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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177132
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/42 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
G03F7/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024092425
(22)【出願日】2024-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2023094070
(32)【優先日】2023-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃平
【テーマコード(参考)】
2H196
【Fターム(参考)】
2H196AA25
2H196LA03
(57)【要約】
【課題】一態様において、樹脂マスク除去性に優れる洗浄剤組成物を提供する。
【解決手段】本開示は、一態様において、多価アルコール(成分A)、アミン類(成分B)、及びハンセン溶解パラメータSP値が18~33MPa1/2である有機溶剤(ただし、成分A及び成分Bを除く)(成分C)を含有し、成分Aと成分Bとの質量比A/Bが2以上8以下であり、成分Cが含硫黄化合物及び含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種である、樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価アルコール(成分A)、アミン類(成分B)、及びハンセン溶解パラメータSP値が18~33MPa1/2である有機溶剤(ただし、成分A及び成分Bを除く)(成分C)を含有し、
成分Aと成分Bとの質量比A/Bが2以上8以下であり、
成分Cが含硫黄化合物及び含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種である、樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物。
【請求項2】
成分Aは、エチレングリコール及びジエチレングリコールの少なくとも一方である、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項3】
成分Bは、アルカノールアミンである、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項4】
成分Bは、モノエタノールアミン及びN-メチルモノエタノールアミンの少なくとも一方である、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項5】
成分Cが含硫黄化合物と含窒素化合物とからなる混合有機溶剤である、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項6】
成分Aの含有量が4質量%以上16質量%以下である、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項7】
成分Bの含有量が0.5質量%以上8質量%以下である、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項8】
成分Aと成分Cとの合計含有量が90質量%以上99.5質量%以下である、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項9】
糖類(成分D)をさらに含有し、
成分Dの含有量は、0.01質量%以上3質量%以下である、請求項1に記載の洗剤組成物。
【請求項10】
成分Dの分子量は、35以上700以下である、請求項9に記載の洗浄剤組成物。
【請求項11】
水(成分E)の含有量は、3質量%以下である、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の洗浄剤組成物を用いて、樹脂マスクが付着した被洗浄物から樹脂マスクを剥離する工程を含む、洗浄方法。
【請求項13】
請求項1から11のいずれかに記載の洗浄剤組成物を用いて、樹脂マスクが付着した被洗浄物から樹脂マスクを剥離する工程を含む、半導体素子の製造方法。
【請求項14】
請求項12の洗浄方法を用いて樹脂マスクが付着した被洗浄物から樹脂マスクを剥離する工程を含む、半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物及びこれを用いる洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータや各種電子デバイスにおいては、低消費電力化、処理速度の高速化、小型化が進み、これらに搭載されるパッケージ基板などの配線は年々微細化が進んでいる。このような微細配線並びにピラーやバンプといった接続端子形成にはこれまでメタルマスク法が主に用いられてきたが、汎用性が低いことや配線等の微細化への対応が困難になってきたことから、他の新たな方法へと変わりつつある。
新たな方法の一つとして、ドライフィルムレジストをメタルマスクに代えて厚膜樹脂マスクとして使用する方法が知られている。この樹脂マスクは最終的に剥離・除去されるが、その際にアルカリ性の剥離用洗浄剤が使用される。
【0003】
