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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177110
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】降霜予測システム
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/10 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
G01W1/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090952
(22)【出願日】2024-06-04
(31)【優先権主張番号】P 2023095000
(32)【優先日】2023-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】竹下 伸一
(57)【要約】
【課題】安定して降霜被害を防止することができる降霜予測システムを提供する。
【解決手段】過去複数日の基準地3の実測最低気温または予想最低気温と対応するそれぞれの日の対象地2の実測最低気温との過去相関関係を保持しており、予測日の基準地3の予想最低気温と過去相関関係とから予測日の対象地2の推定最低気温を推定する相関関係式推定ステップS3と、相関関係式推定ステップS3によって推定された推定最低気温から予測日の葉面への降霜を予測する予測ステップS4と、を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過去複数日の基準地の実測最低気温または予想最低気温と対応するそれぞれの日の対象地の実測最低気温との過去相関関係を保持しており、予測日の前記基準地の予想最低気温と前記過去相関関係とから当該予測日の前記対象地の推定最低気温を推定する相関関係式推定ステップと、
前記相関関係式推定ステップによって推定された推定最低気温から前記予測日の葉面への降霜を予測する予測ステップと、を備えていることを特徴とする降霜予測システム。
【請求項2】
前記過去相関関係は、前記基準地の実測最低気温または予想最低気温と前記対象地の実測最低気温との各日の標本からなる標本群のうち、下限側標本群の回帰直線を用いて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の降霜予測システム。
【請求項3】
前記標本は、天気、風速、降雨のうち少なくとも一つの条件が満された日のものが採用されていることを特徴とする請求項2に記載の降霜予測システム。
【請求項4】
前記標本は、天気、風速、降雨すべての条件が満された日のものが採用されていることを特徴とする請求項3に記載の降霜予測システム。
【請求項5】
天気、風速、降雨のうち少なくとも一つを検知する第1センサと、気温を計測する第2センサとが異なる場所に配置され、かつ前記第2センサは前記対象地内の窪地に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の降霜予測システム。
【請求項6】
前記降霜予測システムは、前記基準地と前記対象地との標高差と前記予測日の前記基準地の予想最低気温とから当該予測日の前記対象地の推定最低気温を推定する標高差式推定ステップをさらに備え、
前記予測ステップは、前記標高差式推定ステップによって推定された推定最低気温からも前記予測日の葉面への降霜を予測することを特徴とする請求項1に記載の降霜予測システム。
【請求項7】
前記予測ステップは、前記相関関係式推定ステップによって推定された推定最低気温と、前記標高差式推定ステップによって推定された推定最低気温から求められた葉面温度のうち、少なくとも一方が条件を満たせば葉面への降霜が発生すると予測することを特徴とする請求項6に記載の降霜予測システム。
【請求項8】
前記降霜予測システムは、数日分の降霜予測を行うことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の降霜予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降霜を予測する降霜予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
霜による農作物への被害を防ぐためには、降霜が生じる前に不織布、マルチなどを農作物にかけるなどして対処する必要がある。そのためには、前もって降霜を予測することが肝要である。このような降霜予測について、例えば気象庁より発表される霜注意報が知られているが、観測地点の気象情報に応じて発表されるものである。そこで、観測地点と距離、標高、地形特性などが異なる環境であっても、降霜予測を可能とした降霜予測システムが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に示される降霜予測システムは、気象予報サーバに接続されており、気象予報サーバから取得した気象予報データを降霜判定式に代入して条件を満たした場合に降霜が生じるものと判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-189403号公報(第5,6頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような降霜予測システムにおいては、降霜予測が求められる対象地に配置されている現地気象観測装置にも接続されており、現地気象観測装置から取得した現地気象データに基づいて降霜判定式を更新することができる。これにより、降霜判定式が更新されるほど、予測精度を高めることができる。しかしながら、複雑な降霜判定式による予測精度が高まるまでに試行回数を要することから、特に試行回数が十分でない期間にあっては降霜被害が発生する虞があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、安定して降霜被害を防止することができる降霜予測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の降霜予測システムは、
過去複数日の基準地の実測最低気温または予想最低気温と対応するそれぞれの日の対象地の実測最低気温との過去相関関係を保持しており、予測日の前記基準地の予想最低気温と前記過去相関関係とから当該予測日の前記対象地の推定最低気温を推定する相関関係式推定ステップと、
