(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177231
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ゲート駆動回路
(51)【国際特許分類】
H03K 17/06 20060101AFI20241212BHJP
H03K 17/567 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H03K17/06
H03K17/567
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024169714
(22)【出願日】2024-09-29
(62)【分割の表示】P 2021548864の分割
【原出願日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2019177768
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100109014
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 充
(74)【代理人】
【識別番号】100141988
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182154
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】小川紘生
(57)【要約】
【課題】より簡易な回路構成で、NチャネルMOSFETを用いたゲート駆動回路のハイサイドドライバを提供することである。
【解決手段】電力半導体スイッチを駆動する回路であって、電源のプラス側Vdcにドレイン端子を接続し、電力半導体スイッチを駆動する信号のOUT端子にソース端子を接続したメインスイッチNチャネルMOSFETと、Vdcから電荷を蓄積する電荷蓄積回路と、電荷蓄積回路の出力端子と、Vdcとの電圧差を検出し、電荷蓄積回路の出力端子電圧が電源のプラス側Vccの電圧より一定電圧以上高くなったことを検出した場合、前記メインスイッチNチャネルMOSFETのゲート端子に前記電荷蓄積回路の出力電圧の一部又は全部を印加する電圧検出機能付きスイッチと、を備えたハイサイドドライバ回路である。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力半導体スイッチを駆動する回路であって、
前記回路の電源のプラス側Vdcにドレイン端子を接続し、前記電力半導体スイッチを駆動する信号を出力する端子であるOUT端子にソース端子を接続したメインスイッチNチャネルMOSFETと、
前記回路の電源のプラス側Vdcと前記OUT端子との間に接続され、前記回路の電源のプラス側Vdcと前記OUT端子との間の電圧に基づき前記回路の電源のプラス側Vdcから電流を注入して電荷を蓄積し、出力端子から蓄積した電荷を放出する電荷蓄積回路と、
前記電荷蓄積回路の前記出力端子と、前記回路の電源のプラス側Vdcとの電圧差を検出して動作する電圧検出機能付きスイッチと、
を備え、
前記電圧検出機能付きスイッチは、前記電荷蓄積回路の出力端子電圧が前記回路の電源のプラス側Vdcの電圧より一定電圧以上高くなったことを検出した場合、前記メインスイッチNチャネルMOSFETのゲート端子に前記電荷蓄積回路の出力電圧の一部又は全部を印加し、前記メインスイッチNチャネルMOSFETをON動作させるハイサイドドライバ。
【請求項2】
請求項1記載のハイサイドドライバであって、
前記メインスイッチNチャネルMOSFETと並列に接続された起動用PチャネルMOSFETであって、前記電源のプラス側Vdcにソース端子を接続し、前記OUT端子にドレイン端子を接続した前記起動用PチャネルMOSFETと、
前記電力半導体スイッチをON動作させるための信号が入力するON信号入力端子であって、前記起動用PチャネルMOSFETのゲート端子に接続するON信号入力端子と、
を備え、
前記ON信号入力端子に前記電力半導体スイッチをON動作させるための信号が入力した場合に、前記起動用PチャネルMOSFETがON動作し、
前記起動用PチャネルMOSFETがON動作することによって、前記OUT端子の電圧が上昇し、
前記電圧検出機能付きスイッチが、前記電荷蓄積回路の出力端子電圧が、前記回路の電源のプラス側Vdcの電圧より一定電圧以上高くなったことを検出し、前記メインスイッチNチャネルMOSFETのゲート端子に前記電荷蓄積回路の出力電圧の一部又は全部を印加し、前記メインスイッチNチャネルMOSFETをON動作させるハイサイドドライバ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のハイサイドドライバであって、
前記電圧検出機能付きスイッチは、
前記電圧検出機能付きスイッチが、前記電荷蓄積回路の出力端子電圧が、前記回路の電源のプラス側Vdcの電圧より一定電圧以上高くなったことを検出した場合、ON動作して、前記メインスイッチNチャネルMOSFETのゲート端子に前記電荷蓄積回路の出力電圧の一部または全部を印加する内部スイッチ、
を備えるハイサイドドライバ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のハイサイドドライバであって、
前記電力半導体スイッチをOFF動作させるための信号を入力するOFF信号入力端子と、
前記回路の電源のプラス側Vdcと、前記OFF信号入力端子との間に接続された電圧変換回路であって、前記回路の電源のプラス側Vdcと、前記OFF信号入力端子との間の電圧を分圧、及び/又は、一定値を差し引いて電圧変換する電圧変換回路と、
前記メインスイッチNチャネルMOSFETのゲート端子と、ゲート電荷引き抜き用MOSFETとの間に設けられ、前記メインスイッチNチャネルMOSFETのゲート端子から前記ゲート電荷引き抜き用MOSFETへ向かう方向にのみ電流を流す逆流防止回路と、
ドレイン端子を前記逆流防止回路に接続し、ソース端子を前記OFF信号入力端子に接続し、ゲート端子を前記電圧変換回路が変換した電圧を出力する出力端子に接続する前記ゲート電荷引き抜き用MOSFETと、
を備え、前記ゲート電荷引き抜き用MOSFETの前記ドレイン端子は、前記逆流防止回路を介して前記メインスイッチNチャネルMOSFETのゲート端子に接続しており、
前記OFF信号入力端子に、前記電力半導体スイッチをOFF動作させるための信号が入力され、前記OFF信号入力端子の電圧が、前記回路の電源のプラス側Vdcから下降した場合、前記電圧変換回路の前記変換した電圧を出力する出力端子の出力電圧が上昇し、前記電荷引き抜き用MOSFETがON動作し、前記メインスイッチNチャネルMOSFETがOFF動作するハイサイドドライバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IGBT等の電力半導体スイッチを駆動するゲート駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
