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  • 特開-位相差フィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024177584
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】位相差フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024178743
(22)【出願日】2024-10-11
(62)【分割の表示】P 2021554223の分割
【原出願日】2020-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2019196114
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大里 和弘
(57)【要約】
【課題】表示面の正面方向及び傾斜方向の両方において外光の反射による色付きを抑制可能な円偏光板を得ることができる位相差フィルムを、簡単に製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】特定の光学特性を有する位相差フィルムの製造方法であって;当該製造方法が、正の固有複屈折値を有する熱可塑性樹脂Aで形成された樹脂層(A)及び負の固有複屈折値を有する熱可塑性樹脂Bで形成された樹脂層(B)を備える複層フィルムを用意する第一工程と、複層フィルムを異なる延伸温度で2回以上延伸して位相差フィルムを得る第二工程と、を含み;位相差フィルムの樹脂層(A)のNZ係数NZ及び樹脂層(B)のNZ係数NZの和が、特定の範囲であり;熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度TgAと熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度TgBとの差の絶対値|TgA-TgB|が5℃以上である、位相差フィルムの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)、下記式(2)及び下記式(3)を満たす位相差フィルムの製造方法であって、
前記製造方法が、
正の固有複屈折値を有する熱可塑性樹脂Aで形成された樹脂層(A)及び負の固有複屈折値を有する熱可塑性樹脂Bで形成された樹脂層(B)を備える複層フィルムを用意する第一工程と、
前記複層フィルムを2回以上延伸して、遅相軸を有する前記樹脂層(A)及び前記樹脂層(A)の遅相軸に対して略垂直な遅相軸を有する前記樹脂層(B)を備える前記位相差フィルムを得る第二工程と、を含み、
前記遅相軸を有する前記樹脂層(A)のNZ係数をNZとし、前記遅相軸を有する前記樹脂層(B)のNZ係数をNZとしたとき、前記NZ及び前記NZの和「NZ+NZ」が、0.15以上0.8以下であり、
前記第二工程が、
前記複層フィルムを、延伸温度Ts1で延伸する第一延伸工程と、
前記複層フィルムを、前記延伸温度Ts1とは異なる延伸温度Ts2で延伸する第二延伸工程と、を含み、
前記熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度TgAと、前記熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度TgBと、の差の絶対値|TgA-TgB|が、5℃以上である、位相差フィルムの製造方法。
100nm≦Re(550)≦180nm (1)
Re(450)<Re(550)<Re(650) (2)
0.0<NZ<1.0 (3)
(ただし、
Re(450)は、波長450nmにおける位相差フィルムの面内位相差を表し、
Re(550)は、波長550nmにおける位相差フィルムの面内位相差を表し、
Re(650)は、波長650nmにおける位相差フィルムの面内位相差を表し、
NZは、位相差フィルムのNZ係数を表す。)
【請求項2】
前記延伸温度Ts1と前記延伸温度Ts2との差の絶対値|Ts1-Ts2|が、5℃以上である、請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第一延伸工程における延伸方向と、前記第二延伸工程における延伸方向とが、略垂直である、請求項1又は2に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記位相差フィルムが、下記式(4)を満たす、請求項1~3のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法。
{Re(450)/Re(550)}-{Re(450)/Re(550)}>0.08 (4)
(ただし、
Re(450)は、波長450nmにおける高位相差層の面内位相差を表し、
Re(550)は、波長550nmにおける前記高位相差層の面内位相差を表し、
Re(450)は、波長450nmにおける低位相差層の面内位相差を表し、
Re(550)は、波長550nmにおける前記低位相差層の面内位相差を表し、
前記高位相差層は、前記位相差フィルムが備える前記樹脂層(A)及び前記樹脂層(B)のうち、波長550nmにおける面内位相差が大きい方の層を表し、
前記低位相差層は、前記位相差フィルムが備える前記樹脂層(A)及び前記樹脂層(B)のうち、波長550nmにおける面内位相差が小さい方の層を表す。)
【請求項5】
波長550nmにおいて、前記位相差フィルムが備える前記樹脂層(A)が、前記位相差フィルムが備える前記樹脂層(B)よりも大きい面内位相差を有し、
前記熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度TgAが、前記熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度TgBよりも低い、請求項1~4のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
波長550nmにおいて、前記位相差フィルムが備える前記樹脂層(B)が、前記位相差フィルムが備える前記樹脂層(A)よりも大きい面内位相差を有し、
前記熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度TgBが、前記熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度TgAよりも低い、請求項1~4のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記NZが、1.00以上1.30以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記NZが、-2.0以上0.0未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記NZが、1.00以上1.30以下であり、前記NZが、-2.0以上0.0未満である、請求項1~6に記載の位相差フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムの製造方法、当該製造方法によって製造された位相差フィルム、並びに、その位相差フィルムを備える円偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置(以下、適宜「有機EL画像表示装置」ということがある。)及び液晶画像表示装置等の画像表示装置には、位相差フィルムが設けられることがある。このような位相差フィルムには、2層以上の層を備える複層構造を有するものがある。そのような複層構造を有する位相差フィルムの製造方法として、共延伸法を利用する方法が採用されることがある(特許文献1~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-73646号公報
【特許文献2】特開2009-192844号公報
【特許文献3】特開2009-192845号公報
【特許文献4】特開2009-223163号公報
【特許文献5】特開2002-40258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
画像表示装置には、表示面における外光の反射を低減するため、円偏光板が設けられることがあった。このような円偏光板としては、一般に、直線偏光子及びλ/4板を組み合わせたフィルムが用いられる。しかし、従来のλ/4板は、実際には、特定の狭い波長範囲でしかλ/4板として機能できないものがほとんどであった。そのため、従来の円偏光板の多くは、特定の狭い波長範囲の外光の反射は低減できるが、それ以外の外光の反射を低減することは難しかった。表示面で外光の反射が生じると、その反射した光の色に表示面が色付く可能性がある。
【0005】
前記のような表示面の色付きを抑制するために、広い波長範囲において外光の反射を低減できる円偏光板が求められる。このような円偏光板は、例えば、広い波長範囲においてλ/4板として機能できる広帯域λ/4板を用いて製造することができる。この広帯域λ/4板として、複数の層を組み合わせて備える位相差フィルムが知られており、例えば、λ/2板とλ/4板とを組み合わせて備える位相差フィルムが挙げられる。広帯域λ/4板として機能できる位相差フィルムを備えた円偏光板は、表示面に対して垂直な正面方向においては、広い波長範囲において外光の反射を低減できるので、表示面の色付きを抑制できる。
【0006】
しかし、表示面に対して平行でも垂直でもない傾斜方向においては、位相差の値が理想値からズレを生じたり、各層の光学軸のズレが生じたりすることによって、広い波長範囲における外光の反射の低減ができないことがありえる。そこで、傾斜方向において外光の反射による色付きを抑制できる円偏光板を実現するために、位相差フィルムには、0.0より大きく1.0未満の特定の範囲のNZ係数を有することが求められる。
【0007】
上述した要件を満たす位相差フィルムに含まれる層は、通常、遅相軸の方向、面内位相差、及び、NZ係数等の光学特性の一部又は全部が異なる。そのため、従来、前記の位相差フィルムは、各層を別々に製造した後で、それらの層を貼合して製造されることが一般的であった。しかし、このような従来の製造方法は、各層の製造を別々に行うので、工程数が多くなり、手間及びコストが多くなる傾向があった。また、各層を貼り合わせる場合に貼り合わせ角度を正確に合わせることが求められるので、角度調整の手間を要し、これによっても手間が多くなる傾向があった。
【0008】
このような事情から、表示面の正面方向及び傾斜方向の両方において外光の反射による色付きを抑制可能な円偏光板を得ることができる位相差フィルムを、簡単に製造できる方法の開発が求められている。
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、表示面の正面方向及び傾斜方向の両方において外光の反射による色付きを抑制可能な円偏光板を得ることができる位相差フィルムを、簡単に製造できる製造方法;前記製造方法によって製造される位相差フィルム;並びに、この位相差フィルムを備える円偏光板;を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、本発明者は、5℃以上異なるガラス転移温度TgA及びガラス転移温度TgBを有する熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bを含む樹脂層(A)及び樹脂層(B)を備えた複層フィルムを、異なる延伸温度で2回以上延伸することを含む製造方法により、前記課題を解決しうる位相差フィルムが得られることを見い出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、下記のものを含む。
