(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177126
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20241212BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20241212BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/485
C01G53/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024092319
(22)【出願日】2024-06-06
(31)【優先権主張番号】10-2023-0072806
(32)【優先日】2023-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】597060645
【氏名又は名称】コリア アトミック エナジー リサーチ インスティテュート
【氏名又は名称原語表記】KOREA ATOMIC ENERGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒョンソプ
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ソク ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、キョン-スン
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA26
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】二次粒子内の一次粒子の均一な反応による粒子成長を誘導してナノスケール欠陥を制御することができ、長期寿命での性能劣化の問題を解決することができる正極活物質およびその製造方法を提供する。
【解決手段】金属水酸化物およびリチウム前駆体を混合して、前駆体混合物を形成する第1段階;前記前駆体混合物を熱処理する第2段階;および前記熱処理された前駆体混合物を焼結して、LMO
xを製造する第3段階;を含む正極活物質の製造方法とする。前記Lは、Li(リチウム)であり、Mは、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Al(アルミニウム)、Mn(マンガン)およびMg(マグネシウム)から選択される1種以上であり、xは、0.5~2.5の定数である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属水酸化物およびリチウム前駆体を混合して、前駆体混合物を形成する第1段階;
前記前駆体混合物を熱処理する第2段階;および
前記熱処理された前駆体混合物を焼結して、LMOxを製造する第3段階;を含む正極活物質の製造方法。
この際、前記Lは、Li(リチウム)であり、Mは、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Al(アルミニウム)、Mn(マンガン)およびMg(マグネシウム)から選択される1種以上であり、xは、0.5~2.5の定数である。
【請求項2】
前記LMO
xは、下記化1で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【化1】
この際、0.8≦a<1.0であり、0<b<0.1であり、0<c<0.1である定数である。
【請求項3】
前記第1段階のリチウム前駆体は、溶融塩をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記第2段階の熱処理を通じて下記化2で表される中間相が形成され、二次粒子内の一次粒子の均一な成長が誘導されることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【化2】
この際、Mは、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Al(アルミニウム)、Mn(マンガン)およびMg(マグネシウム)から選択される1種以上であり、xは、0.2~0.8の定数である。
【請求項5】
前記第2段階の熱処理は、200~400℃で2~8時間行われることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記第2段階の熱処理は、230~350℃で2~6時間行われることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記第1段階の金属水酸化物およびリチウム前駆体は、1:0.9~1.1のモル比で混合されることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記第3段階は、600~900℃で4~16時間行われることを特徴とする請求項1に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記溶融塩は、LiNO3、Li2SO4、Li2CO3、LiCl、LiIおよびLiBrから成る群から選択される少なくともいずれか1つであり、前記リチウム前駆体は、LiOHまたはLiOH・H2Oのうちいずれか1つと前記溶融塩が1:0.5~2のモル比で混合されたことを特徴とする請求項3に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記中間相は、前駆体混合物全重量に対して40~80重量%で含まれたことを特徴とする請求項4に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項11】
原子単位およびナノスケール欠陥が最小化された二次粒子形態の正極活物質であって、下記化3で表され、
960Å未満の平均半径(mean radius)を有する粒子間に形成された第1空隙;および
80Å未満の平均半径(mean radius)を有する粒子内に形成された第2空隙;を含む正極活物質。
【化3】
この際、前記Lは、Li(リチウム)であり、Mは、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Al(アルミニウム)、Mn(マンガン)およびMg(マグネシウム)から選択される1種以上であり、xは、0.5~2.5の定数である。
【請求項12】
前記正極活物質は、下記化4で表される化合物であることを特徴とする請求項11に記載の正極活物質。
