(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177118
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】三次元造形物、および三次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/135 20170101AFI20241212BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20241212BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241212BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20241212BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20241212BHJP
【FI】
B29C64/135
B29C64/314
B33Y10/00
B33Y80/00
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024091886
(22)【出願日】2024-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2023094464
(32)【優先日】2023-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023141023
(32)【優先日】2023-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2024027202
(32)【優先日】2024-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 美月
(72)【発明者】
【氏名】中村 友彦
(72)【発明者】
【氏名】岩田 寛和
(72)【発明者】
【氏名】松本 悟史
(72)【発明者】
【氏名】浅野 到
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA29
4F213AB06
4F213AB11
4F213AB16
4F213AB17
4F213AB18
4F213AB24
4F213AC04
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL13
4F213WL23
4F213WL24
4F213WL25
4F213WL43
4F213WL78
4F213WL92
(57)【要約】
【課題】
ポリマー粉末組成物の熱劣化や、三次元造形装置への熱負荷を抑えたまま、反りの小さい、耐熱性に優れた三次元造形物を得る、三次元造形物の製造方法を提供する。
【解決手段】
幅10mm、長さ80mm,厚さ4mmの試験片を、80mmの長さ方向がリコーターが移動するのと直行する方向に、4mmの厚さ方向が材料粉末を積層する高さ方向となるように作製したときの、当該試験片の80mmの長さ方向の反りが1.5mm/10cm以下である、ポリマー粉末組成物を用いて、粉末床溶融結合方式によって得られる三次元造形物であって、三次元造形物を構成するポリマーの融点が200℃以上、三次元造形物の黄色味が10以下であることを特徴とする三次元造形物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅10mm、長さ80mm,厚さ4mmの試験片を、80mmの長さ方向がリコーターが移動するのと直行する方向に、4mmの厚さ方向が材料粉末を積層する高さ方向となるように作製したときの、当該試験片の80mmの長さ方向の反りが1.5mm/10cm以下である、ポリマー粉末組成物を用いて、粉末床溶融結合方式によって得られる三次元造形物であって、三次元造形物を構成するポリマーの融点が200℃以上、三次元造形物の黄色味が10以下であることを特徴とする三次元造形物。
【請求項2】
前記三次元造形物を構成するポリマーがポリアミドである請求項1に記載の三次元造形物。
【請求項3】
前記ポリアミドが、ポリアミド6、ポリアミド610、ポリアミド66、およびこれらのいずれかを含む共重合体から選ばれる少なくとも1種のポリアミドを含む、請求項2に記載の三次元造形物。
【請求項4】
前記三次元造形物が強化材を10質量%以上80質量%以下含む、請求項1に記載の三次元造形物。
【請求項5】
ポリマー粉末組成物を用いた粉末床溶融結合方式により得られる三次元造形物であって、幅10mm、長さ80mm,厚さ4mmの試験片を、80mmの長さ方向がリコーターが移動するのと平行な方向に、4mmの厚さ方向が材料粉末を積層する高さ方向となるように作製したときの、当該試験片のJIS K7191-1(2015)に従い、0.45MPaの荷重にて測定した熱変形温度が160℃以上であるポリマー粉末組成物を用いて得られる、請求項1に記載の三次元造形物。
【請求項6】
前記三次元造形物の表面粗度が20μm未満である面を含む請求項1に記載の三次元造形物。
【請求項7】
幅10mm、長さ80mm,厚さ4mmの試験片を、80mmの長さ方向がリコーターが移動するのと直行する方向に、4mmの厚さ方向が材料粉末を積層する高さ方向となるように作製したときの、当該試験片の80mmの長さ方向の反りが1.5mm/10cm以下である、ポリマー粉末組成物を用いた粉末床溶融結合方式による三次元造形物の製造方法であって、ポリマー粉末組成物を構成するポリマーの融点が200℃以上であり、粉末床最上粉末層温度が200℃以下である三次元造形物の製造方法。
【請求項8】
三次元造形前のポリマー粉末組成物の明度L(1)、三次元造形後に造形物周りに残存したポリマー粉末組成物の明度L(2)について、L(2)/L(1)が0.85以上1.05以下である、請求項7に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項9】
前記ポリマー粉末組成物が、D50粒子径が1μm以上100μm以下であるポリアミド粉末を含む、請求項7に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項10】
前記ポリマー粉末組成物が、平均長径が3μm以上120μm以下であり、平均長径/平均短径が2以上12以下である強化材を10質量%以上80質量%以下含む、請求項7に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項11】
前記強化材の見掛密度/タップ密度が0.50以上1.00以下である、請求項10に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項12】
三次元造形用のCADデータに対する三次元造形物のXY平面上の収縮率が2%以下である、請求項7に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項13】
粉末床に供給されるポリマー粉末組成物の温度が140℃以上である、請求項7に記載の三次元造形物の製造方法。
【請求項14】
予備積層高さが15mm以上である、請求項7に記載の三次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形物と、それを得るための三次元造形物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元造形物(以下、造形物と称する場合がある)を製造する技術として、材料押出方式、粉末床溶融結合方式、液槽光重合方式、シート積層方式などが知られている。この中でも粉末床溶融結合方式では、粉末の層を設けた後に、物体の断面に対応する位置を選択的に溶融させ、これらの層同士を接着、積層することで三次元造形物を形成させる。ここで、選択的に粉末を溶融させる方法としては、レーザーを用いる選択的レーザー焼結法、溶融助剤を用いる選択的吸収焼結法、および溶融させない場所をマスクする選択的抑制焼結法などがある。粉末床溶融結合方式は、他の造形方法と比較して精密造形に好適である、造形時のサポート部材が不要であるという利点を有する。
【0003】
前記の方式によって得られる三次元造形物は、その良好な機械特性、寸法精度を活かし、例えば自動車、航空、宇宙などのモビリティ用途や、義肢、装具、補聴器、カテーテルなどの医療用途、スポーツ用途、電気電子材料など、多様な分野での活用を検討されている。従来は形状確認を目的とした試作の為に三次元造形物が用いられてきたが、近年では用途開発が進み、デザインした形状の性能を確認する機能性試作や、実際に三次元造形物を使用する最終製品用途にも検討されており、耐熱性や機械特性への要求が高まっている。
【0004】
そのため、高い融点を有するポリマー粉末を用いた三次元造形物について検討が進められてきた。粉末床溶融結合方式では、選択的に粉末を溶融させた後に冷却して造形物を得るが、高融点ポリマーは、結晶性が高いため、冷却時の結晶化の際に大きな体積収縮を伴い、三次元造形物の角の丸みや、端部が浮き上がる反りの課題があった。
【0005】
このような課題に対して、特許文献1では、ポリマー粉末に対してアニーリング処理をすることで結晶化度を高め、粉末床温度を融点付近まで高めることを可能とし、三次元造形物の反りを抑制する技術が開示されている。特許文献2では、溶融挙動がシャープなポリアミド粉末を用いることで、粉末床温度に分布があっても粉末が溶融せず、反りのない三次元造形物を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-196983号公報
