(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177210
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】歯車の製造方法、歯車及び撓み噛合い式歯車装置
(51)【国際特許分類】
B23F 5/16 20060101AFI20241212BHJP
F16H 1/32 20060101ALI20241212BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20241212BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B23F5/16
F16H1/32 B
B29C45/00
B29C70/06
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024168149
(22)【出願日】2024-09-27
(62)【分割の表示】P 2020086400の分割
【原出願日】2020-05-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】田村 光拡
(72)【発明者】
【氏名】山本 章
(57)【要約】
【課題】流体材料から形成される成形品の利点を有しつつ歯車装置に適用可能な精度の歯車を製造可能な製造方法及び歯車を提供する。さらに、このような歯車を有する撓み噛合い式歯車装置を提供する。
【解決手段】この歯車の製造方法は、流体材料を固めて歯車中間体(IN)を形成する中間体形成工程(J1)と、歯車中間体(IN)に切削により歯(23g)を形成する歯形成工程(J2)とを含む。歯車(23)は、流体材料を固めて外面が形成された流体固化部と、外面が切削加工された切削加工部と、を有し、切削加工部には歯(23g)が含まれる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体材料を固めて歯車中間体を形成する中間体形成工程と、
前記歯車中間体に切削により歯を形成する歯形成工程と、
を含む歯車の製造方法。
【請求項2】
前記中間体形成工程においては樹脂材料を射出成形して前記歯車中間体を形成する、
請求項1記載の歯車の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂材料には強化繊維が含まれる、
請求項2記載の歯車の製造方法。
【請求項4】
前記中間体形成工程においては歯が形成される部分に凹凸の無い面を形成し、
前記歯形成工程においては前記凹凸の無い面に歯を形成する、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の歯車の製造方法。
【請求項5】
前記歯車中間体は歯以外の部分が完成品の歯車において形状が維持される、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の歯車の製造方法。
【請求項6】
撓み噛合い式歯車装置の内歯歯車を製造する、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の歯車の製造方法。
【請求項7】
流体材料を固めて外形が形成された流体固化部と、切削加工された切削加工部と、を有する歯車であって、
前記切削加工部には歯が含まれる歯車。
【請求項8】
起振体と、前記起振体により撓み変形する外歯歯車と、前記外歯歯車と噛み合う内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記内歯歯車は、流体材料を固めて外形が形成された流体固化部と、切削加工された切削加工部と、を有し、
