IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特開2024-177085中空糸多孔質膜、中空糸多孔質膜ユニットおよび膜モジュール
<>
  • 特開-中空糸多孔質膜、中空糸多孔質膜ユニットおよび膜モジュール 図1
  • 特開-中空糸多孔質膜、中空糸多孔質膜ユニットおよび膜モジュール 図2
  • 特開-中空糸多孔質膜、中空糸多孔質膜ユニットおよび膜モジュール 図3
  • 特開-中空糸多孔質膜、中空糸多孔質膜ユニットおよび膜モジュール 図4
  • 特開-中空糸多孔質膜、中空糸多孔質膜ユニットおよび膜モジュール 図5
  • 特開-中空糸多孔質膜、中空糸多孔質膜ユニットおよび膜モジュール 図6
  • 特開-中空糸多孔質膜、中空糸多孔質膜ユニットおよび膜モジュール 図7
  • 特開-中空糸多孔質膜、中空糸多孔質膜ユニットおよび膜モジュール 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177085
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】中空糸多孔質膜、中空糸多孔質膜ユニットおよび膜モジュール
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/08 20060101AFI20241212BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20241212BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20241212BHJP
   B01D 71/44 20060101ALI20241212BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B01D69/08
B01D69/00
B01D71/68
B01D71/44
B01D63/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024081479
(22)【出願日】2024-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2023093685
(32)【優先日】2023-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河井 翔太
(72)【発明者】
【氏名】田宮 竜太
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA02
4D006JA03A
4D006JA03C
4D006JA13C
4D006JA25C
4D006JB06
4D006MA01
4D006MA24
4D006MA25
4D006MA26
4D006MA27
4D006MA31
4D006MA33
4D006MB19
4D006MC32
4D006MC33
4D006MC40X
4D006MC45
4D006MC62X
4D006MC63
4D006NA04
4D006NA64
4D006NA75
4D006PC72
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】
水蒸気透過性および屈曲性に優れた中空糸多孔質膜を得る。
【解決手段】
中空糸多孔質膜の長手方向に垂直な断面(以下、垂直断面、という)において、長径が前記中空糸多孔質膜の厚みの10%以上60%以下かつ10μm以上である粗大孔が、前記中空糸多孔質膜の厚み方向に対して垂直な方向に略連続的に並列して層をなす領域を有する中空糸多孔質膜であって、前記中空糸多孔質膜の厚み方向において、前記領域が複数層存在する中空糸多孔質膜。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸多孔質膜の長手方向に垂直な断面(以下、垂直断面、という)において、長径が前記中空糸多孔質膜の厚みの10%以上60%以下かつ10μm以上である粗大孔が、前記中空糸多孔質膜の厚み方向に対して垂直な方向に略連続的に並列して層をなす領域を有する中空糸多孔質膜であって、前記中空糸多孔質膜の厚み方向において、前記領域が複数層存在する中空糸多孔質膜。
【請求項2】
前記中空糸多孔質膜全体における空隙率が60%以上85%以下である請求項1に記載の中空糸多孔質膜。
【請求項3】
前記領域の距離が前記中空糸多孔質膜の厚みの5%以上20%以下である請求項1または2に記載の中空糸多孔質膜。
【請求項4】
前記垂直断面における最も中空糸内径側の領域における粗大孔(a)と、最も中空糸外径側の領域における粗大孔(b)において、粗大孔(a)の短径に対する長径の平均値が、粗大孔(b)の短径に対する長径の平均値より大きい請求項1または2に記載の中空糸多孔質膜。
【請求項5】
前記粗大孔(b)の短径に対する長径の平均値が1.0以上2.0以下である請求項4に記載の中空糸多孔質膜。
【請求項6】
前記中空糸多孔質膜が、ポリスルホン系ポリマー及びポリビニルピロリドンを含む、請求項1または2に記載の中空糸多孔質膜。
【請求項7】
請求項6に記載の中空糸多孔質膜が、カバリング糸によってカバリングされてなる、中空糸多孔質膜ユニット。
【請求項8】
請求項1または2に記載の中空糸多孔質膜、又は、請求項7に記載の中空糸多孔質膜ユニットを含む、膜モジュール。
【請求項9】
請求項8に記載の膜モジュールを含む空調機。
【請求項10】
請求項8に記載の膜モジュールと、燃料電池とを少なくとも含む燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸多孔質膜、中空糸多孔質膜ユニット、膜モジュールに関するものである。さらに詳しくは、空調機や燃料電池システムに使用される調湿ユニットに好適に用いられる中空糸多孔質膜、中空糸多孔質膜ユニット、膜モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質膜は、腎不全患者の血液浄化器などの医療用途や、浄水器用などの水処理用途に広く用いられている。また、ガス分離可能なサイズの孔を有している中空糸多孔質膜であれば、種々の無機膜の中でも優れた気体分離性を示し、耐薬品性および耐熱性が求められる環境下においても使用可能である。中空糸多孔質膜を用いた気体分離対象としては様々なものがあり空気中からの水蒸気や二酸化炭素の分離、工場などの排ガスに含まれる有害成分の分離などが挙げられる。
【0003】
水蒸気を透過させる中空糸多孔質膜は、燃料電池システムに内蔵される電解質膜を保湿するために燃料ガスを加湿する用途や、オフィスや家庭などの空間内の水分を除湿する用途などに利用が広がってきている。中空糸多孔質膜として限外ろ過膜、精密ろ過膜等が一般的に広く使用されており、湿潤加湿条件下での強度安定性に優れているポリスルホン系樹脂を用いる方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-44523
【特許文献2】特開2011-67812
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術では、水蒸気透過性を高めガスリークを抑えることはできたが、中空糸膜の屈曲耐性が低いという課題があった。例えば、特許文献1、2に記載のように強度安定性を向上させるために中空糸膜断面に粗大なボイドがなく、直径がサブミクロンレベルの微小孔が散在している構造の場合、柔軟性に乏しく中空糸膜を膜モジュール化する際のハンドリング性が悪いため、中空糸膜が折れ曲がり潰れてしまうことで、水蒸気透過性が悪化するとともにガスリークが発生しやすくなる可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解消するため、本発明は以下の構成からなる。