【特許文献2】国際公開第2022-181633号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1では、融点218℃のPBTや、融点265℃のPA66の粒子を使用して、融点±3℃の部品床温度で3次元造形を行っており、ポリマー粉末組成物の熱劣化と、それに伴い粉末の回収利用が困難になることや、造形物の物性の低下が懸念される。特許文献2では、融点が217℃の粒子を使用して、部品床温度の初期設定を融点より-15℃として3次元造形を行っている。この場合、依然として、ポリマー粉末組成物の熱劣化や、三次元造形装置への熱負荷が十分に抑制できていないという課題があるとわかった。
【0008】
そこで本発明は、ポリマー粉末組成物の熱劣化や、三次元造形装置への熱負荷を抑えたまま、反りの小さい、耐熱性に優れた三次元造形物を得る、三次元造形物の製造方法の提供を目的とするものである。特に高融点を有しながら、熱による着色が抑制された、三次元造形物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、次の構成を有する。
<1>幅10mm、長さ80mm,厚さ4mmの試験片を、80mmの長さ方向がリコーターが移動するのと直行する方向に、4mmの厚さ方向が材料粉末を積層する高さ方向となるように作製したときの、当該試験片の80mmの長さ方向の反りが1.5mm/10cm以下である、ポリマー粉末組成物を用いて、粉末床溶融結合方式によって得られる三次元造形物であって、三次元造形物を構成するポリマーの融点が200℃以上、三次元造形物の黄色味が10以下であることを特徴とする三次元造形物。
<2>前記三次元造形物を構成するポリマーがポリアミドである<1>に記載の三次元造形物。
<3>前記ポリアミドが、ポリアミド6、ポリアミド610、ポリアミド66、およびこれらのいずれかを含む共重合体から選ばれる少なくとも1種のポリアミドを含む、<1>、<2>に記載の三次元造形物。
<4>前記三次元造形物が強化材を10質量%以上80質量%以下含む、<1>~<3>に記載の三次元造形物。
<5>ポリマー粉末組成物を用いた粉末床溶融結合方式により得られる三次元造形物であって、幅10mm、長さ80mm,厚さ4mmの試験片を、80mmの長さ方向がリコーターが移動するのと平行な方向に、4mmの厚さ方向が材料粉末を積層する高さ方向となるように作製したときの、当該試験片のJIS K7191-1(2015)に従い、0.45MPaの荷重にて測定した熱変形温度が160℃以上であるポリマー粉末組成物を用いて得られる、<1>~<4>に記載の三次元造形物。
<6>前記三次元造形物の表面粗度が20μm未満である面を含む<1>~<5>に記載の三次元造形物。
<7>幅10mm、長さ80mm,厚さ4mmの試験片を、80mmの長さ方向がリコーターが移動するのと直行する方向に、4mmの厚さ方向が材料粉末を積層する高さ方向となるように作製したときの、当該試験片の80mmの長さ方向の反りが1.5mm/10cm以下である、ポリマー粉末組成物を用いた粉末床溶融結合方式による三次元造形物の製造方法であって、ポリマー粉末組成物を構成するポリマーの融点が200℃以上であり、粉末床最上粉末層温度が200℃以下である三次元造形物の製造方法。
<8>三次元造形前のポリマー粉末組成物の明度L(1)、三次元造形後に造形物周りに残存したポリマー粉末組成物の明度L(2)について、L(2)/L(1)が0.85以上1.05以下である、<7>に記載の三次元造形物の製造方法。
<9>前記ポリマー粉末組成物が、D50粒子径が1μm以上100μm以下であるポリアミド粉末を含む、<7>、<8>に記載の三次元造形物の製造方法。
<10>前記ポリマー粉末組成物が、平均長径が3μm以上120μm以下であり、平均長径/平均短径が2以上12以下である強化材を10質量%以上80質量%以下含む、<7>~<9>に記載の三次元造形物の製造方法。
<11>前記強化材の見掛密度/タップ密度が0.50以上1.00以下である、<10>に記載の三次元造形物の製造方法。
<12>三次元造形用のCADデータに対する三次元造形物のXY平面上の収縮率が2%以下である、<7>~<11>に記載の三次元造形物の製造方法。
<13>粉末床に供給されるポリマー粉末組成物の温度が140℃以上である、<7>~<12>に記載の三次元造形物の製造方法。
<14>予備積層高さが15mm以上である、<7>~<13>に記載の三次元造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリマー粉末組成物の熱劣化や、三次元造形装置への熱負荷を抑えたまま、反りの小さい、耐熱性に優れた三次元造形物を得ることができる。更には、高融点を有しながら、酸化着色が抑制された、三次元造形物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明における三次元造形物の製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の三次元造形物の製造方法について詳細に説明する。
【0013】
これまで、耐熱性に優れた三次元造形物を得るに当たっては、三次元造形装置も耐熱性に優れる必要があり、高い温度で三次元造形をした場合には装置の部品等が劣化する課題があった。また、耐熱性に優れた三次元造形物を得るための高融点のポリマー粉末組成物も、高い温度で三次元造形した場合、酸化着色や粉末の凝集、添加物の分解など、熱劣化を受けるという課題があった。しかしながら従来は、三次元造形においては得られる三次元造形物の寸法精度や反りの抑制が最大の課題であり、それを満たすためには可能な限りで造形温度を高める技術が重要であった。本発明は、これまでとは逆に、可能な限り造形温度を低めることで、ポリマー粉末組成物の熱劣化や、三次元造形装置への熱負荷を抑えたまま、反りの小さい、耐熱性に優れた三次元造形物を得る技術に関するものである。
【0014】
すなわち、本発明の三次元造形物の製造方法は、高い融点のポリマー粉末組成物を用いた粉末床溶融結合方式による三次元造形物の製造方法であって、ポリマー粉末組成物を構成するポリマーの融点が200℃以上であり、粉末床最上粉末層温度が200℃以下で三次元造形物を製造することを特徴とするものである。
【0015】
以下、本発明の粉末床溶融結合方式による三次元造形工程について
図1を用いて説明する。
【0016】
第一の工程では、造形物を形成する槽1のステージ2を下降させる。
【0017】
第二の工程では、造形物を形成する槽1に供給する材料粉末Pを事前に充填した槽3(以下、供給槽と称する場合がある)のステージ4を、槽1に形成させた所定の積層高さ分を充填するのに十分な量の材料粉末Pを供給可能な高さだけ上昇させる。そして、リコーター5を供給槽3の左端部から槽1の右端部へ移動させ、槽1に材料粉末Pを積層していく。なお、リコーター5が移動するのと平行な方向はX方向、材料粉末Pの粉面でリコーター5の移動方向と直交する方向はY方向となる。符号7はX方向、Y方向、Z方向を表す座標系を示している。符号8は材料粉末を積層する面方向、符号9は、材料粉末を積層する高さ方向を示している。
【0018】
第三の工程では、第二の工程で槽1に所定の積層高さ分を充填した材料粉末Pに対し、溶融可能な熱エネルギー6を与え、造形データに沿って選択的に溶融焼結させる。符号11は、目的とする三次元造形物を選択的に溶融焼結させるまでの間に、事前に材料粉末を積層させる高さ(以下、予備積層高さと称する場合がある)を示している。選択的に溶融焼結させる方法としては、例えば、造形物の断面形状に対応する形状にレーザーを照射して、粉末組成物を結合させる選択的レーザー焼結法などが挙げられる。また、造形対象物の断面形状に対応する形状にエネルギー吸収促進剤またはエネルギー吸収抑制剤を印刷する印刷工程と、電磁放射線を用いて樹脂粉末を結合させる選択的吸収(又は抑制)焼結法なども挙げられる。
【0019】
粉末床溶融結合方式では、上記第一~第三の工程を繰り返し行うことで、三次元造形物10が得られ、槽1には結晶化温度以上融点以下の温度で熱負荷を受けた材料粉末が残存する。
【0020】
本発明の三次元造形物の製造方法は、粉末床最上粉末層温度が200℃以下である。粉末床最上粉末層温度を200℃以下にすることによって、三次元造形物の着色、ポリマー粉末組成物の熱劣化や、三次元造形装置への熱負荷を抑制することができる。粉末床最上粉末層温度は、199℃以下が好ましく、198℃以下がより好ましく、197.5℃以下がさらに好ましく、197℃以下が特に好ましく、著しく好ましくは195℃以下である。またその下限は、三次元造形する際に反りを発生させない点で、185℃以上が好ましく、188℃以上がより好ましく、190℃以上がさらに好ましく、192℃以上が特に好ましい。
【0021】
本発明における粉末床最上粉末層温度とは、造形物を形成する槽1の温度であり、特に槽1に充填された材料粉末Pの上部表面温度の測定値を指す。この粉末床最上粉末層温度の測定方法は特に限定されないが、例えば赤外線センサーなどで測定することができる。三次元造形工程では、一般に材料粉末を積層しながら粉末床温度を造形温度へと昇温させるが、本発明における粉末床最上粉末層温度は、特に選択的に溶融焼結させている造形中の上部表面温度であって、かつ選択的に溶融焼結させている部分以外の箇所であって、装置構成上で測定可能な箇所の中で、最も高温となっている部分の温度を指す。
【0022】
