(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177307
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】オルガネラで機能するプロモーターの選別方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20241212BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20241212BHJP
C12N 15/82 20060101ALI20241212BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241212BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20241212BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20241212BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z ZNA
C12N15/11 Z
C12N15/82 Z
C12N5/10
C12N5/04
C12Q1/68 100Z
A01H1/00 A
C12Q1/6869 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024172838
(22)【出願日】2024-10-01
(62)【分割の表示】P 2021505005の分割
【原出願日】2020-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2019042535
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/植物の生産性制御に係る共通基盤技術開発 ゲノム編集の国産技術基盤プラットフォームの確立」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】片山 健太
(72)【発明者】
【氏名】西田 敬二
(57)【要約】
【課題】次世代シーケンサーを用いて、オルガネラで機能し、所望の活性強度を有するプロモーターを大規模に選別できる方法を提供すること、及び該選別により得られた、オルガネラで機能するプロモーターを提供すること。
【解決手段】以下の工程(1)~(5)を含む、オルガネラで機能するプロモーターの選別方法。(1)RNAシーケンシング解析により得られたシーケンス情報を準備する工程、(2)工程(1)で準備されたシーケンス情報を、オルガネラDNAの配列上にマッピングする工程、(3)工程(2)で得られたマッピング情報に基づき、各領域でのRNA発現の変化量を算定する工程、(4)工程(3)で得られた変化量があらかじめ設定した基準値の範囲内である領域を選別する工程、及び(5)該選別した領域のうち適切な領域をオルガネラで機能するプロモーターとして同定する工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)~(5)を含む、オルガネラで機能するプロモーターの選別方法。
(1)ポリA配列を有さないmRNAを含む試料を用いてRNAシーケンシング解析により得られたシーケンス情報を準備する工程、
(2)工程(1)で準備されたシーケンス情報を、オルガネラDNAの配列上にマッピングする工程、
(3)工程(2)で得られたマッピング情報に基づき、各領域前後でのRNA発現の変化量を算定する工程、
(4)工程(3)で得られた変化量があらかじめ設定した基準値の範囲内である領域を選別する工程、及び
(5)工程(4)で選別した領域の上流領域をオルガネラで機能するプロモーターとして同定する工程
【請求項2】
さらに、(6)工程(5)で同定した1つ以上のプロモーターを含むコンストラクトを作製して、該プロモーターがオルガネラで機能することを検証する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記領域前後の発現の変化量がFPKMの変化量である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記オルガネラが色素体またはミトコンドリアである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
以下の(a)、(b)又は(c)の配列を含む、オルガネラ内でプロモーター活性を有するDNA。
(a) 配列番号1~12のいずれかで示される配列
(b) (a)の配列において1若しくは複数の塩基が欠失、置換若しくは付加された配列
(c) (a)の配列と少なくとも90%の同一性を有する配列
【請求項6】
請求項5に記載の配列を含む、形質転換用ベクター。
【請求項7】
請求項6に記載の形質転換用ベクターで形質転換されたオルガネラを有する、細胞。
【請求項8】
前記オルガネラが色素体またはミトコンドリアである、請求項7に記載の細胞。
【請求項9】
前記細胞が植物細胞である、請求項8に記載の細胞。
【請求項10】
請求項9に記載の植物細胞を有する植物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガネラで機能するプロモーターの選別方法、及び該方法により選別された新規な配列を含むプロモーターDNAに関する。
【背景技術】
【0002】
植物細胞に外来遺伝子を導入することによって、交雑育種では付加できない有用な形質を植物に付与することは、近年の急激な人口増加や気候変動など、農業事情が急変する中で食糧増産や環境改善の推進に寄与するなど、今後の農作物の改良と農業の発展に極めて意義がある。また、化石燃料の供給制限などの観点から、二酸化炭素を原料とした植物による物質生産を実現するためには、植物の遺伝子組換え技術の技術向上が不可欠である。
【0003】
植物細胞の遺伝子組換え技術の1つとして、核ではなく色素体(例:葉緑体)やミトコンドリアなどのオルガネラDNAを標的とした遺伝子組み換え技術が知られている(例えば、非特許文献1)。前記オルガネラは、細胞内に通常数十個~数千個あり(例えば、葉緑体の場合、1細胞当たり約100個存在する)、かつ各オルガネラ当たり通常数十個~数百個のゲノムが存在するため、該オルガネラに導入した遺伝子の高発現が期待される。また、細胞質では有害なタンパク質またはリボ核酸であっても、オルガネラでは各生物で特異的な切断や修飾のないまま蓄積可能であり、またサイレンシングがなく、後代でも遺伝子発現が安定する。さらには、前記オルガネラは母性遺伝または父性遺伝に限られることが多いため、外来遺伝子の拡散リスクも極めて低い。このようなオルガネラ内で安定的に、かつ効率よくタンパク質を発現させるためには、オルガネラで機能するプロモーターの選択が重要となる。
【0004】
ところで、遺伝子発現解析を、次世代シーケンサーを用いて行う、いわゆるRNAシーケンシング法(RNA-Seq法)が急速に普及している(例えば、非特許文献2)。RAN-Seq法を用いることで、コスト面でも作業面でもマイクロアレイに匹敵する効率で遺伝子発現の解析を行うことができる。また、RNA-Seq法を用いて、IncRNA(long noncoding RNA)の発現解析も行われている(例えば、非特許文献3)。しかしながら、本発明者らが知る限りにおいて、オルガネラで機能するプロモーターを、しかも所望の活性強度を有するプロモーターをRNA-Seq法を用いて選別できる方法は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Day, A. and Goldschmidt-Clermont, M., Plant Biotechnol. J., 9:540 (2011).