半導体素子は、半導体基板上にレジストを塗布し、露光・現像によりパターンを形成し、次いで該レジストパターンをマスクとし非マスク領域の半導体基板のエッチングを行い、微細回路を形成した後、上記フォトレジストを半導体基板上から剥離して、あるいは同様にして微細回路を形成した後、アッシングを行い残存するレジスト残渣物を半導体基板上から剥離することにより得られる。
このようなレジスト剥離用洗浄剤として、特許文献1には、アミン、ハンセン溶解パラメータが18~33MPa1/2である有機溶媒、糖類、及び0~5重量%の水を含有するレジスト用剥離剤組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-55701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体素子の製造過程において、半導体基板、金属配線及び層間絶縁膜薄膜等に付着した樹脂マスクの残渣は、半導体チップと他の部品との接続不良や電子部品の破壊の原因になるため不良品になり半導体チップの歩留まりが低下するので、洗浄剤組成物には高い樹脂マスク除去性(剥離性)が要求される。特許文献1で提案されている洗浄剤組成物では、樹脂マスクに対する除去性に改善の余地があった。一般的に、樹脂マスクがネガ型レジストである場合、ポジ型レジストに比べて剥離し難く、ネガ型レジストの剥離には過酷な条件(例えば、高温で長時間処理剤(洗浄剤)と接触させるなど)が必要である。そのため、洗浄剤組成物には、ネガ型レジストを温和な処理条件で剥離できること、すなわち、優れた樹脂マスク除去性が求められる。
【0006】
そこで、本開示は、樹脂マスク除去性に優れる樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物、洗浄方法及び半導体素子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様において、多価アルコール(成分A)、アミン類(成分B)、及びハンセン溶解パラメータSP値が18~33MPa1/2である有機溶剤(ただし、成分A及び成分Bを除く)(成分C)を含有し、成分Aと成分Bとの質量比A/Bが2以上8以下であり、成分Cが含硫黄化合物及び含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種である、樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物に関する。
【0008】
本開示は、一態様において、本開示の洗浄剤組成物を用いて樹脂マスクが付着した被洗浄物から樹脂マスクを剥離する工程を含む洗浄方法に関する。
【0009】
本開示は、一態様において、本開示の洗浄剤組成物を用いて、樹脂マスクが付着した被洗浄物から樹脂マスクを剥離する工程を含む、半導体素子の製造方法に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、本開示の洗浄方法を用いて樹脂マスクが付着した被洗浄物から樹脂マスクを剥離する工程を含む、半導体素子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、樹脂マスク除去性に優れる洗浄剤組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、多価アルコール(成分A)、アミン類(成分B)、及び特定の有機溶剤(成分C)を特定の割合で含有する洗浄剤組成物を用いることで、被洗浄物から樹脂マスクを効率よく除去できるという知見に基づく。
【0013】
本開示は、一態様において、多価アルコール(成分A)、アミン類(成分B)、及びハンセン溶解パラメータSP値が18~33MPa1/2である有機溶剤(ただし、成分A及び成分Bを除く)(成分C)を含有し、成分Aと成分Bとの質量比A/Bが2以上8以下であり、成分Cが含硫黄化合物及び含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種である、樹脂マスク剥離用洗浄剤組成物(以下、「本開示の洗浄剤組成物」ともいう)に関する。
【0014】
本開示によれば、樹脂マスク除去性(剥離性)に優れる洗浄剤組成物を提供できる。そして、本開示の洗浄剤組成物を用いることで、高品質の半導体素子回路、特に化合物半導体素子回路の製造が可能になる。
【0015】
本開示の効果発現の作用メカニズムの詳細は不明な部分があるが、以下のように推定される。
樹脂マスクを形成する樹脂材料は、一般的に、フェノール樹脂等の酸性官能基を含有していることが多い。
本開示では、アミン類(成分B)が樹脂マスク(レジスト)内の酸性官能基と反応することで、特定の有機溶剤(成分C)への樹脂マスク(レジスト)の溶解性が高まり、剥離が進行すると考えられる。さらに、多価アルコール(成分A)とアミン(成分B)を特定の比率で併用することで、樹脂マスク(レジスト)へのアミン類(成分B)の浸透が促進されて剥離性が高まると考えられる。
但し、本開示はこのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0016】
本開示において樹脂マスクとは、エッチング、めっき、加熱等の処理から物質表面を保護するためのマスク、すなわち、保護膜として機能するマスクである。
樹脂マスクとしては、一又は複数の実施形態において、露光及び現像工程後のレジスト層、露光及び現像の少なくとも一方の処理が施された(以下、「露光及び/又は現像処理された」ともいう)レジスト層、あるいは、硬化したレジスト層が挙げられる。
