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特開2024-177103石炭間の相溶性評価方法、コークスの品質の予測方法、コークスの製造方法及び石炭の溶解度パラメータの取得方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177103
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】石炭間の相溶性評価方法、コークスの品質の予測方法、コークスの製造方法及び石炭の溶解度パラメータの取得方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 57/04 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
C10B57/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090257
(22)【出願日】2024-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2023094374
(32)【優先日】2023-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】丹所 昂平
(72)【発明者】
【氏名】石田 智治
(72)【発明者】
【氏名】菅原 誠也
【テーマコード(参考)】
4H012
【Fターム(参考)】
4H012MA01
(57)【要約】
【課題】簡易かつ高精度にコークス強度の予測を行うことを可能にする、石炭間の相溶性評価方法を提供する。
【解決手段】2種の石炭間の相溶性を評価する方法であって、前記2種の石炭の溶解度パラメータを取得し、前記2種の石炭の前記溶解度パラメータ間の距離に基づいて前記2種の石炭間の相溶性を評価する、石炭間の相溶性評価方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種の石炭間の相溶性を評価する方法であって、
前記2種の石炭の溶解度パラメータを取得し、
前記2種の石炭の前記溶解度パラメータ間の距離に基づいて前記2種の石炭間の相溶性を評価する、石炭間の相溶性評価方法。
【請求項2】
前記溶解度パラメータがハンセン溶解度パラメータである、請求項1に記載の石炭間の相溶性評価方法。
【請求項3】
前記2種の石炭が、前記溶解度パラメータを取得する前に熱処理を行った石炭である、請求項1に記載の石炭間の相溶性評価方法。
【請求項4】
前記2種の石炭が、前記溶解度パラメータを取得する前に熱処理を行った石炭である、請求項2に記載の石炭間の相溶性評価方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の石炭間の相溶性評価方法を用いて評価した石炭間の相溶性に基づいてコークスの品質を予測する、コークスの品質の予測方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の石炭間の相溶性評価方法を用いて評価した石炭間の相溶性に基づいて石炭の配合を決定する、コークスの製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載のコークスの品質の予測方法により予測したコークスの品質に基づいて石炭の配合を決定する、コークスの製造方法。
【請求項8】
石炭の溶解度パラメータの取得方法であって、
前記石炭を成型して錠剤を作製し、
前記錠剤に溶媒を浸透させて浸透時間を測定し、
前記浸透時間に基づいて前記石炭と前記溶媒の親和性を判定し、
前記親和性に基づいて前記溶解度パラメータを導出する、石炭の溶解度パラメータの取得方法。
【請求項9】
前記石炭が、前記溶解度パラメータを取得する前に熱処理を行った石炭である、請求項8に記載の石炭の溶解度パラメータの取得方法。
【請求項10】
請求項6に記載のコークスの製造方法であって、
前記溶解度パラメータがハンセン溶解度パラメータであり、
前記配合の決定において、配合されるすべての2種の石炭の組合せについて、
前記ハンセン溶解度パラメータ間の距離ΔHSPが12.3(MPa)0.5未満
となるように、配合される前記石炭を選定する、コークスの製造方法。
【請求項11】
請求項6に記載のコークスの製造方法であって、
前記溶解度パラメータがハンセン溶解度パラメータであり、
前記配合の決定において、配合されるすべての2種の石炭の組合せについて、
ギーセラープラストメーター法による最高流動度の常用対数値の差の絶対値ΔLogMFが0.67log/ddpm以下、
ビトリニット平均最大反射率の差の絶対値ΔRoが0.05%以上、かつ
前記ハンセン溶解度パラメータ間の距離ΔHSPが4.2(MPa)0.5以下
となるように、配合される前記石炭を選定する、コークスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭間の相溶性評価方法、コークスの品質の予測方法、コークスの製造方法及び石炭の溶解度パラメータの取得方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークスは、石炭を所定の粒度に粉砕してから、乾留炉において無酸素下で加熱することで製造される。品質の安定化のため、前記石炭としては、複数の石炭銘柄を配合した配合炭が用いられる。
【0003】
このようにして製造されたコークスは、高炉内において鉄鉱石の還元剤、浸炭源、熱源として機能する。その際、コークスの多孔質構造によって、高炉の通気性及び通液性が確保される。そのため、コークスは搬送過程及び高炉投入過程において崩壊又は粉化が生じない程度に高い強度を有している必要がある。
【0004】
そして、コークスの強度には、原料として使用する石炭の性質が大きく影響する。
【0005】
そこで、配合炭に使用される石炭の物性から、前記配合炭を乾留して得られるコークスの強度を予測するため、様々な手法が検討されている。
