(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177357
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出装置及び液体の供給方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20241212BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B41J2/14 501
B41J2/18
B41J2/14 607
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024173921
(22)【出願日】2024-10-02
(62)【分割の表示】P 2023004333の分割
【原出願日】2016-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2016003078
(32)【優先日】2016-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥島 真吾
(72)【発明者】
【氏名】刈田 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】青木 孝綱
(72)【発明者】
【氏名】永井 議靖
(72)【発明者】
【氏名】西谷 英輔
(72)【発明者】
【氏名】中川 喜幸
(57)【要約】
【課題】液体吐出ヘッドの流路の液体を流すことにより吐出口からの液体の蒸発によるインクの増粘などを抑制し、画像の色むらなどを低減することを可能とする。
【解決手段】液体吐出ヘッドは、液体を吐出するための吐出口と、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子が配される流路と、吐出口と流路とを連通する吐出口部と、外部から前記流路に液体を流入させるため供給流路と、前記流路から外部へ液体を流出させるための流出流路と、を備える。そして、流路と吐出口部との連通部における流路の高さをHμm、吐出口から液体が吐出される方向における吐出口部の長さをPμm、流路内の液体の流れ方向における吐出口部の長さをWμm、とした場合に、H
-0.34×P
-0.66×W>1.7を満たす。
【選択図】
図22
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための吐出口と、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子が配される流路と、前記吐出口と前記流路とを連通する吐出口部と、外部から前記流路に液体を流入させるための供給流路と、前記流路から外部へ液体を流出させるための流出流路と、を備える液体吐出ヘッドにおける液体の供給方法であって、
液体を、前記供給流路を介して外部から前記流路に流入させ、前記流路から前記流出流路を介して外部に流出させる供給が行われている際に、前記流路から前記吐出口部内に流入した液体が、前記吐出口に形成された液体のメニスカス位置まで達した後に、前記流路に戻る液体の流れが生成されることを特徴とする液体の供給方法。
【請求項2】
前記液体吐出ヘッドは、基板と、該基板上に形成されているオリフィスプレートと、を有しており、
前記吐出口は、前記オリフィスプレートに形成されており、
前記供給流路および前記流出流路は、前記基板に形成されており、かつ、前記基板を貫通している請求項1に記載の液体の供給方法。
【請求項3】
前記基板には、前記流路と前記供給流路との間に、前記供給流路からの液体を前記流路に供給する供給口が形成されており、
前記基板には、前記流路と前記流出流路との間に、前記流路から前記流出流路へと液体を流出させるための回収口が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の液体の供給方法。
【請求項4】
前記供給口及び前記回収口は、前記基板に複数形成されており、
前記供給流路は、前記複数の供給口と接続しており、
前記流出流路は、前記複数の回収口と接続していることを特徴とする請求項3に記載の液体の供給方法。
【請求項5】
前記流路に戻る液体は、前記流出流路へと流動することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の液体の供給方法。
【請求項6】
前記オリフィスプレートは、樹脂で形成されており、
前記基板は、シリコンで形成されている請求項2乃至4のいずれかに記載の液体の供給方法。
【請求項7】
前記流路を流れる液体の粘度が30cP以下で、液体の流れの速さが0.1~100mm/sであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の液体の供給方法。
【請求項8】
前記吐出口の近傍における前記オリフィスプレートの厚みは、前記流路と前記供給流路との連通部における前記オリフィスプレートの厚みより薄いことを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の液体の供給方法。
【請求項9】
前記オリフィスプレートには凹部が形成されており、前記吐出口は前記凹部内に形成されていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の液体の供給方法。
【請求項10】
前記流路と前記吐出口部との連通部の、前記流路内の液体の流れ方向に関する上流側での前記流路の高さをH、
前記吐出口から液体が吐出される方向における前記吐出口部の長さをP、
前記流路内の液体の流れ方向に関する前記吐出口部の長さをW、
とした場合に、
H-0.34×P-0.66×W>1.7
を満たすことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の液体の供給方法。
【請求項11】
前記Hは、前記流路と前記供給流路との連通部における前記流路の高さより低いことを特徴とする請求項10に記載の液体の供給方法。
【請求項12】
前記Hが20μm以下、前記Pが20μm以下、前記Wが30μm以下、であることを特徴とする請求項10または11に記載の液体の供給方法。
【請求項13】
前記Hが14μm以下、前記Pが12μm以下、前記Wが17μm以上30μm以下であり、前記流路の流速は前記吐出口からの蒸発速度の900倍以上であることを特徴とする請求項10に記載の液体の供給方法。
【請求項14】
前記Hが15μm以下、前記Pが7μm以下、前記Wが17μm以上30μm以下であり、前記流路の液体の流速は前記吐出口からの蒸発速度の100倍以上であることを特徴とする請求項10に記載の液体の供給方法。
【請求項15】
前記Hが8μm以下、前記Pが8μm以下、前記Wが17μm以上30μm以下であり、前記流路の流速は前記吐出口からの蒸発速度の50倍以上であることを特徴とする請求項10に記載の液体の供給方法。
【請求項16】
前記Hが3μm以上6μm以下、前記Pが3μm以上6μm以下、前記Wが17μm以上30μm以下であり、前記流路の液体の流速は前記吐出口からの蒸発速度の27倍以上であることを特徴とする請求項10に記載の液体の供給方法。
【請求項17】
液体を、前記供給流路を介して外部から前記流路に流入させ、前記流路から前記流出流路を介して外部に流出させるための供給手段を有し、
前記供給手段は、前記液体吐出ヘッドに対して、液体の循環を行うことを特徴とする請求項1乃至16のいずれかに記載の液体の供給方法。
【請求項18】
前記流路は前記エネルギー発生素子を内部に備える圧力室を含み、当該圧力室内の液体は前記供給流路および前記流出流路を介して外部との間で循環されることを特徴とする請求項1乃至17のいずれか記載の液体の供給方法。
【請求項19】
前記液体の固形分量が8wt%以上であることを特徴とする請求項1乃至18のいずれかに記載の液体の供給方法。
【請求項20】
前記エネルギー発生素子は発熱素子であり、エネルギー発生素子の加熱により生じる気泡が、前記吐出口を介して大気と連通することを特徴とする請求項1乃至19のいずれかに記載の液体の供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出装置及び液体の供給方法に関し、詳しくは、液体吐出口と吐出エネルギーを発生する素子との間の流路に液体を流しながら吐出動作を行う液体吐出ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の液体吐出ヘッドとして、特許文献1には、液体吐出ヘッドに対するインク循環によって、液体吐出ヘッドの吐出口と吐出エネルギーを発生する発熱抵抗体との間の流路にインクを流通させながらインクの吐出動作を行うことが記載されている。この構成によれば、吐出動作に伴って生じる熱でインクの水分等が蒸発することによって増粘したインクを排出し新たなインクを補給することができ、その結果、インクの増粘による吐出口の目詰まりを防止することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような吐出口とエネルギー発生素子との間の流路に液体を流す構成では、流路や吐出口の形状によっては、液体が流れているにもかかわらず、吐出口近傍の液体に質の変動が生じることがある。例えば、インクを吐出する液体吐出ヘッドでは、インクの増粘や色材濃度の変化を生じ、結果として、インクの吐出不良や記録画像の濃度むらが発生することがある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであり、吐出口とエネルギー発生素子との間の流路に液体を流す構成において、吐出口近傍における液体の質の変化を抑制することが可能な液体吐出ヘッド、液体吐出装置及び液体の供給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、液体を吐出するための吐出口と、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子が配される流路と、前記吐出口と前記流路とを連通する吐出口部と、外部から前記流路に液体を流入させるための供給流路と、前記流路から外部へ液体を流出させるための流出流路と、を備える液体吐出ヘッドであって、前記流路と前記吐出口部との連通部における前記流路の高さをHμm、前記吐出口から液体が吐出される方向における前記吐出口部の長さをPμm、前記流路内の液体の流れ方向における前記吐出口部の長さをWμm、とした場合に、
H-0.34×P-0.66×W>1.7
を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
以上の構成によれば、液体吐出ヘッドの流路の液体を流すことにより吐出口近傍における液体の質の変化を抑制することが可能となる。それにより、例えば吐出口からの液体の蒸発によるインクの増粘の抑制や、画像の色むらなどの低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の液体を吐出する液体吐出装置の一実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】一実施形態の記録装置に適用される循環経路の第1循環形態を示す模式図である。
【
図3】一実施形態の記録装置に適用される循環経路の第2循環形態を示す模式図である。
【
図4】(a)~(f)は、第1循環形態と第2循環形態とにおける、液体吐出ヘッド3へのインクの流入量の違いを説明する図である。
【
図5】(a)および(b)は、一実施形態に係る液体吐出ヘッドを示す斜視図である。
【
図6】液体吐出ヘッドを構成する各部品またはユニットを示した分解斜視図である。
【
図7】(a)~(f)は、第1、第2および第3の各流路部材の表面と裏面を示した図である。
【
図8】
図7(a)の一部を示し、第1~第3流路部材を接合して形成される流路部材内の流路を拡大して示した透視図である。
【
図9】
図8のIX-IXにおける断面を示した図である。
【
図10】(a)および(b)は、1つの吐出モジュールを示した斜視図および分解斜視図である。
【
図11】(a)、(b)および(c)は、記録素子基板の吐出口が形成される側の面の平面図、部分拡大図、および上記面の裏側の平面図である。
【
図12】
図11(a)におけるXII-XII線の断面を示す斜視図である。
【
図13】隣り合う2つの吐出モジュールにおける、記録素子基板の隣接部を部分的に拡大して示した平面図である。
【
図14】(a)および(b)は、一実施形態の他の例に係る液体吐出ヘッドを示した斜視図である。
【
図15】一実施形態の他の例に係る液体吐出ヘッドを示した斜視分解図である。
【
図16】(a)~(e)は、一実施形態の他の例に係る液体吐出ヘッドを構成する各流路部材を示した図である。
【
図17】一実施形態の他の例に係る液体吐出ヘッドにおける記録素子基板と流路部材との液体の接続関係を示した透視図である。
【
図18】
図17のXVIII-XVIII線における断面を示した図である。
【
図19】(a)および(b)は、一実施形態の他の例に係る液体吐出ヘッドにおける吐出モジュールを示した斜視図および分解図である。
【
図20】(a)は、記録素子基板の吐出口が配される面、(b)は記録素子基板の裏面側に設けられているカバープレートを除去した場合の記録素子基板の面、および(c)は、吐出口が配される面の裏面を示すそれぞれ模式図である。
【
図21】一実施形態に係るインクジェット記録装置の第2の適用例を示した図である。
【
図22】(a)~(c)は、本発明の第1実施形態に係る液体吐出ヘッドにおける吐出口およびその近傍のインク流路の構造を説明する図である。
【
図23】第2の実施形態に係る液体吐出ヘッド内を流れるインクのインク流の流れの様子を示す図である。
【
図24】(a)および(b)は、第2の実施形態および比較例に係る吐出口部内のインクの色材濃度の状態を示す図である。
【
図25】第2の実施形態と比較例の液体吐出ヘッドそれぞれから吐出したインクの色材濃度の比較を説明する図である。
【
図26】第2の実施形態の流れモードを生じる液体吐出ヘッドと、比較例の流れモードを生じる液体吐出ヘッドの関係を示す図である。
【
図27】(a)~(d)は、
図26に示すしきい線の上側と下側のそれぞれの領域となる液体吐出ヘッドにおける、吐出口部近傍のインク流の様子を説明する図である。
【
図28】種々の形状の液体吐出ヘッドについて流れが、流れモードAまたは流れモードBのいずれになるのかを説明する図である。
【
図29】(a)~(c)は、各流れモードの液体吐出ヘッドから吐出後、一定時間休止後の、発数(吐出回数)とそのときの吐出速度との関係を示す線図である。
【
図30】本発明の第3の実施形態に係る液体吐出ヘッド内を流れるインクのインク流の流れの様子を示す図である。
【
図31】本発明の第4の実施形態に係る液体吐出ヘッド内を流れるインクのインク流の流れの様子を示す図である。
【
図32】本発明の第5の実施形態に係る液体吐出ヘッド内を流れるインクのインク流の流れの様子を示す図である。
【
図33】本発明の第6の実施形態に係る液体吐出ヘッド内を流れるインクのインク流の流れの様子を示す図である。
【
図34】本発明の第7の実施形態に係る液体吐出ヘッド内を流れるインクのインク流の流れの様子を示す図である。
【
図35】(a)および(b)は、本発明の第8の実施形態に係る液体吐出ヘッドの特に吐出口の形状を示す図である。
【
図36】(a)および(b)は、本発明の第9の実施形態に係る液体吐出ヘッド内を流れるインクの、流れモードごとの流れの様子を示す図である。
【
図37】(a)および(b)は、第9の実施形態に係る吐出口部内のインクの色材濃度の状態を示す図である。
【
図38】第9の実施形態における、流れモードごとの蒸発速度と循環流速との関係を示す図である。
【
図39】(a)~(c)は、本発明の第10の実施形態に係る、3つの流路形状の流れモードを示す図である。
【
図40】第10の実施形態に係る、吐出口径を変化させた場合の、流れモード判定値の値を示した等高線図である。