前記相関関係式推定ステップによって推定された推定最低気温から前記予測日の葉面への降霜を予測する予測ステップと、を備えていることを特徴としている。
この特徴によれば、精度が高い推定最低気温を利用して予測日の対象地の葉面への降霜予測が可能となるため、安定して降霜被害を防止することができる。
【0008】
前記過去相関関係は、前記基準地の実測最低気温または予想最低気温と前記対象地の実測最低気温との各日の標本からなる標本群のうち、下限側標本群の回帰直線を用いて形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、降霜予測の精度を高めることができる。
【0009】
前記標本は、天気、風速、降雨のうち少なくとも一つの条件が満された日のものが採用されていることを特徴としている。
この特徴によれば、降霜予測の精度を高めることができる。
【0010】
前記標本は、天気、風速、降雨すべての条件が満された日のものが採用されていることを特徴としている。
この特徴によれば、降霜予測の精度をさらに高めることができる。
【0011】
天気、風速、降雨のうち少なくとも一つを検知する第1センサと、気温を計測する第2センサとが異なる場所に配置され、かつ前記第2センサは前記対象地内の窪地に配置されていることを特徴としている。
この特徴によれば、対象地の環境により適した降霜予測が可能となる。
【0012】
前記降霜予測システムは、前記基準地と前記対象地との標高差と前記予測日の前記基準地の予想最低気温とから当該予測日の前記対象地の推定最低気温を推定する標高差式推定ステップをさらに備え、
前記予測ステップは、前記標高差式推定ステップによって推定された推定最低気温からも前記予測日の葉面への降霜を予測することを特徴としている。
この特徴によれば、より安定して降霜被害を防止することができる。
【0013】
前記予測ステップは、前記相関関係式推定ステップによって推定された推定最低気温と、前記標高差式推定ステップによって推定された推定最低気温から求められた葉面温度のうち、少なくとも一方が条件を満たせば葉面への降霜が発生すると予測することを特徴としている。
この特徴によれば、降霜が発生すると予測される頻度を高めることができる。
【0014】
前記降霜予測システムは、数日分の降霜予測を行うことを特徴としている。
この特徴によれば、降霜に対処するための期間を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1における降霜予測システムを示す模式図である。
図2】降霜判定処理のフローチャートである。
図3】下限崩落線を示すグラフである。
図4】高台における実測最低気温より算出した葉面温度とMLR法由来の葉面温度との分布図である。
図5】窪地における実測最低気温より算出した葉面温度とMLR法由来の葉面温度との分布図である。
図6】高台における実測最低気温より算出した葉面温度と高台におけるLEM法由来の葉面温度との分布図である。
図7】窪地における実測最低気温より算出した葉面温度と窪地におけるLEM法由来の葉面温度との分布図である。
図8】ユーザ端末に表示されたメール文面を表す図である。
図9】実施例2における降霜予測システムの相関関係推定式の更新処理のフローチャートである。
図10】窪地における実測最低気温より算出した葉面温度と、更新処理により相関関係推定式が更新される前の窪地におけるLEM法由来の葉面温度との分布図である。
図11】窪地における実測最低気温より算出した葉面温度と、更新処理により相関関係推定式が更新された窪地におけるLEM法由来の葉面温度との分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る降霜予測システムについて、実施の形態に基づいて以下に説明する。
【0017】
本発明の降霜予測システムは、予報された基準地の予想最低気温を利用して対象地における降霜の発生を予測するものである。降霜予測にあっては、基準地の予想最低気温から対象地における推定最低気温を算出する推定ステップと、推定最低気温から葉面への降霜が発生するか否かを予測する予測ステップが行われる。
【0018】
本発明では、推定ステップとして2種類の推定ステップを用いている。2種類の推定ステップとは、湿潤断熱法(以下、MLR(moist-adiabatic lapse rate)法と記載)により対象地における推定最低気温(以下、MLR式推定最低気温と記載)を算出する標高差式推定ステップと、線形推定法(以下、LEM(linear estimate)法と記載)により対象地における推定最低気温(以下、LEM式推定最低気温と記載)を算出する相関関係式推定ステップである。
【0019】
MLR法は、基準地と対象地の気温差に基づいて対象地のMLR式推定最低気温を算出する方法である。基準地と対象地の気温差は、基準地と対象地の標高差に湿潤断熱減率を乗算することで求めることができる(気温差=標高差×湿潤断熱減率)。降霜の有無を予測したい日(以下、単に「予測日」と記載)の基準地の予想最低気温から気温差を減算することで対象地のMLR式推定最低気温を算出することができる(MLR式推定最低気温=基準地に対して予報された予想最低気温-気温差)。
【0020】
LEM法は、過去複数日の基準地における実測最低気温または予想最低気温と、対応するそれぞれの日の対象地における実測最低気温から判明した過去相関関係に基づいて対象地のLEM式推定最低気温を算出する方法である。
【0021】
過去相関関係は、標本群より求められた回帰直線を表す式を用いることで、予測日の基準地に対して予報された予想最低気温より対象地のLEM式推定最低気温を算出することができる。
【0022】
標本群は、過去のとある日(例えば、1月1日)の基準地にて計測された実測最低気温と、同日(例えば、1月1日)の対象地にて計測された実測最低気温とを一日分の標本とし、複数日分の標本を収集することで構成される。標本群を構成する標本の数が増すほどに、予想最低気温とLEM式推定最低気温との相関関係が強い回帰直線を得やすくなる。
【0023】
なお、標本は、過去のとある日(例えば、1月1日)の基準地に対して予報された予想最低気温と、同日(例えば、1月1日)の対象地にて計測された実測最低気温であってもよい。このような構成であれば、基準地の予想最低気温と対象地の実測最低気温の相関関係を加味したLEM式推定最低気温を算出することができる。
