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特開2024-1773毛髪変形処理用組成物及び毛髪変形処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001773
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】毛髪変形処理用組成物及び毛髪変形処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/63 20060101AFI20231227BHJP
   A61Q 5/04 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
A61K8/63
A61Q5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100648
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】石森 綱行
(72)【発明者】
【氏名】嶋谷 千晃
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA112
4C083AC122
4C083AC182
4C083AC312
4C083AC692
4C083AC712
4C083AC782
4C083AD531
4C083AD532
4C083CC34
4C083EE25
(57)【要約】
【課題】より簡易に毛髪を変形させることができる新規な毛髪変形処理用組成物、及び該組成物を用いた毛髪変形処理方法を提供する。
【解決手段】本開示の毛髪変形処理用組成物は、サポニンを含み、また、本開示の毛髪変形処理方法は、かかる組成物を毛髪に適用し、該毛髪に加熱処理を施して毛髪を変形させることを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サポニンを含む、毛髪変形処理用組成物。
【請求項2】
前記サポニンが、0.001質量%以上含まれている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
毛髪変形処理が、毛髪表面に対して70℃超の熱を適用する加熱処理を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
サポニンを含む毛髪変形処理用組成物を毛髪に適用し、該毛髪に加熱処理を施して毛髪を変形させることを含む、毛髪変形処理方法。
【請求項5】
前記サポニンが、前記毛髪変形処理用組成物に0.001質量%以上含まれている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記加熱処理が、毛髪表面に対して70℃超の熱を適用する処理である、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱処理が、ヘアアイロン処理又はホットパーマ処理である、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項8】
前記毛髪を変形させることが、毛髪にカールを付与することである、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項9】
前記毛髪を変形させることが、縮毛を矯正することである、請求項4又は5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、毛髪変形処理用組成物及び毛髪変形処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、毛髪を保護したり或いは補修したりするための毛髪用組成物、及びヘアアイロン等の器具を用いて毛髪を変形させる方法などが開発されている。
【0003】
特許文献1には、エトキシジグリコールとシクロヘキサンジカルボン酸のジエステルと、引火点が180℃以上又は熱発生ヘアケア器具の使用温度以上であるジメチコンコポリオールとを含有する、熱ダメージケア用毛髪化粧料が開示されている。
【0004】
特許文献2には、グルタミン酸及びトリメチルグリシンから選択される少なくとも一種を含み、80℃以上の温度で熱処理される毛髪に対して熱処理前に適用される、毛髪熱保護剤が開示されている。
【0005】