【0010】
〔1〕 下記式(1)、下記式(2)及び下記式(3)を満たす位相差フィルムの製造方法であって、
前記製造方法が、
正の固有複屈折値を有する熱可塑性樹脂Aで形成された樹脂層(A)及び負の固有複屈折値を有する熱可塑性樹脂Bで形成された樹脂層(B)を備える複層フィルムを用意する第一工程と、
前記複層フィルムを2回以上延伸して、遅相軸を有する前記樹脂層(A)及び前記樹脂層(A)の遅相軸に対して略垂直な遅相軸を有する前記樹脂層(B)を備える前記位相差フィルムを得る第二工程と、を含み、
前記第二工程が、
前記複層フィルムを、延伸温度Ts1で延伸する第一延伸工程と、
前記複層フィルムを、前記延伸温度Ts1とは異なる延伸温度Ts2で延伸する第二延伸工程と、を含み、
前記熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度TgAと、前記熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度TgBと、の差の絶対値|TgA-TgB|が、5℃以上である、位相差フィルムの製造方法。
100nm≦Re(550)≦180nm (1)
Re(450)<Re(550)<Re(650) (2)
0.0<NZ<1.0 (3)
(ただし、
Re(450)は、波長450nmにおける位相差フィルムの面内位相差を表し、
Re(550)は、波長550nmにおける位相差フィルムの面内位相差を表し、
Re(650)は、波長650nmにおける位相差フィルムの面内位相差を表し、
NZは、位相差フィルムのNZ係数を表す。)
〔2〕 前記延伸温度Ts1と前記延伸温度Ts2との差の絶対値|Ts1-Ts2|が、5℃以上である、〔1〕に記載の位相差フィルムの製造方法。
〔3〕 前記第一延伸工程における延伸方向と、前記第二延伸工程における延伸方向とが、略垂直である、〔1〕又は〔2〕に記載の位相差フィルムの製造方法。
〔4〕 前記位相差フィルムが、下記式(4)を満たす、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の位相差フィルムの製造方法。
{Re(450)/Re(550)}-{Re(450)/Re(550)}>0.08 (4)
(ただし、
Re(450)は、波長450nmにおける高位相差層の面内位相差を表し、
Re(550)は、波長550nmにおける前記高位相差層の面内位相差を表し、
Re(450)は、波長450nmにおける低位相差層の面内位相差を表し、
Re(550)は、波長550nmにおける前記低位相差層の面内位相差を表し、
前記高位相差層は、前記位相差フィルムが備える前記樹脂層(A)及び前記樹脂層(B)のうち、波長550nmにおける面内位相差が大きい方の層を表し、
前記低位相差層は、前記位相差フィルムが備える前記樹脂層(A)及び前記樹脂層(B)のうち、波長550nmにおける面内位相差が小さい方の層を表す。)
〔5〕 波長550nmにおいて、前記位相差フィルムが備える前記樹脂層(A)が、前記位相差フィルムが備える前記樹脂層(B)よりも大きい面内位相差を有し、
前記熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度TgAが、前記熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度TgBよりも低い、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
〔6〕 波長550nmにおいて、前記位相差フィルムが備える前記樹脂層(B)が、前記位相差フィルムが備える前記樹脂層(A)よりも大きい面内位相差を有し、
前記熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度TgBが、前記熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度TgAよりも低い、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
〔7〕 〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の製造方法で製造された、位相差フィルム。
〔8〕 直線偏光子と、〔7〕に記載の位相差フィルムと、を備える円偏光板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、表示面の正面方向及び傾斜方向の両方において外光の反射による色付きを抑制可能な円偏光板を得ることができる位相差フィルムを、簡単に製造できる製造方法;前記製造方法によって製造される位相差フィルム;並びに、この位相差フィルムを備える円偏光板;を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例及び比較例でのシミュレーションにおいて、色空間座標の計算を行う際に設定した評価モデルの様子を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0014】
以下の説明において、面内位相差Reは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値を示す。厚み方向位相差Rthは、別に断らない限り、Rth={(nx+ny)/2-nz}×dで表される値である。さらに、NZ係数NZは、別に断らない限り、NZ=Rth/Re+0.5で表される値を表し、よって、NZ=(nx-nz)/(nx-ny)で表されうる。nxは、厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向(遅相軸方向)の屈折率を表し、nyは、前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表し、nzは、厚み方向の屈折率を表し、dは、厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、550nmである。面内位相差、厚み方向位相差、及びNZ係数は、位相差計(Axometrics社製「AxoScan」)を用いて測定しうる。
【0015】
以下の説明において、ある層の遅相軸とは、別に断らない限り、当該層の面内方向における遅相軸を表す。
【0016】
以下の説明において、複数の層を備える部材における各層の光学軸(吸収軸、透過軸、遅相軸等)がなす角度は、別に断らない限り、前記の層を厚み方向から見たときの角度を表す。
【0017】
以下の説明において、ある面の正面方向とは、別に断らない限り、当該面の法線方向を意味し、具体的には前記面の極角0°且つ方位角0°の方向を指す。
【0018】
以下の説明において、ある面の傾斜方向とは、別に断らない限り、当該面に平行でも垂直でもない方向を意味し、具体的には当該面の極角が0°より大きく90°より小さい範囲の方向を指す。
【0019】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0020】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。長尺のフィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0021】
以下の説明において、長尺のフィルムの長手方向は、通常、製造ラインにおけるフィルムの流れ方向と平行である。また、長尺のフィルムの幅方向は、通常、厚み方向に対して垂直で且つ長手方向に垂直である。
【0022】
以下の説明において、「偏光板」、「円偏光板」、「プレート」、及び「λ/2板」、「λ/4板」とは、別に断らない限り、剛直な部材だけでなく、例えば樹脂製のフィルムのように可撓性を有する部材も含む。
【0023】
以下の説明において、「正の固有複屈折値を有する重合体」及び「正の固有複屈折値を有する樹脂」とは、「延伸方向の屈折率が延伸方向に直交する方向の屈折率よりも大きくなる重合体」及び「延伸方向の屈折率が延伸方向に直交する方向の屈折率よりも大きくなる樹脂」をそれぞれ意味する。また、「負の固有複屈折値を有する重合体」及び「負の固有複屈折値を有する樹脂」とは、「延伸方向の屈折率が延伸方向に直交する方向の屈折率よりも小さくなる重合体」及び「延伸方向の屈折率が延伸方向に直交する方向の屈折率よりも小さくなる樹脂」をそれぞれ意味する。固有複屈折値は、誘電率分布から計算しうる。
【0024】
以下の説明において、接着剤とは、別に断らない限り、狭義の接着剤(エネルギー線照射後、あるいは加熱処理後、23℃における剪断貯蔵弾性率が1MPa~500MPaである接着剤)のみならず、23℃における剪断貯蔵弾性率が1MPa未満である粘着剤をも包含する。
【0025】
[1.製造される位相差フィルム]
本発明の一実施形態に係る製造方法によって製造される位相差フィルムは、下記式(1)、下記式(2)及び下記式(3)を満たす。この位相差フィルムは、直線偏光子と組み合わせることにより、表示面の正面方向及び傾斜方向の両方において外光の反射による色付きを抑制可能な円偏光板を得ることができる。
【0026】
100nm≦Re(550)≦180nm (1)
Re(450)<Re(550)<Re(650) (2)
0.0<NZ<1.0 (3)
(ただし、
Re(450)は、波長450nmにおける位相差フィルムの面内位相差を表し、
Re(550)は、波長550nmにおける位相差フィルムの面内位相差を表し、
Re(650)は、波長650nmにおける位相差フィルムの面内位相差を表し、
NZは、位相差フィルムのNZ係数を表す。)
【0027】
前記式(1)について、詳細に説明する。波長550nmにおける位相差フィルムの面内位相差Re(550)は、通常100nm以上、好ましくは115nm以上、特に好ましくは125nm以上であり、また、通常180nm以下、好ましくは160nm以下、特に好ましくは150nm以下である。このような範囲の面内位相差Re(550)を有する場合、位相差フィルムは、λ/4板として機能できる。よって、その位相差フィルムを直線偏光子と組み合わせることにより、外光の反射を抑制可能な円偏光板を得ることができる。
【0028】
式(1)を満たす面内位相差Re(550)は、例えば、位相差フィルムに含まれる樹脂層(A)及び樹脂層(B)等の各層の面内位相差、並びに、それら各層の遅相軸の方向を適切に調整することにより、得ることができる。
【0029】
前記式(2)について、詳細に説明する。波長450nm、550nm及び650nmにおける位相差フィルムの面内位相差Re(450)、Re(550)及びRe(650)は、Re(450)<Re(550)<Re(650)を満たす。この式(2)を満たす位相差フィルムの面内位相差は、通常、逆波長分散性を示す。具体的には、当該位相差フィルムは、通常、測定波長が長いほど、大きい面内位相差を有する。よって、この位相差フィルムは、広い波長範囲において、当該位相差フィルムを透過する光の偏光状態を均一に変換できる広帯域λ/4板として機能できる。よって、その位相差フィルムを直線偏光子と組み合わせることにより、外光の反射による色付きを抑制可能な円偏光板を得ることができる。
【0030】
式(2)を満たす面内位相差Re(450)、Re(550)及びRe(650)は、例えば、位相差フィルムに含まれる樹脂層(A)及び樹脂層(B)等の各層の面内位相差、並びに、それら各層の遅相軸の方向を適切に調整することにより、得ることができる。
【0031】
前記式(3)について、詳細に説明する。位相差フィルムのNZ係数NZは、通常0.0より大きく、好ましくは0.2より大きく、特に好ましくは0.3より大きく、また、通常1.0未満、好ましくは0.8未満、特に好ましくは0.7未満である。位相差フィルムが前記範囲のNZ係数NZを有する場合、その位相差フィルムは、面内方向及び厚み方向の両方において適切に調整された複屈折を有する。よって、その位相差フィルムを直線偏光子と組み合わせて得られる円偏光板は、表示面の正面方向及び傾斜方向の両方において、外光の反射による色付きを抑制できる。
