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特開2024-177312反射防止部材、並びに、これを備える偏光板、画像表示装置及び反射防止性物品
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  • 特開-反射防止部材、並びに、これを備える偏光板、画像表示装置及び反射防止性物品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177312
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】反射防止部材、並びに、これを備える偏光板、画像表示装置及び反射防止性物品
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/111 20150101AFI20241212BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20241212BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G02B1/111
G02B5/30
G09F9/00 313
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024172969
(22)【出願日】2024-10-02
(62)【分割の表示】P 2020002811の分割
【原出願日】2020-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2019002904
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019067731
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小堺 達也
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 智之
(72)【発明者】
【氏名】竹井 理哲
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 治
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 圭介
(72)【発明者】
【氏名】唯木 隆伸
(72)【発明者】
【氏名】水野 基央
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 淳司
(72)【発明者】
【氏名】岩原 恵太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔
(57)【要約】
【課題】低い反射率を有するとともに、耐擦傷性を向上させた反射防止部材、及び、該反射防止部材を備える画像表示装置を提供する。
【解決手段】透明基材110上に、低屈折率層130を備え、該低屈折率層130が、バインダー樹脂と、シリカ粒子132,134と、を含み、低屈折率層130の表面領域をX線光電子分光法により分析して得られる、前記シリカ粒子に帰属するSi元素の比率が10.0原子%以上18.0原子%以下であり、かつ、前記Si元素の比率を100原子%と換算したときのC元素の比率が180原子%以上500原子%以下である反射防止部材100。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に、低屈折率層を備える反射防止部材であって、
前記低屈折率層が、バインダー樹脂と、中空シリカ粒子と、非中空シリカ粒子と、を含み、
前記中空シリカ粒子の平均粒子径が50nm以上100nm以下であり、前記非中空シリカ粒子の平均粒子径が5nm以上20nm以下であり、
前記低屈折率層の前記透明基材と反対側の表面から深さ10nmまでの領域をX線光電子分光法により分析して得られる、全元素に対する前記シリカ粒子に帰属するSi元素の比率が10.0atomic%以上18.0atomic%以下であり、かつ、前記Si元素の比率を100atomic%と換算したときのC元素の比率が180atomic%以上500atomic%以下であり、
前記低屈折率層の厚さを三等分し、前記透明基材側から順に、第一領域、第二領域及び第三領域と定義した際に、前記第一領域内の任意の箇所及び前記第二領域の任意の箇所について、全元素に対する前記シリカ粒子に帰属するSi元素の比率が10.0原子%以上18.0原子%以下、かつ、前記Si元素の比率を100atomic%と換算したときのC元素の比率が180原子%以上500原子%以下を満たす、反射防止部材。
【請求項2】
前記低屈折率層の前記透明基材と反対側の表面から深さ10nmまでの領域における、X線光電子分光法により分析して得られる全元素に対するF元素の比率が0.5atomic%以下である請求項1に記載の反射防止部材。
【請求項3】
前記低屈折率層表面の最大高さ粗さをRz、前記低屈折率層表面の算術平均粗さをRaと定義した際に、Rzが110nm以下であり、Raが15nm以下であり、Rz/Raが22.0以下である請求項1又は2に記載の反射防止部材。
【請求項4】
前記中空シリカ粒子の平均粒子径に対する前記非中空シリカ粒子の平均粒子径の比が、0.29以下である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の反射防止部材。
【請求項5】
前記中空シリカ粒子及び前記非中空シリカ粒子の表面が、シランカップリング剤で被覆されている請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の反射防止部材。
【請求項6】
ナノインデンテーション法による前記低屈折率層のインデンテーション硬さが480MPa以上である請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の反射防止部材。
【請求項7】
ナノインデンテーション法に依る前記低屈折率層の復元率が80%以上である請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の反射防止部材。
【請求項8】
Rz/Raが10.66以下である、請求項3に記載の反射防止部材。
【請求項9】
透明保護板、偏光子及び透明保護板をこの順に有する偏光板であって、前記2枚の透明保護板のうちの少なくとも一方が、請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の反射防止部材である、偏光板。
【請求項10】
表示素子上に、請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の反射防止部材を有してなる画像表示装置。
【請求項11】
部材上に、請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の反射防止部材を有してなる、反射防止性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止部材、並びに、これを備える偏光板、画像表示装置及び反射防止性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置、有機EL表示装置、マイクロLED表示装置等の表示装置、ショーケース等では、視認性を良好にするために、装置表面に反射防止部材を設けることが知られている。近年、テレビなどの他に、カーナビなどの車載用ディスプレイ、タブレット、スマートフォン等、使用者が直接画面に手に触れて操作するタッチパネル式の画像表示装置が普及しており、これらにも反射防止部材が設けられる。
【0003】
反射防止部材を作製する方法としては、透明基材に設けられたハードコート層上に、反射防止層として屈折率の異なる無機薄膜をスパッタリング法などのドライ成膜により積層する方法や、ハードコート層上に微粒子を含有する樹脂をコーティングして反射防止層を形成する方法などが知られている。一般に、樹脂層を形成した反射防止部材は、無機薄膜を形成する場合に比べて、斜め反射色相の変化が小さく、化学的安定性(特にアルカリ耐性)に優れ、安価であるという利点がある。一方で、樹脂層を形成した反射防止部材は、無機薄膜を形成する場合に比べて、耐擦傷性などの機械的特性に劣り、反射率も高くなる傾向がある。
【0004】
このような課題に対し、例えば特許文献1及び特許文献2では、低屈折率層にシリカなどの中空状無機ナノ粒子とソリッド状無機ナノ粒子を含有させている。更に、ソリッド状無機ナノ粒子をハードコートとの界面側に偏在させるとともに、中空状無機ナノ粒子を該界面と反対側に偏在させている。こうすることにより、高い耐スクラッチ性(耐擦傷性)と低反射率とを両立させている。
【0005】
特許文献3では、低屈折率層中の反応性シリカ微粒子をハードコート層側の界面及び/又はハードコート層と反対側の界面に偏在させ、中空状シリカ微粒子を低屈折率層中で密に充填させた状態にすることにより、表面硬度(耐擦傷性)を向上させることが開示されている。
【0006】
特許文献4では、反応性シラン類を主成分としたバインダー中に、中空シリカ微粒子と微細シリカ粒子とを分散させた反射防止膜を光学基材上に形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2018-533068号公報
【特許文献2】特表2018-533762号公報
【特許文献3】特許第6011527号公報
【特許文献4】特開2007-078711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献のように低屈折率層にシリカ微粒子を添加しても、樹脂層を形成した反射防止部材は耐スチールウール性に限界があり、スパッタリング等の公知のドライ成膜による無機薄膜に比べて耐擦傷性が悪いという課題が依然として残っていた。また、特にタッチパネル式の画像表示装置に樹脂層を形成した反射防止部材を適用すると、使用者の指で操作するだけで表面に傷ができる場合があることが問題となっていた。
【0009】
また、特許文献4のように、反応性シラン類からなるバインダーを用いて反射防止膜を形成した場合は、十分な耐擦傷性を得ることができないことが問題となっていた。
【0010】
本願発明は上記課題に鑑み、低い反射率を有するとともに、耐擦傷性を向上させた反射防止部材、反射防止部材、並びに、これを備える偏光板、画像表示装置及び反射防止性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、微細な固形物(例えば砂)のみや油分のみで樹脂層表面を擦っても傷が視認できなくても、固形物を含む油分が付着したもので樹脂層表面を擦ることにより樹脂層表面に傷が付くことを見出した。これは、例えば、化粧品及び食品等に含まれる油分と、大気中に含まれる砂とが付着した指で使用者がタッチパネル式の画像表示装置を操作することに相当する。
【0012】
本発明者らが検討した結果、上述の傷が、主として、低屈折率層に含まれる中空シリカ粒子の一部分が欠けたり、中空シリカ粒子が脱落することによって発生することを見出した。この原因として、低屈折率層の表面に形成された中空シリカ粒子に起因する凹凸が大きいこととが考えられた。すなわち、砂等の固形物を含む油分が付着した指で低屈折率層表面を擦ると、油分がバインダーとなり固形分が指に付着したまま、指が低屈折率層表面を移動する。このとき、低屈折率層表面の凹部に固形物の一部(例えば砂の尖った箇所)が入り込む現象、及び、凹部に入り込んだ固形物が指とともに凹部を抜けて凸部(中空シリカ粒子)を乗り越える現象が生じやすくなり、その際に凸部(中空シリカ粒子)に大きな力がかかるため、中空シリカ粒子が損傷したり脱落すると考えられた。また、凹部に位置する樹脂自体も固形物による摩擦で傷が付いたり、損傷により中空シリカ粒子がより脱落しやすくなったと考えられた。
そこで、本発明者らは上記の問題を解決する手法を鋭意研究し、低屈折率層表面を平滑であり、低反射率を有し、更に高い耐擦傷性などの表面耐性に優れる反射防止部材を得ることができ、本発明を完成させた。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の[1]~[12]を提供する。
[1]透明基材上に、低屈折率層を備える反射防止部材であって、該低屈折率層が、バインダー樹脂と、シリカ粒子と、を含み、前記低屈折率層の表面領域をX線光電子分光法により分析して得られる、前記シリカ粒子に帰属するSi元素の比率が10.0原子%以上18.0原子%以下であり、かつ、前記Si元素の比率を100原子%と換算したときのC元素の比率が180原子%以上500原子%以下である反射防止部材。
[2]前記シリカ粒子が、中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子である[1]に記載の反射防止部材。
[3]前記中空シリカ粒子の平均粒子径に対する前記非中空シリカ粒子の平均粒子径の比が、0.29以下である[2]に記載の反射防止部材。
[4]前記中空シリカ粒子の平均粒子径が50nm以上100nm以下であり、前記非中空シリカ粒子の平均粒子径が5nm以上20nm以下である[2]または[3]に記載の反射防止部材。