【0006】
従来技術として、石炭のビトリニット平均最大反射率(以下、Roということがある)又はギーセラープラストメーター法による最高流動度(以下、MFということがある)を用いる方法がある。これらの石炭の物性値は乾留後のコークス強度と関係があることが経験的に知られている。そこで、コークスの原料として選定した石炭銘柄ごとのRo及びMF並びに蓄積された操業データを用いて回帰式を作成することにより、コークス強度を予測する試みが行われている。
【0007】
また、特許文献1には、石炭を熱処理して得られるセミコークスの表面張力(以下、γということがある)を求め、前記表面張力の差(以下、Δγということがある)に基づいて石炭間の接着性を評価する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2013/145677号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Julio C. Zuaznabar-Gardonaら, Journal of Molecular Liquids 294 (2019) 111646
【非特許文献2】高林ら 石油技術学会誌 第85巻 第2号 p.124-128(2020)
【非特許文献3】山本博志ら 化学工業 第61巻 第4号 p.310-317(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記Ro又はMFを利用したコークス強度の予測を試みた場合、実際のコークス強度がしばしば予測から乖離することが知られていた。
【0011】
また、前記特許文献1の方法で表面張力から石炭間の接着性を評価し、前記接着性に基づいてコークス強度を予測する試みも行われていた。しかし、この方法は実験操作が複雑であり、測定にかかる時間が長いという問題もあった。
【0012】
本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであって、簡易かつ高精度にコークス強度の予測を行うことを可能にする、石炭間の相溶性評価方法を提供することを目的とする。また、前記石炭間の相溶性評価方法に用いることができる、石炭の溶解度パラメータの取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明の要旨は次のとおりである。
【0014】
[1] 2種の石炭間の相溶性を評価する方法であって、
前記2種の石炭の溶解度パラメータを取得し、
前記2種の石炭の前記溶解度パラメータ間の距離に基づいて前記2種の石炭間の相溶性を評価する、石炭間の相溶性評価方法。
【0015】
[2] 前記溶解度パラメータがハンセン溶解度パラメータである、前記[1]に記載の石炭間の相溶性評価方法。
【0016】
[3] 前記2種の石炭が、前記溶解度パラメータを取得する前に熱処理を行った石炭である、前記[1]~[2]のいずれかに記載の石炭間の相溶性評価方法。
【0017】
[4] 前記[1]~[3]のいずれかに記載の石炭間の相溶性評価方法を用いて評価した石炭間の相溶性に基づいてコークスの品質を予測する、コークスの品質の予測方法。
【0018】
[5] 前記[1]~[3]のいずれかに記載の石炭間の相溶性評価方法を用いて評価した石炭間の相溶性に基づいて石炭の配合を決定する、コークスの製造方法。
【0019】
[6] 前記[4]に記載のコークスの品質の予測方法により予測したコークスの品質に基づいて石炭の配合を決定する、コークスの製造方法。
【0020】
[7] 石炭の溶解度パラメータの取得方法であって、
前記石炭を成型して錠剤を作製し、
前記錠剤に溶媒を浸透させて浸透時間を測定し、
前記浸透時間に基づいて前記石炭と前記溶媒の親和性を判定し、
前記親和性に基づいて前記溶解度パラメータを導出する、石炭の溶解度パラメータの取得方法。
【0021】
[8] 前記石炭が、前記溶解度パラメータを取得する前に熱処理を行った石炭である、前記[7]に記載の石炭の溶解度パラメータの取得方法。
【0022】
[9] 前記[5]に記載のコークスの製造方法であって、
前記溶解度パラメータがハンセン溶解度パラメータであり、
前記配合の決定において、配合されるすべての2種の石炭の組合せについて、
前記ハンセン溶解度パラメータ間の距離ΔHSPが12.3(MPa)0.5未満
となるように、配合される前記石炭を選定する、コークスの製造方法。
【0023】
[10] 前記[5]に記載のコークスの製造方法であって、
前記溶解度パラメータがハンセン溶解度パラメータであり、
前記配合の決定において、配合されるすべての2種の石炭の組合せについて、
ギーセラープラストメーター法による最高流動度の常用対数値の差の絶対値ΔLogMFが0.67log/ddpm以下、
ビトリニット平均最大反射率の差の絶対値ΔRoが0.05%以上、かつ
前記ハンセン溶解度パラメータ間の距離ΔHSPが4.2(MPa)0.5以下
となるように、配合される前記石炭を選定する、コークスの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、石炭間の相溶性評価方法を提供することができ、これに基づいて、簡易かつ高精度にコークス強度の予測を行うことができる。また、前記石炭間の相溶性評価方法に用いることができる、石炭の溶解度パラメータの取得方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】乾留した錠剤成型コークスの密度と、圧壊強度との関係を示した図である。
図2】ΔHSPとコークスの圧壊強度との関係を示したグラフである。
図3】加重平均強度と実際の測定で得られた強度をΔHSPに対してプロットしたグラフである。
図4】コークスの嵩密度と圧壊強度との関係を示すグラフである。
