(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177069
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】微粒子の製造方法、及び微粒子の製造システム
(51)【国際特許分類】
B22F 9/08 20060101AFI20241212BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20241212BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B22F9/08 Z
B82Y40/00
H01S3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024068596
(22)【出願日】2024-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2023093670
(32)【優先日】2023-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】516230102
【氏名又は名称】株式会社illuminus
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】柴田 秀平
(72)【発明者】
【氏名】黒田 陸斗
(72)【発明者】
【氏名】稲 秀樹
【テーマコード(参考)】
4K017
5F172
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017AA04
4K017BA01
4K017BA02
4K017BA03
4K017BA06
4K017BA10
4K017CA08
4K017EF04
4K017EF05
5F172ZZ01
(57)【要約】
【課題】微粒子の生成効率を向上させることができる微粒子の製造方法、及び微粒子の製造システムを提供する。
【解決手段】金属原子を含む前駆体を混合した溶液20に対し、第1のフェムト秒パルスレーザー光11と、第2のフェムト秒パルスレーザー光12とをそれぞれ異なる光路を介して照射し、微粒子を生成する照射工程を備えることを特徴とする。例えば、照射工程は、溶液20に対し、第1のフェムト秒パルスレーザー光11を照射する第1照射工程と、第1照射工程により照射された溶液20に対し、第2のフェムト秒パルスレーザー光12を照射する第2照射工程と、を含むことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェムト秒パルスレーザーを用いた微粒子の製造方法であって、
金属原子を含む前駆体を混合した溶液に対し、第1のフェムト秒パルスレーザー光と、第2のフェムト秒パルスレーザー光とをそれぞれ異なる光路を介して照射し、微粒子を生成する照射工程を備えること
を特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記照射工程は、
前記溶液に対し、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光を照射する第1照射工程と、
前記第1照射工程により照射された前記溶液に対し、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光を照射する第2照射工程と、
を含むこと
を特徴とする請求項1記載の微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記前駆体は、金属イオン又は錯イオンを含み、
前記第1照射工程は、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光により前記溶液内にプラズマを発生させることで、前記前駆体に基づく中間粒子を生成し、
前記第2照射工程は、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光の自己収束を前記溶液内に発生させることで、前記中間粒子を微小化した前記微粒子を生成し、
前記プラズマが発生するプラズマ領域は、前記自己収束が発生する自己収束領域と近接、又は重複すること
を特徴とする請求項2記載の微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第1のフェムト秒パルスレーザー光、及び前記第2のフェムト秒パルスレーザー光は、互いに対向する方向に照射され、
前記プラズマ領域、及び前記自己収束領域は、互いに近接すること
を特徴とする請求項3記載の微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記第1のフェムト秒パルスレーザー光、及び前記第2のフェムト秒パルスレーザー光は、1つのフェムト秒パルスレーザー装置の発振光を分岐した光であること
を特徴とする請求項1~4の何れか1項記載の微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記第1のフェムト秒パルスレーザー光の光軸は、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光の光軸と一致すること
を特徴とする請求項1~4の何れか1項記載の微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記照射工程は、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光、及び前記第2のフェムト秒パルスレーザー光における出力を0.7mW以上とし、レーザーフルエンスを1.0kJ/cm2以上として、前記溶液に照射すること
を特徴とする請求項1~4の何れか1項記載の微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記照射工程は、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光、及び前記第2のフェムト秒パルスレーザー光とは異なる1つ以上のフェムト秒パルスレーザー光を、それぞれ異なる位置から前記溶液に照射し、前記微粒子を生成すること
を特徴とする請求項1~4の何れか1項記載の微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記照射工程は、前記溶液を上流から下流に流動する流路を用いて、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光の照射位置よりも前記流路の下流側に、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光の照射位置を設定すること
を特徴とする請求項2~4の何れか1項記載の微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記第1のフェムト秒パルスレーザー光の強度は、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光の強度よりも強いこと
を特徴とする請求項9記載の微粒子の製造方法。
【請求項11】
前記照射工程は、
1つのフェムト秒パルスレーザー装置の発振光を、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光と、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光とに分岐し、
前記第1のフェムト秒パルスレーザー光と、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光とを、それぞれ異なる光路を経由させたあとに、互いに等しい光軸及び向きに沿って前記溶液に照射すること
を特徴とする請求項1記載の微粒子の製造方法。
【請求項12】
前記第1のフェムト秒パルスレーザー光の光路長と、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光の光路長との差は、互いに干渉しない距離を示すこと
を特徴とする請求項11記載の微粒子の製造方法。
【請求項13】
前記照射工程は、
1つのフェムト秒パルスレーザー装置の発振光を、一方向の成分のみを集光する複数の集光レンズを介して前記第1のフェムト秒パルスレーザー光と前記第2のフェムト秒パルスレーザー光とに分岐し、
前記第1のフェムト秒パルスレーザー光を前記溶液中であって一の前記集光レンズの第1焦点位置に集光するとともに、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光を前記溶液中であって前記第1焦点位置とは異なる他の前記集光レンズの第2焦点位置に集光すること
を特徴とする請求項1~4の何れか1項記載の微粒子の製造方法。
【請求項14】
フェムト秒パルスレーザーを用いた微粒子の製造システムであって、
金属原子を含む前駆体を混合した溶液を収容した容器と、
前記容器に対してそれぞれ異なる光路を介して照射するように、第1のフェムト秒パルスレーザー光と、第2のフェムト秒パルスレーザー光との照射方向を制御する光学部と、
を備えることを特徴とする微粒子の製造システム。
【請求項15】
前記容器は、前記溶液を流動する流路を含み、
前記光学部は、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光の照射位置を、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光の照射位置よりも前記流路の下流側に制御すること
を特徴とする請求項14記載の微粒子の製造システム。
【請求項16】
前記光学部は、それぞれ同軸上に設けられた1つの波長板、及び2つの偏光ビームスプリッタを含むこと