【非特許文献2】Mortazavi A., et al., Nat Methods. 5(7):621-628 (2008)
【非特許文献3】Di C., et al., Plant J., 80(5):848-861 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、次世代シーケンサーを用いて、オルガネラで機能し、所望の活性強度を有するプロモーターを大規模に選別できる方法を提供すること、及び該選別により得られた、オルガネラで機能するプロモーターを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、オルガネラ内において高発現では毒性のある目的タンパク質を、できるだけ安定的に大量に発現できるプロモーターを探索していた。これまで、オルガネラの遺伝子発現の検出には主として逆転写PCR法が用いられてきたため、プロモーターの強度を比較することが出来ておらず、プロモーターのスクリーニング方法は、高発現型プロモーター、または、低発現恒常発現型プロモーターといったような定性的な分類に限られていた。しかし、高発現型プロモーターでは、当該目的タンパク質は毒性を発揮してしまうため、目的タンパク質を発現する遺伝子コンストラクトを安定的に維持することができないとの課題があった。一方、低発現恒常発現型プロモーターでは、当該コンストラクトを安定的には維持できるものの、当該目的タンパク質の大量発現は期待できないとの課題があった。そこで、オルガネラDNAに存在するプロモーターの中から、上記2種類のプロモーターの中間の発現量が達成できるプロモーターを選別できれば、オルガネラ内で安定に維持され、かつ目的タンパク質が十分に発現できるプロモーターが得られるのではないかとの着想を得た。
【0008】
かかるプロモーターの選別において、本発明者らは、RNAシーケンシング法(RNA-Seq法)を用いることで、上記の条件を満たすプロモーターを網羅的にスクリーニングできるのではないかと考えた。遺伝子発現量を解析するRNA-Seq法では、通常、mRNAの中からポリA配列を有するmRNAを単離することで調製した試料を用いるが、オルガネラDNA由来のmRNAは、活性型ではポリA配列が付加されないとの知見があることから、敢えてポリA配列を有さないmRNAを含む試料を用いてRNA-Seqを行って得られたデータを用いることとした。前記データを用いて、FPKM(fragments per kilobase of exon per million reads mapped)の変化量を指標として、該変化量が、高発現プロモーターでの値と低発現プロモーターでの値の間であるものを選別することで、12個のプロモーターを同定することに成功した。しかも、これらの中には、塩基配列のORF情報からは予想できない配列も含まれていることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1] 以下の工程(1)~(5)を含む、オルガネラで機能するプロモーターの選別方法。
(1)RNAシーケンシング解析により得られたシーケンス情報を準備する工程、
(2)工程(1)で準備されたシーケンス情報を、オルガネラDNAの配列上にマッピングする工程、
(3)工程(2)で得られたマッピング情報に基づき、各領域前後でのRNA発現の変化量を算定する工程、
(4)工程(3)で得られた変化量があらかじめ設定した基準値の範囲内である領域を選別する工程、及び
(5)工程(4)で選別した領域の上流領域をオルガネラで機能するプロモーターとして同定する工程
[2] さらに、(6)工程(5)で同定した1つ以上のプロモーターを含むコンストラクトを作製して、該プロモーターがオルガネラで機能することを検証する工程を含む、[1]に記載の方法。
[3] 前記領域前後の発現の変化量がFPKMの変化量である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記オルガネラが色素体またはミトコンドリアである、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 以下の(a)、(b)又は(c)の配列を含む、オルガネラ内でプロモーター活性を有するDNA。
(a) 配列番号1~12のいずれかで示される配列
(b) (a)の配列において1若しくは複数の塩基が欠失、置換若しくは付加された配列(c) (a)の配列と少なくとも90%の同一性を有する配列
[6] [5]に記載の配列を含む、形質転換用ベクター。
[7] [6]に記載の形質転換用ベクターで形質転換されたオルガネラを有する、細胞。
[8] 前記オルガネラが色素体またはミトコンドリアである、[7]に記載の細胞。
[9] 前記細胞が植物細胞である、[8]に記載の細胞。
[10] [9]に記載の植物細胞を有する植物体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の選別方法によれば、オルガネラで機能し、所望の活性強度を有するプロモーターを大規模に選別することができる。このような選別により得られたプロモーターを用いてオルガネラを形質転換することで、目的タンパク質量を発現する細胞を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、RNA-Seqによる遺伝子解析の方法の概略図を示す。RNA-Seqによる遺伝子解析により、遺伝子の発現量を定量化することができ、また、プロモーターの位置を特定することができる。
【
図2】
図2は、実施例で用いたベクターのマップを示す。図中、AtCpP03の部分に検定対象のプロモーター領域を挿入した。
【
図3】
図3は、大腸菌を用いて、増幅開始後10~11時間におけるプロモーターの相対活性の結果を示す。横軸はプロモーターの配列番号を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.オルガネラで機能するプロモーターの選別方法
本発明は、オルガネラで機能するプロモーターの選別方法(以下「本発明の選別方法」と称することがある)を提供する。本発明の選別方法は、以下の工程(1)~(5)を含む。
(1)RNAシーケンシング(以下では「RNA-Seq」と称することがある)解析により得られたシーケンス情報を準備する工程、
(2)工程(1)で準備されたシーケンス情報を、オルガネラDNAの配列上にマッピングする工程、
(3)工程(2)で得られたマッピング情報に基づき、各領域でのRNA発現の変化量を算定する工程、
(4)工程(3)で得られた変化量があらかじめ設定した基準値の範囲内である領域を選別する工程、及び
(5)工程(4)で選別した領域の上流領域をオルガネラで機能するプロモーターであると同定又は判定する工程。
本明細書において、「領域」には、単一の領域だけでなく、複数の領域からなる領域群も包含される。
【0013】