図5図2から得られた回帰線による予測強度と重回帰分析の回帰式による予測強度とを比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態の例について具体的に説明する。なお、以下の説明は、本発明の実施形態を例示的に示すものであり、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0027】
[石炭間の相溶性]
先述の通り、コークスは、石炭を乾留することで得られる。この過程で石炭は一度軟化溶融状態となり、その後軟化溶融状態の石炭は発泡を伴い再固化する。そして、石炭が軟化溶融した時に溶け合う性質を石炭間の相溶性と呼ぶ。
【0028】
石炭間の相溶性が低いと、軟化溶融状態となった各石炭が混ざり合わない。そして、再固化によってコークスに界面が残る。このとき、界面に起因して割れが生じることでコークスの強度が低くなる。そのため、高強度コークスを実現するためには、石炭間の相溶性が高くなるように石炭銘柄を選定して、原料として配合する必要がある。
【0029】
[溶解度パラメータ]
溶解度パラメータ(以下、SPとも記す)は、分子構造と表面エネルギーから計算される表面状態の指標である。溶解度パラメータ間の距離が近い物質同士は、似た表面状態であることから良く溶け合う。
【0030】
本発明者らは、溶解度パラメータを用いて石炭間の相溶性を評価することを着想した。溶解度パラメータが近い石炭同士を配合することで、乾留の際に軟化溶融過程で石炭同士が良く溶け合うため、より高強度のコークスを得ることができる。つまり、石炭の溶解度パラメータを利用することで、コークス強度を予測することができ、また、高強度のコークスを得るための石炭の配合を決定することができる。
【0031】
前記溶解度パラメータを表す方法としては特に限定されず、4次元直交座標系における点、3次元直交座標系における点、2次元直交座標系における点、1次元の数値などの好ましい指標を採用すればよい。しかし、溶解度パラメータの次元数を増やすことで、石炭の軟化溶融状態における表面状態を決定するより多くの要因を反映させることができ、より詳細に前記表面状態を比較することができる。この観点から、前記溶解度パラメータは多次元直交座標系における点として表されることが好ましい。また、溶解度パラメータの次元数が3であることにより、表面状態を決定する要因を十分に反映できるほか、後述する溶解球法を利用した座標幾何学的な評価が可能となる。この観点から、前記溶解度パラメータは3次元直交座標系における点として表されることがより好ましい。以下、3次元直交座標系を単に3次元空間という場合がある。また、前記3次元空間における点として表される溶解度パラメータを3次元SPと呼ぶ場合がある。
【0032】
溶解度パラメータとしては、例えば、1次元の数値として表されるヒルデブランドの溶解度パラメータ、及び3次元SPであるハンセン溶解度パラメータ(以下、HSPと呼ぶ場合がある)が挙げられるが、これに限定されるものではない。ここで、HSPは、分散力項(δD)、分極項(δP)、及び水素結合項(δH)を軸とする3次元空間における点として表される溶解度パラメータである。以下、δD、δP及びδHを軸とする3次元空間をハンセン空間という場合がある。
【0033】
3次元SPの中でも、HSPは他の溶解度パラメータに比べてデータベースが充実している。このデータベースを用いることで、多くの溶媒を用いて簡易に石炭の溶解度パラメータを導出することができ、石炭の溶解度パラメータの精度が向上する。そのため、前記溶解度パラメータは、HSPであることが好ましい。
【0034】
上述した以外の溶解度パラメータとしては、HSPを基にして、HSPの3つの項のうち少なくとも1つの項に補正を行って導出される溶解度パラメータが挙げられる。この時、補正後の溶解度パラメータは3次元SPであってもよく、3次元SP以外の溶解度パラメータであってもよい。前記補正の具体的な例としては、δHをドナー項とアクセプター項に分けることが挙げられる。この補正により導出される溶解度パラメータは、δD、δP、ドナー項及びアクセプター項を軸とする4次元直交座標系における点として表される。
【0035】
溶解度パラメータ間の距離は、溶解度パラメータが1次元の数値として表される場合には、2つの溶解度パラメータの差の絶対値である。前記距離は、溶解度パラメータが多次元直交座標系における点として表される場合には、前記多次元直交座標系における2点間の距離である。
【0036】
以下、具体的な実施形態に基づいて本発明を説明する。なお、以下の実施形態及び実施例では、主に前記溶解度パラメータがHSPである場合を例として説明するが、上述したように本発明はHSPに限らず任意の溶解度パラメータに適用可能である。
【0037】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態においては、2種の石炭に対して石炭間の相溶性を評価する。
【0038】
[石炭間の相溶性評価方法]
本発明によれば、2種の石炭間の相溶性を以下の手順により評価することができる。
手順(1)石炭の溶解度パラメータを取得する。この時、前記2種の石炭ごとに溶解度パラメータを別々に取得してもよく、同時に取得してもよい。
手順(2)得られた2つの溶解度パラメータ間の距離に基づいて、石炭間の相溶性を評価する。
【0039】
[手順(1):石炭の溶解度パラメータを取得する手順]
以下、本発明に係る石炭の溶解度パラメータを取得する手順について説明する。
【0040】
本手順(1)は、例えば、以下の操作を備える。
手順(A):石炭と参照物質との親和性を判定する。
手順(B):前記親和性に基づいて石炭の溶解度パラメータを導出する。
【0041】
特に、前記溶解度パラメータが3次元SPである場合、前記手順(B)において、後述する溶解球法を好適に使用することができる。
【0042】
[手順(A):親和性を判定する手順]
本手順では、石炭と参照物質との親和性を、統一された基準を用いて判定する。
【0043】
本発明においては、前記参照物質として溶媒を用いる。使用する溶媒の種類は限定されないが、溶解度パラメータのデータベースが存在していることから、低分子の純溶媒であることがよい。
