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特開2024-177151リチウム二次電池の遷移金属の回収方法
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  • 特開-リチウム二次電池の遷移金属の回収方法 図1
  • 特開-リチウム二次電池の遷移金属の回収方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177151
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】リチウム二次電池の遷移金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20241212BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20241212BHJP
   C22B 26/20 20060101ALI20241212BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20241212BHJP
   C22B 47/00 20060101ALI20241212BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20241212BHJP
   C22B 21/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B3/08
C22B26/20
C22B23/00 102
C22B47/00
C22B3/44 101Z
C22B21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024093097
(22)【出願日】2024-06-07
(31)【優先権主張番号】10-2023-0072764
(32)【優先日】2023-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ユ ス ミン
(72)【発明者】
【氏名】パク ジ ユン
(72)【発明者】
【氏名】シム ス ヒャン
(72)【発明者】
【氏名】イ ヒョン フィ
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA36
4K001DB03
4K001DB22
4K001DB23
(57)【要約】
【課題】高効率および高純度でリチウム二次電池の遷移金属を回収する方法を提供すること。
【解決手段】リチウム二次電池の遷移金属の回収方法では、遷移金属を含む回収対象物質に酸性溶液を投入して浸出液を形成する。浸出液に塩基性化合物を浸出液の全重量に対して0.5重量%~1.9重量%投入して第1遷移金属溶液を形成する。第1遷移金属溶液にフッ素化合物を投入して第2遷移金属溶液を形成する。これにより、不純物の量を減らすとともに、回収されるニッケル、コバルトおよびマンガンの純度を向上させることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属を含む回収対象物質に酸性溶液を投入して浸出液を形成するステップと、
前記浸出液に塩基性化合物を浸出液の全重量に対して0.5重量%~1.9重量%投入して第1遷移金属溶液を形成するステップと、
前記第1遷移金属溶液にフッ素化合物を投入して第2遷移金属溶液を形成するステップとを含む、リチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項2】
前記第2遷移金属溶液を形成するステップは、前記フッ素化合物で前記第1遷移金属溶液に含まれるカルシウムを沈殿させることを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項3】
前記遷移金属は、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項4】
前記第2遷移金属溶液から順次にコバルトおよびニッケルを抽出するステップをさらに含む、請求項3に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項5】
前記第2遷移金属溶液からマンガンを抽出するステップをさらに含む、請求項3に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項6】
前記マンガンを抽出するステップは、前記第2遷移金属溶液に残留するカルシウムを除去することを含む、請求項5に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項7】
前記回収対象物質は、還元された遷移金属が含まれた沈殿物を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項8】