【化4】
この際、0.8≦a<1.0であり、0<b<0.1であり、0<c<0.1である定数である。
【請求項13】
前記第1空隙は、0.013cm3/g未満の分布を有し、前記第2空隙は、0.0009cm3/g未満の分布を有することを特徴とする請求項11に記載の正極活物質。
【請求項14】
前記第2空隙は、0.0007cm3/g未満の分布を有することを特徴とする請求項13に記載の正極活物質。
【請求項15】
請求項11に記載の正極活物質を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池に関し、より詳細には、さらなる添加剤や工程設計なしに相対的に単純な工程で二次粒子内の一次粒子の均一な粒子成長を誘導することができ、原子単位およびナノスケール欠陥を制御することによって、安定性を保証し、優れた電気化学的特性を示すことができる正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、高エネルギー密度と電圧、長いサイクル寿命および低い自己放電率によってモバイルデバイス、エネルギー貯蔵システム、電気自動車など様々な分野に使用されている。このようなリチウム二次電池の核心素材は、正極材、負極材、電解質および分離膜と言え、最近、電気自動車の需要拡大に伴い、これを駆動するためのリチウム二次電池の正極活物質の重要性が台頭している。
【0003】
前記正極活物質は、構成する材料によってLCO(lithium cobalt Oxide)、NCM(Lithium Nickel Cobalt Manganese Oxide)、NCA(Lithium Nickel Cobalt Aluminum Oxide)、LMO(Lithium Manganese Oxide)、LFP(Lithium Iron Phosphate)などに分類され得、中大型電子装置に適用するための二次電池用正極活物質として、LCOのような構造を有するLiNixCoyMnzO2およびLiNixCoyAlzO2のようなNi系層状正極活物質が主に使用されている。前記Ni系層状正極活物質は、高価なコバルトのうち一部をニッケルに変えることによって費用が節減され、高エネルギー密度と寿命が相対的に長い特性を有していて、リチウム二次電池の可逆容量を増加させることができるという長所がある。
【0004】
しかしながら、このようなNi系層状正極活物質の優れた電気/化学的特性にもかかわらず、これを商業的に応用するためには、サイクリング特性または構造的安定性の限界のような次のような問題によって商用化に制限がある。
【0005】
第一に、従来の一般的なNi系層状正極活物質は、共沈法で合成した前駆体を用いてリチウムソースと混合した後、固相で合成して製造するが、この場合、微小亀裂(micro-crack)によるリチウム二次電池の性能劣化の問題がある。より具体的には、Ni系層状正極活物質の場合、一般的にサブミクロンサイズの微細な一次粒子が凝集した数 μmサイズの二次粒子構造を有するが、従来共沈法で合成されたNi系層状正極活物質の場合、長期間の充・放電過程で二次粒子の内部に微小亀裂が発生し、新しい界面露出を引き起こし、界面で電解液との副反応が加速化して、バッテリー寿命特性劣化の原因となることがある。
【0006】
第二に、Ni系層状正極活物質の優れた電気/化学的特性を十分に活用し、高エネルギー密度の具現のためには、電極密度の増加(>3.3g/cc)が要求されるが、従来共沈法で合成されたNi系正極活物質の場合、上述したように二次粒子の構造的安定性が低いため、二次粒子の崩壊が容易に発生し、この場合、電解液との副反応による電解液の枯渇につながる問題がある。すなわち既存の共沈法で合成した二次粒子形態のNi系層状正極活物質は、高エネルギー密度の特性を示す点からも限界がある。
【0007】
第三に、Ni系層状正極活物質は、高度に酸化されたNiカチオンの不安定性とホスト構造における酸素脱離によって容量低下のような電池性能の低下を引き起こすことができる。すなわち酸素脱離は、正極活物質の層状構造内に岩塩(Rock salt)構造のNiOを過量生成させ、Li副産物を増加させることができる。この際、繰り返しの充放電によってNiOが徐々に増加して抵抗が高くなり、Li副産物が増加するにつれて様々な副反応が発生することがあり、結果的に、容量低下のような電池性能の劣化を招くことがある。
【0008】
このように従来合成工程で現れる酸素発生およびカチオンミキシングのような原子スケール欠陥は、ナノ細孔のようなナノ単位欠陥につながることがあり、これは、粒子内の空隙から粒子間の空隙まで様々なサイズで存在し、Ni系層状正極活物質の高容量化および安定化を阻害する要因となっている。
【0009】
これによって、高エネルギー密度と増加した寿命を示すことができ、潜在的な正極材料として脚光を浴びているNi系層状正極活物質の優れた電気/化学的特性を十分に活用するために、Ni系層状正極活物質を構成する二次粒子内の一次粒子の均一な反応による粒子成長を誘導させることによって、原子単位およびナノスケール欠陥を制御できる研究が急務である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】韓国公開特許第2016-0094063号公報(2016.08.09)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した問題を克服するためになされたものであって、本発明の解決しようとする課題は、金属水酸化物とリチウム前駆体が反応し始める温度で前処理を進行後、最終合成することによって、二次粒子内の一次粒子の均一な反応による粒子成長を誘導してナノスケール欠陥を制御することができ、長期寿命での性能劣化の問題を解決することができる正極活物質およびその製造方法を提供することにある。
【0012】
また、本発明の解決しようとするさらに他の課題は、特別な添加剤がなくても一度の合成工程で合成することができ、既存の工程設計を変える必要がなく、既存より向上した性能の正極活物質を合成することによって、様々な産業群に活用できるリチウム二次電池の高付加価値の正極活物質およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述した課題を解決するために、金属水酸化物およびリチウム前駆体を混合して、前駆体混合物を形成する第1段階と、前記前駆体混合物を熱処理する第2段階と、前記熱処理された前駆体混合物を焼結して、LMOxを製造する第3段階と、を含む正極活物質の製造方法を提供する。