特許文献3には、(1)(a)10~25質量%のグリオキシル酸と、(b)0.05~3質量%のグアニジン塩及び/又は尿素を含有し、pHが1.0~2.5の範囲である毛髪処理剤を毛髪に塗布する工程、(2)毛髪を放置する工程、(3)毛髪を水洗する工程、(4)毛髪を乾燥させる工程、及び(5)整髪用アイロンで毛髪を矯正する工程を含む、毛髪処理方法が開示されている。
【0006】
特許文献4には、水相と油相と乳化剤と安定化剤とからなる安定な化粧料用O/W型エマルジョンであって、前記乳化剤が天然乳化剤のレシチン又はサポニンであり、前記安定化剤がアロエ液汁である、O/W型エマルジョンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-015440号公報
【特許文献2】特開2019-006694号公報
【特許文献3】特開2016-017069号公報
【特許文献4】特開昭57-042326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、スタイリング、ウェーブパーマ、ストレートパーマ等の美容処理時に、ヘアアイロンなどを用いて、髪にウェーブをかけたり或いは髪を矯正したりする、毛髪を変形させるための技術が知られている。
【0009】
しかしながら、かかる技術は、熟練度を要したり、或いは、目的の髪形を得るために、ヘアアイロンなどの高温整髪用アイロンを毛髪に過度に適用する結果、毛髪にダメージを与えたりする場合があった。そのため、より簡易に毛髪を変形させる技術が望まれていた。
【0010】
したがって、本開示の主題は、より簡易に毛髪を変形させることができる新規な毛髪変形処理用組成物、及び該組成物を用いた毛髪変形処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
〈態様1〉
サポニンを含む、毛髪変形処理用組成物。
〈態様2〉
前記サポニンが、0.001質量%以上含まれている、態様1に記載の組成物。
〈態様3〉
毛髪変形処理が、毛髪表面に対して70℃超の熱を適用する加熱処理を含む、態様1又は2に記載の組成物。
〈態様4〉
サポニンを含む毛髪変形処理用組成物を毛髪に適用し、該毛髪に加熱処理を施して毛髪を変形させることを含む、毛髪変形処理方法。
〈態様5〉
前記サポニンが、前記毛髪変形処理用組成物に0.001質量%以上含まれている、態様4に記載の方法。
〈態様6〉
前記加熱処理が、毛髪表面に対して70℃超の熱を適用する処理である、態様4又は5に記載の方法。
〈態様7〉
前記加熱処理が、ヘアアイロン処理又はホットパーマ処理である、態様4~6のいずれかに記載の方法。
〈態様8〉
前記毛髪を変形させることが、毛髪にカールを付与することである、態様4~7のいずれかに記載の方法。
〈態様9〉
前記毛髪を変形させることが、縮毛を矯正することである、態様4~7のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、より簡易に毛髪を変形させることができる新規な毛髪変形処理用組成物、及び該組成物を用いた毛髪変形処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、毛髪変形処理用組成物におけるサピンヅストリホリアツス果実エキス(サポニン含有率20%)の含有量を変更したときの毛髪の変形度を示す写真である。
図2図2は、毛髪変形処理用組成物を用いて毛髪変形処理を行い、続いて、シャンプー処理を1回又は10回実施した後の毛髪の変形度を示す写真である。
図3図3は、毛髪変形処理用組成物を適用した毛髪に対し、種々の設定温度で高温整髪用アイロンを適用したときの毛髪の変形度を示す写真である。
図4図4は、縮毛状態の毛髪に対して毛髪変形処理用組成物を適用して毛髪変形処理(毛髪矯正処理)を行い、続いて、シャンプー処理とドライヤー乾燥を実施した後の毛髪の変形度(矯正度)を示す写真である。
図5図5は、サピンヅストリホリアツス果実エキス(サポニン含有率20%)を含まない組成物を適用した毛髪に対してホットパーマ処理を施した毛髪(左側:比較例3)と、サピンヅストリホリアツス果実エキス(サポニン含有率20%)を含む組成物を適用した毛髪に対してホットパーマ処理を施した毛髪(右側:実施例22)の変形度を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0015】
本開示の毛髪変形処理用組成物(単に「組成物」と称する場合がある。)は、サポニンを含んでいる。
【0016】
原理によって限定されるものではないが、本開示の毛髪変形処理用組成物が、毛髪を変形させ得る作用原理は以下のとおりであると考える。
【0017】
