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特開2024-177153コンピュータ断層撮像システムにおける散乱線推定装置および方法及び情報処理装置
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  • 特開-コンピュータ断層撮像システムにおける散乱線推定装置および方法及び情報処理装置 図1
  • 特開-コンピュータ断層撮像システムにおける散乱線推定装置および方法及び情報処理装置 図2
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  • 特開-コンピュータ断層撮像システムにおける散乱線推定装置および方法及び情報処理装置 図4
  • 特開-コンピュータ断層撮像システムにおける散乱線推定装置および方法及び情報処理装置 図5
  • 特開-コンピュータ断層撮像システムにおける散乱線推定装置および方法及び情報処理装置 図6A
  • 特開-コンピュータ断層撮像システムにおける散乱線推定装置および方法及び情報処理装置 図6B
  • 特開-コンピュータ断層撮像システムにおける散乱線推定装置および方法及び情報処理装置 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177153
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】コンピュータ断層撮像システムにおける散乱線推定装置および方法及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
A61B6/03 510A
A61B6/03 560T
A61B6/03 550K
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024093282
(22)【出願日】2024-06-07
(31)【優先権主張番号】18/332,237
(32)【優先日】2023-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VERILOG
2.SOLARIS
3.Linux
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユジエ・リュウ
(72)【発明者】
【氏名】リヤン・ツァイ
(72)【発明者】
【氏名】ジエン・ジョウ
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093FC26
4C093FC30
4C093FE06
4C093FF06
4C093FF34
(57)【要約】
【課題】散乱線推定および補正において、従来に比して精度を高め且つ処理時間を短縮すること。
【解決手段】複数の検出器ピクセルを有する検出器を備えたCTにおける散乱線推定の方法である。方法は撮像オブジェクトをスキャンすることで投影データを取得すること、投影データから画像データを再構成すること、投影データに基づいて第1の散乱線分布を推定すること、第1の散乱線分布に基づいてピクセルの内の第1のサブセットを選択すること、投影データと画像データとに基づいて、選択した第1のサブセットについて第1の散乱線分布よりも精度が高い第2の散乱線分布を算出すること、第2の散乱線分布に基づいて、ピクセルの内の第2のサブセットについて第2の散乱線分布よりも空間分解能が高い第3の散乱線分布を取得することと、を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の検出器ピクセルを有する検出器を備えたコンピュータ断層撮像(CT)システムにおいて散乱線推定を行う方法であって、前記方法は、
前記CTシステムを用いて撮像オブジェクトをスキャンすることで投影データを取得することと、
前記取得した投影データから画像データを再構成することと、
前記取得した投影データに基づいて第1の散乱線分布を推定することと、
前記推定した第1の散乱線分布に基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の第1のサブセットを選択することと、
前記取得した投影データと前記再構成された成画像データとに基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の前記選択した第1のサブセットについて、前記推定した第1の散乱線分布よりも精度が高い第2の散乱線分布を算出することと、
前記算出した第2の散乱線分布に基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の第2のサブセットについて、前記算出した第2の散乱線分布よりも空間分解能が高い第3の散乱線分布を取得することと、を含み、
前記第2のサブセットは前記第1のサブセットを含む、
方法。
【請求項2】
前記取得した第3の散乱線分布に基づいて、前記推定した第1の散乱線分布と比較して精度が高く且つより高次の散乱成分を含む第4の散乱線分布を決定すること、を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記推定は、前記推定した第1の散乱線分布として、散乱線の一次散乱成分に関する分布を推定すること、を更に含み、前記一次散乱成分は前記撮像オブジェクト内で起こる1回の散乱イベントにより生じ、
前記決定は、前記決定した第4の散乱線分布として、全散乱線分布を決定すること、を更に含み、前記全散乱線分布は前記散乱線の前記一次散乱成分および全てのより高次の成分に関し、より高次の前記散乱成分のそれぞれは前記撮像オブジェクト内で起こる対応する多重散乱イベントにより生じる、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記推定は、前記推定した第1の散乱線分布として、前記散乱線の前記一次散乱成分および二次散乱成分に関する分布を推定すること、を更に含み、前記二次散乱成分は前記撮像オブジェクト内で起こる2回の散乱イベントにより生じる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記推定は、前記推定した第1の散乱線分布として、前記散乱線の前記一次散乱成分と、二次散乱成分と、三次散乱成分に関する分布を推定すること、を更に含み、前記二次散乱成分は前記撮像オブジェクト内で起こる2回の散乱イベントにより生じ、前記三次散乱成分は前記撮像オブジェクト内で起こる3回の散乱イベントにより生じる、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記決定は、
前記取得した第3の散乱線分布をトレーニング済のニューラルネットワークに入力することと、
前記決定した第4の散乱線分布として、前記トレーニング済のニューラルネットワークの出力を得ることと、
