(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177148
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】吸音構造体
(51)【国際特許分類】
G10K 11/168 20060101AFI20241212BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20241212BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20241212BHJP
B32B 7/02 20190101ALI20241212BHJP
【FI】
G10K11/168
G10K11/16 120
B32B5/26
B32B7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024092985
(22)【出願日】2024-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2023095741
(32)【優先日】2023-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹川 哲矢
(72)【発明者】
【氏名】叶 貴麿
【テーマコード(参考)】
4F100
5D061
【Fターム(参考)】
4F100AA01A
4F100AC10A
4F100AD00A
4F100AG00A
4F100AK01B
4F100BA02
4F100BA06
4F100BA10B
4F100DE01A
4F100DG01A
4F100DG11A
4F100DG15B
4F100JA13A
4F100JA13B
4F100JH01
4F100YY00B
5D061AA03
5D061AA07
5D061AA12
5D061AA13
5D061AA23
5D061BB21
(57)【要約】
【解決課題】吸音性能に優れ、且つ、リサイクル性に優れる吸音構造体を提供すること。
【解決手段】無機繊維の集成体からなる無機繊維マットと、有機繊維の不織布からなり、該無機繊維マットを包囲する包囲材とを有し、該無機繊維は、未繊維化微粒子を含む無機繊維であり、該無機繊維の平均繊維径が30.0μm以下であり、該無機繊維マットの嵩密度が10.0~200.0kg/m
3であり、該包囲材の流れ抵抗値が50N・s/m
3~3000N・s/m
3であることを特徴とする吸音構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維の集成体からなる無機繊維マットと、
有機繊維の不織布からなり該無機繊維マットを包囲する包囲材と、を有し、
該無機繊維は、未繊維化微粒子を含む無機繊維であり、該無機繊維の平均繊維径が30.0μm以下であり、該無機繊維マットの嵩密度が10.0~200.0kg/m3であり、該包囲材の流れ抵抗値が50N・s/m3~3000N・s/m3であることを特徴とする吸音構造体。
【請求項2】
前記無機繊維が、ロックウール、セラミックファイバー又はガラス繊維であることを特徴とする請求項1記載の吸音構造体。
【請求項3】
前記包囲材の目付が10.0~80.0g/m2であることを特徴とする請求項1又は2記載の吸音構造体。
【請求項4】
前記無機繊維マットの厚みが1.0~30.0mmであることを特徴とする請求項1又は2記載の吸音構造体。
【請求項5】
前記包囲材の厚みが0.020~3.0mmであることを特徴とする請求項1又は2記載の吸音構造体。
【請求項6】
前記無機繊維の平均繊維径が3.0μm以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の吸音構造体。
【請求項7】
前記無機繊維マットの嵩密度が40.0~80.0kg/m3であることを特徴とする請求項1又は2記載の吸音構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音材料として無機繊維マットを有する吸音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車には、車外からの騒音を低減するために、吸音材料が用いられている。現在、ルーフ、ドアトリム、ラゲッジサイド、ピラー、インストルメントパネル等の内装トリムには、有機繊維の集成体からなる吸音マットを有する吸音構造体が用いられていることが多い。
