(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177388
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】記録位置の補正方法、記録方法、記録装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20241212BHJP
B41J 2/05 20060101ALI20241212BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B41J2/01 203
B41J2/01 451
B41J2/05
B41J2/18
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024174186
(22)【出願日】2024-10-03
(62)【分割の表示】P 2020182932の分割
【原出願日】2020-10-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】駒宮 友美
(72)【発明者】
【氏名】奥島 真吾
(57)【要約】
【課題】
記録装置との間でインクを循環させる記録ヘッドにおいて、熱変形に伴い動的に変化する記録位置ずれを低減すること。
【解決手段】
記録ヘッド3の記録素子基板10を目標温度に調整し、記録素子基板10に液体を循環させる。記録ヘッド3の熱膨張が定常状態に至った後、記録素子15を用いて記録したテストパターンから、搬送方向における記録ヘッド3の記録位置ずれを取得する。更に、取得した記録位置ずれに基づいて、この記録位置ずれを補正するための補正値を設定する。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の記録素子が第1方向に連続するように配列された複数の記録素子基板と、前記記録素子基板の温度を調整するための温調手段と、前記記録素子基板に液体を循環させるための循環手段と、前記複数の記録素子基板に共通して液体を供給するための共通供給流路と、前記複数の記録素子基板から共通して液体を回収するための共通回収流路と、を備え、前記温調手段および液体の循環に応じて熱膨張する記録ヘッドを用い、前記第1方向とは交差する第2方向に移動する記録媒体に画像を記録する記録装置の、前記第2方向における記録位置の補正方法であって、
前記記録ヘッドの前記複数の記録素子基板に対して前記温調手段、前記循環手段によって温調制御を行うとともに、前記記録素子を駆動して前記第2方向に搬送される記録媒体に記録したテストパターンから、前記第2方向における前記記録ヘッドの記録位置ずれ量を取得する取得工程と、
前記記録位置ずれ量に基づいて補正値を設定する設定工程と、
を含み、
前記共通供給流路と前記共通回収流路とは前記第2方向において隣接しており、前記共通供給流路および前記共通回収流路を流動する液体は前記第1方向の一方から他方に向かって流動することを特徴とする記録位置の補正方法。
【請求項2】
前記設定工程において、前記補正値は、前記複数の記録素子基板のそれぞれについて又は隣接する複数の記録素子基板を単位として設定される請求項1に記載の記録位置の補正方法。
【請求項3】
前記補正値は、前記記録素子を駆動するタイミングの標準値からのシフト量を示す請求項1又は2に記載の記録位置の補正方法。
【請求項4】
前記記録ヘッドは、前記記録素子にパルス電圧が印加されることにより液体中に膜沸騰を生じさせ、生成された泡の成長エネルギーによって液体を吐出する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の記録位置の補正方法。
【請求項5】
記録動作を行う際に調整される前記記録素子基板の温度は、前記記録ヘッドに供給される前の液体の温度よりも10℃以上高い請求項1乃至4のいずれか1項に記載の記録位置の補正方法。
【請求項6】
前記設定工程で設定された前記補正値を記憶手段に記憶させる工程を更に有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の記録位置の補正方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の記録位置の補正方法に従って設定された前記補正値を記憶手段から読み出す工程と、
前記補正値を用い、画像データに従って記録媒体に画像を記録する工程と
を有することを特徴とする記録方法。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の記録位置の補正方法をコンピュータに実行さ
せるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録位置の補正方法、記録方法、記録装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ライン型の記録装置に搭載されるような長尺なインクジェット記録ヘッドにおいては、複数の吐出モジュールを繋ぎ合わせて作成されたものがある。このような長尺の記録ヘッドにおいては、長手方向と交差する短手方向に吐出モジュール間のずれが生じ、画像劣化の要因となることがある。
【0003】
特許文献1には、長手方向に配列する記録素子の吐出タイミングを調整することにより、短手方向の記録位置ずれを低減する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法は、記録ヘッドの静的な構成に起因する記録位置ずれは補正できるものの、記録ヘッドの動的な変形に伴う記録位置ずれを補正することは難しい。特に、正常な吐出動作を維持するために、記録装置との間でインクを循環させる記録ヘッドにおいては、記録ヘッド内を流動するインクの熱により記録ヘッドの熱分布及びこれに伴う熱変形が動的に変化し、記録位置ずれの補正が困難になる。
【0006】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものである。よってその目的とするところは、記録装置との間でインクを循環させる記録ヘッドにおいて、熱変形に伴い動的に変化する記録位置ずれを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのために本発明は、複数の記録素子が第1方向に連続するように配列された複数の記録素子基板と、前記記録素子基板の温度を調整するための温調手段と、前記記録素子基板に液体を循環させるための循環手段と、前記複数の記録素子基板に共通して液体を供給するための共通供給流路と、前記複数の記録素子基板から共通して液体を回収するための共通回収流路とを備え、前記温調手段および液体の循環に応じて熱膨張する記録ヘッドを用い、前記第1方向とは交差する第2方向に移動する記録媒体に画像を記録する記録装置の、前記第2方向における記録位置の補正方法であって、前記記録ヘッドの前記複数の記録素子基板に対して前記温調手段、前記循環手段によって温調制御を行うとともに、前記記録素子を駆動して前記第2方向に搬送される記録媒体に記録したテストパターンから、前記第2方向における前記記録ヘッドの記録位置ずれ量を取得する取得工程と、前記記録位置ずれ量に基づいて補正値を設定する設定工程と、を含み、前記共通供給流路と前記共通回収流路とは前記第2方向において隣接しており、前記共通供給流路および前記共通回収流路を流動する液体は前記第1方向の一方から他方に向かって流動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、記録装置との間でインクを循環させる記録ヘッドにおいて、熱変形に伴い動的に変化する記録位置ずれを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図6】記録ヘッドをキャリッジに装着した様子を示す図
【
図8】流路部材に形成された流路構造を説明するための透視図及び断面図
【
図10】記録素子基板の構造を詳細に説明するための図
【
図11】記録素子基板の構造を詳細に説明するための図
【
図14】別例の記録ヘッドの流路構造を詳しく示す図
【
図16】記録ヘッドの熱変形に伴う記録位置ずれを説明するための図
【
図17】第1の実施形態における補正処理を説明するためのフローチャート
【
図18】第1の実施形態における記録位置ずれの補正効果を説明するための図
【
図19】吐出頻度の違いに伴う記録ヘッドの変形差を説明するための図
【
図20】第2の実施形態における補正処理を説明するためのフローチャート
【
図21】第2の実施形態の補正値の設定方法と補正の効果を説明するための図
【
図22】中間状態を再現するための循環量と温調温度の関係を示す図
【
図23】循環量と吐出ユニットにおけるインクの流量の関係を示す図
【
図24】第3の実施形態における補正処理を説明するためのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態)
<記録装置の全体構成>
図1(a)及び(b)は、本実施形態で使用可能な記録装置の例を示す図である。本実施形態の記録装置は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(Bk)のインクを吐出することによって記録媒体Sにカラー画像を記録するインクジェット記録装置(以下、単に記録装置と呼ぶ)1000である。図中、X方向は記録媒体Sの搬送方向であり、Y方向は記録媒体の幅方向、Z方向は鉛直上方向である。
【0011】
