(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177328
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】金属炭化物の製造方法、金属炭化物粉末、及び金属炭化物中間体分散液
(51)【国際特許分類】
C01B 32/914 20170101AFI20241212BHJP
【FI】
C01B32/914
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024173222
(22)【出願日】2024-10-02
(62)【分割の表示】P 2024522332の分割
【原出願日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2022159562
(32)【優先日】2022-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094536
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 隆二
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100189315
【弁理士】
【氏名又は名称】杉原 誉胤
(72)【発明者】
【氏名】松尾 賢
(72)【発明者】
【氏名】荷方 惣一朗
(72)【発明者】
【氏名】元野 隆二
(72)【発明者】
【氏名】原 周平
(57)【要約】
【課題】極微粒でありながら、高い流動性を有する金属炭化物の製造方法、及び金属炭化物粉末を提供する。
【解決手段】本発明の金属炭化物の製造方法は、錯体重合法を用いた粉末形状である金属炭化物の製造方法であって、金属水酸化物とアルカリ性化合物とを混合して第1混合液を生成し、第1混合液に過酸化水素を添加して第2混合液を生成し、さらに第2混合液に有機酸を添加して金属炭化物前駆体を生成する錯化工程と、金属炭化物前駆体を焼成することにより、金属炭化物を生成する炭化工程と、金属炭化物を解砕し、金属炭化粉末を形成する粉末化工程とを、有する。本発明の金属炭化物粉末は、BET法による比表面積が1m2/g以上であり、且つ真円度が0.78以上である。本発明の金属炭化物中間体分散液は、金属化合物と、アルカリ性化合物と、過酸化水素と、有機酸とを有し、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による金属炭化物中間体分散液中の粒子の粒子径(D50)が1000nm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化合物と、アルカリ性化合物と、過酸化水素と、有機酸と、を有し、
動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による前記金属炭化物中間体分散液中の粒子の粒子径(D50)が1000nm以下であることを特徴とする金属炭化物中間体分散液。
【請求項2】
前記金属炭化物中間体分散液の波長350nm以上750nm以下における光透過度の最大値が70%以上であることを特徴とする請求項1に記載の金属炭化物中間体分散液。
【請求項3】
金属化合物と、アルカリ性化合物と、過酸化水素と、有機酸と、を有し、
動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による前記金属炭化物中間体分散液中の粒子の粒子径(D50)が1000nm以下であり、且つ前記金属炭化物中間体分散液の波長350nm以上750nm以下における光透過度の最大値が70%以上であることを特徴とする金属炭化物中間体分散液。
【請求項4】
前記金属化合物が、金属水酸化物であることを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載の金属炭化物中間体分散液。
【請求項5】
前記有機酸が、クエン酸、酒石酸、乳酸であることを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載の金属炭化物中間体分散液。
【請求項6】
前記金属水酸化物が、水酸化タンタル、およびまたは、水酸化ニオブであることを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載の金属炭化物中間体分散液。
【請求項7】
pHが3.0以上10.0以下であることを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載の金属炭化物中間体分散液。
【請求項8】
前記有機酸と前記金属化合物とのモル比が0超~500であり、前記過酸化水素と前記金属化合物とのモル比が0超~10であり、前記アルカリ性化合物と前記金属化合物とのモル比が0超~100であることを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載の金属炭化物中間体分散液。
【請求項9】
前記金属炭化物中間体分散液の溶剤が、水であることを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載の金属炭化物中間体分散液。
【請求項10】
前記金属炭化物中間体分散液中のTa換算のタンタル含有量が0.4質量%以上、又はNb換算のニオブ含有量が0.35質量%以上であることを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載の金属炭化物中間体分散液。
【請求項11】
請求項1~3の何れか1つに記載の金属炭化物中間体の製造方法であって、
金属水酸化物とアルカリ性化合物とを混合して第1混合液を生成し、前記第1混合液に過酸化水素を添加して第2混合液を生成し、さらに前記第2混合液に有機酸を添加して前記金属炭化物前駆体を生成する錯化工程と、
前記金属炭化物前駆体を純水に分散させた金属炭化物中間体を生成する溶解工程と、
を有することを特徴とする金属炭化物中間体の製造方法。
【請求項12】
前記錯化工程により生成した前記金属炭化物前駆体を乾燥する乾燥工程を有することを特徴とする請求項11に記載の金属炭化物中間体の製造方法。
【請求項13】
前記乾燥工程により乾燥した前記金属炭化物前駆体を解砕する解砕工程を有することを特徴とする請求項12に記載の金属炭化物中間体の製造方法。
【請求項14】
前記金属水酸化物が、水酸化タンタル、又は水酸化ニオブであることを特徴とする請求項11に記載の金属炭化物中間体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属炭化物の製造方法、金属炭化物粉末、及び金属炭化物中間体分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化タンタルや、炭化ニオブといった金属炭化物は、バイト、チップ、カッター、ドリル、ダイスなどの超硬切削工具の原料である炭化タングステン等への添加剤として、広く利用されており、高品質な超硬切削工具を製造する上で、炭化タングステンとの混合性能が良いことが求められている。添加剤として用いられる炭化タンタルとして、特許文献1には、粉末の凝集が少なく、微粒で均粒であり、且つ化学量論的に充分に炭素と結合した酸素含有量の少ない炭化タンタル粉末が開示されている。
【0003】
また、金属炭化物を、炭素やセラミックス製の基材の表面に膜を形成した場合、基材の熱分解の抑制、例えば炭素材料の加熱時の酸化を保護する保護膜として機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、粒子が極微粒であると、凝集等により流動性が悪くなり、混合性も悪くなると考えられていた。また、特許文献1に開示されたような、金属酸化物とカーボンブラックとの混合物を熱処理(焼成法)し、造粒する金属炭化物の製造方法では、製造された炭化タンタル粉末、及び炭化タンタル-ニオブ複合粉末の真円度が低くなる。さらに、造粒後に、粉砕工程を行うことにより、さらに真円度が低下する。このように、粒子が極微粒であって、真円度が低い金属炭化物は、流動性が悪くなることから、炭化タングステン等の超硬切削工具の原料との混合性が悪化し、均質な超硬化材料とならず、そのような原料から製造された超硬工具の性能が劣ったものとなっていた。
【0006】
また、基材の表面に膜を形成する場合も、真円度が高く、且つ流動性が高ければ、基材の表面に均一な膜を形成しやすくなる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて、真円度が高く、且つ流動性が高い金属炭化物の製造方法、金属炭化物粉末、及び金属炭化物中間体分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の金属炭化物の製造方法は、錯体重合法を用いた粉末形状である金属炭化物の製造方法であって、金属水酸化物とアルカリ性化合物とを混合して第1混合液を生成し、前記第1混合液に過酸化水素を添加して第2混合液を生成し、さらに前記第2混合液に有機酸を添加して金属炭化物前駆体を生成する錯化工程と、
前記金属炭化物前駆体を焼成することにより、金属炭化物を生成する炭化工程と、前記金属炭化物を解砕し、金属炭化粉末を形成する粉末化工程と、を有することを特徴とする。
なお、説明の便宜上、金属炭化物を解砕し、金属炭化粉末を形成する粉末化工程を有する本発明の金属炭化物の製造方法を、以下、本発明の金属炭化粉末の製造方法として説明する。
【0009】
本発明の金属炭化粉末の製造方法における錯化工程では、先ず以下に記述する金属水酸化物と、アルカリ性化合物とを混合して第1混合液を生成する。
【0010】
金属水酸化物は、タンタル、ニオブ、チタン、タングステン、モリブデン、及びジルコニウム等の水酸化物であると好ましい。特に、金属水酸化物は、水酸化タンタル、又は水酸化ニオブであると好ましい。
【0011】
例えば、水酸化タンタルは、水(例えば純水)を加えてタンタルをTa2O5換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。この際、タンタル濃度がTa2O5換算で1g/L以上であると、水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物となることから好ましく、生産性を考えた場合、10g/L以上がより好ましく、20g/L以上であるとさらに好ましい。他方、タンタル濃度がTa2O5換算で100g/L以下であれば、水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物になることから好ましく、より確実に水に溶けやすいタンタル酸化合物水和物を合成するには、90g/L以下であるとより好ましく、80g/L以下であるとさらに好ましく、70g/L以下であると特に好ましい。また、水酸化ニオブも、同様にニオブをNb2O5換算で1~100g/L含有するように調整すると好ましい。
【0012】
アルカリ性化合物は、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、及び有機窒素化合物の中から選ばれる1種以上の化合物であると好ましい。有機窒素化合物としては、例えばアミン化合物、4級アンモニウム化合物、グアニジン化合物、アゾール化合物などが挙げられ、アミン化合物または4級アンモニウム化合物であると好ましく、メチルアミン、ジメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)であるとより好ましい。また、アルカリ性化合物は、当該アルカリ性化合物を溶解したアルカリ性溶液でああってもよい。アルカリ性溶液として、特にアルカリ性水溶液、中でもアンモニア水であると好ましい。
【0013】
第1混合液中のアルカリ性化合物含有量は0質量%超50質量%未満であると好ましく、0.01質量%以上4質量%以下であるとより好ましい。反応性や、分散性の観点から、アルカリ性化合物の含有量が多い方が望ましい。一方、揮発性成分であるため、後工程での被膜形成時の揮発を抑える観点では、低含有量が望ましい。典型的には、当該アルカリ性化合物含有量は、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、8質量%以上、10質量%以上であってもよい。一方、当該アルカリ性化合物含有量は、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、10質量%以下であってもよい。
【0014】
第1混合液中のアルカリ性化合物含有量は、アルカリ性化合物/金属水酸化物のモル比により、表すことができる。アルカリ性化合物/金属水酸化物のモル比は0超100以下であると好ましく、0.001以上100以下であるとより好ましく、0.01以上50以下であるとさらに好ましく、0.1以上30以下であると特に好ましく、4以上20以下であるとより特に好ましい。典型的には、アルカリ性化合物/金属水酸化物のモル比は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、アルカリ性化合物/金属水酸化物のモル比は、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.1以下であってもよい。
【0015】
ここで、アルカリ性化合物/金属水酸化物のモル比におけるアルカリ性化合物は、第1混合液中のアルカリ性化合物の含有量を示す。また、2種以上のアルカリ性化合物を含有する場合、アルカリ性化合物の含有量は、これら2種以上のアルカリ性化合物の合計含有量である。一方、アルカリ性化合物/金属水酸化物のモル比における金属水酸化物は、第1混合液中の金属水酸化物の金属原子換算の含有量を示す。また、2種以上の金属水酸化物を含有する場合、金属水酸化物の金属原子換算の含有量は、これら2種以上の金属水酸化物の金属原子換算の合計含有量である。
【0016】
例えば、混合する金属水酸化物が水酸化タンタルの場合、アルカリ性化合物/Taのモル比は0超100以下であると好ましく、0.001以上100以下であるとより好ましく、0.01以上50以下であるとさらに好ましく、0.1以上30以下であると特に好ましく、4以上20以下であるとより特に好ましい。典型的には、アルカリ性化合物/Taのモル比は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、アルカリ性化合物/Taのモル比は、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.1以下であってもよい。
【0017】
また、混合する金属水酸化物が水酸化ニオブの場合、アルカリ性化合物/Nbのモル比は0超100以下であると好ましく、0.001以上100以下であるとより好ましく、0.01以上50以下であるとさらに好ましく、0.1以上30以下であると特に好ましく、4以上20以下であるとより特に好ましい。典型的には、アルカリ性化合物/Taのモル比は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、アルカリ性化合物/Nbのモル比は、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.1以下であってもよい。
【0018】
さらに、混合する金属水酸化物が水酸化ニオブ及び水酸化タンタルの場合、アルカリ性化合物とニオブ及びタンタルとのモル比:アルカリ性化合物/(Nb+Ta)は0超100以下であると好ましく、0.001以上100以下であるとより好ましく、0.01以上50以下であるとさらに好ましく、0.1以上30以下であると特に好ましく、4以上20以下であるとより特に好ましい。典型的には、アルカリ性化合物/(Nb+Ta)のモル比は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、アルカリ性化合物/(Nb+Ta)のモル比は、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.1以下であってもよい。