【0003】
このような有機繊維の集成体からなる吸音マットは、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ナイロン樹脂、アクリル樹脂等の有機繊維が、1~30mm程度のマット状に成形されたものであり、騒音の振動が、繊維の振動エネルギーに変換されることにより吸音する吸音材として機能する。
【0004】
例えば、特許文献1には有機繊維の集成体からなる吸音マットを有する吸音構造体として、平均有効繊維直径が15ミクロン未満であり、厚さ少なくとも0.5cm、密度50kg/m3未満、試験法ASTMF778-88を用いて求めた場合に空気流の圧力低下は32リットル/分の流量で少なくとも1mmH2Oであるメルトブロー微繊維ポリプロピレンウェブを含む音波の減衰のための熱安定性防音材であって、前記ポリプロピレン微繊維は、ポリプロピレンホモポリマー、コポリマー、又はそれらのブレンドから形成されるものであり、0.2~5重量%の非揮発性の熱安定剤又は酸化防止剤が前記微繊維中に均一に分布されており、前記微繊維が135℃で少なくとも10日間は熱安定である熱安定性防音材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、自動車等で実用されている吸音構造体では、吸音マットを形成する有機繊維には、平均繊維径が1~25μm程度のものが使用されている。ここで、吸音マットに使用される有機繊維は、繊維径が小さいほど、繊維の本数及び空隙が増えるため、吸音マットを形成する繊維径が小さいほど、吸音性能が高くなることが知られている。
【0007】
しかしながら、現在、自動車等で実用されている吸音構造体の製造に用いられている有機繊維においては、価格等の観点から、平均繊維径を更に小さくすることが困難であるとの問題があった。
【0008】
また、近年の省資源の観点から、吸音構造体の吸音マットに用いられていた繊維をリサイクルすることが求められている。
【0009】
さらに、自動車の吸収構造体としては、融点の異なる2種類の熱可塑性樹脂を組み合わせた吸音マットが多く使用されている。この吸音マットは、融点の低い樹脂のみが軟化・熱融解する温度域で成型することで、融点の低い樹脂をバインダーとして利用でき、所定の厚さや形状に安定して成型することができる。そして、このことが、吸音マットのリサイクルにおいて、融点の異なる2種類の熱可塑性樹脂の分離や、包囲材の分離・除去に手間がかかることによるコストアップの問題や、融着されている包囲材を除去し切れないことにより、リサイクル品の有機繊維の組成が変化してしまうという問題に繋がる。
【0010】
従って、本発明の目的は、吸音性能に優れ、且つ、リサイクル性に優れる吸音構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下により解決される。
すなわち、本発明(1)は、無機繊維の集成体からなる無機繊維マットと、有機繊維の不織布からなり、該無機繊維マットを包囲する包囲材とを有し、該無機繊維は、未繊維化微粒子を含む無機繊維であり、該無機繊維の平均繊維径が30.0μm以下であり、該無機繊維マットの嵩密度が10.0~200.0kg/cm3であり、該包囲材の流れ抵抗値が50N・s/m3~3000N・s/m3であることを特徴とする吸音構造体を提供するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、前記無機繊維が、ロックウール、セラミックファイバー又はガラス繊維であることを特徴とする(1)の吸音構造体を提供するものである。
【0013】
また、本発明(3)は、前記包囲材の目付が10.0~80.0g/m2であることを特徴とする(1)又は(2)の吸音構造体を提供するものである。
【0014】