【
図41】(a)~(c)は、第10の実施形態に係る、流路形状ごとの吐出口の吐出液滴を観察した結果を示す図である。
【
図42】第10の実施形態に係る、吐出口径を変化させた場合の気泡が大気と連通する時間を示した等高線図である。
【
図43】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッド内を流れるインクのインク流の流れの様子を示す図である。
【
図44】第8の実施形態の液体吐出ヘッドを示す図である。
【
図45】第8の実施形態の液体吐出ヘッドを示す図である。
【
図48】第1の適用例の液体吐出ヘッドの変形例を示す図である。
【
図49】第1の適用例の液体吐出ヘッドの変形例を示す図である。
【
図50】第1の適用例の液体吐出ヘッドの変形例を示す図である。
【
図53】第3の適用例の液体吐出ヘッドを示す図である。
【
図54】第3の適用例の液体吐出ヘッドを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明を適用可能な、各適用例および各実施形態について説明する。 尚、インク等の液体を吐出する本発明の液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドを搭載した液体吐出装置は、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置に適用可能である。さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に適用可能である。例えば、バイオチップ作製や電子回路印刷や半導体基板作製などの用途としても用いることができる。また、以下に述べる各適用例および各実施形態は、本発明の適切な具体例であるから、技術的に好ましい様々の限定が付けられている。しかし、本発明の思想に沿うものであれば、本適用例および実施形態は、本明細書の適用例、実施形態、その他の具体的方法に限定されるものではない。
【0010】
(第1の適用例)
<インクジェット記録装置>
図1は、本発明の液体を吐出する液体吐出装置、特にはインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置(以下、記録装置とも称す)1000の概略構成を示した図である。記録装置1000は、記録媒体2を搬送する搬送部1と、記録媒体2の搬送方向と略直交して配置されるライン型の液体吐出ヘッド3とを備え、複数の記録媒体2を連続もしくは間欠的に搬送しながら1パスで連続記録を行うライン型記録装置である。なお、記録媒体2は、カット紙に限らず、連続したロール媒体であってもよい。液体吐出ヘッド3は循環経路内の圧力(負圧)を制御する負圧制御ユニット230と、負圧制御ユニット230と流体連通した液体供給ユニット220と、液体供給ユニット220へのインクの供給および排出口となる液体接続部111と、筺体80とを備えている。本形態の液体吐出ヘッド3は、シアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックKのインクをそれぞれ吐出する吐出口列を備えており、それによってフルカラー記録が可能である。液体吐出ヘッド3は、
図2にて後述されるように、液体を液体吐出ヘッド3へ供給する供給路である液体供給機構、メインタンクおよびバッファタンク(後述する
図2参照)が流体的に接続される。そして、4色のインクそれぞれに対応して4つの負圧制御ユニット230および液体供給ユニット220が設けられる。また、液体吐出ヘッド3には、液体吐出ヘッド3へ電力および吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続される。液体吐出ヘッド3内における液体経路および電気信号経路については後述する。
【0011】
記録装置1000は、インク等の液体を後述するタンクと液体吐出ヘッド3との間で循環させる形態のインクジェット記録装置である。本適用例のインクジェット記録装置は、循環の形態(構成)として、以下の第1循環形態と第2循環形態等の多様な循環形態を適用可能である。第1循環形態は、液体吐出ヘッド3の下流側で2つの循環ポンプ(高圧用、低圧用)を稼動することで循環させる形態で、第2循環形態は、液体吐出ヘッド3の上流側で2つの循環ポンプ(高圧用、低圧用)を稼動することで循環させる形態である。以下、この循環の第1循環形態と第2循環形態とについて説明する。
【0012】
<第1循環形態の説明>
図2は、本適用例の記録装置1000に適用される循環経路の第1循環形態を示す模式図である。液体吐出ヘッド3は、第1循環ポンプ(高圧側)1001、第1循環ポンプ(低圧側)1002およびバッファタンク1003等に流体的に接続されている。なお
図2では、説明を簡略化するため、シアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックKのインクの内の1色のインクが流動する経路のみを示しているが、実際には4色分の循環経路が、液体吐出ヘッド3および記録装置本体に設けられる。
【0013】
第1循環形態では、メインタンク1006内のインクは、補充ポンプ1005によってバッファタンク1003に供給され、その後、第2循環ポンプ1004によって液体接続部111を介して液体吐出ヘッド3の液体供給ユニット220に供給される。その後、液体供給ユニット220に接続された負圧制御ユニット230で異なる2つの負圧(高圧、低圧)に調整されたインクは、高圧側と低圧側の2つの流路に分かれて循環する。液体吐出ヘッド3内のインクは、液体吐出ヘッド3の下流にある第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002の作用でヘッド内を循環し、液体接続部111を介してヘッド3から排出されてバッファタンク1003に戻る。
【0014】
サブタンクであるバッファタンク1003は、メインタンク1006と接続され、タンク内部と外部とを連通する不図示の大気連通口を有し、インク中の気泡を外部に排出することが可能である。バッファタンク1003とメインタンク1006との間には、補充ポンプ1005が設けられている。補充ポンプ1005は、インクを吐出しての記録や吸引回復等、液体吐出ヘッド3の吐出口からインクを吐出(排出)することによって消費されたインクをメインタンク1006からバッファタンク1003へ移送する。
【0015】
2つの第1循環ポンプ1001、1002は、液体吐出ヘッド3の液体接続部111から液体を引き出してバッファタンク1003へ流す。第1循環ポンプとしては、定量的な送液能力を有する容積型ポンプが好ましい。具体的にはチューブポンプ、ギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプ等が挙げられるが、例えば一般的な定流量弁やリリーフ弁をポンプ出口に配して一定流量を確保する形態であってもよい。液体吐出ヘッド3の駆動時には、第1循環ポンプ(高圧側)1001および第1循環ポンプ(低圧側)1002を稼働することによって、それぞれ共通供給経路211、共通回収流路212内を所定流量のインクが流れる。このようにインクを流すことで、記録時の液体吐出ヘッド3の温度を最適の温度に維持している。液体吐出ヘッド3駆動時の所定流量は、液体吐出ヘッド3内の各記録素子基板10間の温度差が記録画質に影響しない程度に維持可能である流量以上に設定することが好ましい。もっとも、あまりに大きな流量に設定すると、液体吐出ユニット300内の流路の圧損の影響により、各記録素子基板10で負圧差が大きくなり画像の濃度ムラが生じてしまう。そのため、各記録素子基板10間の温度差と負圧差を考慮しながら流量を設定することが好ましい。
【0016】
負圧制御ユニット230は、第2循環ポンプ1004と液体吐出ユニット300との間の経路に設けられている。この負圧制御ユニット230は、単位面積あたりの吐出量の差等によって循環系におけるインクの流量が変動した場合でも、負圧制御ユニット230よりも下流側(即ち液体吐出ユニット300側)の圧力を予め設定した一定の圧力に維持するように動作する。負圧制御ユニット230を構成する、高圧側(H)と低圧側(L)の2つの圧力調整機構としては、負圧制御ユニット230よりも下流の圧力を、所望の設定圧を中心として一定の範囲以下の変動で制御できるものであれば、どのような機構を用いてもよい。一例としては所謂「減圧レギュレータ」と同様の機構を採用することができる。本適用例における循環流路では、第2循環ポンプ1004によって、液体供給ユニット220を介して負圧制御ユニット230の上流側を加圧している。このようにすることにより、バッファタンク1003の液体吐出ヘッド3に対する水頭圧の影響を抑制できるので、記録装置1000におけるバッファタンク1003のレイアウトの自由度を広げることができる。
【0017】
第2循環ポンプ1004としては、液体吐出ヘッド3の駆動時に使用するインク循環流量の範囲内で、一定圧以上の揚程圧を有するものであればよく、ターボ型ポンプや容積型ポンプなどを使用できる。具体的には、ダイヤフラムポンプ等が適用可能である。また、第2循環ポンプ1004の代わりに、例えば負圧制御ユニット230に対してある一定の水頭差をもって配置された水頭タンクでも適用可能である。
【0018】
図2に示すように負圧制御ユニット230は、それぞれが互いに異なる制御圧が設定された2つの圧力調整機構H、Lを備えている。2つの負圧調整機構の内、相対的に高圧設定側(
図2でHと記載)、および相対的に低圧側(
図2でLと記載)は、液体供給ユニット220内を経由して、液体吐出ユニット300内の共通供給経路211、および共通回収流路212にそれぞれ接続されている。液体吐出ユニット300には、共通供給経路211、共通回収流路212、各記録素子基板と連通する個別流路215(個別供給流路213、個別回収流路214)が設けられている。共通供給流路211には圧力調整機構Hが、共通回収流路212には圧力調整機構Lが、それぞれ接続されることによって、2つの共通流路間に差圧を生じさせている。そして、個別流路215は、共通供給経路211および共通回収流路212とそれぞれ連通しているので、液体の一部が、共通供給流路211から記録素子基板10の内部流路を通過して共通回収流路212へと流れる流れ(
図2の矢印)が発生する。なお、2つの負圧調整機構H、Lは、それぞれフィルタ221を介して液体接続部111からの経路と接続している。
【0019】
このようにして、液体吐出ユニット300では、共通供給流路211および共通回収流路212内をそれぞれ通過するように液体を流しつつ、一部の液体が各記録素子基板10内を通過するような流れが発生する。このため、各記録素子基板10で発生する熱を共通供給流路211および共通回収流路212を流れるインクによって記録素子基板10の外部へ排出することができる。またこのような構成により、液体吐出ヘッド3による記録を行っている際に、吐出を行っていない吐出口や圧力室においてもインクの流れを生じさせることができる。これによって、吐出口内で増粘したインクの粘度を低下させることで、インクの増粘を抑制することができる。また、増粘したインクやインク中の異物を共通回収流路212へと排出することができる。このため、本適用例の液体吐出ヘッド3は、高速で高画質な記録が可能となる。
【0020】
<第2循環形態の説明>
図3は、本適用例の記録装置に適用される循環経路のうち、上述した第1循環形態とは異なる循環形態である第2循環形態を示す模式図である。前述の第1循環形態との主な相違点は、負圧制御ユニット230を構成する2つの圧力調整機構が共に、負圧制御ユニット230よりも上流側の圧力を、所望の設定圧を中心として一定範囲内の変動で制御する点である。また、第1循環形態との相違点として、第2循環ポンプ1004が負圧制御ユニット230の下流側を減圧する負圧源として作用する点である。更に、第1循環ポンプ(高圧側)1001および第1循環ポンプ(低圧側)1002が液体吐出ヘッド3の上流側に配置され、負圧制御ユニット230が液体吐出ヘッド3の下流側に配置されている点も相違する点である。
【0021】
第2循環形態では、
図3に示されるように、メインタンク1006内のインクは、補充ポンプ1005によってバッファタンク1003に供給される。その後インクは2つの流路に分けられ、液体吐出ヘッド3に設けられた負圧制御ユニット230の作用で高圧側と低圧側の2つの流路を介して循環する。高圧側と低圧側の2つの流路に分けられたインクは、第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002の作用によって、液体吐出ヘッド3の液体接続部111を介して液体吐出ヘッド3に供給される。その後、第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002の作用で液体吐出ユニット300内を循環したインクは、負圧制御ユニット230を経て、液体接続部111を介して液体吐出ヘッド3から排出される。排出されたインクは、第2循環ポンプ1004によってバッファタンク1003に戻される。
【0022】
第2循環形態の負圧制御ユニット230は、単位面積あたりの吐出量の変化によって生じる流量の変動があっても、負圧制御ユニット230の上流側(即ち液体吐出ユニット300側)の圧力変動を予め設定された圧力を中心として一定範囲内に安定させる作用をする。本適用例の循環流路では、第2循環ポンプ1004によって、液体供給ユニット220を介して負圧制御ユニット230の下流側を加圧している。このようにすると液体吐出ヘッド3に対するバッファタンク1003の水頭圧の影響を抑制できるので、記録装置1000におけるバッファタンク1003のレイアウトの選択幅を広げることができる。第2循環ポンプ1004の代わりに、例えば負圧制御ユニット230に対して所定の水頭差をもって配置された水頭タンクであっても適用可能である。第2循環形態では上述した第1循環形態と同様に、負圧制御ユニット230は、それぞれが互いに異なる制御圧が設定された2つの圧力調整機構H、Lを備えている。2つの負圧調整機構H、Lの内、高圧設定側(
図3でHと記載)、低圧設定側(
図3でLと記載)はそれぞれ、液体供給ユニット220内を経由して、液体吐出ユニット300内の共通供給経路211および共通回収流路212に接続されている。2つの負圧調整機構により、共通供給流路211の圧力を共通回収流路212の圧力より相対的に高くすることで、共通供給流路211から個別流路213および各記録素子基板10の内部流路を介して共通回収流路212へと流れるインク流れを発生させている。
【0023】
このような第2循環形態では、液体吐出ユニット300内には第1循環形態と同様のインク流れ状態が得られるが、第1循環形態の場合とは異なる2つの利点がある。1つ目は、第2循環形態では、負圧制御ユニット230が液体吐出ヘッド3の下流側に配置されているので、負圧制御ユニット230から発生するゴミや異物が液体吐出ヘッド3へ流入する懸念が少ないことである。2つ目は、第2循環形態では、バッファタンク1003から液体吐出ヘッド3へ供給する必要流量の最大値が、第1循環形態の場合よりも少なくて済むことである。その理由は次の通りである。
【0024】
記録待機時に循環している場合の、共通供給流路211および共通回収流路212内の流量の合計を流量Aとする。流量Aの値は、例えば、記録待機中に液体吐出ヘッド3の温度調整にあたり、液体吐出ユニット300内の温度差を所望の範囲内にするために必要な最小限の流量として定義される。また、液体吐出ユニット300の総ての吐出口からインクを吐出する場合(全吐出時)の吐出流量を流量F(1吐出口当りの吐出量×単位時間当たりの吐出周波数×吐出口数)と定義する。
【0025】
図4は、第1循環形態と第2循環形態とにおける、液体吐出ヘッド3へのインクの流入量の違いを説明する図である。
図4(a)は、第1循環形態における待機時を示しており、
図4(b)は、第1循環形態における全吐出時を示している。
図4(c)から
図4(f)は、第2循環流路の場合の流量を示しており、
