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特開2024-177384リコート用化粧シート及びリコート用化粧シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177384
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】リコート用化粧シート及びリコート用化粧シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/02 20060101AFI20241212BHJP
   E04F 13/07 20060101ALI20241212BHJP
   B32B 27/04 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
B32B5/02 A
E04F13/07 B
B32B27/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024174168
(22)【出願日】2024-10-03
(62)【分割の表示】P 2021509636の分割
【原出願日】2020-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2019064466
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 康介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 昂秀
(72)【発明者】
【氏名】杉田 夏生
(72)【発明者】
【氏名】藤井 紘己
(57)【要約】
【課題】十分な接着力でリコート層が積層され、かつ、リコート層における着色剤を保持する着肉性が良好であるリコート用化粧シートを提供する。
【解決手段】基材10と、基材10の少なくとも一方の面側に設けられ、構成成分の繊維として熱可塑性樹脂繊維を含有し、繊維間に空隙を有するリコート層30と、基材10とリコート層30との間に、熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一部が溶融堆積した接着層20とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の少なくとも一方の面側に設けられ、構成成分の繊維として熱可塑性樹脂繊維を含有し、前記繊維間に空隙を有するリコート層と、
前記基材と前記リコート層との間に、前記熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一部が、溶融堆積又は流動堆積した接着層とを備える、リコート用化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リコート用化粧シート及びリコート用化粧シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家具、建築内装材及び家電製品等の表面仕上げ用として、基材に木目絵柄等が設けられた化粧シートを上記製品の表面にラミネート等の手段で積層することが行われている。化粧シートには、既に着色されているものと、着色が施されておらず後からステイン(stain)等の塗料を塗工するものとがあり、後者は再塗工(リコート)用化粧シートと呼ばれている。ここで、ステインとは、木材表面を着色するための塗料で、液体状、ジェル状、スプレー等の形態で顔料、染料をアマニ油及び樹脂等に添加したものである。水性のものと油性のものとがあり、オイルステイン、ステインニス及び水性ステイン等と呼ばれている。リコート用化粧シートが表面仕上げ用として積層された材料を用いて製品を組立てた後に、ステイン等の塗料を製品表面の化粧シートに塗工し着色を施すことで、製品を任意の色に着色することが容易に行える。
【0003】
従来のリコート用化粧シートとしては、基材に印刷インキを用いて絵柄印刷を施した上に、上塗り塗料を塗布してなるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、従来のリコート用化粧シートは、表面が平滑に形成されているため、ステイン等を厚く塗工しようとしても垂れてしまい、着色剤を保持する着肉性に優れた表面を得ることは困難であった。
そこで、ステイン等を厚く塗工した際に着肉性に優れた表面を得るために、基材に印刷インキを用いて絵柄印刷を施した上に、表面に位置するリコート層に不織布を用いるリコート用化粧シートが提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2で提案されているリコート用化粧シートは、ステイン等の着色剤を不織布の空隙で確実に保持し、該塗料が化粧シートの表面から垂れ落ちるのを防ぎ、着肉性に優れた塗工を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60-149457号公報
【特許文献2】特開平9-262934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2で提案されているリコート用化粧シートにおいては、リコート層を積層する手段として、熱溶着による手段が開示されている(特許文献2の[0012]、[0036])。熱溶着による手段としては、基材又は絵柄印刷の印刷インキに熱可塑性樹脂を採用して熱圧着する手段、及び、リコート層の不織布の繊維に熱可塑性樹脂を採用して熱圧着する手段が開示されている。しかし、これらの熱圧着による手段において、加熱が十分でない場合には、リコート層の十分な接着力が得られない問題が生じることがあった。また、これらの熱圧着による手段において、リコート層の十分な接着力を得るために加熱が過多になると、熱可塑性樹脂によって不織布の空隙が埋没すること、又は、不織布の繊維が溶出して繊維形態を維持できないことにより、着色剤を保持する着肉性が失われてしまう問題があった。