図1(a)は、X方向に搬送される記録媒体Sに対し、液体吐出ヘッド(以下、記録ヘッドと称す)3が直接インクを付与する形態の記録装置1000を示す。記録媒体Sは、搬送部1に搭載され、異なるインクを吐出する4つの記録ヘッド3の下方を所定の速度でX方向に搬送される。
図1(a)において、4つの記録ヘッド3は、シアン、マゼンタ、イエロー、及びブラックの順にX方向に配置され、記録媒体Sにはこの順にインクが付与される。個々の記録ヘッド3においては、インクを吐出する吐出口がY方向に複数配列している。
【0012】
図1(b)は、4色の記録ヘッド3が吐出したインクが、中間転写ドラム2を介して記録媒体Sに転写される形態の記録装置1000を示す。異なるインクを吐出する4つの記録ヘッド3は、その吐出口面が円柱状の中間転写ドラム2の表面に対向するように、配置されている。搬送ローラ4によってX方向に搬送される記録媒体Sが、中間転写ドラム2と転写ローラ5とのニップ部を通過する際、中間転写ドラム2に付与されているインクが記録媒体Sに転写される。本実施形態の記録ヘッド3は、
図1(a)及び(b)のどちらの記録装置1000でも使用することができる。
【0013】
なお、
図1(a)及び(b)では、記録媒体Sとしてカット紙を示したが、記録媒体S2は、ロール紙から供給される連続紙であってもよい。
【0014】
図2は、記録装置1000における制御の構成を説明するためのブロック図である。制御部500はCPUなどから構成され、ROM501に記憶されているプログラムや各種パラメータに従いRAM502をワークエリアとして使用しながら、記録装置1000全体を制御する。制御部500は、外部に接続されたホスト装置600より受信した画像データに対し、ROM501に記憶されているプログラム及びパラメータに従って所定の画像処理を行い、記録ヘッド3が吐出可能な吐出データを生成する。そして、この吐出データに従って記録ヘッド3を駆動し、所定の周波数でインクを吐出させる。
【0015】
記録ヘッド3による吐出動作の最中、制御部500は搬送モータ503を駆動して、駆動周波数に対応した速度で記録媒体SをX方向に搬送する。これにより、記録媒体S上には、ホスト装置600より受信した画像データに従った画像が記録される。ROM501には、記録ヘッド3において吐出に使用する吐出口の使用領域の情報が、記録ヘッド3ごとに書き換え可能に保存されている。使用領域の設定方法については、後に詳しく説明する。
【0016】
図2には示していないが、記録ヘッド3には複数の記録素子基板10(
図3、4参照)が配列されている。そして、各記録素子基板10には記録素子基板10の温度を検出するための温度センサ301と記録素子基板10を所定の設定温度に加熱するためのサブヒータ302が複数ずつ設けられている。
図2では説明を簡単にするため、複数の温度センサ301とサブヒータ302を一つにまとめて示している。記録動作を行う際、制御部500は温度センサ301が検出した温度に基づいてサブヒータ302を駆動し、それぞれの記録素子基板10を適切な温度に保温する。本実施形態において、一般の記録動作では、記録素子基板10は65℃に保温されるものとする。
【0017】
液体循環ユニット504は、記録ヘッド3に対し液体(インク)を循環させながら供給するためのユニットである。液体循環ユニット504は、制御部500の管理のもと、インクを循環させるシステムを制御する。なお、
図2では、簡単のため1色分の記録ヘッド3と液体循環ユニット504を示しているが、実際には4色分の記録ヘッド3と液体循環ユニット504が制御部によって制御される。
【0018】
<インク循環システム>
図3(a)及び(b)は、液体循環ユニット504によって制御されるインク循環システム説明するための図である。
【0019】
図3(a)及び(b)のそれぞれにおいて、バッファタンク1001に収容されているインクは記録ヘッド3に供給され、吐出によって消費されなかったインクは再びバッファタンク1001に回収される。即ち、インクは、バッファタンク1001と記録ヘッド3との間で循環される。バッファタンク1001に貯留されているインクが所定量以下になると、補充ポンプP0が駆動され、メインタンク1002に収容されているインクがバッファタンク1001に補充される。バッファタンク1001には大気連通口(不図示)が設けられており、記録ヘッド3から回収されたインク中に含まれる気泡は、浮力によって水面に上昇し大気に放出される。
【0020】
本実施形態の記録ヘッド3は、吐出データに応じてインクを吐出する吐出ユニット300と、吐出ユニット300に供給されるインクの圧力を調整するための2つの液体供給ユニット220とを有している。2つの液体供給ユニット220には、吐出ユニット300に流れるインクの圧力を制御するための第1負圧制御ユニット230と第2負圧制御ユニット231がそれぞれ配されている。
【0021】
図3(a)は、第1負圧制御ユニット230及び第2負圧制御ユニット231が、インクの流れにおいて吐出ユニット300の上流に配された例を示す。バッファタンク1001に収容されているインクは、第1循環ポンプP1によって排出された後、二手に分かれて左右の液体供給ユニット220に供給される。供給されたインクは、それぞれのフィルタ221を介して第1負圧制御ユニット230と第2負圧制御ユニット231に供給される。
【0022】
第1負圧制御ユニット230は、弱い負圧(大気圧との圧力差が小さい負圧)に制御圧力が設定されている。第2負圧制御ユニット231は、強い負圧(大気圧との圧力差が大きい負圧)に制御圧力が設定されている。第1負圧制御ユニット230によって実現される圧力は、第2負圧制御ユニット231によって実現される圧力よりも高い(負圧力が低い)ため、図では第1負圧制御ユニット230をH、第1負圧制御ユニット230をLとして示している。
【0023】
第1負圧制御ユニット230によって圧力が調整されたインクは、第2循環ポンプP2の吸引力により、吐出ユニット300の共通供給流路211を経由して、バッファタンク1003に回収される。第2負圧制御ユニット231によって圧力が調整されたインクは、第3循環ポンプP3の吸引力により、吐出ユニット300の共通回収流路212を経由して、バッファタンク1003に回収される。第1負圧制御ユニット230と第2負圧制御ユニット231における調整圧力は、第2循環ポンプP2、第3循環ポンプP3の駆動により適正な範囲が維持される。
【0024】
共通供給流路211と共通回収流路212を流れる液体の量は、吐出ユニット300がインクを吐出する頻度即ち画像のデューティに応じて変動する。本実施形態にように、第1負圧制御ユニット230及び第2負圧制御ユニット231を、吐出ユニット300の上流側に設けておくことにより、吐出ユニット300におけるインクの圧力を、画像のデューティによらず一定範囲に保つことができる。
【0025】
吐出ユニット300には、複数の記録素子基板10が共通供給流路211及び共通回収流路212の延在方向(Y方向)に配列している。各記録素子基板10は、個別供給流路213aを介して共通供給流路211に接続され、個別回収流路213bを介して共通回収流路212に接続されている。共通供給流路211を流れるインクと共通回収流路212を流れるインクには圧力差があるため、各記録素子基板10においては、個別供給流路213aから個別回収流路213bに向かうインクの流れが形成される。
【0026】
以上のインク循環構成において、第1循環ポンプP1としては、吐出ユニット300の駆動時に実現されるインク循環流量の範囲において、一定以上の揚程圧力が得られるものがよく、ターボ型ポンプや容積型ポンプなどが使用可能である。具体的には、ダイヤフラムポンプ等が適用可能である。また第1循環ポンプP1の代わりに、第1負圧制御ユニット230や第2負圧制御ユニット231に対してある一定の水頭差をもって配置された水頭タンクを用いることもできる。
【0027】
第2循環ポンプP2及び第3循環ポンプP3としては、定量的な送液能力を有する容積型ポンプが使用可能である。具体的には、チューブポンプ、ギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプ等が挙げられる。また、一般的な定流量弁やリリーフ弁をポンプ出口に配して一定流量を確保する形態であってもよい。
【0028】
第1負圧制御ユニット230及び第2負圧制御ユニット231としては、所謂「減圧レギュレーター」と同様の機構を採用することができる。減圧レギュレーターを用いた場合には、
図3(a)のように、第1循環ポンプP1が第1負圧制御ユニット230及び第2負圧制御ユニット231の上流側を加圧するように配置することが好ましい。このようにすると、バッファタンク1001の吐出ユニット300に対する水頭圧の影響を抑制できるので、記録装置1000におけるバッファタンク1003のレイアウトの自由度を向上させることができる。
【0029】
図3(a)に示した吐出ユニット300においては、記録装置1000が記録動作を行っているときは、吐出データの有無にかかわらず、個々の記録素子基板10には一定量のインクが流動する。このため、吐出頻度が少ない吐出口におけるインクの増粘を抑制したり、増粘したインクや異物を吐出ユニット300から排出したりすることができる。更に、
図3(a)に示したように、共通供給流路211におけるインクの流動方向と、共通回収流路212におけるインクの流動方向を反対向きにすることにより、これら対向する流路の間で熱交換を促進させることができる。その結果、記録ヘッド3内の長手方向(Y方向)における温度勾配を軽減し、複数の記録素子基板10の吐出量ばらつきを抑制することができる。
