(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177109
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】電気化学発光ナノプローブの製造方法、電気化学発光ナノプローブ、電気化学発光センサ、電気化学発光検出方法、および電気化学発光検出用キット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6837 20180101AFI20241212BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241212BHJP
C12M 1/42 20060101ALI20241212BHJP
C12Q 1/34 20060101ALI20241212BHJP
C12Q 1/6834 20180101ALI20241212BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20241212BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
C12Q1/6837 Z
C12M1/34 B
C12M1/42
C12Q1/34
C12Q1/6834 Z
G01N21/78 C
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090811
(22)【出願日】2024-06-04
(31)【優先権主張番号】202310682568.5
(32)【優先日】2023-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515190906
【氏名又は名称】南京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウー シァオティン
(72)【発明者】
【氏名】シュ チチ
(72)【発明者】
【氏名】ファン ハオ
(72)【発明者】
【氏名】ゥアン チャオ
(72)【発明者】
【氏名】ヂィー フアンシィェン
(72)【発明者】
【氏名】ウー ヂィエ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB20
4B029CC03
4B029FA15
4B063QA01
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR55
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX04
(57)【要約】
【課題】検出範囲が広く感度が高い電気化学発光ナノプローブを提供することである。
【解決手段】実施形態の電気化学発光ナノプローブの製造方法は、ホット励起子有機発光分子とコポリマー分子を重合させ、ホット励起子ナノ粒子を合成するホット励起子ナノ粒子合成工程と、クエンチャー分子修飾を有するオリゴヌクレオチド鎖を用いて、得られたホット励起子ナノ粒子を修飾し、修飾されたホット励起子ナノ粒子を得るホット励起子ナノ粒子修飾工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホット励起子有機発光分子とコポリマー分子を重合させ、ホット励起子ナノ粒子を合成するホット励起子ナノ粒子合成工程と、
クエンチャー分子修飾を有するオリゴヌクレオチド鎖を用いて、得られたホット励起子ナノ粒子を修飾し、修飾されたホット励起子ナノ粒子を得るホット励起子ナノ粒子修飾工程と、
を含む、電気化学発光ナノプローブの製造方法。
【請求項2】
前記ホット励起子有機発光分子は、下記の化学式(1)の群(a)から選ばれるドナー(D)構造と下記の化学式(2)の群(b)から選ばれるアクセプター(A)構造とを含む、
請求項1に記載の製造方法。
【化1】
【化2】
【請求項3】
前記ドナー(D)は、カルバゾールであり、
前記アクセプター(A)は、ベンゾチアジアゾールである、
請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ホット励起子有機発光分子は、下記の化学式(3)のBCzP-BTである、
請求項3に記載の製造方法。
【化3】
【請求項5】
前記コポリマー分子は、下記の化学式(4)に示すポリスチレン-ポリアクリル酸ブロック共重合体(PS-PAA)、ポリスチレン無水マレイン酸共重合体(PSMA)、およびポリ(イソブチレン-alt-無水マレイン酸)(PIMA)のうちの一つである、
請求項1に記載の製造方法。
【化4】
【請求項6】
前記ホット励起子有機発光分子と前記コポリマー分子は、ナノ共沈法によりホット励起子ナノ粒子を合成する、
請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ホット励起子ナノ粒子は、ナノボール、ナノチューブ、ナノロッド、およびナノオニオンのうちの一つである、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記クエンチャー分子は、ブラックホールクエンチャー、ダーククエンチャー、およびアミン反応性クエンチャーのうちの一つである、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
ホット励起子有機発光分子とコポリマー分子とが重合されたホット励起子ナノ粒子であって、クエンチャー分子修飾を有するオリゴヌクレオチド鎖が修飾されたホット励起子ナノ粒子である、
電気化学発光ナノプローブ。
【請求項10】
ホット励起子有機発光分子とコポリマー分子とが重合されたホット励起子ナノ粒子であって、クエンチャー分子修飾を有するオリゴヌクレオチド鎖が修飾されたホット励起子ナノ粒子である電気化学発光ナノプローブが滴下された動作電極である、
電気化学発光センサ。
【請求項11】
前記動作電極は、ガラス炭素電極、酸化インジウムスズ電極、およびスクリーン印刷電極のうちの一つである、
請求項10に記載の電気化学発光センサ。
【請求項12】
前記動作電極は、金-酸化インジウムスズ電極である、
請求項11に記載の電気化学発光センサ。
【請求項13】
ホット励起子有機発光分子とコポリマー分子とが重合されたホット励起子ナノ粒子であって、クエンチャー分子修飾を有するオリゴヌクレオチド鎖が修飾されたホット励起子ナノ粒子である電気化学発光ナノプローブが滴下された動作電極である電気化学発光センサを用いた、
電気化学発光検出方法。
【請求項14】
測定されるサンプルを標的核酸と結合可能なガイド核酸を含むCas酵素触媒体系に添加し、サンプル反応溶液を得る酵素反応工程と、
前記サンプル反応溶液を前記電気化学発光センサに添加し、電気化学発光信号を採取し、分析するサンプル検出工程と、
を更に含む、請求項13に記載の電気化学発光検出方法。
【請求項15】
前記サンプル反応溶液において、Cas酵素におけるCasタンパク質の濃度が40nM以上である、
請求項14に記載の電気化学発光検出方法。
【請求項16】
crRNAの使用量がCasタンパク質より多い、
請求項14に記載の電気化学発光検出方法。
【請求項17】
前記電気化学発光センサ上でのサンプル反応溶液のインキュベーション時間が30分以上である、
請求項13に記載の電気化学発光検出方法。
【請求項18】
ホット励起子有機発光分子とコポリマー分子とが重合されたホット励起子ナノ粒子であって、クエンチャー分子修飾を有するオリゴヌクレオチド鎖が修飾されたホット励起子ナノ粒子である電気化学発光ナノプローブが滴下された動作電極である電気化学発光センサと、
Cas酵素含有検出試薬と、
を含む、電気化学発光検出用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電気化学発光ナノプローブの製造方法、電気化学発光ナノプローブ、電気化学発光センサ、電気化学発光検出方法、および電気化学発光検出用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロルミネセンス(EL)とは発光材料が電界によって、電流電圧の励起を受けて発光する現象であり、直接的に電気エネルギーを光エネルギーに変換する過程である。有機エレクトロルミネセンスとは、有機発光物質から作製された薄膜素子が電界の励起により発光する現象をいう。有機エレクトロルミネセンス素子の発光原理は、外部電圧の駆動で、電極から注入された電子及び正孔は有機物中で複合してエネルギーを放出し、エネルギーを有機発光物質の分子に伝達し、それを励起させ、基底状態から励起状態に遷移し、励起分子が励起状態から基底状態に戻る時に放射遷移して発光現象を発生することである。励起状態は、スピン多重性の違いによって、一重項(S)励起子と三重項(T)励起子とに分けることができる。励起状態の分子は最低エネルギーの一重項励起状態S
1又は三重項励起状態T
1であってもよく、より高い一重項励起状態(S
2、S
3、S
4、…)又は三重項励起状態(T
2、T
3、T
4、…)であってもよい。S
1励起状態にある分子が放射遷移によりS
0基底状態に戻る場合、「蛍光発光」を発生する。T
1励起状態にある分子が放射遷移によりS
0基底状態に戻ると、「燐光発光」を発生する(
図19参照)。
図19は、混成局所-電荷移動励起状態(HLCT)性質を有するホット励起子材料の発光原理を示す模式図である。
【0003】
電気化学発光(electrochemiluminescence、ECL)技術は電気化学的原理を利用して電極表面で電気化学反応を行って励起状態を生成して特異的な発光を起こす方法である。電気化学発光過程における励起状態は、電気活性物質と電極との間で電子伝達して形成された中間体ラジカルの間で電子移動反応が起こることにより生じる。
【0004】
電気化学発光系は発光試薬に応じて金属錯体電気化学発光系と有機化合物電気化学発光系(以下、「有機発光材料」ということもある)、例えば有機フルオレン等の芳香族炭化水素、BODIPY誘導体、フルオレン系ポリマー及び様々な有機ナノ材料等に分けることができる。一般的な電気化学発光金属錯体には、例えばトリス(ビピリジン)ルテニウム(II)錯体イオン(Ru(bpy)3
2+)があり、それは燐光発光系に属し、それをECL発光プローブとして用いる場合、励起子利用率は100%に達することができるため、トリス(ビピリジン)ルテニウム(II)錯体イオン(Ru(bpy)3
2+)に基づく電気化学発光検出方法は、電気化学発光検出の標準方法となる。一方、上記有機発光材料は蛍光発光系に属し、励起子利用率は25%しか達成できない。
【0005】
励起状態では、現在、電気化学発光分野で使用される有機発光材料は、主に二種類の伝統的な励起状態方式、すなわち局所励起状態(locally-excited、LE)及び電荷移動励起状態(charge-transfer、CT)が存在する。この二種類の励起状態の電子正孔分布及びその形成された励起子の束縛エネルギー特性により、局所励起状態の励起子利用率が低くて放射遷移速度/量子収率(ΦPL)が高く、電荷移動励起状態の励起子利用率が高くて放射遷移速度/量子収率が低く、両者が高い励起子利用率及び高い放射遷移速度/量子収率を同時に両立させることができず、その発光効率及び強度が理想的な最適なレベルに達することができない。これにより、下流の応用、例えば電気化学発光の効率を制限する。
【0006】
2012年、馬於光と楊兵等は、革新的に逆項間交差(RISC)の光物理現象を有機エレクトロルミネセンス材料の設計に応用し、一連の異なる光色のドナー・アクセプター型蛍光材料を成功に発展させた。効果的な高位の逆項間交差過程により、そのエレクトロルミネセンス素子の励起子利用率を大幅に向上させる。ここで、高位の三重項状態(T