前記切削加工部には歯が含まれる撓み噛合い式歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車の製造方法、歯車及び撓み噛合い式歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、炭素繊維を含有する樹脂材料から構成された歯車が示されている。特許文献1の歯車は、炭素繊維の長さを100μm以下とすることで、小型な歯車であっても耐久性及び耐摩耗性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯車を流体材料(例えば、樹脂材料)を固めて形成することで、低コスト化など、様々な利点が得られる。一方、流体材料を固めて形成した成形品は、成形時の様々な要因により、寸法バラツキが生じ易い。流体材料を固めて形成した歯車を歯車装置に適用すると、歯車装置に要求された精度を得られない場合がある。
【0005】
本発明は、流体材料から形成される成形品の利点を有しつつ歯車装置に適用可能な精度の歯車を製造可能な製造方法及び歯車を提供することを目的とする。さらに、このような歯車を有する撓み噛合い式歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る歯車の製造方法は、
流体材料を固めて歯車中間体を形成する中間体形成工程と、
前記歯車中間体に切削により歯を形成する歯形成工程と、
を含む。
【0007】
本発明に係る歯車は、
流体材料を固めて外形が形成された流体固化部と、切削加工された切削加工部と、を有する歯車であって、
前記切削加工部には歯が含まれる。
【0008】
本発明に係る撓み噛合い式歯車装置は、
起振体と、前記起振体により撓み変形する外歯歯車と、前記外歯歯車と噛み合う内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置であって、
前記内歯歯車は、流体材料を固めて外形が形成された流体固化部と、切削加工された切削加工部と、を有し、
前記切削加工部には歯が含まれる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、流体材料から形成される成形品の利点を有しつつ歯車装置に適用可能な精度の歯車を提供できる。さらに、このような歯車を持った撓み噛合い式歯車装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る第2内歯歯車であり、(A)はその平面図、(B)はA-A線断面図である。
【
図3】第2内歯歯車の製造工程を説明する図であり、(A)は射出成形工程、(B)は離型した歯車中間体、(C)は歯の切削工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置1を示す断面図である。以下では、
図1の回転軸O1に沿った方向を「軸方向」、回転軸O1から垂直な方向を「径方向」、回転軸O1を中心とする回転方向を「周方向」と呼ぶ。さらに、軸方向において、減速された回転運動が出力される第2カバー27側を「出力側」、その反対側を「反出力側」と呼ぶ。
【0013】
図1の撓み噛合い式歯車装置1は、外歯歯車12が撓み変形して回転軸O1回りの回転運動が伝達される筒型の撓み噛合い式歯車装置である。撓み噛合い式歯車装置1は、起振体軸10、起振体軸10により撓み変形される外歯歯車12、外歯歯車12と噛み合う第1内歯歯車22及び第2内歯歯車23、並びに、起振体軸受15を備える。さらに、撓み噛合い式歯車装置1は、ケーシング24、第1カバー26、第2カバー27、入力軸受31、32及び主軸受33を備える。
【0014】
起振体軸10は、中空軸状であり、回転軸O1に垂直な断面の外形が楕円状である起振体10Aと、起振体10Aの軸方向の両側に設けられ回転軸O1に垂直な断面の外形が円形である軸部10B、10Cとを有する。なお、楕円状とは、幾何学的に厳密な楕円に限定されるものではなく、略楕円を含む。起振体軸10は、回転軸O1を中心に回転し、起振体10Aの回転軸O1に垂直な断面における外形形状の中心は回転軸O1と一致する。起振体軸10は、モータ等の駆動源(図示省略)に連結されて駆動力が入力される入力軸である。
【0015】
外歯歯車12は、可撓性を有する円筒状の金属であり、外周に歯が設けられている。
【0016】