を特徴とする請求項14記載の微粒子の製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、微粒子の製造方法、及び微粒子の製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ粒子(Nano Particle、以下、NPとも表記する)のような微粒子を使用して構造体を作ることで、自然界に無い現象を発生させることが知られている。例えば、大きな温度差を不要とした熱電変換素子等に微粒子を使用することを実用化するべく、高性能な微粒子の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1,2)。
【0003】
特許文献1では、金属ナノ粒子を含む基本溶媒と、分散剤を含む溶媒とを混合して撹拌し、前記金属ナノ粒子の一部に対し、前記分散剤を被膜した被膜ナノ粒子を形成する撹拌工程と、前記被膜ナノ粒子を前記溶媒に含ませ、前記基本溶媒に含まれる前記金属ナノ粒子と、前記被膜ナノ粒子とを分離する分離工程と、を備えるナノ粒子の製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、前駆体を含む基本溶媒にフェムト秒パルスレーザーを照射し、ナノ粒子を生成する生成工程を備え、前記生成工程は、前記基本溶媒に前記フェムト秒パルスレーザーを照射する照射工程と、前記フェムト秒パルスレーザーが照射された前記基本溶媒の色情報を取得する取得工程と、前記色情報に基づいて、前記フェムト秒パルスレーザーの照射条件を設定する設定工程と、を備えるナノ粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6781438号公報
【特許文献2】国際公開第2022/249982号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、微粒子の利用に期待が高まる一方、微粒子を効率的に生成できない点が課題として挙げられている。この点、特許文献1には、金属ナノ粒子と、被膜が形成された金属ナノ粒子とを効率的に分離する方法について開示されているが、微粒子の効率的な生産方法については開示されていない。このため、特許文献1の開示技術では、金属ナノ粒子等の微粒子を効率的に生成することが難しい。
【0007】
また、特許文献2に開示された方法では、色情報を前提とした照射条件の設定方法が開示されている。このため、特許文献2の開示技術では、色情報を取得できない時の照射条件や、色情報を取得する前の照射条件も考慮した場合には、ナノ粒子等の微粒子を効率的に生成することが難しい。
【0008】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、微粒子の生成効率を向上させることができる微粒子の製造方法、及び微粒子の製造システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明に係る微粒子の製造方法は、フェムト秒パルスレーザーを用いた微粒子の製造方法であって、金属原子を含む前駆体を混合した溶液に対し、第1のフェムト秒パルスレーザー光と、第2のフェムト秒パルスレーザー光とをそれぞれ異なる光路を介して照射し、微粒子を生成する照射工程を備えることを特徴とする。
【0010】
第2発明に係る微粒子の製造方法は、第1発明において、前記照射工程は、前記溶液に対し、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光を照射する第1照射工程と、前記第1照射工程により照射された前記溶液に対し、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光を照射する第2照射工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
第3発明に係る微粒子の製造方法は、第2発明において、前記前駆体は、金属イオン又は錯イオンを含み、前記第1照射工程は、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光により前記溶液内にプラズマを発生させることで、前記前駆体に基づく中間粒子を生成し、前記第2照射工程は、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光の自己収束を前記溶液内に発生させることで、前記中間粒子を微小化した前記微粒子を生成し、前記プラズマが発生するプラズマ領域は、前記自己収束が発生する自己収束領域と近接、又は重複することを特徴とする。
【0012】
第4発明に係る微粒子の製造方法は、第3発明において、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光、及び前記第2のフェムト秒パルスレーザー光は、互いに対向する方向に照射され、前記プラズマ領域、及び前記自己収束領域は、互いに近接することを特徴とする。
【0013】
第5発明に係る微粒子の製造方法は、第1発明~第4発明の何れかにおいて、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光、及び前記第2のフェムト秒パルスレーザー光は、1つのフェムト秒パルスレーザー装置の発振光を分岐した光であることを特徴とする。
【0014】
第6発明に係る微粒子の製造方法は、第1発明~第4発明の何れかにおいて、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光の光軸は、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光の光軸と一致することを特徴とする。
【0015】
第7発明に係る微粒子の製造方法は、第1発明~第4発明の何れかにおいて、前記照射工程は、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光、及び前記第2のフェムト秒パルスレーザー光における出力を0.7mW以上とし、レーザーフルエンスを1.0kJ/cm2以上として、前記溶液に照射することを特徴とする。
【0016】
第8発明に係る微粒子の製造方法は、第1発明~第4発明の何れかにおいて、前記照射工程は、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光、及び前記第2のフェムト秒パルスレーザー光とは異なる1つ以上のフェムト秒パルスレーザー光を、それぞれ異なる位置から前記溶液に照射し、前記微粒子を生成することを特徴とする。
【0017】
第9発明に係る微粒子の製造方法は、第2発明~第4発明の何れかにおいて、前記照射工程は、前記溶液を上流から下流に流動する流路を用いて、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光の照射位置よりも前記流路の下流側に、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光の照射位置を設定することを特徴とする。
【0018】
第10発明に係る微粒子の製造方法は、第9発明において、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光の強度は、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光の強度よりも強いことを特徴とする。
【0019】
第11発明に係る微粒子の製造方法は、第1発明において、前記照射工程は、1つのフェムト秒パルスレーザー装置の発振光を、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光と、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光とに分岐し、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光と、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光とを、それぞれ異なる光路を経由させたあとに、互いに等しい光軸及び向きに沿って前記溶液に照射することを特徴とする。
【0020】
第12発明に係る微粒子の製造方法は、第11発明において、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光の光路長と、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光の光路長との差は、互いに干渉しない距離を示すことを特徴とする。
【0021】
第13発明に係る微粒子の製造方法は、第1発明~第4発明の何れかにおいて、前記照射工程は、1つのフェムト秒パルスレーザー装置の発振光を、一方向の成分のみを集光する複数の集光レンズを介して前記第1のフェムト秒パルスレーザー光と前記第2のフェムト秒パルスレーザー光とに分岐し、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光を前記溶液中であって一の前記集光レンズの第1焦点位置に集光するとともに、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光を前記溶液中であって前記第1焦点位置とは異なる他の前記集光レンズの第2焦点位置に集光することを特徴とする。
【0022】
第14発明に係る微粒子の製造システムは、フェムト秒パルスレーザーを用いた微粒子の製造システムであって、金属原子を含む前駆体を混合した溶液を収容した容器と、前記容器に対してそれぞれ異なる光路を介して照射するように、第1のフェムト秒パルスレーザー光と、第2のフェムト秒パルスレーザー光との照射方向を制御する光学部と、を備えることを特徴とする。
【0023】
第15発明に係る微粒子の製造システムは、第14発明において、前記容器は、前記溶液を流動する流路を含み、前記光学部は、前記第2のフェムト秒パルスレーザー光の照射位置を、前記第1のフェムト秒パルスレーザー光の照射位置よりも前記流路の下流側に制御することを特徴とする。
【0024】
第16発明に係る微粒子の製造システムは、第14発明において、前記光学部は、それぞれ同軸上に設けられた1つの波長板、及び2つの偏光ビームスプリッタを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