図4(c)、(d)が流量F<流量Aの場合で、
図4(e)、(f)が流量F>流量Aの場合であり、それぞれ、待機時と全吐出時の流量を示している。
【0026】
定量的な送液能力を有する第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002が液体吐出ヘッド3の下流側に配置されている第1循環形態の場合(
図4(a)、(b))を説明する。この場合、第1循環ポンプ1001及び第1循環ポンプ1002の合計設定流量は流量Aとなる(
図4(a))。この流量Aによって、待機時の液体吐出ユニット300内の温度管理が可能となる。そして、液体吐出ヘッド3で全吐出が行われる場合には、第1循環ポンプ1001および第1循環ポンプ1002の合計設定流量は流量Aのままであるが、液体吐出ヘッド3で吐出によって生じる負圧が作用する。こにより、液体吐出ヘッド3へ供給される最大流量は、合計設定流量の流量Aに全吐出による消費分(流量F)が加算される。よって、液体吐出ヘッド3への供給量の最大値は、流量Fが流量Aに加算されるため流量A+流量Fとなる(
図4(b))。
【0027】
一方で、第1循環ポンプ1001および第1循環ポンプ1002が液体吐出ヘッド3の上流側に配置されている第2循環形態の場合(
図4(c)~(f))は、記録待機時に必要な液体吐出ヘッド3への供給量は、第1循環形態と同様に流量Aである。従って、第1循環ポンプ1001および第1循環ポンプ1002が液体吐出ヘッド3の上流側に配置されている第2循環形態では、流量Fよりも流量Aが多い場合(
図4(c)、(d))には、全吐出時でも液体吐出ヘッド3への供給量は流量Aで十分である。その際、液体吐出ヘッド3からの排出流量は、流量A-流量Fとなる(
図4(d))。しかし、流量Aよりも流量Fが多い場合(
図4(e)、(f))には、全吐出時には液体吐出ヘッド3への供給流量を流量Aとすると流量が足りなくなってしまう。そのため、流量Aよりも流量Fが多い場合には、液体吐出ヘッド3への供給量を流量Fとする必要がある。その際、全吐出が行われると、液体吐出ヘッド3では流量Fが消費されるため、液体吐出ヘッド3からの排出流量は、ほとんど排出されない状態となる(
図4(f))。なお、流量Aよりも流量Fが多い場合で、吐出は行うが全吐出ではない場合には、流量Fから吐出で消費された分が引かれた量が液体吐出ヘッド3から排出される。
【0028】
このように、第2循環形態の場合、第1循環ポンプ1001および第1循環ポンプ1002の設定流量の合計値、即ち必要供給流量の最大値は、流量Aまたは流量Fの大きい方の値となる。このため、同一構成の液体吐出ユニット300を使用する限り、第2循環形態における必要供給量の最大値(流量Aまたは流量F)は、第1循環形態における必要供給流量の最大値(流量A+流量F)よりも小さくなる。
【0029】
そのため第2循環形態の場合、適用可能な循環ポンプの自由度が高まり、例えば構成の簡便な低コストの循環ポンプを使用したり、本体側経路に設置される冷却器(不図示)の負荷を低減したりすることができ、記録装置のコストを低減できるという利点がある。この利点は、流量Aまたは流量Fの値が比較的大きくなるラインヘッドであるほど大きくなり、ラインヘッドの中でも長手方向の長さが長いラインヘッドほど有益である。
【0030】
しかしながら一方で、第1循環形態の方が、第2循環形態に対して有利になる点もある。すなわち第2循環形態では、記録待機時に液体吐出ユニット300内を流れる流量が最大であるため、単位面積当たりの吐出量が少ない画像(以下、低Duty画像ともいう)であるほど、各吐出口に高い負圧が印加された状態となる。このため、流路幅が狭く高い負圧である場合、ムラの見えやすい低Duty画像で吐出口に高い負圧が印加されるため、インクの主滴に伴って吐出される所謂サテライト滴が多く発生して記録品位が低下する虞がある。一方、第1循環形態の場合、高い負圧が吐出口に印加されるのは単位面積当たりの吐出量が多い画像(以下、高Duty画像ともいう)形成時であるため、仮にサテライト滴が発生しても視認されにくく、画像への影響は小さいという利点がある。これら2つの循環形態の選択は、液体吐出ヘッドおよび記録装置本体の仕様(吐出流量F、最小循環流量A、およびヘッド内流路抵抗)に照らして好ましい選択を採ることができる。
【0031】
<第3循環形態の説明>
図47は、本適用例の記録装置に適用される循環経路の1形態である第3循環経路を示す模式図である。上記第1および第2の循環経路と同様な機能、構成については説明を省略し、異なる点について主体的に説明する。
【0032】
本循環経路では、液体吐出ヘッド3の中央部の2個所と、液体吐出ヘッド3の一端側の計3か所から液体吐出ヘッド3内に液体が供給される。液体は、共通供給流路211から各圧力室23を経た後に共通回収流路212に回収され、液体吐出ヘッド3の他端部にある回収開口から外部へ回収される。個別流路213は共通供給経路211及び共通回収流路212と連通しており、各個別流路213の経路中に記録素子基板10およびその記録素子基板内に配される圧力室23が設けられている。よって、第1循環ポンプ1002で流す液体の一部は、共通供給流路211から記録素子基板10の圧力室23内を通過して、共通回収流路212へと流れる(
図47の矢印)。これは、共通供給流路211に接続された圧力調整機構Hと、共通回収流路212に接続された圧力調整機構Lとの間に圧力差が設けられ、第1循環ポンプ1002が共通回収流路212のみに接続されているからである。
【0033】
このようにして、液体吐出ユニット300では、共通回収流路212内を通過するような液体の流れと、共通供給流路211から各記録素子基板10内の圧力室23を通過し共通回収流路212に流れが発生する。このため、圧力損失の増大を抑制しつつ、各記録素子基板10で発生する熱を共通供給流路211から共通回収流路212への流れで記録素子基板10の外部へ排出することが出来る。また、本循環経路によれば、上記第1および第2の循環経路に比べて液体の輸送手段であるポンプの数を少なくすることが可能となる。
【0034】
<液体吐出ヘッド構成の説明>
第1の適用例に係る液体吐出ヘッド3の構成について説明する。
図5(a)および(b)は、本適用例に係る液体吐出ヘッド3を示した斜視図である。液体吐出ヘッド3は、1つの記録素子基板10でシアンC/マゼンタM/イエローY/ブラックKの4色のインクを吐出可能な記録素子基板10を直線上に15個配列(インラインに配置)されるライン型(ページワイド型)の液体吐出ヘッドである。
図5(a)に示すように、液体吐出ヘッド3は、各記録素子基板10と、フレキシブル配線基板40および電気配線基板90を介して電気的に接続された信号入力端子91と電力供給端子92を備える。信号入力端子91および電力供給端子92は、記録装置1000の制御部と電気的に接続され、それぞれ吐出駆動信号および吐出に必要な電力を記録素子基板10に供給する。電気配線基板90内の電気回路によって配線を集約することで、信号出力端子91および電力供給端子92の数を記録素子基板10の数に比べて少なくすることができる。これにより、記録装置1000に対して液体吐出ヘッド3を組み付けるとき、または液体吐出ヘッドの交換時に取り外しが必要な電気接続部数が少なくて済む。
図5(b)に示すように、液体吐出ヘッド3の両端部に設けられた液体接続部111は、
図2および
図3にて上述した、記録装置1000の液体供給系と接続される。これによりシアンC/マゼンタM/イエローY/ブラックK4色のインクが記録装置1000の供給系から液体吐出ヘッド3に供給され、また液体吐出ヘッド3内を通ったインクが記録装置1000の供給系へ回収されるようになっている。このように各色のインクは、記録装置1000の経路と液体吐出ヘッド3の経路を介して循環可能である。
【0035】
図6は、液体吐出ヘッド3を構成する各部品またはユニットを示した分解斜視図である。液体吐出ユニット300、液体供給ユニット220および電気配線基板90が筺体80に取り付けられている。液体供給ユニット220には液体接続部111(
図3参照)が設けられるとともに、液体供給ユニット220の内部には、供給されるインク中の異物を取り除くため、液体接続部111の各開口と連通する各色別のフィルタ221(
図2、
図3参照)が設けられている。2つの液体供給ユニット220は、それぞれに2色分ずつのフィルタ221が設けられている。フィルタ221を通過した液体は、それぞれの色に対応して液体供給ユニット220上に配置された負圧制御ユニット230へ供給される。負圧制御ユニット230は、各色別の圧力調整弁からなるユニットであり、それぞれの内部に設けられる弁やバネ部材などの働きで液体の流量の変動に伴って生じる記録装置1000の供給系内(液体吐出ヘッド3の上流側の供給系)の圧損変化を大幅に減衰させる。これによって負圧制御ユニット230は、圧力制御ユニットよりも下流側(液体吐出ユニット300側)の負圧変化をある一定範囲内で安定化させることが可能である。各色の負圧制御ユニット230内には、
図2で記述したように各色2つの圧力調整弁が内蔵されている。2つの圧力調整弁は、それぞれ異なる制御圧力に設定され、高圧側が液体吐出ユニット300内の共通供給流路211(
図2参照)、低圧側が共通回収流路212(
図2参照)と液体供給ユニット220を介して連通している。
【0036】
筐体80は、液体吐出ユニット支持部81および電気配線基板支持部82とから構成され、液体吐出ユニット300および電気配線基板90を支持するとともに、液体吐出ヘッド3の剛性を確保している。電気配線基板支持部82は、電気配線基板90を支持するためのものであり、液体吐出ユニット支持部81にネジ止めによって固定されている。液体吐出ユニット支持部81は、液体吐出ユニット300の反りや変形を矯正して、複数の記録素子基板10の相対位置精度を確保する役割を有し、それにより記録物におけるスジやムラを抑制する。そのため液体吐出ユニット支持部81は、十分な剛性を有することが好ましく、材質としてはSUSやアルミなどの金属材料、もしくはアルミナなどのセラミックが好適である。液体吐出ユニット支持部81には、ジョイントゴム100が挿入される開口83、84が設けられている。液体供給ユニット220から供給される液体は、ジョイントゴムを介して液体吐出ユニット300を構成する第3流路部材70へと導かれる。
【0037】
液体吐出ユニット300は、複数の吐出モジュール200、流路部材210からなり、液体吐出ユニット300の記録媒体側の面にはカバー部材130が取り付けられる。ここで、カバー部材130は、
図6に示したように長尺の開口131が設けられた額縁状の表面を持つ部材であり、開口131からは吐出モジュール200に含まれる記録素子基板10および封止材部110(後述する
図10参照)が露出している。開口131の周囲の枠部は、記録待機時に液体吐出ヘッド3をキャップするキャップ部材の当接面としての機能を有する。このため、開口131の周囲に沿って接着剤、封止材、充填材等を塗布し、液体吐出ユニット300の吐出口面上の凹凸や隙間を埋めることで、キャップ時に閉空間が形成されるようにすることが好ましい。
【0038】
次に、液体吐出ユニット300に含まれる流路部材210の構成について説明する。
図6に示したように流路部材210は、第1流路部材50、第2流路部材60および第3流路部材70を積層したものであり、液体供給ユニット220から供給された液体を各吐出モジュール200へと分配する。また、流路部材210は、吐出モジュール200から環流する液体を液体供給ユニット220へと戻すための流路部材である。流路部材210は、液体吐出ユニット支持部81にネジ止めで固定されており、それにより流路部材210の反りや変形が抑制されている。
【0039】
図7(a)~(f)は、第1~第3流路部材の各流路部材の表面と裏面を示した図である。
図7(a)は、第1流路部材50の、吐出モジュール200が搭載される側の面を示し、
図7(f)は、第3流路部材70の、液体吐出ユニット支持部81と当接する側の面を示す。また、第1流路部材50と第2流路部材60とは、夫々の流路部材の当接面を示す
図7(b)と
図7(c)が対向するように接合し、第2流路部材と第3流路部材とは、夫々の流路部材の当接面を示す
図7(d)と
図7(e)が対向するように接合する。第2流路部材60と第3流路部材70を接合することで、各流路部材に形成される共通流路溝62と71とから、流路部材の長手方向に延在する8本の共通流路(211a、211b、211c、211d、212a、212b、212c、212d)が形成される。これにより色毎に共通供給流路211と共通回収流路212のセットが流路部材210内に形成される。共通供給流路211から液体吐出ヘッド3にインクが供給されて、液体吐出ヘッド3に供給されたインクは共通回収流路212によって回収される。第3流路部材70の連通口72(
図7(f)参照)は、ジョイントゴム100の各穴と連通しており、液体供給ユニット220(
図6参照)と流体的に流通している。第2流路部材60の共通流路溝62の底面には、連通口61(共通供給流路211と連通する連通口61-1、共通回収流路212と連通する連通口61-2)が複数形成されており、第1流路部材50の個別流路溝52の一端部と連通している。第1流路部材50の個別流路溝52の他端部には連通口51が形成されており、連通口51を介して複数の吐出モジュール200と流体的に連通している。この個別流路溝52により流路部材の中央側へ流路を集約することが可能となる。
【0040】
第1~第3流路部材は、液体に対して耐腐食性を有するとともに、線膨張率の低い材質からなることが好ましい。材質としては例えば、アルミナや、LCP(液晶ポリマー)、PPS(ポリフェニルサルファイド)やPSF(ポリサルフォン)や変性PPE(ポリフェニレンエーテル)を母材としてシリカ微粒子やファイバーなどの無機フィラーを添加した複合材料(樹脂材料)を好適に用いることができる。流路部材210の形成方法としては、3つの流路部材を積層させて互いに接着してもよいし、材質として樹脂複合樹脂材料を選択した場合には、溶着による接合方法を用いてもよい。
【0041】
図8は、
図7(a)のα部を示しており、第1~第3流路部材を接合して形成される流路部材210内の流路を第1の流路部材50の、吐出モジュール200が搭載される面側から一部を拡大して示した透視図である。共通供給流路211と共通回収流路212とは、両端部の流路からそれぞれ交互に共通供給流路211と共通回収流路212とが配置されている。ここで、流路部材210内の各流路の接続関係について説明する。
【0042】
流路部材210には、色毎に液体吐出ヘッド3の長手方向に伸びる共通供給流路211(211a、211b、211c、211d)および共通回収流路212(212a、212b、212c、212d)が設けられている。各色の共通供給流路211には、個別流路溝52によって形成される複数の個別供給流路(213a、213b、213c、213d)が連通口61を介して接続されている。また、各色の共通回収流路212には、個別流路溝52によって形成される複数の個別回収流路(214a、214b、214c、214d)が連通口61を介して接続されている。このような流路構成により各共通供給流路211から個別供給流路213を介して、流路部材の中央部に位置する記録素子基板10にインクを集約することができる。また、記録素子基板10から個別回収流路214を介して、各共通回収流路212にインクを回収することができる。
【0043】
図9は、
図8のIX-IXにおける断面を示した図である。それぞれの個別回収流路(214a、214c)は連通口51を介して、吐出モジュール200と連通している。
図9では個別回収流路(214a、214c)のみ図示しているが、別の断面においては
図8に示すように個別供給流路213と吐出モジュール200とが連通している。各吐出モジュール200に含まれる支持部材30および記録素子基板10には、第1流路部材50からのインクを記録素子基板10に設けられる記録素子15に供給するための流路が形成されている。更に、支持部材30および記録素子基板10には、記録素子15に供給した液体の1部または全部を第1流路部材50に回収(環流)するための流路が形成されている。