【0007】
中空糸多孔質膜の長手方向に垂直な断面(以下、垂直断面、という)において、長径が中空糸多孔質膜の厚みの10%以上60%以下かつ10μm以上である粗大孔が、前記中空糸多孔質膜の厚み方向に対して垂直な方向に略連続的に並列して層をなす領域を有する中空糸多孔質膜であって、前記中空糸多孔質膜の厚み方向において、前記領域が複数層存在する中空糸多孔質膜。
【発明の効果】
【0008】
本発明により得られる中空糸多孔質膜、膜モジュールは、水蒸気透過性および屈曲性に優れた中空糸多孔質膜、膜モジュールとして有効に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の中空糸多孔質膜の垂直断面を示す図である。
図2】垂直断面における粗大孔の長径、短径等を示す図である。
図3】垂直断面における粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域同士の距離を測定する方法の説明補助の図である。
図4】空調機の概略図である。
図5】燃料電池車の電力供給に関するブロック図である。
図6】水蒸気透過性能を測定する方法を示す模式図である。
図7】折り曲げ耐性の評価方法を説明する模式斜視図である。
図8】エア間欠試験で耐久性を評価する方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0011】
本発明中空糸多孔質膜は、中空糸多孔質膜の長手方向に垂直な断面(以下、垂直断面、という)において、長径が中空糸多孔質膜の厚みの10%以上60%以下かつ10μm以上である粗大孔が、中空糸多孔質膜の厚み方向に対して垂直な方向に略連続的に並列して層をなす領域を有する中空糸多孔質膜であって、中空糸多孔質膜の厚み方向において、前記領域が複数層存在する中空糸多孔質膜である。
【0012】
<中空糸多孔質膜>
図1は、本発明の実施の形態に係る中空糸多孔質膜の長さ方向に対し垂直な方向の断面図である。図1では、中空糸多孔質膜1の垂直断面において、中空糸多孔質膜1の厚み方向Xに対し、垂直な方向Yに、複数の粗大孔2が略連続的に並列して層をなす領域10が存在し、領域10は、中空糸多孔質膜の厚み方向Xにおいて2層存在する。
【0013】
本発明の垂直断面における粗大孔とは、孔を内接する矩形の長辺を長径とした際に、その長さが10μm以上であるボイドを意味する。10μm以上であることで、中空糸多孔質膜に優れた屈曲性を付与することができる。一方長径は100μmを超えないことが好ましい。長径が100μmを超えると中空糸多孔質膜の強度が低くなりやすい。
【0014】
また、本発明における粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域とは、中空糸多孔質膜の厚み方向Xに対して垂直な方向Yに隣接する粗大孔の内表面側の端部同士と外表面側の端部同士を線でつないだ際に形成される領域を意味する。1つの領域において、粗大孔が、膜厚方向Xに2つ以上連なっている場合は、連なっている複数の粗大孔のうち最も外表面側にある粗大孔の外表面側の端部および最も内表面側にある粗大孔の内表面側の端部をそれぞれ選ぶようにする。かかる領域が、中空糸多孔質膜の厚み方向に複数層存在することで中空糸の屈曲性が向上し、ハンドリング性が向上するとともに、中空糸の折れやサイズ変化を抑制することができる。各領域には、粗大孔に満たない孔が多少存在していてもよく、また、領域以外には、粗大孔が存在しないことが好ましいが、本発明の屈曲性を阻害しない程度に領域以外に粗大孔が一部点在していても構わない。
【0015】
本発明の中空糸多孔質膜1は、後述するように製膜原液に芯液を接触、拡散させて相分離を誘起させることで空隙を形成させることができる。そのため、相分離速度を制御する製膜原液の設計、芯液の設計制御によって、粗大孔の形成を制御することができる。
【0016】
粗大孔2の長径は、中空糸多孔質膜の厚みの10%以上60%以下である。この範囲とすることで、中空糸多孔質膜1中の粗大孔2の透過(拡散)抵抗が小さくなるため水蒸気透過性を高めつつ、水蒸気中の水分と空気を分離する際のリークを抑制することが可能となる。このとき中空糸多孔質膜の厚みおよび長径は後述の方法により測定する。
【0017】
図2図3に垂直断面における粗大孔の長径、短径等を示す。
【0018】
中空糸多孔質膜1の厚みや粗大孔2の長径3は、中空糸多孔質膜の断面を測定しやすい倍率(例えば、倍率1000倍等が挙げられるが、中空糸多孔質膜の直径や粗大孔の大きさによっては倍率2000倍であっても、500倍であってもよい)で走査型電子顕微鏡(SEM)を用いることで確認することができる。なお、粗大孔2の長径3および短径4は、SEMにて撮影した画像を画像処理・計測ソフト(三谷商事株式会社製、WinROOF)を用いて二値化して得た粗大孔との外接長方形5における長辺および短辺としてそれぞれ定義する。
【0019】
本発明の中空糸多孔質膜は、中空糸内径側に緻密層を有することが好ましい。垂直断面において、緻密層の厚みが、0.1μm以上0.5μm以下であることが好ましい。ここで、緻密層とは、走査型電子顕微鏡(SEM)で垂直断面を観察したときに、孔面積が1260nmを超える孔の存在が認められない層をいう。緻密層を有することでガスリークの抑制性が向上する。
【0020】
中空糸多孔質膜の内径は500μm以上1000μm以下であることが好ましい。内径が500μm未満の場合、中空糸多孔質膜の中空部に高流量空気を流したときに、中空部の入口から出口にかけての圧力が上昇し、中空糸多孔質膜の糸切れが起こる場合がある。一方、1000μmを超える場合は、中空糸多孔質膜を搭載したモジュールにおいて、中空糸多孔質膜の外側の空気の流れが偏り、中空糸多孔質膜を有効に活用できない場合がある。また、中空糸多孔質膜が太くなりすぎると、モジュールのサイズが大型になりやすく、省スペース化には向かない。
【0021】
また、中空糸多孔質膜の膜厚は、50μm以上300μm以下であることが好ましい。膜厚が50μm未満の場合は、中空糸多孔質膜の破断強力が低下し、高流量空気を与えた場合に中空糸多孔質膜の糸切れが起こる場合がある。また、膜厚が300μmを超える場合は、中空糸多孔質膜の製膜時の構造制御安定性に欠け、多孔質膜の空隙部分の製膜再現性が乏しくなる場合がある。
【0022】
また、本発明の中空糸多孔質膜の透水性は、水蒸気透過性を高めるために、全く無いよりはある程度の微量な範囲であった方が好ましい。
【0023】
本発明の中空糸多孔質膜は、中空糸多孔質膜全体における空隙率が60%以上85%以下であることが好ましく、さらに、70%以上85%以下がより好ましい。中空糸多孔質膜全体における空隙率が60%以上85%以下であることにより、中空糸多孔質膜における主成分のポリマー骨格密度が高まり、耐久性を向上させることが可能である。中空糸孔質膜全体における空隙率が60%未満になると、中空糸多孔質膜の主成分が凝集したような構造部分が増え、水蒸気透過性が低下する可能性がある。また、85%を超えると、多孔質膜の主成分のポリマー凝集が弱まり、耐久性が低下する場合がある。
【0024】
空隙率は、以下の方法で求めることができる。まず一定の長さに揃えた中空糸多孔質膜を50℃に設定した乾燥機で24時間乾燥する。次に、乾燥後重量が1g以上5g以下の範囲となるように中空糸多孔質膜の本数を調整する。使用した中空糸多孔質膜の本数と長さ、膜の外経、内径から中空糸多孔質膜の体積を算出し、乾燥重量と中空糸多孔質膜の主成分となるポリマー密度を用いて空隙率を算出する。