また、本発明(4)は、前記無機繊維マットの厚みが1.0~30.0mmであることを特徴とする(1)又は(2)の吸音構造体を提供するものである。
【0015】
また、本発明(5)は、前記包囲材の厚みが0.020~3.0mmであることを特徴とする(1)又は(2)の吸音構造体を提供するものである。
【0016】
また、本発明(6)は、前記無機繊維の平均繊維径が3.0μm以上であることを特徴とする(1)又は(2)の吸音構造体を提供するものである。
【0017】
また、本発明(7)は、前記無機繊維マットの嵩密度が40.0~80.0kg/m3であることを特徴とする(1)又は(2)の吸音構造体を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、吸音性能に優れ、且つ、リサイクル性に優れる吸音構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の吸音構造体の形態例の端面図である。
【
図2】実施例で用いたWinzac垂直入射吸音率測定システム(日本音響エンジニアリング社製)の音響管を示す模式的な端面図である。
【
図3】実施例でショットの放出防止性の試験に用いた治具の模式的な端面図である。
【
図4】参考例で用いたWinzac垂直入射吸音率測定システム(日本音響エンジニアリング社製)の音響管を示す模式的な端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の吸音構造体は、
無機繊維の集成体からなる無機繊維マットと、
有機繊維の不織布からなり該無機繊維マットを包囲する包囲材と、を有し、
該無機繊維は、未繊維化微粒子を含む無機繊維であり、該無機繊維の平均繊維径が30.0μm以下であり、該無機繊維マットの嵩密度が10.0~200.0kg/m3であり、該包囲材の流れ抵抗値が50N・s/m3~3000N・s/m3であることを特徴とする吸音構造体である。
【0021】
つまり、本発明の吸音構造体は、無機繊維の集成体からなる無機繊維マットと、有機繊維の不織布からなり、該無機繊維マットを包囲する包囲材とを有し、該無機繊維は、溶融法により製造された、未繊維化微粒子を含むロックウール、セラミックファイバー又はガラス繊維であり、該無機繊維の平均繊維径が30.0μm以下であり、該無機繊維マットの嵩密度が10.0~200.0kg/m3であり、該包囲材の流れ抵抗値が50N・s/m3~3000N・s/m3であることを特徴とする吸音構造体である。
【0022】
本発明の吸音構造体は、自動車において、吸音目的のルーフ、ドアトリム、ラゲッジサイド、ピラー、インストルメントパネル等の内装用の吸音部材として、また、吸音目的のモータールーム、フェンダーライナー等の外装用の吸音部材として用いられる。
【0023】
本発明の吸音構造体は、無機繊維の集成体からなる無機繊維マットと、有機繊維の不織布からなり、無機繊維マットを包囲する包囲材と、を有する。
【0024】
本発明の吸音構造体に係る無機繊維マットは、マットの形状に成形されている無機繊維の集成体である。つまり、無機繊維マットは、無機繊維からなる。
【0025】
無機繊維マットを形成する無機繊維は、溶融法による無機繊維、すなわち、溶融法で製造された無機繊維である。つまり、無機繊維マットを形成する無機繊維は、溶融法で製造する際に生じる、ショットと呼ばれる未繊維化微粒子を含んでおり、そして、無機繊維マットは、溶融法で製造する際に生じる、ショットと呼ばれる未繊維化微粒子を含む無機繊維を用いて作製されたものである。そのため、無機繊維マット中には、未繊維化微粒子が存在している。無機繊維マットを形成する無機繊維としては、溶融法で製造されたロックウール、セラミックファイバー又はガラス繊維が挙げられる。特に、ロックウールは燃えにくく湿気に強い点でより好ましい。
【0026】
無機繊維マットを形成する無機繊維の酸化物換算の組成は、SiO2換算のSi含有率が、好ましくは25.0~85.0質量%、より好ましくは30.0~80.0質量%であり、Al2O3換算のAl含有率が、好ましくは0.0~70.0質量%、より好ましくは0.0~65.0質量%であり、CaO換算のCa含有率が、好ましくは0.0~50.0質量%、より好ましくは0.0~45.0質量%であり、MgO換算のMg含有率が、好ましくは0.0~20.0質量%、より好ましくは0.0~15.0質量%であり、Fe2O3換算のFe含有率が、好ましくは0.0~20.0質量%、より好ましくは0.0~15.0質量%である。