【0044】
ここで、各色の共通供給流路211は、対応する色の負圧制御ユニット230(高圧側)と液体供給ユニット220を介して接続されており、また共通回収流路212は負圧制御ユニット230(低圧側)と液体供給ユニット220を介して接続されている。この負圧制御ユニット230により、共通供給流路211と共通回収流路212間に差圧(圧力差)を生じさせている。このため、
図8および
図9に示したように、各流路を接続した本適用例の液体吐出ヘッド内では、インク色ごとに共通供給流路211~個別供給流路213~記録素子基板10~個別回収流路214~共通回収流路212へと順に流れるインク流れが発生する。
【0045】
<吐出モジュールの説明>
図10(a)は、1つの吐出モジュール200を示した斜視図であり、
図10(b)は、その分解図である。吐出モジュール200の製造方法としては、まず記録素子基板10およびフレキシブル配線基板40を、予め液体連通口31が設けられた支持部材30上に接着する。その後、記録素子基板10上の端子16と、フレキシブル配線基板40上の端子41とをワイヤーボンディングによって電気接続し、その後にワイヤーボンディング部(電気接続部)を封止材110で覆って封止する。フレキシブル配線基板40の記録素子基板10と反対側の端子42は、電気配線基板90の接続端子93(
図6参照)と電気接続される。支持部材30は、記録素子基板10を支持する支持体であるとともに、記録素子基板10と流路部材210とを流体的に連通させる流路部材であるため、平面度が高く、また十分に高い信頼性をもって記録素子基板と接合できるものが好ましい。材質としては例えばアルミナや樹脂材料が好ましい。
【0046】
<記録素子基板の構造の説明>
図11(a)は記録素子基板10の吐出口13が形成される側の面の平面図を示し、
図11(b)は、
図11(a)のAで示した部分の拡大図を示し、
図11(c)は、
図11(a)の裏面の平面図を示す。ここで、本適用例における記録素子基板10の構成について説明する。
図11(a)に示すように、記録素子基板10の吐出口形成部材12に、各インク色に対応する4列の吐出口列が形成されている。なお、以後、複数の吐出口13が配列される吐出口列が延びる方向を「吐出口列方向」と呼称する。
図11(b)に示すように、各吐出口13に対応した位置には液体を熱エネルギーにより発泡させるための発熱素子である記録素子15が配置されている。隔壁22により、記録素子15を内部に備える圧力室23が区画されている。記録素子15は、記録素子基板10に設けられる電気配線(不図示)によって、端子16と電気的に接続されている。そして、記録素子15は、記録装置1000の制御回路から、電気配線基板90(
図6参照)およびフレキシブル配線基板40(
図10参照)を介して入力されるパルス信号に基づいて発熱して液体を沸騰させる。この沸騰による発泡の力で液体を吐出口13から吐出する。
図11(b)に示すように、各吐出口列に沿って、一方の側には液体供給路18が、他方の側には液体回収路19が延在している。液体供給路18および液体回収路19は記録素子基板10に設けられた吐出口列方向に伸びた流路であり、それぞれ供給口17a、回収口17bを介して吐出口13と連通している。
【0047】
図11(c)に示すように、記録素子基板10の、吐出口13が形成される面の裏面にはシート状のカバープレート20が積層されており、カバープレート20には、後述する液体供給路18および液体回収路19に連通する開口21が複数設けられている。本適用例においては、液体供給路18の1本に対して3個、液体回収路19の1本に対して2個の開口21がカバープレート20に設けられている。
図11(b)に示すようにカバープレート20の夫々の開口21は、
図7(a)に示した複数の連通口51と連通している。カバープレート20は、液体に対して十分な耐食性を有している物が好ましく、また、混色防止の観点から、開口21の開口形状および開口位置には高い精度が求められる。このためカバープレート20の材質として、感光性樹脂材料やシリコン板を用い、フォトリソプロセスによって開口21を設けることが好ましい。このようにカバープレート20は、開口21により流路のピッチを変換するものであり、圧力損失を考慮すると厚みは薄いことが望ましく、フィルム状の部材で構成されることが望ましい。
【0048】
図12は、
図11(a)におけるXII-XIIにおける記録素子基板10およびカバープレート20の断面を示す斜視図である。ここで、記録素子基板10内での液体の流れについて説明する。カバープレート20は、記録素子基板10の基板11に形成される液体供給路18および液体回収路19の壁の一部を形成する蓋としての機能を有する。記録素子基板10は、Siにより形成される基板11と感光性の樹脂により形成される吐出口形成部材12とが積層されており、基板11の裏面にはカバープレート20が接合されている。基板11の一方の面側には、記録素子15が形成されており(
図11参照)、その裏面側には、吐出口列に沿って延在する液体供給路18および液体回収路19を構成する溝が形成されている。基板11とカバープレート20とによって形成される液体供給路18および液体回収路19は、それぞれ流路部材210内の共通供給流路211と共通回収流路212と接続されており、液体供給路18と液体回収路19との間には差圧が生じている。吐出口13から液体を吐出して記録を行っている際に、吐出を行っていない吐出口では、この差圧によって基板11内に設けられた液体供給路18内の液体が、供給口17a、圧力室23、回収口17bを経由して液体回収路19へ流れる(
図12の矢印C)。この流れによって、吐出動作をしていない吐出口13および圧力室23において、吐出口13からの蒸発によって生じる増粘インク、泡および異物などを液体回収路19へ回収することができる。また、吐出口13や圧力室23のインクが増粘したり色材の濃度が増したりすることを抑制することができる。液体回収路19へ回収された液体は、カバープレート20の開口21および支持部材30の液体連通口31(
図10b参照)を通じて、流路部材210内の連通口51、個別回収流路214、共通回収流路212の順に回収される。その後、液体吐出ヘッド3から記録装置1000の供給経路へと回収される。つまり、記録装置本体から液体吐出ヘッド3へ供給される液体は、下記の順に流動し、供給および回収される。
【0049】
液体は、まず液体供給ユニット220の液体接続部111から液体吐出ヘッド3の内部に流入する。そして液体は、ジョイントゴム100、第3流路部材に設けられた連通口72および共通流路溝71、第2流路部材に設けられた共通流路溝62および連通口61、第1流路部材に設けられた個別流路溝52および連通口51の順に供給される。その後、支持部材30に設けられた液体連通口31、カバープレート20に設けられた開口21、基板11に設けられた液体供給路18および供給口17aを順に介して圧力室23に供給される。圧力室23に供給された液体のうち、吐出口13から吐出されなかった液体は、基板11に設けられた回収口17bおよび液体回収路19、カバープレート20に設けられた開口21、支持部材30に設けられた液体連通口31を順に流れる。その後液体は、第1流路部材に設けられた連通口51および個別流路溝52、第2流路部材に設けられた連通口61および共通流路溝62、第3流路部材70に設けられた共通流路溝71および連通口72、ジョイントゴム100を順に流れる。そして液体は、液体供給ユニット220に設けられた液体接続部111から液体吐出ヘッド3の外部へ流動する。
【0050】
図2に示した第1循環形態においては、液体接続部111から流入した液体は、負圧制御ユニット230を経由した後にジョイントゴム100に供給される。また、
図3に示した第2循環形態においては、圧力室23から回収された液体は、ジョイントゴム100を通過した後、負圧制御ユニット230を介して液体接続部111から液体吐出ヘッドの外部へ流動する。また、液体吐出ユニット300の共通供給流路211の一端から流入した総ての液体が、個別供給流路213aを経由して圧力室23に供給されるわけではない。つまり、共通供給流路211の一端から流入した液体で、個別供給流路213aに流入することなく、共通供給流路211の他端から液体供給ユニット220に流動する液体もある。このように、記録素子基板10を経由することなく流動する経路を備えることで、本適用例のような微細で流抵抗の比較的大きい流路を備える記録素子基板10を用いる場合であっても、液体の循環流の逆流を抑制することができる。このように、本適用例の液体吐出ヘッド3では、圧力室23や吐出口近傍部の液体の増粘等を抑制することができるので、吐出のヨレや不吐出を抑制することができ、結果として高画質な記録を行うことができる。
【0051】
<記録素子基板間の位置関係の説明>
図13は、隣り合う2つの吐出モジュール200における、記録素子基板の隣接部を部分的に拡大して示した平面図である。本適用例では、略平行四辺形の記録素子基板を用いている。各記録素子基板10における吐出口13が配列される各吐出口列(14a~14d)は、記録媒体の搬送方向に対し一定角度傾くように配置されている。そして、記録素子基板10同士の隣接部における吐出口列は、少なくとも1つの吐出口が記録媒体の搬送方向にオーバーラップするようになっている。
図13では、線D上の2つの吐出口が互いにオーバーラップする関係にある。このような配置によって、仮に記録素子基板10の位置が所定位置から多少ずれた場合でも、オーバーラップする吐出口の駆動制御によって、記録画像の黒スジや白抜けを目立たなくすることができる。複数の記録素子基板10を、いわゆる千鳥配置ではなく、直線上(インライン)に配置した場合も、つなぎ部における黒スジや白抜け対策を行うことができる。具体的には、
図13のような構成により液体吐出ヘッド3の記録媒体の搬送方向の長さの増大を抑えつつ記録素子基板10同士のつなぎ部における黒スジや白抜け対策を行うことができる。なお、本適用例では、記録素子基板の主平面は平行四辺形であるが、これに限るものではなく、例えば長方形、台形、その他形状の記録素子基板を用いた場合でも、本発明の構成を好ましく適用することができる。
【0052】
<液体吐出ヘッド構成の変形例の説明>
図46、
図48~
図50に上述した液体吐出ヘッド構成の変形例について説明する。上述した例と同様な構成、機能については説明を省略し、異なる点について主体的に説明する。本変形例は、
図46、
図48に示すように液体吐出ヘッド3と外部との液体の接続部である複数の液体接続部111は、液体吐出ヘッドの長手方向の一端側に集約して配置されている。液体吐出ヘッド3の他端側には複数の負圧制御ユニット230を集約して配置している(
図49)。液体吐出ヘッド3に含まれる液体供給ユニット220は、液体吐出ヘッド3の長さに対応した長尺状のユニットとして構成され、供給する4色の液体に対応した流路およびフィルタ221を備える。
図49に示すように、液体吐出ユニット支持部81に設けられる開口83~開口86の位置も上述した液体吐出ヘッド3とは異なる位置に設けられている。
【0053】
図50に流路部材50,60,70の積層状態を示す。複数の流路部材50,60、70の最上層である流路部材50の上面に複数の記録素子基板10が直線状に配列される。各記録素子基板10の裏面側に形成される開口21(
図19)に連通する流路は、液体の色ごとに、個別供給流路213が2つ、個別回収流路214が1つとなっている。これに対応して、記録素子基板10の裏面に設けられるカバープレート20に形成される開口21も、液体の色ごとに供給開口21が2つ、回収開口21が1つとなっている。
図50に示すように、液体吐出ヘッド3の長手方向に沿って延在する共通供給流路211と共通回収流路212とが交互に並列されている。
【0054】
(第2の適用例)
<インクジェット記録装置>
次に、上述した第1の適用例のインクジェット記録装置とは異なる、第2の適用例のインクジェット記録装置2000および液体吐出ヘッド2003の構成を説明する。なお以降の説明においては、主として、第1の適用例の記録装置と異なる部分のみを説明し、第1の適用例の装置と同様の部分については説明を省略する。
【0055】
図21は、第2の適用例のインクジェット記録装置2000を示した図である。本適用例の記録装置2000は、シアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックKの各インクごとに対応した単色用の液体吐出ヘッド2003を4つ並列配置させることで記録媒体へフルカラー記録を行う点が第1の適用例とは異なる。第1の適用例において1色あたりに使用できる吐出口列数が1列だったのに対し、本適用例においては、1色あたりに使用できる吐出口列数は20列となっている。このため、記録データを複数の吐出口列に適宜振り分けて記録を行うことで、非常に高速な記録が可能となる。更に、不吐出になる吐出口があったとしても、その吐出口に対して記録媒体の搬送方向に対応する位置にある、他列の吐出口から補間的に吐出を行うことで信頼性が向上し、商業記録などに好適である。第1の適用例と同様に、各液体吐出ヘッド2003に対して、記録装置2000の供給系、バッファタンク1003(
図2、
図3参照)およびメインタンク1006(
図2、
図3参照)が流体的に接続されている。また、それぞれの液体吐出ヘッド2003には、液体吐出ヘッド2003へ電力および吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続されている。
【0056】
<循環経路の説明>
第1の適用例と同様に、記録装置2000および液体吐出ヘッド2003間の液体循環経路としては、第1の適用例同様、
図2、
図3、
図47に示した第1~第3循環形態を用いることができる。
【0057】
<液体吐出ヘッド構造の説明>
図14(a)および(b)は、本適用例に係る液体吐出ヘッド2003を示した斜視図である。液体吐出ヘッド2003は、液体吐出ヘッド2003の長手方向に直線上に配列される16個の記録素子基板2010を備え、1色のインクを吐出するライン型記録ヘッドである。液体吐出ヘッド2003は、第1の適用例と同様、液体接続部111、信号入力端子91および電力供給端子92を備える。しかし、本形態の液体吐出ヘッド2003は、第1の適用例のヘッドに比べて吐出口列が多いため、液体吐出ヘッド2003の両側に信号出力端子91および電力供給端子92が配置されている。これにより、記録素子基板2010に設けられる配線部で生じる電圧低下や信号伝送遅れを低減することができる。
【0058】
図15は、液体吐出ヘッド2003を示した斜視分解図であり、液体吐出ヘッド2003を構成する各部品またはユニットがその機能毎に分割して示している。各ユニットおよび部材の役割や液体吐出ヘッド内の液体流通の順は、基本的に第1の適用例と同様であるが、液体吐出ヘッドの剛性を担保する機能が異なる。第1の適用例では主として液体吐出ユニット支持部81によって液体吐出ヘッド剛性を担保していたが、第2の適用例の液体吐出ヘッド2003では、液体吐出ユニット2300に含まれる第2流路部材2060によって液体吐出ヘッドの剛性を担保している。本適用例における液体吐出ユニット支持部81は、第2流路部材2060の両端部に接続されており、この液体吐出ユニット2300は記録装置2000のキャリッジと機械的に結合されて、液体吐出ヘッド2003の位置決めを行う。負圧制御ユニット2230を備える液体供給ユニット2220と、電気配線基板90は、液体吐出ユニット支持部81に結合される。2つの液体供給ユニット2220内にはそれぞれフィルタ(不図示)が内蔵されている。
【0059】
2つの負圧制御ユニット2230は、それぞれ異なる、相対的に高低の負圧で圧力を制御するように設定されている。また、この