[5]前記中空シリカ粒子及び前記非中空シリカ粒子の表面が、シランカップリング剤で被覆されている[2]~[4]のいずれかに記載の反射防止部材。
[6]前記低屈折率層の表面領域が、フッ素原子を実質的に含有しない、[1]に記載の反射防止部材。
[7]ナノインデンテーション法による前記低屈折率層のインデンテーション硬さが480MPa以上である[1]~[6]のいずれかに記載の反射防止部材。
[8]ナノインデンテーション法に依る前記低屈折率層の復元率が80%以上である[1]~[7]のいずれかに記載の反射防止部材。
[9]前記低屈折率層表面の最大高さ粗さをRz、前記低屈折率層表面の算術平均粗さをRaと定義した際に、Rz/Raが22.0以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の反射防止部材。
[10]透明保護板、偏光子及び透明保護板をこの順に有する偏光板であって、前記2枚の透明保護板のうちの少なくとも一方が、[1]~[9]のいずれか1項に記載の反射防止部材である、偏光板。
[11]表示素子上に、[1]~[9]のいずれかに記載の反射防止部材を有してなる画像表示装置。
[12]部材上に、[1]~[9]のいずれかに記載の反射防止部材を有してなる反射防止性物品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低い反射率を有するとともに、耐擦傷性などの表面耐性に優れる反射防止部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の反射防止部材の一実施形態を模式的に説明する断面概略図である。
図2】本発明の反射防止部材の他の実施形態を模式的に説明する断面概略図である。
図3】実施例1における低屈折率層の断面画像である。
図4】比較例2における低屈折率層の断面画像である。
図5】比較例5における低屈折率層の断面画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の反射防止部材について、詳細に説明する。なお、本明細書中の「AA~BB」との数値範囲の表記は、「AA以上BB以下」であることを意味する。
【0017】
[反射防止部材]
本発明の反射防止部材は、透明基材上に、低屈折率層を備える反射防止部材であって、該低屈折率層が、バインダー樹脂と、シリカ粒子と、を含み、前記低屈折率層の表面領域をX線光電子分光法により分析して得られる、前記シリカ粒子に帰属するSi元素の比率が10.0原子%以上18.0原子%以下であり、かつ、前記Si元素の比率を100原子%と換算したときのC元素の比率が180原子%以上500原子%以下である。
上記シリカ粒子は、中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子を含むことが好ましい。
【0018】
図1は、本発明の反射防止部材の一実施形態を模式的に説明する断面概略図である。図1の反射防止部材100は、透明基材110の一方の面上にハードコート層120及び低屈折率層130がこの順で積層されて構成される。低屈折率層130は、シリカ粒子として、中空シリカ粒子132及び非中空シリカ粒子134を含有する。
【0019】
図2は、本発明の反射防止部材の他の実施形態を模式的に説明する断面概略図である。図2の反射防止部材200は、ハードコート層120と低屈折率層130との間に高屈折率層140を有する。高屈折率層140は、高屈折率を有する無機微粒子142を含有する。
【0020】
[反射防止部材の物性]
<光学特性>
本発明の反射防止部材は、低屈折率層を有する側から光入射角5度で測定した視感反射率Y値が1.0%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。本明細書において、視感反射率Y値とは、CIE1931標準表色系の視感反射率Y値のことをいう。視感反射率Y値は、分光光度計(例えば、島津製作所社製、商品名「UV-3600plus」)を用いて算出することができる。
一般に、4層または5層の膜をスパッタリング法により形成した反射防止部材(以下、「ドライ反射防止部材」と称する)の視感反射率Y値は、0.5%以下である。本発明の反射防止部材は、ドライ反射防止部材と同程度の低い反射率を示す。
また、本発明の反射防止部材は、光入射角を増加させたときの視感反射率の変化がドライ反射防止部材よりも小さい。すなわち、斜め反射色相の変化が小さい。
【0021】
本発明の反射防止部材は、JIS K7361-1:1997の全光線透過率が50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。全光線透過率及び後述のヘイズは、例えば、村上色彩技術研究所製のヘイズメーター(品番:HM-150)で測定することができる。
【0022】
本発明の反射防止部材は、JIS K7136:2000に準拠するヘイズが1.0%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましく、0.2%以下であることがさらに好ましい。なお、防眩性を付与する場合にはこの限りではない。透過鮮明性やコントラストを重要視する場合には、ヘイズは5.0%未満であることが好ましく、防眩性を重要視する場合には、5~50%が好ましい。
【0023】
<低屈折率層表面領域の元素分析>
本発明の反射防止部材の低屈折率層の表面をX線光電子分光法(以下、単に「XPS」と称する)により分析すると、少なくとも、C元素、O元素、及び、Si元素が検出される。Si元素は、シリカ粒子(無機成分)と、シランカップリング剤やレベリング剤等の有機成分に由来する。C元素は、バインダー樹脂、シリカ粒子の表面処理剤(シランカップリング剤)、添加物に由来する。ただし、低屈折率層内の含有量を考慮すると、C元素は、実質的にバインダー樹脂に由来すると見なすことができる。
【0024】
XPSにより分析した、本発明の低屈折率層の表面領域は、シリカ粒子に帰属するSi元素の比率が10.0原子%以上18.0原子%以下であり、かつ、該Si元素の比率を100原子%と換算したときのC元素の比率が180原子%以上500原子%以下を示す。なお、本発明において「表面領域」とは、X線光電子分光法による検出領域の範囲内であり、低屈折率層におけるハードコート層と反対側の面から深さ10nmまでの領域を表す。
「Si元素の比率を100原子%と換算したときのC元素の比率」は、「C/Si×100(%)」で算出できる。以下、「Si元素の比率を100原子%と換算したときのC元素の比率」のことを「C/Si」と略称する場合がある。また、本発明において検討しているSiとは、シリカ粒子に帰属する無機のSi元素であるので、特に記載がない場合も、Siとは、無機Si元素を意味する。
【0025】
低屈折率層の表面領域における上記C/Siは、低屈折率層の厚み方向での非中空シリカ粒子及び中空シリカ粒子の分布状態を反映している。
低屈折率層の表面と反対側(ハードコート層側)にシリカ粒子が偏在している場合、表面領域におけるシリカ粒子に帰属するSi元素の比率が低く、相対的にC元素の比率が高くなる。シリカ粒子はバインダー樹脂中に埋没し、低屈折率層表面にほとんど存在していない場合も、同様の傾向となる。シリカ粒子(特に中空シリカ粒子)がバインダー樹脂に被覆されずに低屈折率層表面に露出する場合、シリカ粒子に帰属するSi元素の比率が高くなり、相対的にC元素の比率が低くなる。
【0026】
低屈折率層の表面領域におけるシリカ粒子に帰属するSi元素の比率は、該表面領域での非中空シリカ粒子及び中空シリカ粒子の存在状況を反映している。
低屈折率層の表面領域に多く存在しても、中空シリカは空洞であるため、シリカ粒子に帰属するSi元素の比率の上昇に大きく寄与しないが、非中空シリカが該表面領域に多く存在する場合は、シリカ粒子に帰属するSi元素の比率が高くなる。低屈折率層の表面領域にシリカ粒子が十分な量で存在していることにより、低屈折率層の表面領域においてシリカ粒子に帰属するSi元素の比率が10.0原子%以上を満たす。特に、シリカ粒子に帰属するSi元素の比率が13.0原子%以上であることにより、表面側に非中空シリカ粒子が高濃度で存在することとなり、耐擦傷性が向上するので好ましい。一方、シリカ粒子に帰属するSi元素の比率が18.0原子%を超える場合、非中空シリカだけではなく中空シリカ粒子が表面領域に多く存在するようになり、表面に露出することになるため、後述するように耐擦傷性が低下する原因となる。
また、低屈折率層の表面領域にシリカ粒子が十分な量で存在していることにより、C/Siが500原子%以下を満たす。C/Siが500原子%を超えると、シリカ粒子がバインダー樹脂に埋没し、表面領域でバインダー樹脂が過多となり、十分な耐擦傷性が得られない。一方、C/Siが180原子%未満となると、表面に存在するシリカ粒子の量が多くなり、特にバインダー樹脂で被覆されていない中空シリカ粒子が表面に露出して耐擦傷性が低下する原因となる。耐擦傷性と十分な被覆性とを考慮すると、C/Siは200原子%以上であることが好ましく、250原子%以上であることがより好ましい。また、C/Siは400原子%以下であることが好ましく、350原子%以下であることがより好ましい。
【0027】
低屈折率層の表面領域におけるC元素の比率及びSi元素の比率を上記範囲とすることで、適切な量のバインダー樹脂で中空シリカ粒子を被覆するとともに、中空シリカ粒子の隙間に十分な量の非中空シリカ粒子を存在させた状態とすることができる。これにより、低屈折率層表面をより平滑にしつつ、低反射率であり、高い耐擦傷性などの表面耐性に優れる反射防止部材を得ることができる。
【0028】
また、特許文献4のように、反応性シラン類をバインダー原料として低屈折率層を形成した場合には、C/Siが非常に小さい値となる。つまり、反応性シラン類をバインダー原料として用いた低屈折率層と、樹脂をバインダーとした低屈折率層とでは、C/Siが異なる。反応性シラン類をバインダー原料とした低屈折率層の場合は、バインダー成分の影響により、耐擦傷性等が悪くなる。従って、低屈折率層の表面領域におけるC/Siを180原子%以上500原子%以下とすることにより、高い耐擦傷性などの表面耐性に優れる反射防止部材を得ることができると言える。
【0029】
なお、低屈折率層形成用塗布液がフッ素系レベリング剤などの含フッ素化合物を含有していなくても、形成後の低屈折率層の表面にフッ素が検出される場合がある。これは低屈折率層の下地層となるハードコート層、及び、後述する高屈折率層などの下層にフッ素系レベリング剤が含有されており、低屈折率層形成時にフッ素系レベリング剤が低屈折率層を拡散し、低屈折率層表面まで移行するためである。
本発明の反射防止部材では、下層にフッ素系レベリング剤(含フッ素化合物)が含まれていても、XPSによりF元素が検出されないことが好ましい場合がある。つまり、前記低屈折率層の表面領域が、フッ素原子を実質的に含有しないことが好ましい場合がある。表面領域に含フッ素化合物が存在すると、バインダー樹脂自体に傷が発生しやすくなり、また、中空シリカ粒子が脱落しやすくなることが、加工条件によって生じる場合がある。すなわち、このような場合においては、低屈折率層に含フッ素化合物が含まれていると、耐擦傷性の低下の原因となる。この原因として、含フッ素化合物自体が柔らかいため、バインダー樹脂自体の硬度が低下したためと推測される。低屈折率層が上記の元素比率を示し、バインダー樹脂に対して高濃度でシリカ粒子を含むことにより、含フッ素化合物の拡散を抑制して、表面領域でF原子を実質的に含有しない状態にしやすくできる。なお、本明細書において、「フッ素原子を実質的に含有しない」とは、表面領域のF元素の比率が0.5原子%以下、より好ましくは0.1原子%以下であることを意味する。
【0030】
本発明の反射防止部材は、低屈折率層の表面領域が上記の元素比率であることにより、高いガスバリア性(水蒸気透過率、酸素ガス透過率)を有するという効果も奏する。
【0031】
<シリカ粒子の分散状態>
上記した元素比率を実現するために、本発明の反射防止部材の低屈折率層は、中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子が均一に分散されていることが好ましい。本発明における「均一に分散」とは、中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子が低屈折率層の表面領域で均一に分散されているだけでなく、断面視したときに低屈折率層の厚み方向にも均一に分散されていることを表している。すなわち、低屈折率層の厚さ方向でXPS分析を行った場合に、シリカ粒子に帰属するSi元素の比率及びC/Siが、厚さ方向の異なる箇所で上述した範囲を満たすことが好ましい。例えば、低屈折率層の厚さを三等分し、透明基材側から順に、第一領域、第二領域及び第三領域と定義した際に、第一領域内の任意の箇所及び第二領域内の任意の箇所についても、シリカ粒子に帰属するSi元素の比率及びC/Siが上述した範囲を満たすことが好ましい。
【0032】
図3は、本発明の実施例1の反射防止部材における低屈折率層を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した断面画像である。本発明の低屈折率層では、非中空シリカ粒子(中実シリカ粒子)が低屈折率層とハードコート層との界面だけでなく、低屈折率層の表面(ハードコート層と反対側の面)にもバインダー樹脂とともに多量に存在している。中空シリカ粒子が厚み方向に複数個並んでいる。図3の画像から、非中空シリカ粒子が低屈折率層の厚み方向に均一に分散していると考えられる。また、中空シリカ粒子は、低屈折率層表面からの突出量が小さく、バインダー樹脂で被覆されていることが確認できる。