【0019】
また、アルカリ性化合物がアンモニアである場合、第1混合液中のアンモニア含有量は0質量%超50質量%未満であると好ましく、0.01質量%以上4質量%以下であるとより好ましい。反応性や、分散性の観点から、アンモニアの含有量が多い方が望ましい。一方、揮発性成分であるため、後工程での被膜形成時の揮発を抑える観点では、低含有量が望ましい。典型的には、当該アンモニア含有量は、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、8質量%以上、10質量%以上であってもよい。一方、当該アンモニア含有量は、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、10質量%以下であってもよい。
【0020】
第1混合液中のアンモニアの含有量は、NH3/金属水酸化物のモル比により、表すことができる。NH3/金属水酸化物のモル比は0超100以下であると好ましく、0.001以上100以下であるとより好ましく、0.01以上50以下であるとさらに好ましく、0.1以上30以下であると特に好ましく、4以上20以下であるとより特に好ましい。典型的には、NH3/金属水酸化物のモル比は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、NH3/金属水酸化物のモル比は、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.1以下であってもよい。
【0021】
アンモニアの含有量は、混合する金属水酸化物が水酸化タンタルの場合、NH3/Taのモル比は0超100以下であると好ましく、0.001以上100以下であるとより好ましく、0.01以上50以下であるとさらに好ましく、0.1以上30以下であると特に好ましく、4以上20以下であるとより特に好ましい。典型的には、NH3/Taのモル比は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、NH3/Taのモル比は、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.1以下であってもよい。
【0022】
また、混合する金属水酸化物が水酸化ニオブの場合、NH3/Nbのモル比は0超100以下であると好ましく、0.001以上100以下であるとより好ましく、0.01以上50以下であるとさらに好ましく、0.1以上30以下であると特に好ましく、4以上20以下であるとより特に好ましい。典型的には、NH3/Taのモル比は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、NH3/Nbのモル比は、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.1以下であってもよい。
【0023】
さらに、混合する金属水酸化物が水酸化ニオブ及び水酸化タンタルの場合、アンモニアとニオブ及びタンタルとのモル比:NH3/(Nb+Ta)は0超100以下であると好ましく、0.001以上100以下であるとより好ましく、0.01以上50以下であるとさらに好ましく、0.1以上30以下であると特に好ましく、4以上20以下であるとより特に好ましい。典型的には、NH3/(Nb+Ta)のモル比は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、NH3/(Nb+Ta)のモル比は、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.1以下であってもよい。
【0024】
本発明の金属炭化粉末の製造方法における錯化工程で用いられる溶剤としては、水や有機溶剤、及びそれらの混合溶剤が挙げられる。また、有機溶剤としては、アルコール溶剤、ケトン溶剤、エーテル溶剤、エステル溶剤、芳香族炭化水素溶剤、脂肪族炭化水素類溶剤等が挙げられ、これら有機溶剤と純水とを混合した溶剤であってもよい。また、アルコール溶剤としては、炭素数5以下のアルコール(メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール)、アセトン、高沸点溶剤などが挙げられる。上述した溶剤と水は相溶することが好ましい。
【0025】
高沸点溶剤として、多価アルコール系溶剤や、グリコール系溶剤が挙げられる。多価アルコール系溶剤とは、グリセリン(沸点:290℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点:250℃)、1,7-ヘプタンジオール(沸点:259℃)などが挙げられる。また、グリコール系溶剤とは、エチレングリコール(沸点:197.3℃)、プロピレングリコール(沸点:188.2℃)、ジエチレングリコール(沸点:244.3℃)、トリエチレングリコール(沸点:287.4℃)、オリゴエチレングリコール(沸点:287℃~460℃)、ポリエチレングリコール(PEG)(沸点:460℃以上)、ポリエチレングリコール(PEG)-ポリプロピレングリコール(PPG)コポリマー(沸点:460℃以上)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点:260℃)、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル(沸点:260℃以上)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(沸点:321℃以上)、その他アニオン性フッ素系界面活性剤(沸点:180℃以上)、両性フッ素系界面活性剤(沸点:180℃以上)、ノニオン性フッ素系界面活性剤(沸点:180℃以上)、アミンオキシド(沸点:180℃以上)などが挙げられる。上述した沸点は、1気圧における沸点である。
【0026】
また、本発明の金属炭化粉末の製造方法における錯化工程で用いられる溶剤は、ポリオレフィン系化合物や、ポリビニル系化合物等の樹脂を添加したものであってもよい。また、当該溶剤に添加される樹脂として、アニオン性水溶性樹脂、およびまたは、ノニオン性水溶性樹脂であってもよい。
【0027】
ここで、カチオン性水溶性樹脂とは、ポリマー中に、pH=7の水中にて正の電荷を有し、例えばアミノ基、イミノ基、3級アミン基、4級アンモニウム基、ヒドラジノ基の何れかの官能基を有する樹脂である。また、アニオン性水溶性樹脂とは、ポリマー中に、pH=7の水中にて負の電荷を有し、例えばカルボキシル基、スルホン基、硫酸エステル基、リン酸エステル基の何れかの官能基を有する樹脂である。さらに、ノニオン性水溶性樹脂とは、上述したカチオン性水溶性樹脂、又はアニオン性水溶性樹脂に該当せず、例えばポリマー中に、ヒドロキシ基、エーテル基、アミド基の何れかの官能基を有する樹脂である。
【0028】
さらに、これら樹脂が、アクリルポリマー、ウレタンポリマー、スチレンポリマー、オレフィンポリマー、アミドポリマー、シロキサンポリマー、エポキシポリマー、塩化ビニルポリマー、酢酸ビニルポリマーからなる群より選ばれる水溶性ホモポリマー、およびまたは、これら2種以上のポリマーからなる水溶性コポリマーを1種以上含むものであるとよい。特に、アクリルポリマー、スチレンポリマー、及びオレフィンポリマーの水溶性ホモポリマー、およびまたは、これら2種以上のポリマーからなる水溶性コポリマーを1種以上含むものであると好ましい。
【0029】
次に、本発明の金属炭化粉末の製造方法における錯化工程では、生成された第1混合液に、以下に記述する過酸化水素を添加して第2混合液を生成する。
【0030】
過酸化水素は、第2混合液中の含有量が0質量%超35質量%以下であると好ましく、0.001質量%以上30質量%以下であるとより好ましく、0.01質量%以上25質量%以下であるとさらに好ましく、0.1質量%以上20質量%以下であると特に好ましい。典型的には、当該過酸化水素の含有量は、0.005質量%以上、0.05質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、4質量%以上であってもよい。一方、当該過酸化水素の含有量は、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下であってもよい。
【0031】
第2混合液中の過酸化水素の含有量は、H2O2/金属水酸化物のモル比により、表すことができる。過酸化水素と金属水酸化物とのモル比H2O2/金属水酸化物が0超10以下であると好ましく、0.001以上3以下であるとより好ましく、0.01以上1以下であるとさらに好ましい。典型的には、モル比H2O2/金属水酸化物は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、モル比H2O2/金属水酸化物は、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下であってもよい。
【0032】
ここで、モル比H2O2/金属水酸化物におけるH2O2は、第2混合液中のH2O2の含有量を示す。一方、モル比H2O2/金属水酸化物における金属水酸化物は、第2混合液中の金属水酸化物の金属原子換算の含有量を示す。また、2種以上の金属水酸化物を含有する場合、金属水酸化物の金属原子換算の含有量は、これら2種以上の金属水酸化物の金属原子換算の合計含有量である。
【0033】
具体的には、混合する金属水酸化物が水酸化タンタルの場合、過酸化水素とタンタルとのモル比H2O2/Taが0超10以下であると好ましく、0.001以上3以下であるとより好ましく、0.01以上1以下であるとさらに好ましい。典型的には、モル比H2O2/Taは、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、モル比H2O2/Taは、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下であってもよい。
【0034】
また、混合する金属水酸化物が水酸化ニオブの場合、過酸化水素とニオブとのモル比H2O2/Nbが0超10以下であると好ましく、0.001以上3以下であるとより好ましく、0.01以上1以下であるとさらに好ましい。典型的には、モル比H2O2/Nbは、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、モル比H2O2/Nbは、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下であってもよい。
【0035】
さらに、混合する金属水酸化物が水酸化ニオブ及び水酸化タンタルの場合、過酸化水素とニオブ及びタンタルとのモル比H2O2/(Nb+Ta)が0超10以下であると好ましく、0.001以上3以下であるとより好ましく、0.01以上1以下であるとさらに好ましい。典型的には、モル比H2O2/(Nb+Ta)は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、モル比H2O2/(Nb+Ta)は、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下であってもよい。
【0036】
ここで、過酸化水素の添加については、アルカリ条件下で添加することにより、錯化反応が進みやすいことから、過酸化水素の添加前、金属水酸化物とアルカリ性化合物とを混合して、アルカリ性混合液である第1混合液を生成するとよい。
【0037】
そして、本発明の金属炭化粉末の製造方法における錯化工程では、生成された第2混合液に、以下に記述する有機酸を添加して金属炭化物前駆体を生成する
【0038】
有機酸として、カルボン酸、多官能性カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、及びアミノ酸が挙げられる。カルボン酸として、酪酸、ギ酸、酢酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、安息香酸等が挙げられる。多官能性カルボン酸として、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、マレイン酸、グルタル酸、クエン酸等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、乳酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられる。アミノ酸として、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、エチレンジアミン四酢酸等が挙げられる。特に、窒素原子を含まない有機酸が好ましく、例えばカルボン酸、多官能性カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸が好ましく、クエン酸、酒石酸、乳酸がより好ましい。また、多官能性カルボン酸がより好ましく、窒素原子を含まない有機酸であって、且つ多官能性カルボン酸であるクエン酸が最も好ましい。有機酸には、上述した化合物の各種異性体(構造異性体、光学異性体等)も含まれる。さらに、有機酸は、上述した化合物の1種以上の有機酸を用いてもよい。
【0039】
金属炭化物前駆体中の有機酸の含有量は、0質量%超100質量%未満であると好ましく、1質量%以上40質量%以下であるとより好ましく、3質量%以上15質量%以下であると好ましい。典型的には、有機酸の含有量は、0.1質量%以上、0.5質量%以上、2質量%以上、5質量%以上、8質量%以上、10質量%以上であってもよい。一方、有機酸の含有量は、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、10質量%以下であってもよい。ここで、第2混合液に、添加される有機酸が2種以上の有機酸を混合したものであった場合、有機酸の含有量は、添加された2種以上の有機酸の合計含有量である。
【0040】
金属炭化物前駆体中の有機酸の含有量は、有機酸/金属水酸化物のモル比により、表すことができる。有機酸と金属水酸化物とのモル比:有機酸/金属水酸化物が0超500以下となるように有機酸を添加すると好ましく、金属炭化物前駆体の安定性とコスト低減の観点から、0.01以上100以下であるとより好ましく、0.1以上9以下であるとさらに好ましく、0.1以上6以下であると特に好ましい。典型的には、当該モル比:有機酸/金属水酸化物は、0.005以上、0.5以上、1以上、2以上、3以上、5以上であってもよい。一方、当該モル比:有機酸/金属水酸化物は、200以下、50以下、40以下、30以下、20以下、10以下、8以下、5以下であってもよい。
【0041】
ここで、モル比:有機酸/金属水酸化物における有機酸は、金属炭化物前駆体中の有機酸の含有量を示す。また、2種以上の有機酸を含有する場合、有機酸の含有量は、これら2種以上の有機酸の合計含有量である。一方、モル比:有機酸/金属水酸化物における金属水酸化物は、金属炭化物前駆体中の金属水酸化物の金属原子換算の含有量を示す。また、2種以上の金属水酸化物を含有する場合、金属水酸化物の金属原子換算の含有量は、これら2種以上の金属水酸化物の金属原子換算の合計含有量である。
【0042】
例えば、混合する金属水酸化物が水酸化タンタルの場合、有機酸とタンタルとのモル比:有機酸/Taが0超500以下となるように有機酸を添加すると好ましく、金属炭化物前駆体の安定性とコスト低減の観点から、0.01以上100以下であるとより好ましく、0.1以上9以下であるとさらに好ましく、0.1以上6以下であると特に好ましい。典型的には、当該モル比:有機酸/Taは、0.005以上、0.5以上、1以上、2以上、3以上、5以上であってもよい。一方、当該モル比:有機酸/Taは、200以下、50以下、40以下、30以下、20以下、10以下、8以下、5以下であってもよい。
【0043】