図14のように、液体吐出ヘッド2003の両端部にそれぞれ、高圧側と低圧側の負圧制御ユニット2230を設置した場合、液体吐出ヘッド2003の長手方向に延在する共通供給流路と共通回収流路における液体の流れが互いに対向する。このような構成では、共通供給流路と共通回収流路の間で熱交換が促進されて、2つの共通流路内における温度差が低減される。これによって、共通流路に沿って複数設けられる各記録素子基板2010における温度差が少なくなり、温度差による記録ムラが生じにくくなるという利点がある。
【0060】
次に、液体吐出ユニット2300の流路部材2210の詳細について説明する。
図15に示すように、流路部材2210は、第1流路部材2050と第2流路部材2060とを積層したものであり、液体供給ユニット2220から供給された液体を各吐出モジュール2200へと分配する。また流路部材2210は、吐出モジュール2200から環流する液体を液体供給ユニット2220へと戻すための流路部材として機能する。流路部材2210の第2流路部材2060は、内部に共通供給流路および共通回収流路が形成された流路部材であるとともに、液体吐出ヘッド2003の剛性を主に担うという機能を有する。このため、第2流路部材2060の材質としては、液体に対する十分な耐食性と高い機械強度を有するものが好ましい。具体的にはSUSやTi、アルミナなど用いることができる。
【0061】
図16(a)は、第1流路部材2050の、吐出モジュール2200がマウントされる面を示した図であり、
図16(b)は、その裏面を示しており、第2流路部材2060と当接される面を示した図である。第1の適用例とは異なり、本形態における第1流路部材2050は、各吐出モジュール2200毎に対応した複数の部材を隣接して配列したものである。このように分割した構造を採ることで、複数のモジュールを配列させて、液体吐出ヘッド2003の長さに対応することができるので、例えばB2サイズおよびそれ以上の長さに対応した比較的ロングスケールの液体吐出ヘッドに特に好適に適用することができる。
図16(a)に示すように、第1流路部材2050の連通口51は、吐出モジュール2200と流体的に連通し、
図16(b)に示すように、第1流路部材2050の個別連通口53は、第2流路部材2060の連通口61と流体的に連通する。
図16(c)は、第2流路部材60の、第1流路部材2050と当接される面を示し、
図16(d)は、第2流路部材60の厚み方向中央部の断面を示し、
図16(e)は、第2流路部材2060の、液体供給ユニット2220と当接する面を示す図である。第2流路部材2060の流路や連通口の機能は、第1の適用例の1色分と同様である。第2流路部材2060の共通流路溝71は、その一方が後述する
図17に示す共通供給流路2211であり、他方が共通回収流路2212であり、夫々、液体吐出ヘッド2003の長手方向に沿って設けられており、その一端側から他端側に液体が供給される。本形態は、第1の適用例と異なり、共通供給流路2211と共通回収流路2212の液体の流れは互いに反対方向となっている。
【0062】
図17は、記録素子基板2010と流路部材2210との液体の接続関係を示した透視図である。流路部材2210内には、液体吐出ヘッド2003の長手方向に延びる一組の共通供給流路2211および共通回収流路2212が設けられている。第2流路部材2060の連通口61は、各々の第1流路部材50の個別連通口53と位置を合わせて接続されている。また、第2流路部材2060の連通口72から共通供給流路2211を介して第1流路部材2050の連通口51へと連通する液体供給経路が形成されている。同様に、第2流路部材2060の連通口72から共通回収流路2212を介して第1流路部材2050の連通口51へと連通する液体供給経路も形成されている。
【0063】
図18は、
図17のXVIII-XVIII線における断面を示した図である。共通供給流路2211は、連通口61、個別連通口53、連通口51を介して、吐出モジュール2200へ接続されている。
図18では不図示であるが、別の断面においては、共通回収流路2212が同様の経路で吐出モジュール2200へ接続されていることは、
図17を参照すれば明らかである。第1の適用例と同様に、各吐出モジュール2200および記録素子基板2010には、各吐出口に連通する流路が形成されており、供給した液体の一部または全部が、吐出動作を休止している吐出口を通過して、環流できるようになっている。また、第1の適用例と同様に、共通供給流路2211は、負圧制御ユニット2230(高圧側)と、共通回収流路2212は負圧制御ユニット2230(低圧側)と、それぞれ液体供給ユニット2220を介して接続されている。従って、その差圧によって、共通供給流路2211から記録素子基板2010の吐出口を通過して共通回収流路2212へと流れる流れが発生する。
【0064】
<吐出モジュールの説明>
図19(a)は、1つの吐出モジュール2200を示した斜視図であり、
図19(b)は、その分解図である。第1の適用例との差異は、記録素子基板2010の複数の吐出口列方向に沿った両辺部(記録素子基板2010の各長辺部)に複数の端子16がそれぞれ配置されている点である。これに伴い記録素子基板2010と電気接続されるフレキシブル配線基板40も、1つの記録素子基板2010に対して2枚配置されている。これは記録素子基板2010に設けられる吐出口列数が20列あり、第1の適用例の8列よりも大幅に増加しているためであり、端子16から記録素子までの最大距離を短くして記録素子基板2010内の配線部で生じる電圧低下や信号遅れを低減するためである。また支持部材2030の液体連通口31は、記録素子基板2010に設けられ全吐出口列を跨るように開口している。その他の点は、第1の適用例と同様である。
【0065】
<記録素子基板の構造の説明>
図20(a)は、記録素子基板2010の吐出口13が配される面の模式図であり、
図20(c)は、
図20(a)の面の裏面を示す模式図である。
図20(b)は
図20(c)において、記録素子基板2010の裏面側に設けられているカバープレート2020を除去した場合の記録素子基板2010の面を示す模式図である。
図20(b)に示すように、記録素子基板2010の裏面には吐出口列方向に沿って、液体供給路18と液体回収路19とが交互に設けられている。吐出口列数は、第1の適用例よりも大幅に増加しているものの、第1の適用例との本質的な差異は、前述のように端子16が記録素子基板の吐出口列方向に沿った両辺部に配置されていることである。各吐出口列毎に一組の液体供給路18と液体回収路19が設けられていること、カバープレート2020に、支持部材2030の液体連通口31と連通する開口21が設けられていることなど、基本的な構成は第1の適用例と同様である。
【0066】
(第3の適用例)
<インクジェット記録装置>
本発明の第3の適用例によるインクジェット記録装置1000及び液体吐出ヘッド3の構成を説明する。第3の適用例の液体吐出ヘッドは、B2サイズの被記録媒体に対して1スキャンで記録を行うページワイド型である。第3の適用例は第2の適用例と類似している点が多いため、以降の説明においては、主として第2適用例と異なる部分を説明し、第2適用例と同様の部分については説明を省略する。
【0067】
図51に本適用例のインクジェット記録装置の模式図を示す。記録装置1000は、液体吐出ヘッド3から被記録媒体に直接記録を行わず、一度、中間転写体(中間転写ドラム1007)に液体を吐出し画像を形成した後に、その画像を被記録媒体2に転写する構成である。記録装置1000では、CMYKの4種類のインクに夫々対応した4つの単色用の液体吐出ヘッド3が、中間転写ドラム1007に沿って円弧状に配置されている。これによって中間転写体上にフルカラー記録が行われ、その記録画像は、中間転写体上で適切な乾燥状態にされた後、紙搬送ローラー1009によって搬送される被記録媒体2へ、転写部1008で転写される。第2の適用例の紙搬送系は主にカット紙を意図した水平搬送であったのに対し、本適用例においては本体ロール(不図示)から供給される連続紙にも対応可能である。このようなドラム搬送系では、紙に一定の張力をかけながら搬送することが容易なため、高速記録時においても搬送ジャムが少ない。このため装置の信頼性が向上し、商業印刷などに好適である。第1及び第2の適用例と同様、各液体吐出ヘッド3に対して、記録装置1000の供給系、バッファタンク1003及びメインタンク1006が流体的に接続される。また、それぞれの液体吐出ヘッド3には、液体吐出ヘッド3へ電力及び吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続される。
【0068】
<第4循環形態の説明>
本適用例における液体循環経路としては、
図2、
図3、
図47に示した第1~第3の循環経路も適用可能であるが、
図52に示す循環経路がより好適に適用できる。
図3の第2の循環経路と類似するが、主な差異としては、第1循環ポンプ1001,1002及び第2循環ポンプ1004各々の流路の流路に連通するバイパス弁1010が付加されていることである。このバイパス弁1010は予め設定された圧力を超過すると弁が開くことで、バイパス弁1010上流側の圧力を下げるという機能(第1の機能)を有する。また記録装置本体の制御基板からの信号によって、任意のタイミングで弁を開閉する機能(第2の機能)も有する。
【0069】
第1の機能により、第1循環ポンプ1001,1002の下流側または第2循環ポンプ1004の上流側の流路に、過剰または過小な圧力が掛かることを抑制することができる。例えば、第1循環ポンプ1001,1002の機能に支障が発生した場合、過剰な流量や圧力が液体吐出ヘッド3に加わる場合がある。それにより液体吐出ヘッド3の吐出口から液体の漏洩が生じたり、液体吐出ヘッド3内の各接合部に破断が生じたりする虞がある。しかし本適用例のように、第1循環ポンプ1001、1002にバイパス弁が追加されている場合、過剰な圧力が発生した場合でも、バイパス弁1010が開くことで各循環ポンプ上流側へと液体経路が開放されるため、上記のようなトラブルを抑制できる。
【0070】
また第2の機能により、循環駆動停止時には、第1循環ポンプ1001,1002及び第2循環ポンプ1004の停止後に、本体側からの制御信号に基づいて、速やかに全てのバイパス弁1010を開放する。これにより、液体吐出ヘッド3の下流部(負圧制御ユニット230~第2循環ポンプ1004の間)の高負圧(例えば、数~数十kPa)を短時間に開放することができる。循環ポンプとしてダイヤフラムポンプなど容積型ポンプを使用した場合には、通常、ポンプ内に逆止弁が内蔵されている。しかしながら、バイパス弁を開くことで、下流側のバッファタンク1003側からも液体吐出ヘッド3の下流部の圧力解放を行える。上流側からだけでも液体吐出ヘッド3の下流部の圧力解放は行えるが、液体吐出ヘッドの上流側流路と液体吐出ヘッド内流路には圧力損失がある。そのため、圧力開放に時間が掛かり、過渡的に液体吐出ヘッド3内の共通流路内の圧力が下がり過ぎて、吐出口のメニスカスが破壊される恐れがある。液体吐出ヘッド3の下流側のバイパス弁1010を開くことで、液体吐出ヘッドの下流側の圧力解放が促進されるため、吐出口のメニスカス破壊のリスクが軽減される。
【0071】
(液体吐出ヘッド構造の説明)
本発明の第3の適用例に係る液体吐出ヘッド3の構造について説明する。
図53(a)は本適用例に係る液体吐出ヘッド3の斜視図、
図53(b)はその分解斜視図である。液体吐出ヘッド3は液体吐出ヘッド3の長手方向に直線状(インライン)に配列される36個の記録素子基板10を備え、1色の液体で記録を行うインクジェット式のページワイド型の記録ヘッドである。液体吐出ヘッド3は、第2の適用例同様、信号入力端子91及び電力供給端子92を備える他、ヘッドの長手側面を保護するシールド板132が設けられている。
【0072】
図53(b)は液体吐出ヘッド3の斜視分解図であり、液体吐出ヘッド3を構成する各部品またはユニットがその機能毎に分割されて表示されている(シールド板132は不図示)。各ユニット及び各部材の役割や、液体吐出ヘッド3内の液体流通の順は第2の適用例と同様である。第2の適用例との主な相違点は、複数分割されて配置された電気配線基板90、負圧制御ユニット230の位置、および第1流路部材の形状である。本適用例のように、例えばB2サイズの被記録媒体に対応した長さを有する液体吐出ヘッド3の場合、液体吐出ヘッド3の使用電力が大きいため、8枚の電気配線基板90が設けられる。各々の電気配線基板90は、液体吐出ユニット支持部81に取り付けられた長尺の電気配線基板支持部82の両側面に4枚ずつ取り付けられる。
【0073】
図54(a)は、液体吐出ユニット300、液体供給ユニット220及び負圧制御ユニット230を備える液体吐出ヘッド3の側面図、
図54(b)は液体の流れを示す概略図、
図54(c)は
図54(a)のG-G線部における断面を示す斜視図である。理解を容易にするために、一部の構成は簡略化している。
【0074】
液体供給ユニット220内には液体接続部111とフィルタ221が設けられるとともに、負圧制御ユニット230が液体供給ユニット220の下方に一体化して形成されている。これによって負圧制御ユニット230と記録素子基板10との高さ方向の距離が、第2の適用例に比べて短くなっている。この構成により、液体供給ユニット220内の流路接続部の数が減り、記録液体の漏洩に対する信頼性が向上するだけでなく、部品点数や組み立て工程数も低減できるという利点がある。
【0075】
また、負圧制御ユニット230と吐出口が形成される面とにおける水頭差が相対的に小さくなるので、
図51に示すような、液体吐出ヘッド3の傾斜角度が、各液体吐出ヘッドごとに異なるような記録装置へ好適に適応できる。水等差が小さくできるため、複数の液体吐出ヘッド3をことなる傾斜角で用いても、それぞれの記録素子基板の吐出口に加わる負圧差を低減できるためである。また負圧制御ユニット230から記録素子基板10間の距離が小さくなることでその間の流抵抗が小さくなるので、液体の流量変化による圧損差も小さくなり、より安定な負圧制御が行える点でも好ましい。
【0076】
図54(b)は、液体吐出ヘッド3内部の記録液体の流れを示す模式図である。
図52に示した循環経路と比べ、回路的には同じではあるが、
図54(b)では、実際の液体吐出ヘッド3の各構成部品内での液体の流れを示している。長尺状の第2流路部材60内には、液体吐出ヘッド3の長手方向に伸びる一組の共通供給流路211及び共通回収流路212が設けられている。共通供給流路211及び共通回収流路212は互いに対向する方向に液体が流れるように構成されており、夫々の流路の上流側にはフィルタ221が設けられ、接続部111等から侵入する異物をトラップする。このように共通供給流路211及び共通回収流路212は互いに対向する方向に液体を流すことで、液体吐出ヘッド3内の長手方向における温度勾配が軽減される点で好ましい。尚、
図52においては説明を簡略化するために共通供給流路211と共通回収流路212との流れを同じ方向で示している。
【0077】
共通供給流路211及び共通回収流路212の下流側には、それぞれ負圧制御ユニット230が接続される。また、共通供給流路211の途中には複数の個別供給流路213aへの分岐部があり、共通回収流路212の途中には複数の個別回収流路213bへの分岐部がある。個別供給流路213a及び個別回収流路213bは複数の第1流路部材50内に形成されており、夫々の個別流路は、記録素子基板10の裏面に設けられたカバープレート20の開口21(
図19(c)参照)と連通している。
【0078】
図54(b)にHとLで示した負圧制御ユニット230は、高圧側(H)と、低圧側(L)とをユニットである。それぞれの負圧制御ユニット230は、相対的に高(H)、低(L)の負圧で、負圧制御ユニット230よりも上流側の圧力を制御するように設定された背圧型圧力調整機構である。共通供給流路211は負圧制御ユニット230(高圧側)と接続され、共通回収流路212は負圧制御ユニット230(低圧側)と接続されており、それにより共通供給流路211と共通回収流路212の間には差圧が発生する。その差圧によって、液体が、共通供給流路211から個別供給流路213a、記録素子基板10内の吐出口13(圧力室23)、個別回収流路213bを順に通過して共通回収流路212へと流れる。