【0030】
但し、吐出ユニット300におけるインクの流量をあまり大きな値に設定してしまうと、流路内の圧力損失によって記録素子基板10間で負圧差が大きくなり、出力された画像に濃度ムラが発生してしまうこともある。よって、吐出ユニット300におけるインクの流量は、吐出頻度が少ない吐出口における増粘、記録素子基板10間の温度ばらつき及び圧力損失の程度に応じて、適切に調整されることが好ましい。
【0031】
図3(b)は、第1負圧制御ユニット230及び第2負圧制御ユニット231が、インクの流れにおいて吐出ユニット300の下流側に配された例を示す。
図3(b)に示す構成も、
図3(a)を用いて説明した内容とほぼ同様の効果が得られる。以下、
図3(a)の構成と異なる点について説明する。
【0032】
図3(b)において、インクは
図3(a)と逆の方向に流れる。即ち、バッファタンク1001に収容されているインクは、第2循環ポンプP2によって液体供給ユニット220の共通供給流路211に供給され、第3循環ポンプP3によって液体供給ユニット220の共通回収流路212に供給される。共通供給流路211を通過したインクは、負圧源として作用する第1循環ポンプP1により、第1負圧制御ユニット230を介してバッファタンク1001に回収される。共通回収流路212を通過したインクは、負圧源として作用する第1循環ポンプP1により、第2負圧制御ユニット231を介してバッファタンク1001に回収される。
【0033】
図3(b)の第1負圧制御ユニット230及び第2負圧制御ユニット231としては、所謂「背圧レギュレーター」と同様の機構を採用することができる。背圧レギュレーターとなる第1負圧制御ユニット230及び第2負圧制御ユニット231を、吐出ユニット300の下流側に設けることにより、吐出ユニット300におけるインクの圧力を、画像のデューティによらず一定範囲に保つことができる。
図3(b)の構成においても、
図3(a)の構成と同様、バッファタンク1001の吐出ユニット300に対する水頭圧の影響を抑制できるので、記録装置1000におけるバッファタンク1003のレイアウトの自由度を広げることができる。
【0034】
図3(b)の構成の場合、バッファタンク1001から供給されたインクがフィルタ221を介して直接吐出ユニット300に供給される。このため、第1負圧制御ユニット230や第2負圧制御ユニット231でゴミや異物が発生したとしても、これが液体吐出ユニットに混入することがない。
【0035】
また、
図3(b)の構成の場合、バッファタンク1001から吐出ユニット300に送るインクの流量最大値を、
図3(a)の構成よりも少なく抑えることができる。以下、その理由を説明する。
【0036】
まず、吐出動作を伴わない状態において吐出ユニット300でインクを循環させるのに必要な流量をQaとする。流量Qaは、記録装置1000がスタンバイ状態にあるときに、吐出ユニット300を適切な温度に保つために必要な最小限の流量として定義される。また、全吐出口で最大周波数の吐出動作を行う状態において吐出ユニット300で消費されるインクの流量をQbとする。
【0037】
図3(a)の構成の場合、高圧側の第2循環ポンプP2及び低圧側の第3循環ポンプP3の設定流量の和はQaとなる。よって、全吐出口で最大周波数の吐出動作を行うとき、吐出ユニット300へのインク供給量の最大値はQa+Qbとなる。これに対し、
図3(b)の構成の場合、高圧側の第2循環ポンプP2及び低圧側の第3循環ポンプP3の設定流量の和は、QaとQbのうち大きい方の値であればよい。つまり、
図3(b)の構成では、
図3(a)の構成よりもインクの総循環量ひいてはポンプのパワーを低く抑えることができ、結果として適用可能な循環ポンプの自由度を高めることができる。そして、このような効果は、QaやQbが大きくなるほど即ちラインヘッドのサイズが大きくなるほど顕著に現れる。
【0038】
一方、
図3(b)の構成の場合、
図3(a)の構成に比べて各ノズルに作用する負圧が大きく、出力画像にサテライトが目立ち易い場合がある。これは、
図3(b)の構成では、吐出ユニット300内を流れる流量の最大値は吐出動作を行わない状態で流れる流量と同じであるため、デューティが低い画像であるほど、各吐出口に作用する負圧が大きくなるためである。このため、デューティが低い画像でも各吐出口でサテライトが発生し、このようなサテライトはデューティが低い画像であるほど目立ち易い。このような傾向は、特に液体吐出ヘッドの小型化のために、共通供給流路211や共通回収流路212の幅を小さくした場合に顕著になる。これに対し、
図3(a)の構成において、各ノズルに作用する負圧はデューティが高い場合に大きくなるが、この場合、たとえサテライトが発生したとしても、デューティが高い画像においてサテライトは目立ち難い。
【0039】
本実施形態のインク循環構成は、以上説明したそれぞれの特徴を考慮した上で、
図3(a)及び(b)のどちらも採用可能である。なお、
図3(a)及び(b)では、1色のインクについてのインク循環構成を示しているが、実際にはこのような構成が、インク色ごとに設けられている。また、以上では、記録ヘッド3内の長手方向(Y方向)における温度勾配を軽減するために、共通供給流路211と共通回収流路212の液体の流れる方向を反対方向としたが、これらは同じ方向であってもよい。
【0040】
<記録ヘッドの構成>
図4(a)及び(b)は、本実施形態で使用可能な記録ヘッド3の外観斜視図である。
図4(a)は記録ヘッド3を斜め下方から見た図であり、
図4(a)は記録ヘッド3を斜め上方から見た図である。記録ヘッド3において、長手方向となるY方向の両側には、剛性を担保するための記録ヘッド支持部80が設けられ、これら2つの記録ヘッド支持部80のそれぞれに、
図3(a)及び(b)で説明した液体供給ユニット220が収容される。図中、第1負圧制御ユニット230と第2負圧制御ユニット231は、記録ヘッド支持部80よりも上位(+Z方向)に突出している。記録ヘッド支持部80の下面には、バッファタンク1001に接続するための液体接続部111が設けられている。
【0041】
記録ヘッド3の下面には、複数の記録素子基板10が、Y方向に沿ってA3サイズの幅に対応可能な距離だけ直線状に配置されている。個々の記録素子基板10には、複数の吐出口がY方向に配列して成る吐出口列が、20列分X方向に並列されている(
図10参照)。
【0042】
記録ヘッド3の短手方向となるX方向の両側側面には、Y方向に延在する電気配線基板90が配されている。記録素子基板10のそれぞれは、フレキシブル配線基板40を介して、両側の電気配線基板90に接続されている。それぞれの電気配線基板90には、記録装置1000の本体から電力を受容するための2つの電力供給端子92と、吐出信号を受信するための4つの信号入力端子91が設けられている。電気配線基板90内の電気回路によって配線を集約することにより、信号入力端子91及び電力供給端子92の数を記録素子基板10の数よりも少なく抑え、記録装置1000に対して記録ヘッド3を着脱する際の接続作業を簡略化することができる。
【0043】
図5は、記録ヘッド3の分解斜視図である。記録ヘッド3は、主に、液体供給ユニット220、電気配線基板90、記録ヘッド支持部80及び吐出ユニット300を含む。吐出ユニット300は、各記録素子基板10にインクを循環させる流路部材210と、記録素子基板10及びフレキシブル配線基板40で構成される複数の吐出モジュール200と、吐出モジュール200の外周を被覆するカバー部材130とを有する。
【0044】
流路部材210は、記録素子基板10と流体的に接続する第1流路部材50と、液体供給ユニット220と流体的に接続する第2流路部材60とを有している。第1流路部材50には、
図3(a)及び(b)で説明した個別供給流路213aや個別回収流路213bが形成されている。第2流路部材60には、
図3(a)及び(b)で説明した共通供給流路211や共通回収流路212が形成されている。第2流路部材60は、記録ヘッド支持部80と結合され、記録ヘッド支持部80と共に記録ヘッド3の剛性を担う。第2流路部材60の材質としては、液体に対する十分な耐食性と高い機械強度を有するものが好ましい。具体的にはSUSやTi、アルミナなどを好ましく用いることができる。
【0045】
カバー部材130は、長尺のカバー開口131が設けられた額縁状の表面を持つ部材である。カバー部材130のカバー開口131からは、複数の記録素子基板10と、各記録素子基板10とフレキシブル配線基板40との接続部を封止するための封止材110(
図9参照)が露出される。カバー開口131の周囲の枠部は、記録装置1000に設けられたキャップが、記録ヘッド3の吐出口面をキャップする際の当接面として機能する。カバー開口131の周囲においては、キャップ時に好適な閉空間を形成するために、吐出ユニット300の吐出口面上の凹凸や隙間を埋めるように、接着剤、封止材、充填材等を塗布することが好ましい。
【0046】
記録ヘッド3が組み立てる際には、記録ヘッド支持部80の下面に吐出ユニット300を取り付け、記録ヘッド支持部80の両側側面に2枚の電気配線基板90を取り付け、記録ヘッド支持部80の中に液体供給ユニット220を装着する。なお、液体供給ユニット220と吐出ユニット300との接続部には、インクの漏れを抑止するためのジョイントゴム100が配置される。
【0047】
