(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017719
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ファントム及び検査方法
(51)【国際特許分類】
A61B 6/58 20240101AFI20240201BHJP
G01N 23/04 20180101ALI20240201BHJP
G01N 23/046 20180101ALI20240201BHJP
G01N 23/087 20180101ALI20240201BHJP
G01T 7/00 20060101ALI20240201BHJP
A61B 6/00 20240101ALI20240201BHJP
A61B 6/03 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A61B6/03 F
G01N23/04
G01N23/046
G01N23/087
G01T7/00 C
A61B6/00 390A
A61B6/00 333
A61B6/03 373
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120545
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】沼野 智一
(72)【発明者】
【氏名】小林 智哉
【テーマコード(参考)】
2G001
2G188
4C093
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA11
2G001CA01
2G001FA02
2G001HA14
2G001JA08
2G001KA01
2G001LA01
2G001QA02
2G188AA02
2G188AA03
2G188AA25
2G188BB02
2G188DD28
2G188FF28
4C093AA22
4C093CA37
4C093DA02
4C093DA03
4C093EA07
4C093FC12
4C093GA01
(57)【要約】
【課題】デュアルエナジー方式のCT検査及びX線検査をした際に、所望のCT値および実効原子番号を得るとともに、所望の電子密度に調整可能なファントムを提供する。
【解決手段】このファントムは、CT検査装置及びX線検査装置から選択されるいずれかの検査装置に用いられるファントムであって、支持部材と、前記支持部材に支持された弾性体と、を備え、前記検査装置のX線照射源からX線照射方向に関する前記弾性体の密度又は厚みの変更により、実効原子番号および電子密度の少なくとも一方が調整される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CT検査装置及びX線検査装置から選択されるいずれかの検査装置に用いられるファントムであって、
支持部材と、前記支持部材に支持された弾性体と、を備え、
前記検査装置のX線照射源からX線照射方向に関する前記弾性体の密度又は厚みの変更により、電子密度が調整される、ファントム。
【請求項2】
前記支持部材は、前記弾性体を挟む第1板部及び第2板部と、前記第1板部および前記第2板部の距離を調整可能に、前記第1板部および前記第2板部を締結している締結部材と、を有する、請求項1に記載のファントム。
【請求項3】
前記検査装置のX線照射方向に関する前記弾性体の密度は、前記弾性体の圧縮率により変更される、請求項1又は2に記載のファントム。
【請求項4】
前記弾性体は、ラテックスを主成分として含む、請求項1又は2に記載のファントム。
【請求項5】
前記弾性体は、さらに硫黄を含む、請求項4に記載のファントム。
【請求項6】
請求項1に記載のファントムを用いてCT検査を行い、前記弾性体のCT値と、実効原子番号と、電子密度と、を検査する、検査方法。
【請求項7】
前記CT検査の後に、前記ファントムを用いて、X線検査を行い、前記弾性体のX線検査における像の写り方を観察する、請求項6に記載の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファントム及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野では、画像診断やシミュレーション学習が重要である。医療分野での画像診断用のシミュレータとして、ファントムが活用されている(例えば、非特許文献1~4)。
【0003】
