(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177327
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】リチウム‐硫黄電池用正極及びこの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/136 20100101AFI20241212BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241212BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024173221
(22)【出願日】2024-10-02
(62)【分割の表示】P 2022533199の分割
【原出願日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0080757
(32)【優先日】2020-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ジフン・アン
(72)【発明者】
【氏名】テク・ギョン・キム
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は正極製造工程の乾燥時間を短縮することで、乾燥工程の費用を節減し、生産速度を改善させることができるリチウム‐硫黄電池用正極の製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明は集電体;及び前記集電体の少なくとも一面に形成される正極活物質層;を含むリチウム‐硫黄電池用正極において、前記正極活物質層は正極活物質及びバインダーを含み、前記正極活物質層はS
a(正極の算術平均表面粗さ)、S
z(正極の最大高さ粗さ)((i)1μm≦S
a≦5μm、(ii)10μm≦S
z≦60μm(前記S
aは正極表面凹凸構造の中間面から各凹凸部の最高地点及び最低地点までの距離の平均値で、前記S
zは正極の最低地点から最高地点までの距離を意味する))によって規定される表面特性を持つ、リチウム‐硫黄電池用正極及びこの製造方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体;及び
前記集電体の少なくとも一面に形成される正極活物質層;を含むリチウム‐硫黄電池用正極において、
前記正極活物質層は正極活物質及びバインダーを含み、
前記正極活物質層は下記Sa(正極の算術平均表面粗さ)、Sz(正極の最大高さ粗さ)によって規定される表面特性を持つ、リチウム‐硫黄電池用正極:
(i)1μm≦Sa≦5μm
(ii)10μm≦Sz≦60μm
(前記Saは正極表面凹凸構造の中間面から各凹凸部の最高地点及び最低地点までの距離の平均値で、前記Szは正極の最低地点から最高地点までの距離を意味する)
【請求項2】
前記集電体と前記正極活物質層との間の接着力が6.5gf/cmないし9.5gf/cmである、請求項1に記載のリチウム‐硫黄電池用正極。
【請求項3】
前記正極の気孔率(porosity)は50%ないし80%である、請求項1に記載のリチウム‐硫黄電池用正極。
【請求項4】
前記正極の硫黄ローディング量は1mAh/cm2ないし10mAh/cm2である、請求項1に記載のリチウム‐硫黄電池用正極。
【請求項5】
前記正極活物質は、硫黄元素、硫黄系列化合物、硫黄‐炭素複合体及びこれらの組み合わせからなる群から選択されたものを含む、請求項1に記載のリチウム‐硫黄電池用正極。
【請求項6】
(1)硫黄‐炭素複合体とバインダーを混合した後、水を投入して、正極活物質スラリーを製造する段階;
(2)前記正極活物質スラリーを集電体上に位置させた後、離型フィルムを覆って、集電体‐スラリー‐離型フィルム順の構造体を製造する段階;
(3)ロールプレス(Roll press)を使用して前記構造体を圧搾する段階;
(4)前記圧搾された構造体から離型フィルムを取り除いて正極を製造する段階;及び
(5)前記正極を乾燥させる段階;を含み、
前記(1)段階で正極活物質スラリーの固形分濃度は50質量%ないし70質量%である、リチウム‐硫黄電池用正極の製造方法。
【請求項7】
前記(1)段階は、硫黄‐炭素複合体とバインダーが90:10ないし98.5:1.5で混合する段階である、請求項6に記載のリチウム‐硫黄電池用正極の製造方法。
【請求項8】
前記(3)段階で前記ロールプレスのロールギャップ(Roll Gap)は100μmないし200μmである、請求項6に記載のリチウム‐硫黄電池用正極の製造方法。
【請求項9】
前記(5)段階は加熱させて乾燥する段階で、乾燥温度は40℃ないし90℃である、請求項6~8のいずれか一項に記載のリチウム‐硫黄電池用正極の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の正極を含む、リチウム‐硫黄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2020年7月1日付韓国特許出願第10‐2020‐0080757号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容を本明細書の一部として組み込む。
【0002】
本発明はリチウム‐硫黄電池用正極及びこの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
二次電池が活用される範囲が小型の携帯型電子機器から中大型の電気自動車(Electric vehicle;EV)、エネルギー貯蔵装置(Energy Storage System、ESS)、電気船舶などに拡張しながら、高容量、高エネルギー密度及び長い寿命を持つリチウム二次電池に対する需要が急増している。
【0004】
その中でもリチウム‐硫黄電池は「S‐S結合(Sulfur‐Sulfur Bond)」を持つ硫黄系列物質を正極活物質で、リチウム金属を負極活物質で使用する電池システムを意味する。前記正極活物質の主材料である硫黄は単位原子あたり低い重さを持ちながらも、資源が豊かで、需給が容易であり、安価であるため、電池の製造単価を下げることができるし、毒性がないので環境にやさしいという点で特性を持つ。
【0005】
特に、リチウム‐硫黄電池は理論放電容量が1,675mAh/g‐sulfurで、理論上では重さ対比2,600Wh/kgの高いエネルギー貯蔵密度を具現することができるので、現在研究されている他の電池システム(Ni‐MH電池:450Wh/kg、Li‐FeS電池:480Wh/kg、Li‐MnO2電池:1,000Wh/kg、Na‐S電池:800Wh/kg)及びリチウムイオン電池(250Wh/kg)の理論エネルギー密度に比べて非常に高い数値を持つので、現在まで開発されている中大型の二次電池市場で大きい注目を浴びている。