【0032】
位相差フィルムのNZ係数NZは、別に断らない限り、波長550nmにおける位相差フィルムの面内位相差Re(550)及び厚み方向位相差Rth(550)を用いて、「NZ={Rth(550)/Re(550)}+0.5」で表される。式(3)を満たすNZ係数NZは、例えば、位相差フィルムに含まれる樹脂層(A)及び樹脂層(B)等の各層のNZ係数を適切に調整することにより、得ることができる。
【0033】
本実施形態に係る製造方法においては、上述した式(1)~式(3)を満たす位相差フィルムを、熱可塑性樹脂Aを含む樹脂層(A)と、熱可塑性樹脂Bを含む樹脂層(B)と、を組み合わせて備える位相差フィルムとして、製造する。
【0034】
熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bの組み合わせは、熱可塑性樹脂Aの固有複屈折値の符号と、熱可塑性樹脂Bの固有複屈折値の符号とが異なるように、選択される。具体的には、正の固有複屈折値を有する熱可塑性樹脂Aと、負の固有複屈折値を有する熱可塑性樹脂Bと、を組み合わせて用いる。これらの熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bを組み合わせて用いて、後述する製造方法を行った場合に、上述した式(1)~式(3)を満たす位相差フィルムを簡単に製造できる。
【0035】
正の固有複屈折値を有する熱可塑性樹脂Aは、通常、正の固有複屈折値を有する重合体を含む。この重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド;ポリビニルアルコール;ポリカーボネート;ポリアリレート;セルロースエステル;ポリエーテルスルホン;ポリスルホン;ポリアリルサルホン;ポリ塩化ビニル;脂環式構造含有重合体;棒状液晶ポリマー;などが挙げられる。これらの重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、脂環式構造含有重合体、セルロースエステル、及びポリカーボネートが好ましく、脂環式構造含有重合体が特に好ましい。
【0036】
脂環式構造含有重合体は、繰り返し単位中に脂環式構造を含有する重合体であり、通常は非晶質の重合体である。脂環式構造含有重合体としては、主鎖中に脂環式構造を含有する重合体、及び、側鎖に脂環式構造を含有する重合体、のいずれも用いうる。脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造が挙げられるが、熱安定性の観点から、シクロアルカン構造が好ましい。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上、特に好ましくは6個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。
【0037】
脂環式構造含有重合体において、脂環式構造を含有する繰り返し単位の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式構造を含有する繰り返し単位の割合が前記範囲にある場合、耐熱性に優れる位相差フィルムを得ることができる。
【0038】
脂環式構造含有重合体としては、例えば、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン重合体、(3)環状共役ジエン重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素添加物などが挙げられる。これらの中でも、環状オレフィン重合体及びノルボルネン系重合体が好ましく、ノルボルネン系重合体が特に好ましい。ノルボルネン系重合体としては、例えば、ノルボルネン構造を含有するモノマーの開環重合体、ノルボルネン構造を含有するモノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体、及び、それらの水素化物;ノルボルネン構造を含有するモノマーの付加重合体、ノルボルネン構造を含有するモノマーと共重合可能なその他のモノマーとの付加共重合体などが挙げられる。これらの中でも、透明性の観点から、ノルボルネン構造を含有するモノマーの開環重合体水素化物が特に好ましい。前記の脂環式構造含有重合体は、例えば特開2002-321302号公報に開示されている重合体から選択されうる。
【0039】
セルロースエステルとしては、例えば、セルロースの低級脂肪酸エステル(例:セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート及びセルロースアセテートプロピオネート)が挙げられる。低級脂肪酸は、1分子あたりの炭素原子数6以下の脂肪酸を意味する。セルロースアセテートには、トリアセチルセルロース(TAC)及びセルロースジアセテート(DAC)が含まれうる。
【0040】
セルロースエステルの総アシル基置換度は、好ましくは2.20以上2.70以下であり、より好ましくは2.40以上2.60以下である。ここで、総アシル基は、ASTM D817-91に準じて測定しうる。また、セルロースエステルの重量平均重合度は、好ましくは350以上800以下であり、より好ましくは370以上600以下である。
【0041】
ポリカーボネートは、通常、カーボネート結合(-O-C(=O)-O-)を含む繰り返し単位を有する。ポリカーボネートとしては、例えば、ジヒドロキシ化合物から誘導される構成単位及びカーボネート構造(-O-(C=O)-O-で表される構造)を有する重合体が挙げられる。ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールAが挙げられる。ポリカーボネート中に含まれる、ジヒドロキシ化合物から誘導される構成単位は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0042】
熱可塑性樹脂Aに含まれる重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、特に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、特に好ましくは50,000以下である。重量平均分子量がこのような範囲にある場合、樹脂層(A)の機械的強度及び成型加工性が高度にバランスされる。前記の重量平均分子量は、溶媒としてシクロヘキサンを用いてゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリイソプレンまたはポリスチレン換算の重量平均分子量である。但し、試料がシクロヘキサンに溶解しない場合には、GPCの溶媒としてトルエンを用いてもよい。
【0043】
熱可塑性樹脂Aに含まれる重合体の分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.8以上であり、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.7以下である。分子量分布が前記範囲の下限値以上である場合、重合体の生産性を高め、製造コストを抑制できる。また、分子量分布が上限値以下である場合、低分子成分の量が小さくなるので、高温曝露時の緩和を抑制して、樹脂層(A)の安定性を高めることができる。
【0044】
熱可塑性樹脂Aにおける重合体の割合は、好ましくは50重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、特に好ましくは90重量%~100重量%である。重合体の割合が前記範囲にある場合、樹脂層(A)が十分な耐熱性及び透明性を得られる。
【0045】
熱可塑性樹脂Aは、前記の重合体に組み合わせて、更に任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;可塑剤;等が挙げられる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0046】
負の固有複屈折値を有する熱可塑性樹脂Bは、通常、負の固有複屈折値を有する重合体を含む。この重合体としては、例えば、スチレン又はスチレン誘導体の単独重合体、並びに、スチレン又はスチレン誘導体と任意のモノマーとの共重合体を含むポリスチレン系重合体;ポリアクリロニトリル重合体;ポリメチルメタクリレート重合体;ポリ(2-ビニルナフタレン);あるいはこれらの多元共重合ポリマー;などが挙げられる。また、スチレン又はスチレン誘導体に共重合させうる任意のモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、無水マレイン酸、メチルメタクリレート、及びブタジエン等が挙げられる。また、これらの重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0047】
負の固有複屈折値を有する重合体の中でも、ポリスチレン系重合体は、位相差の発現性が高いという観点から、好ましい。その中でも、スチレン又はスチレン誘導体と無水マレイン酸との共重合体は、耐熱性が高いという観点から、特に好ましい。この共重合体において、ポリスチレン系重合体100重量部に対して、無水マレイン酸単位の量は、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上、特に好ましくは15重量部以上であり、好ましくは30重量部以下、より好ましくは28重量部以下、特に好ましくは26重量部以下である。無水マレイン酸単位とは、無水マレイン酸を重合して形成される構造を有する構造単位のことをいう。
【0048】
熱可塑性樹脂Bにおける重合体の割合は、好ましくは50重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、特に好ましくは90重量%~100重量%である。重合体の割合が前記範囲にある場合、樹脂層(B)が適切な光学特性を発現できる。
【0049】
熱可塑性樹脂Bは、前記の重合体に組み合わせて、更に任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分としては、例えば、熱可塑性樹脂Aが含みうる任意の成分と同じ例が挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0050】
樹脂層(A)に含まれる熱可塑性樹脂Aと樹脂層(B)に含まれる熱可塑性樹脂Bとの組み合わせは、熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度TgAと、熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度TgBと、の差の絶対値|TgA-TgB|が、所定の範囲になるように選択される。具体的には、前記の差の絶対値|TgA-TgB|は、通常5℃以上、より好ましくは10℃以上、特に好ましくは13℃以上である。ガラス転移温度が前記の程度に異なる熱可塑性樹脂を組み合わせて熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bとして用いて、後述する製造方法を行った場合に、上述した式(1)~式(3)を満たす位相差フィルムを簡単に製造できる。前記の差の絶対値|TgA-TgB|の上限は、特段の制限はなく、複層フィルムの延伸を円滑に行う観点では、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、特に好ましくは25℃以下である。
【0051】
熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度TgA及び熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度TgBの具体的な値は、それらの差の絶対値|TgA-TgB|が前記の要件を満たす範囲で、任意である。例えば、ガラス転移温度TgA及びガラス転移温度TgBのうち、低い方の温度Tg(low)は、好ましくは100℃以上、より好ましくは105℃以上、特に好ましくは110℃以上であり、好ましくは140℃以下、より好ましくは135℃以下、特に好ましくは130℃以下でありうる。また、ガラス転移温度TgA及びガラス転移温度TgBのうち、高い方の温度Tg(high)は、好ましくは120℃以上、より好ましくは125℃以上、特に好ましくは130℃以上であり、好ましくは160℃以下、より好ましくは155℃以下、特に好ましくは150℃以下でありうる。このようなガラス転移温度TgA及びTgBを有する熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bを用いた場合、位相差フィルムの製造を特に簡単に行うことができる。
【0052】
特に、波長550nmにおいて、位相差フィルムが備える樹脂層(A)が、位相差フィルムが備える樹脂層(B)よりも大きい面内位相差を有する場合、熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度TgAは、熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度TgBよりも低いことが好ましい。このような熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bの組み合わせによれば、相対的に大きい面内位相差を有する樹脂層(A)と相対的に小さい面内位相差を有する樹脂層(B)とを備える位相差フィルムの製造を、特に簡単に行うことができる。
【0053】
また、波長550nmにおいて、位相差フィルムが備える樹脂層(B)が、位相差フィルムが備える樹脂層(A)よりも大きい面内位相差を有する場合、熱可塑性樹脂Bのガラス転移温度TgBが、熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度TgAよりも低いことが好ましい。このような熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bの組み合わせによれば、相対的に小さい面内位相差を有する樹脂層(A)と相対的に大きい面内位相差を有する樹脂層(B)とを備える位相差フィルムの製造を、特に簡単に行うことができる。
【0054】
ガラス転移温度Tgは、示差走査熱量分析計(ナノテクノロジー社製「DSC6220SII」)を用いて、JIS K 6911に基づき、昇温速度10℃/分の条件で測定しうる。
【0055】
位相差フィルムが備える樹脂層(A)は、遅相軸を有する。また、位相差フィルムが備える樹脂層(B)は、樹脂層(A)の前記遅相軸に対して略垂直な遅相軸を有する。樹脂層(B)の遅相軸が樹脂層(A)の遅相軸に対して「略垂直」とは、樹脂層(A)の遅相軸と樹脂層(B)の遅相軸とがなす角度が90°に近い特定の範囲にあることを表す。具体的には、樹脂層(A)の遅相軸と樹脂層(B)の遅相軸とがなす角度は、通常85°以上、好ましくは87°以上、より好ましくは88°以上、特に好ましくは89°以上であり、通常95°以下、好ましくは93°以下、より好ましくは92°以下、特に好ましくは91°以下である。後述する製造方法では、前記の関係の遅相軸を有する樹脂層(A)及び樹脂層(B)を組み合わせて備える複層構造のフィルムとして、上述した式(1)~式(3)を満たす位相差フィルムを得ることができる。
【0056】
特に、長尺の位相差フィルムにおいては、樹脂層(A)の遅相軸及び樹脂層(B)の遅相軸の一方が、位相差フィルムの幅方向に対して45°に近い特定の範囲の角度をなすことが好ましい。具体的には、前記の角度は、好ましくは40°以上、より好ましくは42°以上、更に好ましくは43°以上、特に好ましくは44°以上であり、好ましくは50°以下、より好ましくは48°以下、更に好ましくは47°以下、特に好ましくは46°以下である。更にこの場合、樹脂層(A)の遅相軸及び樹脂層(B)の遅相軸の他方は、位相差フィルムの幅方向に対して135°に近い特定の範囲の角度をなすことが好ましい。具体的には、前記の角度は、好ましくは130°以上、より好ましくは132°以上、更に好ましくは133°以上、特に好ましくは134°以上であり、好ましくは140°以下、より好ましくは138°以下、更に好ましくは137°以下、特に好ましくは136°以下である。一般的な長尺の直線偏光子は、当該直線偏光子の幅方向に平行又は垂直な吸収軸を有する。幅方向に対して前記範囲の角度をなす方向に遅相軸を有する樹脂層(A)及び樹脂層(B)を備える長尺の位相差フィルムは、前記の一般的な直線偏光子に、単純に位相差フィルムの幅方向と直線偏光子の幅方向とを平行にして貼り合わせて、円偏光板を得ることができる。したがって、位相差フィルムと直線偏光子との貼り合わせをロール・トゥ・ロールで行うことができるので、円偏光板を特に簡単に製造することができる。
【0057】
樹脂層(A)のNZ係数NZ及び樹脂層(B)のNZ係数NZは、位相差フィルムのNZ係数NZを式(3)に収められるように、適切に設定することが好ましい。樹脂層(A)のNZ係数NZは、「NZ=(nx-nz)/(nx-ny)」で表される値であり、よって「NZ=(Rth/Re)+0.5」で表される。nxは、樹脂層(A)の面内方向であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、樹脂層(A)の面内方向であって、nxを与える方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは、樹脂層(A)の厚み方向の屈折率を表す。Reは、樹脂層(A)の面内位相差を表し、よって「Re=(nx-ny)×d」で表される。Rthは、樹脂層(A)の厚み方向位相差を表し、よって「Rth={(nx+ny)/2-nz}×d」で表される。dは、樹脂層(A)の厚みを表す。また、樹脂層(B)のNZ係数NZは、「NZ=(nx-nz)/(nx-ny)」で表される値であり、よって「NZ=(Rth/Re)+0.5」で表される。nxは、樹脂層(B)の面内方向であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、樹脂層(B)の面内方向であって、nxを与える方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは、樹脂層(B)の厚み方向の屈折率を表す。Reは、樹脂層(B)の面内位相差を表し、よって「Re=(nx-ny)×d」で表される。Rthは、樹脂層(B)の厚み方向位相差を表し、よって「Rth={(nx+ny)/2-nz}×d」で表される。dは、樹脂層(B)の厚みを表す。
【0058】
樹脂層(A)のNZ係数NZは、1.00以上が好ましい。よって、樹脂層(A)の屈折率ny及びnzは、ny≧nzの関係を満たすことが好ましい。また、樹脂層(B)のNZ係数NZは、0.0未満が好ましい。よって、樹脂層(B)の屈折率nx及びnzは、nz>nxの関係を満たすことが好ましい。このような組み合わせの樹脂層(A)及び樹脂層(B)によれば、位相差フィルム全体のNZ係数NZを式(3)の範囲内に容易に調整できる。
【0059】
より詳細には、樹脂層(A)のNZ係数NZは、好ましくは1.00以上、より好ましくは1.05以上であり、好ましくは1.30以下、より好ましくは1.20以下である。このように1.00以上のNZ係数NZを有する樹脂層(A)の屈折率nx、ny及びnzは、nx>ny≧nzの関係を有しうる。よって、樹脂層(A)は、ポジティブAプレート又はネガティブBプレートとして機能しうる。
【0060】
また、樹脂層(B)のNZ係数NZは、好ましくは-2.0以上、より好ましくは-1.5以上であり、好ましくは0.0未満、より好ましくは-0.2以下、特に好ましくは-0.4以下である。このように0.0未満のNZ係数を有する樹脂層(B)の屈折率nx、ny及びnzは、nz>nx>nyの関係を有しうる。よって、樹脂層(B)は、3方向の屈折率nx、ny及びnzが相違する層(即ち、二軸性を有する層)でありうる。また、樹脂層(B)は、ポジティブBプレートとして機能しうる。
【0061】
樹脂層(A)のNZ係数NZ及び樹脂層(B)のNZ係数NZの和NZ+NZは、特定の範囲に収まることが好ましい。具体的には、和「NZ+NZ」は、好ましくは-0.3以上、より好ましくは0.0以上、特に好ましくは0.15以上であり、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.75以下、特に好ましくは0.65以下である。和「NZ+NZ」が前記の範囲にある場合、表示面の正面方向及び傾斜方向の両方において外光の反射による色付きを効果的に抑制可能な円偏光板を得ることができる位相差フィルムを実現できる。
【0062】
位相差フィルムは、下記式(4)を満たすことが好ましい。
{Re(450)/Re(550)}-{Re(450)/Re(550)}>0.08 (4)
(ただし、
Re(450)は、波長450nmにおける高位相差層の面内位相差を表し、
Re(550)は、波長550nmにおける前記高位相差層の面内位相差を表し、
Re(450)は、波長450nmにおける低位相差層の面内位相差を表し、
Re(550)は、波長550nmにおける前記低位相差層の面内位相差を表し、
高位相差層は、位相差フィルムが備える樹脂層(A)及び樹脂層(B)のうち、波長550nmにおける面内位相差が大きい方の層を表し、
低位相差層は、位相差フィルムが備える樹脂層(A)及び樹脂層(B)のうち、波長550nmにおける面内位相差が小さい方の層を表す。)
【0063】
式(4)において、「Re(450)/Re(550)」は、低位相差層の波長分散性を表す。また、式(4)において、「Re(450)/Re(550)」は、高位相差層の波長分散性を表す。よって、式(4)は、位相差フィルムが備える低位相差層及び高位相差層の間に、面内位相差の波長分散性の差があることを表す。より詳細には、低位相差層の面内位相差の方が高位相差層の面内位相差よりも波長分散性が大きいことを表す。この波長分散の差を表すパラメータ「{Re(450)/Re(550)}-{Re(450)/Re(550)}」は、詳細には、好ましくは0.08より大きく、より好ましくは0.09より大きく、特に好ましくは0.10より大きく、また上限は、特段の制限はなく、好ましくは2.0未満、より好ましくは1.5未満、特に好ましくは1.2未満である。このように面内位相差の波長分散性に差がある樹脂層(A)及び樹脂層(B)を備える位相差フィルムは、積層状態で容易に逆分散特性を得ることができる。
【0064】
「Re(450)/Re(550)」は、好ましくは1.05以上、より好ましくは1.08以上、特に好ましくは1.1以上であり、また上限は、特段の制限はなく、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.7以下、特に好ましくは1.5以下である。「Re(450)/Re(550)」が前記範囲にある場合、外光の反射による色付きを効果的に抑制できる円偏光板を得ることができる。
【0065】
「Re(450)/Re(550)」は、好ましくは0.92以上、より好ましくは0.95以上、特に好ましくは0.98以上であり、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下、特に好ましくは1.05以下である。「Re(450)/Re(550)」が前記範囲にある場合、外光の反射による色付きを効果的に抑制できる円偏光板を得ることができる。