後述の実施例で示す通り、上記工程(1)~(5)を行うことにより、オルガネラでの機能と相関関係を有するプロモーターを選別できることが実証された。従って、本発明の選別方法は、工程(1)~(5)を含むことで十分であるが、工程(5)で同定されたプロモーターが、オルガネラで機能することを検証する工程を含んでいてもよい。よって、一態様において、本発明の選別方法は、(6)工程(5)で同定した1つ以上のプロモーターを含むコンストラクトを作製して、該プロモーターがオルガネラで機能することを検証する工程を含む。
【0014】
本明細書において、「オルガネラ」とは、核DNA以外のDNAを有するオルガネラを意味し、例えば、色素体及びミトコンドリアが挙げられる。前記色素体としては、例えば、葉緑体、エチオプラスト、アミロプラスト、エライオプラスト、有色体及び白色体が挙げられるが、中でも、形質転換方法が多く知られている葉緑体が好ましい。
【0015】
上記工程(1)において、準備するシーケンス情報は、例えばデータベースとして公開されているもの(例:非特許文献3のPRJNA213635)を用いてもよく、又は自体公知の方法により調製したポリA配列を有さないRNAを含む試料を用い、RNA-Seqを行うことで得られる情報を用いてもよい。ポリA配列を有さないRNAを含む試料の調製は、例えば、試料からRNAを抽出し、核rRNA配列を除去したのちRNAを断片化し、ランダムプライマー等でcDNAを合成し、該cDNAにアプタマー配列を付加することにより行うことができる。
【0016】
上記工程(2)において、オルガネラDNAの配列上へのマッピングは、公知のマッピングソフト(例:BWA、Bowtie、STAR等)を用いて行うことができる。前記オルガネラの配列も、データベースから取得することができる(例えば、シロイヌナズナ葉緑体ゲノムの配列は、GenBank Accession No: NC_000932.1として、シロイヌナズナミトコンドリアゲノムの配列は、GenBank Accession No: NC_001284.2 として公開されている)。あるいは、次世代シーケンシング等を用いて、新たにDNAの配列を同定し、該配列情報を用いてもよい。
【0017】
上記工程(3)において、各遺伝子の発現は、例えば、FPKM、RPKM(下記式[数1]で計算できる)、TPM(transcripts per kilobase million)などを用いて算出することができる。また、前記で算出した値を用いて、領域前後での前記RNAの発現の変化量を算出することができる。FPKM(single-endリードの場合はRPKM)は、RNA-Seqデータから得られたリードカウントデータに対して、総リード数による補正の後に、転写産物長による補正を行なって得られる値を意味する。TPMは、サンプル中に全転写産物が100万個存在するときに、各転写産物に何個あたりの転写産物が存在するのかを表す値を意味する。FPKM及びRPKMは、下記式([数1])で計算できる。
【0018】
【0019】
上記式中、FPKMiは転写産物iのFPKMを、Nは参照配列にマッピングできた全リード数を、Yiは全リード数のうち転写産物iの領域にマッピングされたリード数を、Liは転写産物iの長さを示す。
【0020】
また、TPMは、以下のように計算できる。Ytを転写産物tにマッピングされたリードカウントとし、Ltを転写産物tの長さとすると、転写産物tの 1,000 bp あたりのリード数は次のように計算できる([数2])。
【0021】
【0022】
続いて、転写産物長による補正後の総リードカウントが100万となるように補正する。
このとき、転写産物tのTPMtは次のように計算できる([数3])。
【0023】
【0024】
前記工程(4)において、基準値の範囲は、所望するプロモーター活性の強度により設定することができる。例えば、高発現型プロモーターであることが知られているものと、低発現型プロモーターであることが知られているものとの中間のプロモーター活性を有するものを選別することを目的とする場合は、前記プロモーター領域及びその制御下にある領域でのRNA発現の変化量を、上記FPKM、RPKM又はTPMなどの変化量として算出し、その値の範囲を基準値の範囲として設定することができる。一実施態様において、葉緑体の場合、前記基準値の範囲は、101~105、好ましくは102~104.5
と設定することができる。また、ミトコンドリアの場合、前記基準値の範囲は、10以上、好ましくは101.5~104と設定することができる。
【0025】
上記工程(5)において、工程(4)の基準値の範囲内に属する遺伝子等の上流領域をオルガネラで機能するプロモーターとして同定することができる。上記の判定、又はプロモーター領域の同定は、例えば、以下の工程(i)~(iii)により行うことができるが、この方法に限定されない。
(i)前記領域の配列情報からorfを予測する。
(ii) orfの開始コドンに近い位置でFPKM値の増加が見られた場合は、開始コドンの前にSD(Shine-Dalgarno)配列になりそうな配列が存在するか確認し、SD配列が存在する場合には、該SD配列の付近までをプロモーター領域の候補とする。orfが見出されない場合、あるいはSD配列が見出されない場合には、FPKM値の変化した付近までの配列をプロモーター領域の候補とする。なお、SD配列とは、原核生物において、開始コドンの上流に見られる共通配列を指し、該配列は、mRNAをタンパク質に翻訳するリボソームを結合し、翻訳開始を促進することが知られている。
(iii)プロモーター配列中にorfが開始コドンを含む形で入らないようにするため、遺伝子間領域をプロモーター領域の候補とする。
さらに、PCRプライマーの設計の行い易さやorfの存在の有無を指標にして、候補を絞ってもよい。
【0026】
上記工程(6)は、例えば、工程(5)で同定されたプロモーターと、該プロモーター配列の3’側に遺伝子(例:下記2.で記載のレポーター遺伝子等)を連結した核酸を細胞内に導入し、該細胞内での遺伝子の発現量を測定する方法などにより、所望の活性を有するか確認することができる。この際、オルガネラでの遺伝子発現を検出又は測定してもよいが、オルガネラと同様に、原核生物型の転写翻訳機構を持つ細胞(例:大腸菌等)を用いてもよい。また、前記プロモーターにSD配列が認められない場合には、適宜SD配列等(例えば、T7g10遺伝子のSD配列など)を付加することが好ましい。さらに、本発明の選別方法により同定されたプロモーターは、適宜発現用コンストラクトに含めることができ、前記発現用ベクターを細胞に導入し、所望の発現活性を示すか検証することで、該プロモーターに適した発現ベクターを選別・同定することもできる。
【0027】
2.オルガネラで機能するプロモーター
別の実施態様において、本発明は、本発明の選別方法により得られた、オルガネラ内でプロモーター活性を有する、即ち、オルガネラでプロモーターとして機能するDNAを提供する(以下「本発明のプロモーターDNA」と称することがある)。オルガネラの定義
及び種類については、上記1.で記載した通りである。
【0028】