【0033】
図4及び図5に、粒子の分散性が悪い低屈折率層の一例の断面画像を示す。
図4は、比較例2の反射防止部材における低屈折率層を透過型電子顕微鏡により観察した断面画像である。図4では、低屈折率層とハードコート層との界面に、非中空シリカ粒子(中実シリカ粒子)が密集するように偏在していることが確認できる。また、中空シリカ粒子が低屈折率層表面から大きく突出し、バインダー樹脂に被覆されずに露出していることが確認できる。
図5は、比較例5の反射防止部材における低屈折率層を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した断面画像である。図5では、低屈折率層の表面に非中空シリカ粒子(中実シリカ粒子)が密集するように偏在していることが確認できる。
【0034】
図3図4の断面画像は、日立ハイテクノロジーズ社製、電子顕微鏡H-7650を用い、エミッション電流:10μA、加速電圧100keV、フィラメント電圧20Vの条件で観察し、取得した。図5の断面画像は、日立ハイテクノロジーズ社製、電子顕微鏡S-4800を用い、エミッション電流:10μA、加速電圧30keVの条件で観察し、取得した。
【0035】
<耐擦傷性>
本発明の反射防止部材の低屈折率層は、耐擦傷性としてスチールウール耐性及びオイルダスト耐性のいずれも優れている。
一般に、反射防止部材などの光学部材表面の耐擦傷性を表す指標として、鉛筆硬度が知られている。しかしながら、鉛筆硬度は、点荷重に近い応力で硬い物質が接触する際の耐性を評価するものである。一方で、繰り返しの摩擦や長期間の使用にあっては、面荷重が穏やかにかかることにより生じる微小な擦り傷が多々発生する。このような傷に対する耐性は、鉛筆硬度と異なる指標であるスチールウール耐性及びオイルダスト耐性で評価することが妥当である。
【0036】
本発明においてスチールウール耐性は、以下の条件で荷重をかけながらスチールウールで低屈折率層表面を擦った後で、発光部と対象物との角度を変えながら観察を行い、肉眼で低屈折率層の傷が観察されない(傷が0個である)ときの最大荷重とする。観察は、蛍光灯(照度:200~2000Lx、例えば、Panasonic(株)製3波長蛍光灯、型番:FHF32EX-N-H)及びLED照明(照度:100~8000Lx、例えば、(株)オーム電機製、型番:LPL-48N)の下でそれぞれ行い、発光部から対象物との距離は10cm~300cmとする。
スチールウールが対象物(低屈折率層表面)に接する面積は0.5~1.5cmの範囲内とする。スチールウールと対象物とが接する面の形状は、円形、三角形、多角形などとすることができるが、円形であることが好ましい。試験では、同一箇所でスチールウールを片道移動距離30mm以上(1往復での移動距離60mm以上)移動させる。片道移動距離は、反射防止部材が適用されるデバイスの大きさに依って適宜設定する。
<試験条件>
スチールウール:日本スチールウール株式会社製、品名:ボンスター、品番:#0000
移動速度:100mm/秒
往復回数:10回
【0037】
本発明の反射防止部材は、低屈折率層のスチールウール耐性が、蛍光灯下で750g/cm以上であることが好ましく、900g/cm以上であることがより好ましく、1000g/cm以上であることが更に好ましく、1200g/cm以上であることが特に好ましい。また、低屈折率層のスチールウール耐性が、LED下で450g/cm以上であることが好ましく、500g/cm以上であることがより好ましく、600g/cm以上であることが更に好ましく、700g/cm以上であることが特に好ましい。
従来のウェット法で作製した反射防止部材のスチールウール耐性は、蛍光灯下で700g/cm以下、LED下で200g/cm(最低検査荷重)以下である。市販のドライ反射防止部材(最外層がSiOの5層スパッタ膜上にフッ素系コーティング膜を積層)の場合、スチールウール耐性は蛍光灯下では1500g/cm程度であるが、LED下では200g/cm(最低検査荷重)以下である。すなわち、本発明の反射防止部材は、従来のウェット法で作製した反射防止部材よりも高いスチールウール耐性を有しており、蛍光灯下での評価ではドライ反射防止部材と同等の優れたスチールウール耐性も実現可能である。更に、本発明の反射防止部材は、LED下での評価でドライ反射防止部材よりも優れたスチールウール耐性を有している。
【0038】
本発明の反射防止部材における低屈折率層は、表面への中空シリカ粒子の露出量が小さく、バインダー樹脂で被覆されている。また、表面領域のバインダー樹脂中に非中空シリカ粒子が高濃度で存在しているためバインダー樹脂自体の硬度が上昇しているとともに、バインダー樹脂中に非中空シリカ粒子が均一に分散されているため、樹脂硬化時の収縮ムラが抑制されて表面がより平滑となっていると考えられる。また、このため、本発明の低屈折率層をスチールウールで表面を擦った際に、中空シリカ粒子の損傷や脱落、バインダー樹脂自体の損傷を抑制できると推測できる。
【0039】
耐オイルダスト試験とは、ISO12103-1に規定されるACダスト及びオリーブオイルの混合液を、布またはウェスに染み込ませて対象物の表面を擦った時の擦過痕を判定する試験である。ACダストとしては、Fine(A2)、Coarse(A4)、または、Fine(A2)及びCoarse(A4)の混合体を用いることができる。本発明においてオイルダスト耐性は、以下の条件で荷重をかけながら該混合液を染み込ませた布またはウェスで低屈折率層表面を擦った後で、肉眼で低屈折率層の傷が観察されない(傷が0個である)ときの最大荷重とする。観察は、蛍光灯(照度:200~2000Lx)及びLED(照度:100~8000Lx)の下それぞれで行い、発光部から対象物との距離は10cm~300cmとする。
耐オイルダスト試験は、金属部材の端部に布またはウェスを取り付け、当該混合液を染み込ませて、布又はウェスを対象物に接触させて移動させることにより実施する。金属部材の端部と対象物(低屈折率層表面)との接触面の形状は、三角形、多角形、円形などとすることができるが、正方形であること好ましい。また、接触面の面積は、0.5~1.5cmの範囲であることが好ましい。試験では、同一箇所にて布またはウェスを距離30mm以上、1往復60mm以上移動させる。片道移動距離は、反射防止部材が適用されるデバイスの大きさに依って適宜設定する。
<試験条件>
移動速度:100mm/秒
往復回数:10回
【0040】
本発明の反射防止部材の低屈折率層は、オイルダスト耐性が蛍光灯下で700g/cm以上であることが好ましく、750g/cm以上であることがより好ましく、800g/cm以上であることが更に好ましく、1200g/cm以上であることが特に好ましい。本発明における反射防止部材の低屈折率層は、オイルダスト耐性がLED灯下では400g/cm以上であることが好ましく、450g/cm以上であることがより好ましく、500g/cm以上であることが更に好ましく、900g/cm以上であることが特に好ましい。
従来のウェット法で作製した反射防止部材では、オイルダスト耐性は蛍光灯下で200g/cm程度、LED下で100g/cm(最低検査荷重)以下である。市販のドライ反射防止部材(最外層がSiOの5層スパッタ膜上にフッ素系コーティング膜を積層)の場合、蛍光灯下で評価した時のオイルダスト耐性は1500g/cmである一方、LED下で評価したときのオイルダスト耐性は100g/cm(最低検査荷重)以下である。すなわち、本発明の反射防止部材は、蛍光灯下及びLED下での評価ともに、従来のウェット法で作製した反射防止部材よりもオイルダスト性能に優れる。更に、本発明の反射防止部材は、蛍光灯下では従来のドライ反射防止部材と同等の優れたオイルダスト耐性を有しており、更に、LED下での評価では従来のドライ反射防止部材よりも優れたオイルダスト耐性を有している。
【0041】
<表面粗さ>
本発明における低屈折率層は、優れた表面耐性を得るためには、平滑な表面であることが好ましい。最大高さ粗さRzが110nm以下であればよく、100nm以下であることが好ましく、更には90nm以下が好ましい。また、より平滑な表面であれば、更に優れた表面耐性を得られることから、70nm以下であることが好ましく、60nm以下であることがより好ましい。また、Rz/Ra(Raは算術平均粗さ)が22.0以下であることが好ましく、18.0以下であることがより好ましく、16.0以下であることがさらに好ましく、12.0以下であることがよりさらに好ましい。本発明においてRa及びRzは、走査プローブ顕微鏡SPM-9600アップグレードキット取扱説明書(SPM-9600 2016年2月、P.194-195)に記載されている2次元粗さパラメータの粗さを3次元に拡張したものである。Ra及びRzは、以下のように定義される。
(算術平均粗さRa)
粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さ(L)だけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向にX軸を縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、次の式で求められる。
【数1】

(最大高さ粗さRz)
粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の山頂線と谷底線との間隔を粗さ曲線の縦倍率の方向に測定した値。
【0042】
Rzが小さいことは、微小領域における中空シリカ粒子に起因する凸部が小さいことを意味している。また、Rz/Raが小さいことは、微小領域におけるシリカ粒子に起因する凹凸が均一であり、凹凸の平均的な標高差に対して突出した凹凸を有さないことを意味している。なお、本発明ではRaの数値は特に限定されないが、Raは15nm以下であればよく、更には12nm以下がよい。また、いっそう優れた表面耐性を得るためには、10nm以下であることが好ましく、6.5nm以下であることがより好ましい。
低屈折率層が上記元素比率を示すことにより、中空シリカ粒子間のバインダーに十分な量の非中空シリカ粒子が存在するとともに、中空シリカ粒子が表面に突出することなくバインダー樹脂に被覆された状態で表面領域に存在することができ、低屈折率層の収縮ムラを抑制することができる。このため、上記のRz及びRz/Raの範囲を満たしやすくなる。
低屈折率層の表面のRzは、低屈折率層の加工条件によっては90~110nm程度に大きくなる場合がある。そのとき、Rz/Raが上記範囲である場合には、好ましい表面耐性を得やすい。
【0043】
低屈折率層表面のRz及びRz/Raが上記範囲であることにより、固形物が低屈折率層表面の凸部(表面近傍に存在する中空シリカ粒子に起因)を乗り越える際の抵抗を小さくすることができる。このため、油分を伴うACダストで荷重をかけながら擦っても、固形物が低屈折率層表面を滑らかに移動すると考えられる。また、凹部の硬度自体も上がっていると考えられる。この結果、中空シリカ粒子の破損や脱落が防止され、バインダー樹脂自体の損傷も防止されたと推測できる。
【0044】
一方、低屈折率層表面のRz及びRz/Raが小さすぎる場合には、製造過程でブロッキングが発生する虞がある。このため、Rzは、30nm以上であることが好ましく、70nm以上であることがより好ましい。また、Rz/Raは、3.0以上であることが好ましく、5.0以上であることがより好ましい。
【0045】
<インデンテーション硬さ、復元率>
本発明における低屈折率層は、ナノインデンテーション法により測定されたインデンテーション硬さが480MPa以上であることが好ましい。また、本発明における低屈折率層は、ナノインデンテーション法により測定された復元率が80%以上であることが好ましい。インデンテーション硬さ及び復元率が上記範囲を満たすことにより、スチールウール耐性及びオイルダスト耐性のいずれも優れる低屈折率層を得ることができる。
【0046】
インデンテーション硬さ及び復元率は、低屈折率層より下層側(透明基材側)の層の影響を受ける。本発明において、低屈折率層の下層にハードコート層、更には低屈折率層とハードコート層との間に高屈折率層を設けることにより、インデンテーション硬さ及び復元率を向上させることができる。
【0047】
スチールウール耐性及びオイルダスト耐性を考慮すると、インデンテーション硬さは500MPa以上であることが好ましく、550MPa以上であることがより好ましく、600MPa以上、650MPa以上であることが更に好ましい。また、インデンテーション硬さは、1000MPa以下であることが好ましく、950MPa以下であることがより好ましく、900MPa以下であることが更に好ましく、800MPa以下であることが特に好ましい。
【0048】
スチールウール耐性及びオイルダスト耐性を考慮すると、復元率は、82%以上であることが好ましく、83%以上であることがより好ましく、85%以上であることが更に好ましい。
【0049】
