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特開2024-177094携行型時計ケースの内部空間における湿度を測定するデバイス
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  • 特開-携行型時計ケースの内部空間における湿度を測定するデバイス 図1
  • 特開-携行型時計ケースの内部空間における湿度を測定するデバイス 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177094
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】携行型時計ケースの内部空間における湿度を測定するデバイス
(51)【国際特許分類】
   G04G 21/02 20100101AFI20241212BHJP
【FI】
G04G21/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024086806
(22)【出願日】2024-05-29
(31)【優先権主張番号】23178514.8
(32)【優先日】2023-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ヒシャム・ファラー
(72)【発明者】
【氏名】ピエルパスクヮーレ・トルトラ
【テーマコード(参考)】
2F002
【Fターム(参考)】
2F002AA12
2F002AB06
2F002AC01
2F002AC03
2F002GA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】携行型時計ケースの内部空間における湿度を測定するためのデバイスを提供する。
【解決手段】携行型時計20のケース21の内部空間210における湿度を測定するための測定デバイス10に関し、光学系22を収容するケース21を備える携行型時計20と、ケース21よりも外側にある管理モジュール30とを備え、光学系22は、光ビーム221を送るトランスミッター220と、光ビーム221が通るように意図されたマルチパスセル222と、光ビーム221がマルチパスセル222を通過した後に光ビーム221を受けるように意図されたレシーバー223とを備え、管理モジュール30は、光学系22と通信し、それによって送信されたデータを処理するように構成している処理ユニット31を備え、これによって、ケース21の内部空間210に存在し得る水蒸気による光ビーム221の吸収に基づいて、ケース21の内部空間210に存在する湿度を決める。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
携行型時計(20)のケース(21)の内部空間(210)における湿度を測定するための測定デバイス(10)であって、
光学系(22)を収容するケース(21)を備える携行型時計(20)と、
前記ケース(21)よりも外側にある管理モジュール(30)とを備え、
前記光学系(22)は、光ビーム(221)を送るトランスミッター(220)と、光ビーム(221)が通るように意図されたマルチパスセル(222)と、光ビーム(221)が前記マルチパスセル(222)を通過した後に光ビーム(221)を受けるように意図されたレシーバー(223)とを備え、
前記管理モジュール(30)は、前記光学系(22)と通信し、それによって送信されたデータを処理するように構成している処理ユニット(31)を備え、
これによって、前記ケース(21)の前記内部空間(210)に存在し得る水蒸気による光ビーム(221)の吸収に基づいて、前記ケース(21)の前記内部空間(210)に存在する湿度を決める
ことを特徴とする測定デバイス(10)。
【請求項2】
前記処理ユニット(31)は、光ビーム(221)を送る又は送ることを止めるように前記トランスミッター(220)を制御するように構成している
ことを特徴とする請求項1に記載の測定デバイス(10)。
【請求項3】
前記トランスミッター(220)は、垂直空洞面発光レーザー又は外部空洞面発光レーザーである
ことを特徴とする請求項1に記載の測定デバイス(10)。
【請求項4】
前記管理モジュール(30)は、前記トランスミッター(220)及び前記レシーバー(223)にパワー供給するように構成しているパワーソース(33)を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の測定デバイス(10)。
【請求項5】
前記パワーソース(33)は、携行型時計(20)の内部空間(210)に組み込まれている
ことを特徴とする請求項1に記載の測定デバイス(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携行型時計(例、腕時計、懐中時計)の分野において利用されるパラメーターを測定するためのデバイス、特に、携行型時計ケースの内部空間における湿度を測定するためのデバイス、に関する。