大電力のインバータやDCDCコンバータなどの電力機器は、高周波大電力スイッチング素子を使用する場合が多い。高周波大電力スイッチング素子としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)またはMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)が多く使用されている。このような素子の駆動端子(例えば、ゲート端子)の入力特性は容量性である場合が多く、駆動時に大電流を流さなければならない。
そのため、これら高周波大電力スイッチング素子を駆動する目的の回路が種々提案されている。このような回路は、しばしばゲート駆動回路と呼ばれる。本発明はこのゲート駆動回路に用いられる改良されたハイサイドドライバに関する。
【0003】
従来の技術とその問題点
上述したような高周波大電力スイッチング素子を駆動する従来のゲート駆動回路の例が、
図7、
図8に示されている。
図7に示すゲート駆動回路3は、IGBT2をONに駆動する素子として、PチャネルMOSFET1(以下、Q1と称する)を使用する回路である。Q1は、そのゲート電圧をソース電圧より低電圧にすることでON動作する。その結果、Q1は導通して、ドレイン端子にVcc電圧が表れる。このVcc電圧は、抵抗11を介して、出力端子7を経由してIGBT2のゲート端子に印加される。
【0004】
従って、
図7のIN端子5をLOWとすることによってQ1をON動作させることができる。そして、Q1がON動作すると、上述したように、IGBT2をON動作させることができる。
このように、
図7に示す回路構成のゲート駆動回路3によれば、IN端子5の入力電位によって、IGBT2をON動作(またはOFF動作)させることができる。
しかし、一般にPチャネルMOSFETは、NチャネルMOSFETより品種も少なくON抵抗も大きい傾向にあり、
図7のQ1はNチャネルMOSFETを使用した方がIGBT2をON動作させる回路としては性能の向上が期待できる。
【0005】
そのような事情から、
図8に示す回路構成のゲート駆動回路も使用されてきた。この回路構成においては、
図8のQ1aとしてNチャネルMOSFETを用いて構成したゲート駆動回路3aである。NチャネルMOSFETをON動作させるには、そのゲート電位をソース電位より高い電圧にしなければならい。一方、
図8のQ1aのソース電圧は、ゲート駆動回路3aの電源のプラス側電圧Vcc近辺まで上昇する。プラス側電圧Vccは、
図8において、プラス側電圧端子4に供給されており、
図7でも同様に、プラス側電圧Vccはプラス側電圧端子4に供給されている。
【0006】
そこで、次に説明するようなブートストラップ回路とレベルシフト回路を構成して、
図8のQ1aのゲート電位をソース電位より高い電圧まで上昇させるための高電位を作り出している。
図8に示す回路構成の例では、ダイオード12(以下、D1と称する)、キャパシタ13(以下、C1と称する)との直列回路を、
図8のように、OUT端子7と、プラス側電圧端子4との間に接続する。そして、OUT端子7がGND電位の時にC1に電荷を蓄えて、IN端子5をHighにしてQ1aがON動作するときはレベルシフト用フォトカプラ10(以下、PC1と称する)の出力側トランジスタをON動作させて、C1に充電した電荷をQ1aのゲート端子に印加する。これによって、Q1aがON動作してOUT端子7の電圧が上昇すると、C1とD1のカソード側とが接続する点の端子電圧はVccより高電圧となり、Q1aのゲート端子にVccより高い電圧を印加することができる。
【0007】
このような方式によれば、Q1aを駆動する高い電位にある電源はD1とC1によって比較的簡単に作ることができる。しかし、その高圧電源を使用してQ1aをON動作するには、回路上の工夫が必要であると考えられる。例えば、フォトカプラ(
図8におけるPC1)などの絶縁素子を使用し、高圧電源をIN端子5の入力電位と絶縁するか、又は、レベルシフト回路などを用いて、高圧電源から電圧レベルをシフトしたスイッチを別に設けるような工夫である。このような工夫を施さなければ、IN端子5の入力電位を用いてQ1aをON/OFFさせる回路を作ることは困難であると考えられる。
【0008】
先行特許技術
例えば、後述する特許文献1(特許第6303060号公報)には、PチャネルMOSFETと、NチャネルMOSFETとを用いたゲート駆動回路が開示されている。特に、入力信号が、レベルシフト回路を介してPチャネルMOSFETに供給されることを特徴とする回路構成が開示されている。
【0009】
後述する特許文献2(特開2006-270382号公報)には、ハイサイドドライバにフローティング電源から電源を供給する構成において、高速動作が可能なレベルシフト回路を利用することを特徴とする回路構成が開示されている。
【0010】
後述する特許文献3(特開2000-286687号公報)には、ハイサイドドライバにフローティング電源から電源を供給する構成において、チップ面積や消費電力の増大を招くことなく誤動作を防止することが可能なレベルシフト回路を利用することを特徴とする回路構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第6303060号公報
【特許文献2】特開2006-270382号公報
【特許文献3】特開2000-286687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、ゲート駆動回路において、メインスイッチとしてPチャネルMOSFETを用いた場合は性能が不足すると考えられるのでNチャネルMOSFETを使用する場合は多く、また、NチャネルMOSFETを駆動するための電位の高い電源も比較的簡単に作ることができる。しかし、その高圧電源を使用してNチャネルMOSFETを駆動するには入力信号との電圧差を解消するための絶縁部品や電圧シフト回路が必要となり、回路が煩雑かつ高価になり、NチャネルMOSFETを採用することによる十分な改善効果を得ることができない場合も考えられる。