起振体軸受15は、起振体10Aと外歯歯車12との間に配置される。起振体軸受15は、複数の転動体(コロ)15Aと、複数の転動体15Aを保持する保持器15Cとを有する。複数の転動体15Aは、起振体10Aの外周面と外歯歯車12の内周面とを転動面(軌道面とも言う)として転動する。なお、起振体軸受15は、起振体10Aとは別体の内輪、外歯歯車12とは別体の外輪、又はこれら両方を有してもよい。
【0017】
外歯歯車12と、起振体軸受15の保持器15Cとの軸方向の両側には、これらに当接して、これらの軸方向の移動を規制する規制部材としてのスペーサリング36、37が設けられている。
【0018】
第1内歯歯車22と第2内歯歯車23とは、それぞれ内周部に歯22g、23gを有する。歯22g、23gは、軸方向に並び、一方が、外歯歯車12の軸方向の中央より片側の歯に噛合し、他方が、外歯歯車12の軸方向の中央よりもう一方の片側の歯に噛合する。
【0019】
第1内歯歯車22の外周部はケーシング24と共に撓み噛合い式歯車装置1の内部を覆うケーシングとして機能する。第1内歯歯車22の反出力側には、第1カバー26と連結されるために張り出した部分を有し、この部分に第1カバー26と連結するための連結部材(ボルト等、以下同様)51が螺合される連結用孔22h3が設けられている。さらに、第1内歯歯車22は、外周部に連結部材53を介してケーシング24と連結するための連結用孔22h1と、ケーシング24とともに共締めにより外部の支持部材と連結するための連結用孔22h2とが設けられている。さらに、第1内歯歯車22には、ケーシング24とインロー嵌合される嵌合面22e1と、第1カバー26とインロー嵌合される嵌合面22e2とを有する。連結用孔22h1~22h3には、連結部材が螺合する場合には雌螺子が形成され、連結部材が通される場合には雌螺子が無くて良い。
【0020】
第2内歯歯車23は、外周部に主軸受33の内輪33aが固定される嵌め合い面23s1と、内輪33aの軸方向の位置を決める当接面23s2と、駆動対象の外部部材と連結するための連結用孔23h1と、第2カバー27と連結するための連結用孔23h2と、第2カバー27とインロー嵌合される嵌合面23eとを有する。
【0021】
ケーシング24は、連結部材53を介して第1内歯歯車22と連結される。ケーシング24は、第1内歯歯車22ととともに、第1内歯歯車22及び第2内歯歯車23の歯22g、23gと外歯歯車12とが噛合する部分の径方向外側を覆う。ケーシング24は、主軸受33の外輪33bが固定される嵌め合い面24sと、連結部材53が螺合する連結用孔24h1と、第1内歯歯車22の連結用孔22h2と連通する連結用孔24h2とを有する。
【0022】
第1カバー26は、起振体軸10の反出力側における外周部を覆う。第1カバー26は、第1内歯歯車22の連結用孔22h1と連通する連結用孔26h1を有し、連結部材51を介して第1内歯歯車22と連結される。
【0023】
第2カバー27は、起振体軸10の出力側における外周部を覆う。第2カバー27は、第2内歯歯車23の連結用孔23h1、23h2それぞれと連通する連結用孔27h1、27h2を有する。連結用孔27h1は、駆動対象の外部部材と第2内歯歯車23との間で第2カバー27を共締めするための貫通孔である。連結用孔27h2は、連結部材52の座面を有する貫通孔であり、連結部材52が通されて連結部材が第2内歯歯車23の連結用孔23h2に螺合することで、第2カバー27が単体で第2内歯歯車23と連結される。
【0024】
入力軸受31は、起振体軸10の軸部10Bと第1カバー26との間に配置される。第1カバー26は、入力軸受31を介して起振体軸10を回転自在に支持する。入力軸受32は、起振体軸10の軸部10Cと第2カバー27との間に配置される。第2カバー27は、入力軸受32を介して起振体軸10を回転自在に支持する。
【0025】
主軸受33は、内輪33a、外輪33b及び転動体33cを有し、第2内歯歯車23とケーシング24との間に配置される。ケーシング24は、主軸受33を介して第2内歯歯車23を回転自在に支持する。