【0044】
前記溶媒は、複数種類であることが好ましく、10種類以上であることがより好ましく、15種類以上であることがさらに好ましい。より多くの溶媒を選定することで、溶解度パラメータを導出する精度がより高くなる。
【0045】
また、前記複数種類の溶媒が様々な物性の溶媒からなるように選定することがよい。例えば、水素結合を有する水及び水溶液、無極性有機溶媒並びに極性有機溶媒などの溶媒から万遍なく選定することがよい。無極性有機溶媒としては、例えば炭化水素系の有機溶媒が挙げられる。極性有機溶媒としては、例えば、ホルミル基、カルボニル基、ヒドロキシル基又はアミノ基などの官能基を持つ有機溶媒が挙げられる。これによって、溶解度パラメータが互いに異なる溶媒と石炭との親和性を評価することができるため、石炭の溶解度パラメータを導出する精度が向上する。例えば、溶解度パラメータとしてHSPを使用する場合、δP及びδHの値は溶媒ごとの違いが大きいため、様々な物性の溶媒を選定することで、これらの値を分散させることができる。
【0046】
より具体的には、下記(a)、(b)及び(c)の全てを少なくとも1つ含むように選定された複数種類の溶媒を用いることが好ましい。
(a)水または水溶液
(b)無極性有機溶媒
(c)極性有機溶媒
また、溶媒として、混和できる二種以上の溶媒を任意の割合で混合した混合溶媒を1つ以上用いてもよい。この場合、前記混合溶媒の溶解度パラメータの各項の値は、混和した溶媒の溶解度パラメータの対応する項の値と混合比から計算される加重平均として求めることができる。混合比を調整することで混合溶媒の溶解度パラメータを調整することができるため、混合溶媒を用いれば、溶解度パラメータを分散させることが容易となる。
【0047】
さらに、前記溶解度パラメータとして3次元SPを使用する場合、前記溶媒の3次元SPが3次元空間上に適度に分散するように前記溶媒を選定することがよい。これによって、溶解球法を用いて、より精密に石炭の3次元SPを導出することができる。
【0048】
特に溶解度パラメータとしてHSPを使用する場合、石炭のδHとして想定される数値範囲及びその周辺に、各溶媒のδHが万遍なく存在するように溶媒を選定することがよい。これは、以下のような理由による。まず、δHは水素結合に由来する成分であるため、石炭においては分子末端のヒドロキシル基及びカルボキシル基などの官能基と関係すると考えられる。そして、これらの官能基は乾留による炭素分の骨格構造の変化により縮合・脱離等を引き起こす場合が多いことから、δHは測定するサンプルの分子構造に特に影響する項であると考えられる。
【0049】
石炭と前記溶媒との親和性を求める場合、石炭が黒色であることから、溶解の有無で親和性を判定することは難しい。そこで、具体的な手順(A)の方法として、後述する浸透時間法又は分散法を用いることができる。また、上記方法以外の方法として、濡れ面積又は接触角などの値を用いて溶媒が石炭への濡れ性を有するか否かを調べ、前記濡れ性に基づいて親和性を判定する方法等が挙げられる。
【0050】
[浸透時間法]
本手法は、石炭を成型した錠剤に溶媒を滴下し、前記溶媒の浸透に要した時間の長さによって溶媒との親和性を判定する方法である。本手法の利点としては、実験操作が簡便であること、及び所要時間が短いことが挙げられる。さらに、実験操作が簡便なため、実験者が熟練した技能を有する必要がなく、誰でも精度よく測定を行うことができるという利点もある。例えば、特許文献1に記載の方法により表面張力を求め、前記表面張力から石炭間の接着性を評価してコークス強度を予測する場合、実験操作が複雑になる。特に、フィルム・フローテーション法を用いて表面張力を測定する場合、石炭の粒子を液体の表面に落下させるという操作を正確に行わなければならないため、実験操作の複雑さは顕著であり、また、工程数が多いために時間がかかる。これに対し、浸透時間法を用いて親和性を判定し、石炭間の相溶性を評価する方法は、実験操作が簡便である。さらに、浸透時間法を用いれば、測定時間を1~2分以内とすることができる場合もあるため、親和性を判定する他の方法よりも測定時間を短縮することが可能である。以下、本手法の具体的な手順を説明する。
【0051】
(粉砕)
前記成型に際して、前記石炭を粉砕することが好ましい。粉砕処理は任意であるが、粉砕を行うことで、石炭の粒度を細かくすることができ、錠剤を成型した際に隙間の分布が均一になる。そうすると、浸透時間をより正確に測定することができる。
【0052】
(成型)
次いで、石炭を成型して錠剤を作製する。
【0053】
前記成型に用いる石炭の粒度は特に限定されない。しかし、粒度調整された石炭を用いるという観点から、石炭の粒度を、好ましくは150μm以下とし、より好ましくは50μm以下とする。なお、石炭の粒度がXμm以下であるとは、石炭のすべての粒子が目開きXμmの篩を通過することを指し、石炭の粒度がYμm超であるとは、石炭のすべての粒子が目開きYμmの篩の篩上に残ることを指す。
【0054】
成型方法としては任意の方法を使用することができるが、好適に使用できる成型方法としては、前記石炭を金型に充填し、加圧成型して錠剤を作製する方法が挙げられる。前記錠剤の形状としては、例えば円柱状及び角型などの形状が挙げられる。ここで前記形状は、滴下面として平面を有する形状であることが好ましい。また、加圧成型の時の圧力のかかり方をより均等にすることができるという観点から、前記形状は円柱状であることがより好ましい。
【0055】
成型条件について特に制限はないが、密度分布をより均一にして、測定の正確性を向上させるため、成型圧力が100MPa以上であることが好ましい。同様の理由から、錠剤の高さは5mm以上15mm以下とすることが好ましい。また、同様の理由から、錠剤を円柱状とし、成形体の直径を10mm以上20mm以下とすることが好ましい。さらに、錠剤の質量は0.5g以上2.0g以下とすることが好ましい。
【0056】
(溶媒の浸透)