【0025】
また、本発明の中空糸多孔質膜は、粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域同士の距離が中空糸多孔質膜の厚みの5%以上20%以下であることが好ましい。粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域同士の距離が中空糸多孔質膜の厚みが5%未満になると、多孔質膜の主成分のポリマー凝集が弱まり、耐久性が低下する場合がある。また、20%を超えると、中空糸多孔質膜の主成分が凝集したような構造部分が増え、水蒸気透過性が低下する可能性がある。
【0026】
本発明の、粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域同士の距離は以下の方法で測定することができる。まず、中空糸多孔質膜5本に対し、それぞれ5か所ずつ切り出し断面を得る。膜モジュールから中空糸多孔質膜を抽出する場合は任意の5本を抜き出す。得られた膜断面に対し、測定しやすい倍率でSEMを用いて撮影した画像を観察し、画像処理・計測ソフト(三谷商事株式会社製、WinROOF)を用いて二値化処理をする。得られた画像のうち、中空糸内径側の領域における粗大孔(I)に対する外接長方形(I)と中空糸外径側の領域における粗大孔(II)に対する外接長方形(II)を得る。その後、外接長方形(I)と粗大孔(I)との接点6のうち、中空糸外径側に位置する点から中空糸内径表面までの中空糸多孔質膜の厚み方向Xに対する距離Iを測定する。粗大孔(I)が中空糸多孔質膜の厚み方向Xに対し、二重に観察された場合は、より外径側の粗大孔(I)で測定する。次に、外接長方形(II)と粗大孔(II)との接点7のうち、中空糸内径側に位置する点から中空糸外径表面までの中空糸多孔質膜の厚み方向Xに対する距離IIを測定する。任意の3か所の粗大孔(I)および粗大孔(II)に対しそれぞれ距離Iおよび距離IIを測定する。切り出した5か所の断面それぞれについて撮影した5枚の画像について、同様に算出し、同じ測定を中空糸多孔質膜5本に対して行う。得られた距離Iおよび距離IIの測定結果のそれぞれの平均値の和と、中空糸多孔質膜の厚みとの差を粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域同士の距離の平均値とする。また、本発明の中空糸多孔質膜は、垂直断面における最も中空糸内径側の領域における粗大孔(a)と、最も中空糸外径側の領域における粗大孔(b)において、粗大孔(a)の短径に対する長径の平均値が、粗大孔(b)の短径に対する長径の平均値より大きいことが好ましい。また、粗大孔(a)の短径に対する長径の平均値が、粗大孔(b)の短径に対する長径の平均値より0.5以上大きいことが更に好ましい。粗大孔(a)の長径/短径の平均値を、粗大孔(b)の長径/短径の平均値より大きくすることで、中空糸多孔質膜がつぶれにくく中空糸繊維形状を保ちやすくなる。詳細なメカニズムは不明だが、粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域内の粗大孔の長径/短径の平均値が大きくなるにつれ、領域内の粗大孔が密集する傾向がある。そのため、中空糸多孔質膜の外径側の粗大孔が内径の粗大孔に比べ分散して配置されることで中空糸多孔質膜の強度が向上するためと推定される。粗大孔(a)の長径/短径の平均値は2.0以上、8.0以下であることが好ましい。また、粗大孔(b)の長径/短径の平均値は1.0以上3.0未満であることが好ましい。粗大孔(b)の長径/短径の平均値が1.0未満になると、粗大孔(b)のサイズ制御が困難になり粗大孔(b)のサイズバラツキが大きくなり中空糸多孔質膜において部分的に強度が弱い箇所が発生しやすくなる。また、3.0以上となると、中空糸多孔質膜の耐圧性能が低下する可能性がある。粗大孔(a)、粗大孔(b)の長径、短径は、以下の方法で測定することができる。まず、中空糸多孔質膜5本に対し、それぞれ5か所ずつ切り出し断面を得る。膜モジュールから中空糸多孔質膜を抽出する場合は任意の5本を抜き出す。得られた膜断面に対し、測定しやすい倍率でSEMを用いて撮影した画像を観察し、略連続的に並列している粗大孔について、中空糸多孔質膜断面において最も中空糸内径側に位置する領域における任意の粗大孔(a)および最も中空糸外径側に位置する領域における任意の粗大孔(b)それぞれ3か所の長径および短径を測定し、それぞれの長径/短径を算出する。切り出した5か所の断面それぞれについて撮影した5枚の画像について、同様に粗大孔それぞれについての長径/短径を算出し、同じ測定を中空糸多孔質膜5本に対して行う。中空糸外径側において得られた全ての長径/短径の平均値を、粗大孔(b)の長径/短径の平均値とする。中空糸内径側における得られた全ての長径/短径の平均値を、粗大孔(a)の長径/短径の平均値とする。
【0027】
また、測定した全長径(1本の中空糸多孔質膜の一断面について6箇所×5断面×5本)の平均値と上記で得られた膜厚とから、中空糸多孔質膜の厚みに対する長径の割合とした。
【0028】
また、本発明の中空糸多孔質膜は、垂直断面において、中空糸外表面と粗大孔(b)との間に、粗大孔に満たない孔が多数存在する領域を有することが好ましい。この領域(以下、強度保持層)を有することで、中空糸多孔質膜の強度を向上させることができる。強度保持層の厚みは中空糸多孔質膜の厚みの5%以上20%以下であることが好ましい。強度保持層の厚みは、以下の方法で測定することができる。まず、中空糸多孔質膜5本に対し、それぞれ5か所ずつ切り出し断面を得る。膜モジュールから中空糸多孔質膜を抽出する場合は任意の5本を抜き出す。得られた膜断面に対し、測定しやすい倍率でSEMを用いて撮影した画像を観察し、画像処理・計測ソフト(三谷商事株式会社製、WinROOF)を用いて二値化処理をする。得られた画像のうち、中空糸外径側の領域における粗大孔に対する外接長方形を得る。その後、外接長方形と粗大孔との接点のうち、中空糸外径側に位置する点から中空糸外径表面までの中空糸多孔質膜の厚み方向Xに対す厚みを測定する。任意の3か所の粗大孔に対しそれぞれ距離を測定する。切り出した5か所の断面それぞれについて撮影した5枚の画像について、同様に算出し、同じ測定を中空糸多孔質膜5本に対して行う。得られた厚みの測定結果の平均値を強度保持層の厚みとする。
【0029】
また、本発明の中空糸多孔質膜は、垂直断面において、粗大孔(a)と粗大孔(b)の総面積が垂直断面の面積に対し、25%以上40%以下であることが好ましい。粗大孔(a)と粗大孔(b)の総面積割合が25%未満になると、中空糸多孔質膜の主成分が凝集したような構造部分が増え、水蒸気透過性が低下する可能性がある。また、40%を超えると、多孔質膜の主成分のポリマー凝集が弱まり、耐久性が低下する場合がある。粗大孔(a)と粗大孔(b)の総面積の垂直断面における割合の算出方法としては例えば、中空糸多孔質膜の断面を測定しやすい倍率(例えば、倍率1000倍等が挙げられるが、中空糸多孔質膜の直径によっては倍率2000倍であっても、500倍であってもよい)で走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて得られた画像を画像処理・計測ソフト(三谷商事株式会社製、WinROOF)を用いて、二値化して得た粗大孔(a)と粗大孔(b)、および垂直断面の面積から割合を算出することができる。本発明の中空糸多孔質膜を構成する材料は特に限定されるものではないが、ポリスルホン系ポリマー、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステルなどが挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れ、かつ中空糸多孔質膜を形成させやすい観点から、中空糸多孔質膜はポリスルホン系ポリマーを含むことが好ましい。さらにポリスルホン系ポリマーの含有量について特に限定されるものではないが、ポリスルホン系ポリマーが多孔質膜の主成分であることが好ましい。主成分とは、中空糸多孔質膜全体100質量%に対して90質量%以上100質量%以下含まれる原料であることを意味する。