を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記CTシステムで物理処理ベースのシミュレーションを行い、前記ニューラルネットワークのトレーニングデータセットとして、前記一次散乱成分に関する異なる分布と対応する全散乱線分布とを生成することと、
前記ニューラルネットワークを前記生成したトレーニングデータセットでトレーニングして、前記一次散乱成分に関する前記異なる分布と前記対応する全散乱線分布とのマッピングを学習することと、
を更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記推定した第1の散乱線分布は、前記取得した投影データと比較して粒度が荒い、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記推定は、
取得した投影データをトレーニング済のニューラルネットワークに入力することと、
前記推定した第1の散乱線分布として、前記トレーニング済のニューラルネットワークの出力を得ること、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
物理処理ベースのシミュレーションを前記CTシステムで行い、前記ニューラルネットワーク用のトレーニングデータセットとして、異なる投影データと対応する散乱線分布とを生成することと、
前記ニューラルネットワークを前記生成したトレーニングデータセットでトレーニングし、前記異なる投影データと前記対応する散乱線分布との間のマッピングを学習すること、
を更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記選択は、前記複数の検出器ピクセルの内の前記選択した第1のサブセットを得るために、所定の基準に基づいて前記複数の検出器ピクセルをダウンサンプリングすること、を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ダウンサンプリングは、前記推定した第1の散乱線分布が局所的最大または局所的最小を有する各検出器ピクセルの数を決定することで、前記複数の検出器ピクセルの内の前記選択した第1のサブセットを生成すること、を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記生成は、前記複数の検出器ピクセルの前記選択した第1のサブセット内の検出器ピクセルのスパース性(sparsity)が所定の閾値を越えたことに応答して、前記複数の検出器ピクセルの前記選択した第1のサブセット内の検出器ピクセルの総数が所定の数に達するまで、別の数の検出器ピクセルを、前記複数の検出器ピクセルの前記選択した第1のサブセットに加えること、を更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記算出は、前記算出した第2の散乱線分布を生成するために、物理処理ベースのシミュレーションを実行すること、を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記実行は、前記シミュレーションを放射伝達方程式(radiative transfer equation:RTE)法またはモンテカルロ(Monte Carlo)法に基づいて実行すること、を更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
コンピュータ断層撮像(CT)システムにおいて散乱線推定を行う方法であって、前記方法は、
前記CTシステムを用いて撮像オブジェクトをスキャンすることで投影データを取得することと、
前記取得した投影データから画像データを再構成することと、
前記取得した投影データと再構成された前記画像データとに基づいて、物理処理ベースのモデルを用いて第1の散乱線分布を算出することと、
前記算出した第1散乱線分布に基づいて、前記算出した第1散乱線分布と比較して高次の散乱成分を含む第2の散乱線分布を決定すること、を含む、
方法。
【請求項17】
前記算出は、前記算出した第1の散乱線分布として、散乱線の一次散乱成分に関する分布を算出すること、を更に含み、前記一次散乱成分は前記撮像オブジェクト内で起こる1回の散乱イベントにより生じ、
前記決定は、前記決定した第2の散乱線分布として、全散乱線分布を決定すること、を更に含み、前記全散乱線分布は前記散乱線の前記一次散乱成分および全てのより高次の成分に関し、より高次の前記散乱成分のそれぞれは前記撮像オブジェクト内で起こる対応する多重散乱イベントにより生じる、
請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記算出は、前記算出した第1の散乱線分布として、前記散乱線の前記一次散乱成分と二次散乱成分とに関する分布を算出すること、を更に含み、前記二次散乱成分は前記撮像オブジェクト内で起こる2回の散乱イベントにより生じる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記算出は、前記算出した第1の散乱線分布として、前記散乱線の前記一次散乱成分と、二次散乱成分と、三次散乱成分に関する分布を算出すること、を更に含み、前記二次散乱成分は前記撮像オブジェクト内で起こる2回の散乱イベントにより生じる、前記三次散乱成分は前記撮像オブジェクト内で起こる3回の散乱イベントにより生じる、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
複数の検出器ピクセルを有する検出器を備えたコンピュータ断層撮像(CT)システムにおいて散乱線推定を行う情報処理装置であって、
前記CTシステムを用いて撮像オブジェクトをスキャンすることで取得された投影データから画像データを再構成する再構成部と、
前記取得した投影データに基づいて第1の散乱線分布を推定する推定部と、
前記推定した第1の散乱線分布に基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の第1のサブセットを選択する選択部と、
前記取得した投影データと再構成された前記画像データとに基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の前記選択した第1のサブセットについて、前記推定した第1の散乱線分布よりも精度が高い第2の散乱線分布を算出し、前記算出した第2の散乱線分布に基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の第2のサブセットについて、前記算出した第2の散乱線分布よりも空間分解能が高い第3の散乱線分布を取得する算出部と、
を行う処理回路を備え、
前記第2のサブセットは前記第1のサブセットを含む、