次に、成型した錠剤に、溶媒を浸透させて浸透時間を測定する。前記浸透は、溶媒を錠剤に滴下する方法により行うことができる。溶媒の滴下量を多くすることで、浸透が完了するまでの時間が長くなり、石炭と溶媒の親和性の判定を正確に実施することができるため、前記滴下量は2μL以上とすることが好ましい。他方で、濡れ広がりの影響等により浸透時間にばらつきが生じることを防ぐため、前記滴下量は10μL以下とすることが好ましい。
【0057】
前記浸透時間の測定方法は特に限定されないが、錠剤表面から溶媒が消滅するまでの時間を肉眼で確認してよい。
【0058】
(親和性判定)
最後に、前記浸透時間に基づいて、石炭と溶媒の親和性を判定する。具体的には、前記浸透時間が基準値以下の場合は親和性「良」、前記浸透時間が基準値を超えた場合は親和性「否」と判定する。前記基準値は、滴下した溶媒の種類又は実験結果によって任意に決定することができるが、溶解度パラメータの導出精度をより向上させる観点から、全溶媒数に対する良判定の個数の割合を基に決定することがよい。具体的には、前記基準値は前記割合が25%以上となるように設定することが好ましく、35%以上となるように設定することがより好ましい。また、前記基準値は、前記割合が75%以下となるように設定することが好ましく、65%以下となるように設定することがより好ましい。
【0059】
[分散法]
本手法は、石炭に溶媒を滴下し、前記石炭及び溶媒の入った容器を振り混ぜて静置した後の容器の懸濁状態を判定する方法である。本手法の利点としては、石炭と溶媒とを攪拌して静置するだけの実験操作であることから、実験操作が非常に簡便であるということが挙げられる。操作の複雑さの観点からは、親和性を判定する他の方法より簡単な測定方法である。また、実験者が熟練した技能を有する必要がなく、誰でも精度よく測定を行うことができるという利点もある。以下、本手法の具体的な手順を説明する。
【0060】
まず、石炭の粒度を細かくすることで、溶媒への分散性が向上し、測定精度が向上することから、前記石炭を粉砕することが好ましい。溶媒を滴下させる前の石炭は、粒度を好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下とする。
【0061】
前記滴下、振り混ぜ及び静置の手法は特に限定されることなく、任意の方法で行うことができる。
【0062】
前記静置後の容器内の液体の状態を確認し、懸濁状態を維持しているものを親和性「良」と判定する。また、石炭の粉末が完全に沈降ないし浮上し、液部が透明となり、石炭と溶媒が分離した状態のものを親和性「否」と判定する。液体の状態の確認方法は特に限定されないが、肉眼で確認してもよく、測定機器を利用して確認してもよい。測定機器を利用する場合、例えば、吸光度測定器又は濁度測定器等を利用して、測定データの経時変化から判断してもよい。
【0063】
[手順(B):石炭の溶解度パラメータを導出する手順]
本手順では、前記手順(A)によって求めた親和性に基づいて、石炭の溶解度パラメータを導出する。
【0064】
前記導出に当たっては、前記親和性が「良」である参照物質の溶解度パラメータとの距離が近く、前記親和性が「否」である参照物質の溶解度パラメータとの距離が遠くなるように、導出方法を適宜定めることができる。
【0065】
前記参照物質の溶解度パラメータの取得方法は特に限定されない。好適に使用できる方法としては、分子構造から計算して取得する方法、及びデータベースを参照して取得する方法が挙げられる。しかし、データベースに記載されている溶解度パラメータは実際の系に即して様々な補正がなされているものが多く、特定の参照物質であっても参照元の違いにより溶解度パラメータが異なるケースがある。そのため、2種類以上のデータベースを同時に用いると、導出する石炭の溶解度パラメータに誤差が生じる原因となりうる。そこで、データベースを参照して参照物質の溶解度パラメータを取得する場合は、相溶性を評価する2種の石炭について、同じデータベースを用いることがよい。
【0066】
また、前記溶解度パラメータが3次元SPである場合、本手順(B)において、溶解球法を好適に使用することができる。
【0067】
一般的に、溶解度パラメータは分子構造から計算して求めるものである。しかし、石炭の分子構造は不定形であるため、溶解度パラメータを直接求めることは不可能である。そこで、この溶解球法を用いることで、幾何学的な解析により石炭の3次元SPを間接的に導出することが可能となる。
【0068】
溶解球法における本手順(B)では、まず、前記手順(A)の親和性判定において「良」と判定された参照物質の3次元SPに対応する点を包含し、「否」と判定された参照物質の3次元SPに対応する点を包含しない内接球を3次元空間上に作図する。そして、前記内接球の中心座標を、前記石炭の3次元SPとする。
【0069】
前記内接球の作図方法及び前記中心座標の導出方法は特に限定されない。好適に使用できる方法としては、手計算を使用した方法、及びソフトウェアを使用した方法が挙げられる。
【0070】
以上、手順(1):石炭の溶解度パラメータを取得する手順について説明したが、石炭間の相溶性の評価に当たり、溶解度パラメータを取得するタイミングは限定されない。すなわち、相溶性の評価を複数回行う場合に必ずしも毎回溶解度パラメータを導出する必要はなく、相溶性を評価する石炭の一方または両方について事前に溶解度パラメータが取得されていれば、それを用いて後述の手順(2)を行うことができる。
【0071】
[手順(2):石炭間の相溶性を評価する手順]
以下、本発明に係る石炭間の相溶性を評価する手順について説明する。
【0072】
本手順では、上記手順(1)により得られた石炭の溶解度パラメータ間の距離を計算することで、石炭間の相溶性を評価することができる。
【0073】
例えば、前記溶解度パラメータ間の距離を石炭間の相溶性の値とすることができる。この場合、前記距離が近いほど相溶性が高い。
【0074】
