(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177083
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】試料支持体及び試料支持体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01J 49/04 20060101AFI20241212BHJP
H01J 49/16 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
H01J49/04 090
H01J49/04 450
H01J49/16 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024080039
(22)【出願日】2024-05-16
(62)【分割の表示】P 2023093792の分割
【原出願日】2023-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【弁理士】
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】池田 貴将
(57)【要約】
【課題】試料の成分の検出感度を効果的に向上させることができる試料支持体及び当該試料支持体の製造方法を提供する。
【解決手段】試料支持体1は、試料Saのイオン化用の試料支持体である。試料支持体1は、第1表面2aと、第1表面2aとは反対側の第2表面2bと、少なくとも第1表面2aに開口する不規則な多孔質構造3と、を有する基板2を備える。多孔質構造3は、互いに連結された複数の大粒子31と、大粒子31よりも小さい径を有する複数の小粒子32と、によって形成されている。複数の小粒子32の少なくとも一部は、第1表面2aを構成する2以上の大粒子31の間に挟まれて保持されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料のイオン化用の試料支持体であって、
第1表面と、前記第1表面とは反対側の第2表面と、少なくとも前記第1表面に開口する不規則な多孔質構造と、を有する基板を備え、
前記多孔質構造は、互いに連結された複数の第1粒子と、前記第1粒子よりも小さい径を有する複数の第2粒子と、によって形成されており、
前記複数の第2粒子の少なくとも一部は、前記第1表面を構成する2以上の前記第1粒子の間に挟まれて保持されている、試料支持体。
【請求項2】
前記第2粒子は、前記第1粒子と同一の材料によって形成されている、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項3】
前記第1粒子及び前記第2粒子は、絶縁性材料によって形成されている、請求項2に記載の試料支持体。
【請求項4】
前記絶縁性材料は、ガラスである、請求項3に記載の試料支持体。
【請求項5】
前記第1表面に対向する位置から前記第1表面と前記第2表面とが対向する方向に沿って前記第1表面を見た場合において、所定の大きさの単位領域に含まれる前記第1粒子の平均粒径をR1とし、前記単位領域に含まれる前記第2粒子の平均粒径をR2とした場合、下記式(1)が満たされる、請求項1に記載の試料支持体。
R1×1/100≦R2≦R1×1/2 ・・・(1)
【請求項6】
前記基板は、
前記第1表面を含み、複数の前記第1粒子及び複数の前記第2粒子が混在する第1層と、
前記第1層よりも前記第2表面側に位置し、複数の前記第1粒子からなり、前記第2粒子を含まない第2層と、を有し、
前記第1表面と前記第2表面とが対向する第1方向における前記第1層の厚さは、前記第1方向における前記第2層の厚さの1/5以下である、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項7】
前記基板は、
前記第1表面を含み、複数の前記第1粒子及び複数の前記第2粒子が混在する第1層と、
前記第1層よりも前記第2表面側に位置し、複数の前記第1粒子からなり、前記第2粒子を含まない第2層と、
前記第2表面を含み、複数の前記第1粒子及び複数の前記第2粒子が混在する第3層と、を有し、
前記第2層は、前記第1層と前記第3層との間に位置しており、
前記第3層に含まれる複数の前記第2粒子の少なくとも一部は、前記第2表面を構成する2以上の前記第1粒子の間に挟まれて保持されている、請求項1又は6に記載の試料支持体。
【請求項8】
前記第1表面における前記多孔質構造の開口部を塞がず、且つ、前記第1粒子及び前記第2粒子によって構成された前記第1表面の凹凸形状に沿って前記第1表面を覆う導電層を更に備える、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項9】
請求項1に記載の試料支持体の製造方法であって、
前記複数の第1粒子を焼結することにより、前記基板と略同一の外形を有する焼結体を得る第1焼結工程と、
前記焼結体における前記第1表面に対応する面に、前記複数の第2粒子を添加する添加工程と、
前記添加工程により得られた前記焼結体及び前記複数の第2粒子を焼結することにより、前記多孔質構造を得る第2焼結工程と、を含む、試料支持体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料支持体及び試料支持体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料等の試料をイオン化する方法として、脱離エレクトロスプレーイオン化法(DESI:Desorption Electrospray Ionization)が知られている。また、このような脱離エレクトロスプレーイオン化法に適した試料支持体として、第1表面と、第1表面とは反対側の第2表面と、少なくとも第1表面に開口する不規則な多孔質構造と、を有する基板を備えた試料支持体が知られている(例えば、特許文献1参照)。上記試料支持体では、例えば、第1表面上に転写された試料に対して、帯電した微少液滴(charged-droplets)が照射されることにより、試料の脱離・イオン化がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような試料支持体においては、例えば上述した脱離エレクトロスプレーイオン化法等のイオン化法を用いた質量分析等において、試料の成分の検出感度の向上が求められている。
【0005】