また、混合する金属水酸化物が水酸化ニオブの場合、有機酸とニオブとのモル比:有機酸/Nbが0超500以下となるように有機酸を添加すると好ましく、金属炭化物前駆体の安定性とコスト低減の観点から、0.01以上100以下であるとより好ましく、0.1以上9以下であるとさらに好ましく、0.1以上6以下であると特に好ましい。典型的には、当該モル比:有機酸/Nbは0.005以上、0.5以上、1以上、2以上、3以上、5以上であってもよい。一方、当該モル比:有機酸/Nbは、200以下、50以下、40以下、30以下、20以下、10以下、8以下、5以下であってもよい。
【0044】
さらに、混合する金属水酸化物が水酸化ニオブ及び水酸化タンタルの場合、有機酸とニオブ及びタンタルとのモル比:有機酸/(Nb+Ta)が0超500以下となるように有機酸を添加すると好ましく、金属炭化物前駆体の安定性とコスト低減の観点から、0.01以上100以下であるとより好ましく、0.1以上9以下であるとさらに好ましく、0.1以上6以下であると特に好ましい。典型的には、当該モル比:有機酸/(Nb+Ta)は0.005以上、0.5以上、1以上、2以上、3以上、5以上であってもよい。一方、当該モル比:有機酸/(Nb+Ta)は、200以下、50以下、40以下、30以下、20以下、10以下、8以下、5以下であってもよい。
【0045】
上述した本発明の金属炭化粉末の製造方法における錯化工程は、加熱する必要がなく、常温(25℃)で行うことができる。
【0046】
このようにして、生成された金属炭化物前駆体の少なくとも一部は、金属水酸化物由来の金属元素を含有するペルオキソ錯体を形成すると推測する。
【0047】
次に、本発明の金属炭化粉末の製造方法における炭化工程では、金属炭化物前駆体を焼成することにより、金属炭化物を生成する。
本発明の金属炭化粉末の製造方法における錯化工程により、生成された金属炭化物前駆体を、静置炉内に載置し、大気下、焼成温度が1000℃以上1900℃以下で、焼成時間が1時間以上12時間以下で焼成することにより、金属炭化物が生成される。
【0048】
そして、本発明の金属炭化粉末の製造方法における粉末化工程では、金属炭化物を解砕し、金属炭化粉末を形成する。
本発明の金属炭化粉末の製造方法における炭化工程により生成した金属炭化物を、ボールミル、ジェットミル、カッターミル等を用いて解砕することにより、本発明の金属炭化粉末が形成される。なお、解砕された金属炭化粉末を、篩などによって分級して得られた篩下(微粒側)を本発明の金属炭化粉末としてもよい。篩上(粗粒側)は再度解砕工程を実施し、分級して用いてもよい。分級に用いられる篩は、目開きが30~1000μmのものを用いると好ましい。
【0049】
上述した本発明の金属炭化粉末の製造方法により、形成された本発明の金属炭化粉末(サンプル)について、下記のX線回折測定条件、X線回折解析条件に従って、粉末X線回折測定を行って得られたX線回折パターンのピークから、炭化物であることを確認することができる。
【0050】
=X線回折測定条件=
・装置:MiniFlexII(株式会社リガク製)
・測定範囲(2θ):5~90°
・サンプリング幅:0.02°
・スキャンスピード:2.0°/min
・X線:CuKα線
・電圧:30kV
・電流:15mA
・発散スリット:1.25°
・散乱スリット:1.25°
・受光スリット:0.3mm
【0051】
=X線回折解析条件=
・リガク社製データ解析ソフトPDXL2を使用する。
・ピークトップを明確化するためb-splineでピークを平滑化する。
【0052】
また、上述した本発明の金属炭化粉末の製造方法により、形成された本発明の金属炭化粉末の流動性は、次のように求めることができる。本発明の金属炭化粉末のサンプルを、850μm、又は1000μm孔径のフィルタがセットされた筒井理化学器機械社製A.B.D粉体特性測定器に投入し、当該フィルタを1分間振動させ、当該フィルタを通過したサンプルを回収する。そして、サンプルの回収量を測定し、回収率=回収量(g)/10g×100から回収率を算出することにより、本発明の金属炭化粉末の流動性を求めることができる。
【0053】
上述した本発明の金属炭化粉末の製造方法における各工程を行うことにより、本発明の金属炭化粉末を製造することができる。また、本発明の金属炭化粉末は、上述した各工程に加えて、以下の工程を行って製造することもできる。
【0054】
本発明の金属炭化粉末の製造方法は、当該金属炭化物前駆体を乾燥する乾燥工程を有してもよい。
錯化工程により生成した金属炭化物前駆体を後述する乾燥方法により乾燥させることにより、金属炭化物前駆体に含まれる過剰な過酸化水素やアンモニアを除去することができる。
【0055】
金属炭化物前駆体に過剰な過酸化水素を除去することにより、過酸化水素の揮発による溶液の変化を抑制することができ、また安全面又は法令上の面から使用しやすくなる。具体的には、金属炭化物前駆体中の過酸化水素の含有量が、6質量%以下であれば劇物および劇物取り締まり法から除外されて、安全面や保管方法において使用しやすくなる。また、金属炭化物前駆体に含まれる過剰なアンモニアを除去することにより、安全面や作業面でも使用しやすくなる。
【0056】
本発明の金属炭化粉末の製造方法における乾燥工程の一例として、乾燥工程における加熱温度が100℃未満であるとよい。
乾燥工程における加熱温度が25℃以上100℃未満であると、金属炭化物前駆体に含まれる過剰な過酸化水素やアンモニアの成分が揮発し、白色粉末であるペルオキソ錯体粉末が得られる。なお、加熱温度は90℃以下であるとより好ましい。また、加熱時間は、1時間以上100時間以下であると良く、5時間以上20時間以下であると好ましい。
【0057】
また、本発明の金属炭化粉末の製造方法における乾燥工程の別の一例として、乾燥工程における加熱温度が100℃以上であるとよい。
乾燥工程における加熱温度が100℃以上200℃以下であると、金属炭化物前駆体に含まれる過剰な過酸化水素やアンモニアの成分が揮発し、緑白色粉末であるペルオキソ錯体粉末が得られる。なお、加熱温度は110℃以上であるとより好ましい。また、加熱時間は、1時間以上100時間以下であると良く、5時間以上20時間以下であると好ましい。
【0058】
さらに、本発明の金属炭化粉末の製造方法における乾燥工程のまた別の一例として、加熱無しの真空乾燥による乾燥方法であると、白色粉末であるペルオキソ錯体粉末が得られる。また、加熱時間は、1時間以上100時間以下であると良く、5時間以上20時間以下であると好ましい。なお、真空乾燥の場合、金属炭化物前駆体に含まれる過剰な過酸化水素やアンモニアの成分が除去されず、残存する。
【0059】
また、本発明の金属炭化粉末の製造方法は、前記乾燥工程により乾燥した前記金属炭化物前駆体を解砕する解砕工程を有してもよい。
上述した各乾燥工程により得られた乾燥した金属炭化物前駆体であるペルオキソ錯体粉末をボールミル、ジェットミル、カッターミル等を用いて解砕する。ペルオキソ錯体粉末を解砕することにより、溶解工程にて、ペルオキソ錯体粉末が純水に溶解しやすくなる観点で好ましい。
【0060】
また、本発明の金属炭化物の製造方法は、錯体重合法を用いた膜形状である金属炭化物の製造方法であって、金属水酸化物とアルカリ性化合物とを混合して第1混合液を生成し、前記第1混合液に過酸化水素を添加して第2混合液を生成し、さらに前記第2混合液に有機酸を添加して金属炭化物前駆体を生成する錯化工程と、前記金属炭化物前駆体を純水に分散させた金属炭化物中間体を生成する溶解工程と、前記金属炭化物中間体を基材上に塗布し、焼成することにより、前記基材上に金属炭化物を含有する金属炭化膜を形成する炭化工程と、を有することを特徴とする。
なお、説明の便宜上、基材上に金属炭化物を含有する金属炭化膜を形成する炭化工程を有する本発明の金属炭化物の製造方法を、本発明の金属炭化膜の製造方法として説明する。
【0061】
本発明の金属炭化膜の製造方法における錯化工程では、金属水酸化物とアルカリ性化合物とを混合して第1混合液を生成し、前記第1混合液に過酸化水素を添加して第2混合液を生成し、さらに前記第2混合液に有機酸を添加して金属炭化物前駆体を生成する。
【0062】
本発明の金属炭化膜の製造方法における錯化工程で生成される金属炭化物前駆体は、均一な膜形成の観点から、沈殿がない透明溶液の状態であると好ましい。金属炭化物前駆体の粒径は小さい方が好ましく、1000nm以下であると、経時安定性の観点から好ましく、500nm以下であるとより好ましく、100nm以下であると特に好ましい。典型的には、当該粒径は、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、400nm以下、300nm以下、200nm以下、50nm以下、30nm以下、20nm以下、10nm以下、6nm以下、2nm以下、1nm以下、0.6nm以下であってもよい。一方、当該粒子の粒径は1nm以上であると好ましく、2nm以上であるとより好ましく、6nm以上であるとさらに好ましく、10nm以上であると特に好ましく、さらに100nm以上、200nm以上、300nm以上、400nm以上、500nm以上であってもよい。典型的には、当該粒径は10nm以上800nm以下である。
典型的には、金属炭化物前駆体の粒径は10nm以上800nm以下である。なお、厚膜を形成する観点から、金属炭化物前駆体が析出した水分散液であってもよい。
【0063】
本発明の金属炭化膜の製造方法における錯化工程で生成される金属炭化物前駆体の粒径は、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定により測定される粒子径(D50)である。
【0064】
ここで、動的光散乱法とは、懸濁溶液などの溶液にレーザ光などの光を照射することにより、ブラウン運動する粒子群からの光散乱強度を測定し、その強度の時間的変動から粒子径と分布を求める方法である。具体的には、粒度分布の評価方法は、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製:ELSZ-2000ZS)を用いて、JIS Z 8828:2019「粒子径解析-動的光散乱法」に準拠して実施する。また、必要に応じて純水で1000倍に希釈したものを測定試料とし、測定直前に当該測定試料中の埃等を除去するため、11μm孔径のフィルタで当該測定試料を濾過し、超音波洗浄機(アズワン社製:VS-100III)にて3分間の超音波処理を実施する。さらに、当該測定試料の液温は25℃に調整した。なお、粒子径(D50)は、積算分布曲線の50%積算値を示す粒子径であるメジアン径(D50)をいう。
【0065】
なお、本発明の金属炭化膜の製造方法における錯化工程は、上述した点以外については、本発明の金属炭化粉末の製造方法における錯化工程と同一であるから、詳細な説明は省略する。
【0066】
本発明の金属炭化膜の製造方法における溶解工程では、金属炭化物前駆体を純水に分散させた金属炭化物中間体を生成する。
【0067】
本発明の金属炭化膜の製造方法における錯化工程により得られた金属炭化物前駆体に純水を添加し、10分間撹拌することにより、金属炭化物中間体を生成する。後述する炭化工程で、本発明の金属炭化物中間体を基材に塗布する際、塗布しやすい含有量に調整すると好ましく、本発明の金属炭化物中間体の固形分含有量が、1質量%以上70質量%以下となるように調整すると好ましい。なお、溶解工程は、加熱する必要がなく、常温(25℃)で行うことができる。
【0068】
本発明の金属炭化物中間体の固形分含有量は、基材の種類や材質に応じて調整すると好ましく、2質量%以上65質量%以下であるとより好ましく、4質量%以上60質量%以下であるとさらに好ましく、5質量%以上55質量%以下であると特に好ましく、10質量%以上50質量%以下であるとまた特に好ましい。
【0069】
また、金属水酸化物として、水酸化タンタルを用いた場合、本発明の金属炭化物中間体中のタンタル含有量は、典型的には、5質量%以上30質量%以下、5質量%以上25質量%以下、5質量%以上20質量%以下、5質量%以上15質量%以下、5質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0070】
ここで、本発明の金属炭化物中間体中のタンタル含有量は、当該中間体を必要に応じて希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)を用いて、JIS K0116:2014に準拠し、Ta換算のTa質量分率を測定して算出する。
【0071】
また、金属水酸化物として、水酸化ニオブを用いた場合、本発明の金属炭化物中間体中のニオブ含有量は、典型的には、5質量%以上30質量%以下、5質量%以上25質量%以下、5質量%以上20質量%以下、5質量%以上15質量%以下、5質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0072】
本発明の金属炭化物中間体中のニオブ含有量は、上述したタンタル含有量と同様に、Nb換算のNb質量分率を測定して算出することができる。
【0073】
なお、溶解工程は、金属炭化物前駆体が基材上に塗布するに際して、適した固形分含有量であれば、錯化工程で得られた金属炭化物前駆体に純水を加えて固形分含有量を調整する必要はない。
【0074】
本発明の金属炭化膜の製造方法における炭化工程では、金属炭化物中間体を基材上に塗布し、焼成することにより、当該基材上に金属炭化物を含有する金属炭化膜を形成する。基材として、るつぼ、炉材、電極、繊維、ろ過装置、フィルタ、保護管、ヒーターチューブ、バーナーノズル、耐火性治具等が挙げられる。また、材質として、炭素、金属、セラミックスが挙げられ、金属として、例えば金属炭化物、金属酸化物、金属窒化物等が挙げられる。
【0075】
具体的には、本発明の金属炭化膜の製造方法における溶解工程により得られた金属炭化物中間体を、例えば1μm孔径のフィルタで濾過し、刷毛等を用いて基材の表面に塗布する。そして、金属炭化物中間体が塗布された基材を、静置炉内に載置し、大気下、焼成温度が1000℃以上1900℃以下で、焼成時間が1時間以上12時間以下で焼成することにより、基材の表面上に金属炭化膜が形成される。なお、刷毛等を用いて基材の表面に塗布する方法以外に、スプレーで基材の表面に吹き付ける方法や、金属炭化物中間体が入った容器内に基材を浸漬する方法であってもよい。
【0076】
上述した本発明の金属炭化膜の製造方法における各工程を行うことにより、本発明の金属炭化膜を製造することができる。また、本発明の金属炭化膜は、上述した各工程に加えて、以下の工程を行って製造することもできる。
【0077】
本発明の金属炭化膜の製造方法では、金属炭化物前駆体を純水に分散させた金属炭化物中間体を生成する溶解工程の前工程として、錯化工程により生成された金属炭化物前駆体を乾燥する乾燥工程を有してもよい。
錯化工程により生成した金属炭化物前駆体を上述した乾燥方法により乾燥させることにより、金属炭化物前駆体に含まれる過剰な過酸化水素やアンモニアを除去することができる。
【0078】
金属炭化物前駆体に過剰な過酸化水素を除去することにより、炭化工程において、金属炭化物前駆体に純水を添加して、生成した金属炭化物中間体を基材の表面に塗布する際、発泡が生じず、均一に塗布することができる。また、金属炭化物前駆体に含まれる過剰なアンモニアを除去することにより、安全面や作業面でも使いやすくなる。
【0079】
なお、本発明の金属炭化膜の製造方法における乾燥工程は、上述した本発明の金属炭化粉末の製造方法における乾燥工程と同一であるから、詳細な説明は省略する。
【0080】
また、本発明の金属炭化膜の製造方法は、上述した本発明の金属炭化粉末の製造方法と同様に、前記乾燥工程により乾燥した前記金属炭化物前駆体を解砕する解砕工程を有してもよい。なお、本発明の金属炭化膜の製造方法における解砕工程は、上述した本発明の金属炭化粉末の製造方法における解砕工程と同一であるから、説明は省略する。
【0081】
また、本発明の金属炭化物前駆体の製造方法は、錯体重合法を用いた金属炭化物を生成するための金属炭化物前駆体の製造方法であって、金属水酸化物とアルカリ性化合物とを混合して第1混合液を生成し、前記第1混合液に過酸化水素を添加して第2混合液を生成し、さらに前記第2混合液に有機酸を添加して金属炭化物前駆体を生成する錯化工程を有することを特徴とする。
