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  • 特開-歯車装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177309
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】歯車装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/06 20060101AFI20241212BHJP
   F16H 55/08 20060101ALI20241212BHJP
   F16H 1/32 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
F16H55/06
F16H55/08 Z
F16H1/32 A
F16H1/32 B
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024172851
(22)【出願日】2024-10-02
(62)【分割の表示】P 2020104763の分割
【原出願日】2020-06-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】山本 章
(72)【発明者】
【氏名】田村 光拡
(72)【発明者】
【氏名】白水 健次
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真大
(72)【発明者】
【氏名】的場 年昭
(57)【要約】
【課題】歯車素材に炭素繊維強化樹脂を好適に適用する。
【解決手段】歯車装置(1)は、外歯歯車(12)と、外歯歯車(12)と噛合う第1内歯歯車(22)及び第2内歯歯車(23)とを備える。外歯歯車(12)は、金属により構成される。第1内歯歯車(22)及び第2内歯歯車(23)は、炭素繊維強化樹脂により構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外歯歯車と、前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、を備えた歯車装置であって、
前記外歯歯車は、金属により構成され、
前記内歯歯車は、炭素繊維強化樹脂により構成される、
歯車装置。
【請求項2】
前記内歯歯車は、炭素繊維が歯面に露出している、
請求項1に記載の歯車装置。
【請求項3】
前記内歯歯車は、炭素繊維強化樹脂を固めて形成された流体固化部と、切削加工された切削加工部と、を有し、
前記切削加工部には歯が含まれる、
請求項2に記載の歯車装置。
【請求項4】
入力軸を備え、
前記入力軸に入力される入力回転数が2000rpmのときに、前記外歯歯車と前記内歯歯車の相対滑り速度が1000mm/s以下である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の歯車装置。
【請求項5】
当該歯車装置は、撓み噛合い式歯車装置または偏心揺動型歯車装置である、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の歯車装置。
【請求項6】
外歯歯車と、前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、を備えた歯車装置であって、
前記内歯歯車は、金属により構成され、
前記外歯歯車は、炭素繊維強化樹脂により構成される、
歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、主に軽量化の目的で、歯車素材に樹脂材料を適用する事例が増えてきている(例えば、非特許文献1参照)。
歯車を樹脂材料で構成する場合、より高強度化が図れる繊維強化樹脂、なかでも炭素繊維を補強繊維とした炭素繊維強化樹脂の採用が望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】橋本康行,外3名,「高強度樹脂ギヤ用材料の開発」,新神戸テクニカルレポート,新神戸電機株式会社,2006年2月,No.16,p10-15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記非特許文献1に記載のように、外接噛合する歯車に単純に炭素繊維強化樹脂を適用した場合、歯面に露出した炭素繊維が相手方歯車を攻撃するなどして、樹脂歯車自身と相手方歯車とが早期に損傷してしまう。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、歯車素材に炭素繊維強化樹脂を好適に適用することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、外歯歯車と、前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、を備えた歯車装置であって、