前記酸性溶液は硫酸を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項9】
前記浸出液のpHは1~2である、請求項1に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項10】
前記塩基性化合物は、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムおよび水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項11】
前記第1遷移金属溶液のpHは3~4.5である、請求項1に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項12】
前記フッ素化合物は、フッ化ナトリウム、フッ化マグネシウムおよびフッ化カリウムからなる群より選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項13】
前記第1遷移金属溶液はカルシウムおよびアルミニウムを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項14】
前記フッ素化合物は、下記式1を満たすように投入される、請求項13に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
[式1]
1≦(FL♯)÷[((CA♯)×2)+((AL♯)×3)]≦2
式1中、FL♯は前記フッ素化合物に含まれるフッ素のモル数であり、CA♯は前記第1遷移金属溶液に含まれるカルシウムのモル数であり、AL♯は前記第1遷移金属溶液に含まれるアルミニウムのモル数である。
【請求項15】
前記第2遷移金属溶液のpHは5超え7以下である、請求項1に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【請求項16】
前記第1遷移金属溶液を形成するステップおよび前記第2遷移金属溶液を形成するステップは、50℃~90℃の温度で行われる、請求項1に記載のリチウム二次電池の遷移金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウム二次電池の遷移金属の回収方法に関し、より詳細には、リチウム二次電池の正極活物質から遷移金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、カムコーダー、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯用電子通信機器、及びハイブリッド自動車、電気自動車などの車両の動力源として広く適用および開発されている。二次電池としては、リチウム二次電池が、動作電圧および単位重量当たりのエネルギー密度が高く、充電速度および軽量化に有利な点で積極的に開発及び適用されてきた。
【0003】
前記リチウム二次電池の正極用活物質としては、リチウム金属酸化物を用いることができる。前記リチウム金属酸化物は、さらに、鉄、ニッケル、コバルト、マンガンなどの有価金属を共に含有することができる。
【0004】
前記正極用活物質に前述した高コストの有価金属が用いられることにより、正極材の製造に製造コストの20%以上がかかっている。また、近年、環境保護への関心が高まることによって、正極用活物質のリサイクル方法の研究が進められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の課題は、高効率および高純度でリチウム二次電池の遷移金属を回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態によるリチウム二次電池の遷移金属の回収方法では、遷移金属を含む回収対象物質に酸性溶液を投入して浸出液を形成する。前記浸出液に、塩基性化合物を浸出液の全重量に対して0.5重量%~1.9重量%投入して第1遷移金属溶液を形成する。前記第1遷移金属溶液にフッ素化合物を投入して第2遷移金属溶液を形成する。
【0007】
いくつかの実施形態では、前記第2遷移金属溶液を形成するステップは、前記フッ素化合物で前記第1遷移金属溶液に含まれたカルシウムを沈殿させることを含むことができる。
【0008】
いくつかの実施形態では、前記遷移金属は、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群より選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0009】