【0082】
なお、本発明の金属炭化物前駆体の製造方法における錯化工程は、上述した本発明の金属炭化物の製造方法における錯化工程と同一であるから、詳細な説明は省略する。
【0083】
また、本発明の金属炭化物前駆体の製造方法は、前記錯化工程により生成した前記金属炭化物前駆体を乾燥する乾燥工程を有してもよい。
ここで、本発明の金属炭化物前駆体の製造方法における乾燥工程は、上述した本発明の金属炭化物の製造方法における乾燥工程と同一であるから、説明は省略する。
【0084】
また、本発明の金属炭化物中間体の製造方法は、錯体重合法を用いた金属炭化物を生成するための金属炭化物中間体の製造方法であって、金属水酸化物とアルカリ性化合物とを混合して第1混合液を生成し、前記第1混合液に過酸化水素を添加して第2混合液を生成し、さらに前記第2混合液に有機酸を添加して金属炭化物前駆体を生成する錯化工程と前記金属炭化物前駆体を純水に分散させた金属炭化物中間体を生成する溶解工程と、を有することを特徴とする。
【0085】
なお、本発明の金属炭化物中間体の製造方法における錯化工程、及び溶解工程は、上述した本発明の金属炭化物の製造方法における錯化工程、及び溶解工程と同一であるから、詳細な説明は省略する。
【0086】
また、本発明の金属炭化物中間体の製造方法は、前記錯化工程により生成した前記金属炭化物前駆体を乾燥する乾燥工程を有してもよい。
ここで、本発明の金属炭化物中間体の製造方法における乾燥工程は、上述した本発明の金属炭化物の製造方法における乾燥工程と同一であるから、説明は省略する。
【0087】
また、本発明の金属炭化物中間体の製造方法は、上述した本発明の金属炭化物の製造方法における乾燥工程と同様に、乾燥工程における加熱温度が100℃未満であるとよい。
【0088】
また、本発明の金属炭化物中間体の製造方法は、上述した本発明の金属炭化物の製造方法における乾燥工程と同様に、乾燥工程における加熱温度が100℃以上であるとよい。
【0089】
さらに、本発明の金属炭化物中間体の製造方法は、上述した本発明の金属炭化物の製造方法における乾燥工程と同様に、加熱無しの真空乾燥であってもよい。
【0090】
また、本発明の金属炭化物中間体の製造方法は、前記乾燥工程により乾燥した前記金属炭化物前駆体を解砕する解砕工程を有することを特徴とする。
ここで、本発明の金属炭化物中間体の製造方法における解砕工程は、上述した本発明の金属炭化物の製造方法における解砕工程と同一であるから、説明は省略する。
【0091】
また、本発明の金属炭化物粉末は、BET法による比表面積が1m2/g以上であり、且つ真円度が0.78以上であることを特徴とする。
本発明の金属炭化物粉末は、BET法による比表面積が1m2/g以上であり、且つ真円度が0.78以上であると、極微粒であっても高い流動性を有する。
【0092】
本発明の金属炭化物粉末は、BET法による比表面積が1m2/g以上であると、粉体充填層内の空間率が減少し、添加剤として使用する際に他物質との反応性が高くなる観点で好ましい。また、本発明の金属炭化物粉末のBET法による比表面積が2m2/g以上であるとより好ましく、4m2/g以上であるとさらに好ましい。
【0093】
ここで、本発明の金属炭化物粉末のBET法による比表面積は、全自動比表面積測定装置(Macsorb HM-1230型)を用い、JIS Z8830に準拠して、測定することができる。
【0094】
また、本発明の金属炭化物粉末は、真円度が0.78以上であると、粉体充填層内の空間率が減少し、添加剤として使用する際に他物質との反応性が高くなる点で好ましい。本発明の金属炭化物粉末の真円度は、0.8以上であるとより好ましく、0.9以上であるとさらに好ましい。一方、真円度の上限は特に限定されず、1以下であればよい。
【0095】
ここで、本発明の金属炭化物粉末の真円度は、「真円度=1/長軸×短軸」で算出し、複数粒子の真円度の算術平均値を「真円度」とする。ここで、「長軸」及び「短軸」は、次のように算出する。走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテクノロジーズ社製:S-4800)を用いて、本発明の金属炭化物粉末の一次粒子が測定できる倍率にて、本発明の金属炭化物粉末の一次粒子のSEM画像を測定する。そして、画像解析ソフトであるImageJを用いて、無作為抽出の20粒子の「長軸」及び「短軸」を測定する。
【0096】
また、本発明の金属炭化物粉末は、BET法による一次粒子径が0.7μm以下であり、且つ真円度が0.78以上であると好ましい。
本発明の金属炭化物粉末は、BET法による一次粒子径が0.7μm以下であり、且つ真円度が0.78以上であると、極微粒であっても高い流動性を有する。
【0097】
本発明の金属炭化物粉末は、BET法による一次粒子径が0.7μm以下であると、粉体充填層内の空間率が減少し、添加剤として使用する際に他物質との反応性が高くなる観点で好ましい。本発明の金属炭化物粉末のBET法による一次粒子径は、0.4μm以下であるとより好ましく、0.2μm以下であるとさらに好ましい。
【0098】
ここで、本発明の金属炭化物粉末のBET法による一次粒子径Dは、下記式(1)により算出する。
【0099】
【0100】
式(1)中「D」は本発明の金属炭化物粉末の一次粒子径(μm)を示し、「S」はBET法による比表面積(m2/g)、「ρ」は本発明の金属炭化物密度(g/cm3)を示す。例えば、炭化タンタル(TaC)の密度は13.9(g/cm3)であり、炭化ニオブ(NbC)の密度は8.57(g/cm3)である。
【0101】
また、本発明の金属炭化物粉末は、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化チタン、炭化タングステン、炭化モリブデン、炭化ジルコニウム等を含有すると好ましく、炭化タンタル、又は炭化ニオブを含有するとより好ましい。
【0102】
また、本発明の金属炭化物粉末は、前記金属炭化物粉末中の塩素含有量が100ppm以下であると、本発明の金属炭化物粉末中に過酸化水素が残留していない観点で好ましい。本発明の金属炭化物粉末は、前記金属炭化物粉末中の塩素含有量が50ppm以下であるとより好ましく、25ppm以下であるとさらに好ましい。なお、本明細書において、特記しない限り、「ppm」は、「質量ppm」をいう。
【0103】
ここで、本発明の金属炭化物粉末中の塩素含有量は、燃焼イオンクロマトグラフィー法により測定することができる。具体的には、適量の試料をセラミックスボードに採取し、燃焼イオンクロマトグラフィー(日東精工アナリテック社製:AQF-2100H)により、アルゴン(Ar)雰囲気下、1000℃、10分の条件で当該試料を加熱し、発生した塩素量を測定することにより、本発明の金属炭化物粉末中の塩素含有量を求めることができる。
【0104】
また、本発明の金属炭化物粉末は、前記金属炭化物粉末中の窒素含有量が1000ppm以下であると、本発明の金属炭化物粉末中にアルカリ性化合物、例えばアンモニア水が残留していない観点で好ましい。本発明の金属炭化物粉末は、前記金属炭化物粉末中の窒素含有量が800ppm以下であるとより好ましく、500ppm以下であるとさらに好ましい。典型的には、前記金属炭化物粉末中の窒素含有量は、500ppm以下、250ppm以下、100ppm以下、50ppm以下、25ppm以下であってもよい。
【0105】
ここで、本発明の金属炭化物粉末中の窒素含有量は、酸素窒素分析装置(LECO社製:ON836)を用いて熱伝導度法により測定することができる。具体的には、適量の試料をNiカプセルに封入し、当該酸素窒素分析装置を用いて熱伝導度法により、本発明の金属炭化物粉末中の窒素含有量を求めることができる。
【0106】
また、本発明の金属炭化物粉末は、その作用効果を阻害しない範囲で、金属水酸化物に由来する成分、例えばタンタル乃至水酸化タンタルに由来する成分、またはニオブ乃至水酸化ニオブに由来する成分以外の成分(「他成分」という。)を含有してもよい。他成分としては、例えばLi、Mg、Si、Ca、Mn、Ni、Cu、Zn、Sr、Baなどが挙げられる。但し、これらに限定するものではない。本発明の金属炭化物粉末における他成分の含有量は、元素換算(金属元素換算、若しくは非金属元素換算)で5質量%未満であるのが好ましく、4質量%未満であるのがより好ましく、3質量%未満であるとさらに好ましい。なお、本発明の金属炭化物粉末は、意図したものではなく、不可避不純物を含むことが想定される。不可避不純物の含有量は0.01質量%未満であるのが好ましい。
【0107】
また、本発明の超硬工具は、上述した本発明の金属炭化物粉末を含有することを特徴とする。
本発明の超硬工具は、本発明の金属炭化物粉末を含有することから、極微粒であっても、流動性が高く、炭化タングステンに対する混合性が高く、且つその後の反応性も優れており、耐欠損性、耐塑性変形性、及び耐摩耗性といった超硬工具に求められる性能を有している。
【0108】
また、本発明の金属炭化物中間体分散液は、金属化合物と、アルカリ性化合物と、過酸化水素と、有機酸と、を有し、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による前記金属炭化物中間体分散液中の粒子の粒子径(D50)が1000nm以下であることを特徴とする。
【0109】
金属化合物は、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ビスマス、モリブデン、タングステンの水酸化物、塩化物、アルコキシドであると好ましい。
【0110】
また、金属化合物が、金属水酸化物であるとより好ましい。金属水酸化物として、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ビスマス、モリブデン、タングステンの水酸化物が挙げられ、特に、水酸化タンタル、およびまたは、水酸化ニオブであるとさらに好ましい。
【0111】
アルカリ性化合物は、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、及び有機窒素化合物の中から選ばれる1種以上のアルカリ性化合物であると好ましい。また、有機窒素化合物としては、例えばアミン化合物、4級アンモニウム化合物、グアニジン化合物、アゾール化合物などが挙げられ、アミン化合物または4級アンモニウム化合物であると好ましく、メチルアミン、ジメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)であるとより好ましい。アルカリ性化合物として、特にアンモニアであると好ましい。
【0112】
本発明の金属炭化物中間体分散液中のアルカリ性化合物含有量は0質量%超50質量%未満であると好ましく、0.01質量%以上4質量%以下であるとより好ましい。反応性や、分散性の観点から、アルカリ性化合物の含有量が多い方が望ましい。一方、揮発性成分であるため、後工程での被膜形成時の揮発を抑える観点では、低含有量が望ましい。典型的には、当該アルカリ性化合物含有量は、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、8質量%以上、10質量%以上であってもよい。一方、当該アルカリ性化合物含有量は、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、10質量%以下であってもよい。
【0113】
本発明の金属炭化物中間体分散液中のアルカリ性化合物の含有量は、アルカリ性化合物/金属化合物のモル比により、表すことができる。アルカリ性化合物/金属化合物のモル比は0超100以下であると好ましく、0.001以上100以下であるとより好ましく、0.01以上50以下であるとさらに好ましく、0.1以上30以下であると特に好ましく、4以上20以下であるとより特に好ましい。典型的には、アルカリ性化合物/金属化合物のモル比は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、アルカリ性化合物/金属化合物のモル比は、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.1以下であってもよい。
【0114】
ここで、アルカリ性化合物/金属化合物のモル比におけるアルカリ性化合物は、本発明の金属炭化物中間体分散液中のアルカリ性化合物の含有量を示す。また、本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれるアルカリ性化合物が2種以上であった場合、アルカリ性化合物の含有量は、これら2種以上のアルカリ性化合物の合計含有量である。一方、アルカリ性化合物/金属化合物のモル比における金属化合物は、本発明の金属炭化物中間体分散液中の金属化合物の金属原子換算の含有量を示す。また、本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる金属化合物が2種以上であった場合、金属化合物の金属原子換算の含有量は、これら2種以上の金属化合物の金属原子換算の合計含有量である。
【0115】
本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる金属化合物が水酸化タンタルの場合、アルカリ性化合物/Taのモル比は、0超100以下であると好ましく、0.001以上100以下であるとより好ましく、0.01以上50以下であるとさらに好ましく、0.1以上30以下であると特に好ましく、4以上20以下であるとより特に好ましい。典型的には、アルカリ性化合物/Taのモル比は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、アルカリ性化合物/Taのモル比は、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.1以下であってもよい。
【0116】
また、本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる金属化合物が水酸化ニオブの場合、アルカリ性化合物/Nbのモル比は0超100以下であると好ましく、0.001以上100以下であるとより好ましく、0.01以上50以下であるとさらに好ましく、0.1以上30以下であると特に好ましく、4以上20以下であるとより特に好ましい。典型的には、アルカリ性化合物/Taのモル比は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、アルカリ性化合物/Nbのモル比は、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.1以下であってもよい。
【0117】
さらに、本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる金属化合物が水酸化ニオブ及び水酸化タンタルの場合、アルカリ性化合物とニオブ及びタンタルとのモル比:アルカリ性化合物/(Nb+Ta)は0超100以下であると好ましく、0.001以上100以下であるとより好ましく、0.01以上50以下であるとさらに好ましく、0.1以上30以下であると特に好ましく、4以上20以下であるとより特に好ましい。典型的には、アルカリ性化合物/(Nb+Ta)のモル比は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、アルカリ性化合物/(Nb+Ta)のモル比は、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.1以下であってもよい。
【0118】
アルカリ性化合物が、例えばアンモニアの場合、アンモニア含有量は0質量%超50質量%未満であると好ましく、0.01質量%以上4質量%以下であるとより好ましい。反応性や、分散性の観点から、アンモニアの含有量が多い方が望ましい。一方、揮発性成分であるため、後工程での被膜形成時の揮発を抑える観点では、低含有量が望ましい。典型的には、当該アンモニア含有量は、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、8質量%以上、10質量%以上であってもよい。一方、当該アンモニア含有量は、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、10質量%以下であってもよい。