後述の実施例で示す通り、配列番号1~12のいずれかで示される配列を形質転換用ベクターに組み込んで、オルガネラと同様に原核生物型の転写翻訳機構をもつ大腸菌で、プロモーターに連結された遺伝子を発現させた。その結果、RNA-Seqの解析結果から予測されたプロモーター活性の強度を反映するように遺伝子の発現が認められたことから、配列番号1~12のいずれかで示される配列は全て、オルガネラでプロモーター活性を有し得る。従って、一態様において、本発明のプロモーターDNAは、配列番号1~12のいずれかで示される配列を含むか、又は該配列からなる。配列番号1は、シロイヌナズナ葉緑体ゲノムの配列(GenBank Accession No: NC_000932.1)において、66967番目の塩基~66739番目の塩基の領域の配列である。配列番号2は、前記配列において、1467番目の塩基~1574番目の塩基の領域の配列である。配列番号3は、前記配列において、54960番目の塩基~54593番目の塩基の領域の配列である。配列番号4は、前記配列において、34250番目の塩基~34084番目の塩基の領域の配列である。配列番号5は、前記配列において、13505番目の塩基~13608番目の塩基の領域の配列である。配列番号6は、前記配列において、64320番目の塩基~64558番目の塩基の領域の配列である。配列番号7は、前記配列において、41893番目の塩基~42081番目の塩基の領域の配列である。配列番号8は、前記配列において、112600番目の塩基~112806番目の塩基の領域の配列である。配列番号9は、前記配列において、32636番目の塩基~32390番目の塩基の領域の配列である。配列番号10は、前記配列において、14768番目の塩基~14889番目の塩基の領域の配列である。配列番号11は、シロイヌナズナミトコンドリアゲノムの配列(GenBank Accession No: NC_001284.2)において、232031番目の塩基~231696番目の塩基の領域の配列である。配列番号12は、前記配列において、206221番目の塩基~206059番目の塩基の領域の配列である。
【0029】
また、別の態様において、本発明のプロモーターDNAは、配列番号1~12のいずれかで示される配列において、1若しくは複数(例:2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個)の塩基が欠失、置換若しくは付加された配列を含むか、又は該配列からなり、オルガネラ内でプロモーター活性を有する。
【0030】
さらに別の態様において、本発明のプロモーターDNAは、配列番号1~12のいずれかで示される配列と少なくとも90%(例:91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又はそれ以上)(但し、100%は除く)の同一性を有する配列を含むか、該配列からなり、オルガネラ内でプロモーター活性を有する。
【0031】
塩基配列の同一性は、各種パラメータはデフォルト値に設定の条件下で、相同性計算アルゴリズムのNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)を用いて計算することができる。
【0032】
本発明のプロモーターDNAは、上述した配列を有する限り、その他の配列を含んでいても同様にプロモーター活性を有し得る。従って、本発明のプロモーターDNAの長さは特に限定はないが、好ましくは500塩基長以下であり、より好ましくは400塩基長以下である。
【0033】
本発明のプロモーターDNAの合成方法は、特に制限されず、従来公知の方法が採用できる。前記合成方法は、例えば、遺伝子工学的手法による合成法、化学合成法等が挙げられる。遺伝子工学的手法は、例えば、インビトロ転写合成法、ベクターを用いる方法、PCRカセットによる方法が挙げられる。前記ベクターは、特に制限されず、プラスミド等の非ウイルスベクター、ウイルスベクター等が挙げられる。前記化学合成法は、特に制限されず、例えば、ホスホロアミダイト法及びH-ホスホネート法等が挙げられる。前記化学合成法は、例えば、市販の自動核酸合成機を使用可能である。前記化学合成法は、一般に、アミダイトが使用される。前記アミダイトは、特に制限されず、市販のアミダイトとして、例えば、ACEアミダイト、TOMアミダイト、CEEアミダイト、CEMアミダイト、TEMアミダイトなどが挙げられる。
【0034】
上記DNAがオルガネラで所望のプロモーター活性を有することの確認は、上記1.で記載の方法により行うことができる。
【0035】
3.本発明のプロモーターを含む、形質転換用ベクター
本発明はまた、上記2.の本発明のプロモーターを含む形質転換用ベクター(以下「本発明のベクター」と称することがある)を提供する。本発明のベクターには、目的のタンパク質またはリボ核酸(例:ノンコーディングRNA)をコードする遺伝子(以下「目的遺伝子」と称することがある)に、本発明のプロモーターが作動可能に連結される。
【0036】
オルガネラ内では、細胞質では有害なタンパク質であっても蓄積可能であるため、上記目的遺伝子は特に限定されないが、例えば、merA遺伝子、病虫害耐性遺伝子や除草剤耐性遺伝子、抗酸化作用を有するカロテノイドやビタミンEなどの生合成に関る遺伝子、光合成に関与する例えばフルクトース1,6-ビスホスファターゼ/セドヘプツロース1,7-ビスホスファターゼ遺伝子が挙げられる。本発明のベクターが、オルガネラにmerA遺伝子などのメタロチオネイン遺伝子を有する場合には、該ベクターが導入された細胞は、土壌などの環境中の有害重金属や水銀に対する耐性を獲得し得る。本発明のベクターが、病虫害耐性遺伝子や抗生物質耐性遺伝子(aadA)を有する場合には、該ベクターが導入された細胞は、害虫抵抗性や感染性細菌に対する耐性を獲得し得る。本発明のベクターが、抗酸化作用を有するカロテノイドやビタミンEなどの生合成に関る遺伝子を有する場合には、該ベクターが導入された細胞は、該細胞が生成する油脂類中のカロテノイドやビタミンEなどの有用成分の含有量を向上し得る。また、本発明のベクターが、光合成に関与するラン藻由来のフルクトース1,6-ビスホスファターゼ/セドヘプツロース1,7-ビスホスファターゼ遺伝子などを有する場合には、該ベクターが導入された細胞は、野生株に比べて、背丈が大きく、また葉の面積も大きく、早く生育し、かつ糖やデンプンの合成能力が増大し得る。
【0037】
オルガネラ内で有害なタンパク質(CMS原因タンパク質等)が発現すると、花粉の発達が阻害され細胞質雄性不稔(CMS)となるが、別の花粉親の花粉が提供されると受精可能なことから、この現象はF1作物の種子生産などにも利用される。上記目的遺伝子は特に限定されないが、例えば、orf79遺伝子、orfH79遺伝子、orf284遺伝子、orf352遺伝子、urf13遺伝子、orf355遺伝子、atp6-C遺伝子、orf256遺伝子、orf260遺伝子、orf138遺伝子、orf125遺伝子、orf224遺伝子、orf222遺伝子、orf463遺伝子、orfH522遺伝子、orf107遺伝子、preSatp6遺伝子、orf129遺伝子、G cox2遺伝子、pcf遺伝子、orf239遺伝子、Ψatp6-2遺伝子、orf456遺伝子などのCMS原因遺伝子などが挙げられる。本発明のベクターが、CMS原因遺伝子などを有する場合には、該ベクターが導入された個体は生殖細胞の発達が阻害されて自家受精しないため、容易に他家受粉し、F1種子を形成し得る。また、適切な稔性回復因子を持つ個体を用いれば、目的遺伝子をオルガネラに有したままの個体も維持できる。