【0024】
標本群から結露、降霜が発生しやすい条件に該当した日の標本を抽出した抽出標本群より過去相関関係を求めることで、降霜予測の精度を高めることができる。なお、本発明における降霜予測の精度が高いとは、降霜が発生しないと予測された日に降霜が発生した割合が小さいことである。
【0025】
結露、降霜が発生しやすい条件には、天気、風速、降雨の条件がある。天気が晴れであれば降霜が生じやすく、風速が穏やかであれば降霜が生じやすく、降水量がゼロに近いほど降霜が生じやすい。これらの条件を満たす数が多いほど、結露、降霜が発生しやすいと考えられる。これらの条件のうち、少なくとも一つ以上を満たした日の標本を抽出して作成した抽出標本群より過去相関関係を求めることで、対象地における予測日の天気、風速、降雨に関わらず、結露、降霜が発生しやすい条件を少なくとも一つ以上満たした場合のLEM式推定最低気温を算出することができる。このようにすることで、対象地における予測日の天気、風速、降雨に関わらず危険側、つまり降霜が発生しやすいと判定されやすい条件に寄せて降霜の発生を予測することが可能となる。
【0026】
標本群より抽出標本群を抽出するにあたって、天気、風速、降雨に関する検知を行う第1センサと、気温を計測する第2センサを使用した。例えば対象地が高台、窪地など起伏がある地形の場合、高台に第1センサを配置し、窪地に第2センサを配置することで、より降霜が発生しやすい条件に寄せた標本を得ることができる。
【0027】
これについて詳しくは、天気を判定するにあたって照度を指標とすると、照度は高台のほうが窪地よりも高い傾向にある。高台の照度で条件判定をすることにより降霜判定の精度を高めることができる。
【0028】
また、風速は高台のほうが窪地よりも速い傾向にある。高台の風速で条件判定をすることにより降霜判定の精度を高めることができる。
【0029】
また、降雨を判定するにあたって降水量を指標とすると、降水量は高台のほうが窪地よりも多い傾向にある。高台の降水量で条件判定をすることにより降霜判定の精度を高めることができる。
【0030】
また、窪地のほうが高台よりも冷気が溜まりやすいことに加え、空気の温度は地面側から低下していく。最低気温は、窪地のほうが高台よりも低い傾向にある。窪地の気温を計測して実測最低気温を得ることにより降霜判定の精度を高めることができる。
【0031】
なお、第1センサは、天気、風速、降雨のすべてを検知可能な構成に限られず、天気、風速、降雨のうち少なくとも一つ以上を検知するセンサであってもよく、検知対象が異なるセンサを複数併用してもよい。また、第1センサは、条件を判定するためのデータを検知する機能を少なくとも備えていればよい。
【0032】
また、回帰直線は、標本群から抽出した下限側標本群より求めることで、降霜予測の精度を高めることができる。下限側標本群とは、標本群のうち、基準地の実測最低気温よりも対象地の実測最低気温が低く、かつ基準地の実測最低気温と対象地の実測最低気温の気温差が大きい標本、すなわち危険側の標本を抽出したものである。下限側標本群より求められた回帰直線を利用することで、危険側に寄せたLEM式推定最低気温を算出することができる。
【0033】
予測ステップでは、MLR式推定最低気温やLEM式推定最低気温から予測日の葉面への降霜を予測する。
【0034】
以上のことから、本実施の形態の降霜予測システムは、予測日(例えば、1月1日)よりも以前(例えば、12月30日)に基準地に対して予報された予想最低気温を取得することができれば、予測日(例えば、1月1日)の対象地における推定最低気温を算出して、予測日(例えば、1月1日)の対象地にある葉面への降霜を予測することができる。
【0035】
また、LEM法によって算出された精度が高いLEM式推定最低気温を利用して予測日の対象地の葉面への降霜予測が可能となるため、安定して降霜被害を防止することができる。
【実施例0036】
以下、実施例1について説明する。
【0037】
図1に示されるように、本実施例の降霜予測システム1は、対象地としての圃場2における予測日の降霜の発生の有無を、予測日の基準地3に対して予報された予想最低気温から予測するものであり、降霜判定サーバ10と、ゲートウェイ20と、第1センサとしてのMS(Meteorological Station)センサ21と、第2センサとしての窪地用センサ22と、から主に構成されている。
【0038】
降霜判定サーバ10は、インターネットや電話網からなる公衆通信網4に接続されており、公衆通信網4を通じて気象予報サーバ30、クラウドサーバ40、圃場2を運営するユーザのユーザ端末50と通信することができる。
【0039】
降霜判定サーバ10は、クラウドサーバ40から圃場2の風向、風速、降水量、照度、気温、湿度などのデータを取得し、気象予報サーバ30から予想最低気温、天気などのデータを取得する。また、降霜判定サーバ10は、後述する降霜判定処理を実行する。
【0040】
ゲートウェイ20と、MSセンサ21と、窪地用センサ22は、圃場2に配置されている。圃場2は山間部にあり、尾根状の高台2Hから南西の方角に向かって低くなるように傾斜する窪地2Lを有している。高台2Hの標高は約710mである。
【0041】
ゲートウェイ20とMSセンサ21は高台2Hに配置されている。窪地用センサ22は窪地2Lに配置されており、MSセンサ21よりも南西に位置している。これは、冬季において冷気が窪地2L側に流れ込むと見越してのことである。
【0042】
ゲートウェイ20は、公衆通信網4と、MSセンサ21と、窪地用センサ22に無線接続されており、MSセンサ21や窪地用センサ22から入力された各種データをクラウドサーバ40に公衆通信網4を通じて送信するためのものである。
【0043】
MSセンサ21は、風向、風速、降水量、照度、気温、湿度の6項目を10分おきに観測し、各種データをゲートウェイ20に送信している。上記のデータを観測する観測器は、高台2Hの地面から約1.7~2.0mの位置に設置されている。
【0044】
窪地用センサ22は、気温、湿度、地中の体積含水率、地中の電気伝導率、地温の5項目を1時間おきに観測し、各種データをゲートウェイ20に送信している。気温、湿度のデータを観測する観測器は、窪地2Lの地面から約1.7~2.0mの位置に設置されている。体積含水率、電気伝導率、地温のデータを観測する観測器は、窪地2Lの地中に一部埋設されている。