この際、前記Lは、Li(リチウム)であり、Mは、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Al(アルミニウム)、Mn(マンガン)およびMg(マグネシウム)から選択される1種以上であり、xは、0.5~2.5の定数である。
【0014】
また、本発明の一実施形態によれば、前記LMO
xは、下記化1で表される化合物であることを特徴とすることができる。
【化1】
この際、0.8≦a<1.0であり、0<b<0.1であり、0<c<0.1である定数であり、a+b+c=1である。
【0015】
また、前記第1段階のリチウム前駆体は、溶融塩をさらに含むことを特徴とする。
【0016】
また、前記第2段階の熱処理を通じて下記化2で表される中間相が形成され、二次粒子内の一次粒子の均一な成長が誘導されることを特徴とする。
【化2】
この際、Mは、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Al(アルミニウム)、Mn(マンガン)およびMg(マグネシウム)から選択される1種以上であり、xは、0.2~0.8の定数である。
【0017】
また、前記第2段階の熱処理は、200~400℃で2~8時間行われることを特徴とする。
【0018】
また、前記第1段階の金属水酸化物およびリチウム前駆体は、1:0.9~1.1のモル比で混合されることを特徴とする。
【0019】
また、前記第3段階は、600~900℃で6~16時間行われることを特徴とする。
【0020】
また、前記溶融塩は、LiNO3、Li2SO4、Li2CO3、LiCl、LiI、LiBrから成る群から選択される少なくともいずれか1つであることを特徴とする。
【0021】
また、前記リチウム前駆体は、LiOHまたはLiOH・H2Oのうちいずれか1つと前記溶融塩が1:0.5~2の割合で混合されたことを特徴とする。
【0022】
また、前記中間相は、前駆体混合物全重量に対して40~80重量%で含まれたことを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、原子単位およびナノスケール欠陥が最小化された二次粒子形態の正極活物質であって、下記化3で表され、960Å未満の平均半径(mean radius)を有する粒子間に形成された第1空隙と、80Å未満の平均半径(mean radius)を有する粒子内に形成された第2空隙と、を含む正極活物質を提供する。
【化3】
この際、前記Lは、Li(リチウム)であり、Mは、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Al(アルミニウム)、Mn(マンガン)およびMg(マグネシウム)から選択される1種以上であり、xは、0.5~2.5の定数である。
【0024】
また、本発明の一実施形態によれば、前記正極活物質は、下記化4で表される化合物であることを特徴とする。
【化4】
この際、0.8≦a<1.0であり、0<b<0.1であり、0<c<0.1である定数であり、a+b+c=1である。
【0025】
また、前記第1空隙は、0.012cm3/g未満の分布を有することを特徴とする。
【0026】
また、前記第2空隙は、0.0009cm3/g未満の分布を有することを特徴とする。
【0027】
また、本発明は、上述した正極活物質を含むリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、正極活物質を構成する二次粒子内の一次粒子の均一な反応による粒子成長を誘導してナノスケール欠陥を制御することができ、長期寿命での性能劣化の問題を解決することができ、特別な添加剤がなくても安定性が保証され、高容量を有する正極活物質を一度の合成工程で容易に合成することができ、リチウム二次電池が使用される様々な産業群への活用度を大きく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】従来の一般的なNi系層状正極活物質に対して150サイクル後の二次粒子の断面を観察したSEMイメージである。
【
図2】本発明によるNi系層状正極活物質に対して150サイクル後の二次粒子の断面を観察したSEMイメージである。
【
図3】本発明の一実施形態による正極活物質前駆体混合物の熱重量分析結果を示すイメージである。
【
図4a】本発明の一実施形態による正極活物質のX線回折(XRD)パターンのリートベルト解析を通じて中間相の相分率を示すグラフである。
【
図4b】本発明の一実施形態による正極活物質の中間相の中性子回折パターンに対するリートベルト解析結果を示すグラフである。
【
図5】本発明の一実施形態による正極活物質の焼結過程での中間生成物の相分率分析結果を示すグラフである。
【
図6】本発明の一実施形態による正極活物質の一次焼結中の相分率および格子定数の変化を分析したグラフである。
【
図7】本発明の一実施形態による正極活物質の一次焼結前/後の二次粒子の粒子成長均一性を確認できるXAS分析結果を示すグラフである。
【
図8】本発明の一実施形態による正極活物質のXANES分析と透過型電子顕微鏡(TEM)分析結果を示すイメージとグラフである。
【
図9】本発明の一実施形態による正極活物質の中間相のXRDおよびNDパターン分析結果を示すグラフである。
【
図10】本発明の一実施形態による正極活物質の粒子断面SEMイメージを示す。
【
図11】本発明の一実施形態による正極活物質の粒子断面SEMイメージを示す。
【
図12】本発明の一実施形態による正極活物質のSAXSおよびSANS分析結果を示すグラフである。
【
図13】本発明の一実施形態による正極活物質のSAXSおよびSANS分析結果を示すグラフである。
【
図14】本発明の一実施形態による正極活物質のSAXSおよびSANS分析結果を示すグラフである。
【
図15】本発明の一実施形態による正極活物質のXRDとNDパターン分析、SAXSとSANS分析、TEMとSEM断面を示す。
【
図16】本発明の一実施形態による正極活物質のXRDとNDパターン分析、SAXSとSANS分析、TEMとSEM断面を示す。
【
図17】本発明の一実施形態による正極活物質のXRDとNDパターン分析、SAXSとSANS分析、TEMとSEM断面を示す。
【
図18】本発明の一実施形態による正極活物質のXRDとNDパターン分析、SAXSとSANS分析、TEMとSEM断面を示す。
【
図19】本発明の一実施形態による正極活物質のXRDとNDパターン分析、SAXSとSANS分析、TEMとSEM断面を示す。
【
図20】本発明の一実施形態による正極活物質の電気化学性能を示すグラフである。
【