図6は、記録装置1000に備えられたキャリッジ70に、記録ヘッド3を装着した様子を示す図である。キャリッジ70は記録ヘッド3を搭載可能な箱型形状を有し、長手方向であるY方向の片側にはY方向にスライド可能な可動部71が設けられている。
【0048】
本実施形態では、このようにキャリッジ70の片側に可動部71を設けておくことにより、記録ヘッド3が長手方向に膨張した場合に、キャリッジ70の可動部71が+Y方向に移動するようにしている。このため、記録ヘッド3が長手方向に熱膨張しても、キャリッジ70は、記録ヘッド3を歪ませることなく支持することができる。
【0049】
図7(a)~(e)は、流路部材210の詳細な構成を説明するための図である。
図7(a)及び(b)は第1流路部材50の表裏面、
図7(c)~(e)は第2流路部材60の表面、中層断面、及び裏面をそれぞれ示している。
図7(a)が記録素子基板10との当接面となり、
図7(e)が液体供給ユニット220との当接面となる。また、
図7(b)に示す第1流路部材50の面と
図7(c)に示す第2流路部材60の面が互いに当接する。
【0050】
第1流路部材50にはY方向に配列する複数の個別部材52が含まれ、各個別部材52には1つの記録素子基板10が対応付けられる。このような構成であれば、吐出モジュール200及び個別部材52の配列数を調整することにより、様々なサイズの記録ヘッド3を組み立てることができる。
【0051】
図7(a)に示すように、第1流路部材50の、記録素子基板10と当接する面には、記録素子基板10と流体的に接続し、
図3(a)及び(b)で説明した個別供給流路213a及び個別回収流路213bとなる連通路51が形成されている。各連通路51には、第2流路部材60と流体的に連通する個別連通口53が形成されている。
【0052】
図7(c)に示すように、第2流路部材60の、第1流路部材50と当接する面には、第1流路部材50の個別連通口53と連通する連通口61が形成されている。連通口61は、供給用と回収用とが各個別部材52に対応して1対ずつ設けられている。
【0053】
図7(d)に示すように、第2流路部材60の中層には、
図3(a)及び(b)で説明した共通供給流路211及び共通回収流路212となるY方向に延在する共通流路溝62が形成されている。共通流路溝62の両端部には、液体供給ユニット220と流体的に連通する共通連通口63が形成されている。
【0054】
図8(a)及び(b)は、流路部材210の内部に形成された流路構造を説明するための透視図及び断面図である。
図8(a)は、流路部材210をZ方向から見た拡大透視図であり、
図8(b)は、
図8(a)のVIIIb-VIIIb断面図である。
【0055】
第2流路部材60の長手方向(Y方向)に延在する共通供給流路211と共通回収流路212は、第2流路部材60の連通口61及び第1流路部材50の個別連通口53を介して第1流路部材50に接続される。即ち、第2流路部材60と第1流路部材50とは、連通口61と個別連通口53とを位置合わせして積層される。また、吐出モジュール200の記録素子基板10は、支持部材30を介して第1流路部材50の連通路51上に載置される。なお、
図8(b)では、共通回収流路212に対応する個別連通口53が図示されていないが、別の断面では図示されることは
図8(a)から明らかである。
【0056】
既に説明したように、共通供給流路211は相対的に高圧の第1負圧制御ユニット230に接続され、共通回収流路212は相対的に低圧の第2負圧制御ユニット231に接続されている。このため、共通連通口63(
図7参照)、共通供給流路211、連通口61、個別連通口53、連通路51(個別供給流路213a)、記録素子基板10からなる記録素子基板10へのインク供給経路が形成される。同様に、記録素子基板10、連通路51(個別回収流路213b)、個別連通口53、連通口61、共通回収流路212、共通連通口63(
図7参照)からなるインク回収経路が形成される。このようにインクが循環される中、記録素子基板10においては吐出データに従った吐出動作が行われ、インク供給経路で供給されるインクのうち吐出動作によって消費されなかったインクがインク回収経路で回収される。
【0057】
図9(a)及び(b)は、吐出モジュール200の斜視図及び分解図である。吐出モジュール200は、支持部材30に記録素子基板10を接着し、記録素子基板10の端子16とフレキシブル配線基板40の端子41とをワイヤーボンディングによって電気接続し、ワイヤーボンディング部を封止材110で封止することで製造される。フレキシブル配線基板40において、記録素子基板10とは反対の位置にある端子42は、電気配線基板90と電気接続される(
図4参照)。本実施形態の記録素子基板10には20列の吐出口列即ち20列の記録素子列が設けられており、片側の10列ともう片側の10列で異なるフレキシブル配線基板40に対応付けられている。この様に、記録素子基板10の両側にフレキシブル配線基板40を接続させることにより、記録素子基板10に配置された各記録素子列と端子16との距離をなるべく短くし、配線部で生じる電圧低下や信号伝送遅れを低減することができる。但し、記録素子列数が少ない場合や電圧低下等が然程問題にならないような場合は、フレキシブル配線基板40を記録素子基板10の片側のみに配置してもよい。
【0058】
支持部材30には、開口部となる液体供給口31が、
図8(a)、(b)で説明した連通路51と対応する位置に、記録素子基板10の全吐出口列を跨るように形成されている。支持部材30は、記録素子基板10の支持体であると同時に、記録素子基板10と流路部材210との間に位置する1つの流路部材でもある。このため、支持部材30は、平面度が高く、十分に高い信頼性をもって記録素子基板10と接合できるものが好ましい。好適に使用可能な材質としては例えばアルミナや樹脂材料が挙げられる。
【0059】
<記録素子基板の構成>
図10(a)~(c)及び
図11は、記録素子基板10の構造を詳細に説明するための図である。
図10(a)は記録素子基板10の上面図、
図10(b)は
図10(a)に示す領域Xbの拡大透視図、
図10(c)は記録素子基板10の背面図である。また、
図11は、
図10(a)のXI-XI断面図である。
図11に示すように、1つの記録素子基板10は、感光性樹脂から成る吐出口形成部材12と、シリコンから成る基板11と、薄膜のカバープレート20とが積層されて形成される。
【0060】
図10(a)に示すように、本実施形態の記録素子基板10は平行四辺形を呈している。また、記録素子基板10において、記録ヘッド3の短手方向(±X方向)の両端部には、フレキシブル配線基板40と電気接続するための端子16が形成されている。
【0061】
吐出口形成部材12には、同色のインクを吐出する吐出口13がY方向に配列して成る吐出口列が、20列分X方向に並列配置されている。このため、1画素分の吐出データは、Y方向の同じ位置にある20個の吐出口のいずれかによって吐出されればよく、個々の吐出口の駆動周期を確保した状態で記録ヘッド3の駆動周波数を高めることができる。また、不吐出の吐出口が生じたとしても、その吐出口の吐出データをY方向の同じ位置にある他の吐出口に振り分けることができるので、欠落の無い画像を記録することができる。
【0062】
図10(b)は、
図10(a)に示す領域Xbの拡大図である。吐出口形成部材12においては、隔壁22が所定のピッチでY方向に並び区画することによって複数の圧力室23が形成される。基板11の表面であって個々の圧力室23に対応する位置には、電気熱変換素子である記録素子15が配されている。記録素子15は記録素子基板10に設けられた不図示の配線によって端子16と電気的に接続されている。記録装置1000の制御部500(
図2参照)は、吐出データに従ってパルス電圧を発信し、このパルス電圧が電気配線基板90及びフレキシブル配線基板40を介して記録素子15に印加される。すると、記録素子15は発熱し、圧力室23に収容されている液体中に膜沸騰が生じ、生成された泡の成長エネルギーによって、圧力室23に収容されているインクの一部が吐出口13から外部に吐出される。
【0063】
一方、各吐出口列のX方向の両側には、流路部材210の個別供給流路213aと連結し複数の圧力室23に接続する液体供給路18と、流路部材210の個別回収流路213bと連結し複数の圧力室23に接続する液体回収路19が、Y方向に延在している。また、
図11の断面図にも示すように、液体供給路18には圧力室23と連通する供給口17aが、液体回収路19には圧力室23と連通する回収口17bが、それぞれの圧力室23に対応づけて形成されている。圧力室23の内部の液体は、供給口17aや回収口17bを介して、圧力室23の外部との間で流動される。即ち、吐出動作のために吐出口13からインクが吐出されたか否かに関わらず、圧力室23には新鮮なインクが供給される。
【0064】
更に、
図10(c)に示すように、第1流路部材50と接する側に配されたカバープレート20には、第1流路部材50の連通路51及び支持部材30の液体供給口31に対応する位置に複数の開口21が形成されている。本実施形態においては、液体供給路18の1本に対して3個、液体回収路19の1本に対して2個の開口21がカバープレート20に設けられている。
図10(b)に示すようにカバープレート20の夫々の開口21は、
図7(a)に示した複数の連通路51と連通している。このようなカバープレート20においては、液体(インク)に対する十分な耐食性と、複数の開口21の高いレイアウト精度が求められる。よって、複数のカバープレート20は、例えば、感光性樹脂材料やシリコン板を用い、フォトリソプロセスによって形成されることが好ましい。