【0045】
気象予報サーバ30は、公衆通信網4を通じて、基準地3に配置されている観測装置31より各気象データを取得し、基準地3の天気、実測最低気温、予想最低気温などを公開するものである。基準地3は平野部にあり、その標高は約10mである。また、基準地3は圃場2から直線距離で約40km離れた地点にある。
【0046】
クラウドサーバ40は、ゲートウェイ20から送信された各種データを保管するものである。
【0047】
次に、降霜判定サーバ10による降霜判定処理について説明する。降霜判定サーバ10は、降霜判定処理を毎日18時になると開始する。なお、降霜判定処理の開始時刻は適宜変更されてもよく、1日に複数設定されていてもよい。
【0048】
図2に示されるように、降霜判定処理は、気象予報サーバ30から基準地3における予想最低気温を取得する取得ステップS1と、MLR法により圃場2のMLR式推定最低気温を算出する標高差式推定ステップS2と、LEM法により圃場2のLEM式推定最低気温を算出する相関関係式推定ステップS3と、ステップS2,S3にて算出された各推定最低気温より葉面温度を算出して葉面に降霜が発生するか否かを判定する予測ステップS4と、予測ステップS4の判定結果をユーザ端末50に送信する通知ステップS5から構成されている。
【0049】
降霜判定サーバ10は、取得ステップS1にて、基準地3における予想最低気温(予想最低気温)を、予測日として降霜判定処理を行う日の1日後(翌日)から5日後までの5日分取得する。
【0050】
標高差式推定ステップS2では、標高差推定式に予想最低気温を個々に代入して、5日分のMLR式推定最低気温MLR1~MLR5を算出する。高台2Hと基準地3の標高差は約700m(700=710-10)である。湿潤断熱減率は、気温と気圧によって変化するものであり、晴れた日の地上付近の平均的な温度帯10~20℃であれば約0.5度/100mとなり、霜が降りるような条件となる地上気温0度付近であれば0.6度/100mとなるため、0.6度/100mを採用した。これらから、高台2Hと基準地3の気温差は4.2度(4.2=700×0.6/100)となり、本実施例の標高差推定式として次式1が得られた。なお、湿潤断熱減率は0.6度/100mでなくともよく、適宜変更されてもよい。
MLR式推定最低気温=予想最低気温-4.2 (式1)
【0051】
MLR式推定最低気温の予測精度を確認するため、115日間に亘って実験を行った。この実験では、毎日、式1を用いてMLR式推定最低気温を1日後から5日後まで算出した。
【0052】
次いで、高台2Hで計測された実測最低気温と、対応する日を想定して算出されたMLR式推定最低気温との差を、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後で分けて集計し後述する表1のような気温誤差平均を得た。
【0053】
具体的には、高台2Hで実測最低気温が計測された日が1月5日であれば、1月5日に計測された実測最低気温と12月31日に推定されたMLR式推定最低気温MLR5との差を算出し、1月5日に計測された実測最低気温と1月1日に推定されたMLR式推定最低気温MLR4との差を算出し、1月5日に計測された実測最低気温と1月2日に推定されたMLR式推定最低気温MLR3との差を算出し、1月5日に計測された実測最低気温と1月3日に推定されたMLR式推定最低気温MLR2との差を算出し、1月5日に計測された実測最低気温と1月4日に推定されたMLR式推定最低気温MLR1との差を算出した。
【0054】
また、1日後の気温誤差平均については、1月1日に計測された実測最低気温と12月31日に推定された1月1日のMLR式推定最低気温MLR1との差の絶対値、1月2日に計測された実測最低気温と1月1日に推定された1月2日のMLR式推定最低気温MLR1との差の絶対値のように、計測された実測最低気温と、その前日(1日前)に推定されたMLR式推定最低気温MLR1との差の絶対値を115日分得て、その平均値を算出した。
【0055】
同様に、2日後の気温誤差平均については、計測された実測最低気温と、その2日前に推定されたMLR式推定最低気温MLR2との差の絶対値を115日分得て、その平均値を算出した。3日後の気温誤差平均については、計測された実測最低気温と、その3日前に推定されたMLR式推定最低気温MLR3との差の絶対値を115日分得て、その平均値を算出した。4日後の気温誤差平均については、計測された実測最低気温と、その4日前に推定されたMLR式推定最低気温MLR4との差の絶対値を115日分得て、その平均値を算出した。5日後の気温誤差平均については、計測された実測最低気温と、その5日前に推定されたMLR式推定最低気温MLR5との差の絶対値を115日分得て、その平均値を算出した。
【0056】
また、高台2Hと同様に、窪地2Lで計測された実測最低気温についても、対応する日を想定して算出されたMLR式推定最低気温との差を、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後で分けて集計し気温誤差平均を得た。なお、高台2Hと窪地2Lとの標高差は小さいため、窪地2Lについても式1を用いた。
【0057】
これらの結果をまとめたものが表1である。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示されるように、MLR式推定最低気温は、気温誤差平均が3度未満であり、予測精度が高いことが分かった。また、予測日が近づくほど、気温誤差平均が小さくなる傾向にあり、予測精度が高まることが分かった。これは、予想最低気温の精度が、予測日が近づくにつれ高まるからと考えられる。
【0060】
また、MLR式推定最低気温は、基準地との距離、基準地との地形特性の差異などが異なる環境であるほど気温誤差平均はわずかに大きくなりつつも、例えば基準地が陸上であり対象地が水上であるなど、環境の差異が極端でない限りおおむね良好な結果が得られた。このことから、MLR式推定最低気温は汎用性が高いと考えられる。
【0061】
相関関係式推定ステップS3では、基準地3における過去の実測最低気温と圃場2の窪地2Lにおける過去の実測最低気温との過去相関関係から求められた相関関係推定式に基づいて圃場2のLEM式推定最低気温を算出する。
【0062】