また、特許文献2で提案されているリコート用化粧シートにおいては、リコート層を積層する手段として、接着剤を用いる手段が開示されている(特許文献2の[0036])。しかし、接着剤を用いる手段において、接着剤が多すぎる場合にはリコート層の表面から染み出してしまう問題が生じることがあり、接着剤が少ない場合にはリコート層の十分な接着力が得られない問題が生じることがあった。さらに、接着剤を用いる手段において、リコート層の十分な接着力を得るために、接着対象の材料に応じた接着剤の選定が必要であり、条件を満たす接着剤を選定することは困難であった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑み、十分な接着力でリコート層が積層され、かつ、リコート層における着色剤を保持する着肉性が良好であるリコート用化粧シート及びリコート用化粧シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究した結果、基材とリコート層との間に、リコート層の構成成分の少なくとも一部が溶融堆積又は流動堆積した接着層を備えることにより、上記課題を解決することを見出した。すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]を提供する。
[1]基材と、前記基材の少なくとも一方の面側に設けられ、構成成分の繊維として熱可塑性樹脂繊維を含有し、前記繊維間に空隙を有するリコート層と、前記基材と前記リコート層との間に、前記熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一部が、溶融堆積又は流動堆積した接着層とを備える、リコート用化粧シート。
[2]前記リコート層は、少なくとも一部の空隙を維持しつつ、前記繊維の少なくとも一部の表面に樹脂塗膜を有する[1]のリコート用化粧シート。
[3]前記基材は、樹脂基材である、[1]又は[2]のリコート用化粧シート。
[4]前記リコート層を構成する前記繊維は、融点が異なる2種類以上の前記熱可塑性樹脂繊維を含有する、[1]~[3]のいずれかのリコート用化粧シート。
[5]前記接着層の主成分は、融点が異なる2種類以上の前記熱可塑性樹脂繊維のうち、融点が低い前記熱可塑性樹脂繊維が溶融したものである、[4]のリコート用化粧シート。
[6]前記リコート層を構成する前記繊維は、ガラス転移温度が異なる2種類以上の前記熱可塑性樹脂繊維を含有する、[1]~[5]のいずれかのリコート用化粧シート。
[7]前記接着層の主成分は、ガラス転移温度が異なる2種類以上の前記熱可塑性樹脂繊維のうち、ガラス転移温度が低い前記熱可塑性樹脂繊維が溶融又は流動したものである、[6]のリコート用化粧シート。
[8]前記リコート層は、空隙及び前記繊維の表面の少なくとも一部に着色剤を有する、[1]~[7]のいずれかのリコート用化粧シート。
[9]基材を用意する工程と、構成成分の繊維として、融点が異なる2種類以上の熱可塑性樹脂繊維を含有する不織布を用意する工程と、前記基材の上に、前記不織布を配置した積層体を得る工程と、前記積層体を、前記熱可塑性樹脂繊維の最低融点以上の温度にまで加熱する工程と、加熱した前記積層体を圧縮することで、流動性が高くなった前記熱可塑性樹脂繊維の一部が前記基材側に堆積して接着層を形成する工程とを含む、リコート用化粧シートの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、十分な接着力でリコート層が積層され、かつ、リコート層における着色剤を保持する着肉性が良好であるリコート用化粧シート及びリコート用化粧シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係るリコート用化粧シートの模式的断面図(その1)である。
図2】本発明の実施の形態に係るリコート用化粧シートの実物写真の断面図(その1)である。
図3】本発明の実施の形態に係るリコート用化粧シートの実物写真の断面図(その2)である。
図4】本発明の実施の形態に係るリコート用化粧シートの模式的断面図(その2)である。
図5】本発明の実施の形態に係るリコート用化粧シートに用いる不織布の実物写真の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分は同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0011】
(実施の形態)
[リコート用化粧シート]
本発明の実施の形態に係るリコート用化粧シート1は、図1に示すように、基材10と、基材10の少なくとも一方の面側に設けられ、構成成分の繊維として熱可塑性樹脂繊維を含有し、繊維間に空隙を有するリコート層30と、基材10とリコート層30との間に、熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一部が、溶融堆積又は流動堆積した接着層20とを備える。本発明の実施の形態に係るリコート用化粧シート1を実際に撮影した断面図写真を図2及び図3に示す。
【0012】
<基材>
基材10としては、通常化粧シートとして用いられるものであれば、特に限定されず、樹脂基材、金属基材、窯業系基材、繊維質基材及び木質系基材等を用途に応じて適宜選択することができる。基材10は、熱伝導性が良好である観点から、樹脂基材及び金属基材であることが好ましく、引張強度と伸び特性のバランスの観点から、樹脂基材であることがより好ましい。なお、図2及び図3で示すリコート用化粧シート1において用いている基材10は、樹脂基材のポリ塩化ビニルである。
上記各基材はそれぞれ単独で使用してもよいが、例えば、樹脂基材と木質系基材の複合体、樹脂基材と金属基材の複合体等の任意の組み合わせによる積層体であってもよい。基材10が積層体である場合は、積層体のそれぞれの層間に接着剤層及びプライマー層をさらに設ける等の構成であってもよい。