前記外歯歯車は、金属により構成され、
前記内歯歯車は、炭素繊維強化樹脂により構成される。
【0007】
また本発明は、外歯歯車と、前記外歯歯車と噛合う内歯歯車と、を備えた歯車装置であって、
前記内歯歯車は、金属により構成され、
前記外歯歯車は、炭素繊維強化樹脂により構成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、歯車素材に炭素繊維強化樹脂材料を好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る歯車装置を示す断面図である。
図2】実施形態の変形例に係る歯車装置を示す断面図である。
図3図2のA-A線での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
[歯車装置の構成]
図1は、本実施形態に係る歯車装置1を示す断面図である。
この図に示すように、歯車装置1は、筒型の撓み噛合い式歯車装置であり、起振体軸10、外歯歯車12、第1内歯歯車22、第2内歯歯車23、起振体軸受15を備える。さらに、歯車装置1は、ケーシング24、第1カバー26、第2カバー27、入力軸受31、32及び主軸受33を備える。
【0012】
起振体軸10は、回転軸O1を中心に回転する中空筒状の軸であり、回転軸O1に垂直な断面の外形が非円形(例えば楕円状)の起振体10Aと、起振体10Aの軸方向の両側に設けられた軸部10B、10Cとを有する。楕円状は、幾何学的に厳密な楕円に限定されるものではなく、略楕円を含む。軸部10B、10Cは、回転軸O1に垂直な断面の外形が円形の軸である。起振体軸10には、モータ等の駆動源(図示省略)が連結されて駆動力が入力される。
なお、以下の説明では、回転軸O1に沿った方向を「軸方向」、回転軸O1に垂直な方向を「径方向」、回転軸O1を中心とする回転方向を「周方向」という。また、軸方向のうち、減速された回転運動が出力される側(図中の左側)を「出力側」といい、出力側とは反対側(図中の右側)を「反出力側」という。
【0013】
外歯歯車12は、可撓性を有するとともに回転軸O1を中心とする円筒状の部材であり、外周に歯が設けられている。
【0014】
起振体軸受15は、起振体10Aと外歯歯車12との間に配置される。起振体軸受15は、複数の転動体(コロ)15Aと、複数の転動体15Aを保持する保持器15Cとを有する。複数の転動体15Aは、起振体10Aの外周面と外歯歯車12の内周面とを転動面(軌道面とも言う)として転動する。なお、起振体軸受15は、起振体10Aとは別体の内輪、外歯歯車12とは別体の外輪、又はこれら両方を有してもよい。
【0015】
外歯歯車12と、起振体軸受15との軸方向の両側には、これらに当接して、これらの軸方向の移動を規制する規制部材としてのスペーサリング36、37が設けられている。
【0016】
第1内歯歯車22と第2内歯歯車23とは、それぞれ内周部に歯22g、23gを有する。歯22g、23gは、軸方向に並び、一方が、外歯歯車12の軸方向の中央より片側の歯に噛合し、他方が、外歯歯車12の軸方向の中央よりもう一方の片側の歯に噛合する。
【0017】
第1内歯歯車22の外周部はケーシング24と共に歯車装置1の内部を覆うケーシングとして機能する。第1内歯歯車22の反出力側には、第1カバー26と連結されるために張り出した部分を有し、この部分に第1カバー26と連結するための連結部材(ボルト等、以下同様)51が螺合される連結用孔22h3が設けられている。さらに、第1内歯歯車22は、外周部に連結部材53を介してケーシング24と連結するための連結用孔22h1と、ケーシング24とともに共締めにより外部の支持部材と連結するための連結用孔22h2とが設けられている。連結用孔22h1~22h3には、連結部材が螺合する場合には雌螺子が形成され、連結部材が通される場合には雌螺子が無くて良い。
【0018】