第1発明~第13発明によれば、照射工程は、溶液に対し、第1のフェムト秒パルスレーザー光と、第2のフェムト秒パルスレーザー光とをそれぞれ異なる光路を介して照射し、微粒子を生成する。このため、微粒子の生成過程毎に適した複数の被照射条件を、各レーザー光を用いて設定することができる。これにより、微粒子の生成効率を向上させることが可能となる。
【0026】
特に、第2発明によれば、第2照射工程は、第1照射工程により照射された溶液に対し、第2のフェムト秒パルスレーザー光を照射する。即ち、第1のフェムト秒パルスレーザー光により前駆体に基づき生成された中間粒子に対し、第2のフェムト秒パルスレーザー光を照射し、中間粒子に基づき微粒子を生成できる。このため、1つのフェムト秒パルスレーザー光を用いた場合に比べて、中間粒子から微粒子を生成する過程を早めることができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0027】
特に、第3発明によれば、プラズマが発生するプラズマ領域は、自己収束が発生する自己収束領域と近接、又は重複する。即ち、プラズマ領域において前駆体に基づき生成された中間粒子を、自己収束領域へ容易に流動させることができる。このため、自己収束領域における中間粒子に基づく微粒子の生成を円滑に実施することができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0028】
特に、第4発明によれば、第1のフェムト秒パルスレーザー光、及び第2のフェムト秒パルスレーザー光は、互いに対向する方向に照射され、プラズマ領域、及び自己収束領域は、互いに近接する。このため、2つのレーザー光が互いに対向せず、又はプラズマ領域と自己収束領域が互いに近接しない場合と比べて、還元期間及びアブレーション期間を短縮し、短時間で微粒子を生成できる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0029】
特に、第5発明によれば、第1のフェムト秒パルスレーザー光、及び第2のフェムト秒パルスレーザー光は、1つのフェムト秒パルスレーザー装置の発振光を分岐した光である。このため、各レーザー光に対してそれぞれフェムト秒パルスレーザー装置を設けた場合に比べて、装置の導入コスト、及び装置稼働コストを削減することが可能となる。
【0030】
特に、第6発明によれば、第1のフェムト秒パルスレーザー光の光軸は、第2のフェムト秒パルスレーザー光の光軸と一致する。このため、各レーザー光の光軸を一致させない場合に比べて、照射位置を設定する際のバラつきを抑制することができる。これにより、微粒子を生成する際の再現性を向上させることが可能となる。
【0031】
特に、第7発明によれば、照射工程は、第1のフェムト秒パルスレーザー光、及び第2のフェムト秒パルスレーザー光における出力を0.7mW以上とし、レーザーフルエンスを1.0kJ/cm2以上として、溶液に照射する。このため、微粒子を生成する際の還元反応を起こすために十分なプラズマを発生させ易くすることが可能となる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0032】
特に、第8発明によれば、照射工程は、第1のフェムト秒パルスレーザー光、及び第2のフェムト秒パルスレーザー光とは異なる1つ以上のフェムト秒パルスレーザー光を、それぞれ異なる位置から溶液に照射し、微粒子を生成する。このため、微粒子の生成過程毎にさらに適した複数の被照射条件を設定することができる。これにより、さらに高効率な微粒子の生成が可能となる。
【0033】
特に、第9発明によれば、照射工程は、第1のフェムト秒パルスレーザー光の照射位置よりも流路の下流側に、第2のフェムト秒パルスレーザー光の照射位置を設定する。このため、微粒子の生成過程毎に適したレーザー光が、溶液に照射され易くすることができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0034】
特に、第10発明によれば、第1のフェムト秒パルスレーザー光の強度は、第2のフェムト秒パルスレーザー光の強度よりも強い。即ち、微粒子の生成過程に沿って、照射するレーザー光の強度を段階的に弱めることができる。このため、微粒子の生成過程後半において、レーザー光の過度な照射に伴う不要な反応を抑制することができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0035】
特に、第11発明によれば、照射工程は、第1のフェムト秒パルスレーザー光と、第2のフェムト秒パルスレーザー光とを、それぞれ異なる経路を経由させたあとに、互いに等しい光軸及び向きに沿って溶液に照射する。このため、1つの軸に沿った照射領域に対し、2種類のパルスを生じさせることができ、照射領域の拡張を抑えることができる。これにより、製造装置等の大型化を抑制した状態で、微粒子の生成効率を向上させることが可能となる。
【0036】
特に、第12発明によれば、第1のフェムト秒パルスレーザー光の光路長と、第2のフェムト秒パルスレーザー光の光路長との差は、互いに干渉しない距離を示す。このため、フェムト秒パルスレーザーの特徴である非熱効果を保った状態を維持することができる。これにより、レーザー照射に伴う熱の影響を抑制した状態で、微粒子の生成効率を向上させることが可能となる。
【0037】
特に、第13発明によれば、照射工程は、第1のフェムト秒パルスレーザー光を溶液中の第1焦点位置に集光するとともに、第2のフェムト秒パルスレーザー光を溶液中の第1焦点位置とは異なる第2焦点位置に集光する。このため、微粒子の生成領域を複数独立して制御することができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0038】
第14発明~第16発明によれば、光学部は、容器に対してそれぞれ異なる光路を介して照射するように、第1のフェムト秒パルスレーザー光と、第2のフェムト秒パルスレーザー光との照射方向を制御する。このため、微粒子の生成過程毎に適した複数の被照射条件を、各レーザー光を用いて設定することができる。これにより、微粒子の生成効率を向上させることが可能となる。
【0039】
特に、第15発明によれば、光学部は、第2のフェムト秒パルスレーザー光の照射位置を、第1のフェムト秒パルスレーザー光の照射位置よりも流路の下流側に制御する。このため、微粒子の生成過程毎に適したレーザー光が、溶液に照射され易くすることができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0040】
特に、第16発明によれば、光学部は、それぞれ同軸上に設けられた1つの波長板、及び2つの偏光ビームスプリッタを含む。このため、1つの軸に沿った照射領域に対し、2種類のパルスを生じさせることができ、照射領域の拡張を抑えることができる。これにより、製造装置等の大型化を抑制した状態で、微粒子の生成効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1(a)は、第1実施形態に係る微粒子の製造方法の一例を示す模式図であり、
図1(b)は、第1実施形態に係る微粒子の製造方法の第1変形例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る微粒子の製造方法の第2変形例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、照射時間と吸光度の計測値との関係を示す図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態に係る微粒子の製造システムの構成の一例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、第2実施形態に係る微粒子の製造方法及び製造システムの一例を示す模式図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係る微粒子の製造方法及び製造システムの第1変形例を示す模式図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態に係る微粒子の製造方法及び製造システムの一例を示す模式図である。
【
図8】
図8(a)は、第4実施形態に係る微粒子の製造方法及び製造システムの一例として、照射光の切り替え前の一例を示す模式図であり、
図8(b)は、第4実施形態に係る微粒子の製造方法及び製造システムの第1変形例として、照射光の切り替え後の一例を示す模式図である。
【
図9】
図9は、第4実施形態に係る微粒子の製造方法及び製造システムの第2変形例として、回折光学素子を用いた光学系を示す模式図である。
【
図10】
図10は、第4実施形態に係る微粒子の製造方法及び製造システムの第3変形例として、フェムト秒パルスレーザー光の強度分布の変換方法の一例を示す模式図である。
【
図11】
図11は、第5実施形態に係る微粒子の製造方法及び製造システムの一例を示す模式図である。
【
図12】
図12は、第6実施形態に係る微粒子の製造方法及び製造システムの一例を示す模式図である。
【
図14】
図14(a)は、
図13(a)のA-A断面におけるフェムト秒パルスレーザー光の照射領域を示す模式断面図であり、
図14(b)は、
図13(b)のB-B断面におけるフェムト秒パルスレーザー光の照射領域を示す模式断面図であり、
図14(c)は、
図13(b)のC-C断面におけるフェムト秒パルスレーザー光の照射領域を示す模式断面図である。
【
図15】
図15は、微粒子の製造方法の原理を示す模式図である。
【
図16】
図16は、比較例の照射時間と吸光度の計測値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態としての微粒子の製造方法、及び微粒子の製造システムの一例について、図面を参照しながら説明する。
【0043】
(第1実施形態:微粒子の製造方法)