【0027】
無機繊維マットを形成するロックウールの酸化物換算の組成は、SiO2換算のSi含有率が、好ましくは25.0~55.0質量%、より好ましくは30.0~50.0質量%であり、Al2O3換算のAl含有率が、好ましくは0.0~30.0質量%、より好ましくは5.0~25.0質量%であり、CaO換算のCa含有率が、好ましくは10.0~50.0質量%、より好ましくは15.0~45.0質量%であり、MgO換算のMg含有率が、好ましくは0.0~20.0質量%、より好ましくは0.0~15.0質量%であり、Fe2O3換算のFe含有率が、好ましくは0.0~20.0質量%、より好ましくは0.0~15.0質量%である。
【0028】
無機繊維マットを形成するセラミックファイバーの酸化物換算の組成は、SiO2換算のSi含有率が、好ましくは30.0~70.0質量%、より好ましくは35.0~65.0質量%であり、Al2O3換算のAl含有率が、好ましくは20.0~70.0質量%、より好ましくは25.0~65.0質量%である。
【0029】
無機繊維マットを形成するガラス繊維の酸化物換算の組成は、SiO2換算のSi含有率が、好ましくは45.0~85.0質量%、より好ましくは50.0~80.0質量%であり、Al2O3換算のAl含有率が、好ましくは0.0~35.0質量%、より好ましくは0.0~30.0質量%であり、CaO換算のCa含有率が、好ましくは0.0~35.0質量%、より好ましくは0.0~30.0質量%である。
【0030】
無機繊維マットを形成する無機繊維の平均繊維径は、細いほど吸音性能が向上すると考えられる。音は空気の疎密波であるが、無機繊維マット内に音波が進行すると繊維間の空気(空隙)が振動することで主に繊維との摩擦により音のエネルギーが失われるため、繊維径が細いほど繊維間の空気が細分化され、効率良く音波のエネルギーを吸収できると考えられる。無機繊維マットを形成する無機繊維の平均繊維径は、30.0μm以下、好ましくは20.0μm以下、より好ましくは10.0μm以下である。また、無機繊維マットを形成する無機繊維の平均繊維径の下限値は、特に制限されないが、無機繊維の平均繊維径が1.0μm未満であると、無機繊維自体の機械的強度が低下するおそれがあり、また、繊維径が細く、繊維間の隙間が小さくなり過ぎると、音波の通り道が無くなり吸音性能が低下する。そして、無機繊維マットを形成する無機繊維の平均繊維径は、吸音性能が高まる点で、3.0μm以上が好ましく、4.0μmがより好ましい。また、発がん性のリスクなど人体の健康に対する影響の観点から、無機繊維の平均繊維径が3.0μm以上であるのが好ましい。なお、本発明において、無機繊維の平均繊維径とは、無機繊維マットを形成する任意の無機繊維100本の繊維径の算術平均値を意味する。
【0031】
無機繊維マットを形成する無機繊維は、溶融法で製造された無機繊維である。無機繊維を製造する方法としては、特に制限されず、平均繊維径を、30.0μm以下であり、好ましくは20.0μm以下、より好ましくは10.0μm以下に調整できる方法であればよい。例えば、電気炉等で無機繊維の原料を1500~1600℃程度で溶融させて、溶融液を調製しておき、該溶融液を、高速回転しているスピナーに衝突させることにより、無機繊維を製造する方法、つまり溶融法が挙げられる。このような無機繊維の製造方法は、平均繊維径が小さい無機繊維を得易く、また、スピナーの回転速度等により、平均繊維径を調整することができる。
【0032】
無機繊維マットは、無機繊維以外に、無機繊維同士を結合させるためのバインダーを含有することができる。無機繊維マットに用いられるバインダーとしては、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ユリアメラミン樹脂等の有機バインダーが挙げられる。有機バインダーは、リサイクルの際に無機繊維マットを溶融させる時に酸化分解により消失するので好ましい。