本開示は、試料の成分の検出感度を効果的に向上させることができる試料支持体及び当該試料支持体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の[1]~[9]の試料支持体、及び[10]の試料支持体の製造方法を含む。
【0007】
[1]試料のイオン化用の試料支持体であって、
第1表面と、前記第1表面とは反対側の第2表面と、少なくとも前記第1表面に開口する不規則な多孔質構造と、を有する基板を備え、
前記多孔質構造は、互いに連結された複数の第1粒子と、前記第1粒子よりも小さい径を有する複数の第2粒子と、によって形成されており、
前記複数の第2粒子の少なくとも一部は、前記第1表面を構成する2以上の前記第1粒子の間に挟まれて保持されている、試料支持体。
【0008】
上記[1]の試料支持体では、多孔質構造が、複数の第1粒子だけでなく、第1表面を構成する2以上の第1粒子の間に挟まれて保持された第2粒子を含んで構成される。これにより、試料支持体を第1表面に対向する方向から見た場合に、第1表面における試料支持体の隙間(すなわち、多孔質構造を構成する粒子が存在しない空間)を減らすことができる。また、第1表面において、第1粒子同士の繋ぎ目だけでなく、第1粒子と第2粒子との繋ぎ目、及び第2粒子同士の繋ぎ目が加わることになる。これにより、測定対象の試料を第1表面上(特に上述した繋ぎ目の上)に好適に留めることができる。従って、上記[1]の試料支持体によれば、第1表面上に留まった試料の成分を効率的にイオン化することが可能となるため、試料の成分の検出感度を効果的に向上させることができる。
【0009】
[2]前記第2粒子は、前記第1粒子と同一の材料によって形成されている、[1]の試料支持体。
【0010】
仮に第1粒子と第2粒子とを互いに異なる材料によって形成した場合、イオン化の際に、母材(第1粒子の材料)とは異なる材料(第2粒子の材料)に起因する信号がノイズとして発生するおそれがある。上記[2]の構成によれば、上述したような問題の発生を回避できる。また、第1粒子及び第2粒子の融点及び熱膨張率が等しくなるため、基板(不規則な多孔質構造)を容易且つ安定した品質で製造することができる。
【0011】
[3]前記第1粒子及び前記第2粒子は、絶縁性材料によって形成されている、[2]の試料支持体。
【0012】
上記[3]の構成によれば、複数の第1粒子及び複数の第2粒子が一体化された基板を、焼結等の容易な方法によって製造することができる。
【0013】
[4]前記絶縁性材料は、ガラスである、[3]の試料支持体。
【0014】
上記[4]の構成によれば、絶縁性材料の中でも比較的低い融点を有するガラスで第1粒子及び第2粒子を形成することにより、不規則な多孔質構造を有する基板を好適且つ安価に得ることができる。
【0015】
[5]前記第1表面に対向する位置から前記第1表面と前記第2表面とが対向する方向に沿って前記第1表面を見た場合において、所定の大きさの単位領域に含まれる前記第1粒子の平均粒径をR1とし、前記単位領域に含まれる前記第2粒子の平均粒径をR2とした場合、下記式(1)が満たされる、[1]~[4]のいずれかの試料支持体。
R1×1/100≦R2≦R1×1/2 ・・・(1)
【0016】
上記[5]の構成によれば、第1表面を構成する2以上の第1粒子の間に一以上の第2粒子を挟んで保持する構成を好適に実現できる。その結果、上述したような検出感度を向上させる効果を好適に得ることができる。
【0017】
[6]前記基板は、
前記第1表面を含み、複数の前記第1粒子及び複数の前記第2粒子が混在する第1層と、
前記第1層よりも前記第2表面側に位置し、複数の前記第1粒子からなり、前記第2粒子を含まない第2層と、を有する、[1]~[5]のいずれかの試料支持体。
【0018】
上記[6]の構成では、第1表面に試料を留め易くするために第1粒子及び第2粒子を混在させた第1層が設けられる一方で、第1層の下方(第2表面側)には、第2粒子を含まないことによって第1層よりも液体が通過し易い第2層が設けられている。これにより、試料支持体の第1表面に液体成分を含む測定対象の試料を転写又は滴下した場合等において、第1表面上に余剰な液体成分が溢れることによって測定(第1表面に留まる試料の成分のイオン化)が阻害されることを抑制することができる。
【0019】
[7]前記第1表面と前記第2表面とが対向する第1方向における前記第1層の厚さは、前記第1方向における前記第2層の厚さの1/5以下である、[6]の試料支持体。
【0020】
上記[7]の構成によれば、第1層に対する第2層の厚さを十分に確保することにより、上記[6]の効果を好適に得ることができる。
【0021】
[8]前記基板は、前記第2表面を含み、複数の前記第1粒子及び複数の前記第2粒子が混在する第3層を更に備え、
前記第2層は、前記第1層と前記第3層との間に位置しており、
前記第3層に含まれる複数の前記第2粒子の少なくとも一部は、前記第2表面を構成する2以上の前記第1粒子の間に挟まれて保持されている、[6]又は[7]の試料支持体。
【0022】
上記[8]の構成によれば、第1表面及び第2表面の両方を測定面(すなわち、測定対象の試料を支持する面)として用いることが可能になる。これにより、試料支持体のユーザ(測定者)は、試料支持体に測定対象の試料を転写又は滴下する際に、試料支持体のどちらの面が測定面であるか否かを特定する必要がないため、利便性が向上する。
【0023】
[9]前記第1表面における前記多孔質構造の開口部を塞がず、且つ、前記第1粒子及び前記第2粒子によって構成された前記第1表面の凹凸形状に沿って前記第1表面を覆う導電層を更に備える、[1]~[8]のいずれかの試料支持体。
【0024】
上記[9]の構成によれば、上記[1]の効果を阻害することなく、レーザ脱離イオン化法等に試料支持体を用いることが可能となる。より具体的には、レーザ脱離イオン化法等を用いる場合、すなわち、第1表面においてイオン化された試料の成分をイオン検出器(グランド電極)へと導くために第1表面に電圧を印加する必要がある場合に、導電層を介して適切に電圧を印加することが可能となる。
【0025】
[10][1]~[9]のいずれかの試料支持体の製造方法であって、
前記複数の第1粒子を焼結することにより、前記基板と略同一の外形を有する焼結体を得る第1焼結工程と、
前記焼結体における前記第1表面に対応する面に、前記複数の第2粒子を添加する添加工程と、