第2内歯歯車23は、駆動対象の外部部材と連結するための連結用孔23h1と、第2カバー27と連結するための連結用孔23h2とを有する。
【0019】
ケーシング24は、連結部材53を介して第1内歯歯車22と連結される。ケーシング24は、第1内歯歯車22ととともに、第1内歯歯車22及び第2内歯歯車23の歯22g、23gと外歯歯車12とが噛合する部分の径方向外側を覆う。ケーシング24は、連結部材53が螺合する連結用孔24h1と、第1内歯歯車22の連結用孔22h2と連通する連結用孔24h2とを有する。
【0020】
第1カバー26は、起振体軸10の反出力側における外周部を覆う。第1カバー26は、第1内歯歯車22の連結用孔22h3と連通する連結用孔26h1を有し、連結部材51を介して第1内歯歯車22と連結される。
【0021】
第2カバー27は、起振体軸10の出力側における外周部を覆う。第2カバー27は、第2内歯歯車23の連結用孔23h1、23h2それぞれと連通する連結用孔27h1、27h2を有する。連結用孔27h1は、駆動対象の外部部材と第2内歯歯車23との間で第2カバー27を共締めするための貫通孔である。連結用孔27h2は、連結部材52の座面を有する貫通孔であり、挿通された連結部材52が第2内歯歯車23の連結用孔23h2に螺合することで、第2カバー27が単体で第2内歯歯車23と連結される。
【0022】
入力軸受31は、起振体軸10の軸部10Bと第1カバー26との間に配置される。第1カバー26は、入力軸受31を介して起振体軸10を回転自在に支持する。
入力軸受32は、起振体軸10の軸部10Cと第2カバー27との間に配置される。第2カバー27は、入力軸受32を介して起振体軸10を回転自在に支持する。
【0023】
主軸受33は、内輪、外輪及び転動体を有し、第2内歯歯車23とケーシング24との間に配置される。ケーシング24は、主軸受33を介して第2内歯歯車23を回転自在に支持する。図1では、主軸受33として玉軸受を示しているが、ローラ軸受、クロスローラ軸受、アンギュラ玉軸受、テーパ軸受等、どのような種類の軸受であってもよい。なお、主軸受33の外輪は、ケーシング24と一体的に構成されてもよい。
【0024】
[各部材の素材(歯車以外)]
歯車以外の各部材の素材は、特に限定されるものではないが、本実施形態では以下のように構成されている。
ケーシング24、第1カバー26及び第2カバー27は、樹脂材料から構成されている。樹脂材料には、樹脂単体、あるいは、補強繊維を含有した樹脂を適用でき、例えばPEEK(Poly Ether Ether Ketone)材やPOM(Polyacetal又はPolyoxymethylene等)など種々の樹脂材料を採用できる。補強繊維を含有した樹脂としては、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)などの複合材料、樹脂とその他の別素材との複合材料、ベーク材(紙ベーク材や布ベーク材等)などを適用することができる。これらの部材を樹脂製とすることにより、歯車装置1の低コスト化と軽量化を図ることができる。
【0025】
起振体軸10、スペーサリング36、37は、鉄鋼素材等の金属素材から構成される。特に制限されないが、より具体的には、起振体軸10が、クロムモリブデン鋼などの鉄鋼素材から構成される。スペーサリング36、37は、高炭素クロム軸受鋼鋼材等の鉄鋼素材から構成される。
【0026】
[外歯歯車と内歯歯車の素材]
外歯歯車12は、ニッケルクロムモリブデン鋼などの鉄鋼素材(金属材料)から構成される。
一方、第1内歯歯車22と第2内歯歯車23は、ベース樹脂に補強繊維として炭素繊維を含有させた炭素繊維強化樹脂材料により構成される。ベース樹脂には、例えばPEEK(Poly Ether Ether Ketone)材やPOM(Polyacetal又はPolyoxymethylene等)など、種々の樹脂材料を採用できる。樹脂材料は、含有される補強繊維が布状に結び付いてない繊維である場合、樹脂材料を用いて射出成形又は圧縮成形が可能である。樹脂材料に含有される素材が布状又は片状に結びついた繊維であれば、樹脂材料を用いて圧縮成形が可能である。なお、第1内歯歯車22及び第2内歯歯車23の少なくとも一方が炭素繊維強化樹脂材料により構成されていればよい。
【0027】
本実施形態では、上述のとおり、外歯歯車12が金属製であるのに対し、これと噛み合う内歯歯車(第1内歯歯車22及び第2内歯歯車23)が炭素繊維強化樹脂製である。