【0030】
ここで、ポリスルホン系ポリマーとは、主鎖に芳香環、スルフォニル基およびエーテル基を有するポリマーであり、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリールエーテルスルホンなどが挙げられ、例えば、次式(1)及び/又は(2)の化学式で示されるポリスルホン系ポリマーが好適に使用される。式中のnは1以上の整数であり、好ましくは50~80である。なお、nが分布を有する場合は、その平均値をnとする。
【0031】
本発明の効果を妨げない範囲で他のモノマーと共重合したものであっても、変性体であっても良い。他のモノマーと共重合している場合における他のモノマーの共重合比率は、ポリスルホン系ポリマー全体に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0032】
【化1】
【0033】
ポリスルホン系ポリマーの具体例としては、”ユーデルポリスルホン”P-1700、P-3500(ソルベイ社製)、”ウルトラソン”S3010、P3010、S6010(BASF社製)、”ビクトレックス”(住友化学株式会社製)、”レーデル”ポリフェニルスルホンR-5000NT(ソルベイ社製)、”ベラデル”ポリエーテルスルホン3000MP(ソルベイ社製)、”ウルトラソン“E(BASF社製)等のポリスルホン系ポリマーが挙げられる。
【0034】
本発明の中空糸多孔質膜を構成する材料としてポリスルホン系ポリマーを主成分とする場合、親水性高分子が含まれていることが好ましい。親水性高分子としては、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられ、この中でも、ガラス転移点が150℃よりも高い親水性高分子が耐熱性の優れる中空糸多孔質膜を与えることができるため好ましく用いられる。ポリビニルピロリドンは、ポリスルホン系ポリマーとの相溶性に優れ、ガラス転移点が180℃と高いため燃料電池システムの加湿用途として好ましい。つまり本発明の中空糸多孔質膜は、ポリスルホン系ポリマー及びポリビニルピロリドンを含むことが特に好ましい。中空糸多孔質膜100質量%中のポリビニルピロリドンの含有率は0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、さらに、4質量%以下がより好ましい。中空糸多孔質膜中のポリビニルピロリドンの含有率が5質量%以上である場合、燃料電池の使用環境が高温または/および低湿度領域になるに伴い、ポリビニルピロリドンの親水性または膨潤性が低下するために、水蒸気透過性の性能維持が困難となる場合がある。また、中空糸多孔質膜100質量%中のポリビニルピロリドンの含有率は1質量%以上であることが好ましく、さらに、2質量%以上がより好ましい。中空糸多孔質膜中のポリビニルピロリドンの含有率が1質量%未満である場合、中空糸多孔質膜の親水性が低下することで水蒸気が接触する際に、水蒸気を吸湿しにくくなる場合がある。中空糸多孔質膜中のポリビニルピロリドン含有率は、中空糸多孔質膜のポリマー組成が判明している場合は、乾燥機で乾燥させた中空糸多孔質膜を秤量した後、NC分析計を用いて測定することができる(詳細は実施例の評価法[5]に記載)。また、ポリマー組成が不明の場合は、中空糸多孔質膜を重水素化ジメチルスルホキシドに溶解させたサンプルに対し、フーリエ変換核磁気共鳴装置を用いて測定することができる。
【0035】
<中空糸多孔質膜の製造方法>
本発明の中空糸多孔質膜の製造方法としては、一態様として次のような中空糸多孔質膜を製膜する方法があげられる。すなわち、ポリスルホン系ポリマーとポリビニルピロリドンをポリスルホンの良溶媒(N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジオキサンなどが好ましい)および貧溶媒の混合溶液に溶解させた製膜原液(ポリスルホン系ポリマー濃度は、後述のとおり20質量%以上35質量%以下が好ましく、25質量%以上30質量%以下がより好ましい)を二重環状口金から吐出する際に内側に芯液を流し、乾式部350mmを走行させた後、凝固溶液中で凝固させる。この際、乾式部の湿度が影響を与えるために、乾式部走行中に膜外表面からの水分補給によって、外表面近傍での相分離挙動を調整することで、孔径拡大し、粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域を複数層形成させることが可能となる。その結果として加湿の際の透過抵抗を減らすことも可能である。ただし、相対湿度が高すぎると外表面での原液凝固が支配的になり、粗大孔が形成できず孔径が小さくなり、結果として加湿の際の透過抵抗を増大する傾向がある。そのため、相対湿度としては60~90%が好適である。また、芯液組成としてはプロセス適性から製膜原液に用いた溶媒を基本とする組成からなるものを用いることが好ましい。芯液濃度としては、一例としてN,N-ジメチルアセトアミドを用いたときは、10~60質量%、さらには20~50質量%の水溶液が好適に用いられる。
【0036】
凝固させた中空糸多孔質膜は、40℃以上90℃以下の温水で洗浄され、巻き取られる。洗浄温度が40℃未満であると、有機溶媒等の洗浄が不十分となり、中空糸多孔質膜からの溶出物が使用時に影響を及ぼす場合がある。洗浄温度が90℃を越えると、親水性高分子が必要以上に洗浄されてしまうため、中空糸多孔質膜の親水性が低くなる場合がある。
【0037】
次いで、所望の空隙の大きさに固定するために熱処理を行うことで、乾燥状態の中空糸多孔質膜が得られる。熱処理とは、湿潤状態の多孔質膜を乾燥させることにより、空隙の大きさを縮めるものである。この処理後、中空糸多孔質膜の保湿(グリセリン付与、もしくは水充填)は不必要となる。
【0038】
中空糸多孔質膜の熱処理方法としては、中空糸多孔質膜を数百本から数千本に小分けし、40℃以上170℃以下の乾熱乾燥機で30分以上乾燥することが好ましい。より好ましくは50℃以上170℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上150℃以下である。
【0039】
乾燥温度が40℃より低いと、乾燥時に時間がかかることと、外部雰囲気によっては温度制御が困難となり空隙の大きさを制御できない場合がある。乾燥温度が170℃より高いと、ポリスルホン系ポリマーを用いた場合に、そのガラス転移点に近づくため、中空糸多孔質膜に損傷を与えてしまう場合がある。乾燥時間は30分以上が好ましい。より好ましくは5時間以上である。乾燥時間の上限は特に設けないが作業効率を考慮すると72時間以内であることが好ましい。乾燥時間が30分より短いと、中空糸多孔質膜の水分を飛ばしきることができず、熱処理ができていない箇所が存在することがある。この場合、中空糸多孔質膜の空隙が縮まっている箇所と縮まっていない箇所が両立してしまい、水蒸気中の水分と空気の分離が不十分となり、空気漏洩に繋がる可能性がある。また、使用時に熱がかかることで、空隙が縮まっていない箇所の空隙がサイズ変化し、初期性能が変動する場合がある。