また、インデンテーション硬さと復元率との積([インデンテーション硬さ]×[復元率]÷100)は、低屈折率層の耐擦傷性を表す指標となる。すなわち、インデンテーション硬さと復元率との積が大きいほど、低屈折率層の耐擦傷性に優れることを表している。本発明では、当該積は380MPa以上であることが好ましく、410MPa以上であることがより好ましく、460MPa以上であることが更に好ましい。また、当該積は、1000MPa以下であることが好ましく、950MPa以下であることがより好ましく、900MPa以下であることが更に好ましい。
【0050】
本発明における「インデンテーション硬さ」とは、ナノインデンテーション法により、表面皮膜物性試験機(Triboindenter TI950、HYSITRON社製)を用いて測定・解析される値である。以下の条件で、バーコビッチ(Berkovich)圧子(材質:ダイヤモンド三角錐)を低屈折率層の表面に押し込み、測定を行う。測定に当たっては、低屈折率表面の凹凸状態を顕微鏡で観察し、特異な欠点がなく可能な限り平坦な箇所を、測定点として選択する。
【0051】
<インデンテーション硬さ測定条件>
・使用圧子:バーコビッチ圧子(型番:TI-0039、HYSITRON社製)
・押し込み条件:変位制御方式
・最大押込み深さ:30nm
・荷重印加時間:3秒間(速度:10nm/sec)
・保持時間:5秒間
・荷重除荷時間:3秒間(速度:10nm/sec)
【0052】
本発明における「復元率」とは、ナノインデンテーション法により、表面皮膜物性試験機(Triboindenter TI950、HYSITRON社製)を用いて測定される荷重-変位曲線から解析して求められる値である。
荷重-変位曲線は、以下の条件で、バーコビッチ(Berkovich)圧子(材質:ダイヤモンド三角錐)を低屈折率層の表面に押し込み、測定を行う。測定に当たっては、低屈折率表面の凹凸状態を顕微鏡で観察し、特異な欠点がなく可能な限り平坦な箇所を、測定点として選択する。
<荷重-変位曲線測定条件>
・使用圧子:バーコビッチ圧子(型番:TI-0039、HYSITRON社製)
・押し込み条件:荷重制御方式
・最大荷重:30μN
・荷重印加時間:3秒間(速度:10μN/sec)
・保持時間:5秒間
・荷重除荷時間:3秒間(速度:10μN/sec)
【0053】
取得した荷重-変位曲線のデータから、全変形仕事量Wtotal、及び、弾性変形仕事量Welastを算出する。全変形仕事量Wtotalは、次式で表される。
total=Welast+Wplast
plast:塑性変形仕事量
total及びWelastから、次式により復元率(弾性回復率)を算出する。
復元率[%]=(Welast/Wtotal)×100
【0054】
本明細書における光学物性、元素比率、表面粗さ、インデンテーション硬さ、及び、復元率は、特に断りのない限り16箇所の測定値の最小値及び最大値を除外した14箇所の測定値の平均値を意味する。
本明細書において、上記16の測定箇所は、測定サンプルの外縁から0.5cmの領域を余白として、該余白よりも内側の領域に関して、縦方向及び横方向を5等分する線を引いた際の、交点の16箇所を測定の中心とすることが好ましい。例えば、測定サンプルが四角形の場合、四角形の外縁から0.5cmの領域を余白として、該余白よりも内側の領域を縦方向及び横方向に5等分した点線の交点の16箇所を中心として測定を行い、その平均値でパラメータを算出することが好ましい。なお、測定サンプルが円形、楕円形、三角形、五角形等の四角形以外の形状の場合、これら形状に内接する四角形を描き、該四角形に関して、上記手法により16箇所の測定を行うことが好ましい。
【0055】
本明細書における光学物性、表面粗さ、インデンテーション硬さ、及び、復元率は、特に断りのない限り、温度23±5℃、相対湿度40~65%で測定した値とする。また、各測定及び評価の開始前に、対象サンプルを上記雰囲気に30分以上晒してから測定及び評価を行うものとする。元素分析についても、測定開始前に、対象サンプルを上記雰囲気に30分以上さらしてから測定を行うものとする。
【0056】
以下では、本発明の反射防止部材を得るための諸条件について説明する。
〔透明基材〕
透明基材は、ハードコート層及び低屈折率層の支持体となる。透明基材は高い光透過性を有するものが好適である。具体的には、JIS K7361-1:1997に準拠する全光線透過率が90%以上であるものが好ましい。
【0057】
透明基材は、プラスチック及びガラス等が挙げられる。軽量であり製造が容易であることから、透明基材はプラスチックからなることがより好ましい。
【0058】
プラスチック基材は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル等のアクリル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ナイロン6又はナイロン66等のポリアミド系樹脂、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリカーボネート等の樹脂、ポリイミド系樹脂、ノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどのシクロオレフィンから得られるシクロオレフィン樹脂の1種又は2種以上から形成することができる。
【0059】
プラスチック基材の厚みは特に限定されない。取り扱い性の観点から、プラスチック基材厚みは10~500μmであることが好ましく、20~400μmであることがより好ましく、50~300μmであることがさらに好ましい。プラスチック基材は厚み500μmを超える板状のものであってもよい。フォルダブル用など柔軟性が必要な場合、反射防止部材を薄膜化するために、プラスチック基材の厚みは10~40μmであることが好ましい。また、反射防止部材が取り付けられる部品にガラスが使用されている場合には、ガラスの飛散防止の観点から、プラスチック基材の厚みは40~100μmであることが好ましい。
【0060】
〔低屈折率層〕
低屈折率層は、透明基材よりも低い屈折率を有する層である。また、低屈折率層は、反射防止部材を画像表示装置に組み込んだ場合に、表示素子(例えば、液晶表示素子、EL表示素子)と反対側に位置する。
低屈折率層は、バインダー樹脂と、中空シリカ粒子と、非中空シリカ粒子とを含む。
【0061】
<バインダー樹脂>
バインダー樹脂は、熱硬化性樹脂組成物又は電離放射線硬化性樹脂組成物等の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む。これらの中でも、耐擦傷性の観点から、硬化性樹脂組成物の硬化物が好適である。また、硬化性樹脂組成物としては、熱硬化性樹脂組成物、電離放射線硬化性樹脂組成物が挙げられ、耐擦傷性の観点から、電離放射線硬化性樹脂組成物が好適である。すなわち、バインダー樹脂としては、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物を含むことが最適である。
【0062】
熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも熱硬化性樹脂を含む組成物であり、加熱により、硬化する樹脂組成物である。
熱硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂組成物には、これら硬化性樹脂に、必要に応じて硬化剤が添加される。
【0063】
電離放射線硬化性樹脂組成物は、電離放射線硬化性官能基を有する化合物(以下、「電離放射線硬化性化合物」ともいう)を含む組成物である。電離放射線硬化性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和結合基、及びエポキシ基、オキセタニル基等が挙げられる。電離放射線硬化性化合物は、電離放射線硬化性官能基を2つ以上有することが好ましい。
電離放射線硬化性化合物としては、エチレン性不飽和結合基を有する化合物が好ましい。中でも、(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート系化合物がより好ましい。
以下、エチレン性不飽和結合基を4つ以上有する(メタ)アクリレート系化合物のことを「多官能性(メタ)アクリレート系化合物」と称する。また、エチレン性不飽和結合基を2~3つ有する(メタ)アクリレート系化合物のことを「低官能性(メタ)アクリレート系化合物」と称する。
【0064】
(メタ)アクリレート系化合物としては、モノマー及びオリゴマーのいずれも用いることができる。特に、硬化時の収縮ムラを抑制して低屈折率層表面の凹凸形状を平滑化しやすくするという観点から、電離放射線硬化性化合物は、低官能(メタ)アクリレート系化合物を含むことが更に好ましい。また、電離放射線硬化性化合物中の低官能(メタ)アクリレート系化合物の割合は60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることがよりさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。また、前述した硬化時の収縮ムラを抑制して低屈折率層表面の凹凸形状を平滑化しやすくするという観点からは、低官能(メタ)アクリレート系化合物は、2つのエチレン性不飽和結合基を有する(メタ)アクリレート系化合物であることが好ましい。
電離放射線硬化性化合物が多官能(メタ)アクリレート系化合物を多量に含む場合でも、後述するように、溶剤の種類及び乾燥条件を適切に調整することにより、低屈折率層表面の凹凸形状を平滑化しやすくできる。
【0065】
(メタ)アクリレート系化合物のうち、2官能(メタ)アクリレート系化合物としては、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAテトラエトキシジアクリレート、ビスフェノールAテトラプロポキシジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート等が挙げられる。
3官能(メタ)アクリレート系化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸変性トリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
4官能以上の多官能(メタ)アクリレート系化合物としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの(メタ)アクリレート系化合物は、後述するように変性したものであってもよい。
【0066】
また、(メタ)アクリレート系オリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等のアクリレート系重合体等が挙げられる。
ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、多価アルコール及び有機ジイソシアネートとヒドロキシ(メタ)アクリレートとの反応によって得られる。
また、好ましいエポキシ(メタ)アクリレートは、3官能以上の芳香族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られる(メタ)アクリレート、2官能以上の芳香族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等と多塩基酸と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られる(メタ)アクリレート、及び2官能以上の芳香族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等とフェノール類と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られる(メタ)アクリレートである。
【0067】
また、上記(メタ)アクリレート系化合物は、架橋による収縮ムラを抑制する観点から、分子骨格の一部を変性しているものでも良い。例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、カプロラクトン、イソシアヌル酸、アルキル、環状アルキル、芳香族、ビスフェノール等による変性がなされたものも使用することができる。特に、シリカ粒子との親和性を高めて粒子の凝集を抑制するとともに、C/Siを上記範囲にしやすくするという観点から、上記(メタ)アクリレート系化合物は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドで変性されたものが好ましい。電離放射線硬化性化合物中のアルキレンオキサイド変性の(メタ)アクリレート系化合物の割合は60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることがよりさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。また、アルキレンオキサイド変性の(メタ)アクリレート系化合物は、低官能(メタ)アクリレート系化合物であることが好ましく、2つのエチレン性不飽和結合基を有する(メタ)アクリレート系化合物であることがより好ましい。
【0068】