図21】本発明の他の実施形態による正極活物質の電気化学性能を示すグラフである。
【
図22】本発明の他の実施形態による正極活物質の電気化学性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。本発明は、様々な異なる形態で具現することができ、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0031】
上述したように現存する層状正極活物質のうち最も容量の高い素材は、ハイニッケル系層状正極活物質であるが、ニッケルカチオンの不安定性によって化学量論的素材の合成に困難があり、合成工程で酸素発生およびカチオンミキシングのような原子スケール欠陥が形成される問題がある。また、原子スケール欠陥は、ナノ細孔のようなナノ単位欠陥につながり、このようなナノ単位欠陥は、粒子内の空隙から粒子間の空隙まで様々なサイズで存在し、寿命特性劣化の原因となる。すなわちサイクリング特性または構造的安定性の限界によって商用化に制限がある。
【0032】
これによって、本発明は、金属水酸化物およびリチウム前駆体を混合して、前駆体混合物を形成する第1段階と、前記前駆体混合物を熱処理する第2段階と、前記熱処理された前駆体混合物を焼結して、LMOxを製造する第3段階と、を含む正極活物質の製造方法を提供して、上述した問題の解決を模索した。
【0033】
これにより、本発明は、正極活物質を構成する二次粒子内の一次粒子の均一な反応による粒子成長を誘導してナノスケール欠陥を制御することができ、長期寿命での性能劣化の問題を解決することができ、特別な添加剤がなくても安定性が保証され、高容量を有する正極活物質を一度の合成工程で容易に合成することができ、リチウム二次電池が使用される様々な産業群への活用度を大きく向上させることができる。
【0034】
以下、図面を参照して本発明について具体的に説明する。
【0035】
[正極活物質の製造方法]
本発明による正極活物質の製造方法において第1段階は、金属水酸化物およびリチウム前駆体を混合して、前駆体混合物を形成する段階であり、第2段階は、前記前駆体混合物を熱処理する段階である。
【0036】
一般的にリチウム二次電池に使用される正極活物質は、一般的にサブミクロンサイズの微細な一次粒子が凝集した数μmサイズの二次粒子構造を有し、二次粒子構造の正極活物質は、繰り返しの充放電時に凝集していた一次粒子が分離されることにより、二次粒子がこわれて電池特性が低下する問題点がある。このような問題点は、二次粒子の構造的な特性に起因するものであり、特に正極活物質は、高価なコバルトのうち一部をニッケルに変えることによって費用が節減され、高エネルギー密度と寿命が相対的に長い特性を有していて、リチウム二次電池の可逆容量を増加させることができる長所を有するNi系層状正極活物質の場合、酸素発生およびカチオンミキシングのような原子スケール欠陥が形成される問題があり、原子スケール欠陥およびナノ細孔のようなナノ単位欠陥が発生する場合、粒子内の空隙から粒子間の空隙まで様々なサイズで存在し、寿命特性劣化の原因となる。
【0037】
より具体的には、
図1を参照すると、従来の一般的なNi系層状正極活物質に対して150サイクル後の二次粒子の断面を観察した結果、合成過程で生じた巨大細孔の間に電解質の浸透および充放電過程で不均一な収縮/膨張によって二次粒子の急激なクラックが観察されることを確認することができる。これによって、原子およびナノ欠陥の形成を抑制するための対策が言及されている。例えば、様々なドーパント(Al、B、Zr、Nb、Taなど)を用いたドーピングにより安定した原子構造を有する正極活物質を合成しようとする試みまたは合成過程で形成される欠陥を抑制するための方法として、合成温度、前処理時間、リチウム含有量などを制御する合成条件を設計する様々な方法が報告されてきた。しかしながら、このような既存の研究は、原子単位欠陥の制御に焦点を当てており、様々なスケール欠陥の相関関係とこれを抑制する方法は紹介されたことが全くない。
【0038】
これより、本発明は、前記第1段階で製造した前駆体混合物を第2段階を通じて前駆体混合物が反応し始める温度で前処理を進行後、最終合成することによって、二次粒子内の一次粒子の均一な反応による粒子成長を誘導してナノスケール欠陥を制御することで、二次粒子形態の正極活物質に現れる上述した長期寿命での性能劣化の問題を解決することができる。すなわち
図2を参照すると、後述する本発明による第2段階の前処理を行った場合、二次粒子が良好に維持されることを確認して、合成工程で粒子内細孔の形成を最小化し、原子欠陥およびナノ欠陥を最小化することができることが分かる。
【0039】
このために、本発明は、まず、ナノ欠陥を引き起こす原子欠陥の急激な変化を引き起こすことができる前駆体混合物が反応し始めて中間相が形成される温度を糾明し、その後、この温度によって十分に均一な中間相を形成させることが、原子スケールで急激な変化を抑制させることができることを確認した。
【0040】
より具体的には、
図3を参照すると、熱重量分析(TGA)を通じて前駆体混合物は、約200℃から250℃まで最も大きい重量が減少し、約250℃から400℃まで比較的小さい重量が減少して、約200℃から反応が発生し始めることが分かる。
【0041】
また、
図4aを参照すると、X線回折(XRD)パターンをリートベルト解析して生成物の相分率を比較してみると、常温から250℃までは到達直後に前駆体混合物が存在するのに対し、250℃で6時間焼結する場合、すべての前駆体混合物が分解され、約80wt.%以上の中間相が形成されることを確認することができ、結果的に、TGA結果と同様に、250℃から前駆体混合物の反応が発生し始めることが分かる。また、
図4bを参照すると、中性子回折(ND)パターンのリートベルト解析結果、中間生成物の組成がLi
xTM
2-xO
2(x=~0.4)であることが分かる。
【0042】
同様に、
図5および
図6を参照すると、前駆体混合物の合成過程中の中間生成物の相分率に対するX線回折(XRD)パターン分析を通じて一次焼結なしに250℃到達直後から前駆体混合物が反応し始めて400℃ですべての遷移金属前駆体が分解されてほとんどの反応が終結していることを確認することができる。また、一次焼結なしに780℃合成温度まで合成するときとは異なって、250℃で6時間一次焼結後に780℃合成温度まで合成されるとき、c軸への格子定数変化を緩和させることが分かるが、これにより、反応が起こる時点である250℃で十分に均一な中間相を形成させることが、原子スケールで急激な変化を抑制させることができることを確認することができる。