本発明者は、組成物中に含まれるサポニンが、毛髪を変形させるために有効な成分であることを見出した。
【0018】
毛髪の内部には、結合強度の高い順に、アミド結合(ペプチド結合)、シスチン結合、イオン結合、及び水素結合の4種類の結合が存在することが知られている。このうちのシスチン結合は、還元剤を用いることによって切断し得ることが知られており、また、アミド結合は、還元剤では切断しないより強力な結合であることが知られている。
【0019】
本開示の組成物に含まれるサポニンは、特許文献4にも記載されているように、天然の乳化剤又は界面活性剤として知られている成分であり、還元剤のようなシスチン結合を切断する強力な作用は有していない。にもかかわらず、本開示の組成物は、かかる組成物を毛髪に適用した後に、高温整髪用アイロン等で毛髪を加熱処理すると、組成物を適用しない毛髪に比べて毛髪をより変形させることができる。このことから、本開示の組成物に含まれるサポニンは、毛髪内に浸透し、かつ、高温整髪用アイロン等からの熱を受けたときに、毛髪内部のイオン結合及び/又は水素結合を切断するように作用するため、毛髪をより変形させることができると考えている。
【0020】
《毛髪変形処理用組成物》
〈サポニン〉
本開示の毛髪変形処理用組成物は、サポニンを含んでいる。なお、本開示において「毛髪変形処理」とは、かかる組成物を毛髪に適用した後に、毛髪に対して熱処理を行いながら毛髪を変形させる処理を意図する。ここで、「熱処理」とは、毛髪に熱を適用する処理であれば特に制限はなく、例えば、毛髪表面に対して70℃超の熱を適用する加熱処理などを挙げることができる。また、「毛髪を変形させる処理」とは、毛髪を変形させる処理であれば特に制限はなく、例えば、毛髪にウェーブなどのカールを付与する処理以外に、縮毛を直毛などに矯正する処理なども包含する。また、本開示における「毛髪」とは、「体毛」と同義であり、体中のいかなる毛を包含する。具体的には、毛髪として、例えば、髪の毛、まつ毛、眉毛、及び髭などを挙げることができる。
【0021】
サポニンの配合量としては特に制限はなく、例えば、組成物の全量に対し、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.10質量%以上、0.20質量%以上、0.30質量%以上、0.40質量%以上、0.50質量%以上、0.60質量%以上、0.70質量%以上、0.80質量%以上、0.90質量%以上、又は1.0質量%以上とすることができる。かかる配合量の上限値としては特に制限はなく、例えば、4.0質量%以下、3.5質量%以下、3.0質量%以下、2.5質量%以下、2.0質量%以下、1.5質量%以下、1.0質量%以下、1.0質量%未満、0.9質量%以下、又は0.8質量%以下とすることができる。なお、サポニンは、一般的には、純度100%の単体で市販されておらず、サポニンとサポニン以外の成分とを含む混合物の形態で市販されている。図1、2及び5に示される数値は、毛髪変形処理用組成物中に配合した、サポニンを含む混合物であるサピンヅストリホリアツス果実エキス(サポニン含有率20%)の含有量である。
【0022】
サポニンとしては特に制限はなく、例えば、トリテルペノイド系サポニン、ステロイド系サポニン、及びステロイドグリコアルカロイド系サポニンを挙げることができる。このようなサポニンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、毛髪の変形性等の観点から、トリテルペノイド系サポニンが好ましい。
【0023】
(トリテルペノイド系サポニン)
トリテルペノイド系サポニンは、例えば、植物由来の抽出物から得ることができる。トリテルペノイド系サポニンを含有する植物としては特に制限はなく、例えば、ダイズ、ヘチマ、アズキ、インゲン、ホウレンソウ、サトウダイコン、ブドウ、キキョウ、カンゾウ、セネガ、キラヤ、ムクロジ、サボンソウ、オタネニンジン、茶種子、及びエンジュを挙げることができる。トリテルペノイド系サポニンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、毛髪の変形性等の観点から、ムクロジ(「ソープナッツ」と称する場合もある。)由来のサポニンが好ましい。
【0024】
(ステロイド系サポニン)
ステロイド系サポニンも、例えば、植物由来の抽出物から得ることができる。ステロイド系サポニンを含有する植物としては特に制限はなく、例えば、ユリ科植物、ヤマノイモ科植物、チモ、及びバクモンドウを挙げることができる。ステロイド系サポニンも、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0025】