本実施形態に係る微粒子の製造方法は、フェムト秒パルスレーザーを用いる。微粒子は、例えば1nm以上100nm以下の粒子径を有する複数の粒子を含む。微粒子は、例えばメディアン径(中央径:D50)が1nm以上50nm以下の粒子径を有する粒子を含んでもよいほか、例えば平均粒子径が1nm以上50nm以下の粒子径を有する粒子を含んでもよい。なお、以下の説明では、微粒子を生成する際の中間物質として「中間粒子」を用いて説明する。中間粒子は、最終的に生成される微粒子に比べて、中央径又は平均粒子径が大きい物質を示し、例えば中間粒子の粒子径が上記範囲に含まれてもよい。
【0044】
メディアン径又は平均粒子径は、例えば粒度分布計測器を用いることで、測定することができる。粒度分布計測器としては、例えば、動的光散乱法を用いた公知の粒度分布計測器(例えばMalvern Panalytical製ゼータサイザーUltra等)が用いられる。
【0045】
先ず、金属イオン又は錯イオンを含む前駆体を混合した溶液20に対し、フェムト秒パルスレーザー光を照射し、微粒子(NP:Nano Particle)を製造する方法の原理について、
図15及び
図16を参照して説明する。なお、以下の説明において、フェムト秒パルスレーザー光を単にレーザー光と表記する場合がある。
【0046】
例えば
図15に示すように、複数の金属イオンを溶解させた溶液20に対し、フェムト秒パルスレーザー光1を照射すると、図中に略矩形で示す領域等においてプラズマが発生する。また、プラズマの発生に伴い光カー効果が発生することにより、図中において略矩形の領域から一方向に連続する複数の略楕円形の領域等において凸レンズ(カーレンズ)があるかのようにフェムト秒パルスレーザー光1が繰り返し収束する自己収束現象が発生する。また、自己収束現象の発生と同時に自己位相変調も発生する。
【0047】
発生したプラズマのうち、最も輝度の高い領域において、還元反応により合金の中間粒子が生成される。この時、例えば中間粒子の外径は1nm~20nm程度となる。この生成された中間粒子は、例えば溶液20を攪拌することで溶液20内を移動し、中間粒子がフェムト秒パルスレーザー光1に再度照射されることで生じるレーザーアブレーション反応により微小化され、外径2nm程度の微粒子が生成される。
【0048】
図16は、
図15に示したフェムト秒パルスレーザー光1の照射時間と、計測値(吸光度)との関係を示すデータである。
図16に示すように、フェムト秒パルスレーザー光1の照射開始から、溶液20の吸光度が急峻に上昇する期間が還元期間と考えられ、吸光度が最高値に達した後、徐々に下がって収束状態に達する期間が、アブレーション期間と考えられる。
【0049】
ここで、微粒子の製造効率を向上させる1つの方法として、
図16に示した吸光度が、より急峻に立ち上がり、より早く収束状態に達することが望ましいことを、発明者らは見出した。
【0050】
図1(a)及び
図1(b)は、本実施形態に係る微粒子の製造方法を示す模式図である。微粒子の製造方法は、照射工程を備える。
【0051】
照射工程は、前駆体を混合した溶液20に対し、フェムト秒パルスレーザーの発振光である第1のレーザー光11(第1のフェムト秒パルスレーザー光11)と、第2のレーザー光12(第2のフェムト秒パルスレーザー光12)とをそれぞれ異なる光路を介して照射し、微粒子を生成する。この場合、微粒子の生成過程毎に適した複数の被照射条件を、各レーザー光11、12を用いて設定することができる。これにより、微粒子の生成効率を向上させることが可能となる。
【0052】
照射工程は、例えば
図1(a)に示すように、2つのレーザー光11、12が対向するように照射する。この2つのレーザー光11、12により形成された輝度の高いプラズマ領域100a、100bが、互いに近接している。なお、
図15の記載と同様に、
図1(a)中の略矩形の領域がプラズマ領域100a、100bを示しており、プラズマ領域100a、100bから一方向に連続する複数の略楕円形の領域が、2つのレーザー光11、12それぞれについて自己収束された自己収束領域又は自己位相変調された自己変調領域を示している。ここで、例えば2つのレーザー光11、12の出力がそれぞれ0.7mW以上であり、レーザーフルエンスが1.0kJ/cm
2以上である場合、微粒子を生成する際の還元反応を起こすために十分なプラズマを発生させ易くすることができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0053】
図2は、2つのレーザー光11、12の相対的な位置関係をわかりやすくするため、
図1(a)に比べて第2のレーザー光12を偏心させた状態を示す。これは、2つのレーザー光11、12が、対向照射となる前の状態を示したものである。
【0054】
2つのレーザー光11、12の集光位置を調整することで、
図1(b)に示すように、第1のレーザー光11によるプラズマ領域100aと、第2のレーザー光12によるプラズマ領域100bとがさらに近接し、少なくとも一部が互いに重複するように形成される。
【0055】
図3は、照射工程における、フェムト秒パルスレーザーの照射時間と、計測値(吸光度)との関係を示すデータである。即ち、
図1(a)、及び
図1(b)に示す2つのレーザー光11、12を照射した時に得られるデータを示す。
図3のデータは、紫外-可視分光光度計(FLAME、オーシャンホトニクス株式会社製)を用いて溶液20を対象として計測することで、得ることができる。
【0056】
図3における吸光度は、特定の波長に関する吸光度であり、その波長は特定の形状又は大きさの微粒子に対応する。そのため、フェムト秒パルスレーザー光1を照射しても吸光度が変化しない状態は、微粒子の形状又は大きさの変化がない収束状態を示す。
図3に示す吸光度の特徴は、吸光度の立ち上がりが急峻であり、吸光度の最高値に達すると同時期に、収束状態に達している。このため、
図3に示す吸光度の特徴は、
図16に示す吸光度の特徴と比較して、還元期間、及びアブレーション期間共に短いため、短時間で微粒子が生成されていると判断することができる。従って、微粒子の生成効率を向上させることが可能となる。
【0057】
還元期間の立ち上がりは、フェムト秒パルスレーザー光1が強ければより急峻に立ち上がるが、線形の関係ではない。より詳細には、非線形性を発生させるフェムト秒パルスレーザー光1の強度分布は均一でなく、概ねガウス分布であり、還元反応に寄与する閾値の光強度は、ガウス分布の最大強度よりかなり低い強度である。この場合、閾値を超えた分の光は、イオンの還元反応に寄与していない。そのため、フェムト秒パルスレーザー光1を分けて半分の強度にしても、飽和により還元反応に寄与していない光を少なくすることができれば、立ち上がりの傾きは半分以下にはならない。
【0058】
そのため、例えばフェムト秒パルスレーザー光1を2つに分けて、2つの高輝度のプラズマ領域100a、100bを形成することで、還元反応の立ち上がりもより急峻になる。すなわち、1つのフェムト秒パルスレーザー光1を照射するよりも効率良く微粒子の生成が可能となる。
【0059】
還元反応を短時間で収束させる他の方法としては、溶液20に添加物を混ぜることも考えられる。基本的には還元反応を妨げるものは酸化であるので、プラズマで水が分解された場合等で発生する酸化種を打ち消すような材質を添加することで、還元反応をより短時間で収束させることができる。
【0060】
図16の比較例のように、還元反応で生成された中間粒子が、溶液20の攪拌により、アブレーション反応を起こす領域に移動するために時間が掛かっているのに対して、
図1(a)等に示す本実施形態に係る微粒子の製造方法の構成にすることで、第1のレーザー光11による輝度の高いプラズマ領域100aと、第2のレーザー光12が自己収束された自己収束領域又は自己位相変調された自己変調領域と、が互いに重複し又は近接するため、中間粒子の移動が不要となり、又はプラズマ領域100aにおいて前駆体に基づき生成された中間粒子を、自己収束領域又は自己変調領域へ容易に流動させることができ、還元反応とアブレーション反応がほぼ同時に収束していると考えられる。この場合、自己収束領域又は自己変調領域における中間粒子に基づく微粒子の生成を円滑に実施することができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0061】
なお、例えば照射工程は、第1照射工程と、第2照射工程とを含んでもよい。第1照射工程は、溶液20に対し、第1のレーザー光11を照射する。第2照射工程は、第1照射工程により第1のレーザー光11が照射された溶液20に対し、第2のレーザー光12を照射する。即ち、第1のフェムト秒パルスレーザー光11により前駆体に基づき生成された中間粒子に対し、第2のフェムト秒パルスレーザー光12を照射し、中間粒子に基づき微粒子を生成できる。この場合、1つのフェムト秒パルスレーザー光1を用いた場合に比べて、中間粒子から微粒子を生成する過程を早めることができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。この際、例えば撹拌子を用いて、溶液20の流れを制御することで、2つのレーザー光11、12の照射位置を固定した状態で、第1照射工程、及び第2照射工程の順に実施することができる。
【0062】
<溶液20>
溶液20は、前駆体及び液体を混合した液体を示す。液体として、水が用いられるほか、例えば水及びアルコールの混合液が用いられてもよい。溶液20に対してレーザー光1が照射されることで、前駆体に含まれる金属原子を含有する微粒子が生成される。
【0063】
ここで、溶液20として前駆体、及び水のみを混合した液体が用いられる場合、溶液20に対してフェムト秒パルスレーザー光1を照射することで、溶液20に含まれる水の反応により、水和電子や水素ラジカル(H・)のような還元種が生成されるほか、水酸化ラジカル(ОH・)や過酸化水素(H2O2)等の酸化種が生成される。還元種は、微粒子の生成に寄与する一方で、酸化種は、微粒子の生成に直接影響する金属イオンや錯イオン等の還元反応を阻害し、微粒子を生成する時間が遅くなる可能性を、発明者らは見出した。また、溶液20として前駆体、及びアルコールのみを混合した液体が用いられる場合、微粒子の生成時間が大幅に遅くなることを、発明者らは発見した。この要因として、水の分解反応に基づく還元種を生成することができないため、微粒子を生成する時間が遅くなる可能性が挙げられる。