前記添加工程により得られた前記焼結体及び前記複数の第2粒子を焼結することにより、前記多孔質構造を得る第2焼結工程と、を含む、試料支持体の製造方法。
【0026】
上記[10]の製造方法によれば、2段階の焼結工程を行うことにより、信頼性の高い多孔質構造を得ることができる。すなわち、最初に第1焼結工程において、複数の第1粒子のみによって高い強度及び安定性を有する構造を得た後に、添加工程及び第2焼結工程を経ることにより、上記[1]の効果を奏する試料支持体を容易且つ安定的に得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、試料の成分の検出感度を効果的に向上させることができる試料支持体及び当該試料支持体の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】一実施形態の試料支持体を示す斜視図である。
【
図3】第1表面を構成する大粒子によって小粒子が保持される形態の例を模式的に示す図である。
【
図4】
図1の試料支持体の層構造を模式的に示す図である。
【
図5】
図1の試料支持体の断面を示すSEM像である。
【
図7】
図1の試料支持体を用いた質量分析方法における第2工程を示す図である。
【
図8】上記質量分析方法を実施する質量分析装置の構成例を示す図である。
【
図9】実施例及び比較例における微少液滴の照射領域の一例を示す図である。
【
図10】実施例及び比較例の一照射領域あたりの検出感度の測定結果を示す図である。
【
図11】第1変形例に係る試料支持体の層構造を模式的に示す図である。
【
図12】第2変形例に係る試料支持体の層構造を模式的に示す図である。
【
図13】第2変形例に係る試料支持体の第1表面における大粒子、小粒子、及び導電層の構成例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0030】
[試料支持体]
図1に示されるように、試料支持体1は、基板2を備えている。一例として、基板2は、矩形板状に形成されている。基板2は、第1表面2aと、第1表面2aとは反対側の第2表面2bと、を有している。第1表面2aは、絶縁性(電気絶縁性)を有している。本実施形態では、基板2は、絶縁性の部材である。このため、第1表面2aだけでなく、基板2の全体が絶縁性を有している。基板2の厚さ(第1表面2aから第2表面2bまでの距離)は、例えば100μm~1500μm程度である。
【0031】
図2に示されるように、基板2には、第1表面2aに開口する不規則な多孔質構造3が形成されている。本実施形態では、基板2の全体が、多孔質構造3によって形成されている。ここで、「不規則な多孔質構造」とは、例えば、空隙(細孔)が不規則な方向に延びると共に3次元上において不規則に分布している構造である。例えば、第1表面2a側の1つの入口(開口)から基板2内に入って複数の経路に枝分かれするような構造、或いは、第1表面2a側の複数の入口(開口)から基板2内に入って1つの経路に合流するような構造等も、上記不規則な多孔質構造に含まれる。一方、例えば第1表面2aから第2表面2bにかけて基板2の厚み方向(すなわち、第1表面2aと第2表面2bとが対向する方向D1(第1方向))に沿って延びる複数の細孔が主要な細孔として設けられた構造(すなわち、主に一方向に延びる細孔によって構成された規則的な構造)は、不規則な多孔質構造には含まれない。
【0032】
多孔質構造3は、複数の粒子の集合体によって形成されている。複数の粒子の集合体とは、複数の粒子が互いに接触するように集められた構造である。複数の粒子の集合体の例として、複数の粒子同士が接合又は接着された構造が挙げられる。つまり、複数の粒子が互いに接触した状態で固定された構造を構成するために、複数の粒子は、融着等によって直接的に繋がっていてもよいし、他の部材を介して間接的に繋がっていてもよい。本実施形態では、複数の粒子同士が融着によって接合されている。本実施形態では、多孔質構造3は、互いに連結された複数の大粒子31(第1粒子)と、大粒子よりも小さい径を有する複数の小粒子32(第2粒子)と、によって形成されている。小粒子32は、大粒子31と同一の材料によって形成されている。本実施形態では、大粒子31及び小粒子32は、絶縁性材料によって形成されている。例えば、大粒子31及び小粒子32は、ガラスによって形成されている。本実施形態では、集合体構造を製造し易くする観点から、大粒子31及び小粒子32の材料として、ガラスの中でも比較的融点が低いソーダガラスが使用されている。また、大粒子31及び小粒子32は、いずれも球状のビーズ(ガラスビーズ)である。
【0033】
図2に示されるように、第1表面2aに対向する方向から撮像されたSEM像において、粒子毎に若干の形状及び大きさのばらつきがあるものの、多孔質構造3を構成する複数の粒子の各々は、目視においても大粒子31及び小粒子32のいずれかに分類可能とされている。すなわち、多孔質構造3は、「大きさ」の観点において、明確に2つのグループに区別可能な粒子群によって構成されている。より具体的には、複数の大粒子31の各々は、形状及び大きさについて多少のばらつきを有するが、少なくとも上記SEM像から判別可能な程度に小粒子32よりも大きい径を有しており、小粒子32と区別可能である。同様に、複数の小粒子32の各々は、形状及び大きさについて多少のばらつきを有するが、少なくとも上記SEM像から判別可能な程度に大粒子31よりも小さい径を有しており、大粒子31と区別可能である。
【0034】
第1表面2aに対向する位置から方向D1に沿って第1表面2aを見た場合において、所定の大きさの単位領域(例えば、数百μm~1mm四方の領域)に含まれる大粒子31の平均粒径をR1とし、当該単位領域に含まれる小粒子32の平均粒径をR2とした場合、下記式(1)が満たされる。より好ましくは、下記式(2)が満たされる。
R1×1/100≦R2≦R1×1/2 ・・・(1)
R1×1/10≦R2≦R1×2/5 ・・・(2)
【0035】
上記の平均粒径R1,R2は、例えば、
図2に示したようなSEM像に基づいて算出することができる。例えば、まず、
