(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177216
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】軸動作完了判断装置及び軸動作完了判断方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4063 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
G05B19/4063 L
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024168579
(22)【出願日】2024-09-27
(62)【分割の表示】P 2023574805の分割
【原出願日】2022-02-18
(71)【出願人】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】小木曽 太郎
(57)【要約】
【課題】実加工のデータを用いることなく、正確な加工時間の予測が可能となる。
【解決手段】加工プログラムに基づき、少なくとも1つの軸を制御してワークを加工する工作機械の加工時間予測装置であって、加工プログラムを解析して軸の動作命令を生成する解析部と、動作命令の実行を統括し、加工プログラムを解析した結果から軸の動作を指示する補間部、及び軸の動作が完了したことを判断する動作完了判断部を備えた実行制御部と、軸の動作指示に基づいて制御指令を生成する軸制御部と、加工プログラムの実行に要した時間を測定して、加工時間を予測する加工時間予測部と、制御指令に基づき、軸の動作を模擬して仮想実績を出力する軸動作シミュレーション部と、を備え、動作完了判断部は、仮想実績に基づいて前記軸の動作の完了を判断する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工プログラムに基づき、少なくとも1つの軸を制御してワークを加工する工作機械の加工時間を予測する加工時間予測装置であって、
前記加工プログラムを解析して前記軸の動作命令を生成する解析部と、
前記動作命令の実行を統括し、前記加工プログラムを解析した結果から前記軸の動作を指示する補間部、及び前記軸の動作が完了したことを判断する動作完了判断部を備えた実行制御部と、
前記補間部からの前記軸の動作指示に基づいて制御指令を生成する軸制御部と、
前記加工プログラムの実行に要した時間を測定して、前記加工時間を予測する加工時間予測部と、
前記制御指令に基づき、前記軸の動作を模擬して仮想実績を出力する軸動作シミュレーション部と、
を備え、
前記動作完了判断部は、前記仮想実績に基づいて前記軸の動作の完了を判断する、
加工時間予測装置。
【請求項2】
前記軸動作シミュレーション部は、前記加工プログラムに基づく軌跡を描く送り軸と、工具又はワークを回転させる主軸との動作のシミュレーションを行う、請求項1に記載の加工時間予測装置。
【請求項3】
前記軸動作シミュレーション部は、他の軸の仮想実績に基づいて、前記他の軸の動作に追従するように動作する、請求項2に記載の加工時間予測装置。
【請求項4】
前記軸動作シミュレーション部による軸動作シミュレーションを行うのが、前記送り軸であるか、前記主軸であるかは、加工プログラムの命令により変更可能である、請求項2又は請求項3に記載の加工時間予測装置。
【請求項5】
前記軸動作シミュレーション部の特性を変更可能なモデル設定部を備え、
前記軸動作シミュレーション部は、
前記仮想実績を前記制御指令に追従させるサーボ制御モデルと、
1つ以上の微分方程式の数値解法を含み、サーボ制御モデルの出力たる操作量を入力すると、前記仮想実績を算出するプラントモデルと、
を備えた、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の加工時間予測装置。
【請求項6】
前記プラントモデルが前記軸の動力源としてインバータによって駆動される電動モータを含み、
前記インバータが接続されたDCバス電圧が算出可能である、請求項5に記載の加工時間予測装置。
【請求項7】
前記軸動作シミュレーション部は、2つ以上の軸に対してそれぞれ設けられ、各軸動作シミュレーション部の前記インバータが同一のDCバスに接続されている、請求項6に記載の加工時間予測装置。
【請求項8】
加工プログラムに基づき、少なくとも1つの軸を制御してワークを加工する工作機械の加工時間を予測する加工時間予測装置としてのコンピュータが、
前記加工プログラムを解析して前記軸の動作命令を生成する処理と、
前記動作命令の実行を統括し、前記加工プログラムを解析した結果から前記軸の動作を指示し、
前記軸の動作が完了したことを判断する処理と、
前記軸の動作指示に基づいて制御指令を生成する処理と、
前記加工プログラムの実行に要した時間を測定して、前記加工時間を予測する処理と、
前記制御指令に基づき、前記軸の動作を模擬して仮想実績を出力する軸動作シミュレーション処理、
を実行し、
前記軸の動作が完了したことを判断する処理において、前記仮想実績に基づいて前記軸の動作の完了を判断する、
加工時間予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の加工時間予測装置及び加工時間予測方法に関し、特に、加工プログラムに基づき、少なくとも1つの軸を制御してワークを加工する工作機械の加工時間を予測する加工時間予測装置及び加工時間予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械加工を効率よく行うためには、加工前に各工程の所要時間を把握しておく必要がある。特に、CNC工作機械の加工プログラムを実行するための所要時間を把握することは重要である。
【0003】
特許文献1には、許容加工誤差内で最も短い予測加工時間を求める数値制御装置が記載されている。
具体的には、特許文献1には、ワークの加工を行う際の加工速度を与える速度データと加工精度を与える精度データを指定し、加工プログラムに対しプログラム解析部が補間用データを作成し、補間部が補間前加減速部によって作成された速度に基づいて補間用データにしたがって補間を行って補間データ(ΔPn)を作成し、補間後加減速部が補間データ(ΔPn)に対して補間後加減速を行いサーボ位置指令データ(VCn)を作成することが記載されている。そして、特許文献1には、サーボシミュレーション部がサーボ位置指令データ(VCn)を受け取り、実際のサーボ動作をシミュレーションしたサーボ位置データ(Qn)を作成し、加工時間予測部が補間データによりまたは補間回数をカウントすることにより加工時間を測定でき、加工誤差予測部が補間データ(ΔPn)とサーボ位置データ(Qn)を用い予測加工誤差を求めることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、機械で発生する機械遅れを考慮した精度の高い加工時間の予測を可能とする数値制御装置が記載されている。