いくつかの実施形態では、前記第2遷移金属溶液から順次にコバルトおよびニッケルを抽出することができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、前記第2遷移金属溶液からマンガンを抽出することができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、前記マンガンを抽出するステップは、前記第2遷移金属溶液に残留するカルシウムを除去することを含むことができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記回収対象物質は、還元された遷移金属が含まれた沈殿物を含むことができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記酸性溶液は硫酸を含むことができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記浸出液のpHは1~2であってもよい。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記塩基性化合物は、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムおよび水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、前記第1遷移金属溶液のpHは3~4.5であってもよい。
【0017】
いくつかの実施形態では、前記フッ素化合物は、フッ化ナトリウム、フッ化マグネシウムおよびフッ化カリウムからなる群より選択される少なくとも1つを含むことができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記第1遷移金属溶液は、カルシウムおよびアルミニウムを含むことができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、前記フッ素化合物は、下記式1を満たすように投入することができる。
[式1]
1≦(FL♯)÷[((CA♯)×2)+((AL♯)×3)]≦2
【0020】
式1中、FL♯は前記フッ素化合物に含まれるフッ素のモル数であり、CA♯は前記第1遷移金属溶液に含まれるカルシウムのモル数であり、AL♯は前記第1遷移金属溶液に含まれるアルミニウムのモル数である。
【0021】
いくつかの実施形態では、前記第2遷移金属溶液のpHは、5超え7以下であってもよい。
【0022】
いくつかの実施形態では、前記第1遷移金属溶液を形成するステップ、および前記第2遷移金属溶液を形成するステップは、50℃~90℃の温度で行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
前述の例示的な実施形態によれば、溶解度の差による選択的な金属イオンの沈殿によって不純物(例えば、アルミニウム、鉄、カルシウム)を除去し、遷移金属(例えば、ニッケル、コバルト、マンガン)を高純度で回収することができる。
【0024】
例えば、塩基性化合物を投入してニッケル、コバルトおよびマンガンの沈殿が起こらないpH区間を形成することにより、ニッケル、コバルトおよびマンガンの損失を低減しながらアルミニウムおよび鉄を除去することができる。
【0025】
いくつかの実施形態では、フッ素化合物を所定の含有量で投入してカルシウムを除去することができ、ニッケル、コバルトおよびマンガンの沈殿が起こるpH区間でもニッケル、コバルトおよびマンガンの損失を減らすことができる。
【0026】
これにより、pH区間別に沈殿剤である塩基性化合物およびフッ素化合物をそれぞれ投入する場合、リチウム二次電池の遷移金属の回収効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、例示的な実施形態によるリチウム二次電池の遷移金属の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。
図2図2は、pHによる金属水酸化物の溶解度である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本開示の例示的な実施形態は、塩基性化合物およびフッ素化合物を順次投入する工程を含むリチウム二次電池の遷移金属の回収方法を提供する。
【0029】
以下、添付の図面を参照して、本開示の実施形態をより具体的に説明する。但し、これらの実施形態は本開示を例示するものに過ぎず、本開示を制限するものではない。
【0030】
図1は、例示的な実施形態によるリチウム二次電池の遷移金属の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。
【0031】
図1を参照すると、遷移金属を含む回収対象物質に酸性溶液を投入して浸出液を形成することができる(例えば、ステップS10)。
【0032】