【0064】
これに対し、本実施形態では、例えば前駆体、アルコール、及び水を混合した溶液20が用いられる。このとき、前駆体の還元反応を阻害する酸化種が、アルコールと反応する。このため、前駆体に含まれる金属イオンや錯イオン等の還元反応の阻害を抑制することができる。上記に加え、酸化種と反応したアルコールは、還元性の化合物に変化するため、前駆体の還元反応を促進させることができる。即ち、上述した溶液20を用いることで、効率的に微粒子を生成することができる。これにより、フェムト秒パルスレーザー光1の照射時間を最適化することができ、微粒子の構造変化を抑制することができる。従って、微粒子の品質低下を抑制することが可能となる。
【0065】
アルコールとして、例えば2-プロパノール(IPA:isopropyl alcohol)のような、第2級アルコールが用いられる。第2級アルコールは、第1級アルコールを用いた場合に比べて、超共役によるラジカルの安定した状態を維持し易い。また、第2級アルコールは、第3級アルコールを用いた場合に比べて、酸化種と反応し易い。これらのため、アルコールとして第2級アルコールを用いることで、前駆体の還元反応をさらに促進させることが可能となる。
【0066】
また、アルコールとして、グリセリンやソルビトールのような、多価アルコールが用いられてもよい。この場合、1価アルコールを用いた場合に比べて、酸化種との反応点を増やすことができる。このため、アルコールとして多価アルコールを用いることで、前駆体の還元反応をさらに促進させることが可能となる。
【0067】
<前駆体>
前駆体は、例えば金属塩を含む。この際、例えば前駆体は、それぞれ異なる金属を有する複数の金属塩を含んでもよい。この場合、溶液20に混合させる各金属塩の濃度を容易に制御できるため、生成される合金の微粒子に含有される各金属の含有率を、容易に制御することができる。
【0068】
溶液20に混合させる複数の金属塩の濃度は、例えば1.0×10-5mоl・dm-3以上1.0×10-1mоl・dm-3以下程度であり、生成される微粒子の用途に応じて任意に設定できる。
【0069】
金属塩は、金属イオンを含む公知の化合物を含有し、用途に応じて任意の材料を含有させることができる。金属塩として、例えばH2PtCl6・6H2O、FeCl3・6H2O、NiCl2・6H2O等の公知の金属塩が用いられる。
【0070】
例えば、金属塩に含まれる金属イオンの酸化還元電位は、負を示してもよい。この場合、金属塩として、例えば卑金属を含む材料が用いられる。ここで、酸化還元電位が負の金属イオンを含む金属塩を用いた場合、微粒子の生成に伴い酸化する懸念が挙げられる。これに対し、本実施形態によれば、溶液20に含まれるアルコールの酸化反応により発生する還元物質の作用で、微粒子の酸化反応を抑制することができる。これにより、従来では生成することが困難とされていた微粒子を生成することができる。従って、微粒子の用途のさらなる拡大を図ることが可能となる。
【0071】
なお、「酸化還元電位」は、例えば「分析化学データブック(丸善出版)」等に記載された公知の値を示す。また、「卑金属」は、金属イオンの酸化還元電位が負の値として分類された金属を示し、リチウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、鉄、ニッケル、錫、鉛を示す。
【0072】
上記のほか、例えば前駆体は、固体粒子を含んでもよい。この際、例えば前駆体は、それぞれ異なる金属を有する複数の固体粒子を含んでもよい。固体粒子は、生成される微粒子の中央径(又は平均粒子径)よりも大きい中央径(又は平均粒子径)を有する。固体粒子は、例えば50nm以上200μm程度の中央径(又は平均粒子径)を有する。
【0073】
固体粒子は、上述した金属塩とは異なり、塩素等のような微粒子に含有されない材料を含まない。このため、微粒子の生成に伴い不要となる材料の発生を抑制することができる。
【0074】
(第1実施形態:微粒子の製造システム)
本実施形態に係る微粒子の製造システムは、例えば
図4に示すように、容器2と、照射装置3と、光学部30とを備える。容器2は、溶液20を収容する。光学部30は、容器2に対してそれぞれ異なる光路を介して照射するように、第1のレーザー光11と、第2のレーザー光12との照射方向を制御する。この場合、微粒子の生成過程毎に適した複数の被照射条件を、各レーザー光11、12を用いて設定することができる。これにより、微粒子の生成効率を向上させることが可能となる。微粒子の製造システムは、上述した微粒子の製造方法に用いることができる。
【0075】
例えば
図4は、本実施形態に係る微粒子の製造システムで用いる光学部30の一例を示す。
図4では、光学部30を用いて、1つのレーザー光1を2つに分けて、容器2に対向照射する構成例を示す。即ち、光学部30は、例えば
図4に示す楔プリズム301、ハーフプリズム302、ミラー303、304、305、306、307の少なくとも何れかを含んでもよい。
【0076】
図4に示す構成は、照射装置3(フェムト秒パルスレーザー装置)から放射された光が、楔プリズム301により分光され、特定の波長のフェムト秒パルスレーザー光1が、ミラー303で反射され、ハーフプリズム302を通じて2方向に分けられる。
【0077】
分けられたレーザー光1は、それぞれミラー304、306で反射されて、さらにミラー305、307で反射されて、容器2に収容された溶液20に入射する。ここで、ミラー305、307で反射された2つのレーザー光1(即ち2つのレーザー光11、12)は、例えば光軸が互いに一致するように調整される。
【0078】
ここで、「光軸が互いに一致する」とは、2つのレーザー光11、12の光軸に、一定以下のずれがある場合も含む。例えば、対向している2つのレーザー光11、12の光線の間の合致度が、角度差が1分以下、平行偏心が20μm以下であれば、微粒子の生成効率に有意な低下は生じ難い。
【0079】
このようにして、レーザー光1を複数に分岐させて使用することにより、各レーザー光11、12に対してそれぞれフェムト秒パルスレーザー装置を設けた場合に比べて、装置の導入コスト、及び装置稼働コストを削減することが可能となる。また、各レーザー光11、12の光軸を一致させない場合に比べて、照射位置を設定する際のバラつきを抑制することができる。これにより、高い効率で微粒子を生成することができる。
【0080】
なお、
図4に示す構成においては、1つの照射装置3を使用して1つのレーザー光1を2つ以上に分けて、対向照射しているが、本実施形態に係る微粒子の製造システムは、この構成に限定する必要はない。例えば照射工程は、照射装置3を複数個使用して、容器2に対してそれぞれ異なる光路を介して複数のレーザー光1を照射(例えば対向照射)してもよい。また、ハーフプリズム302の透過と反射の強度比を変調する場合は、例えば波長板が用いられてもよい。
【0081】
本実施形態によれば、照射工程は、溶液20に対し、第1のフェムト秒パルスレーザー光11(第1のレーザー光11)と、第2のフェムト秒パルスレーザー光12(第2のレーザー光12)とをそれぞれ異なる光路を介して照射し、微粒子を生成する。このため、微粒子の生成過程毎に適した複数の被照射条件を、各レーザー光11、12を用いて設定することができる。これにより、微粒子の生成効率を向上させることが可能となる。
【0082】
また、本実施形態によれば、第2照射工程は、第1照射工程により照射された溶液20に対し、第2のレーザー光12を照射する。即ち、第1のレーザー光11により前駆体に基づき生成された中間粒子に対し、第2のレーザー光12を照射し、中間粒子に基づき微粒子を生成できる。このため、1つのフェムト秒パルスレーザー光1を用いた場合に比べて、中間粒子から微粒子を生成する過程を早めることができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0083】
また、本実施形態によれば、プラズマが発生するプラズマ領域100aは、自己収束が発生する自己収束領域と近接、又は重複する。即ち、プラズマ領域100aにおいて前駆体に基づき生成された中間粒子を、自己収束領域へ容易に流動させることができる。このため、自己収束領域における中間粒子に基づく微粒子の生成を円滑に実施することができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0084】
また、本実施形態によれば、第1のフェムト秒パルスレーザー光11、及び第2のフェムト秒パルスレーザー光12は、互いに対向する方向に照射され、プラズマ領域100a、及び自己収束領域は、互いに近接する。このため、2つのレーザー光11、12が互いに対向せず、又はプラズマ領域100aと自己収束領域が互いに近接しない場合と比べて、還元期間及びアブレーション期間を短縮し、短時間で微粒子を生成できる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0085】
また、本実施形態によれば、第1のレーザー光11、及び第2のレーザー光12は、1つのフェムト秒パルスレーザー装置(照射装置3)の発振光を分岐した光である。このため、各レーザー光11、12に対してそれぞれ照射装置3を設けた場合に比べて、装置の導入コスト、及び装置稼働コストを削減することが可能となる。
【0086】
また、本実施形態によれば、第1のレーザー光11の光軸は、第2のレーザー光12の光軸と一致する。このため、各レーザー光11、12の光軸を一致させない場合に比べて、照射位置を設定する際のバラつきを抑制することができる。これにより、微粒子を生成する際の再現性を向上させることが可能となる。
【0087】