【0043】
このような結果を総合すると、本発明は、前記第2段階の熱処理を通じて下記化2で表される中間相が前駆体混合物全重量に対して40~80重量%で形成され、二次粒子内の一次粒子の均一な成長が誘導されることが分かる。
【化2】
この際、Mは、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Al(アルミニウム)、Mn(マンガン)およびMg(マグネシウム)から選択される1種以上であり、xは、0.2~0.8の定数である。
【0044】
より具体的には、
図7を参照すると、同じ相分率を有する250℃で6時間焼結中間相サンプルと400℃直後の中間相サンプルのバルクと表面の酸化数の比較を通じて2つのサンプルのバルク酸化数は一致したが、表面酸化数は、400℃サンプルのNi L
3-edgeのさらに高い光子エネルギーを有し、250℃で6時間焼結したサンプルよりさらに高い表面酸化数を有することが分かり、同様の趣旨で
図8を参照すると、XANES分析と透過型電子顕微鏡分析を通じても250℃で6時間焼結および400℃直後サンプル間の二次粒子のNi酸化数の分布が、400℃直後サンプルは、コアから表面に行くほどNiの酸化数が大きくなるのに対し、250℃で6時間焼結したサンプルは、全体的に均一なNi酸化数を有することが分かる。
【0045】
このように本発明は、前駆体混合物が反応し始める温度で前処理を進行後、最終合成することによって、二次粒子内の一次粒子の均一な反応による粒子成長を誘導してナノスケール欠陥を制御することができ、このために、前記第2段階の前処理は、前記第1段階で製造した前駆体混合物に対して200~400℃で2~8時間行われ得、より好ましくは、230~350℃で2~6時間行われ得る。この際、前記第2段階の実行温度が200℃未満の場合、
図4aに示されたように、Li
xM
2-xO
2中間相が10wt.%未満で形成され、ナノ欠陥の制御に効果がない問題があり得、また、前記第2段階の実行温度が400℃を超える場合、焼結過程で原子欠陥の急激な変化をもたらし、ナノ欠陥が形成される問題があり得る。また、前記第2段階の実行時間が2時間未満の場合、Li
xM
2-xO
2中間相の形成が50wt.%未満となり、ナノ欠陥の制御効果が減少する問題があり得、また、前記第2段階の実行時間が8時間を超える場合、工程運営の点から不利になり得る。
【0046】
この際、前記前駆体混合物の金属水酸化物は、遷移金属供給源は、Ni、Co、Mn、Al、Mg、およびVの酸化物または水酸化物の中から選択された1種以上の化合物であってもよく、また、前記前駆体混合物のリチウム前駆体は、LiOH、LiOH・H2OまたはLi2CO3であってもよいが、これに限定されず、リチウム元素を供給できる様々なリチウム含有化合物を使用することができる。
【0047】
また、本発明の一実施形態によれば、前記金属水酸化物およびリチウム前駆体は、1:0.9~1.1のモル比で混合されてもよい。この際、前記金属水酸化物およびリチウム前駆体のモル比が1:0.9未満の場合、正極活物質内に岩塩構造のNiOが形成され、電気化学性能を低下させる問題があり得、また、前記金属水酸化物およびリチウム前駆体のモル比が1:1.1を超える場合、多量のLi2CO3やLiOHなどの残留リチウム化合物を形成する問題があり得る。
【0048】
なお、本発明は、二次粒子内の一次粒子のより均一な合成を誘導するために、リチウム前駆体は、溶融塩をさらに含み、上述した前記第1段階および第2段階を行うことができる。
【0049】
より具体的には、
図9を参照すると、リチウム前駆体は、溶融塩をさらに含み、前駆体混合物の合成過程中のXRDおよびNDパターンを分析して生成物の相分率を比較した結果を通じて、溶融塩を用いた場合、LiOHのみを使用した場合より低い融点を有するので、LiOHのみを使用した場合より低い200℃で反応が始まり、結果的に、200℃で6時間焼結後にすべての前駆体混合物が分解され、約80%の中間相が形成されることを確認することができる。これは、既存のLiOHのみを用いた固相合成よりさらに速いリチウム化を誘導することを示し、合成工程の速いリチウム拡散が可能であることを意味する。
【0050】
同様に、
図10を参照すると、リチウム前駆体であるLiOHを用いて合成した場合とリチウム前駆体に溶融塩をさらに含んで合成した場合、最終合成二次粒子の断面の比較を通じて、リチウム前駆体に溶融塩をさらに含んで合成した場合、高密度を有するゼロポアに近い二次粒子が形成されることを確認することができる。これにより、リチウム前駆体に溶融塩をさらに含んで正極活物質を合成する場合、ナノ欠陥がゼロに近い正極活物質を製造することができることが分かる。
【0051】
このために、前記溶融塩は、LiNO3、Li2SO4、Li2CO3、LiCl、LiI、LiBrから成る群から選択される少なくともいずれか1つであってもよく、より好ましくは、LiNO3、Li2SO4でありうる。この場合、遷移金属化合物がガスを放出して分解される前に、多量のリチウムが含有されたLixM2-xO2(x>0.6)中間相をより低い温度で効果的に生成し、焼結過程でナノ欠陥の形成を減らすのにさらに有利になり得る。
【0052】
また、リチウム前駆体は、LiOHまたはLiOH・H2Oのうちいずれか1つと前記溶融塩が1:0.5~2の割合で混合されてもよく、より好ましくは、1:0.9~1.05のモル比で混合されてもよい。この際、前記リチウム前駆体と前記溶融塩が1:0.5モル比未満で混合されたり、1:2モル比を超えて混合される場合、溶融塩の共晶温度を外れて、さらに高い二次焼結温度が必要な問題があり得る。
【0053】
次に、本発明による正極活物質の製造方法において第3段階は、前記熱処理された前駆体混合物を焼結して、LMOxを製造する段階であり、この際、前記Lは、Li(リチウム)であり、Mは、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Al(アルミニウム)、Mn(マンガン)およびMg(マグネシウム)から選択される1種以上であり、xは、0.5~2.5の定数である。
【0054】
前記第3段階は、本発明の目的に符合し、前記第1段階および第2段階を行った前駆体混合物を焼結して正極活物質を製造する公知の通常の方法と条件を使用することができ、特に制限しないが、好ましくは、前記第3段階は、600~900℃で6~16時間行われて、最終正極活物質を製造することができる。
【0055】
このような好ましい実施形態によれば、前記LMO
xは、下記化1で表される化合物を収得することができる。