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、その目的は、より簡易な回路構成で、NチャネルMOSFETを用いたゲート駆動回路のハイサイドドライバを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明は、上記課題を解決するために、電力半導体スイッチを駆動する回路であって、前記回路の電源のプラス側Vdcにドレイン端子を接続し、前記電力半導体スイッチを駆動する信号を出力する端子であるOUT端子にソース端子を接続したメインスイッチNチャネルMOSFETと、前記回路の電源のプラス側Vdcから電流を注入して電荷を蓄積する電荷蓄積回路と、前記電荷蓄積回路の出力端子と、前記回路の電源のプラス側Vdcとの電圧差を検出して動作する電圧検出機能付きスイッチと、を備え、前記電圧検出機能付きスイッチは、前記電荷蓄積回路の出力端子電圧が前記回路の電源のプラス側Vdcの電圧より一定電圧以上高くなったことを検出した場合、前記メインスイッチNチャネルMOSFETのゲート端子に前記電荷蓄積回路の出力電圧の一部又は全部を印加し、前記メインスイッチNチャネルMOSFETをON動作させるハイサイドドライバである。
【0014】
(2)また、本発明は、上記(1)記載のハイサイドドライバであって、前記メインスイッチNチャネルMOSFETと並列に接続された起動用PチャネルMOSFETであって、前記電源のプラス側Vdcにソース端子を接続し、前記OUT端子にドレイン端子を接続した前記起動用PチャネルMOSFETと、前記電力半導体スイッチをON動作させるための信号が入力するON信号入力端子であって、前記起動用PチャネルMOSFETのゲート端子に接続するON信号入力端子と、を備え、前記ON信号入力端子に前記電力半導体スイッチをON動作させるための信号が入力した場合に、前記起動用PチャネルMOSFETがON動作し、前記起動用PチャネルMOSFETがON動作することによって、前記OUT端子の電圧が上昇し、前記電圧検出機能付きスイッチが、前記電荷蓄積回路の出力端子電圧が、前記回路の電源のプラス側Vdcの電圧より一定電圧以上高くなったことを検出し、前記メインスイッチNチャネルMOSFETのゲート端子に前記電荷蓄積回路の出力電圧の一部又は全部を印加し、前記メインスイッチNチャネルMOSFETをON動作させるハイサイドドライバである。
【0015】
(3)また、本発明は、上記(1)又は(2)記載のハイサイドドライバであって、前記電圧検出機能付きスイッチは、前記電圧検出機能付きスイッチが、前記電荷蓄積回路の出力端子電圧が、前記回路の電源のプラス側Vdcの電圧より一定電圧以上高くなったことを検出した場合、ON動作して、前記メインスイッチNチャネルMOSFETのゲート端子に前記電荷蓄積回路の出力電圧の一部または全部を印加する内部スイッチ、を備えるハイサイドドライバである。
【0016】
(4)また、本発明は、上記(1)から(3)のいずれか1項に記載のハイサイドドライバであって、前記電力半導体スイッチをOFF動作させるための信号を入力するOFF信号入力端子と、前記回路の電源のプラス側Vdcと、前記OFF信号入力端子との間に接続された電圧変換回路であって、前記回路の電源のプラス側Vdcと、前記OFF信号入力端子との間の電圧を分圧、及び/又は、一定値を差し引いて電圧変換する電圧変換回路と、前記メインスイッチNチャネルMOSFETのゲート端子と、ゲート電荷引き抜き用MOSFETとの間に設けられ、前記メインスイッチNチャネルMOSFETのゲート端子から前記ゲート電荷引き抜き用MOSFETへ向かう方向にのみ電流を流す逆流防止回路と、ドレイン端子を前記逆流防止回路に接続し、ソース端子を前記OFF信号入力端子に接続し、ゲート端子を前記電圧変換回路が変換した電圧を出力する出力端子に接続する前記ゲート電荷引き抜き用MOSFETと、を備え、前記ゲート電荷引き抜き用MOSFETの前記ドレイン端子は、前記逆流防止回路を介して前記メインスイッチNチャネルMOSFETのゲート端子に接続しており、前記OFF信号入力端子に、前記電力半導体スイッチをOFF動作させるための信号が入力され、前記OFF信号入力端子の電圧が、前記回路の電源のプラス側Vdcから下降した場合、前記電圧変換回路の前記変換した電圧を出力する出力端子の出力電圧が上昇し、前記電荷引き抜き用MOSFETがON動作し、前記メインスイッチNチャネルMOSFETがOFF動作するハイサイドドライバである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、絶縁素子等を用いる必要がなくなり、従来より簡易な構成のハイサイドドライバを提供することができ、また、そのハイサイドドライバを用いてゲート駆動回路を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】本実施形態において、原理1の回路構成を示す説明図である。
【
図1B】本実施形態において、原理1の変形例の回路構成を示す説明図である。
【
図2】本実施形態において、原理2の回路構成を示す説明図である。
【
図3】IGBT等がON動作に移行する際のゲート電圧の変化を表すグラフである。
【
図4】本実施形態において、原理3の回路構成を示す説明図である。
【
図6A】本実施形態において、具体的なゲート駆動回路の回路構成の一例を示す回路図である。
【
図6B】本実施形態において、原理1の変形例を用いた場合の具体的なゲート駆動回路の回路構成の一例を示す回路図である。
【
図7】PチャネルMOSFETを用いた従来のゲート駆動回路の回路図である。
【
図8】PチャネルMOSFETに代えてNチャネルMOSFETを用いた従来のゲート駆動回路の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づき説明する。
まず、本発明の原理を3種説明してから、本発明の具体的な実施形態であるゲート駆動回路のハイサイドドライバを説明する。
【0020】
1.原理1
図1Aは、本実施形態において、上記課題を解決するための原理1を説明するブロック図である。
図1Aは、本原理1に係るゲート駆動回路26が描かれているとともに、ゲート駆動回路26によって駆動されるIGBT27も描かれている。また、理解しやすい説明のために、特徴的な構成であるハイサイドドライバを中心に描いており、ゲート駆動回路の従来の同様の回路構成部分は従来と同様の作用であるため省略して図示されていない部分もある。
【0021】
図1Aに示すように、本原理1の説明図(
図1A)におけるゲート駆動回路26は、メインスイッチであるNチャネルMOSFET21(以下、Q21と称する)の他に、電荷蓄積回路23と、電圧検出機能付きスイッチ22と、を備えている。Q21は、文字通り、請求の範囲のメインスイッチNチャネルMOSFETの好適な一例に相当する。
まず、
図1Aにおいて、OUT端子25は出力端子であり、その出力電圧は、GNDより低電位な電圧と、プラス側電圧Vdcとの間の電圧をスイングする。