【0002】
特に、本発明は、携行型時計ケースの内部空間における湿度を測定するためのデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
今日において、あらゆる携行型時計は、防水性であるように、すなわち、ケースの内部空間内に液体の形で水が浸透することを耐えるように、設計されている。このことは、水密性にもよるが、携行型時計を湿気の多い環境において用いたり、水に浸したりすることができることを意味する。例えば、ダイビングウォッチは、そのケースの壁に与えられる水が発生させる圧力に少なくとも水深100mまで耐えるように設計されている。
【0004】
防水性を確実にするために、携行型時計には、風防、ベゼル、携行型時計の裏部、リュウズ、プッシュボタンのような特定のケースコンポーネントのアセンブリーインターフェイスに配置されるジョイントが取り付けられる。
【0005】
しかし、ジョイントの機械的性質は、時間の経過に応じて、また、携行型時計を用いる環境における気候条件に応じて変わり、このことによって、防水性が低下してしまうことがある。こうなると、携行型時計は水を透過し、内部空間やコンポーネントの表面上に結露が発生し、金属コンポーネントの酸化やポリマーコンポーネントの劣化を発生させてしまうことがある。
【0006】
また、ポリマー材料によって作られたジョイント及び/又は特定の外側部品は、浸透される可能性がある。すなわち、携行型時計がある環境に存在する特定の量の水蒸気を通過させて、携行型時計の内側と外側が平衡状態となることがある。この平衡には、携行型時計の構造やジョイントの品質、そして、環境に応じて、数時間又は数週間で到達し得る。この場合、携行型時計に存在する蒸気の量は、着用者や経時的な外気温の違いに応じて変動し得る。
【0007】
使用するポリマー材料の防水性の低下や浸透性の大幅な増加のリスクを抑えるために、携行型時計に対して定期的に保守作業をすることが薦められ、この保守作業の際には携行型時計を開く必要がある。携行型時計を開くことは、時計技師が行う必要があり、あらゆるジョイントを系統立って交換する必要があるため、比較的高コストである。
【0008】
このため、湿度測定デバイスが開発され、携行型時計ケースに組み込まれて、ケースを開けることなく、湿度を測定し、水や水蒸気の存在に関連する異常を検出するようになった。
【0009】
例えば、相対湿度を含む様々な環境パラメーターの値を測定し記録することができる小型の電子モジュールの形態の測定デバイスがある。このような電子モジュールは、専用のセンサーを介して、携行型時計ケース内における湿度を測定することができる。そして、測定された相対湿度値を、携行型時計のドッキングステーションへと無線で送ることができる。
【0010】
しかし、このような測定デバイスの課題の1つは、電池のようなパワーソースを必要とすることである。したがって、これらのデバイスは、機械式携行型時計や大きさが小さい携行型時計にはまったく適していない。また、電子式携行型時計の場合、これらのデバイスは自律性を制約したり、大容量の電池又は充電池の使用を必要としたりすることがあり、このことは、携行型時計ケース内の空間の体積には相容れないことがある。
【0011】
なお、この文書における防水性の概念は、通常、液体か蒸気の形態を問わず、水に対する耐性を意味することに留意すべきである。
【0012】
「湿度」という用語は、空気の相対湿度を意味する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような状況で、本発明は、携行型時計ケースの内部空間における湿度を測定するための測定デバイスを提供することによって、前記課題を解決する。この測定デバイスは、光学系を収容するケースを備える携行型時計と、前記ケースよりも外側にある管理モジュールとを備え、前記光学系は、光ビームトランスミッターと、光ビームが通るように意図されたマルチパスセルと、光ビームが前記マルチパスセルを通過した後に光ビームを受ける光ビームレシーバーとを備え、前記管理モジュールは、前記光学系と通信し、それによって送信されたデータを処理するように構成している処理ユニットを備え、これによって、前記ケースの前記内部空間に存在し得る水蒸気による光ビームの吸収に基づいて、前記ケースの前記内部空間に存在する湿度を決める。
【0014】
特定の実施形態において、本発明は、さらに、単独で、又は技術的に可能な任意の組み合わせで組み合わせることによって、以下の特徴のうちの一又は複数を含むことができる。
【0015】
特定の実施形態において、前記処理ユニットは、光ビームを送る又は送ることを止めるように前記トランスミッターを制御するように構成している。
【0016】