情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カスケードニューラルネットワーク・フレームワークにより精度を高め且つ処理時間を短縮するように推定が行われる、コンピュータ断層(CT)撮像システムにおける散乱線推定および補正に関する。
【背景技術】
【0002】
ここでの背景説明は、本開示のコンテクストを一般的に示すためのものである。現在名前が挙げられている発明者の研究は、背景セクションで研究が記載される範囲において、出願時に先行技術として適格ではない記載の態様と同様に、本開示に対する先行技術として明示的にも暗示的にも認められない。
【0003】
一般的に、X線投影画像は多くの散乱線成分を含む。不十分な散乱線補正は、再構成CT画像と同様に投影の品質を低下させバイアスを与える傾向がある。この影響によりCT値が不正確になり、画像コントラストが低くなり、アーチファクトが生じる。広いビームジオメトリを有するコーンビームCT撮影システムでは、散乱線補正はCT検査の診断価値を維持するためにより重要になり得る。
【0004】
基本的には、CT撮像におけるX線散乱線の取り扱いには、2つの異なるアプローチであり、散乱線抑制と散乱線推定である。例えば、CT装置に展開されるフラットパネル検出器などの2次元検出器は、散乱線を抑制するためのハードウェアベースの散乱線除去手段(例えば、散乱線除去グリッド、エアギャップ、等)を使用できる。散乱線を補正する別の方法では、測定データにおける散乱線信号を推定し、ソフトウェアベースの後処理を用いて取り除く。
【0005】
例えば、深層学習ベースの方法は、CT散乱線推定および補正におけるユニークな性能を示した。このような方法では、伝統的なカーネル法と比べて散乱線推定の精度が高く、モンテカルロ(Monte Carlo)法や放射伝達方程式(radiative transfer equation:RTE)法などの物理モデルベースの方法と比べて処理速度を速くできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、典型的な深層学習法は、測定した投影データをトレーニング済の畳み込みニューラルネットワークの入力として直接的に使用して、散乱線分布を推定する。投影データは撮像オブジェクトの構造を明らかにする画像を再構成するために利用できるが、散乱線の分布を表す情報を得るには適切ではない。その結果、散乱線推定および補正は不十分な精度となる。
【0007】
本開示が解決しようとする課題は、散乱線推定および補正において、従来に比して精度を高め且つ処理時間を短縮することである。
【0008】
本開示は、コンピュータ断層撮像(CT)システムにおいて散乱線推定を行う方法に関する。CTシステムは、複数の検出器ピクセルを有する検出器を備える。当該方法は、前記CTシステムを用いて撮像オブジェクトをスキャンすることで投影データを取得することと、前記取得した投影データから画像データを再構成することと、を含む。当該方法はまた、前記取得した投影データに基づいて第1の散乱線分布を推定すること、を含む。当該方法は更に、前記推定した第1の散乱線分布に基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の第1のサブセットを選択すること、を含む。当該方法は更に、前記取得した投影データと前記再構成画像データとに基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の前記選択した第1のサブセットについて、第2の散乱線分布を算出すること、を含む。算出した第2の散乱線分布は前記推定した第1の散乱線分布よりも精度が高い。当該方法は更に、前記算出した第2の散乱線分布に基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の第2のサブセットについて、前記算出した第2の散乱線分布よりも空間分解能が高い第3の散乱線分布を取得すること、を含む。前記第2のサブセットは前記第1のサブセットを含む。
【0009】
本開示はさらにコンピュータ断層撮像(CT)システムにおいて散乱線推定を行う装置に関する。CTシステムは複数の検出器ピクセルを有する検出器を備える。当該装置は、前記CTシステムを用いて撮像オブジェクトをスキャンすることで投影データを取得することと、前記取得した投影データから画像データを再構成すること、を行う処理回路を備える。当該処理回路はまた、前記取得した投影データに基づいて第1の散乱線分布を推定すること、を行う。当該処理回路は更に、前記推定した第1の散乱線分布に基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の第1のサブセットを選択すること、を行う。当該処理回路は更に、前記取得した投影データと前記再構成画像データとに基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の前記選択した第1のサブセットについて、第2の散乱線分布を算出すること、を行う。算出した第2の散乱線分布は推定した第1の散乱線分布よりも精度が高い。当該処理回路は更に、前記算出した第2の散乱線分布に基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の第2のサブセットについて、前記算出した第2の散乱線分布よりも空間分解能が高い第3の散乱線分布を取得すること、を行う。前記第2のサブセットは前記第1のサブセットを含む。
【0010】
なお、この概要セクションは、本開示またはクレームされた発明の実施形態および/または付加的な新規態様について全てを特定していない。発明の概要は、様々な実施形態および対応する新規ポイントの予備的考察を与えるに過ぎない。開示および実施形態の追加的詳細および/または可能な視点については、下記で更に考察される本開示の詳細な説明セクションおよび対応する図面を読むこと。
【図面の簡単な説明】
【0011】
例として提案する本開示の各種実施形態を、下記図面を参照して詳細に説明する。同一符号は同一要素である。
図1図1は、撮像オブジェクトを通って減衰および散乱するX線を、主フラックスと散乱フラックスの両方が検出される検出器に送る例示的処理を示す。
図2図2は、本開示の一実施形態に従った、向上した精度で散乱線分布を推定する散乱線補正回路のブロック図の限定にはならない例を示す。
図3図3は、本開示の一実施形態に従った、向上した精度で散乱線分布を推定する散乱線補正処理のフローチャートの限定にはならない例を示す。
図4図4は、本開示の一実施形態に従った、向上した精度且つ短縮した処理時間で散乱線分布を推定する散乱線補正回路のブロック図の限定にはならない例を示す。
図5図5は、本開示の一実施形態に従った、向上した精度且つ短縮した処理時間で散乱線分布を推定する散乱線補正処理のフローチャートの限定にはならない例を示す。