【0066】
波長550nmにおける低位相差層の面内位相差Re(550)は、好ましくは80nm以上、より好ましくは100nm、特に好ましくは110nm以上であり、好ましくは170nm以下、より好ましくは150nm以下、特に好ましくは140nm以下である。面内位相差Re(550)が前記範囲にある場合、低位相差層は、λ/4板として機能できる。そして、その低位相差層を備える位相差フィルムによれば、外光の反射による色付きを効果的に抑制できる円偏光板を得ることができる。
【0067】
波長550nmにおける高位相差層の面内位相差Re(550)は、好ましくは220nm以上、より好ましくは240nm、特に好ましくは250nm以上であり、好ましくは310nm以下、より好ましくは290nm以下、特に好ましくは280nm以下である。面内位相差Re(550)が前記範囲にある場合、高位相差層は、λ/2板として機能できる。そして、その高位相差層を備える位相差フィルムによれば、外光の反射による色付きを効果的に抑制できる円偏光板を得ることができる。
【0068】
面内位相差Re(550)と面内位相差Re(550)との差「Re(550)-Re(550)」は、好ましくは100nm以上、より好ましくは110nm以上であり、好ましくは180nm以下、より好ましくは160nm以下である。「Re(550)-Re(550)」が前記範囲にある場合、外光の反射による色付きを効果的に抑制できる円偏光板を得ることができる。
【0069】
位相差フィルムは、必要に応じて、樹脂層(A)及び樹脂層(B)以外の任意の層を備えていてもよい。任意の層の例としては、光学等方性を有する任意の層が挙げられる。この光学等方性を有する任意の層は、波長550nmにおける面内位相差が通常10nm以下であり、例えば、樹脂層(A)及び樹脂層(B)を保護するための保護フィルム層;樹脂層(A)及び樹脂層(B)等の各層を接着する接着層;などが挙げられる。また、任意の層の別の例としては、光学異方性を有する任意の層が挙げられる。この光学異方性を有する任意の層の光学特性は、位相差フィルム全体が式(1)~式(3)を満たす範囲で制限は無い。具体例を挙げると、光学異方性を有する任意の層と、樹脂層(A)及び樹脂層(B)の一方又は両方との組み合わせが、λ/4板又はλ/2板として機能できるように、その任意の層の光学特性が設定されていてもよい。
【0070】
位相差フィルムの全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。全光線透過率は、紫外・可視分光計を用いて、波長400nm~700nmの範囲で測定できる。
【0071】
位相差フィルムのヘイズは、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下であり、理想的には0%である。ヘイズは、JIS K7361-1997に準拠して、ヘイズメーターを用いて測定できる。
【0072】
位相差フィルムは、枚葉のフィルムであってもよく、長尺のフィルムであってもよい。
【0073】
位相差フィルムの厚みに、特に制限は無い。位相差フィルムの具体的な厚みは、薄型化の観点から、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは15μm以上であり、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、特に好ましくは100μm以下である。
【0074】
位相差フィルムが備える樹脂層(A)及び樹脂層(B)等の各層の厚みに、特に制限は無い。樹脂層(A)及び樹脂層(B)の厚みは、それぞれ独立に、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上であり、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下である。
【0075】
[2.位相差フィルムの製造方法の概要]
本発明の一実施形態に係る製造方法では、上述した位相差フィルムを、
熱可塑性樹脂Aで形成された樹脂層(A)及び熱可塑性樹脂Bで形成された樹脂層(B)を備える複層フィルムを用意する第一工程と、
複層フィルムを2回以上延伸する第二工程と、
を含む製造方法によって、製造する。
【0076】
第一工程で用意される複層フィルムが備える樹脂層(A)及び樹脂層(B)は、位相差フィルムが備える樹脂層(A)及び樹脂層(B)の光学特性とは異なる光学特性を有する。具体的には、通常、複層フィルムが備える樹脂層(A)及び樹脂層(B)は、大きな光学異方性を有していない。よって、複層フィルムが備える樹脂層(A)及び樹脂層(B)は、通常、位相差を有していないか、有するとしてもそれらの値は小さい。また、複層フィルムが備える樹脂層(A)及び樹脂層(B)は、通常、遅相軸を有していないか、有するとしてもそれらの遅相軸は略垂直でない。
【0077】
そこで、本実施形態に係る製造方法では、この複層フィルムに対し、2回以上の延伸を含む第二工程を施す。この第二工程での延伸により、樹脂層(A)及び樹脂層(B)の光学特性が調整されて、上述した所望の光学特性を有する位相差フィルムが得られる。例えば、第二工程での延伸により、樹脂層(A)及び樹脂層(B)に大きな光学異方性が発現して、式(1)、式(2)及び式(3)を満たす位相差フィルムが得られる。また、第二工程での延伸により、樹脂層(A)及び樹脂層(B)に、互いに垂直な遅相軸が発現する。複層フィルムが備える樹脂層(A)及び樹脂層(B)が遅相軸を有していた場合には、それらの遅相軸の方向が第二工程での延伸により調整されて、それら遅相軸が略垂直となる。
【0078】
[3.第一工程:複層フィルムの用意]
第一工程では、熱可塑性樹脂Aで形成された樹脂層(A)及び熱可塑性樹脂Bで形成された樹脂層(B)を備える複層フィルムを用意する。熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bは、位相差フィルムの項で説明した通りである。
【0079】
通常、第一工程で用意される複層フィルムが備える樹脂層(A)及び樹脂層(B)は、大きな光学異方性を有さない。よって、樹脂層(A)及び樹脂層(B)の位相差は、通常、小さい。具体的な範囲を挙げると、550nmにおける樹脂層(A)及び樹脂層(B)の面内位相差は、それぞれ独立に、好ましくは0nm~20nm、より好ましくは0nm~10nm、特に好ましくは0nm~5nmである。
【0080】
複層フィルムは、枚葉のフィルムであってもよいが、長尺のフィルムであることが好ましい。複層フィルムを長尺のフィルムとして用意することにより、位相差フィルムを製造する場合に各工程の一部または全部をインラインで行うことが可能であるので、製造を簡便且つ効率的に行なうことできる。
【0081】
複層フィルムの製造方法に制限は無い。複層フィルムは、例えば、共押出法、共流延法、ある層上にそれ以外の層の材料を含む液状組成物を塗工する塗工法、などが挙げられる。中でも、樹脂層(A)上に熱可塑性樹脂Bを含む液状組成物を塗工し、塗工された液状組成物を必要に応じて乾燥させる方法が好ましい。以下、この複層フィルムの製造方法を説明する。
【0082】
樹脂層(A)の製造方法に制限は無い。樹脂層(A)は、例えば、溶融成形法、溶液流延法によって製造できる。中でも、溶融成形法が好ましい。溶融成形法の中でも、押出成形法、インフレーション成形法又はプレス成形法が好ましく、押出成形法が特に好ましい。これらの方法によれば、樹脂層(A)を、長尺のフィルムとして製造できる。
【0083】
前記の樹脂層(A)を用意した後で、その樹脂層(A)上に、熱可塑性樹脂Bを含む液状組成物を塗工する。液状組成物は、熱可塑性樹脂Bと溶媒とを含みうる。溶媒としては、熱可塑性樹脂Bを溶解又は分散させうるものが好ましく、熱可塑性樹脂Bを溶解させうるものが特に好ましい。また、溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。液状組成物における熱可塑性樹脂Bの濃度は、液状組成物の粘度を塗工に適した範囲に収められるように調整することが好ましく、例えば1重量%~50重量%でありうる。
【0084】
液状組成物の塗工方法に制限は無い。塗工方法としては、例えば、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ギャップコーティング法、及びディッピング法などが挙げられる。
【0085】
熱可塑性樹脂Bを含む液状組成物の塗工により、その液状組成物の層が樹脂層(A)上に形成される。よって、必要に応じて液状組成物の層を乾燥させて溶媒を除去することにより、樹脂層(A)上に樹脂層(B)が形成されて、複層フィルムを得ることができる。乾燥方法に制限はなく、例えば、加熱乾燥、減圧乾燥などの乾燥方法を用いうる。
【0086】
[4.第二工程:複層フィルムの延伸]
第一工程で複層フィルムを用意した後で、その複層フィルムを2回以上延伸することを含む第二工程を行う。この第二工程は、
複層フィルムを、延伸温度Ts1で延伸する第一延伸工程と、
複層フィルムを、延伸温度Ts1とは異なる延伸温度Ts2で延伸する第二延伸工程と、をこの順に含む。このような異なる温度での2回以上の延伸を行うことにより、上述した位相差フィルムを得ることができる。
【0087】
第一延伸工程での延伸温度Ts1と第二延伸工程での延伸温度Ts2との差の絶対値|Ts1-Ts2|は、特定の範囲にあることが好ましい。具体的には、前記の差の絶対値|Ts1-Ts2|は、好ましくは5℃以上、より好ましくは8℃以上、特に好ましくは10℃以上であり、好ましくは25℃以下、より好ましくは22℃以下、特に好ましくは20℃以下である。延伸温度Ts1と延伸温度Ts2との差の絶対値|Ts1-Ts2|が前記範囲のある場合、位相差フィルムの製造を特に簡単に行うことができる。
【0088】
延伸温度Ts1及び延伸温度Ts2のうち、低い方の温度は、Tg(low)に近い特定の温度範囲にあることが好ましい。具体的には、この特定の温度範囲は、好ましくはTg(low)-5℃以上、より好ましくはTg(low)-3℃以上、特に好ましくはTg(low)-1℃以上であり、好ましくはTg(low)+20℃以下、より好ましくはTg(low)+15℃以下、特に好ましくはTg(low)+12℃以下である。Tg(low)は、ガラス転移温度TgA及びガラス転移温度TgBのうち、低い方の温度を表す。延伸温度Ts1及び延伸温度Ts2のうち、低い方の温度が前記範囲のある場合、樹脂層(A)及び樹脂層(B)の両方に含まれる重合体分子の配向を効果的に進行させて、それらの屈折率を大きく変化させることができ、そのため、位相差フィルムの製造を特に簡単に行うことができる。
【0089】
延伸温度Ts1及び延伸温度Ts2のうち、高い方の温度は、Tg(high)に近い特定の温度範囲にあることが好ましい。具体的には、この特定の温度範囲は、好ましくはTg(high)-5℃以上、より好ましくはTg(high)-3℃以上、特に好ましくはTg(high)-1℃以上であり、好ましくはTg(high)+20℃以下、より好ましくはTg(high)+15℃以下、特に好ましくはTg(high)+12℃以下である。Tg(high)は、ガラス転移温度TgA及びガラス転移温度TgBのうち、高い方の温度を表す。延伸温度Ts1及び延伸温度Ts2のうち、高い方の温度が前記範囲のある場合、樹脂層(A)及び樹脂層(B)のうちガラス転移温度が高い方の熱可塑性樹脂で形成された樹脂層では、重合体分子の配向が大きく進行する。よって、屈折率を大きく変化させることができる。他方、ガラス転移温度が低い方の熱可塑性樹脂で形成された樹脂層では、延伸温度がガラス転移温度よりも十分に高いので、重合体分子の配向が相対的に小さく進行するか、配向が進行しない。よって、屈折率は変化しないか、変化するとしても変化量は小さい。これにより、樹脂層(A)及び樹脂層(B)の光学特性の調整をシンプルにできるので、位相差フィルムの製造を特に簡単に行うことができる。