【0006】
前記リチウム‐硫黄電池は、正極、負極、分離膜及び電解液を基本的な構成要素とし、その中でも正極は正極活物質が電池性能に大きい影響を及ぼすことができるという点でリチウム‐硫黄電池の主要構成に該当する。前記正極は先ず、正極活物質にバインダー及び溶媒を添加して流動性のある形態の正極活物質スラリーを製造した後、前記スラリーを集電体上に塗布して乾燥することで製造することができる。
【0007】
ただし、従来リチウム‐硫黄電池の正極製造の際には流動性がある、すなわち、固形分濃度が低い正極活物質スラリーを使用するという点で、コーティング装備でコーティングした後、加熱乾燥する工程時間が長くて正極の生産速度が遅いという問題点があった。これを克服するために固形分濃度が高い正極活物質スラリーを使用する試みがあったが、高固形分濃度のスラリーの場合は流れ性がなく、既存のコーティング工程を通じて電極を製造しがたいという限界点が存在した。
【0008】
さらに、前記正極活物質スラリーの製造に関して、先行技術文献(論文)であるScience Advances、03 Jan 2020:Vol.6、no.1、eaay2757.は、硫黄/炭素複合体とバインダーが乾燥された(dry)状態で混合された混合物に水を投入してスラリーを製造する方法の場合、正極製造の際に正極活物質間のウェブ架橋結合(Web‐like bridging bond)またはリボン架橋結合(Ribbon‐like bridging bond)を形成し、活物質粒子の間の結合力を高めることができることを開示している。
【0009】
前記先行技術文献はスラリー製造方法による正極活物質粒子の間の結合構造特性について開示しているが、前記結合力をより改善させることができる正極活物質の具体的な固形分濃度については開示せず、流れ性のない高固形分濃度を持つスラリーを通じて正極を製造する方法について全然開示することができなかったという限界点があった。
【0010】
したがって、リチウム‐硫黄電池の正極乾燥工程の時間短縮によって生産速度を向上させて工程を効率化しながらも、正極活物質の間の結合力、正極の表面特性及び電池の容量と安定性を改善させることができるリチウム‐硫黄電池用正極及びこの製造方法に対する研究開発が必要な実情である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】(論文1)Science Advances、03 Jan 2020:Vol.6、no.1、eaay2757.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者は前記問題を解決するために、流れ性がない高固形分濃度の正極活物質スラリーを使用して正極製造時のロールプレスを利用した圧搾工程の適用について研究して本発明を完成した。
【0013】
したがって、本発明の目的は正極製造工程の乾燥時間を短縮することで、乾燥工程の費用を節減し、生産速度を改善させることができるリチウム‐硫黄電池用正極の製造方法を提供することである。これと共に、高固形分濃度の正極活物質の間の架橋結合を通じて正極の接着力を改善させ、正極表面の凹凸を小さくして表面特性及び電池の安定性を改善させることができるリチウム‐硫黄電池用正極及びこの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1側面によると、
集電体;及び前記集電体の少なくとも一面に形成される正極活物質層;を含むリチウム‐硫黄電池用正極において、前記正極活物質層は正極活物質及びバインダーを含み、前記正極活物質層は下記Sa(正極の算術平均表面粗さ)、Sz(正極の最大高さ粗さ)によって規定される表面特性を持つ(i)1μm≦Sa≦5μm(ii)10μm≦Sz≦60μm(前記Saは正極表面の凹凸構造の中間面から各凹凸部の最高地点及び最低地点までの距離の平均値で、前記Szは正極の最低地点から最高地点までの距離を意味する)、リチウム‐硫黄電池用正極を提供する。
【0015】
本発明の一具体例において、前記集電体と前記正極活物質層の間の接着力が6.5ないし9.5gf/cmである。
【0016】
本発明の一具体例において、前記正極の気孔率(porosity)は50ないし80%である。
【0017】
本発明の一具体例において、前記正極の硫黄ローディング量は1ないし10mAh/cm2である。
【0018】
本発明の一具体例において、前記正極活物質は硫黄元素、硫黄系列化合物、硫黄‐炭素複合体及びこれらの組み合わせからなる群から選択されたものを含むことができる。
【0019】
本発明の第2側面によると、
(1)硫黄‐炭素複合体とバインダーを混合した後、水を投入して正極活物質スラリーを製造する段階;(2)前記正極活物質スラリーを集電体上に位置させた後、離型フィルムを覆って、集電体‐スラリー‐離型フィルム順の構造体を製造する段階;(3)前記構造体をロールプレス(Roll press)を使用して圧搾する段階;(4)前記圧搾された構造体から離型フィルムを取り除いて正極を製造する段階;及び(5)前記正極を乾燥させる段階;を含み、前記(1)段階で正極活物質スラリーの固形分濃度は50ないし70質量%である、リチウム‐硫黄電池用正極の製造方法を提供する。
【0020】
本発明の一具体例において、前記(1)段階は硫黄‐炭素複合体とバインダーが90:10ないし98.5:1.5で混合する段階である。
【0021】
本発明の一具体例において、前記(3)段階で前記ロールプレスのロールギャップ(Roll Gap)は100ないし200μmである。
【0022】
本発明の一具体例において、前記(5)段階は加熱させて乾燥する段階で、乾燥温度は40ないし90℃である。
【0023】
本発明の第3側面によると、前記正極を含むリチウム‐硫黄電池を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によるリチウム‐硫黄電池用正極は優れる表面特性によって凹凸が小さくて負極の不均一な成長及びデンドライト形成を防ぐことができるし、正極活物質の間のブリッジ(Bridge)形態の構造によって優れる接着力を効果として持つ。
【0025】
また、本発明によるリチウム‐硫黄電池用正極の製造方法は、工程上正極の乾燥時間を短縮させ、正極製造時の乾燥工程の費用節減及び正極生産速度を向上させることができる長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施例1及び2の正極製造工程の模式図を示すものである。