非特許文献1のファントムは、人体の骨格、肺野内部構造といった胸部構造を模擬しており、レントゲン画像、CT画像に写り込む人体と同様の構造が写り込む。非特許文献1には、所定の病変に対応した既定のCT値(-800HU,-630HU,+100HU相当)の模擬病変が示されている。非特許文献1では、模擬病変を胸部構造内に収容した状態でレントゲン画像及びCT画像を撮影することで、診断条件に応じた病変の写り方をシミュレーションできる(例えば、非特許文献2)。
【0004】
非特許文献2には、非特許文献1のファントムを利用して、胸部X線CT画像と胸部X線トモシンセシスでのGGO視認性を検証した結果が報告されている。
【0005】
非特許文献3のファントムは、胸部CT検診用のファントムである。非特許文献3のファントムに対してCT検診をすることで、人体に近似したアーチファクト等が出現すると開示されている。非特許文献3のファントムは、既定のCT値の擦りガラス状陰影(GGO; ground-glass opacity)を呈する模擬病変が配置され、診断条件に応じた病変の写り方や被ばく量をシミュレーションできる(例えば、特許文献4)。GGOは、COVID-19をはじめとする呼吸器疾患で肺炎を発症すると、多くの画像所見で観察される。
【0006】
非特許文献4には、非特許文献3のファントムを利用して、被ばくを低減した「低線量胸部X線CT」による物理評価した結果が報告されている。
【0007】
また、近年、複数種の波長のX線を活用する、デュアルエナジー方式のCT検査装置及びX線検査装置が急速に普及している。デュアルエナジー方式のCT検査装置及びX線検査装置は、異なるエネルギーのX線で撮影されたデータから組織の実効原子番号および電子密度を算出することも可能であり、この点で1種類のエネルギーを利用するシングルエナジー方式のCT検査装置及びX線検査装置よりも優れている。このように、シングルエナジー方式と比べ、デュアルエナジー方式では、診断価値が高い画像情報を得られることから、期待が集まっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「胸部ファントムN-1ラングマン」、株式会社京都科学
【非特許文献2】Kyung Won Doo, et al. “Comparison of chest radiography, chest digital tomosynthesis and low doseMDCT to detect small ground-glass opacity nodules: an anthropomorphic chest phantom study” Eur Radial(2014)24:3269-3276
【非特許文献3】「LSCTファントムLSCT-001型」、株式会社京都科学
【非特許文献4】松本徹「肺癌検診用MDCT(multidetector-row CT)撮影マニュルの作成平成17年度技術部会報告(詳細版)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1,3のようなファントムは、デュアルエナジー方式のCT検査装置及びX線検査装置が公開される前に製品化されており、デュアルエナジー方式の検査装置に対応していない。具体的には、デュアルエナジー方式の検査装置により、非特許文献1,3のような模擬病変及びファントムを用いてX線画像、或いは、CT画像を撮影した場合、特定の病変に対応する画像輝度(濃度)やCT値を得られたとしても、実効原子番号および電子密度の両方を再現できない。非特許文献2,4に開示された方法では、デュアルエナジー方式の検査装置について何ら言及されておらず、上記のようなファントムをデュアルエナジー方式の検査装置に用いた場合に、上記のような課題が生じることについて当然開示も示唆もされていない。
【0010】
病変は、大きさ等の度合いが変化するため、病変の度合いに応じて模擬病変を変形させると、検査の精度向上につながると考えられる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされた発明であり、デュアルエナジー方式のCT検査及びX線検査をした際に、所望のCT値及び実効原子番号を得るとともに、所望の電子密度に調整可能なファントム及び該ファントムを用いた検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の第1の態様に係るファントムは、
CT検査装置及びX線検査装置から選択されるいずれかの検査装置に用いられるファントムであって、
支持部材と、前記支持部材に支持された弾性体と、を備え、