【0013】
基材10として用いられる樹脂基材としては、各種の合成樹脂からなるものが挙げられる。合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、各種オレフィン系熱可塑性エラストマー等のオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、エチレングリコール-テレフタル酸-イソフタル酸共重合体、各種ポリエステル系熱可塑性エラストマー等のポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル樹脂、ナイロン6又はナイロン66等で代表されるポリアミド樹脂、三酢酸セルロース、セロファン等のセルロース樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂及びポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0014】
基材10として用いられる金属基材としては、例えば、アルミニウム、ジュラルミントウノアルミニウム合金、鉄、ステンレス鋼等の鉄合金、チタニウム、銅、又は真鍮等の銅合金等からなるものが挙げられる。また、基材1としては、他の材料の基材表面にこれらの金属をめっき等によって施したものを使用することもできる。
【0015】
基材10として用いられる窯業系基材としては、例えば、石膏、珪酸カルシウム、セメント、木片セメント等の窯業系建材、陶磁器、ガラス、琺瑯、焼成タイル等が挙げられる。
【0016】
基材10として用いられる繊維質基材としては、例えば、薄葉紙、クラフト紙、チタン紙、リンター紙、板紙及び石膏ボード用原紙等の紙基材が使用できる。これらの紙基材は、紙基材の繊維間ないしは他層と紙基材との層間強度を上げるため、ケバ立ち防止のために、更に、アクリル樹脂、スチレンブタジエンゴム、メラミン樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂を添加(抄造後樹脂含浸、又は抄造時に内填)させたものでもよい。樹脂を添加した紙基材としては、例えば、紙間強化紙、樹脂含浸紙等が挙げられる。
基材10として用いられる繊維質基材としては、建材分野で使われることが多い紙基材の表面に塩化ビニル樹脂層を設けたビニル壁紙原反等が挙げられる。
基材10として用いられる繊維質基材としては、事務分野又は通常の印刷及び包装等に用いられているコート紙、アート紙、硫酸紙、グラシン紙、パーチメント紙、パラフィン紙及び和紙等が挙げられる。
基材10として用いられる繊維質基材としては、上述した紙基材とは区別されるが、紙に似た外観と性状を持つ各種繊維の織布及び不織布も挙げられる。各種繊維としては、ガラス繊維、石綿繊維、チタン酸カリウム繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維及び炭素繊維等の無機質繊維が挙げられる。また、各種繊維としては、ポリエステル繊維、アクリル繊維及びビニロン繊維等の合成樹脂繊維が挙げられる。
【0017】
基材10として用いられる木質系基材としては、例えば、杉、松、檜、楢、樫、ラワン、チーク等の各種木材の単板、合板、集成材、パーティクルボード及び中密度繊維板(MDF)等が挙げられる。
【0018】
基材10の厚さは、特に制限はないが、リコート用化粧シート1の強度、質量、屈曲性等の物性を考慮して、50μm以上250μm以下であることが好ましく、80μm以上230μm以下であることがより好ましく、100μm以上200μm以下であることがさらに好ましい。
【0019】
リコート用化粧シート1は、意匠性を高めることを目的として、図4に示すように、基材10とリコート層30との間に、絵柄インキ層11及び着色隠蔽層12をさらに備えることが好ましい。
【0020】
《絵柄インキ層》
絵柄インキ層11の絵柄(模様)は、木目柄、石目柄、布目柄、皮シボ柄、幾何学模様等所望の意匠外観に応じて任意に選択できる。リコート用化粧シート1において、例えば、木目の意匠外観を表現する場合は絵柄インキ層11として木目柄を選択すればよい。
絵柄インキ層11は、基材10上の任意の箇所に形成されていればよく、基材10の全面に形成されていてもよい。
絵柄インキ層11は、例えば、印刷により形成することができる。絵柄インキ層11は、単層であってもよいが、2以上の層から形成されるものであってもよい。
【0021】
絵柄インキ層11の形成に用いられるインキとしては、バインダー成分に顔料、染料等の着色成分、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤等を適宜混合したものが使用される。
バインダー成分としては、特に制限はなく、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アルキド樹脂、石油系樹脂、ケトン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、繊維素誘導体、ゴム系樹脂等が挙げられる。バインダー成分としてのこれらの樹脂は、単独又は2種以上を混合して使用できる。
着色成分としては、例えば、チタン白、鉛白、カーボンブラック、鉄黒、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料;キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、ニッケルアゾ錯体、フタロシアニンブルー等の有機顔料又は染料;アルミニウム、真鍮等の鱗片状箔片からなる金属顔料;二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の鱗片状箔片からなる真珠光沢(パール)顔料等の公知のものから適宜選択して用いることができる。
【0022】