図1では、主軸受33として玉軸受を示しているが、ローラ軸受、クロスローラ軸受、アンギュラ玉軸受、テーパ軸受等、どのような種類の軸受であってもよい。なお、主軸受33の外輪33bは、ケーシング24と一体的に構成されてもよい。
【0026】
<各部材の素材>
第2内歯歯車23は、樹脂材料から構成される。樹脂材料には、樹脂単体、あるいは、強化繊維を含有した樹脂を適用でき、例えばPEEK(Poly Ether Ether Ketone)材やPOM(Polyacetal又はPolyoxymethylene等)など種々の樹脂材料を採用できる。強化繊維を含有した樹脂としては、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)などの複合材料、樹脂とその他の別素材との複合材料、ベーク材(紙ベーク材や布ベーク材等)などを適用することができる。樹脂材料が、樹脂単体である場合、あるいは、含有される強化繊維が布状に結び付いてない繊維である場合、樹脂材料を用いて射出成形又は圧縮成形が可能である。樹脂材料に含有される素材が布状又は片状に結びついた繊維であれば、樹脂材料を用いて圧縮成形が可能である。
【0027】
その他の部材の素材は特に限定されるものではないが、本実施形態においては、以下のように構成されている。第1内歯歯車22、ケーシング24、第1カバー26及び第2カバー27は、上記いずれかの樹脂材料から構成されている。これらの部材を樹脂製とすることにより、撓み噛合い式歯車装置1の低コスト化と軽量化とを図ることができる。
【0028】
起振体軸10、外歯歯車12、スペーサリング36、37は、鉄鋼素材等の金属素材から構成される。特に制限されないが、より具体的には、起振体軸10が、クロムモリブデン鋼などの鉄鋼素材から構成される。外歯歯車12は、ニッケルクロムモリブデン鋼などの鉄鋼素材から構成される。スペーサリング36、37は、高炭素クロム軸受鋼鋼材等の鉄鋼素材から構成される。
【0029】
<動作説明>
モータ等の駆動源により起振体軸10の回転駆動が行われると、起振体10Aの運動が外歯歯車12に伝わる。このとき、外歯歯車12は、起振体10Aの外周面に沿った形状に規制され、軸方向から見て、長軸部分と短軸部分とを有する楕円形状に撓んでいる。さらに、外歯歯車12は、固定された第1内歯歯車22と長軸部分で噛合っている。このため、外歯歯車12は起振体10Aと同じ回転速度で回転することはなく、外歯歯車12の内側で起振体10Aが相対的に回転する。そして、この相対的な回転に伴って、外歯歯車12は長軸位置と短軸位置とが周方向に移動するように撓み変形する。この変形の周期は、起振体軸10の回転周期に比例する。
【0030】
外歯歯車12が撓み変形する際、その長軸位置が移動することで、外歯歯車12と第1内歯歯車22との噛み合う位置が回転方向に変化する。ここで、例えば、外歯歯車12の歯数が100で、第1内歯歯車22の歯数が102だとすると、噛み合う位置が一周するごとに、外歯歯車12と第1内歯歯車22との噛み合う歯がずれていき、これにより外歯歯車12が回転(自転)する。上記の歯数であれば、起振体軸10の回転運動は減速比100:2で減速されて外歯歯車12に伝達される。
【0031】
一方、外歯歯車12は第2内歯歯車23とも噛合っているため、起振体軸10の回転によって外歯歯車12と第2内歯歯車23との噛み合う位置も回転方向に変化する。ここで、第2内歯歯車23の歯数と外歯歯車12の歯数とが同数であるとすると、外歯歯車12と第2内歯歯車23とは相対的に回転せず、外歯歯車12の回転運動が減速比1:1で第2内歯歯車23へ伝達される。これらによって、起振体軸10の回転運動が減速比100:2で減速されて、第2内歯歯車23及び第2カバー27へ伝達され、この回転運動が駆動対象の外部部材に出力される。
【0032】
<第2内歯歯車の詳細>
図2は、本発明の実施形態に係る第2内歯歯車であり、(A)はその平面図、(B)はA-A線断面図である。
【0033】
第2内歯歯車23は、