本発明において、粉末床に供給されるポリマー粉末組成物の温度は140℃以上であることが好ましい。粉末床に供給されるポリマー粉末組成物の温度が低いと、積層毎に粉末床最上粉末層温度を低下させてしまい、粉末床最上粉末層温度が所定温度に戻る時間が長くなり、また選択的に溶融焼結させた部分が温度低下して反りが発生する原因になる。そのため、150℃以上がより好ましく、160℃以上がさらに好ましく、165℃以上が特に好ましく、170℃以上が著しく好ましい。その上限は、ポリマー粉末組成物を粉末床に供給する際に応力がかかるため、粉末床最上粉末層温度と比較してより低い温度に設定した方がポリマー粉末組成物の熱劣化を抑制できる点で、195℃以下が好ましく、190℃以下がより好ましく、185℃以下がさらに好ましく、182℃以下が特に好ましく、180℃以下が著しく好ましい。
【0023】
本発明における粉末床に供給されるポリマー粉末組成物の温度とは、供給槽3の温度であり、特に供給槽3に充填された材料粉末Pの上部表面温度を指す。この上部表面温度の測定方法は特に限定されないが、例えば赤外線センサーなどで測定することができる。また三次元造形工程中で、粉末床に供給されるポリマー粉末組成物の温度を変化させる場合、その最高温度を指す。
【0024】
粉末床溶融結合方式による三次元造形においては、三次元造形物の保温性を高めて反りを抑制する観点で、予備積層を設けることが好ましい。本発明において予備積層高さとは、目的とする三次元造形物を選択的に溶融焼結させるまでの間に、事前に材料粉末を積層させる高さを指す。この予備積層の間に、さらに保温性を高める目的で、三次元造形物を配置してもよい。
【0025】
本発明において、予備積層高さは15mm以上であることが好ましい。予備積層高さは15mm以上とすることにより、三次元造形物の保温性を高め、粉末床最上粉末層温度を200℃以下としても反りなく高融点の三次元造形物を得ることができ、好ましい。予備積層高さは、18mm以上がより好ましく、20mm以上がさらに好ましい。またその上限は、三次元造形物とならない材料粉末の量を減らす点で、40mm以下が好ましく、35mm以下がより好ましく、30mm以下がさらに好ましい。
【0026】
本発明の三次元造形物の製造方法では、融点が200℃以上であり、粉末床溶融結合方式によって3次元造形物を製造するのに適したポリマーで構成されるポリマー粉末組成物を用いる。融点が200℃以上であることにより、耐熱性に優れた三次元造形物を得ることができる。ポリマー粉末組成物を構成するポリマーの融点は、202℃以上が好ましく、205℃以上がより好ましく、210℃以上がさらに好ましく、213℃以上が特に好ましく、215℃以上が著しい。またその上限は、200℃以下の温度で三次元造形した際に反りを発生させにくい点で、250℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましく、235℃以下がさらに好ましく、230℃以下が特に好ましい。
【0027】
なお、本発明のポリマー粉末組成物を構成するポリマーの融点は、DSC法を用いて、ポリマー粉末組成物を窒素雰囲気下、30℃から20℃/分の速度で溶融ピーク終了時より30℃高い温度まで加熱する条件で測定した際に観測される吸熱ピークの頂点とする。
【0028】
本発明において、ポリマー粉末組成物を構成するポリマーとしては、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレンまたはそれらの混合物を含むことが好ましい。得られる3次元造形物の反りを抑制できるという点で、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンがより好ましく、この中でも造形時の最上粉末層温度の低温化の効果が高いという点でポリアミドであることが特に好ましい。本発明を損なわない範囲であれば、いずれのポリアミドでも構わなく、具体例としては、ポリアミド4、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド9、ポリアミド610、ポリアミド510、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド56、ポリアミド1010、ポリアミド410、ポリアミド510、ポリアミド612(ポリヘキサメチレンドデカミド)、ポリアミド106、ポリアミド126、ポリアミド6T(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド10T、およびこれらのいずれかを含む共重合体から選ばれる少なくとも1種のポリアミドを含むものが挙げられる。この中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド66、ポリアミド1010、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド510が好ましく、耐熱性に優れ、かつ粉末床最上粉末層温度が200℃以下で反りなく造形するのに適する点で、ポリアミド6、ポリアミド610、ポリアミド510およびこれらのいずれかを含む共重合体がより好ましく、ポリアミド6が特に好ましい。
【0029】
前記ポリアミドは、本発明の効果を損なわない範囲で共重合していても構わない。共重合可能な成分としては、柔軟性を付与するポリオレフィンやポリアルキレングリコールなどのエラストマー成分、耐熱性や強度を向上する剛直な芳香族成分など適宜選択できる。また末端基を調整する共重合成分を用いても良い。かかる共重合成分としては、末端のアミノ基やカルボキシル基と反応する成分であれば制限されず、酢酸、ヘキサン酸、ラウリン酸や安息香酸などのモノカルボン酸やアジピン酸などのジカルボン酸、へキシルアミンやオクチルアミン、アニリンなどのモノアミンなどが挙げられる。
【0030】
本発明において、ポリマー粉末組成物は、本発明を損なわない範囲で他の配合物を加えても構わない。配合剤としては、例えば、粉末床溶融結合方式で造形中の加熱による熱劣化を抑制するために、酸化防止剤や耐熱安定剤などが挙げられる。酸化防止剤、耐熱安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体や、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などが挙げられる。他には、着色用の顔料や染料、粘度調整用の可塑剤、流動性改質用の流動助剤、機能付与する帯電防止剤、難燃剤やカーボンブラック、シリカ、二酸化チタン、チタン酸カリウム、ガラス繊維やガラスビーズ、炭素繊維、セルロースナノファイバーなどのフィラーなどが挙げられる。これらは公知の物を使用することが可能で、ポリマー粉末組成物の内部、外部のいずれに存在していても構わない。
【0031】
また、粉末床溶融結合方式では、使用する粉末組成物の一部で造形物を作製し、多くの粉末組成物が残存する。その粉末組成物を再利用することがコストの観点で重要になる。そのためには、加熱し造形する工程中で粉末組成物の特性を変化させないことが重要になる。そのような方法としては、例えば、酸化防止剤などの安定化剤を粒子内部などに配合させ熱劣化を抑制する方法や、ポリアミドの末端基を低減させ、造形中の分子量変化を抑制する方法などが挙げられる。また粉末組成物中に強化材を配合させる場合には、強化材も熱によって変性しないものを用いることが好ましい。このような調整を適宜用いることで、造形性と再利用を両立することが可能となる傾向にある。
【0032】
本発明において、ポリマー粉末組成物に含まれるポリマー粉末のD50粒子径は、1μm以上100μm以下であることが好ましい。D50粒子径が100μm以下であることにより、粒子サイズが積層高さ未満となり、得られる造形物の表面が平滑になるため好ましい。D50粒子径が1μm以上であることにより、造形時のリコーターなどにポリマー粉末が付着しにくくなり、造形室を必要温度まで上昇させることができることから好ましい。ポリマー粉末のD50粒子径の上限は、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましく、50μm以下がいっそう好ましく、40μm以下が特に好ましく、30μm以下が著しく好ましい。下限は、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましく、15μm以上がいっそう好ましく、20μm以上が特に好ましい。D50が上記好ましい上限値以下であれば、得られる造形物の表面粗度がより小さくなる傾向にある。さらに、D50が上記好ましい上限値以下であれば、ポリマー粉末組成物中の充填剤比率が少なくても造形物が反りにくい傾向にある。また、D50粒子径が上記下限値以上であれば、ポリマー粉末組成物の流動性が向上するため、ポリマー組成物中の充填剤比率を増やしても三次元造形を行うことができ、XY収縮率が小さくなる傾向にある。
【0033】
なお、ポリマー粉末組成物に含まれるポリマー粉末D50粒子径は、ポリマー粉末をレーザー回折式粒径分布計にて測定される粒径分布の小粒径側からの累積度数が50%となる粒径(D50粒子径)である。
【0034】
ポリマー粉末の粒度分布は、本発明を損なわない範囲であれば制限されないが、粒度分布のD90とD10の比であるD90/D10で表され、5.0未満であることが好ましい。粒度分布が狭い方が、粒子サイズの差による造形時の融解性の差が無くなり、また強化材も均一に分散しやすくなり、表面平滑な造形物を得られるため好ましい。従って、D90/D10は、4.0未満がより好ましく、3.0未満がさらに好ましく、2.0未満が特に好ましい。また、その下限値は、理論上1.0である。
【0035】