【0038】
オルガネラ内では、細胞質では宿主特異的な独特の代謝を受けるリボ核酸であっても、転写されたままの形で蓄積可能であるため、上記目的遺伝子は特に限定されないが、例えば、病害虫のアセチルコリンエステラーゼ遺伝子、キチン合成酵素遺伝子、アクチン遺伝子等の病害虫に必須な遺伝子中に含まれる標的病害虫特異的な保存配列について、結果的に二重鎖リボ核酸となるよう発現させるコンストラクト等が挙げられる。本発明のベクターが、病害虫特異的な保存領域を二重鎖リボ核酸となるよう発現させるコンストラクトを含む場合には、該ベクターが導入された細胞を食害した病害虫は、植物特異的な代謝を受けない二重鎖リボ核酸によって、病害虫体内で独自にリボ核酸を代謝することでRNAiが生じ、必須の遺伝子の発現が抑制されるために致死または細胞への忌避効果を示し得る。
【0039】
本発明のベクターには、相同的組換えによりオルガネラDNA中に導入されるように、被導入遺伝子の5’及び3’側に、オルガネラDNAの遺伝子(例:trnG(tRNA-Gly(GCC))、trnV(tRNA-Val(GAC))、trnfM(tRNA-fMet(CAU))、rbcL遺伝子、accD遺伝子、trnI(tRNA-Ile(GAU))とtrnA(tRNA-Ala(UGU))、3’rps12(リボソーマルプロテインS12エクソン-3)遺伝子、trnV(tRNA-Val(GAC))等)配列と相同な配列、又は同一性が高い配列を付加することが好ましい。該相同な配列の長さとして、例えば、約500~1500の塩基長が挙げられる。相同な配列は、既知のオルガネラDNAの塩基配列情報等に基づき適宜設計することができる。
【0040】
本発明のベクターには、発現させたいオルガネラに即したコドン表で記載された遺伝子を持つことが好ましい。例えば、脊椎動物の場合、核での発現でUGAコドンは終止コドンを意味するが、ミトコンドリアではトリプトファンをコードする。このようなコドン表の違いに即して、適切なオルガネラでのみ、適切なタンパク質配列が発現するようコントロールすることが好ましい。
【0041】
本発明のベクターは、形質転換体を選別するためのマーカー遺伝子を有することが好ましい。前記マーカー遺伝子としては、レポーター遺伝子(例:蛍光タンパク質をコードする遺伝子、発光タンパク質をコードする遺伝子、蛍光、発光又は呈色を補助するタンパク質をコードする遺伝子)、薬剤耐性遺伝子などが挙げられる。マーカー遺伝子は、1種類のみ用いてもよいし、2種類以上(例えば、蛍光タンパク質をコードする遺伝子と薬剤耐性遺伝子とを組み合わせて)用いてもよい。本明細書において、マーカー遺伝子にコードされるタンパク質を、「マーカータンパク質」と称することがある。
【0042】
蛍光タンパク質としては、例えば、Sirius、TagBFP、EBFP等の青色蛍光タンパク質;mTurquoise、TagCFP、AmCyan、mTFP1、MidoriishiCyan、CFP等のシアン蛍光タンパク質;TurboGFP、AcGFP、TagGFP、Azami-Green (例:hmAG1)、ZsGreen、EmGFP、EGFP、GFP2、HyPer等の緑色蛍光タンパク質;TagYFP、EYFP、Venus、YFP、PhiYFP、PhiYFP-m、TurboYFP、ZsYellow、mBanana等の黄色蛍光タンパク質;KusabiraOrange (例:hmKO2)、mOrange等の橙色蛍光タンパク質;TurboRFP、DsRed-Express、DsRed2、TagRFP、DsRed-Monomer、AsRed2、mStrawberry等の赤色蛍光タンパク質;TurboFP602、mRFP1、JRed、KillerRed、mCherry、HcRed、KeimaRed(例:hdKeimaRed)、mRasberry、mPlum等の近赤外蛍光タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
発光タンパク質としては、例えばイクオリンが挙げられるが、これに限定されない。また、蛍光、発光又は呈色を補助するタンパク質として、例えば、ルシフェラーゼ、ホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、βラクタマーゼ等の蛍光、発光又は呈色前駆物質を分解する酵素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
薬剤耐性遺伝子としては、例えば、ハイグロマイシン耐性遺伝子(ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、hpt)、スペクチノマイシン耐性遺伝子(aadA)、カナマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子、ALS(AHAS)遺伝子やPPO遺伝子等の除草剤耐性遺伝子が挙げられる。
【0045】
上記マーカー遺伝子の上流又は下流には、それぞれ該遺伝子を発現制御するためのエンハンサー、プロモーター、リーダー及び/又はターミネーター配列が含まれていることが好ましい。また、オルガネラの場合、該遺伝子は複数として、オペロン配列を形成しても良い。前記エンハンサーとしては、例えば、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域などが挙げられる。前記プロモーターとしては、例えば、rrnプロモーター、cox2プロモーター、psbAプロモーター、accDプロモーター、clpPプロモーター、atpBプロモーター、rpl32プロモーター、H strandプロモーター、エロンゲーションファクター1α遺伝子のプロモーター(EF1αプロモーター)、35Sプロモーター、PPDKプロモーター、PsPAL1プロモーター、PALプロモーター、UBIZM1ユビキチンプロモーターなどが挙げられる。中でも、オルガネラ由来のプロモーターが好ましい。前記リーダー配列としては、例えば、cry9Aa2リーダー、atpBリーダー等が挙げられる。一つのプロモーターで複数の遺伝子の発現を誘導する場合、リーダー配列を含むことが好ましい。前記ターミネーターとしては、例えば、rbcLターミネーター、rps16ターミネーター、CaMV35Sターミネーター、ORF25polyA転写ターミネーター、psbAターミネーター等が挙げられる。中でも、オルガネラ由来のターミネーターが好ましい。
【0046】
本発明のベクターには、オルガネラ移行シグナルペプチドをコードする核酸を有することもできる。ミトコンドリア移行シグナルペプチドは、通常2-3個の疎水性アミノ酸と塩基性アミノ酸が交互に現れるパターンからなり、例えば、MLSLRQSIRFFK(配列番号37)が挙げられる。葉緑体移行シグナルペプチドは、通常セリンやスレオニンに富み、酸性アミノ酸が乏しい数十から100アミノ酸残基程度の配列からなる(Javis P. and Lopez-Juez E., Nat. Rev. Mol. Cell Biolo., 14, 787-802 (2013))。ペルオキシソーム移行ペプチドとしては、C末のSKLが挙げられる。