具体的には、特許文献2には、数値制御装置が、加工プログラムに基づいて軸の加減速を考慮しない加工時間である基準加工時間を予測する基準加工時間予測部と、加工プログラムに基づいて加工おける軸の加減速回数を予測する加減速回数予測部と、機械による実際の加工に掛かる加工時間である実加工時間と、当該加工において予測された基準加工時間との差である乖離時間に係る情報を記憶するデータ記憶部と、加減速回数予測部が予測した加減速回数と、データ記憶部に記憶された乖離時間に係る情報とに基づいて、基準加工時間を補正するための補正時間を算出する補正時間算出部と、基準加工時間を補正時間で補正した予測加工時間を算出する加工時間予測部と、を備えることが記載されている。
【0005】
特許文献3には、加工前に正確に加工所要時間を算出することができる加工時間算出装置が記載されている。
具体的には、特許文献3には、分割軌跡算出手段が、指定工具軌跡を曲率が小さい部分は大きい間隔で分割し、指定工具軌跡の曲率が大きくなるに従って小さい間隔で分割した分割軌跡を求め、軸制御データ算出手段が、工具を指定工具移動速度に従った速度で各分割軌跡上を移動させてワークを加工するときの該分割軌跡上の任意の位置と所定の時間間隔で求めた各軸方向の工具移動速度の時間変化とを軸制御データAとして求めることが記載されている。そして、特許文献3には、加工所要時間算出手段が、指定された範囲を加工するための加工時間を算出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-243152号公報
【特許文献2】特開2017-207823号公報
【特許文献3】特開2009-098981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CNC工作機械の加工プログラムに軸の停止命令が頻出する場合、及び工作機械に大慣性(応答時定数大)の軸が搭載される場合には、正確な加工時間の予測が難しい。
また、加工時間の予測に実加工のデータを用いると、データの収集に時間及び労力が必要となる。
よって、実加工のデータを用いることなく、加工プログラムで軸の停止命令が頻出する場合、及び工作機械に大慣性の軸が搭載される場合であっても、正確な加工時間の予測が可能な、工作機械の加工時間予測装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の代表的な第1の態様は、加工プログラムに基づき、少なくとも1つの軸を制御してワークを加工する工作機械の加工時間を予測する加工時間予測装置であって、
前記加工プログラムを解析して前記軸の動作命令を生成する解析部と、
前記動作命令の実行を統括し、前記加工プログラムを解析した結果から前記軸の動作を指示する補間部、及び前記軸の動作が完了したことを判断する動作完了判断部を備えた実行制御部と、
前記補間部からの前記軸の動作指示に基づいて制御指令を生成する軸制御部と、
前記加工プログラムの実行に要した時間を測定して、前記加工時間を予測する加工時間予測部と、
前記制御指令に基づき、前記軸の動作を模擬して仮想実績を出力する軸動作シミュレーション部と、
を備え、
前記動作完了判断部は、前記仮想実績に基づいて前記軸の動作の完了を判断する、
加工時間予測装置である。
【0009】
本開示の代表的な第2の態様は、加工プログラムに基づき、少なくとも1つの軸を制御してワークを加工する工作機械の加工時間を予測する加工時間予測装置としてのコンピュータが、
前記加工プログラムを解析して前記軸の動作命令を生成する処理と、
前記動作命令の実行を統括し、前記加工プログラムを解析した結果から前記軸の動作を指示し、
前記軸の動作が完了したことを判断する処理と、
前記軸の動作指示に基づいて制御指令を生成する処理と、
前記加工プログラムの実行に要した時間を測定して、前記加工時間を予測する処理と、
前記制御指令に基づき、前記軸の動作を模擬して仮想実績を出力する軸動作シミュレーション処理、
を実行し、
前記軸の動作が完了したことを判断する処理において、前記仮想実績に基づいて前記軸の動作の完了を判断する、
加工時間予測方法である。
【発明の効果】
【0010】
本開示の各態様によれば、実加工のデータを用いることなく、加工プログラムで軸の停止命令が頻出する場合、及び工作機械に大慣性の軸が搭載される場合であっても、正確な加工時間の予測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の第1実施形態の、加工時間予測装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】軸動作シミュレーション部の軸が送り軸であるの場合の、軸動作シミュレーション部の伝達関数のブロック線図である。
【
図3】軸動作シミュレーション部の軸が主軸であるの場合の、軸動作シミュレーション部の伝達関数のブロック線図である。
【
図4】軸動作シミュレーション部の軸が主軸である場合の、軸動作シミュレーション部の構成を示すブロック図である。
【
図5】モータ、カップリング、ボールネジからなる駆動系を示す図である。
【
図6】摩擦トルクとモータの角速度との関係を示す特性図である。
【
図7】タービンブレードWを加工するマシニングセンタの構成を示す構成図である。
【
図8】インポジションチェックを説明するための特性図である。
【
図9】速度の停止判断幅を説明するための特性図である。
【
図10】速度の到達幅及び速度が到達幅に入るまでの待ち時間を説明するための特性図である。
【
図11】X軸指令速度と軸動作シミュレーション部から出力されたX軸速度、及び待ち時間を示す特性図である。
【
図12】加工時間予測装置の加工時間予測動作を示すフローチャートである。
【
図13】本開示の第2実施形態の、加工時間予測装置の構成を示すブロック図である。
【
図14】Z軸動作シミュレーション部が、主軸動作シミュレーション部の動作に追従して動作する構成を示すブロック図である。
【
図15】X軸動作シミュレーション部とZ軸動作シミュレーション部とが、同一のDCバスに接続される構成例を示す図である。
【
図16】モータの最大トルクと回転数との関係を示す特性図である。
【
図17】領域R1のτmaxが領域R2にも適用されるとして、予測した待ち時間と、N-T特性を考慮した待ち時間を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は本開示の第1実施形態の、加工時間予測装置の構成を示すブロック図である。
加工時間予測装置10は、解析部100、実行制御部200、軸制御部300、軸動作シミュレーション部400、及び加工時間予測部500を備えている。実行制御部200は、補間部201及び動作完了判断部202を備えている。加工時間予測装置10は、加工プログラムに基づき、少なくとも1つの軸を制御してワークを加工する工作機械の加工時間(加工プログラムの実行時間)を予測する。
解析部100、補間部201及び軸制御部300は、数値制御装置(以下、NC装置と記す)を構成する。動作完了判断部202は、補間部201とともにNC装置内に設けられても、NC装置外に設けられてもよい。加工時間予測部500は、NC装置内に設けられてもよい。