従来においては、本実施形態のように歯車素材に炭素繊維強化樹脂を採用するのは困難というのが当業者の常識であった。これは、歯面に露出した炭素繊維が相手方歯車を攻撃するなどして、樹脂歯車自身と相手方歯車とが早期に損傷してしまうためである。
【0028】
この点につき、本発明者らは、歯車の技術分野における上記常識を覆し、上述の不具合が発生するのは外周に歯が突出した外歯歯車同士の噛合い(外接噛合)の場合であり、外歯歯車と内歯歯車の噛合い(内接噛合)の場合には、炭素繊維強化樹脂製の歯車を使用しても早期損傷を抑制できることを見出した。
これは、内接噛合の場合には外接噛合よりも歯面圧と滑り速度(外歯歯車と内歯歯車の相対滑り速度)が小さくなるためと考えられる。
【0029】
内接噛合では、凸状の歯と凹状の歯とが噛合うため、凸状の歯同士が噛合う外接噛合に比べ、歯面の接触面積が増えて歯面圧は低下する。
また、内接噛合では、噛合う歯車同士が同方向に回転するため、外接噛合に比べて滑り速度も小さくなる。発明者らが種々の歯車装置タイプを検証したところ、内接噛合では滑り速度が概ね1000mm/s以下(入力回転数:約2000rpmのとき)のときに良好な結果が得られた。なお、上述の入力回転数の数値「2000rpm」は、製品として使用されるときの入力回転数を限定するものではない。
【0030】
第2内歯歯車23は、溶融された樹脂材料(すなわち流体材料)を固めて外面が形成された流体固化部と、外面が切削加工された切削加工部とを有する。外面とは、第2内歯歯車23を単体で見たときに、空気と触れる面を意味する。切削加工は、研磨加工を含む概念である。切削加工部には、工具のツールマーク(工具跡)が付加される。一方、流体固化部には、上記ツールマークが現れない。切削加工部と流体固化部とは、上記ツールマークの有無により判別できる。さらに、流体固化部が射出成形により形成される場合、流体固化部のいずれかの箇所には、溶融した樹脂材料が型内に充填される際に通過するゲート部の形状が含まれる。
【0031】
第2内歯歯車23の切削加工部には、歯23gが含まれる。歯23gの切削加工の手法は特に限定されないが、例えばギヤシェイパー、スカイピングカッター、ホブ等による歯の形成加工が含まれ、また砥石による研磨加工であってもよい。この切削加工により歯23gの歯面に炭素繊維が露出してもよい。なお、切削加工を行うことなく、歯面に炭素繊維が露出してもよい。
切削加工部は、高い加工精度が得られる一方、追加の工程分だけコストが増加するため、歯23gのみを切削加工部とするのが好ましい。
【0032】
第2内歯歯車23の流体固化部には、切削加工部以外の部分が含まれる。
流体固化部は、例えば射出成形により形成されるが、繊維強化型樹脂の圧縮成形により形成されてもよい。流体固化部の外形は、型に沿った形状となる。
【0033】
第1内歯歯車22は、第2内歯歯車23と同様に、溶融された樹脂材料を固めて外面が形成された流体固化部と、外面が切削加工された切削加工部とを有する。
第1内歯歯車22の切削加工部には、歯22gが含まれる。切削加工により歯22gの歯面に炭素繊維が露出してもよい。なお、切削加工を行うことなく、歯面に炭素繊維が露出してもよい。
第1内歯歯車22の流体固化部には、切削加工部以外の部分が含まれる。
【0034】
[歯車装置の動作]
モータ等の駆動源により起振体軸10の回転駆動が行われると、起振体10Aの運動が外歯歯車12に伝わる。このとき、外歯歯車12は、起振体10Aの外周面に沿った形状に規制され、軸方向から見て、長軸部分と短軸部分とを有する楕円形状に撓んでいる。さらに、外歯歯車12は、固定された第1内歯歯車22と長軸部分で噛合っている。このため、外歯歯車12は起振体10Aと同じ回転速度で回転することはなく、外歯歯車12の内側で起振体10Aが相対的に回転する。そして、この相対的な回転に伴って、外歯歯車12は長軸位置と短軸位置とが周方向に移動するように撓み変形する。この変形の周期は、起振体軸10の回転周期に比例する。
【0035】
外歯歯車12が撓み変形する際、その長軸位置が移動することで、外歯歯車12と第1内歯歯車22との噛み合う位置が回転方向に変化する。ここで、例えば、外歯歯車12の歯数が100で、第1内歯歯車22の歯数が102だとすると、噛み合う位置が一周するごとに、外歯歯車12と第1内歯歯車22との噛み合う歯がずれていき、これにより外歯歯車12が回転(自転)する。上記の歯数であれば、起振体軸10の回転運動は減速比100:2で減速されて外歯歯車12に伝達される。