いくつかの実施形態では、前記遷移金属は、ニッケル、コバルトおよびマンガンからなる群より選択される少なくとも1つを含むことができる。例えば、前記遷移金属は、最終的に抽出されるニッケルおよびコバルトを含むことができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、前記回収対象物質は、還元された遷移金属が含まれた沈殿物を含むことができる。例えば、廃リチウム二次電池または使用済みのリチウム二次電池を粉砕して正極活物質を得ることができ、前記正極活物質からリチウムを除去し、還元された遷移金属が含まれた沈殿物を得ることができる。
【0034】
前記リチウム二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在する分離膜とを含む電極組立体を含むことができる。前記の正極および負極は、それぞれ正極集電体および負極集電体上にコーティングされた正極活物質層および負極活物質層を含むことができる。
【0035】
例えば、前記正極活物質層に含まれる正極活物質は、リチウムおよび遷移金属を含有する酸化物を含むことができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、下記化学式1で表される構造を有する化合物を含むことができる。
【0037】
[化学式1]
LiNi1-y2+z
【0038】
化学式1中、xは0.9≦x≦1.1、yは0≦y≦0.7、zは-0.1≦z≦0.1、MはNa、Mg、Ca、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Fe、Cu、Ag、Zn、B、Al、Ga、C、Si、SnまたはZrから選択される1種以上の元素であってもよい。
【0039】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含むNCM系リチウム酸化物であってもよい。
【0040】
例えば、前記廃リチウム二次電池から前記正極を分離して廃正極を回収することができる。前記廃正極は、前述のように正極集電体(例えば、アルミニウム(Al))および正極活物質層を含み、前記正極活物質層は、前述の正極活物質に加えて、導電材及び結合剤を共に含むことができる。
【0041】
前記導電材は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブなどの炭素系物質を含むことができる。前記結合剤は、例えば、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニリデンフルオリド(polyvinylidenefluoride,PVDF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)などの樹脂物質を含むことができる。
【0042】
例えば、前記廃正極を粉砕して正極活物質を収集することができる。これにより、前記正極活物質は、リチウム遷移金属酸化物の粉末を含み、例えば、NCM系リチウム酸化物粉末(例えば、Li(NCM)O)を含むことができる。
【0043】
前記正極活物質は、前記正極集電体、前記結合剤または前記導電材に由来する成分を一部含んでもよい。例えば、前記正極活物質は、NCM系リチウム酸化物のような正極活物質粒子で実質的に構成されてもよい。
【0044】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質に熱処理を行うことにより、前記正極活物質に含まれる前記の導電材および結合剤を除去または低減して、高純度のリチウム遷移金属酸化物粒子を得ることができる。
【0045】
前記熱処理の温度は、例えば約100℃~500℃、好ましくは約350℃~450℃であってもよい。前記範囲内では、実質的に前記の導電材および結合剤が除去され、リチウム遷移金属酸化物粒子の分解、損傷を防止することができる。
【0046】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質からリチウムをリチウム水酸化物の形態で除去し、還元された遷移金属が含まれた沈殿物を得ることができる。
【0047】
例えば、前記正極活物質を還元性ガスである水素ガスで還元すると、リチウム水酸化物(LiOH)、リチウム酸化物(例えば、LiO)を含む予備リチウム前駆体、および遷移金属または遷移金属酸化物が生成され得る。例えば、還元性反応により、前記予備リチウム前駆体とともに、Ni、Co、Mn、NiO、CoOまたはMnOが生成され得る。
【0048】
前記還元反応は、約400℃~700℃、好ましくは約450℃~550℃で行うことができる。前記反応温度の範囲内では、前記予備リチウム前駆体及び前記遷移金属/遷移金属酸化物の再凝集、再結合を招くことなく還元反応を促進することができる。
【0049】
例えば、前記予備リチウム前駆体と、前記遷移金属または遷移金属酸化物との混合物をカルシウム化合物が含まれた水で水洗処理すると、リチウム水酸化物(LiOH)の形態の予備リチウム前駆体は、実質的に水に溶解し得る。例えば、リチウム酸化物およびリチウムカーボネートの形態の予備リチウム前駆体は、前記水洗処理によって部分的にリチウム水酸化物に変換され、水に溶解し得る。