【
図2】本発明の実施例1で製造される高固形分の正極活物質スラリーを撮影した写真である。
【
図3】本発明の実施例1及び比較例1、2による正極製造時に乾燥時間による乾燥率を測定して示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例1ないし2及び比較例1、3ないし5による正極の算術平均表面粗さ(S
a)を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施例1ないし2及び比較例1、3ないし5による正極の最大高さ粗さ(S
z)を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施例1及び比較例1、3による正極の接着力を測定して示すグラフである。
【
図7】本発明の実施例1による正極の表面を撮影したSEMイメージである。
【
図8】本発明の実施例3及び比較例6によるリチウム‐硫黄電池の初期発現容量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明によって提供される具体例は下記説明によっていずれも達成されることができる。下記の説明は本発明の好ましい具体例を記述するものとして理解されるべきであり、本発明が必ずこれに限定されるものではないことを理解しなければならない。
【0028】
リチウム‐硫黄電池用正極
本発明による集電体;及び前記集電体の少なくとも一面に形成される正極活物質層;を含むリチウム‐硫黄電池用正極において、前記正極活物質層は正極活物質及びバインダーを含み、前記正極活物質層は下記Sa(正極の算術平均表面粗さ)、Sz(正極の最大高さ粗さ)によって規定される表面特性を持つ、リチウム‐硫黄電池用正極である。
【0029】
(i)1μm≦Sa≦5μm
(ii)10μm≦Sz≦60μm
(前記Saは正極表面の凹凸構造の中間面から各凹凸部の最高地点及び最低地点までの距離の平均値で、前記Szは正極の最低地点から最高地点までの距離を意味する)
【0030】
本明細書上で前記正極活物質層のSa(正極の算術平均表面粗さ)及びSz(正極の最大高さ粗さ)はISO 25178(Geometric Product Specifications(GPS)‐Surface texture:areal)標準に基づいて測定されることができる。
【0031】
前記標準によって、Sa(正極の算術平均表面粗さ)は下記のように定義されることができる。
【0032】
【0033】
(前記数式1において、Saは正極の算術平均表面粗さ、Aは測定面積、z(x、y)は高さプロファイルである)
【0034】
前記標準によって、Sz(正極の最大高さ粗さ)は下記のように定義されることができる。
【0035】
【0036】
(前記数式2において、Szは正極の最大高さ粗さ、z(x、y)は高さプロファイルである)
【0037】
前記正極活物質層のSa(正極の算術平均表面粗さ)は1μm以上、1.5μm以上、2μm以上、2.5μm以上、3μm以上、3.5μm以上または4μm以上であってもよく、5μm以下、4.9μm以下、4.8μm以下、4.7μm以下、4.6μm以下または4.5μm以下であってもよい。前記範囲1μm未満の場合は、表面積が過度に小くなって正極活物質の反応性が減少する問題点が発生することがある。一方、前記5μmを超える場合は、正極の凹凸が大きく形成され、これは負極の不均一な成長を誘導することがあって、デンドライトの形成によって電池内部のショート及び発火など安定性関連問題を発生させることがある。
【0038】
前記正極活物質層のSz(正極の最大高さ粗さ)は10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、35μm以上、40μm以上、45μm以上または50μm以上であってもよく、60μm以下、59μm以下、58μm以下、57μm以下、56μm以下または55μm以下であってもよい。前記10μm未満の場合は、表面積が過度に小くなって正極活物質の反応性が減少する問題点が発生することがある。一方、前記60μmを超える場合は、正極の凹凸が大きく形成され、これは負極の不均一な成長を誘導することがあって、デンドライトの形成によって電池内部のショート及び発火など安定性関連問題を発生させることがある。
【0039】
前記集電体と前記正極活物質層との間の接着力が6.5gf/cm以上、7gf/cm以上または7.5gf/cm以上であってもよく、9.5gf/cm以下、9gf/cm以下、8.5gf/cmまたは8gf/cm以下であってもよい。
図7のSEMイメージを参考すれば、前記範囲を満たす場合は、正極活物質スラリーの間にバインダーが完全に溶解されないため、正極活物質粒子間の架橋結合(Bridging bond)形態の構造を形成し、正極活物質間の結合力を改善させることができて、優れる正極接着力を持つことができる。
【0040】
前記正極の気孔率(porosity)は50%以上、55%以上または60%以上であってもよく、80%以下、75%以下または70%以下であってもよい。前記50%未満の場合は、電池に適用する時に物質伝達抵抗が増加して電極の容量が減少することがある。前記80%を超える場合は、電池の体積あたりエネルギー密度が過度に減少する問題が発生することがある。
【0041】
前記リチウム‐硫黄電池用正極は、集電体;及び前記集電体の少なくとも一面に形成される正極活物質層;を含む。
【0042】
前記集電体は正極活物質を支持し、当該電池に化学的変化を引き起こさずに高い導電性を持つものであれば特に制限されるものではない。例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、パラジウム、焼成炭素、銅やステンレススチール表面にカーボン、ニッケル、銀などで表面処理したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが使われることができる。
【0043】
前記集電体はその表面に微細な凹凸を形成して正極活物質との結合力を強化させることができるし、フィルム、シート、ホイル、メッシュ、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態を使用することができる。
【0044】
前記正極活物質層は正極活物質及びバインダーを含む。
【0045】
前記正極活物質は硫黄元素、硫黄系列化合物、硫黄‐炭素複合体及びこれらの組み合わせからなる群から選択されたものを含むことができるし、好ましくは硫黄‐炭素複合体を含むことができる。
【0046】