【0090】
第二工程のおける延伸は、高温での延伸を先に行ってもよく、低温での延伸を先に行ってもよい。よって、先に行う第一延伸工程での延伸温度Ts1が、後で行う第二延伸工程での延伸温度Ts2よりも、低くてもよい。また、先に行う第一延伸工程での延伸温度Ts1が、後で行う第二延伸工程での延伸温度Ts2よりも、高くてもよい。中でも、位相差フィルムの製造を特に簡単に行う観点では、先に行う第一延伸工程での延伸温度Ts1が、後で行う第二延伸工程での延伸温度Ts2よりも、高いことが好ましい。
【0091】
第二工程では、通常、第一延伸工程における延伸と、第二延伸工程における延伸とは、異なる延伸方向に行う。この際、第一延伸工程における延伸、及び、第二延伸工程における延伸は、いずれも、一方向延伸として行いうる。中でも、第二工程における延伸は、第一延伸工程における延伸方向と、第二延伸工程における延伸方向とが、略垂直となるように行うことが好ましい。2つの延伸方向が「略垂直」とは、それらの延伸方向がなす角度が90°に近い特定の範囲にあることを表す。具体的には、それらの延伸方向がなす角度は、好ましくは85°以上、より好ましくは87°以上、更に好ましくは88°以上、特に好ましくは89°以上であり、好ましくは95°以下、より好ましくは93°以下、更に好ましくは92°以下、特に好ましくは91°以下である。第一延伸工程における延伸方向と第二延伸工程における延伸方向とが略垂直である場合、位相差フィルムの製造を特に簡単に行うことができる。
【0092】
特に、第二工程において長尺の複層フィルムを延伸する場合、第一延伸工程における延伸方向及び第二延伸工程における延伸方向の一方が、複層フィルムの幅方向に対して45°に近い特定の範囲の角度をなすことが好ましい。具体的には、前記の角度は、好ましくは40°以上、より好ましくは42°以上、更に好ましくは43°以上、特に好ましくは44°以上であり、好ましくは50°以下、より好ましくは48°以下、更に好ましくは47°以下、特に好ましくは46°以下である。更にこの場合、第一延伸工程における延伸方向及び第二延伸工程における延伸方向の他方は、位相差フィルムの幅方向に対して135°に近い特定の範囲の角度をなすことが好ましい。具体的には、前記の角度は、好ましくは130°以上、より好ましくは132°以上、更に好ましくは133°以上、特に好ましくは134°以上であり、好ましくは140°以下、より好ましくは138°以下、更に好ましくは137°以下、特に好ましくは136°以下である。前記の延伸角度で延伸を行う場合、通常は、得られる位相差フィルムを長尺の直線偏光子とロール・トゥ・ロールで貼り合わせて円偏光板を製造できるので、円偏光板を特に簡単に製造することができる。
【0093】
第二工程で行う延伸の延伸倍率は、所望の位相差フィルムが得られるように、適切に設定することが好ましい。また、各延伸の延伸倍率は、同じでもよく、異なっていてもよい。よって、第一延伸工程での延伸倍率と、第二延伸工程での延伸倍率とは、同じでもよく、異なっていてもよい。
【0094】
第一延伸工程及び第二延伸工程のうち、相対的に低い延伸温度で延伸を行う延伸工程での延伸倍率は、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.3倍以上、特に好ましくは1.35倍以上であり、好ましくは3.0倍以下、より好ましくは2.5倍以下、特に好ましくは2.0倍以下である。相対的に低い延伸温度で延伸を行う延伸工程での延伸倍率が前記範囲のある場合、位相差フィルムの製造を特に簡単に行うことができる。
【0095】
第一延伸工程及び第二延伸工程のうち、相対的に高い延伸温度で延伸を行う延伸工程での延伸倍率は、好ましくは1.05倍以上、より好ましくは1.1倍以上、特に好ましくは1.12倍以上であり、好ましくは2.0倍以下、より好ましくは1.5倍以下、特に好ましくは1.3倍以下である。相対的に高い延伸温度で延伸を行う延伸工程での延伸倍率が前記範囲のある場合、位相差フィルムの製造を特に簡単に行うことができる。
【0096】
第二工程は、第一延伸工程及び第二延伸工程に組み合わせて、複層フィルムを更に延伸する任意の延伸工程を含んでいてもよい。任意の延伸工程における延伸条件は、所望の位相差フィルムを得られる範囲で、適切に設定しうる。
【0097】
上述した第二工程によれば、複層フィルムが備える樹脂層(A)及び樹脂層(B)に、位相差フィルムが備える樹脂層(A)及び樹脂層(B)に求められる光学特性を発現させることができる。よって、第二工程での延伸によって、延伸された複層フィルムとして位相差フィルムを得ることができる。第二工程での延伸によって位相差フィルムが得られる仕組みは、下記の通りであると本発明者は推察する。ただし、本発明の技術的範囲は、下記の仕組みによって制限されない。
【0098】
第二工程は、延伸温度Ts1での延伸と、その延伸温度Ts1とは異なる延伸温度Ts2で延伸とを含む。
延伸温度Ts1及びTs2のうち、低い方の温度での延伸によれば、複層フィルムが備える樹脂層(A)及び樹脂層(B)に含まれる重合体分子が延伸方向に配向する。この配向により、正の固有複屈折値を有する熱可塑性樹脂Aを含む樹脂層(A)では、延伸方向に平行な方向の屈折率が大きくなり、延伸方向に垂直な方向の屈折率は小さくなる。また、負の固有複屈折値を有する熱可塑性樹脂Bを含む樹脂層(B)では、前記の配向により、延伸方向に垂直な方向の屈折率が大きくなり、延伸方向に平行な方向の屈折率が小さくなる。
【0099】
他方、延伸温度Ts1及びTs2のうち、高い方の温度での延伸によっても、樹脂層(A)及び樹脂層(B)に含まれる重合体分子が延伸方向に配向しうる。この配向により、樹脂層(A)では延伸方向に平行な方向の屈折率が大きくなりえ、延伸方向に垂直な方向の屈折率は小さくなりえる。また、樹脂層(B)では、延伸方向に垂直な方向の屈折率が大きくなりえ、延伸方向に平行な方向の屈折率が小さくなりえる。ただし、その配向の程度は、低い方の温度での延伸とは異なりうる。具体的には、樹脂層(A)及び樹脂層(B)のうち、ガラス転移温度が高い方の熱可塑性樹脂で形成された樹脂層では、重合体分子の配向が相対的に大きく進行する、しかし、ガラス転移温度が低い方の熱可塑性樹脂で形成された樹脂層では、重合体分子の配向が相対的に小さく進行するか、配向が進行しない。
【0100】
よって、延伸温度Ts1での延伸と延伸温度Ts2で延伸とを組み合わせて行うことにより、屈折率の変化の程度と、その屈折率の変化が生じる方向とを、樹脂層(A)及び樹脂層(B)のそれぞれで調整することができる。通常は、樹脂層(A)及び樹脂層(B)の一方の一軸性が高くなり、且つ、樹脂層(A)及び樹脂層(B)の他方の二軸性が高くなるように、調整する。そして、このような調整の結果、面内位相差、厚み方向位相差、遅相軸の方向などの光学特性が適切な範囲にある樹脂層(A)及び樹脂層(B)が得られるので、上述した位相差フィルムが得られる。
【0101】
[5.任意の工程]
位相差フィルムの製造方法は、上述した第一工程及び第二工程に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。例えば、長尺の複層フィルムを用いて長尺の位相差フィルムを得た場合、位相差フィルムの製造方法は、得られた位相差フィルムを所望の形状に切り出すトリミング工程を含んでいてもよい。トリミング工程によれば、所望の形状を有する枚葉の位相差フィルムが得られる。また、位相差フィルムの製造方法は、例えば、位相差フィルムに保護層を設ける工程を含んでいてもよい。
【0102】
[6.好ましい第一の例]
以下、上述した実施形態に係る製造方法の好ましい第一の例を説明する。この第一の例では、TgA<TgBを満たすガラス転移温度TgA及びガラス転移温度TgBを有する熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bを用いて、位相差フィルムを製造する。
【0103】
第一の例に係る製造方法では、前記の熱可塑性樹脂Aで形成された樹脂層(A)及び熱可塑性樹脂Bで形成された樹脂層(B)を備える複層フィルムを用意する第一工程を行う。その後、複層フィルムを、延伸温度Ts1で一方向に延伸する第一延伸工程と、延伸温度Ts2で別の一方向に延伸する第二延伸工程と、を含む第二工程を行う。第一の例に係る製造方法の第二工程において、第一延伸工程での延伸方向と、第二延伸工程での延伸方向とは、略垂直である。
【0104】
このような第一の例において、延伸温度Ts1及びTs2のうち、低い方の温度での延伸によれば、複層フィルムの樹脂層(A)及び樹脂層(B)の両方において、重合体分子の延伸方向への配向が大きく進行する。よって、樹脂層(A)では、延伸方向の屈折率が大きくなり、延伸方向に垂直な方向の屈折率が小さくなる。他方、樹脂層(B)では、延伸方向の屈折率が小さくなり、延伸方向に垂直な方向の屈折率が大きくなる。
【0105】
また、延伸温度Ts1及びTs2のうち、高い方の温度での延伸によれば、樹脂層(B)においては重合体分子の延伸方向への配向が大きく進行するが、樹脂層(A)においては、重合体分子の延伸方向への配向が小さく進行するか、配向が進行しない。よって、樹脂層(A)では、屈折率は変化しないか、変化するとしてもその変化は小さい。他方、樹脂層(B)では、延伸方向の屈折率が小さくなり、延伸方向に垂直な方向の屈折率が大きくなる。
【0106】
第一の例において、第一延伸工程での延伸方向と第二延伸工程での延伸方向とは、略垂直である。よって、前記の第一延伸工程と第二延伸工程との組み合わせによれば、樹脂層(A)では一軸性が大きくなり、樹脂層(B)では二軸性が大きくなる。そして、このように一軸性が大きい樹脂層(A)と二軸性が大きい樹脂層(B)とを備えるフィルムとして、所望の位相差フィルムを得ることができる。このような第一の例に係る製造方法は、高位相差層としての樹脂層(A)及び低位相差層としての樹脂層(B)を備える位相差フィルムの製造に好適に用いうる。
【0107】
[7.好ましい第二の例]
以下、上述した実施形態に係る製造方法の好ましい第二の例を説明する。この第二の例では、TgA>TgBを満たすガラス転移温度TgA及びガラス転移温度TgBを有する熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bを用いて、位相差フィルムを製造する。
【0108】
第二の例に係る製造方法では、第一の例に係る製造方法と同じく、第一工程及び第二工程を行う。よって、第二の例に係る製造方法の第二工程において、第一延伸工程での延伸方向と、第二延伸工程での延伸方向とは、略垂直である。
【0109】
このような第二の例において、延伸温度Ts1及びTs2のうち、低い方の温度での延伸によれば、第一の例と同じく、複層フィルムの樹脂層(A)及び樹脂層(B)の両方において、重合体分子の延伸方向への配向が大きく進行する。よって、樹脂層(A)では、延伸方向の屈折率が大きくなり、延伸方向に垂直な方向の屈折率が小さくなる。他方、樹脂層(B)では、延伸方向の屈折率が小さくなり、延伸方向に垂直な方向の屈折率が大きくなる。
【0110】
これに対し、延伸温度Ts1及びTs2のうち、高い方の温度での延伸によれば、樹脂層(A)においては重合体分子の延伸方向への配向が大きく進行するが、樹脂層(B)においては、重合体分子の延伸方向への配向が小さく進行するか、配向が進行しない。よって、樹脂層(A)では、延伸方向の屈折率が大きくなり、延伸方向に垂直な方向の屈折率が小さくなる。他方、樹脂層(B)では、屈折率は変化しないか、変化するとしてもその変化は小さい。
【0111】