本発明におけるポリマー粉末の粒度分布を示すD90/D10は、前記したレーザー回折式粒径分布計により測定した粒径分布の小粒径側からの累積度数が90%となる粒径(D90)を小粒径側からの累積度数が10%となる粒径(D10)で除した値である。
【0036】
本発明を損なわない範囲において、ポリマー粉末の形状は、真球でも不定形でも構わない。形状が真球に近いほど、粉末組成物の流動性が向上し、より低温で造形が可能になるため、ポリマー粒子の真球性を示す真球度は、70以上100以下であることが好ましい。また、三次元造形物とした際の品位、特に表面平滑性を向上させることができる点で、より好ましくは80以上100以下、さらに好ましくは85以上100以下、いっそう好ましくは90以上100以下、特に好ましくは95以上100以下、著しく好ましくは97以上100以下である。
【0037】
なお、ポリマー粉末の真球度は、走査型電子顕微鏡の写真から無作為に30個の粒子を観察し、その短径と長径の比から決定される。
【0038】
ポリマーの重量平均分子量の範囲は、10,000~1,000,000であることが好ましい。重量平均分子量が高いほど、付加製造温度を低減できるため、下限は20,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、40,000以上がさらに好ましく、45,000以上が特に好ましい。分子量が高すぎると高粘度となり、付加製造温度の低減や粉末組成の回収性が悪化するため、上限は、500,000以下が好ましく、200,000以下がより好ましく、100,000以下がさらに好ましく、80,000以下が特に好ましい。
【0039】
なお、ポリマー粉末を構成するポリマーの重量平均分子量とは、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒に用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで重量平均分子量を測定し、ポリメチルメタクリレートで換算した値を指す。
【0040】
ポリマー粉末の製造法は、特に限定されないが、好ましくは、先に本発明者らが開示した国際公開2018/207728号に記載された、ポリアミドの単量体を、ポリアミドとは非相溶のポリマーの存在下で、ポリアミドの結晶化温度より高い温度で重合後、ポリアミド粉末を洗浄、乾燥して作製する手法が、ポリアミド粉末中に含まれる不純物が低減されることから、用いることができる。
【0041】
本発明のポリマー粉末組成物は、ポリマー粉末組成物の総重量に対し、強化材を10質量%以上80質量%以下含むことが好ましい。配合量の上限は、ポリマーの溶融焼結を阻害させない点や、得られる造形物の表面粗度を小さくする点で、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましく、50質量%以下が特に好ましい。また、配合量の下限は、特にXY平面上での収縮を抑制し、特に低温で造形した際に三次元造形物の反りを機械的に抑制できる点で、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上が特に好ましく、35質量%以上が著しく好ましい。
【0042】
かかる強化材としては、例えば、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、発泡ガラスビーズなどのガラス系フィラー、霞石閃長石微粉末、モンモリロナイト、ベントナイト等の焼成クレー、シラン改質クレーなどのクレー(ケイ酸アルミニウム粉末)、タルク、ケイ藻土、ケイ砂などのケイ酸含有化合物、軽石粉、軽石バルーン、スレート粉、雲母粉などの天然鉱物の粉砕品、硫酸バリウム、リトポン、硫酸カルシウム、二硫化モリブデン、グラファイト(黒鉛)などの鉱物、溶融シリカ、結晶シリカ、アモルファスシリカなどのシリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、アルミナコロイド(アルミナゾル)、アルミナホワイトなどのアルミナ、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、微粉化炭酸カルシウム、特殊炭酸カルシウム系充填剤などの炭酸カルシウム、フライアッシュ球、火山ガラス中空体、合成無機中空体、単結晶チタン酸カリ、チタン酸カリウム繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、炭素中空球、フラーレン、無煙炭粉末、セルロースナノファイバー、人造氷晶石(クリオライト)、酸化チタン、酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、亜硫酸カルシウム、マイカ、アスベスト、ケイ酸カルシウム、硫化モリブデン、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維などが挙げられる。硬質で強度向上の効果が大きい点で、ガラス系フィラー、鉱物類、炭素繊維が好ましく、粒子径分布、繊維径分布が狭い点でガラス系フィラーがさらに好ましい。これらの強化材は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
本発明で好ましく使用されるガラス系フィラーの例としては、ガラス繊維、ガラスビーズ、ガラスフレーク、発泡ガラスビーズなどが挙げられるが、三次元造形物に高い弾性率を発現させることが可能である点で、ガラス繊維、ガラスビーズ、またはこれらの混合物がより好ましい。この中でも、粉末床最上粉末層温度が200℃以下でポリマーの融点が200℃以上の三次元造形物の反りを抑制できる点でガラス繊維、またはガラス繊維とガラスビーズの混合物が特に好ましい。更には、三次元造形物が高強度となる点でガラス繊維が著しく好ましい。ガラス繊維としては、断面が円形状のものでも扁平形状のものでも良い。
【0044】
本発明で好ましく用いられる強化材は、平均長径が3μm以上120μm以下である。その上限は、特に200℃以下の低温で造形した際に、ポリマー粉末組成物とした際の充填性が上がり、ポリマー粉末組成物状態から三次元造形物に変化する際の密度変化が小さくなり、反りが抑制できる点や、ポリマー粉末組成物の流動性が向上し、得られる造形物の表面粗度が小さくなる傾向がある点より、100μm以下がより好ましく、80μm以下がさらに好ましく、50μm以下が特に好ましく、40μm以下が著しく好ましい。またその下限は、XY平面上での収縮抑制による機械的な反り抑制効果が発現される点で、10μm以上がより好ましく、15μmがさらに好ましく、20μm以上が特に好ましく、25μm以上が著しく好ましい。
【0045】
また本発明で好ましく用いられる強化材の形状因子は、平均長径/平均短径で表され、2以上12以下であることが好ましい。その上限値は、強化材のX方向への配向が弱まり、Y方向を向く強化材の割合が増えることで、Y方向の収縮が抑制され、Y方向が反りにくくなる点や、ポリマー粉末組成物の流動性が向上し、得られる造形物の表面粗度が小さくなる傾向がある点より、10以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、7以下が特に好ましく、6以下が著しく好ましい。その下限値は、得られる造形物の反りの抑制と高強度化するという観点で、2.5以上がより好ましく、3以上が特に好ましい。
【0046】
本発明で好ましく用いられる強化材の長径は、(強化材の長径)/(ポリマー粒子のD50粒子径)が、0.1以上4.0以下であることが好ましい。 その上限値は、3.0以下であることがより好ましく、2.0以下であることがさらに好ましい。下限値は、0.5以上であることがより好ましい。(強化材の長径)/(ポリマー粒子のD50粒子径)が上記範囲内である、すなわち、強化材の長径とポリマー粒子のD50粒子径が近い値であることにより、ポリマー粉末組成物の流動性が向上し、得られる造形物の表面粗度が小さくなる傾向にある。
【0047】
なお、本発明において強化材の平均長径、平均短径は、強化材を走査型電子顕微鏡で撮像して得られる写真から無作為に100個の繊維または粒子の長径と短径を観察した数平均値である。長径とは、粒子の像を2本の平行線で挟んだときの平行線の間隔が最大となる径であり、短径とは、長径と直交する方向で2本の平行線で挟んだときの平行線の間隔が最小となる径である。強化材の平均長径、平均短径を測定する際に、粉末組成物の走査型電子顕微鏡写真から強化材を選んで長径、短径を測定してもよい。
【0048】
本発明で好ましく用いられる強化材は、見掛密度/タップ密度が0.50以上1.00以下である。見掛密度/タップ密度が0.50以上であることで、強化材自体の充填性と流動性に優れ、ポリマー粉末組成物とした際の分散性が向上し、ポリマー粉末組成物中で均質に機械的な反り抑制効果を発現することが可能となるため好ましい。見掛密度/タップ密度は、0.55以上がより好ましく、0.60以上がさらに好ましく、0.62以上が特に好ましい。その上限は、反りを抑制する形状因子の点で、0.90以下がより好ましく、0.85以下がさらに好ましく、0.80以下が特に好ましい。
【0049】
なお、強化材の見掛密度は、強化材粉末を容器に充填したときの単位体積当たりの質量のことを示す。ここで、見掛密度は、日本工業規格(JIS規格)JIS K 7365(1999)「規定漏斗から注ぐことができる材料の見掛け密度の求め方」に準じ、強化材を測定したものである。
【0050】
また、強化材のタップ密度は、強化材粉末を容器に静かに充填した後、タッピングによって密充填させたときの単位体積当たりの質量のことを示し、日本工業規格(JIS規格)JIS K 7370(2000)「固め見掛けかさ密度の求め方」に準じ、強化材を測定したものである。