【0047】
本発明のベクターは、例えば、本発明のプロモーターに目的遺伝子を連結したDNA、及び必要に応じて上記のマーカー遺伝子等を適当なベクターに導入することにより構築することができる。具体的には、例えば、Svab et al., Proc. Nal. Acad. Sci. USA, 87, 8526 (1990)に記載の方法、Sikdar et al., Plant Cell Rep., 18, 20 (1998)に記載の方法、Sidorov et al.: Plant J., 19, 209 (1999)に記載の方法、Ruf, S. et al., Nature biotechnol., 19, 870 (2001)に記載の方法、Hou et al., Transgenic Res., 12, 111 (2003)に記載の方法などが挙げられるが、これらの方法に限定されない。また、かかるベクターは、アグロバクテリウムを介して植物に目的遺伝子を導入することができる、pBI系ベクター、pUC系ベクター、pPZP系ベクター(Hajdukiewicz P., et al.,. Plant Mol Biol., 25: 989-94, (1994))、pCAMBIA系ベクター、pSMA系ベクターなどをベースにして作製することもできる。前記pBI系のバイナリーベクターとして、例えば、pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3などが挙げられる。前記pUC系ベクターとしては、例えば、pUC18、pUC19、pUC9などが挙げられる。また、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)等の植物ウイルスベクターも用いてもよい。
【0048】
ベクターに本発明のプロモーターなどを挿入する方法としては、例えば、該プロモータ
ーなどを含むDNAを適当な制限酵素で切断し、ベクターの制限酵素部位又はマルチクロ
ーニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが挙げられる。
【0049】
4.本発明のベクターで形質転換されたオルガネラを有する細胞
上記3.で記載のように作製された形質転換用ベクターを宿主細胞に導入することで、形質転換されたオルガネラを有する細胞(以下「本発明の細胞」と称することがある)を作製することができる。
【0050】
前記宿主細胞としては、オルガネラを有する細胞であれば特に制限されず、例えば、植物細胞、動物細胞、微生物、昆虫細胞などが挙げられるが、植物細胞が好ましい。前記植物細胞の由来植物としては、特に制限はないが、単子葉植物又は双子葉植物が好ましい。単子葉植物としては、例えば、イネ科植物、ヒガンバナ科植物が挙げられるが、これらに限定されない。該イネ科植物としては、Oryza、Triticum、Hordeum、Secale、Saccharum、Sorghum、又はZeaに属する植物が挙げられ、具体的には、トウモロコシ、モロコシ、コムギ、イネ、エンバク、オオムギ、ライムギ、アワが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいイネ科植物は、トウモロコシ、コムギ及びイネである。該ヒガンバナ科植物としては、タマネギ、ネギ、ニンニクが挙げられるがこれらに限定されない。好ましいヒガンバナ科植物は、タマネギ、ネギである。
【0051】
双子葉植物としては、例えば、アブラナ科植物、マメ科植物、ナス科植物、ウリ科植物、ヒルガオ科植物、キク科植物が挙げられるが、これらに限定されない。アブラナ科植物としては、Raphanus、Brassica、Arabidopsis、Wasabia、又はCapsellaに属する植物が挙げられ、具体的には、ハクサイ、ナタネ、キャベツ、カリフラワー、大根、アブラナ、シロイヌナズナ、ワサビ、ナズナが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいアブラナ科植物は、シロイヌナズナ、ハクサイ及びナタネである。マメ科植物としては、例えば、ダイズ、アヅキ、インゲンマメ、ササゲが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいマメ科植物は、ダイズ、インゲンマメである。ナス科植物としては、例えば、タバコ、トマト、ペチュニア、ナス、バレイショが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいナス科植物は、タバコ、トマト及びペチュニアである。ウリ科植物としては、例えば、マクワウリ、キュウリ、メロン、スイカが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいウリ科植物は、マクワウリである。キク科植物としては、例えば、ヒマワリ、キク、タンポポが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいキク科植物は、ヒマワリである。ヒルガオ科植物としては、例えば、アサガオ、カンショ、ヒルガオが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいヒルガオ科植物は、カンショである。
【0052】
さらに、上記以外の植物の例としては、バラ科、シソ科、ユリ科、アカザ科、タデ科、ヒユ科、セリ科、サトイモ科などの植物が挙げられ、さらには、任意の樹木種、任意の果樹種、クワ科植物(例えば、ゴム)、及びアオイ科植物(例えば、綿花)が挙げられる。
【0053】
前記動物細胞としては、例えば、サルCOS-7細胞、サルVero細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、dhfr遺伝子欠損CHO細胞、マウスL細胞,マウスAtT-20細胞、マウスミエローマ細胞,ラットGH3細胞、ヒトFL細胞などの細胞株、ヒト及び他の哺乳動物のiPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞、種々の組織から調製した初代培養細胞などが挙げられる。前記微生物としては、例えば、酵母(例:サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22、AH22R-、NA87-11A、DKD-5D、20B-12、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913、NCYC2036、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)KM71等)、クラミドモナス(例:コナミドリムシ)などが挙げられる。前記昆虫細胞としては、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusianiの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusianiの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestrabrassicae由来の細胞、Estigmena acrea由来の細胞、蚕由来株化細胞(Bombyxmori N細胞;BmN細胞)などが挙げられる。