特定の実施形態において、前記トランスミッターは、垂直空洞面発光レーザー又は外部空洞面発光レーザーである。
【0017】
特定の実施形態において、前記管理モジュールは、前記トランスミッター及び前記レシーバーにパワー供給するように構成しているパワーソースを備える。
【0018】
特定の実施形態において、前記パワーソースは、携行型時計の内部空間に組み込まれている。
【0019】
図1及び2を参照しながら、例示的な実施形態として与えられる以下の詳細な説明を読むことによって、本発明の他の特徴及び利点が明らかになる。なお、これらの実施形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る携行型時計ケースの内部空間における湿度を測定するためのデバイスを概略的に示している。
図2】本発明に係る携行型時計ケースの内部空間における湿度を測定するためのデバイスを概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1及び2は、空洞リングダウン分光法によって携行型時計ケースの内部空間210内における湿度を測定するためのデバイス10を概略的に示している。ケースの内部空間は、よく知られている方法によって、風防、裏部及びミドル部によって定められ、計時器用ムーブメントを収容する。
【0022】
本発明に係る測定デバイス10は、携行型時計20と、前記携行型時計20のケース21内に収容される光学系22と、前記ケース21よりも外側にある管理モジュール30とを備える。管理モジュール30は、ケース21の内部空間210に収容されていないという意味で、ケース21の「外部」であるとされる。
【0023】
管理モジュール30は、処理ユニット31を備え、この処理ユニット31は、光学系22と通信し、それによって送信されたデータを処理するように構成している。光学系22と管理モジュール30は、好ましくは、無線手段によって通信することができる。
【0024】
有利なことに、管理モジュール30は、さらに、以下でより詳細に説明するように、処理されたデータの表現を表示するように構成している表示メンバー32を備えることができる。
【0025】
光学系22は、例えば、ミドル部に、携行型時計20の表盤に、又はプレートやブリッジのような計時器用ムーブメントの構造に、固定される。図1及び2の概略図からわかるように、光学系22は、光ビーム221を送るトランスミッター220と、光ビーム221が通るように意図されているマルチパスセル(MPC)と、光ビーム221がマルチパスセル222を通過した後にその光ビーム221を受けるように意図されているレシーバー223とを備える。
【0026】
なお、このような光学系22は、光ビーム221が、光ファイバや誘電体導波路のような光学的ガイドによってガイドされることなく、すなわち、前記ケース21の内部空間210の媒体ではない媒体に閉じ込められることなく、トランスミッター220とレシーバー223の間を移動するように構成している。
【0027】
光ビーム221は、この場合は空気である携行型時計20の内部空間210の媒体において伝播しているときに、前記媒体と相互作用し、これによって、この光ビーム221の性質が変わる。
【0028】
特に、本発明において、このデバイスは、携行型時計20のケース21の内部空間210に存在する湿度を、ケース21の内部空間210に存在し得る水蒸気による光ビーム221の吸収の変化を評価することによって、測定することを目指す。なお、吸光度が測定され、水分子、特に水蒸気、の吸収係数が知られているために、内部空間210の空気中に存在する水の濃度を推定することができる。
【0029】
トランスミッター220は、マルチパスセル222を通してレシーバー223に光ビーム221を送ることができるコリメート光源を備える。例えば、トランスミッター220は、外部空洞面発光レーザーであり、これは、外部空洞ダイオードレーザー(ECDL)、垂直空洞面発光レーザー(VCSEL)とも呼ばれている。
【0030】
有利なことに、トランスミッター220は、水蒸気によって吸収される波長のうちの1つに対応する波長、特に968.3nm、1388nm、2741.41nm、2662.48nm又は6270.77nmである波長を有する光ビーム221を送るように構成している。
【0031】
また、トランスミッター220は、処理ユニット31と通信するように構成している。特に、処理ユニット31は、トランスミッター220に命令を送って、光ビーム221を送ったり、光ビーム221を送ることを止めるように構成している。
【0032】