絵柄インキ層11の厚さは、特に制限はないが、絵柄による意匠性を良好に発揮する観点から、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上7.5μm以下であることがより好ましく、1.0μm以上5.0μm以下であることがさらに好ましい。絵柄インキ層11が2以上の層から形成される場合、各絵柄インキ層11の厚さの合計が上記範囲であることが好ましい。
【0023】
絵柄インキ層11中には、本発明の効果を阻害しない範囲で、酸化防止剤及び紫外線吸収剤等の添加剤を含有しても良い。
絵柄インキ層11を塗布する手段としては、グラビア印刷、シルクスクリーン印刷、グラビアオフセット印刷、フレキソ印刷及びインキジェット印刷等が好ましく、大ロットの場合はグラビア印刷、小ロットの場合はインキジェット印刷がより好ましい。
【0024】
《着色隠蔽層》
リコート用化粧シート1は、図4に示すように、絵柄インキ層11の一部として、樹脂基材10側に、着色隠蔽層12をさらに備える形態であることが好ましい。
着色隠蔽層12は、基材10に色ムラがある場合等に意図した色彩を与えて表面の色を整えることができ、リコート用化粧シート1の意匠性を高めることができる。着色隠蔽層12は、基材10を隠蔽する目的で、不透明色で形成することが多いが、着色透明色で形成し、基材10が持っている模様を活かすこともできる。
【0025】
着色隠蔽層12の形成に用いられる着色隠蔽層形成用組成物としては、バインダー成分に顔料、染料等の着色成分、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤等を適宜混合したものが使用される。
着色隠蔽層12のバインダー成分及び着色成分としては、リコート用化粧シート1の用途や絵柄インキ層11との相性等から適宜選択すればよく、絵柄インキ層11のバインダー成分及び着色成分と同じものを用いることができる。
【0026】
着色隠蔽層12の厚さは、特に制限はないが、基材10を隠蔽することによって意匠性を良好に発揮する観点から、1.0μm以上15μm以下であることが好ましく、2.0μm以上12μm以下であることがより好ましく、3.0μm以上10μm以下であることがさらに好ましい。着色隠蔽層12が2以上の層から形成される場合、各着色隠蔽層12の厚さの合計が上記範囲であることが好ましい。
【0027】
<リコート層>
リコート層30は、構成成分の繊維として熱可塑性樹脂繊維を含有するものであり、熱可塑性樹脂繊維を主成分として構成されることが好ましい。ここで主成分とは、リコート層30を構成する成分の50質量%を超える成分をいい、60質量%を超える成分であることが好ましく、70質量%を超える成分であることがより好ましく、80質量%を超える成分であることがさらに好ましい。
【0028】
リコート層30を構成する熱可塑性樹脂繊維としては、特に制限はないが、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール(ブチラール樹脂);ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系樹脂;ポリオキシメチレン等のアセタール樹脂;ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、フッ素樹脂系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー;塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、エチレン-4フッ化エチレン共重合体等のフッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、液晶性ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、形態安定性を考慮すると、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂等が好ましい。
【0029】
リコート層30を構成する繊維は、融点Tが異なる2種類以上の熱可塑性樹脂繊維を含有することが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂繊維として、融点が低い熱可塑性樹脂繊維(最低融点Tm1を有する熱可塑性樹脂繊維)と、融点が高い熱可塑性樹脂繊維(最高融点Tm2を有する熱可塑性樹脂繊維)との、融点Tが異なる2種類の熱可塑性樹脂繊維を含有することが好ましい(Tm1<Tm2)。このように、融点が異なる2種類以上の熱可塑性樹脂繊維を含有する(例えば、最低融点Tm1を有する熱可塑性樹脂繊維と、最高融点Tm2を有する熱可塑性樹脂繊維とを含有する)ことで、リコート層30の積層工程を温度T(Tm1<T<Tm2)で行った場合、最低融点Tm1の熱可塑性樹脂繊維が溶融して接着層20を形成することで接着力を発揮する一方で、最高融点Tm2の熱可塑性樹脂繊維が繊維の形態を維持することで着色剤を保持する着肉性を良好とすることができる。つまり、リコート層30を構成する融点Tが異なる2種類以上の熱可塑性樹脂繊維としては、Tm1<T<Tm2の関係を満たすものであることが好ましい。
熱可塑性樹脂繊維の最低融点Tm1と、リコート層30の積層工程の温度Tとの差(Tm1-T)は、接着層20を容易に形成する観点から、-35℃以上25℃以下であることが好ましく、-25℃以上15℃以下であることがより好ましく、-15℃以上5℃以下であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂繊維の最高融点Tm2と、リコート層30の積層工程の温度Tとの差(Tm2-T)は、繊維の形態を維持して着色剤を保持する着肉性を良好とする観点から、40℃以上110℃以下であることが好ましく、50℃以上100℃以下であることがより好ましく、60℃以上90℃以下であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂繊維の最低融点Tm1と最高融点Tm2との差(Tm2-Tm1)は、50℃以上120℃以下であることが好ましく、60℃以上110℃以下であることがより好ましく、70℃以上100℃以下であることがさらに好ましい。