【0033】
無機繊維マットがバインダーを含有する場合、無機繊維マット中のバインダーの含有量は、無機繊維100.0質量部に対し、好ましくは20.0質量部以下、より好ましくは1.0~10.0質量部である。無機繊維マット中のバインダーの含有量が上記範囲にあることにより、無機繊維マットが柔軟性をもちつつ、ねらいの厚さに安定して成形できる。
【0034】
無機繊維マットの嵩密度は、10.0~200.0kg/m3、好ましくは20.0~100.0kg/m3、より好ましくは40.0~80.0kg/m3である。無機繊維マットの嵩密度が上記範囲にあることにより、吸音構造体の吸音性能が高く、かつ遮音性能も得られる。一方、無機繊維マットの嵩密度が上記範囲未満だと、製造時や取り扱い時に、作業者が無機繊維マットを手に取った際に無機繊維マットが破損するため、ハンドリング性が悪くなることや、無機繊維マット内の繊維量が少なくなるため、吸音性能が低くなる。また、無機繊維マットの嵩密度が上記範囲未満だと、遮音性能も低くなる。さらに、無機繊維の嵩密度が上記範囲を超えると、無機繊維マット内の繊維が多くなり、無機繊維マット自体の重量が重くなると共に、無機繊維マット内に侵入する音波の進行を妨げて、吸音性能を低下させてしまう。なお、本発明において、無機繊維マットの嵩密度は、測定試料となる無機繊維マットの重量をマイクロメーター等で測定した無機繊維マットの体積で除すことにより算出した値を意味する。
【0035】
無機繊維マットにおいて、嵩密度が高くなるほど、繊維間の隙間が小さくなるため、繊維径が細いほど繊維間の空気が細分化され、効率良く音波のエネルギーを吸収できると考えられる。しかし、繊維間の隙間が小さくなり過ぎると音波の通り道が無くなるため音波が無機繊維マットの内部に進行せず、また、無機繊維マットの表面で反射されるため音波のエネルギーが吸収されず、吸音性能は低下する。一方、遮音性能は、無機繊維マットの質量が大きくなるほど高くなる。そして、透過音を減少させる効果は、吸音性能と遮音性能を合わせた効果であるため、無機繊維マットを形成する無機繊維の量による調整では、吸音性能と遮音性能はトレードオフの関係にある。そのため、無機繊維マットを形成する無機繊維の量の調整による吸音性能と遮音性能との両立に課題がある。そのような中、本発明の吸音構造体に係る溶融法によって所定の繊維径に調整された、好ましくは3.0μm以上、より好ましくは4.0μmに調整された無機繊維を用いて、所定の嵩密度の範囲、好ましくは40.0~80.0kg/m3の嵩密度の無機繊維マットを形成することで、吸音性能と遮音性能のバランスが良くなる。このことにより、透過音を減少させる遮音効果が高まる。
【0036】
無機繊維マットの厚みは、好ましくは1.0~30.0mm、より好ましくは5.0~20.0mmである。
【0037】
本発明の吸音構造体に係る包囲材は、無機繊維マットを包囲する材料である。包囲材は、有機繊維の不織布で形成されている。本発明の吸音構造体において、包囲材は、流れ抵抗値の調整により、低周波数の吸音性能を高くすると共に、無機繊維の集成体からなる無機繊維マットから、ショットと呼ばれる未繊維化微粒子が放出されるのを防ぐことができる。
【0038】
包囲材の流れ抵抗値は、50N・s/m3~3000N・s/m3、好ましくは100~2500N・s/m3、より好ましくは140~2000N・s/m3、より好ましくは159~1408N・s/m3である。本発明の吸音構造体において、包囲材の流れ抵抗値は、包囲材に形成されている繊維間隙間の大きさ及び量の指標となる。そして、包囲材の流れ抵抗値が上記範囲にあることにより、低周波数の吸音性能を高くすると共に、無機繊維の集成体からなる無機繊維マットから、ショットと呼ばれる未繊維化微粒子が放出されるのを防ぐことができる。一方、包囲材の流れ抵抗値が、上記範囲未満だと、無機繊維マットからの微粉末が放出され、また、上記範囲を超えると、無機繊維マット内への音波の進行を阻害するため、低周波数の吸音性能が低くなる。包囲材の流れ抵抗値については、包囲材を形成する有機繊維の平均繊維径、包囲材の目付、包囲材の厚さを選択することにより、包囲材の流れ抵抗値を調節することができる。なお、本発明において、流れ抵抗値については、流れ抵抗測定システムAirReSys(日本音響エンジニアリング社製)を使用することにより測定される値である。流れ抵抗と目付及び繊維径との関係については、例えば、「微小目合いを有する農業用防虫編地の開発、唐木由佑、堀江暁,東京都立産業技術研究センター研究報告書,第8号,第144~145頁,2013年」に記載されている。