図1Aのゲート駆動回路26のメインスイッチであるQ21のソース端子はOUT端子25に接続し、そのドレイン端子はプラス側電圧Vdcに接続する。Q21のゲート電圧がOUT端子25(すなわちソース端子)よりVgson(一定値)だけ高い電圧になると、Q21がON動作して、OUT端子25に出力電圧(=およそVdc電圧)が出力される。ただし、ここでVgsonとは、Q21のゲート閾値電圧を意味する。
【0022】
電荷蓄積回路23は、電荷を蓄積するが、電荷を蓄積するためのピンと、電荷を放出するときのピンとが異なっている。
まず、OUT端子25(に接続するcピン)が低電位(=およそGNDまたはGNDより低電位な電圧)となった時に、プラス側電圧Vdcに接続したaピンから電流の供給を受けて電荷を蓄積する。そして、蓄積された電荷は、OUT端子25の電位に重畳して、Vdcに逆流することなくbピンから出力される。従って、bピンの電位は、OUT端子25の電位(Q1のソース電位)より蓄積した電荷に対応する電圧分だけ電位が高くなる。bピンは、次に述べる電圧検出機能付きスイッチ22のeピンに接続している。電荷蓄積回路23の具体例が
図5a、
図5bに示されており、これらについては後に詳述する。これら具体例は、代表的な例を挙げたものであり、他の回路構成でもよい。
【0023】
次に、
図1Aにおける電圧検出機能付きスイッチ22は、dピンがプラス側電圧端子24(Vdc)に接続され、eピンが電荷蓄積回路23のbピンに接続され、fピンがQ21のゲート端子に接続している。このような接続関係の下、電圧検出機能付きスイッチ22は、dピン(つまりプラス側電圧Vdc)とeピン間の電圧を監視している。この監視の結果、eピンの電圧がdピンの電圧より所定の値以上高くなったとき、すなわち、eピンの電圧がVdcより所定の電圧だけ高くなったとき、自身に内蔵したスイッチをON動作させ、eピンの電圧をfピンに供給する。電荷蓄積回路23に蓄積した電荷に対応する電圧はbピンからeピンに供給されているから、電圧検出機能付きスイッチ22に内蔵したスイッチをON動作させることで、その蓄積した電荷に対応する電圧の一部又は全部をQ21のゲート-ソース間に印加することができる。その結果、Q21のゲート(ソース間)にはVdcより高い電圧が印加されることとなり、Q21のゲート-ソース間電圧がVgson以上であれば、Q21がON動作する。
【0024】
OUT端子25が低電位からVdcに向かって上昇すると、電荷蓄積回路23は、すでに蓄積した電荷によりbピン-cピン間の電圧をOUT端子25の電圧に重畳してbピンから出力する。これはcピンが、OUT端子25に接続されているからである。このように重畳して出力される電圧は、OUT端子25の電圧に重畳しているから、OUT端子25の電位が上昇すれば、それに伴ってbピンの電圧も上昇する。OUT端子25の電圧がさらにVdcに近づくと、電圧検出機能付きスイッチ22のeピンの電圧がdピンの電圧(つまりプラス側電圧Vdc)を超えて上昇する。その超えた電圧差が所定の値に達すると、電圧検出機能付きスイッチ22に内蔵のスイッチがON動作して、Q21のゲート端子に電荷蓄積回路23の出力電圧の一部又は全部を印加する。つまり、内蔵のスイッチは、機能的にはeピンとfピンとを結ぶスイッチであり、この内蔵のスイッチがON動作することによって、電荷蓄積回路23の出力電圧(bピン=eピン)の全部又は一部が、fピン(=Q21のゲート端子)に供給される。なお、ここで言う内蔵のスイッチは、請求の範囲の内部スイッチの好適な一例に相当する。
【0025】
ここで、電荷蓄積回路23が蓄積した電荷によりbピンに出力する電圧(bピン-cピン間電圧)をVCHとし、電圧検出機能付きスイッチ22に設定されたVdcを超えた電圧差の所定の値(閾値電圧)をVDETとする。
すると、電圧検出機能付きスイッチ22に内蔵したスイッチがON動作するOUT端子25の電圧VOON は、下記の式(1)で示される。Q21がON動作すると、OUT端子25の出力電圧は、Q21がON動作することで急速に電圧が上昇し、最終的に大略Vdcとなる。
VOON = VDET - VCH + Vdc (1)
ただし、Q21がON動作するゲート端子とソース端子間の電圧をVgsonとし、kを定数として、下記の式(2)が成立しているものとする。
VCH >= k × Vgson (2)
ここで、kは、電荷蓄積回路23の出力電圧のQ21のゲート端子に印加される割合を示す定数である。kは、1以下の定数である。電荷蓄積回路23の出力電圧の全部がQ21のゲート端子に印加されるときは、k=1となる。電荷蓄積回路23の出力電圧の1/2がQ21のゲート端子に印加されるときは、k=1/2となる。このように、電荷蓄積回路23の出力電圧の一部又は全部がQ21のゲート端子に印加される。
【0026】
例えば、電荷蓄積回路23の蓄積電荷によるbピンの電圧VCHをVCH = Vdcとして、電圧検出機能付きスイッチ22の閾値電圧をVDET = Vdc/2とすると、式(1)から、Q21がON動作するOUT端子25の電圧VOONは、VOON = Vdc/2となる。OUT端子25の出力電圧がVOON = Vdc/2に達すると、電圧検出機能付きスイッチ22の内蔵スイッチがON動作して、(1/k)×VCHなる電圧がQ21のゲート端子-ソース端子間に印加される。従って、上記式(2)が成立すれば、Q21はON動作する。
【0027】
以上説明したように、
図1Aに示す構成のハイサイドドライバは、電圧シフト回路やフォトカプラのような絶縁素子を使用することなく、自身の出力電圧であるOUT端子25の電圧が一定以上になったとき、自律的にON動作し、ON動作の状態を保持する機能を持つ。
なお、
図1Aに示すように、fピンはQ21のゲート端子に接続するが、このゲート端子とソース端子との間に抵抗29を設けてもよいが、必須の構成ではない。
【0028】
1.2 原理1の変形例
上述した原理1においては、電荷蓄積回路12は、その端子cがOUT端子25に接続されている。したがって、OUT端子25における電圧の上昇は端子cに印加されている。これに対して、
図1Bに示すように、電化蓄積回路12のc端子を、OUT端子25ではなく、OFF信号入力端子34に接続してもよい。ここで、OFF信号入力端子34及びそこに入力される信号の詳細は、後述する
図4、原理3の説明において説明している。
図1Aで説明した原理1による回路の場合は、後述する
図2に示すように、起動のための起動用PチャネルMOSFETを組み合わせることが好ましい。このような構成によって、IGBTをより合理的に駆動することができる。詳細は2.原理2で後述する。
これに対して、
図1Bに示されている原理1の変形例(
図1B)によれば、
図1Aに示す回路構成と異なり、PチャネルMOSFETを組み合わせる必要がなくなり、より簡便な回路構成とすることもできる。ただし、駆動対象であるIGBTを連続的にON動作させなければいけない場合を除く。
【0029】
2.原理2