アルキレンオキサイド変性されてなる2つのエチレン性不飽和結合基を有する(メタ)アクリレート系化合物としては、ビスフェノールFアルキレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAアルキレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸アルキレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート及びポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられ、中でもポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートに含まれるアルキレングリコールの平均繰り返し単位は3~5が好ましい。また、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートに含まれるアルキレングリコールは、エチレングリコール及び/又はポリエチレングリコールが好ましい。
アルキレンオキサイド変性されてなる3つのエチレン性不飽和結合基を有する(メタ)アクリレート系化合物としては、トリメチロールプロパンアルキレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート及びイソシアヌル酸アルキレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
上記電離放射線硬化性樹脂は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
電離放射線硬化性樹脂が紫外線硬化性樹脂である場合には、防眩層形成塗布液は、光重合開始剤や光重合促進剤等の添加剤を含むことが好ましい。
光重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α-アシルオキシムエステル、α-アミノアルキルフェノン、チオキサンソン類等から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、光重合促進剤は、硬化時の空気による重合阻害を軽減させ硬化速度を速めることができるものであり、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0070】
バインダー樹脂に対して更に、帯電防止剤、酸化防止剤、界面活性剤、分散剤及び紫外線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
バインダー樹脂を形成する硬化性樹脂組成物に対して、添加剤としては、特に限定されないが、シリコーン系レベリング剤(シリコーン系化合物)を含むことが好ましい。該シリコーン系レベリング剤を含むことにより、低屈折率層表面をより平滑にすることができる。更に、低屈折率層表面に滑り性及び防汚性(指紋拭き取り性、純水及びヘキサデカンに対する大きな接触角)を良好にすることができる。なお、加工条件によりフッ素系レベリング剤や、フッ素系とシリコーン系との混合、またはフッ素・シリコーン系レベリング剤、それぞれを複数混合する系も用いることができる。
【0071】
ただし、低屈折率層の耐擦傷性(耐スチールウール性能、及び、耐オイルダスト性能)を考慮すると、バインダー樹脂を形成する硬化性樹脂組成物中には、電離放射線硬化性官能基を有する含フッ素オリゴマー及び/又はモノマー等の含フッ素化合物が添加されないことが好ましい場合もある(特に、高速での量産加工が必要な場合)。また、製品の廃棄時など、燃焼させた場合にフッ酸を生じる可能性があることから、特に添加剤として、フッ素系レベリング剤(含フッ素化合物)を含まないことが好ましい。フッ素系レベリング剤は、シリコーン系レベリング剤とバインダー樹脂との相溶性が良くない場合などに用いることがある。
【0072】
<シリカ粒子>
本発明において、低屈折率層は、中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子を含むことが好ましい。
中空シリカ粒子とは、シリカからなる外殻層を有し、当該外殻層に囲まれた粒子内部が空洞であり、該空洞内部に空気を含む粒子をいう。中空シリカ粒子は、空気を含むことにより、シリカ本来の屈折率に比べて気体の占有率に比例して屈折率が低下する粒子である。非中空シリカ粒子とは、中空シリカ粒子のように内部が空洞となっていない粒子である。非中空シリカ粒子は、例えば中実のシリカ粒子である。
中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子の形状は、特に限定はなく、真球状、回転楕円体状、及び、球体に近似できる多面体形状等の略球状などであってもよい。なかでも、耐擦傷性を考慮すると、真球状、回転楕円体状または略球状であることが好ましい。
【0073】
中空シリカ粒子は、内部に空気を含むことから、低屈折率層全体の屈折率を低下させる役割を果たす。空気の比率を高めた粒子径の大きい中空シリカ粒子を用いることにより、低屈折率層の屈折率をより低下させることができる。一方で、中空シリカ粒子は、機械的強度に劣る傾向がある。特に、空気の比率を高めた粒子径の大きい中空シリカ粒子を用いた場合、低屈折率層の耐擦傷性を低下させやすい傾向がある。
非中空シリカ粒子は、バインダー樹脂中に分散することにより、低屈折率層の耐擦傷性を向上させる役割を果たす。
【0074】
中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子を高濃度でバインダー樹脂中に存在しつつ、粒子を樹脂内で膜厚方向に均一に分散させるには、中空シリカ粒子の間が近接し、更に、中空シリカ粒子の間に非中空粒子が入り込めるように、中空シリカ粒子の平均粒子径及び非中空シリカ粒子の平均粒子径を設定することが好ましい。具体的に、中空シリカ粒子の平均粒子径に対する非中空シリカ粒子の平均粒子径の比は、0.29以下であることが好ましく、0.20以下であることがより好ましい。また、該平均粒子径の比は、0.05以上であることが好ましい。光学的特性および機械的強度を考慮すると、中空シリカ粒子の平均粒子径は、50nm以上100nm以下であることが好ましく、60nm以上80nm以下であることがより好ましい。また、非中空シリカ粒子の凝集を防止しつつ分散性を考慮すると、非中空シリカ粒子の平均粒子径は、5nm以上20nm以下であることが好ましく、10nm以上15nm以下であることがより好ましい。
【0075】
なお、本発明における「平均粒子径」は、以下の(1)~(3)の作業により算出できる。
(1)粒子を含む反射防止部材の断面をTEM又はSTEMで撮像する。TEM又はSTEMの加速電圧は10kv~30kV、倍率は5万~30万倍とすることが好ましい。
(2)観察画像から任意の10個の粒子を抽出し、個々の粒子の粒子径を算出する。粒子径は、粒子の断面を任意の平行な2本の直線で挟んだとき、該2本の直線間距離が最大となるような2本の直線の組み合わせにおける直線間距離として測定される。
(3)同じサンプルの別画面の観察画像において同様の作業を5回行って、合計50個分の数平均から得られる値を粒子の平均粒子径とする。
【0076】
中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子は、表面がシランカップリング剤で被覆されていることが好ましい。(メタ)アクリロイル基又はエポキシ基を有するシランカップリング剤を用いることがより好ましい。
シリカ粒子にシランカップリング剤による表面処理を施すことにより、シリカ粒子とバインダー樹脂との親和性が向上し、シリカ粒子の凝集が生じにくくなる。このため、シリカ粒子の分散が均一となりやすい。
【0077】
シランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン及びビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。特に、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランから選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0078】
中空シリカ粒子の含有量が多くなるほど、バインダー樹脂に対する中空シリカ粒子の充填率が高くなり、低屈折率層の屈折率が低下する。一方で、バインダー樹脂に対する中空シリカ粒子の含有量が多すぎると、バインダー樹脂から露出する中空シリカ粒子が増加する上、粒子間を結合するバインダー樹脂が少なくなる。このため、中空シリカ粒子が損傷したり脱落しやすくなって、低屈折率層の耐擦傷性等の機械的強度が低下する傾向がある。このため、中空シリカ粒子の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して100質量部以上であることが好ましく、150質量部以上であることがより好ましい。また、中空シリカ粒子の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して400質量部以下であることが好ましく、300質量部以下であることがより好ましい。
【0079】
非中空シリカ粒子の含有量が少ないと、低屈折率層の表面に非中空シリカ粒子が存在していても硬度上昇に影響を及ぼさないことがある。また、非中空シリカ粒子を多量に含有すると、バインダー樹脂の重合による収縮ムラの影響を小さくし、樹脂硬化後に低屈折率層表面に発生する凹凸を小さくすることができる。一方で、非中空シリカ粒子の含有量が多すぎると、非中空シリカが凝集するため、バインダー樹脂の収縮ムラが生じ、表面の凹凸が大きくなる。非中空シリカ粒子の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して90質量部以上であることが好ましく、100質量部以上であることがより好ましい。また、非中空シリカ粒子の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して200質量部以下であることが好ましく、150質量部以下であることがより好ましい。
【0080】
上記の割合でバインダー樹脂に対して中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子を含有させることにより、ハードコート層や高屈折率層中にフッ素系レベリング剤等の含フッ素化合物が含有されていても、低屈折率層表面で含フッ素化合物が検出されない。これは、バインダー樹脂中にシリカ粒子が高濃度で均一に分散されていることにより、シリカ粒子がフッ素系レベリング剤の拡散を阻害したためと推測される。
【0081】
また、上記の割合でバインダー樹脂に対して中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子を添加することにより、反射防止部材自体のガスバリア性を向上させることができる。これは、シリカ粒子が高充填率で均一に分散されていることにより、ガス等の透過が阻害されているためと推測される。
また、日焼け止め及びハンドクリーム等の化粧品には、揮発性の低い低分子ポリマーが含まれている場合がある。低屈折率層のバリア性を良好にすることにより、低分子ポリマーが低屈折率層の内部に浸透することを抑制できる。このため、低分子ポリマーが低屈折率層内に長期残存することによる不具合(例えば外観異常)を抑制することができる。
【0082】
低屈折率層の厚みは、50nm以上(中空シリカの平均粒子径以上)であれば特に限定されないが、80~120nmであることが好ましく、85~110nmであることがより好ましく、90~105nmであることがさらに好ましい。
低屈折率層の屈折率は1.40以下であることが好ましく、1.35以下であることがより好ましい。低屈折率層の屈折率を1.40以下とすることにより、低屈折率層表面の反射率が高くなることを抑制し、視認性を良好にしやすくできる。低屈折率層の屈折率の下限は1.10程度である。
なお、本明細書において、屈折率は、波長589.3nmにおける屈折率をいうものとする。
【0083】
〔ハードコート層〕
透明基材がプラスチックからなる場合、低屈折率層と透明基材との間にハードコート層を設けることが好ましい。ハードコート層を設けることにより、上述のインデンテーション硬さ及び復元率を向上させることができる。
ハードコート層は、熱硬化性樹脂組成物又は電離放射線硬化性樹脂組成物等の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む。硬化性樹脂としては、低屈折率層用の硬化性樹脂と同様のものが使用できる。
【0084】
電離放射線硬化性化合物が紫外線硬化性化合物である場合には、電離放射線硬化性組成物は、光重合開始剤や光重合促進剤等の添加剤を含むことが好ましい。光重合開始剤及び光重合促進剤としては、低屈折率層用の材料と同様のものが使用できる。
【0085】
ハードコート層は更に、添加剤としてレベリング剤を含むことが好ましい。レベリング剤を添加することにより、ハードコート層となる塗工膜を均一に形成することができる。レベリング剤として、フッ素系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤、フッ素・シリコーン系レベリング剤、それぞれの混合系などを用いることができる。本発明では、ハードコート層中にフッ素系レベリング剤が含有されていても、低屈折率層のシリカ粒子によってフッ素系レベリング剤の拡散が阻害され、低屈折率層表面にフッ素系レベリング剤が移行することを抑制しやすくすることができる。
