリマーの数平均分子量より大きい場合、上記最内側層を構成する親水性ポリマーのMnは、好ましくは32000以上、より好ましくは40000以上、更に好ましくは60000以上であり、また、好ましくは200000以下、より好ましくは150000以下、更に好ましくは120000以下である。上記範囲内であると、より効果が得られる傾向がある。
【0026】
なお、本明細書において、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0027】
上記1層又は2層以上のポリマー層(前記式(I)で表される親水性ポリマーで形成される1層又は2層以上の親水性ポリマー層)の総厚み(総膜厚)は、好ましくは10~1000nm、より好ましくは30~700nm、更に好ましくは50~350nmである。上記範囲内に調整することで、良好なタンパク質や細胞に対する低吸着性、がん細胞に対する選択的捕捉性を期待できる。
【0028】
前記ポリマー層の表面(前記がん細胞捕捉用ポリマー被覆基材における前記ポリマー層の表面)の少なくとも一部(一部又は全部)は、水の接触角が60度以下であることが好ましく、50度以下であることがより好ましい。下限は特に限定されず、小さいほど良好である。
【0029】
前記ポリマー層は、(1)前記式(I)で表される親水性ポリマーを各種溶剤に溶解・分散したポリマー溶液・分散液を、反射防止処理を施した基材の表面(基材凹部)に注入し、所定時間保持、必要に応じて乾燥する方法、(2)該ポリマー溶液・分散液を反射防止処理を施した基材の表面に塗工(噴霧)し、必要に応じて所定時間乾燥する方法、等、公知の手法により、反射防止処理を施した基材の表面の全部又は一部にポリマーをコーティング(被覆)することで、反射防止処理を施した基材表面の全部又は一部に前記ポリマー層が形成されたがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材を製造できる。そして、該がん細胞捕捉用ポリマー被覆基材に、必要に応じて他の部品を追加することで、がん細胞の捕捉、培養、検査等が可能な装置を製造できる。
【0030】
溶剤、注入方法、塗工(噴霧)方法などは、従来公知の材料及び方法を適用できる。
(1)、(2)の保持、乾燥時間は、基材の大きさ、導入する液種、等により適宜設定すれば良い。保持時間は、10秒~10時間が好ましく、1分~5時間がより好ましく、5分~2時間が更に好ましい。乾燥は、室温(約23℃)から80℃で行うことが好ましく、室温から60℃で行うことがより好ましい。また、減圧して乾燥しても良い。更に、保持して一定時間後、適宜、余分なポリマー溶液・分散液を排出し、乾燥してもよい。
【0031】
溶剤としては、ポリマーの溶解が可能なものであれば特に限定されず、使用するポリマーに応じて適宜選択すれば良い。例えば、水、有機溶媒、これらの混合溶媒が挙げられ、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、メトキシプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸エチル、トルエン等が列挙される。
【0032】
前記ポリマー溶液・分散液の濃度は特に限定されず、注入性、塗工性、噴霧性、生産性などを考慮し、適宜選択すればよいが、ポリマー溶液・分散液(100質量%)中のポリマーの濃度は、0.1~10.0質量%が好ましく、0.2~5.0質量%がより好ましい。
【0033】
前記製造方法で、前記反射防止処理を施した基材表面上に前記式(I)で表される親水性ポリマーからなるポリマー層を形成することにより、水中等の液体環境下でも、ポリマー層がガラス基材の表面に強固に吸着、被覆されることで、ポリマー層の浮き上がりや剥がれを防止し、ポリマー層が基材の表面に長期間安定して形成されたがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材を提供できる。
【0034】
そして、がん細胞の捕捉が可能であることから、例えば、試料(血液又は体液)を、前記反射防止処理を施した基材表面に前記式(I)で表される親水性ポリマーからなるポリマー層が形成されたがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材に接触させることで、そのような捕捉効果が得られる。よって、捕捉したがん細胞の数を測定することで、採取した血液又は体液中のがん細胞数が判り、がん治療効果の確認等も期待される。
【実施例0035】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0036】
(親水性ポリマーの作製)
AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)12.5mg/mlトルエン溶液を用いて、2-メトキシエチルアクリレート(25wt%トルエン)を60℃で7時間熱重合し、ポリ2-メトキシエチルアクリレート(PMEA)を作製した。
【0037】
(実施例1~4)
板ガラス表面(ソーダ石灰ガラス製、平均厚さ1.35mm)にノングレア処理を施し、メタノールで洗浄・乾燥して、表1に記載のノングレアガラス基材を得た。
得られたノングレアガラス基材の基材凹部に、表1に記載の濃度のPMEAのメタノール溶液を注入した。その後、直ぐに40℃のオーブン中で5分間真空乾燥させ(コーティング)、ポリマー被覆ガラス基材を作製した。
【0038】
(比較例1)
板ガラス(ソーダ石灰ガラス製、平均厚さ1.35mm)の基材凹部に、表1に記載の濃度のPMEAのメタノール溶液を注入した。その後、直ぐに40℃のオーブン中で5分間真空乾燥させ(コーティング)、ポリマー被覆ガラス基材を作製した。
【0039】
(実施例5、6、比較例2)
表2に従って、PMEAのMn、PMEAのメタノール溶液の濃度及び注入量、ノングレア処理を変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリマー被覆ガラス基材を作製した。
なお、ポリマー2(Mn8万)のPMEAは、室温でメタノールに溶けにくいため、40℃に加温して溶解してポリマー溶液を作製した。