図2に示すように、内歯である歯23gよりも径方向に延在するフランジ部23Aを有する。内歯なので、フランジ部23Aは歯23gよりも径方向外方に延在するが、外歯であれば歯よりも径方向内方に延在する。フランジ部23Aは、さらに、軸方向において歯23gの位置よりも出力側と反出力側とにそれぞれ張り出した張り出し部23Aa、23Abを有する。張り出し部23Aaには、軸方向及び径方向に沿って延在する板状の複数のリブrと、隣接するリブrの間が間隙にされた肉抜き部pとを有する。肉抜き部pは、出力側が開口している。フランジ部23Aの張り出し部23Aa側には、前述した連結用孔23h1、23h2及び嵌合面23eが設けられている。もう一方の張り出し部23Abには、前述した当接面23s2が設けられ、張り出し部23Abを含んだフランジ部23Aの外周には、前述した嵌め合い面23s1が設けられている。
【0034】
第2内歯歯車23は、溶融された樹脂材料(すなわち流体材料)を固めて外面が形成された流体固化部と、外面が切削加工された切削加工部とを有する。外面とは、第2内歯歯車23を単体で見たときに、空気と触れる面を意味する。切削加工は、研磨加工を含む概念である。切削加工部には、工具のツールマーク(工具跡)が付加される。一方、流体固化部には、上記ツールマークが現れない。切削加工部と流体固化部とは、上記ツールマークの有無により判別できる。さらに、流体固化部が射出成形により形成される場合、流体固化部のいずれかの箇所には、溶融した樹脂材料が型内に充填される際に通過するゲート部の形状が含まれる。
【0035】
切削加工部には、歯23gが含まれる。歯23gの切削加工の手法は特に限定されないが、例えばギヤシェイパー、スカイピングカッター、ホブ等による歯の形成加工が含まれ、また砥石による研磨加工であってもよい。
【0036】
流体固化部には、上記の切削加工部以外の面(部位)が含まれる。例えば、流体固化部には、フランジ部23Aの反出力側の面S1、出力側の面S2、張り出し部23Aaの内周面S3、肉抜き部p内の面、当接面23s2、張り出し部23Abの外周面S4、連結用孔23h1、23h2の雌ネジ部以外の面、嵌め合い面23s1、嵌合面23e、連結用孔23h1、23h2の雌ネジ部等が含まれる。
【0037】
流体固化部は、例えば射出成形により形成されるが、繊維強化型樹脂の圧縮成形により形成されてもよい。流体固化部の外形は、型に沿った形状となる。
【0038】
なお、嵌め合い面23s1、嵌合面23e、連結用孔23h1、23h2の雌ネジ部のうち1つ又は複数は、流体固化部ではなく、切削加工部に含まれてもよい。嵌め合い面23s1又は嵌合面23eが切削加工に含まれる場合、その切削加工には、砥石等を用いた研磨加工が含まれる。嵌め合い面23s1又は嵌合面23eを切削加工とすることで、この面を介した嵌合構造の寸法精度が向上する。
【0039】
第2内歯歯車23の切削加工部は、第2内歯歯車23の全外面との面積比で、例えば50%以下であり、30%以下であるのが好ましい。さらには、歯23gのみを切削加工部とし、歯車中間体(
図3(B)、
図4の歯車中間体INを参照)の歯以外の部分が完成品の歯車(第2内歯歯車23)において形状が維持されるのがより好ましい。切削加工部は、高い加工精度が得られる一方、工程が追加される分、コストが増加する。切削加工部の面積比を上記の割合とすることで、第2内歯歯車23を低コストに製造できるという利点を維持しつつ、必要な部分の高い加工精度を得ることができる。
【0040】
<第1内歯歯車の詳細>
第1内歯歯車22は、溶融された樹脂材料を固めて外面が形成された流体固化部と、外面が切削加工された切削加工部とを有する。第1内歯歯車22において、切削加工部には歯22gが含まれる。切削加工部には、連結用孔22h1の雌ネジ部と、嵌合面22e1、22e2とのうち1つ又は複数が含まれていてもよい。第1内歯歯車22の流体固化部としては、切削加工部以外の部分が該当する。流体固化部と切削加工部とは、第2内歯歯車23の説明で示した方法と同様に判別できる。第1内歯歯車22においても、第1内歯歯車22の切削加工部は、第1内歯歯車22の全外面との面積比で、例えば50%以下であり、30%以下であるのが好ましい。さらには、歯22gのみを切削加工部とし、歯車中間体の歯以外の部分が完成品の歯車(第1内歯歯車22)において形状が維持されるのがより好ましい。