【0030】
リコート層30を構成する繊維は、ガラス転移温度Tが異なる2種類以上の熱可塑性樹脂繊維を含有することが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂繊維として、ガラス転移温度が低い熱可塑性樹脂繊維(最低ガラス転移温度Tg1を有する熱可塑性樹脂繊維)と、ガラス転移温度が高い熱可塑性樹脂繊維(最高ガラス転移温度Tg2を有する熱可塑性樹脂繊維)との、ガラス転移温度が異なる2種類の熱可塑性樹脂繊維を含有することが好ましい(Tg1<Tg2)。このように、融点が異なる2種類以上の熱可塑性樹脂繊維を含有する(例えば、最低ガラス転移温度Tg1を有する熱可塑性樹脂繊維と、最高ガラス転移温度Tg2を有する熱可塑性樹脂繊維とを含有する)ことで、リコート層30の積層工程を温度T(Tg1<T<Tg2)で行った場合、最低ガラス転移温度Tg1の熱可塑性樹脂繊維の流動性が高くなり、接着層20を形成することで接着力を発揮する一方で、最高ガラス転移温度Tg2の熱可塑性樹脂繊維が繊維の形態を維持することで着色剤を保持する着肉性を良好とすることができる。つまり、リコート層30を構成するガラス転移温度Tが異なる2種類以上の熱可塑性樹脂繊維としては、Tg1<T<Tg2の関係を満たすものであることが好ましい。
熱可塑性樹脂繊維の最低ガラス転移温度Tg1と、リコート層30の積層工程の温度Tとの差(Tg1-T)は、接着層20を容易に形成する観点から、-160℃以上-90℃以下であることが好ましく、-150℃以上-100℃以下であることがより好ましく、-140℃以上-110℃以下であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂繊維の最高ガラス転移温度Tg2と、リコート層30の積層工程の温度Tとの差(Tg2-T)は、繊維の形態を維持して着色剤を保持する着肉性を良好とする観点から、-140℃以上-70℃以下であることが好ましく、-130℃以上-80℃以下であることがより好ましく、-120℃以上-90℃以下であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂繊維の最低ガラス転移温度Tg1と最高ガラス転移温度Tg2との差(Tg2-Tg1)は、0℃以上50℃以下であることが好ましく、0℃以上40℃以下であることがより好ましく、10℃以上30℃以下であることがさらに好ましい。
【0031】
また、上記のように、リコート層30を構成する繊維が、ガラス転移温度Tが異なる2種類以上の熱可塑性樹脂繊維を含有する構成では、リコート層30の積層工程の温度Tを、Tg1<Tg2<Tの条件で行った場合でも、上述と同様の効果が期待できる。すなわち、最低ガラス転移温度Tg1の熱可塑性樹脂繊維の流動性が高くなりやすく、接着層20を形成することで接着力を発揮する一方で、最高ガラス転移温度Tg2の熱可塑性樹脂繊維は流動性がそれほど高くならずに繊維の形態をある程度維持することで着色剤を保持する着肉性を良好とすることができる。
なお、Tg1<Tg2<Tの条件の場合、上記効果を得やすくする観点から、0℃≦Tm1-Tを満たすことが好ましく、0℃<Tm1-Tを満たすことがより好ましく、10℃≦Tm1-Tを満たすことがさらに好ましい。
【0032】
リコート層30を構成するその他の繊維としては、例えば、とうもろこし等のデンプンから得られる乳酸を原料とした生分解性繊維、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、アセテート、トリアセテート等のセルロース系人造繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、石綿繊維等の無機繊維、これらの繊維を使用した繊維製品から得られる再生繊維等が挙げられる。リコート層30を構成するこれらの繊維は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。
【0033】
リコート層30としては、絵柄インキ層20の絵柄を視認可能であるものが好ましく、透明紙及び半透明紙等の透明性を有するものであることが好ましい。リコート層30としての透明性としては、具体的には、JIS P8138:2000に準拠して測定した不透明度(この数値が小さい程透明性に優れる)が50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。なお、不透明度の下限は10%程度である。リコート層30は、例えば、紙を濃硫酸で処理して透明化する方法、化学パルプを高度に叩解して抄紙する方法、原紙にワックス及び合成樹脂等の透明化剤を含浸する方法、合成繊維及び合成パルプ混抄紙を加熱加圧処理して透明化する方法等の周知の製造方法で得ることができ、いずれの製造方法で得られたものであってもよい。
【0034】
リコート層30の坪量は、特に制限はないが、リコート層30の機械的強度を得る観点から、5g/m以上であることが好ましく、10g/m以上であることがより好ましく、15g/m以上であることがさらに好ましい。また、リコート層30の坪量は、着色剤を保持する着肉性に優れた塗工を行うことができる観点から、40g/m以下であることが好ましく、35g/m以下であることがより好ましく、30g/m以下であることがさらに好ましい。
【0035】
リコート層30の厚さは、特に制限はないが、ステイン等のリコート用塗料を確実に保持し、該塗料が垂れ落ちるのを防ぎ、着色剤を保持する着肉性に優れた塗工を行うことができる観点から、40μm以上110μm以下であることが好ましく、50μm以上100μm以下であることがより好ましく、60μm以上90μm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