前記正極活物質に含まれる硫黄の場合、単独では電気伝導性がないため、炭素材のような伝導性素材と複合化して使用されることができる。これによって、前記硫黄は硫黄‐炭素複合体の形態で含まれることができる。
【0047】
前記正極の硫黄ローディング量は1ないし10mAh/cm2、好ましくは2ないし8mAh/cm2、より好ましくは3ないし6mAh/cm2である。
【0048】
前記硫黄‐炭素複合体に含まれる炭素は多孔性炭素材で前記硫黄が均一で安定的に固定されることができる骨格を提供し、硫黄の低い電気伝導度を補完して電気化学的反応が円滑に行われるようにする。
【0049】
前記多孔性炭素材は一般的に多様な炭素材質の前駆体を炭化させて製造されることができる。前記多孔性炭素材は内部に一定しない気孔を含み、前記気孔の平均直径は1ないし200nm範囲であり、気孔率または孔隙率は多孔性炭素材全体体積の10ないし90%範囲である。もし前記気孔の平均直径が前記範囲未満の場合、気孔の大きさが分子水準に過ぎないため硫黄の含浸が不可能であり、これと逆に前記範囲を超える場合、多孔性炭素材の機械的強度が弱化されて電極の製造工程に適用するに好ましくない。
【0050】
前記多孔性炭素材の形態は、球形、棒形、針状、板状、チューブ型またはバルク型で、リチウム‐硫黄電池に通常使われるものであれば制限されずに使われることができる。
【0051】
前記多孔性炭素材は、多孔性構造であるか、または比表面積が高いもので、当業界で通常使われるものであれば、いずれもかまわない。例えば、前記多孔性炭素材では、グラファイト(graphite);グラフェン(graphene);デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;単一壁炭素ナノチューブ(SWCNT)、多重壁炭素ナノチューブ(MWCNT)などの炭素ナノチューブ(CNT);グラファイトナノファイバー(GNF)、カーボンナノファイバー(CNF)、活性化炭素ファイバー(ACF)などの炭素繊維;天然黒鉛、人造黒鉛、膨脹黒鉛などの黒鉛及び活性炭素からなる群から選択された1種以上であってもよいが、これに制限されない。
【0052】
前記硫黄‐炭素複合体の製造方法は本発明で特に限定せず、当業界で通常使われる方法が利用されることができる。
【0053】
前記正極は前記正極活物質以外に遷移金属元素、IIIA族元素、IVA族元素、これらの元素の硫黄化合物及びこれらの元素と硫黄との合金の中で選択される一つ以上の添加剤をさらに含むことができる。
【0054】
前記遷移金属元素では、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、AuまたはHgなどが含まれ、前記IIIA族元素ではAl、Ga、In、Tiなどが含まれ、前記IVA族元素ではGe、Sn、Pbなどが含まれることができる。
【0055】
前記バインダーは正極活物質を集電体に維持させ、正極活物質の間を有機的に連結させてこれらの間の結着力をより高めるもので、当該業界で公知された全てのバインダーを使用することができる。
【0056】
例えば、前記バインダーはポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルピロリドン、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリル‐ブチジエンゴム、スチレン‐イソプレンゴム、カルボキシメチルセルロース及びこれらの組み合わせからなる群から選択されたものを含むことができる。
【0057】
また、バインダーでカルボキシメチルセルロースにリチウムイオンが置換されたLi‐CMC(Lithium Carboxymethyl Cellulose)を含むことができる。カルボキシメチルセルロース(CMC)は電池駆動の際にカルボキシ基に含まれた水素イオンによる水素気体発生によって爆発の危険性があり、水素イオン(H+)の代わりにナトリウムイオン(Na+)が置換されたNa‐CMC(Sodium carboxymethyl cellulose)の場合はナトリウムイオンによる寿命特性低下が発生することがある一方、バインダーでLi‐CMCを使用する場合は、相対的に優れる安定性及び寿命特性が改善された効果を示すことができる。
【0058】
前記正極活物質層は導電材をさらに含むことができる。
【0059】
前記導電材は電解液と正極活物質を電気的に連結させて集電体(current collector)から電子が正極活物質まで移動する経路の役目をする物質であって、導電性を持つものであれば制限されずに使用することができる。
【0060】
例えば、前記導電材では、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;スーパーP(Super‐P)、デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素ナノチューブ、フラーレンなどの炭素誘導体;炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン;アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末またはポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロールなどの伝導性高分子を単独で、または混合して使用することができる。
【0061】
前記正極活物質層を形成するための正極活物質スラリーは溶媒をさらに含むことができる。
【0062】
前記溶媒では、正極活物質、導電材及びバインダーを均一に分散させることができるものを使用することができる。このような溶媒では、水系溶媒として水が最も好ましく、この時、水は蒸溜水(distilled water)、脱イオン水(deionzied water)である。ただし、必ずこれに限定するものではなく、必要な場合、水と容易に混合可能な低級アルコールが使われることができる。前記低級アルコールでは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及びブタノールなどがあり、好ましくは、これらは水とともに混合して使われることができる。
【0063】
リチウム‐硫黄電池用正極の製造方法
本発明によるリチウム‐硫黄電池用正極の製造方法は、
(1)硫黄‐炭素複合体とバインダーを混合した後、水を投入して、正極活物質スラリーを製造する段階;(2)前記正極活物質スラリーを集電体上に位置させた後、離型フィルムを覆って、集電体‐スラリー‐離型フィルム順の構造体を製造する段階;(3)前記構造体をロールプレス(Roll press)を使用して圧搾する段階;(4)前記圧搾された構造体から離型フィルムを取り除いて正極を製造する段階;及び(5)前記正極を乾燥させる段階;を含み、前記(1)段階で正極活物質スラリーの固形分濃度は50ないし70質量%である。