【0050】
一実施形態では、前記カルシウム化合物は、水酸化カルシウムおよび酸化カルシウムのうちの少なくとも1つを含むことができる。例えば、水洗工程中に前記カルシウム化合物を投入すると、炭酸リチウム及びフッ化リチウムが水酸化リチウムに変換され、前記予備リチウム前駆体を含むリチウム水溶液に含まれ、溶解度の低い炭酸カルシウム及びフッ化カルシウムが沈殿し得る。
【0051】
一実施形態では、前記水洗処理後の固液分離工程により、前記リチウム水溶液および還元された遷移金属が含まれた沈殿物を別に得ることができる。例えば、前記還元された遷移金属が含まれた沈殿物は、前記還元性反応によって生成されたニッケル、コバルトおよびマンガン、並びに前記の炭酸カルシウムおよびフッ化カルシウムを含むことができる。
【0052】
前述のいくつかの実施形態により準備された遷移金属を含む回収対象物質に酸性溶液を投入して浸出液を形成することができる。例えば、前記還元された遷移金属が含まれた沈殿物に酸性溶液を投入して固液分離することにより、浸出液および浸出残渣を得ることができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、前記浸出液はニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム、鉄およびカルシウムを含むことができる。例えば、前記浸出液中のニッケル、コバルトおよびマンガンの濃度の合計は、100g/L~120g/Lであってもよい。
【0054】
いくつかの実施形態では、前記酸性溶液は硫酸、塩酸、硝酸、シュウ酸およびクエン酸のうちの少なくとも1つを含むことができる。いくつかの実施形態では、前記酸性溶液は硫酸を含むことができる。例えば、前述した種類の酸性溶液を用いると、前記遷移金属が容易に浸出し得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、前記浸出液のpHは1~2であってもよい。前記範囲内では、遷移金属が十分に浸出しながらも、第1遷移金属溶液の形成時に必要な塩基性化合物の使用量を低減することができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、50℃~90℃の温度および100rpm~500rpmで4時間~8時間浸出を行うことができる。
【0057】
例えば、温度は60℃~85℃または70℃~80℃であってもよく、回転数は150rpm~400rpmまたは200rpm~300rpmであってもよく、実行時間は5時間~7時間または5.5時間~6.5時間であってもよい。前記範囲内では、遷移金属の浸出を容易に行うことができる。
【0058】
例えば、ステップS20では、前記浸出液に塩基性化合物を浸出液の全重量に対して0.5重量%~1.9重量%投入して第1遷移金属溶液を形成することができる。
【0059】
いくつかの実施形態では、前記塩基性化合物は、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムおよび水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも1つを含むことができる。いくつかの実施形態では、前記塩基性化合物は水酸化ナトリウムを含むことができる。
【0060】
例えば、前述した種類の塩基性化合物は、前記浸出液に含まれる鉄及びアルミニウムを少なくとも部分的に水酸化物の形態(例えば、Fe(OH)及びAl(OH))で沈殿させることができる。その後、固液分離により、浸出液から鉄及びアルミニウムが除去された第1遷移金属溶液を得ることができる。
【0061】
いくつかの実施形態では、前記塩基性化合物の投入量は、浸出液の全重量に対して、0.5重量%~1.9重量%、0.6重量%~1.8重量%、0.6重量%~1.7重量%、0.7重量%~1.5重量%、0.5重量%~1.5重量%、0.5重量%~1.4重量%、0.6重量%~1.3重量%、0.7重量%~1重量%、または0.5重量%~1重量%であってもよい。
【0062】
例えば、前記塩基性化合物の投入量が浸出液の全重量に対して0.5重量%未満であると、鉄及びアルミニウムが水酸化物の形態で少なく沈殿して十分に除去されないことがあり、1.9重量%を超えると、pHが高くなり、ニッケル、コバルト及びマンガンの損失が増加することがある。
【0063】
図2は、pHによる金属水酸化物の溶解度である。
【0064】
図2を参照すると、pHが増加するにつれて、鉄、アルミニウム、ニッケル、コバルト、マンガン、およびカルシウムが順次に水酸化物の形態で沈殿することが分かる。例えば、塩基性化合物の投入量が前記範囲内にあると、鉄及びアルミニウムが十分に沈殿しながらもニッケル、コバルト及びマンガンの沈殿が少なくなるpHを維持することができる。
【0065】