【化1】
この際、0.8≦a<1.0であり、0<b<0.1であり、0<c<0.1である定数であり、a+b+c=1である。
【0056】
この際、前記第3段階の実行温度が600℃未満の場合、
図5から確認されるように、リチウム層と遷移金属層が分離されて合成される層状正極素材でなく、リチウムと遷移金属が一部無秩序に配列されている擬似層状(Pseudo-layered)形態の相が形成され得る問題があり得、また、前記第3段階の実行温度が900℃を超える場合、岩塩構造のNiO相が形成される問題があり得る。また、前記第3段階の実行時間が4時間未満の場合、結晶構造内リチウムと遷移金属が層間に一部無秩序に配列される問題があり得、また、前記第3段階の実行時間が16時間を超える場合、リチウムが昇華し、一部リチウムが不足した形態の結晶構造で合成される問題があり得る。
【0057】
[正極活物質]
次に、本発明による正極活物質について説明する。ただし、重複を避けるために前述したような正極活物質の製造方法と技術的思想が同じ部分については説明を省略する。
【0058】
本発明による正極活物質は、原子単位およびナノスケール欠陥が最小化された二次粒子形態の正極活物質であって、下記化3で表されてもよく、より好ましい実施形態によれば、下記化4で表される化合物であってもよい。
【化3】
この際、前記Lは、Li(リチウム)であり、Mは、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Al(アルミニウム)、Mn(マンガン)およびMg(マグネシウム)から選択される1種以上であり、xは、0.5~2.5の定数である。
【化4】
【0059】
この際、本発明の課題は、金属水酸化物とリチウム前駆体が反応し始める温度で前処理を進行後、最終合成することによって、二次粒子内の一次粒子の均一な反応による粒子成長を誘導してナノスケール欠陥を制御することを目的とするところ、前記正極活物質は、960Å未満の平均半径(mean radius)を有する粒子間に形成された第1空隙と、80Å未満の平均半径(mean radius)を有する粒子内に形成された第2空隙と、を含んでもよい。
【0060】
より具体的には、粒子内に形成された第2空隙は、好ましくは、80Å未満、より好ましくは、75Å未満、最も好ましくは、70Å未満の平均半径を有するものであってもよい。
【0061】
この際、前記第1空隙(マクロポア)は、粒子間に形成された500Å以上の半径を有する空隙(ポア)を意味し、前記第2空隙(メソポア)は、粒子内に形成された50~500Åの半径を有する空隙を意味し、第3空隙(ミクロポア)は、粒子内に形成された50Å以下の半径を有する空隙を意味する。
【0062】
焼結時に、反応が行われることにより、前駆体が分離されるなどの理由でミクロポアが形成される。この際、焼結温度が次第に上昇すると、ミクロポアが拡散されて結合することにより、メソポアを形成する。この際、ミクロポアおよびメソポアは、主に一次粒子の内部に存在する。その後、焼結温度がさらに上昇するにつれて、一次粒子の内部に存在したミクロポアおよびメソポアの一部が粒子の表面に移動して結合することとなり、このような移動によって表面に形成されたポアは、隣接した粒子の表面のポアと結合されて粒子間のポアとしてマクロポアを形成することとなる。
【0063】
この際、ミクロポアとメソポアの場合、粒子の内部に存在するので、これは、一次粒子においてナノ単位欠陥として作用することができる。このような欠陥の存在は、界面のさらなる露出および電解液との副反応をもたらし、結論的に、寿命の劣化を引き起こすことがである。したがって、ミクロポアおよびメソポアは、その空隙の平均半径および分布値が小さいほどバッテリーの寿命維持および劣化防止などにおいて有利である。これによって、メソポアに該当する第2空隙の平均半径が80Å以上の場合、高い欠陥レベルによってバッテリーの容量が急速に減少するなどバッテリーの性能の観点において不利になり得る。また、これに加えて、第2空隙の分布も、0.0009cm3/g以上の分布を有する場合、同様の理由でバッテリー性能の観点において不利になり得る。
【0064】
マクロポアの場合、粒子間の空隙として、正極活物質に一定レベル未満で含まれる場合、電池の稼動時に緩衝効果を発揮することができ、電池の性能の観点において有利になり得るが、一定レべル以上で含まれる場合には、同様に、バッテリー性能の観点において不利になり得る。これによって、第1空隙の平均半径が960Å以上の場合、高い欠陥レベルによってバッテリーの容量が急速に減少するなどバッテリーの性能の観点において不利になり得る。また、これに加えて、第1空隙の分布が0.013cm3/g以上の場合、同様の理由でバッテリーの容量が急速に減少するなどバッテリーの性能の観点において不利になり得る。しかしながら、第1空隙の分布が0.013cm3/g未満の場合、分布値よりはどれくらい均等な分布であるかがさらに重要な要素となり、分布が均一であるほどその構造的な観点において崩壊の危険が少なくなり、安定した緩衝効果を示すことができ、バッテリーの性能の観点においても有利である。
【0065】
より具体的には、
図11を参照すると、一次焼結なしに合成時に急激な格子構造変化と不均一な反応が誘導され、数百ナノの多くの欠陥がコアの中心に形成され、原子スケールで発生する急激な格子変化がナノスケール欠陥までつながることができることを確認した。また、均一な中間相を形成させることが、原子スケールだけでなく、ナノスケールでも急激な変化を抑制させることができることが分かる。
【0066】
なお、第1、第2および第3空隙のサイズおよび分布変化を比較分析した
図12~
図14を参照すると、マクロポアは、合成中に徐々に成長した一次粒子によって合成温度が高くなるほど減少したことが分かり、また、第2および第3空隙の分布は、反応が始めた後である300℃からミクロポアが発生し始めて急激に反応が発生する400℃で最も多いポアが観察され、ここで、ミクロポアの急激な増加は、急激な反応によって誘導されたことが分かる。また、500℃からはメソポアが結合されることによりマクロポアが多くなり、これは、前述したような
図10の粒子断面SEMイメージにおいて巨大細孔が多く観察されることと一致する。この際、
図12~
図13の場合、一次焼結なしに正極活物質が合成される過程において粒子のサイズ分布を測定した結果を示すものである。
【0067】
また、一次焼結なしに最終合成された場合と200~400℃で一次焼結した後に合成した場合、
図15~