本実施例では、相関関係推定式を求めるにあたり、169日分の標本からなる標本群を取得した。各標本は、とある日(例えば、1月1日)に計測された基準地3の実測最低気温をx軸の値とし、同日(例えば、1月1日)に窪地用センサ22によって計測された圃場2の実測最低気温をy軸の値としたものである。
【0063】
これら標本を天気、風速、降雨の条件でフィルタリングした結果、すべての条件を満たした標本として49日分の標本が得られた。
【0064】
個々の条件判定について詳しくは、天気は、日没後から夜明けまで晴れ、より詳しくは照度の平均が2.4kLux以上であれば判定を可とした。この判定には、気象庁より出される毎時の天気情報と、MSセンサ21により検知された照度を参照した。なお、天気が晴れであるかの判定条件として、照度の平均が2.4kLux以上であることを基準としたが、これに限られず、適宜変更されてもよい。これは、後述する風速、降雨についても同様である。
【0065】
風速は、夜間を通して風速が穏やか、より詳しくは風速1m/s以下であれば判定を可とした。この判定には、MSセンサ21により検知された風速を参照した。
【0066】
降雨は、夜間を通して降水がなければ、より詳しくは降水量0.5mm以下であれば判定を可とした。この判定には、MSセンサ21により検知された降水量を参照した。
【0067】
さらに、より危険側でLEM式推定最低気温を算出するために、抽出された49日分の標本から、基準地3の実測最低気温よりも圃場2における窪地2Lの実測最低気温のほうが低く、かつ基準地3の実測最低気温と圃場2における窪地2Lの実測最低気温の差が大きい標本を抽出した。より詳しくは、窪地2Lの実測最低気温が基準地3の実測最低気温よりも低く、その差が-4.2度以下である標本(窪地2Lの実測最低気温-基準地3の実測最低気温≦-4.2)を抽出した。窪地2Lの実測最低気温と基準地3の実測最低気温の差である-4.2度以下とは、上述した高台2Hと基準地3の気温差に基づいた条件であり、MLR式推定最低気温よりも危険側で降霜予測を可能とするためである。また、基準地3の一つの実測最低気温に対して圃場2における窪地2Lの実測最低気温が複数該当する場合、その中で最も低い実測最低気温を採用した。その結果、図3に示されるように、7つの下限側標本からなる下限標本群を得た。
【0068】
下限側標本群より得られた下限崩落線(回帰直線)を表す式にx軸の値として予測日の予想最低気温を代入することでLEM式推定最低気温を算出することができる。つまり、下限崩落線を表す式が本実施例の相関関係推定式であり次式2のとおりである。
LEM式推定最低気温=0.85×予想最低気温-2.5 (式2)
【0069】
相関関係式推定ステップS3では、式2に5日分の予想最低気温を個々に代入して、5日分のLEM式推定最低気温LEM1~LEM5を算出する。
【0070】
LEM式推定最低気温の予測精度を確認するため、115日間に亘って実験を行った。なお、MLR法と重複する説明については省略または簡略する。この実験では、式2である窪地2Lを対象とした相関関係推定式と、これと同様に求めた高台2Hを対象とした相関関係推定式(下式3参照)を作成した。式3は、実験のために作成したものであり、降霜判定処理では採用していない。
LEM式推定最低気温=0.83×予想最低気温-1.6 (式3)
【0071】
本実験では、毎日、式2を用いたLEM式推定最低気温と、式3を用いたLEM式推定最低気温をそれぞれ1日後から5日後まで算出した。
【0072】
次いで、高台2Hで計測された実測最低気温と、対応する日の高台2Hを想定して式3を用いて算出されたLEM式推定最低気温との差を、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後で分けて集計し気温誤差平均を得た。また、窪地2Lで計測された実測最低気温と、対応する日の窪地2Lを想定して式2を用いて算出されたLEM式推定最低気温との差を、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後で分けて集計し気温誤差平均を得た。
【0073】
これらの結果をまとめたものが表2である。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示されるように、LEM式推定最低気温は、気温誤差平均が2度未満であり、予測精度が高いことが分かった。また、予測日が近づくほど、気温誤差平均が小さくなる傾向にあり、予測精度が高まることが分かった。これは、予想最低気温の精度が、予測日が近づくにつれ高まるからと考えられる。
【0076】
また、LEM式推定最低気温における気温誤差平均は、MLR式推定最低気温における気温誤差平均よりも小さいという結果が得られた。このことから、LEM式推定最低気温は、MLR式推定最低気温よりも予測の精度が高いと考えられる。
【0077】
LEM式推定最低気温は、過去相関関係に基づいたもの、すなわち基準地との距離、標高、地形特性などの違いが統計的に反映されたものであるため、十分な標本を得るまでに時間を要するものの、MLR式推定最低気温では反映し得ない基準地との距離、地形特性などの影響を反映することができる。
【0078】
予測ステップS4では、葉面温度算出式に各予測日の推定最低気温MLR1~MLR5,LEM1~LEM5を個々に代入することで各予測日の葉面温度TsMLR1~TsMLR5,TsLEM1~TsLEM5を算出する。葉面温度算出式は、周知の夜間熱収支式を援用したものであるため詳しい説明は省略するが、推定最低気温のみを変数とし、相対湿度、有効入力放射量、蒸発効率、交換速度、黒体度などの値は危険側の固定値とした。
【0079】
その後、各葉面温度TsMLR1~TsMLR5,TsLEM1~TsLEM5がゼロ以下であるか否かを判定する。同じ予測日(例えば、1月1日)のRMF法由来の葉面温度とLEM法由来の葉面温度のうち少なくとも一方がゼロ以下である場合、その予測日は降霜が発生すると判定され、これらの両方がゼロを上回っている場合、その予測日は降霜が発生しないと判定される。
【0080】
降霜予測の精度を確認するため、115日間に亘って実験を行った。なお、MLR法と重複する説明については省略または簡略する。この実験では、毎日、MLR法由来の葉面温度を1日後から5日後まで算出し、LEM法由来の葉面温度を1日後から5日後まで算出し、その日得られた実測最低気温より葉面温度を算出した。
【0081】