図2は、本実施形態の他の原理2を説明する図であり、上述した
図1Aのハイサイドドライバに、小容量の半導体スイッチ(起動用PチャネルMOSFET)を組み合わせたものである。これによって、IGBTをより合理的に駆動することができるゲート駆動回路のハイサイドドライバを提供することができる。
【0030】
IGBTの動作
IGBTなどの半導体スイッチのゲート回路は、OFF動作からON動作に移行する過程で、大略3つの状態を経由する。
図3にその過程を模式的に表したグラフが示されている。このグラフは、時間とともにゲート電圧が上昇していく様子を示すグラフである。まず、領域AではIGBTはOFF動作の状態であり、ゲート電圧だけが上昇している領域である。
【0031】
領域Bは、IGBTがOFF動作からON動作に移行する時間帯である。この領域では、ゲート電圧の上昇は一時的に緩やかになる。この領域Bにおいては、ON動作への遷移が進んでおり、IGBTのコレクタ電位が下降していく時間帯である。この領域Bにおいては、IGBTの帰還容量の電荷の放電電流を賄う必要のある時間帯であるので、領域Bは大きな駆動電流が必要な時間帯である。一般にIGBTのゲート駆動回路の出力電流は有限であるので、帰還容量の電荷が放電されるまでに一定の時間が必要である。その時間帯がこの領域Bであると考えてもよい。
領域Cは、IGBTのコレクタ端子-エミッタ端子間電圧はほぼ飽和(コレクタ電位は十分に下がっている)状態である。この領域Cは、ゲート電圧だけがさらに上昇してIGBTのON動作の状態をより確実にする領域である。
【0032】
図2(原理2)の考え方
IGBTを高速でOFF動作からON動作の状態にスイッチングするには、領域Aや領域Cと比較して、領域Bにおいて十分に大きな駆動電流が必要であると考えられる。
図2で示した原理のゲート駆動回路のハイサイドドライバは、このようなIGBTの特性に鑑み、より早くゲート電圧を上昇させるために要求を合理的に満たす回路の一つとして本願発明者が独自に発明したものである。
図2の構成は、
図1の構成と概ね同様であるが、新たに起動用PチャネルMOSFET30が加えられ、ON信号がこの起動用PチャネルMOSFET30(以下、Q22と称する)に加えられている点が異なっている。Q22は、請求の範囲の起動用PチャネルMOSFETの好適な一例に相当する。Q22のソース端子は、Vdc(プラス側電圧端子24)に接続されており、ドレイン端子は、OUT端子25に接続する。Vdcとゲート端子の間には抵抗29bが接続されており、ゲート端子には、ON信号が供給されている。
【0033】
以下、
図2の回路構成の動作を説明する。
図2に示すON信号入力端子28がLOWとなると、Q22がOFF動作の状態からON動作に移行していく。すると、OUT端子25の電圧がVdcに向かって上昇し始める。この時間帯は
図3の領域Aにあたる。なお、
図2では省略しているが、
図2のOUT端子には、駆動対象であるIGBTが接続されているものとする。ここでいう領域対象Aとは、その駆動対象であるIGBTの領域Aという意味である。
さて、OUT端子の電圧(図示していないIGBTのゲート電圧)が駆動対象であるIGBTのゲート閾値電圧に達すると、上述したように領域Bに突入する。このときゲート駆動回路のQ21がON動作するように、電荷蓄積回路23のbピンの電圧V
CH と電圧検出機能付きスイッチの閾値電圧V
DETを上述した式(1)及び式(2)に基づいて適切に設定する。
【0034】
適切に設定するとは、IGBTが領域Bに突入した際に、Q21がON動作するように設定するとの意味である。具体的には、駆動対象であるIGBTが領域Bに突入するゲート電圧が、式(1)VOONに相当し、Vdcは設計上決定されており、VCHは式(2)から、Q21のVgsonから係数kを用いて定められる。したがって、これらの値から、式(1)のVDETが求められる。このような計算で各電圧値を設定すればよい。
【0035】
このように設定されたハイサイドドライバは、駆動対象であるIGBTが領域Bに入るとQ21がON動作をするので、大きな電流を駆動対象であるIGBTのゲート端子に供給することができ、駆動対象であるIGBTを高速で駆動することができる。ハイサイドドライバの電荷蓄積回路23は蓄積した電荷を放電しきると、Q21のON動作が維持できずQ21はOFF動作の状態となるが、蓄積電荷量の放電時定数を、駆動対象であるIGBTが領域B(
図3参照)を通過する時間に対して長く設定すれば、IGBTをON動作させるための要求は満たすことが可能である。駆動対象であるIGBTが領域C(
図3参照)に突入してしまえば、駆動対象のIGBTのゲート端子に大電流を供給する必要がなくなるので、領域CにおいてはPチャネルMOSFETであるQ22が電流を供給すれば足りる。つまり、IGBTを十分に駆動することができる。
【0036】
このように、
図2に示す回路構成によれば、大電流に対応できるNチャネルMOSFET(つまり、Q21)を領域Bにおける電流供給に使用し、電流値はNチャネルMOSFETには劣るが電源電圧Vdcを簡単な回路で印加できるPチャネルMOSFET(つまりQ22)を領域A及び領域Cで使用することによって、IGBTの合理的な高速スイッチングを実現している。
なお、メインスイッチのNチャネルMOSFET(Q21)を駆動するにあたっては、フォトカプラや電圧シフト回路等を使用せずに駆動できるという
図1と共通する特徴は、
図2でも効率よく利用できる。本発明(原理2)は、駆動対象であるIGBTの高速駆動に適し、かつ回路構成がシンプルで、安価なゲート駆動回路を提供することができる。
【0037】
3.原理3
これまで、原理1(
図1A)や、原理2(
図2)においては、駆動対象であるIGBTをOFF動作からON動作の状態に移行する際の動作に特徴を有する回路を主として説明してきた。一方、駆動対象であるIGBTがON動作からOFF動作に移行するタイミングでは、通常、別の回路が動作してIGBTのゲート回路の電荷を引き抜き始める必要がある。このときIGBTのOFF動作を妨げてはならない。
本原理3(
図4)を示す回路構成は、これらの要求を満たす耐ノイズ性能の高い回路構成である。
図4に示す回路構成は、
図1に示す回路構成に、電圧変換回路31と、ゲート電荷引き抜き用MOSFET32(以下、Q32と称する)と、逆流防止回路33とを加えた回路構成である。
【0038】
電圧変換回路31のgピンは、Vdcに接続され、iピンはOFF信号入力端子34に接続され、hピンはQ32のゲート端子に接続される。Q32のソース端子はOFF信号入力端子34に接続され、ドレイン端子は逆流防止回路33に接続する。hピンは、電圧変換回路31のいわば出力端子であり、請求の範囲の出力端子の好適な一例に相当する。