中空糸多孔質膜全体における空隙率を60%以上85%以下とする方法としては、中空糸多孔質膜の主成分となるポリマーの骨格密度を調整するため、製膜原液中のポリスルホン系ポリマー濃度を制御する方法が挙げられる。
【0040】
製膜原液のポリスルホン系ポリマー濃度としては、製膜原液全体に対して20質量%以上35質量%以下であることが好ましい。より好ましくは25質量%以上30質量%以下である。製膜原液のポリスルホン系ポリマー濃度が20質量%未満であると、中空糸多孔質膜の空隙率が高くなり、耐久性が低くなりやすい。
【0041】
製膜原液の粘度は30Poise以上100Poise以下であることが好ましく、より好ましくは40Poise以上80Poise以下である。製膜原液の粘度が100Poiseよりも高い場合は、中空糸多孔質膜内径側において粗大孔を有さない層が厚くなる、または粗大孔を得にくくなり、水蒸気透過性が低くなりやすい。30Poise未満であると、中空糸多孔質膜内径側において粗大孔を有さない層が薄くなりやすく、また外径側において粗大孔が膜表面に達して膜表面孔ができやすくなるため、中空糸多孔質膜の強度が低く弱い膜になりやすい。
【0042】
垂直断面において、中空糸多孔質膜の厚み方向に対し、粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域を複数層有する中空糸多孔質膜とする方法としては、例えば芯液として製膜原液に対する拡散性の高い溶液を用いることが好ましい。芯液に拡散性の低い溶液を用いると、空隙の精密な制御が難しくなり、製膜できなくなる場合がある。
【0043】
さらに、製膜原液の粘度、製膜原液と芯液の凝縮性などを制御することも好ましい。一例を挙げると、製膜原液の粘度が高い状態であれば、芯液が製膜原液に対して拡散速度が遅くなり、中空糸多孔質膜の粗大孔形成過程において、粗大孔の成長が遅くなり粗大孔の長さが短くなる。芯液に粘性が有る場合も同じような粗大孔の成長が考えられる。
【0044】
さらには、芯液に水のような凝集性の高いものを用いると、芯液と接触した面のみが凝集し、芯液と接触していない膜の面付近に大きな粗大孔が形成される場合もある。
【0045】
つまり、粗大孔の大きさを制御するためには、相分離速度を制御する製膜原液の設計、芯液の設計などが重要である。
【0046】
また、同じポリマーを使用したとしても、ポリマーの分子量が大きいポリマーを使用すると製膜原液の粘度が高くなり、分子量の小さいポリマーを使用すると粘度は低くなる。さらに、添加量によっても粘度は変化する。製膜原液の粘度が30Poise以上100Poise以下の範囲となるように、ポリマーの種類、ポリマーの分子量、ポリマーの添加量を選択することが好ましい。
【0047】
芯液の溶媒の比率に関しては、製膜原液のポリマーを溶解するような有機溶媒(良溶媒:ジメチルホルムアミド、N.N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒など)の比率を上げると、ポリマーの膜形成時に起こる凝集が遅くなり、粗大孔が形成しにくくなる。製膜原液のポリマーに不溶な溶媒(貧溶媒)の比率が高いと、芯液と製膜原液により急激な凝集が起こり、粗大孔が形成し易くなる。つまり、芯液の溶媒の種類や比率を調整することでも、粗大孔の形成を制御することができる。芯液中の良溶媒の濃度としては10質量%以上60質量%以下が好ましく、20質量%以上50質量%以下がより好ましい。
【0048】
また、粘性の低い芯液としては、水、低粘性溶媒、もしくは水/低粘性溶媒の溶液、粘性の高い芯液としてはグリセリンやPVPなどのポリマーを溶解させた溶媒などを製膜原液と組み合わせることによっても粗大孔の大きさを制御できる。
【0049】
前記親水性高分子として製膜原液に添加されるポリビニルピロリドンとしては、重量平均分子量が約10,000~1,200,000、好ましくは分子量が約40,000~1,200,000の物が存在し、好ましくはポリスルホン系ポリマー100質量%当り5~50質量%、より好ましくは8~30質量%の割合で用いられる。ポリスルホン系ポリマーに対して5質量%よりも少ない場合は、中空糸多孔質膜表面に親水性を付与することができず、水蒸気との親和性が低くなってしまう懸念がある。50質量%を超える場合は、中空糸多孔質膜の強度が低くなり、製膜が困難になる場合がある。
【0050】
<中空糸多孔質膜ユニット>
本発明の中空糸多孔質膜ユニットは、本発明の中空糸多孔質膜がカバリング糸によってカバリングされたものであり、2本以上の中空糸多孔質膜を沿わせて並べ、その状態を維持するように糸状または帯状のもので全体を巻き付けている。巻き付ける方法は、複数本の糸や帯で巻き付けてもいいし、1本の糸や帯で螺旋状に巻き付けてもよい。要は、棒状または糸状のものが並んだ状態を維持できればよい。
【0051】
カバリング糸としては、嵩高性および伸縮性を有する捲縮糸、加工糸または紡績糸のいずれか1種類、あるいはこれらを複数種類用いる事が好ましい。これらの糸をカバリング糸とすると、カバリング糸を中空糸多孔質膜に螺旋状に巻き付ける際、中空糸多孔質膜を傷つけることなくオンラインで中空糸多孔質膜ユニットを完成することができる。具体的には、伸縮率が1%よりも大きい繊維が好ましい。ここで、オンラインとは、口金から吐出された中空糸多孔質膜を巻き取るまでの一連の工程内で、膜ユニットを完成させることを言う。
【0052】
カバリング糸の素材としては特に限定はしないが、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイドなどが一例として挙げられる。
【0053】
<膜モジュール>
本発明の膜モジュールは、本発明の中空糸多孔質膜又は本発明の中空糸多孔質膜ユニットを含む膜モジュールである。より具体的には、円筒状または矩形状のケースに、本発明の中空糸多孔質膜または中空糸多孔質膜ユニットを充填し、中空糸多孔質膜または中空糸多孔質膜ユニットの両端をポッティング材で固定したものである。ポッティング材としては、ポリウレタン、エポキシ、シリコーン、ナイロン等が適宜選択して用いられる。本発明の膜モジュールを作製する方法としては、一例を示すと次の通りである。まず、中空糸多孔質膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状ケースに入れる。その後両端に仮のキャップをし、中空糸多孔質膜両端部にポッティング材を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング材を入れる方法は、ポッティング材が均一に充填されるために好ましい方法である。ポッティング材が固化した後、中空糸多孔質膜の両端が開口するように両端部を切断し、膜モジュールを得ることができる。
【0054】
<膜モジュールの適用の可能性>
本発明の膜モジュールは、除湿器、加湿器、除加湿器等の空調機、燃料電池システム、デシカント空調システムなどに適用可能である。
【0055】
<空調機>
次に、本発明の実施の形態に係る中空糸多孔質膜を含む膜モジュールを含有する空調機について説明する。この空調機は、例えば加湿器、除湿器、除加湿器、エアーコンディショナーなどのような、一般家庭・ビル・オフィス・工場などで湿度管理を行う装置である。
【0056】