前記検査装置のX線照射源からX線照射方向に関する前記弾性体の密度又は厚みの変更により、電子密度が調整される。
【0013】
(2)上記(1)のファントムにおいて、前記支持部材は、前記弾性体を挟む第1板部及び第2板部と、前記第1板部および前記第2板部の距離を調整可能に、前記第1板部および前記第2板部を締結している締結部材と、を有していてもよい。
【0014】
(3)上記(1)又は(2)のファントムにおいて、前記検査装置のX線照射方向に関する前記弾性体の密度は、前記弾性体の圧縮率により変更されてもよい。
【0015】
(4)上記(1)~(3)のいずれかのファントムにおいて、前記弾性体は、ラテックスを主成分として含んでいてもよい。
【0016】
(5)上記(1)~(4)のいずれかのファントムにおいて、前記弾性体は、さらに硫黄を含んでいてもよい。
【0017】
(6)本発明の第2の態様に係る検査方法は、第1の態様に係るファントムを用いてCT検査を行い、前記弾性体のCT値と、実効原子番号と、電子密度と、を検査する。
【0018】
(7)上記(6)の検査方法において、前記CT検査の後に、前記ファントムを用いて、X線検査を行い、前記弾性体のX線検査における像の写り方を観察してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、デュアルエナジー方式のCT検査及びX線検査をした際に、所望のCT値および実効原子番号を得るとともに、所望の電子密度に調整可能なファントム及び該ファントムを用いた検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係るファントムを模式的に斜視図である。
【
図2】
図1のファントムの上面を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図1のファントムの断面を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図1のファントムの変形例を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図1のファントムの変形例を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図1のファントムの変形例を模式的に示す斜視図である。
【
図7】実施例1~3のファントムを用いてデュアルエナジー方式のCT検査により撮影したCT画像であり、CT値を示す図である。
【
図8】実施例1~3のファントムを用いてデュアルエナジー方式のCT検査により撮影したCT画像であり、実効原子番号を示す図である。
【
図9】実施例1~3のファントムを用いてデュアルエナジー方式のCT検査により撮影したCT画像であり、電子密度を示す図である。
【
図10】参考例のファントムをX線装置に適用するときの配置の例を示す図である。
【
図11】参考例のファントムを用いて撮影したレントゲン画像である。
【
図12】ファントムに対してデュアルエナジー方式のX線検査により撮影したレントゲン画像及びシングルエナジー方式のX線検査により撮影したレントゲン画像を示す。
【
図13】ファントムを用いてデュアルエナジー方式のX線検査により撮影したレントゲン画像及びシングルエナジー方式のX線検査により撮影したレントゲン画像を示す。
【
図14】ファントムを用いてデュアルエナジー方式のX線検査により撮影したレントゲン画像及びシングルエナジー方式のX線検査により撮影したレントゲン画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。このため、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっている場合がある。
【0022】
[ファントム]
図1は、本発明の一実施形態に係るファントムを模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1のファントムの上面を模式的に示す平面図であり、
図3は、
図1のファントムの断面を模式的に示す断面図である。
【0023】
図1~3に示されるファントム100Aは、CT検査装置に用いられるファントムであって、支持部材20と、支持部材20に支持された弾性体10と、を備え、検査装置のX線照射源からのX線照射方向に関する弾性体10の密度の変更により、電子密度が制御される。
【0024】
(弾性体)
弾性体10は、例えば、弾性材料で構成された弾性層1が少なくとも1つ積層された積層体である。