図19の構造分析の結果を通じて、一次焼結なしに合成された場合、最も大きいサイズの多くのマクロポア、メソポアが観察され、粒子内部と粒子間のポアが観察され、不均一に分布したポアがまとまって巨大な細孔が局部的に観察されるのに対し、一次焼結後に合成した場合、最も小さいサイズの少ないマクロポア、メソポアが観察され、小さい粒子間のポアが均一に広まっている密度の高い二次粒子を形成していることが分かる。これは、合成過程で低温一次焼結を進めるとき、ゆっくり均一な反応が誘導され、Li
xM
2-xO
2(0.2<x<0.8)中間相が均一に形成されると共に、小さいサイズの均一なポアが形成されたことが最終合成までつながることを意味する。
【0068】
このように本発明は、正極活物質を構成する二次粒子内の一次粒子の均一な反応による粒子成長を誘導してナノスケール欠陥を制御することができ、長期寿命での性能劣化の問題を解決することができ、特別な添加剤がなくても安定性が保証され、高容量を有する正極活物質を一度の合成工程で容易に合成することができ、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池を通じて様々な産業群への活用度を大きく向上させることができる。
【0069】
以下では、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明することとするが、下記実施例が本発明の範囲を制限するものではなく、これは、本発明の理解を助けるものと解すべきである。
【0070】
[実施例1:正極活物質の製造]
本発明による正極活物質を製造するために、Ni0.92Co0.03Mn0.05(OH)2+LiOH・H2O前駆体混合試料を準備した。この際、前駆体混合物は、遷移金属化合物:リチウム化合物=1:1~1.03モル比、ガス雰囲気400~500mL/min O2条件で780℃の最終合成温度条件で合成を進めた。一次に200℃で6時間焼結後、780℃で12時間二次焼結を進めて、最終正極活物質LiNi0.92Co0.03Mn0.05O2を合成した。
【0071】
[実施例2~4:正極活物質の製造]
前記実施例1と同一に製造するが、下記表1のように一次焼結温度を異ならせて正極活物質を製造した。
【0072】
[実施例5:正極活物質の製造]
Ni0.92Co0.03Mn0.05(OH)2+LiOH・H2O:LiNO3 or Li2SO4(2:3の比)前駆体混合試料を用い、一次焼結温度を下記表1のように異ならせたことを除いて前記実施例1と同一に製造した。
【0073】
[比較例1:正極活物質の製造]
下記表1のように一次焼結を進めずに前記実施例1と同一に正極活物質を製造した。
【表1】
【0074】
[実験例1:熱重量分析]
図3に示されたように、均一な合成のための一次焼結温度を設定するために熱重量分析(TGA)を進めた。その結果、前駆体混合物は、約200℃から250℃まで最も大きい重量が減少し、約250℃から400℃まで比較的小さい重量が減少して、約200℃から反応が発生し始めることを確認した。
【0075】
[実験例2:X線回折(XRD)パターンのリートベルト解析]
図4aを参照すると、前駆体混合物の合成過程中のX線回折(XRD)パターンをリートベルト解析して生成物の相分率を比較した。常温から250℃までは到達直後にNi
0.92Co
0.03Mn
0.05(OH)
2とLiOHのみが存在したのに対し、250℃で6時間焼結後にすべてのNi
0.92Co
0.03Mn
0.05(OH)
2が分解され、約80wt.%のLi
xM
2-xO
2(0.2<x<0.8)R-3m中間相が形成されることを確認した。300℃に到達直後にすでに前駆体混合物が一部反応して約30wt.%のLi
xM
2-xO
2(0.2<x<0.8)が形成され、300℃で6時間焼結後には、250℃で6時間焼結したような相分率が確認された。400℃はすでに到達直後にすべての遷移金属前駆体が分解されることが確認され、結果的に、TGA結果と同様に、250℃から前駆体混合物の反応が発生し始めることを示す。
【0076】
[実験例3:中性子回折パターンのリートベルト解析]
図4bを参照すると、中間生成物のリチウム含有量を定量化するために、同じ相分率を有する250℃で6時間一次焼結中間相と400℃中間相の中性子回折パターンをリートベルト解析法を通じて分析した。その結果、2つの相がいずれもLi
xM
2-xO
2(x=~0.4)のR-3m層状バルク構造であることが分かった。
【0077】
[実験例4:中間生成物の相分率の分析]
図5を参照すると、前駆体混合物のリアルタイム合成過程中のX線回折(XRD)パターンを分析して、中間生成物の相分率の比較でも同様に、一次焼結なしに250℃到達直後から前駆体混合物が反応し始めて400℃ですべての遷移金属前駆体が分解されて、ほとんどの反応が終わったことを確認した。
【0078】
[実験例5:一次焼結中の相分率および格子定数変化の分析]
図6に示されたように、反応温度250℃でリアルタイムで一次焼結を進める間のXRDパターンをさらなる分析した。250℃で3時間焼結後にすべての遷移金属前駆体が分解された。一次焼結なしに780℃合成温度まで合成するときとは異なって、250℃で6時間一次焼結後に780℃合成温度まで合成されるとき、c軸への格子定数変化を緩和させることをさらに確認した。これは、反応が起こる時点である250℃で十分に均一なLi
xM
2-xO
2(0.2<x<0.8)中間相を形成させることが、原子スケールで急激な変化を抑制させることができることを意味する。
【0079】
[実験例6:XAS分析]
図7を参照すると、一次焼結前/後の二次粒子の粒子成長均一性を確認するために、同じ相分率を有する250℃で6時間焼結中間相サンプルと400℃直後中間相サンプルのバルクと表面の酸化数をハード、ソフトX線吸収分光学(XAS)分析を通じて比較した。その結果、2つのサンプルのバルク酸化数は一致したが、表面酸化数は、400℃サンプルのNi L
3-edgeのさらに高い光子エネルギーを有し、250℃で6時間焼結したサンプルよりさらに高い表面酸化数を有することを確認した。
【0080】
[実験例7:XANES分析および透過型電子顕微鏡分析]
図8を参照すると、透過型X線顕微鏡(TXM)-X線吸収端近傍構造(XANES)分析と透過型電子顕微鏡(TEM)-電子エネルギー損失分光法(EELS)分析を通じても250℃で6時間焼結および400℃直後サンプル間の二次粒子のNi酸化数分布を確認した。図面から分かるように、400℃直後サンプルは、コアから表面に行くほどNiの酸化数が大きくなるのに対し、250℃で6時間焼結したサンプルは、全体的に均一なNi酸化数を有することを示す。