【0064】
前記リチウム‐硫黄電池用正極の製造方法は、(1)硫黄‐炭素複合体とバインダーを混合した後、水を投入して、正極活物質スラリーを製造する段階;を含む。
【0065】
前記(1)段階は、硫黄‐炭素複合体とバインダーが90:10ないし98.5:1.5、好ましくは93:7ないし98:2、より好ましくは96:4ないし97.5:2.5で混合する段階である。前記範囲未満の場合は、正極活物質スラリーが離型フィルムから落ちないため、正極を製作するに問題が発生することがある。一方、前記範囲を超える場合は、バインダーの含量が低くなることによって集電体から正極活物質層が脱離される問題が発生することがある。
【0066】
前記(1)段階の正極活物質スラリーを製造する段階では、硫黄‐炭素複合体及びバインダー混合物に導電材を投入する段階をさらに含むことができる。具体的に、硫黄‐炭素複合体及びバインダーだけでなく導電材を一緒に混合し、水を投入して正極活物質スラリーを製造することができる。
【0067】
前記導電材は電解液と正極活物質を電気的に連結させて集電体(current collector)から電子が正極活物質まで移動する経路の役目をする物質であって、導電性を持つものであれば制限されずに使用することができる。
【0068】
例えば、前記導電材では天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛;スーパーP(Super‐P)、デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素ナノチューブ、フラーレンなどの炭素誘導体;炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン;アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末またはポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロールなどの伝導性高分子を単独で、または混合して使用することができる。
【0069】
本明細書において、固形分濃度はスラリー混合物から溶媒を除いた固体物質の質量分立で定義される。
【0070】
前記硫黄‐炭素複合体とバインダーを混合した後、水を投入して製造した正極活物質スラリーの固形分濃度は、50質量%以上、52質量%以上、54質量%以上、56質量%以上または58質量%以上であってもよく、70質量%以下、68質量%以下、66質量%以下、64質量%以下または62質量%以下であってもよい。前記固形分濃度が50質量%未満の場合、乾燥時間が長くなって正極の生産速度が低下することがある。一方、固形分濃度が70質量%を超える場合、正極活物質スラリーの接着力が落ちて正極を製作するに困難が発生することがある。
【0071】
前記リチウム‐硫黄電池用正極の製造方法は、(2)前記正極活物質スラリーを集電体上に位置させた後、離型フィルムを覆って、集電体‐スラリー‐離型フィルム順の構造体を製造する段階;を含む。
【0072】
前記離型フィルムは圧搾のためのロールプレス(Roll press)工程においてロール(Roll)に正極活物質スラリーが貼りついて落ちないことを防ぐためのものであって、ポリエチレンテレフタレート(PET、Polyethylene terephthalate)、ポリプロピレン(PP、Polypropylene)、高密度ポリエチレン(HDPE、High Density Polyethylene)、低密度ポリエチレン(LDPE、Low Density Polyethylene)素材の離型フィルムであってもよく、好ましくは前記高分子素材上にシリコーン(Silicone)またはフッ素系疎水性素材がコーティングされた離型フィルムであってもよいが、これに特に制限されるものではない。
【0073】
前記リチウム‐硫黄電池用正極の製造方法は、(3)前記構造体をロールプレス(Roll press)を使用して圧搾する段階;を含む。
【0074】
前記集電体‐スラリー‐離型フィルム順の構造体をロールプレスに通過させて高固形分濃度を持つ正極活物質スラリーをロールで圧搾させて一定した厚さを持つ正極を形成することができる。前記ロールプレスは平行な2つのロール(Roll)で構成されることができるし、前記ロールの間の間隔、すなわち、ロールギャップ(Roll Gap)を調節することで製造される正極のローディングを調節することができる。
【0075】
前記ロールプレスを使用した圧搾段階において、ロールギャップ(Roll Gap)は100μm以上、115μm以上、130μm以上または145μm以上であってもよく、200μm以下、185μm以下、170μm以下または155μm以下であってもよい。前記ロールギャップが100μm未満の場合は、正極活物質スラリーに含まれたロールギャップより粒子が大きい正極活物質によって正極が均一な厚さで形成されることができない問題点が発生することがある。一方、前記ロールギャップが200μmを超える場合は正極が過度に高いローディングを持つようになって正極表面に亀裂と脱離現象が酷くなることがある。
【0076】
前記リチウム‐硫黄電池用正極の製造方法は、(4)前記圧搾された構造体から離型フィルムを取り除いて正極を製造する段階;を含む。
【0077】
前記ロールプレスを通じた圧搾工程を通じて、正極活物質スラリーが均一な厚さで広がって正極を形成したので、最終的な乾燥工程を経る前に離型フィルムを取り除くことが必要である。離型フィルムを取り除くことなく乾燥する時は、加熱乾燥時間が増加されて、乾燥工程の費用が増加することはもちろん、正極製造工程の生産速度が低下されることがある。
【0078】
前記リチウム‐硫黄電池用正極の製造方法は、(5)前記正極を乾燥させる段階;を含むことができる。
【0079】
前記(5)段階は、正極活物質スラリーに含まれた水分を加熱させて乾燥する段階であって、好ましくはオーブンを通じて加熱乾燥させることができる。前記乾燥を通じて正極活物質スラリーに含まれた水分を取り除いて、最終的に正極を製造することができる。
【0080】
前記(5)段階において、乾燥温度は40℃以上、45℃以上または50℃以上であってもよく、90℃以下、85℃以下、80℃以下であってもよい。前記乾燥温度が40℃未満の場合は、正極の乾燥時間が長くなって乾燥時間の減少による乾燥工程費用の減少及び正極生産速度向上の効果を得がたい。一方、前記乾燥温度が90℃を超える場合は、正極活物質内の硫黄が昇華されて正極のローディングが減少する問題が発生することがある。