このように石炭間の相溶性を評価することにより、軟化溶融状態の石炭同士の融着性を正しく評価できることができる。ひいては、高強度コークスを得るための推定精度が向上し、石炭配合指針が最適化され、操業の高効率化が図られる。さらに、適切な銘柄選定による安定製造への貢献が期待される。
【0075】
(第二実施形態)
本発明の第二実施形態としては、前記手順(1)により溶解度パラメータを取得する前に、前記2種の石炭に熱処理を行う。換言すると、前記手順(1)に使用する2種の石炭それぞれが、溶解度パラメータを取得する前に熱処理を行った石炭である。
【0076】
(熱処理)
本工程は、任意である。しかし、石炭に熱処理を行うことで、石炭を軟化溶融状態に近づけることができ、より相溶性の評価精度が向上する。そのため、石炭が、溶解度パラメータを取得する前に熱処理されていることが好ましい。
【0077】
石炭を軟化溶融状態に近づける観点から、前記熱処理は無酸素雰囲気下で行われることが好ましい。また、同様の理由から、前記熱処理の温度は350~800℃とすることが好ましい。なお、上記熱処理を無酸素雰囲気下及び温度:350~800℃の条件において施した状態の石炭はセミコークスと呼ばれる。そして、前記2種の石炭が、溶解度パラメータを取得する前にセミコークスとされていることがより好ましい。
【0078】
前記熱処理より後の手順は、第一実施形態と同様である。
【0079】
(第三実施形態)
本発明の第三実施形態に係るコークスの品質の予測方法では、本発明に係る石炭間の相溶性評価方法に基づいて石炭の相溶性を評価し、前記相溶性に基づいてコークスの品質を予測する。
【0080】
例えば、コークスの原料として使用する石炭がn個ある場合、2種の石炭間の相溶性の評価を、前記n個の石炭のうち2種の組み合わせである通り行う。なお、前記相溶性の評価に使用する石炭は、熱処理を行った石炭でもよい。そして、従来使用しているコークス強度の予測式に対し、前記相溶性の評価結果を変数とする項を追加する補正を行う。前記補正後の予測式を用いれば、コークスの品質を高い精度で予測することができる。
【0081】
他の例としては、入荷した石炭の溶解度パラメータを逐次求めていき、それらを比較することでコークスの品質を予測する。これにより、ロット毎の品質の揺らぎを早期に発見し、対処することができる。
【0082】
(第四実施形態)
本発明の第四実施形態におけるコークスの製造方法は、本発明に係る石炭間の相溶性評価方法を用いて評価した石炭間の相溶性に基づいて石炭の配合を決定する工程を含む。言い換えれば、本発明の第四実施形態におけるコークスの製造方法は、上記の石炭の相溶性の評価方法を用いて評価した2種の石炭の相溶性に基づいて石炭の配合を決定するコークスの製造方法である。
【0083】
前記工程では、前記相溶性の評価結果を考慮することで、高いコークス強度が得られる石炭の配合を決定することができる。なお、前記相溶性の評価に使用する石炭は、熱処理を行った石炭でもよい。
【0084】
例として、前記工程は、原料の候補となる石炭銘柄のうち2種類の銘柄を選択した際の溶解度パラメータ間の距離が一定値以下(または一定値未満)になるようにルールを定め、前記ルールに則って石炭を選定する工程とする。これにより、高強度コークスを安定して製造することが可能である。溶解度パラメータとしてHSP(単位:(MPa)0.5)を使用する場合、HSP間の距離ΔHSPは12.3未満が好ましい。言い換えれば、前記配合の決定において、配合されるすべての2種の石炭の組合せについてΔHSPが12.3未満となるように、配合される石炭を選定することが好ましい。これにより、異種銘柄間の接着界面の強度がさらに向上し、実施例で詳述するように、単味炭を使用したコークスの加重平均強度よりも強度が高いコークスを製造することができる。ΔHSPは7.0以下がより好ましく、4.2以下がさらに好ましい。また、より高強度のコークスを製造するため、追加のルールを定めて石炭を選定してもよい。例えば、配合される石炭の物性値が近いほど、より高強度のコークスが製造されると考えられる。したがって、前記石炭の選定に当たり、MFの常用対数値の差の絶対値ΔLogMFを一定値以下(または一定値未満)とすることが好ましい。しかし、他の物性値との兼ね合いの観点から、配合される石炭の物性値が離れているほど、より高強度のコークスが得られる場合もある。したがって、例えばRoの差の絶対値ΔRoを一定値以上(または一定値超)としてもよい。特に、前記配合の決定において、配合されるすべての2種の石炭の組合せについて以下の(1)~(3)の条件を全て満たすように、配合される石炭を選定することが好ましい。
(1)ΔLogMFが0.67log/ddpm以下
(2)ΔRoが0.05%以上
(3)ΔHSPが4.2以下
これにより、実施例で詳述するように、より高強度のコークスを製造することができる。
【0085】
他の例としては、前記工程は、特定銘柄の代替炭を選定する際に、溶解度パラメータ間の距離が近い物を選定する工程である。これにより、銘柄変更によるコークスの品質変化を最小限に抑えることができる。
【0086】
なお、製造されるコークスの嵩密度は特に限定されない。しかし、嵩密度が低すぎるとマクロ的な強度が低くなる可能性があるため、0.82g/cm以上が好ましい。一方、2銘柄配合炭について、配合した石炭のΔLogMF、ΔRoおよびΔHSPならびに得られたコークスの嵩密度を説明変数、コークス強度を目的変数として重回帰分析を行った場合、嵩密度が強度に対して負の相関関係にある場合もある。すなわち、嵩密度が高いと逆に強度が低くなる場合があるため、嵩密度は0.92g/cm以下であってもよい。
【0087】
(第五実施形態)
本発明の第五実施形態におけるコークスの製造方法は、本発明に係るコークスの品質の予測方法により予測したコークスの品質に基づいて石炭銘柄の配合を決定する工程を含む。
【0088】
(第六実施形態)
本発明の第六実施形態における石炭の溶解度パラメータの取得方法は、前記浸透時間法に基づいて石炭と溶媒の親和性を判定し、前記親和性に基づいて前記石炭の溶解度パラメータを導出する方法である。前記導出は、前記手順(B)によって行うことが好ましい。