【0081】
[実験例8:SEM断面分析]
図11を参照すると、一次焼結なしの400℃中間相では、二次粒子の内側に行くほど巨大細孔が多数観察されたのに対し、250℃で一次焼結した中間相の二次粒子の断面は、非常に均一であった。これは、一次焼結なしに合成時に急激な格子構造変化と不均一な反応が誘導され、数百ナノの多くの欠陥がコアの中心に形成されることを示し、前述の回折分析で観察した原子スケールで発生する急激な格子変化がナノスケール欠陥までつながることができることを確認した。また、均一なLi
xM
2-xO
2(0.2<x<0.8)中間相を形成させることが、原子スケールだけでなく、ナノスケールでも急激な変化を抑制させることができることを示した。
【0082】
[実験例9:SAXSおよびSANS分析]
図12~
図14を参照すると、合成過程で発生する二次粒子のナノ細孔を定量分析するために初めてX線小角散乱および中性子小角散乱(SAXSおよびSANS)分析法を用いた二次粒子の平均的なナノサイズの細孔サイズおよび分布変化を比較分析した。この際、
図12~
図13の場合、一次焼結なしに正極活物質が合成される過程において粒子のサイズ分布を測定した結果を示すものである。常温から500℃まで前駆体混合物の反応によるミクロポアサイズがますます成長し、600℃から780℃までミクロポアが結合することにより、メソポアのサイズが成長した。マクロポアは、合成中に徐々に成長した一次粒子によって合成温度が高くなるほど減少した。また、ポアの分布は、反応が始めた後である300℃からミクロポアが発生し始めて急激に反応が発生する400℃で最も多いポアが観察され、ここで、マクロポアの急激な増加は、急激な反応によって誘導されたことであり、これは、前述の
図8の400℃粒子断面SEMイメージにおいて巨大細孔が多く観察されることと一致する。また、500℃からはメソポアが結合することにより、マクロポアが多くなることを確認した。ミクロポアが最も大きく形成される400℃直後のサンプルと類似した250℃で6時間焼結したサンプルの粒子分布を比較したとき、250℃で6時間焼結したサンプルがさらに小さくかつ均一なミクロポア分布を有することを確認した。これは、2つのサンプルの全体的な反応程度は類似しているが、低温で熱処理する工程が二次粒子内の均一な反応を誘導することができることを示す。
【0083】
[実験例10:正極活物質の第1および第2空隙の半径と含有量分布]
下記表2と表3では、一次焼結を進めずに製造した正極活物質と一次焼結を進めて製造した正極活物質の第1および第2空隙の半径と含有量分布を示す。
【0084】
【0085】
[実験例11:SEM断面、XRDおよびNDパターンを分析]
図15~
図19を参照すると、一次焼結なしに最終合成されたサンプルと200~400℃で一次焼結した最終相サンプルに対する比較は、
図15~
図19に示す。XRDおよびND分析を通したバルク構造の分析は、すべてのサンプルにおいて類似していたが、SAXS/SANS分析を通したポア定量分析は差異を示した。一次焼結なしに合成されたサンプル(P-NCM)は、最も大きいサイズの多くのマクロ、メソポアが観察されたのに対し、250℃で一次焼結後に合成されたサンプル(P250-NCM)は、最も小さいサイズの少ないマクロ、メソポアが観察された。これは、合成過程で低温一次焼結を進めるとき、ゆっくり均一な反応が誘導され、Li
xM
2-xO
2(0.2<x<0.8)中間相が均一に形成されると共に、小さいサイズの均一なポアが形成されたことが最終合成までつながることを意味する。SAXS/SANS分析を通じて得たポアに関する情報を確認するために、代表サンプルP-NCMとP250-NCMのTEMおよびSEM断面を比較した。P-NCMは、粒子の内部と粒子間のポアが観察され、不均一に分布したポアがまとまって巨大な細孔が局部的に観察されるのに対し、P250-NCMは、小さい粒子間のポアが均一に広まっている密度が高い二次粒子を形成していることを確認し、これは、SAXS/SANS分析結果と一致する。
【0086】
[実験例12:電気化学性能の比較]
図20を参照すると、一次焼結なしに直接合成したサンプルと200~400℃で一次焼結したサンプルに対する電気化学性能を比較した。P-NCMを除いた一次焼結したサンプルは、全部電気化学サイクル特性が向上し、その中で最も均一に合成されたP250-NCMの電気化学特性(サイクルおよび容量)が最も向上したことを確認した。
【0087】
[実験例13:実施例5に対するSEM、XRDおよびNDパターンを分析]
図9および
図10を参照すると、共晶(Eutectic)前駆体混合物の合成過程中のXRDおよびNDパターンを分析して、生成物の相分率を比較した。共晶溶融塩(Eutectic molten salt)を用いたとき、既存のLiOHのみを使用したときより低い融点を有するので、既存よりさらに低い200℃で反応が始まり、結果的に、200℃で6時間焼結後、すべてのNi
0.92Co
0.03Mn
0.05(OH)
2が分解され、約80%のLi
xM
2-xO
2(0.6<x<0.8)が形成されることを確認した。これは、既存のLiOHのみを用いた固相合成よりさらに速い母相のリチウム化を誘導することを示し、共晶合成工程の速いリチウム拡散を確認した。既存のリチウム前駆体であるLiOHを用いたときと共晶溶融塩を用いたとき、最終合成二次粒子の断面を比較した。その結果、共晶工程で合成されたPE200-NCMが最も高い密度を有するゼロポアに近い二次粒子を有することを確認した。これは、共晶合成工程がナノ欠陥がゼロに近い正極活物質を合成する方法に最も近いことを示す。
【0088】
[実験例14:実施例5に対する電気化学性能の比較]
図21および
図22を参照すると、三つのサンプルの電気化学サイクル特性を比較した。左図のように0.15C-レートを基準として50サイクルまでサイクル特性の低下がなく、200サイクルの長期寿命特性において既存のリチウム前駆体LiOHを使用したサンプル(P-NCM、P250-NCM)より向上した特性を示した。また、150サイクル後の二次粒子の断面を観察した結果、既存の合成工程で合成されたP-NCMは、合成過程で生じた巨大細孔の間に電解質の浸透および充放電過程で不均一な収縮/膨張により二次粒子の急激なクレクが観察されたのに対し、一次焼結後に合成したP250-NCMと共晶工程で合成されたPE200-NCMは、二次粒子が最初のように良好に維持されることを確認して、合成工程で粒子内の細孔の形成を最小化することが、安定した正極活物質の合成に重要な要素であることを立証した。