(ステロイドグリコアルカロイド系サポニン)
ステロイドグリコアルカロイド系サポニンも、例えば、植物由来の抽出物から得ることができる。ステロイドグリコアルカロイド系サポニンを含有する植物としては特に制限はなく、例えば、トマト、ジャガイモ、及びナス科の植物(例えばナス、トウガラシ)を挙げることができる。ステロイドグリコアルカロイド系サポニンも、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0026】
〈任意成分〉
本開示の毛髪変形処理用組成物は、本発明の効果に悪影響を及ぼさない範囲で、各種成分を適宜配合することができる。各種成分としては、例えば、液体油脂、固体油脂、ロウ、高級脂肪酸、ローズヒップ油、ツバキ油等の油分、シリコーン類、高級アルコール、サポニン以外の他の天然又は合成界面活性剤(例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤)、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、シリコーン化多糖類等の皮膜形成剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えばグリセリン、1,3ブチレングリコール、プロピレングリコール)、サポニンを含む抽出液以外の他の各種抽出液(例えばローヤルゼリーエキス)、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、紫外線吸収剤、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン、医薬品、医薬部外品、化粧品等に適用可能な水溶性薬剤、酸化防止剤、緩衝剤、防腐剤、酸化防止助剤、噴射剤、還元剤、酸化剤、有機系粉末、顔料、染料、色素、香料、水、酸成分、アルカリ成分、及び溶媒を挙げることができる。任意成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0027】
〈剤型〉
本開示の毛髪変形処理用組成物の剤型としては特に制限はなく、本発明の効果を発揮し得る形態であればどのようなものでもよい。例えば、液状、乳液状、クリーム状、ジェル状、ミスト、スプレー、エアゾール、及びムースが挙げられる。
【0028】
〈使用形態〉
本開示の毛髪変形処理用組成物の使用形態としては特に制限なく、例えば、毛髪に熱を適用して毛髪を変形させる処理の前処理剤として使用することができる。かかる使用形態として、具体的には、例えば、ヘアリキッド、ヘアトニック、ヘアコンディショナー、シャンプー、リンス、育毛料、ヘアオイル、ヘアトリートメント、カラーリング剤、ブリーチ剤、スタイリング剤、及びパーマ剤を挙げることができる。これらの使用形態は、毛髪に熱を適用して毛髪を変形させる処理の前処理剤としての機能も兼ね備えることができる。また、このような具体的な使用形態ではなく、単に、毛髪に熱を適用して毛髪を変形させる処理の前処理剤として別途使用することもできる。
【0029】
例えば、本開示の毛髪変形処理用組成物は、パーマ剤又はパーマの前処理剤として使用することができる。パーマ剤とは、還元反応、酸化反応等の化学反応を利用して毛髪形状を変化させるために用いられる毛髪処理剤である。パーマ剤としては、例えば、毛髪をウェーブ状に形成するためのウェーブ剤(例えば、ホット系ウェーブ剤)、ウェーブ状等の毛髪を直毛に近づけるためのストレート剤が挙げられる。本開示の毛髪変形処理用組成物をパーマ剤として使用する場合には、かかる組成物は、例えば、1剤式パーマ剤、2剤式パーマ剤の還元剤が配合された第1剤、及び2剤式パーマ剤の酸化剤が配合された第2剤のいずれであってもよい。
【0030】
本開示の毛髪変形処理用組成物は、かかる組成物を備えるキットの形態で提供されてもよい。例えば、毛髪変形処理用組成物を毛髪に熱を適用して毛髪を変形させる処理の前処理剤として使用する場合には、かかる前処理剤と、例えば、パーマ剤とを備えるキットとして提供してもよい。また、毛髪変形処理用組成物を、例えば、2剤式のパーマ剤の第1剤又は第2剤として使用する場合には、第1剤及び第2剤を備えるキットとして提供してもよい。
【0031】
《毛髪変形処理方法》
本開示の毛髪変形処理方法は、サポニンを含む毛髪変形処理用組成物を毛髪に適用し、該毛髪に加熱処理を施して毛髪を変形させることを含んでいる。本開示の毛髪変形処理方法は、上述した毛髪変形処理用組成物を同様に使用することができる。