【0089】
(第七実施形態)
本発明の第七実施形態における石炭の溶解度パラメータの取得方法は、前記浸透時間法により石炭と溶媒の親和性の判定を行う前に、前記石炭に前記熱処理を行う。換言すると、前記浸透時間法に使用する石炭が、溶解度パラメータを取得する前に前記熱処理を行った石炭である。
【0090】
前記熱処理より後の手順は、第六実施形態と同様である。
【実施例0091】
以下、本発明の適用方法について以下の実施の形態の一例に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施の形態により限定されるものではない。
【0092】
[石炭のHSP等の取得]
まず、表1に記載の各石炭のRo及びMFの常用対数値(以下、LogMFということがある)を測定し、表1に記載の値を得た。前記Roは、JIS M 8816に準拠した方法により求めた。前記LogMFは、JIS M 8801に準拠した方法により求めた。
【0093】
【表1】
【0094】
次いで、表1に記載の各石炭のHSPを、前記分散法を用いて求めた。
【0095】
表1の銘柄Aの石炭を44μm以下になるように粉砕し、前記粉砕した石炭を、滴下する溶媒ごとに10mgずつ秤量し、バイアル瓶に取り分けた。次に、表2に記載の溶媒を前記各バイアル瓶に5mLずつ滴下し、十分に振り混ぜたあと30分静置した。前記静置後の容器内の液体の状態を目視で確認し、懸濁状態を維持しているものを親和性「良」と判定した。また、石炭の粉末が完全に沈降ないし浮上し、液部が透明となり、石炭と溶媒が分離した状態のものを親和性「否」と判定した。そして、親和性「良」と判定された溶媒の、表2に記載のHSPをハンセン空間上に点として表し、それらの点を包含する内接球の中心座標をその石炭のHSPとした。
【0096】
表1の銘柄A以外の石炭についても同様の操作を行い、表3に記載の石炭のHSPを得た。
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
そして、表1及び表3の数値から、表4に記載の組合せにおける3種類の指標ΔRo、ΔLogMF及びΔHSPを導出した。ΔRo及びΔLogMFは、それぞれRo及びLogMFの差の絶対値である。ΔHSPは、HSPの距離であり、本実施例では石炭間の相溶性を示す値として用いる。
【0100】
【表4】
【0101】
なお、表2のHSPの値は非特許文献1~3の記載に基づくものとし、表2及び3のHSPの各項並びに表4のΔHSPの単位は(MPa)0.5とした。
【0102】
[コークスの界面観察]
続いて石炭の相溶性評価とコークスの品質との関係を評価するために、以下の実験を行った。
【0103】
表1に記載の各石炭を150μm以下に粉砕した。次に、表4に記載の組合せの内水準1~4について、直径13mmの円柱形の金型に前記粉砕した石炭を0.5mgずつ順番に充填した。この時、1銘柄目を充填した後に表面をピンで軽くならしてから2銘柄目を充填することで、界面を平滑化した。そして、5tの荷重で3分間プレス成型を行い、二層状のペレットを作製した。
【0104】
膨張による影響を抑制するため、針金を用いて前記ペレットを十分に拘束した。次いで、前記ペレットを、純窒素雰囲気において、室温から3℃/minの昇温速度で900℃まで昇温させた後、10分保持し、自然冷却してコークスを得た。
【0105】
乾留後の前記コークスには、組み合わせた2種の石炭の界面が残っている。そこで、前記コークスを切断し、光学顕微鏡で切断面に現れた前記界面を観察した。観察結果に基づいて、前記界面近傍における気泡の状態を評価した。表5に、界面近傍の発泡の評価結果を示す。
【0106】
【表5】
【0107】
石炭銘柄Dは、組合せの水準1~4のすべてに含まれているが、乾留後に発泡しやすい石炭である。前記組合せにおける相溶性が悪いと、前記界面の影響を受けて、石炭銘柄Dの均質な気泡の発生が妨げられるため、界面近傍の気泡の均一性が悪くなったり、前記気泡の量が増加したりすると考えられる。このように界面近傍の気泡の状態が不良であるコークスは、界面部分において割れやすく、強度が悪化していると考えられる。
【0108】
表4に記載の各指標がもしコークスの強度予測の指標として適切ならば、評価結果「不良」の水準1~3の数値より、「良」の水準4の数値のほうが明らかに低いという関係があると考えられる。従来指標であるΔRoでは、上記関係が確認されなかった。ΔLogMFを用いた場合、「不良」である水準3と「良」である水準4のΔLogMFの数値が近く、良否を見分けることが困難であり、上記関係が確認されなかった。一方、本発明に係るΔHSPを用いた場合では、上記関係が存在することを確認することができ、相溶性の違いを正確に評価することができていた。つまり、本発明に係る相溶性評価方法によれば、上記コークスを作製するのに先立って、強度を正確に予測することが可能であると考えられる。
【0109】
[強度試験1]
次に、表4における組合せの内2および5の組合せにより石炭を配合し、乾留したコークスの強度を比較した。
【0110】
上記組合せを構成する3銘柄の石炭を用意し、粒度が74μm超1mm以下となるように調製した。石炭銘柄Dに関しては二倍量を調製し、各組合せの配合用に等分した。上記組合せに従って、石炭を質量比1:1で配合し、十分に混合した。粉末状の各配合炭を用い、100MPaの圧力で直径10mm、高さ10mm程度の円柱状錠剤成型炭を20個作製した。このうちの15個について、雰囲気・流量制御が可能な加熱炉内にて乾留を行った。前記乾留は、雰囲気ガスを窒素とし、ガス流量を100NmL/minとし、室温から3℃/minで900℃まで昇温した後10分間保持し、その後同流量の窒素を流したまま室温まで自然冷却することにより行った。なお、各錠剤が乾留時の膨張により合体することの無い様、錠剤同士一定の距離を取って炉内に配置した。
【0111】