また、樹脂マスクは、一又は複数の実施形態において、光や電子線等によって現像液に対する溶解性等の物性が変化するレジストを用いて形成されるものである。レジストは、光や電子線との反応方法から、ネガ型とポジ型に大きく分けられている。ネガ型レジストは、露光されると現像液に対する溶解性が低下する特性を有し、ネガ型レジストを含む層(以下、「ネガ型レジスト層」ともいう)は、露光及び現像処理後に露光部が樹脂マスクとして使用される。ポジ型レジストは、露光されると現像液に対する溶解性が増大する特性を有し、ポジ型レジストを含む層(以下、「ポジ型レジスト層」ともいう)は、露光及び現像処理後に露光部が除去され、未露光部が樹脂マスクとして使用される。このような特性を有する樹脂マスクを使用することで、金属配線、金属ピラーやハンダバンプといった回路基板の微細な接続部を形成することができる。
樹脂マスクを形成する樹脂材料としては、一又は複数の実施形態において、フィルム状の感光性樹脂、レジストフィルム、又はフォトレジストが挙げられる。レジストフィルムは汎用のものを使用できる。
樹脂マスクとしては、例えば、ポリヒドロキシスチレン樹脂膜、アクリル酸系ポリマー膜、ポリイミド系ポリマー膜が挙げられる。樹脂マスクとして用いられるポリイミド系ポリマー膜は、溶剤溶解型ポリイミド膜が挙げられ、例えば、アルカリ溶解性ポリイミド膜が挙げられる。
樹脂マスクの厚さとしては、半導体基板表側の面の最表面の凹凸による段差によって選択されるが、半導体基板表側の面を完全に保護できればよい。樹脂マスクの厚さとしては、例えば、1μm以上100μm以下が挙げられ、半導体基板の表側の面を完全に保護する観点と樹脂マスクとして使用するレジストの硬化時間や除去時間の観点から、3μm以上50μm以下が好ましい。
【0017】
[成分A:多価アルコール]
本開示の洗浄剤組成物に含まれる多価アルコール(以下、「成分A」ともいう)としては、樹脂マスク除去性向上の観点から、分子内に2個以上5個以下の水酸基を有する多価アルコールが挙げられる。ただし、成分Aには糖アルコールは含まれない。
成分Aとしては、樹脂マスク除去性向上の観点から、2価以上5価以下のアルコールが好ましく、2価以上4価以下のアルコールがより好ましく、2価又は3価のアルコールが更に好ましく、2価のアルコールが更に好ましい。2価のアルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。
成分Aは、樹脂マスク除去性向上の観点から、エチレングリコール及びジエチレングリコールの少なくとも一方であることが好ましい。成分Aは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0018】
本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Aの含有量は、樹脂マスク除去性向上の観点から、4質量%以上が好ましく、6質量%以上がより好ましく、8質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、16質量%以下が好ましく、14質量%以下がより好ましく、12質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Aの含有量は、4質量%以上16質量%以下が好ましく、6質量%以上14質量%以下がより好ましく、8質量%以上12質量%以下が更に好ましい。成分Aが2種以上の組合せである場合、成分Aの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0019】
本開示において「洗浄剤組成物の使用時における各成分の含有量」とは、洗浄時、すなわち、洗浄剤組成物の洗浄への使用を開始する時点での各成分の含有量をいう。
本開示の洗浄剤組成物中の各成分の含有量は、一又は複数の実施形態において、本開示の洗浄剤組成物中の各成分の配合量とみなすことができる。
【0020】
[成分B:アミン類]
本開示の洗浄剤組成物に含まれるアミン類(以下、「成分B」ともいう)としては、一又は複数の実施形態において、アルカノールアミン(アミノアルコール)が挙げられる。アルカノールアミンとしては、例えば、下記式(I)で表される化合物が挙げられる。成分Bは、1種でもよいし、2種以上の組合せもよい。
【化1】
【0021】
上記式(I)において、R1は、水素原子、メチル基、エチル基又はアミノエチル基を示し、R2は、水素原子、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、メチル基又はエチル基を示し、R3は、ヒドロキシエチル基又はヒドロキシプロピル基を示す。
【0022】
成分Bとしては、例えば、モノエタノールアミン(MEA)、モノイソプロパノールアミン、N-メチルモノエタノールアミン、N-メチルイソプロパノールアミン、N-エチルモノエタノールアミン、N-エチルイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N-ジメチルモノエタノールアミン、N-ジメチルモノイソプロパノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-メチルジイソプロパノールアミン、N-ジエチルモノエタノールアミン、N-ジエチルモノイソプロパノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-エチルジイソプロパノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、N-(β-アミノエチル)イソプロパノールアミン、N-(β-アミノエチル)ジエタノールアミン、及びN-(β-アミノエチル)ジイソプロパノールアミンから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、樹脂マスク除去性向上の観点から、成分Bとしては、モノエタノールアミン(MEA)及びN-メチルモノエタノールアミンの少なくとも一方が好ましい。