図1~3には、3つの弾性層1が積層されている様子を示す。弾性層1のそれぞれは、例えば同じ形状をしている。弾性体10において、各弾性層1を均等な形状にすることで、弾性層1の圧縮率を均等にできる。弾性層1は、例えば着脱可能に設けられている。上述の通り、弾性体10において、弾性層1のそれぞれは、均等に圧縮される。
図1~3に示す例では、それぞれの弾性層1は、外部からの圧力が印加されていない環境下と比べ、厚みが1/3倍となるように圧縮されている。
【0025】
弾性層1は、実質的に弾性材料で構成されている。該弾性材料は、圧縮により変形可能である。弾性層1は、以下に例示されるような体積弾性率の高い材料で構成されていることが好ましい。弾性層1がこのような弾性材料で構成されていることで、圧縮により、ファントム100AのCT値及び実効原子番号を維持するとともに電子密度を制御可能である。
【0026】
弾性層1を構成する弾性材料は、例えば、ラテックス、合成ゴム等を主成分として含む。弾性材料がラテックスを主成分として含む場合、弾性材料は、例えば、加硫されている。弾性体10における硫黄の含有量は、適宜に選択できるが、例えば、5~8wt%である。ラテックスの実効原子番号(8程度)と比べ、硫黄の原子番号は大きいため、硫黄の含有量を増大させると、弾性体の実効原子番号が増大する。弾性体は、硫黄を含み、硫黄の含有量により実効原子番号が制御されてもよい。
【0027】
弾性体10は、例えば、積層方向(
図1~3におけるz方向)両側を支持部材20の第1板部21a及び第2板部21bに支持されている。弾性体10は、例えば、後述する通り、第1板部21aおよび第2板部21bの距離を調整されることで、弾性体10の厚みが調整され、弾性体10の体積が調整される。弾性体10の体積及び弾性体10が減少すると、弾性体10の電子密度が増大する。
【0028】
弾性体10は、例えば、スポンジ材料である。弾性体10の気孔率は、例えば、85%以下である。
【0029】
(支持部材)
支持部材20は、弾性体10を支持する。支持部材20は、例えば、弾性体10を挟む第1板部21a及び第2板部21bと、第1板部21aおよび第2板部21bの距離を調整可能に、第1板部21aおよび第2板部21bを締結している締結部材22と、を有する。
【0030】
支持部材20は、例えば、例えば、ポリプロピレン、ナイロン、ポリカーボネート等の材料で構成されており、ポリプロピレン、ナイロン、ポリカーボネートで構成されていることが好ましい。このような材料は、X線の吸収が小さいため、アーチファクトの発生を抑制でき、さらに、CT値、実効原子番号および電子密度としてより信頼性の高いデータを得られる。第1板部21a、第2板部21bを構成する材料のX線の質量減弱収係数は、例えば、管電圧120kVの連続X線の実効エネルギーを60keVとしたとき、1.6×10-1~2.6×10-1cm2/gであり、1.7×10-1~2.4×10-1cm2/gであることが好ましく、1.8×10-1~2.1×10-1cm2/gであることがより好ましい。また、管電圧120kVの連続X線の実効エネルギーを60keVとしたとき、第1板部21a、第2板部21bを構成する材料のX線の質量減弱収係数は、管電圧120kVの連続X線の実効エネルギーを80keVとしたとき、1.4×10-1~2.5×10-1cm2/gであり、1.5×10-1~2.2×10-1cm2/gであることが好ましく、1.6×10-1~2.0×10-1cm2/gであることがより好ましい。
尚、軟骨の質量減弱係数は、管電圧120kVの連続X線の実効エネルギーを60keVにおいて、2.042×10-1cm2/gであり、80keVにおいて、1.823×10-1cm2/gである。また、支持部材20は、これらの材料で形成されていることで、弾性体10を所望の厚みに調整する強度が担保される。
【0031】
第1板部21a及び第2板部21bは、例えば、弾性体10の積層方向と直交する方向に広がる。第1板部21a及び第2板部21bは、例えば、後述する締結部材22が設けられる位置に貫通孔が設けられている。第1板部21a及び第2板部21bは、例えば、ポリプロピレン等で形成されており、ポリプロピレンで形成されていることが好ましい。第1板部21a及び第2板部21bの厚みは、例えば、1mm以上10mm以下である。X線検査において測定結果に影響が及ぶことを抑制する観点から、第1板部21a及び第2板部21bの厚みは、小さい方が好ましく、上記範囲にすることで過剰な影響が及ぼされることを抑制できる。また、弾性体10の厚みを変形できる強度を担保する観点から、厚みが大きいことが好ましく、上記範囲にすることで、弾性体10を大きく圧縮させる場合であっても、強度の信頼性を高められる。