また、LEM法由来の葉面温度は、式2由来の葉面温度と、式3由来の葉面温度をそれぞれ算出した。実測最低気温より算出した葉面温度は、高台2Hにて計測された実測最低気温を葉面温度算出式に代入して算出したものと、窪地2Lにて計測された実測最低気温を葉面温度算出式に代入して算出したものを得た。
【0082】
次いで、実測最低気温より算出した高台2Hの葉面温度と、対応する日を想定して求められたMLR法由来の葉面温度との差を、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後で分けて集計し葉面温度誤差平均を得た。また、実測最低気温より算出した窪地2Lの葉面温度と、対応する日を想定して求められたMLR法由来の葉面温度との差を、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後で分けて集計し葉面温度誤差平均を得た。
【0083】
同様に、実測最低気温より算出した高台2Hの葉面温度と、対応する日を想定して求められたLEM法由来の高台2Hの葉面温度との差を、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後で分けて集計し葉面温度誤差平均を得た。また、実測最低気温より算出した窪地2Lの葉面温度と、対応する日を想定して求められたLEM法由来の窪地2Lの葉面温度との差を、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後で分けて集計し葉面温度誤差平均を得た。
【0084】
これらの結果をまとめたものが表3である。
【0085】
【表3】
【0086】
表3に示されるように、MLR法由来の葉面温度は、葉面温度誤差平均が3度未満であり、予測精度が高いことが分かった。また、予測日が近づくほど、葉面温度誤差平均が小さくなる傾向にあり、予測精度が高まることが分かった。
【0087】
また、LEM法由来の葉面温度は、葉面温度誤差平均が2度未満であり、予測精度が高いことが分かった。また、予測日が近づくほど、葉面温度誤差平均が小さくなる傾向にあり、予測精度が高まることが分かった。
【0088】
図4は、MLR法由来の葉面温度をx軸の値とし、同日の実測最低気温より算出した高台2Hの葉面温度をy軸の値とした分布図である。図4に示されるように、MLR法由来の葉面温度が正の値であるにもかかわらず、実測最低気温より算出した葉面温度が負の値となったデータは得られなかった。つまり、降霜が発生しないと予測したにも関わらず、降霜が発生した日はないことがわかった。
【0089】
図5は、MLR法由来の葉面温度をx軸の値とし、同日の実測最低気温より算出した窪地2Lの葉面温度をy軸の値とした分布図である。図5に示されるように、MLR法由来の葉面温度が正の値であるにもかかわらず、実測最低気温より算出した葉面温度が負の値となったデータは得られなかった。つまり、降霜が発生しないと予測したにも関わらず、降霜が発生した日はないことがわかった。
【0090】
また、本実験において、MLR法由来の葉面温度が、同日の実測最低気温より算出した高台2Hの葉面温度よりも低い日、つまり図4において実線y=x以上に分布する日は、115日中98日(約85%)であった(図4参照)。また、MLR法由来の葉面温度が、同日の実測最低気温より算出した窪地2Lの葉面温度よりも低い日は、115日中82日(約61%)であった(図5参照)。これにより、MLR法由来の葉面温度は、高台2H、窪地2Lともに実測最低気温より算出した葉面温度よりも低い傾向にあることが分かった。
【0091】
これらのように、MLR法由来の葉面温度は、高台2Hであっても窪地2Lであっても、精度よく降霜予測できることが分かった。
【0092】
図6は、LEM法由来の高台2Hの葉面温度をx軸の値とし、同日の実測最低気温より算出した高台2Hの葉面温度をy軸の値とした分布図である。図6に示されるように、LEM法由来の葉面温度が正の値であるにもかかわらず、実測最低気温より算出した葉面温度が負の値となったデータがわずかにみられた。これは、十分な標本が得られなかったからと考えられる。
【0093】
図7は、LEM法由来の窪地2Lの葉面温度をx軸の値とし、同日の実測最低気温より算出した窪地2Lの葉面温度をy軸の値とした分布図である。図7に示されるように、LEM法由来の葉面温度が正の値であるにもかかわらず、実測最低気温より算出した葉面温度が負の値となったデータは得られなかった。つまり、降霜が発生しないと予測したにも関わらず、降霜が発生した日はないことがわかった。
【0094】
また、本実験において、LEM法由来の高台2Hの葉面温度が、同日の実測最低気温より算出した高台2Hの葉面温度よりも低い日は、115日中57日(約50%)であった(図6参照)。LEM法由来の窪地2Lの葉面温度が、同日の実測最低気温より算出した窪地2Lの葉面温度よりも低い日は、115日中50日(約43%)であった(図7参照)。これにより、LEM法由来の葉面温度は、対応する地点で計測された実測最低気温より算出した葉面温度よりも低い割合と高い割合がほぼ同じ傾向にあることが分かった。
【0095】
これらのように、LEM法由来の葉面温度は、特に降霜が発生しやすいと考えられる窪地2Lにおいて、精度よく降霜予測できることが分かった。
【0096】
図8を参照して、通知ステップS5では、1日後から5日後までの予測ステップS4の判定結果をまとめたメールを作成し、ユーザ端末50に送信する。これにより、ユーザは最大5日後までの降霜予測を把握することができる。そのため、本実施例の降霜予測システム1は、ユーザが降霜に対処するための期間を確保することができる。
【0097】
また、メールには各予測日のMLR法由来の葉面温度と、LEM法由来の葉面温度が並記されるため、ユーザはLEM法由来の葉面温度とMLR法由来の葉面温度を確認して降霜に対処するか否かを判断することができる。
【0098】
以上説明したように、本実施例では、標高差推定式である式1と相関関係推定式である式2は共に一次関数であり、予想最低気温が約11.3度を下回るとMLR式推定最低気温がLEM式推定最低気温よりも低い値となる。これにより、本実施例では、対象地である圃場2と基準地3の標高、距離、地形特性などの差異による影響が、標高差による影響よりも小さかったものと考えられる。
【0099】
例えば、標高差推定式が式1、相関関係推定式が下式4であれば、予想最低気温が3度を下回るとLEM式推定最低気温がMLR式推定最低気温よりも低くなる。このような場合では、対象地と基準地3との標高、距離、地形特性などの差異による影響が、標高差による影響よりも大きかったものと考えられる。