【0036】
一方、外歯歯車12は第2内歯歯車23とも噛合っているため、起振体軸10の回転によって外歯歯車12と第2内歯歯車23との噛み合う位置も回転方向に変化する。ここで、第2内歯歯車23の歯数と外歯歯車12の歯数とが同数であるとすると、外歯歯車12と第2内歯歯車23とは相対的に回転せず、外歯歯車12の回転運動が減速比1:1で第2内歯歯車23へ伝達される。これらによって、起振体軸10の回転運動が減速比100:2で減速されて、第2内歯歯車23及び第2カバー27へ伝達され、この回転運動が駆動対象の外部部材に出力される。
【0037】
このとき、炭素繊維強化樹脂製の内歯歯車(第1内歯歯車22、第2内歯歯車23)は、金属製の外歯歯車12と内接噛合している。
そのため、炭素繊維強化樹脂製の歯車が外接噛合であれば、当該歯車の歯面に露出した炭素繊維が相手方歯車を攻撃して損傷を招来し得るところ、本実施形態では炭素繊維強化樹脂製の内歯歯車が内接噛合しているため、歯面圧及び滑り速度を低下させることができ、歯車の損傷を抑制できる。
【0038】
[本実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態によれば、外歯歯車12が金属により構成され、内歯歯車(第1内歯歯車22、第2内歯歯車23)が炭素繊維強化樹脂により構成される。つまり、炭素繊維強化樹脂製の内歯歯車が金属製の外歯歯車12と内接噛合している。
これにより、炭素繊維強化樹脂製の歯車を外接噛合させていた従来に比べ、歯面圧及び滑り速度を低下させることができ、歯車の損傷を抑制できる。
したがって、歯車素材に炭素繊維強化樹脂を好適に適用することができる。ひいては、歯車の軽量化、高強度化及び長寿命化を好適に図ることができる。
また、本実施形態においては、第1内歯歯車22および第2内歯歯車23(の中間体)を射出成型により形成した後、歯部を切削加工により形成しているので、製造コストを低減しつつ、(射出成型のみで歯部を形成した場合に比べて)歯車精度を向上させることができる。また、歯部の切削加工により炭素繊維が歯面に露出しても、歯面圧及び滑り速度が小さいため、歯車の損傷を抑制できる。
また、本実施形態においては、歯車装置として撓み噛合い式歯車装置を採用することにより、入力回転数が2000rpmのときに、外歯歯車と内歯歯車の相対滑り速度が1000mm/s以下である構成を実現している。
【0039】
[変形例]
続いて、本発明を偏心揺動型歯車装置に適用した例について説明する。
図2は、本変形例に係る歯車装置2を示す断面図であり、図3は、図2のA-A線での断面図である。
【0040】
図2及び図3に示すように、本変形例に係る歯車装置2は、偏心揺動型歯車装置であり、入力軸61と、外歯歯車62と、内歯歯車63と、第1キャリヤ64及び第2キャリヤ65と、ケーシング66と、主軸受71、72と、内ピン74と、キャリヤピン76とを備える。
入力軸61は、複数(本変形例では2個)の偏心部61aを有する。入力軸61は、その反出力側が入力軸軸受67を介して第2カバー78に支持され、その反対の出力側が入力軸軸受67を介して第1キャリヤ64に支持されている。
【0041】
外歯歯車62は、複数の偏心部61aの各々に対応して個別に設けられ、偏心軸受68を介して対応する偏心部61aに回転自在に支持される。外歯歯車62には、その軸心からオフセットされた位置に、キャリヤピン76が挿通される3つのキャリヤピン孔62aと、内ピン74が挿通される9つの内ピン孔62bとが形成されている。外歯歯車62の外周には波形の歯が形成されている。
また、外歯歯車62は、上記実施形態の外歯歯車12と同様に、金属により構成される。
【0042】
内歯歯車63は、ケーシング66の内周部に一体に形成された内歯63aを有し、当該内歯63aが外歯歯車62の歯と噛み合う。
また、内歯歯車63は、上記実施形態の内歯歯車と同様に、炭素繊維強化樹脂により構成される。内歯歯車63は、上記実施形態と同様に、射出成型後に、切削加工により歯部が形成されてもよく、歯面に炭素繊維が露出してもよい。
【0043】
第1キャリヤ64は外歯歯車62の出力側の側部に配置され、第2キャリヤ65は外歯歯車62の反出力側の側部に配置される。第1キャリヤ64及び第2キャリヤ65は、第1主軸受71、第2主軸受72を介してケーシング66に回転自在に支持されている。第1キャリヤ64と第2キャリヤ65は、キャリヤピン76及び内ピン74を介して連結される。キャリヤピン76及び内ピン74は、外歯歯車62の軸芯から径方向にオフセットした位置において、複数の外歯歯車62を軸方向に貫通する。