本発明の空調機は上述の膜モジュールによって、取り込まれた外気の湿度調整が行われる装置である。空調機の模式図の一例を図4に示す。外気が空調機20の中に取り込まれるとエアフィルター21、冷却コイル22、加熱コイル23、膜モジュール24、送風機25の順に通過し室内に給気される。室内を加湿するか除湿するかで冷却コイル22や加熱コイル23が動作する。また、膜モジュール24の中空糸多孔質膜に除湿剤を加えることで加湿または除湿を行っても構わない。
【0057】
<燃料電池システム>
次に本発明の実施の形態に係る中空糸多孔質膜を含む膜モジュールを含有する燃料電池システムについて説明する。この燃料電池システムは、例えば燃料電池車や家庭用燃料電池などに適用される。
【0058】
燃料電池システムとは、上述の膜モジュール31と、燃料電池32とを少なくとも有するものである。この燃料電池システムの例としては、特に制限はないが、膜モジュールを用いて加湿された空気および(または)水素が燃料電池に供給されながら給電を行うシステムが挙げられる。燃料電池車であれば、例えば図5に示すように、得られた電力はパワーコントロールユニット33を経由してモーター34やバッテリー35へ供給される。また、上述の膜モジュール31は加湿器として機能するために、金属製または樹脂製の筐体に内蔵され、使用する用途によって、膜モジュールの搭載本数を自由に変えることで必要スペックを調整することができる。
【実施例0059】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定して解釈されるものではない。実施例における各評価法を以下の[1]~[7]で説明する。
[1]中空糸多孔質膜の寸法測定
中空糸多孔質膜を膜厚方向に片刃で切断し、マイクロウォッチャー(KEYENCE社製、VH-Z100)にセットした。切断により中空糸多孔質膜断面が潰れてしまった場合には、略真円になるまで切断をやり直した。中空糸多孔質膜断面を1000倍レンズで観察し、断面を投影させたモニター画面上で中空糸多孔質膜の膜厚幅を範囲指定し、モニター画面上に表示された数値を読み取った。また、中空糸多孔質膜内径は中空部幅を範囲指定することで、モニター画面上に数値が表示される。膜モジュールに存在する任意の中空糸多孔質膜5本を抜き出し、同じ測定を行い、平均値を算出し、中空糸多孔質膜の内径および膜厚とした。
[2]中空糸多孔質膜断面のSEM観察用試料の調製
製膜して得られた中空糸多孔質膜を水に1時間浸けて湿潤させた後に液体窒素で凍結して速やかに折り、中空糸多孔質膜の断面観察用の試料とした。中空糸状多孔質膜の中空部分や膜厚部分の空隙が閉塞している場合は試料作製をやり直した。中空部分の閉塞は、切断処理時に応力方向に中空糸多孔質膜が変形して起こる場合がある。
【0060】
なお、以下の各方法においてSEM画像を用いる際には、ここに記載の方法で観察用の試料を調整して画像を得た。
[3]粗大孔の測定および粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域同士の距離の測定
SEMにて1本の中空糸多孔質膜の断面の1,000倍画像を撮影し、コンピュータに取り込んだ。次に画像処理ソフト上にてSEM画像を画像内で既知の長さを示しているスケールバーのピクセル数を計測し、1ピクセル数あたりの長さ(μm)を算出した。取り込んだ画像のサイズは横126.98μm×縦95.24μmであった。コントラストと明るさを調節して網目構造の孔を認識しやすく孔部分を黒、膜部分を白くした後にしきい値を設定して二値化処理した画像を得て解析した。
【0061】
画像内で略連続的に並列している粗大孔について、中空糸多孔質膜の外表面側および内表面側に位置する任意の粗大孔それぞれ3か所の長径および短径を測定した。さらに、中空糸多孔質膜の内表面側に位置する粗大孔と中空糸多孔質膜の外表面との距離I、および中空糸多孔質膜の外表面側に位置する粗大孔と中空糸多孔質膜の内表面との距離IIおよび強度保持層の厚みも同様に測定した。1本の中空糸多孔質膜についての5枚の取り込んだ画像で同じ測定を行った。膜モジュールに存在する任意の中空糸多孔質膜をさらに4本抜き出し、同じ測定を行い、長径と短径の比の平均値を算出し、長径と短径の比とした。
【0062】

また、測定した全長径の平均値と上記で得られた膜厚とから、中空糸多孔質膜の厚みに対する長径の割合とした。
【0063】
また、測定した距離Iと距離IIのそれぞれの平均値の和と、上記で得られた膜厚との差を粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域同士の距離とした。
【0064】
また、測定した強度保持層の厚みの平均値を算出し、強度保持層の厚みとした。
【0065】
[4]粗大孔の総面積の測定
SEMにて1本の中空糸多孔質膜の断面の1,000倍画像を撮影し、コンピュータに取り込んだ。次に画像処理ソフト上にてSEM画像を画像内で既知の長さを示しているスケールバーのピクセル数を計測し、1ピクセル数あたりの長さ(μm)を算出した。取り込んだ画像のサイズは横126.98μm×縦95.24μmであった。コントラストと明るさを調節して網目構造の孔を認識しやすく孔部分を黒、膜部分を白くした後にしきい値を設定して二値化処理した画像を得た。得た画像から、粗大孔箇所を抽出するために、面積が10μmに満たない孔を削除し、残った粗大孔の総面積を解析した。
【0066】
次に、同じSEM画像のコントラストと明るさを調整して、中空糸多孔質膜断面全面を白色化した後に反転処理して黒色化して黒色部の面積を解析した。膜モジュールに存在する任意の中空糸多孔質膜をさらに4本抜き出し、同じ測定を行い、粗大孔の総面積の平均値および中空糸多孔質膜断面積の平均値を算出した。得られた中空糸多孔質膜断面積の平均値に対する粗大孔の総面積の平均値の割合を中空糸多孔質断面における粗大孔の総面積の割合とした。
【0067】
[5]中空糸多孔質膜の空隙率の測定
長さ30cmの中空糸多孔質膜100本を切り出し、50℃乾燥機で24時間乾燥し、乾燥重量(dw、単位:g)とした。中空糸多孔質膜の外経、内径、本数、長さから中空糸多孔質膜の体積(V、単位:cm)を算出した。中空糸多孔質膜の主成分となるポリマーの密度(ρ、単位:g/cm)を用いて、以下の計算式で空隙率を算出した。中空糸状多孔質膜の主成分となるポリマーの密度は、密度計で測定し、得られた値を用いれば良い。
【0068】
中空糸多孔質膜全体における空隙率(%)=[1-(dw/(V×ρ))]×100
[6]中空糸多孔質膜中のポリビニルピロリドン(PVP)含有率の測定
乾燥機で120℃5時間乾燥させた中空糸多孔質膜を5mm程度の長さに裁断した。これを秤量した後、NC分析計を用いて乾燥状態の中空糸多孔質膜基準の窒素含有率を測定した。中空糸多孔質膜を製膜する際の主成分がポリスルホンで、親水性高分子としてPVPを含む場合は、窒素由来の物質はPVP以外に含まないため、窒素含有率(N)から、乾燥状態の多孔質膜基準のPVP含有率(X)を算出した。また、得られたPVP含有率(X)から、ポリスルホン基準のPVP含有率(Y)を算出することもできる。
X:PVP含有率(%、乾燥状態の多孔質膜基準)=(N×111/14)×100
Y:PVP含有率(%、ポリスルホン基準)=[X/(100-X)]×100。
[7]水蒸気透過速度の測定
水蒸気透過性は以下のように測定した。
【0069】
まず、膜モジュールを図6のように接続した。膜モジュールを用い、中空糸多孔質膜の内側に温度100℃、圧力170kPaGの乾燥空気を、中空糸多孔質膜の外側から温度100℃、露点温度90℃、圧力160kPaGの調湿空気をそれぞれ1パスのクロスフローで流して、時間当りの水蒸気透過量を測定し、単位膜面積、単位時間の水蒸気透過速度(g/hr/cm)に換算した数値を算出した。また、中空糸多孔質膜の外側に供給される調湿空気の水蒸気流量(g/hr)と多孔質膜の内側から出てくる空気の水蒸気流量(g/hr)の比から水蒸気回収率を算出し、以下の基準で評価を行った。