【0032】
締結部材22は、例えば、第1板部21a及び第2板部21bの広がる面に対して交差する方向に延在し、第1板部21a及び第2板部21bの距離を調整可能に連結している部材を含む。締結部材22は、例えば、ボルト22aおよびナット22bで構成されている。ボルト22aは、例えば、ナイロン等の基材で構成されており、ナイロンで構成されていることが好ましい。締結部材22は、例えば、
図2に示されるように、面内における2箇所に設けられている。
【0033】
ナット22bは、例えば、ポリカーボネート等の基材で構成されており、ポリカーボネートで構成されていることが好ましい。締結部材22が上記のような材料で構成されていることで、X線吸収係数を小さくするとともに、弾性体10を変形させるために十分な強度を確保できる。
【0034】
ボルト22aのねじ頂部は、z方向において、第1板部21aの弾性体10と反対側の面に位置している。ボルト22aの軸部は、例えば、第1板部21a及び第2板部21bを貫通している。ボルト22aの軸部同士の面内方向における間隔は、例えば、弾性体10の面内方向における幅と同じにすることができる。ナット22bは、第2板部21bに対し、弾性体10と反対側の面に設けられており、ボルト22aのうち、第2板部21bから延出した部分に螺合している。
【0035】
ファントム100Aは、ナットを締めることで、第1板部21a及び第2板部21bの間の距離を調整することができ、弾性体10の圧縮率が調整される。ここで、ファントム100Aにおける弾性体10の圧縮率が、第1板部21a及び第2板部21b間の距離により調整された場合であっても、CT検査におけるCT値及び実効原子番号に変化はない。一方、上記の通り、ファントム100Aにおける弾性体10の圧縮率が調整されると、弾性体10の密度が変化し、弾性体10の電子密度が変化する。すなわち、本実施形態に係るファントム100Aに拠れば、所望のCT値および実効原子番号を得るとともに、所望の電子密度に調整可能なファントムを提供することができる。CT値及び実効原子番号は、弾性体の基材を選択することで調整可能であって、所定の病変に対応した基材を選択し、X線照射源からのX線照射方向における弾性体の密度を調整することで電子密度を調整し、所定の病変に対応可能なファントムを提供することができる。
【0036】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に係るファントム100Aに限定されず、特許請求の範囲に記載された要旨の範囲内で適宜変更することができる。例えば、
図4,5に示されるようなファントム100B,100Cであってもよい。変形例に係るファントム100Dにおいて、ファントム100Aと同様な構成は、同様な符号を付し、説明を省略する。
【0037】
ファントム100B,100Cは、弾性体10に含まれる弾性層1の数及び圧縮率が異なる。ファントム100Bに備えられる弾性体10は、2つの弾性層1を備える。ファントム100Bにおける弾性体10の層数をファントム100Aと比べ2/3倍にし、弾性体10の積層方向における高さを揃えることで、弾性体10の圧縮率を2/3倍にし、弾性体10の電子密度を2/3倍に調整できる。また、ファントム100Cに備えられる弾性体10は、ただ1つの弾性層1からなる。ファントム100Cにおける弾性体10の層数をファントム100Aと比べ、1/3倍にし、弾性体の高さを揃えることで、弾性体10の圧縮率を1/3倍にし、弾性体10の電子密度を1/3倍に調整できる。
【0038】
ここで、ファントム100B,100Cにおいて、ファントム100Aと比べ、弾性体10を形成する弾性層1の圧縮率以外の構成に変化はないため、弾性体10の層数を及び圧縮率を調整した場合であっても、弾性体10のCT値及び実効原子番号に変化はなく、所望のCT値および実効原子番号を得るとともに、所望の電子密度に調整可能である。
【0039】
図6は、
図1の他の変形例に係るファントム100Dを模式的に示す斜視図である。ファントム100Dは、弾性体10Dにおける弾性層1Dの積層方向が、第1板部21a及び第2板部21bの面直方向と交差する方向である点、及び、圧力を印加していない状況における弾性層1Dの厚みが、ファントム100Aと異なる。