【0044】
ケーシング66は、その内周部に内歯歯車63を有する。ケーシング66には、その出力側をカバーする第1カバー77と、反出力側をカバーする第2カバー78とが固定される。
主軸受71は、第1キャリヤ64とケーシング66の間に配置され、主軸受72は、第2キャリヤ65とケーシング66の間に配置される。
【0045】
内ピン74は、内ピン孔62bに隙間を有した状態で挿通され、その一端が第1キャリヤ64に、他端が第2キャリヤ65にそれぞれ嵌入されている。
キャリヤピン76は、キャリヤピン孔62aに隙間を有した状態で挿通され、その一端が第1キャリヤ64に、他端が第2キャリヤ65にそれぞれ嵌入されている。キャリヤピン76は、管状のスペーサ79に環囲されている。キャリヤピン76は、第1キャリヤ64と第2キャリヤ65の連結のみに寄与する連結部材として機能する。
なお、キャリヤピン76及び内ピン74は、これらの一部がキャリヤ64、65と一体に形成されてもよい。
【0046】
このような構成により、歯車装置2では、入力軸61に回転動力が入力されると、入力軸61の偏心部61aが回転中心線周りに回転し、その偏心部61aにより外歯歯車62が揺動する。このとき、外歯歯車62は、自らの軸芯が入力軸61の回転中心線周りを回転するように揺動する。外歯歯車62が揺動すると、外歯歯車62と内歯歯車63の噛合位置が順次ずれる。この結果、入力軸61が一回転する毎に、外歯歯車62と内歯歯車63との歯数差に相当する分、外歯歯車62及び内歯歯車63の一方の自転が発生する。本変形例においては、外歯歯車62が自転し、第1キャリヤ64から減速回転が出力される。
【0047】
本変形例においても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
すなわち、炭素繊維強化樹脂製の内歯歯車が金属製の外歯歯車12と内接噛合しているので、従来に比べて歯面圧及び滑り速度を低下させることができ、歯車の損傷を抑制できる。したがって、歯車素材に炭素繊維強化樹脂を好適に適用することができる。ひいては、歯車の軽量化、高強度化及び長寿命化を好適に図ることができる。
本変形例の歯車装置2においても、滑り速度(外歯歯車62と内歯歯車63の相対滑り速度)が概ね1000mm/s以下(入力軸61の入力回転数:約2000rpm)のときに良好な結果が得られた。なお、上述の入力回転数の数値「2000rpm」は、製品として使用されるときの入力回転数を限定するものではない。つまり、本変形例においては、歯車装置として偏心揺動型歯車装置を採用することにより、入力回転数が2000rpmのときに、外歯歯車と内歯歯車の相対滑り速度が1000mm/s以下である構成を実現している。
【0048】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態及びその変形例に限られない。
例えば、上記実施形態及びその変形例では、外歯歯車が金属により構成され、内歯歯車が炭素繊維強化樹脂により構成されることとした。しかし、内歯歯車(の少なくとも1つ)が金属により構成され、外歯歯車が炭素繊維強化樹脂により構成されることとしてもよい。
【0049】
また、上記実施形態及びその変形例では、本発明に係る歯車装置を筒型の撓み噛合い式歯車装置や、センタークランク式の偏心揺動型歯車装置に適用した例について説明した。しかし、本発明に係る歯車装置は、内接噛合する歯車を備えるものに広く適用可能であり、筒型以外(例えば所謂カップ型又はシルクハット型)の撓み噛合い式歯車装置や、センタークランク式以外(例えば振り分け式)の偏心揺動型歯車装置にも適用可能であるし、単純遊星歯車装置などの他の形式の歯車装置にも好適に適用可能である。
【0050】
その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0051】
1、2 歯車装置
10 起振体軸
10A 起振体
12 外歯歯車
22 第1内歯歯車
22g 歯
23 第2内歯歯車
23g 歯
61 入力軸
62 外歯歯車
63 内歯歯車
63a 内歯
64 第1キャリヤ
65 第2キャリヤ
74 内ピン
76 キャリヤピン
O1 回転軸
図1
図2
図3