【0054】
本発明のベクターを宿主細胞へ導入して形質転換する方法としては、公知の方法、例えばパーティクルガン法(Svab Z., et al., Proc Natl acad Sci USA,87:8526-8530 (1990))、PEG法(Golds T., et al., Bio Technol., 11:95-97 (1992))、電気穿孔法などを好ましく用いることができる。例えば、パーティクルガン法は、ベクターを金またはタングステンの極めて細かい粒子にまぶし、該ベクターの付着した粒子を火薬または高圧ガスで宿主細胞に打ち込むことにより、ベクターを宿主細胞に導入することができる。オルガネラの定義及び種類については、上記1.で記載した通りであるが、色素体、ミトコンドリアが好ましく、中でも葉緑体、ミトコンドリアがより好ましい。また、Chuah J.A., et al., Scientific Reports, 5:7751 (2015)に記載されたように、オルガネラ移行シグナルペプチドと、細胞膜透過ペプチドとの複合体とを用いて、オルガネラへ本発明のベクターを導入することも好ましい。
【0055】
細胞中のオルガネラがヘテロプラズミックな状態である場合には、自体公知の方法により、ホモプラズミック個体を作製してもよい。上記自体公知の方法としては、例えば、2~3回選抜培養を繰り返すことでホモプラズミック個体を得る方法が挙げられる。また、WO 2013/077420 A1に記載されたように、オルガネラ移行性の致死タンパク質(例:バルナーゼ)をコードする核酸を核に導入し、かつ該タンパク質阻害剤をコードする核酸をオルガネラに導入し、該阻害剤をコードする核酸を有さないオルガネラのみを選択的に消去することで、ホモプラズミック化を促進することもできる。
【0056】
首尾よくオルガネラでの形質転換が達成され、また必要によりホモプラズミック化が達成された後には、本発明のベクターの導入によりオルガネラに組み込まれた外因性の核酸を除去してもよい。オルガネラに組み込まれた核酸を除去するための手段としては、Cre-loxP系やFLP-FRT系を用いる方法やトランスポゾンを用いる方法、内在性の相同組み換え活性を介した自然除去法などが挙げられる。
【0057】
本発明の細胞や、該細胞を有する植物体を培養することで、目的タンパク質を製造することができる。本明細書において、「植物体」は、植物個体、植物器官、植物組織、植物細胞、及び種子のいずれをも包含する。植物器官の例としては、根、葉、茎、及び花などが挙げられる。また、植物細胞には、培養細胞の他、植物体中の細胞も含まれる。さらに、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、根の切片、カルス、未熟胚、花粉等が含まれる。
【0058】
本発明の細胞の培養は、その種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。培養に使用される培地としては固形培地(例、寒天培地、アガロース培地、ゲランガム培地等)が好ましい。また、培地は、形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物、などを含有することが好ましい。本発明の細胞が植物細胞の場合、例えば、基礎培地としてN6培地、MS培地、LS培地、B5培地などが用いられる。培地には、適宜、植物生長物質(例、オーキシン類、サイトカイニン類等)などを添加してもよい。培地のpHは好ましくは約5~約8である。培養温度は、植物細胞の種類に応じて、通常約20℃~約35℃の範囲内で適宜選択することができる。例えば、イネカルスの場合、通常28~33℃、好ましくは30~33℃で培養することができる。
【0059】
動物細胞を培養する場合の培地としては、例えば、約5~約20%の胎児ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)〔Science,122,501 (1952)〕、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)〔Virology,8,396 (1959)〕、RPMI 1640培地〔The Journal of the American Medical Association,199,519 (1967)〕、199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine,73,1 (1950)〕などが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6~約8である。培養は、通常約30℃~約40℃で行なわれる。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。
【0060】
微生物を培養する場合の培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,77,4505 (1980)〕や0.5%カザミノ酸を含有するSD培地〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,81,5330 (1984)〕などが挙げられる。培地のpHは、好ましくは約5~約8である。培養は、通常約20℃~約35℃で行なわれる。必要に応じて、通気や撹拌を行ってもよい。
【0061】
昆虫細胞または昆虫を培養する場合の培地としては、例えばGrace’s Insect Medium〔Nature,195,788 (1962)〕に非働化した10%ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは、好ましくは約6.2~約6.4である。培養は、通常約27℃で行なわれる。必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。
【0062】
また、上記培地には、炭素源としての糖類や、ビタミン類、培地を固めるための支持体などが含まれていてもよい。糖類としては、例えば、グルコース、ショ糖などが挙げられる。糖類の添加量は、約1~10重量%、好ましくは約2~5重量%程度である。ビタミン類としては、例えば塩酸チアミン、塩酸ピリドキシン、ニコチン酸またはイノシトールなどが挙げられる。支持体としては、例えば寒天、ゲランガムまたはペーパーブリッジなどが挙げられる。また、上記培地には、アミノ酸(例:グリシンなど)、アデニン、ココナツウォーターなどが含まれていてもよい。
【0063】
本発明の細胞がカルスである場合には、自体公知の再分化法により、植物体に再分化させることができる。再分化法としては、イネの場合には、例えば、Toki S. et al., Plant Physiol. 100(3):1503-1507 (1992)に記載された方法、Christou P. et al., Bio/Technology 9:957-962 (1991)に記載された方法、Hiei Y. et al., Plant J., 6:271-282, (1994)に記載された方法などが挙げられる。