【0032】
本開示の毛髪変形処理方法では、毛髪をより効果的に変形させる観点から、毛髪に熱を適用する前に、毛髪変形処理用組成物を毛髪に適用することが有利である。かかる組成物を毛髪に適用した後に、毛髪を水洗してもよく、或いは水洗しなくてもよい。組成物が水を含む場合には、組成物を毛髪に適用した後、タオル又はドライヤー等を用いて、或いは自然に毛髪を乾燥させてもよい。
【0033】
毛髪に対する加熱処理としては、毛髪を変形させ得る加熱処理であれば特に制限はない。このような加熱処理としては、例えば、ヘアアイロン処理(「高温整髪用アイロン処理」と称する場合もある。)、及びデジタルパーマ処理等のホットパーマ処理などを挙げることができる。加熱処理は単独で又は複数の処理を組み合わせて実施することができる。
【0034】
このような加熱処理は、例えば、ヘアアイロン等の高温整髪用アイロン、及び一般的にデジタルパーマ等のホットパーマと称するパーマで使用される加熱装置、ホットビューラーなどを用いて実施することができる。
【0035】
毛髪に加熱処理を施して毛髪を変形させることとしては特に制限はなく、例えば、毛髪にカールを付与すること、及び縮毛を矯正することなどを挙げることができる。ここで、特許文献3に記載される技術は、グリオキシル酸を含む毛髪処理剤を使用して縮毛を直毛に矯正する技術であって、毛髪にカールを付与する技術ではない。これまで、毛髪処理剤を用いてカールをより効果的に付与する技術は存在せず、また、縮毛を矯正し得る毛髪処理剤のバリエーションは少なかったため、縮毛の矯正及び毛髪に対するカール付与の両方に対して効果を発揮し得る本開示の毛髪変形処理組成物及び該組成物を用いた毛髪変形処理方法は、毛髪を変形させる技術分野において大きな貢献をもたらし得ると言える。
【0036】
毛髪に対する加熱処理の温度としては、例えば、毛髪表面に対し、70℃超、80℃以上、90℃以上、90℃超、100℃以上、110℃以上、120℃以上、130℃以上、140℃以上、又は150℃以上とすることができ、また、220℃以下、210℃以下、200℃以下、190℃以下、又は185℃以下とすることができる。なお、一般的なドライヤーの設定温度は100~120℃であるが、ドライヤーは、典型的には毛髪から10cm程度離れて使用されるため、そのときの毛髪表面の温度は、60~70℃程度である。
【0037】
加熱処理の毛髪に対する適用時間は、使用する加熱処理温度に応じて適宜設定することができる。例えば、加熱処理温度が、100℃以下の場合には、加熱処理の適用時間は、60分以下、45分以下、30分以下、又は20分以下とすることができ、また、1分以上、3分以上、5分以上、7分以上、又は10分以上とすることができる。加熱処理温度が100℃を越える場合(例えば150~200℃程度)には、加熱処理の適用時間は、1秒以上、3秒以上、5秒以上、10秒以上、15秒以上、又は20秒以上とすることができ、また、1分以下、50秒以下、40秒以下、又は30秒以下とすることができる。
【0038】
本開示の毛髪変形処理用組成物を用いることによって、熟練度を要さずにより簡易に毛髪を変形させることができる結果、本開示の毛髪変形処理方法によれば、従来の毛髪変形処理において使用されていた加熱温度及び/又は加熱時間を低く抑えることができるため、毛髪へのダメージを低減又は抑制することもできる。
【0039】
《毛髪変形処理用組成物による毛髪変形性能》
本開示の毛髪変形処理用組成物による毛髪変形性能は、例えば、熱変形処理後の毛髪に生じたカールの山の数、矯正度、及びウェーブ力向上率を用いて評価することができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、本開示の毛髪変形処理用組成物の毛髪変形性能は、後述するカールセット効果の評価試験に記載されるカールの山の数で評価することができる。本開示の毛髪変形処理用組成物は、カールの山の数に関し、1個以上又は2個以上を達成することができる。山の数の上限値としては特に制限はなく、例えば、5個以下、4個以下、又は3個以下とすることができる。
【0041】
いくつかの実施形態では、本開示の毛髪変形処理用組成物の毛髪変形性能は、後述する矯正度の評価試験に記載される矯正度(%)で評価することができる。本開示の毛髪変形処理用組成物は、矯正度に関し、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、又は90%以上を達成することができる。矯正度の上限値としては特に制限はなく、100%以下とすることができる。