【0051】
本発明の効果を損なわない範囲で、強化材とポリマーとの密着性を向上させる目的で、強化材に表面処理を施されたものを用いることが可能である。そのような表面処理の例としては、アミノシラン、エポキシシラン、アクリルシラン等のシランカップリング剤などが挙げられる。これらの表面処理剤は、強化材の表面でカップリング反応により固定化されている、または強化材の表面を被覆していても良いが、三次元造形に使用した材料粉末をリサイクル使用する上で、熱などによって改質されにくいという点で、カップリング反応によって固定化されているものが好ましい。特に、アミノシランカップリング剤がカップリング反応によって固定化された強化材を使用することで、強化材とポリマーとの密着性を向上でき、造形物の機械強度をより向上できる傾向にある。
【0052】
本発明において強化材は、ポリマー粒子に対してドライブレンドされてもよいし、ポリマー粒子内部に含まれていてもよいが、リコート時に機械的な反り抑制を発現させるのに適した配向性が得られる点で、ドライブレンドされていることが好ましい。
【0053】
本発明の効果を損なわない範囲で、ポリマー粉末組成物は、流動性を向上させる点で、流動助剤を含むことが好ましい。流動助剤とは、粉末間の付着力によって粉末が凝集することを抑制する物質を指す。かかる流動助剤を含むことで、粉末組成物の流動性を向上、即ち後述する流動性の指標である安息角を所望の範囲に改善でき、機械特性低下の要因となる欠陥が減少することや、得られる造形物の外観をより向上できる傾向にある。
【0054】
かかる流動助剤は、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アモルファスシリカなどのシリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、アルミナコロイド(アルミナゾル)、アルミナホワイトなどのアルミナ、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、微粉化炭酸カルシウム、特殊炭酸カルシウム系充填剤などの炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、チタン酸カリウム繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維などが挙げられる。さらに好ましくは、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム粉末、酸化チタンである。特に好ましくは、硬質で強度向上や流動性改良に寄与できるという点で、シリカが挙げられる。
【0055】
かかるシリカの市販品としては、日本アエロジル株式会社製フュームドシリカ“AEROSIL”(登録商標)シリーズ、株式会社トクヤマ製乾式シリカ“レオロシール”(登録商標)シリーズ、信越化学工業株式会社製ゾルゲルシリカパウダーX-24シリーズなどが挙げられる。
【0056】
かかる流動助剤のD50粒子径は、20nm以上3000nm以下のものが好ましく用いられる。流動助剤のD50粒子径の上限は、2000nmがより好ましく、さらに好ましくは1000nmであり、特に好ましくは500nmであり、著しく好ましくは300nmであり、最も好ましくは200nmである。下限は、30nmがより好ましく、さらに好ましくは50nmであり、特に好ましくは100nmであり、著しく好ましくは120nmであり、最も好ましくは140nmである。流動助剤のD50粒子径が上記範囲にあれば、粉末組成物の流動性を向上させるとともに、粉末組成物に対し、流動助剤を均一に分散させることができる傾向にある。
【0057】
かかる流動助剤のD50粒子径は、レーザー回折式粒径分布計にて測定される粒径分布の小粒径側からの累積度数が50%となる粒径、または走査型電子顕微鏡で撮像して得られる写真から無作為に100個の粉末を観察し、その測長値の中央値である。
【0058】
かかる流動助剤の配合量は、ポリマー粉末組成物の総重量に対し、0.01質量%以上2.0質量%以下が好ましい。配合量の上限は、1.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましく、0.8質量%以下が特に好ましく、0.7質量%以下が著しく好ましい。また、配合量の下限は、0.02質量%以上がより好ましく、0.03質量%以上がさらに好ましく、0.04質量%以上が特に好ましい。流動助剤の配合量が上記下限値以上であれば、ポリマー粉末組成物の流動性がさらに向上し、造形物した際の充填性が増すため、機械特性で欠陥となるボイドが発生しにくく、得られる造形物は高い強度を発現する傾向にある。また、流動助剤の配合量が上記上限値以下であれば、ポリマー粒子の表面を流動助剤が被覆することによる焼結の阻害が発生せず、強度の高い造形物が得られる傾向にある。
【0059】
本発明のポリマー粉末組成物の流動性の指標は、公知の測定方法であれば何れでも採用できる。具体的に例示するならば、安息角が挙げられ、その角度が55度以下であることが好ましい。より好ましくは50度以下、さらに好ましくは45度以下、いっそう好ましくは40度以下、特に好ましくは35度以下である。下限は通常30度以上である。安息角が上記好ましい範囲内であることにより、ポリマー粉末組成物の流動性がさらに向上し、造形物した際の充填性が増すため、機械特性で欠陥となるボイドが発生しにくく、得られる造形物は高い強度を発現する傾向にある。さらに、得られる造形物の表面粗度が小さくなる傾向にある。
【0060】
本発明で使用するポリマー粉末組成物の黄色味は、10以下であることが好ましく、9以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、7以下が特に好ましい。黄色味が上記上限値以下であることにより、得られる三次元造形物を着色する際に、彩度の高い造形物を得ることができ、最終製品用途で使用する際に意匠性を高めることができる。またその下限は、低過ぎると青味を帯びる点で、-5以上が好ましく、-3以上がより好ましく、-1以上がさらに好ましく、0以上が特に好ましい。
【0061】
なお本発明のポリマー粉末組成物の黄色味は、粉末約6gを直径35mmの丸型の石英セルに入れ、JIS Z8722(2009)およびJIS Z8781-4(2013)に従って、日本電色工業株式会社製分光式色彩計(SE2000)を用いて測定したb*値である。
【0062】
また、本発明で使用する、三次元造形前のポリマー粉末組成物の明度は、20以上が好ましく、50以上がより好ましく、70以上がさらに好ましく、80以上が特に好ましく、90以上が著しく好ましい。ポリマー粉末組成物の明度が上記下限値以上であることにより、得られる三次元造形物の明度が高くなり、三次元造形物を着色する際の色の濁りが低減するため、最終製品用途で使用する際に意匠性を高めることができる。
【0063】
本発明の三次元造形物の製造方法では、融点が200℃以上のポリマーで構成されるポリマー粉末組成物を、粉末床最上粉末層温度が200℃以下で三次元造形することで、三次元造形前後でのポリマー粉末組成物の色味の変化を抑制させることが可能である。三次元造形前のポリマー粉末組成物の明度L(1)、三次元造形後に槽1に残存したポリマー粉末組成物の明度L(2)とした場合、L(2)/L(1)が0.85以上1.05以下となることが好ましい。その下限は、三次元造形物の色味とポリマー粉末組成物がより一致する点で、0.90以上がより好ましく、0.93以上がさらに好ましく、0.95以上が特に好ましい。その上限は、三次元造形前の明度L(1)が小さい場合に、三次元造形の前後で明度が増加する現象が考えられるが、色味の変動が小さい方が安定した品質で三次元造形物が得られる点で、1.03以下がより好ましく、1.02以下がさらに好ましい。
【0064】
なお、ポリマー粉末組成物の明度L(1)、L(2)は、粉末約6gを直径35mmの丸型の石英セルに入れ、JIS Z8722(2009)およびJIS Z8781-4(2013)に従って、日本電色工業株式会社製分光式色彩計(SE2000)を用いて測定したL*値であり、三次元造形前の粉末のL*値をL(1)、造形後の粉末のL*値をL(2)とする。
【0065】
本発明においては、造形時の粉末床最上粉末層温度の低温化が可能であることから、造形物の熱履歴を抑えることが可能である。それに伴い、ポリマー粉末や造形物を構成するポリマーの重量平均分子量の上昇が抑制され、造形物を構成するポリマーの重量平均分子量は、好ましくは、10,000~100,000である。重量平均分子量の上限が低いほど、造形物の熱履歴による着色抑制や、粉末組成物の融着が抑えられ、粉末組成物の回収性が向上するため好ましく、上限は90,000以下がより好ましく、80,000以下が特に好ましい。下限は、造形物の機械特性の観点から、30,000以上がより好ましく、40,000以上が特に好ましい。
【0066】
粉末組成物の回収性は、付加製造後におけるレーザー非照射部の粉末組成物の回収率を示す。回収率が高いほど、粉末組成物を回収する作業時間を短縮でき、また、再使用できる粉末組成物の量も増加するため、経済性の観点から好ましい。回収率は、好ましくは、50wt%以上であり、より好ましくは80wt%以上である。
【0067】
なお、回収率は、付加製造終了後、造形装置内に残った粉末を100g採取し、500μm篩を通過した粉末組成物の重量を計測し、仕込み粉末に対する篩を通過した粉末組成物重量の割合から算出する。
【0068】