n、n≧2)と一重項状態(S
m、m≧1)との間の変換過程をホット励起子(ホットエキシトン)過程と呼ばれ、ホット励起子過程に基づいて実現された発光メカニズムはホット励起子メカニズムと呼ばれ、明らかなホット励起子逆項間交差を有する発光材料はホット励起子材料と呼ばれる。ホット励起子材料は一般的に大きいT
n-T
1エネルギー準位及び小さいT
n-S
m状態エネルギー準位を有する。大きいT
n-T
1エネルギー準位はT
nからT
1への内部変換を抑制することができ、小さいT
n-S
mエネルギー準位はT
nからS
mへの逆項間交差速度を向上させることができる。T
nからS
mへの項間交差とT
nからT
1への内部変換は相互に競合するため、理論的には、逆項間交差速度が十分に高く、内部変換が完全に抑制され、全ての高位の三重項励起子が一重項励起子に変換され、ホット励起子材料の励起子利用率が100%に達することができる(非特許文献1、
図19参照)。これにより、ホット励起子材料は独立した「ホット励起子」チャネルにより逆系間交差(hRISC)を実現して一重項S
1励起子の生成割合を増加させることができる。同時に、S
1状態励起子はCT状態の高い励起子利用率を有し、またLE状態の高放射発光特性を有するため、ホット励起子材料は混成局所-電荷移動励起状態(Hybrid Locally-excited and Charge-transfer、HLCT)性質を有し、高い励起子利用率と高い量子収率を同時に有することができる。混成局所-電荷移動励起状態とは局所励起状態(LE)の性質を含有するだけでなく、電荷移動(CT)励起状態特性を含むが、局所励起状態と電荷移動励起状態との間は簡単な混合ではなく、混成した後に形成された単一励起状態である。
【0007】
現在、ホット励起子材料は主に半導体材料の分野に用いられ、例えば有機エレクトロルミネセンスダイオード(OLED)の分野に用いられ(非特許文献2参照)、それは第一世代の有機発光材料(蛍光材料)、第二世代の有機発光材料(燐光材料)、第三世代の有機発光材料(熱活性化遅延蛍光、TADF)材料に続く新規な発光材料である。
【0008】
ホット励起子材料が優れた光学的性質を有するため、生物検出における応用が望まれている。特許文献1ではホット励起子材料を蛍光検出に用いる試みが行われているが、現在ECL検出分野の成功例はまだ存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】中国特許出願公開第110981821号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】徐玉偉,「ホット励起子発光材料の高位の逆項間交差過程及び光電性能研究」,華南理工大学博士学位論文,2020年
【非特許文献2】Xiaojie Chen, Dongyu Ma et al., “Hybridized Local and Charge-Transfer Excited-State Fluorophores through the Regulation of the Donor-Acceptor Torsional Angle For Highly Efficient Organic Light-Emitting Diodes”,CCS Chem. 2022, 4, 1284-1294
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、検出範囲が広く感度が高い電気化学発光ナノプローブの製造方法、電気化学発光ナノプローブ、電気化学発光センサ、電気化学発光検出方法、および電気化学発光検出用キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態の電気化学発光ナノプローブの製造方法は、ホット励起子有機発光分子とコポリマー分子を重合させ、ホット励起子ナノ粒子を合成するホット励起子ナノ粒子合成工程と、クエンチャー分子修飾を有するオリゴヌクレオチド鎖を用いて、得られたホット励起子ナノ粒子を修飾し、修飾されたホット励起子ナノ粒子を得るホット励起子ナノ粒子修飾工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の電気化学発光ナノプローブの製造方法を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明のssDNA-BB NRsナノプローブに基づくECLスイッチの概略図である。
【
図3】
図3は、本発明のssDNA-BB NRsに基づくセンサアレイの製造及び検出の概略図である。
【
図4】
図4は、TADF化合物とホット励起子材料の発光原理を対照的に示す模式図である。
【
図5A】
図5Aは、本発明の実施例1で製造されたBCzP-BT分子の核磁気(
1H NMR)及び質量分析の結果を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、本発明の実施例1で製造されたBCzP-BT分子の核磁気(
1H NMR)及び質量分析の結果を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、本発明の実施例1で製造されたBCzP-BT分子の励起状態の分析結果を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、本発明の実施例1で製造されたBCzP-BT分子の励起状態の分析結果を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、本発明の実施例1で製造されたBCzP-BT分子の励起状態の性質を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、本発明の実施例1で製造されたBCzP-BT分子の励起状態の性質を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、本発明の実施例1で製造されたBCzP-BTのホット励起子過程の可能性の分析結果を示す図である。
【
図8B】
図8Bは、本発明の実施例1で製造されたBCzP-BTのホット励起子過程の可能性の分析結果を示す図である。
【
図9A】
図9Aは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsの特性の解析結果を示す図である。
【
図9B】
図9Bは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsの特性の解析結果を示す図である。
【
図9C】
図9Cは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsの特性の解析結果を示す図である。
【
図9D】
図9Dは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsの特性の解析結果を示す図である。
【
図9E】
図9Eは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsの特性の解析結果を示す図である。
【
図10A】
図10Aは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsのECL特性の分析結果を示す図である。
【
図10B】
図10Bは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsのECL特性の分析結果を示す図である。
【
図11A】
図11Aは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsの共反応剤存在下でのECLの分析結果である。
【
図11B】
図11Bは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsの共反応剤存在下でのECLの分析結果である。
【
図11C】
図11Cは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsの共反応剤存在下でのECLの分析結果である。
【
図11D】
図11Dは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsの共反応剤存在下でのECLの分析結果である。
【
図11E】
図11Eは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsの共反応剤存在下でのECLの分析結果である。
【
図11F】
図11Fは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsの共反応剤存在下でのECLの分析結果である。
【
図12A】
図12Aは、Ru(bpy)
3
2+を基準とする本発明の実施例1で製造されたBB NRsのECL効率を示す図である。
【
図12B】
図12Bは、Ru(bpy)
3
2+を基準とする本発明の実施例1で製造されたBB NRsのECL効率を示す図である。
【
図12C】
図12Cは、Ru(bpy)
3
2+を基準とする本発明の実施例1で製造されたBB NRsのECL効率を示す図である。
【
図12D】
図12Dは、Ru(bpy)
3
2+を基準とする本発明の実施例1で製造されたBB NRsのECL効率を示す図である。
【
図13A】
図13Aは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsのECL帰属の分析結果を示す図である。
【
図13B】
図13Bは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsのECL帰属の分析結果を示す図である。
【
図13C】
図13Cは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsのECL帰属の分析結果を示す図である。
【
図14A】
図14Aは、本発明の実施例2で製造されたssDNA-BB NRsプローブの特性の解析結果を示す図である。
【
図14B】
図14Bは、本発明の実施例2で製造されたssDNA-BB NRsプローブの特性の解析結果を示す図である。
【
図14C】
図14Cは、本発明の実施例2で製造されたssDNA-BB NRsプローブの特性の解析結果を示す図である。
【
図15A】
図15Aは、本発明の実施例2で製造されたssDNA-BB NRsプローブシグナルスイッチの実行可能性の分析結果を示す図である。
【
図15B】
図15Bは、本発明の実施例2で製造されたssDNA-BB NRsプローブシグナルスイッチの実行可能性の分析結果を示す図である。
【
図16A】
図16Aは、本発明の実施例3の異なる検出条件でECL検出を行う検出結果を示す図である。
【
図16B】
図16Bは、本発明の実施例3の異なる検出条件でECL検出を行う検出結果を示す図である。
【
図16C】
図16Cは、本発明の実施例3の異なる検出条件でECL検出を行う検出結果を示す図である。
【
図17A】
図17Aは、本発明の実施例3のITO電極とAu/ITOを用いた場合のECLイメージング結果を示す図である。
【
図17B】
図17Bは、本発明の実施例3のITO電極とAu/ITOを用いた場合のECLイメージング結果を示す図である。
【
図17C】