リコート層30の層内の厚み方向の接着層20が設けられた面側には、繊維の空隙の一部に熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一部が溶融して充填してなる充填部(図示せず)を備える。充填部は、接着層20とリコート層30との接着性を担保する。
【0037】
リコート層30の層内の厚み方向の接着層20が設けられた面の反対面側には、繊維の空隙及び表面の少なくとも一部が存在する繊維部(図示せず)を備える。リコート層30の繊維部は、繊維の空隙及び表面に着色剤(リコート用塗料)を保持する着肉性を担保することで、繊維の空隙及び表面の少なくとも一部に着色剤(リコート用塗料)を有することができる。
【0038】
《樹脂塗膜》
リコート層30は、少なくとも一部の空隙を維持しつつ、繊維の少なくとも一部の表面に樹脂塗膜(図示せず)を有することが好ましい。樹脂塗膜は、ステイン塗料受容層としてのリコート層30の機能を向上させる。樹脂塗膜は、リコート層30の繊維の一部に存し、繊維の濡れ性を向上させることで、ステイン塗料が垂れ落ちるのを防ぎ、着色剤を保持する着肉性に優れた塗工とすることができる。
【0039】
樹脂塗膜として用いる樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び電離放射線硬化性樹脂等が挙げられる。樹脂塗膜として用いる樹脂は、必要に応じて、架橋剤、重合開始剤等の硬化剤、重合促進剤、溶剤、粘度調整剤、体質顔料などを添加して塗工組成物として用いることができる。
【0040】
熱可塑性樹脂としては、例えば、エチルセルロース、硝酸セルロース、酢酸セルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロース誘導体、ポリスチレン、ポリα-メチルスチレン等のスチレン樹脂またはスチレン共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール等のビニル重合体、ロジン、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、重合ロジン等のロジンエステル樹脂、クマロン樹脂、ビニルトルエン樹脂、ポリアミド樹脂等の天然又は合成樹脂が挙げられる。
【0041】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、珪素樹脂、ポリシロキサン樹脂等が挙げられる。
【0042】
電離放射線硬化性樹脂としては、従来電離放射線硬化性の樹脂として慣用されている樹脂を用いることができ、例えば、電離放射線硬化性官能基である(メタ)アクリロイル基を有してなる(メタ)アクリレート系樹脂を用いることができる。なお、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。
(メタ)アクリレート系樹脂としては、ウレタン(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート及びエポキシ(メタ)アクリレート等のモノマー、オリゴマー及びプレポリマーが挙げられる。これら(メタ)アクリレート系樹脂の中でも、ヒートシール層等との密着性及び塗膜強度のバランスの観点からは、ウレタンアクリレート、アクリルアクリレート、ポリエステルアクリレート及びエポキシアクリレート等のアクリロイル基を有するアクリレート系樹脂が好適であり、その中でもウレタン(メタ)アクリレートが好適である。
なお、電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常、紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線等の電磁波、α線、イオン線等の荷電粒子線も使用可能である。
【0043】
電離放射線硬化性樹脂が紫外線硬化性である場合には、電離放射線硬化性樹脂組成物は、光重合開始剤及び光重合促進剤等の添加剤を含むことが好ましい。
光重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α-アシルオキシムエステル及びチオキサンソン類等から選ばれる1種以上が挙げられる。
また、光重合促進剤は、硬化時の空気による重合阻害を軽減させ硬化速度を速めることができるものであり、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル及びp-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0044】
<接着層>
接着層20は、基材10とリコート層30との間に設けられた熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一部が溶融堆積又は流動堆積した層である。接着層20は、基材10とリコート層30との間に配置され、基材10とリコート層30とを接着する機能を有する。
接着層20の生成工程としては、まず、構成成分の繊維として熱可塑性樹脂繊維を含有する不織布等のリコート層を加熱することで、一部の熱可塑性樹脂繊維が流動性を有するようになる。そして、流動性が高くなった一部の熱可塑性樹脂繊維は、ラミネート工程で圧縮されることで、構成成分の繊維の残部から基材10側に押し出され、基材10上に堆積することで接着層20を形成する。
【0045】
接着層20の主成分は、融点Tが異なる2種類以上の熱可塑性樹脂繊維のうち、融点が低い熱可塑性樹脂繊維が溶融したものであるであることが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂繊維として、最低融点Tm1と最高融点Tm2を有する異なる2種類の熱可塑性樹脂繊維を含有し(Tm1<Tm2)、リコート層30の積層工程を温度T(Tm1<T<Tm2)で行った場合、最低融点Tm1の熱可塑性樹脂繊維が溶融して接着層20を形成することで接着力を発揮することができる。ここで主成分とは、接着層20を構成する成分の50質量%を超える成分をいい、60質量%を超える成分であることが好ましく、70質量%を超える成分であることがより好ましく、80質量%を超える成分であることがさらに好ましい。