【0081】
リチウム‐硫黄電池
本発明によるリチウム‐硫黄電池は、正極;負極;前記正極と負極との間に介在される分離膜;及び電解液;を含むことができる。
【0082】
前記正極は本明細書で前述した内容にしたがう。
【0083】
前記負極は負極集電体及び前記負極集電体の一面または両面に塗布された負極活物質層を含むことができる。又は、前記負極はリチウム板金である。
【0084】
前記負極集電体は負極活物質層を支持するためのもので、電池に化学的変化を引き起こさずに高い導電性を持つものであれば特に制限せずに、銅、アルミニウム、ステンレススチール、亜鉛、チタン、銀、パラジウム、ニッケル、鉄、クロム、これらの合金及びこれらの組み合わせからなる群から選択されることができる。前記ステンレススチールは、カーボン、ニッケル、チタンまたは銀で表面処理されることができるし、前記合金ではアルミニウム‐カドミウム合金を使用することができるし、その他にも焼成炭素、導電材で表面処理された非伝導性高分子、または伝導性高分子などを使用することもできる。一般に、負極集電体では銅薄板を適用する。
【0085】
また、その形態は表面に微細な凹凸が形成された/未形成されたフィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態が使われることができる。
【0086】
前記負極活物質層は負極活物質以外に導電材、バインダーなどを含むことができる。この時、前記導電材及びバインダーは前述した内容にしたがう。
【0087】
前記負極活物質はリチウム(Li+)を可逆的に挿入(intercalation)または脱挿入(deintercalation)できる物質、リチウムイオンと反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成することができる物質、リチウム金属またはリチウム合金を含むことができる。
【0088】
前記リチウムイオン(Li+)を可逆的に挿入または脱挿入することができる物質は、例えば、結晶質炭素、非晶質炭素またはこれらの混合物である。前記リチウムイオン(Li+)と反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成することができる物質は、例えば、酸化スズ、窒化チタンまたはシリコーンである。前記リチウム合金は、例えば、リチウム(Li)とナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、アルミニウム(Al)及びスズ(Sn)からなる群から選択される金属の合金である。
【0089】
好ましくは、前記負極活物質はリチウム金属であってもよく、具体的に、リチウム金属薄膜またはリチウム金属粉末の形態である。
【0090】
前記負極活物質の形成方法は特に制限されないし、当業界で通常使われる層または膜の形成方法を利用することができる。例えば、圧搾、コーティング、蒸着などの方法を利用することができる。また、集電体にリチウム薄膜がない状態で電池を組み立てた後、初期充電によって板金上に金属リチウム薄膜が形成される場合も本発明の負極に含まれることができる。
【0091】
前記電解液は電池の電気化学的反応に関わるイオンが移動することができる媒質の役目をする非水性溶媒であれば、特に限定されない。例えば、前記溶媒は、カーボネート系、エステル系、エーテル系、ケトン系、アルコール系または非プロトン性溶媒を使用することができる。前記カーボネート系溶媒では、具体的にジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、またはブチレンカーボネート(BC)などが使われることができる。前記エステル系溶媒では、具体的にメチルアセテート、エチルアセテート、n‐プロピルアセテート、1,1‐ジメチルエチルアセテート、メチルプロピオネイト、エチルプロピオネイト、γ‐ブチロラクトン、デカノライド(decanolide)、バレロラクトン、メバロノラクトン(mevalonolactone)、カプロラクトン(carprolactone)などが使われることができる。前記エーテル系溶媒では、具体的にジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、テトラヒドロフラン、2‐メチルテトラヒドロフラン、またはポリエチレングリコールジメチルエーテルなどが使われることができる。前記ケトン系溶媒では、具体的にシクロヘキサノンなどが使われることができる。前記アルコール系溶媒では、具体的にエタノール、イソプロピルアルコールなどが使われることができる。前記非プロトン性溶媒では、具体的にアセトニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、1,3‐ジオキソラン(DOL)などのジオキソラン類、またはスルホラン(sulfolane)などが使われることができる。前記非水性有機溶媒は単独でまたは一つ以上混合して使われることができるし、一つ以上混合して使われる場合の混合の割合は、目的とする電池性能によって適切に調節することができる。特に、1,3‐ジオキソランとジメトキシエタンの1:1の体積比混合液が好ましい。
【0092】
前記電解液の注入は最終製品の製造工程及び要求物性に応じて、リチウム‐硫黄電池の製造工程中に適切な段階で行われることができる。すなわち、リチウム‐硫黄電池の組み立て前または組み立ての最終段階などで適用されることができる。
【0093】
前記正極と負極との間は通常的な分離膜が介在されることができる。前記分離膜は電極を物理的に分離する機能を持つ物理的な分離膜であって、通常の分離膜で使われるものであれば特に制限されずに使用可能であり、特に電解液のイオン移動に対して低抵抗でありながら電解液の含湿能力に優れるものが好ましい。
【0094】
また、前記分離膜は前記正極と負極とを互いに分離または絶縁させ、正極と負極との間にリチウムイオンの輸送をできるようにすることで多孔性非伝導性または絶縁性物質からなることができる。前記分離膜は通常リチウム‐硫黄電池で分離膜で使われるものであれば特に制限されずに使用可能である。前記分離膜はフィルムのような独立的な部材であってもよく、正極及び/または負極に付加されたコーティング層であってもよい。
【0095】
前記分離膜は多孔性基材からなることができるが、前記多孔性基材は通常リチウム‐硫黄電池に使われる多孔性基材であれば、いずれも使用可能であり、多孔性高分子フィルムを単独でまたはこれらを積層して使用することができるし、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布またはポリオレフィン系多孔性膜を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0096】