【0039】
包囲材を形成する有機繊維の材質としては、特に制限されないが、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ナイロン、アクリル、ポリアミド、アラミド等の熱可塑性樹脂、綿、麻、絹等が挙げられる。
【0040】
包装材を形成する有機繊維の平均繊維径は、好ましくは0.50~30.0μm、より好ましくは1.0~20.0μm、より好ましくは2.0~10.0μmである。有機繊維の平均繊維径が上記範囲にあることにより、包囲材の流れ抵抗値を、50N・s/m3~3000N・s/m3、好ましくは100~2500N・s/m3、より好ましくは140~2000N・s/m3、より好ましくは159~1408N・s/m3に調整し易くなるので、低周波数の吸音性能を高くすると共に、無機繊維マットから微粉末が放出されるのを防ぐ効果が高まる。なお、本発明において、有機繊維の平均繊維径とは、包囲材を形成する任意の有機繊維100本の繊維径の算術平均値を意味する。
【0041】
包囲材がバインダーを含有する場合、包囲材中のバインダーの含有量は、有機繊維100.0質量部に対し、好ましくは50.0質量部以下、より好ましくは1.0~25.0質量部である。包囲材中のバインダーの含有量が上記範囲にあることにより、無機繊維マットへの音波の進行を阻害せず、ショット等の微粉末の脱落を防止することができる。
【0042】
包囲材の目付は、好ましくは10.0~400.0g/m2、より好ましくは10.0~80.0g/m2、より好ましくは40.0~80.0g/m2である。包囲材の目付が上記範囲にあることにより、無機繊維マットへの音波の進行を阻害せず、微粉末の脱落を防止することができる。
【0043】
包囲材の厚みは、好ましくは0.020~3.0mm、より好ましくは0.10~1.0mmである。
【0044】
本発明の吸音構造体では、包囲材は、無機繊維マットの周囲を囲むように配置される。
図1に、本発明の吸音構造体の形態例の端面図を示す。
図1中、吸音構造体1は、無機繊維マット2と、無機繊維マット2の一方の面側に配置されている包囲材3a及び無機繊維マット2の他方の面側に配置されている包囲材3bと、からなる。包囲材3aの端部4aと包囲材3bの端部4bは、融着等により接着されている。そして、吸音構造体1では、無機繊維マット2の周囲の全体が包囲材3(3a、3b)で包囲されているので、無機繊維マット2から微粉末が外に放出されることが防がれる。
【0045】
本発明の吸音構造体は、吸音マットを形成材料として、溶融法で製造された無機繊維を採用することにより、吸音マットを、平均繊維径が30.0μm以下、好ましくは20.0μm以下、より好ましくは10.0μm以下である繊維径が細い繊維で形成することができるので、吸音性能に優れる。
【0046】
溶融法による無機繊維の集積体からなる無機繊維マットには、微粉末の放出の問題がある。そこで、本発明の吸音構造体では、無機繊維マットを包囲材で包囲することにより、無機繊維マットから外への微粉末の放出が防がれる。このとき、包囲材を形成する有機繊維間の隙間が小さ過ぎると、無機繊維マットへの音波の進行を阻害し、吸音性能が低くなってしまい、一方で、包囲材を形成する有機繊維間の隙間が大き過ぎると、微粉末が繊維間の隙間から放出されてしまう。そのため、本発明の吸音構造体では、包囲材の流れ抵抗値が50N・s/m3~3000N・s/m3、好ましくは100~2500N・s/m3、より好ましくは140~2000N・s/m3、より好ましくは159~1408N・s/m3であることにより、吸音性能が高くなると共に、無機繊維マットから外へ微粉末が放出されることが防がれる。
【0047】