図6A図6Aは、本開示の一実施形態に従った、CT装置の検出器に含まれる複数の検出器ピクセルのサブセット選択する限定にはならない例を示す。
図6B図6Bは、本開示の一実施形態に従った、CT装置の検出器に含まれる複数の検出器ピクセルのサブセット選択する限定にはならない例を示す。
図7図7は、本開示の一実施形態に従った、CT装置の概略ブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
下記開示では、与えられた主題の異なる特徴を実現するための多くの異なる実施形態または例を与える。本開示を単純化する構成要素および配置の具体的な例を下記で説明する。これらはもちろん単なる例であり、限定する意図はない。
【0013】
例えば、ここで記載する異なるステップの考察順番は、わかりやすくするために示されている。一般的には、これらのステップを任意の好適な順番で行うことができる。加えて、異なる特徴、技術、構成等のそれぞれが本開示の別の場所で考察されてもよいが、それぞれの概念を互いに独立してまたは互いに組み合わせて実行できることを意図する。従って、本開示は多くの異なる方法で具現化および見ることができる。
【0014】
また、ここで使用されるように、「a」、「an」等の単語は、特に明記しない限りは、一般的には「1つまたは複数の(one or more)」を意味する。
【0015】
図1は、X線が撮像オブジェクトを通って減衰および散乱しながら検出器へ移動し、主フラックスと散乱フラックスの両方が検出器で検出される過程の例を示す。図1に示されるように、撮像オブジェクトは例えばファントムであり、若しくは、臨床応用において撮像オブジェクトは例えば患者である。主フラックスは散乱されていないX線を含む。主フラックスとともに、検出器は、散乱イベントを1回受けたX線を含む一次散乱線フラックスも検出する。また検出器は、散乱イベントを複数回受けたX線を含む多重散乱線フラックスも検出する。例えば、多重散乱線フラックスは、二次散乱線フラックス(2回散乱したX線に対応)と、三次散乱線フラックス(3回散乱したX線に対応)と、より高次の散乱線フラックス(4回以上散乱したX線に対応)とを含むことができる。
【0016】
上述したように、深層学習に基づく散乱線補正スキームにおいて、ニューラルネットワークが、測定された投影データから散乱線分布を推論するようにエンド・ツー・エンド(end-to-end)にトレーニングされている場合は、散乱線推定の精度は限定される。より高い推定精度を得るには、一次散乱線分布を正確に算出し、これをトレーニング済ニューラルネットワークへの入力として用いて全散乱線分布を得る。
【0017】
図2は、本開示の一実施形態に従った、散乱線補正回路200のブロック図の限定にはならない例を示す。散乱線補正回路200は、画像再構成回路210と、第1の散乱線分布算出回路220と、全散乱線分布決定回路230と、散乱成分除去回路240とを備える。画像再構成回路210は、測定された投影データから画像データを再構成し、当該画像データを第1の散乱線分布算出回路220へ送る。投影データと再構成画像データとに基づいて、第1の散乱線分布算出回路220は、物理処理ベースのモデルを用いて一次散乱線分布を算出する。全散乱線分布決定回路230は一次散乱線分布を第1の散乱線分布算出回路220から受け取り、全散乱線分布を決定する。全散乱線分布決定回路230が決定した全散乱線分布に基づいて、散乱線補正回路240は、投影データから散乱成分を除去することにより、散乱線補正を行う。なお、散乱線補正回路200は情報処理装置、画像再構成回路210は再構成部、第1の散乱線分布算出回路220は推定部、全散乱線分布決定回路230は算出部の一例である。また、第1の散乱線分布算出回路220は、例えば散乱線分布として一次散乱線分布を算出する。さらに、第1の散乱線分布算出回路220は、散乱線分布として、二次散乱線分布、三次散乱線分布も算出することができる。
【0018】
図3は、本開示の一実施形態に従った、散乱線補正処理300のフローチャートの限定にはならない例を示す。処理300はステップS310で開始し、CT装置を用いて撮像オブジェクトをスキャンすることで得られる生の投影データを受け取る。例えば、生の投影データはCTスキャンから生成されるサイノグラムデータであり得る。
【0019】
ステップS320では、受け取った投影データから画像データを再構成する。再構成画像データは撮像オブジェクトに関する各種情報を提供でき、これは一次散乱線分布の算出で用いられる。一例として、フィルタ補正逆投影(filtered back-projection:FBP)法を当該画像再構成に用いることができる。なお、これに限定されず、他にも可能な再構成法がある。
【0020】
ステップS330では、投影データと再構成画像データとに基づいて、一次散乱線分布を算出する。例えば、一次散乱線フラックスの分布である一次散乱線分布を、物理処理ベースのモデルを用いて精度良くシミュレートすることができる。物理処理ベースのモデルは、放射伝達方程式(radiative transfer equation:RTE)を用いて次のように表すことができる。
【0021】
【数1】
【0022】
これは、次の境界条件を受ける。
【0023】
【数2】
【0024】
【数3】
【0025】
RTEを解いて、取得した生のCT投影データと他の各種パラメータとに基づいて正確な散乱線解を算出することができる。これらのパラメータは、X線源スペクトラムと、CTジオメトリと、ボクセルベースのファントム/組織ジオメトリ情報と、異なる物質の散乱断面および全減衰と、を含み得る。例えば、ボクセルベースのファントム/組織ジオメトリ情報を、補正前の投影データを用いて再構成したCT画像データから得ることができる。異なる物質の散乱断面および全減衰などの他の各種入力パラメータを、再構成画像および撮像オブジェクトに関する予備的知識の組み合わせから、得る又は外挿する(extrapolate)ことができる。さらに、X線源スペクトラムおよびCTジオメトリなどの所与のパラメータを、前もってキャリブレーション中に測定する又はCT装置の既知の仕様から取得することができる。
【0026】
【数4】
【0027】
一次散乱線分布はRTE法を用いて上記のように算出されるが、これに限定されない。精度良く算出できるのであれば、モンテカルロ法などの物理モデルベースの方法を含むがこれに限定されない他の方法を用いることができる。
【0028】
ステップS340では、算出した一次散乱線分布に基づいて、全散乱線分布を決定する。この決定は、トレーニング済のニューラルネットワークにより行うことができる。算出した一次散乱線分布を当該ニューラルネットワークへ入力し、当該ニューラルネットワークの出力を全散乱線分布として取得する。当該ニューラルネットワークのトレーニングデータセットは、シミュレーション、ファントムまたはボランティアに関する研究実験、および/または、患者の臨床診断から収集できる。例えば、RTE法またはモンテカルロ法に基づくシミュレーションなどの物理モデルベースのシミュレーションをCT装置で行い、異なる一次散乱線分布とそれらに対応する全散乱線分布とを生成することができる。収集したデータでニューラルネットワークをトレーニングすることで、異なる一次散乱線分布と対応する全散乱線分布とのマッピングを学習できる。