マルチパスセル222は、図1及び2に概略的に示しているように、光ビーム221の波長で反射性を有する少なくとも2つの反射要素224を備え、これは、例えば、酸化アルミニウムや二酸化チタンによって作られる。トランスミッター220及び/又は反射要素224の構成のおかげで、両方の反射要素224によって光ビーム221が複数回反射する。したがって、光ビーム221の光路は、かなり長くなり、このおかげで、空間に存在し得る水蒸気による前記光ビーム221の吸収を大きくして、測定の感度を向上させることが可能になる。特に、光路の長さが長いほど、測定デバイス10による湿度の測定が正確になる。例として、マルチパスセル222は、光路が、数cm、例えば10cm、から、数m、例えば10m、までであるように構成していることができる。
【0033】
レシーバー223は、フォトダイオードを備える光学的光センサーを備える。また、このレシーバー223は、さらに、光ビーム221の強度に関連するアナログ値を、デジタル値のような処理ユニット31によって用いることができるデータへと変換するためのアナログ/デジタル変換器を備える。なお、レシーバー223は、複数の光学的センサーを備えることができ、これは、これらの光学的センサーからの信号の差を増幅して、光ビーム221の相対強度ノイズの影響を低減させたり、アナログ/デジタル変換器のダイナミックレンジを最適化したりすることを可能にする。また、レシーバー223の前に光バンドパスフィルターを配置して、トランスミッター220が送った波長のみを受けるようにすることも可能である。
【0034】
レシーバー223は、処理ユニット31と通信して、この処理ユニット31へと、トランスミッター220が送った光ビーム221の強度を表すデータを送るようにするように構成している。
【0035】
処理ユニット31は、ハードウェア及びソフトウェア資源、特にメモリー要素と連係する少なくとも1つのプロセッサー、を備える集積回路であることができる。この処理ユニット31は、携行型時計20のケース21の内部空間210内における湿度の測定値を決めることに寄与するために、コンピュータプログラムを実装するための命令を実行することができる。
【0036】
特に、処理ユニット31は、上記のようにトランスミッター220を制御することができ、ケース21の前記内部空間210に存在し得る水蒸気による前記光ビーム221の吸収を評価するように構成している。特に、処理ユニット31は、信号変調動作と同期検出動作を利用して信号処理動作を行うことができる。処理ユニット31には、例えば、その記憶要素において、光ビーム221の強度値、及び/又は水蒸気による前記光ビーム221の吸収係数との間の一又は複数のルックアップ表があり、これには、光ビーム221の強度値に関連づけられた湿度値、及び/又は吸収係数が含まれ、これによって、ケース21の内部空間210内における湿度を判断する。
【0037】
図1に示しているように、管理モジュール30は、例えば有線又は無線のパワー供給要素を利用して、光学系、特にトランスミッター220とレシーバー223、にパワー供給するように構成しているパワーソース33を備えることができる。例として、有線パワー供給要素は、携行型時計20のケース21に配置されたプラグ又はコネクターにそれぞれつながるように意図されたコネクター又はプラグによってそれぞれ構成している。また、無線パワー供給要素は、電磁誘導要素を備えることができる。
【0038】
表示デバイス32は、アナログ又はデジタルであることができる。特に、この表示デバイス32は、有利なことに、処理ユニット31によって決められる湿度の値を表す複数の別個の視覚的信号を表示することができる。例として、この表示デバイス32は、表示画面、発光スケール、又は円弧状に配置された値スケールにおいて移動するように構成している針などによって構成していることができる。
【0039】
なお、典型的には、上において考えられた実施形態と実装例は、例として説明しており、したがって、他の代替的実施形態と実装例も考えることができる。
【0040】
特に、パワーソース33は、図2に示しているように、管理モジュール30内ではなく、携行型時計20の内部空間210内に搭載することができる。この場合に、このようなパワーソース33は、比較的寸法が小さい電池又は充電池によって形成することができる。本発明のこの例示的な実施形態は、電子式携行型時計に好適に適用可能である。なぜなら、パワーソース33を構成する電池や充電池は、計時器用ムーブメントにパワー供給する電池又は充電池であることができるからである。
【0041】
また、管理モジュール30は、処理ユニット31によって処理されるデータを表す情報を、処理されたデータの表現を表示することができる、スマートフォンやタブレットのような電子デバイスと、通信するように構成していることができる。
【符号の説明】
【0042】
10 測定デバイス
20 携行型時計
21 ケース
22 光学系
30 管理モジュール
31 処理ユニット
32 表示メンバー
33 パワーソース
210 内部空間
220 トランスミッター
221 光ビーム
222 マルチパスセル
223 レシーバー
224 反射要素
図1
図2
【外国語明細書】