逆流防止回路33の一方端はQ32のドレイン端子に接続され、他方端は、電圧検出機能付きスイッチ22のf端子すなわちQ21のゲート端子に接続される。逆流防止回路33は、例えば、ダイオードと抵抗との直列回路でよく、ダイオードのカソード側がQ32のドレイン端子に接続され、アノード側が電圧検出機能付きスイッチ22のfピンに接続されてよい。
【0039】
駆動対象であるIGBTのOFF動作を妨げないためには、Q21を急速にOFF動作状態にしなければならない。駆動対象であるIGBTがON動作からOFF動作の状態に移行する場合はIGBTのコレクタ電流が急速に減少するため、発生する磁束によるノイズやコレクタ回路の配線インダクタンス等によるスパイクノイズがシステムに発生する。これらのノイズは、制御回路や駆動回路に重畳して回路を構成する素子が誤動作する場合がある。従って、Q21をON動作からOFF動作状態に移行するための回路構成は、特にノイズによる誤動作を防止し、ノイズに対する耐量を高くとることが要求される。
【0040】
図4は、ゲート駆動回路のメインスイッチであるNチャネルMOSFET21(Q21)をOFF動作させる場合のノイズ耐量の高い回路構成を示す。ここで示す回路構成は、OFF信号入力端子34を、ゲート電荷引き抜き用MOSFET32(Q32)のソース端子に接続しているところに特徴がある。つまり、OFF信号入力端子34をQ32のゲート端子でなく、ソース端子に接続するという特徴的な構成を採用している。電圧変換回路31は、gピンとiピンとの間の電圧を分圧する、及び/又は、一定値を差し引く等の処理によって電圧を変換する電圧変換機能を有している。すなわち、電圧変換回路は、gピンとiピンとの間の電圧を、所定の仕組みで変換し、hピンとiピンとの間に、この変換した電圧を出力する。但し、出力する電圧は正電圧とする。すなわち、hピンは、請求の範囲の出力端子の好適な一例である。
【0041】
後述する例では、電圧変換機能は、一定電圧を差し引く処理を例として説明するが、抵抗等を用いて分圧(抵抗分圧)してもよい。例えば式で記述すれば以下のようになる。
hピン-iピン電圧 = gピン-iピン電圧 - 一定電圧
hピン-iピン電圧 = (gピン-iピン電圧) × t
のように表してもよい。ここで、比例定数tは 0<t=<1 の範囲の数としてよい。また、上記両方の処理を適用してもよい。すなわち、一定値を差し引いてから、分圧してもよい。また、分圧してから、一定値を差し引いてもよい。
【0042】
OFF信号入力端子34の電圧がVdc近辺にある場合は、gピンとiピン間の電圧はほぼ0Vであるので、hピンとiピンとの間の電圧もほぼ0Vであり、Q32はOFF動作となっている。OFF信号入力端子34の電圧がVdcから下降方向に変化すると、gピンとiピン間に電圧(電位差)が発生するので、hピンとiピン間には、その電圧を変換した電圧が発生する。
【0043】
OFF信号入力端子34の電圧がさらに低下すると、gピンとiピン間の電圧(差)がさらに増大する。それに伴いhピンとiピン間の電圧も上昇して、Q32のゲート閾値電圧を超えるとQ32がON動作する。Q32がON動作すると、Q21のゲート電荷は逆流防止回路33を経てOFF信号入力端子34の電位に放電される。その結果、Q21のゲート電位はOFF信号入力端子34の電位から、逆流防止回路33で発生する電圧降下分だけ高い電圧の値となる。
このQ21のゲート電位を、Q21のゲート閾値電圧(Vgson)より低く設定しておけば、Q21はOFF動作する。そして、この動作の結果、本ブートストスラップ回路は不図示のIGBT(OUT端子25に接続する駆動対象であるIGBT)のOFF動作を妨げない状態となる。
【0044】
Q21をOFF動作することによって、駆動対象であるIGBTのOFF動作を妨げない状態となるが、この状態を維持するためには、OUT端子25がLow電圧になった状態でもQ21のOFF動作の状態を維持しなければならない。したがって、OUT端子25のLow電圧をVOlowとし、逆流防止回路22の電圧降下分をVdrとすると、Q21をOFF動作させるためのOFF信号入力端子34の入力電圧VINlowは、下記式(4)を満たさなければならない。また、式(4)を満たすVINlowは、Q32をON動作させる必要性から、Q32のゲート閾値電圧をVgsonQ32とし、さらに電圧変換回路31の変換式を式(3)で表されるとしたときに、式(5)も満たす必要がある。なお、OFF信号入力端子34の入力電圧そのものは、VINと表す。また、Vmは、電圧変換回路31における変換の際に使用される一定の電圧を表す。また、Q21のゲート閾値電圧を、Vgsonで表すことは、原理1と同様である。
【0045】
従って、下記の4項目の条件を仮定すると、条件中の式(4)と式(5)を満たすことが、
図4に示す本ハイサイドドライバが駆動対象であるIGBTのOFF動作を妨げないための条件となる。
(項目1.)Q32のゲート閾値電圧を、VgsonQ32と表す。
(項目2.)電圧変換回路31の変換式は、hピン-iピン間の電圧をV
hiとすると、下記(3)式で表される。
V
hi = Vdc - V
IN - Vm (3)
(項目3.)逆流防止回路33の電圧降下値をV
drとする。
(項目4.)Q21がOFF動作の状態になった時のOUT端子25の電圧をVO
lowとする。すると、上述した(4)式と(5)式とは以下の通りとなる。
V
INlow < VO
low - V
dr + Vgson (4)
V
INlow < Vdc - Vm - VgsonQ32 (5)
【0046】
ここで、OFF信号入力端子34の入力電圧がVdc(=15V)近傍にあり、Q32がOFF動作しており、Q21がON動作しており、その結果OUT端子25の出力電圧が大略Vdc近傍にある状態を前提とする。この前提の下、駆動対象であるIGBTをOFF動作する指令があり、OUT端子25を-5V以下にしなければならない状態を考える。すなわち、VOlow =< -5Vという条件である。
この指令を妨げないようにするには、逆流防止回路33の電圧降下値Vdr = 2V、Vgson = 4Vとすれば、上記式(4)からVINlow < -3V となる。さらに、Q32のゲート閾値電圧をVgsonQ32 = 4V、及びVINlow = -3Vと仮定すると、上記式(5)から、電圧変換回路31の変換式の定数Vm < 14V が求められる。
【0047】
このように、
図4に示す本ハイサイドドライバは、OFF信号入力端子34をMOSFET32(Q32)のソース端子と接続している。そのため、OFF信号入力端子34の電圧をVdcからV
INlowまで可変しないと、本回路の状態が駆動対象であるIGBTのOFF動作を妨げない状態にまで変化しない。
すなわち、上述した各電圧の具体例では、OFF信号入力端子34は+15Vから-3Vまで可変しなければIGBTのOFF動作を妨げない状態に状態変化しないのである。このことは、