【0029】
ステップS350では、ステップS340で決定した全散乱線分布に基づいて、投影データを補正できる。
【0030】
上述したように、一次散乱線分布はCT装置の検出器が検出した散乱線の一次成分の分布である。この成分は、撮像オブジェクトにおける1回の散乱イベントから生じる。一次散乱線分布は、全散乱線分布の近似(close approximation)である。全散乱線分布は、正確に算出した一次散乱線分布から、向上した精度で推論することができる。
【0031】
図2,3に示される実施形態では、一次散乱線分布は全散乱線分布を得るために算出されるが、一次成分および1つまたは複数のより高次の成分を用いて、全散乱線分布をより高い精度で決定することは実現可能である。これは、一次および二次散乱成分の分布または一次、二次、および三次散乱成分の分布等を含み得る。
【0032】
本開示の一実施形態において、上記散乱線補正処理を更に加速するために、カスケード・ニュートラルネットワーク・フレームワークを考案する。図4は、本開示の一実施形態に従った、向上した精度且つ短縮した処理時間で散乱線分布を推定する散乱線補正回路400のブロック図の限定にはならない例を示す。
【0033】
散乱線分布推定回路400は一次散乱線分布推定回路410と、画像再構成回路420と、検出器ピクセル選択回路430と、第2の散乱線分布算出回路440と、一次散乱線分布分解回路450と、全散乱線分布決定回路460と、散乱成分除去回路470と、を備える。なお、散乱線分布推定回路400は情報処理装置、画像再構成回路410は再構成部、検出器ピクセル選択回路430は選択部、第2の散乱線分布算出回路440又は一次散乱線分布分解回路450は推定部、全散乱線分布決定回路460は算出部の一例である。また、第2の散乱線分布算出回路440は、例えば散乱線分布として一次散乱線分布を算出する。さらに、第2の散乱線分布算出回路440は、散乱線分布として、二次散乱線分布、三次散乱線分布も算出することができる。
【0034】
一次散乱線分布推定回路410は生の投影データを受け取り、一次散乱線分布を推定し、検出器ピクセル選択回路430へ送る。画像再構成回路420は投影データから画像データを再構成し、再構成画像データを第2の散乱線分布算出回路440へ送る。推定した一次散乱線分布に基づいて、検出器ピクセル選択回路430はCT装置の検出器に含まれる複数の検出器ピクセルのサブセットを選択する。物理モデルベースの方法を用いて、第2の散乱線分布算出回路440は、選択したサブセット内の検出器ピクセルに関して、一次散乱線分布を算出する。
【0035】
一次散乱線分布分解回路450は、第1の散乱線分布算出回路440が算出した一次散乱線分布を受け取り、検出器の複数の検出器ピクセルに関して、一次散乱線分布を分解する。
【0036】
一次散乱線分布分解回路450が分解した一次散乱線分布に基づいて、全散乱線分布決定回路460は全散乱線分布を決定する。散乱成分除去回路470は、全散乱線分布決定回路460が決定した全散乱線分布に基づいて、散乱線補正を行う。なお、全散乱線分布決定回路460はオプションであり、省略可能である。この場合、散乱成分除去回路470は、一次散乱線分布分解回路450からの一次散乱線分布を直接用いて、散乱線補正を行うことができる。
【0037】
図5は、本開示の一実施形態に従った、向上した精度で且つ短縮した計算時間で散乱線分布を推定する散乱線補正処理500のフローチャートの限定にはならない例を示す。処理500はステップS510で開始し、CT装置を用いて撮像オブジェクトをスキャンすることで取得した生の投影データを受け取る。ステップS520では、取得した投影データから画像データを再構成する。図2,3に示される実施形態のように、画像再構成はFBP法を含むがこれに限定されない各種方法を用いて行うことができる。
【0038】
ステップS530では、投影データに基づいて、一次散乱線分布を推定する。例えば、投影データから一次散乱線分布の概算推定を得るために、ニューラルネットワークを利用できる。一次散乱線分布の分解能を投影データの分解能に合わせることができる、または、ダウンサンプリングできるように低下させることができる。例えば、投影データの分解能が600×400であり、一次散乱線分布の分解能がより低い200×100であってよい。
【0039】
ニューラルネットワークのトレーニングデータセットは、シミュレーション、ファントムまたはボランティアに関する研究実験、および/または、患者に関する臨床診断法から収集できる。例えば、RTE法またはモンテカルロ法に基づくシミュレーションなどの物理モデルベースのシミュレーションを、CT装置を用いて実行し、投影データと関連付けられた一次散乱線分布とを生成することができる。その後、これらのデータベースを使ってニュートラルネットワークをトレーニングし、投影データから一次散乱線分布へのマッピングを学習させることができる。
【0040】
ステップS540では、推定した一次散乱線分布に基づいて、検出器の複数の検出器ピクセルのサブセットを選択する。選択処理は、特定の基準を用いる適応型ダウンサンプリングにより達成できる。例えば、一次散乱線値において局所的最大値または最小値をもつ検出器ピクセルが選択され得る。撮像されたオブジェクトの身体的部分に基づく基準などの他の基準もまた可能である。これらのアプローチに加えて、検出器ピクセル数を減少させることで計算効率を向上させる手助けとなる任意のその他の方法もまた適用できる。これらの方法には、検出器ピクセルのサブセットを得るために均一サンプリング(uniform sampling)を行うことを含むが、これに限定されない。
【0041】
ステップS550では、投影データと再構成画像データとに基づいて、選択した検出器ピクセルに関して一次散乱線分布を算出する。ここで、物理モデルベースの方法を含むがこれに限定されない、正確な散乱線分布を取得可能な任意の方法を用いることができる。ステップS540で行われた適応型スパースサンプリングのおかげで、一次散乱線分布は選択した検出器ピクセルについてのみ算出され、この結果、処理時間が実質的に減少する。
【0042】