また、ハードコート層は更に、帯電防止剤、酸化防止剤、界面活性剤、分散剤及び紫外線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
【0086】
ハードコート層の厚みは、0.1~100μmであることが好ましく、0.5~20μmであることがより好ましく、1~10μmであることがさらに好ましい。ハードコート層の厚みを上記範囲とすることにより、耐擦傷性を良好にしつつ、裁断等の加工時のクラックの発生を抑制しやすくできる。
【0087】
ハードコート層の屈折率は、1.45以上1.70以下の範囲で調整することが好ましい。
また、反射防止部材が後述する高屈折率層を有する場合、ハードコート層の屈折率は高屈折率層の屈折率より低くすることが好ましく、1.50~1.65とすることがより好ましく、1.55~1.60とすることがさらに好ましい。ハードコート層の屈折率がこのような範囲にあれば、ハードコート層が中屈折率層としての役割を有し、ハードコート層(中屈折率層)、高屈折率層及び低屈折率層の3層による干渉作用が可能となることから、反射率をより低くすることができる。
また、ハードコート層と被着体との間に他の層(光透過性基材、あるいは、樹脂層を構成する他の層)を有する場合、干渉縞を抑制する観点から、該他の層の屈折率とハードコート層の屈折率との差を小さくすることが好ましい。
本明細書において、屈折率は、例えば、反射光度計により測定した反射スペクトルと、フレネル係数を用いた多層薄膜の光学モデルから算出した反射スペクトルとのフィッティングにより算出することができる。
【0088】
ハードコート層に中屈折率層としての役割を付与する手段としては、ハードコート層塗布液に屈折率の高い樹脂を配合する手段と、屈折率の高い粒子を配合する手段が挙げられる。
屈折率の高い樹脂としては、上述した熱硬化性樹脂又は電離放射線硬化性化合物に硫黄、リン、臭素を含有する基や芳香環等を導入したものが挙げられる。屈折率の高い粒子としては、後述する高屈折率層に用いる高屈折率粒子と同様のものが挙げられる。
【0089】
〔高屈折率層〕
高屈折率層は、ハードコート層よりも高い屈折率層を有する層である。高屈折率粒子及びバインダー樹脂を含む。
【0090】
高屈折率層は、バインダー樹脂として、熱硬化性樹脂組成物又は電離放射線硬化性樹脂組成物等の硬化性樹脂組成物の硬化物を含む。硬化性樹脂組成物としては、低屈折率層で例示したものと同様のものを用いることができ、電離放射線硬化性樹脂組成物が好適である。
【0091】
電離放射線硬化性化合物が紫外線硬化性化合物である場合には、電離放射線硬化性組成物は、光重合開始剤や光重合促進剤等の添加剤を含むことが好ましい。光重合開始剤及び光重合促進剤としては、低屈折率層用の材料と同様のものが使用できる。
【0092】
高屈折率層は更に、添加剤としてレベリング剤を含むことが好ましい。レベリング剤を添加することにより、高屈折率層となる塗工膜を均一に形成することができる。レベリング剤として、フッ素系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤、フッ素・シリコーン系レベリング剤、それぞれの混合系などを用いることができる。本発明では、高屈折率層中にフッ素系レベリング剤が含有されていても、低屈折率層のシリカ粒子によってフッ素系レベリング剤の拡散が阻害され、低屈折率層表面にフッ素系レベリング剤が移行することを抑制しやすくすることができる。
また、高屈折率層は更に、帯電防止剤、酸化防止剤、界面活性剤、分散剤及び紫外線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
【0093】
高屈折率粒子としては、五酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、スズドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化スズ、酸化イットリウム及び酸化ジルコニウム等が挙げられる。
高屈折率粒子の平均粒子径は、5nm以上200nm以下が好ましく、5nm以上100nm以下がより好ましく、10nm以上80nm以下がさらに好ましい。
【0094】
高屈折率粒子の含有量は、塗膜の高屈折率化及び塗膜強度のバランスの観点から、バインダー樹脂100質量部に対して、100質量部以上2500質量部以下であることが好ましく、300質量部以上2200質量部以下であることがより好ましく、500質量部以上2000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0095】
特に、高屈折率粒子として酸化ジルコニウム、五酸化アンチモン、酸化チタン等の高硬度粒子をバインダー樹脂中に高濃度で分散させた高屈折率層を設けることによって、低屈折率層のインデンテーション硬さ及び復元率を向上させることができる。低屈折率層のインデンテーション硬さ及び復元率の向上を考慮すると、高屈折率粒子の含有量は、1000質量部以上2000質量部以下であることが好ましく、1500質量部以上2000質量部以下であることがより好ましい。
【0096】
高屈折率層の屈折率は1.55以上1.85以下であることが好ましく、1.56以上1.75以下であることがより好ましい。
また、高屈折率層の厚みは、200nm以下であることが好ましく、50nm以上180nm以下であることがより好ましい。
【0097】
〔反射防止部材の製造方法〕
本発明の反射防止部材のハードコート層、低屈折率層及び高屈折率層は、各層を構成する成分を含む塗布液を透明基材上に塗布、乾燥、硬化するウェット法により、及び、ウェット法により基材上に形成した各層を転写する転写法等により形成することができる。塗布液は、溶剤と、各層を構成する固形分、及び、重合開始剤などの添加物を含む。
【0098】
ウェット法による形成する場合は、まず、透明基材上に低屈折率層形成用塗布液を塗布し、乾燥・硬化させて低屈折率層を形成する。ハードコート層を設ける場合は、透明基材上にハードコート層形成用塗布液を塗布し、乾燥・硬化させてハードコート層を形成した後、上記と同様に低屈折率層を形成する。ハードコート層及び高屈折率層を設ける場合は、ハードコート層上に高屈折率層形成用塗布液を塗布し、乾燥・硬化させてハードコート層及び高屈折率層を形成した後、上記と同様に低屈折率層を形成する。なお、ハードコート層及び高屈折率層は、半硬化の状態(完全に硬化させない状態)として、低屈折率層形成時に完全に硬化させるというプロセスであっても良い。
【0099】
低屈折率層形成塗布液には、通常、粘度を調節したり、各成分を溶解または分散可能としたりするために溶剤を用いる。
溶剤は、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン等)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタン等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、アルコール類(ブタノール、シクロヘキサノール等)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)、セロソルブアセテート類、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、グリコールエーテル類(1-メトキシ-2-プロピルアセテート等)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)等が例示でき、これらの混合物であってもよい。
【0100】
溶剤の揮発が速すぎる場合、低屈折率層形成用塗布液の乾燥時に溶剤が激しく対流する。このため、塗布液中のシリカ粒子が均一分散の状態であっても、乾燥時の溶剤の激しい対流によって均一分散の状態が崩れやすくなる。このため、溶剤としては、蒸発速度が遅いものを含むことが好ましい。具体的には、相対蒸発速度(n-酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度)が70以下の溶剤を含むことが好ましく、30~60の溶剤を含むことがより好ましい。また、相対蒸発速度が70以下の溶剤は、全溶剤の10~50質量%であることが好ましく、20~40質量%であることが好ましい。
蒸発速度が遅い溶剤の相対蒸発速度の例を挙げると、イソブチルアルコールが64、1-ブタノールが47、1-メトキシ-2-プロピルアセテートが44、エチルセロソルブが38、シクロヘキサノンが32である。
なお、溶剤の残分(蒸発速度が遅い溶剤以外の溶剤)は、樹脂の溶解性に優れるものであることが好ましい。また、溶剤の残分は、相対蒸発速度が100以上のものが好ましい。
【0101】
また、乾燥時の溶剤の対流を抑制しシリカ粒子の分散性を良好にするために、低屈折率層形成時の乾燥温度は、できる限り低い方が好ましい。乾燥温度は、溶剤の種類、シリカ粒子の分散性、生産速度等を考慮して適宜設定することができる。
【0102】
各層を硬化させる手段としては、紫外線や電子線などの電離放射線を照射する方法、または、加熱により硬化する方法が採用できる。生産性等を考慮すると、電離放射線による硬化を採用することが好ましい。
【0103】
〔反射防止部材の大きさ、形状等〕
反射防止部材は、所定の大きさにカットした枚葉状の形態でもよいし、長尺シートをロール状に巻き取ったロール状の形態であってもよい。また、枚葉の大きさは特に限定されないが、最大径が2~500インチ程度である。「最大径」とは、反射防止部材の任意の2点を結んだ際の最大長さをいうものとする。例えば、反射防止部材が長方形の場合は、該領域の対角線が最大径となる。また、反射防止部材が円形の場合は、直径が最大径となる。
ロール状の幅及び長さは特に限定されないが、一般的には、幅は500~3000mm、長さは100~5000m程度である。ロール状の形態の反射防止部材は、画像表示装置等の大きさに合わせて、枚葉状にカットして用いることができる。カットする際、物性が安定しないロール端部は除外することが好ましい。
また、枚葉の形状も特に限定されず、例えば、多角形(三角形、四角形、五角形等)や円形であってもよいし、ランダムな不定形であってもよい。より具体的には、反射防止部材が四角形状である場合には、縦横比は表示画面として問題がなければ特に限定されない。例えば、横:縦=1:1、4:3、16:10、16:9、2:1等が挙げられる。
【0104】
[偏光板]
本発明の偏光板は、透明保護板、偏光子及び透明保護板をこの順に有する偏光板であって、前記2枚の透明保護板のうちの少なくとも一方が上述した反射防止部材であるものである。
【0105】
2枚の透明保護板のうちの一方のみを上述した反射防止部材とする場合、他方の透明保護板としては、例えば、上述した透明基材で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0106】
偏光子としては、例えば、ヨウ素等により染色し、延伸したポリビニルアルコールフィルム、ポリビニルホルマールフィルム、ポリビニルアセタールフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体系ケン化フィルム等のシート型偏光子、平行に並べられた多数の金属ワイヤからなるワイヤーグリッド型偏光子、リオトロピック液晶や二色性ゲスト-ホスト材料を塗布した塗布型偏光子、多層薄膜型偏光子等が挙げられる。なお、これらの偏光子は、透過しない偏光成分を反射する機能を備えた反射型偏光子であってもよい。
【0107】
[画像表示装置]
本発明の画像表示装置は、表示素子上に上述した反射防止部材を有してなるものである。この場合、透明基材が表示素子側に位置し、低屈折率層が画像表示装置の使用者側に位置するように、反射防止部材が配置される。表示素子と反射防止部材とは、接着剤層を介して積層されることが好ましい。
表示素子としては、液晶表示素子、EL表示素子、プラズマ表示素子、電子ペーパー素子等が挙げられる。
【0108】
本発明の画像表示装置は上記の反射防止部材を備えることにより、極めて反射率が低く視認性に優れるとともに、スチールウール耐性のみならずオイルダスト耐性をも優れたものとなる。
【0109】
[反射防止性物品]
本発明の反射防止性物品は、部材上に上述した反射防止部材を有してなるものである。この場合、透明基材が部材側に位置し、低屈折率層が物品の使用者側に位置するように、反射防止部材が配置される。部材と反射防止部材とは、接着剤層を介して積層されることが好ましい。
【0110】
部材としては、インストルメントパネル、時計、ショーケース、ショーウィンドウ及び窓が挙げられる。すなわち、本発明の物品は、低反射部材の離型層が表面を向くように配置されてなる、インストルメントパネル、時計、ショーケース、ショーウィンドウ及び窓が挙げられる。なお、部材は、透明でも不透明でもよく、色調も特に限定されない。
【実施例0111】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に記載の形態に限定されるものではない。
【0112】
1.評価、測定