有機繊維は、1500~1600℃程度の高温では、完全に酸化分解されて消失するので、無機繊維で形成されている無機繊維マットと有機繊維で形成されている包囲材からなる本発明の吸音構造体は、リサイクルの際に、そのまま無機繊維マットから包囲材を分離することなく、1500~1600℃程度で加熱されることより、有機繊維からなる包囲材が消失し、無機繊維マットを形成する無機繊維を溶融させることができる。そのため、本発明の吸音構造体は、リサイクルの際に、有機繊維からなる包囲材を分離する必要がなく、且つ、そのまま、無機繊維マットを溶融させても、リサイクル原料の組成が変わらない。よって、本発明の吸音構造体は、リサイクル性に優れる。
【0048】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されるものではない。
【実施例0049】
(実施例及び比較例)
<無機繊維マット>
・無機繊維マット1
溶融法で製造されたロックウール(平均繊維径が4.4μm、酸化物換算で、SiO2:40.0質量%、MgO:4.0質量%、Al2O3:16.0質量%、CaO:35.0質量%、Fe2O3:1.0質量%)からなる無機繊維マット(フェルトN、ニチアス社製)、嵩密度:65.0kg/m3、厚み:10.4mm、流れ抵抗値:175N・s/m3
【0050】
<包囲材>
・包囲材1
有機繊維不織布(ユニセル社製)、有機繊維の材質:ポリエチレンテレフタレート、目付:40.0g/m2、厚み:0.10mm、流れ抵抗値:159N・s/m3
・包囲材2
有機繊維不織布(ユニセル社製)、有機繊維の材質:ポリエチレンテレフタレート、目付:61.0g/m2、厚み:0.20mm、流れ抵抗値:1155N・s/m3
・包囲材3
有機繊維不織布(ユニセル社製)、有機繊維の材質:ポリエチレンテレフタレート、目付:70.0g/m2、厚み:0.20mm、流れ抵抗値:1408N・s/m3
・包囲材4
有機繊維不織布(旭化成社製)、有機繊維の材質:ポリエチレンテレフタレート、目付:74.0g/m2、厚み:0.20mm、流れ抵抗値:2179N・s/m3
・包囲材5
有機繊維不織布(ユニセル社製)、有機繊維の材質:ポリエチレンテレフタレート、目付:23.0g/m2、厚み:0.10mm、流れ抵抗値:28N・s/m3
【0051】
(流れ抵抗値の測定方法)
流れ抵抗測定システムAirReSys(日本音響エンジニアリング社製)を使用して流れ抵抗値を測定した。
【0052】
<吸音構造体>
無機繊維マット1の両面に、包囲材1~4をそれぞれ配置し、端部を接着して、
図1に示す吸音構造体(実施例1~4)を作製した。また、比較例1として、包囲材で包囲せず無機繊維マット1のみの吸音構造体とした。また、無機繊維マット1の音波の入射面側に、包囲材5を配置し、
図1に示す吸音構造体(比較例2)を作製した。
次いで、得られた吸音構造体の垂直入射吸音率を測定した。その結果を表2に示す。
【0053】
(垂直入射吸音率の測定)
吸音構造体の垂直入射吸音率の測定装置として、Winzac垂直入射吸音率測定システム(日本音響エンジニアリング社製)を用いて、
図2に示すWinzac垂直入射吸音率測定システムの音響管に、測定対象の吸音構造体を
図2に示すように設置し、周波数を160Hzから4000Hzまで変化させたときの垂直入射吸音率を測定した。周波数が2500Hz以上のとき、吸音率が0.70以上の場合を合格(〇)、0.70未満の場合を不合格(×)とした。
【0054】
図2は、Winzac垂直入射吸音率測定システムの音響管を示す模式的な端面図である。
図2中、音響管11の内の左側に音源12が設置されており、測定時には、音響管11の内の右側に測定対象13を配置し、音源12から測定対象13に向けて、音波14を発射させて、吸音率の測定を行った。
【0055】
(ショットの放出防止性)
ロックウールのフェルト(ホームマット、ニチアス社製)を電気炉で600℃の温度で焼成して、バインダーを焼き飛ばした後、粉砕し、目の粗さ45μmの篩で篩って、篩上のショットを得た。
次いで、
図3に示す治具31に、評価対象の包囲材及びショットを配置し、表1に示す加振条件で、治具31を上下方向37に振動させた。