また、本実施形態によれば、照射工程は、第1のフェムト秒パルスレーザー光11、及び第2のフェムト秒パルスレーザー光12における出力を0.7mW以上とし、レーザーフルエンスを1.0kJ/cm2以上として、溶液20に照射する。このため、微粒子を生成する際の還元反応を起こすために十分なプラズマを発生させ易くすることが可能となる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0088】
また、本実施形態によれば、光学部30は、容器2に対してそれぞれ異なる光路を介して照射するように、第1のフェムト秒パルスレーザー光11と、第2のフェムト秒パルスレーザー光12との照射方向を制御する。このため、微粒子の生成過程毎に適した複数の被照射条件を、各レーザー光を用いて設定することができる。これにより、微粒子の生成効率を向上させることが可能となる。
【0089】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態に係る微粒子の製造方法、及び微粒子の製造システムの一例について説明する。上述した実施形態と、本実施形態との違いは、容器2が流路21を含む点である。なお、上述した実施形態と同様の内容については、説明を省略する。
【0090】
図5は、本実施形態に係る微粒子の製造方法の一例を示す模式図である。
図5は、溶液20を上流21aから下流21bに流動する流路21に対し、2つのレーザー光11、12を照射させた場合の一例を示す。このように、溶液20を容器2内に流動させた状態で、2つのレーザー光11、12を照射させることにより、連続的に微粒子を生成することができる。なお、溶液20が複数の金属原子を含む場合には、合金の微粒子を生成することができる。
【0091】
ここで、流路21は、設置面99を基準に「下から上」に溶液20を流動するほか、「上から下」や、設置面99に沿って略水平方向に溶液20を流動する形状を有してもよい。特に、溶液20の流れを、容器2の設置面99を基準に「下から上(
図5の矢印の向き)」とすることで、溶液20の流量を制御し易くすることができる。例えば流路21は、流量制限用の調整弁等のレギュレーター22を配置して、溶液20の流量の制御を行える構成を含んでもよい。ここで、溶液20に複数の金属原子が溶解している場合、合金の微粒子となる速度が金属イオンの種類により異なる。このため、レギュレーター22により溶液20の流量を適宜変更して、生成効率が最大となるように流量を最適化することができる。最適流量となった溶液20に対して、照射位置を固定した2つのレーザー光11、12を照射し、微粒子を生成してもよい。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0092】
また、
図5に示すように、容器2のうち、2つのレーザー光11、12を照射させる部分(流路21)を、他の部分より細くすることによって、2つのレーザー光11、12による前駆体の還元反応とアブレーション反応とをほぼ瞬時に発生させることができる。この場合、還元期間及びアブレーション期間を短縮し、短時間で微粒子を生成できる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0093】
このように、容器2の中に流路21を設けて、流路21内を一方向に流動する溶液20に、2つのレーザー光11、12を照射することにより、微粒子を連続的に生成することが可能となる。また、流路21内を一方向に流動する複数の金属原子を含む溶液20に、2つのレーザー光11、12を照射することにより、合金の微粒子を連続的に生成することができる。これにより、微粒子の製造性を向上させることが可能となる。
【0094】
例えば照射工程は、流路21を用いて、第1のフェムト秒パルスレーザー光11の照射位置よりも下流21b側に、第2のフェムト秒パルスレーザー光12の照射位置を設定してもよい。この場合、溶液20の流路21に沿って、微粒子の生成過程毎に適した2つのレーザー光11、12を順番に溶液20に照射させ易くすることができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。また、光学部30は、第2のフェムト秒パルスレーザー光12の照射位置を、第1のフェムト秒パルスレーザー光11の照射位置よりも流路21の下流21b側に制御してもよい。この場合、微粒子の生成過程毎に適したレーザー光11、12が、溶液20に照射され易くすることができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0095】
上述した各レーザー光11、12の照射位置を設定した場合、例えば第1のレーザー光11の強度は、第2のレーザー光12の強度よりも強くしてもよい。即ち、微粒子の生成過程に沿って、照射するレーザー光11、12の強度を段階的に弱めることができる。この場合、微粒子の生成過程後半において、第2のレーザー光12の過度な照射に伴う不要な反応を抑制することができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。この際、例えば後述する
図10のような強度分布を有する各レーザー光11、12を用いてもよい。
【0096】
また、本実施形態に係る微粒子の製造システムは、公知のポンプを備えてもよい。例えば、自動化されたポンプを使用することにより、溶液20を自動的に注入、又は回収することができる。例えば、ピストンポンプ、パーツポンプ、ペリスタティックポンプ、ダイヤフラムポンプ(チャッキボール付)などが使用可能である。これらのポンプは流量と圧力を調整することができ、精度の高い流体制御が可能である。
【0097】
例えば上記方法により生成された微粒子を、溶液20中から回収、取出す方法(回収工程)の1つとして、高周波の振動を利用する方法がある。この方法は、超音波分散器を使用して、高周波の振動によって微粒子を液中に分散し、均一に混合して分離を容易にする。これにより、高い回収率で微粒子を取り出すことが可能となる。
【0098】
他の分離方法としては磁気分離、電気泳動等の方法があり、磁気分離は微粒子が磁性を持つ場合に有効であり、外部磁場を利用して微粒子を取り出す方法である。その他にも、電気場を生じさせ、電気泳動により微粒子を溶液20から移動させる方法もある。これらの方法を組み合わせることで、より高い精度で微粒子を取り出すことが可能となる。
【0099】
図6は、上述した微粒子の製造方法の一例を示す模式図である。
図6は、溶液44(溶液20を含む)を生成した後に、2つのレーザー光11、12を照射させて微粒子を生成し、その後微粒子を回収する際に用いられる構成の一例を示す。より詳細には、まず、第1の金属原子(例えば第1の金属イオン42)と第2の金属原子(例えば第2の金属イオン43)とを溶媒41(例えば水を含む液体)中に混合し、溶液44を生成する。その後、溶液44が最適流量で容器内を流れるように、レギュレーター45を制御する。溶液44が照射ステーション46(上述した容器2の流路21に対応)を通過する際、2つの固定されたレーザー光11、12を照射させて、合金の微粒子を生成する。生成された微粒子は、回収シリンダ47で回収後、超音波分散器48により、分離済微粒子49を取り出す。
【0100】
このようにして、高性能な合金微粒子を高効率で製造することが可能となる。
【0101】
本実施形態によれば、照射工程は、第1のレーザー光11の照射位置よりも流路21の下流21b側に、第2のレーザー光12の照射位置を設定する。このため、微粒子の生成過程毎に適したレーザー光11、12が、溶液20に照射され易くすることができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0102】
また、本実施形態によれば、第1のレーザー光11の強度は、第2のレーザー光12の強度よりも強い。即ち、微粒子の生成過程に沿って、照射するレーザー光11、12の強度を段階的に弱めることができる。このため、微粒子の生成過程後半において、レーザー光12の過度な照射に伴う不要な反応を抑制することができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0103】
また、本実施形態によれば、光学部30は、第2のフェムト秒パルスレーザー光12の照射位置を、第1のフェムト秒パルスレーザー光11の照射位置よりも流路21の下流側に制御する。このため、微粒子の生成過程毎に適したレーザー光11、12が、溶液20に照射され易くすることができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0104】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態に係る微粒子の製造方法、及び微粒子の製造システムの一例について説明する。上述した実施形態と、本実施形態との違いは、3つの以上のレーザー光を溶液20に照射する点である。なお、上述した実施形態と同様の内容については、説明を省略する。
【0105】
図7は、第3実施形態に係る微粒子の製造方法を示す模式図である。
図7に示すように、本実施形態においては、3つのレーザー光11、12、13が異なる3方向から照射される。この場合、微粒子の生成過程毎にさらに適した複数の被照射条件を設定することができる。これにより、さらに高効率な微粒子の生成が可能となる。第3のレーザー光13は、例えば各レーザー光1、11、12の何れかから分岐されたものが用いられてよい。
【0106】
より詳細には、3つのレーザー光11、12、13それぞれの輝度が高いプラズマ領域100a、100b、100c(図中の略矩形の領域)と、当該レーザー光11、12、13とは異なる他のレーザー光11、12、13の自己収束領域又は自己変調領域(図中の連続する略楕円形の領域)と、が互いに重複又は近接している。これにより、3つのレーザー光11、12、13により形成された自己収束領域又は自己変調領域と輝度が高いプラズマ領域100a、100b、100cと、が重複又は近接している。このような構成にすることにより、さらに高効率な微粒子の生成が可能となる。
【0107】