【0065】
図12は、隣接する記録素子基板10の接続状態を示す図である。本実施形態の記録ヘッド3は平行四辺形を呈しており、隣接する2つの記録素子基板10は、互いの側辺を当接させながらY方向に連続的に配置される。この際、2つの記録素子基板10の接続箇所において、一方の記録素子基板10の最端部に位置する少なくとも1つの吐出口13と、もう一方の記録素子基板10の最端部に位置する吐出口13が、Y方向の同じ位置にレイアウトされるようにしている。言い換えると、そのようにレイアウトされるように、平行四辺形の傾き角度が設計されている。図では、P線上の2つの吐出口13が、Y方向の同じ位置にレイアウトされている。
【0066】
このような構成によれば、液体吐出ヘッド製造時に2つの記録素子基板10が多少ずれて接続されてしまっても、接続部に相当する位置の画像は、オーバーラップ領域に含まれる複数の吐出口によって記録することができる。よって、紙面上に記録された画像においては、上記ずれに伴う黒スジや白抜けを目立たなくすることができる。なお、以上では記録素子基板10の主平面を平行四辺形としたが、本発明はこれに限るものではない。例えば長方形、台形、その他形状の記録素子基板を用いることもできる。
【0067】
なお、
図10~
図12には示していないが、各記録素子基板10は複数のエリアに区画され、エリアごとに温度センサ301とサブヒータ302が設けられている。そして、制御部500(
図2参照)は、これら温度センサ301とサブヒータ302を用いてエリアごとに設定された温度に基づいて温度調整を行う。即ち制御部500は、温度センサ301の検出温度が目標温度以下であるエリアについてのみ、サブヒータ302を駆動する。記録素子基板10の目標温度をある程度高い温度に設定しておくことにより、インクの粘度を下げ、吐出動作や循環を好適に行うことが可能となる。また、このような温度制御を行って、複数の記録素子基板10の温度ばらつきを所定の範囲に抑えることにより、記録素子基板10間の温度ばらつきに起因する吐出量のばらつきを低減し、記録された画像において濃度ムラを抑えることができる。
【0068】
記録素子基板10の目標温度は、全ての記録素子15を想定される最高の駆動周波数で駆動した場合における、記録素子基板10の平衡温度と同等あるいはそれ以上の温度に設定されることが好ましい。温度センサ301としては、ダイオードセンサが適用可能である。
【0069】
なお、記録素子基板10の加熱手段としては、発熱素子である記録素子15を利用することもできる。具体的には、記録素子15に対し発泡に至らない程度の電圧を印加することによって記録素子基板10を加熱すればよい。本実施形態においては、加熱手段としてサブヒータ302の代わりに記録素子15を採用してもよいし、サブヒータ302と記録素子15を併用してもよい。
【0070】
<記録ヘッドの別例>
図13(a)及び(b)は、本実施形態で使用可能な記録ヘッド3の別例を説明するための図である。
図13(a)は、記録ヘッド3の外観斜視図であり、
図13(b)は分解図である。以下、
図4及び
図5で説明した記録ヘッド3と異なる点について説明する。
【0071】
本例の記録ヘッド3において、吐出モジュール200はY方向に36個配列され、B2サイズの記録媒体まで対応可能である。即ち、本例の記録ヘッド3は、
図4及び
図5で説明した記録ヘッド3よりも更に長尺である。以下、
図4及び
図5で説明した記録ヘッド3と異なる点について説明する。
【0072】
本例の記録ヘッド3において、±X方向の中央には、Y方向に延在する電気配線基板支持部82が配されている。そして、電気配線基板支持部82の±X方向の両側に、4枚ずつの電気配線基板90がY方向に連続するように配置され、電気配線基板支持部82によって支持されている。電気配線基板90のそれぞれには、信号入力端子91と電力供給端子92が設けられている。電気配線基板90の±X方向の外側にはシールド板132が設けられ、電気配線基板90の配線回路、フレキシブル配線基板40、及びこれらの接続箇所を保護している。なお、
図13(b)の分解図では、シールド板132は省略して示している。
【0073】
本例の記録ヘッド3において、第1負圧制御ユニット230と第2負圧制御ユニット231は、液体供給ユニット220の下方側(-Z方向側)に設けられており、記録ヘッド支持部80のそれぞれに対し、上位に突出してはいない。
【0074】
図14(a)~(c)は、本例の記録ヘッド3の流路構造を詳しく示す図である。
図14(a)は記録ヘッド3の側断面図である。
図4で説明した構成に比べ、第1負圧制御ユニット230及び第2負圧制御ユニット231と、記録素子基板10との重力方向(Z方向)の距離が小さい。このため、
図4で説明した構成よりも、流路接続部の数が減り、部品点数や組み立て工程数を低減させ、インクの漏洩を抑制することができる。
【0075】
また、第1負圧制御ユニット230及び第2負圧制御ユニット231と吐出モジュール200との水頭差が
図4で説明した構成よりも小さくなる。よって、記録装置1000が、
図1(b)に示すような形態、即ち複数の記録ヘッドが異なる傾きで配置される形態において、特に好適に採用できる。また、上記水頭差が小さくなることで、循環流路における流抵抗が減り、流量変化に伴う圧力損失の差が小さくなり、安定な負圧制御を行うことが可能となる。
【0076】
図14(b)は、本例の記録ヘッド3におけるインク循環の様子を示す模式図である。本例のインク循環は、
図3(b)で説明した循環と基本的に同等である。即ち、吐出ユニット300に流れるインクの圧力は、これよりも下流に配されている背圧レギュレーターとして機能する第1負圧制御ユニット230及び第2負圧制御ユニット231によって制御される。
【0077】
図14(c)は、
図14(a)のXIVc-XIVc断面図である。本例の吐出ユニット300も、
図8(b)で説明した吐出ユニット300と同様、第2流路部材60と、第1流路部材50と、吐出モジュール200がこの順に積層される。但し、
図8(b)の吐出ユニット300では、第1流路部材50と記録素子基板10との間に支持部材30を介在させたが、本例の吐出ユニット300では、記録素子基板10のカバープレート20(
図11参照)が第1流路部材50の面上に直接搭載されている。
【0078】
第1流路部材50を構成する複数の個別部材52のそれぞれに形成された個別供給流路213a及び個別回収流路213bは、記録素子基板10の裏面に配されたカバープレート20の開口21(
図10(c)参照)と連通している。本例の吐出ユニット300において、第1流路部材50の個別連通口53は、第2流路部材60の連通口61に対して十分大きな開口となっている。このため、第2流路部材60に第1流路部材50をマウントする際の位置合わせが、
図4(a)~
図8(b)で説明した構成よりも容易になり、結果的に記録ヘッド製造時の歩留まりを向上させることができる。
【0079】
本実施形態の記録装置1000においては、
図4~
図8を用いて説明した記録ヘッド及び、
図13~
図14を用いて説明した記録ヘッド3の、どちらも好適に用いることができる。
【0080】
<記録ヘッドの熱変形に伴う記録位置ずれ>
図15(a)及び(b)は、記録ヘッドの熱変形を説明するための図である。既に説明したように、本実施形態の記録ヘッド3の各記録素子基板10には、複数の温度センサ301とサブヒータ302が配されており、記録動作時、記録素子基板10は適切な温度に調整される。以下、このように、記録動作に先立って記録ヘッド3の温度を調整する処理を温調処理と称する。
【0081】
温調処理を行った際、共通供給流路211には記録素子基板10で加熱される前のインクが流れ、共通回収流路212には記録素子基板で加熱された後のインクが流れる。このため、第2流路部材60の共通回収流路212の側は共通供給流路211の側よりも高温になり熱膨張が大きく、共通回収流路212の側がX方向にせり出すように撓み、
図15(b)に示すような熱変形が生じる。そして、このような熱変形は、サブヒータ302による加熱温度が高い程、また記録素子基板10を通過するインクの循環量が多い程大きくなる。
【0082】
一方、温度センサ301及びサブヒータ302にはどうしてもある程度のばらつきが含まれる。また、記録素子基板10を通過するインクの循環量は、第1、第2負圧制御ユニット230、231が作る圧力差と、記録素子基板10の流抵抗と、インクの粘度などに依存するが、これらの公差やばらつきもゼロにすることは難しい。このため、記録装置1000に搭載された複数の記録ヘッド3においては、温調処理時及び記録動作時において、熱変形にどうしてもある程度のばらつきが発生する。
【0083】
図16(a)及び(b)は、記録ヘッド3の熱変形に伴う記録位置ずれを説明するための図である。
図16(a)は、記録ヘッドの両端部を記録装置に固定した場合の記録位置ずれ、
図16(b)は、記録ヘッドの中央部を記録装置に固定した場合の記録位置ずれを示している。両図において、左側は相対的に熱変形が大きいヘッドAが記録媒体に記録した罫線、右側は相対的に熱変形が小さいヘッドBが記録媒体に記録した罫線を示している。ヘッドAは、温度センサ301の検出温度が実際よりも低く検出され、サブヒータ302が強めに駆動される記録ヘッドである。或いは、2つの負圧制御ユニット230及び231が作る圧力差が大きかったり他よりもインク粘度が低かったりして、記録素子基板10のインク循環量が相対的に多い記録ヘッドである。