以下、本発明の三次元造形物について詳細に説明する。
【0069】
本発明の三次元造形物は、長さ80mm,厚さ4mmの試験片を、80mmの長さ方向がリコーターが移動するのと直行する方向に、4mmの厚さ方向が材料粉末を積層する高さ方向となるように作製したときの、当該試験片の反りが1.5mm/10cm以下であるようなポリマー粉末組成物を用いて得られる、三次元造形物である。試験片の反りが上記上限値以下であるようなポリマー粉末組成物を使用するということは、すなわち、得られる三次元造形物の反りが小さく、三次元造形物が設計に近い形状を保つということである。上記試験片の反りが、1.2mm/10cm以下であるようなポリマー粉末を使用することがより好ましい。
【0070】
なお、本発明における試験片の反りの測定方法は、試験片を水平な場所に、上に凸な状態で静置し、水平面と試験片の隙間に精密テーパーゲージを挿入し、隙間の高さを計測し、試験片長さ10cm当たりに換算した値を反り量として、6本の試験片の反り量の算術平均値を算出する。
【0071】
本発明の三次元造形物は、三次元造形物を構成するポリマーの融点が200℃以上である。融点が200℃以上であることにより、耐熱性に優れた三次元造形物として、機能性試作や最終製品用途に用いることができる。三次元造形物を構成するポリマーの融点は、202℃以上が好ましく、205℃以上がより好ましく、210℃以上がさらに好ましく、213℃以上が特に好ましく、215℃以上が著しく好ましい。またその上限は、200℃以下の温度で三次元造形した際に反りを発生させにくい点で、250℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましく、235℃以下がさらに好ましく、230℃以下が特に好ましい。
【0072】
なお、本発明の三次元造形物を構成するポリマーの融点は、DSC法を用いて、三次元造形物の端部を切断したサンプル片を、窒素雰囲気下、30℃から20℃/分の速度で溶融ピーク終了時より30℃高い温度まで加熱する条件で測定した際に観測される吸熱ピークの頂点とする。
【0073】
本発明の三次元造形物は、黄色味が10以下である。黄色味が10以下であることにより、三次元造形物を着色する際に、彩度の高い造形物を得ることができ、最終製品用途で使用する際に意匠性を高めることができる。三次元造形物の黄色味は、9以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、7以下が特に好ましい。またその下限は、低過ぎると青味を帯びる点で、-5以上が好ましく、-3以上がより好ましく、-1以上がさらに好ましく、0以上が特に好ましい。
【0074】
なお本発明の三次元造形物の黄色味は、三次元造形物の平らな面を、JIS Z8722(2009)およびJIS Z8781-4(2013)に従って、日本電色工業株式会社製分光式色彩計(SE2000)を用いて、測定したb*値である。
【0075】
また、本発明の三次元造形物の明度は、三次元造形物を着色する際の色の濁りを減らす観点から、20以上が好ましく、50以上がより好ましく、70以上がさらに好ましく、80以上が特に好ましく、90以上が著しく好ましい。
【0076】
なお本発明の三次元造形物の明度は、三次元造形物の平らな面を、JIS Z8722(2009)およびJIS Z8781-4(2013)に従って、日本電色工業株式会社製分光式色彩計(SE2000)を用いて、測定したL*値である。
【0077】
また三次元造形では、粉末が充填された状態から常圧下で溶融焼結によって造形物となるため、通常収縮の密度変化を伴う。そのため、三次元造形物の寸法が所望の造形データに対して高精度で得られるためには、内部に適度の空孔を有することが好ましい。本発明の三次元造形物中に存在する空孔は、X線CTによってその割合や形状を観測することが可能である。
【0078】
本発明の三次元造形物をX線CTで撮像し、空孔として観測された部分の造形物全体の体積に対する割合は、空孔率として表すことができる。本発明の三次元造形物のX線CT測定によって観測される空孔率は、0.1体積%以上、10体積%以下であることが好ましい。空孔率の下限は、小さすぎると造形物全体が造形データに対して収縮する問題が発生するため、0.2体積%以上がより好ましく、0.3体積%以上がさらに好ましく、0.5体積%以上が特に好ましい。またその上限は、空孔が多い場合には強度低下の原因となるため、5.0体積%以下がより好ましく、4.0体積%以下がさらに好ましく、3.0体積%以下が特に好ましい。
【0079】
本発明の三次元造形物をX線CTで撮像し、空孔として観測された各独立孔のサイズは、球相当径として表すことができる。本発明の三次元造形物のX線CT測定によって観測される空孔の平均球相当径は、1μm以上100μm以下であることが好ましい。三次元造形プロセスによらない溶融成形の場合、通常空孔の平均球相当径は1μm未満となるように設計するものであり、発泡成形など意図的に空孔を形成させる場合においては、通常空孔の平均球相当径は100μm超となる。上述の通り、常圧下での三次元造形において、空孔は一定量発生するため、その下限は、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上がさらに好ましい。その上限は、大きな空孔は欠点となって造形物強度低下の原因となるため、80μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。
【0080】
なお、本発明において三次元造形物の空孔率と空孔の平均球相当径は、X線CT観察によって三次元造形物をピクセルサイズ5μmの精度で撮像し、観察画像の空孔部をラベリング処理し、各独立した空孔を球とした場合のその直径である球相当径を算出し、その平均値を空孔の平均球相当径として求めたものである。また前述のラベリング処理した空孔部の体積に対し、観察画像中の造形物に当たる部分で、空孔部を埋めた全体積で除した値に100をかけ、空孔率として求めたものである。
【0081】
本発明の三次元造形物の、熱変形温度が160℃以上であることが好ましい。熱変形温度が高いほど、造形物が高温環境下で変形しにくいため、より苛酷な環境下での試験に使用することや、最終製品として使用することが可能となる。従ってその下限は、170℃以上がより好ましく、180℃以上がさらに好ましく、185℃以上が特に好ましい。またその上限は、三次元造形物を構成するポリマーの融点以下となる。
【0082】
なお、本発明において熱変形温度は、日本工業規格(JIS規格)JIS K7191-1(2015)「プラスチック-荷重たわみ温度の求め方」に従い、0.45MPaの荷重にて測定した荷重たわみ温度の値である。
【0083】
本発明の三次元造形物の表面粗度は20μm以下であることが好ましい。表面粗度は小さいほど品位が向上し、三次元造形物間の接合部密着性に優れるため、表面粗度は18μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましく、12μm以下がいっそう好ましく、10μm以下が特に好ましく、8μm以下が著しく好ましい。またその下限は特に限定されず、小さいものが好ましいが、下限は通常1μmである。なお、三次元造形物の表面粗度は、光学顕微鏡で造形物の表面を観察し、自動合成モードで造形物表面の凹凸を三次元画像化したのち、1mm以上長さにわたって断面の高さプロファイルを取得し、算術平均によって表面粗度Raを計算した値である。
【0084】
本発明の造形物のX方向の曲げ弾性率は、使用するポリマー粉末と強化材によって適宜調整されるが、好ましくは2000MPa以上である。弾性率が大きいほど、造形物が高剛性であって変形しにくいため、造形物のX方向の曲げ弾性率は2500MPa以上が好ましく、3000MPa以上がより好ましく、4000MPa以上がさらに好ましく、5000MPa以上が特に好ましい。またその上限は特に限定されないが、一般に弾性率が大きくなりすぎると脆くなり低強度化する傾向にあるため、20000MPa以下が好ましく、15000MPa以下がより好ましく、12000MPa以下がさらに好ましく、10000MPa以下が特に好ましい。
【0085】
なお、本発明においてX方向の曲げ弾性率は、幅10mm、長さ80mm、厚さ4mmの試験片を、4mmの厚さ方向がZ方向になるようにして、80mmの長さ方向がX方向となるように作製し、JIS K7171(2016)に従い、支点間距離64mm、試験速度2mm/分の条件の3点曲げ試験で測定することができる。測定温度は室温(23℃)、測定数はn=10とし、その平均値をX方向の曲げ弾性率とする。
【0086】
三次元造形物は、通常の溶融成形と比較して、常圧下、かつ低速で降温するプロセスで結晶化して得られるものであるため、結晶の状態が通常の溶融成形とは異なるものであるが、それをものの特徴として表すことは困難であるため、三次元造形、好ましくは粉末床溶融結合方式によって得られたものという、製法によって限定されるものである。通常の溶融成形であれば、金型の構造に準じ、当業者の鋭意検討により、融点が高く、着色の少ない成形物が得られることは公知であるが、複雑形状の成形が可能な三次元造形において、高融点と着色抑制を両立する成形品を得ることはできず、本発明によって初めて可能になったものである。
【実施例0087】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。
【0088】
(1)ポリマー粉末組成物に含まれるポリマー粉末のD50粒子径の測定