【0119】
本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれるアンモニアの含有量は、NH3/金属化合物のモル比により、表すことができる。NH3/金属化合物のモル比は0超100以下であると好ましく、0.001以上100以下であるとより好ましく、0.01以上50以下であるとさらに好ましく、0.1以上30以下であると特に好ましく、4以上20以下であるとより特に好ましい。典型的には、NH3/金属化合物のモル比は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、NH3/金属化合物のモル比は、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.1以下であってもよい。
【0120】
本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる金属化合物が水酸化タンタルの場合、NH3/Taのモル比は0超100以下であると好ましく、0.001以上100以下であるとより好ましく、0.01以上50以下であるとさらに好ましく、0.1以上30以下であると特に好ましく、4以上20以下であるとより特に好ましい。典型的には、NH3/Taのモル比は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、NH3/Taのモル比は、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.1以下であってもよい。
【0121】
また、本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる金属化合物が水酸化ニオブの場合、NH3/Nbのモル比は0超100以下であると好ましく、0.001以上100以下であるとより好ましく、0.01以上50以下であるとさらに好ましく、0.1以上30以下であると特に好ましく、4以上20以下であるとより特に好ましい。典型的には、NH3/Taのモル比は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、NH3/Nbのモル比は、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.1以下であってもよい。
【0122】
さらに、本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる金属化合物が水酸化ニオブ及び水酸化タンタルの場合、アンモニアとニオブ及びタンタルとのモル比:NH3/(Nb+Ta)は0超100以下であると好ましく、0.001以上100以下であるとより好ましく、0.01以上50以下であるとさらに好ましく、0.1以上30以下であると特に好ましく、4以上20以下であるとより特に好ましい。典型的には、NH3/(Nb+Ta)のモル比は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、NH3/(Nb+Ta)のモル比は、15以下、10以下、8以下、5以下、4以下、3以下、2以下、1以下、0.5以下、0.1以下であってもよい。
【0123】
なお、本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれるアルカリ性化合物は、当該金属炭化物中間体分散液調製後に、加熱等によって揮発した溶媒を補充することによって、アルカリ性化合物量を低減させることができる。
【0124】
本発明の金属炭化物中間体分散液中の過酸化水素の含有量は、0質量%超35質量%以下であると好ましく、0.001質量%以上30質量%以下であるとより好ましく、0.01質量%以上25質量%以下であるとさらに好ましく、0.1質量%以上20質量%以下であると特に好ましい。典型的には、当該過酸化水素の含有量は、0.005質量%以上、0.05質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、4質量%以上であってもよい。一方、当該過酸化水素の含有量は、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下であってもよい。
【0125】
本発明の金属炭化物中間体分散液中の過酸化水素の含有量は、H2O2/金属化合物のモル比により、表すことができる。過酸化水素と金属化合物とのモル比H2O2/金属化合物が0超10以下であると好ましく、0.001以上3以下であるとより好ましく、0.01以上1以下であるとさらに好ましい。典型的には、モル比H2O2/金属化合物は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、モル比H2O2/金属化合物は、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下であってもよい。
【0126】
ここで、モル比H2O2/金属化合物におけるH2O2は、本発明の金属炭化物中間体分散液中のH2O2の含有量を示す。一方、モル比H2O2/金属化合物における金属化合物は、本発明の金属炭化物中間体分散液中の金属化合物の金属原子換算の含有量を示す。また、本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる金属化合物が2種以上であった場合、金属化合物の金属原子換算の含有量は、これら2種以上の金属原子換算の金属化合物の合計含有量である。
【0127】
本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる金属化合物が、例えば水酸化タンタルの場合、過酸化水素とタンタルとのモル比H2O2/Taが0超10以下であると好ましく、0.001以上3以下であるとより好ましく、0.01以上1以下であるとさらに好ましい。典型的には、モル比H2O2/Taは、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、モル比H2O2/Taは、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下であってもよい。
【0128】
また、本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる金属化合物が、例えば水酸化ニオブの場合、過酸化水素とニオブとのモル比H2O2/Nbが0超10以下であると好ましく、0.001以上3以下であるとより好ましく、0.01以上1以下であるとさらに好ましい。典型的には、モル比H2O2/Nbは、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、モル比H2O2/Nbは、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下であってもよい。
【0129】
さらに、本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる金属化合物が、例えば水酸化ニオブ及び水酸化タンタルの場合、過酸化水素とニオブ及びタンタルとのモル比H2O2/(Nb+Ta)が0超10以下であると好ましく、0.001以上3以下であるとより好ましく、0.01以上1以下であるとさらに好ましい。典型的には、モル比H2O2/(Nb+Ta)は、0.005以上、0.05以上、0.5以上であってもよい。一方、モル比H2O2/(Nb+Ta)は、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下であってもよい。
【0130】
なお、過酸化水素の含有量は、安全性(揮発性・他の材料との反応による揮発性)の観点から少量であることが好ましい。一方上述した過酸化水素の含有量及びモル比であると、良好な分散性が得られる。
【0131】
有機酸として、カルボン酸、多官能性カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、及びアミノ酸が挙げられる。カルボン酸として、酪酸、ギ酸、酢酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、安息香酸等が挙げられる。多官能性カルボン酸として、シュウ酸、コハク酸、マロン酸、マレイン酸、グルタル酸、クエン酸等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、乳酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられる。アミノ酸として、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、エチレンジアミン四酢酸等が挙げられる。特に、窒素原子を含まない有機酸が好ましく、例えばカルボン酸、多官能性カルボン酸、ヒドロキシカルボン酸が好ましく、クエン酸、酒石酸、乳酸がより好ましい。また、多官能性カルボン酸がより好ましく、窒素原子を含まない有機酸であって、且つ多官能性カルボン酸であるクエン酸が最も好ましい。有機酸には、上述した化合物の各種異性体(構造異性体、光学異性体等)も含まれる。さらに、有機酸は、上述した化合物の1種以上の有機酸を用いてもよい。
【0132】
有機酸の含有量は、0質量%超100質量%未満であると好ましく、1質量%以上40質量%以下であるとより好ましく、3質量%以上15質量%以下であると好ましい。典型的には、有機酸の含有量は、0.1質量%以上、0.5質量%以上、2質量%以上、5質量%以上、8質量%以上、10質量%以上であってもよい。一方、有機酸の含有量は、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、10質量%以下であってもよい。ここで、本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる有機酸が2種以上であった場合、有機酸の含有量は、これら2種以上の有機酸の合計含有量である。
【0133】
本発明の金属炭化物中間体分散液中の有機酸の含有量は、有機酸/金属化合物のモル比により、表すことができる。有機酸と金属化合物とのモル比:有機酸/金属化合物が0超500以下となるように有機酸を添加すると好ましく、本発明の金属炭化物中間体分散液の安定性とコスト低減の観点から、0.01以上100以下であるとより好ましく、0.1以上9以下であるとさらに好ましく、0.1以上6以下であると特に好ましい。典型的には、当該モル比:有機酸/金属化合物は、0.005以上、0.5以上、1以上、2以上、3以上、5以上であってもよい。一方、当該モル比:有機酸/金属化合物は、200以下、50以下、40以下、30以下、20以下、10以下、8以下、5以下であってもよい。
【0134】
ここで、当該モル比:有機酸/金属化合物における有機酸は、本発明の金属炭化物中間体分散液中の有機酸の含有量を示す。また、本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる有機酸が2種以上であった場合、有機酸の含有量は、これら2種以上の有機酸の合計含有量である。一方、当該モル比:有機酸/金属化合物における金属化合物は、本発明の金属炭化物中間体分散液中の金属化合物の金属原子換算の含有量を示す。また、本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる金属化合物が2種以上であった場合、金属化合物の金属原子換算の含有量は、これら2種以上の金属化合物の金属原子換算の合計含有量である。
【0135】
本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる金属水酸化物が水酸化タンタルの場合、有機酸とタンタルとのモル比:有機酸/Taが0超500以下となるように有機酸を添加すると好ましく、本発明の金属炭化物中間体分散液の安定性とコスト低減の観点から、0.01以上100以下であるとより好ましく、0.1以上9以下であるとさらに好ましく、0.1以上6以下であると特に好ましい。典型的には、当該モル比:有機酸/Taは、0.005以上、0.5以上、1以上、2以上、3以上、5以上であってもよい。一方、当該モル比:有機酸/Taは、200以下、50以下、40以下、30以下、20以下、10以下、8以下、5以下であってもよい。
【0136】
また、本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる水酸化ニオブの場合、有機酸とニオブとのモル比:有機酸/Nbが0超500以下となるように有機酸を添加すると好ましく、本発明の金属炭化物中間体分散液の安定性とコスト低減の観点から、0.01以上100以下であるとより好ましく、0.1以上9以下であるとさらに好ましく、0.1以上6以下であると特に好ましい。典型的には、当該モル比:有機酸/Nbは、0.005以上、0.5以上、1以上、2以上、3以上、5以上であってもよい。一方、当該モル比:有機酸/Nbは、200以下、50以下、40以下、30以下、20以下、10以下、8以下、5以下であってもよい。
【0137】
さらに、本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる金属水酸化物が水酸化ニオブ及び水酸化タンタルの場合、有機酸とニオブ及びタンタルとのモル比:有機酸/(Nb+Ta)が0超500以下となるように有機酸を添加すると好ましく、本発明の金属炭化物中間体分散液の安定性とコスト低減の観点から、0.01以上100以下であるとより好ましく、0.1以上9以下であるとさらに好ましく、0.1以上6以下であると特に好ましい。典型的には、当該モル比:有機酸/(Nb+Ta)は0.005以上、0.5以上、1以上、2以上、3以上、5以上であってもよい。一方、当該モル比:有機酸/(Nb+Ta)は、200以下、50以下、40以下、30以下、20以下、10以下、8以下、5以下であってもよい。
【0138】
さらに、本発明の金属炭化物中間体分散液は、溶剤として、水や有機溶剤、及びそれらの混合溶剤を有するものであってもよい。また、有機溶剤としては、アルコール溶剤、ケトン溶剤、エーテル溶剤、エステル溶剤、芳香族炭化水素溶剤、脂肪族炭化水素類溶剤等が挙げられ、これら有機溶剤と純水とを混合した溶剤であってもよい。また、アルコール溶剤としては、炭素数5以下のアルコール(メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール)や、高沸点溶剤や、アセトンなどが挙げられる。上述した溶剤と水は相溶することが好ましい。高沸点溶剤として、多価アルコール系溶剤や、グリコール系溶剤が挙げられる。本発明の金属炭化物中間体分散液に含まれる溶剤が、水であると、高い分散性を維持できる点で好ましい。
【0139】
また、溶剤は、ポリオレフィン系化合物や、ポリビニル系化合物等の樹脂を添加したものであってもよい。また、当該溶剤に添加される樹脂として、アニオン性水溶性樹脂、およびまたは、ノニオン性水溶性樹脂であってもよい。
【0140】
上述した通り、本発明の金属炭化物中間体分散液は、金属化合物と、アルカリ性化合物と、過酸化水素と、有機酸とを有し、その少なくとも一部は、金属化合物由来の金属元素を含有するペルオキソ錯体を形成すると推測する。
【0141】