【0079】
図54(c)は
図54(a)のG-G線部における断面を示す斜視図である。本適用例において個々の吐出モジュール200は、第1流路部材50、記録素子基板10、フレキシブル配線基板40から構成されている。本実施形形態においては第2の適用例で説明した支持部材30(
図18)がなく、カバープレート20を備える記録素子基板10が直接第1流路部材50に接合される。第2流路部材に設けられる共通供給流路211は、その上面に形成される連通口61から、第1流路部材50の下面に形成される個別連通口53を介して、個別供給流路213aに供給される。その後液体は、圧力室23を経由して個別回収流路213b、個別連通口53、連通口61を順に経由して共通回収流路212へと回収される。
【0080】
ここで、
図15に示した第2の適用例とは異なり、第1流路部材50の下面(第2流路部材60側の面)にある個別連通口53は、第2流路部材50の上面に形成される連通口61に対して十分大きな開口となっている。この構成により、吐出モジュール200を第2流路部材60上にマウントする際に位置がズレた場合でも、第1流路部材と第2流部材間で確実に流体連通が行わるようになっているので、ヘッド製造時の歩留まりが向上しコストダウンが図れるようになっている。
【0081】
以上、本発明を適用可能な第1~第3の適用例について説明したが、上記適用例の記載は本発明の範囲を限定するものではない。1例として、本適用例では発熱素子の加熱により気泡を発生させて液体を吐出するサーマル方式について説明したが、ピエゾ方式およびその他の各種液体吐出方式が採用された液体吐出ヘッドにも本発明を適用することができる。
【0082】
本適用例は、インク等の液体をタンクと液体吐出ヘッドとの間で循環させる形態のインクジェット記録装置(記録装置)について説明したが、その他の形態であってもよい。その他の形態としては、例えばインクを循環せずに、液体吐出ヘッド上流側と下流側に2つのタンクを設け、一方のタンクから他方のタンクへインクを流すことで、圧力室内のインクを流動させる形態であってもよい。
【0083】
また、本適用例は、記録媒体の幅に対応した長さを有する、所謂ページワイド型ヘッドを用いる例を説明したが、記録媒体に対してスキャンを行いながら記録を行う、所謂シリアル型の液体吐出ヘッドにも本発明を適用することができる。シリアル型の液体吐出ヘッドとしては、例えばブラックインクを吐出する記録素子基板およびカラーインクを吐出する記録素子基板を各1つずつ搭載する構成が挙げられるが、これに限るのもではない。つまり、複数個の記録素子基板を吐出口列方向に吐出口がオーバーラップするよう配置した、記録媒体の幅よりも短い短尺の液体吐出ヘッドを作成し、それを記録媒体に対してスキャンさせる形態であってもよい。
【0084】
次に、本発明の特徴をより主体的に説明した各実施形態について説明する。
【0085】
(第1の実施形態)
図22(a)~(c)は、本発明の第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドにおける吐出口およびその近傍のインク流路の構造を説明する図である。
図22(a)は、インク流路などを、インクが吐出される側から見た平面図、
図22(b)は、
図22(a)におけるA-A’線断面図、
図22(c)は、
図22(a)のA-A’線断面の斜視図である。
【0086】
これらの図に示すように、
図12などで上述したインクの循環によって、液体吐出ヘッドの基板11上の記録素子15が設けられた圧力室23およびその前後の流路24にはインクの流れ17が生じる。すなわち、インク循環を生じさせる差圧によって、液体供給路(供給流路)18から基板11に設けられた供給口17を介して供給されたインクは、流路24、圧力室23、流路24を通り、回収口17bを介して液体回収路(流出流路)19に至る流れを生じている。
【0087】
上述のインクの流れとともに、非吐出時には、記録素子(エネルギー発生素子)15からその上方の吐出口13までの空間はインクで満たされ、吐出口13の吐出方向側の端部近傍には、インクのメニスカス(インク界面13a)が形成される。なお、
図22(b)では、このインク界面を直線(平面)で表しているが、その形状は吐出口13の壁を形成する部材とインク表面張力に応じて定まり、通常は、凹または凸形状の曲線(曲面)となる。図示を簡略化するべく直線で表している。このメニスカスが形成された状態で、エネルギー発生素子15である電気熱変換素子(ヒータ)を駆動することにより、その発生する熱を利用してインク中に気泡を発生させ吐出口13からインクを吐出することができる。なお、本実施形態においてエネルギー発生素子としてヒータを適用した例で説明するが、本発明はこれに限定されず、例えば圧電素子等の各種エネルギー発生素子を適用可能である。本実施形態では、流路24を流れるインク流の速度は、例えば0.1~100mm/s程度であり、インクが流れた状態で吐出動作を行っても、着弾精度等に与える影響を比較的小さなものとできる。
【0088】
<P、W、Hの関係について>
本実施形態の液体吐出ヘッドは、その流路24の高さHと、オリフィスプレート(流路形成部材12)の厚みPと、吐出口の長さ(直径)Wと、の関係は、以下で説明するように定められている。
【0089】
図22(b)において、吐出口13のオリフィスプレートの厚みPの部分(以下、吐出口部13Bという)の下端(吐出口部と流路との連通部)における、流路24の上流側の高さがHとして示されている。また、吐出口部13bの長さがPとして示されている。さらに、吐出口部13bの、流路24内の液体の流れ方向の長さがWとして示されている。本実施形態の液体吐出ヘッドは、Hが3~30μm、Pが3~30μm、Wが6~30μmである。また、インクは、不揮発性溶媒濃度が30%、色材濃度が3%で、粘度が0.002~0.01Pa・sに調整されたものである。
【0090】
本実施形態において、吐出口13からのインクの蒸発によるインクの増粘などを抑制するために以下のようになっている。
図43は、液体吐出ヘッドの流路24及び圧力室23内を流れるインクのインク流17(
図22参照)が定常状態になったときの吐出口13、吐出口部13b、及び流路24におけるインク流17の流れの様子を示す図である。なお、この図において、矢印の長さはインク流の速度の大きさを示すものではない。
図43は、流路24の高さHが14μm、吐出口部13bの長さPが10μm、吐出口の長さ(直径)Wが17μmである液体吐出ヘッドにおいて、液体供給路18から流路24に、1.26×10
-4ml/minの流量でインクが流入した際の流れを示している。
【0091】
本実施形態は、流路24の高さH、吐出口部13bの長さP、吐出口部13bのインクの流れ方向の長さWが、下記式(1)を満たす関係を有する。
H-0.34×P-0.66×W>1.5 式(1)
【0092】
本実施形態の液体吐出ヘッドは、この条件を満たすことで
図43に示すように、流路24内を流れるインク流17は、吐出口部13b内に流れ込み、吐出口部13bのオリフィスプレート厚の少なくとも半分の位置まで達した後に、再び流路24に戻る流れとなる。流路24に戻ったインクは液体回収路19を介して、上述した共通回収流路212へ流れる。つまりインク流17の少なくとも一部が、圧力室23からインク界面13aに向かう方向における吐出口部13bの1/2以上の位置まで達した後、流路24に戻る。この流れにより吐出口部13b内の多くの領域におけるインクの増粘を抑制することができる。このような液体吐出ヘッド内のインク流れが生成されることによって、流路24だけでなく、吐出口部13bのインクについても、流路24へと流れ出ることが可能となる。この結果、吐出口13および吐出口部13bにおけるインク増粘やインク色材濃度の増加を抑制することができる。吐出口から吐出されるインクの液滴は、吐出口部13bのインクと圧力室23(流路24)のインクとが混合した状態で吐出される。本実施形態においては、吐出される液滴のうち、圧力室23(流路24)のインクの割合がより多い場合が好ましい。例えば、吐出のために発生した気泡が大気と連通する場合が好ましい。特に、Hが20μm以下、Pが20μm以下、Wが30μm以下となる液体吐出ヘッドは、より高精細な記録が可能となり好ましい。以上、本実施形態により吐出口近傍の液体の質の変動を抑制することができ、例えば、吐出口からの液体の蒸発によるインクの増粘の抑制や、画像の色むらなどの低減が可能となる。
【0093】
(第2の実施形態)
図23は本発明の第2の実施形態に係る液体吐出ヘッド内を流れるインクの流れの様子を示す図であり、上述した第1の実施形態と同様の部分については、同一記号を付して説明を省略する。
【0094】
本実施形態は、吐出口からの液体の蒸発によるインクの増粘などの影響をより軽減するために以下のようになっている。
図23は、
図43と同様に液体吐出ヘッド内を流れるインクのインク流17が定常状態になったときの吐出口13、吐出口部13b、及び流路24におけるインク流17の流れの様子を示す図である。なお、この図において、矢印の長さは、速度の大きさに対応しておらず、速度の大きさに拘わらず一定の長さで表している。
図23は、Hが14μm、Pが5μm、Wが12.4μmである液体吐出ヘッドに、液体供給路18から、流量が1.26×10
-4ml/minでインクが流路24に流入した際の流れを示している。
【0095】
本実施形態は、流路24の高さH、吐出口部13bの長さP、吐出口部13bのインクの流れ方向の長さWが、後述される式(2)を満たす関係を有する。これにより、第1の実施形態よりもさらに、吐出口からのインクの蒸発により色材濃度が変化したり、粘度が増したりしたインクが、吐出口部13bのインク界面13aの近傍に滞留することを抑制することができる。すなわち、本実施形態の液体吐出ヘッドは、
図23に示すように、流路24内を流れるインク流17は、吐出口部13b内に流れ込み、インク界面13aの近傍(メニスカス位置)まで達した後に、再び吐出口部13b内を通って流路24に戻る流れとなる。流路24に戻ったインクは液体回収路19を介して、上述した共通回収流路212へ流れる。このようなインク流れによって、蒸発の影響を受けやすい吐出口部13b内だけでなく、蒸発の影響が特に顕著なインク界面13a近傍のインクについても、それが吐出口部13bの内部に滞ることなく流路24へと流れ出ることが可能となる。この結果、吐出口近傍の特にインク水分等の蒸発の影響を受け易い部位のインクを滞留させることなく流出させることができ、インク増粘やインク色材濃度の増加を抑制することができる。本実施形態はインク界面13aの少なくとも一部の粘度増加を抑制することができるため、インク界面13aの全域が粘度増加した際と比較して、吐出速度変化等の吐出への影響をより低減することが可能となる。
【0096】
本実施形態の上述したインク流17は、インク界面13a近傍における少なくとも中央部(吐出口の中心部)において、流路24内のインクの流れ方向(
図23において左から右へ向かう方向)の速度成分(以下、これを正の速度成分と呼ぶ)を持つ。なお、本明細書では、インク界面13a近傍の少なくとも中央部においてインク流17が正の速度成分を持つ流れのモードを「流れモードA」と呼ぶ。また、後述する比較列のように、インク界面13aの中央部で正の速度成分とは逆方向の、負の速度成分を持つ流れのモードを、「流れモードB」と呼ぶ。
【0097】
図24(a)および(b)は、吐出口部13b内のインクの色材濃度の状態を示す図であり、同図(a)は、本実施形態の状態を示し、同図(b)は、比較例の状態を示している。すなわち、
図24(a)は流れモードAの場合を、また、同図(b)は、上述した、吐出口部13b内のインク界面13aの中央部近傍の流れが負の速度成分を持つ比較例に係る流れモードBの場合を示している。そして、
図24(a)および(b)に示す等高線は、吐出口部13b内部のインク中の色材濃度の分布を示している。
【0098】
これらの流れモードA、Bは、流路などの構造を示すP、W、Hの値によって定まる。
図24(a)は、Hが14μm、Pが5μm、Wが12.4μmの形状の液体吐出ヘッドの流路24に、液体供給路18から1.26×10
-4ml/minのインクが流入したときの流れモードAの状態を示している。一方、
図24(b)は、Hが14μm、Pが11μm、Wが12.4μmの形状の液体吐出ヘッドの流路24に、液体供給路18から1.26×10
-4ml/minのインクが流入したときの流れモードBの状態を示している。
図24(b)に示す流れモードBでは、
図24(a)に示す流れモードAに比べて、吐出口部13bの内部のインクの色材濃度は高い。すなわち、
図24(a)に示す流れモードAでは、インク界面13aの近傍まで正の速度成分を持って達するインク流17によって吐出口部13b内のインクを流路24まで置換(流出)できる。これにより、吐出口部13bの内部のインクの滞留を抑制することができ、その結果、色材濃度や粘度の上昇を抑制することが可能となる。
【0099】
図25は、流れモードAを生じる液体吐出ヘッド(ヘッドA)と、流れモードBを生じる液体吐出ヘッド(ヘッドB)のそれぞれから吐出したインクの色材濃度の比較を説明する図である。同図は、ヘッドAおよびヘッドBのそれぞれにおいて、流路24にインク流17を発生させた状態でインクの吐出を行う場合と、インク流17を発生させずに流路内にインクの流れがない状態でインクを吐出させる場合のデータを示している。また、同図において、横軸は吐出口からインクを吐出した後の経過時間、縦軸は吐出したインクが記録媒体に形成したドットの色材濃度比である。この濃度比は、吐出周波数100Hzで吐出したインクによって形成されたドットの濃度を1としたときの、各経過時間後に吐出したインクによって形成されたドットの濃度の比である。
【0100】
図25に示すように、インク流17が生じていない場合は、ヘッドA、B共に経過時間1秒以上で濃度比が1.3以上となり、比較的早い時間でインクの色材濃度が高くなる。また、ヘッドBでインク流17を生じさせた場合は、濃度比が約1.3までの範囲となり、インク流を生じさせない場合よりも色材濃度の増加を抑制することができる。しかし、吐出口部には濃度比が1.3までの、色材濃度が高くなったインクが滞留している。これに対し、ヘッドAでインク流を生じさせた場合は、色材濃度比の範囲が1.1以下となる。検討により色材濃度変化が1.2程度以下であれば、人が色むらを視認することが難しいということが分かっている。つまり、ヘッドAは経過時間が1.5秒程度あっても色むらを視認できるほどの色材濃度の変化を抑制することができるので、ヘッドBに対してより好ましい。なお、
図25は、蒸発に伴い色材濃度が高くなった場合を示しているが、蒸発に伴い色材濃度が低くなる場合も同様、本実施形態の液体吐出ヘッドは色材濃度の変化を抑制することができる。
【0101】
本願発明者等の検討により、本実施形態における流れモードAを発生させる液体吐出ヘッドは、流路24の高さH、オリフィスプレート(流路形成部材12)の厚みP、および吐出口の長さ(直径)Wの関係が、以下の式(2)を満たすことが分かっている。
H-0.34×P-0.66×W>1.7 式(2)
【0102】
以下では、上記式(2)の左辺の値を判定値Jと呼ぶ。本願発明者等の検討では、式(2)を満たす液体吐出ヘッドは、
図23に示すような流れモードAになり、流れモードBを発生する液体吐出ヘッドは関係式(2)を満たさないことが分かっている。
【0103】
以下、式(2)について説明する。
【0104】
図26は、第2の実施形態の流れモードAを生じる液体吐出ヘッドと、比較例の流れモードBを生じる液体吐出ヘッドの関係を示す図である。
図26の横軸は、PとHの比(P/H)を示し、縦軸は、WとPの比(W/P)を示している。しきい線20は、下記式(3)を満たす線である。
(W/P)=1.7×(P/H)
-0.34 式(3)
【0105】
図26において、HとPとWの関係が、しきい線20の上側の斜線で示す領域にある液体吐出ヘッドでは流れモードAとなり、しきい線20を含めその下側の領域にある液体吐出ヘッドでは流れモードBとなる。つまり、下記式(4)を満たす液体吐出ヘッドにおいて流れモードAとなる。