図4の本ハイサイドドライバが状態変化をするのに18Vの電圧変化が必要であり、逆の見方をすると18V未満の電圧変化(ノイズ)に対しては状態を変化させないことを意味する。すなわち、ノイズ耐量が非常に高いと言える。
【0048】
従来、実用化されている回路では、Q21をOFF動作させようとすると、その入力信号は、ゲート電荷引き抜き用MOSFET32(Q32)のゲート端子に入力し、Q32のソース端子は固定電位たとえばVee(マイナス側電圧)に接続する場合が多い。このような場合は、入力信号は、初期はVeeで、状態変化を起こすには(すなわち、Q21をOFF動作させるためには)、Q32のゲート端子にVee+5V程度の電圧を印加して、Q32をON動作させてQ21をOFF動作させる方法が一般的である。
【0049】
しかし、このような構成ではQ32のゲート-ソース間の電圧は、0Vから5Vの変化でQ32をON動作させ、ハイサイドドライバの状態を変化させてしまう。特に、MOSFETのゲート端子は、入力インピーダンスが高くノイズが乗り易い。その点、原理3で示す本回路(
図4)は3倍以上の電圧差をとることができ、耐ノイズ特性に関しては、従来の手法に比較して明らかに優位である。
【0050】
4.電荷蓄積回路の例
これまで説明してきた電荷蓄積回路23の具体例が、
図5A、
図5Bに示されている。
図1、
図2、
図4で示したように、電荷蓄積回路23は、aピン、bピン、cピンを有している。
図5Aの例1で示す回路は、aピンとcピンとの間に、ダイオードD1と、キャパシタC1との直列回路が設けられており、ダイオードD1とキャパシタC1との接続点はbピンに接続している。このような回路構成によって、aピンがcピンよりダイオードD1の電圧降下より高い場合には、キャパシタC1に電荷が蓄積され、その結果、キャパシタC1に電圧が発生する。この電圧がbピン(とcピンとの間)に表れる。すでに説明したように、bピンに表れる電圧は、電圧検出機能付きスイッチ22のeピンに接続されており、電圧検出機能付きスイッチ22を介して、Q21のゲート端子に供給される。
【0051】
図5Aの例2で示す回路は、例1の回路に対して、ツェナダイオードD2をダイオードD1に直列に接続した回路である。この結果、ツェナダイオードD2の電圧降下分だけ、低い電圧でキャパシタC1を充電する(電荷を蓄積する)ことができる。
図5Aの例3で示す回路は、例1の回路に対して、抵抗R1をダイオードD1に直列に接続した回路である。この結果、抵抗R1の値によって充電電流を制限することができる。
図5Aの例4で示す回路は、例1の回路に対して、ツェナダイオードD2と、抵抗R1とをダイオードD1に直列に接続した回路である。この結果、ツェナダイオードD2の電圧降下分だけ、低い電圧でキャパシタC1を充電する(電荷を蓄積する)とともに、抵抗R1の値によって充電電流を制限することができる。
【0052】
図5Bの例5で示す回路は、例1の回路に対して、抵抗R2をキャパシタC1に並列に接続した回路である。この結果、キャパシタC1に蓄積した電荷を放電することができ、bピンに出力する電圧を時間の経過とともに下げることができる。
図5Bの例6で示す回路は、例5の回路に対して、抵抗R3を、ダイオードD1とキャパシタC1との接続点と、bピンとの間に設けた回路である。この結果、抵抗R3の値によって、bピンから放電される電流の値を制限することができる。
図5Bの例7で示す回路は、例6の回路に対して、ツェナダイオードD3を、cピンとbピントの間に接続し、抵抗R1を除去した回路である。この結果、抵抗R3の値によって、bピンから放電される電流の値を制限し、また、bピンから出力する電圧を、ツェナダイオードD3に生じる電圧降下の電圧まで制限することができる。
【0053】
5.本発明の具体的な実施の形態
図6Aには、本発明の具体的な実施形態の一例であるゲート駆動回路の回路構成が示されている。特に、破線で囲んだ範囲が、本実施形態において特徴的な回路であるゲート駆動回路40である。Q21は、メインスイッチとしてのPチャネルMOSFETである。PチャネルMOSFETであるQ44、ダイオードD4、抵抗R3、抵抗R5は、電圧検出機能付きスイッチ22を構成する。Q44は、請求の範囲の内部スイッチの好適な一例に相当する。
【0054】
電荷蓄積回路23は、ダイオードD2、ダイオードD3、キャパシタC1で構成されている。これらの回路の動作は、上で説明した通りである。Q22は、小容量の半導体スイッチで、
図2のQ22に相当し、
図2のQ22と同様に動作する。Q32は、
図4のQ32に相当し、
図4のQ32と同様に動作する。また、
図6Aの電圧変換回路31は、ダイオードD1、抵抗R2、抵抗R1で構成し、
図4の電圧変換回路31と同様に動作する。逆流防止回路33は、ダイオードD5、抵抗R4で構成し、
図4の逆流防止回路33と同様に動作する。
【0055】
図6Aに示すゲート駆動回路40のハイサイドドライバは単一のモジュールで構成され、本モジュールの信号入力は、IN、及び反転IN(
図6A中では、INの上部にバーを付した記号で表している)の2種の信号である。なお、反転INは、IN信号の反転信号である(
図6A参照)。
OUT端子25、及びIN端子45は、大略VeeからVdcまでスイングするとする。また、反転IN端子46は、VdcからVdcとVeeの中間の電圧までスイングする。
ゲート駆動回路40の外部の回路も
図6Aには示されている。制御IC50は、電力半導体スイッチのON/OFFを制御する装置である。この制御IC50には、電源としてVdcとVeeが供給されている。制御IC50は、この電源によって稼働し、IN信号を作り出し、ゲート駆動回路40のIN端子45に供給する(
図6A参照)。インバータ51は、このIN信号を反転し、反転IN信号を作り出し、ゲート駆動回路40の反転IN端子46に供給する。
【0056】
OUT端子25の電位が大略Veeのとき、IN端子45もVeeの電位にあり、Q32がON動作してQ21をOFF動作させている。この状態は、IN端子45の電圧が、上述した式(4)及び式(5)の条件を満たしており、駆動対象であるIGBT(不図示)のOFF動作を妨げない状態にある。このとき、電荷蓄積回路23のキャパシタC1は、VdcからダイオードD3、ダイオードD2を経てVeeに流れる電流により充電される。キャパシタC1の充電電圧VC1は下記式(6)で表される。なお、VC1は、定電圧ダイオードD3のツェナー電圧Vzd3により調整が可能である。ただし、ダイオードD2の順方向電圧降下をVFD2とする。
VC1 = Vdc - Vee - Vzd3 - VFD2 (6)
すでに説明した式(1)のVCHは、VC1に等しい。この等式を(7)式とする。
VC1 = VCH (7)
【0057】
このV
C1(= V