ステップS560では、選択した検出器ピクセルに関して算出した一次散乱線分布に基づいて、検出器の全ての検出器ピクセルに関して一次散乱線分布を分解する。その精度にもかかわらず、ステップS550で得た散乱線分布は、検出器全体に渡って散乱線分布を正確に表すことができない。ステップS560における分解能は、補間アルゴリズムにより、または、ニューラルネットワークを介して達成することができる。例えば、非選択のピクセルの値を回復するために、超解像ネットワークを利用することができる。当該ネットワークの入力は、選択した検出器ピクセルの一次散乱線分布であり、ターゲットは全ての検出器ピクセルの散乱線分布である。ネットワーク構成または損失関数について特定の限定はない。
【0043】
ステップS570では、分解した一次散乱線分布に基づいて、全散乱線分布を決定する。この決定は、図2,3で示される実施形態で説明したものと同じ方法で行うことができる。ステップS580では、ステップS570で決定した全散乱線分布に基づいて、投影データを補正できる。上述したように、ステップS570の処理はオプションであり省略できるため、ステップS580では、ステップS560で分解した一次散乱線分布を用いて投影データを直接補正することができる。
【0044】
再び、一次成分および1つまたは複数のより高次の成分の分布を用いて、全散乱線分布をより正確に決定することができる。これは、一次および二次散乱成分の分布または一次、二次、および三次散乱成分の分布等を含み得る。
【0045】
図6Aおよび6Bは、本開示の一実施形態に従った、CT装置の検出器に含まれる複数の検出器ピクセルのサブセット選択する限定にはならない例を示す。
【0046】
上述したように、限定数の選択された検出器ピクセルについてのみ一次散乱線値を算出することは、推定処理の速度を上げる効率的な方法であり得る。例えば、概算推定した一次散乱線分布に基づいて適応型スパースサンプリングを適用し、選択した検出器ピクセルの位置を決定することができる。
【0047】
局所的最大値または最小値をもつ検出器ピクセルが特定された適応型スパースサンプリングの限定にはならない例を図6Aに示す。散乱線分布は低周波数特性を有するため、非常にゆっくりと変化する。最大値または最小値をもつ検出器ピクセルの位置を捉えるために、ピーク/谷検出アルゴリズムを用いることができる。
【0048】
1列の検出器ピクセルに沿った散乱線分布の限定にはならない例を図6Bに示す。選択されたピーク/谷ピクセル(図において四角形で表される)は、散乱線分布を描くにはスパースすぎる場合は、ピークと谷領域の間にあるより多くのピクセル(図においてドットで表される)を、選択された検出器ピクセルの数が所定の閾値に達するまで、スパースに選択できる。例えば、超解像ネットワークの性能に基づいて、閾値を先験的に決定できる。
【0049】
投影データと散乱線分布との間でエンド・ツー・エンドでのトレーニングを行う深層学習法と比較して、図4,5に示される実施形態は、正確に算出した一次散乱線分布を用いることでは全散乱線推定を改善できないが、適切な検出器ピクセルダウンサンプリングと超解像ネットワークとを導入することで処理時間を短縮することができる。
【0050】
図7は、本開示の一実施形態に従った、CT装置またはスキャナの概略ブロック図を示す。図7に示されるように、ラジオグラフィ架台750が側面から示され、ラジオグラフィ架台750はX線管751と、環状枠752と、複数列または2次元アレイ型のX線検出器753と、を備える。X線管751とX線検出器753とはオブジェクトOBJを渡って直径方向に環状枠752上に搭載され、環状枠752は回転軸RAに対して回転可能に支持される。オブジェクトOBJが軸RAに沿って図示されたページの中へまたは外へ移動されながら、回転部757は例えば0.4秒/回転などの高速で環状枠752を回転する。
【0051】
本開示に従ったX線CT装置の一実施形態を添付図のビューを参照して以下で説明する。なおX線CT装置は、例えばX線管とX線検出器とが検査対象のオブジェクトの周囲を共に回転する回転/回転型装置、多くの検出要素がリングまたは平面状に配列され、X線管のみが検査対象のオブジェクトの周囲を回転する固定/回転型装置などの各種装置を含む。どちらのタイプにも本開示を適用することができる。このケースでは、現在の主流である回転/回転型を例示する。
【0052】
マルチスライスX線CT装置は、X線管751がX線を生成するように、スリップリング758を介してX線管751にかける管電圧を生成する高電圧装置759を更に備える。断面積が円で表されるオブジェクトOBJに向かってX線が出射される。例えば、X線管751において、第1スキャン中の平均X線エネルギーは、第2スキャン中の平均X線エネルギーよりも小さい。このように、異なるX線エネルギーに対応して2または3以上のスキャンを取得できる。X線検出器753は、出射してオブジェクトOBJを通過したX線を検出するため、オブジェクトOBJを介してX線管751と反対側に位置する。X線検出器753は個々の検出器要素またはユニットを更に含む。
【0053】
CT装置は、X線検出器753から検出した信号を処理するための他の装置を更に備える。データ取得回路またはデータ・アクイジション・システム(Data Acquisition System:DAS)754は、X線検出器753から出力した信号をチャネルごとに電圧信号に変換し、当該信号を増幅し、当該信号をデジタル信号へ更に変換する。X線検出器753とDAS754とは1回転につき所定の総数の投影(total number of projections per rotation:TPPR)を扱うように構成される。
【0054】
上述したデータは、ラジオグラフィ架台750の外にあるコンソール内に収納される前処理装置756に、非接触データ送信器755を介して送られる。前処理装置756は、感度補正などの所与の補正を当該生データに行う。メモリ762は、再構成処理の直前のステージで投影データとも呼ばれる、結果としてのデータを記憶する。メモリ762は、再構成装置764、入力装置765、ディスプレイ766とともに、データ/制御バス761を介してシステムコントローラ760に接続される。システムコントローラ760は、CTシステムを駆動するために十分なレベルに電流を制限する電流調整器763を制御する。
【0055】
検出器は、CTスキャナシステムの各種世代の中で、患者に対して回転および/または固定される。ある実施では、上述したCTシステムは第三世代ジオメトリと第四世代ジオメトリシステムとの組み合わせの例であり得る。第三世代システムでは、X線管751とX線検出器753とが環状枠752上に直径方向に搭載され、環状枠752が回転軸RAに対して回転するに従って、オブジェクトOBJの周囲を回転する。第四世代ジオメトリシステムでは、検出器は患者の周囲に固定して置かれ、X線管が患者の周囲を回転する。代替となる実施形態では、ラジオグラフィ架台750は、Cアームおよびスタンドに支持される環状枠752上に配置される複数の検出器を有する。
【0056】