以下、加工時間予測装置10を構成する各部について説明する。
【0014】
解析部100は、送り軸の位置決め及び主軸の速度制御の動作を規定する加工プログラムとなるNC(Numerical Control)プログラムを解釈し、NCプログラムを各コードと値に分解し、移動距離、移動経路及び指令速度(軸の動作命令となる)を求める。
【0015】
実行制御部200は、補間部201及び動作完了判断部202を備えている。
補間部201は、動作命令の実行を統括し、NCプログラムを解析した結果から軸の動作を指示する。具体的には、解析部100により得られた移動距離、直線又は円弧などの移動経路、指令速度をもとに、移動経路上の点を補間周期で補間計算した補間データ(軸の動作指示となる)を生成し、軸制御部300へ補間データを出力する。
【0016】
動作完了判断部202は、軸制御部300又は軸動作シミュレーション部400から出力される制御指令と、軸動作シミュレーション部400から出力される仮想実績とに基づいて、軸の動作の完了を判断する。仮想実績は、例えば、軸動作シミュレーション部400から出力される、送り軸の位置、位置偏差、速度若しくは速度偏差、及び主軸回転数である。動作完了判断部202は、仮想実績に基づいて、例えば、送り軸に対する移動命令(位置決め)に対する動作完了確認、主軸の回転数変更(速度変更)に対する動作完了確認を行う。動作完了判断部202による動作完了確認の動作の詳細は後述する。
【0017】
軸制御部300は、補間部201からの軸の動作指示に基づいて制御指令を生成して軸動作シミュレーション部400へ出力する。具体的には、軸制御部300は、補間データに基づいて加減速プロファイルを生成し、さらに各制御軸への分配を行うことで、送り軸の電動機となるサーボモータ及び主軸の電動機となる主軸モータの制御周期ごとの位置指令値又は速度指令値を軸動作シミュレーション部400に与える。
【0018】
軸動作シミュレーション部400は、位置指令値又は速度指令値に、送り軸及び主軸を駆動する電動機の駆動を追従させるサーボ制御及び工作機械の動作のシミュレーションを行い、仮想実績を動作完了判断部202に出力する。また、軸動作シミュレーション部400は、位置指令値、速度指令値等の制御指令を動作完了判断部202に出力する。軸動作シミュレーション部400による軸動作シミュレーションの詳細は後述する。
【0019】
加工時間予測部500は、解析部100で求めた移動距離、移動経路及び指令速度等を用いて、加工プログラムの指令時間を求め、求めた指令時間と、軸制御部300又は動作完了判断部202から出力される制御指令及び動作完了判断部202からの完了確認の通知から求められる待ち時間とから、加工時間(加工プログラムの実行時間)の予測を行う。なお、加工時間予測部500に入力される制御指令は、軸制御部300又は軸動作シミュレーション部400から出力されてもよい。加工時間予測部500による加工時間の予測動作の詳細は後述する。
待ち時間とは、例えば、速度指令値が速度“0”(停止)に設定されてから、指定された幅の位置範囲若しくは速度”0”の停止と判断される停止判断幅の範囲まで減速して到達するまでの時間をいう。また、待ち時間とは、例えば、速度指令値が目標とする速度に設定されてから、速度が増加して、目標とする速度の到達幅の範囲まで到達するまでの時間をいう。
加工時間予測部500は、加工プログラムで軸の加速と停止の命令が繰り返される場合、指令時間の合計と、待ち時間の合計とを加算して加工時間の予測を行う。
【0020】
次に、軸動作シミュレーション部400、動作完了判断部202、及び加工時間予測部500について更に説明する。
(軸動作シミュレーション部400)
軸動作シミュレーション部400は、加工プログラムに基づく軌跡を描く送り軸と、工具又はワークを回転させる主軸との動作のシミュレーションを行う。
軸動作シミュレーション部400は、例えば、軸が送り軸である場合、
図2の伝達関数のブロック線図で示される。
図2のブロック線図と同様な構成のブロック線図は、特開平3-110607号公報に記載されている。
軸動作シミュレーション部400の伝達関数は、伝達関数401から伝達関数407の結合により構成される。
【0021】
図2において、伝達関数401は、位置ループの伝達関数で、Kpはポジションゲインを示す。伝達関数402は、速度ループの伝達関数で、k
1は積分ゲイン、k
2は比例ゲインを示す。伝達関数403、404はモータの伝達関数である。K
tはトルク定数、J
mはモータイナーシャ(慣性モーメント)を示す。伝達関数405はサーボモータと機械の結合部であるボールネジ等を示す。伝達関数406は機械の伝達関数で、J
Lは機械のイナーシャを示す。伝達関数407は機械の可動部の速度を積分して機械の位置を求める積分要素の伝達関数である。
【0022】
伝達関数401で示される位置ループ、伝達関数402で示される速度ループはサーボ制御モデルとなり、伝達関数403、404、405、406及び407で示される、モータ、ボールネジ等及び積分要素はプラントモデルである。
サーボモータの角速度は、数式1(以下の数1)の微分方程式で求めることができる。
この微分方程式を用いた数値解法はプラントモデルに含まれる。
数式1において、ωは角速度、τはトルク、J
mはモータイナーシャを示す。
【数1】
軸制御部300から出力される位置指令Pcからリニアスケール等で検出される機械の位置のフィードバック信号P
fを減じて位置偏差を求め、この位置偏差にポジションゲインKpを乗じて、速度指令V
cが求められる。この速度指令V
cからサーボモータに取付けられたパルスコーダ等で検出されるモータ速度のフィードバック値V
fを減じて速度偏差を求め、比例積分してトルク指令T
C(電流指令)を求め、トルク指令Tcに基いてサーボモータは駆動され、サーボモータはクローズド・ループ方式で位置、速度のフィードバック制御がなされる。
また、軸動作シミュレーション部400は、伝達関数407がサーボモータの角速度を積分してサーボモータの角度を求め、サーボモータの角度を機械の位置に換算した値を機械の位置とみなす構成であってもよい。
【0023】
軸動作シミュレーション部400は、例えば、軸が主軸である場合、
図3の伝達関数のブロック線図で示される。
図3に示すブロック線図は、
図2に示すブロック線図の機械の位置のフィードバック信号P
fのループに関係する伝達関数401、407を取り除いたブロック線図に対応する。
【0024】
図3に示した、伝達関数402、403、404は、
図2に示した伝達関数402、403、404と同じである。
図3の伝達関数403、404で示されるモータは、サーボモータ又は誘導モータである。
図3の伝達関数406は、主軸の伝達関数である。
図3の伝達関数405は、モータと主軸の結合部で、カップリングによってモータの回転軸と主軸が直接結合されている場合もあれば、歯車機構やベルト・プーリ機構によってモータの回転数が減速あるいは増速されて主軸に伝達される場合もある。モータの伝達関数404はモータの角速度を主軸回転数に換算した値Vfを出力して、速度ループの伝達関数402は主軸回転数指令Vcと、伝達関数404の出力Vfを一致させるよう速度制御を行う。