いくつかの実施形態では、前記第1遷移金属溶液のpHは3.0~4.5であってもよい。いくつかの実施形態では、前記第1遷移金属溶液のpHは、3.0~4.3、3.0~4.0、3.5~4.0、または3.8~4.0であってもよい。前記範囲内では、ニッケル、コバルトおよびマンガンの損失を抑制しながらも鉄およびアルミニウムが十分に除去された第1遷移金属溶液を得ることができる。
【0066】
一実施形態では、前記塩基性化合物は、水溶液の形態で投入することができる。例えば、前記浸出液に水酸化ナトリウム水溶液を投入することができる。
【0067】
いくつかの実施形態では、前記第1遷移金属溶液は、カルシウムおよびアルミニウムを含むことができる。例えば、前記浸出液から鉄およびアルミニウムが除去された後、前記第1遷移金属溶液は、ニッケル、コバルト、マンガン、残留カルシウムおよび残留アルミニウムを含むことができる。
【0068】
いくつかの実施形態では、前記第1遷移金属溶液に含まれるアルミニウムの含有量は、第1遷移金属溶液の全重量に対して、0.08重量%~0.21重量%、0.1重量%~0.2重量%、または0.15重量%~0.18重量%であってもよい。
【0069】
例えば、前記浸出液からアルミニウムを過度に除去すると、第1遷移金属溶液のpHが6.0以上に高くなり、コロイド状の沈殿物(Al(OH))が過度に発生し、固液分離が容易でないことがある。
【0070】
したがって、前記範囲内では、ニッケル、コバルトおよびマンガンの損失を抑制しながらもアルミニウムが十分に除去された第1遷移金属溶液を得ることができる。
【0071】
いくつかの実施形態では、第1遷移金属溶液の形成を進める温度条件は、50℃~90℃、60℃~85℃、または70℃~80℃であってもよい。常温(25℃)では、鉄とアルミニウムの沈殿反応が起こる速度が遅いため、前記温度の範囲内では平衡状態に達する時間が短くなる。
【0072】
いくつかの実施形態では、第1遷移金属溶液の形成を進める時間は、1時間~4時間、1.5時間~3時間、または2時間~3時間であってもよい。前記範囲内では、鉄およびアルミニウムの水酸化物(Fe(OH)及びAl(OH))が形成される沈殿反応を十分に行うことができる。
【0073】
例えば、ステップS30では、前記第1遷移金属溶液にフッ素化合物を投入して第2遷移金属溶液を形成することができる。
【0074】
いくつかの実施形態では、前記フッ素化合物は、フッ化ナトリウム、フッ化マグネシウムおよびフッ化カリウムからなる群より選択される少なくとも1つを含むことができる。好ましくは、前記フッ素化合物はフッ化ナトリウムを含むことができる。
【0075】
いくつかの実施形態では、前記第2遷移金属溶液を形成するステップは、前記フッ素化合物で前記第1遷移金属溶液に含まれたカルシウムを沈殿させることを含むことができる。
【0076】
例えば、前述した種類のフッ素化合物は、前記第1遷移金属溶液に含まれるカルシウムおよび残留アルミニウムを少なくとも部分的にフッ化物の形態(例えば、CaF及びAlF(OH)3-x)で沈殿させることができる。その後、固液分離により、第1遷移金属溶液からカルシウムおよび残留アルミニウムが除去された第2遷移金属溶液を得ることができる。
【0077】
いくつかの実施形態では、前記フッ素化合物は、下記式1を満たすように投入することができる。
【0078】
[式1]
1≦(FL♯)÷[((CA♯)×2)+((AL♯)×3)]≦2
【0079】
例えば、前記フッ素化合物は、下記の式2または式3を満たすように投入することができる。
【0080】
[式2]
1.2≦(FL♯)÷[((CA♯)×2)+((AL♯)×3)]≦1.8
【0081】
[式3]
1.3≦(FL♯)÷[((CA♯)×2)+((AL♯)×3)]≦1.6
【0082】
前記の式1~3中、FL♯は前記フッ素化合物に含まれるフッ素のモル数であり、CA♯は前記第1遷移金属溶液に含まれるカルシウムのモル数であり、AL♯は前記第1遷移金属溶液に含まれるアルミニウムのモル数である。
【0083】
例えば、前記フッ素化合物が前記の式1、式2または式3を満たすと、ニッケル、コバルトおよびマンガンの損失を抑制しながらもカルシウムおよび残留アルミニウムを十分に除去することができる。これにより、回収されるニッケルおよびコバルトの純度を高めることができる。
【0084】
いくつかの実施形態では、前記第2遷移金属溶液のpHは5超え7以下であってもよい。いくつかの実施形態では、前記第2遷移金属溶液のpHは、5超え7未満、5.5~7、5.5~6.5、または6.0~6.5であってもよい。前記範囲内では、ニッケル、コバルトおよびマンガンの損失を抑制しながらもカルシウムおよび残留アルミニウムが十分に除去された第2遷移金属溶液を得ることができる。
【0085】
いくつかの実施形態では、前記第2遷移金属溶液は、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含むことができる。例えば、前記第2遷移金属溶液は、カルシウムおよびアルミニウムを含んでいなくてもよく、微量で含んでいてもよい。