【0042】
いくつかの実施形態では、本開示の毛髪変形処理用組成物の毛髪変形性能は、後述するウェーブ形成力向上効果の評価試験に記載されるウェーブ力向上率(%)で評価することができる。本開示の毛髪変形処理用組成物は、ウェーブ力向上率に関し、1.0%以上、3.0%以上、5.0%以上、5.0%超、7.0%以上、10.0%以上、又は10.0%超を達成することができる。ウェーブ力向上率の上限値としては特に制限はなく、30.0%以下、25.0%以下、又は20.0%以下とすることができる。
【実施例0043】
以下に実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下、特に断りのない限り、配合量は質量%で示す。
【0044】
《試験例1~4》
〈試験例1:カールセット効果の評価試験1〉
試験例1では、以下の実験方法及び評価方法に従って得られた、毛髪におけるカールの山の数の結果に基づき、サポニンの毛髪変形性能を評価した。その結果を表1及び図1に示す。なお、表1のサピンヅストリホリアツス果実エキスにおける括弧外の数値及び図1における数値は、サポニン含有量が20%であるサピンヅストリホリアツス果実エキスの量であり、表1のサピンヅストリホリアツス果実エキスにおける括弧内の数値は、サポニンのみの換算量である。
【0045】
(実験方法)
プリミエンス(商標)CL11(資生堂プロフェッショナル株式会社製)とプリミエンス(商標)デベロッパー6(資生堂プロフェッショナル株式会社製)を、1:1の割合で使用して脱色工程を施した中国人の人毛の毛束(長さ約25cm、重さ約3.0g)を調製した。この毛束に対し、表1に記載された配合割合となるように調製した各組成物をそれぞれ適用し、室温で5分間放置した。次いで、毛束を1分間水洗し、タオルドライ後にドライヤー乾燥し、180℃に設定した直径26mmのカールアイロンを用いてカールセット施術を行った。次いで、毛束に対してシャンプー処理を1回実施し、評価用の毛束を調製した。
【0046】
(評価方法)
図1に示すように、評価用の毛束を垂下し、毛束に残ったカールの山の頂点の数(図1の白丸部)をカウントした。山が確認できなければ、カールは形成されていないため、毛髪の変形効果が得られなかったと言える。ここで、カールの効果、すなわち毛髪の変形効果は、以下のように評価した:
カールの山数
0個 (カール効果:不可)
1~2個(カール効果: 可)
3個 (カール効果: 良)
【0047】
【表1】
【0048】
〈結果〉
表1の比較例1及び図1の0%の写真から分かるように、サポニンを含まない組成物を毛髪に適用した場合には、カールは付与されないが、サポニンを含む組成物を毛髪に適用すると、表1の実施例1~12及び図1の1%~10%の写真から分かるように、毛髪に対してカールが容易に付与され得ることが分かった。この結果より、サポニンが毛髪の変形に作用する成分であることが確認できた。
【0049】
実施例1~8の結果より、サポニン量が増加するに伴い、毛髪の変形効果が向上することが分かった。
【0050】
実施例9の結果より、界面活性剤等の他の成分が含まれてない構成、すなわちサポニン及び水のみの構成であっても、毛髪変形効果を奏することが分かった。
【0051】
また、実施例10~12の結果より、サポニンを含む組成物は、界面活性剤の種類によらず、毛髪変形効果を奏することも分かった。
【0052】
なお、図2の右側の写真は、実施例8における評価用の毛束に対し、シャンプー処理を10回実施した後の毛束の写真である。この結果から、本開示の毛髪変形処理用組成物によれば、複数回のシャンプー処理後であっても毛髪変形効果が残存することが分かった。
【0053】
〈試験例2:カールセット効果の評価試験2〉
試験例2では、毛髪変形に及ぼす加熱処理温度の影響を検討した
【0054】
(実験方法)
カールアイロンの設定温度を120℃、150℃、200℃に変更したこと以外は、実施例6と同様にして評価用の毛束を調製した。その結果及び実施例6の結果を図3に示す。
【0055】
〈結果〉
図3から分かるように、毛髪に適用する温度が上昇するに伴い、カールが強く付与されることが確認できた。
【0056】
〈試験例3:矯正度の評価試験〉
試験例3では、以下の実験方法及び評価方法に従って得られた、毛髪における矯正度の結果に基づき、サポニンの毛髪変形性能を評価した。その結果を表2及び図4に示す。なお、表2のサピンヅストリホリアツス果実エキスにおける数値は、表1と同様である。また、図4は、実施例16の評価用毛束に関する写真である。