前記乾留により作製されたコークスについて、一つずつ質量、直径、高さを測定し密度(嵩密度)を算出した。前記コークスのうち10個を無作為に選定し、一軸圧縮試験により圧壊強度を測定した。圧縮荷重の方向は前記コークスの円柱の直径方向とし、圧縮速度は1mm/minとした。
【0112】
測定結果を図1に示す。図1のグラフにおいて、X印及び丸印は、それぞれ組合せ2および5の配合炭を用いたコークスの測定結果に対応し、破線及び実線は測定点を直線近似したものである。
【0113】
コークスの強度に影響する要素としては、石炭間の相溶性だけではなく、コークスの密度がある。実際に、図1によると、2銘柄配合炭を原料とする各コークスは、密度が高いほど高強度となった。そこで、コークスの密度を揃えた状態で比較することで、密度の影響を取り除き、石炭間の相溶性による強度への影響を評価することができる。図1において、同一のコークス密度(例えば、0.8g/cm)で比較すると、水準5の方が水準2に対して強度が高いことが分かった。
【0114】
表4に示す通り、従来指標であるΔRoを利用してコークス強度を予測しようとしても、水準5のほうが高い強度を示すことを予測することは困難だった。しかし、本発明に係るΔHSPを用いれば、水準5のほうが石炭間の相溶性が良く、高強度のコークスを得ることができることを予測できる。
【0115】
[強度試験2]
銘柄G~Kの各石炭について、Ro、LogMFを上述した方法で測定し、また上述した方法でHSPを得た。結果を表6に示す。また、表7に記載の組合せにおける3種類の指標ΔRo、ΔLogMF及びΔHSPを導出した。なお表6のHSPの各項並びに表7のΔHSPの単位は(MPa)0.5とした。
【0116】
【表6】
【0117】
【表7】
【0118】
次いで、表7に記載の組合せにより石炭を配合し、乾留したコークスの強度試験を行った。
【0119】
上記組合せを構成する5銘柄の石炭を用意し、粒度が3mm以下となるように調整した。表7の6~12の組合せに従って、石炭を質量比1:1で配合し、十分に混合した。粉末状の各配合炭を直径100mmの乾留炉に供し乾留を行った。得られたコークスを3mm程度に粉砕した。JIS K 2151に準拠した方法により粉砕したコークスの嵩密度を測定した。また、木屋式硬度計により粉砕したコークスの圧壊強度を測定した。結果の傾向が変わらない程度に結果のばらつきを抑えるため、圧壊強度の測定は50回行い、平均をコークスの圧壊強度とした。
【0120】
ΔHSPとコークスの圧壊強度との関係を図2に示す。破線は直線近似した回帰線である。ΔHSPが小さいほど強度が高まることが示された。また、図2に示された回帰線を用いれば、ΔHSPに基づいて圧壊強度を予測することができる。
【0121】
ここで、配合による効果、すなわち異種銘柄間の接着界面の強度の影響を調べるため、単味炭からコークスを作製し、配合炭から作製されたコークスと強度の比較を行った。配合による効果が無い場合、配合炭から作製されたコークスの強度は各単味炭由来のコークス強度の加重平均になると考えられる。まず、石炭G~Kを水準6~12と同様の手法でそれぞれ乾留しコークスを得たのち、強度試験を行うことで単味炭から作製されたコークスの強度を得た。表7の6~12の組み合わせにおける加重平均強度と実際の測定で得られた強度(実測値)をΔHSPに対してプロットしたグラフを図3に示す。実線は実測値に対し直線近似した回帰線、破線は加重平均強度に対し直線近似した回帰線である。ΔHSPが小さい組み合わせほど加重平均強度よりもコークス強度が高くなる傾向が示された。得られた回帰線から、ΔHSPが12.3未満の場合に加重平均強度よりも強度が高いコークスを製造することができると考えられる。また、ΔHSPを7.0以下とすればさらに加重平均強度と実際のコークス強度の差を大きくすることができると考えられる。
【0122】
次に、表7の6~12の組み合わせにおけるコークスの嵩密度と圧壊強度との関係を図4に示す。一般的に嵩密度が高いと強度は高くなるが、図4において、圧壊強度は0.9g/cmを境に増加傾向から減少傾向に転じた。嵩密度が高いにも関わらず低い圧壊強度を示した水準は、いずれもΔHSPが大きかった。このように、異なる銘柄を配合した配合炭同士を比較した場合、コークスの密度が高いほどコークスの強度が高いとは限らないが、溶解度パラメータ間の距離を用いることでそのような場合でもコークスの強度を予測することができる。
【0123】
さらに強度予測の精度を向上することを目的に、ΔHSPに加えてΔlogMF及びΔRoを説明変数とし、コークスの圧壊強度を目的変数とした重回帰分析を行ったところ、以下の回帰式が求められた。重決定係数は0.91と高く、予測精度が非常に優れていた。
I=a×ΔlogMF+b×ΔRo+c×ΔHSP+d
ここで、a=-0.66、b=1.2、c=―0.38、d=13.9、Iはコークスの圧壊強度の予測値である。図2から得られた回帰線による予測強度(ΔHSP)と重回帰分析の回帰式による予測強度(重回帰)との比較を図5に示す。重回帰分析の回帰式による予測強度の方がより正確な値となっていることが示された。
【0124】
また、図2、3において特に相溶性及びコークス強度が高いことが示されている表7の10~12の組み合わせは、いずれもΔlogMFが0.67log/ddpm以下、ΔRoが0.05%以上、かつΔHSPが4.2(MPa)0.5以下である。重回帰分析の回帰式および上記の数値範囲を併せて考えると、ΔlogMF、ΔRoおよびΔHSPを上記の数値範囲内とすることで、コークス強度が11.9(MPa)以上のより高強度のコークスが製造されることが分かる。なお、上記説明変数に対してさらに得られたコークスの嵩密度を加えて重回帰分析を行った場合、嵩密度の相関係数が負の値であることが確認された。表7の10~12の組み合わせは、いずれもコークスの嵩密度が0.92以下であったことから、嵩密度が0.92g/cm以下であれば更に高強度のコークスが製造される場合があると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5