【0025】
また、
図3は、伝達関数406の出力をVfとする構成であっても、主軸動作シミュレーション部として機能する。
さらに、
図3は、伝達関数405と伝達関数406を取り除いてもJmをモータイナーシャと主軸イナーシャの和とすれば主軸動作シミュレーション部として機能する。
【0026】
軸動作シミュレーション部400は、例えば、軸が主軸で、モータが誘導モータである場合は、
図4のブロック図で示される。
図4のブロック図と同様な構成のブロック図は、特開2020-5406号公報に記載されている。
図4に示すブロック図は、特開2020-5406号公報に記載されたブロック図に示された、近接スイッチと、近接スイッチの検出パルス数を利用する回転速度計算部と、速度指令補正部とが取り除かれている。近接スイッチと、近接スイッチの検出パルス数を利用する回転速度計算部と、速度指令補正部とを除いた、軸動作シミュレーション部400の構成及び動作は、特開2020-5406号公報に記載された構成及び動作と同様なので、詳細な説明は省略する。
【0027】
図4に示すように、軸動作シミュレーション部400は、減算器411、速度制御部412、電流制御部413、1次周波数制御部414、すべり周波数計算部415、減算器416、2相-3相変換部417、及び誘導モータ418を備えている。
【0028】
減算器411は、軸制御部300から出力される速度指令値と、後述の減算器416から出力される回転速度推定値との差を求めて、速度偏差を出力する。
速度制御部412は、減算器411で求められた速度偏差に、例えばPI(比例、積分)制御を施すことにより、電流指令値(トルク指令値)を生成する。
【0029】
電流制御部413は、速度制御部412で生成された電流指令値(トルク指令値)と、後述する誘導モータ418の駆動電流値とに基づいて、電圧指令値(d相電圧指令値とq相電圧指令値)を生成する。
【0030】
1次周波数制御部414は、速度制御部412で生成された電流指令値(トルク指令値)に基づいて1次周波数指令値を生成する。
【0031】
すべり周波数計算部415は、速度制御部412で生成された電流指令値(トルク指令値)に基づいて、すべり周波数推定値を計算する。
【0032】
減算器416は、1次周波数制御部414からの1次周波数指令値と、すべり周波数計算部415で求められたすべり周波数推定値との差を求めて、誘導モータ418の回転速度計算値として出力する。
【0033】
2相-3相変換部417は、1次周波数制御部414からの1次周波数指令値に基づいて、電流制御部413で生成されたd相電圧指令値とq相電圧指令値とをUVW各相の電圧指令値に変換することにより、誘導モータ418を駆動するための電圧指令値を生成する。
【0034】
誘導モータ418の駆動電流値は、例えば、誘導モータ418の状態方程式に前回生成した電圧指令値を電圧として与えることで算出することができる。誘導モータの状態方程式および電流の計算方法は、例えば、非特許文献である、村田・土谷・武田「誘導電動機の1次鎖交磁束ベクトル制御』計測自動制御学会論文集Vol25,No.11 P1194-1201(1989年)に記載されている。
【0035】
なお、摩擦を考慮した場合の、モータの角速度は、以下のように計算することができる。
図5に示すように、モータ4001、カップリング4002、ボールネジ4003及びテーブル4004からなる駆動系を考えると、モータ4001に作用する摩擦トルクf
mは、数式2(以下の数式2)で示され、摩擦トルクf
mとモータの角速度ω
mとの関係は
図6の特性図で示される。
数式2において、J
mはモータのロータ、カップリング、ボールネジの慣性モーメントの和を示し、ω
mはモータの角速度を示す。時間Δtごとに角速度ω
mを更新するシミュレーションを行う。更新の回数をk、時刻kΔtの角速度をω
m[k]と表記する。
【数2】
数式2及び
図6の添え字を”m”から”L”に替えると、テーブルに作用する摩擦トルクf
L[k]を求めることができる。J
Lはテーブルの質量を慣性モーメントに換算した値、ω
Lはテーブルの速度を角速度に換算した値となる。
【0036】
モータに印加されるトルクτm[k]、及びテーブルに印加されるトルクτL[k]は、数式3を用いて求められる。数式3において、τinはモータに供給された入力トルク、Ksはモータとテーブルとの間のねじれ剛性である。
【数3】
数式3に示したトルクτ
m[k]及びトルクτ
L[k]を用いて、数式4(以下の数4)の関係式が求められる。数式4において、ω
mはモータの角速度、ω
Lはテーブルの速度を角速度に換算した角速度はモータに印加されるトルクである。
【数4】
静止摩擦Fは、低速におけるサーボ制御性を悪化させる要因なので、静止摩擦を角速度の計算で考慮することで、後述する動作完了待ち時間の予測精度を高めることができる。
【0037】
軸動作シミュレーション部は、例えば軸が輪郭制御回転軸である場合には、軸動作シミュレーションを送り軸であるか、主軸であるかを、加工プログラムの命令により変更可能とすることができる。
輪郭制御回転軸の定義は、例えば、https://www.jmtba.or.jp/exportcontrolの「9.輪郭制御回転軸と割出し軸の考え方について(2018.7.24)」において、
「軸名称を有し、工作機械本体側の数値制御装置(NC)により制御され、旋削・フライス削り・研削(以下「切削」という。)を意図したものであって、次の全てを満たす軸は 輪郭制御 をすることができる 回転軸である。
(1)回転動作を切削送りとして用いることができる軸
(2)他の直線軸や回転軸と同時に切削送り指令することができる軸
(3)他の直線軸や回転軸と同時に指令した場合、指定した経路に沿って補間動作をする軸」とされている。
【0038】
輪郭制御回転軸の例としては、例えば、特開2014-121746号公報に記載された、タービンブレードWを加工するマシニングセンタがある。
図7はタービンブレードWを加工するマシニングセンタの構成を示す構成図である。
図7に示すマシニングセンタは、タービンブレードWを把持可能なクランプ機構424a、424bを備えた一対の台421a、421b、及び工具Tを装着可能な台423を有し、各台421a、421bは、軸(図示せず)を回転させるためのサーボモータ422a、422bを内蔵している。そして、台421aは、水平軸に平行なA1軸周りで軸を回転可能とした姿勢で設置されている。一方、台421bは、クランプ機構424a、424b同士が対向し、且つ、A1軸と同軸なA2軸周りで主軸を回転可能とした姿勢で設置されている。
【0039】
台421bは、A1軸及びA2軸(
図1におけるX軸でもある)に平行なU軸方向へスライド可能とされている。また、台423は、
図7における表裏方向(Y軸方向)に平行なB軸周りで旋回可能となっている。さらに、工具Tは、台423内部の主軸(図示せず)に装着されており、サーボモータ(図示せず)によって主軸と共に回転可能となっている。