【0057】
(実験方法)
ウェーブ状に縮れた日本人の人毛の毛束から、毛束を自然に垂下したときに、ウェーブの山が2つできる、長さ約20cm、重さ約0.1gの毛束を調製した。この毛束に対し、表2に記載された配合割合となるように調製した各組成物をそれぞれ適用し、室温で5分間放置した。次いで、毛束を1分間水洗し、タオルドライ後にドライヤー乾燥し、180℃に設定した高温整髪用アイロンを用いてアイロン施術を行った。次いで、毛束に対してシャンプー処理を1回実施し、評価用の毛束を調製した。
【0058】
(評価方法)
図4に示すように評価用の毛束を垂下し、毛束にウェーブの山が1つ残っていた場合には、その山における2つの斜面部分を直線近似したときに生じる山の頂点付近の交点と、これら2つの近似直線とによってもたらされる角度(α)を測定した。得られた角度(α)を以下の式1に代入して矯正度(%)を算出した。なお、毛束に残った山が鋭いほどαは0°に近くなり、図4の処理後の写真に示すように毛束が直線状に伸びるほどαは180°に近くなる。施術後にウェーブの山が2つとも残っている場合には、矯正効果(毛髪変形効果)無しとみなして矯正度の算出は行わなかった:
矯正度(%)=(α/180)×100 …式1
【0059】
【表2】
【0060】
〈結果〉
比較例2のように、サポニンを含まない組成物を毛髪に適用した場合には、施術後にウェーブの山が2つとも残っていた。一方、実施例13~18のように、サポニンを含む組成物を毛髪に適用した場合には、緩やかな山が1つ残存するか(実施例13~15)、或いは、山が全く生じていなかった(実施例16~18)。この結果から、本開示の毛髪変形処理用組成物によれば、縮毛を変形させて矯正し得ることが分かった。
【0061】
〈試験例4:ウェーブ形成力向上効果の評価試験〉
試験例4では、以下の実験方法及び評価方法に従って得られた、毛髪におけるウェーブ力向上率の結果に基づき、サポニンの毛髪変形性能を評価した。その結果を表3及び図5に示す。なお、表3のサピンヅストリホリアツス果実エキスにおける数値は、表1と同様である。また、図5は、比較例3(左側の写真)及び実施例22(右側の写真)の評価用毛束に関する写真である。
【0062】
(実験方法)
プリミエンス(商標)CL11(資生堂プロフェッショナル株式会社製)とプリミエンス(商標)デベロッパー6(資生堂プロフェッショナル株式会社製)を、1:1の割合で使用して脱色工程を施した中国人の人毛の毛束(長さ約25cm、重さ約3.0g)を調製した。この毛束に対し、表3に記載された配合割合となるように調製した各組成物をそれぞれ適用した後、直ちに、2剤式パーマ剤の1剤(クリスタライジングキュール(商標)M、資生堂プロフェッショナル株式会社製)を毛束に適用し、室温で15分間放置した。次いで、毛束を1分間水洗し、タオルドライした後、20mmのロッドで毛束をワインディングした。続いて、加温装置DS3000(資生堂プロフェッショナル株式会社製)を用い、80℃、20分の条件で、毛束に対してホットパーマ処理を施した。加温装置による加温終了後、毛束からロッドを外し、パーマ剤の2剤を(クリスタライジングキュール(商標)M、資生堂プロフェッショナル株式会社製)を毛束に適用し、室温で15分間放置した。次いで、毛束を1分間水洗し、自然乾燥させて評価用の毛束を調製した。
【0063】
(評価方法)
図5に示すように、評価用の毛束を垂下して隣接するウェーブの山の頂点間の距離(「ピッチ間距離」と称する場合がある。)を測定した。比較例3のピッチ間距離を基準値とし、実施例19~24における各ピッチ間距離を測定値とし、以下の式2に代入してウェーブ力向上率(%)を算出した。ここで、ウェーブ力向上率が、1%未満の場合を「不可」、1%以上5%以下の場合を「可」、5%超10%以下の場合を「良」、10%超の場合を「優」として、ウェーブ向上効果(毛髪変形効果)を評価した:
ウェーブ力向上率(%)=(基準値-測定値)×100/基準値 …式2
【0064】
【表3】
【0065】
〈結果〉
表3及び図5から分かるように、サポニンを含む組成物を毛髪に適用すると、サポニンを含まない比較例3の組成物を毛髪に適用した場合に比べ、ピッチ間距離が短くなり、ウェーブのリッジが強く付与されることから、パーマ剤を使用する場合においても、サポニンを含む組成物を毛髪に適用するだけで、毛髪のウェーブ力を容易に向上させ得ることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5