実施例及び比較例で得られた反射防止部材について以下の測定及び評価を行った。結果を表1及び表2に示す。なお、特記しない限り、及び、試験が特定の環境下で行われない限り、各測定及び評価時の雰囲気は、温度23±5℃、相対湿度40~65%とし、各測定及び評価の開始前に、対象サンプルを前記雰囲気に30分以上晒してから測定及び評価を行った。
【0113】
1-1.反射率(視感反射率Y値)
実施例及び比較例の反射防止部材の透明基材側に、厚み25μmの透明粘着剤層(パナック社製、商品名:パナクリーンPD-S1)を介して黒色板(クラレ社製、商品名:コモグラス DFA2CG 502K(黒)系、厚み2mm)を貼り合わせたサンプル(5cm×5cm)を作製した。
反射防止部材の低屈折率層表面に対して垂直方向を0度とした際に、5度の方向からサンプルに光を入射し、該入射光の正反射光に基づいてサンプルの反射率(視感反射率Y値)を測定した。
反射率は、分光反射率測定器(島津製作所社製、商品名:UV-2450)を用いて、視野角2度、C光源、波長範囲380~780nmの条件で測定し、その後、人間が目で感じる明度として換算するソフト(装置内蔵UVPCカラー測定 Version3.12)で算出される、視感反射率を示す値を反射率として求めた。各サンプルについて14箇所の反射率の平均値を各サンプルの反射率とした。
【0114】
1-2.XPS分析
実施例及び比較例の反射防止部材から測定用片を切り出した。X線光電子分光分析装置を用いて、以下に記載する条件で各測定用片の低屈折率層表面のC1s軌道、O1s軌道、Si2p軌道、及び、F1s軌道のX線光電子スペクトルを測定した。各X線光電子スペクトルについてピーク分離を行い、C元素、O元素、F元素及びSi元素の比率を求めた。また、Si2p軌道のX線光電子スペクトルから、無機成分(シリカ)と有機成分(シリコーン)とをピーク分離し、シリカ粒子(中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子)に帰属するSi元素の比率(表中の「無機Si」)を求めた。各サンプルについて14箇所で測定を行い、更にサンプル数n=2で分析を行った。その平均を各実施例及び比較例の元素比率とした。また得られた元素比率から、上記で求めたシリカ粒子に帰属するSi元素の比率を100原子%と換算したときのC元素の比率(C/Si)を算出した。なお、表1及び表2には、O元素など、無機成分由来のSi元素(無機Si元素)、C元素及びF元素以外の元素を「その他の元素」として、その元素比率の合計を表記した。
<測定>
装置:Kratos製 AXIS-NOVA
X線源:AlKα
X線出力:150W
エミッション電流:10mA
加速電圧:15kV
測定領域:300×700μm
【0115】
1-3.表面粗さ
島津製作所製の原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)SPM‐9600を用い、ソフト:SPMマネージャーにおけるOn‐Line(測定)モード時に、1-1の測定で作製した実施例及び比較例のサンプルを用いて、低屈折率層表面の形状を測定した。下記に測定条件を示す。その後、Off‐Line(解析)モードを用いて、傾き補正処理を実施し、高さ:0nmを黒色、高さ:100nm以上を白色とした場合の諧調画像を得た。なお、測定範囲内で最も低い地点を「高さ0nm」とした。得られたAFM画像を解析して、各サンプルのRz(最大高さ粗さ)及びRa(算術平均粗さ)を得た。各サンプルについて14箇所のRz及びRz/Raの平均値を評価した。
<AFM測定条件>
測定モード:位相
走査範囲:5μm×5μm
走査速度:0.8~1Hz
画素数:512×512
使用したカンチレバー:ナノワールド社製NCHR(共鳴周波数:320kHz、ばね定数42N/m)
<AFM解析条件>
傾き補正:ラインフィット
【0116】
1-4.耐スチールウール試験
1-1で評価した反射防止部材を、低屈折率層を上面にして学振摩耗試験機(テスター産業(株)製、商品名「AB-301」)土台に貼り合わせた。スチールウール#0000(日本スチールウール(株)製、商品名「ボンスター B-204」)をセットして低屈折率層表面に接触させ、移動速度100mm/秒、1往復での移動距離200mm(片道移動距離100mm)にて、荷重をかけながらスチールウールを10回往復させた。スチールウールと低屈折率層との接触面積は1cmとした。なお、試験環境は、特記しない限り、温度23±1℃、相対湿度50±5%とした。上記ボンスターB-204は、横:約390mm、縦:約75mm、厚み:約110mmの業務用サイズである。ここから、適量をちぎりとり(切断するとスチールウール繊維の断面が突出するため刃物で切断しない)、特異なスチールウール突出部がない状態まで均一に丸める。そして荷重を1000gかけた場合、接触面積が1cmのときにスチールウールの厚みが20mmになるよう設定する。
その後、各反射防止部材について、蛍光灯下(Panasonic(株)製3波長蛍光灯、型番:FHF32EX-N-H、サンプル上の照度が800~1200Lx、観察距離30cm)、及び、LED照明下(ジェントス(株)製LEDライト、型番:TX-850Re、サンプル上の照度が4000~6000Lx、観察距離30cm)にて肉眼で観察し、傷の数を評価した。スチールウール耐性は、試験後に傷が観察されない(0個である)ときの単位面積当たりの最大荷重(g/cm)で表した。実施例及び比較例について、それぞれn=2で試験を行い、その平均を各実施例及び比較例のスチールウール耐性とした。
【0117】
1-5.耐オイルダスト試験
ACダスト(ISO12103-1、A2(Fine))とオリーブオイル(CAS No.8001-25-0)を1/1(重量比)で混合した試験液を調整した。
ウェス(アズワン(株)社製、商品名「アズピュアプロプレアII」)を折り畳んで8枚重ねにし、輪ゴムで棒状の金属部材(棒状端部面の形状が1cm×1cmの正方形)の先端にしっかりと取り付けた。棒状の金属部材のウェスを取り付けた側を上記試験液に浸漬させ、ウェスに上記試験液5gを端部面に満遍なく含ませ、擦過用の棒状金属部材を得た。
実施例及び比較例の反射防止部材を、低屈折率層が上面になるように試験台に貼り合わせた。前記擦過用の棒状金属部材に重りに取り付け、該棒状金属部材のウェス側を低屈折率層表面に接触させ、移動速度100mm/秒、1往復での移動距離200mm(片道移動距離100mm)にて、重りを10回往復させた。ウェスと低屈折率層との接触面積は棒状の金属部材の端部面の面積に概ね等しい約1cmである。なお、試験環境は、特記しない限り、温度23±1℃、相対湿度50±5%とした。
その後、実施例及び比較例の反射防止部材について、蛍光灯下(Panasonic(株)製3波長蛍光灯、型番:FHF32EX-N-H、サンプル上の照度が800~1200Lx、観察距離30cm)、及び、LED照明下(ジェントス(株)製LEDライト、型番:TX-850Re、サンプル上の照度が4000~6000Lx、観察距離30cm)にて肉眼で観察し、傷の数を評価した。荷重は重りの重さとして、オイルダスト耐性を、試験後に傷が観察されない(0個である)ときの単位面積当たりの最大荷重(g/cm)で表した。実施例及び比較例について、それぞれn=2で試験を行い、その平均を各実施例及び比較例のオイルダスト耐性とした。
【0118】
1-6.防汚性(指紋拭き取り性)
実施例及び比較例の反射防止部材の低屈折率層表面に指の腹を押し当て、指紋を付着させた。その後、不織布(旭化成社製、商品名:ベンコットン)を用いて、付着した指紋を拭取り、指紋の跡が見えなくなるまでの回数を評価した。3回までの拭取りで指紋が見えなくなるものを「A」、4~7回の拭取りで指紋が見えなくなるものを「B」、7回拭取っても指紋が見えるものを「C」とした。
【0119】
1-7.インデンテーション硬さ
実施例1,6,8及び比較例1,3~4の反射防止部材の低屈折率層について、Hysitron社製TriboIndenter TI950を用いて、下記の条件で荷重-変位曲線を計測した。装置付属の解析ソフト(TRIBOSCAN)を用いて、得られた荷重-変位曲線からインデンテーション硬さを取得した。各サンプルについて16箇所で測定を行い、更にサンプル数n=2で分析を行った。得られた数値の平均を、各実施例及び比較例のインデンテーション硬さとした。
【0120】
<インデンテーション硬さ測定条件>
・使用圧子:バーコビッチ圧子(TI-0039)
・押し込み条件:変位制御方式
・最大押込み深さ:30nm
・荷重印加時間:3秒間(速度:10nm/sec)
・保持時間:5秒間
・荷重除荷時間:3秒間(速度:10nm/sec)
・押込み速度:10nm/sec
【0121】
1-8.復元率
実施例1,6,8及び比較例1,3~4の反射防止部材の低屈折率層について、Hysitron社製TriboIndenter TI950を用いて、下記の条件で荷重-変位曲線を計測した。得られた荷重-変位曲線から、復元率を算出した。各サンプルについて16箇所で測定を行い、更にサンプル数n=2で分析を行った。得られた数値の平均を、各実施例及び比較例の復元率とした。
【0122】
<復元率測定条件>
・使用圧子:バーコビッチ圧子(TI-0039)
・押し込み条件:荷重制御方式
・最大荷重:30μN
・荷重印加時間:3秒間(速度:10μN/sec)
・保持時間:5秒間
・荷重除荷時間:3秒間(速度:10μN/sec)
【0123】
2.塗布液の調製
下記処方のハードコート層形成用塗布液を作製した。
<ハードコート層形成用塗布液1>
・紫外線硬化型アクリレート含有組成物(日本化薬株式会社製、商品名「KAYARAD PET-30」、固形分100%) 22質量部
・紫外線硬化型アクリレート含有組成物(第一工業製薬株式会社社製、商品名「ニューフロンティアR-1403MB」、固形分80%) 17質量部
・フッ素系レベリング剤(DIC株式会社製、商品名「メガファック F―568」) 1質量部
・光重合開始剤(IGM Resins社製、商品名「Omnirad184」) 1質量部
・メチルイソブチルケトン 15質量部
・メチルエチルケトン 44質量部
【0124】
<ハードコート層形成用塗布液2>
・反応性シリカ微粒子(JSR(株)製、「Z7837」、固形分50%、反応性シリカ微粒子60%含有品) 10質量部
・ウレタンアクリレート(三菱ケミカル(株)製、「UV1700B」) 5.7質量部
・光重合開始剤(IGM Resins社製、商品名「Omnirad184」) 1質量部
・フッ素系レベリング剤(DIC株式会社製、商品名「メガファック F―568」) 1質量部
・メチルエチルケトン 3.3質量部
・メチルイソブチルケトン 2.3質量部
【0125】
下記処方の高屈折率層形成用塗布液を作製した。
<高屈折率層形成用塗布液1>
・PETA(日本化薬株式会社製、商品名「KAYARAD PET―30」、固形分100%) 0.15質量部
・高屈折率粒子(株式会社日本触媒製、商品名「ジルコスター」、固形分70%) 4.5質量部
・フッ素系レベリング剤(DIC株式会社製、商品名「メガファック F251」) 0.01質量部
・光重合開始剤(IGM Resins社製、商品名「Omnirad127」) 0.14質量部
・メチルイソブチルケトン 47.6質量部
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 47.6質量部
【0126】
<高屈折率層形成用塗布液2>
・PETA(日本化薬株式会社製、商品名「KAYARAD PET―30」、固形分100%) 0.68質量部
・高屈折率粒子(日揮触媒化成株式会社製、商品名「ELCOM V-4564」(五酸化アンチモン粒子含有)、固形分40.5%) 6.71質量部
・フッ素系レベリング剤(DIC株式会社製、商品名「メガファック F251」) 2.03質量部
・光重合開始剤(IGM Resins社製、商品名「Omnirad127」) 0.05質量部
・メチルイソブチルケトン 46.3質量部
・プロピレングリコールモノメチルエーテル 44.23質量部
【0127】
<高屈折率層形成用塗布液3>
・ITO微粒子のエタノール分散液(固形分20.5wt%) 20質量部
・PETA(日本化薬株式会社製、商品名「KAYARAD PET―30」、固形分100%) 1質量部
・ITO分散助剤(燐酸エステル系) 0.1質量部
・光重合開始剤(IGM Resins社製、商品名「Omnirad184」) 0.2質量部
・エタノール(固形分濃度4質量%となるように、添加量を調整)
【0128】
下記処方の低屈折率層形成用塗布液を作製した。
<低屈折率層形成用塗布液1>
中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子として以下のものを使用した。表1及び表2は、バインダー樹脂(固形分)を100質量部としたときの、中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子(中実シリカ粒子)の配合量(固形分)を質量部で表している。
(1)中空シリカ粒子
固形分20質量%の分散液、メタクリロイル基を有するシランカップリング剤で表面処理、平均粒子径75nm
(2)非中空シリカ粒子
固形分40質量%の中実シリカ粒子分散液、メタクリロイル基を有するシランカップリング剤で表面処理、平均粒子径7nm又は12.5nm
【0129】
バインダー樹脂としては、以下のものを使用した。表1及び表2は、固形分の割合を示す。