メモリ762は、X線検出器753におけるX線の照射を表す測定値を記憶できる。また、メモリ762は、CT画像再構成と、物質弁別(material decomposition)と、ここで記載した方法を含むモーション推定およびモーション補正方法と、を実行するための専用プログラムを記憶することができる。
【0057】
再構成装置764は、ここで記載される上述の方法を実行できる。また、再構成装置764は、必要であればボリュームレンダリング処理や画像差分(image difference)処理などの再構成前処理画像処理を実行できる。
【0058】
前処理装置756が行う投影データの再構成前処理は、例えば検出器較正、検出器非線形性、極性効果(polar effect)の補正を含むことができる。
【0059】
再構成装置764が行う再構成後処理は、必要であれば、画像のフィルタリングおよび平滑化と、ボリュームレンダリング処理と、画像差分処理とを含むことができる。画像再構成処理は、フィルタ補正逆投影、反復画像再構成法、または確率的画像再構成法を用いて行うことができる。再構成装置764は、例えば投影データと、再構成画像と、較正データおよびパラメータと、コンピュータプログラムとを記憶するためにメモリを用いることができる。
【0060】
再構成装置764は、個別論理ゲート、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA)、または他のコンプレックスプログラマブルロジックデバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)として実装可能なCPU(処理回路)を含むことができる。FPGAまたはCPLD実装をVDHL、Verilog、または任意の他のハードウェア記述言語でコード化してよく、当該コードをFPGAまたはCPLD内の電子メモリに直接、若しくは、別個の電子メモリとして記憶してよい。また、メモリ762はROM、EPROM、EEPROMまたはFLASHメモリなどの不揮発性であってよい。メモリ762は、スタティックまたはダイナミックRAMなどの揮発性であってもよく、マイクロコントローラまたはマイクロプロセッサなどのプロセッサを与えて電子メモリと、FPGAまたはCPLDと当該メモリとの相互作用を管理してよい。
【0061】
若しくは、再構成装置764内のCPUは、ここで記載した機能を実行するコンピュータが読み出し可能な命令セットを含むコンピュータプログラムを実行でき、当該プログラムは上述した非一時的電子メモリおよび/またはハードディスクドライブ、CD、DVD、FLASHドライブまたは任意の他の既知の記憶媒体に記憶される。また、コンピュータが読み出し可能な命令を、ユーティリティアプリケーション、バックグラウンドデーモン、またはオペレーティングシステムのコンポーネント、またはその組み合わせとして与え、米国Intel社のXeonプロセッサまたは米国AMD社のOpteronプロセッサなどのプロセッサ、および、Microsoft10、UNIX(登録商標)、Solaris、LINUX、Apple、MAC-OS、当業者に知られているその他のオペレーティングシステムなどのオペレーティングシステムと連動して実行してよい。さらに、パラレルに命令を実行するように協働する複数のプロセッサとしてCPUを実装することができる。ある実施において、再構成画像をディスプレイ766に表示することができる。ディスプレイ766はLCDディスプレイ、CRTディスプレイ、プラズマディスプレイ、OLED、LED、または当該技術において既知の任意の他のディスプレイであってよい。
【0062】
メモリ762は、ハードディスクドライブ、CD-ROMドライブ、DVDドライブ、FLASHドライブ、RAM、ROM、または当該技術において既知の任意の他の電子記憶部であってよい。
【0063】
上記教示に照らして、数多くの変形例およびバリエーションが可能である。そのため、添付した請求項の範囲内において、ここで具体的に記載したものとは異なるように本開示を実践することができる。
【0064】
本開示の実施形態は、下記の括弧に記載されるようであってもよい。
【0065】
(1)複数の検出器ピクセルを有する検出器を備えたコンピュータ断層撮像(CT)システムにおいて散乱線推定を行う方法であって、前記方法は、前記CTシステムを用いて撮像オブジェクトをスキャンすることで投影データを取得することと、前記取得した投影データから画像データを再構成することと、前記取得した投影データに基づいて第1の散乱線分布を推定することと、前記推定した第1の散乱線分布に基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の第1のサブセットを選択することと、前記取得した投影データと前記再構成画像データとに基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の前記選択した第1のサブセットについて、前記推定した第1の散乱線分布よりも精度が高い第2の散乱線分布を算出することと、前記算出した第2の散乱線分布に基づいて、前記複数の検出器ピクセル内の第2のサブセットについて、前記算出した第2の散乱線分布よりも空間分解能が高い第3の散乱線分布を取得することと、を含み、前記第2のサブセットは前記第1のサブセットを含む。
【0066】
(2)前記取得した第3の散乱線分布に基づいて、前記推定した第1の散乱線分布と比較して精度が高く且つより高次の散乱成分を含む第4の散乱線分布を決定すること、を更に含む(1)に記載の方法。
【0067】
(3)前記推定は、前記推定した第1の散乱線分布として、散乱線の一次散乱成分に関する分布を推定すること、を更に含み、前記一次散乱成分は前記撮像オブジェクト内で起こる1回の散乱イベントにより生じ、前記決定は、前記決定した第4の散乱線分布として、全散乱線分布を決定すること、を更に含み、前記全散乱線分布は前記散乱線の前記一次散乱成分および全てのより高次の成分に関し、前記より高次の散乱成分のそれぞれは前記撮像オブジェクト内で起こる対応する多重散乱イベントにより生じる、(2)に記載の方法。
【0068】
(4)前記推定は、前記推定した第1の散乱線分布として、前記散乱線の前記一次散乱成分および二次散乱成分に関する分布を推定すること、を更に含み、前記二次散乱成分は前記撮像オブジェクト内で起こる2回の散乱イベントにより生じる、(3)に記載の方法。
【0069】
(5)前記推定は、前記推定した第1の散乱線分布として、前記散乱線の前記一次散乱成分と、二次散乱成分と、三次散乱成分に関する分布を推定すること、を更に含み、前記二次散乱成分は前記撮像オブジェクト内で起こる2回の散乱イベントにより生じ、前記三次散乱成分は前記撮像オブジェクト内で起こる3回の散乱イベントにより生じる、(3)に記載の方法。
【0070】
(6)前記決定は、前記取得した第3の散乱線分布をトレーニング済のニューラルネットワークに入力することと、前記決定した第4の散乱線分布として、前記トレーニング済のニューラルネットワークの出力を得ることと、を含む、(3)に記載の方法。