【0046】
接着層20の主成分は、ガラス転移温度Tが異なる2種類以上の熱可塑性樹脂繊維のうち、ガラス転移温度が低い前記熱可塑性樹脂繊維が溶融又は流動したものであることが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂繊維として、最低ガラス転移温度Tg1と最高ガラス転移温度Tg2を有する異なる2種類の熱可塑性樹脂繊維を含有し(Tg1<Tg2)、リコート層30の積層工程を温度T(Tg1<T<Tg2)で行った場合、最低ガラス転移温度Tg1の熱可塑性樹脂繊維の流動性が高くなり、接着層20を形成することで接着力を発揮することができる。ここで主成分とは、接着層20を構成する成分の50質量%を超える成分をいい、60質量%を超える成分であることが好ましく、70質量%を超える成分であることがより好ましく、80質量%を超える成分であることがさらに好ましい。
【0047】
接着層20の厚さは、特に制限はないが、基材10とリコート層30との接着力を十分に発揮するというできる観点から、20μm以上80μm以下であることが好ましく、30μm以上70μm以下であることがより好ましく、40μm以上60μm以下であることがさらに好ましい。
【0048】
[リコート用化粧シートの製造方法]
本発明のリコート用化粧シート1の製造方法について、本発明のリコート用化粧シートとして好ましい態様の一つである、図1に示すリコート用化粧シートを例にとって、その製造方法を説明する。
【0049】
まず、基材10を用意する。
また、構成成分の繊維として、融点T又はガラス転移温度Tが異なる2種類以上の熱可塑性樹脂繊維(例えば、最低融点Tm1を有する熱可塑性樹脂繊維と、最高融点Tm2を有する熱可塑性樹脂繊維との2種類)を含有する不織布31(図5参照)を用意する。
【0050】
次いで、基材10の上に、融点Tが異なる2種類以上の熱可塑性樹脂繊維を含有する不織布31を配置した積層体を得る。
【0051】
次いで、基材10と不織布とを積層した積層体を、所定の温度Tにまで加熱する。温度Tは、例えば、熱可塑性樹脂繊維の最低融点Tm1以上とすることが好ましい。また、温度Tは、下記(1)~(3)とすることも好ましい。なお、(3)において、0℃<Tm1-Tであることがより好ましく、10℃≦Tm1-Tであることがさらに好ましい。
(1)Tm1<T<Tm2
(2)Tg1<T<Tg2
(3)Tg1<Tg2<T、かつ、0℃≦Tm1-T
【0052】
なお、積層体を加熱するにあたって、所望の温度Tまで一気に上げるのではなく、段階を経て上げることでシワ等の不具合を低減することができる。積層体を加熱したことで、不織布31に含有する熱可塑性樹脂繊維の一部は流動性が高くなる。
【0053】
さらに、加熱した積層体をラミネートするなどして圧縮することで、流動性が高くなった熱可塑性樹脂繊維の一部が基材10側に堆積して接着層20を形成する。また、不織布を構成する繊維のうち流動性が高くならなかった残部は繊維の形態を維持するリコート層30を形成する。ラミネート等の圧縮時の温度T1と、加熱時の温度Tとの差(T1-T)は、0℃以上100℃以下とすることが好ましい。ラミネート等の圧縮の条件として、加熱時間は、10秒間以上2分間以下とすることが好ましく、圧力は、8.0kg/cm以上10.0kg/cm以下とすることが好ましい。
以上の工程により、基材10、接着層20及びリコート層30を順に積層し、接着層20を介して基材10とリコート層30との接着性が良好であり、リコート層30に繊維の形態を有することで着色剤を保持する着肉性が良好であるリコート用化粧シート1を製造することができる。
【0054】
リコート用化粧シート1の製造方法としては、基材10の上に、グラビア印刷法等の既知の印刷法で、絵柄インキ層形成用組成物を用いて絵柄インキ層11を配置する工程をさらに含むことが好ましい。
また、リコート用化粧シート1の製造方法としては、基材10及び絵柄インキ層11の少なくともいずれかの上に、グラビア印刷法等の既知の印刷法で、着色隠蔽層形成用組成物を用いて着色隠蔽層12を配置する工程をさらに含むことが好ましい。
これらの工程を含むことで、リコート用化粧シート1の意匠性を高めることができる。
【0055】
リコート用化粧シート1の製造方法としては、リコート用化粧シート1のリコート層30の表面側から、樹脂塗膜形成用組成物を塗布する工程をさらに含むことが好ましい。
当該工程を含むことで、リコート層30の少なくとも一部の空隙を維持しつつ、繊維の少なくとも一部の表面に樹脂塗膜を有するリコート用化粧シート1を製造することができる。
【0056】
[リコート用化粧シートの着色方法]
本発明の実施の形態に係るリコート用化粧シート1の着色方法は、一般的な塗工方法によって、リコート用化粧シート1のリコート層30にリコート用塗料を塗工し、リコート層30を着色するものである。
リコート用化粧シート1のリコート層30は、塗工面側に繊維の空隙及び表面を維持する繊維部を有するので、繊維の空隙及び表面に水性ステイン塗料及び油性ステイン塗料等の着色剤を保持する着肉性を担保することができる。よって、本発明の実施の形態に係るリコート用化粧シート1は、ステイン等の着色剤をリコート層30に塗工し着色を施すことで、任意の色に着色することが容易に行える。
【実施例0057】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
【0058】
[評価]
実施例及び比較例で得られたリコート用化粧シートについて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0059】
<接着性>