【0041】
<歯車の製造方法>
図3は、第2内歯歯車の製造工程を説明する図であり、(A)は射出成形工程、(B)は離型した歯車中間体、(C)は歯の切削工程を示す。
図4は、歯車中間体を示す平面図である。
【0042】
本実施形態の歯車の製造方法は、
図3(A)、(B)に示すように、流体材料である溶融した樹脂材料を固めることで歯車中間体INを形成する中間体形成工程J1と、
図3(C)に示すように、歯車中間体INに切削により歯23gを形成する歯形成工程J2とを含む。
【0043】
中間体形成工程J1は、
図3(A)に示すように、射出ノズルN1から型E1のキャビティ内へ溶融された樹脂材料を送り、型E1内で樹脂材料を固化させる射出成形工程である。型E1が開いて成形品が離型されることで、型E1のキャビティに沿った形状の歯車中間体INが得られる。なお、中間体形成工程J1は、圧縮成形工程が適用されてもよい。本実施形態においては、樹脂材料(例えば、PEEK材)には強化繊維(例えば、炭素繊維)が含有され、歯車中間体INの素材は繊維強化型樹脂であってもよい。
【0044】
歯車中間体INは、
図3(B)及び
図4に示すように、歯23gとなる部位に、歯23gの歯丈よりも径方向に厚く、表面(内周面)に凹凸が無い肉厚部M1を有する。なお、肉厚部M1は、歯23gの歯底と歯先に対応した凹凸を有し、かつ、歯23gよりも径方向に大きな厚みを有する形状であってもよい。凹凸を予め形成しておくことで、型成形の際に肉厚部M1に応力集中が生じることを抑制できる。
【0045】
さらに、例えば嵌め合い面23s1又は嵌合面23eなど、歯23g以外の部分が切削工程の対象として採用された場合、歯車中間体INのこれらの部分に切削分(研磨分)だけ厚みが大きい肉厚部M2、M3が形成される。肉厚部M1~M3以外の部分は、最終形態の第2内歯歯車23と同一の形状を有する。
【0046】
歯形成工程J2では、
図3(C)に示すように、歯車中間体INの肉厚部M1(の凹凸のない内周面)をギヤシェイパーCを用いて切削することで歯23gが形成される。なお、歯形成工程J2では、スカイピングカッター又はホブ等の別の工具が利用されてもよいし、砥石を用いた研磨工程が含まれてもよい。。
【0047】
本実施形態の歯車の製造方法は、更に、高い寸法精度を要する部分の切削工程が含まれていてもよい。例えば、この切削工程では、歯車中間体INの嵌め合い面23s1又は嵌合面23eが切削加工(砥石を用いた研磨など)される。この工程は、歯形成工程J2の前又は後、あるいは、歯形成工程J2と並行して行われる。
【0048】
上記の複数の工程を経て、本実施形態の撓み噛合い式歯車装置1の第2内歯歯車23が製造される。上記と同様の工程により、第1内歯歯車22が製造されてもよい。また、上記と同様の工程により、様々な歯車装置に含まれる内歯歯車又は外歯歯車が製造されてもよい。
【0049】
以上のように、本実施形態の歯車の製造方法によれば、流体材料を固めて歯車中間体INを形成する中間体形成工程J1と、歯車中間体INに切削により歯23gを形成する歯形成工程J2とを含む。中間体形成工程J1では、歯車中間体INを流体材料を固めて形成するので、製造コストを押し下げる効果が得られる。一方、流体材料を固める工程で寸法精度が低下することがあっても、歯形成工程J2により、歯23gの部分を高精度に加工できる。したがって、低い製造コストで高精度な歯車装置に適用可能な歯車(第2内歯歯車23)を製造できる。
【0050】
さらに、本実施形態の歯車の製造方法によれば、中間体形成工程J1では、射出成形により歯車中間体INが形成される。射出成形により、低コストにかつ品質のバラツキの少ない歯車中間体INを形成できる。したがって、歩留まりが向上し、より低い製造コストで高精度な歯車装置に適用可能な歯車(第2内歯歯車23)を製造できる。
【0051】