【0023】
本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Bの含有量は、樹脂マスク除去性向上、基板部材の腐食性抑制の観点から、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、1.6質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、8質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Bの含有量は、0.5質量%以上8質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましく、1.6質量%以上3質量%以下が更に好ましい。成分Bが2種以上の組合せである場合、成分Bの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0024】
本開示の洗浄剤組成物中の成分Aと成分Bとの質量比A/B(成分Aの含有量/成分Bの含有量)は、樹脂マスク除去性向上の観点から、8以下であって、6以下が好ましく、5以下がより好ましく、そして、同様の観点から、2以上であり、また、3以上であってもよく、4以上であってもよい。同様の観点から、本開示の洗浄剤組成物中の質量比A/Bは、1以上8以下が好ましく、1.5以上6以下がより好ましく、2以上5以下が更に好ましい。
【0025】
本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Aと成分Bの合計含有量は、樹脂マスク除去性向上の観点から、5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、24質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、17質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Aと成分Bの合計含有量は、5質量%以上24質量%以下が好ましく、8質量%以上20質量%以下がより好ましく、10質量%以上17質量%以下が更に好ましい。
【0026】
[成分C:有機溶剤]
本開示の洗浄剤組成物は、ハンセン溶解パラメータSP値が18~33MPa1/2である有機溶剤(ただし、成分A及び成分Bを除く)(以下、「成分C」ともいう)を含有する。成分Cは1種でもよいし、2種以上の組合せ(混合有機溶剤)でもよい。
【0027】
成分CのSP値は、樹脂マスク除去性向上の観点から、18~33MPa1/2あって、20~31.5MPa1/2が好ましく、22~30MPa1/2がより好ましい。本開示において、ハンセン溶解パラメータSP値とは、ポリマーハンドブック4版(Wiley Interscience発行)の「Solubility Parameter Values 」VII/675~714頁に記載されている値である。
成分Cが2種以上の混合有機溶剤である場合、成分CのSP値は配合量から荷重平均によって求めることができる。上記SP値の範囲は混合有機溶剤にも適用される。
【0028】
成分Cとしては、含硫黄化合物、及び含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
含硫黄化合物としては、例えば、分子量200以下で、硫黄原子を含有する化合物が挙げられ、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が挙げられる。
含窒素化合物としては、例えば、分子量200以下で、窒素原子を含有する化合物が挙げられ、例えば、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等のアミド;N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-プロピル-2-ピロリドン、N-ブチル-2-ピロリドン等のピロリドン;ジメチルイミダゾリジノン等が挙げられる。
【0029】
成分Cは、樹脂マスク除去性向上の観点から、含硫黄化合物及び含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種であり、含硫黄化合物と含窒素化合物とを含む混合有機溶剤であることが好ましく、含硫黄化合物と含窒素化合物とからなる混合有機溶剤であることがより好ましく、含硫黄化合物がジメチルスルホキシドであり含窒素化合物がN-メチル-2-ピロリドンであることが更に好ましい。成分CがジメチルスルホキシドとN-メチル-2-ピロリドンとを含む混合有機溶剤又はジメチルスルホキシドとN-メチル-2-ピロリドンとからなる混合有機溶剤である場合、本開示の洗浄剤組成物中のジメチルスルホキシドの含有量は、樹脂マスク除去性向上の観点から、75質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、67質量%以下が更に好ましい。
【0030】
本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Cの含有量は、樹脂マスク除去性向上の観点から、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、99.5質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Cの含有量は、60質量%以上99.5質量%以下が好ましく、70質量%以上95質量%以下がより好ましく、80質量%以上90質量%以下が更に好ましい。成分Cが2種以上の組合せである場合、成分Cの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0031】