【0084】
また、ヘッドBは、温度センサ301の検出温度が実際よりも高く検出され、サブヒータ302が弱めに駆動される記録ヘッドである。或いは、2つの負圧制御ユニット230及び231が作る圧力差が小さかったり他よりもインク粘度が高かったりして、記録素子基板10のインク循環量が相対的に少ない記録ヘッドである。
【0085】
このように、個々の記録ヘッド3においては、熱変形に応じてX方向の記録位置ずれが発生し、直線の罫線を記録しようとしても、撓んだ罫線が記録されてしまう。また、これら記録ヘッドが、記録媒体の同じ領域に画像を記録すると、撓み量の違いがX方向における記録位置ずれとなって現れる。記録ヘッドの両端部が固定された
図16(a)の場合、記録ヘッド3の中央部でX方向の記録位置ずれが最も大きくなる。記録ヘッドの中央部が固定された
図16(b)の場合、記録ヘッド3の両端部でX方向の記録位置ずれが最も大きくなる。このような記録位置ずれは、数百μmオーダーとなることもあり、画像品位の低下が懸念される。
【0086】
(第1の実施形態)
図17は、本実施形態における記録位置ずれの補正処理を説明するためのフローチャートである。本処理は、制御部500がROM(
図2参照)に格納されたプログラムに従って実行するものである。また、本処理は、記録装置1000の出荷時のほか、記録ヘッド3の交換時や記録位置ずれが目立つようになった場合などに適宜実行される。
【0087】
本処理が開始されると、制御部500は、まずステップS1において、全記録ヘッド3に対し通常の記録動作時と同じ条件で温調制御を行う。そして、熱膨張が定常状態に至るまで待機する。
【0088】
ステップS2において、制御部500は所定のテストパターンを記録媒体に記録する。テストパターンについては特に限定されるものではなく、各記録素子基板10のX方向の相対的なずれ量が確認できるものであればよい。
【0089】
ステップS3において、制御部500は、各記録素子基板10のX方向の記録位置ずれ量を取得する。記録位置ずれ量は、制御部500が、装置に設けられた不図示の読み取りセンサを用いてテストパターンを読み取り、基準位置とのX方向における差分を算出することによって取得することができる。また、ユーザやサービスマンが、ステップS2で出力されたテストパターンと基準パターンとの差分を目視判定し、判定結果を装置に入力する形態としてもよい。
【0090】
ステップS4おいて、制御部500は、各記録素子基板10の補正値を設定する。この補正値は、記録素子15に対しパルス電圧を印加するタイミングの、標準値からのシフト量に相当する。即ち、補正値が+Δtの場合、その記録素子基板10の補正後の駆動タイミングは、標準よりもΔtだけ遅れたタイミングとなる。また、補正値が-Δtの場合、その記録素子基板10の補正後の駆動タイミングは、標準よりもΔtだけ早まったタイミングとなる。このような補正値は、ステップS3で取得した記録位置ずれ量、記録媒体の搬送速度、インクの吐出速度及び記録媒体と吐出口面の距離に基づいて算出することができる。
【0091】
ステップS5において、制御部500は、ステップS4で設定された各記録素子基板10の補正値をメモリに保存する。メモリは、ROM501であってもよいし、ROM501とは別に設けられた記憶手段であってもよい。以上で本処理を終了する。
【0092】
以上ステップS1~S5の工程は、記録装置1000に搭載された複数の記録ヘッド3のそれぞれについて実行する。この場合、ステップS1~S4の工程は、複数の記録ヘッド3について順番に行ってもよいが、同時に平行して行ってもよい。
【0093】
以後、記録装置1000に記録コマンドが入力されたとき、制御部500は、上記メモリに保存されている各記録素子基板10の補正値を読み出す。そして、当該補正値に従って駆動タイミングを制御しながら、画像データに従って記録媒体に画像を記録する。これにより、記録媒体Sには、記録位置ずれが低減された画像を記録することができる。
【0094】
図18(a)及び(b)は、本実施形態における記録位置ずれの補正効果を説明するための図である。
図18(a)は、補正処理を行う前の記録状態を示し、
図18(b)は補正処理を行った後の記録状態を示す。
図18(a)は、
図16(a)と同じ図であり、記録ヘッドの両端部を固定した状態における罫線の記録状態を示している。
【0095】
ヘッドAの場合、
図18(a)に示すように、中央部の記録位置が端部の記録位置に対し+X方向にずれている。このため、補正処理においては、中央に位置する記録素子基板10の駆動タイミングが、端部に位置する記録素子基板10の駆動タイミングに対して遅れるように補正される。この際、補正量は、中央ほど大きく端部に近づくほど小さいものとなる。このような補正処理を行うことにより、ヘッドAに配列された記録素子基板10の全体でX方向における記録位置が揃い、
図18(b)に示すようにY方向に延びる理想的な罫線が得られる。
【0096】
ヘッドBについても同様である、但しヘッドBの補正量はヘッドAに比べて全体的に小さいものとなる。ヘッドAとヘッドBのそれぞれで理想的な直線が理想的な位置に記録可能となるため、ヘッドAとヘッドBの間の記録位置ずれも低減される。
【0097】
以上説明したように本実施形態の補正処理によれば、各記録ヘッド3内での記録位置ずれと記録ヘッド間の記録位置ずれを抑え、色ずれの無い高画質な画像を記録することができる。
【0098】
(第2の実施形態)
本実施形態においても、第1の実施形態と同様、
図1~
図14で説明した記録装置1000及び記録ヘッド3を使用する。但し、本実施形態では、吐出頻度の違いに伴う変形差も考慮に入れた上で、記録ヘッドの補正値を設定する。
【0099】
<吐出頻度の違いに伴う膨張差>
図19は、吐出頻度の違いに伴う記録ヘッドの変形差を説明するための図である。ここでは、ヘッドAとヘッドBのそれぞれについて、最大駆動状態で記録した場合の罫線と最小駆動状態で記録した場合の罫線とを比較して示している。以下、説明の便宜上、記録に使用する全ての記録素子15を最大の駆動周波数で駆動して多くのインクを吐出させる状態を最大駆動状態と呼ぶ。また、記録媒体における記録位置が確認可能な最低限の吐出動作を行う状態を、最小駆動状態と呼ぶ。
【0100】
同じ記録ヘッドにおいても、記録位置ずれのずれ量は吐出頻度に応じて変化する。吐出頻度が多いほど、加熱されたインクが外部に排出されてインクの循環量が減るため、熱変形も抑えられX方向へのずれ量は小さくなる。ここでは、ヘッドAの中央部において、最小駆動状態におけるX方向へのずれ量をXa1、最大駆動状態におけるX方向へのずれ量をXb2として示している。また、ヘッドBの中央部において、最小駆動状態におけるX方向へのずれ量をXb1、最大駆動状態におけるX方向へのずれ量をXb2として示している。即ち、補正処理を行わない場合、記録動作中のヘッドAの中央部はXa1とXa2の間で変位し、ヘッドBの中央部はXb1とXb2の間で変位する。この場合、熱変形が大きいヘッドAと熱変形が小さいヘッドBとでは、最大でΔDmax=|Xa1-Xb2|の色ずれが発生する。ΔDmaxは、一つの駆動状態で比較した
図16の最大記録位置ずれ量よりも更に大きいずれ量となる。
【0101】
本実施形態では、以上説明した吐出頻度の違いに伴う膨張差も考慮に入れた上で、各記録ヘッドの記録位置ずれを低減する。
【0102】
図20は、本実施形態における記録位置ずれの補正処理を説明するためのフローチャートである。本処理は、制御部500がROM(
図2参照)に格納されたプログラムに従って実行するものである。また、本処理は、記録装置1000の出荷時のほか、記録ヘッド3の交換時や記録位置ずれが目立つようになった場合などに適宜実行される。
【0103】
本処理が開始されると、制御部500は、まずステップS11において、最大駆動状態の下での温調処理を行う。具体的には、記録ヘッド3の各記録素子基板10を通常の記録動作の温調温度に加熱した上で、所定の循環制御を行いながら、全記録素子を最大の駆動周波数で駆動させる。
【0104】
熱膨張が定常状態に至った後、ステップS12に進み、制御部500は、ROM501から読み出したテストパターンを記録媒体に記録する。
【0105】
ステップS13において、制御部500は、最大駆動状態における各記録素子基板10のX方向の記録位置ずれ量を取得する。記録位置ずれ量の取得方法は、第1の実施形態と同様である。即ち、装置に設けられた不図示の読み取りセンサを用いて取得してもよいし、ユーザやサービスマンが判定結果を装置に入力することによって取得してもよい。
【0106】
ステップS14~S16において、制御部500は、最小駆動状態における各記録素子基板10の補正値を設定する。すなわち、まずステップS14において、記録ヘッド3の各記録素子基板10を通常の記録動作の温調温度に加熱した上で、記録素子の駆動を伴うことなく、或いは記録録媒体において記録位置が確認可能な最低限の駆動周波数で、所定の循環制御を行う。そして、定常状態に至ると、制御部500は、ステップS15においてテストパターンを記録媒体に記録し、更にステップS16において最小駆動状態における各記録素子基板10のX方向の記録位置ずれ量を取得する。
【0107】
ステップS17において、制御部500は、ステップS13で取得した最大駆動状態での記録位置ずれ量と、ステップS16で取得した最小駆動状態での記録位置ずれ量とに基づいて、各記録素子基板10の補正値を設定する。
【0108】
図21(a)及び(b)は、本実施形態のステップS17において、制御部500が行う補正値の設定方法と補正の効果を説明するための図である。本実施形態では、