日機装株式会社製レーザー回折式粒径分布計測定装置(マイクロトラックMT3300EXII)に、予め100mg程度のポリマー粉末組成物を5mL程度の脱イオン水で分散させた分散液を測定可能濃度になるまで添加し、測定装置内で30Wにて60秒間の超音波分散を行った後、測定時間10秒で測定される粒径分布の小粒径側からの累積度数が50%となる粒径をD50粒子径とした。なお測定時の屈折率は1.52、媒体(脱イオン水)の屈折率は1.333を用いた。
【0089】
(2)ポリマー粉末組成物に含まれるポリマー粉末の真球度
ポリマー粉末組成物に含まれるポリマー粒子の真球度は、ポリマー粉末組成物を日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡(JSM-6301NF)にて撮像し、写真からポリマー粒子を無作為に30個観察し、その短径と長径の比から百分率として算出した。
【0090】
(3)強化材の平均長径、平均短径の測定
強化材を日本電子株式会社製走査型電子顕微鏡(JSM-6301NF)で観察し、その写真から無作為に選んだ100個の強化材の長径および短径の平均値を平均長軸径、平均短軸径とした。
【0091】
(4)強化材の見掛密度およびタップ密度
強化材の見掛密度は、日本工業規格(JIS規格)JIS Z 7365(1999)に従い、50gの強化材をロートから100cm3のメスシリンダーに落下させ、体積を読み取り、強化材の重量を当該体積で除した値とした。また強化材のタップ密度は、日本工業規格(JIS規格)JIS Z 7370(2000)に従い、50gの強化材をロートから100cm3のメスシリンダーに落下させ、タッピングを行った後の体積を読み取り、強化材の重量を当該体積で除した値とした。
【0092】
(5)三次元造形前のポリマー粉末組成物の黄色味b*と明度L(1)、三次元造形後の明度L(2)の測定
専用の、無色透明で直径35mmの丸型の石英セルに、三次元造形前のポリマー粉末組成物6gを加えて、振動を与えながら密に充填させ、JIS Z8722(2009)およびJIS Z8781-4(2013)に従って、日本電色工業株式会社製分光式色彩計(SE2000)を用いて測定して得られたb*値、L*値をそれぞれ、三次元造形前のポリマー粉末組成物のb*、L(1)とした。三次元造形後のポリマー粉末組成物のL(2)については、株式会社アスペクト製粉末床溶融結合方式3Dプリンター(RaFaElII 300-HT)を使用して、所定の条件で積層高さ150mm以上の三次元造形を行い、造形物を形成する槽1に残留した粉末を、三次元造形後のポリマー粉末組成物サンプルとして用い、同様に測定して得られたL*を、三次元造形後のポリマー粉末組成物のL(2)とした。
【0093】
(6)三次元造形物の黄色味b*、明度L*の測定
株式会社アスペクト製粉末床溶融結合方式3Dプリンター(RaFaElII 300-HT)を使用して幅10mm、長さ80mm、厚さ4mmの試験片を、4mmの厚さ方向がZ方向に、80mmの長さ方向がX方向になるように作製した。三次元造形後に槽1に生成した試験片の上側XY面について、JIS Z8722(2009)およびJIS Z8781-4(2013)に従って、日本電色工業株式会社製分光式色彩計(SE2000)を用いてb*値およびL*値をn=3で測定し、算術平均値を算出した。また、以下の基準で黄色味を評価し、ランク「A」、「B」である場合、合格とした。
A:b値が7以下。
B:b値が7より大きく、10以下。
C:b値が10より大きい。
【0094】
(7)X方向の三次元造形物の反りの判定
株式会社アスペクト製粉末床溶融結合方式3Dプリンター(RaFaElII 300-HT)を使用して幅10mm、長さ80mm、厚さ4mmの試験片を、4mmの厚さ方向がZ方向に、80mmの長さ方向がX方向になるものを6本ずつ作製し、得られた試験片を水平な場所に、上に凸な状態で静置し、水平面と試験片の隙間に精密テーパーゲージを挿入し、隙間の高さを計測し、試験片長さ10cm当たりに換算した値を反り量として、算術平均値を算出して、以下の基準で反り量を評価した。
A:反り量が0.1mm/10cm以下。
B:反り量が0.1mm/10cmより大きく、0.3mm/10cm以下。
C:反り量が0.3mm/10cmより大きい。
ランク「A」、「B」である場合、合格とした。
【0095】
(8)Y方向の三次元造形物の反りの判定
株式会社アスペクト製粉末床溶融結合方式3Dプリンター(RaFaElII 300-HT)を使用して幅10mm、長さ80mm、厚さ4mmの試験片を、4mmの厚さ方向がZ方向に、80mmの長さ方向がY方向になるものを6本ずつ作製し、得られた試験片を水平な場所に、上に凸な状態で静置し、水平面と試験片の隙間に精密テーパーゲージを挿入し、隙間の高さを計測し、試験片長さ10cm当たりに換算した値を反り量として、算術平均値を算出して、以下の基準で反り量を評価した。
A:反り量が1.2mm/10cm以下。
B:反り量が1.2mm/10cmより大きく、1.5mm/10cm以下。
C:反り量が1.5mm/10cmより大きい。
ランク「A」、「B」である場合、合格とした。
【0096】
(9)三次元造形物のXY収縮率の測定
株式会社アスペクト製粉末床溶融結合方式3Dプリンター(RaFaElII 300-HT)を使用して幅10mm、長さ80mm、厚さ4mmの試験片を、4mmの厚さ方向がZ方向に、80mmの長さ方向がX方向になるものとY方向になるものを6本ずつ作製し、幅方向と長さ方向の寸法をノギスで0.1mm単位まで測長した。各試験片の幅方向と長さ方向からなる面積を、三次元データの幅方向と長さ方向の面積である800mm2で割った値を収縮率として、12本の試験片の算術平均値を算出した。
【0097】
(10)三次元造形物の表面粗度の測定
株式会社アスペクト製粉末床溶融結合方式3Dプリンター(RaFaElII 300-HT)を使用して幅10mm、長さ80mm、厚さ4mmの試験片を、4mmの厚さ方向がZ方向に、80mmの長さ方向がX方向になるように作製した。三次元造形後に槽1に生成した試験片の上側XY面について、光学顕微鏡で表面を観察し、自動合成モードで造形物表面の凹凸を三次元画像化したのち、1mm以上長さにわたって断面の高さプロファイルを取得し、算術平均によって表面粗度Raを計算した値である。
【0098】
(11)三次元造形物の曲げ弾性率、曲げ強度の測定
三次元造形物の曲げ弾性率、曲げ強度は、株式会社アスペクト製粉末床溶融結合方式3Dプリンター(RaFaElII 300-HT)を使用して幅10mm、長さ80mm、厚さ4mmの試験片を、4mmの厚さ方向がZ方向になるようにして、80mmの長さ方向がX方向、またはY方向となるように作製し、エー・アンド・デイ社製テンシロン万能試験機(TENSIRON TRG-1250)を用いて曲げ弾性率、曲げ強度をそれぞれ測定した。JIS K7171(2016)に従い、支点間距離64mm、試験速度2mm/分の条件で3点曲げ試験を測定して曲げ弾性率を求めた。また曲げ強度は最大曲げ応力とした。測定温度は室温(23℃)、測定数はn=10とし、その平均値を求めた。80mmの長さ方向がX方向になるように作製した試験片の測定結果を、X方向の曲げ弾性率、曲げ強度とし、80mmの長さ方向がY方向になるように作製した試験片の測定結果を、Y方向の曲げ弾性率、曲げ強度とした。
【0099】
(12)三次元造形物の熱変形温度
三次元造形物の熱変形温度は株式会社アスペクト製粉末床溶融結合方式3Dプリンター(RaFaElII 300-HT)を使用して幅10mm、長さ80mm、厚さ4mmの試験片を、4mmの厚さ方向がZ方向に、80mmの長さ方向がX方向になるように作製し、株式会社安田精機製作所製ヒートディストーションテスター(No.148)を用い、JIS K7191-1(2015)に従い、0.45MPaの荷重にて測定した。測定数はn=3とし、その平均値を求めた。
【0100】
(13)ポリマー粉末組成物を構成するポリマーの融点、三次元造形物を構成するポリマーの融点
ポリマー粉末組成物を構成するポリマーの融点は、ポリマー粉末組成物を試料として、TAインスツルメント社製示差走査熱量計(DSCQ20)を用いて、窒素雰囲気下、30℃から20℃/分の速度で溶融ピーク終了時より30℃高い温度まで加熱した際に観測される、吸熱ピークの頂点を融点とした。また、三次元造形物を構成するポリマーの融点については、三次元造形物の一部を削り取ったものを試料として、同じ方法で測定した。
【0101】
(14)ポリマー粒子、三次元造形物を構成するポリマーの重量平均分子量
ポリマー粒子の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用い、ポリメチルメタクリレートによる校正曲線と対比させて分子量を算出した。測定サンプルは、ポリマー粒子粉末約3mgをヘキサフルオロイソプロパノール約3gに溶解し、不溶分は濾別することで調製した。また、三次元造形物を構成するポリマーの重量平均分子量は、三次元造形物約3mgを用いて、同様に測定した。
装置:Waters e-Alliance GPC system
カラム:昭和電工株式会社製HFIP-806M×2
移動相:5mmol/Lトリフルオロ酢酸ナトリウム/ヘキサフルオロイソプロパノール
流速:1.0ml/min
温度:30℃
検出:示差屈折率計。
【0102】
(15)レーザー非照射部の粉末組成物の回収性
付加製造終了後、造形装置内に残った粉末を100g採取し、500μm篩を通過した粉末組成物の重量を計測し、仕込み粉末に対する篩を通過した粉末組成物重量の割合を、回収率とした。評価は以下の基準で行った。
A:回収率80wt%以上。
B:回収率50wt%以上80wt%未満。
C:回収率50wt%未満。