推定最低気温=0.85×予想最低気温-3.75 (式4)
【0100】
以上のことから、LEM式推定最低気温と、MLR式推定最低気温を併用することにより、一方の推定最低気温からでは予測されない降霜の発生を、他方の推定最低気温から予測し得るため、降霜予測の精度を高めることができる。
【0101】
また、本実施例の相関関係推定式は、増加した標本群をもとに求められた新たな相関関係推定式に更新することができる。LEM式推定最低気温は、相関関係推定式が更新されることで気温誤差平均が小さくなり精度の向上が見込まれる。このことから、LEM法由来の葉面温度も、相関関係推定式が更新されることで葉面温度誤差平均が小さくなりつつ、降霜予測の精度向上が見込まれる。
【0102】
また、MLR式推定最低気温は、式1が更新されることはないものの、上述したように、高台2Hであっても窪地2Lであっても降霜が発生しないと予測したにも関わらず、降霜が発生した日がなく、降霜予測の精度が高い。
【0103】
これらにより、降霜判定処理が開始されてから十分な日数が経過していない短期中は、MLR法由来の葉面温度のほうが降霜予測の精度が高いため、信頼度が高いと考えられる。
【0104】
これに対して、降霜判定処理が開始されてから十分な日数が経過した以降は、降霜が発生するとの予測に対して降霜が発生する確率と、降霜が発生しないとの予測に対して降霜が発生しなかった確率の和、すなわち予測的中率が高くなり、信頼度が高まると考えられる。
【0105】
なお、MLR法由来の葉面温度の予測的中率とLEM法由来の葉面温度の予測的中率をメールに記載してもよい。このような構成であれば、ユーザが降霜に対処するか否かを判断する指標とすることができる。
【0106】
また、LEM法由来の葉面温度は、対象地における予測日の天気、風速、降雨に関わらず危険側の葉面温度として算出されるため、例えば通知ステップS5にて気象予報サーバ30から予測日の対象地における天気、風速、降雨の情報を得て、LEM法由来の葉面温度の信頼度を記載してもよい。具体的には、予想される対象地の天気が晴れ、風速が1m/s以下、降雨がゼロであれば「信頼度高」と表示し、いずれか一つが該当しなければ「信頼度中」、いずれか二つが該当しなければ「信頼度中小」いずれも該当しなければ「信頼度小」などと記載してもよい。
【0107】
また、本実施例のようにステップS2,S3を併用する構成であれば、気象予報サーバ30から予測日の対象地における天気、風速、降雨の情報を得て、そのうちの一つ以上が該当しなければ、LEM法由来の葉面温度をメールに記載しない構成としてもよく、LEM式推定最低気温やLEM法由来の葉面温度を算出しない構成としてもよい。
【実施例0108】
次に、実施例2に係る降霜予測システムにつき、図9図11を参照して説明する。なお、前記実施例1に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0109】
図9を参照して、本実施例の降霜予測システムは、対象地のLEM式推定最低気温を算出するための相関関係推定式を更新するための更新処理を備えている。この更新処理は、本実施例では降霜判定サーバ10によって実行されるが、これに限られず、別のサーバによって実行されてもよく、実行装置は適宜変更されてもよい。
【0110】
降霜判定サーバ10は、更新処理を10時になると開始する。本実施例では、更新処理は、1日1回行われるが、これに限られず、1日に複数回実行されてもよく、複数日(例えば3日)に1回行われてもよい。また、更新処理の開始時刻は適宜変更されてもよく、所定時間おきに実行されてもよい。
【0111】
更新処理は、MSデータ取得ステップSr1と、MSデータ比較ステップSr2と、基準地実測最低気温取得ステップSr3と、対象地実測最低気温取得ステップSr4と、下限側標本判定ステップSr5と、格納ステップSr6と、設定日判定ステップSr7と、更新ステップSr8から構成されている。
【0112】
MSデータ取得ステップSr1では、クラウドサーバ40から前日20時から同日9時までの高台2Hの風速、降水量、照度を取得する。
【0113】
MSデータ比較ステップSr2では、MSデータ取得ステップSr1で取得した風速、降水量、照度に基づいて、照度の平均が2.4kLux以上であるか否か、風速1m/s以下であるか否か、降水量0.5mm以下であるか否かについて判定する。
【0114】
照度の平均が2.4kLux以上であり、風速1m/s以下であり、降水量0.5mm以下であれば(Sr2:Yes)、基準地実測最低気温取得ステップSr3に移行する。一方、照度の平均が2.4kLux未満、風速1m/s超え、降水量0.5mm超えのいずれかであれば(Sr2:No)、設定日判定ステップSr7に移行する。
【0115】
基準地実測最低気温取得ステップSr3では、気象予報サーバ30から基準地3における同日0時から8時までの時間帯における実測最低気温を取得する。なお、本ステップSr3にて設定した0時から8時までの時間帯は、対象地実測最低気温取得ステップSr4と同じ時間帯にしてもよく、適宜変更されてもよい。
【0116】
対象地実測最低気温取得ステップSr4では、クラウドサーバ40から窪地2Lにおける同日2時から8時までの実測最低気温を取得する。なお、本ステップSr4にて設定した2時から8時の時間帯は、夜明け前として想定した時間帯であるが、適宜変更されてもよい。
【0117】
下限側標本判定ステップSr5では、対象地実測最低気温取得ステップSr4にて取得した窪地2Lにおける実測最低気温から、基準地実測最低気温取得ステップSr3にて取得した基準地3における実測最低気温を減じて算出された気温差が、-4.2度以下であるか否かについて判定する(窪地2Lの実測最低気温-基準地3の実測最低気温≦-4.2)。
【0118】
気温差が-4.2度以下であれば(Sr5:Yes)、今回の基準地実測最低気温取得ステップSr3にて取得した基準地3における実測最低気温と、対象地実測最低気温取得ステップSr4にて取得した窪地2Lにおける実測最低気温を新たな下限側標本として、降霜判定サーバ10の保存領域(例えばハードディスクドライブ)に格納する(Sr6)。なお、下限側標本は、クラウドサーバ40に格納されてもよく、保存領域は適宜変更されてもよい。
【0119】