(W/P)>1.7×(P/H)
-0.34 式(4)
【0106】
式(4)を整理すると式(2)となることから、HとPとWの関係が関係式(2)を満たすヘッド(判定値Jが1.7以上のヘッド)は流れモードAとなる。
【0107】
上記関係について
図27および
図28を参照してさらに説明する。
図27(a)~(d)は、
図26に示すしきい線20の上側と下側のそれぞれの領域となる液体吐出ヘッドにおける、吐出口部13b近傍のインク流17の様子を説明する図である。
図28は、様々な形状の液体吐出ヘッドについて流れが、流れモードAまたは流れモードBのいずれになるのかを説明する図である。
図28において、黒丸印は流れモードAとなる液体吐出ヘッドで、×印は流れモードBとなる液体吐出ヘッドである。
【0108】
図27(a)は、Hが3μm、Pが9μm、Wが12μmの形状で、判定値Jが1.93となり1.7より大きい液体吐出ヘッドにおけるインク流れを示している。すなわち、
図27(a)に示す例は、流れモードAである。このヘッドは、
図28では点Aに対応する。
【0109】
図27(b)は、Hが8μm、Pが9μm、Wが12μmの形状で、判定値は1.39となり1.7より小さい液体吐出ヘッドにおけるインク流れを示している。すなわち、この流れは流れモードBである。このヘッドは、
図28では点Bに対応する。
【0110】
図27(c)は、Hが6μm、Pが6μm、Wが12μmの形状で、判定値は2.0となり1.7より大きい液体吐出ヘッドにおけるインク流れを示している。すなわち、この流れは流れモードAである。そして、このヘッドは、
図28では点Cに対応する。
【0111】
最後に
図27(d)は、Hが6μm、Pが6μm、Wが6μmの形状で、判定値は1.0となり1.7より小さい液体吐出ヘッドにおけるインク流れを示している。すなわち、この流れは流れモードBである。そして、このヘッドは、
図28では点Dに対応する。
【0112】
以上のように、
図26のしきい線20を境界として、流れモードAになる液体吐出ヘッドと流れモードBになる液体吐出ヘッドを分けることができる。つまり、式(2)の判定値Jが1.7より大きい液体吐出ヘッドでは流れモードAとなり、インク界面13aの少なくとも中央部ではインク流17が正の速度成分を持つ。
【0113】
次に、流れモードAを生じる液体吐出ヘッド(ヘッドA)と、流れモードBを生じる液体吐出ヘッド(ヘッドB)のそれぞれから吐出したインク滴の吐出速度の比較について説明する。
【0114】
図29(a)~(b)は、各流れモードの液体吐出ヘッドから吐出後、一定時間休止後の、発数(吐出回数)とそのときの吐出速度との関係を示す線図である。
【0115】
図29(a)は、ヘッドBを用いて、吐出時の温度でインク粘度が4cP程度となる固形分を20重量%以上含む顔料インクを吐出したときの発数と吐出速度の関係を示す。図に示すように、インク流17が存在しても休止時間によっては20発目程度まで吐出速度の低下が生じている。
図29(b)は、ヘッドAを用いて、
図29(a)の場合と同じ顔料インクを吐出したときの発数と吐出速度の関係を示しており、休止後1発目から吐出速度の低下は生じていない。本実験では、固形分が20重量%以上含むインクを使用したが、濃度は本発明を限定するものではない。インク中固形分の分散のし易さによるが、概ね固形分量が8重量%以上(8wt%以上)のインクを吐出するときにモードAの効果が明らかに表れる。
【0116】
このように流れモードAを生じるヘッドでは、吐出口からのインクの蒸発によるインクの増粘によって吐出速度が低下し易いインクにおいても、インク滴の吐出速度低下を抑制することができる。
【0117】
なお、吐出口内のインク流17の流れが流れモードAになるのか流れモードBになるのかについては、通常環境下であれば、上述したように流路などの形状に係るP、W、Hの関係が支配的な影響を及ぼす。これらの条件以外に、例えば、インク流17の流速、インクの粘度、インク流17の流れの方向と垂直方向の吐出口13の幅(Wと直交する方向の吐出口の長さ)といった条件については、P、W、Hに比べて影響が極めて小さい。従って、インクの流速やインクの粘度については要求される液体吐出ヘッド(インクジェット記録装置)の仕様や使用される環境条件に合わせて適宜設定すれば良い。例えば、流路24におけるインク流17の流速は0.1~100mm/s、インクの粘度は吐出時の温度において30cP以下のインクを適用可能である。また、使用時の環境変化等により吐出口からのインクの蒸発量が大きく増加する場合には、インク流17の流量を適宜多くすることで流れモードAとすることができる。仮に、流れモードBの液体吐出ヘッドについて、流量をいくら多くしても流れモードAにはならない。つまり、モードAになるのか流れモードBになるのかは、インクの流速やインクの粘度の条件ではなく、上述した液体吐出ヘッドの形状に係るH、P、Wの関係が支配的となる。また、流れモードAになる各種液体吐出ヘッドの中でも、特に、Hが20μm以下、Pが20μm以下、Wが30μm以下となる液体吐出ヘッドは、より高精細な記録が可能となり好ましい。
【0118】
以上のように、流れモードAを生じる液体吐出ヘッドは、インク界面13a近傍まで正の速度成分を持って達するインク流17によって、吐出口部13b内のインク、特に、インク界面近傍のインクを流路24まで流出させることができる。よって、吐出口部13bの内部のインクの滞留を抑制することができる。それにより、吐出口からのインクの蒸発に対しても、吐出口部内のインクの色材濃度の上昇などを低減することが可能となる。また、本実施形態においては、上述したように流路24内のインクが流れている状態でインクの吐出動作を行う。そのため、インクが流路24(圧力室23)から吐出口部13bの内部に入り、インク界面まで到達した後にインク流路に戻るインクの流れがある状態でインクの吐出を行う。その結果、記録動作休止状態においても、常に吐出口部13bの内部の色材濃度の上昇が軽減された状態となるので、記録動作休止後における1発目の吐出を良好行うことができ、色むらなどの発生も軽減することができる。しかし、本発明は、インク流路24のインク流れが停止している状態でインクの吐出動作を行う液体吐出ヘッドにも適用可能である。記録動作休止後にインク流路内に循環流を発生させることで吐出口部13bの内部のインクの増粘を軽減させ、循環流を停止させた後にインクの吐出を行っても良い。
【0119】
(第3の実施形態)
図30は、本発明の第3の実施形態に係る液体吐出ヘッド内を流れるインクのインク流の流れの様子を示す図であり、上述した実施形態と同様の部分については、同一記号を付して説明を省略する。
図30に示すように、本実施形態においては吐出口13(吐出口部13b)近傍の流路24の高さは、他の部分の流路24の高さよりも低くなっている。具体的には、流路24と吐出口部13bとの連通部の、流路内の液体の流れ方向に関する上流側での流路24の高さHは、流路24と液体供給路18(
図22参照)との連通部における流路24の高さより低い。本実施形態の形態においても、式(1)を満たすようにH,P,Wを設定することで、インク流17の少なくとも一部が、圧力室23からインク界面13aに向かう方向における吐出口部13bの1/2以上の位置まで達した後、流路24に戻すことができる。さらに本実施形態の形態においても、式(2)を満たすようにH,P,Wを設定することで、流れモードAとなる。
【0120】
本実施形態は、流路24と液体供給路18との連通部から吐出口部の近傍までの流路高さ、また、吐出口部近傍から液体回収路19までの流路高さを比較的高くすることにより、その部分の流路抵抗を低くすることができる。また、吐出口部13bの近傍の流路高さHを相対的に小さくすることで、第2の実施形態で説明した流れモードAの液体吐出ヘッドとすることができる。通常、式(2)を満たすために、流路24の高さを全体的に低くすると、液体供給路18または液体回収路19から吐出口13までの流路抵抗が高くなってしまい、吐出により不足したインクを再充填する速度(リフィル速度)が低下する場合がある。従って、本実施形態の構成のように、吐出口13近傍の流路の高さを、それ以外の部分の流路の高さより低くすることによって式(1)、または式(2)を満たしつつ、必要なリフィル速度を確保することが可能となる。これにより、吐出口におけるインクの増粘の抑制と、高速記録(スループットの向上)との両立が可能となる。
【0121】
(第4の実施形態)
図31は、本発明の第4の実施形態に係る液体吐出ヘッド内を流れるインクのインク流の流れの様子を示す図である。
図31において、オリフィスプレート12の表面の吐出口13の周囲に凹部13cが形成されている。つまり、オリフィスプレートに形成された凹部内(凹部13cの底面)に吐出口13が形成されている。通常状態および循環流を発生させた際の定常状態において、インクのメニスカス(インク界面13a)は、吐出口13と凹部13cの底面との境界面に形成される。本実施形態の形態においても、式(1)を満たすようにH,P,Wを設定することで、インク流17の少なくとも一部が、圧力室23からインク界面13aに向かう方向における吐出口部13bの1/2以上の位置まで達した後、流路24に戻すことができる。さらに本実施形態の構成においても、式(2)を満たすようにH,P,Wを設定することで、流れモードAとなる。本実施形態における式(1)および式(2)におけるPは、吐出口部の長さ、つまり、
図31に示すように、インクのメニスカスが形成される部分から流路24までの長さとなる。すなわち、オリフィスプレート12の厚みが吐出口13と接する箇所の近傍で他の箇所よりも薄くなっている。具体的には、吐出口13の近傍におけるオリフィスプレート12の厚みは、流路24と液体供給路18(
図22参照)との連接部におけるオリフィスプレートの厚みより薄い。
【0122】
本実施形態は、オリフィスプレート12の厚みをヘッド全体としてはある程度厚く保ちながら、吐出口部13b近傍のオリフィスプレート12の厚みPを小さくすることができる。通常、式(1)および式(2)を満たすために吐出口部の長さPを短くすると、オリフィスプレート全体の厚みが薄くなってしまい、オリフィスプレートの強度が低下する。しかし、本実施形態の構成によれば、第1の実施形態および第2の実施形態の効果に加えてオリフィスプレート12全体としての強度を確保することができる。
【0123】
(第5の実施形態)
図32は、本発明の第5の実施形態に係る液体吐出ヘッド内を流れるインクのインク流の流れの様子を示す図である。
図32に示すように、流路24の高さが吐出口13と接続する付近で他の箇所よりも低くなり、また、オリフィスプレート12の表面の吐出口13の周囲には凹部13cが形成されている。具体的な構成としては、流路24と吐出口部13bとの連通部の、流路内の液体の流れ方向に関する上流側の流路24の高さHは、流路24と液体供給路18(
図22参照)との連通部近傍における流路24の高さより低い。本実施形態の構成においても第4の実施形態と同様に、通常状態および循環流を発生させた際の定常状態において、インクのメニスカス(インク界面13a)は、吐出口13と凹部13cの底面との境界面に形成される。
【0124】
本実施形態は、液体供給路18または液体回収路19から吐出口13までの流路抵抗を低く保ちながら、吐出口近傍の流路高さHを低くすることができ、さらに、吐出口部13bの長さPも短くすることができる。通常、流路24の高さを吐出口13と接続する付近で他の箇所よりも低くすると、それに伴い吐出口13近傍のオリフィスプレート12の厚みが厚くなり、吐出口13の長さPが長くなってしまう。これに対し、本実施形態の構成によれば、第1の実施形態および第2の実施形態の効果に加えて必要なリフィル速度を確保することができる。
【0125】
(第6の実施形態)
図33は、本発明の第6の実施形態に係る液体吐出ヘッド内を流れるインクのインク流の流れの様子を示す図である。
図33に示すように、本実施形態の液体吐出ヘッドは、流路24と吐出口部13bとの連通部に段差部を有している。本実施形態において、吐出口13から上記段差部が形成される部位までが吐出口部13bであり、吐出口部13bはこれより径の大きい部位(流路の一部)を介して流路24に接続される。よって、本実施形態におけるP、W、Hは、図に示すように規定される。この液体吐出ヘッドにおいても、式(1)を満たすようにH,P,Wを設定することで、インク流17の少なくとも一部が、圧力室23からインク界面13aに向かう方向における吐出口部13bの1/2以上の位置まで達した後、流路24に戻すことができる。さらに式(2)を満たすようにH,P,Wを設定することで、流れモードAを生じさせることができる。
【0126】
このように、流路から吐出口に向かう部位を多段構成とすることで、エネルギー発生素子15から吐出口13へ向かう方向の流抵抗を比較的小さくすることができる。このように本実施形態の構成は吐出効率が向上するため、第1実施形および第2の実施形態の効果に加えて、例えば、5pl以下の小液滴を吐出する場合に好ましいものである。
【0127】
(第7の実施形態)
図34は、本発明の第7の実施形態に係る液体吐出ヘッド内を流れるインクのインク流の流れの様子を示す図である。
図34に示すように、吐出口13と流路24との間を連通する吐出口部13bは円錐台形である。具体的には、流路側の吐出口部13bの開口径が吐出口13側の吐出口部13bの開口径より大きく、側壁はテーパ形状となっている。この構成により、エネルギー発生素子15から吐出口13へ向かう方向の流抵抗を比較的小さくすることができ、吐出効率を向上させることができる。本実施形態の形態においても、式(1)を満たすようにH,P,Wを設定することで、インク流17の少なくとも一部が、圧力室23からインク界面13aに向かう方向における吐出口部13bの1/2以上の位置まで達した後、流路24に戻すことができる。さらに本実施形態においても式(2)を満たすようにH,P,Wを設定することで、流れモードAを生じさせることができる。本実施形態における式(1)および式(2)のWは、
図34に示すように、吐出口部13bと流路24との連通部の長さをWと規定している。本実施形態の構成は、第1の実施形態の効果に加えて、例えば、5pl以下の小液滴を吐出する際に好ましい構成である。
【0128】
(第8の実施形態)
図35(a)および(b)は、本発明の第8の実施形態に係る液体吐出ヘッドの特に吐出口の形状の2例を示す図であり、吐出口13から液体が吐出される方向からみた平面図(模式図)を示す。本実施形態の吐出口13の形状は、対向する位置に吐出口の中心に向かって延在する突起部13dが形成されたものである。この突起13dは、吐出口13の外表面から吐出口部13bの内部にまで連続して延在している。これらの突起を有する形状においても、式(1)を満たすようにH,P,Wを設定することで、インク流17の少なくとも一部が、圧力室23からインク界面13aに向かう方向における吐出口部13bの1/2以上の位置まで達した後、流路24に戻すことができる。さらに上述した式(2)を満たすようにH,P,Wを設定することで、流れモードAを生じさせることができる。
【0129】
図35(a)に示す例の吐出口は、流路24内の液体の流れと交差する方向に突出する突起部13dが、
図35(b)に示す例の吐出口は、インク流れの方向に突出する突起部13dが形成されている。吐出口13にこのような突起部を形成することにより、突起部13dの間に形成されるメニスカスが、吐出口内のその他の部分のメニスカスに比べて維持され易くでき、吐出口から延出するインク滴の尾引きをより早いタイミングで切断することができる。それにより、主滴に付随して発生する微小液滴であるミストの発生を抑制することができる。
【0130】
図44、
図45は、
図35(B)における液体吐出ヘッドのより具体的な構成を示す図である。本実施形態における各部位の具体的な寸法は、
図44では、H=16μm、P=6μm、W=22μmで判定値J=2.6、
図45では、H=5μm、P=5μm、W=20μmで判定値J=4.3となっている。