本開示の洗浄剤組成物中の成分Aと成分Cとの質量比A/C(成分Aの含有量/成分Cの含有量)は、樹脂マスク除去性向上の観点から、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.1以上が更に好ましい。また、同様の観点から、1以下が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.25以下が更に好ましく、0.2以下が好ましい。より具体的には、本開示の洗浄剤組成物中の質量比A/Cは、0.01以上1以下が好ましく、0.05以上0.5以下がより好ましく、0.1以上0.25以下が更に好ましく、0.1以上0.2以下がより更に好ましい。
【0032】
本開示の洗浄剤組成物中の成分Cと成分Bとの質量比C/B(成分Cの含有量/成分Bの含有量)は、樹脂マスク除去性向上の観点から、15以上が好ましく、20以上がより好ましく、30以上が更に好ましく、40以上がより更に好ましく、そして、同様の観点から、100以下が好ましく、80以下がより好ましく、60以下が更に好ましく、50以下がより更に好ましい。より具体的には、本開示の洗浄剤組成物中の質量比C/Bは、同様の観点から、15以上100以下が好ましく、20以上80以下がより好ましく、30以上60以下が更に好ましく、40以上50以下がより更に好ましい。
【0033】
本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Aと成分Cとの合計含有量は、樹脂マスク除去性向上の観点から、90質量%以上が好ましく、93質量%以上がより好ましく、96質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、99.5質量%以下が好ましく、99質量%以下がより好ましく、98質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Aと成分Cとの合計含有量は、90質量%以上99.5質量%以下が好ましく、93質量%以上99質量%以下がより好ましく、96質量%以上98質量%以下が更に好ましい。成分Aと成分Cとの合計含有量が所定の範囲となるように含有することで、基板部材の腐食性を抑えながら、樹脂マスク(レジスト)の溶解性を高くすることができると考えられる。
【0034】
本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Aと成分Bと成分Cとの合計含有量は、樹脂マスク除去性向上の観点から、93質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上が更に好ましく、99質量%以上、99.5質量%以上又は100質量%がより更に好ましい。
【0035】
[糖類(成分D)]
本開示の洗浄剤組成物は、一又は複数の実施形態において、金属配線及び半導体の腐食抑制の観点から、糖類(以下、「成分D」ともいう)をさらに含有してもよい。成分Dは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
成分Dとしては、D-キシロース、D-グルコース、L-イドース、D-フルクトース等の単糖類;スクロース等の二糖類;ラフィノース等の三糖類;スタキオース等の四糖類;エリトリトール、キシリトール、ズルシトール、リビトール、D-ソルビトール、D-マンニトール、L-イジトール等の直鎖糖アルコール;シクリトール、myo-イノシトール、クエルシトール等の環式糖アルコール;等が挙げられる。
【0036】
成分Dの分子量は、基板部材の腐食性抑制の観点から、35以上が好ましく、70以上がより好ましく、150以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、700以下が好ましく、350以下がより好ましく、185以下が更に好ましい。同様の観点から、成分Dの分子量は、35以上700以下が好ましく、70以上350以下がより好ましく、150以上185以下が更に好ましい。
【0037】
本開示の洗浄剤組成物が成分Dを含有する場合、本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Dの含有量は、樹脂マスク除去性向上及び腐食抑制の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、3質量%以下が好ましく、2.8質量%以下がより好ましく、2.5質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Dの含有量は、0.01質量%以上3質量%以下が好ましく、0.1質量%以上2.8質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上2.5質量%以下が更に好ましい。成分Dが2種以上の組合せである場合、成分Dの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0038】
[成分E:水]
本開示の洗浄剤組成物は、一又は複数の実施形態において、水(以下、「成分E」ともいう)をさらに含有してもよいし、一又は複数の実施形態において、水を含有しなくてもよい。半導体、特に、GaAs等の化合物半導体は剥離工程で腐食されやすい点から、本開示の洗浄剤組成物は、水(成分)を含有しないことが好ましい。成分Eとしては、一又は複数の実施形態において、イオン交換水、RO水、蒸留水、純水、超純水等が挙げられる。