実施例及び比較例で作製したリコート用化粧シートを300mm×300mmの寸法で切断し、接着性試験の試験片とした。試験片の端部よりリコート層のみを引き剥がし、接着性を評価した。
A:リコート層と基材との間の接着性が極めて高く、剥がれない(材破する)
B:リコート層と基材との間の接着性が高く、ほぼ剥がれない
C:リコート層と基材との間の接着性が中程度で、剥がれにくい
D:リコート層と基材との間の接着性が低く、軽く剥がれた
【0060】
<着肉性>
実施例及び比較例で作製したリコート用化粧シートのリコート層側に油性ステイン塗料及び水性ステイン塗装で塗布し、着肉性を評価した。
A:油性ステイン塗料及び水性ステイン塗装の着肉性が良好
B:油性ステイン塗料及び水性ステイン塗装の着肉性がやや不良
C:油性ステイン塗料及び水性ステイン塗装の着肉性が不良
【0061】
(実施例1)
基材として、厚さ100μmであるポリ塩化ビニルの樹脂基材を用意した。そして、基材の上に、絵柄インキ層形成用組成物をグラビア印刷することにより、厚さ3.0μmの絵柄インキ層を形成した。
坪量25g/m、厚さ130μmであって、熱可塑性樹脂A(融点165℃、ガラス転移温度50℃)及び熱可塑性樹脂B(融点250℃、ガラス転移温度70℃)を含有する不織布を用意した。そして、基材上に配置された絵柄インキ層上に、用意した不織布を配置した積層体を得た。
次いで、得られた積層体を熱ラミネート(150℃、12分間、50kg/cm)により加熱することで不織布に含有する熱可塑性樹脂繊維の一部は流動性が高くなり、さらに、積層体を圧着することで、流動性が高くなった熱可塑性樹脂繊維の一部が基材側に堆積し、厚さ50μmの接着層を形成した。また、不織布を構成する繊維のうち流動性が高くならなかった残部は繊維の形態を維持する厚さ80μmのリコート層を形成した。
次いで、リコート層の表面側から、塩ビ・酢ビ共重合樹脂を含有する樹脂塗膜形成用組成物を塗布し、リコート層に樹脂塗膜を形成した。
以上の工程により、基材10、接着層20及びリコート層30を順に積層したリコート用化粧シートを得た。
得られたリコート用化粧シートについて、評価した結果を表1に示す。
【0062】
(実施例2)
実施例1における不織布を、坪量25g/m、厚さ130μmであって、熱可塑性樹脂C(融点180℃、ガラス転移温度60℃)及び熱可塑性樹脂D(融点250℃、ガラス転移温度70℃)を含有する不織布とした以外は同様とし、実施例2のリコート用化粧シートを得た。得られたリコート用化粧シートについて、評価した結果を表1に示す。
【0063】
(実施例3)
実施例1における不織布を、坪量25g/m、厚さ130μmであって、熱可塑性樹脂C(融点150℃、ガラス転移温度40℃)及び熱可塑性樹脂D(融点250℃、ガラス転移温度70℃)を含有する不織布とした以外は同様とし、実施例3のリコート用化粧シートを得た。得られたリコート用化粧シートについて、評価した結果を表1に示す。
【0064】
(比較例1)
実施例1における不織布を、坪量25g/m、厚さ130μmであって、融点250℃、ガラス転移温度70℃である熱可塑性樹脂を含有する不織布とし、感圧接着タイプの接着剤を用いて厚さ20μmの接着層によって基材と不織布とを接着した以外は同様とし、比較例1のリコート用化粧シートを得た。得られたリコート用化粧シートについて、評価した結果を表1に示す。
【0065】
(比較例2)
実施例1における不織布を、坪量25g/m、厚さ130μmであって、融点250℃、ガラス転移温度70℃である熱可塑性樹脂を含有する不織布とし、感圧接着タイプの接着剤を用いて厚さ1μmの接着層によって基材と不織布とを接着した以外は同様とし、比較例2のリコート用化粧シートを得た。得られたリコート用化粧シートについて、評価した結果を表1に示す。
【0066】
(比較例3)
実施例1における不織布を、坪量25g/m、厚さ130μmであって、熱可塑性樹脂(融点165℃、ガラス転移温度50℃)を含有する不織布とした以外は同様とし、比較例3のリコート用化粧シートを得た。得られたリコート用化粧シートについて、評価した結果を表1に示す。
【0067】
(比較例4)
実施例1における不織布を、坪量25g/m、厚さ130μmであって、熱可塑性樹脂(融点250℃、ガラス転移温度70℃)を含有する不織布とした以外は同様とし、比較例4のリコート用化粧シートを得た。得られたリコート用化粧シートについて、評価した結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1より、実施例1~3では、接着性及び着色性の結果が共に良好であった。
一方、比較例1では、接着剤がリコート層の表面から染み出してしまい着色性の結果が良くなかった。また、比較例2では、接着剤が少なかったため接着性の結果が良くなかった。また、比較例3では、不織布に含有する熱可塑性樹脂繊維が加熱されることで接着剤層を形成することで接着性の評価は良くなったが、繊維形態を維持するリコート層を形成することはなく着色性の結果が良くなかった。また、比較例4では、不織布に含有する熱可塑性樹脂繊維が加熱しても接着剤層を形成することがなく接着性の評価が良くなかったが、繊維形態を維持するリコート層を形成したため着色性の結果は良かった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のリコート用化粧シートは、基材と不織布とが十分に接着し、かつ、良好な着色性を有するものであり、壁、天井、床等の建築物の内裝材用又は外装用部材、窓枠、扉、手すり、幅木、廻り縁、モール等の建具乃至造作部材の他、厨房機器、家具又は弱電、OA機器等のキャビネットの表面化粧板、車両の内裝用又は外装用部材を構成する層として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0071】
1:リコート用化粧シート
10:基材
11:絵柄インキ層
12:着色隠蔽層
20:接着層
30:リコート層
31:不織布
図1
図2
図3
図4
図5