次いで、加振後、下記式(1)にて、ショット粒子の透過率を求めた。ショット粒子の透過率が少ないほど、ショットの放出防止性が高いことを示す。その結果を表3に示す。
ショット粒子の透過率(%)=(加振後の治具下段の粒子重量(g)/加振前の治具上段の粒子重量(g))×100 (1)
ショット粒子の透過率が1.0%以下の場合を合格(〇)、1.0%を超えた場合を不合格(×)とした。
なお、
図3に示すように、治具31は、上段治具32と下段治具33とからなり、包囲材36の上に模擬ショット粒子35を置いた状態で、包囲材36の外縁を、上段治具32と下段治具33の間で挟み込み、固定用テープ34で、上段治具32と下段治具33を固定する。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
無機繊維マットを形成する無機繊維として、ロックウールを用いる場合の透過損失を把握するために、以下の参考例1~3を行った。
【0060】
(参考例1~3)
<無機繊維マット>
・無機繊維マット2
溶融法で製造されたロックウール(平均繊維径が4.7μm、酸化物換算で、SiO2:40.0質量%、MgO:4.0質量%、Al2O3:16.0質量%、CaO:35.0質量%、Fe2O3:1.0質量%)からなる無機繊維マット(フェルトN、ニチアス社製)、嵩密度:50.0kg/m3、厚み:18.0mm
・無機繊維マット3
溶融法で製造されたロックウール(平均繊維径が4.7μm、酸化物換算で、SiO2:40.0質量%、MgO:4.0質量%、Al2O3:16.0質量%、CaO:35.0質量%、Fe2O3:1.0質量%)からなる無機繊維マット(フェルトN、ニチアス社製)、嵩密度:107.0kg/m3、厚み:18.0mm
・無機繊維マット4
溶融法で製造されたロックウール(平均繊維径が4.7μm、酸化物換算で、SiO2:40.0質量%、MgO:4.0質量%、Al2O3:16.0質量%、CaO:35.0質量%、Fe2O3:1.0質量%)からなる無機繊維マット(フェルトN、ニチアス社製)、嵩密度:126.0kg/m3、厚み:18.0mm
【0061】
<吸音構造体>
無機繊維マット2~4のそれぞれの両面に、ポリエチレンテレフタレート製の包囲材を配置し、端部を接着して、
図1に示す吸音構造体を作製した。
次いで、得られた吸音構造体の垂直入射透過損失を測定した。その結果を表4に示す。
【0062】
(垂直入射透過損失の測定)
吸音構造体の垂直入射透過損失の測定装置として、Winzac垂直入射吸音率測定システム(日本音響エンジニアリング社製)を用いて、
図4に示すWinzac垂直入射吸音率測定システムの音響管に、測定対象の吸音構造体を
図4に示すように設置し、周波数を160Hzから4000Hzまで変化させたときの垂直入射透過損失(dB)を測定した。
【0063】
図4は、Winzac垂直入射吸音率測定システムの音響管を示す模式的な端面図である。
図4中、音響管21の内の左側に音源22が設置されており、測定時には、音響管21内に、透過前空間25と透過後空間26とを仕切るように、測定対象23を配置し、音源22から測定対象23に向けて、音波24を発射させて、測定対象23に対する入射音の強さI
i及び測定対象23を透過した透過音の強さI
tを測定した。透過率τは、「透過率τ=(I
t/I
i)」で定義され、以下の計算式により垂直入射透過損失TL(dB)を求めた。
垂直入射透過損失TL(dB)=10log
10(1/τ)
【0064】
【0065】
一般に、遮音材料は、質量則に従うので、透過損失は吸音構造体の質量に依存することになる。表4では、参考例2と参考例3の周波数4000Hzの場合の嵩密度に対する透過損失の値は、それぞれ、0.11、0.12と同程度である。それに対して、参考例1の周波数4000Hzの場合の嵩密度に対する透過損失の値は、0.21と、参考例2及び参考例3の2倍程度となっている。このことから、参考例1は、参考例2及び参考例3に比べ、透過音を減少させる効率が高いことが分かる。そのため、参考例1は、参考例2及び参考例3に比べ、吸音による透過音を減少させる効果が高いと推測される。