図17Cは、本発明の実施例3のITO電極とAu/ITOを用いた場合のECLイメージング結果を示す図である。
【
図18A】
図18Aは、本発明の実施例3のHPV16 DNA標的核酸をセンサアレイでECL検出した検出結果を示す図である。
【
図18B】
図18Bは、本発明の実施例3のHPV16 DNA標的核酸をセンサアレイでECL検出した検出結果を示す図である。
【
図19】
図19は、混成局所-電荷移動励起状態(HLCT)性質を有するホット励起子材料の発光原理を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
周知のように、有機エレクトロルミネセンスダイオード(OLED)は全固体素子であり、液体成分がない。有機エレクトロルミネセンスダイオードにおいて、発光分子は外部電圧の作用下で励起されて基底状態から励起状態に遷移し、励起分子が励起状態から基底状態に戻る時に放射遷移して発光を生成する。一方、電気化学発光の検出環境は液状であり、発光分子は電極表面で電気化学反応を起こして励起状態を生成し、放射遷移して発光する。したがって、有機エレクトロルミネセンスダイオードと電気化学発光との両方の発光原理及び発光環境が異なる。現在の有機エレクトロルミネセンスダイオード(OLED)分野に利用されているホット励起子材料を電気化学発光(ECL)検出の発光分子として用いることを考慮する場合、まず実行可能性及び信頼性等の問題が考えられる。
【0015】
本願の発明者らは上記問題に対して鋭意研究を重ねた結果、ホット励起子有機発光分子をナノ技術により電気化学発光ナノプローブ(以下、「ECLナノプローブ」ということもある)を製造し、かつクエンチャー分子で修飾されたオリゴヌクレオチド鎖を用いて修飾することにより、電気化学発光の全体的な効能を向上させることができ、それにより標的分子に対する迅速な非増幅のハイスループット検出を実現でき、かつ広い検出範囲及び極めて高い感度を有することを見出した。
【0016】
本発明において、初めてホット励起子有機発光分子を電気化学発光の分野に応用し、かつ初めて該ホット励起子有機発光分子を発光体としてナノ粒子を製造し、標的分子に対する迅速な非増幅のハイスループット検出を実現することができ、かつ広い検出範囲及び極めて高い感度を有するホット励起子有機発光分子に基づく電気化学発光(ECL)ナノプローブ、該電気化学発光ナノプローブを用いたセンサ、検出方法及び検出用キットを提供することができる。
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の実施形態についての説明は、本発明の発明構想を説明するためだけであり、本発明を限定するものではない。
【0018】
<電気化学発光ナノプローブ及びその製造方法>
本発明の一つの実施態様は、ホット励起子有機発光分子とコポリマー分子を重合させ、ホット励起子ナノ粒子を合成するホット励起子ナノ粒子合成工程と、クエンチャー分子修飾を有するオリゴヌクレオチド鎖を用いて、得られたホット励起子ナノ粒子を修飾し、修飾されたホット励起子ナノ粒子を得るホット励起子ナノ粒子修飾工程とを含む、電気化学発光ナノプローブの製造方法に関する。
【0019】
(ホット励起子有機発光分子)
本発明において使用されるホット励起子有機発光分子は特に限定されず、混成局所-電荷移動励起状態の性質を有するホット励起子有機発光分子であれば、いずれも使用可能であり、例えば非特許文献1、2等に記載の様々なホット励起子有機発光分子である。
【0020】
ホット励起子材料は混成局所-電荷移動励起状態(Hybrid Locally-excited and Charge-transfer、HLCT)の性質を有する分子である。なお、混成局所-電荷移動励起状態を有する分子は必ずしもホット励起子材料ではなく、例えば一重項材料及び三重項材料は混成局所-電荷移動励起状態の性質を有するが、ホット励起子材料に属しない。
【0021】
ホット励起子材料は、一般に、構造単位として一次元の縮合環構造を有し、ヘテロ原子を含むドナーセルを有する。
【0022】
縮合環構造としては、例えばベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられ、これらのベンゼン環、ナフタレン環及びアントラセン環に置換基を有していてもよい。
ドナー・アクセプター単位の具体的な構成構造として、例えばD-A型構造又はD-A-D型構造等であってもよい。Dはドナー単位(donor)を示し、Aはアクセプター単位(Acceptor)を示す。
【0023】
ドナー・アクセプター単位としては、例えば下記の化学式(1)の群(a)から選択されるドナー(D)と下記の化学式(2)の群(b)から選択されるアクセプター(A)で構成されたものが挙げられる。
【0024】
【0025】
【0026】
ホット励起子材料は伝統的なの蛍光材料スピン統計制限を突破した一種の発光材料であり、放射される光の種類では、青色光ホット励起子材料、緑色光ホット励起子材料及び赤色光ホット励起子材料を含む。
【0027】
ホット励起子材料のドナー・アクセプター強度が適切であるため、D-A型蛍光材料の分子設計において、純青色及び深い青色光の発光をより容易に得る。現在の成功的に製造された青色光ホット励起子材料は、例えばフェナントレンイミダゾール(Phenanthrimidazole)単位含有青色光ホット励起子材料、アントラセン単位含有青色光ホット励起子材料及び他の種類の青色光ホット励起子材料を有する。
【0028】
フェナントレンイミダゾール単位を含む青色光ホット励起子材料としては、例えば下記の化学式(3)および化学式(4)に示すフェナントレンイミダゾール単位含有青色光ホット励起子材料が挙げられる。
【0029】
【0030】
【0031】
アントラセン単位含有青色光ホット励起子材料としては、例えば下記の化学式5に示すアントラセン含有単位の青色光ホット励起子材料が挙げられる。
【0032】
【0033】
他の種類の青色光ホット励起子材料としては、例えば下記の化学式6に示す他の種類の青色光ホット励起子材料が挙げられる。
【0034】
【0035】
代表的な緑色光ホット励起子材料として、例えば下記の化学式7に示す緑色光ホット励起子材料が挙げられる。
【0036】
【0037】
代表的な赤色光ホット励起子材料として、例えば下記の化学式8に示す赤色光ホット励起子材料が挙げられる。
【0038】
【0039】
また、D-A-D型のホット励起子材料では、アクセプター(A)単位とドナー(D)単位との接続方式は、オルト位接続、メタ位接続及びパラ位接続であってもよい。ここで、パラ位接続時に空間抵抗を減少させることができるため、アクセプター(A)単位とドナー(D)単位との間のねじれ角が減少し、より局所的に励起された成分を与えることができ、より速い放射減衰をもたらす。ことにより、オルト位及びメタ位より高い外部量子効率(EQE)を得ることができるため、より好ましい。例えば、本発明の実施例において、4、7-ビス(4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル)ベンゾ[c][1,2,5]チアジアゾール(p-BCzP-BT)を例示する。該化合物において、電子ドナー(D)はカルバゾールであり、電子アクセプター(A)はベンゾチアジアゾールである。
【0040】
なお、混成局所-電荷移動励起状態(HLCT)性質を有するホット励起子材料であれば、いずれも本発明において使用することができる。上記の挙げられているホット励起子材料は例示に過ぎず、当業者には明らかなように、上記化合物が一つ又は複数の置換基(例えばアルキル基、ヒドロキシ基、ハロゲン等)で置換されて形成された誘導体、及びそれらの空間異性体等は、本発明において同様に使用することができる。
【0041】
本発明で使用されるホット励起子材料の製造方法は特に限定されず、例えば鈴木カップリング反応、シェラーカップリング反応及びクロスカップリング反応などの合成経路を介して化学反応により合成することができ、又は商業的な経路で購入することができ、特に限定されない。
【0042】
本発明の実施例では鈴木カップリング反応の合成経路を採用したが、必要に応じて他の合成経路を採用してもよい。鈴木カップリング反応はよく利用される炭素炭素結合形成反応であり、それはゼロ価パラジウムを触媒とし、アリール又はアルケニルボロン酸を塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン化芳香族炭化水素と反応させる。パラジウム触媒としては、例えばテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh3)4)、Pd[P(o-toly)3]3及びBuchwald触媒などを用いることができる。アリール又はアルケニルボロン酸、及びハロゲン化芳香族炭化水素として、必要に応じて合成されるホット励起子有機発光分子中の電子ドナー(D)及び電子アクセプター(A)に応じてそれぞれ対応する化合物原料を採用することができ、特に限定されない。
【0043】
(ホット励起子ナノ粒子の合成)
本発明において、ホット励起子有機発光分子とコポリマー分子を重合させることにより、ホット励起子ナノ粒子を合成する。
【0044】
本発明におけるナノ粒子とは三次元空間において少なくとも一次元がナノサイズ(0.1~100 nm)にある粒子を指す。前記ナノ粒子は具体的にはナノボール、ナノチューブ、ナノロッド、又はナノオニオン等の様々な幾何学的形態であってもよい。ホット励起子有機発光分子をナノ形態に形成することにより、ECL応答信号を効果的に増幅し、ECLセンサの検出限界、検出範囲、選択性及び安定性等を向上させることができる。本発明では、後述する実施例のように、ナノロッド(nanorods、NR)形態の材料を成功的に製造したが、本発明において使用可能なナノ粒子はナノロッドに限定されず、採用される化合物原料及び合成経路によってナノボールなどの他のナノ形態を形成することもできる。
【0045】
本発明において、ホット励起子有機発光分子と前記コポリマー分子は、従来の技術における既知の有機材料ナノ構造を製造する方法により合成することができ、例えばナノ共沈法、マイクロエマルション法及び自己組織化法等(劉栄華、新規な蛍光共役重合体ナノ粒子の製造及び応用、北京科技大学博士学位論文、2018年)は、特に限定されない。ここで、生体適合性の観点から、マイクロエマルション法及びナノ共沈法を用いることがより好ましい。
【0046】
マイクロエマルション法では、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレングリコール-ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)等のポリエチレングリコール系分子、生体高分子例えばリン脂質等の無毒性、非免疫原性の親水性ポリマーで発光分子を被覆することにより、生体適合性が高く、安定性が高い発光分子ナノ粒子を得ることができる。
【0047】
ナノ共沈法は発光分子を良溶媒に溶解し、超音波条件下で大量の貧溶媒を注入し、発光分子の溶解度が急激に低下して凝集し、それにより小粒子の形で沈殿し、その後に残留した有機溶媒を除去すれば発光分子ナノ粒子を得る。ナノ共沈法は操作しやすくかつ製造されたナノ粒子のサイズが小さくかつ均一であるため、好ましい。
【0048】