図6に示される通り、ファントム100Dにおいて、弾性体10Dは、積層方向と交差する方向に圧縮されていてもよい。このような場合であっても、弾性体10DのCT値及び実効原子番号は、弾性体10Dを形成する弾性材料のものが引き継がれるため所望の値にすることができ、且つ弾性体の密度により電子密度を所望の値に調整できる。
【0040】
図1~6には、弾性体10,10Dを形成する弾性層1,1Dの形状が同じであるファントムを示したが、弾性体10,10Dを形成する弾性層1は、それぞれ異なる形状であってもよい。また、
図1~6には、締結部材22がボルト22a及びナット22bからなる例を示したが、弾性体10,10Dを圧縮した状態で第1板部21a及び第2板部21bを締結可能、すなわち、第1板部21aおよび第2板部21bの距離を調節可能に締結可能な部材であれば、他の締結材料を用いてもよい。
【0041】
上記実施形態では、CT検査装置に用いられるファントムについて記載したが、本発明は、支持部材20の材料種の選択により、X線検査装置に適用可能と考えられる。具体的には、支持部材20の材料種の選択により、X線検査装置に使用可能であると考えられる。また、後述する
図10に示すように、支持部材を用いずに積み重ねて用い、見かけの実効密度変化を測定することに応用可能である。
【0042】
これらの材料は、レントゲン画像において、空気のX線吸収係数に近く、且つ、弾性体10を圧縮して支持する強度を兼ね備える。X線検査装置のファントムでは、X線照射源からのX線照射方向に関する弾性体10の厚みの変更により、弾性体10の電子密度が調整される。そのため、X線検査装置用のファントムでは、例えば、弾性体10が、X線照射源からのX線照射方向と積層方向が略同一である。
【0043】
本発明の一態様に係る検査方法は、上記態様に係るファントム100A,100B,100C,100Dを用いてCT検査を行い、弾性体10のCT値、実効原子番号および電子密度を検査する(CT検査工程)。CT検査工程では、ファントム100Aは、CT画像に締結部材22が写りこまないように、2つの締結部材22の間の断面を撮影することが好ましい。このような断面を撮影することで、検査対象としての弾性体10以外の部材による、CT値、実効原子番号および電子密度の測定結果への影響を抑制しやすい。
【0044】
本発明の一態様に係る検査方法は、さらに、CT検査の後に、ファントム100A,100B,100C,100Dを用いて、X線検査を行い、弾性体10のX線検査における像の写り方を観察する(レントゲン検査工程)。
【0045】
レントゲン検査工程では、例えば、CT検査工程において使用したファントム100A,100B,100C,100Dをそのまま使用することができる。レントゲン検査工程では、ファントム100A,100B,100C,100Dは、弾性体10の積層方向がX線照射源からのX線照射方向と同じになるように配列される。本実施形態によれば、上記CT検査工程において、弾性体10のCT値、実効原子番号及び電子密度といった、弾性体10固有のパラメータを既に得ているため、上記パラメータに対応するレントゲン画像における病変の写り方を観察できる。人体に対し、本検査方法のようにCT検査工程及びCT検査工程に続くレントゲン検査工程をいずれも行うことはできないが、上記実施形態に係るファントム100A,100B,100C,100Dを用いることで、例えば、レントゲン検査工程において、所定の病変に対し所定のX線検査を行った場合のレントゲン画像への写り方を検査できる。すなわち、所定の病変をレントゲン画像で確認するために最低限必要なX線照射量を推定が可能であり、また、異なるX線検査方法法の診断能を客観的に評価できる可能性がある。胸部X線CT撮影と比べ、胸部X線撮影は、被ばくが少なく、装置サイズが小さく、検査スループットが高いといったメリットがある。GGO等のシングルエナジー方式のX線検査では発見が困難な病変であっても、本態様のデュアルエナジーX線検査では、骨陰影の影響を抑制し、視認性を向上できる。
【実施例0046】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
実施例1として、
図1に示すようなファントム100Aと同様な配列のファントムを製造し、CT検査により弾性体のCT値、実効原子番号及び電子密度を検査した。以下、実施例1におけるファントムの製造方法を示す。
【0048】
<ファントムの作製>
先ず、弾性体として、弾性材料であるラテックス(TONY'S COLLECTION INC.製、製品名:天然ラテックススポンジ)を1つ用意した。弾性体としては、外部からの圧力を印加していない環境下での寸法が、幅:2cm、奥行き:2.5cm、厚み:2cmのものを用いた。