【0040】
図7のマシニングセンタにおいて、ワークWをタービンブレードに加工する加工プログラムが実行されているものとする。ブレード部分を加工するとき、A1軸とA2軸は送り軸として動作する。エンドミルなどの回転工具Tでワーク中央部のブレード形状を加工する。他方、ワーク端部に円筒形状を加工するとき、A1軸とA2軸は主軸として動作する。回転するワークWにバイトなどの工具Tを用いて旋削加工を実施する。つまり、A1軸とA2軸はサーボモータ422a、422bで駆動される回転軸であって、加工プログラムの命令により、加工プログラムの途中で送り軸になったり、主軸になったりする。
【0041】
(動作完了判断部202)
動作完了判断部202は、既に説明したように、軸制御部300又は軸動作シミュレーション部400から出力される制御指令と、軸動作シミュレーション部400から出力される仮想実績とに基づいて、動作の完了を判断する。
【0042】
(1)停止時の動作完了の判断動作
動作完了判断部202は、速度指令値が速度“0”(停止)に設定された場合に、送り軸又は主軸が減速されて、指定された幅の位置範囲内に入ったか、又は速度”0”の停止と判断される停止判断幅の範囲内に入ったかで、動作完了を判断する。
送り軸又は主軸が減速されて、指定された幅の位置範囲内に入ったか否かは、動作完了判断部202が、送り軸又は主軸の位置決めをインポジションチェックで判断することで行われる。動作完了判断部202は、速度指令値が速度“0”(停止)に設定された場合に、インポジションチェックを行い、インポジションに入っていれば動作完了と判断する。インポジションとは、モータが指令された位置の幅内に到着していることをいう。
【0043】
図8は、インポジションチェックを説明するための特性図である。
図8に示す特性図は、時刻Tと、時刻TにおけるX軸速度指令及び位置偏差量との関係を示している。位置偏差量は仮想実績となる。
動作完了判断部202は、時刻TにおけるX軸の速度指令値を軸制御部300又は軸動作シミュレーション部400から逐次取得し、また時刻Tにおける位置偏差量を軸動作シミュレーション部400から逐次取得する。そして、動作完了判断部202は、加工プログラムのブロックNxxで、X軸速度指令値が速度“0”(停止)となったときに、インポジションチェックを行い、位置偏差量が予め設定されているインポジション幅以下となったら、動作完了と判断し、補間部201に動作完了確認を通知する。補間部201は、動作完了確認の通知を受けると、次ブロックNyyの動作を開始する。
図8では、加工プログラムのブロックNxxで、X軸速度指令値が速度“0”(停止)となったときから、次ブロックNyyの動作が開始されるまでの期間をインポジションチェックとして示されている。
また、動作完了判断部202は、加工時間予測部500に動作完了確認を通知する。加工時間予測部500は、動作完了確認の通知を受けると、ブロックNxxの終了を認識し、加工時間の測定を行う。
【0044】
動作完了判断部202は、減速時の動作完了を、インポジションチェックによらず、速度が停止判断幅に入ったことにより判断してもよい。
図9は、速度の停止判断幅を説明するための特性図である。
動作完了判断部202は、時刻TにおけるX軸の速度を軸動作シミュレーション部400から逐次取得する。そして、動作完了判断部202は、X軸の速度が予め設定されている停止判断幅に入り、速度の振動が所定の回数だけ停止判断幅内に収まった場合に、動作完了と判断し、補間部201に動作完了確認を通知する。補間部201は、動作完了確認の通知を受けると、次ブロックの動作を開始する。
また、動作完了判断部202は、加工時間予測部500に動作完了確認を通知する。加工時間予測部500は、動作完了確認の通知を受けると、ブロックの終了を認識し、加工時間の測定を行う。
【0045】
(2)加速あるいは減速時の動作完了の判断動作
動作完了判断部202は、速度又は主軸回転数が変更の場合は、速度到達のチェックを行い、動作完了を判断する。
図10は、加速時に速度の到達幅及び速度が到達幅に入るまでの待ち時間を説明するための特性図である。
動作完了判断部202は、時刻Tにおける、送り軸の速度又は主軸回転数を軸動作シミュレーション部400から逐次取得する。そして、動作完了判断部202は、送り軸の速度又は主軸回転数が予め設定されている到達幅に入ったときに動作完了と判断し、補間部201に動作完了確認を通知する。
また、動作完了判断部202は、加工時間予測部500に動作完了確認を通知する。加工時間予測部500は、動作完了確認の通知を受けると、加工時間の測定を行う。
減速時においても、動作完了判断部202は、送り軸の速度又は主軸回転数が予め設定されている到達幅に入ったときに動作完了と判断することができる。
【0046】
(加工時間予測部500)
加工時間予測部500は、加工プログラムの実行に要した時間を測定して加工時間を予測する。
例えば、加工時間予測部500は、既に述べたように、解析部100で求めた移動距離、移動経路及び指令速度等を用いて、加工プログラムの指令時間を求め、求めた指令時間と、軸制御部300又は動作完了判断部202から出力される制御指令、及び動作完了判断部202からの完了確認の通知から求められる待ち時間とから加工プログラムの実行に要した時間を測定し、加工時間の予測を行う。
加工時間は、指令時間と待ち時間との和で求めることができる。
図11はX軸指令速度と軸動作シミュレーション部から出力されたX軸速度、及び待ち時間を示す特性図である。
【0047】
解析部100での解析結果を用いて、加工プログラムの指令時間を求める方法は、公知の技術、例えば、特開2012-093975号公報に開示された、加工時間予測装置に関する技術を用いて行うことができる。特開2012-093975号公報には、NC指令を解読するNC指令解読部と、工具経路を細かい切片であるセグメントに分割するセグメントデータ生成部と、セグメントデータを格納する中間メモリと、セグメントの接線方向の速度を求める速度制約処理部と、速度制約処理部によって求めた速度に基づいて各セグメントを工具が移動するのに要する時間を算出するセグメント移動時間算出部と、各セグメントを移動する時間の総和を工具移動時間とする全移動時間算出部と、を備え、NC指令によって工具が指定された経路を移動するのに要する時間を算出する加工時間予測装置が記載されている。
【0048】
停止時の待ち時間を求める方法は、例えば、
図11に示すように、動作完了判断部202で判断された動作完了の時刻t2と、X軸指令速度の速度が“0”(停止)となったときの時刻t1との差をとることで求められる。加速時の待ち時間を求める方法も同様にして行うことができる。
加工時間予測部500は、加工プログラムで軸の加速と停止の命令が繰り返される場合、指令時間の合計と、待ち時間の合計とを加算して(指令時間と待ち時間とを集計して)、加工時間の予測を行う。
【0049】