一方、気温差が-4.2度超えであれば(Sr5:No)、新たな下限側標本を格納することなく、設定日判定ステップSr7に移行する。
【0120】
設定日判定ステップSr7では、当日があらかじめ設定された設定日(例えば、12月31日や4月30日)であるか否かについて判定する。なお、設定日は、年1回(例えば、4月30日のみ)であってもよく、1か月置きであってもよく、回数や日付を含め適宜変更されてもよい。
【0121】
当日が設定日であれば(Sr7:Yes)、更新ステップSr8に移行する。一方、当日が設定日でなければ(Sr7:No)、当日の更新処理を終了する。
【0122】
更新ステップSr8では、保存領域に格納されているすべての下限側標本からなる下限標本群を取得する。新たな下限側標本群より新たな相関関係推定式を取得し、この相関関係推定式を相関関係式推定ステップS3にて使用する相関関係推定式として更新する。その後、当日の更新処理を終了する。
【0123】
更新処理を備えることによる優位性を確認するべく新たな実験を行った。なお、本実験では、44日に亘って、更新する前の相関関係推定式(式2)を用いたLEM式推定最低気温と、更新した後の相関関係推定式(式5)を用いたLEM式推定最低気温を各日1日後から5日後まで算出した。
【0124】
更新処理により更新される前の式2を用いて実験を行ったところ図10の結果が得られた。図10は、式2を用いたLEM法由来の窪地2Lの葉面温度をx軸の値とし、同日の実測最低気温より算出した窪地2Lの葉面温度をy軸の値とした分布図である。図10では、x軸の値とy軸の値から成る1つのデータ(以降、単に「データ」と記載)が220個(44日×5日(1日後から5日後)分)表記されている。なお、図10図11では、実測最低気温が測定された日を基準として、1日前~5日前のデータとして表記している。
【0125】
本実験では、LEM法由来の葉面温度が正の値であるにもかかわらず、実測最低気温より算出した葉面温度が負の値となったデータが得られた。つまり、降霜が発生しないと予測したにも関わらず、降霜が発生した日があった。
【0126】
また、本実験において、LEM法由来の窪地2Lの葉面温度が、同日の実測最低気温より算出した窪地2Lの葉面温度よりも低いデータは、220個中155個(約70%)であった。
【0127】
次いで、更新処理により更新した相関関係推定式を用いた実験結果について説明する。まず、上述した更新処理を用いて更新された相関関係推定式として下式5が得られた。
LEM式推定最低気温=1.02×予想最低気温-5.7 (式5)
【0128】
更新処理により更新された式5を用いて実験を行ったところ図11の結果が得られた。図11は、式5を用いたLEM法由来の窪地2Lの葉面温度をx軸の値とし、同日の実測最低気温より算出した窪地2Lの葉面温度をy軸の値とした分布図である。図11では、図10と同様に220個のデータが表記されている。
【0129】
本結果では、LEM法由来の葉面温度が正の値であるにもかかわらず、実測最低気温より算出した葉面温度が負の値となったデータは得られなかった。つまり、降霜が発生しないと予測したにも関わらず、降霜が発生した日はないことがわかった。
【0130】
また、本実験において、LEM法由来の窪地2Lの葉面温度が、同日の実測最低気温より算出した窪地2Lの葉面温度よりも低いデータは、220個中214個(約97%)であった。
【0131】
これらの実験結果から、相関関係推定式を更新することによる優位性について確認することができた。
【0132】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内における追加や変更があっても、本発明に含まれる。
【0133】
例えば、前記実施例1,2では、相関関係式推定ステップにて、下限崩落線に基準地の予想最低気温を代入することで対象地のLEM式推定最低気温が得られる構成として説明したが、これに限られず、過去相関関係をまとめたテーブルに基準地の予想最低気温を照会することで対象地のLEM式推定最低気温が得られる構成としてもよく、その構成は適宜変更されてもよい。これは、標高差式推定ステップについても同様である。
【0134】
また、前記実施例1,2では、過去相関関係は、下限崩落線の式によって表せられる構成として説明したが、これに限られず、標本群の回帰直線であってもよく、天気、風速、降雨のうち少なくとも一つの条件に応じて抽出された抽出標本群の回帰直線であってもよく、下限崩落線以外の回帰直線によって表せられる構成であってもよい。
【0135】
また、前記実施例1,2では、対象地は高台と窪地を含む地形であるとして説明したが、これに限られず、平地であってもよく、扇状地であってもよく、地形特性は適宜変更されてもよい。
【0136】
また、前記実施例1,2では、相関関係式推定ステップと、標高差式推定ステップを備える構成として説明したが、これに限られず、相関関係式推定ステップのみであってもよい。
【0137】
また、前記実施例1,2では、5日分の降霜予測を行う構成として説明したが、これに限られず、1日後のみであってもよく、2日後のみであってもよく、3日分であってもよく、適宜変更されてもよい。
【0138】
また、前記実施例1,2では、葉面への降霜を判定するにあたって葉面温度算出式を用いて葉面温度を算出する構成として説明したが、これに限られず、単に推定最低気温が所定値以下であれば降霜が発生すると判定するものであってもよく、葉面への降霜判定方法については、適宜変更されてもよい。
【0139】
また、前記実施例1,2では、降霜判定サーバは、公衆通信網を通じて接続されているクラウドサーバより対象地の気象データを取得可能な構成として説明してきたが、これに限られず、ゲートウェイと直接有線または無線で接続されていてもよく、降霜判定サーバがゲートウェイとしての機能を兼ねていてもよく、気象予報サーバとしての機能を兼ねていてもよく、降霜判定サーバの構成は適宜変更されてもよい。
【符号の説明】
【0140】
1 降霜予測システム
2 圃場(対象地)
2H 高台
2L 窪地
3 基準地
4 公衆通信網
10 降霜判定サーバ
21 MSセンサ(第1センサ)
22 窪地用センサ(第2センサ)
30 気象予報サーバ
40 クラウドサーバ
50 ユーザ端末
S1 取得ステップ
S2 標高差式推定ステップ
S3 相関関係式推定ステップ
S4 予測ステップ
S5 通知ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11