ナノ共沈法において、両親媒性ポリマーを用いて発光分子ナノ粒子を表面機能化することができる。製造プロセスにおいて、発光分子と両親媒性ポリマーは自己組織化し、両親媒性ポリマーの一端は疎水性機能性基を有し他端は親水性機能性基を有するため、両親媒性ポリマーで被覆された発光分子ナノ粒子を得ることができ、かつ両親媒性ポリマーの機能性基(例えばアミノ基及びカルボキシル基)はナノ粒子の外表面に露出し、これにより表面機能化された発光ナノ粒子を得る。核酸、ポリペプチド、糖、タンパク質又は抗体等の機能性基は、縮合反応又は生物直交クリック反応により上記両親媒性ポリマーのナノ粒子の外表面に露出する官能基と反応し、識別機能を有する発光分子ナノ粒子を得ることができる。
【0049】
本発明において、上記両親媒性ポリマーはコポリマー分子とも呼ばれる。コポリマー分子として、本分野のよく用いられるコポリマー分子、例えば下記の化学式9に示すポリスチレン-ポリアクリル酸ブロック共重合体(PS-PAA)、ポリスチレン無水マレイン酸共重合体(PSMA)又はポリ(イソブチレン-alt-無水マレイン酸)(PIMA)等を使用することができ、特に限定されない。
【0050】
【0051】
ナノ共沈法により得られたナノ粒子の直径は最小で1 nm~2 nmに達することができる。
【0052】
なお、ホット励起子ナノ粒子の表面機能化修飾は上記の両親媒性ポリマーによる修飾方法に限定されず、直接機能化法(即ち、アルコキシ鎖、アミノ/カルボキシル基、又は標的機能を有する生体分子等の官能基を共有結合の方法により発光分子に直接修飾する)、物理的被覆(即ち、リン脂質又は二酸化ケイ素等でナノ粒子を被覆する)等の他の修飾方法を採用することができる。
【0053】
発光分子ナノ粒子を表面機能化することにより、ナノ粒子1個あたりの表面に大量の官能基を有することができ、さらに大量のオリゴヌクレオチドを結合することができるため、電気化学信号を増幅し、ECL検出の感度を向上させることができる。
【0054】
(ホット励起子ナノ粒子の修飾)
本発明において、ホット励起子ナノ粒子の修飾とは、ホット励起子ナノ粒子のオリゴヌクレオチド修飾を指し、具体的には、クエンチャー分子で修飾されたオリゴヌクレオチド鎖を用いて上記表面機能化されたホット励起子ナノ粒子を修飾し、オリゴヌクレオチドで修飾されたホット励起子ナノ粒子(以下、「ECLナノプローブ」ということもある)を得る。
【0055】
オリゴヌクレオチドとホット励起子ナノ粒子との結合方式は共有結合反応(例えばNH2-COOHによる架橋)に限らず、静電作用、親和吸着等の他の結合方式によりもよい。
【0056】
修飾に用いられるオリゴヌクレオチド鎖は二本鎖オリゴヌクレオチド鎖(例えばdsDNAなど)であってもよく、一本鎖オリゴヌクレオチド鎖(例えばRNA、ssDNA)などであってもよく、具体的には使用されるCas酵素の種類に応じて適宜選択することができる。
【0057】
また、Cas酵素による連帯切断活性が非特異的であるため、オリゴヌクレオチド鎖を構成するヌクレオチド配列は特に限定されず、任意の配列であればよい。オリゴヌクレオチド鎖の長さも特に限定されず、クエンチャー分子をホット励起子ナノ粒子に結合でき、且つクエンチャー分子とホット励起子ナノ粒子との間に共鳴エネルギー移動を発生させることができればよく、従来技術でよく用いられている様々な連結用のオリゴヌクレオチド鎖を参照して設計することができる。
【0058】
Cas酵素による切断の感度の観点から、前記オリゴヌクレオチド鎖のヌクレオチドの数は多く過ぎない方がよく、単本鎖として、好ましくは3~20個、より好ましくは4~11個、さらに好ましくは5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個または12個である。
【0059】
本発明のオリゴヌクレオチド鎖にはクエンチャー分子が修飾されている。クエンチャー分子の動的消光は蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)又は衝突消光により発生する。クエンチャー分子は光吸収とホット励起子ナノ粒子の蛍光放射とが重なるため、共鳴エネルギーは励起されたナノ粒子からクエンチャー分子に転移することができ、ホット励起子有機発光分子の発射を消光することができる。
【0060】
前記クエンチャー分子は本分野の一般的に用いられる共鳴エネルギー転移特性を有するクエンチャー分子を使用することができ、特に限定されず、例えばブラックホールクエンチャー(Black Hole QuencherTM試薬、即ちBHQ系クエンチャー)、ダーククエンチャー(dark quenchers、例えばDABCYLシリーズクエンチャー等)、BlackBerryTMクエンチャー(即ちBBQシリーズクエンチャー)、Blueberryクエンチャー(即ちBLUシリーズクエンチャー)、又はアミン反応性クエンチャー(QSYシリーズクエンチャー)等を用いることができる。そのうち、BHQクエンチャーはよく用いられる。これらのクエンチャーはいずれも商業的(例えばLGC、BiochTechnologiesTM)等)に得ることができる。
【0061】
クエンチャー分子とオリゴヌクレオチドとの接続方法は特に限定されず、本分野において慣用される方法を使用することができる。また、クエンチャー分子はオリゴヌクレオチドの末端に接続されてもよく、オリゴヌクレオチド配列の中に挿入されてもよい。
【0062】
図1は、本発明の電気化学発光ナノプローブの製造方法を示す模式図である。本発明の実施例1で製造されたホット励起子有機発光分子BCzP-BT分子を例とし、ホット励起子有機発光分子BCzP-BT分子をコポリマー分子PSMAとナノ共沈法により重合させ、ホット励起子ナノ粒子(BB NRs)を得て、その後末端にクエンチャー分子BHQが接続されているオリゴヌクレオチドDNAをNH
2-COOHの共有結合反応によりホット励起子ナノ粒子に接続し、それにより本発明の電気化学発光ナノプローブ(ECLナノプローブ)を得る。
【0063】
本発明において、前記クエンチャー分子が修飾されている前記オリゴヌクレオチドは以下に記載のCas酵素と共に本発明の信号スイッチとして機能する。具体的には、オリゴヌクレオチドが活性化されたCas酵素により切断されない場合、クエンチャー分子はオリゴヌクレオチドを介してホット励起子ナノ粒子の表面に接続され、ホット励起子有機発光分子に対して消光作用を発揮し、センサ電極は低いECL強度(ECL OFF)を表示する。一方、オリゴヌクレオチドが活性化されたCas酵素により切断された時に、クエンチャー分子はホット励起子ナノ粒子の表面から離脱し、それによりセンサ電極は強いECL信号(ECL ON)を表示する。
【0064】
<電気化学発光センサ>
本発明の電気化学発光センサ(以下、「ECLセンサ」ということもある)は、上記ECLナノプローブを動作電極に滴下することにより得ることができる。
【0065】
本発明に使用される動作電極としては、特に限定されず、ECL検出に一般的に用いられる電極、例えばガラス炭素電極(GCE)、酸化インジウムスズ(ITO)電極、又はスクリーン印刷電極(SPE)等のうちの一種を使用することができる。好ましくは酸化インジウムスズ電極を使用し、より好ましくは三電極システムを使用する。該電極システムには例えば白金ワイヤ対電極、Ag/AgCl参照電極及び酸化インジウムスズ(ITO)動作電極が配置されている。
【0066】
また、本発明が後文の実施例で検証されたように、金が共反応剤トリプロピルアミンなどに対して良好な触媒効果を有するため、ITO電極に比べて、金-酸化インジウムスズ(Au-ITO)電極はさらにECL信号を増強することができるため、本発明においてAu-ITO電極を使用することがより好ましい。
【0067】
<電気化学発光検出方法>
本発明の電気化学発光検出方法(以下、「ECL検出方法」ということもある)は、上述したECLセンサを用いる。また、本発明のECL検出方法は、測定されるサンプルを標的核酸と結合可能なガイド核酸を含むCas酵素触媒体系に添加し、サンプル反応溶液を得る酵素反応工程と、前記サンプル反応溶液を前記電気化学発光センサに添加し、電気化学発光信号を採取し、分析するサンプル検出工程とをさらに含んでもよい。
【0068】
また、本発明のECL検出方法において、本発明のECLセンサをそのまま用いるのではなく、使用時に製造することもできる。この場合、本発明のECL検出方法は、本発明のECLナノプローブを動作電極に滴下して本発明のホット励起子チップ(即ち、ECLセンサ)を得るホット励起子チップ作製工程をさらに含んでもよい。
【0069】
本発明のECL検出方法により、測定されるサンプル中の標的分子を検出することができる。前記測定されるサンプルは特に限定されず、例えば尿、血液、血清、脳脊髄液又は唾液等であってもよい。前記標的分子は特に限定されず、例えば核酸、タンパク質、化学小分子等であってもよい。
【0070】
本発明において、酵素触媒反応又は他の特異的化学反応を標的識別及び信号変換単位として、標的分子を滴下する時、上記酵素反応又は化学反応によりECLナノプローブの信号スイッチ状態を変更することができ、それにより標的信号に対する定性又は定量検出を実現する。
【0071】
酵素触媒反応に使用される酵素として、例えばCRISPR/Cas酵素中の連帯切断活性(collateral cleavage)を有するCas酵素を使用することができ、上記活性は非特異的なヌクレアーゼの切断活性に属し、Cas酵素が標的核酸分子に標的化されると、Cas酵素が活性化されて、任意の核酸分子を切断する非特異的な活性を取得する。
【0072】
前記Cas酵素は例えばCas12(VA型)、Cas13(VI型)及びCas14(VF型)から選択される少なくとも一種のCasタンパク質を含んでもよく、例えばCas12a、Cas12b、Cas13a、Cas13b、Cas14a、Cas14b及びCas14cから選択される少なくとも一種Casタンパク質である。ここで、Cas12はdsDNA(double-stranded DNA、二本鎖DNA)を標的とし、Cas13はssRNA(single-stranded RNA、一本鎖RNA)を標的とし、Cas14はssDNAを標的とする。また、Cas12aはさらにssDNA(single-stranded DNA、一本鎖DNA)に対する非特異的切断活性(トランス切断活性とも呼ばれる)を有するため、さらにssDNAを標的とすることができる。
【0073】
また、Cas12酵素はDNAを標的とし、商業的に成熟し、且つDNAに加えて他の非核酸検出分野(例えばタンパク質、生物小分子等)に用いることができるため、より好ましい。
【0074】
本発明において、Cas酵素のガイドRNA(gRNA)を設計し合成することにより、任意の核酸配列を標的とすることができる。gRNAは二つの部分で構成され、一つはCRISPR RNA(crRNA)であり、標的核酸と相補的にペアリングする17~20個の塩基長さのヌクレオチド配列である;及び一つは足場としてCas酵素の折り畳みを助けるtracr RNAである。ガイドRNAは標的核酸のオリゴヌクレオチドと結合することによりCas酵素を活性化する。活性化されたCas酵素は、連帯切断活性によりECLナノプローブに接続されているオリゴヌクレオチドを切断してECLナノプローブの信号スイッチ状態を変更させる。
【0075】
以下、本発明の実施例で製造されたホット励起子有機ナノロッド(BB NRs)及びセンサアレイを例として、本発明の信号スイッチの原理及びECL検出チップの製造及び検出方法を具体的に説明する。
【0076】
本発明の信号スイッチの原理について、
図2に示すECL検出チップを例として具体的に説明する。