加工プログラムの実行に要した時間とは、例えば、加工プログラムの解析を開始したときから、加工プログラムの最後のブロックについて動作完了が判断されたときまでを指す。加工プログラムの実行開始と実行完了のそれぞれの時機をどう設定するかについては、加工時間を指令時間と待ち時間との和で求める上記の例の他にもいくつかの実施手段を想定することが可能ではある。本発明が軸動作の指令時間と動作完了待ち時間に着目してなされたものであることを鑑みれば、実行開始を最初の軸動作の指令開始時点よりも前のいずれに設定しようとも、あるいは実行完了を最後の軸動作の動作完了判断よりも後のいずれに設定しようとも発明の主旨には何ら影響しない。
【0050】
以上、加工時間予測装置10の構成について説明した。次に加工時間予測装置10の加工時間予測動作について、加工プログラムで軸の加速と停止の命令が繰り返される場合を例にとって、フローチャートを用いて説明する。
図12は、加工時間予測装置10の動作を示すフローチャートである。
ステップS11において、解析部100は、NCプログラムを解釈し、移動距離、移動経路及び指令速度を求める。そして、補間部201は補間データを生成し、軸制御部300は、補間データをもとに、位置指令値又は速度指令値を生成する。
【0051】
ステップS12において、軸動作シミュレーション部400は、位置指令値又は速度指令値に、送り軸及び主軸を駆動する電動機の駆動を追従させるサーボ制御及び工作機械の動作のシミュレーションを行い、仮想実績を動作完了判断部202に出力する。
【0052】
ステップS13において、補間部201から出力される指令と、軸動作シミュレーション部400から出力される仮想実績とに基づいて、動作の完了を判断する。
【0053】
ステップS14において、加工時間予測部500は、補間部201で求めた補間データを用いて、加工プログラムの指令時間を求め、また、動作完了判断部202からの完了確認の通知から待ち時間を求める。
【0054】
ステップS15において、加工時間予測部500は、指令時間の合計と、待ち時間の合計とを加算して(指令時間と待ち時間とを集計して)、加工時間の予測を行う。
【0055】
(第2実施形態)
図13は本開示の第2実施形態の、加工時間予測装置の構成を示すブロック図である。
図13に示す加工時間予測装置10Aは、
図1に示された加工時間予測装置10と比較して、軸制御部300がX軸制御部300A、Z軸制御部300B、主軸制御部300Cに分けられ、軸動作シミュレーション部400が、X軸動作シミュレーション部400A、Z軸動作シミュレーション部400B、主軸動作シミュレーション部400Cに分けられ、モデル設定部600が追加されている。また、加工時間予測装置10Aは、補間部201が送り軸補間部201Aと主軸命令部203とに分けられ、機能分離されている。
モデル設定部600は、X軸動作シミュレーション部400A、Z軸動作シミュレーション部400B、主軸動作シミュレーション部400Cのシミュレーションモデルの定数を設定する。例えば、X軸動作シミュレーション部400A、Z軸動作シミュレーション部400Bのシミュレーションモデルが
図2の伝達関数のブロック線図で示される場合、積分ゲインk
1、比例ゲインk
2、トルク定数K
t、モータイナーシャJ
m、機械のイナーシャJ
L等の定数を設定する。
【0056】
送り軸補間部201Aと主軸命令部203は、相互に仮想実績を参照した動作が可能である。例えば、主軸命令部203がZ軸動作シミュレーション部400Bから出力される仮想実績を参照することが、旋盤加工で、中心に近くなるほど回転数を上げる周速一定制御を行う場合に行われる。送り軸補間部201Aが主軸動作シミュレーション部400Cから出力される仮想実績を参照することが、主軸と送り軸とを同時に補間し、工具の回転とそのZ軸の移動とを精密に同期させる、リジッドタップ制御の場合に行われる。
【0057】
(第1変形例)
工作機械において、送り軸のサーボ制御部は、主軸の動作に追従するように送り軸の送り動作を制御することが求められる場合がある。例えば、送り軸が、タップ加工プログラムで指定されるねじピッチを考慮しながら、主軸の回転動作に追従するように動作する同期運転(いわゆるマスター・スレーブ同期方式)を制御する場合である。
送り軸の送り動作を主軸の動作に追従するように制御する場合の軸動作シミュレーションの構成を
図14を用いて説明する。
【0058】
図14は、Z軸動作シミュレーション部400Bが、主軸動作シミュレーション部400Cの動作に追従して動作する変形例の構成を示すブロック図である。Z軸動作シミュレーション部400Bは
図2に示した構成と同一であり、主軸動作シミュレーション部400Cの構成は
図3に示した構成と同一であるとする。
図14に示すように、主軸動作シミュレーション部400Cの回転速度計算部421から、主軸の回転速度計算値(他の軸の仮想実績となる)をZ軸制御部300Bに出力する。Z軸制御部300Bは、主軸の回転速度計算値から主軸の動作に追従する送り軸の動作量を算出し、Z軸動作シミュレーション部400Bへ、
図2に示す位置指令P
c(軸の制御指令となる)を出力する。Z軸制御部300Bは、主軸の回転速度計算値を積算して主軸の回転量を得て、主軸の回転量にねじピッチを乗じることで主軸の動作に追従する送り軸の送り動作量を算出することができる。
【0059】
(第2変形例)
本変形例では、
図13に示す加工時間予測装置10AのX軸動作シミュレーション部400AとZ軸動作シミュレーション部400Bとが、同一のDCバスに接続される例について説明する。
【0060】
図15は、X軸動作シミュレーション部とZ軸動作シミュレーション部とが、同一のDCバスに接続される構成例を示す図である。ここでは、X軸動作シミュレーション部とZ軸動作シミュレーション部とが、同一のDCバスに接続されているが、X軸動作シミュレーション部とZ軸動作シミュレーション部とがそれぞれDCバスに接続されてもよい。
図15に示すした軸動作シミュレーション部は、モータにより駆動される機械を複数備えている。
【0061】
X軸動作シミュレーション部400Aは、サーボ制御部441、インバータ442、モータ443、カップリング444、ボールネジ445及びテーブル446を備えている。サーボ制御部441は、サーボ制御モデルとなる。インバータ442、モータ443、カップリング444、ボールネジ445及びテーブル446はプラントモデルとなる。
Z軸動作シミュレーション部400Bは、サーボ制御部451、インバータ452、モータ453、カップリング454、ボールネジ455及びテーブル456を備えている。サーボ制御部451は、サーボ制御モデルとなる。インバータ452、モータ453、カップリング454、ボールネジ455及びテーブル456はプラントモデルとなる。
サーボ制御部441及びサーボ制御部451はそれぞれ、
図2の、位置ループの伝達関数401及び速度ループの伝達関数402で示される。モータ443及びモータ453はそれぞれ、
図2のモータの伝達関数403、404で示される。カップリング444とボールネジ445、及びカップリング444とボールネジ445はそれぞれ、