A~Bが合格、Cが不合格。
【0103】
[製造例1]
国際公開第2018/207728号に記載された製法でポリマー粒子(A-1)を作製した。具体的には、3Lのオートクレーブにポリアミド単量体としてε-カプロラクタム(富士フイルム和光純薬株式会社製試薬特級)360g、得られるポリアミドと非相溶なポリマーとしてポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製1級ポリエチレングリコール6,000、分子量7,700)240g、酸化防止剤(BASF社製“IRGANOX” (登録商標)1098)2.5g、脱イオン水50gを加え密封後、窒素で1MPaまで加圧し0.1MPaまで放圧する工程を3回繰り返し、容器内を窒素置換した後、圧力を0.1MPaに調整し容器を密閉した。その後、撹拌速度を60rpmに設定し、温度を230℃まで昇温した。この際系内の圧力は1.4MPaであり、圧力と温度を維持しながら3時間60rpmで攪拌を続けた。次に、0.02MPa/分の速度で放圧を行い、内圧を0MPaとした。その後重合温度210℃とし窒素を5L/分の速度で流して2時間重合を行った。最後に、2000gの水浴に吐出しスラリーを得た。スラリーを撹拌により十分に均質化させた後に、ろ過を行い、ろ上物に水2000gを加え、80℃で洗浄を行った。その後100μmの篩を通過させた粗大物を除いたスラリー液を、再度ろ過して単離したろ上物を80℃で12時間乾燥させ、ポリアミド6粉末を300g作製した。得られたポリアミド粉末のD50粒子径は52μm、真球度は95、重量平均分子量は54,000であった。
【0104】
[製造例2]
国際公開第2018/207728号に記載された製法でポリマー粒子(A-2)を作製した。ポリマー粒子(A-2)は真球度96、D50粒子径35μm、融点217℃、重量平均分子量45,000のポリアミド6粉末であった。
【0105】
[製造例3]
国際公開第2018/207728号に記載された製法でポリマー粒子(A-3)を作製した。ポリマー粒子(A-3)は真球度96、D50粒子径21μm、融点217℃、重量平均分子量45,000のポリアミド6粉末であった。
【0106】
[実施例1]
製造例1を繰り返して得たポリマー粒子(A-1)を12kgと、強化材としてガラス繊維EPG40M-01N(日本電気硝子株式会社製)8kgを混合した。さらに流動助剤としてトリメチルシリル化非晶質シリカX-24-9500(信越化学工業株式会社製、D50粒子径170nm)を60g添加し、ポリマー粉末組成物とした。本ポリマー粉末組成物20kgを用いて、株式会社アスペクト製粉末床溶融結合装置(RaFaElII 300-HT)を使用し、三次元造形物の製造を行った。設定条件は、60WCO2レーザーを使用し、積層高さ0.1mm、予備積層高さ15mm、レーザー走査間隔を0.1mm、レーザー走査速度を10m/s、レーザー出力を17Wとした。温度設定は、粉末床最上粉末層温度が197℃、供給槽温度が180℃となるように調整し、造形高さは220mmであった。造形中の最上粉末温度は、設定値と一致していた。得られた三次元造形物はX方向、Y方向ともに反りはなく、白色の見た目であり、品位は良好であった。使用した粉末組成物、造形方法、得られた三次元造形物について、表1、表2に示した。
【0107】
[実施例2]
強化材としてガラス繊維EPG70M-01N(日本電気硝子株式会社製)を使用した以外は、実施例1と同様にしてポリマー粉末組成物を作製し、三次元造形を行い、三次元造形物を作製した。造形中の最上粉末温度は、設定値と一致していた。得られた三次元造形物は、X方向に反りはなく、Y方向の反りも小さく、白色の見た目であり、品位は良好であった。使用した粉末組成物、造形方法、得られた三次元造形物について、表1、表2に示した。
【0108】
[実施例3]
強化材としてガラス繊維EPG40M-10A(日本電気硝子株式会社製)を使用した以外は、実施例1と同様にしてポリマー粉末組成物を作製し、三次元造形を行い、三次元造形物を作製した。造形中の最上粉末温度は、設定値と一致していた。得られた三次元造形物は、X方向に反りはなく、Y方向の反りも小さく、白色の見た目であり、品位は良好であった。使用した粉末組成物、造形方法、得られた三次元造形物について、表1、表2に示した。
【0109】
[実施例4]
ポリマー粒子と強化材の配合量を変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマー粉末組成物を作製し、三次元造形を行い、三次元造形物を作製した。造形中の最上粉末温度は、設定値と一致していた。造形中の最上粉末温度は、設定値と一致していた。造形中の最上粉末温度は、設定値と一致していた。得られた三次元造形物は、X方向に反りはなく、Y方向の反りも小さく、白色の見た目であり、品位は良好であった。使用した粉末組成物、造形方法、得られた三次元造形物について、表1、表2に示した。
【0110】
[実施例5]
造形温度を変更した以外は、実施例4と同様にしてポリマー粉末組成物を作製し、三次元造形を行い、三次元造形物を作製した。造形中の最上粉末温度は、設定値と一致していた。得られた三次元造形物は、X方向、Y方向ともに反りはなく、わずかに黄変しているが白色の見た目であり、品位は良好であった。使用した粉末組成物、造形方法、得られた三次元造形物について、表1、表2に示した。
【0111】
[実施例6]
ポリマー粒子(A-3)を14kgと、強化材としてガラス繊維EPG40M-01N(日本電気硝子株式会社製)6kgを混合した。さらに流動助剤としてトリメチルシリル化非晶質シリカX-24-9500(信越化学工業株式会社製、D50粒子径170nm)を200g添加し、ポリマー粉末組成物とした。このポリマー粉末組成物を用いて、実施例1と同様にしてポリマー粉末組成物を作製し、三次元造形を行い、三次元造形物を作製した。造形中の最上粉末温度は、設定値と一致していた。得られた三次元造形物は、X方向に反りはなく、Y方向の反りも小さく、白色の見た目であり、品位は良好であった。使用した粉末組成物、造形方法、得られた三次元造形物について、表1、表2に示した。
【0112】
[実施例7]
ポリマー粒子を(A-2)に変更した以外は、実施例6と同様にしてポリマー粉末組成物を作製し、三次元造形を行い、三次元造形物を作製した。造形中の最上粉末温度は、設定値と一致していた。得られた三次元造形物は、X方向に反りはなく、Y方向の反りも小さく、白色の見た目であり、品位は良好であった。使用した粉末組成物、造形方法、得られた三次元造形物について、表1、表2に示した。
【0113】
[比較例1]
ポリマー粒子(A-1)を14kgと、強化材としてガラス繊維EPG70M-01N(日本電気硝子株式会社製)を6kgに組成を変更し、三次元造形する際の粉末床温度を204℃とした以外は、実施例1と同様にしてポリマー粉末組成物を作製し、三次元造形を行い、三次元造形物を作製した。造形中の最上粉末温度は、設定値と一致していた。得られた三次元造形物は、X方向に反りはなく、Y方向の反りも小さかったが、黄褐色に変色していた。また槽1に残留したポリマー粉末組成物も黄褐色に変色していた。使用した粉末組成物、造形方法、得られた三次元造形物について、表1、表2に示した。
【0114】
[比較例2]
強化材としてガラスビーズGB731(ポッターズ・バロティーニ社製)を使用した以外は、実施例1と同様にしてポリマー粉末組成物を作製し、三次元造形を行い、三次元造形物を作製した。造形中の最上粉末温度は、設定値と一致していた。得られた三次元造形物はX方向、Y方向ともに強い反りが見られ、機械特性の測定には不適切な試験片となった。使用した粉末組成物、造形方法、得られた三次元造形物について、表1、表2に示した。
【0115】
[比較例3]
ポリマー粒子(A-1)を14kgと、強化材としてガラス繊維EPG40M-01N(日本電気硝子株式会社製)を6kgと、トリメチルシリル化非晶質シリカX-24-9500(信越化学工業株式会社製、D50粒子径170nm)を200gに組成を変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマー粉末組成物を作製し、三次元造形を行い、三次元造形物を作製した。造形中の最上粉末温度は、設定値と一致していた。得られた三次元造形物はX方向、Y方向ともに強い反りが見られ、機械特性の測定には不適切な試験片となった。使用した粉末組成物、造形方法、得られた三次元造形物について、表1、表2に示した。
【0116】
[比較例4]
ポリマー粒子(A-3)を14kgと、強化材としてガラス繊維EPG70M-01N(日本電気硝子株式会社製)を6kgと、トリメチルシリル化非晶質シリカX-24-9500(信越化学工業株式会社製、D50粒子径170nm)を200gに組成を変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマー粉末組成物を作製し、三次元造形を行い、三次元造形物を作製した。造形中の最上粉末温度は、設定値と一致していた。得られた三次元造形物はY方向に強い反りが見られ、機械特性の測定には不適切な試験片となった。使用した粉末組成物、造形方法、得られた三次元造形物について、表1、表2に示した。
【0117】
【0118】
本発明の三次元造形物は、優れた耐熱性を有しながら、黄変のない良好な品位を示す。本発明の三次元造形物の製造方法を用いて得られる三次元造形物は、高い耐熱性を要求される自動車、航空、宇宙などのモビリティ用途や、義肢、装具、補聴器、カテーテルなどの医療用途、家電、電動工具などの電気用品用途において、機能性試作や最終製品用途に使用することができる。