図2は、本発明のssDNA-BB NRsナノプローブに基づくECLスイッチの概略図である。本発明のホット励起子ナノ粒子(BB NRs)を末端にクエンチャー分子(BHQ)が修飾されているオリゴヌクレオチド(ssDNA)に接続し、本発明のECLナノプローブ(ssDNA-BB NRsナノプローブ)を得て、ECL検出におけるリポータープローブとする。ssDNAの末端にBHQが修飾されているため、BB NRsはECL OFF状態である。ssDNA-BB NRsナノプローブをITO電極の表面に直接滴下し、ECLセンサ界面を構築する。反応溶液をセンサ界面に滴下し、Cas酵素(Cas12a酵素)が活性化されない場合、BHQはssDNAを介してBB NRs表面に接続され、センサ電極は低ECL強度を表示する(ECL OFF)。逆に、標的分子が存在し、Cas12a酵素が活性化される場合、ssDNAが切断され、それによりBHQはBB NRs表面から離脱し、BB NRsのECLを回復させ、センサ界面に強いECL信号を生成する(ECL ON)。
【0077】
本発明のECL検出チップの製造及び検出方法について、
図3に示すECL検出方法を例として具体的に説明する。
図3は、本発明のssDNA-BB NRsに基づくセンサアレイの製造及び検出の概略図である。まず、酸化インジウムスズ(ITO)電極又は金等の沈着により得られた金-酸化インジウムスズ(Au/ITO)電極に、本発明のECLナノプローブを滴下し、本発明のECL電極(即ちECLセンサ)を得る。Casタンパク質、crRNA、及び含有可能性がある測定対象の標的核酸を含有する反応溶液をECL電極に滴下し、上記信号スイッチにより、標的分子が存在せず、Cas酵素が活性化されない場合、センサ電極は低ECL強度(ECL OFF)を表示する。一方、標的分子が存在し、Cas12a酵素が活性化される場合、BB NRsのECLが回復し、センサ界面に強いECL信号(ECL ON)を生成し、それにより本発明のホット励起子有機発光分子に基づく電気化学発光検出を実現する。
【0078】
より高いECL信号強度を得る観点から、好ましくはECLの検出条件、例えばサンプル反応溶液におけるCasタンパク質の濃度、Casタンパク質とcrRNAの使用割合、及びサンプル反応溶液のチップ上での反応時間(例えばインキュベーション時間)等を最適化する。
【0079】
Casタンパク質の濃度について、特に限定されないが、より高いECL信号強度を得る観点から、例えば40 nM以上であってもよく、好ましくは42 nM以上であり、より好ましくは45 nM~70 nMであり、特に好ましくは50 nM~60 nMである。
【0080】
Casタンパク質とcrRNAの使用割合については、特に限定されないが、より高いECL信号強度を得る観点から、crRNAの使用量はCasタンパク質よりも多いことが好ましい。例えば、Casタンパク質とcrRNAの使用割合は1:1.25~1:5であってもよく、好ましくは1:1.35~1:4であり、より好ましくは1:1.5~1:3であり、特に好ましくは1:1.5~1:2である。
【0081】
サンプル反応溶液のチップ上のインキュベーション時間について、特に限定されないが、より高いECL信号強度を得る観点から、例えば30分間以上であってもよく、好ましくは35~120分間であり、より好ましくは37~90分間以上であり、特に好ましくは40~60分間である。
【0082】
本発明の後文に記載の実施例により検証されたように、本発明のホット励起子材料のECL効率は56.7%に達し、蛍光量子収率(ΦPL)は89%以上に達することができる。この前に報告されている熱活性化遅延蛍光(TADF)原理に基づくPdots(報告されている有機ECLナノ材料効率が最も高いものである)(Anal. Chem. 2022, 94, 15695-15702)及び従来の蛍光材料に基づくPdots(Chem. Sci. 2019, 10, 6815;Anal. Chem. 2016, 88, 845)よりも高い。
【0083】
図4は、TADF化合物とホット励起子材料の発光原理を対照的に示す模式図である。
図4に示すように、TADF化合物のRISC過程はT
1とS
1との間に発生するため、冷励起子材料とも呼ばれる。TADF化合物の最低の一重項状態(S
1)と三重項(T
1)励起状態との両者の電荷移動(CT)性質により低いΦ
PLを持たせるとともに、TADF化合物のT
1からS
1への緩やかな逆項間交差(RISC)は、長寿命の三重項励起子の蓄積を引き起こしやすく深刻な消滅を招く。TADF化合物の冷励起子通路とは逆に、ホット励起子材料のRISCは高エネルギー準位励起状態(hRISC,T
m→S
n,m≧2,n≧1)の間に発生する。ここで、大きいT
m-T
1エネルギーギャップはT
mからT
1への内部変換(IC)を抑制し、狭いT
m-S
nエネルギー分裂はhRISCを促進する。したがって、加速されたRISCにより、ホット励起子材料はTADF材料よりも三重項励起子を十分に利用する。hRISC過程はT
1励起子の消光を軽減する。また、TADF材料の強いCT特性と異なり、ホット励起子材料はHLCT励起状態性質を有し、ここでS
1状態はLE又はLEが支配するHLCT状態であり、T
m及びS
n状態はCT状態であるため、それに高いΦ
PL及び100%の励起子利用効率を持たせる。
【0084】
また、HPV16 DNAの検出を例として、本発明のECL検出方法を従来技術に記載された他の方法と検出範囲及び検出限界で比較し、その比較結果を表1に示す。
【0085】
【0086】
なお、上付き文字1~6はそれぞれ下記の文献を示す。
1:L. Wang et al., Microchem. J. 2022, 181, 107818.
2:Y. Nie et al., Biosens. Bioelectron. 2020, 160, 112217.
3:P. Liu et al., Biosens. Bioelectron. 2021, 176, 112954.
4:Y. He et al., ACS Appl. Mater. Interfaces, 2021, 13, 298.
5:S. Jampasa et al., Sensor. Actuat. B-Chem, 2018, 265, 514.
6:Y. He et al., Sensor. Actuat. B-Chem, 2020, 320, 128407.
【0087】
表1から分かるように、本発明の該ホット励起子有機発光分子に基づいて製造されたECLチップ(センサ)は、報告されている他のECLチップに比べてより広い検出範囲及びより高い感度を有する。
【0088】
<ECL検出用キット>
本発明のECL検出用キットは上記本発明のECLセンサを直接に含んでもよく、上記本発明のECLナノプローブを含んで、検出時に動作電極に滴下すればよい。ECLセンサに加え、ECL検出に必要の他の試薬、例えばCas酵素を含有する検出試薬又は取扱説明書等を含むことができる。
【0089】
以上、実施形態に基づいて本発明の電気化学発光ナノプローブ及びその製造方法及び応用等を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、実施の形態に当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、実施の形態における一部の構成要素を組み合わせて構築される他の形態も、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0090】
以下に実施例を挙げて本発明のホット励起子ナノ粒子、ECLナノプローブ、ECL検出方法等を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0091】
実施例で使用された試薬、実験方法及び使用される装置は以下のとおりである。
(1)試薬:
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(Pph3)4)は、Bide Pharmaceutical Technology Co., Ltd. (Shanghai,China)から購入される。
4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニルボロン酸ピナコールエステルはMacklin Biochemical Technology Co., Ltd. (Shanghai, China)から購入される。
4,7-ジブロモベンゾ[c]-1,2,5-チアジアゾールはAladdin Biotech Co., Ltd. (Shanghai, China)から購入される。
EnGen(登録商標)Lba Cas12a(10μMの溶液)はNew England Biolabs (Ipswich, MA, UK)から購入される。
ポリスチレン-無水マレイン酸(PSMA、平均Mw:1700)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、ポリエチレングリコール(PEG、平均Mw:3350)、1-(3-(ジメチルアミノ)プロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)及びテトラブチルアンモニウムクロリドはいずれもSigma-Aldrich Co., Ltd. (Shanghai, China)から購入される。
トリプロピルアミン(TPrA、>98%)はJ&K Chemical Ltd. (Beijing, China)から購入される。
酸化インジウムスズ(ITO)ガラスシート(100×100 mm×1.1 mm)はZhuhai Kaivo Optoelectronic Technology Co., Ltd. (Zhuhai, China)から購入される。
炭酸ジエチル(DEPC)水及び表2に記載の全てのオリゴヌクレオチドはいずれもSangon Bioengineering Co. Ltd. (Shanghai, China)から購入される。
また、リン酸塩緩衝液(PBS、0.1M、pH 7.4)はKH2PO4とNa2HPO4の貯蔵溶液を混合することにより調製される。
【0092】
実施例で使用されるオリゴヌクレオチド配列は以下のとおりである。
【0093】
【0094】
(2)実験方法及び装置
TEMは、TECNAIG2F 20透過型電子顕微鏡(FEI、USA)により得られる。
ゼータ電位は、90 Plus DynaPro NanoStar(Brookhaven Instrument Corporation,USA)を用いて記録する。
1H NMRスペクトルは、Bruker AvanceIII 500HD分光計(ドイツ)により重水素化CDCl3を溶媒としテトラメチルシラン(TMS)を内部標準として測定する。
UV-vis吸収スペクトルは、UV-3600分光光度計(日本島津)により得る。
フォトルミネセンス(PL)スペクトルおよび蛍光寿命は、FLS-980蛍光分光光度計(Edinburgh, U.K.)を用いて測定した。
AFMは、原子間力顕微鏡(BRUKER Dimension Icon, Germany)によりScanAsystモードで取得される。
PVD 75電子ビーム蒸着システム(Kurt J.Lesker、USA)により5 nm Crと50 nm Au層をITOガラスシートに堆積する。
ECLスペクトルは、山東大学のGuizheng Zhou教授実験室自製のECL分光計により取得される。該分光計は、液体N2で冷却されるPyLoN 400BR-eXcelonデジタルCCD検出器(Princeton, USA)とVersaSTAT3電気化学分析器(Princeton, USA)を備えるActon SP 2300iモノクロメータで構成される。