A(良好):水蒸気透過速度(g/cm/hr/kPa)が0.025以上である。
B(可):水蒸気透過速度(g/cm/hr/kPa)が0.015以上、0.025未満である。
C(不可):水蒸気透過速度(g/cm/hr/kPa)が0.015未満である。
[8]耐屈曲性評価
図7を参照して説明する。中空糸多孔質膜51を直径300mmの円柱50に沿って、円柱の抱き角0°の状態に置き(図7(a)参照)、円柱へ中空糸多孔質膜を5回転させる折り曲げ動作を行った。耐屈曲性は、曲げ動作前後の中空糸多孔質膜51を光学顕微鏡で観察し、以下の基準で評価を行った。
A(良好):折り曲げ動作を500回繰り返しても中空糸多孔質膜に折れや潰れが見られない。
B(可):折り曲げ動作を100回繰り返しても中空糸多孔質膜に折れや潰れが見られない。
C(不可):折り曲げ動作の繰り返しが100回未満で、中空糸多孔質膜の一部に折れや潰れが発生した。
[9]エア間欠試験による耐久性評価
エア間欠試験による耐久性評価は以下のように測定した。まず、膜モジュールを図8のように接続した。膜モジュールの中空糸多孔質膜外側に水蒸気を流し、膜モジュール本体の温度を95℃以上に保持した。膜モジュールの中空糸多孔質膜内側の一方を圧力センサで封止し、もう一方から空気を間欠的(ON:200kPaの状態を10秒間、OFF:0kPaの状態を5秒間の1サイクル15秒)にかけた。この時、ONの状態で圧力センサが150kPa未満となった時点で膜に損傷が発生したと判断し、試験を停止した。試験開始から試験停止までのサイクル数で耐久性を以下の基準で評価を行った。
A(良好):サイクル数を10万回繰り返しても圧力センサが150kPa未満とならなかった。
B(可):サイクル数を1万回繰り返しても圧力センサが150kPa未満とならなかった。
C(不可):サイクル数を1万回未満で圧力センサが150kPa以上となった。
【0070】
(実施例1)
ポリスルホン(ソルベイ社製“ユーデル”P-3500)28質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)3.0質量%、N,N-ジメチルアセトアミド68質量%、水1質量%の合計100質量%を加熱溶解し、製膜原液とした。N,N-ジメチルアセトアミド30質量%、水70質量%の合計100質量%の溶液を芯液とした。
【0071】
製膜原液を紡糸口金部へ送り、オリフィス型二重管口金の外側の管より吐出し、芯液を内側の管より吐出した。吐出された製膜原液は調湿されたドライゾーン雰囲気を通過した後、凝固浴に導かれ、40℃の水洗工程を通過させ、得られた湿潤状態の中空糸多孔質膜を巻き取り束とした。中空糸多孔質膜の内径は718μm、膜厚は104μmであった。巻き取った中空糸多孔質膜の束を乾熱乾燥機で100℃、24時間乾燥を行い、乾燥状態の中空糸状多孔質膜を得た。得られた中空糸多孔質膜は、空隙率75%(dw:2.5g、V:8.0cm、ρ:1.24g/cm)、PVP含有率2.4質量%であった。また、中空糸多孔質膜の断面をSEM観察したところ、中空糸多孔質膜の垂直断面において、粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域が2層あることを確認した。SEM観察で得られた画像を解析した結果を表1に示す。
【0072】
ステンレス製ケース内径(5.3mm)を基準として、中空糸多孔質膜を充填率45%に一番近い数字になるように充填し、かつ中空糸多孔質膜の両端をポッティング材によりステンレス製ケース端部に固定し、ポッティング材の端部の一部を切断することで中空糸多孔質膜の両端を両面開口させ、膜モジュールAとした。
【0073】
得られた膜モジュールAにおける水蒸気透過速度測定と耐屈曲性評価を行った。結果を表2に示す。水蒸気透過性に優れるだけでなく、屈曲耐久性を兼ね備えた中空糸多孔質膜、および膜モジュールが得られた。
【0074】
(実施例2)
実施例1の製膜原液と芯液を用いて、内径886μm、膜厚87μmの中空糸多孔質膜を製膜したこと以外は、実施例1と同じ実験方法で膜モジュールBを得た。得られた中空糸多孔質膜は、空隙率74%(dw:2.6g、V:8.0cm、ρ:1.24g/cm)、PVP含有率2.5質量%であった。また、中空糸多孔質膜の断面をSEM観察したところ、中空糸多孔質膜の垂直断面において、粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域が2層あることを確認した。SEM観察で得られた画像を解析した結果を表1に示す。SEM観察で得られた画像を解析した結果を表1に示す。
【0075】
得られた膜モジュールBにおける水蒸気透過速度測定と耐屈曲性評価を行った。結果を表2に示す。水蒸気透過性に優れるだけでなく、屈曲耐久性を兼ね備えた中空糸多孔質膜、および膜モジュールが得られた。
【0076】
(実施例3)
実施例1の製膜原液と芯液を用いて、内径702μm、膜厚102μmの中空糸多孔質膜を製膜したこと以外は、実施例1と同じ実験方法で膜モジュールCを得た。得られた中空糸多孔質膜は、空隙率70%(dw:2.9g、V:7.7cm、ρ:1.24g/cm)、PVP含有率2.6質量%であった。また、中空糸多孔質膜の断面をSEM観察したところ、中空糸多孔質膜の垂直断面において、粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域が2層あることを確認した。SEM観察で得られた画像を解析した結果を表1に示す。
【0077】
得られた膜モジュールCにおける水蒸気透過速度測定と耐屈曲性評価を行った。結果を表2に示す。水蒸気透過性に優れるだけでなく、屈曲耐久性を兼ね備えた中空糸多孔質膜、および膜モジュールが得られた。
【0078】
(実施例4)
N,N-ジメチルアセトアミド20質量%、水80質量%の合計100質量%の溶液を芯液としたこと以外は実施例1と同じ実験方法で膜モジュールDを得た。得られた中空糸多孔質膜は、空隙率71%(dw:2.8g、V:7.8cm、ρ:1.24g/cm)、PVP含有率2.4質量%であった。また、中空糸多孔質膜の断面をSEM観察したところ、中空糸多孔質膜の垂直断面において、粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域が2層あることを確認した。SEM観察で得られた画像を解析した結果を表1に示す。
【0079】

得られた膜モジュールDにおける水蒸気透過速度測定と耐屈曲性評価を行った。結果を表2に示す。水蒸気透過性に優れるだけでなく、屈曲耐久性を兼ね備えた中空糸多孔質膜、および膜モジュールが得られた。
【0080】
(実施例5)
ポリスルホン(ソルベイ社製“ユーデル”P-3500)30質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)2.0質量%、N,N-ジメチルアセトアミド67質量%、水1質量%の合計100質量%を加熱溶解して調製した製膜原液を用いて、内径611μm、膜厚90μmの中空糸多孔質膜を製膜したこと以外は、実施例1と同じ実験方法で膜モジュールEを得た。得られた中空糸多孔質膜は、空隙率66%(dw:2.5g、V:5.9cm、ρ:1.24g/cm)、PVP含有率1.2質量%であった。また、中空糸多孔質膜の断面をSEM観察したところ、中空糸多孔質膜の垂直断面において、粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域が2層あることを確認した。SEM観察で得られた画像を解析した結果を表1に示す。