前記多孔性基材の材質では本発明で特に限定せずに、通常リチウム‐硫黄電池に使われる多孔性基材であれば、いずれも使用可能である。例えば、前記多孔性基材は、ポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)などのポリオレフィン(polyolefin)、ポリエチレンテレフタレート(polyethyleneterephthalate)、ポリブチレンテレフタレート(polybutyleneterephthalate)などのポリエステル(polyester)、ポリアミド(polyamide)、ポリアセタール(polyacetal)、ポリカーボネート(polycarbonate)、ポリイミド(polyimide)、ポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketone)、ポリエーテルスルホン(polyethersulfone)、ポリフェニレンオキサイド(polyphenyleneoxide)、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylenesulfide)、ポリエチレンナフタレン(polyethylenenaphthalate)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、セルロース(cellulose)、ナイロン(nylon)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾ―ル(poly(p‐phenylene benzobisoxazole)及びポリアリレート(polyarylate)からなる群から選択された1種以上の材質を含むことができる。
【0097】
前記多孔性基材の厚さは特に制限されないが、1ないし100μm 、好ましくは5ないし50μmである。前記多孔性基材の厚さ範囲が前述した範囲で限定されることはないが、厚さが前述した下限より薄すぎる場合は機械的物性が低下して電池使用中に分離膜が容易に損傷される。
【0098】
前記多孔性基材に存在する気孔の平均直径及び気孔率も特に制限されないが、それぞれ0.1ないし50μm 及び10ないし95%である。
【0099】
本発明によるリチウム‐硫黄電池は一般的な工程である巻取(winding)以外にも分離膜と電極の積層(lamination、stack)及びフォールディング(folding)工程が可能である。
【0100】
前記リチウム‐硫黄電池の形状は特に制限されないし、円筒状、積層型、コイン型など多様な形状にすることができる。
【0101】
以下、本発明を理解しやすくするために好ましい実施例を提示するが、下記実施例は本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、本発明がこれに限定されるものではない。
【0102】
リチウム‐硫黄電池用正極の製造:実施例1ないし2及び比較例1ないし5
[実施例1]
硫黄‐炭素複合体(S:C=70:30(質量比))97質量%及び固体パウダー形態のバインダーであるLi‐CMC(Lithium‐Carboxymethyl Cellulose)3質量%を混合した後、水を投入して固形分濃度が60質量%である正極活物質スラリーを製造した。
【0103】
前記製造された正極活物質スラリーをアルミニウム集電体の一面に位置させた後、スラリー上にPET離型フィルム(三菱、MRF‐125、厚さ125μm)を覆って、集電体‐スラリー‐離型フィルム順の構造体を製造した。以後、前記構造体をロールプレス(Roll‐Press)に投入してロールギャップ(Roll Gap)を120μmで調節しながら圧搾する過程を実施した。
【0104】
圧搾後、前記構造体から離型フィルムを取り除いて、オーブンに入れて50℃の温度で加熱乾燥を行い、気孔率が63%で硫黄ローディング量が3.65mAh/cm2である正極を製造した。
【0105】
[実施例2]
硫黄‐炭素複合体(S:C=75:25)、導電材である炭素繊維、固体パウダー形態のバインダーであるLi‐CMC(Lithium‐Carboxymethyl Cellulose)を92:5:3の質量比で混合した後、水を投入して固形分濃度が55質量%である正極活物質スラリーを製造した。
【0106】
前記正極活物質スラリーの製造方法を除いては、実施例1と同様の方法で正極を製造し、気孔率が63%で、硫黄ローディング量が3.4mAh/cm2である正極を製造した。
【0107】
[比較例1]
硫黄‐炭素複合体(S:C=70:30(質量比))とバインダーである2wt%濃度のLi‐CMC(Lithium Carboxymethyl Cellulose)水溶液を硫黄‐炭素複合体とLi‐CMC固形分の質量比が97:3になるように混合した後、さらに水を投入して固形分濃度が30質量%である正極活物質スラリーを製造した。
【0108】
以後、前記正極活物質スラリーをアルミニウム集電体の一面にブレードコーター(Blade coater)(Mathis Switzerland、SV‐M)を利用してコーティングし、50℃のオーブンで乾燥することを除いては、実施例1と同様の方法でリチウム‐硫黄電池用正極を製造し、この時製造された正極の気孔率は78%であった。
【0109】
[比較例2]
離型フィルムを取り除かない状態で加熱乾燥させたことを除いては、実施例1と同様にリチウム‐硫黄電池用正極を製造した。
【0110】
[比較例3]
比較例1を通じて製造された正極をロールプレス(Roll‐Press)に投入してロールギャップ(Roll Gap)を50μmで調節しながら追加圧搾過程を実施してリチウム‐硫黄電池用正極を製造し、この時製造された正極の気孔率は63%であった。
【0111】
[比較例4]
硫黄‐炭素複合体(S:C=75:25(質量比))、導電材である炭素繊維、バインダーである2wt%濃度のLi‐CMC(Lithium Carboxymethyl Cellulose)水溶液を質量比が92:5:3になるように混合した後、さらに水を投入して固形分濃度が30質量%である正極活物質スラリーを製造した。
【0112】
前記正極活物質スラリーの製造方法を除いては、比較例1と同様の方法で正極を製造し、気孔率が69%で、硫黄ローディング量が3.4mAh/cm2である正極を製造した。
【0113】
[比較例5]
比較例4を通じて製造された正極をロールプレス(Roll‐Press)に投入してロールギャップ(Roll Gap)を50μmで調節しながら追加圧搾過程を実施してリチウム‐硫黄電池用正極を製造し、この時製造された正極の気孔率は63%であった。