また、本発明の金属炭化物中間体分散液は、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による前記金属炭化物中間体分散液中の粒子の粒子径(D50)が1000nm以下であると、経時安定性の観点から好ましく、500nm以下であるとより好ましく、100nm以下であると特に好ましい。典型的には、当該粒子径(D50)は、900nm以下、800nm以下、700nm以下、600nm以下、400nm以下、300nm以下、200nm以下、50nm以下、30nm以下、20nm以下、10nm以下、6nm以下、2nm以下、1nm以下、0.6nm以下であってもよい。一方、本発明の金属炭化物中間体分散液中の粒子の粒子径(D50)は1nm以上であると好ましく、2nm以上であるとより好ましく、6nm以上であるとさらに好ましく、10nm以上であると特に好ましく、さらに100nm以上、200nm以上、300nm以上、400nm以上、500nm以上であってもよい。典型的には、本発明の金属炭化物中間体分散液中の粒子の粒子径(D50)は10nm以上800nm以下である。
【0142】
具体的には、粒度分布の評価方法は、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製:ELSZ-2000ZS)を用いて、JIS Z 8828:2019「粒子径解析-動的光散乱法」に準拠して実施する。また、必要に応じて純水で1000倍に希釈したものを測定試料とし、測定直前に当該測定試料中の埃等を除去するため、11μm孔径のフィルタで当該測定試料を濾過し、超音波洗浄機(アズワン社製:VS-100III)にて3分間の超音波処理を実施する。さらに、当該測定試料の液温は25℃に調整した。なお、本発明の金属炭化物中間体分散液中の粒子の粒子径(D50))は、積算分布曲線の50%積算値を示す粒子径であるメジアン径(D50)をいう。また、本明細書において、特段の説明がない限り、「粒子径(D50)」は、生成された直後に液温25℃に調整した本発明の金属炭化物中間体分散液中の粒子の粒子径(D50)、及び室温25℃に設定した恒温器内で、本発明の金属炭化物中間体分散液が生成された日から2週間、又は3週間静置した後の金属炭化物中間体分散液中の粒子の粒子径(D50)の全てを含むものである。
【0143】
また、本発明の金属炭化物中間体分散液は、金属化合物と、アルカリ性化合物と、過酸化水素と、有機酸と、を有し、前記金属炭化物中間体分散液の波長350nm~750nm領域の光透過度の最大値が70%以上であることを特徴とする。
【0144】
また、本発明の金属炭化物中間体分散液は、上述したように金属化合物と、アルカリ性化合物と、過酸化水素と、有機酸と、を有する。なお、本発明の金属炭化物中間体分散液は、上述したように溶剤として、水や有機溶剤、及びそれらの混合溶剤を有するものであってもよい。
【0145】
また、本発明の金属炭化物中間体分散液は、波長350nm~750nm領域の光透過度の最大値が70%以上であると、分散度が高く液中成分の均一性が優れる点で好ましい。当該波長350nm~750nm領域の光透過度の最大値が、85%以上であるとより好ましく、90%以上であるとさらに好ましく、100%であると最も好ましい。典型的には、当該光透過度の最大値は、72%以上であってもよく、74%以上であってもよく、76%以上であってもよく、78%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよく、98%以上であってもよく、99%以上であってもよい。
【0146】
また、本発明の金属炭化物中間体分散液は、波長350nm、450nm、550nm、650nm、750nmの何れか1つ以上の波長における光透過度が70%以上であると好ましく、85%以上であるとより好ましく、90%以上であるとさらに好ましく、100%であると最も好ましい。典型的には、当該波長350nm、450nm、550nm、650nm、750nmの何れか1つ以上の波長における光透過度が72%以上であってもよく、74%以上であってもよく、76%以上であってもよく、78%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよく、98%以上であってもよく、99%以上であってもよい。
【0147】
さらに、本発明の金属炭化物中間体分散液は、波長350nm~750nm領域の光透過度が70%以上であると好ましく、85%以上であるとより好ましく、90%以上であるとさらに好ましく、100%であると最も好ましい。典型的には、当該波長350nm~750nm領域の光透過度が72%以上であってもよく、74%以上であってもよく、76%以上であってもよく、78%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよく、98%以上であってもよく、99%以上であってもよい。
【0148】
なお、測定誤差等により、上述した光透過度の測定値が100%を超える場合があるが、理論上限値は100%であるため、当該測定値が100%超の場合、100%とみなす。このように、本発明の金属炭化物中間体分散液の波長350nm~750nm領域の領域の光透過度の最大値が70%以上である状態の液を、本発明の「金属炭化物中間体分散液」とする。また、本明細書において、特段の説明がない限り、「光透過度」は、生成された直後に液温25℃に調整した本発明の金属炭化物中間体分散液の光透過度、及び室温25℃に設定した恒温器内で、本発明の金属炭化物中間体分散液が生成された日から2週間、又は3週間静置した後の金属炭化物中間体分散液の光透過度の全てを含むものである。
【0149】
ここで、上述した光透過度は、本発明の金属炭化物中間体分散液について、以下の透過度測定条件に従って、分光光度計を用いて測定する。
【0150】
=光透過度測定条件=
・測定装置:紫外可視近赤外分光光度計UH4150形(株式会社日立ハイテクサイエンス製)
・測定モード:波長スキャン
・データモード:%T(透過)
・測定波長範囲:200nm~2000nm
・スキャンスピード:600nm/min
・サンプリング間隔:2nm
【0151】
なお、本発明における「分散液」とは、溶質が溶媒中に単分子の状態で分散又は混合しているものに限られず、複数の分子が分子間の相互作用により引き合った集合体、例えば(1)多量体分子、(2)溶媒和分子、(3)分子クラスター、(4)コロイド粒子などが溶媒に分散しているものも含まれる。
【0152】
また、本発明の金属炭化物中間体分散液は、pHが3.0以上10.0以下であることを特徴とする。
本発明の金属炭化物中間体分散液のpHが3.0以上10.0以下であると、当該分散液中に含まれるポリ酸イオンが安定する点で好ましい。本発明の金属炭化物中間体分散液のpHは、4.0以上7.0以下であるとより好ましく、4.7以上6.5以下であるとさらに好ましい。典型的には、当該pHは、5.0以上であってもよく、6.0以上であってもよく、6.5以上であってもよい。一方、当該pHは、9.0以下であってもよく、8.0以下であってもよい。なお、本明細書において、特段の説明がない限り、「pH」は、生成された直後に液温25℃に調整した本発明の金属炭化物中間体分散液のpH、及び室温25℃に設定した恒温器内で、本発明の金属炭化物中間体分散液が生成された日から2週間、又は3週間静置した後の金属炭化物中間体分散液のpHの全てを示す。
【0153】
ここで、本発明の金属炭化物中間体分散液のpHの測定は、本発明の金属炭化物中間体分散液にpHメータ(HORIBA製:ガラス電極式水素イオン濃度指示器 D-51)の電極(HORIBA製:スタンダード ToupH 電極 9615S-10D)を浸漬し、液温が25℃に安定したことを確認した後、実施する。
【0154】
また、本発明の金属炭化物中間体分散液は、前記有機酸と前記金属化合物とのモル比が0超~500であり、前記過酸化水素と前記金属化合物とのモル比が0超~10であり、前記アルカリ性化合物と前記金属化合物とのモル比が0超~100であることを特徴とする。
本発明の金属炭化物中間体分散液は、前記有機酸と前記金属化合物とのモル比が0超~500であり、前記過酸化水素と前記金属化合物とのモル比が0超~10であり、前記アルカリ性化合物と前記金属化合物とのモル比が0超~100であると、本発明の金属炭化物中間体分散液の安定性、及び分散性の観点から好ましい。
【0155】
有機酸と金属化合物とのモル比が0超~500であると好ましく、0.01~100であるとより好ましく、0.1~9であるとさらに好ましく、0.1~6であると特に好ましい。過酸化水素と金属化合物とのモル比が0超~10であると好ましく、0.001~3であるとより好ましく、0.01~1であるとさらに好ましい。アルカリ性化合物と金属化合物とが0超~100あると好ましく、0.001~100であるとより好ましく、0.01~50であるとさらに好ましく、0.1~30であると特に好ましく、4~20であるとより特に好ましい。
【0156】
ここで、有機酸と金属化合物とのモル比、過酸化水素と金属化合物とのモル比、アルカリ性化合物と金属化合物とのモル比は、以下の測定方法により、金属化合物含有量、有機酸含有量、過酸化水素含有量、及びアルカリ性化合物含有量を算出することにより、求めることができる。
【0157】
本発明の金属炭化物中間体分散液中の金属化合物含有量は、当該分散液を必要に応じて希塩酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)を用いて、JIS K0116:2014に準拠し、金属化合物中の金属原子換算の金属原子質量分率を測定することにより算出できる。
【0158】
本発明の金属炭化物中間体分散液中の有機酸含有量の測定方法は、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、質量分析(MS)、ガスクロマトグラフィー・質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィー・質量分析(LC-MS)などが挙げられる。
【0159】
本発明の金属炭化物中間体分散液中の過酸化水素含有量は、例えば標準添加法を用いて、過酸化水素の標準液との吸光度の相対強度を測定することにより、当該分散液中の過酸化水素含有量を確認することができる。具体的には、既知濃度、例えば1質量%過酸化水素を含む標準液と、過酸化水素が無添加の標準液とにおけるそれぞれの紫外可視吸収スペクトルから、ペルオキソ錯体形成に伴う吸光度の変化が観測される波長領域を見出し、その波長領域における過酸化水素が無添加の標準液と過酸化水素濃度が不明な試料との吸光度の差が1%未満であれば、過酸化水素濃度が不明な試料に過酸化水素が実質的に含まれていないことを確認することができる。当該分散液中に過酸化水素が含まれている場合、過酸化水素は金属元素のポリ酸と反応し、ペルオキソ錯体を形成することから、上述したように過酸化水素が無添加の標準液の吸光度の差を確認することにより、当該分散液中に過酸化水素が含まれていないことを確認できる。また、上述した標準添加法以外にも、例えば市販の過酸化水素測定キットを用いて、当該分散液に過酸化水素と呈色反応する試薬を加え、その発色を測定する方法や、当該分散液に過酸化水素と蛍光反応する試薬を加え、その発光を測定することによって、当該分散液中の過酸化水素を定性分析及び定量分析を行ってもよい。
【0160】
本発明の金属炭化物中間体分散液中のアルカリ性化合物の含有量、例えばアンモニア含有量の測定方法は、当該分散液に水酸化ナトリウムを加えてアンモニアを蒸留分離し、イオンメータによりアンモニア含有量を定量する方法、ガス化した試料中のN2分を熱伝導度計で定量する方法、ケルダール法などが挙げられる。特に、イオンメータによりアンモニア含有量を定量する方法が好ましい。また、有機窒素化合物含有量の測定方法は、ガスクロマトグラフィー(GC)、イオンクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)などが挙げられる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウムから選ばれる1種以上の有機窒素化合物の含有量は、ICP発光分析を用いて、JIS K0116:2014に準拠して測定することができる。
【0161】
このようにして、算出した金属化合物含有量、有機酸含有量、過酸化水素含有量、及びアルカリ性化合物含有量から、有機酸と金属化合物とのモル比、過酸化水素と金属化合物とのモル比、アルカリ性化合物と金属化合物とのモル比を算出することができる。
【0162】
また、本発明の金属炭化物中間分散液は、金属炭化物中間体分散液中のTa換算のタンタル含有量が0.4質量%以上、又はNb換算のニオブ含有量が0.35質量%以上であることを特徴とする。
本発明の金属炭化物中間体分散液中のTa換算のタンタル含有量が0.4質量%以上、又はNb換算のニオブ含有量が0.35質量%以上であると、成膜時の金属炭化膜の膜厚が大きくなる点で好ましい。また、本発明の金属炭化物中間体分散液中のTa換算のタンタル含有量が10質量%以上であるとより好ましく、20質量%以上であるとさらに好ましい。また、本発明の金属炭化物中間体分散液中のNb換算のニオブ含有量が20質量%以上であるとより好ましく、30質量%以上であるとさらに好ましい。
【0163】
本発明の金属炭化物中間体分散液中のタンタル含有量、又はニオブ含有量は、上述した通り、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)を用いて、JIS K0116:2014に準拠し、Ta換算のTa質量分率、又はNb換算のNb質量分率を測定して算出することができる。
【0164】
なお、本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特に断らない限り、「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」旨の意も包含する。また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現する場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【発明の効果】
【0165】
本発明の金属炭化物の製造方法は、極微粒であって、高い流動性を示す金属炭化物粉末を製造することができる。また、本発明の金属炭化物は、極微粒であっても、高い流動性を示すものである。さらに、本発明の金属炭化物中間体分散液は、分散性が高く、長期間経過した後でも沈殿物が析出しない分散液である。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【
図1】実施例3~10、及び比較例8~10に係る金属炭化物中間体分散液の物性値の一覧表である。
【
図2】実施例3~10、及び比較例8~10に係る金属炭化物中間体分散液の測定結果の一覧表である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0167】
以下、本発明に係る実施形態の金属炭化物について、以下の実施例1、2、及び比較例1~7によりさらに説明する。但し、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0168】
(実施例1)
水酸化タンタル200gと、25質量%アンモニア水92gとを10分間撹拌混合することにより、第1混合液を得た。その後、第1混合液に、35質量%過酸化水素水220gをさらに添加し、10分間撹拌し、第2混合液を得た。そして、第2混合液に、クエン酸79gを添加し、10分間撹拌し、実施例1に係る金属炭化物前駆体であるタンタルを含有する実施例1に係るペルオキソ錯体水分散液を得た。
【0169】
得られた実施例1に係るペルオキソ錯体水分散液は、その製造直後は、沈殿のない透明溶液であり、また製造7日後も、沈殿のない透明溶液であった。また、製造7日後の実施例1に係るペルオキソ錯体分散液のTa2O5換算濃度は175g/Lであった。さらに、製造7日後の実施例1に係るペルオキソ錯体水分散液の動的光散乱法による平均粒子径は625.2nmであった。
【0170】
そして、実施例1に係るペルオキソ錯体水分散液から、粉末形状の金属炭化物と、膜形状の金属炭化物とを生成した。
【0171】