また、比較例2、実施例5は、親水性ポリマー層を1層のみ形成した。
【0040】
実施例、比較例で作製したポリマー被覆ガラス基材を以下の方法で評価した。
【0041】
〔がん細胞を添加したスパイク血試験(実施例1~4、比較例1、表1)〕
染色をしたヒト結腸癌由来上皮細胞(HT-29)を血液にスパイクして、スパイク血(HT29が1000個/血液1mL)を作成した。このスパイク血に10%RosetteSep Human CD45 Depletion Cocktailを加えたのち、Lypmhoprepを用いて、遠心分離を行い、濃縮を行った。単核層を分離し、PBSを加えて、更に2回遠心分離を行った。遠心分離後の最下層にできた塊をFBS(ウシ胎児血清)10%添加液体培地(最初の全血量と同じ液量)で懸濁させた。この懸濁液を用いて、チャンバー(ポリマー被覆ガラス基材)に1.3ml注入し、37℃で21時間接着させた。その後、PBS溶液で未接着の細胞を洗浄した。次いで、蛍光顕微鏡で接着したがん細胞(HT-29)数と残存白血球をカウントした。得られた値から、がん細胞数、白血球数/がん細胞数×100(%)を算出した。
【0042】
〔がん細胞を添加したスパイク血試験(実施例5、6、比較例2、表2)〕
染色をしたヒト結腸癌由来上皮細胞(HT-29)を血液にスパイクして、スパイク血(HT29が500個/血液1mL)を作成した。このスパイク血に10%RosetteSep Human CD45 Depletion Cocktailを加えたのち、Lypmhoprepを用いて、遠心分離を行い、濃縮を行った。単核層を分離し、PBSを加えて、更に2回遠心分離を行った。遠心分離後の最下層にできた塊をFBS(ウシ胎児血清)10%添加液体培地(最初の全血量と同じ液量)で懸濁させた。この懸濁液を用いて、チャンバー(ポリマー被覆ガラス基材)に1.3ml注入し、37℃で24時間接着させた。その後、PBS溶液で未接着の細胞を洗浄した。次いで、蛍光顕微鏡で接着したがん細胞(HT-29)数をカウントした。得られた値から、がん細胞数(相対値)を算出した。
【0043】
〔PBS中でのポリマー層の剥がれ評価〕
作製されたポリマー被覆ガラス基材をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)中に浸漬し、1時間後、24時間後、48時間後の剥がれの状態を観察した。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
比較例1は、PBSに浸漬すると、時間の経過とともに、ポリマー層が浮き上がり、最終的にはポリマー層が剥がれた。
【0047】
これに対して、実施例1~4では、48時間後でもポリマー層の浮きは見られなかった。
また、実施例は比較例1に比べて、白血球数/がん細胞数×100(%)の値が小さく、がん細胞が選択的に捕捉できた。60度Glossが150~50%の基材を用いた実施例1~4は選択的な捕捉性が良好であった。
また、60度Gloss90%の基材を用いた実施例5、6は、ノングレア処理を施していない比較例2に比べ、がん細胞数(相対値)が大きく、特に2層の実施例6は大きかった。
【0048】
本発明(1)は、反射防止処理を施した基材表面に下記式(I)で表される親水性ポリマーによりポリマー層を形成する工程を含むがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法である。
【化3】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rはアルキル基を表す。mは1~5、nは繰り返し数を表す。)
【0049】
本発明(2)は、前記反射防止処理が、無反射処理、低反射処理、偏光処理、及びノングレア処理からなる群より選択される少なくとも1種である本発明(1)に記載のがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法である。
【0050】
本発明(3)は、前記反射防止処理を施した基材の60度Glossが150%~50%である本発明(1)又は(2)に記載のがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法である。
【0051】
本発明(4)は、前記反射防止処理を施した基材の60度Glossが130%~70%である本発明(1)又は(2)に記載のがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法である。
【0052】
本発明(5)は、前記反射防止処理を施した基材がガラス基材である本発明(1)~(4)のいずれかとの任意の組合せのがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法である。
【0053】
本発明(6)は、前記ポリマー層の総厚みが10~1000nmである本発明(1)~(5)のいずれかとの任意の組合せのがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法である。
【0054】
本発明(7)は、前記工程が、前記反射防止処理を施した基材表面に前記式(I)で表される親水性ポリマーにより2層以上の前記ポリマー層が形成されるものである本発明(1)~(6)のいずれかとの任意の組合せのがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法である。
【0055】
本発明(8)は、前記2層以上のポリマー層が同一の親水性ポリマーにより形成され、
前記2層以上のポリマー層のうち、前記反射防止処理を施した基材表面上のポリマー層を形成する親水性ポリマーの数平均分子量が、他のポリマー層を形成する親水性ポリマーの数平均分子量より大きい本発明(7)記載のがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法である。
【0056】
本発明(9)は、前記他のポリマー層を形成する親水性ポリマーの数平均分子量が30000以下である本発明(8)記載のがん細胞捕捉用ポリマー被覆基材の製造方法である。