図2の伝達関数405で示される。テーブル446及びテーブル456はそれぞれ、
図2の伝達関数406で示される。
なお、インバータ442、452をモデル化しない場合には、遅れ要素(1/(T
s+1))として表現するか、直達(トルク指令=モータ印加トルク)として表現する。
【0062】
交流電源431から供給された交流電圧は、整流器432で整流され、平滑コンデンサ433で整流された後の電圧が平滑化される。回生抵抗434は、余剰な回生電力が発生してDCバス電圧(母線電圧)V
Dが規定値に達した場合に回生電力を消費し、回生トランジスタ435は、母線電圧が規定値に達している場合にオン状態となり平滑コンデンサ433に蓄えられている電力を回生抵抗434で消費させる。DCバスはインバータ442とインバータ452に接続され、DCバス電圧V
Dは、インバータ442とインバータ452に印加される。
図13に示したモデル設定部600は、平滑コンデンサ433の容量値及び回生抵抗434の抵抗値を設定する。
DCバス電圧は、交流電源431の交流電圧、平滑コンデンサ433の容量値、及び回生抵抗434の抵抗値等により算出することができる。
サーボ制御部441はX軸制御部300Aから出力される位置指令値又は速度指令値に基づいてインバータ442に電圧指令を与える。サーボ制御部451はZ軸制御部300Bから出力される位置指令値又は速度指令値に基づいてインバータ452に電圧指令を与える。
インバータ442、452は、それぞれDCバス電圧V
Dに対しPWM(Pulse Width Modulation)演算等を行い、電圧指令がモータ443、453に印加されるように電力変換することで電流をモータ443、453に供給する。
【0063】
モータの最大トルクTorは、
図16の特性図に示すように、回転数Nに応じて変化する。
N-T特性もDCリンク電圧によって変化する。DCリンク電圧が低下すると、
図16に示す領域R1は狭くなる。
DCリンク電圧V
Dと領域R1との関係は以下の通りである。
R1領域とは、数式5(以下の数5)が成立する領域である。数式5において、τ
LIMはモータの電気的、機械的な許容トルク、Ktはトルク定数、Rmは巻線抵抗である。
【数5】
領域R1では、τmaX=τLIMであり、領域R2へ遷移するのは、数式6(以下の数6)が成立するときであり、DCリンク電圧V
Dに依存する。
【数6】
R2領域では、数式7(以下の数7)が成立し、やはり、τmaxはDCバス電圧V
Dに依存する。
【数7】
【0064】
数式4において、ねじり剛性、テーブル慣性、摩擦を無視すると、数式8に示す、角速度ωmの関係式が得られる。数式8に示す、角速度ωmの関係式は数式1に示した微分方程式を用いて求められる。
【数8】
τinは、速度サーボ制御によって計算されるが、N-T特性で決まる最大値τmaxを超えることができない。
工作機械の主軸は、しばしば、最大トルクで低回転域と高回転域との間を加速、減速することが求められる。このとき、τmaxを一定として数式8でωmを計算するよりも、N-T特性を考慮して、数式8でωmを計算することの方が、速度到達待ち時間の予測精度が高まる。
図17において、時間T1は、領域R1のτmaxが領域R2にも適用されるとして、予測した待ち時間を示し、時間T2はN-T特性を考慮した待ち時間である。
【0065】
以上説明した各実施形態によれば、実加工のデータを用いることなく、加工プログラムで軸の停止命令が頻出する場合、及び工作機械に大慣性の軸が搭載される場合であっても、正確な加工時間の予測が可能となる。
また、各実施形態によれば、自動工具交換装置など補助機構の動作を担う周辺軸について、移動量あるいは指令点列が与えられるのであれば、周辺軸の動作時間予測が可能となる。
【0066】
以上、本実施形態における、加工時間予測装置に含まれる機能ブロックを実現するために、加工時間予測装置は、ハードウェア、ソフトウェア又はこれらの組み合わせにより実現することができる。ここで、ソフトウェアによって実現されるとは、コンピュータがプログラムを読み込んで実行することにより実現されることを意味する。
【0067】
本実施形態における、加工時間予測装置に含まれる機能ブロックをソフトウェア又はこれらの組み合わせにより実現する実現するために、具体的には、加工時間予測装置は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置を備える。また、加工時間予測装置は、アプリケーションソフトウェア又はOS(Operating System)等の各種の制御用プログラムを格納したHDD(Hard Disk Drive)等の補助記憶装置、及び演算処理装置がプログラムを実行する上で一時的に必要とされるデータを格納するためのRAM(Random Access Memory)といった主記憶装置も備える。
【0068】
そして、加工時間予測装置において、演算処理装置が補助記憶装置からアプリケーションソフトウェア又はOSを読み込み、読み込んだアプリケーションソフトウェア又はOSを主記憶装置に展開させながら、これらのアプリケーションソフトウェア又はOSに基づいた演算処理を行なう。また、この演算結果に基づいて、各装置が備える各種のハードウェアを制御する。これにより、本実施形態の機能ブロックは実現される。
【0069】
加工時間予測装置に含まれる各構成部は、電子回路等を含むハードウェアにより実現することができる。加工時間予測装置をハードウェアで構成する場合、加工時間予測装置に含まれる各構成部の機能の一部又は全部を、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、ゲートアレイ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)等の集積回路(IC)で構成することができる。
【0070】
プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えば、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば、光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(random access memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。
【0071】
上述した実施形態は、本発明の好適な実施形態ではあるが、上記実施形態のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。
【0072】
本開示による加工時間予測装置及び加工時間予測方法は、上述した実施形態を含め、次のような構成を有する各種各様の実施形態を取ることができる。
【0073】
(1) 加工プログラムに基づき、少なくとも1つの軸を制御してワークを加工する工作機械の加工時間を予測する加工時間予測装置(例えば、加工時間予測装置10、10A)であって、
前記加工プログラムを解析して前記軸の動作命令を生成する解析部(例えば、解析部100)と、