【0064】
一旦、このようにしてオルガネラが形質転換された細胞を含む植物体が得られれば、該植物体から有性生殖又は無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。
【0065】
上記のようにして培養した細胞から、自体公知の方法により有用成分を抽出及び精製することで、又は培養液中に目的タンパク質を分泌させ、該タンパク質を回収することで、目的タンパク質を単離することができる。あるいは、細胞に凍結及び乾燥処理を行い、そのまま利用してもよい。同様に、上記植物体は、植物体から目的タンパク質から、自体公知の方法により有用成分を抽出及び精製することで、該タンパク質を単離することができる。あるいは、植物体をそのまま利用してもよい。上記自体公知の方法として、例えば、植物体をミキサー若しくはすり鉢で破砕した後、水や生理食塩水などの中に浸漬して、破砕残留物を遠心または濾過により除去する方法が挙げられる。
【0066】
以下に、本発明を実施例により説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0067】
実施例1:オルガネラプロモーターの同定
<次世代シーケンスデータの解析>
次世代シーケンスデータの解析には、シロイヌナズナから抽出されたRNAを Ribo minus RNA-seqを用いて前処理し、illumina社のHiSeq 2000を用いて配列決定した非特許文献3のデータ(PRJNA213635)を用いた。シークエンスのクオリティチェックにはFastQCを用い
た。また、シロイヌナズナ葉緑体ゲノム (NC_000932.1) およびシロイヌナズナミトコンドリアゲノム(NC_001284.2)にBWAを用いてマッピングした。このマッピング情報から、igv(integrative genomics viewer)を用いて各領域におけるFPKM(reads per kilobase of exon per million mapped)を求め、FPKMの変化が大きい領域の前半部をオルガネラのプロモーター配列と推定した。
【0068】
<プラスミドの構築>
大腸菌および植物における葉緑体でのプロモーター活性の検定には、既知の強力なオルガネラプロモーターであるrrnでスペクチノマイシン耐性遺伝子(aadA)と赤色蛍光タンパク質(TagRFP)を、検定したいプロモーター配列で緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現させるpKKP23(
図2)を用いた。pKKP23は、各構成要素をPCR法で増幅し、 NEBuilder iFi
DNA Assembly Master Kit (NEB) を用いて、検定したいプロモーター毎に構築した。PCR法に用いたプライマーを表1に示す。
【0069】
【0070】
結果
Ribo minus RNA-seqを用いたシロイヌナズナRNAの解析である非特許文献3のデータを基に、FPKMから転写開始位置や発現量を推定した。また、FPKMが増加する地点の上流領域をオルガネラにおけるプロモーター領域と予測した。具体的には、(i)前記領域の配列情報からorfを予測し、(ii) orfの開始コドンに近い位置でFPKM値の増加が見られた場合は、開始コドンの前にSD(Shine-Dalgarno)配列になりそうな配列が存在するか確認し、SD配列が存在する場合には、該SD配列の付近までをプロモーター領域の候補とした。orfが見出されない場合、あるいはSD配列が見出されない場合には、FPKM値の変化した付近までの配列をプロモーター領域の候補とした。(iii)プロモーター配列中にorfが開始コドンを含む形で入らないようにするため、遺伝子間領域をプロモーター領域の候補とした。さらに、プロモーターの設計の行い易さやorfの存在の有無を指標にして、候補を絞った。その結果、発現量が異なると推定されるプロモーター配列として、表2に記載の12個を選別した。表中「予想される強度」は、領域前後でのFPKM値の変化量を示す。
【0071】
【0072】
実施例2:オルガネラプロモーターの活性解析
<大腸菌におけるプロモーター活性の測定>
大腸菌内における各プロモーターの活性の測定のため、各々検定したいプロモーター毎のpKKP23を作製し、大腸菌JM109株に形質転換した。種菌液には、抗生物質存在下で一晩振とう培養した培養液を用いた。この菌液を96穴プレートに分注した抗生物質含有LB培地に植菌し、37℃で回転培養を行った。当該状況下での、それぞれの大腸菌株の増殖曲線はEPOCH2 (BioTek)で測定した。また、植菌後各時間ごとにプレートリーダーでGFPおよびRFPの蛍光値を測定した。プレートリーダーには、SectraMax Paradigm (Moleculu Devises)またはGloMax (Promega)を用いた。GFP/RFPを各プロモーターの活性値として算出し、最も高い活性を示したプロモーター配列との相対値を算出した。結果を
図3に示す。
【0073】
<植物におけるプロモーター活性の測定>
植物の葉緑体内における各プロモーターの活性の測定のため、大腸菌におけるプロモーター活性の測定に用いたプラスミドをそれぞれ使用する。植物としてはタバコ(Nicotiana tabacum cv. Petit Havana)の幼葉を用いて、Heptaアダプター(Bio-Rad)を装着したPDS-1000/He (Bio-Rad)によって、DNAコートした金粒子をパーティクルガン法により導入する。装置の使用法は、Bio-Rad社のプロトコルを、形質転換植物体の選抜には、Pal MaligaとTarinee Tungsuchat-Hung(Methods Mol Biol. 1132:205-220, (2014))に記載の方法に従う。葉緑体が形質転換された個体は、スペクチノマイシン500 mg/Lにより選抜し、幼葉中での全タンパク質当たりのGFP量を各プロモーターの活性値として算出する。
【0074】
結果
大腸菌はオルガネラと同様、原核生物型の転写翻訳機構を持つため、これらの領域のプロモーター活性を大腸菌における各タンパク質の発現量から確認した。推定プロモーター配列の下流にGFPを挿入したところ、プロモーターの強度と相関して、GFPの発現が見られた。このことから、プロモーターがオルガネラ内で機能することが判明した。また、意外なことに、P04、P11、P12については、ORFの予測結果に基づかず、RNA-seqのデータのみに基づいてプロモーター領域を設定したにも関わらず、プロモーター活性を有することが判明した。
本発明によれば、オルガネラで機能し、所望の活性強度を有するプロモーターを大規模に選別することができる。このような選別により得られたプロモーターを用いてオルガネラを形質転換することで、最大の発現量では宿主に悪影響を与えてしまうような目的タンパク質であっても、発現量を安定的に、かつ十分量発現する細胞が作製され得る。