先ず、実施例1に係るペルオキソ錯体水分散液を静置炉内に載置し、加熱温度110℃で12時間に亘って、加熱乾燥することにより、タンタルを含有するペルオキソ錯体粉末が得られた。さらに、当該タンタルを含有するペルオキソ錯体粉末を、カーボン製るつぼに充填し、その後高温真空炉内に載置し、大気下で、焼成温度1500℃で、1時間に亘って焼成することにより、炭化タンタルが得られた。そして、得られた炭化タンタルを、ボールミル等を用いて解砕することにより、実施例1に係る粉末形状の金属炭化物である炭化タンタル粉末を得た。実施例1に係る炭化タンタル粉末は、上述したX線回折測定条件、及びX線回折解析条件に従って得られたXRD測定の結果から2θ=33°~90°の範囲内にピークが見られることから、炭化タンタル(TaC、ICDDカードNo.00-019-1292)であることを確認した。
【0172】
次に、実施例1に係るペルオキソ錯体水分散液をカーボンブラック製の基材上に塗布し、実施例1に係るペルオキソ錯体水分散液が塗布されたカーボンブラック製の基材を静置炉内に載置し、加熱温度110℃で10分間乾燥させた。そして、乾燥させた実施例1に係るペルオキソ錯体水分散液が塗布されたカーボンブラック製の基材を高温真空炉内に載置し、大気下で、焼成温度1600℃で、60分間に亘って焼成することにより、実施例1に係る膜形状の金属炭化物である炭化タンタル膜を得た。実施例1に係る炭化タンタル膜は、上述したX線回折測定条件、及びX線回折解析条件に従って、上述したX線回折測定条件、及びX線回折解析条件に従って得られたXRD測定の結果から2θ=33~90°の範囲内にピークが見られることから、炭化タンタル(TaC、ICDDカードNo.00-019-1292)単相であることを確認した。
【0173】
(実施例2)
水酸化ニオブ100gと、25質量%アンモニア水153gと、35質量%過酸化水素水365gとを混合し、10分間撹拌し、混合液を得た。その後、混合液に、クエン酸87.6gを添加し、10分間撹拌し、実施例2に係る金属炭化物前駆体であるニオブを含有するペルオキソ錯体分散液を得た。
【0174】
得られた実施例2に係るペルオキソ錯体分散液は、その製造直後は、沈殿のない透明溶液であり、また製造7日後も、沈殿のない透明溶液であった。また、製造7日後の実施例2に係るペルオキソ錯体分散液のNb2O5換算濃度は133g/Lであった。さらに、製造7日後の実施例2に係るペルオキソ錯体分散液の動的光散乱法による平均粒子径は540nmであった。
【0175】
そして、実施例2に係るペルオキソ錯体水分散液から、粉末形状の金属炭化物と、膜形状の金属炭化物とを生成した。
【0176】
先ず、実施例2に係るペルオキソ錯体分散液を静置炉内に載置し、加熱温度110℃で12時間に亘って、加熱乾燥することにより、ニオブを含有するペルオキソ錯体粉末が得られた。さらに、当該ニオブを含有するペルオキソ錯体粉末を、カーボン製るつぼに充填し、その後高温真空炉内に載置し、大気下で、焼成温度1500℃で、1時間に亘って焼成することにより、炭化ニオブが得られた。そして、得られた炭化ニオブを、ボールミル等を用いて解砕することにより、実施例2に係る金属炭化物である炭化ニオブ粉末を得た。実施例2に係る炭化ニオブ粉末は、上述したX線回折測定条件、及びX線回折解析条件に従って得られたXRD測定の結果から2θ=33°~90°の範囲内にピークが見られることから、炭化ニオブ(TaNb、PDFカードNo.01-076-7071)であることを確認した。
【0177】
次に、実施例2に係るペルオキソ錯体水分散液をカーボンブラック製の基材上に塗布し、実施例2に係るペルオキソ錯体水分散液が塗布されたカーボンブラック製の基材を静置炉内に載置し、加熱温度110℃で10分間乾燥させた。そして、乾燥させた実施例1に係るペルオキソ錯体水分散液が塗布されたカーボンブラック製の基材を高温真空炉内に載置し、大気下で、焼成温度1600℃で、60分間に亘って焼成することにより、実施例2に係る膜形状の金属炭化物である炭化ニオブ膜を得た。実施例2に係る炭化ニオブ膜は、上述したX線回折測定条件、及びX線回折解析条件に従って得られたXRD測定の結果から2θ=33°~90°の範囲内にピークが見られることから、炭化ニオブ(TaNb、PDFカードNo.01-076-7071)単相であることを確認した。
【0178】
(比較例1)
酸化タンタル120kgとカーボンブラック22kgとを台秤で秤量し、バーチカルミキサーで5分間撹拌混合し、混合粉末を得た。
【0179】
この混合粉末を、カーボン製容器に充填(2kg/本)し、3時間に2本の割合で抵抗加熱式水素炉内に供給し、1,700℃の温度で14時間焼成させることにより、一次炭化を行い、一次炭化物を得た。
【0180】
この一次炭化物をカーボン製坩堝に充填(100kg/本)し、高周波誘導加熱式真空炉内に装入し、1,800℃の温度で5時間焼成させることにより、二次炭化物を得た。
【0181】
高周波誘導加熱式真空炉内で室温まで冷却した二次炭化物をカーボン製坩堝から取り出し、ジョークラッシャーを用いて、直径2cm以下の塊となるように粗粉砕した。
【0182】
粗粉砕後、20~50mmφの鉄製ボールを充填したボールミルを用いて、20時間粉砕を行って、粗粉砕された二次炭化物を微粉砕した。
【0183】
そして、微粉砕された二次炭化物を、振動篩によって分級して得られた篩下(微粒側)を採取することにより、比較例1に係る金属炭化物である粉末状の炭化タンタルを得た。
【0184】
(比較例2)
比較例2では、粗粉砕された二次炭化物を、風速:2.5m3/min、サンプル供給速度:10kg/hrに設定した気流式粉砕機であるジェットミルを用いて、微粉砕したこと以外、比較例1と同様な製造方法を実施し、比較例2に係る金属炭化物である粉末状の炭化タンタルを得た。
【0185】
(比較例3)
比較例3では、酸化タンタルを酸化ニオブに変更し、カーボンブラックの添加量を13kgにしたこと以外、比較例1と同様な製造方法を実施し、比較例3に係る金属炭化物である粉末状の炭化ニオブを得た。
【0186】
(比較例4)
五塩化タンタル50gを少量のメタノールに溶解させ、水を加え、さらに25質量%アンモニア水を加えることにより、タンタル酸水和物Ta2O5・nH2Oの沈殿を得た。当該沈殿物を水で洗浄し、塩化物イオンを除去した後、クエン酸12.57gと、25質量%アンモニア水46gとを添加し、混合した後、35質量%過酸化水素水109gを添加し、10分間撹拌し、比較例4に係る金属炭化物前駆体であるタンタルを含有するペルオキソ錯体分散液を得た。
【0187】
得られた比較例4に係るペルオキソ錯体分散液は、その製造直後は、白色沈殿を伴う透明溶液であり、また製造7日後も、白色沈殿を伴う透明溶液であった。また、製造7日後の比較例4に係るペルオキソ錯体分散液を遠心分離機により当該白色沈殿を分離した分散液のTa2O5換算濃度は39g/Lであった。さらに、製造7日後の比較例4に係るペルオキソ錯体分散液は、白色沈殿が生じており、動的光散乱法による平均粒子径の測定は困難であった。
【0188】
そして、比較例4に係るペルオキソ錯体分散液を、実施例1と同様にして、静置炉内に載置し、加熱温度110℃で12時間に亘って、加熱乾燥することにより、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉を、カーボン製るつぼに充填し、その後高温真空炉内に載置し、大気下で、焼成温度1500℃で、1時間に亘って焼成することにより、焼成粉を得た。なお、得られた焼成粉を、上述したX線回折測定条件、及びX線回折解析条件に従って行ったXRD測定で確認したところ、2θ=33°~90°の範囲内にピークが見られず、炭化反応が進んでいないことを確認した。
【0189】
(比較例5)
比較例5では、比較例4のクエン酸を乳酸37.4gに変更したこと以外、比較例4と同様な製造方法を実施し、比較例5に係るペルオキソ錯体分散液を得た。
【0190】
得られた比較例5に係るペルオキソ錯体分散液は、その製造直後は、白色沈殿を伴う透明溶液であり、また製造7日後も、白色沈殿を伴う透明溶液であった。また、製造7日後の比較例5に係るペルオキソ錯体分散液を遠心分離機により当該白色沈殿を分離した分散液のTa2O5換算濃度は2g/Lであった。さらに、製造7日後の比較例5に係るペルオキソ錯体分散液は、白色沈殿が生じており、動的光散乱法による平均粒子径の測定は困難であった。
【0191】
そして、比較例5に係るペルオキソ錯体分散液を、実施例1と同様にして、静置炉内に載置し、加熱温度110℃で12時間に亘って、加熱乾燥することにより、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉を、カーボン製るつぼに充填し、その後高温真空炉内に載置し、大気下で、焼成温度1500℃で、1時間に亘って焼成することにより、焼成粉を得た。なお、得られた焼成粉を、上述したX線回折測定条件、及びX線回折解析条件に従って行ったXRD測定で確認したところ、2θ=33°~90°の範囲内にピークが見られず、炭化反応が進んでいないことを確認した。
【0192】
(比較例6)
比較例6では、比較例4のクエン酸を酒石酸92.3gに変更したこと以外、比較例4と同様な製造方法を実施し、比較例6に係るペルオキソ錯体分散液を得た。
【0193】
得られた比較例6に係るペルオキソ錯体分散液は、その製造直後は、白色沈殿を伴う透明溶液であり、また製造7日後も、白色沈殿を伴う透明溶液であった。また、製造7日後の比較例6に係るペルオキソ錯体分散液を遠心分離機により当該白色沈殿を分離した分散液のTa2O5換算濃度は<1g/Lであった。さらに、製造7日後の比較例6に係るペルオキソ錯体分散液は、白色沈殿が生じており、動的光散乱法による平均粒子径の測定は困難であった。
【0194】
そして、比較例6に係るペルオキソ錯体分散液を、実施例1と同様にして、静置炉内に載置し、加熱温度110℃で12時間に亘って、加熱乾燥することにより、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉を、カーボン製るつぼに充填し、その後高温真空炉内に載置し、大気下で、焼成温度1500℃で、1時間に亘って焼成することにより、焼成粉を得た。なお、得られた焼成粉を、上述したX線回折測定条件、及びX線回折解析条件に従って行ったXRD測定で確認したところ、2θ=33°~90°の範囲内にピークが見られず、炭化反応が進んでいないことを確認した。
【0195】
(比較例7)
比較例7では、比較例4のクエン酸をEDTA(エチレンジアミン四酢酸)120.2gに変更したこと以外、比較例4と同様な製造方法を実施し、比較例7に係るペルオキソ錯体分散液を得た。
【0196】
得られた比較例7に係るペルオキソ錯体分散液は、その製造直後は、白色沈殿を伴う透明溶液であり、また製造7日後も、白色沈殿を伴う透明溶液であった。また、製造7日後の比較例7に係るペルオキソ錯体分散液を遠心分離機により当該白色沈殿を分離した分散液のTa2O5換算濃度は<1g/Lであった。さらに、製造7日後の比較例7に係るペルオキソ錯体分散液は、白色沈殿が生じており、動的光散乱法による平均粒子径の測定は困難であった。
【0197】
そして、比較例7に係るペルオキソ錯体分散液を、実施例1と同様にして、静置炉内に載置し、加熱温度110℃で12時間に亘って、加熱乾燥することにより、乾燥粉を得た。得られた乾燥粉を、カーボン製るつぼに充填し、その後高温真空炉内に載置し、大気下で、焼成温度1500℃で、1時間に亘って焼成することにより、焼成粉を得た。なお、得られた焼成粉を、上述したX線回折測定条件、及びX線回折解析条件に従って行ったXRD測定で確認したところ、2θ=33°~90°の範囲内にピークが見られず、炭化反応が進んでいないことを確認した。
【0198】
次に、本発明に係る実施形態の金属炭化物中間体分散液について、以下の実施例3~10、及び比較例8~10によりさらに説明する。但し、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0199】
(実施例3)
水酸化タンタル200gと、25質量%アンモニア水92gとを10分間撹拌混合することにより、第1混合液を得た。その後、第1混合液に、35質量%過酸化水素水220gをさらに添加し、10分間撹拌し、第2混合液を得た。そして、第2混合液に、クエン酸79gを添加し、10分間撹拌し、実施例3に係る金属炭化物中間体分散液を得た。なお、実施例3に係る金属炭化物中間体分散液は、実施例1に係る金属炭化物前駆体であるタンタルを含有する実施例1に係るペルオキソ錯体水分散液と同一の分散液である。
【0200】
得られた実施例3に係る金属炭化物中間体分散液中のTa換算含有量は0.050mol(Ta換算含有量は18.800質量%)であった。また、過酸化水素含有量は0.009mol(0.3質量%)、アンモニア含有量は0.2mol(3.6質量%)であった。さらに、有機酸(クエン酸)含有量は0.07mol(14質量%)であった。そして、残部は水であった。
【0201】
(実施例4)
水酸化ニオブ200gと、25質量%アンモニア水100gと、35質量%過酸化水素水235gとを混合し、10分間撹拌し、混合液を得た。その後、混合液に、クエン酸75gを添加し、10分間撹拌し、実施例4に係る金属炭化物中間体分散液を得た。
【0202】
得られた実施例4に係る金属炭化物中間体分散液中のNb換算含有量は0.020mol(Nb換算含有量は3.495質量%)であった。また、過酸化水素含有量は0.009mol(0.3質量%)、アンモニア含有量は0.2mol(3.6質量%)であった。さらに、有機酸(クエン酸)含有量は0.07mol(14質量%)であった。そして、残部は水であった。
【0203】
(実施例5)
実施例5は、実施例3と同様の製造方法により得られた第2混合液に、クエン酸79gと乳酸5gとを添加し、10分間撹拌し、実施例5に係る金属炭化物中間体分散液を得た。
【0204】
得られた実施例5に係る金属炭化物中間体分散液中のTa換算含有量は0.010mol(Ta換算含有量は4.095質量%)であった。また、過酸化水素含有量は0.009mol(0.3質量%)、アンモニア含有量は0.2mol(3.6質量%)であった。さらに、有機酸(クエン酸、乳酸)合計含有量は0.08mol(15質量%)であり、当該合計含有量の内訳はクエン酸含有量が0.07mol(14質量%)、乳酸含有量が0.010mol(1質量%)であった。そして、残部は水であった。
【0205】
(実施例6)
実施例6は、実施例3と同様の製造方法により得られた第2混合液に、酒石酸58gを添加し、10分間撹拌し、実施例6に係る金属炭化物中間体分散液を得た。
【0206】
得られた実施例6に係る金属炭化物中間体分散液中のTa換算含有量は0.010mol(Ta換算含有量は4.095質量%)であった。また、過酸化水素含有量は0.009mol(0.3質量%)、アンモニア含有量は0.2mol(3.6質量%)であった。さらに、有機酸(酒石酸)含有量は0.09mol(14質量%)であった。そして、残部は水であった。
【0207】
(実施例7)
水酸化ニオブ200gと、25質量%アンモニア水100gと、35質量%過酸化水素水235gとを混合し、10分間撹拌し、混合液を得た。その後、混合液に、クエン酸75gと乳酸5gとを添加し、10分間撹拌し、実施例7に係る金属炭化物中間体分散液を得た。
【0208】
得られた実施例7に係る金属炭化物中間体分散液中のNb換算含有量は0.015mol(Nb換算含有量は3.495質量%)であった。また、過酸化水素含有量は0.009mol(0.3質量%)、アンモニア含有量は0.2mol(3.6質量%)であった。さらに、有機酸(クエン酸、乳酸)合計含有量は0.08mol(15質量%)であり、当該合計含有量の内訳は、クエン酸含有量が0.07mol(14質量%)、乳酸含有量が0.010mol(1質量%)であった。そして、残部は水であった。
【0209】
(実施例8)
実施例8は、実施例7と同様の製造方法により得られた混合液に、クエン酸75gと酒石酸5gとを添加し、10分間撹拌し、実施例8に係る金属炭化物中間体分散液を得た。
【0210】