なお、本実施形態では、3つのレーザー光11、12、13を使用する場合について説明したが、それに限定する必要はない。例えば、3つ以上(例えば3つ以上の奇数個)のレーザー光を使用する場合でも同様に、高効率な微粒子の生成が可能となる。
【0108】
本実施形態によれば、照射工程は、第1のフェムト秒パルスレーザー光11、及び第2のフェムト秒パルスレーザー光12とは異なる1つ以上の他のフェムト秒パルスレーザー光13を、それぞれ異なる位置から溶液20に照射し、微粒子を生成する。これにより、さらに高効率な微粒子の生成が可能となる。
【0109】
(第4実施形態)
以下、第4実施形態に係る微粒子の製造方法、及び微粒子の製造システムの一例について説明する。上述した実施形態と、本実施形態との違いは、光学部31に含まれる切り替え用ミラー311を用いて、レーザー光1の照射先を切り替える点である。なお、上述した実施形態と同様の内容については、説明を省略する。
【0110】
本実施形態に係る微粒子の製造システムは、例えば
図8(a)及び
図8(b)に示すように、切り替え用ミラー311と、ハーフプリズム312、313と、を含む光学部31を備える。
図8(a)及び
図8(b)は、本実施形態に係る微粒子の製造方法の例を示す模式図である。本実施形態に係る微粒子の製造方法では、切り替え用ミラー311により、1つのレーザー光1の照射を、2つ以上の溶液20を対象として切り替えることができる光学部31を用いる。
【0111】
図8(a)及び
図8(b)に示す例において、レーザー光1の照射対象として、溶液20がそれぞれ配置された複数の照射ステーション318、319が設けられる。切り替え用ミラー311を切り替えることにより、レーザー光1は、光路が切り替えられ、各ハーフプリズム312、313で2方向に分岐される。分岐された2つのレーザー光11、12は、所望の照射ステーション318、319に配置した溶液20に照射され、微粒子が生成される。
【0112】
図8(a)は、照射ステーション318に配置した溶液20に、2つのレーザー光11、12が照射される状態を示し、
図8(b)は、
図8(a)の状態から切り替え用ミラー311を切り替えて、他の照射ステーション319に配置した溶液20に、レーザー光11、12が照射される状態を示す。
図8(b)に示すように、他の照射ステーション319にレーザー光11、12が照射されている間に、照射ステーション318の溶液20を交換することができる。このように、フェムト秒パルスレーザーの発振を停止することなく、光路を切り替えることで、溶液20の交換を容易に実施することができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。なお、溶液20は、溶液20を収容した容器2毎に交換してもよいほか、溶液20のみを交換してもよい。
【0113】
また、本実施形態において、溶液20にレーザー光11、12を照射する前に、λ/2板314~317を配置してもよい。この場合、λ/2板314~317の回転を調整することで、照射するレーザー光11、12の偏光を制御することができる。例えばP偏光の方が、微粒子の生成効率が良い場合には、P偏光にして照射することが可能となる。P偏光又はS偏光の直線偏光は、焦点における電場がレーザー入射方向に対して垂直となる。この場合、例えば円偏光に比べて原子を取り囲む電子が電場振動によって激しく揺さぶられ、プラズマがより効率よく生じるため、微粒子をさらに効率よく製造することが可能になる。
【0114】
上述した実施形態は、種々の変更が可能である。例えば、溶液20の容器2として、微粒子の製造に適したものを採用してもよい。あるいは、溶液20の容器2に近接して配置する光学素子をさらに用いてもよい。例えば、レーザー光11、12を照射する対象の溶液20の量が少ない場合には、容器2の特定の面に対して垂直の光軸でレーザー光11、12が入射する際に、光軸に直交する一方向では集光し、光軸に直交する他方向では強度分布を均一にする機能を有する光学部品が好適である。ここで、「均一」とは、ガウス分布より均一になっている、という意味であり、厳密に均一な強度分布である必要はない。
【0115】
微粒子の製造システムは、例えば
図9に示すように、回折光学素子321、及び通常のレンズ322の少なくとも何れかを含む光学部32を備えてもよい。光学部32は、例えば溶液20に2つのレーザー光11、12を照射する際、2つのレーザー光11、12の少なくとも何れかの光路に沿って回折光学素子321、レンズ322の順に配置される。
図9の例において、回折光学素子321は、Y方向の成分のみパターンの形成を変化させてシリンドリカルな結像性能を持たせることができる。具体的には、回折光学素子321を使って、レーザー光11、12のX方向の成分については通常のガウスビームの集光とし、Y方向の成分についてはガウスビームの中心付近のエネルギーを図中の一対の斜線で示すように拡径させた上で通常のレンズ322に入射することで、通常のレンズ322を通過したレーザー光11、12をY方向の成分のみ
図9右下に示す強度分布のように均一なトップハット型のパターンに変化させてX方向の成分が
図9左下に示す強度分布のように強く集光された光に変換することができる。なお、回折光学素子321のみ使用する構成も可能であるほか、回折光学素子321に代えてメタレンズを使用してもよい。
【0116】
上記に加え、例えば
図10に示すように、メタレンズ等を用いて光の強度分布を2種類に変換してもよい。この場合、例えばレーザー光1のうち、強度の強い(第1強度)光を第1のフェムト秒パルスレーザー光11とし、強度の弱い(第2強度)光を第2のフェムト秒パルスレーザー光12としてもよい。上述したレーザー光1の強度を変換することで、光学系を用いてレーザー光11、12に分割する場合に比べて、光軸の調整に伴う再現性の低下を抑制することが可能となる。上記のほか、2つのフェムト秒パルスレーザー装置を準備する必要が無いため、製造コストの削減に繋げることが可能となる。
【0117】
(第5実施形態)
以下、第5実施形態に係る微粒子の製造方法、及び微粒子の製造システムの一例について説明する。上述した実施形態と、本実施形態との違いは、光学部33に含まれる2つの偏光ビームスプリッタ332、333を用いて、光路長の異なる2つのレーザー光11、12を同軸上の光路に沿って溶液20に照射する点である。なお、上述した実施形態と同様の内容については、説明を省略する。
【0118】
本実施形態における照射工程は、1つのフェムト秒パルスレーザー装置(照射装置3)の発振光を、第1のレーザー光11と、第2のレーザー光12とに分岐する。その後、第1のレーザー光11と、第2のレーザー光12とを、それぞれ異なる光路を経由させたあとに、互いに等しい光軸及び向きに沿って溶液20に照射する。この際、例えば光軸は、照射装置3から発振されるレーザー光1の進む向きに重なる光軸を示す。この場合、1つの軸に沿った照射領域に対し、2種類のパルスを生じさせることができ、照射領域の拡張を抑えることができる。これにより、製造装置等の大型化を抑制した状態で、微粒子の生成効率を向上させることが可能となる。
【0119】
例えば第1のレーザー光11の光路長と、第2のレーザー光12の光路長との差は、互いに干渉しない距離を示す。ここで、上記光路長の差が、各レーザー光を干渉させる距離を示す場合、各レーザー光の結合した光束のパルス幅が大きくなる。この際、フェムト秒パルスレーザーの特徴である非熱効果が失われ、レーザー照射に伴う熱の影響が生じ得る。この場合、微粒子の生成効率を低下させる懸念が挙げられる。これに対し、本実施形態における光路長の差は、各レーザー光11、12が互いに干渉しない距離を示す。このため、フェムト秒パルスレーザーの特徴である非熱効果を保った状態を維持することができる。これにより、レーザー照射に伴う熱の影響を抑制した状態で、微粒子の生成効率を向上させることが可能となる。
【0120】
例えば
図11に示すように、光学部33は、それぞれ同軸上に設けられた1つの波長板331、及び2つの偏光ビームスプリッタ332、333を含む。この場合、1つの軸に沿った照射領域に対し、2種類のパルスを生じさせることができ、照射領域の拡張を抑えることができる。これにより、製造装置等の大型化を抑制した状態で、微粒子の生成効率を向上させることが可能となる。光学部33は、例えば2つのミラー334、335を含んでもよい。
【0121】
波長板331は、照射装置3から発振されたレーザー光1に対し、偏光の状態を変化させる。波長板331として、例えば1/2波長板(HWP:Half-Wave Plate)が用いられるほか、用途に応じて公知の波長板を用いることができる。
【0122】
第1偏光ビームスプリッタ332は、偏光の状態を変化させたレーザー光1を、第1のレーザー光11と、第2のレーザー光12とに分岐する。この際、例えば第1のレーザー光11は、レーザー光1に基づく水平直線偏光成分(例えば
図11の紙面上下を示す矢印)を示し、第2のレーザー光12は、レーザー光1に基づく垂直直線偏光成分(例えば
図11の紙面前後を示す丸印)を示す。
【0123】
第2偏光ビームスプリッタ333は、分岐された各レーザー光11、12を結合させる。第2偏光ビームスプリッタ333により結合された各レーザー光11、12は、互いに等しい光軸及び向きに沿って進む。この際、各レーザー光11、12が、それぞれ異なる経路を経由したことで、各レーザー光11、12における光路長の差が発生する。
【0124】
2つのミラー334、335は、例えば第1偏光ビームスプリッタ332を介して分岐した第2のレーザー光12の光路を、第2偏光ビームスプリッタ333へ導くために用いられる。2つのミラー334、335を用いることで、例えば第2のレーザー光12の光路を、第1のレーザー光11の光路よりも長く設定することができ、各レーザー光11、12の光路長の差を生じさせることができる。なお、2つのミラー334、335の代わりに、公知の光学素子が用いられてもよい。
【0125】
例えば