【0086】
いくつかの実施形態では、第2遷移金属溶液の形成を進める温度条件は、50℃~90℃、60℃~85℃、または70℃~80℃であってもよい。常温(25℃)では、カルシウムおよびアルミニウムの沈殿反応が起こる速度が遅いため、反応温度を上げると、平衡状態に達する時間が短くなる。
【0087】
前記温度の範囲内では、ニッケル、コバルトおよびマンガンの損失を抑制しながらもカルシウムを除去する速度を速めることができる。これにより、高純度のニッケルおよびコバルトを効率的に得ることができる。
【0088】
いくつかの実施形態では、第2遷移金属溶液の形成を進める時間は、30分~3時間、30分~2時間、または30分~1時間であってもよい。前記範囲内では、カルシウムおよびアルミニウムのフッ化物(CaF及びAlF(OH)3-x)が形成される沈殿反応を十分に行うことができる。
【0089】
いくつかの実施形態では、前記第2遷移金属溶液からマンガンを抽出することができる。
【0090】
いくつかの実施形態では、前記マンガンを抽出するステップは、前記第2遷移金属溶液に残留するカルシウムを除去することを含むことができる。例えば、前記カルシウムは、ステップS30での沈殿反応および固液分離により得られた第2遷移金属溶液に残っている残留カルシウムであってもよい。
【0091】
いくつかの実施形態では、前記マンガンを抽出するステップは、第2遷移金属溶液に抽出剤を投入することを含むことができる。
【0092】
例えば、前記抽出剤は、リン酸系抽出剤を含むことができる。例えば、前記リン酸系抽出剤としては、ジ-2-エチルヘキシルリン酸(D2EHPA)、2-エチルヘキシルリン酸モノ-2-エチルヘキシルエステル、およびトリブチルホスフェートなどが挙げられる。例えば、前記抽出剤は水酸化ナトリウムおよび硫酸と共に投入することができる。
【0093】
これにより、ステップS40では、前記第2遷移金属溶液に含まれる微量の残留カルシウムが除去され、回収されるニッケル及びコバルトの純度を高めることができる。
【0094】
いくつかの実施形態では、前記第2遷移金属溶液から順次にコバルトおよびニッケルを抽出することができる(例えば、ステップS50)。
【0095】
例えば、第2遷移金属溶液は、コバルト抽出工程(例えば、ステップS51)に投入し、コバルト抽出後のニッケル抽出工程(例えば、ステップS52)に投入することができる。例えば、前記第2遷移金属溶液は、前記コバルト抽出工程の投入前に、前述したマンガン抽出工程(例えば、ステップS40)に選択的に投入することができる。
【0096】
これにより、第2遷移金属溶液から高純度のコバルトおよびニッケルを抽出することができる。例えば、前述したコバルトの抽出およびニッケルの抽出は、連続して行うことができる。
【0097】
いくつかの実施形態では、前記コバルト抽出工程で使用される抽出剤は、次亜リン酸(hypophosphorous acid)系抽出剤を含み、例えば、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸などが挙げられる。
【0098】
いくつかの実施形態では、前記ニッケル抽出工程で使用される抽出剤は、リン酸系抽出剤、亜リン酸系抽出剤、およびカルボン酸系抽出剤のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0099】
例えば、ジ-2-エチルヘキシルリン酸(D2EHPA)、2-エチルヘキシルリン酸モノ-2-エチルヘキシルエステル、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフィンオキシド、およびアルキルモノカルボン酸などが挙げられる。
【0100】
いくつかの実施形態では、前記コバルト抽出工程および前記ニッケル抽出工程で使用される抽出剤は、水酸化ナトリウムおよび硫酸と共に投入することができる。これにより、ニッケルおよびコバルトは、それぞれ硫酸ニッケルおよび硫酸コバルトの形態で抽出して得ることができる。
【0101】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示するが、これらの実施例は本発明を例示するものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を制限するものではない。これらの実施例に対し、本発明の範疇および技術思想の範囲内で種々の変更および修正を加えることが可能であることは当業者にとって明らかであり、これらの変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然のことである。
【0102】
製造例
スクラップ金属であるLi-Ni-Co-Mn酸化物正極活物質を水素ガスで還元処理し、水酸化カルシウムを投入しながら水洗した後に固液分離して、還元された遷移金属が含まれた沈殿物(NCM Paste)を得た。