図21(a)に示すように、各記録素子基板10について、最大駆動状態での記録位置ずれと最小駆動状態での記録位置ずれの平均値を求める。そして、その平均ずれ量を0にするための補正値をその記録素子基板の補正値として設定する。例えば、ヘッドAの中央においては、平均ずれ量は(Xa1+Xa2)/2となる。よって、このずれを0にするための補正値が設定される。ヘッドBの中央においては、平均ずれ量は(Xb1+Xb2)/2となる。よって、このずれを0にするための補正値が設定される。
【0109】
図20のフローチャートの説明に戻る。ステップS18において、制御部500は、ステップS17で設定された各記録素子基板10の補正値をメモリに保存する。メモリは、ROM501であってもよいし、ROM501とは別に設けられた記憶手段であってもよい。以上で本処理を終了する。
【0110】
なお、
図21のフローチャートで説明した補正処理の各工程は、記録装置に搭載された複数の記録ヘッド3のそれぞれについて実行する。この場合、各工程は、複数の記録ヘッド3について順番に行ってもよいが、同時に平行して行ってもよい。
【0111】
以後、記録装置1000に記録コマンドが入力されたとき、制御部500は、上記メモリに保存されている各記録素子基板10の補正値を読み出す。そして、当該補正値に従って駆動タイミングを制御しながら、画像データに従って記録媒体に画像を記録する。
【0112】
図21(b)は、設定された補正値に従って罫線を記録した状態を示す。各記録素子基板10に対して行われる補正は、最小駆動状態のずれ量と最大駆動状態の平均ずれ量を0にするための補正である。よって、最小駆動状態において補正は不足気味となり、若干+X側に撓んだ罫線が記録される。最大駆動状態において補正は過剰気味となり、若干-X側に撓んだ罫線が記録される。また、最大駆動状態と最小駆動状態の中間の駆動状態においては、ほぼ直線の罫線が記録される。
【0113】
より詳しく説明すると、本実施形態の補正処理によれば、理想位置に対する記録位置ずれは、ヘッドAでは±|Xa1-Xa2|/2の範囲に収まり、ヘッドBでは±|Xb1-Xb2|/2の範囲に収まるようになる。これは、吐出頻度のばらつきを考慮していない第1の実施形態に比べ、理想の記録位置からの最大のずれ幅を半減させたことになる。また、ヘッドAとヘッドBの間の記録位置ずれの最大値ΔDmax´もΔDmaxに比べて削減することができる。
【0114】
このように、本実施形態の補正処理によれば、各記録ヘッドの吐出頻度に関わらず、各記録ヘッド内での記録位置ずれと記録ヘッド間の記録位置ずれを抑え、色ずれの無い高画質な画像を記録することができる。
【0115】
以上では、最大駆動状態での記録位置ずれと最小駆動状態での記録位置ずれの平均値を補正の対象とするずれ量(以下、補正対象ずれ量)としたが、補正対象ずれ量は平均値でなくてもよい。補正対象ずれ量は、最大駆動状態での記録位置ずれと最小駆動状態での記録位置ずれのそれぞれに任意の重み係数を掛けて求めてもよい。例えば、イエローのように最小駆動状態でのドットが目立たないインク色については、最大駆動状態での記録位置ずれの重み係数を最小駆動状態の重み係数よりも大きくして補正対象ずれ量を求めてもよい。また、画像処理後の吐出データにおいて、最大駆動状態となる機会が殆ど発生しないようなインクについては、最小駆動状態での記録位置ずれの重み係数を最大駆動状態の重み係数よりも大きくして補正対象ずれ量を求めてもよい。
【0116】
更に、以上では、最大駆動状態と最小駆動状態の2点の記録位置ずれに基づいて補正対象ずれ量を求めたが、補正対象ずれ量は、別の駆動状態から求めてもよい。即ち、相対的に高い任意の駆動周波数で得られる記録位置ずれと、相対的に低い任意の駆動周波数で得られる記録位置ずれから、重み付き平均によって補正対象ずれ量を求めてもよい。補正対象ずれ量は、記録位置ずれの目立ち易さや使用頻度が高い駆動周波数などに基づいて、各記録ヘッドの記録位置ずれと記録ヘッド間の色ずれが目立たないように、適宜調整されればよい。
【0117】
(第3の実施形態)
第2の実施形態では、各記録ヘッド3について最大駆動状態と最小駆動状態のそれぞれで記録位置ずれを測定した。しかしながら、このような測定は、各記録ヘッドについて熱変形が安定するまで温調処理と吐出動作を持続して行う必要があり、多大な時間とインクを消耗してしまう。
【0118】
よって、本実施形態では、各記録ヘッドについて、最大駆動状態と最小駆動状態の中間の熱変形即ち中間の記録位置ずれが得られる定常状態で記録位置ずれを実測し、その記録位置ずれに基づいて各ヘッドの補正値を設定する。具体的には、記録ヘッド3において、記録素子15の駆動は伴わず、記録素子基板10を通常の記録動作における設定温度(65℃)よりも低い温度に調整することにより中間の熱膨張を再現する。以下、最大駆動状態と最小駆動状態の中間の熱変形が得られる状態を中間状態と呼ぶ。
【0119】
<中間状態の再現方法>
図22は、中間状態を再現するための循環量Vsと温調温度Tsの関係を示す図である。横軸は循環量Vsを示し縦軸は記録素子基板10の温調温度Tsを示す。以下の説明では、記録ヘッド3において、Y方向に配列する複数の記録素子基板10に流れる単位時間当たりのインクの総量を、循環量Vsと呼ぶ。また、Y方向に配列する複数の記録素子基板10に共通に設定され、温度センサ301とサブヒータ302と(
図2参照)によって調整される目標温度を、温調温度Tsと呼ぶ。一般の記録動作において温調温度は65℃に設定されている。
【0120】
図22では、熱流体構造連成シミュレーションによって求めた中間状態を再現可能な循環量Vsと温調温度Tsの関係をプロットしている。このような循環量Vsと温調温度Tsの関係は極小値αと極大値βを有する3次関数で近似することができ、
図22では近似式として得られた3次関数も共に示している。本実施形態において、記録装置1000を流れるインク温度Tiは熱交換器によって28℃~32℃の間に制御され、図ではインク温度Tが28℃である場合と32℃である場合を凡例として示している。
【0121】
ここで、温調温度Tsの3次関数Ts(Vs)は、係数a、b、c及びdを用い、下記一般式で表すことができる。
【0122】
【0123】
しかしながら、(式1)の場合、インク温度Tiに応じて係数a、b、c、dも変化することになるが、任意のインク温度Tiに対応する係数a、b、c、dの値は、インク温度Tiが28℃である場合と32℃である場合とから線形的に求めることはできない。よって、本実施形態では温調温度Tsの3次関数Ts(Vs)として、極小値αと極大値βを用いた以下の(式2)を用いる。
【0124】
【0125】
(式2)を用いれば、任意のインク温度Tiに対応する係数a、α、βの値を、インク温度Tが28℃である場合と32℃である場合とから、線形的に求めることができる。なお、インク温度Tが28℃である場合と32℃である場合の係数a、α、βは、シミュレーションによって予め求めておく。
【0126】
本実施形態では、28℃~32℃の間の任意のインク温度Tiについて、係数a、α、βは、下記(式3)を用いて算出できるものとする。
【0127】
【0128】
即ち、本実施形態において、任意の記録ヘッド3の上記3次関数は、その記録ヘッド3を介して記録装置1000を循環するインク温度Tiを測定することによって、導出することができる。そして、導出された3次関数を用いることにより、その記録ヘッド3において中間の熱変形を再現するための温調温度Tsを、記録素子基板10の循環量Vsに基づいて求めることができる。
【0129】
次に、循環量Vsの計測方法について説明する。
【0130】
図23(a)~(c)は、循環量Vsと吐出ユニット300におけるインクの流量の関係を説明するための図である。
【0131】
図23(a)は、インクの循環を模式的に示す図である。共通供給流路211には相対的に高い圧力を生成する第1負圧制御ユニット230が接続され、共通回収流路212には相対的に低い圧力を生成する第2負圧制御ユニット231が接続されている。このため、記録素子基板10には、共通供給流路211から共通回収流路212に向かう流れが発生し、複数の記録素子基板10を通過した総流量が循環量Vsとなる。循環量Vsは、第1、第2負圧制御ユニット230、231が作る差圧、液体粘度、流路抵抗などの公差に基づいて制御され、本実施形態では25~255ml/minに調整されている。
【0132】
本実施形態において、各記録素子基板10で吐出動作が行われた場合、記録素子基板10には共通供給流路211と共通回収流路212から約6:4の割合でインクが供給されるものとする。また、吐出動作に伴うインクの消費量は、0~308ml/minとする。なお、この最大値308ml/minは、最高の駆動周波数で駆動したときの瞬間的な実質消費量375ml/minと、ページ切り替え時の非吐出期間を考慮して平均化した値である。但し、これら数値は、流路形状等に応じて適宜変更可能である。
【0133】
図23(b)及び(c)は、循環量Vsと共通供給流路211の上流流量Q1の関係及び循環量Vsと共通回収流路212の上流流量Q2の関係をそれぞれ示す。
【0134】
このような上流流量Q1、Q2と循環量Vsの関係は、共通供給流路211と共通回収流路212の上流及び下流の計4か所に流量計を設置することにより、実測することができる。具体的には、共通供給流路211の上流と下流に設けた2つの流量計の測定値の差即ち上流流量と下流流量との差分を循環量Vsとする。同様に、共通回収流路212の上流と下流に設けた2つの流量計の測定値の差を循環量Vsとすることもできる。又、これら2種類の差の平均値を循環量Vsとしてもよい。