【0131】
(第9の実施形態)
図36~
図38は、本発明の第9の実施形態に係る液体吐出ヘッドを説明する図である。本実施形態は第2から第8の実施形態をより良くする形態であって、前述の実施形態を制限するものではない。吐出口13に形成されるインク界面13aからのインク水分などの蒸発量と、インク流17の流量との関係について、
図36および
図37を参照して説明する。環境条件等によってインク界面13aからの蒸発量が比較的多く、その蒸発量に対してインク流17の流量の割合いが少ない場合は、
図36(a)に示すように、吐出口部13b内におけるインクの流れはインク界面13aに向かう流れが支配的になる。このように吐出口部13bにおけるインクの流れがインク界面13aに向かう流れが支配的になる状態を、以下では状態Dと呼ぶ。状態Dのときには、
図37(a)に示すように、吐出口部内の色材濃度は蒸発により比較的高くなる。それに対して、蒸発量が多くても蒸発量に対してインク流17が十分な場合は、
図36(b)に示すように吐出口部13b内におけるインクの流れは、インク界面13aに向かう流れに対して、インク流17の流れが支配的になる。このように吐出口部13bにおけるインクの流れが、インク界面13aに向かう流れに対してインク流17の流れが支配的になる状態を、以下では状態Cと呼ぶ。そして、これにより、
図37(b)に示すように、吐出口部内の色材濃度は比較的低くなる。すなわち、第1の実施形態および第2の実施形態で説明した式(1)および式(2)を満たす液体吐出ヘッドにおいて、状態Cとすることが出来る。つまり、液体吐出ヘッドの使用時の環境条件等によりインク界面13aからの蒸発量が増加しても、インク流17の流量を十分に多くすることによって、状態Cにすることができる。これにより、吐出口からのインクの蒸発によって色材濃度変化などが生じたインクが吐出口部13bに滞留することをより抑制することができる。
【0132】
比較例として式(2)を満たさない液体吐出ヘッドの場合について説明する。この例では、インク流17の流量をどんなに増加させても流れモードAにはならない。つまり、流れモードAとするためには、式(2)を満たすことが必要となる。
【0133】
ここで、式(2)を満たす液体吐出ヘッドの場合においても、インク流17の量を多くするとそれに伴って圧力損失が大きくなる。このため、共通供給経路211と共通回収流路212(
図2、
図3参照)との圧力差を大きくする必要がある。また、液体吐出ヘッド内の各吐出口までの圧力差が大きくなり、吐出特性を均一にすることが困難となる。従って、これらの観点からは、インク流17の流量はできるだけ小さくすることが望ましい。
【0134】
そこで、流れモードAになる液体吐出ヘッドにおいて、状態Cにするためのインク流17の流速条件の一例について以下に説明する。
【0135】
本実施形態は、Hが3~6μm、Pが3~6μm、Wが17~25μmの液体吐出ヘッドにおいて、蒸発により色材濃度変化が生じたインクが吐出口部13bの内部に滞留することを抑制するべく、以下の条件とする。つまり、インク流17の平均流速V17とインク界面13aからの平均蒸発流速V12との関係を下記式(5)とする。
V17≧27×V12 式(5)
【0136】
本願発明者等の検討により、式(5)を満たす液体吐出ヘッドは状態Cになることが分かっている。Hが3~6μm、Pが3~6μm、Wが17μm以上の液体吐出ヘッドは、式(2)を満たすことから、蒸発量に対して十分な量のインクを循環することで状態Cにすることができる。上記式(5)は、状態Cにするために必要な循環流速について示した式である。式(5)について、
図38を参照して説明する。
【0137】
図38は、状態Cになる蒸発速度と循環流速と、状態Dになる蒸発速度と循環流速の関係を示す図である。
図38の横軸は蒸発速度V12、縦軸は循環によるインク流の流速V17であり、4つの形状の液体吐出ヘッド1~4それぞれについて流れモードごとのデータを示している。液体吐出ヘッド1は、Hが6μm、Pが6μm、Wが17μmで、判定値Jが2.83のである。液体吐出ヘッド2は、Hが6μm、Pが6μm、Wが21μmで、判定値Jが3.5である。液体吐出ヘッド3は、Hが5μm、Pが3μm、Wが21μmで、判定値Jが5.88である。液体吐出ヘッド4は、Hが5μm、Pが3μm、Wが25μmで、判定値Jが7.0である。
【0138】
図38から、ある1つの液体吐出ヘッドでは、状態Dではなく状態Cにするために必要な循環流速V17は、蒸発流速V12に比例することが分かる。また、判定値Jが小さいほど状態Cにするために必要な循環流速が大きいことが分かる。さらに、Hが3~6μm、Pが3~6μm、Wが17~25μmの液体吐出ヘッドで、判定値Jが最も小さい2.83(液体吐出ヘッド1)の場合は、循環流速を蒸発流速の27倍以上にすると状態Cになることが分かる。従って、Hが3~6μm、Pが3~6μm、Wが17μm以上の液体吐出ヘッドにおいては、式(5)を満たすことで状態Cとなり、蒸発により色材濃度変化が生じたインクが吐出口部13bに滞留することを抑制することができる。つまり、吐出口13からの液体蒸発に伴う、画像の色むらの発生などを低減することが可能となる。例えば、本願発明者等の実験では、Wが18μmの円形吐出口からの蒸発量が約140pl/sであり、平均蒸発流速は約1.35×10
-4m/sとなるので、この場合は、平均約0.0036m/s以上の循環流速が必要となる。ここで蒸発量とは、吐出口部13bのインクが濃度変化していない際の蒸発量を指す。
【0139】
同様に、Hが8μm、Pが8μm、Wが17μmで、判定値Jが2.13の液体吐出ヘッドでは、インク流17の平均流速V17をインク界面13aからの平均蒸発流量V12の50倍以上にすることで状態Cになる。従って、Hが8μm以下、Pが8μm以下、Wが17μm以上の液体吐出ヘッドにおいては、インク流17の平均流速V17をインク界面13aからの平均蒸発流量V12の50倍以上にすることで状態Cにすることができる。これにより、蒸発により色材濃度変化などが生じたインクが吐出口部13b内に滞留することを抑制することができる。その結果、吐出口13からの液体蒸発に伴う、画像の色むらなどの発生を低減することが可能となる。上記と同様に、Wが18μmの円形吐出口からの蒸発量が約140pl/sの場合は、平均で約0.0067m/s以上の循環流速が必要となる。
【0140】
同様に、Hが15μm、Pが7μm、Wが17μmで、判定値Jが1.87の液体吐出ヘッドでは、インク流17の平均流速V17をインク界面13aからの平均蒸発流量V12の50倍以上にすることで状態Cにすることができる。従って、Hが15μm以下、Pが7μm以下、Wが17μm以上の液体吐出ヘッドでは、インク流17の平均流速V17をインク界面13aからの平均蒸発流量V12の100倍以上にすることで状態Cにすることができる。上記と同様に、Wが18μmの円形吐出口からの蒸発量が約140pl/sの場合は、平均で約0.0135m/s以上の循環流速が必要となる。
【0141】
次に、異なる液体吐出ヘッドの構成について説明する。本液体吐出ヘッドは、Hが14μm以下、かつPが12μm以下、かつWが17μm以上であり、かつHとPとWが式(2)を満たす液体吐出ヘッドである。この液体吐出ヘッドは、吐出口からのインクの蒸発により色材濃度変化などが生じたインクが吐出口部13bに滞留することを抑制するべく以下式(6)を満たしている。つまり、循環流17の平均流速V17とインク界面13aからの平均蒸発流速V12が下記式(6)を満たしている。
V17≧900×V12 式(6)
【0142】
Hが12.3μm、Pが9μm、Wが17μmの液体吐出ヘッド(判定値Jが1.7)では、インク流17の平均流速V17をインク界面13aからの平均蒸発流速V12の900倍にすることで状態Cにすることができる。同様に、Hが10μm、Pが10μm、Wが17μmの液体吐出ヘッド(判定値Jが1.7)でも、インク流17の平均流速V17をインク界面13aからの平均蒸発流速V12の900倍にすることで状態Cにすることができる。同様に、Hが8.3μm、Pが11μm、Wが17μmの液体吐出ヘッド(判定値Jが1.7)においても、循環流17の平均流速V17をインク界面13aからの平均蒸発流速V12の900倍にすることで状態Cにすることができる。同様に、Hが7μm、Pが12μm、Wが17μmの液体吐出ヘッド(判定値Jが1.7)においても、循環流17の平均流速V17をインク界面13aからの平均蒸発流速V12の900倍にすることで状態Cにすることができる。
【0143】
従って、Hが14μm以下、かつPが12μm以下、かつWが17μm以上であり、かつHとPとWが、式(2)を満たす液体吐出ヘッドは、式(6)を満たすことで状態Cとなる。
【0144】
以上の第9の実施形態について、状態Cとなる条件をまとめると、次のようになる。
【0145】
Hが14μm以下、Pが12μm以下、Wが17μm以上30μm以下であり、流路の液体の流速は、吐出口からの蒸発速度の900倍以上である。
【0146】
または、Hが15μm以下、Pが7μm以下、Wが17μm以上30μm以下であり、流路の液体の流速は、吐出口からの蒸発速度の100倍以上である。
【0147】
または、Hが8μm以下、Pが8μm以下、Wが17μm以上30μm以下であり、流路の液体の流速は、吐出口からの蒸発速度の50倍以上である。
【0148】
または、Hが3μm以上6μm以下、Pが3μm以上6μm以下、Wが17μm以上30μm以下であり、流路の液体の流速は、吐出口からの蒸発速度の27倍以上である。
【0149】
ここで、上記液体の流速の規定は、各ヘッド形状範囲における最も状態Cになり難い形状でも状態Cになる範囲であり、各ヘッド形状範囲の他の形状では、それよりも小さい流速で状態Cになる場合もあるということである。
【0150】
(第10の実施形態)
図39~
図42は、本発明の第10の実施形態に係る液体吐出ヘッドについて説明するための図であり、本実施形態は、下記2種類の特性と吐出口を含む流路形状との関係に関するものである。
特性1)インク流の流れモード
特性2)吐出口から吐出される吐出液滴
特に、吐出量Vdが5plの3種類の以下の吐出口形状を例に上記特性との関係を説明する。
流路形状A)H=14μm、P=11μm、W=16μm(J=1.34)
流路形状B)H=09μm、P=11μm、W=18μm(J=1.79)
流路形状C)H=14μm、P=06μm、W=18μm(J=2.30)
ここで、
H:流路24内の液体の流れ方向に関する上流側での流路24の高さ(
図22参照)
P:吐出口13から液体が吐出される方向における吐出口部13bの長さ(
図22参照)
W:流路24内の液体の流れ方向に関する吐出口部13bの長さ(
図22参照)
Z:吐出口13部の内接円の有効長さ
ただし、吐出口13の形状は円形であるため(
図22参照)、吐出口13部の内接円の有効径ZとWは等しい。
【0151】
また、Vdが5plを例に取り上げたのは、吐出量が大きい場合、主滴と複滴(以下、サテライトともいう)が複数以上発生し易くなり、これらが画質劣化を招くからである。
【0152】
図39(a)~(c)は、3つの流路形状A~Cの流れモードを示す図であり、
図40は、横軸にH、縦軸にPで吐出量Vdが約5pl吐出されるように吐出口径を変化させた場合の判定値Jの値を示した等高線図である。
【0153】
流路形状Aは、判定値J=1.34であり、
図39(a)に示すように、流れモードBを生じる。流路形状AのHとPを加算した寸法(以下、OHともいう)は25μmとなるが、判定値Jを増加させるには、HもしくはPを小さくし、OHを低下させる必要がある。OH=20μmの場合、Hのみを小さくした流路形状Bは、判定値J=1.79であり、
図39(b)に示すように、流れモードAを生じる。また、Pのみを小さくした流路形状Cは、判定値J=2.30であり、
図39(c)に示すように、同様に流れモードAになる。これに加え、流路形状Cは、流路形状Bよりも吐出口内部へのインク流の流れが入り込み易く、吐出口部13bの内部のインクの滞留をより抑制することができる。したがって、インク流の流れモードに関して以下の形状が挙げられる。
形状特性(1) 等しいOHの場合、Pを小さくすることが好ましい(
図40参照)。
形状特性(2) OHは低下させることが好ましい(
図40参照)。
【0154】
一方、
図41(a)~(c)は、3種類の流路形状A~Cそれぞれの吐出液滴を観察した結果を示す図である。
図42は、横軸にH、縦軸にPで、吐出量Vdが約5pl吐出されるように吐出口径を変化させた場合の気泡が大気と連通する時間(以下、Tthともいう)を計算より算出した値を示した等高線図である。
【0155】
図41(a)および(c)は、吐出液滴が主滴とサテライトの2種類が発生する場合を示している。一方、
図41(b)は、主滴と複数のサテライトが発生する場合を示している。流路形状Aは、Tth=5.8us、流路形状Cは、Tth=4.5usであり、これらに対して、流路形状Bは、Tth=3.8usであり、Tthが小さくなる(
図42参照)。一般に、吐出量Vdが本実施形態のような大きい場合、Tthが小さいとサテライトが複数発生する。これは、Tthが小さい、つまり大気連通が促進されると、細長いテール(尾引き)が発生し易く、テールの不安定化に伴う節が多数発生するためである。その結果、細長いテールは1つに収縮することが出来ず、
図41(b)に示すように、サテライトが複数発生する。従って、サテライトに関して以下の抑制を挙げることができる。
形状特性(3) 等しいOHの場合、Pを小さくすることが好ましい(
図42参照)
形状特性(4) OH増加させることが好ましい(
図42参照)
【0156】
以上より、吐出口部13b内のインク滞留の抑制に必要な判定値Jの増加には、
形状特性A)OH低下させること、
形状特性B)等しいOHの場合、HよりPを小さくすること、
また、主滴とサテライトの抑制に必要な判定値Tthの増加には、
形状特性C)OH増加させること、
形状特性D)等しいOHの場合、HよりPを小さくすること、
が挙げられる。形状特性A)と形状特性C)が相反する特性を示すため、両立解として以下の条件を満足させることが望ましい。
流れモードの判定値J>1.7、かつ大気と連通時間の判定値Tth>4.0μs、
【0157】
従って、
図42に示すような範囲にすることが好ましい。ここで、判定値Tthが上記条件を満たすとき、
図42に示す線図において判定値Tthは、
Tth=0.350×H+0.227×P―0.100×Z
と近似される。上記はHやPが小さい場合やZが増加した場合、Tthが小さくなり、サテライトが複数発生し易くなることを示す。特に、HはPの約1.5倍の感度を有するため、等しいOHの場合、Pを小さくすることがTthの小化を抑制し、サテライトの発生を抑制出来る。従って、上記条件は、次の式で表すことができる。
0.350×H+0.227×P―0.100×Z>4 式(7)
と表すことができる。
【0158】
上記成立範囲の吐出口の形状特性とすることにより、吐出量Vdが5ngでの循環効果(吐出口部13b内のインクの滞留抑制)とサテライトの発生の抑制を満足することが可能になる。
【0159】
以上、上述した各実施形態により、吐出口近傍の液体の質の変動を抑制することができ、例えば、吐出口からの液体の蒸発によるインクの増粘の抑制や、画像の色むらなどの低減が可能となる。特に、第2の実施形態で説明した式(2)を満たすことで、流れモードAとすることができ、吐出口部13b内のインクの滞留を抑制することができ、それにより、色材濃度の上昇などを低減することが可能となる。流路24を流れるインクの流速については、本実施形態で説明した考え方に従い、液体吐出ヘッドが使用される条件、環境等に応じて適宜設定すれば良い。
【0160】
本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。
【符号の説明】
【0161】
13 吐出口
13a メニスカス(インク界面)
13b 吐出口部
15 エネルギー発生素子
17 循環流
23 圧力室
24 流路