得られた実施例8に係る金属炭化物中間体分散液中のNb換算含有量は0.015mol(Nb換算含有量は3.495質量%)であった。また、過酸化水素含有量は0.009mol(0.3質量%)、アンモニア含有量は0.2mol(3.6質量%)であった。さらに、有機酸(クエン酸、酒石酸)合計含有量は0.076mol(15質量%)であり、当該合計含有量の内訳はクエン酸含有量が0.07mol(14質量%)、酒石酸含有量が0.06mol(1質量%)であった。そして、残部は水であった。
【0211】
(実施例9)
水酸化タンタル100gと、水酸化ニオブ100gと、25質量%アンモニア水100gとを10分間撹拌混合することにより、第1混合液を得た。その後、第1混合液に、35質量%過酸化水素水235gをさらに添加し、10分間撹拌し、第2混合液を得た。そして、第2混合液に、クエン酸79gを添加し、10分間撹拌し、実施例9に係る金属炭化物中間体分散液を得た。
【0212】
得られた実施例9に係る金属炭化物中間体分散液中のNb換算及びTa換算の合計含有量は0.025mol(Nb換算及びTa換算の合計含有量は7.590質量%)であり、当該合計含有量の内訳はNb換算含有量が0.015mol(Nb換算含有量は3.495質量%)、Ta換算含有量は0.010mol(Ta換算含有量は4.095質量%)であった。また、過酸化水素含有量は0.009mol(0.3質量%)、アンモニア含有量は0.2mol(3.6質量%)であった。さらに、有機酸(クエン酸)含有量は0.07mol(14質量%)であった。そして、残部は水であった。
【0213】
(実施例10)
実施例10は、実施例9と同様の製造方法により得られた第2混合液に、クエン酸79g、酒石酸5g、及び乳酸5gを添加し、10分間撹拌し、実施例10に係る金属炭化物中間体分散液を得た。
【0214】
得られた実施例10に係る金属炭化物中間体分散液中のNb換算及びTa換算の合計含有量は0.025mol(Nb換算及びTa換算の合計含有量は7.590質量%)であり、当該合計含有量の内訳は、Nb換算含有量は0.015mol(Nb換算含有量は3.495質量%)、Ta換算含有量は0.010mol(Ta換算含有量は4.05質量%)であった。また、過酸化水素含有量は0.009mol(0.3質量%)、アンモニア含有量は0.2mol(3.6質量%)であった。さらに、有機酸(クエン酸、乳酸、酒石酸)合計含有量は0.086mol(16質量%)であり、当該合計含有量の内訳はクエン酸含有量が0.07mol(14質量%)、乳酸含有量が0.010mol(1質量%)、酒石酸含有量が0.06mol(1質量%)であった。そして、残部は水であった。
【0215】
(比較例8)
五塩化タンタル50gを少量のメタノールに溶解させ、水を加え、さらに25質量%アンモニア水を加えることにより、タンタル酸水和物Ta2O5・nH2Oの沈殿を得た。当該沈殿物を水で洗浄し、塩化物イオンを除去した後、クエン酸12.57gと、25質量%アンモニア水46gとを添加し、混合した後、35質量%過酸化水素水109gを添加し、10分間撹拌し、比較例8に係る金属炭化物中間体分散液を得た。なお、比較例8に係る金属炭化物中間体分散液は、比較例4に係るペルオキソ錯体分散液と同一の分散液である。
【0216】
得られた比較例8に係る金属炭化物中間体分散液中のTa換算含有量は0.009mol(Ta換算含有量は3.276質量%)であった。また、過酸化水素含有量は0.009mol(0.3質量%)であった。さらに、有機酸(クエン酸)含有量は0.07mol(14質量%)であった。そして、残部は水であった。
【0217】
(比較例9)
比較例9は、比較例8のクエン酸を乳酸37.4gに変更したこと以外、比較例8と同様な製造方法を実施し、比較例9に係る金属炭化物中間体分散液を得た。なお、比較例9に係る金属炭化物中間体分散液は、比較例5に係るペルオキソ錯体分散液と同一の分散液である。
【0218】
得られた比較例9に係る金属炭化物中間体分散液中のTa換算含有量は0.009mol(Ta換算含有量は0.164質量%)であった。また、過酸化水素含有量は0.009mol(0.3質量%)であった。さらに、有機酸(乳酸)含有量は0.2mol(15質量%)であった。そして、残部は水であった。
【0219】
(比較例10)
比較例10は、比較例8のクエン酸を酒石酸92.3gに変更したこと以外、比較例8と同様な製造方法を実施し、比較例10に係る金属炭化物中間体分散液を得た。なお、比較例10に係る金属炭化物中間体分散液は、比較例6に係るペルオキソ錯体分散液と同一の分散液である。
【0220】
得られた比較例10に係る金属炭化物中間体分散液中のTa換算含有量は0.001mol(Ta換算含有量は0.082質量%)であった。また、過酸化水素含有量は0.009mol(0.3質量%であった。さらに、有機酸(酒石酸)含有量は0.1mol(15質量%)であった。そして、残部は水であった。
【0221】
そして、実施例1、2、及び比較例1~3に係る金属炭化物について、次のような物性値を測定した。以下、測定した物性値、及びその物性値の測定方法を示すとともに、測定結果を表1に示す。なお、比較例4~7に係る焼成粉は、XRD測定の結果、炭化物ではなかったことから、下記物性値の測定は行わなかった。
【0222】
〈元素分析〉
必要に応じて試料をフッ化水素酸、及び硝酸で適度に希釈し、ICP発光分析(アジレント・テクノロジー社製:AG-5110)により、Ta換算のTa質量分率、及びNb換算のNb質量分率を測定した。
【0223】
〈比表面積〉
実施例1、2、及び比較例1~3に係る粉末状の金属炭化物の各サンプルに対し、全自動比表面積測定装置(Macsorb HM-1230型)を用い、JIS Z8830に準拠し、BET法により比表面積を測定した。
【0224】
〈一次粒子径〉
実施例1、2、及び比較例1~3に係る粉末状の金属炭化物の各サンプルの上述した比表面積と、炭化物密度(例えば、炭化タンタル密度は13.9[g/cm3]であり、炭化ニオブ密度は8.57[g/cm3]である)とを、上述した式(1)に当てはめることにより、一次粒子径を算出した。
【0225】
〈真円度〉
実施例1、2、及び比較例1~3に係る粉末状の金属炭化物の各サンプルに対し、走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテクノロジーズ社製:S-4800)を用いて、それらの一次粒子が測定できる倍率10000倍以上100000倍以下にて、当該一次粒子のSEM画像を測定した。さらに、画像解析ソフトであるImageJを用いて、無作為抽出の20粒子の「長軸」及び「短軸」を測定した。測定した「長軸」及び「短軸」から、真円度を算出し、複数粒子の真円度の算術平均値を「真円度」とした。
【0226】
〈塩素含有量測定〉
実施例1、2、及び比較例1~3に係る粉末状の金属炭化物の適量の試料をセラミックスボードに採取し、燃焼イオンクロマトグラフィー(日東精工アナリテック社製:AQF-2100H)により、アルゴン(Ar)雰囲気下、1000℃、10分の条件で当該試料を加熱し、発生した塩素量を測定することにより、各金属炭化物粉末中の塩素含有量を求めた。
【0227】
〈窒素含有量測定〉
実施例1、2、及び比較例1~3に係る粉末状の金属炭化物の適量の試料をNiカプセルに封入し、酸素窒素分析装置(LECO社製:ON836)を用いて熱伝導度法により、各金属炭化物粉末中の窒素含有量を求めた。
【0228】
〈流動性試験1〉
実施例1、2、及び比較例1~3に係る粉末状の金属炭化物の粉体試料10gを、850μm孔径のフィルタがセットされた筒井理化学器機械社製A.B.D粉体特性測定器に投入し、当該フィルタを1分間振動させ、当該フィルタを通過した粉体試料を回収した。そして、粉体試料の回収量を測定し、回収率=回収量(g)/10g×100から回収率を算出した。なお、当該フィルタの振動を調節する供給調節ダイヤルを「8」にセットして行った。
【0229】
〈流動性試験2〉
筒井理化学器機械社製A.B.D粉体特性測定器にセットするフィルタの孔径を1000μmに変更し、流動性試験1と同様に測定し、回収率を算出した。
【0230】
〈混合性評価〉
実施例1、2、及び比較例1~3に係る粉末状の金属炭化物と炭化タングステン(日本新金属社製、粒径0.8μm)とを両者のモル比が1:1となるように秤量した混合試料(合計10g)を容量100mlのPP製広口瓶に投入し、ペイントシェイカー(周波数:50Hz)を用いて、1分間撹拌混合した。そして、薬さじを用いて、撹拌混合した混合試料を5点サンプリングし、各サンプルのTa、又はNb質量分率を分析した。1分間撹拌混合後の5点のTa、又はNb分析値の最大値と最小値との差が0.5質量%以下であるものは混合性に優れているものとして「○」と評価し、1分間撹拌混合後の5点のTa、又はNb分析値の最大値と最小値との差が0.5質量%超であるものは混合性に劣っているものとして「×」と評価した。
【0231】
また、実施例3~10、及び比較例8~10に係る金属炭化物中間体分散液について、次のような物性値を測定した。以下、測定した物性値、及びその物性値の測定方法を示すとともに、測定結果を
図1、
図2に示す。
【0232】
〈粒度分布測定(動的光散乱法)〉
粒度分布の評価は、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製:ELSZ-2000)を用いて、JIS Z 8828:2019に準じた動的光散乱法により行った。また、測定直前に測定対象である実施例3~10、及び比較例8~10に係る金属炭化物中間体分散液中の埃等を除去するため、1μm孔経のフィルタで当該分散液を濾過して、フィルタリングを行った。さらに、D50は体積分率にして50%に至る粒子径を示す。そして、測定した粒子径(D50)が1nm以上500nm以下であれば「〇〇(VERY GOOD)」と評価し、当該粒子径(D50)が500nm超1000nm以下であれば「〇(GOOD)」と評価し、当該粒子径(D50)が1000nm超であれば「×(BAD)」と評価した。
図2の「初期」とは、生成された直後の実施例3~10、及び比較例8~10に係る金属炭化物中間体分散液をいう。また、
図2の「2週間後」、又は「3週間後」とは、室温25℃に設定した恒温器内で、実施例3~10、及び比較例8~10に係る金属炭化物中間体分散液を生成した日から2週間、又は3週間静置した後の金属炭化物中間体分散液をいう。なお、比較例8~10に係る金属炭化物中間体分散液は、懸濁溶液であるため、当該粒子径(D50)は測定不可であった。
【0233】
〈光透過度測定〉
実施例3~10、及び比較例8~10に係る金属炭化物中間体分散液3mlを、ガラスセルに入れ、実施例3~10、及び比較例8~10に係る金属炭化物中間体分散液の波長350nm~750nm領域における光透過度(具体的には、波長350nm、450nm、550nm、650nm、750nmにおける光透過度)は、分光光度計を用いて、上述した光透過度測定条件に従って、測定した。そして、測定した光透過度が85%以上100%であれば「〇〇(VERY GOOD)」と評価し、当該光透過度が70%以上85%未満であれば「〇(GOOD)」と評価し、当該光透過度が70%未満であれば「×(BAD)」と評価した。当該光透過度が100%超の場合、100%とみなした。
図2の「初期」とは、生成された直後の実施例3~10、及び比較例8~10に係る金属炭化物中間体分散液をいう。また、
図2の「2週間後」、又は「3週間後」とは、室温25℃に設定した恒温器内で、実施例3~10、及び比較例8~10に係る金属炭化物中間体分散液を生成した日から2週間、又は3週間静置した後の金属炭化物中間体分散液をいう。なお、比較例8~10に係る金属炭化物中間体分散液は、懸濁溶液であったため、当該粒子径(D50)は測定不可であった。
【0234】
〈pH測定〉
実施例3~10、及び比較例8~10に係る金属炭化物中間体分散液にpHメータ(HORIBA製:ガラス電極式水素イオン濃度指示器 D-51)の電極(HORIBA製:スタンダード ToupH 電極 9615S-10D)、液温が25℃に安定したことを確認した後、pHを測定した。
図2の「初期」とは、生成された直後の実施例3~10、及び比較例8~10に係る金属炭化物中間体分散液をいう。また、
図2の「2週間後」、又は「3週間後」とは、室温25℃に設定した恒温器内で、実施例3~10、及び比較例8~10に係る金属炭化物中間体分散液を生成した日から2週間、又は3週間静置した後の金属炭化物中間体分散液をいう。
【0235】
【0236】
表1に示す通り、実施例1、2に係る金属炭化物は、BET法による比表面積が1m2/g以上であり、且つ真円度が0.78以上であることから、極微粒でありながら、高い流動性を有するものであった。
【0237】
実施例1、2に係る金属炭化物は、BET法による一次粒子径が0.7μm以下であり、且つ真円度が0.78以上であることから、極微粒でありながら、高い流動性を有するものであった。
【0238】
実施例1、2に係る金属炭化物は、金属炭化物粉末中の塩素含有量が25ppm以下であることから、過酸化水素が含まれておらず、例えば、実施例1、2に係る金属炭化物を、るつぼの表面上に塗布し、膜を形成する場合、発泡が生じず、均一に塗布することが容易となる。
【0239】
実施例1、2に係る金属炭化物は、金属炭化物粉末中の窒素含有量が1000ppm以下であることから、アンモニア成分が含まれておらず、安全面・作業面で好適である。
【0240】
図1、及び
図2に示す通り、実施例3~10に係る金属炭化物中間体分散液は、金属化合物と、アルカリ性化合物と、過酸化水素と、有機酸と、を有し、動的光散乱法を用いた粒子径分布測定による金属炭化物中間体分散液中の粒子の粒子径(D50)が1000nm以下であると、分散性が高く、長期間経過した後でも沈殿物が析出しない分散液であった。また、実施例3~10に係る金属炭化物中間体分散液は、金属化合物と、アルカリ性化合物と、過酸化水素と、有機酸と、を有し、金属炭化物中間体分散液の波長350nm以上750nm以下における光透過度の最大値が70%以上であることから、分散性が高く、分散液中成分の均一性が優れていた。
【0241】
実施例3~10に係る金属炭化物中間体分散液は、pHが3.0以上10.0以下であることから、当該分散液中に含まれるポリ酸イオンが安定した。
【0242】
実施例3~10に係る金属炭化物中間体分散液は、有機酸と金属化合物とのモル比:
図1に示す有機酸/(Nb+Ta)が0超~500であり、過酸化水素と金属化合物とのモル比:
図1に示す過酸化水素/(Nb+Ta)が0超~10であり、アルカリ性化合物と金属化合物とのモル比:
図1に示すアンモニア/(Nb+Ta)が0超~100であるから、安定性、及び分散性に優れていた。
【0243】
実施例3~10に係る金属炭化物中間体分散液は、金属炭化物中間体分散液中のTa換算のタンタル含有量が0.4質量%以上、又はNb換算のニオブ含有量が0.35質量%以上であることから、成膜時の金属炭化膜の膜厚が大きくなる点で好適である。
【0244】
また、実施例3~10に係る金属炭化物中間体分散液を焼成することにより、極微粒でありながら、高い流動性を有する金属炭化粉末が得られた。
【0245】
さらに、実施例3~10に係る金属炭化物中間体分散液を基材上に塗布し、焼成することにより、金属炭化膜が得られた。
【0246】
本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含む。
【産業上の利用可能性】
【0247】
本発明に係る金属炭化物は、極微粒でありながら、高い流動性を有するものであるから、超硬化工具の原料に対する添加剤として好適である。具体的には、本発明に係る金属炭化物は、超硬化工具の原料との過度な混合工程を必要とせず、また焼成時に長時間の加熱を必要としないため、エネルギーコストを削減することが可能となる。また、超硬化工具の原料との混合性の悪化による、均質な超硬化工具を形成できない不良品の発生率を抑えることができることから、廃棄物を減らすことができ、廃棄物の処分におけるエネルギーコストも削減することが可能となる。これらの点により、天然資源の持続可能な管理及び効率的な利点、並びに脱炭素(カーボンニュートラル)化を達成することにつながる。