第二の例において、第一延伸工程での延伸方向と第二延伸工程での延伸方向とは、略垂直である。よって、前記の第一延伸工程と第二延伸工程との組み合わせによれば、樹脂層(A)では二軸性が大きくなり、樹脂層(B)では一軸性が大きくなる。そして、このように二軸性が大きい樹脂層(A)と一軸性が大きい樹脂層(B)とを備えるフィルムとして、所望の位相差フィルムを得ることができる。このような第二の例に係る製造方法は、低位相差層としての樹脂層(A)及び高位相差層としての樹脂層(B)を備える位相差フィルムの製造に好適に用いうる。
【0112】
[8.位相差フィルムの製造方法の主な利点]
上述した製造方法によれば、複層フィルムが備える樹脂層(A)及び樹脂層(B)を同時に延伸して、延伸された樹脂層(A)及び樹脂層(B)を備える所望の位相差フィルムを製造できる。よって、樹脂層(A)と樹脂層(B)とを別々に用意する必要がないので、工程数を少なくして、手間及びコストを抑制できる。また、精密な貼り合わせ角度の調整が要求される樹脂層(A)と樹脂層(B)との貼り合わせが不要であるので、これによっても手間を抑制することができる。
こうして得られる位相差フィルムを用いることにより、表示面の正面方向及び傾斜方向の両方において外光の反射による色付きを抑制可能な円偏光板を製造することができる。
【0113】
[9.円偏光板]
本発明の一実施形態に係る円偏光板は、直線偏光子と、位相差フィルムとを備える。この円偏光板を、画像表示装置の表示面に設けることにより、外光の反射を抑制できる。上述した位相差フィルムを備える円偏光板によれば、表示面を正面方向から見た場合及び表示面を傾斜方向から見た場合のいずれでも、外光の反射を抑制して、色付きを効果的に抑制できる。
【0114】
円偏光板は、直線偏光子、樹脂層(A)及び樹脂層(B)をこの順に備えていてもよい。円偏光板は、直線偏光子、樹脂層(B)及び樹脂層(A)をこの順に備えていてもよい。具体的な順は、樹脂層(A)及び樹脂層(B)の面内位相差に応じて設定しうる。
【0115】
円偏光板において、直線偏光子の幅方向と、樹脂層(A)の遅相軸及び樹脂層(B)の遅相軸の一方とがなす角度が、45°に近い特定の範囲にあることが好ましい。具体的には、前記の角度は、好ましくは40°以上、より好ましくは42°以上、更に好ましくは43°以上、特に好ましくは44°以上であり、好ましくは50°以下、より好ましくは48°以下、更に好ましくは47°以下、特に好ましくは46°以下である。更にこの場合、直線偏光子の幅方向と、樹脂層(A)の遅相軸及び樹脂層(B)の遅相軸の他方とがなす角度が、135°に近い特定の範囲にあることが好ましい。具体的には、前記の角度は、好ましくは130°以上、より好ましくは132°以上、更に好ましくは133°以上、特に好ましくは134°以上であり、好ましくは140°以下、より好ましくは138°以下、更に好ましくは137°以下、特に好ましくは136°以下である。
【0116】
直線偏光子としては、任意の直線偏光子を用いうる。直線偏光子の例としては、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素又は二色性染料を吸着させた後、ホウ酸浴中で一軸延伸することによって得られるフィルム;ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素又は二色性染料を吸着させ延伸しさらに分子鎖中のポリビニルアルコール単位の一部をポリビニレン単位に変性することによって得られるフィルム;が挙げられる。これらのうち、直線偏光子としては、ポリビニルアルコールを含有する偏光子が好ましい。
【0117】
直線偏光子に自然光を入射させると、一方の偏光だけが透過する。この直線偏光子130の偏光度は特に限定されないが、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。
また、直線偏光子の厚みは、好ましくは5μm~80μmである。
【0118】
上述した円偏光板は、更に、任意の層を含みうる。任意の層としては、例えば、偏光子保護フィルム層;直線偏光子及び位相差フィルムを貼り合わせるための接着層;耐衝撃性ポリメタクリレート樹脂層などのハードコート層;フィルムの滑り性を良くするマット層;反射抑制層;防汚層;帯電抑制層;等が挙げられる。これらの任意の層は、1層だけを設けてもよく、2層以上を設けてもよい。
【0119】
[10.画像表示装置]
上述した円偏光板は、画像表示装置に設けうる。特に、円偏光板は、有機EL画像表示装置に設けることが好ましい。この有機EL画像表示装置は、円偏光板と、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、適宜「有機EL素子」ということがある。)と、を備える。この有機EL画像表示装置は、通常、直線偏光子、位相差フィルム及び有機EL素子を、この順に備える。
【0120】
有機EL素子は、透明電極層、発光層及び電極層をこの順に備え、透明電極層及び電極層から電圧を印加されることにより発光層が光を生じうる。有機発光層を構成する材料の例としては、ポリパラフェニレンビニレン系、ポリフルオレン系、及びポリビニルカルバゾール系の材料を挙げることができる。また、発光層は、複数の発光色が異なる層の積層体、あるいはある色素の層に異なる色素がドーピングされた混合層を有していてもよい。さらに、有機EL素子は、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、等電位面形成層、電荷発生層等の機能層を備えていてもよい。
【0121】
前記の画像表示装置は、表示面における外光の反射を抑制できる。具体的には、装置外部から入射した光は、その一部の直線偏光のみが直線偏光子を通過し、次にそれが位相差フィルムを通過することにより、円偏光となる。円偏光は、画像表示装置内の光を反射する構成要素(有機EL素子中の反射電極等)により反射され、再び位相差フィルムを通過することにより、入射した直線偏光の振動方向と直交する振動方向を有する直線偏光となり、直線偏光子を通過しなくなる。ここで、直線偏光の振動方向とは、直線偏光の電場の振動方向を意味する。これにより、反射抑制の機能が達成される。
【0122】
位相差フィルムが上述した光学特性を有するので、前記の有機EL画像表示装置は、反射抑制の機能を、表示面の正面方向だけでなく、傾斜方向においても発揮できる。これにより、表示面の正面方向及び傾斜方向の両方において、外光の反射を効果的に抑制して、色付きを抑制することが可能である。
【0123】
前記の色付きの程度は、反射のある表示面を観察して測定される色度と、反射の無い黒色の表示面の色度との色差ΔEabによって、評価しうる。前記の色度は、表示面で反射した光のスペクトルを測定し、このスペクトルから、人間の目に対応する分光感度(等色関数)を乗じて三刺激値X、Y及びZを求め、色度(a,b,L)を算出することにより求めうる。また、前記の色差ΔEabは、外光によって表示面が照らされていない場合の色度(a0,b0,L0)、及び、外光によって照らされている場合の色度(a1,b1,L1)から、下記の式(X)から求めうる。
【0124】
【数1】
【0125】
また、一般に、反射光による表示面の色付きは、観察方向の方位角によって異なりうる。そのため、表示面の傾斜方向から観察した場合、観察方向の方位角によって、測定される色度は異なりうるので、色差ΔEabも異なりうる。そこで、前記のように表示面の傾斜方向から観察した場合の色付きの程度を評価するためには、複数の方位角方向から観察して得られる色差ΔEabの平均値によって、色付きの評価を行うことが好ましい。具体的には、方位角方向に5°刻みで、方位角φ(図1参照。)が0°以上360°未満の範囲で、色差ΔEabの測定を行い、測定された色差ΔEabの平均値(平均色差)によって、色付きの程度を評価する。前記の平均色差が小さいほど、表示面の傾斜方向から観察した場合の表示面の色付きが小さいことを表す。
【実施例0126】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0127】
[評価方法]
(位相差及びNZ係数の測定方法)
位相差計(Axometrics社製「AxoScan」)を用いて、評価対象(位相差フィルム、樹脂層(A)及び樹脂層(B))の波長450nm、550nm及び650nmにおける面内位相差Re;並びに、波長550nmにおける厚み方向位相差Rthを測定した。樹脂層(A)及び樹脂層(B)の各層の物性を求める際は、試料を多方向から測定し、付属のマルチレイヤー解析ソフトでフィッティング解析することにより算出した。また、波長550nmにおける面内位相差Re及び厚み方向位相差Rthを用いて、NZ係数を算出した。
【0128】
(配向角の測定方法)
位相差フィルムに含まれる樹脂層(A)及び樹脂層(B)の遅相軸の方向を、位相差計(Axometrics社製「AxoScan」)を用いて測定した。この遅相軸が、位相差フィルムの幅方向に対してなす角度を、配向角θ(0°≦θ<180°)として計算した。
【0129】
(シミュレーションによる色差の計算方法)
シミュレーション用のソフトウェアとしてシンテック社製「LCD Master」を用いて、各実施例及び比較例で製造された円偏光板をモデル化し、下記の計算を行った。
【0130】
シミュレーション用のモデルでは、平面状の反射面を有するミラーの前記反射面に、円偏光板を設けた構成を設定した。実施例1~4及び比較例1では、円偏光板として、低位相差層、高位相差層及び直線偏光子を前記反射面側からこの順に有するものを設定した。また、比較例2では、ノルボルネン系樹脂の層、スチレン無水マレイン酸共重合樹脂の層、ノルボルネン系樹脂の層、及び、直線偏光子を前記反射面側からこの順に有するものを設定した。低位相差層、高位相差層、ノルボルネン系樹脂の層、及び、スチレン無水マレイン酸共重合樹脂の層としては、各実施例及び比較例で得たものを設定した。また、直線偏光子としては、一般的に使用されている偏光度99.99%の偏光板を設定した。また、ミラーとして、入射した光を反射率100%で鏡面反射しうる理想ミラーを設定した。
【0131】
図1は、実施例及び比較例でのシミュレーションにおいて、色空間座標の計算を行う際に設定した評価モデルの様子を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、D65光源(図示せず。)によって照らされたときに、円偏光板を設けられたミラーの反射面10で観察される色空間座標を計算した。また、光源によって照らされていないときの色空間座標をa0=0,b0=0,L0=0とした。そして、(i)光源で照らされたときの色空間座標と、(ii)光源で照らされていないときの色空間座標とから、色差ΔEabを求めた。
【0132】
前記の色差ΔEabの計算を、反射面10に対する極角ρが0°の観察方向20で行って、正面方向での色差ΔEabを求めた。極角ρとは、反射面10の法線方向11に対してなす角を表す。
【0133】
また、前記の色差ΔEabの計算を、反射面10に対する極角ρが60°の観察方向20で行った。この極角ρ=60°での計算は、観察方向20を方位角方向に、方位角φを0°以上360°未満の範囲で5°刻みに移動させて、複数行った。方位角φとは、反射面10に平行な方向が、反射面10に平行なある基準方向12に対してなす角を表す。そして、計算された複数の観察方向20での色差ΔEabの平均を計算して、極角ρ=60°の傾斜方向での色差ΔEabを得た。
【0134】
(正面方向における目視による円偏光板の評価方法)
有機EL画像表示装置を備える画像表示装置(Apple社「AppleWatch」(登録商標))を用意した。この画像表示装置を分解し、有機EL画像表示装置の表面に貼合されていた偏光板を剥離して、反射電極を露出させた。この反射電極の表面と、各実施例及び比較例で得た円偏光板の直線偏光子とは反対側の面とを、粘着剤(日東電工製「CS9621」)を介して貼り合せた。これにより、反射電極、粘着剤及び円偏光板をこの順に備えるサンプルを得た。
【0135】