【0039】
本開示の洗浄剤組成物が成分Eを含有する場合、本開示の洗浄剤組成物中の成分Eの含有量は、成分A、成分B、成分C及び任意成分(成分D、後述するその他の成分)を除いた残余とすることができる。
本開示の洗浄剤組成物の使用時における成分Eの含有量は、樹脂マスク除去性向上及び腐食抑制の観点から、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0質量%(すなわち、含まないこと)が更に好ましい。
【0040】
[その他の成分]
本開示の洗浄剤組成物は、一又は複数の実施形態において、本開示の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分をさらに含有することができる。その他の成分としては、通常の洗浄剤に用いられうる成分を挙げることができ、例えば、成分A以外のアルコール類、成分B以外のアルカリ剤、成分B以外のアミン、成分C以外の有機溶剤、界面活性剤、キレート剤、増粘剤、分散剤、防錆剤、高分子化合物、可溶化剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0041】
[洗浄剤組成物の製造方法]
本開示の洗浄剤組成物は、一又は複数の実施形態において、成分A、成分B、成分C及び必要に応じて上述の任意成分(成分D、成分E、その他の成分)を公知の方法で配合することにより製造できる。例えば、本開示の洗浄剤組成物は、少なくとも前記成分A、成分B及び成分Cを配合してなるものとすることができる。したがって、本開示は、少なくとも前記成分A、成分B及び成分Cを配合する工程を含む、洗浄剤組成物の製造方法に関する。本開示において「配合する」とは、成分A、成分B、成分C、及び必要に応じて上述した任意成分(成分D、成分E、その他の成分)を同時に又は任意の順に混合することを含む。本開示の洗浄剤組成物の製造方法において、各成分の好ましい配合量は、上述した本開示の洗浄剤組成物の各成分の好ましい含有量と同じとすることができる。
【0042】
本開示の洗浄剤組成物は、そのまま洗浄に使用する形態であってもよく、分離や析出等を起こして保管安定性を損なわない範囲で濃縮物として調製してもよい。洗浄剤組成物の濃縮物は、使用時に各成分が上述した含有量(すなわち、洗浄時の含有量)になるよう希釈して使用することができる。
【0043】
本開示の洗浄剤組成物のpHは、樹脂マスク除去性向上の観点から、8以上14以下が好ましく、9以上14以下がより好ましく、10以上14以下が更に好ましい。
【0044】
[被洗浄物]
本開示の洗浄剤組成物は、一又は複数の実施形態において、樹脂マスクが付着した被洗浄物の洗浄に使用されうる。
樹脂マスクが付着した被洗浄物としては、一又は複数の実施形態において、金属配線及び樹脂マスクを有する半導体基板、絶縁膜及び樹脂マスクを有する半導体基板、金属配線、絶縁膜及び樹脂マスクを有する半導体基板等が挙げられる。
半導体基板としては、Si、Ge等の元素半導体、GaAs、InP、CdS等の化合物半導体、InGaAs,HgCdTe等の混晶半導体等を材料とした基板が挙げられる。
金属配線は、一又は複数の実施形態において、メッキ、CVD及びPVD等によって形成した金属配線をいう。金属配線としては、例えば、金、アルミニウム、銅、タングステン、チタン、タンタル、クロム等の配線が挙げられ、中でも、金とアルミニウム配線が適している。なお、用いられる金属配線は異種の金属を含む合金であっても、また純金属でもよく、また配線形状にも限定されるものではない。
絶縁膜としては、例えば、窒化珪素(Si34)膜等が挙げられる。絶縁膜は、一又は複数の実施形態において、層間絶縁膜である。
【0045】
被洗浄物としては、例えば、電子部品及びその製造中間物が挙げられる。電子部品としては、例えば、プリント基板、ウエハ、銅板及びアルミニウム板等の金属板から選ばれる少なくとも1つの部品が挙げられる。前記製造中間物は、電子部品の製造工程における中間製造物であって、樹脂マスク処理後の中間製造物を含む。
【0046】
樹脂マスクが付着した被洗浄物の具体例としては、例えば、樹脂マスクを使用した半田付け及びめっき処理(銅めっき、アルミニウムめっき、ニッケルめっき、スズめっき等)の少なくとも一方の処理を行う工程を経ることにより、配線や接続端子等が基板表面に形成された電子部品等が挙げられる。本開示において、半田付けとは、基板上の樹脂マスク非存在部に半田を存在させ、加熱により半田バンプ形成することをいう。本開示において、めっき処理とは、基板上の樹脂マスク非存在部に銅めっき、アルミニウムめっき、ニッケルめっき及びスズめっきから選ばれる少なくとも1種のめっき処理を行うことをいう。樹脂マスク非存在部とは、基板にラミネートされた樹脂マスクを現像処理することにより形成されたレジストパターン(パターン形状の樹脂マスク)において、現像処理により樹脂マスクが除去された部分のことである。したがって、本開示は、一態様において、本開示の洗浄剤組成物の、電子部品の製造における洗浄剤としての使用に関する。
【0047】
被洗浄物は、一又は複数の実施形態において、基板にラミネートされた樹脂マスクを現像処理することにより形成されたレジストパターン(パターン形状の樹脂マスク)を有する基板に、半田付け及びめっき処理の少なくとも一方の処理を行う工程を経たものである。例えば、被洗浄物として、硬化したレジスト層が基板上に形成された樹脂マスク存在部である部位と、樹脂マスク非存在部に半田バンプ又はめっき層が形成された部位、とを有する基板が挙げられる。
【0048】