サイクリックボルタンメトリー実験は、CHI 630D電気化学ワークステーション(CHI instruments Inc., China)で行う。
陽極及び陰極ECL実験は、MPI-EII ECL分析器(Xi’an Remex, China)の自製反応槽で行い、該分析器は三電極システムを採用する。
ECLイメージングは自製のECLイメージングシステムで行われる。該イメージングシステムには、集束レンズ(EF 50mm f/1.2L USM, Canon)、電子増倍電荷結合素子(EMCCD, iXon Ultra, Andor, UK)及びCHI-660D電気化学ワークステーションを備え、Au/ITO電極を動作電極とし、Ag/AgClワイヤを参照電極とし、Ptワイヤを対電極とする。
【0095】
実施例1:ホット励起子有機ナノロッド(BB NRs)の製造及び特性解析
【0096】
a.ホット励起子分子BCzP-BTの合成
まず、4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニルボロン酸ピナコールエステル(Cz、1.1817g、3.2 mmol)、4、7-ジブロモベンゾ[c]-1,2,5-チアジアゾール(BT、0.4145g、1.41 mmol)、K
2CO
3(2.0040g、14.5 mmol)及びテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(Pph
3)
4、0.2311g、0.2 mmol)を20 mL トルエンと4 mL水の混合液を入れたシュレンク管に添加した後、シュレンク管をアルゴン雰囲気下で、90℃で18時間撹拌する。次に、反応済みの混合液をジクロロメタンで抽出し、石油エーテル及びジクロロメタンを溶出剤とし、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、0.7512g BCzP-BT生成物(即ち4、7-ビス(4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル)ベンゾ[c][1,2,5]チアジアゾール(p-BCzP-BT)を得て、以下も「BCzP-BT」と略称する)、収率が86%である。核磁気(
1H NMR)及び質量スペクトルによりBCzP-BT分子の合成を検証し、その結果を
図5Aおよび
図5Bに示す。
図5Aおよび
図5Bは、本発明の実施例1で製造されたBCzP-BT分子の核磁気(
1H NMR)及び質量分析の結果を示す図である。ここで、
図5AはBCzP-BT分子の核磁気(
1H NMR)分析の結果を示す図であり、
図5BはBCzP-BT分子の質量分析の結果を示す図である。
【0097】
図5Aは本発明の実施例1で製造されたBCzP-BT分子の核磁気(
1H NMR)分析の結果を示す図であり、
図5BはBCzP-BT分子の質量分析の結果を示す図である。
図5A及び
図5Bから分かるように、本発明はBCzP-BT分子を成功的に合成した。
【0098】
b.ホット励起子有機ナノロッド(BB NRs)の製造
まず、50μg/mLのBCzP-BT及び10μg/mLのポリ(スチレン-無水マレイン酸共重合体)(PSMA、Mn=1700)を含有する2.5 mLのTHF溶液を室温で20分間超音波処理する。次に、上記溶液を10 mLの水に迅速に注入し、30秒超音波処理する。35℃での回転蒸発により溶媒THFを除去し、さらにポリエーテルスルホン注射器で濾過し、BB NRsを得た。
【0099】
c.BCzP-BT分子の励起状態及び特性解析
本発明の実施例1で製造されたBCzP-BT分子の励起状態を分析し、その結果を
図6Aおよび
図6Bに示す。
図6Aおよび
図6Bは、本発明の実施例1で製造されたBCzP-BT分子の励起状態の分析結果を示す図である。ここで、
図6AはBCzP-BTの異なる極性溶媒における正規化紫外-可視吸収及びFLスペクトルを示し、
図6BはBCzP-BT分子におけるCzP、BT及びBCzP-BTの10
-5M THF溶液におけるFLスペクトルを示す。
【0100】
まず、BCzP-BT分子の異なる極性溶媒における正規化紫外-可視吸収及び蛍光(FL)スペクトルを考察した。その結果を
図6Aに示す。分子内の電荷がCzからBT単位に移行するため、BCzP-BTは約400 nmにブロードな吸収を示し、該紫外線吸収ピークの形状及び位置は溶剤の極性の増加に伴って大きく変化しなかった。しかしながら、溶媒の極性の増加に伴い、BCzP-BTの蛍光スペクトルが68 nmの赤シフトを示し、かつ蛍光ピークが広くなり、BCzP-BT分子が溶媒効果を有することを示した。
図6Aから分かるように、BCzP-BT分子は強い電荷移動状態(CT)特徴を有する。
【0101】
次に、BCzP-BT分子におけるCzP、BT、及びBCzP-BTの10
-5M THF溶液におけるFLスペクトルの差異を分析した。その結果を
図6Bに示す。
図6Bから分かるように、BCzP-BT分子の発光はCzからBTへの電荷移動に由来し、モノマー自体由来ではない。
【0102】
図7Aおよび
図7Bは、本発明の実施例1で製造されたBCzP-BT分子の励起状態の性質を示す図である。ここで、
図7Aはストークス変位(v
a-v
f)と溶媒の配向分極率(Δf)の変化曲線を示す図であり、
図7BはTHFにおけるBCzP-BTの過渡PL減衰曲線を示す図である。
【0103】
さらに、BCzP-BTの励起状態性質を検討するために、Lippert-Mataga溶媒誘起変色モデルに基づいてストークス変位(v
a-v
f)と溶媒の配向分極率(Δf)の変化曲線を作成し、かつ曲線傾きによりS
1の双極子モーメントを計算した。その結果を
図7Aに示す。
【0104】
図7Aにおいて、二本の断面フィッティング線が観察され、低極性溶媒の双極子モーメントが小さく、高極性溶媒の双極子モーメントが大きく、それがそれぞれ局所励起状態(LE)及び電荷移動励起状態(CT)に対応する。中極性溶媒に対して、励起状態はLE状態及びCT状態性質を同時に表現した。
【0105】
また、BCzP-BTの蛍光寿命を解析した。その結果を
図7Bに示す。
図7BはTHFにおけるBCzP-BTの過渡PL減衰曲線を示す図であり、
図7Bから分かるように、BCzP-BTは6.72 nsのシングルインデックス減衰を示し、遅延がなかった。該結果は、BCzP-BTのS
1励起状態が混成局所-電荷移動励起状態(HLCT)であり、LEとCT状態の簡単な混合ではないことをさらに証明した。
【0106】
図8Aおよび
図8Bは、本発明の実施例1で製造されたBCzP-BTのホット励起子過程の可能性の分析結果を示す図である。ここで、
図8AはBCzP-BT分子のエネルギー準位分布を示す図であり、
図8BはBCzP-BT分子の自然遷移軌道シミュレーション結果を示す図である。
【0107】
また、ホット励起子過程の可能性を検証するために、TD-m062x/6-311g(d)を用いてBCzP-BTの最も低い一重項状態及び三重項励起状態のエネルギー準位を計算した。その結果を
図8Aに示す。
【0108】
図8Aの結果によると、T
2とT
1との間のバンドギャップ(1.09 eV)は三重項の内部変換を抑制し、T
2とS
1との間のナローギャップ(0.13 eV)は逆系間交差を促進することにより、三重項励起子の蓄積による消光を軽減し、かつ三重項励起子をホット励起子チャネルにより効果的に利用されることができる。
【0109】
また、Multiwfnソフトウェアを用いてBCzP-BT分子に自然遷移軌道シミュレーション(NTO)を行った。そのシミュレーション結果を
図8Bに示す。
図8Bの結果によると、T
1は局在励起状態(LE)という特徴、S
m及びT
nが電荷移動励起状態(CT)という特徴を有し、S
1が混成局所-電荷移動励起状態を有するという特徴を有する(S
1状態の電子がBT及び隣接するベンゼン環に集中し、正孔が骨格全体に分布するため)。
【0110】
d.BB NRsの特性解析:
本発明の実施例1で製造されたBB NRsの特性を解析した。その結果を
図9A~
図9Eに示す。
図9A~
図9Eは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsの特性の解析結果を示す図である。ここで、
図9AはTEM画像であり、
図9BはAFM画像であり、
図9C、
図9D、および
図9Eは、それぞれBB NRsとBCzP-BTの紫外及び蛍光スペクトル及び蛍光寿命を示す図である。
【0111】
まず、TEM及びAFMにより合成されたBB NRsの形態を解析した。TEM画像及びAFM画像をそれぞれ
図9A及びBに示す。
図9A及びBの結果によると、BB NRsは幅が約30 nmであり、長さが約200 nmである棒状の形態である。
【0112】
図9C、
図9D、および
図9Eは、それぞれ、BB NRsとBCzP-BTの紫外及び蛍光スペクトル並びに蛍光寿命を示す図である。
図9Cから分かるように、BB NRs溶液は日光で浅緑色であり、365 nmの紫外光照射で明るい黄緑色光を発する。
図9Dから分かるように、BCzP-BTに比べて、BB NRsが水中の極性環境で遷移エネルギーを低下させる可能性があるため、BB NRsの紫外線吸収は400 nm付近にわずかな赤シフトを示した。
図9Dから分かるように、BCzP-BT及びBB-NRは554 nmにいずれも類似するFL放出を示した。
図9Eから分かるように、両者のFL寿命は約6.7 nsであり、これらの結果により、BB-NRはBCzP-BTと同じ光物理的性質を有することが分かった。
【0113】
e.BB NRsのECL特性
本発明の実施例1で製造されたBB NRsのECL特性を分析した。
まず、消滅ECL実験を行ってBB NRsラジカル中間体の安定性を考察した。なお、消滅ECL実験の具体的な条件は以下のとおりである。
電極材料:BB NRs/GCE
電解液:0.1M PBS pH 7.4、窒素ガス通気20分間
ECL:サイクリックボルタンメトリー法
消滅状態ECL:パルスステップ法
最高電位:+1.5V
最低電位:-2.0V
走査速度:0.1V/s
PMT:高圧800V
【0114】
実験結果を
図10Aおよび
図10Bに示す。
図10Aおよび
図10Bは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsのECL特性の分析結果を示す図である。ここで、
図10AはBB NRs/GCEのサイクリックボルタンメトリー(CV)曲線及びECL曲線を示す図であり、曲線aはそれぞれ先に陽極走査を行う結果を示し、曲線bはそれぞれ先に陰極走査を行う結果を示す。
図10BはBB NRs/GCEの消滅状態ECL曲線を示す図である。
【0115】
図10Aは、BB NRs/GCEのサイクリックボルタンメトリー(CV)曲線及びECL曲線を示す図である。
図10Aに示すように、N
2で飽和したPBSにおいて、BB NRsで修飾されたガラス炭素電極(BB NRs/GCE)のサイクリックボルタンメトリー(CV)曲線は+0.95 Vに酸化ピーク(Czの酸化に対応する)が現れ、-1.45 Vに還元ピークが現れた(BTの還元に対応する)。
【0116】
また、
図10Aから分かるように、走査方向がECLに大きく影響する。先に陽極走査を行う場合(曲線a)、+1.05 Vのみに微弱なECL放射(0から+1.5 Vまで、さらに-2.0 Vまで)が現れ、先に陰極走査を行う場合(曲線b)、+1.0 V及び-2.0 Vにいずれも強いECL放射(0から-2.0 Vまで、さらに+1.5 Vまで)が現れた。これらの結果は、BB NRsの還元状態がより安定することを表明した。