図2のSEM像に対して公知の画像処理(エッジ検出等)を実施することにより、球状のオブジェクトを全て抽出する。なお、上記オブジェクトは、上記画像処理に代えて、目視によって抽出されてもよい。続いて、抽出された複数のオブジェクトの中から最大径を有するオブジェクトを抽出し、当該最大径との誤差が一定以下(例えば上記最大径の30%以下)の径を有するオブジェクトを大粒子31に分類する。続いて、複数のオブジェクトのうち大粒子31に分類されずに残ったものを小粒子32に分類する。続いて、大粒子31に分類された複数のオブジェクトの平均径を大粒子31の平均粒径R1として算出し、小粒子32に分類された複数のオブジェクトの平均径を小粒子32の平均粒径R2として算出する。以上のような処理により、平均粒径R1,R2を算出することができる。なお、上記の算出方法は一例であり、平均粒径R1,R2は、他の方法によって算出されてもよい。一例として、大粒子31の平均粒径R1は、約50μmであり、小粒子32の平均粒径R2は、5μm~20μm程度である。
【0036】
図2に示されるように、基板2の第1表面2aは、第2表面2bから第1表面2aに向かう方向を上方向とした場合に、最上面(最表層)に位置する大粒子31及び小粒子32の表面(上面)によって構成される。
図2において黒色の部分は、第1表面2aを構成する大粒子31及び小粒子32が存在しない部分であり、粒子間の隙間(開口部)に該当する。第1表面2aに対向する位置から方向D1に沿って第1表面2aを見た場合において、所定の大きさの単位領域(例えば、数百μm~1mm四方の領域)では、大粒子31の占める面積が一番大きく、次いで小粒子32の占める面積が粒子間の隙間(開口部)の占める面積よりも大きいことが好ましい。多孔質構造3は、このような開口部において、第1表面2aに開口している。第1表面2aの開口部から多孔質構造3の内部へと浸透した液体は、多孔質構造3の内部を通って第2表面2b側の開口部から第2表面2bの外側に抜けることが可能となっている。すなわち、本実施形態では、多孔質構造3は、第1表面2a及び第2表面2bの両方に開口しており、第1表面2aの開口部と第2表面2bの開口部とは、多孔質構造3の内部の粒子間の隙間を介して、互いに連通している。
【0037】
図2に示されるように、多孔質構造3に含まれる複数の小粒子32の少なくとも一部は、第1表面2aを構成する2以上の大粒子31(すなわち、最上面に位置する大粒子31)の間に挟まれて保持されている。第1表面2aを構成する2以上の大粒子31によって小粒子32が保持される形態の例としては、
図3の(A)に示されるように1つの小粒子32が2つの大粒子31の間に保持される形態、
図3の(B)に示されるように2つの大粒子31の間に互いに接触する複数(この例では2つ)の小粒子32が保持される形態等が挙げられる。ただし、第1表面2aを構成する2以上の大粒子31によって小粒子32が保持される形態は、上記例に限られない。例えば、
図2に示されるいくつかの小粒子32Aのように、3つの大粒子31の間に1つの小粒子32Aが挟まれて保持される形態も存在し得る。
図2及び
図3に示されるように、多孔質構造3は、第1表面2aを構成する2以上の大粒子31によって一以上の小粒子32が保持される構成を有することにより、第1表面2aにおいて、大粒子31同士の繋ぎ目J1、大粒子31と小粒子32との繋ぎ目J2、及び小粒子32同士の繋ぎ目J3を有している。
【0038】
ここで、複数の小粒子32の大部分は、第1表面2a(すなわち、第1表面2aを構成する大粒子31同士の間)に分布しており、第1表面2aから第2表面2b側に一定以上離れた基板2(多孔質構造3)の内部には存在しない。すなわち、
図4に示されるように、多孔質構造3によって構成される基板2の層構造を模式的に表した場合、基板2は、混在層21(第1層)と、大粒子層22(第2層)と、を有している。混在層21は、第1表面2aを含み、複数の大粒子31及び複数の小粒子32が混在する層である。大粒子層22は、混在層21よりも第2表面2b側に位置し、複数の大粒子31からなり、小粒子32を含まない層である。
【0039】
図5は、基板2の混在層21と大粒子層22の一部(混在層21に隣接する部分)とを含んだ部分の断面のSEM像である。
図6は、
図5に示される領域A1を含む部分の拡大図である。
図6においては、領域A1の断面において確認された一部の小粒子32のみに符号を付している。
図5及び
図6に示される例では、最表層に位置する大粒子31(すなわち、第1表面2aを構成する大粒子31)を1層目とした場合、第1表面2aから2~3層目までの部分が混在層21を構成している。すなわち、本例では、
図5に示されるラインL1よりも上方(第1表面2a側)の部分によって混在層21が構成されており、ラインL1よりも下方(第2表面2b側)の部分によって大粒子層22が構成されている。なお、本実施形態では、
図5及び
図6から分かるように、実質的に、複数の大粒子31のみが、第1表面2aの最表面を構成する仮想平面(すなわち、領域A1の上側の線に沿った平面)に接触している。換言すれば、小粒子32は、上記仮想平面には接触しない程度の大きさ及び量で、大粒子31間に挟まれている。
【0040】
方向D1における混在層21の厚さは、方向D1における大粒子層22の厚さの1/5以下である。本実施形態では一例として、混在層21は、基板2(多孔質構造3)の全体の厚さの1/10程度とされている。すなわち、混在層21の厚さは、大粒子層22の厚さの1/9程度とされている。
【0041】
[試料支持体の製造方法]
試料支持体1(多孔質構造3)は、例えば、以下のようにして製造される。まず、複数の大粒子31が焼結されることにより、焼結体が得られる(第1焼結工程)。具体的には、複数の大粒子31がプレス機等によって押し固められた状態で、大粒子31の融点以下の高温下で加熱されることにより、複数の大粒子31同士の表面が融着されることによって結合し、複数の大粒子31のみからなる焼結体が得られる。上記焼結体は、最終的に得られる基板2と略同一の外形を有している。続いて、上記焼結体における第1表面2aに対応する面(すなわち、最終的に第1表面2aになる予定の面)に、複数の小粒子32が添加される(添加工程)。例えば、複数の小粒子32が、上記焼結体の上記面に対してまぶされる。続いて、上記焼結体及び上記焼結体に添加された複数の小粒子32が混在する状態で焼結(再焼結)されることにより、複数の大粒子31及び複数の小粒子32の表面が融着されることによって結合された多孔質構造3が得られる(第2焼結工程)。
【0042】