前記動作命令の実行を統括し、前記加工プログラムを解析した結果から前記軸の動作を指示する補間部(例えば、補間部201)、及び前記軸の動作が完了したことを判断する動作完了判断部(例えば、動作完了判断部202)を備えた実行制御部(例えば、実行制御部200)と、
前記補間部からの前記軸の動作指示に基づいて制御指令を生成する軸制御部(例えば、軸制御部300)と、
前記加工プログラムの実行に要した時間を測定して、前記加工時間を予測する加工時間予測部(例えば、加工時間予測部500)と、
前記制御指令に基づき、前記軸の動作を模擬して仮想実績を出力する軸動作シミュレーション部(例えば、軸動作シミュレーション部400)と、
を備え、
前記動作完了判断部は、前記仮想実績に基づいて前記軸の動作の完了を判断する、
加工時間予測装置。
この加工時間予測装置によれば、実加工のデータを用いることなく、加工プログラムで軸の停止命令が頻出する場合、及び工作機械に大慣性の軸が搭載される場合であっても、正確な加工時間の予測が可能となる。
【0074】
(2) 前記軸動作シミュレーション部は、前記加工プログラムに基づく軌跡を描く送り軸と、工具又はワークを回転させる主軸との動作のシミュレーションを行う、上記(1)に記載の加工時間予測装置。
【0075】
(3) 前記軸動作シミュレーション部は、他の軸の仮想実績に基づいて、前記他の軸の動作に追従するように動作する、上記(2)に記載の加工時間予測装置。
【0076】
(4) 前記軸動作シミュレーション部による軸動作シミュレーションを行うのが、前記送り軸であるか、前記主軸であるかは、加工プログラムの命令により変更可能である、上記(2)又は(3)に記載の加工時間予測装置。
【0077】
(5) 前記軸動作シミュレーション部の特性を変更可能なモデル設定部を備え、
前記軸動作シミュレーション部は、
前記仮想実績を前記制御指令に追従させるサーボ制御モデルと、
1つ以上の微分方程式の数値解法を含み、サーボ制御モデルの出力たる操作量を入力すると、前記仮想実績を算出するプラントモデルと、
を備えた、上記(1)から(4)のいずれかに記載の加工時間予測装置。
【0078】
(6) 前記プラントモデルが前記軸の動力源としてインバータによって駆動される電動モータを含み、
前記インバータが接続されたDCバス電圧が算出可能である、上記(5)に記載の加工時間予測装置。
【0079】
(7) 前記軸動作シミュレーション部は、2つ以上の軸に対してそれぞれ設けられ、各軸動作シミュレーション部の前記インバータが同一のDCバスに接続されている、上記(6)に記載の加工時間予測装置。
【0080】
(8) 加工プログラムに基づき、少なくとも1つの軸を制御してワークを加工する工作機械の加工時間を予測する加工時間予測装置としてのコンピュータが、
前記加工プログラムを解析して前記軸の動作命令を生成する処理と、
前記動作命令の実行を統括し、前記加工プログラムを解析した結果から前記軸の動作を指示し、
前記軸の動作が完了したことを判断する処理と、
前記軸の動作指示に基づいて制御指令を生成する処理と、
前記加工プログラムの実行に要した時間を測定して、前記加工時間を予測する処理と、
前記制御指令に基づき、前記軸の動作を模擬して仮想実績を出力する軸動作シミュレーション処理、
を実行し、
前記軸の動作が完了したことを判断する処理において、前記仮想実績に基づいて前記軸の動作の完了を判断する、
加工時間予測方法。
この加工時間予測方法によれば、実加工のデータを用いることなく、加工プログラムで軸の停止命令が頻出する場合、及び工作機械に大慣性の軸が搭載される場合であっても、正確な加工時間の予測が可能となる。
【符号の説明】
【0081】
10、10A 加工時間予測装置
100 解析部
200 実行制御部
201 補間部
202 動作完了判断部
300 軸制御部
400 軸動作シミュレーション部
500 加工時間予測部
600 モデル設定部
【手続補正書】
【提出日】2024-10-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工プログラムに基づき、少なくとも1つの軸を制御してワークを加工する工作機械の軸動作の完了を判断する軸動作完了判断装置であって、
前記加工プログラムを解析して前記軸の動作命令を生成する解析部と、
前記動作命令の実行を統括し、前記加工プログラムを解析した結果から前記軸の動作を指示する補間部、及び前記軸の動作が完了したことを判断する動作完了判断部を備えた実行制御部と、
前記補間部からの前記軸の動作指示に基づいて制御指令を生成する軸制御部と、
前記制御指令に基づき、サーボ制御モデルとプラントモデルとでフィードバック制御を模擬して軸の動作の仮想実績を算出する軸動作シミュレーション部と、
を備え、
前記動作完了判断部は、前記仮想実績に基づいて前記軸の動作の完了を判断する、
軸動作完了判断装置。
【請求項2】
前記軸動作シミュレーション部は、前記加工プログラムに基づく軌跡を描く送り軸と、工具又はワークを回転させる主軸との動作のシミュレーションを行う、請求項1に記載の軸動作完了判断装置。
【請求項3】
前記軸動作シミュレーション部は、他の軸の仮想実績に基づいて、前記他の軸の動作に追従するように動作する、請求項2に記載の軸動作完了判断装置。
【請求項4】
前記軸動作シミュレーション部による軸動作シミュレーションを行うのが、前記送り軸であるか、前記主軸であるかは、加工プログラムの命令により変更可能である、請求項2又は請求項3に記載の軸動作完了判断装置。
【請求項5】
前記軸動作シミュレーション部の特性を変更可能なモデル設定部を備え、
前記プラントモデルは、1つ以上の微分方程式の数値解法を含む、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の軸動作完了判断装置。
【請求項6】
前記プラントモデルが前記軸の動力源としてインバータによって駆動される電動モータを含み、
前記インバータが接続されたDCバス電圧が算出可能である、請求項5に記載の軸動作完了判断装置。
【請求項7】
前記軸動作シミュレーション部は、2つ以上の軸に対してそれぞれ設けられ、各軸動作シミュレーション部の前記インバータが同一のDCバスに接続されている、請求項6に記載の軸動作完了判断装置。
【請求項8】
加工プログラムに基づき、少なくとも1つの軸を制御してワークを加工する工作機械の軸動作の完了を判断する軸動作完了判断装置としてのコンピュータが、
前記加工プログラムを解析して前記軸の動作命令を生成する処理と、
前記動作命令の実行を統括し、前記加工プログラムを解析した結果から前記軸の動作を指示し、
前記軸の動作が完了したことを判断する処理と、
前記軸の動作指示に基づいて制御指令を生成する処理と、
前記制御指令に基づき、サーボ制御モデルとプラントモデルとでフィードバック制御を模擬して軸の動作の仮想実績を算出する軸動作シミュレーション処理、
を実行し、
前記軸の動作が完了したことを判断する処理において、前記仮想実績に基づいて前記軸の動作の完了を判断する、
軸動作完了判断方法。