【0071】
(7)前記CTシステムで物理処理ベースのシミュレーションを行い、前記ニューラルネットワークのトレーニングデータセットとして、前記一次散乱成分に関する異なる分布と対応する全散乱線分布とを生成することと、前記ニューラルネットワークを前記生成したトレーニングデータセットでトレーニングして、前記一次散乱成分に関する前記異なる分布と前記対応する全散乱線分布とのマッピングを学習することと、を更に含む、(6)に記載の方法。
【0072】
(8)前記推定した第1の散乱線分布は、前記取得した投影データと比較して粒度が荒い、(1)に記載の方法。
【0073】
(9)前記推定は、取得した投影データをトレーニング済のニューラルネットワークに入力することと、前記推定した第1の散乱線分布として、前記トレーニング済のニューラルネットワークの出力を得ること、を更に含む、(1)に記載の方法。
【0074】
(10)物理処理ベースのシミュレーションを前記CTシステムで行い、前記ニューラルネットワーク用のトレーニングデータセットとして、異なる投影データと対応する散乱線分布とを生成することと、前記ニューラルネットワークを前記生成したトレーニングデータセットでトレーニングし、前記異なる投影データと前記対応する散乱線分布との間のマッピングを学習すること、を更に含む、(7)に記載の方法。
【0075】
(11)前記選択は、前記複数の検出器ピクセルの内の前記選択した第1のサブセットを得るために、所定の基準に基づいて前記複数の検出器ピクセルをダウンサンプリングすること、を更に含む、(1)に記載の方法。
【0076】
(12)前記ダウンサンプリングは、前記推定した第1の散乱線分布が局所的最大または局所的最小を有する各検出器ピクセルの数を決定することで、前記複数の検出器ピクセルの内の前記選択した第1のサブセットを生成すること、を更に含む、(11)に記載の方法。
【0077】
(13)前記生成は、前記複数の検出器ピクセルの前記選択した第1のサブセット内の検出器ピクセルのスパース性(sparsity)が所定の閾値を越えたことに応答して、前記複数の検出器ピクセルの前記選択した第1のサブセット内の検出器ピクセルの総数が所定の数に達するまで、別の数の検出器ピクセルを、前記複数の検出器ピクセルの前記選択した第1のサブセットに加えること、を更に含む、(12)に記載の方法。
【0078】
(14)前記算出は、前記算出した第2の散乱線分布を生成するために、物理処理ベースのシミュレーションを実行すること、を更に含む、(1)に記載の方法。
【0079】
(15)前記実行は、前記シミュレーションを放射伝達方程式(radiative transfer equation:RTE)法またはモンテカルロ(Monte Carlo)法に基づいて実行すること、を更に含む、(14)に記載の方法。
【0080】
(16)コンピュータ断層撮像(CT)システムにおいて散乱線推定を行う方法であって、前記方法は、前記CTシステムを用いて撮像オブジェクトをスキャンすることで投影データを取得することと、前記取得した投影データから画像データを再構成することと、前記取得した投影データと前記再構成画像データとに基づいて、物理処理ベースのモデルを用いて第1の散乱線分布を算出することと、前記算出した第1散乱線分布に基づいて、前記算出した第1散乱線分布と比較して高次の散乱成分を含む第2の散乱線分布を決定すること、を含む。
【0081】
(17)前記算出は、前記算出した第1の散乱線分布として、前記散乱線の一次散乱成分に関する分布を算出すること、を更に含み、前記一次散乱成分は前記撮像オブジェクト内で起こる1回の散乱イベントにより生じ、前記決定は、前記決定した第2の散乱線分布として、全散乱線分布を決定すること、を更に含み、前記全散乱線分布は前記散乱線の前記一次散乱成分および全てのより高次の成分に関し、前記より高次の散乱成分のそれぞれは前記撮像オブジェクト内で起こる対応する多重散乱イベントにより生じる、(16)に記載の方法。
【0082】
(18)前記算出は、前記算出した第1の散乱線分布として、前記散乱線の前記一次散乱成分と二次散乱成分とに関する分布を算出すること、を更に含み、前記二次散乱成分は前記撮像オブジェクト内で起こる2回の散乱イベントにより生じる、(17)に記載の方法。
【0083】
(19)前記算出は、前記算出した第1の散乱線分布として、前記散乱線の前記一次散乱成分と、二次散乱成分と、三次散乱成分に関する分布を算出すること、を更に含み、前記二次散乱成分は前記撮像オブジェクト内で起こる2回の散乱イベントにより生じる、前記三次散乱成分は前記撮像オブジェクト内で起こる3回の散乱イベントにより生じる、(17)に記載の方法。
【0084】
(20)複数の検出器ピクセルを有する検出器を備えたコンピュータ断層撮像(CT)システムにおいて散乱線推定を行う装置であって、前記装置は、前記CTシステムを用いて撮像オブジェクトをスキャンすることで投影データを取得することと、前記取得した投影データから画像データを再構成することと、前記取得した投影データに基づいて第1の散乱線分布を推定することと、前記推定した第1の散乱線分布に基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の第1のサブセットを選択することと、前記取得した投影データと前記再構成画像データとに基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の前記選択した第1のサブセットについて、前記推定した第1の散乱線分布よりも精度が高い第2の散乱線分布を算出することと、前記算出した第2の散乱線分布に基づいて、前記複数の検出器ピクセルの内の第2のサブセットについて、前記算出した第2の散乱線分布よりも空間分解能が高い第3の散乱線分布を取得することと、を行う処理回路を備え、前記第2のサブセットは前記第1のサブセットを含む。
【0085】
当業者は、当該開示の同一目的を達成しつつ、上述された技術の操作に対して多くのバリエーションが可能であることを理解するだろう。そのようなバリエーションは本開示の範囲によりカバーされると意図されている。そのように、本開示の実施形態における前述の記載は限定するものとして意図されていない。むしろ、本開示の実施形態に対する任意の限定は、下記の請求項に示されている。
【符号の説明】
【0086】
210 画像再構成回路
220 第1の散乱線分布算出回路
230 全散乱線分布決定回路
240 散乱成分除去回路
400 散乱線補正回路
410 一次散乱線分布推定回路
420 画像再構成回路
430 検出器ピクセル選択回路
440 第2の散乱線分布算出回路
450 一次散乱線分布分解回路
460 全散乱線分布決定回路
470 散乱成分除去回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7