ただし、試料支持体1を製造する方法は、上記方法に限られない。例えば、試料支持体1(多孔質構造3)は、複数の大粒子31と複数の小粒子32とを混合した状態で、1回の焼結工程を経ることによって製造されてもよい。ただし、複数の大粒子31が固定(焼結)されていない状態では、複数の小粒子32が焼結体の内部(すなわち、基板2の内部)にも多く含まれてしまい、上述した大粒子層22が好適に形成されないおそれがある。従って、上述した層構造(すなわち、混在層21及び大粒子層22)を確実且つ容易に得る観点からは、上述したように2段階の焼結工程によって試料支持体1(多孔質構造3)を得ることが好ましい。なお、上述した製造方法(第1焼結工程、添加工程、及び第2焼結工程)により製造される試料支持体1は、複数の大粒子31によって一定の外形を維持可能に形成された焼結体としての基板の第1表面に、基板とは別部材としての複数の小粒子32が添加された構造を有すると捉えることもできる。すなわち、複数の大粒子31は、試料支持体1の基板2を構成する要素と捉えることができ、複数の小粒子32は、このような基板2(複数の大粒子31)の第1表面2aの表面積及び繋ぎ目(繋ぎ目J2,J3)を増やすために、基板2の第1表面2aを含む一部に添加(充填)される要素と捉えることができる。
【0043】
[イオン化法及び質量分析方法]
試料支持体1を用いたイオン化法及び質量分析方法について説明する。まず、試料のイオン化用の試料支持体として、上述した試料支持体1を用意する(第1工程)。試料支持体1は、イオン化法及び質量分析方法の実施者によって製造されることにより用意されてもよいし、試料支持体1の製造者又は販売者等から譲渡されることにより用意されてもよい。
【0044】
続いて、
図7に示されるように、基板2の第1表面2aに試料Saを転写する(第2工程)。
図7の例では、試料Saは、果物(レモン)の切片である。例えば、試料Saを基板2の第1表面2aに押し付けることにより、試料Saの一部を、第1表面2a上に付着させる。
【0045】
続いて、
図8に示されるように、質量分析装置10のイオン化室40内のステージ41上に、スライドグラス6及び試料支持体1を載置する。続いて、基板2の第1表面2aのうち転写された試料Saが存在する領域を含む領域(以下「対象領域」という。)に対して、帯電した微小液滴Iを照射することにより、第1表面2a上の成分Sa1をイオン化し、イオン化された成分である試料イオンSa2を吸引する(第3工程)。本実施形態では、例えばステージ41をX軸方向及びY軸方向に移動させることにより、対象領域に対して、帯電した微小液滴Iの照射領域I1を相対的に移動させる(つまり、対象領域に対して、帯電した微小液滴Iを走査する)。以上の第1工程、第2工程及び第3工程が、試料支持体1を用いたイオン化法(本実施形態では、脱離エレクトロスプレーイオン化法)に相当する。
【0046】
イオン化室40内では、ノズル42から、帯電した微小液滴Iが噴射され、イオン輸送管43の吸引口から試料イオンSa2が吸引される。ノズル42は、二重筒構造を有している。ノズル42の内筒には、高電圧が印加された状態で溶媒が案内される。これにより、ノズル42の先端に達した溶媒に、片寄った電荷が付与される。ノズル42の外筒には、ネブライズガスが案内される。これにより、溶媒が微小液滴となって噴霧され、溶媒が気化する過程で生成された溶媒イオンが、帯電した微小液滴Iとして出射される。
【0047】
イオン輸送管43の吸引口から吸引された試料イオンSa2は、イオン輸送管43によって質量分析室50内に輸送される。質量分析室50内は、高真空雰囲気(真空度10-4Torr以下の雰囲気)の条件下にある。質量分析室50内では、試料イオンSa2がイオン光学系51で収束され、高周波電圧が印加された四重極質量フィルタ52に導入される。高周波電圧が印加された四重極質量フィルタ52に試料イオンSa2が導入されると、当該高周波電圧の周波数によって決定される質量数を有するイオンが選択的に通過させられ、通過させられたイオンが検出器53で検出される(第4工程)。四重極質量フィルタ52に印加する高周波電圧の周波数を走査することにより、検出器53に到達するイオンの質量数を順次変化させて、所定の質量範囲の質量スペクトルを得る。本実施形態では、帯電した微小液滴Iの照射領域I1の位置に対応するように検出器53にイオンを検出させて、試料Saを構成する分子の二次元分布を画像化する。以上の第1工程、第2工程、第3工程及び第4工程が、試料支持体1を用いた質量分析方法に相当する。
【0048】
[作用及び効果]
上述した試料支持体1では、多孔質構造3が、複数の大粒子31だけでなく、第1表面2aを構成する2以上の大粒子31の間に挟まれて保持された小粒子32を含んで構成される。これにより、試料支持体1を第1表面2aに対向する方向から見た場合に、第1表面2aにおける試料支持体1の隙間(すなわち、多孔質構造3を構成する粒子が存在しない空間)を減らすことができる。すなわち、
図2のSEM像からわかるように、複数の小粒子32が最表層の複数の大粒子31の間に保持されることにより、最表層の大粒子31間の隙間が埋められている。また、
図2に示されるように、第1表面2aにおいて、大粒子31同士の繋ぎ目J1だけでなく、大粒子31と小粒子32との繋ぎ目J2、及び小粒子32同士の繋ぎ目J3が加わることになる。第1表面2aに転写又は滴下された試料Saは、このような繋ぎ目J1,J2,J3に特に留まり易い。すなわち、このような繋ぎ目J1,J2,J3を増やすことにより、測定対象の試料Saを第1表面2a上(特に上述した繋ぎ目J1,J2,J3の上)に好適に留めることができる。従って、試料支持体1によれば、第1表面2a上に留まった試料Saの成分Sa1を効率的にイオン化することが可能となるため、試料支持体1を用いた質量分析(例えば、上記実施形態における第1~第4工程)における試料Saの成分Sa1の検出感度(すなわち、試料イオンSa2の検出感度)を効果的に向上させることができる。さらに、上記のように第1表面2a上に試料Saが留まり易くなることにより、第1表面2aにおける試料Saの染みがつく領域が大きくなると共に染みが濃くなる。これにより、試料支持体1の測定面(第1表面2a)に付着した試料Saの視認性が向上し、イオン化のための微小液滴Iの照射範囲を決定する作業等を容易化できるという効果も得られる。
【0049】
図9及び
図10を参照して、上記効果について補足する。なお、
図9及び
図10の例では、後述する導電層4を設けることにより、上記実施形態の脱離エレクトロスプレーイオン化法ではなく、微小液滴Iの代わりにレーザ光を照射してイオン化を行うレーザ脱離イオン化が用いられる。ただし、