CH)は、Q21にゲート閾値電圧を十分に超えるゲート電圧を印加する必要性から、式(2)を満たすように選定する。IN端子45が High(≒Vdc)となり、Q32がOFF動作して、反転IN端子46がLow(≒VdcとVeeの中間電位)となると、小容量の半導体スイッチであるPチャネルMOSFETであるQ22がON動作する。Q22がON動作すると、OUT端子25の電圧は上昇を開始する。ただし、この期間は、まだ駆動対象であるIGBTがOFF動作の状態で、IGBTのゲート電圧だけが上昇している期間である(上述した
図3の領域Aを参照されたい)。OUT端子25の電圧が上昇を続けると、電荷蓄積回路23が蓄積した電荷によりbピン電圧がVdcを超えて、さらに上昇を続ける。これに伴い、電圧検出機能付きスイッチ22のeピン-dピン間の電圧が上昇する。
【0058】
電圧検出機能付きスイッチ22は、eピン-dピン間の電圧がその閾値である電圧V
DETに達すると、すなわち、OUT端子25の電圧が式(1)を満たすと、自己のスイッチであるQ44をON動作させる。Q44のON動作に伴い、メインスイッチNチャネルMOSFETであるQ21のゲート端子-ソース端子間に、電荷蓄積回路23の蓄積電圧V
C1に定数kを乗じた電圧が印加され、Q21が急速にOFF動作からON動作の状態に移行する。Q21がON動作に移行した時期は、IGBTがOFF動作からON動作の状態に移行している状態で、IGBTの帰還容量に伴うゲート電流の増大を賄うための大電流をQ21が受け持つ(
図3の領域Bを参照)。キャパシタC1の電荷量と放電時定数は、
図3の領域Bの時間帯を賄えるように選定する。キャパシタC1の電荷が放電して、Q21がOFF動作した後は、Q22がIGBTのゲート電圧を確保する(
図3の領域C参照)。
【0059】
次に、IGBTがON動作している状態で、システムより当該IGBTをOFF動作させる指令が来ると、IN端子45がLowへ移行をはじめ、反転IN端子46はHighに移行する。反転IN端子46がHighとなることで、Q22はOFF動作する。本実施形態のゲート駆動回路40は、IGBTのOFF動作を妨げないようにQ21をON動作からOFF動作の状態への移行を開始する。IN端子45がVdcからVeeに向かって下降すると、電圧変換回路31のgピンとiピン間に電圧が発生する。それに伴い電圧変換回路31の出力であるhピン-iピン間に、対応する出力電圧が出力する。
【0060】
IN端子45の電圧低下が進行して電圧変換回路31の出力電圧がQ32のゲート閾値電圧を超えると、Q32がON動作して、メインスイッチNチャネルMOSFET(Q21)のゲート電荷を逆流防止回路33を経て引き抜く。その結果、Q21のゲート電位は、IN端子45の電位に逆流防止回路33の電圧降下分を加えた電圧になる。電圧変換回路31の変換式は、R1 >> R2 とすれば下記式(8)で表現される。なお、Vhiは、電圧変換回路31の出力であるhピン-iピン間電圧である。また、式(3)のVmは、下記式(8)のVzD1に相当する。
Vhi = Vdc - VIN - VzD1 (8)
【0061】
Q32がON動作するための条件は、すでに説明した式(5)で示される。IGBTがOFF動作しているときのOUT端子25のLow電圧をVOlowとすると、OUT端子25の電圧が低下してもQ21のOFF動作の状態を維持するIN端子45の電圧は、上述した式(4)で表される。
【0062】
図6Aの変形例
図6Aで示した具体的な実施の形態は、電荷蓄積回路12の端子cがOUT端子25に接続する構成、すなわち
図1A(原理1)に示す回路構成を利用した例である。
これに対して、
図1B(原理1の変形例)に示す回路構成を利用してもよい。このように、
図1Bの構成を利用した具体的な実施形態の回路図が
図6Bに示されている。すなわち、
図6Bに示すように、電荷蓄積回路12の端子cがOUT端子25ではなく、IN端子45に接続されている。
このような構成を採用することによって、「1.2 原理1の変形例」で説明したように、PチャネルMOSFETを組み合わせる必要がなくなり、より簡便な回路構成とすることもできる。これは、
図6Bで言えば、抵抗R7と、Q22とからなる回路が必ずしも必要ではなくなると言うことを意味している。
【0063】
6.効果その他
以上説明したように、本実施形態におけるハイサイドドライバ及びそれを備えたゲート駆動回路によれば、次のような効果を奏する。
電圧検出機能付きスイッチ22を用いて、電荷蓄積回路23が作る電圧をメインスイッチに供給している。したがって、出力電圧の電圧によって自律的にON動作するので、電圧シフト回路や、絶縁素子等を用いる必要がなくなり、回路構成を簡易にすることができる。
また、駆動対象である電力半導体スイッチの動作特性に鑑みて、より合理的な駆動方法を採用したので、電力半導体スイッチの高速駆動に適し、かつ回路構成がシンプルで、安価なゲート駆動回路を提供することができる。
また、駆動対象である電力半導体スイッチがOFF動作する際に、そのOFF動作を妨げない回路を提供することができる。さらに、従来の回路に比べて、対ノイズ性に優れた回路を提供することができる。
また、以上説明した実施形態は、本発明の実現手段としての一例であり、本発明が適用される装置の構成や各種条件によって適宜修正又は変更されるべきものであり、本発明は本実施形態の態様に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態においては、駆動対象である電力半導体スイッチとしてIGBTを主として説明したが、他の電力半導体スイッチでも適用することができる。
また、電荷蓄積回路や、電圧検出機能付きスイッチ回路の構成は、一例であり、同様の機能を備えた他の回路を用いてもよい。さらに、本実施形態(本発明)では、MOSFETを主たる構成要素として利用しているが、同様の作用効果を奏するものであれば、他の構成を利用してもよい。例えば、各種半導体スイッチや、他の材料を用いたスイッチを利用してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 PチャネルMOSFET
1a NチャネルMOSFET
2 IGBT
3、3a ゲート駆動回路
4 プラス側電圧端子
5 IN端子
6、8 GND端子
7 OUT端子
9、10、11 抵抗
10 フォトカプラ
12 ダイオード
13 キャパシタ
21 NチャネルMOSFET
22 電圧検出機能付きスイッチ
23 電荷蓄積回路
24 プラス側電圧端子
25 OUT端子
26、26b ゲート駆動回路
27 IGBT
28 ON信号入力端子
29、29b 抵抗
30 起動用PチャネルMOSFET
31 電圧変換回路
32 MOSFET
33 逆流防止回路
34 OFF信号入力端子
40 ゲート駆動回路
50 制御IC
51 インバータ