【0114】
リチウム‐硫黄電池の製造:実施例3及び比較例6
[実施例3]
前記実施例2を通じて製造された正極と45μm厚さのリチウム金属である負極を互いに対面するように位置させた後、厚さ20μm及び気孔率46%のポリエチレン分離膜を正極と負極の間に介在した。
【0115】
また、電解液で溶媒は1,3‐ジオキソラン(DOL)/ジメトキシエタン(DME)(1:1、v/v)を使用し、1M LiTFSI、3質量%の硝酸リチウム(LiNO3)を注入して、コインセルタイプのリチウム‐硫黄電池を製造した。
【0116】
[比較例6]
比較例5を通じて製造された正極を使ったことを除いて、実施例3と同様にコインセルタイプのリチウム‐硫黄電池を製造した。
【0117】
実験例1:リチウム‐硫黄電池用正極製造時の乾燥時間測定
前記実施例1及び比較例1、2の正極製造時の正極活物質スラリーの溶媒を取り除くために必要な乾燥時間(分)と乾燥率(%)を測定し、その結果を
図3のように示す。
【0118】
具体的に乾燥率の場合、経時による残留水分の質量を測定して下記式を利用して計算した。
【0119】
乾燥率(%)=(1‐((残留水分の質量)/(初期水分の質量)))×100
【0120】
図3のように、実施例1の場合は35分でスラリーに含まれた溶媒の95%以上を取り除いたことに対して、比較例1は同一乾燥率を達成するために60分が所要された。また、離型フィルムを覆った状態で乾燥した比較例2は実施例1と比較例1と対比して乾燥速度が相対的にもっと遅いということが分かった。
【0121】
前記結果を通じて固形分濃度が50ないし70質量%であるスラリーを使用してロールプレス工程を適用して正極を製造した実施例1の場合、比較例1、2と対比して著しく乾燥時間が短縮されたことを確認することができた。
【0122】
実験例2:リチウム‐硫黄電池用正極の表面特性測定
前記実施例1ないし2及び比較例1、3ないし5を通じて製造された正極に対して、測定機(KEYENCE、VK‐X150)を使用して表面粗さを測定した。これを通じて、S
a(正極の算術平均表面粗さ(arithmetic mean height:正極表面凹凸構造の中間面から各凹凸部の最高地点及び最低地点までの距離の平均値)、S
z(正極の最大高さ粗さ(maximum height):正極の最低地点から最高地点までの距離)を測定し、下記表1及び
図4、5のように示す。
【0123】
【0124】
前記表1のように、50ないし70質量%の高固形分濃度を持つスラリーを使用してロールプレス工程を適用して正極を製造した実施例1及び2の場合、低固形分濃度のスラリーを使用して正極を製造した比較例1または比較例3ないし5に比べて表面粗さが小さくて凹凸が小さいし、表面がもっと平坦であるということを確認することができた。
【0125】
これを通じて、実施例1及び2を通じて製造された正極の場合、相対的に表面に凹凸が小さくて負極の不均一な成長やデンドライトの形成を防ぐことで、電池の安定性を改善することができるということが分かった。
【0126】
実験例3:リチウム‐硫黄電池用正極の接着力測定
前記実施例1及び比較例1、3を通じて製造された正極を100mm×20mmの大きさで裁断した後、両面テープ(3M 9070)を利用してスライドガラス(Slide glass)に電極面で接着し、ラミネーター(GMP、PHOTONEX‐SYNC325)を使用して剥離試験(Peel test)用サンプルを製造した。
【0127】
前記剥離試験用サンプルに対して接着力測定が可能な万能試験機(AMETEK、LS1)を利用して90゜剥離試験を行い、掛かる剥離抵抗(gf/cm)を測定して各電極の接着力を計算し、下記表2及び
図6のように示す。
【0128】
【0129】
また、実施例1の正極活物質に対して走査電子顕微鏡(SEM)(JEOL、JSM‐7200F)を利用して撮影したイメージを
図7に示す。
【0130】
前記結果を通じて実施例1のように50ないし70質量%の高固形分濃度を持つ正極活物質スラリーの場合、バインダーに完全に溶解されなくて活物質の間のブリッジ(Bridge)形態の構造を持つことで正極の接着力が改善されたことを確認することができた。
【0131】
実験例4:リチウム‐硫黄電池の初期発現容量測定
実施例3及び比較例6を通じて製造されたリチウム‐硫黄電池に対して、充・放電測定装置(PESC 05‐0.01、PNE Solution、Korea)を利用して2.5Vから1.8Vまでの初期放電容量を測定し、
図8にこれを示す。
【0132】
前記
図8の結果を通じて、実施例3のように50ないし70質量%の高固形分濃度を持つスラリーを使用してロールプレス工程を適用して製造した正極を含むリチウム‐硫黄電池の場合、比較例6のように低固形分濃度のスラリーを使用して正極を製造したリチウム‐硫黄電池と対比して正極製造工程上の乾燥時間の著しい短縮で乾燥工程の費用が節減され、正極生産速度が向上されても、同等な水準の初期発現容量を示すことを確認することができた。
【0133】
本発明の単純な変形ないし変更は、全て本発明の領域に属するものであり、本発明の具体的な保護範囲は添付の特許請求範囲によって明確になる。
【手続補正書】
【提出日】2024-10-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体;及び
前記集電体の少なくとも一面に形成される正極活物質層;を含むリチウム‐硫黄電池用正極において、
前記正極活物質層は正極活物質及びバインダーを含み、
前記正極活物質層は下記Sa(正極の算術平均表面粗さ)、Sz(正極の最大高さ粗さ)によって規定される表面特性を持つ、リチウム‐硫黄電池用正極:
(i)1μm≦Sa≦2.463μm
(ii)10μm≦Sz≦45.05μm
(前記Saは正極表面凹凸構造の中間面から各凹凸部の最高地点及び最低地点までの距離の平均値で、前記Szは正極の最低地点から最高地点までの距離を意味する)
【請求項2】
前記集電体と前記正極活物質層との間の接着力が6.5gf/cmないし9.5gf/cmである、請求項1に記載のリチウム‐硫黄電池用正極。
【請求項3】
前記正極の気孔率(porosity)は50%ないし80%である、請求項1に記載のリチウム‐硫黄電池用正極。
【請求項4】
前記正極の硫黄ローディング量は1mAh/cm2ないし10mAh/cm2である、請求項1に記載のリチウム‐硫黄電池用正極。
【請求項5】
前記正極活物質は、硫黄元素、硫黄系列化合物、硫黄‐炭素複合体及びこれらの組み合わせからなる群から選択されたものを含む、請求項1に記載のリチウム‐硫黄電池用正極。
【外国語明細書】