図9の(A)及び(B)は、実施例及び比較例において導電層4が設けられる前の状態を示している。
図9の(A)は、実施例(すなわち、後述する導電層4を備える試料支持体1B)におけるレーザ光の1回の照射範囲Rの一例を示している。
図9の(B)は、比較例におけるレーザ光の1回の照射範囲Rの一例を示している。比較例に係る試料支持体は、複数の大粒子31のみによって構成された基板(多孔質構造)を有しており、複数の小粒子32を含んでいない点において、実施例と相違している。
図10は、上記の実施例及び比較例の各々を用いて、試料Sa(一例として、Angiotensin II)の質量分析(レーザ脱離イオン化法)を実施することによって得られた質量スペクトルを示している。すなわち、
図10において、横軸は質量電荷比(m/z)を示し、縦軸は信号強度(任意単位:arb.unit)を示している。
図10は、実施例の質量スペクトルM1及び比較例の質量スペクトルM2を示している。なお、実施例の質量スペクトルM1と比較例の質量スペクトルM2とを比較し易くするために、実施例の質量スペクトルM1の信号強度の原点(すなわち、信号強度「0」に対応する値)を上方に(+0.8程度)シフトさせている。また、質量スペクトルM1,M2は、実施例及び比較例の各々におけるクエン酸Naのピーク強度を100%(1.0)として規格化したものである。
図10に示されるように、実施例によれば、試料Sa(Angiotensin II)に対応する位置において、比較例よりも高い信号強度が得られた。すなわち、実施例によれば、比較例よりも第1表面2a上に試料Saの成分Sa1が留まり易くなることによって、試料Saの成分Sa1の検出感度が格段に向上することが確認された。なお、上述したとおり、
図10は導電層4を備える試料支持体を用いてレーザ脱離イオン化法を行った場合の測定結果を示しているが、導電層4を備えない試料支持体を用いて上述した脱離エレクトロスプレーイオン化法による質量分析(上述した第1工程~第4工程)を実施した場合においても、同様の結果が得られると考えられる。すなわち、実施例(試料支持体1)の方が、比較例(すなわち、複数の大粒子31のみによって構成された基板(多孔質構造)を有しており、複数の小粒子32を含んでいない試料支持体)よりも、第1表面2a上に試料Saの成分Sa1が留まり易くなることから、上述した脱離エレクトロスプレーイオン化法による質量分析(上述した第1工程~第4工程)において高い検出感度が得られると考えられる。
【0050】
試料支持体1では、小粒子32は、大粒子31と同一の材料によって形成されている。仮に大粒子31と小粒子32とを互いに異なる材料によって形成した場合、イオン化の際(本実施形態では、微小液滴Iの照射による成分Sa1のイオン化の際)に、母材(大粒子31の材料)とは異なる材料(小粒子32の材料)に起因する信号がノイズとして発生するおそれがある。これに対して、本実施形態のように大粒子31及び小粒子32を同一の材料で形成することにより、上記のような問題の発生を回避できる。また、大粒子31及び小粒子32の融点及び熱膨張率が等しくなるため、上述した第2焼結工程を容易に実施できる(すなわち、第1焼結工程と同じ温度条件で実施できる)ため、基板2(多孔質構造3)を容易且つ安定した品質で製造することができる。
【0051】
試料支持体1では、大粒子31及び小粒子32は、絶縁性材料によって形成されている。上記構成によれば、複数の大粒子31及び複数の小粒子32が一体化された基板2を、焼結等の容易な方法によって製造することができる。また、基板2を絶縁性にすることができるため、上述した脱離エレクトロスプレーイオン化法に適した試料支持体1を実現することができる。また、本実施形態では、大粒子31及び小粒子32は、ガラスによって形成されている。上記構成によれば、比較的低い融点を有するガラスで大粒子31及び小粒子32を形成することにより、上述した第1焼結工程及び第2焼結工程に必要な加熱温度を比較的低くすることができるため、多孔質構造3を有する基板2を好適且つ安価に得ることができる。
【0052】
試料支持体1では、上記式(1)(すなわち、「R1×1/100≦R2≦R1×1/2」)を満たすように、多孔質構造3に含まれる複数の大粒子31及び複数の小粒子32の大きさが調整されている。上記構成によれば、第1表面2aを構成する2以上の大粒子31の間に一以上の小粒子32を挟んで保持する構成を好適に実現できる。その結果、上述したような検出感度を向上させる効果を好適に得ることができる。なお、上述したように大粒子31間に小粒子32を保持する構成をより好適に実現する観点において、上述した式(2)(すなわち、「R1×1/10≦R2≦R1×2/5」)を満たすことがより好ましい。
【0053】
試料支持体1では、基板2は、第1表面2aを含む混在層21と、混在層21よりも第2表面2b側に位置する大粒子層22と、を有している。すなわち、試料支持体1では、第1表面2aに試料Saを留め易くするために大粒子31及び小粒子32を混在させた混在層21が設けられる一方で、混在層21の下方(第2表面2b側)には、小粒子32を含まないことによって混在層21よりも液体が通過し易い大粒子層22が設けられている。これにより、試料支持体1の第1表面2aに液体成分を含む測定対象の試料Saを転写又は滴下した場合等において、当該液体成分を混在層21から大粒子層22へと適切に逃がすことができる。その結果、第1表面2a上に余剰な液体成分が溢れることを抑制し、このような余剰な液体成分が発生することによって測定(すなわち、第1表面2aに留まる試料Saの成分Sa1のイオン化)が阻害されることを抑制することができる。
【0054】
試料支持体1では、方向D1における混在層21の厚さは、方向D1における大粒子層22の厚さの1/5以下である。上記構成によれば、混在層21に対する大粒子層22の厚さを十分に確保することにより、上述した効果(すなわち、測定を阻害し得る液体成分を混在層21から大粒子層22へと逃がす効果)を好適に得ることができる。
【0055】
また、試料支持体1の製造方法は、上述した第1焼結工程、添加工程、及び第2焼結工程を含んでいる。このような製造方法によれば、2段階の焼結工程を行うことにより、信頼性の高い多孔質構造3を得ることができる。すなわち、最初に第1焼結工程において、複数の大粒子31のみによって高い強度及び安定性を有する構造(すなわち、多孔質構造3の骨組を構成する部分)を得た後に、添加工程及び第2焼結工程を経ることにより、上述したような効果を奏する試料支持体1を容易且つ安定的に得ることができる。