【0117】
同時に、パルスステップ法を利用してBB NRsの消滅状態ECLを検出した。その結果を
図10Bに示す。
図10Bにおいて、左図は-2.0から+1.5 Vを示し、右図は+1.5から-2.0 Vを示す。
図10Bの結果により、初期電位が負であるか正であるかにかかわらず、+1.50 VのみでBB NRsの過渡ECL発射が観察され、BB NRsの還元状態がより高い安定性を有することを証明した。
【0118】
また、BB NRsの共反応剤存在下でのECLをさらに検討した。その分析結果を
図11に示す。
【0119】
まず、トリプロピルアミン(TPrA)を共反応剤として、BB NRsの陽極ECL挙動を考察した。
【0120】
陽極ECL実験の具体的な実験条件は以下のとおりである。
電極材料:BB NRs/GCE
電解液:10 mM TPrA含有0.1M PBS pH 7.4
試験方法:サイクリックボルタンメトリー法
最高電位:+1.5V
最低電位:0V
走査速度:0.1V/s
ECL:PMT、高圧400V
また、S2O8
2-を共反応剤として、BB NRsの陰極ECL挙動を考察した。
陰極ECL実験の具体的な実験条件は以下のとおりである:
電極材料:BB NRs/GCE
電解液:100 mM K2S2O8含有0.1 M PBS pH 7.4
試験方法:サイクリックボルタンメトリー法
最高電位:0V
最低電位:-2.0V
走査速度:0.1V/s
ECL:PMT、高圧400V
【0121】
分析結果を
図11A~
図11Fに示す。
図11A~
図11Fは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsの共反応剤存在下でのECLの分析結果である。ここで、
図11A、
図11B、
図11Cはそれぞれトリプロピルアミン(TPrA)を共反応剤とする場合のBB NRsの陽極ECL挙動及びメカニズムを示し、
図11A、
図11B中の曲線aはTPrA自体、曲線bはTPrAなし、曲線cはTPrAと共存することを示す。
図11D、
図11E、
図11FはそれぞれK
2S
2O
8を共反応剤とする場合のBB NRsの陰極ECL挙動及びメカニズムを示し、
図11D、
図11E中の曲線aはS
2O
8
2-自体、曲線bはS
2O
8
2-なし、曲線cはS
2O
8
2-と共存することを示す。
【0122】
図11Aから分かるように、トリプロピルアミン(TPrA)自体(曲線a)は+0.98 Vで不可逆酸化ピークが観察され、開始電位は+0.57 Vである。なお、TPrA
・ラジカルはTPrA
・+(TPrA酸化生成物)が脱プロトン化した後に生成される。
図11A及び
図11Bから分かるように、TPrAがない場合(曲線b)、BB NRsの酸化は+0.70 V付近で開始し、カチオンラジカルBB NRs
・+を生成した。これにより、明らかな酸化電流と微弱なECL発射を示した。
図11A及び
図11Bから分かるように、TPrAと共存する場合(曲線c)、BB NRs/GCEはTPrA及びBB NRsの酸化ピーク及び+1.07 Vでピーク値に達する強いECL放射が観察された。この現象は、TPrA・とBB NRs
・+との間の電荷移動による励起された一重項状態と三重項状態BB NRs(
1BB NRs
*及び
3BB NRs
*)の放射緩和に起因すると考える(
図11C参照)。
【0123】
図11D及び
図11Eから分かるように、S
2O
8
2-自体(曲線a)は-1.07 Vで強酸化性SO
4
・-に還元されることができるが、そのECL放射が低く、無視できる。
図11D及び
図11Eから分かるように、K
2S
2O
8がない場合(曲線b)、BB NRs/GCEは-1.55 Vに明らかな還元ピークが現れるとともに、微弱なECL放射を伴って、BB NRsがBB NRs
・-に還元されることができることを表明した。
図11D及び
図11Eから分かるように、K
2S
2O
8が存在する場合(曲線c)、BB NRs/GCEは明らかな還元電流を生成し、ピーク電位が-1.40 Vであるとともに、強いECL放射を伴った。該現象は、BB NRs
・-とSO
4
-との反応により、
1BB NRs
*及び
3BB NRs
*の放射を生成することに起因すると考える(
図11F参照)。
【0124】
また、10 mMのTPrA
・又は100 mMのK
2S
2O
8の存在下で1 mMのRu(bpy)
3
2+を標準として、BB NRsの電流-時間曲線及びECLスペクトルを記録することにより、BB NRsのECL効率を検証した。なお、具体的な実験条件は上記の陽極ECL実験及び陰極ECL実験と同じである。その結果を
図12A~
図12Dおよび表3に示す。
図12A~
図12Dは、Ru(bpy)
3
2+を基準とする本発明の実施例1で製造されたBB NRsのECL効率を示す図である。ここで、
図12A及び
図12BはそれぞれBB NRs及びRu(bpy)
3
2+修飾GCEの陽極電流-時間曲線及びECLスペクトルを示す図であり、
図12C及び
図12DはそれぞれBB NRs及びRu(bpy)
3
2+修飾GCEの陰極電流-時間曲線及びECLスペクトルを示す。
【0125】
表3に、BB NRs/GCEとRu(bpy)3
2+/GCEとの相対ECL効率を示す。
【0126】
【0127】
なお、φECLは以下の式(1)により計算する。
【0128】
【0129】
ここで、φ及びφ°、I及びI°、Q及びQ°はそれぞれサンプル及び標準品のECL効率、ECL強度積分(積分ECLスペクトルvs波長)、消費電荷(積分CV曲線vs時間)を示す。
【0130】
図12A~
図12D及び表3から分かるように、本発明のBB NRsは同じ又はさらに低い濃度の共反応物存在下で従来の蛍光に基づくPdots(Z. Wang et al.,Adv. Funct. Mater. 2020,30,2000220;Y. Feng et al., Anal. Chem. 2016, 88, 845;Z. Wang et al., J. Phys. Chem. Lett. 2018,9,5296)及びTADF Pdots(C. Wang et al., Anal. Chem. 2022,94,15695)より優れたECL効率を示し、これはホット励起子メカニズムにより、BB NRsに高い放射遷移率及び有効的な励起子の利用効率を与えるためである。
【0131】
さらに、BB NRsのECL帰属を考察した。その分析結果を
図13A~
図13Cに示す。
図13A~
図13Cは、本発明の実施例1で製造されたBB NRsのECL帰属の分析結果を示す図である。ここで、
図13AはBB NRsの陽極、陰極ECLスペクトル及びFLスペクトルを示す図であり、
図13BはBB NRsで修飾されたガラス炭素電極のCV曲線を示す図である。
図13Cは、BCzP-BT分子の最低非占有分子軌道(LUMO)と最高占有分子軌道(HOMO)とのバンドギャップを示す模式図である。
【0132】
まず、BB NRsの陽極、陰極ECLスペクトル及びFLスペクトルを試験した。その試験結果を
図13Aに示す。なお、陽極及び陰極ECLスペクトルの具体的な試験条件は、上記の陽極及び陰極ECL実験と同じである。
【0133】
図13Aは、BB NRsの陽極、陰極ECLスペクトル及びFLスペクトルを示す図である。
図13Aから分かるように、BB NRsの陽極と陰極ECLの発射ピークはそのFL発射ピークとよくマッチングし、いずれも560 nmであり、BB NRsのECLとFL過程が同じ励起状態を有することを示した。これらの励起状態はバンドギャップ遷移により生成される。
【0134】
また、BB NRsの有機相におけるCV曲線を試験した。その試験結果を
図13Bに示す。
【0135】
ここで、有機相CVの具体的な試験条件は以下のとおりである。
電極材料:BB NRs/GCE
電解液:0.1 M テトラブチルアンモニウムクロリド含有テトラヒドロフラン溶液、窒素ガス通気20分間
試験方法:サイクリックボルタンメトリー法
最高電位:+1.5V
最低電位:-2.2V
走査速度:0.1V/s
【0136】
図13BはBB NRsで修飾されたガラス炭素電極のCV曲線を示す図であり、
図13CはBCzP-BT分子の最低非占有分子軌道(LUMO)と最高占有分子軌道(HOMO)とのバンドギャップを示す模式図である。
図13B、
図13Cから分かるように、BB NRsの酸化ピークは二つのカルバゾールの酸化に対応するが、カルバゾールが電気化学反応して二量体を生成しやすいため、BB NRsのCVは不可逆的な酸化波を示し、その還元ピークはベンゾチアジアゾールの還元により生成され、ベンゾチアジアゾールは二つの電子吸引のイミノ結合(C=N)を有するため、そのCV曲線も二つの連続的な還元ピークを示す。
【0137】
実施例2:ECLナノプローブ
1)オリゴヌクレオチドで修飾されたBB NRsプローブ:
a.ssDNA-BB NRsの製造
まず、12μLのポリエチレングリコール(PEG、Mw=3350)及び12μLの1 M 4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)を順に600μLのBB NRsに添加した後に、0.1 M NaOHで溶液のpHを7.4に調節し、さらに40μLのブラックホールクエンチャー2(BHQ2)で修飾された一本鎖DNA(ssDNA-BHQ2、100μM)及び24μL調製直後のEDC(10 mg/mL)を添加し、室温で暗所で24時間撹拌した後に限外濾過により遊離のssDNA-BHQ2を遠心分離して除去し、ssDNA-BB NRsを得た。BB NRsと410 nmの波長で同じ吸光度を有するように希釈し、光を避けて保存する。
【0138】
b.ssDNA-BB NRsの特性解析
ssDNA-BB NRsの紫外吸収スペクトル及びZeta電位を測定した。その結果を
図14A~
図14Cに示す。
図14A~
図14Cは、本発明の実施例2で製造されたssDNA-BB NRsプローブの特性の解析結果を示す図である。ここで、
図14AはssDNA-BB NRsプローブの紫外吸収スペクトル及びFLスペクトルを示す図である。図中の曲線a、b、c及びdはそれぞれssDNA-BB NRs、ssDNA、BB NRsの紫外吸収スペクトル及びBB NRsのFLスペクトルを示す。
図14BはZeta電位の解析結果を示す図である。
図14CはssDNA-BB NRsプローブの製造プロセスにおいて毎回の限外濾過された液の紫外解析結果を示す図である。図中の数字1~9は順に1回目~9回目の濾過液を示す。
【0139】
図14Aの曲線aから分かるように、ssDNA-BB NRsの紫外(UV-vis)吸収は410 nmにBB NRsの吸収ピークを有するだけでなく、260 nmにもssDNAの吸収ピークがあり、580 nmにBHQ2の吸収ピークがある。また、
図14Aから分かるように、BHQ2の広帯域吸収帯はBB NRsのFL放出ピーク(曲線d)と重なり、BHQ2はBB NRsの放出を消光することができることを表明した。
【0140】
図14Bから分かるように、ssDNA-BB NRsのZeta電位づけによりBB NRsに比べて、ssDNA-BB NRsはより負のゼータ電位を有する。これらの結果は、ssDNA-BB NRsプローブの製造が成功したことを示した。
【0141】
また、ssDNABB NRsを限外濾過して精製する時に、毎回の濾過液を収集してその紫外を測定した。