さらに、本実施形態の歯車の製造方法によれば、樹脂材料には強化繊維が含まれる。したがって、トルクの大きな歯車装置に適用できる高強度な歯車を製造できる。ここで、仮に、強化繊維を含有した樹脂材料を用いて射出成形により歯23gの形状まで形成したとする。この場合、歯先及び歯底の細かい形状を実現するためには、繊維の長さを短くしないと、強化繊維の分布率が歯22gの表面で低下してしまうなど、繊維の長さに制約が課される。一方、本実施形態の歯車の製造方法によれば、樹脂材料を固める成形工程では、細かい歯23gの形成が不要であり、切削により歯23gが形成されるので、長い強化繊維を使用しても、歯23gの全体において良好な繊維の分布を得ることができる。したがって、高精度でかつ高強度な歯車を製造できる。
【0052】
さらに、本実施形態の歯車の製造方法によれば、歯車中間体INの歯23gが形成される肉厚部M1は、凹凸の無い面を有する。したがって、溶融された樹脂材料を型E1内に充填する際、肉厚部M1の部分の充填が容易となり、更に、強化繊維を含有する場合にも、良好な繊維分布で肉厚部M1に樹脂材料を充填させやすい。よって、その後の切削加工を経て品質のバラツキの少ない高強度な歯23gが得られる。
【0053】
さらに、本実施形態の歯車の製造方法によれば、撓み噛合い式歯車装置1の第2内歯歯車23が製造される。撓み噛合い式歯車装置1は、高精度な歯車により、バックラッシュの小さい高精度な動作を実現できる。したがって、本実施形態の製造方法で製造された軽量、高精度及び低コスト化された第2内歯歯車23が適用されることで、軽量かつ高精度で低コストな撓み噛合い式歯車装置1を実現できる。
【0054】
本実施形態の第2内歯歯車23によれば、樹脂材料を固めて外面が形成された流体固化部と、外面が切削加工された切削加工部とを有し、切削加工部には歯23gが含まれる。したがって、流体固化部により低コスト化を図りつつ、高い歯23gの寸法精度を有する第2内歯歯車23を実現できる。さらに、第2内歯歯車23を有する撓み噛合い式歯車装置1により、装置の軽量化及び低コスト化を図りつつ、高精度な動作を実現できる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態の歯車の製造方法では、流体材料を射出成形して歯車中間体INを形成する例を示した。しかし、中間体形成工程は、圧縮成形、3Dプリンタによる成形など、流体材料(粉体、粒体材料を溶かして流体にする場合を含む)を固めて歯車中間体が形成できればどのような成形法が採用されてもよい。また、上記実施形態の歯車の製造方法では、主軸受33の内輪33aが固定される嵌め合い面23s1を切削加工する面として示したが、軸受の外輪が固定される嵌め合い面がある場合、この面が切削加工の対象とされてもよい。また、連結用孔の全体を切削加工の対象としてもよい。さらに、上記実施形態では、歯車を構成する流体材料として樹脂材料を示したが、例えば溶融されたアルミ、溶融された鉄などの溶融金属を流体材料としてアルミダイキャスト、鋳造、3Dプリンタ等の成形方法により歯車中間体を形成してもよい。この場合でも、流体材料を固めて成形する工程が含まれることで、歯車の低コスト化を図りつつ、切削による歯形成工程により歯の寸法及び形状の高い精度を実現できる。実施形態では、撓み噛合い式歯車装置の内歯歯車を例に説明したが、本発明の対象となる歯車は特に限定されず、例えば外歯歯車や直交歯車にも適用可能である。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 撓み噛合い式歯車装置
10A 起振体
12 外歯歯車
15 起振体軸受
22 第1内歯歯車
22e1、22e2 嵌合面
22g 歯
22h1~22h3 連結用孔
23 第2内歯歯車
23A フランジ部
23Aa、23Ab 張り出し部
23e 嵌合面
23g 歯
23h1、23h2 連結用孔
23s1 嵌め合い面
23s2 当接面
33 主軸受
33a 内輪
J1 中間体形成工程
E1 型
IN 歯車中間体
r リブ
p 肉抜き部
J2 歯形成工程
M1~M3 肉厚部