【0056】
また、上記イオン化法では、第3工程においては、第1表面2aに対して、帯電した微小液滴Iの照射領域I1を相対的に移動させる。基板2の第1表面2a側に留まっている試料Saの成分Sa1においては、試料Saの位置情報(試料Saを構成する分子(成分Sa1)の二次元分布情報)が維持されている。したがって、第1表面2a(対象領域)に対して、帯電した微小液滴Iの照射領域I1を相対的に移動させることにより、試料Saの位置情報を維持しつつ試料Saの成分Sa1をイオン化することができる。これにより、試料イオンSa2を検出する後段の工程において、試料Saを構成する分子の二次元分布を画像化することができる。更に、上述したようにノズル42を第1表面2aに近付けることが可能であるため、帯電した微小液滴Iの照射領域I1が拡大するのを抑制することができる。これにより、試料イオンSa2を検出する後段の工程において、試料Saを構成する分子の二次元分布を高分解能で画像化することができる。
【0057】
また、試料支持体1を用いた質量分析方法では、上述したように、帯電した微小液滴Iの照射によって試料Saの成分Sa1が好適にイオン化されるため、試料イオンSa2を検出する際における信号強度の向上を図ることができる。
【0058】
[変形例]
本開示は、上述した実施形態に限定されない。各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。また、上記実施形態に係る試料支持体1に含まれる一部の構成は、適宜省略又は変更されてもよい。例えば、上記実施形態では、試料支持体1に含まれるいくつかの特徴的な構成、及び各構成によって発揮されるいくつかの効果について説明したが、本開示に係る試料支持体は、必ずしも、上記実施形態で説明された全ての効果を発揮するように構成される必要はなく、上記実施形態で説明された一部の効果のみを発揮するように構成されてもよい。後者の場合には、試料支持体は、少なくとも当該一部の効果を発揮するために必須の構成を備えていればよく、当該一部の効果を発揮するために必須ではない構成は適宜省略又は変更されてもよい。なお、一の効果に着目した場合において、当該一の効果を発揮するために必須の構成は、当業者を基準として、技術常識及び本明細書の記載に基づいて、合理的に把握されるべきである。以下、本開示の試料支持体について、いくつかの具体的な変形例を例示する。
【0059】
(第1変形例)
図11を参照して、第1変形例に係る試料支持体1Aについて説明する。試料支持体1Aは、方向D1において対称的な構造を有する点、すなわち、第1表面2a側の部分と第2表面2b側の部分とが同様の構成を有しており、第1表面2a及び第2表面2bの両方を測定面(試料Saが転写又は滴下される面)として利用可能に構成されている点において、試料支持体1と相違している。
【0060】
すなわち、試料支持体1Aの基板2A(多孔質構造3A)は、第2表面2bを含み、複数の大粒子31及び複数の小粒子32が混在する混在層23(第3層)を備えており、大粒子層22は、混在層21と混在層23との間に位置している。また、第2表面2bは、第1表面2aと同様に構成されている。すなわち、混在層23に含まれる複数の小粒子32の少なくとも一部は、第2表面2bを構成する2以上の大粒子31の間に挟まれて保持されている。
【0061】
試料支持体1Aによれば、第1表面2a及び第2表面2bの両方を測定面(すなわち、測定対象の試料Saを支持する面)として用いることが可能になる。これにより、試料支持体1Aのユーザ(すなわち、試料支持体1Aを用いて測定を実施する測定者)は、試料支持体1Aに測定対象の試料Saを転写又は滴下する際に、試料支持体1Aのどちらの面が測定面であるか否かを特定する必要がないため、利便性が向上する。
【0062】
(第2変形例)
図12及び
図13を参照して、第2変形例に係る試料支持体1Bについて説明する。試料支持体1Bは、導電層4を備える点において、試料支持体1と相違している。試料支持体1Bは、導電層4を備えることにより、イオン化された試料Saの成分Sa1を検出するために第1表面2a上に電圧を印加する必要があるイオン化法(例えば、レーザ脱離イオン化法等)に用いることが可能とされている。
【0063】
導電層4は、第1表面2aにおける多孔質構造3の開口部を塞がないように、第1表面2aを覆っている。すなわち、導電層4は、第1表面2aにおける多孔質構造3の開口部(粒子間の隙間)を完全に塞ぐことがないように設けられている。これにより、試料支持体1Bにおいても、第1表面2a上(厳密には、第1表面2a上に成膜された導電層4上)に転写又は滴下された試料Saに含まれる液体成分は、多孔質構造3の内部に浸透し、大粒子層22へと逃げることが可能とされている。すなわち、試料支持体1Bにおいては、例えば大粒子31のみで構成された基板上に導電層4を成膜する場合と比較して、小粒子32の表面上にも導電層4が成膜されることにより、より連続的な導電層4を形成して、第1表面2aにおける導電性を好適に確保することができる。その上で、導電層4は、少なくとも試料Saに含まれる液体成分を大粒子層22へと逃がすことが可能な程度の隙間が設けられた状態となっている。
【0064】
また、導電層4は、大粒子31及び小粒子32によって構成された第1表面2aの凹凸形状(例えば、繋ぎ目J1,J2,J3における窪み形状等)に沿って第1表面2aを覆っている。すなわち、導電層4の厚さは、大粒子31及び小粒子32の大きさ(径)に対して非常に薄くされている。これにより、大粒子31及び小粒子32の表面に成膜された導電層4の外面の形状は、元々の大粒子31及び小粒子32の表面形状に追従した形状となる。従って、
図13に示されるように、導電層4が成膜された後の状態においても、第1表面2aの凹凸形状(特に、繋ぎ目J1,J2,J3の窪み形状)が維持されている。
【0065】
導電層4は、導電性材料によって形成されている。導電層4の材料としては、試料Saとの親和性(反応性)が低く且つ導電性が高い金属が用いられることが好ましい。このような観点から、導電層4の材料としては、例えば、Au(金)、Pt(白金)等が用いられることが好ましい。導電層4は、例えば、メッキ法、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)、蒸着法、スパッタ法等によって、厚さ1nm~350nm程度に形成される。なお、導電層4の材料としては、例えば、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)等が用いられてもよい。