図14Cから分かるように、限外濾過の回数の増加に伴い、溶液中のDNA及びBHQ2の吸収ピークが徐々に低下し、該結果は製造されたssDNA-BB NRsプローブ溶液に遊離のssDNA-BHQ2がほとんどないことを説明した。
【0142】
2)ssDNA-BB NRsナノプローブに基づくECLスイッチ
a.信号スイッチの原理
ssDNA-BB NRsナノプローブをレポータープローブとして説明する。
図2に示すように、ssDNAの末端にBHQが修飾されているため、BB NRsはECL OFF状態である。ssDNA-BB NRsナノプローブをITO電極の表面に直接滴下し、ECLセンサ界面を構築した。反応溶液をセンサ界面に滴下し、Cas12a酵素が活性化されない場合、BHQはssDNAを介してBB NRs表面に接続され、センサ電極は低ECL強度を表示する(ECL OFF)。一方、標的分子(標的核酸)が存在し、Cas12a酵素が活性化される場合、ssDNAが切断され、それによりBHQはBB NRs表面から離脱し、BB NRsのECLを回復させ、センサ界面に強いECL信号を生成する(ECL ON)。
【0143】
b.信号スイッチの検証
まず、蛍光でCas12a酵素のssDNA-BB NRsナノプローブに対するスイッチ応答を解析した。
【0144】
Cas酵素-蛍光試験の試験条件は以下のとおりである。
検出装置:蛍光励起検出装置
励起波長:365 nm
発射波長範囲:400~700 nm
PMT:800 V
反応前:50μLのssDNA-BB NRs+50μLの水
反応後:50μLのssDNA-BB NRs+50μL Cas12a体系
なお、Cas12a体系:2.5μL Cas12a(1μM)+5μL crRNA(1μM)+5μL NE buffer(10×)+32.5μL DEPC水+5μL HPV16 dsDNA(500 nM)
【0145】
蛍光試験の結果を
図15Aおよび
図15Bに示す。
図15Aおよび
図15Bは、本発明の実施例2で製造されたssDNA-BB NRsプローブシグナルスイッチの実行可能性の分析結果を示す図である。ここで、
図15AはssDNA-BB NRsとCas12a体系の反応前(曲線a)及び反応後(曲線b)の蛍光解析結果を示す図である。
図15Bは異なるITO電極の正規化ECLイメージング強度の解析結果を示す図である。ここで曲線aはBB NRs修飾電極、曲線bはssDNA-BB NRs修飾電極、曲線cはssDNA-BB NRs+Cas12a+crRNA体系修飾電極に1nM標的分子を添加した結果を示し、曲線dはssDNA-BB NRs+Cas12a+crRNA修飾電極に標的分子を添加していない結果を示す。
【0146】
図15Aは、ssDNA-BB NRsとCas12a体系の反応前(曲線a)及び反応後(曲線b)の蛍光解析結果を示す図である。
図15Aに示すように、1 nMの標的分子でCas12a酵素を活性化した後、ssDNA BB NRsの蛍光が大きく回復した(曲線b)。
【0147】
図15Bは、異なるITO電極の正規化ECLイメージング強度の解析結果を示す図である。
図15Bに示すように、BB NRsで修飾されたセンサ電極(曲線a)に比べて、ssDNA-BB NRsで修飾されたセンサ界面にECLイメージング信号(曲線b)がほとんどなく、センサ界面がECL OFF状態であることを示した。1 nM標的分子を添加した後、Cas12a酵素が活性化され、BB NRs上のBHQ-ssDNAが切断され、ECL ON応答を発生し、センサ電極のECL強度が~75%(曲線c)に回復した。この結果は、ssDNA-BB NRsナノプローブに基づくECLスイッチ体系の実行可能性を示した。
【0148】
また、
図15Bから分かるように、DNA-BHQ2とBB NRsの接続によりBB NRsのECL発射の95.6%消光(曲線a、b)をもたらした。
【0149】
実施例3:CRISPR/Cas12a変換触媒に基づくHPV遺伝子の電気化学発光検出方法
ssDNA-BB NRsに基づいて構築されたセンサアレイのECLイメージング検出
【0150】
a.検出の設計
該検出方法は「ssDNA-BB NRsナノプローブのECLスイッチ」(
図2)に基づいて構築され、HPV遺伝子の検出に用いられる。
【0151】
b.検出チップの製造及びそれによる検出:具体的な検出フローは
図3に示すとおりである。
【0152】
具体的な操作ステップは以下のとおりである。
【0153】
ステップ1:酸化インジウムスズ(ITO)ガラスをトルエン、アセトン、エタノール及び超純水でそれぞれ5分間超音波洗浄し、次に電子ビーム蒸着スパッタリング装置により5ナノメートルの厚さのクロム層及び50ナノメートルの金層をメッキし、Au/ITO電極を得た。
【0154】
ステップ2:Au/ITO電極の表面に多孔質シール(直径2 mm、深さ1 mm、4×7ウェルアレイ)を貼り付けた。
【0155】
ステップ3:各ウェルに3μLのssDNA-BB NRsを滴下し、37℃で30分間乾燥した後、ジエチルピロカーボネート(DEPC)水で各ウェルを丁寧に洗浄した。
【0156】
ステップ4:0.15μLのLbCas12a(1μM)、0.3μLのcrRNA(750 nM)、0.3μL NE Buffer(10×)及び1.95μL DEPC水を37℃で10分間反応させた後に、0.3μLの異なる濃度のHPV16 dsDNA又はサンプルを添加し、得られた混合液を迅速にウェルに一つずつ滴下し、37℃で40分間インキュベートした。
【0157】
ステップ5:チップ上の各ウェルをDEPC水で三回洗浄して、放出されたBHQ2を除去した後に、37℃で5分間乾燥した。その後、ECLイメージング検出に用いられた。
【0158】
ステップ6:Au/ITO電極を動作電極とし、Ag/AgCL電極を参照電極とし、白金ワイヤ電極を対電極とし、電子増倍電荷結合素子(EMCCD、iXon Ultra、Andor、UK)を信号読み出し装置とし、5 mMのトリ-n-プロピルアミン(TPrA)の0.1 M pH7.4 リン酸塩緩衝溶液を電解質として、暗箱にECLイメージング検出を行った。0~+1.0 Vの間にサイクリックボルタンメトリー走査を行い、走査速度が0.1V/sであり、露光時間が20秒である。
【0159】
c.ECL検出条件の最適化
まず、異なる検出条件で本発明のECL検出を行った。検出結果を
図16A~
図16Cに示す。
図16A~
図16Cは、本発明の実施例3の異なる検出条件でECL検出を行う検出結果を示す図である。ここで、
図16Aは異なるCas12a濃度での検出結果を示す。
図16Bは異なるCas12aとcrRNAの使用割合での検出結果を示す。
図16Cはチップでの異なるインキュベーション時間での検出結果を示す。
【0160】
具体的には、
図16A~
図16Cに示すような異なるCas12aの濃度、Cas12aとcrRNAの使用割合、及びチップ上の反応時間の条件でECL検出を行い、異なる反応条件でのチップに対して電解液でECLイメージング測定を行った。
【0161】
なお、
図16Aは異なるCas12a濃度での検出結果を示し、
図16Bは異なるCas12aとcrRNAの使用割合での検出結果を示し、
図16Cはチップでの異なるインキュベーション時間での検出結果を示す。
【0162】
検出において、ECL信号が最大プラットフォーム期間に達する時の条件を選択し最適な検出条件とする。
図16A~
図16Cに示すように、本発明のECL検出の最適化条件は、それぞれCas12aの濃度が50 nMであり、Cas12a:crRNAが1:1.5であり、インキュベーション時間が40分間である。
【0163】
次に、BB NRで修飾された、ITO及びAu/ITO電極を5 mMのTPrA含有0.1M、pH 7.4 PBSにおけるECL画像をImageJソフトウェアにより比較した。その結果を
図17A~
図17Cに示す。
図17A~
図17Cは、本発明の実施例3のITO電極とAu/ITOを用いた場合のECLイメージング結果を示す図である。ここで、
図17A、
図17B及び
図17CはそれぞれBB NRで修飾されたITOとAu/ITO電極のCV、ECL曲線及びECL画像を示す。
【0164】
図17A~
図17Cから分かるように、BB NRで修飾されたITOに比べて、BB NRsで修飾されたAu/ITOは向上した酸化電流を示し、0.93 Vの酸化ピークに移行し、46倍のより強いECL応答、及び改善されたECLイメージング品質を有する。該差異は、金のTPrAの酸化に対する良好な触媒能力を有するためと考える。
【0165】
d.検出性能
図18Aおよび
図18Bは、本発明の実施例3のHPV16 DNA標的核酸をセンサアレイでECL検出した検出結果を示す図である。ここで、
図18Aは1 fM~10 nM濃度のHPV16 DNAを検出して得られたECLイメージング結果及び線形曲線を示し、
図18BはHPV16 DNAに対してECL検出を行う検出特異性の分析結果を示す。ここで、aは1 nM HPV18 DNA、bは1 nM HPV31 DNA、cは1 nM HPV58 DNA、dは100 pM HPV16 DNA、eは1 nM HPV18、31、58 DNAと100 pM HPV16 DNAを含む混合液を示す。
【0166】
検出線形及び感度:最適な検出条件で、構築されたセンサアレイでHPV16 DNA標的分子に対してECLイメージング検出を行った。その結果を
図18Aに示す。
図18Aの上方に濃度が1 fMから10 nMのHPV16 DNAに対するイメージング検出の結果を示す。当該結果から、ECLの強度がHPV16 DNA濃度の増加に伴って増加することが分かった。ECL強度のアナログデジタル変換値(A/D count)とHPV16 DNA濃度の対数をプロットし、1 fM~10 nMの範囲内に良好な線形関係を呈することが見えた。3S/Nに基づいて計算することにより、該方法のHPV16 DNAに対する検出限界は0.6 fMである。
【0167】
検出選択性についての試験:本実施例において、さらに10倍の高濃度の干渉DNAが存在する場合に、標的核酸HPV16 DNAに対する検出特異性を試験した。実験結果を
図18Bに示す。
図18Bは1 nM HPV18 DNA、1 nM HPV31 DNA、1 nM HPV58 DNAの単独(a、b、c)又は共存状況(e)で100 pM HPV16 DNA(d)に対してECL検出を行う検出結果を示す。当該結果は、HPV16 DNAを含有するサンプル溶液のみが明らかなECL信号を有し、本方法がHPV16 DNAの検出に対して良好な選択性を有することを示した。
【0168】
産業上の利用可能性
上記実施例から分かるように、本発明はBCzP-BTを発光分子として使用し、初めて敏感な消滅ECL及び強共反応剤ECLの発光を有するホット励起子有機ナノロッド(BB NR)を製造した。局所励起状態に由来する高ΦPL及び電荷転移状態に由来する高い励起子利用効率を有するため、従来の蛍光材料及び熱活性化遅延蛍光材料より優れたΦECLを示した。さらに、本発明のECLナノプローブを使用し、かつCRISPR/Cas酵素体系により標的核酸を識別し、信号をオフからオンに切り替えることにより、簡略化された操作手順を有するHPV16 DNAの迅速及びハイスループット検出を実現した。したがって、本発明により、HPV16 DNAを検出するための高感度ECL検出プラットフォームを構築することができる。その検出効果は、ECL標準と見られるRu(bpy)3
2+を使用したECL検出方法に近い。したがって、本発明のECL検出方法は実行可能でかつ検出信頼性を有するECL検出方法である。