本開示の洗浄剤組成物は、一又は複数の実施形態において、洗浄効果の点から、樹脂マスク、あるいは、更にめっき処理及び/又は加熱処理された樹脂マスクが付着した被洗浄物の洗浄に好適に用いられうる。樹脂マスクとしては、例えば、ネガ型樹脂マスクでもよいし、ポジ型樹脂マスクでもよい。本開示においてネガ型樹脂マスクとは、ネガ型レジストを用いて形成されるものであり、例えば、露光及び/又は現像処理されたネガ型レジスト層が挙げられる。本開示においてポジ型樹脂マスクとは、ポジ型レジストを用いて形成されるものであり、例えば、露光及び/又は現像処理されたポジ型レジスト層が挙げられる。
【0049】
[洗浄方法]
本開示は、一態様において、本開示の洗浄剤組成物を用いて樹脂マスクが付着した被洗浄物から樹脂マスクを剥離する工程(以下、単に「剥離工程」ともいう)を含む洗浄方法(以下、「本開示の洗浄方法」ともいう)に関する。被洗浄物としては、上述した被洗浄物を挙げることができる。前記剥離工程は、一又は複数の実施形態において、被洗浄物を本開示の洗浄剤組成物に接触させることを含む。本開示の洗浄方法によれば、樹脂マスク除去性(剥離性)を向上できる。
【0050】
本開示の洗浄剤組成物を用いて被洗浄物から樹脂マスクを剥離する方法、又は、被洗浄物に本開示の洗浄剤組成物を接触させる方法としては、例えば、洗浄剤組成物を入れた洗浄浴槽内へ浸漬することで接触させる方法、洗浄剤組成物をスプレー状に射出して接触させる方法(シャワー方式)、浸漬中に超音波照射する超音波洗浄方法、等が挙げられる。本開示の洗浄剤組成物は、希釈することなくそのまま洗浄に使用できる。被洗浄物としては、上述した被洗浄物を挙げることができる。
本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、バッチ式、シャワー式、枚葉式当の剥離装置(洗浄装置)に用いることができる。
【0051】
本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、洗浄剤組成物に被洗浄物を接触させた後、水でリンスし、乾燥する工程を含むことができる。本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、洗浄剤組成物に被洗浄物を接触させた後、水ですすぐ工程を含むことができる。
【0052】
本開示の洗浄方法は、本開示の洗浄剤組成物の洗浄力が発揮されやすい点から、本開示の洗浄剤組成物と被洗浄物との接触時に超音波を照射することが好ましく、その超音波は比較的高周波数であることがより好ましい。前記超音波の照射条件は、同様の観点から、例えば、26~72kHz、80~1500Wが好ましく、36~72kHz、80~1500Wがより好ましい。
【0053】
本開示の洗浄方法において、本開示の洗浄剤組成物の洗浄力が発揮されやすい点から、洗浄剤組成物の温度は40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、そして、基板に対する影響低減の観点から、70℃以下が好ましく、70℃未満がより好ましく、65℃以下が更に好ましく、60℃以下が更に好ましい。
【0054】
[半導体素子の製造方法]
本開示は、一又は複数の実施形態において、本開示の洗浄剤組成物又は本開示の洗浄方法を用いて樹脂マスクが付着した被洗浄物から樹脂マスクを剥離する工程(剥離工程)を含む、半導体素子の製造方法(以下、「本開示の半導体素子製造方法」ともいう)に関する。被洗浄物としては、上述した被洗浄物を挙げることができる。本開示の半導体素子製造方法によれば、高品質の半導体素子回路、特に化合物半導体素子回路の製造が可能になる。
本開示の半導体素子製造方法は、一又は複数の実施形態において、下記工程(1)~(4)を含む。下記工程(1)~(4)の各工程に用いられる装置、手法等は特に限定されなくてもよく、公知のものであればよい。
(1)表面に金属配線及び層間絶縁膜を有する半導体基板の表面(半導体基板の表側面)へのレジスト塗布、パターニング、露光、及び現像から成るリソグラフィ工程
(2)半導体基板、金属配線及び層間絶縁膜の薄膜を形状加工するエッチング工程
(3)イオン注入工程
(4)レジスト剥離工程
本開示の洗浄剤組成物及び本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、上記工程(1):リソグラフィ工程、及び/又は、上記工程(4)のレジスト剥離工程に使用することが好ましい。半導体、特に化合物半導体基板上に塗布されたレジスト、又はドライエッチング後に残存するレジスト、ドライエッチング後にアッシングを行い残存するレジスト残渣を低温でかつ短時間に容易に剥離できる。
本開示の洗浄剤組成物及び本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、化合物半導体素子製造工程のリフトオフ工程に使用してもよい。
【0055】
[電子部品の製造方法]
本開示は、一態様において、本開示の洗浄剤組成物又は本開示の洗浄方法を用いて樹脂マスクが付着した被洗浄物から樹脂マスクを剥離する工程(剥離工程)を含む電子部品の製造方法(以下、「本開示の電子部品の製造方法」ともいう)に関する。被洗浄物としては、上述した被洗浄物を挙げることができる。
本開示の電子部品の製造方法は、一又は複数の実施形態において、前記洗浄工程の前に、プリント基板、ウエハ、及び金属板から選ばれる少なくとも1つの電子部品に対し、樹脂マスクを使用した半田付け及びめっき処理の少なくとも一方の処理を行う工程を含むことができる。
本開示の電子部品の製造方法は、本開示の洗浄方法を用いて洗浄を行うことにより、樹脂マスク除去性(剥離性)を向上できるため、信頼性の高い電子部品の製造が可能になる。更に、本開示の洗浄方法を行うことにより、電子部品に付着した樹脂マスクの除去が容易になることから、洗浄時間が短縮化でき、電子部品の製造効率を向上できる。