【0135】
図23(b)及び(c)では、記録素子基板10で消費される可能性があるインク量によって決まる最低必要流量と、負圧制御ユニットを正常に動作させるための条件で決まる最大許容流量と、本実施形態の設定流量とを、凡例として示している。いずれも、循環量Vsに対し線形関係を有している。即ち、本実施形態の記録ヘッド3においては、上記流量計の計測値を確認しながら、
図3で説明した第1~第3循環ポンプP1~P3を制御することにより、記録素子基板10の循環量Vsを調整することができる。また、対象となる記録ヘッド3の共通供給流路211の上流流量Q1や共通回収流路212の上流流量Q2の実測値から、
図23(b)及び(c)のグラフに基づいて、その記録ヘッド3の循環量Vsを求めることができる。
【0136】
即ち、本実施形態において、任意の記録ヘッド3の中間状態は、以下の手順で再現することができる。まず、対象とする記録ヘッド3のインク温度Tiと循環量Vsを測定する。この際、循環量Vsについては、共通供給流路211の上流流量Q1や共通回収流路212の上流流量Q2を実測し、
図23(b)(c)のグラフに基づいて取得する。次に、測定したインク温度Tiを用い、(式2)及び(式3)に従って対象とする記録ヘッド3の3次関数を導出する。そして、導出した3次関数に従って、循環量Vsに対応する温調温度Tsを求める(
図22参照)。最後に、対象となる記録ヘッド3の各記録素子基板10の温度を上記温調温度Tsに調整し定常状態となるのを待つ。これにより、対象となる記録ヘッド3において、最大駆動状態と最小駆動状態の中間の熱膨張となる中間状態を再現することができる。
【0137】
<補正値の設定方法>
次に、上記中間状態の下で得られる記録位置ずれに基づいて、各記録素子基板10に対する補正値を設定する方法について説明する。
【0138】
図24は、本実施形態における記録位置ずれの補正処理を説明するためのフローチャートである。第1の実施形態で説明した
図17のフローチャートと異なる点は、ステップS21の温調処理のみである。
【0139】
ステップS21において、制御部500は中間状態の下での温調処理を行う。具体的には、記録ヘッド3の各記録素子基板10を上述した方法で求めた温調温度Tsに加熱した上で、記録素子15の駆動を伴うことなく所定の循環制御を行う。
【0140】
以下のステップS22~S25については
図17のステップS2~S5と同様であるため、説明を割愛する。
【0141】
本実施形態において、ステップS24では、中間状態での記録位置ずれを補正するための補正値が設定される。このため、補正処理後においては、第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。即ち、本実施形態によれば、第2の実施形態と同様の効果を得ながら、第2の実施形態よりも短時間に補正処理を完了させることができる。
【0142】
また、第2実施形態の場合、もともと熱変形の少ない記録ヘッドでは、最大駆動状態と最小駆動状態の記録位置ずれの差が測定誤差に埋もれてしまい、適切な補正対象ずれ量が設定できないことがある。本実施形態にように、単一の駆動状態で記録位置ずれを測定する形態であれば、補正対象ずれ量を、より精度の高い状態で取得することが可能となる。
【0143】
以上説明したように、本実施形態によれば、中間状態の記録位置ずれのみを実測することにより、各記録ヘッドの吐出頻度に関わらず、各記録ヘッド3内での記録位置ずれと記録ヘッド間の記録位置ずれを抑え、高画質な画像を記録することができる。
【0144】
なお、以上では、
図22を用い、温調温度Tsが循環量Vsの3次関数で近似される場合について説明した。しかしながら、このような関数は、前提となる循環制御によっては、3次関数とは異なる関数で近似する方が好ましいこともある。いずれにしても、シミュレーションや実測によって得られる関係に基づいて、温調温度Tsが循環量Vsに対して定まるような近似関数が得られれば、どのような関数を適用してもよい。
【0145】
また、
図23(b)及び(c)では、共通供給流路211の上流流量Q1及び共通回収流路212の上流流量Q2が、それぞれ循環量Vsに対し連続的に変化する場合について説明した。しかしながら本実施形態において、このような連続性は必須の要件ではない。共通供給流路211の上流流量Q1や共通回収流路212の上流流量Q2が、循環量Vsに対し不連続に変化する場合には、互いに連続しない複数の関数で表現されればよい。いずれにしても、実測されたQ1やQ2に対し循環量Vsが一義的に決まればよい。
【0146】
また、以上では、
図22のような温調温度Tsと循環量Vsの関数を、インク温度Tiに対応付けて(式3)に従って導出した後に、当該関数を用いて循環量Vsから温調温度Tsを取得した。しかし、これらの手順は逆にすることもできる。即ち、温調温度Tsとインク温度Tiの関数を、循環量Vsに対応付けて導出し、当該関数を用いてインク温度Tiから温調温度Tsを取得してもよい。
【0147】
更に、以上では、(式2)、(式3)のような関数式を用いてインク温度Tiと循環量Vsに対応する温調温度Tsを算出したが、温調温度Tsはルックアップテーブルを参照することによって取得してもよい。この場合、インク温度Tiと循環量Vsと温調温度Tsが互いに対応付けられた3次元のルックアップテーブルを予め用意しておけばよい。このようなルックアップテーブルは、温調温度Tsと記録ヘッド3の熱変形との関係を、実際に測定したり熱流体構造連成シミュレーションを行ったりすることで作成することができる。
【0148】
また、以上では温調温度Tsを調整することによって中間の熱変形が得られる中間状態を再現したが、このような中間状態は、例えば駆動周波数を最大駆動状態の略半分にする等、駆動条件を調整することによって再現することもできる。いずれにしても、中間の熱膨張が得られる中間状態を再現した上で、記録位置ずれを実測することができれば、各記録ヘッド3について適切な補正値を設定することが可能となり、本実施形態の効果を得ることができる。
【0149】
更に、本実施形態においても、第2実施形態と同様、補正対象ずれ量は、記録位置ずれの目立ち易さや頻度の高い駆動周波数などに基づいて、記録ヘッドごとに適宜調整されればよい。補正の対象とするずれ量が得られる駆動条件の下で、ステップS21の温調処理が行われれば、本実施形態の効果を得ることができる。
【0150】
(その他の実施形態)
以上の実施形態では、記録素子基板ごとに補正値を設定する形態で説明したが、補正の単位は適宜変更可能である。隣接する複数の記録素子基板を一つの単位として補正値を設定してもよいし、記録素子基板を複数のエリアに分割し、このエリアの単位で補正値を設定してもよい。
【0151】
以上では、記録装置1000を流れるインク温度Tiを熱交換器によって28℃~32℃に保った上で、通常の記録動作における記録素子基板10の温調温度Tsを65℃とする場合を例に説明したが、このような温度については変更可能である。但し、インク温度Tiと温調温度Tsの差があまり小さすぎると、温調処理及び循環制御に起因する記録ヘッド間の熱変形の差が然程顕著に現れないこともある。上記実施形態の効果を十分に発揮するために、記録動作における温調温度Tsはインク温度Tiよりも10℃以上高温であることが好ましい。
【0152】
以上の実施委形態では、
図15を用い、共通供給流路211と共通回収流路212に流れるインクの温度差に伴って発生するX方向への記録位置ずれを補正するための方法として説明した。しかしながら、記録装置1との間で記録素子基板を加熱しながらインクを循環させる長尺な記録ヘッド3においては、上記以外の熱的要因でX方向への記録位置ずれが発生する場合もある。いずれにしても、記録ヘッド3の熱膨張が定常状態に至った後に補正処理を行うという上記実施形態を採用すれば、動的に変化する記録位置ずれを低減するという効果を得ることができる。
【0153】
また、以上では、異なる色のインクを吐出する4つの記録ヘッド3を搭載したフルライン型のインクジェット記録装置を例に説明してきたが、上述した記録位置の補正方法は、別の形態の記録装置で採用することもできる。例えば、記録装置は、5色以上のインクを吐出する5つ以上の記録ヘッドを備える形態であってもよいし、1色のインクを吐出する1つの記録ヘッドを備える形態であってもよい。
【0154】
また、以上では、
図4及び
図5を用い、A3サイズ及びB2サイズに対応可能な記録ヘッドを例に挙げたが、記録ヘッドの長さは特に限定されない。加えて、記録ヘッドは、必ずしもフルライン型の記録装置に搭載されるライン型の記録ヘッドでなくてもよい。記録ヘッドの記録走査と、記録走査とは交差する方向に記録媒体を搬送する搬送動作とを交互に繰り返すシリアル型の記録装置であっても、搭載される記録ヘッドが長尺なものであれば、熱変形に伴う記録位置ずれが生じることも想定される。そしてこのような場合にも、上述した実施形態に従って各記録ヘッドの補正値を設定することにより、記録位置ずれを抑える効果を得ることはできる。但し、熱変形に伴う記録位置ずれの補正効果を得るためには、記録ヘッドはA3サイズ以上の記録幅を持つことが好ましい。
【0155】
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0156】
3 記録ヘッド
13 記録素子
10 記録素子基板
1000 記録装置