【0049】
次いで、支持部材を構成する2つの板部及び2つの締結部材を用意した。板部としては、厚み2mmであって、ポリプロピレンからなる板(商品番号:4549131311358、PPシート(乳白色、両面光沢))を用いた。締結部材としては、ポリカーボネートからなるボルト(廣杉計器製、型番:PCBT-0840W)およびナット(廣杉計器製、型番:PCNT-08)を使用した。
【0050】
2つの板部のそれぞれには、面直方向から平面視して重なる位置に2つの貫通孔を形成した。板部に設けられた貫通孔の幅方向における間隔は、弾性体の幅に対応している。
【0051】
次いで、弾性体を2つの板部の間に配置し、締結部材を締めることで、板部の間隔が2cmとなるように調節してファントムを用意した。実施例1では、2つの板部が弾性体と当接している。
【0052】
[実施例2]
ファントムに設置する弾性体の数を2つに変更した点を除き、実施例1と同様の方法でファントムを作製した。弾性体としては、外部からの圧力を印加していない環境下での寸法が同じものを用いた。弾性体は、板部の面直方向に沿って重ねて積層体とし、締結部材を締めたときの積層体の合計厚みが実施例1と同様(2cm)になるように調節してファントムを形成した。すなわち、実施例2では、弾性体の体積あたりの密度を実施例1の2倍にした。
【0053】
次いで、このファントムに対し、実施例1と同様の方法で、弾性体の奥行き方向と交差する方向におけるCT検査像を撮影し、ファントムに設けられた弾性体のCT値、実効原子番号および電子密度を検査した。
【0054】
[実施例3]
ファントムに設置する弾性体の数を3つに変更した点及びより多くの弾性体を圧縮するための強度を担保できるように、板部として厚みの大きいものに変更した点を除き、実施例1と同様の方法でファントムを作製した。弾性体は、実施例2と同様、板部の面直方向に沿って重ねて積層体とし、締結部材を締めることで、積層体の合計厚みが実施例1と同様(2cm)になるように調節した。すなわち、実施例3では、弾性体の体積あたりの密度を実施例1の3倍にした。板部の厚みは、2mmのものを2枚重ねにして4mmとした。
【0055】
<CT検査>
実施例1~実施例3のファントムをCT検査装置(Canon社製、型番:Aquilion ONE SPECTRAL Edition TSX-306A)に設置し、ファントムに備えられる弾性体の奥行き方向と交差する方向の断面のCT検査像を撮影するとともに、ファントムに含まれる弾性体に対応する位置を解析することでCT値、実効原子番号および電子密度を解析した。CT検査像のデュアルエナジー撮影は、上記CT検査装置で行い、得られた画像データの解析は解析ソフトVitrea(Canon社製)で行った。
図7~9に実施例1~3のファントムを用いてデュアルエナジー方式のCT検査により撮影したCT画像を示す。
図7,8,9は、それぞれ、ファントムに設けられた弾性体のCT値、実効原子番号、電子密度を示す図である。
図7~9において、左から順に実施例1(a)、実施例2(b)、実施例3(c)のCT検査像を示す。
図7~9には、解析を行った領域が丸で示されている。
管電圧: 135 kVp、80 kVp(デュアルエナジーシステム)
管電流: 350 mA
スキャン方法: ヘリカルスキャン
撮影スライス厚: 0.5 mm
撮影列数: 80列
ビームピッチ: 1.4
【0056】
(CT値)
実施例1,2,3のファントムに設けられた弾性体のCT値は、ハンスフィールド値で、それぞれ-826.60HU,-744.93HU,-606.04HUであり、実施例1~3において略同等であることが確認された。
【0057】
(実効原子番号)
実施例1,2,3のファントムに設けられた弾性体の平均実効原子番号は、それぞれ8.46,8.22,7.52であった。実施例1~3のファントムでは、弾性体の数及び密度を変更しており、異なる材質のものを用いていないことから、実効原子番号に変化がないことが確認された。また、文献「X 線減弱係数の仕分けと医用画像 岩本新一郎」に開示された、病変GGOの実効原子番号は、約7.60であり、該病変を模擬することを意図した実施例1~3では、所望の実効原子番号に調整できていることが確認された。尚、実施例3では、実施例1,2と比較し、やや小さな実効原子番号となっているが、これは板部の厚みを変更した影響があり、例えば、連続エネルギーX線の実効エネルギーが変化、すなわち透過力が変化していると推測される。