(3)バインダー樹脂
・TEGDA:ポリエチレングリコール(n≒4)ジアクリレート(2官能アクリレート)、東亜合成社製、商品名「M-240」
・PETA:ペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレート、日本化薬株式会社製、商品名「KAYARAD PET―30」
・DPHA:ジペンタエリスリトール(ヘキサ/ペンタ)アクリレート、 日本化薬株式会社製、商品名「KAYARAD DPHA」
・含フッ素化合物:(メタ)アクリロイル基、反応性を有するシラン単位、及びパーフルオロポリエーテル基を有するシラン単位を有する含フッ素化合物、固形分20質量%、溶剤:メチルイソブチルケトン、信越化学工業株式会社製、商品名「X-71-1203M」
【0130】
光重合開始剤及びレベリング剤としては、以下のものを使用した。表1及び表2は、バインダー樹脂(固形分)を100質量部としたときの固形分の割合を示す。
(4)光重合開始剤
IGM Resins社製、商品名「Omnirad127」 4.3質量部
(5)レベリング剤
(a)シリコーン系(Si系-1)レベリング剤:信越化学(株)社製、商品名「KP-420」 13質量部
(b)フッ素系レベリング剤1(F系-1):信越化学(株)社製、商品名「X-71-1203M」 13質量部
(c)フッ素系レベリング剤2(F系-2):DIC株式会社製、商品名「メガファック RS-81」 5質量部
【0131】
実施例1~8、及び、比較例1~2では、溶媒としてメチルイソブチルケトン及び1-メトキシ-2-プロピルアセテートを用いた。混合比率は、メチルイソブチルケトン/1-メトキシ-2-プロピルアセテート=68/32(質量比)とした。バインダー樹脂(固形分)を100質量部に対し、混合溶剤の配合量は14,867質量部とした。
比較例3~4では、溶媒としてメチルイソブチルケトン及び酢酸2-メトキシ-1-メチルエチルを用いた。混合比率は、メチルイソブチルケトン/酢酸2-メトキシ-1-メチルエチル=89/11(質量比)とした。バインダー樹脂(固形分)を100質量部に対し、混合溶剤の配合量は8,667質量部とした。
【0132】
<低屈折率層形成用塗布液2>
中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子として以下のものを使用した。表2は、バインダー樹脂(固形分)を100質量部としたときの、中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子(中実シリカ粒子)の配合量(固形分)を質量部で表している。
(1)中空シリカ粒子
固形分20質量%の分散液、メタクリロイル基を有するシランカップリング剤で表面処理、平均粒子径55nm
(2)非中空シリカ粒子
固形分30質量%の中実シリカ粒子分散液、メタクリロイル基を有するシランカップリング剤で表面処理、平均粒子径12.5nm
【0133】
バインダー樹脂としては、以下のものを使用した。表2は、固形分の割合を示す。
(3)バインダー樹脂
・PETA:ペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレート、日本化薬株式会社製、商品名「KAYARAD PET―30」
・DPHA:ジペンタエリスリトール(ヘキサ/ペンタ)アクリレート、 日本化薬株式会社製、商品名「KAYARAD DPHA」
【0134】
光重合開始剤及びレベリング剤としては、以下のものを使用した。表2は、バインダー樹脂(固形分)を100質量部としたときの固形分の割合を示す。
(4)光重合開始剤
IGM Resins社製、商品名「Omnirad127」 10質量部
(5)レベリング剤
(a)シリコーン系(Si系-2)レベリング剤:信越化学(株)社製、商品名「X-22‐164E」 10質量部
【0135】
溶媒として、メチルイソブチルケトン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルを用いた。混合比率は、メチルイソブチルケトン/プロピレングリコールモノメチルエーテル=60/40(質量比)とした。バインダー樹脂(固形分)を100質量部に対し、混合溶剤の配合量は5,000質量部とした。
【0136】
<低屈折率層形成用塗布液3>
中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子として以下のものを使用した。表2は、膜成分(固形分)を100質量部としたときの、中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子(中実シリカ粒子)の配合量(固形分)を質量部で表している。
(1)中空シリカ粒子
固形分20質量%のイソプロピルアルコール分散液、屈折率1.30、平均粒子径60nm
(2)非中空シリカ粒子
球状シリカゾル(中実シリカ粒子)、固形分25質量%のイソプロピルアルコール分散液、メタクリロイル基を有するシランカップリング剤で表面処理、平均粒子径10.5nm
【0137】
(3)膜成分
膜成分(SiO)の原料として、下記の反応性シランを用いた。
・3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
【0138】
光重合開始剤としては、以下のものを使用した。表2は、膜成分(固形分)を100質量部としたときの固形分の割合を示す。
(4)光重合開始剤
IGM Resins社製、商品名「Omnirad369」 8.9質量部
【0139】
低屈折率層形成用塗布液3は、以下の工程で作製した。
まず、中空シリカ粒子分散液、非中空シリカ粒子分散液及びイソプロピルアルコールを、20/8/25(質量比)の割合で混合し、シリカ粒子分散液を得た。
このシリカ粒子分散液に、反応性シラン(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)を滴下し、混合した。混合割合は、反応性シラン:シリカ粒子分散液=100:1432(質量比)とした。該混合液を撹拌しながら0.4M硝酸水溶液を滴下し、反応性シランを加水分解させた。加水分解後の混合液に、上記光重合開始剤及び溶媒(イソプロピルアルコール)を添加し、混合して、低屈折率層形成用塗布液3(固形分濃度3.5質量%)を得た。
【0140】
(実施例1,4~7、比較例1~2)
厚み80μmのアクリルフィルム(屈折率1.50)上に、上述の処方のハードコート層形成用塗布液1を塗布し、その後70℃×1分で乾燥し溶剤を揮発させた。続いて紫外線照射(100mJ/cm)し、ハードコート層(ドライ厚み10μm)を形成した。
ハードコート層上に上述の処方の高屈折率層形成用塗布液1を塗布し、その後70℃×1分で乾燥し溶剤を揮発させた。続いて紫外線照射(100mJ/cm)し高屈折率層を形成した(ドライ厚み150nm)。
高屈折率層上に、表1及び表2に示す処方の低屈折率層形成用塗布液1を塗布し、その後60℃×1分で乾燥し溶剤を揮発させた。続いて紫外線照射(200mJ/cm)し、低屈折率層(ドライ厚み100nm)を形成し、実施例1,4~7、及び、比較例1~2の反射防止部材を得た。
【0141】
(実施例2)
低屈折率層形成用塗布液1を塗布した後の乾燥条件を50℃×1分とした以外は、実施例1と同じ条件で各層を形成し、実施例2の反射防止部材を得た。
【0142】
(実施例3)
低屈折率層形成用塗布液1を塗布した後の乾燥条件を100℃×1分とした以外は、実施例1と同じ条件で各層を形成し、実施例3の反射防止部材を得た。
【0143】
(実施例8)
高屈折率層を形成しないこと以外は、実施例1と同じ条件で各層を形成し、実施例8の反射防止部材を得た。
【0144】
(比較例3)
厚み80μmのアクリルフィルム(屈折率1.50)上に、上述の処方のハードコート層形成用塗布液1を塗布し、その後70℃×1分で乾燥し溶剤を揮発させた。続いて紫外線照射(100mJ/cm)し、ハードコート層(ドライ厚み10μm)を形成した。
ハードコート層上に上述の処方の高屈折率層形成用塗布液2を塗布し、その後70℃×1分で乾燥し溶剤を揮発させた。続いて紫外線照射(100mJ/cm)し高屈折率層を形成した(ドライ厚み150nm)。
高屈折率層上に、表2に示す処方の低屈折率層形成用塗布液1を塗布し、その後60℃×1分で乾燥し溶剤を揮発させた。続いて紫外線照射(200mJ/cm)し、低屈折率層(ドライ厚み100nm)を形成し、比較例3の反射防止部材を得た。
【0145】
(比較例4)
高屈折率層を形成しないこと以外は、比較例3と同じ条件で各層を形成し、比較例4の反射防止部材を得た。
【0146】
(比較例5)
厚み80μmのアクリルフィルム(屈折率1.50)上に、上述の処方のハードコート層形成用塗布液2を塗布し、その後70℃×1分で乾燥し溶剤を揮発させた。続いて紫外線照射(50mJ/cm)し、ハードコート層(ドライ厚み12μm)を形成した。
ハードコート層上に上述の処方の低屈折率層形成用塗布液2を塗布し、その後70℃×1分で乾燥し溶剤を揮発させた。続いて紫外線照射(200mJ/cm)し、高屈折率層を形成した(ドライ厚み100nm)。
高屈折率層上に、上記処方の低屈折率層形成用塗布液2を塗布し、その後60℃×1分で乾燥し溶剤を揮発させた。続いて紫外線照射(200mJ/cm)し、低屈折率層(ドライ厚み100nm)を形成し、比較例5の反射防止部材を得た。
【0147】
(比較例6)
厚み80μmのアクリルフィルム(屈折率1.50)上に、上記処方のハードコート層形成用塗布液1を塗布し、その後70℃×1分で乾燥し溶剤を揮発させた。続いて紫外線照射(100mJ/cm)し、ハードコート層(ドライ厚み10μm)を形成した。
ハードコート層上に上述の処方の高屈折率層形成用塗布液3を塗布し、その後70℃×2分で乾燥し溶剤を揮発させた。続いて紫外線照射(100mJ/cm)し高屈折率層を形成した(ドライ厚み100nm)。
高屈折率層上に、上記処方の低屈折率層形成用塗布液3を塗布し、その後60℃×1分で乾燥し溶剤を揮発させた。続いて紫外線照射(200mJ/cm)し、低屈折率層(ドライ厚み105nm)を形成した。
続いて、ダイキン工業株式会社製「オプツールDSX-E(商標登録)」をダイキン工業株式会社製「デムナムソルベント SOL-1」で希釈した0.1wt%溶液を得た。この溶液を、バーコーターを用いて低屈折率層上に塗布し、120℃で1分間加熱し、厚み約2nmの被覆層を形成し、比較例6の反射防止部材を得た。
【0148】
(比較例7)
比較例7として、市販されているApple社製MacBook Pro(15インチ、2016モデル)を分解し、反射防止部材を取り出した。反射防止部材の表面(使用者側の面)について、評価/測定サイズに適宜カット/裁断し、1-2から1-6の評価及び測定を行った。
【0149】
【表1】
【0150】
【表2】

【0151】
表1の結果から、Si元素の比率が10.0原子%以上18.0原子%以下であり、かつ、Si元素の比率を100原子%と換算したときのC元素の比率(C/Si)が180原子%以上500原子%以下である実施例1~8の反射防止部材は、スチールウール耐性及びオイルダスト耐性等の耐擦傷性が良好であることが確認できる。図3に示すように、実施例1の反射防止部材は、低屈折率層中に中空シリカ粒子及び非中空シリカ粒子が均一に分散しているものであった。
【0152】
これに対し、表2に示すように比較例1~7の反射防止部材はいずれも、Si元素の比率及びC/Siが上記範囲を充足しないものであり、スチールウール耐性及びオイルダスト耐性等の耐擦傷性に劣るものであった。図4に示す比較例2の反射防止部材では、低屈折率層中の表面に中空シリカ粒子が露出していることから、中空シリカ粒子同士の空隙からスチールウールやオイルダストの砂が入り込みやすくなったことで、耐擦傷性が悪くなったと考えられる。また、図5に示す比較例5の反射防止部材では、低屈折率層中の表面に非中空シリカ粒子が露出していることから、擦傷によって非中空シリカ粒子が膜中から乖離しやすく、耐擦傷性が悪くなったと考えられる。
【0153】
なお、表中には示していないが、実施例1~8の低屈折率層のバインダー組成を変更し(例えば、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート/トリメチロールプロパンPO変性(n≒2)トリアクリレート=23/77混合物等)、かつ、溶剤の種類及び乾燥温度を調整することにより、Si元素の比率及びC/Siを上記範囲とした反射防止部材も同等の耐擦傷性を有するものであった。
【0154】
(実施例9~12)
実施例1と同じ反射防止部材を用い、表3に記載のように試験環境を変えて、耐スチールウール試験及び耐オイルダスト試験を実施した。その他の試験条件は、1-4及び1-5に記載の条件と同じとした。
【0155】
【表3】
【0156】
温度16~30℃、相対湿度30~70%は、反射防止部材を備える画像表示装置の一般的な使用環境に相当する。表3の結果から、本発明の反射防止部材は、使用環境が異なっていてもスチールウール耐性及びオイルダスト耐性がほとんど変化しないことが分かる。
【符号の説明】
【0157】
100,200 反射防止部材
110 透明基材
120 ハードコート層
130 低屈折率層
132 中空シリカ粒子
134 非中空シリカ粒子
140 高屈折率層
142 高屈折率微粒子
図1
図2
図3
図4
図5