図11に示すような構成で光学部33を配置した場合、分岐された各レーザー光11、12の光路長の差は、第1偏光ビームスプリッタ332と、ミラー334との距離hの2倍に基づき設定することができ、例えば光路長の差=2×h/c(c:光速)とすることができる。ここで、各レーザー光11、12のパルスを干渉させないための最短距離は、レーザー光1のパルス幅から算出することができる。例えばレーザー光1のパルス幅f=100fs、繰返し周波数ω=1kHzの場合、最短距離は、15μmを示す。このため、各レーザー光11、12の光路長の差を、最短距離の15μmよりも大きく設定することで、非熱効果を保った状態を維持することができる。
【0126】
本実施形態によれば、照射工程は、第1のレーザー光11と、第2のレーザー光12とを、それぞれ異なる経路を経由させたあとに、互いに等しい光軸及び向きに沿って溶液20に照射する。このため、1つの軸に沿った照射領域に対し、2種類のパルスを生じさせることができ、照射領域の拡張を抑えることができる。これにより、製造装置等の大型化を抑制した状態で、微粒子の生成効率を向上させることが可能となる。
【0127】
また、本実施形態によれば、第1のレーザー光11の光路長と、第2のレーザー光12の光路長との差は、互いに干渉しない距離を示す。このため、フェムト秒パルスレーザーの特徴である非熱効果を保った状態を維持することができる。これにより、レーザー照射に伴う熱の影響を抑制した状態で、微粒子の生成効率を向上させることが可能となる。
【0128】
また、本実施形態によれば、光学部33は、それぞれ同軸上に設けられた1つの波長板331、及び2つの偏光ビームスプリッタ332、333を含む。このため、1つの軸に沿った照射領域に対し、2種類のパルスを生じさせることができ、照射領域の拡張を抑えることができる。これにより、製造装置等の大型化を抑制した状態で、微粒子の生成効率を向上させることが可能となる。
【0129】
(第6実施形態)
以下、第6実施形態に係る微粒子の製造方法、及び微粒子の製造システムの一例について説明する。上述した実施形態と、本実施形態との違いは、光学部34に含まれる複数の集光レンズ341、342を用いて、レーザー光1を分岐させる点である。なお、上述した実施形態と同様の内容については、説明を省略する。
【0130】
本実施形態に係る微粒子の製造システムは、例えば
図12に示すように、集光レンズ341、342と、可動部343、344と、を含む光学部34を備える。
図12は、本実施形態に係る微粒子の製造方法、及び微粒子の製造システムの一例を示す模式図である。本実施形態に係る微粒子の製造方法では、集光レンズ341、342により、1つのレーザー光1の照射を、2つのレーザー光11、12に分岐させる光学部35を用いる。
【0131】
集光レンズ341、342は、それぞれ一方向の成分のみを集光するレンズである。集光レンズ341、342としては、例えば公知のシリンドリカルレンズが用いられ、略同一形状の複数のレンズが用いられてもよく、異なる形状のレンズが用いられてもよい。集光レンズ341は、例えばレーザー光1の光軸と交差するように、可動部343上に固定される。集光レンズ342は、例えばレーザー光1の光軸と交差するように、可動部344上に固定される。各集光レンズ341、342は、レーザー光1の光軸方向(
図12においてZ方向)に隣接して配置される。また、各可動部343、344は、例えばレーザー光1の光軸方向のうち前方f1又は後方f2に移動自在とされる。
【0132】
集光レンズ341は、例えばX方向視即ち側面視で光軸方向に膨出した平凸レンズ(平凸シリンドリカルレンズ)である。集光レンズ342は、例えばY方向視即ち平面視で光軸方向に膨出した平凸レンズ(平凸シリンドリカルレンズ)である。即ち各集光レンズ341、342は、例えば略同一形状の一対の平凸レンズが光軸を回転軸として互いに90°だけ異なる向きに配向される。この場合、レーザー光1に基づいて一方向の第1成分と、当該一方向の成分に直交する方向の第2成分と、をそれぞれ分岐させることができる。
【0133】
また、光学部34を用いた照射工程の一例を
図13(a)及び
図13(b)に示す。
図13(a)及び
図13(b)は、本実施形態に係る微粒子の製造方法のうち照射工程の一例について、X方向視及びY方向視をそれぞれ示す模式図である。
【0134】
例えば照射工程は、
図13(a)に示すように、集光レンズ341を介して、レーザー光1の一部を第1のレーザー光11として分岐させる。その後、集光レンズ341を通過したレーザー光11について、Y方向に縮径させながら集光レンズ342を透過させてZ方向に進行させ、集光レンズ341の第1焦点位置である容器2中の溶液20内に集光する。この際、第1のレーザー光11は、例えばレーザー光1に基づく水平成分(
図13のX方向の成分)を示す。その結果、溶液20内の第1焦点位置は、レーザー光11によりプラズマが生成されるプラズマ領域faとなる。
【0135】
また、照射工程は、
図13(b)に示すように、集光レンズ342を介して、集光レンズ341を透過させたレーザー光1の少なくとも一部をレーザー光12として分岐させる。その後、集光レンズ342を通過したレーザー光12について、X方向に縮径させながらZ方向に進行させ、集光レンズ342の第2焦点位置である容器2中の溶液20内に集光する。この際、第2のレーザー光12は、例えばレーザー光1に基づく垂直成分(
図13のY方向の成分)を示す。その結果、溶液20内の第2焦点位置は、レーザー光12によりプラズマが生成されるプラズマ領域fbとなる。なお、各プラズマ領域fa、fbの間には、各レーザー光11、12による自己収束領域fcが形成される。
【0136】
すなわち、照射工程は、1つのフェムト秒パルスレーザー装置の発振光であるレーザー光1を、集光レンズ341、342を介して第1のフェムト秒パルスレーザー光11と第2のフェムト秒パルスレーザー光12とに分岐し、第1のフェムト秒パルスレーザー光11を溶液20中であって一の集光レンズ341の第1焦点位置に集光するとともに、第2のフェムト秒パルスレーザー光12を溶液20中であって第1焦点位置とは異なる他の集光レンズ342の第2焦点位置に集光する。この場合、微粒子の生成領域を複数独立して制御することができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0137】
なお、照射工程において、各可動部343、344を前方f1又は後方f2に移動させることで、各プラズマ領域fa、fbを光軸方向に移動させて調整してもよい。この場合、微粒子の生成が進行していない位置にプラズマを生成することができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0138】
また、
図14(a)~
図14(c)は、
図13(a)のA-A断面図、及び
図13(b)のB-B断面図、C-C断面図をそれぞれ示している。プラズマ領域faは、例えば
図14(a)に示すように、Z方向の断面視においてX方向に延長された略紡錘形である。これは、レーザー光11がレーザー光1に基づく水平成分であり、Y方向に縮径されながらZ方向に進行して第1焦点位置に集光されたことによる。また、プラズマ領域fbは、例えば
図14(b)に示すように、Z方向の断面視においてY方向に延長された略紡錘形である。これは、レーザー光12がレーザー光1に基づく垂直成分であり、X方向に縮径されながらZ方向に進行して第2焦点位置に集光されたことによる。また、自己収束領域fcは、例えば
図14(c)に示すように、Z方向の断面視において略楕円形である。これは、各レーザー光11、12の自己収束が相互に影響したことによる。
【0139】
また、集光レンズ341、342は、上述の平凸レンズが用いられる他、例えば凸メニスカスレンズ(凸メニスカスシリンドリカルレンズ)、両凸レンズ(両凸シリンドリカルレンズ)、非球面レンズのほか、回折光学素子、フレネルレンズ、メタレンズといった回折レンズ、及び凹面鏡といった反射型集光素子が用いられてもよい。また、集光レンズ341、342のうち、どちらか一つは一方向の成分のみを集光する集光レンズではなく、全方向の成分を集光する集光レンズを用いても良い。この場合も同様に、1つのフェムト秒パルスレーザー装置の発振光であるレーザー光1を、第1のフェムト秒パルスレーザー光11と第2のフェムト秒パルスレーザー光12とに分岐し、第1のフェムト秒パルスレーザー光11を第1焦点位置に集光するとともに、第2のフェムト秒パルスレーザー光12を第2焦点位置に集光でき、微粒子の生成領域を複数独立して制御することができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0140】
本実施形態によれば、照射工程は、第1のフェムト秒パルスレーザー光11を溶液20中の第1焦点位置に集光するとともに、第2のフェムト秒パルスレーザー光12を溶液20中の第1焦点位置とは異なる第2焦点位置に集光する。このため、微粒子の生成領域を複数独立して制御することができる。これにより、微粒子の生成効率をさらに向上させることが可能となる。
【0141】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0142】
1 フェムト秒パルスレーザー光(レーザー光)
11 第1のレーザー光
12 第2のレーザー光
13 第3のレーザー光
2 容器
20 溶液
21 流路
21a 上流
21b 下流
22 レギュレーター
3 照射装置
30 光学部
301 楔プリズム
302 ハーフプリズム
303~307 ミラー
31 光学部
311 切り替え用ミラー
312、313 ハーフプリズム
314~317 λ/2板
318、319 照射ステーション
32 光学部
321 回折光学素子
322 レンズ
33 光学部
331 波長板
332、333 偏光ビームスプリッタ
334、335 ミラー
34 光学部
341、342 集光レンズ
343、344 可動部
41 溶媒
42 第1の金属イオン
43 第2野金属イオン
44 溶液
45 レギュレーター
46 照射ステーション
47 回折シリンダ
48 超音波分散器
49 分離済微粒子
99 設置面
100a、100b、100c プラズマ領域
f1 前方
f2 後方
fa、fb プラズマ領域
fc 自己収束領域