【0058】
(電子密度)
実施例1,2,3のファントムに設けられた弾性体の電子密度は、それぞれ0.42×1023[cm-3],0.81×1023[cm-3],1.30×1023[cm-3]であった。実施例2,3では、それぞれ実施例1に対し、弾性体の密度を2倍、3倍に変更することにより、電子密度が2倍、3倍に調整されていることが確認された。実施例1~3を対比することで、デュアルエナジー方式のCT検査をした際に、所望のCT値及び実効原子番号を得るとともに、所望の電子密度に調整可能なファントムを提供することが確認された。
【0059】
[参考例1~3]
参考例1~3では、それぞれ実施例1~3で用いた弾性体を外部からの圧力を印加せずにファントムとして用いた。参考例1~3では、人体の胸部を模擬する胸部ファントムN-1ラングマン(株式会社京都科学製)の背面に、実施例1~3で用いた弾性体を配列し、デュアルエナジー方式のX線検査によりレントゲン画像を撮影した。
図10に参考例のファントムをX線装置に適用するときの配置の例を示す図である。ファントムは、画像形成面がX線照射源から照射されるX線に対して直交するように角度調整用の土台30上に配列した。角度調整用の土台30は、空気の含有率が高く、X線吸収係数の小さな発泡スチロールで形成されたものを用いた。角度調整用の土台30は、ファントムを配列する位置毎に角度を適宜調節した。
【0060】
参考例1では、実施例1で用いたただ1つの弾性体を外部からの圧力を印加せずに用いた。すなわち、参考例1において、弾性体の厚みは2cmであった。参考例1では、X線照射源からのX線照射方向において、鎖骨及び肋骨と重なる位置にファントムを配列した。
【0061】
[参考例2]
参考例2では、実施例2で用いた2つの弾性体をX線照射源からのX線照射方向に重なるように配列し、外部からの圧力を印加せずに用いた。すなわち、参考例2において、弾性体の合計厚みを4cmとした。参考例2のファントムは、参考例1と同様、X線照射源からX線照射方向において、鎖骨及び肋骨と重なる位置にファントムを配列した。
【0062】
[参考例3]
参考例3では、実施例3で用いた3つの弾性体をX線照射源からのX線照射方向に重なるように配列し、外部からの圧力を印加せずに用いた。すなわち、参考例3において、弾性体の合計厚みを6cmとした。参考例3のファントムは、参考例1と同様、X線照射源からX線照射方向において、鎖骨及び肋骨と重なる位置にファントムを配列した。
【0063】
[比較例1~3]
比較例1,2,3として、それぞれ、シングルエナジー方式のX線検査を行ったことを除き、参考例1,2,3と同様の方法でレントゲン画像を撮影した。
【0064】
図11は、参考例のファントムを用いて撮影したレントゲン画像である。参考例1~3及び比較例1~3では、何れも
図11のレントゲン画像における位置「3」にファントムを配列した実験データである。
【0065】
図12(a)は、参考例1においてファントムを用いてデュアルエナジー方式のX線検査により撮影したレントゲン画像を示し、
図12(b)は、比較例1においてファントムを用いてシングルエナジー方式のX線検査により撮影したレントゲン画像を示す。
同様に、
図13(a)、
図14(a)は、それぞれ、参考例2、参考例3においてファントムを用いてデュアルエナジー方式のX線検査により撮影したレントゲン画像を示し、
図13(b)、
図14(b)は、それぞれ参考例2、参考例3においてファントムを用いてシングルエナジー方式のX線検査により撮影したレントゲン画像を示す。
【0066】
図12~14のそれぞれにおいて、デュアルエナジー方式のX線検査により撮影したレントゲン画像及びシングルエナジー方式のX線検査により撮影したレントゲン画像を比較すると、
図12(b)、
図13(b)及び
図14(b)のシングルエナジー方式のX線検査によるレントゲン画像では、鎖骨及び肋骨の骨陰影があることで、レントゲン画像中の陰影が骨陰影であるかファントムの陰影であるかの判別がつきづらく、病変を模擬するファントムの陰影の視認性が低かった。一方、
図12(a)、
図13(a)及び
図14(a)のデュアルエナジー方式のX線検査によるレントゲン画像では、骨陰影が除去されることで、原理的に読み取ることが難しい体厚方向の情報であっても、ファントムの陰影の視認性が高かった。
1:弾性層、10,10D:弾性体、20:支持部材、21a:第1板部、21b:第2板部、22:締結部材、22a:ボルト、22b:ナット、100A,100B,100C,100D:ファントム