【0081】
得られた膜モジュールEにおける水蒸気透過速度測定と耐屈曲性評価を行った。結果を表2に示す。水蒸気透過性に優れるだけでなく、屈曲耐久性を兼ね備えた中空糸多孔質膜、および膜モジュールが得られた。
【0082】
(実施例6)
ポリスルホンソルベイ社製“ユーデル”P-3500)18質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)7.0質量%、N,N-ジメチルアセトアミド74質量%、水1質量%の合計100質量%を加熱溶解して調製した製膜原液を用いて中空糸多孔質膜を製膜したこと以外は、実施例1と同じ実験方法で膜モジュールFを得た。得られた中空糸多孔質膜は、空隙率80%(dw:2.5g、V:10.0cm、ρ:1.24g/cm)、PVP含有率1.2質量%であった。また、中空糸多孔質膜の断面をSEM観察したところ、中空糸多孔質膜の垂直断面において、粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域が2層あることを確認した。SEM観察で得られた画像を解析した結果を表1に示す。
【0083】
得られた膜モジュールFにおける水蒸気透過速度測定と耐屈曲性評価を行った。結果を表2に示す。水蒸気透過性に優れるだけでなく、屈曲耐久性を兼ね備えた中空糸多孔質膜、および膜モジュールが得られた。
【0084】
(実施例7)
ポリスルホンソルベイ社製“ユーデル”P-3500)16質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)7.0質量%、N,N-ジメチルアセトアミド76質量%、水1質量%の合計100質量%を加熱溶解して調製した製膜原液を用いて中空糸多孔質膜を製膜したこと以外は、実施例1と同じ実験方法で膜モジュールGを得た。得られた中空糸多孔質膜は、空隙率84%(dw:2.4g、V:11.6cm、ρ:1.24g/cm)、PVP含有率1.2質量%であった。また、中空糸多孔質膜の断面をSEM観察したところ、中空糸多孔質膜の垂直断面において、粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域が2層あることを確認した。SEM観察で得られた画像を解析した結果を表1に示す。
【0085】
得られた膜モジュールGにおける水蒸気透過速度測定と耐屈曲性評価を行った。結果を表2に示す。水蒸気透過性に優れるだけでなく、屈曲耐久性を兼ね備えた中空糸多孔質膜、および膜モジュールが得られた。
【0086】
(比較例1)
ポリスルホン(ソルベイ社製“ユーデル”P-3500)20質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)5質量%、N,N-ジメチルアセトアミド74質量%、水1質量%の合計100質量%を加熱溶解し、製膜原液とした以外は、実施例1と同様の方法で膜モジュールHを得た。得られた中空糸多孔質膜は、空隙率70%(dw:3.0g、V:8.0cm、ρ:1.24g/cm)、PVP含有率3.2質量%であった。また、中空糸多孔質膜の断面をSEM観察したところ、中空糸多孔質膜の垂直断面において、粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域が中央に1層のみであることを確認した。SEM観察で得られた画像を解析した結果を表1に示す。
【0087】
得られた膜モジュールHにおける水蒸気透過速度測定と耐屈曲性評価を行った。結果を表2に示す。多孔質膜が高空隙であったことから、水蒸気透過性は非常に優れるものであったが、屈曲耐久性が不十分なものであった。
【0088】
(比較例2)
ポリスルホン(ソルベイ社製“ユーデル”P-3500)28質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)14質量%、はN,N-ジメチルアセトアミド57質量%、水1質量%の合計100質量%を加熱溶解し、製膜原液とした。N,N-ジメチルアセトアミド35質量%、水65質量%の溶液を芯液とした。製膜原液を紡糸口金部へ送り、オリフィス型二重管口金の外側の管より吐出し、芯液を内側の管より吐出した。吐出された製膜原液は調湿されたドライゾーン雰囲気を通過した後、凝固浴に導かれ、80℃の水洗工程を通過させ、得られた湿潤状態の中空糸状多孔質膜を巻き取り束とした。中空糸多孔質膜の内径は644μm、膜厚は97μmであった。巻き取った中空糸多孔質膜の束を乾熱乾燥機で100℃、24時間乾燥を行い、乾燥状態の中空糸状多孔質膜を得た。得られた中空糸状多孔質膜は、空隙率69%(dw:2.6g、V:6.6cm、ρ:1.24g/cm)、PVP含有率6.3質量%であった。また、多孔質膜の断面をSEM観察したところ、中空糸状多孔質膜の垂直断面において、粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域が存在しないことを確認した。SEM観察で得られた画像を解析した結果を表1に示す。
【0089】
比較例1で得た中空糸多孔質膜を用いた以外は実施例1と同様の方法で膜モジュールIを作製し、水蒸気透過速度測定と耐屈曲性評価を行った。結果を表2に示す。優れた屈曲耐久性であったが、水蒸気透過性は低いものであった。
【0090】
(実施例8)
実施例7と同じ方法で中空糸膜の巻き取り束を作製後、中空糸膜2本に170dtexのポリエステル加工糸を螺旋状に巻き付け、カバリングを行った。その後は実施例7と同様の方法で、乾熱乾燥を行い乾燥状態の中空糸多孔質膜ユニットを得た。ステンレス製ケース内径(55mm)を基準として、得られた中空糸多孔質膜ユニットを充填率50%に一番近い数字になるように充填し、かつ中空糸多孔質膜の両端をポッティング材によりステンレス製ケース端部に固定し、ポッティング材の端部の一部を切断することで中空糸多孔質膜の両端を両面開口させ、膜モジュールJとした。切断したポッティング断面から中空糸多孔質膜の開口状況を観察した結果、中空糸膜につぶれはなく開口していることを確認した。
【0091】
なお、上記においてカバリングを行わずに中空糸多孔質膜を充填率50%に一番近い数字になるまで充填すると、切断したポッティング断面から中空糸多孔質膜の開口状況を観察した結果、一部の中空糸膜につぶれが発生していた。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【符号の説明】
【0094】
1:中空糸多孔質膜
2:粗大孔
3:粗大孔の長径
4:粗大孔の短径
5:粗大孔との外接長方形
6:外接長方形(I)と粗大孔(I)との接点
7:外接長方形(II)と粗大孔(II)との接点
10:粗大孔が略連続的に並列して層をなす領域
20:空調機
21:エアフィルター
22:冷却コイル
23:加熱コイル
24:膜モジュール
25:送風機
31:膜モジュール
32:燃料電池
33:パワーコントロールユニット
34:モーター
35:バッテリー
40:空気流量計
41:DRYガス入口
42:WETガス出口
43:膜モジュール
44:DRYガス出口
45:温・湿度測定箇所
46:WETガス入口
47:加湿容器
48:中空糸多孔質膜
50:円柱
51:中空糸多孔質膜
60:レギュレーター
61:DRYガス入口
62:WETガス
63:WETガス入口
64:WETガス出口
65:圧力計
66:中空糸多孔質膜
67:膜モジュール
68:電磁弁
69:インパルスユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8