前記サンプルの円偏光板を晴れた日に日光で照らした状態で、反射電極上の円偏光板を目視で観察した。観察は、円偏光板の、極角0°、方位角0°の正面方向で行った。観察の結果、有彩色が視認された場合に「不良」と判定し、有彩色が視認されなかった場合に「良」と判定した。
【0136】
(傾斜方向における目視による円偏光板の評価方法)
前記の(正面方向における目視による円偏光板の評価方法)で用意したサンプルの円偏光板を晴れた日に日光で照らした状態で、反射電極上の円偏光板を目視で観察した。観察は、円偏光板の極角60°、方位角0°~360°の傾斜方向で行った。観察の結果、反射輝度及び色付きの優劣を総合的に判定して、実施例及び比較例を順位づけした。そして、順位づけられた実施例及び比較例に、その順位に相当する点数(1位6点、2位5点、・・・最下位1点)を与えた。
【0137】
前記の観察を多人数が行い、各実施例及び比較例について、与えられた点数の合計点を求めた。実施例及び比較例を前記の合計点の順に並べ、その合計点のレンジの中で上位グループからA、B、C、D及びEの順に評価した。
[実施例1]
(1-1.樹脂層(A)の形成)
ペレット状のノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製;ガラス転移温度126℃)を100℃で5時間乾燥して、熱可塑性樹脂Aを得た。この熱可塑性樹脂Aを、押出機に供給し、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイからキャスティングドラム上にシート状に押し出した。押し出された熱可塑性樹脂Aを冷却し、厚み100μmの長尺の樹脂フィルムを樹脂層(A)として得た。得られた樹脂層(A)はロール状に巻き取って回収した。
【0138】
(1-2.樹脂層(B)の形成)
乾燥し、窒素で置換された耐圧反応器に、溶媒としてトルエン500ml、重合触媒としてn-ブチルリチウム0.29mmolを入れた後、2-ビニルナフタレン35gを加えて25℃で1時間反応させた。その結果、2-ビニルナフタレンのホモポリマーとしてのポリ(2-ビニルナフタレン)を含む反応物を得た。この反応物を大量の2-プロパノールに注いで、ポリ(2-ビニルナフタレン)を沈殿させ、分取した。得られたポリ(2-ビニルナフタレン)を真空乾燥機を用いて200℃で24時間乾燥させ、熱可塑性樹脂Bを得た。GPCにより測定したポリ(2-ビニルナフタレン)の重量平均分子量は250000であった。また、示差走査熱量分析計により測定したポリ(2-ビニルナフタレン)のガラス転移温度は142℃であった。
【0139】
ポリ(2-ビニルナフタレン)と1,3-ジオキソランとを混合して、熱可塑性樹脂Bを含む液状組成物を得た。この液状組成物におけるポリ(2-ビニルナフタレン)の濃度は、15重量%であった。
【0140】
樹脂層(A)をロールから引き出し、引き出された樹脂層(A)上に前記の液状組成物を塗工した。その後、塗工された液状組成物を乾燥して、樹脂層(A)上に樹脂層(B)としてのポリ(2-ビニルナフタレン)の層(厚み12μm)を形成した。これにより、ノルボルネン系樹脂で形成された樹脂層(A)及びポリ(2-ビニルナフタレン)で形成された樹脂層(B)を備える複層フィルムを得た。得られた複層フィルムは、ロール状に巻き取って回収した。
【0141】
[1-3.第一延伸工程]
複層フィルムをロールから引き出し、引き出された複層フィルムを縦テンター延伸機に供給した。このテンター延伸機を用いて、複層フィルムを、当該複層フィルムの幅方向に対して135°の角度をなす延伸方向に、延伸温度140℃、延伸倍率1.10倍に延伸した。延伸された複層フィルムは、常温に冷却後、ロール状に巻き取って回収した。
【0142】
[1-4.第二延伸工程]
第一延伸工程で延伸された複層フィルムをロールから引き出し、引き出された複層フィルムをテンター延伸機に供給した。このテンター延伸機を用いて、複層フィルムを、当該複層フィルムの幅方向に対して45°の角度をなす延伸方向に、延伸温度128℃、延伸倍率1.50倍に延伸して、長尺の位相差フィルムを得た。この位相差フィルムは、高位相差層としての樹脂層(A)と、低位相差層としての樹脂層(B)とを備えていた。得られた位相差フィルム及び当該位相差フィルムに含まれる各層の光学特性(面内位相差、厚み方向位相差、遅相軸の方向、NZ係数)を、上述した方法で測定した。
【0143】
[1-5.円偏光板の製造]
ヨウ素で染色された長尺のポリビニルアルコール樹脂フィルムを用意した。このフィルムを、当該フィルムの幅方向に対して90°の角度をなす長手方向に延伸して、長尺の偏光フィルムとしての直線偏光子を得た。この直線偏光子は、当該直線偏光子の長手方向に吸収軸を有し、当該直線偏光子の幅方向に透過軸を有していた。
【0144】
前記の直線偏光子と位相差フィルムとを、光学等方性の粘着剤(日東電工社製「CS9621」)を介して貼り合わせて、長尺の円偏光板を得た。前記の貼り合わせは、直線偏光子の幅方向と位相差フィルムの幅方向とを平行にして行った。得られた円偏光板は、直線偏光子、高位相差層としての樹脂層(A)、及び、低位相差層としての樹脂層(B)を、この順に備えていた。
得られた円偏光板を、上述した方法で評価した。
【0145】
[実施例2~4]
工程(1-1)において、押出機による押し出し条件を調整して、長尺の樹脂層(A)の厚みを表1に示すように変更した。
また、工程(1-2)において、液状組成物の塗工量を調整することにより、樹脂層(B)の厚みを表1に示すように変更した。
さらに、工程(1-3)において、延伸倍率を表1に示すように変更した。
以上の事項以外は、実施例1と同じ方法により、位相差フィルム及び円偏光板の製造及び評価を行った。
【0146】
[比較例1]
工程(1-1)において、押出機による押し出し条件を調整して、長尺の樹脂層(A)の厚みを表1に示すように変更した。
また、工程(1-2)において、液状組成物の塗工量を調整することにより、樹脂層(B)の厚みを表1に示すように変更した。
さらに、工程(1-3)において、延伸温度及び延伸倍率を表1に示すように変更した。
以上の事項以外は、実施例1と同じ方法により、位相差フィルム及び円偏光板の製造及び評価を行った。
【0147】
[比較例2]
特開2002-40258号公報の実施例5と同じ方法により、位相差フィルムを製造した。
【0148】
具体的には、正の固有複屈折値を有する熱可塑性樹脂Aとしてノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製、ガラス転移温度136℃)を用意した。また、負の固有複屈折値を有する熱可塑性樹脂Bとして、スチレン系無水マレイン酸共重合樹脂(ノバケミカル製「ダイラークD332」、ガラス転移温度130℃)を用意した。これらの樹脂は、予め窒素パージ下で乾燥させ、水分量を低下させたものを使用した。
【0149】
熱可塑性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bを共押出して「熱可塑性樹脂Aの層/熱可塑性樹脂Bの層/熱可塑性樹脂Aの層」の層構成を有する複層フィルムを製造できるフィルム成形装置(東洋精機製「LABO PLASTOMILI」)を用意した。このフィルム成形装置に前記のノルボルネン系樹脂及びスチレン系無水マレイン酸共重合樹脂を供給し、共押出を行って、「ノルボルネン系樹脂の層/スチレン無水マレイン酸共重合樹脂の層/ノルボルネン系樹脂の層」の3層構造を有する複層フィルム(厚み186μm)を得た。
【0150】
この複層フィルムを、テンター延伸機を用いて、当該複層フィルムの幅方向に対して45°の角度をなす延伸方向に、延伸温度120℃、延伸倍率1.65倍に延伸して、長尺の位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムは、「ノルボルネン系樹脂の層(厚み36μm)/スチレン無水マレイン酸共重合樹脂の層(厚み39μm)/ノルボルネン系樹脂の層(厚み38μm)」の3層構造を有していた。得られた位相差フィルム及び当該位相差フィルムに含まれる各層の光学特性(面内位相差、厚み方向位相差、遅相軸の方向、NZ係数)を、上述した方法で測定した。比較例2で得られた位相差フィルムは、熱可塑性樹脂Aとしてのノルボルネン系樹脂の層を2層備えていたので、後述する表2の樹脂層(A)の面内位相差、厚み方向位相差及びNZ係数の欄には、それら2層の合計の値を記載した。
【0151】
この位相差フィルムと、実施例1で用いたのと同じ長尺の直線偏光子とを、光学等方性の粘着剤(日東電工社製「CS9621」)を介して貼り合わせて、長尺の円偏光板を得た。前記の貼り合わせは、直線偏光子の幅方向と位相差フィルムの幅方向とを平行にして行った。得られた円偏光板は、直線偏光子、ノルボルネン系樹脂の層、スチレン無水マレイン酸共重合樹脂の層、及び、ノルボルネン系樹脂の層を、この順に備えていた。
得られた円偏光板を、上述した方法で評価した。
【0152】
[結果]
上述した実施例及び比較例における位相差フィルムの製造条件を表1に示し、評価結果を表2に示す。下記の表1及び表2において、略称の意味は、以下の通りである。
「COP」:ノルボルネン系樹脂。
「VN」:ポリ(2-ビニルナフタレン)。
「PSt」:スチレン系無水マレイン酸共重合樹脂。
固有複屈折値の欄の「正」:固有複屈折値が正。
固有複屈折値の欄の「負」:固有複屈折値が負。
「延伸角度」:複層フィルムの幅方向に対して延伸方向がなす角度。
「配向角θ」:位相差フィルムの幅方向に対して遅相軸がなす角度。
【0153】
上述した実施例及び比較例では、正面方向の目視評価は「良」及び「不良」の2段階で判定しているのに対し、傾斜方向の目視評価は「A」~「E」までの5段階で判定している。このように判定基準が異なる理由は、下記の通りである。
すなわち、正面方向では、傾斜方向に比べて、反射光の輝度が充分に低い。よって、強い色付きが生じていない場合には、観察者はその色付きを認識できない。そこで、色付きを視認できるか否かという2段階での判定を採用した。
他方、傾斜方向では、反射光の輝度が高い。よって、弱い色付きであっても、観察者はその色付きを認識しやすい。そこで、5段階という詳細な優劣評価を採用した。
【0154】
【表1】
【0155】
【表2】
【0156】
[検討]
実施例1~4では、第一延伸工程では熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度TgAよりも十分に高い温度で延伸が行われている。よって、樹脂層(A)に含まれる重合体分子の配向は、第一延伸工程では進行が小さく、第二延伸工程で大きく進行している。よって、位相差フィルムが備える樹脂層(A)は、高い一軸性を有し、且つ、第二延伸工程での延伸方向に平行な遅相軸を有する。
【0157】
他方、熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度TgAよりも高いガラス転移温度TgBを有する熱可塑性樹脂Bを含む樹脂層(B)に含まれる重合体分子の配向は、第一延伸工程及び第二延伸工程の両方で、大きく進行している。よって、位相差フィルムが備える樹脂層(B)は、高い二軸性を有する。また、実施例1~4では、第二延伸工程の方が第一延伸工程よりも大きな延伸倍率での延伸を行っているので、位相差フィルムが備える樹脂層(B)は、第二延伸工程での延伸方向に垂直な方向に遅相軸を有する。
【0158】
そして、これらの樹脂層(A)及び樹脂層(B)を備える位相差フィルムは、表2に示すように、全体として式(1)~式(3)を満たす。よって、この位相差フィルムを備える円偏光板が、当該円偏光板を備える画像表示装置の表示面の正面方向及び傾斜方向の両方において、外光の反射による色付きを抑制することができる。
【符号の説明】
【0159】
10 反射面
11 反射面の法線方向
12 基準方向
20 観察方向
φ 方位角
ρ 極角
図1