【0066】
図13の(A)及び(B)に示される例のように、導電層4は、例えば上述した蒸着法、スパッタ法等を第1表面2a側から行うことにより、第1表面2aを構成する大粒子31及び小粒子32の表面のうち、第1表面2a側に露出する表面を覆うように形成される。一方、ALDによって導電層4を形成する場合には、導電層4は、多孔質構造3の隙間に入り込むことにより、第1表面2a側に露出する表面だけでなく、大粒子31及び小粒子32の第2表面2b側を向く表面にも形成され得る。すなわち、導電層4は、第1表面2aを構成する大粒子31及び小粒子32の表面のうち、少なくとも第1表面2a側に露出する表面を覆うように形成されればよく、第1表面2aを構成する大粒子31及び小粒子32の表面の全体を覆うように設けられてもよい。
【0067】
試料支持体1Bによれば、試料支持体1と同様の効果を得ることを可能としつつ(すなわち、導電層4の存在によって試料支持体1の効果を阻害することなく)、レーザ脱離イオン化法等に試料支持体1Bを用いることが可能となる。より具体的には、レーザ脱離イオン化法等を用いる場合、すなわち、第1表面2aにおいてイオン化された試料Saの成分Sa1をイオン検出器(グランド電極側)へと導くために第1表面2aに電圧を印加する必要がある場合に、導電層4を介して適切に電圧を印加することが可能となる。
【0068】
(他の変形例)
上述した実施形態、第1変形例、及び第2変形例の構成は適宜組み合わせられてもよい。例えば、第1変形例と第2変形例とを組み合わせてもよい。この場合、試料支持体1Aの第1表面2a及び第2表面2bの各々に、導電層4が設けられる。
【0069】
また、上記実施形態では、多孔質構造3は、複数の大粒子31と複数の小粒子32とが互いに融着されることにより、第1表面2aを構成する2以上の大粒子31の間に小粒子32が挟まれて保持される構成が実現されていたが、当該小粒子32は、必ずしも隣接する大粒子31と融着されていなくてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、試料支持体1は、基板2のみを含んで構成されたが、試料支持体1は、基板2以外の部材を含んでもよい。例えば、基板2の一部(例えば隅部等)に、基板2を支持するための支持部材(フレーム等)が設けられてもよい。
【0071】
また、試料Saは、上記実施形態で例示した果物(レモン)の切片に限られない。試料Saは、平坦な表面を有するものであってもよいし、凹凸のある表面を有するものであってもよい。また、試料Saは、果物以外であってもよく、例えば植物の葉等であってもよい。この場合、試料Saである葉の表面の成分を第1表面2aに転写することにより、当該葉の表面(葉脈)のイメージング質量分析を行うことが可能となる。
【0072】
また、上記実施形態では、基板2の全体が、多孔質構造3によって構成されたが、多孔質構造3は、基板2の一部に形成されてもよい。例えば、多孔質構造3は、基板2において試料Saを転写又は滴下するための測定領域として定められた中央部分の領域(第1表面2aの一部の領域)のみに形成されてもよい。この場合、基板2のその他の部分には、多孔質構造3が形成されていなくてもよい。また、多孔質構造3は、第1表面2aから第2表面2bまでの全域に亘って形成されていなくてもよい。すなわち、多孔質構造3は、少なくとも第1表面2aに開口していればよく、第2表面2bに開口していなくてもよい。例えば、基板2は、第2表面2bを含む平板状のプレートと、当該プレートにおける第2表面2bとは反対側の面上に設けられた多孔質構造3と、によって構成されてもよい。一例として、基板2は、ガラスプレートと、ガラスプレート上に設けられたガラスビーズの焼結体(多孔質構造3)と、によって構成されてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、試料支持体1を脱離エレクトロスプレーイオン化法に用いることができるように、第1表面2aが絶縁性を有していた。より具体的には、基板2(多孔質構造3)自体が絶縁性材料によって形成されることにより、第1表面2aが絶縁性を有していた。しかし、上記以外の構成によっても、試料支持体1を脱離エレクトロスプレーイオン化法に用いることが可能なように構成することができる。例えば、基板2(多孔質構造3)は、導電性材料によって形成されてもよい。この場合、基板2の第1表面2aに絶縁性のコーティングが施されることによって、第1表面2aが絶縁性を有する構成が実現されてもよい。このような絶縁性のコーティングを施すことによって、基板2の第1表面2aを絶縁性にすることができるため、導電性を有する材料で形成された基板2を用いることが可能となる。例えば、この場合、多孔質構造3は、金属からなる複数の粒子(大粒子31及び小粒子32)の集合体によって形成されてもよい。このように、絶縁性のコーティングを設ける場合には、基板材料(すなわち、大粒子31及び小粒子32の材料)の選択の自由度を向上させることができる。
【0074】
また、多孔質構造3を構成する大粒子31及び小粒子32の材料としては、上記実施形態において例示した絶縁性材料(上記実施形態では一例として、ガラス(ソーダガラス))以外に、金属酸化物(例えばアルミナ等)、又は絶縁コーティングされた金属等が用いられてもよい。また、多孔質構造3を構成する大粒子31及び小粒子32の形状は、球状に限られず、球状以外の形状を有してもよい。後者の場合、上記実施形態において説明した粒子(大粒子31又は小粒子32)の径(平均粒径R1,R2)は、第1表面2aに対向する位置から方向D1に沿って基板2を見た場合に観察される粒子の有効径(すなわち、粒子が占める領域に収まる仮想的な円筒の最大の径)と読み替えてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1,1A,1B…試料支持体、2,2A…基板、2a…第1表面、2b…第2表面、3,3A…多孔質構造、4…導電層、21…混在層(第1層)、22…大粒子層(第2層)、23…混在層(第3層)、31…大粒子(第1粒子)、32,32A…小粒子(第2粒子)、J1,J2,J3…繋ぎ目、Sa…試料、Sa1…成分、Sa2…試料イオン(イオン化された成分)。