【0103】
前記沈殿物に2M硫酸溶液を投入し、80℃及び250rpmの条件で6時間浸出させた後、遠心分離により浸出残渣を分離し、2種類の浸出液(浸出液1及び浸出液2)を得た(ステップS10)。
【0104】
得られた浸出液1及び2にそれぞれ水酸化ナトリウム(50%)水溶液を投入し、80℃で2時間反応させた後、遠心分離して、沈殿が除去された第1遷移金属溶液を得た(ステップS20)。
【0105】
浸出液1及び2から得られたそれぞれの第1遷移金属溶液にフッ化ナトリウムを投入し、80℃で30分間反応させた後、遠心分離して、沈殿が除去された第2遷移金属溶液を得た(ステップS30)。
【0106】
実験例
1.塩基性化合物の投入前の浸出液の金属濃度及びpH
水酸化ナトリウム(50%)水溶液を投入する前の浸出液1及び2に含まれている金属の濃度を測定した。
また、pHメーターを用いて、前記浸出液1及び2のpHを測定した。
測定の結果を下記表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
2.第1遷移金属溶液の金属濃度及びpH
下記表2により、浸出液1の全重量(150g)に対して水酸化ナトリウム(50%)水溶液の投入量を異ならせて、製造例に記載の方法により実施例及び比較例の第1遷移金属溶液を形成した。
実施例及び比較例の第1遷移金属溶液に含まれている金属の濃度及び第1遷移金属溶液のpHを測定し、その結果を下記表2に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
表2を参照すると、実施例による第1遷移金属溶液では、コロイド状の沈殿物が過度に生成することなく、ニッケル、コバルトおよびマンガンの損失が抑制された。
【0111】
これに対し、比較例1による第1遷移金属溶液では、アルミニウムおよびカルシウムの含有量が多く、比較例2による第1遷移金属溶液では、実施例による第1遷移金属溶液と比較してニッケル、コバルトおよびマンガンの損失がより多かった。
【0112】
比較例2による第1遷移金属溶液では、コロイド状の沈殿物(Al(OH))が過度に発生し、固液分離が容易ではなかった。
【0113】
3.第2遷移金属溶液の金属濃度及びpH
浸出液2の全重量(150g)に対して水酸化ナトリウム(50%)水溶液を1.5g(1重量%)投入して、参考例1の第1遷移金属溶液を製造した。
参考例1の第1遷移金属溶液に含まれている金属の濃度および第1遷移金属溶液のpHを測定し、その結果を下記表3に示す。
【0114】
【表3】
【0115】
その後、下記表4により、浸出液2から得られた参考例1の第1遷移金属溶液に対してフッ化ナトリウムの投入量を異ならせて、製造例に記載された方法により実施例4、5及び比較例3の第2遷移金属溶液を形成した。
実施例4、5及び比較例3の第2遷移金属溶液に含まれている金属の濃度及び第2遷移金属溶液のpHを測定し、その結果を下記表4に示す。
【0116】
【表4】
1)(FL♯)÷[((CA♯)×2)+((AL♯)×3)]
FL♯は前記フッ素化合物に含まれるフッ素のモル数であり、CA♯は前記第1遷移金属溶液に含まれるカルシウムのモル数であり、AL♯は前記第1遷移金属溶液に含まれるアルミニウムのモル数である。
【0117】
表4を参照すると、実施例4及び5による第2遷移金属溶液では、pHが5超えであり、ニッケル、コバルトおよびマンガンの損失が抑制されながらも、カルシウムおよびアルミニウムの濃度が低かった。
【0118】
これに対し、比較例3による第2遷移金属溶液では、実施例4及び5による第2遷移金属溶液と比較してカルシウムおよびアルミニウムの濃度が高かった。
【0119】
4.常温でステップS20及びステップS30を行って形成した第2遷移金属溶液の金属濃度
ステップS20を常温(25℃)で2時間行ったこと、ステップS30を常温(25℃)で22時間行ったこと以外は、製造例と同様の方法により第2遷移金属溶液を形成した。
【0120】
ここで、ステップS20において、浸出液1の全重量(150g)に水酸化ナトリウム(50%)水溶液1.5g(1重量%)を投入し、ステップS30において、浸出液1から得られた第1遷移金属溶液にフッ化ナトリウム1.5eq(前記「表4の1)」と同様にして計算した。)を投入した。
【0121】
形成された第2遷移金属溶液に含まれている金属の濃度を実行時間別に測定し、その結果を下記表5に示す。
【0122】
【表5】
【0123】
表5を参照すると、塩基性化合物およびフッ素化合物の投入量が同じである表4の実施例5の第2遷移金属溶液と比較して、ステップS20及びS30を常温で行って形成した第2遷移金属溶液では、カルシウム及びアルミニウムの沈殿反応が起こる速度が遅かった。このことから、反応温度が高い場合に、高純度のニッケルおよびコバルトが効率的に得られることが分かる。
図1
図2