【0056】
[キット]
本開示のキットは、一又は複数の実施形態において、本開示の洗浄剤組成物を製造するためのキットである。本開示のキットによれば、樹脂マスク除去性を向上可能な洗浄剤組成物を得ることができる。
本開示のキットの一実施形態としては、成分Aを含有する溶液(第1液)と、成分B及び成分Cを含有する溶液(第2液)とを、相互に混合されない状態で含み、第1液と第2液とは使用時に混合される、キット(2液型洗浄剤組成物)が挙げられる。第1液及び第2液の各々には、必要に応じて上述した任意成分が含まれていてもよい。
【実施例0057】
以下に、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0058】
1.実施例1~9及び比較例1~2の洗浄剤組成物の調製
表1~2に示す各成分を表1~2に記載の配合量(質量%、有効分)で配合し、それを攪拌して混合することにより、実施例1~9及び比較例1~2の洗浄剤組成物を調製した。
【0059】
実施例1~9及び比較例1~2の洗浄剤組成物の調製には、下記のものを使用した。
(成分A)
ジエチレングリコール[富士フィルム和光純薬株式会社製]
エチレングリコール[富士フィルム和光純薬株式会社製]
(成分B)
モノエタノールアミン[株式会社日本触媒製]
N-メチルエタノールアミン[日本乳化剤株式会社製、アミノアルコールMMA]
(成分C)
ジメチルスルホキシド[富士フィルム和光純薬株式会社製]
N-メチル-2-ピロリドン[富士フィルム和光純薬株式会社製]
(成分D)
ソルビトール[富士フィルム和光純薬株式会社製、D-ソルビトール]
(成分E)
水[オルガノ株式会社製純水装置G-10DSTSETで製造した1μS/cm以下の純水]
【0060】
2.洗浄剤組成物の評価
調製した実施例1~9及び比較例1~2の洗浄剤組成物について下記評価を行った。
【0061】
[剥離性評価用テストピース]
GaAs基板(化合物半導体基板)上に350μmおきにストライプ状に高さ90nm、幅10μmの絶縁膜(Si34)を形成後、基板表面の全面にネガ型レジスト(ポリヒドロキシスチレン樹脂)を乾燥膜厚3μmになるように塗布し、波長365nmのi線スペクトルで露光した後に130℃、5分でポストベークした。その後、反応性イオンエッチングガスのCF4ガスで処理し、テストピースを作成した。
【0062】
[剥離性評価]
テストピースを、調製した実施例1~9及び比較例1~2の各洗浄剤組成物に60℃で30分間浸漬した。その後、リンス工程として水に室温で1分間揺動しながら浸漬する操作を2回行い、窒素ガスでブロー乾燥を行った。テストピースの外観を電界放射型走査電子顕微鏡で5千倍と5万倍に拡大して観察し、絶縁膜(Si34)上とGaAs基板上のレジストの残渣の有無、剥離されたレジストの状態を下記評価基準に基づき剥離性を評価した。結果を表1~2に示した。
<評価基準>
3:基板上のレジスト残渣はなく、剥離されたレジストは洗浄剤組成物に溶解している
2:基板上のレジスト残渣はないが、剥離されたレジストは洗浄剤組成物中に浮遊している
1:基板上のレジスト残渣あり
剥離性評価の結果、基板上のレジスト残渣及び剥離されたレジストの状態は以下のような状況であった。
実施例1:基板上のレジスト残渣はないが、剥離されたレジストは洗浄剤組成物中に浮遊していた。
実施例2:基板上のレジスト残渣はなく、剥離されたレジストは洗浄剤組成物に溶解していた。
実施例3:基板上のレジスト残渣はなく、レジストは部分的に剥離して洗浄剤組成物に浮遊した後、最終的に溶解した。
実施例4~9:基板上のレジスト残渣はなく、剥離されたレジストは洗浄剤組成物に溶解していた。
比較例1、2:基板上のレジスト残渣があった。
【0063】
[GaAsエッチング性評価]
GaAs基板上に350μmおきにストライプ状に高さ90nm、幅10nmの絶縁膜(Si34)を形成し、以下の(1)~(4)の手順でGaAsのエッチング量を求め、下記評価基準に基づきGaAsエッチング性を評価した。結果を表2に示した。
(1)初期の段差1(絶縁膜の厚み)を原子間力顕微鏡で測定した。
(2)洗浄剤組成物(実施例5~7)に70℃で13時間浸漬した。
(3)浸漬後の段差2(絶縁膜とエッチングされた部分の厚みの合計)を原子間力顕微鏡で測定した。
(4)次の式を用いてエッチング量を計算した。
エッチング量=(段差2)-(段差1)
<評価基準>
◎:エッチング量が10nm未満
〇:エッチング量が10nm以上50nm未満
△:エッチング量が50nm以上
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
表1に示すとおり、質量比A/Bが2以上8以下である実施例1~5、8~9の洗浄剤組成物は、質量比A/Bが8を超える比較例1、質量比A/Bが1.0である比較例2に比べて、浸漬温度60℃におけるネガ型レジストを用いて形成された樹脂マスクの除去性(剥離性)に優れていることがわかった。
また、表2に示すとおり、ソルビトール(成分D、糖類)を含む実施例6の洗浄剤組成物は、糖類(成分D)を含まない実施例5、7に比べてGaAsの腐食抑制効果に優れていることがわかった。水(成分E)を含む実施例7の洗浄剤組成物は、水(成分E)を含まない実施例5、6に比べて、GaAs基板の腐食抑制効果が良好ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本開示によれば、樹脂マスク除去性を向上可能な洗浄剤組成物を提供できる。そして、本開示の洗浄剤組成物を用いることで、製造される半導体素子の性能・信頼性の向上が可能となり、半導体装置の生産性を向上できる。